説明

プロスタグランジンを含有するアニオン性水中油型エマルジョンおよびその使用

本発明は、アニオン性水中油型エマルジョンが、プロスタグランジンと、2以下のヨウ素価を有する油と、界面活性剤と、水とを含むが、ポリビニルアルコールを含有していないコロイド状アニオン性水中油型エマルジョンに関する。本発明は、前記プロスタグランジンの安定性を高めるため、高眼圧症および/または緑内障の治療のため、睫毛の成長の促進のため、および/または睫毛の貧毛の治療のための前記アニオン性水中油型エマルジョンの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジンの局所投与のため、特に眼の病気または疾患、好ましくは目の内部、より具体的には前眼部に影響を及ぼす眼の病気(例えば、高眼圧症および/または緑内障)の治療のため、および睫毛の成長を促進するため、および/または睫毛の貧毛を治療するためのプロスタグランジンを含有するアニオン性水中油型エマルジョンに関する。本発明に係るアニオン性水中油型エマルジョンは、プロスタグランジンの化学的安定性を高めるための利点をさらに提供する。
【背景技術】
【0002】
緑内障は、多くの場合、視神経の損傷および視野欠損を伴う眼内圧(IOP)の上昇を特徴とする疾患である。緑内障は治療せずに放置すると、最終的に失明につながる可能性がある。
【0003】
プロスタグランジンF2αおよびそのフェニル置換類似体などのプロスタグランジンは、ヒトおよび動物のIOPを効果的に低下させることが知られている。実際、プロスタグランジンは、緑内障を治療するために眼科用薬剤に使用されている。例えば、ラタノプロストは、局所眼科用液剤(点眼液)の形態で入手可能であり、キサラタン(Xalatan)(登録商標)という商標で販売されている。
【0004】
実際、ラタノプロストは、緑内障の治療のために開発された強力なプロスタグランジンF2α類似体である。その化学名は、イソプロピル−(Z)−7−[(1R,2R,3R,5S)−3,5−ジヒドロキシ−2−[(3R)3−ヒドロキシ−5−フェニルペンチル]−シクロペンチル]−5−ヘプタノエートであり、その分子式はC2640であり、その化学構造は以下である:
【化1】

【0005】
具体的には、ラタノプロストは、眼の中への活性薬物の生物学的利用能を増加させるためにα鎖内のカルボキシル酸部分がエステル化されている親油性プロドラッグである。さらに、ラタノプロストは角膜を介して吸収され、角膜においてイソプロピルエステルプロドラッグは酸性型に加水分解されて生物学的に活性になる。
【0006】
また、ビマトプロスト、ラタノプロストまたはトラボプロストなどのいくつかの眼科用プロスタグランジンは、睫毛の成長を促進することができるとも言われている。従って、そのようなプロスタグランジンは睫毛の貧毛の局所治療のために使用することができる。
【0007】
プロスタグランジンに関して一般に直面する問題は、それらが化学的に不安定になり得ることである。特に、ラタノプロストは光および熱に対して非常に感受性が高いことが知られている。実際、これらの2つの要素(すなわち、光および熱)は、その加水分解および/または酸化を誘発してラタノプロストの安定性に影響を及ぼす場合がある。そのため、キサラタン(登録商標)の未開封の瓶は、暗所に2〜8℃の冷凍下で保管しなれなければならない。
【0008】
従って、プロスタグランジンの化学的安定性が向上し、特に光および熱に対する経時的安定性が向上したプロスタグランジン製剤が必要である。
【0009】
本出願人は、プロスタグランジンのエマルジョンをすでに着想し、かつエマルジョンがプロスタグランジンを安定させるのに適した媒体であることを見い出していた(例えば、国際公開第2007/042262号を参照)。
【0010】
しかし、本出願人は、カチオン性薬剤、好ましくは第四級ハロゲン化アンモニウムを含有するカチオン性エマルジョンは、この成分に対する忍容性を有しない患者には適さない可能性があることに気付いた。第四級アンモニウムに対するこの不忍容性は、角膜および結膜病変に関係している。これらの病変は、眼球乾燥症候群、アレルギー、損傷、白内障手術、レーシック(LASIK)による屈折矯正手術、化学熱傷、外傷、刺激、細菌性、真菌性もしくはウイルス性感染または一部の薬物の副作用によるものかもしれない。角膜もしくは結膜病変は、角膜、結膜もしくは杯細胞の局所的破壊である。そのような病変は、局所性または播種性であり、それにより、角膜びらん、点状角膜症、上皮欠損、角膜潰瘍、角膜瘢痕、角膜菲薄化、角膜穿孔、角膜炎、結膜炎、創傷、小さな擦過傷などが生じる場合がある。これらの病変は有害であり、非常に痛みを伴う。これらの病変の症状は、乾燥、灼熱感およびゴロゴロする(sandy-gritty)眼の刺激であるかもしれない。症状は、眼が痒い、チクチクする(scratchy)、ヒリヒリする(stingy)または疲れると言う場合もある。他の症状は、眼の痛み、赤み、引っ張られる感覚および眼の奥の圧迫である。眼表面に対する損傷によって不快感および明るい光に対する感受性が高まる。従って、本出願人は、カチオン性成分を含有していないエマルジョンを探し求めた。本出願人は、カチオン性成分がプロスタグランジンを安定させる役割を担うことができると考えていたが、驚くべきことに、プロスタグランジンを含有し、かつカチオン性薬剤を含有していないエマルジョンが経時的に安定していることが本発明において分かった。本出願人は、カチオン性界面活性剤を除外し、非イオン性界面活性剤の探究に目を向けた。再び驚くべきことに、非イオン性界面活性剤の使用によってアニオン性エマルジョンが得られる。本出願人は、どんな理論にも関連づけることなく、製造工程中にエマルジョンが負に帯電した成分を放出したと考える。
【0011】
従って、本発明は、負に帯電していない出発成分からなるアニオン性エマルジョンに関する。本発明の一実施形態によれば、本発明を製造するための出発物質はどんなアニオン性界面活性剤も含んでいない。
【0012】
本発明は、市販品と比較して向上したプロスタグランジンの安定性を示すと同時に、毒性がなく、眼表面に病変を有する患者が忍容でき、かつ少なくとも市販の製品と同程度に有効であり、好ましくはカチオン性成分を含有していないプロスタグランジン組成物を提供する。
【発明の概要】
【0013】
本発明の目的は、プロスタグランジンF2αと、2以下のヨウ素価を有する油と、非イオン性界面活性剤と、水とを含むエマルジョンであって、非イオン性界面活性剤は製造工程中に負の電荷を放出し、前記エマルジョンは10mV未満の負のゼータ電位を有し、かつ前記エマルジョンはポリビニルアルコールを含有しないことを特徴とするコロイド状水中油型エマルジョンである。
【0014】
一実施形態によれば、本エマルジョンはどんなリン脂質も含まない。
【0015】
別の実施形態によれば、本エマルジョンは、ポリエトキシル化ヒマシ油誘導体を含まない。
【0016】
本発明によれば、「コロイド状」とは、本エマルジョンが、1μm以下の粒径を有しかつ水の中に分散した界面膜によって取り囲まれた油性コアを有するコロイド粒子を含むことを意味する。典型的には、油性コアはプロスタグランジンおよび油を含む。プロスタグランジンは親油性であるため、本質的に油性コアの中に存在することが理解できる。典型的には、本エマルジョンは、皮膚軟化剤(好ましくはグリセリン)またはpH調整剤(例えば、NaOH)、浸透圧剤および防腐剤などの他の成分を含有していてもよい。
【0017】
本発明のエマルジョンでは、コロイド粒子は、1μm以下、有利には300nm以下、より有利には100〜250nmの範囲の平均粒径を有する。
【0018】
一実施形態では、プロスタグランジンは、プロスタグランジンF2α、その誘導体、前駆体、プロドラッグまたは類似体である。好ましくは、本エマルジョンは、プロスタグランジンF2αのエステルプロドラッグもしくはアミドプロドラッグまたはそれらの混合物を含む。エステルプロドラッグとしては、メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステルまたはブチルエステルなどのC〜Cアルキルエステルプロドラッグが挙げられ、アミドプロドラッグとしては、メチルアミド、エチルアミド、イソプロピルアミドまたはブチルアミドなどのC〜Cアルキルアミドプロドラッグが挙げられる。
【0019】
特定の実施形態によれば、本発明のプロスタグランジンF2αは、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロストまたはそれらの混合物、あるいはラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロストのエステルもしくはアミドプロドラッグまたはそれらの混合物の中から選択される。好ましくは、本発明に係るエマルジョンはラタノプロストを含む。
【0020】
本発明に係るエマルジョンの油性コアの中に存在するプロスタグランジンの量は、プロスタグランジンF2αの性質および用途によって決まる。本発明の好ましい実施形態では、本エマルジョンの総重量に対するプロスタグランジンF2αの量は、0.001〜1%w/w、好ましくは0.002〜0.3%w/w、さらにより好ましくは、0.004〜0.15%w/wの範囲である。
【0021】
特定の実施態様では、プロスタグランジンは、例えばドルゾラミドまたはチモロールなどの他の抗緑内障有効成分と組み合わせられていてもよい。
【0022】
別の実施形態では、本エマルジョンは、高眼圧症および/または緑内障の治療に使用される有効量のプロスタグランジンF2αを含む眼科用エマルジョンである。
【0023】
本発明によれば、当該油は好ましくは飽和油から選択される。
【0024】
本発明によれば、「飽和油」は、2以下、好ましくは2未満のヨウ素価を有する油であり、これは、この油が二重もしくは三重結合を含む炭化水素鎖を有するどんな分子も実質的に含有していないことを意味する。
【0025】
ヨウ素価は、例えば、欧州薬局方モノグラフ2.5.4または米国薬局方401に開示されている方法に従って測定することができる。
【0026】
本発明の特定の実施形態によれば、当該油は、油性脂肪酸、油性脂肪族アルコール、脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル)、植物油、動物油、鉱油(例えば、ワセリン)、流動パラフィン、半合成油(例えば、植物油から得られる分別油)またはそれらの混合物の中から選択される。
【0027】
本発明によれば、「半合成油」は天然油からの化学合成によって調製される。
【0028】
特に、本発明に係る油は、分別されたヤシ油、核油またはババス油から得られる半合成油である。より詳細には、当該油は中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である。
【0029】
実際、欧州薬局方によれば、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)は、得られた脂肪酸の加水分解、分別、および再エステル化によって、ココヤシ(Cocos nucifera L.)の内胚乳の硬い乾燥部分から抽出された不揮発性油であると言われている。MCTは、その95%以上が飽和脂肪酸オクタン(カプリル)酸およびデカン(カプリン)酸である脂肪酸の短鎖もしくは中鎖脂肪酸トリグリセリドのみの混合物からなる。
【0030】
さらに、MCTは、少量(最大4%)のMCTを含み得る乳脂肪などの一部の動物性製品だけでなく、核油およびババス油の中にもかなりの量で含まれている。
【0031】
本発明の別の実施形態では、本エマルジョンのpHは、好ましくは4〜7、特に4.5〜6.5、より詳細には5〜6に含まれている。
【0032】
本発明の好ましい実施形態では、本エマルジョンの総重量に対する当該油の量は、7%w/w以下、好ましくは0.5〜5%w/w、さらにより好ましくは1〜3%w/wである。
【0033】
典型的には、本発明のエマルジョン中に存在し得る非イオン性界面活性剤は、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェノールポリエチレンオキシド、ポロクサマー、チロキサポール、アルキルポリグルコシド、脂肪族アルコール、コカミドMEA、コカミドDEA、ソルビタンエステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリソルベートまたはそれらの混合物を含む。
【0034】
本発明の好ましい実施形態では、本エマルジョンは、ポリソルベート、好ましくはポリソルベート80を含む。本発明の一実施形態によれば、本エマルジョンは1種の非イオン性界面活性剤のみを含有し、それは好ましくはポリソルベート80である。別の実施形態では、本エマルジョンは、有効量のプロスタグランジンF2α、ポリソルベート80、MCT、グリセリンおよび水を含む。
【0035】
本発明の別の実施形態では、本エマルジョンは、アニオン性界面活性剤、例えば、パーフルオロオクタン酸、パーフルオロオクタンスルホン酸、アルキル硫酸塩、硫酸ナトリウムラウリルエーテル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、石鹸、脂肪酸塩またはそれらの混合物を含んでいてもよい。
【0036】
典型的には、双性イオン性界面活性剤は、ドデシルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ココアンホグリシン酸塩(coco ampho glycinate)またはそれらの混合物を含む。
【0037】
典型的には、本発明に係る界面活性剤は、親水性界面活性剤(高いHLBを有する)および/または疎水性界面活性剤(低いHLBを有する)またはそれらの混合物を含む。
【0038】
特定の実施態様では、当該界面活性剤は、ポロクサマー、チロキサポール、ポリソルベート、ソルビタンエステル、ステアリン酸ポリオキシルまたはそれらの混合物の中から選択される。
【0039】
別の実施形態では、本エマルジョンは、どんなカチオン性薬剤も含有しておらず、特にカチオン性界面活性剤を含有していない。
【0040】
別の実施形態では、本エマルジョンは、水溶性高分子を含有しておらず、特に、ポリビニル化合物、水溶性セルロース化合物または多糖類の中から選択される水溶性高分子を含有していない。
【0041】
特定の実施形態では、本エマルジョンにおける界面活性剤の総質量に対するプロスタグランジンF2αの質量比は、0.01〜5、0.01〜4、0.01〜3、0.01〜2、0.01〜1、0.01〜0.99、0.02〜0.08または0.04〜0.06の範囲であるか、あるいは約0.05である。
【0042】
一実施形態では、本エマルジョンの総重量に対する界面活性剤の量は、本エマルジョンにおける界面活性剤の総質量に対するプロスタグランジンF2αの質量比が0.01〜5の範囲である場合、0.0005〜1%w/w、好ましくは0.001〜0.5%w/w、さらにより好ましくは0.01〜0.5%w/wの範囲である。
【0043】
本発明に係るエマルジョンは負のゼータ電位を有する。この負のゼータ電位は、好ましくは−10mV未満(−10mVは含まない)、好ましくは−15mV未満、好ましくは−20mV以下である。
【0044】
ゼータ電位はコロイド粒子間の相互作用の大きさの非常に良好な指標であり、ゼータ電位の測定値はコロイド系の安定性を評価するために一般に使用されることは長い間知られている。特定の系において測定されるゼータ電位は、その表面の化学作用に依存し、かつその周囲環境との相互作用の仕方にも依存している。
【0045】
典型的には、本発明に係るエマルジョンは、経時的な物理的安定性を有し、かつ25℃で2年間にわたって負のゼータ電位を保持する。本エマルジョンの液滴表面のゼータ電位は、好適なソフトウェアを備えかつ付属の標準液で較正したMalvern Zetasizer 2000(Malvern Instruments社、英国)などの装置を用いて電気泳動移動度によって測定する。
【0046】
本エマルジョンは、最適な粒子の検出を可能にする散乱強度を得るために、必要に応じて再蒸留水で希釈する。ホモダイン検出における試料計数率は、100〜1000KCpsでなければならない(ヘテロダイン検出が使用される場合、参照ビームの寄与は推定しなければならない)。3つの連続的な測定は、150mVの一定のセル駆動電圧(cell drive)を用いて25℃で行う。電気泳動移動度は、水の誘電率および粘度を用いるスモルコフスキー(Smoluchowski)方程式によってゼータ電位値に変換する。測定値は得られた3つの値の平均に一致する。
【0047】
特定の実施態様では、本発明のエマルジョンは、どんな緩衝液も含有していない。
【0048】
本発明によれば、本エマルジョンは、高圧蒸気滅菌中に物理的に安定した状態を維持する。本発明によれば、「高圧蒸気滅菌」は、気圧よりも高い約103kPa(15psi)で、長期間(例えば10〜60分、好ましくは10〜20分)、高温(例えば100〜200℃、好ましくは121℃)のオートクレーブ内で製品を加熱することによる圧力下での蒸気による製品の滅菌として定義されている。蒸気および圧力によって十分な熱を微生物まで移動させ、微生物を殺し、よって製品を滅菌する。
【0049】
本発明によれば、「安定性」とは、製品が、指定された限界の範囲内で、かつその貯蔵および使用期間(すなわち、その貯蔵寿命)の間ずっと、その製造の時点に有していたのと同じ特性および特徴を保持する程度として定義されている。
【0050】
安定性試験の目的は、原薬または製剤の経時的な品質に関する証拠を提供することであり、前記製品は、様々な環境要因(例えば、温度、湿度および光)に曝される。その結果は、適当な貯蔵条件、再試験期間および貯蔵寿命を提供するのに有用となり得る。
【0051】
従来の安定性研究でも最終的に薬物の有効期限に影響を及ぼすそれらの要因を評価しているが、このような従来の研究は時間および費用がかかる。従って、例えば医薬製品の貯蔵寿命を予測するために、医薬品業界では通常、「加速安定性試験」(苛酷試験)を使用する。これらの加速試験は、分解経路を確立し、かつ可能性のある分解生成物を同定することによって、目的の分子の固有の安定性機構を理解するのを助ける。この種の研究では、製品は、約40℃の温度で約6ヶ月間のような極限条件に通常曝される。
【0052】
本発明では、本出願人は、エマルジョンが80℃の温度で14日間曝される「苛酷試験」を開発した。
【0053】
本発明によれば、「良好な忍容性」とは、「眼の不快感」に対する「治療効果」の比率が患者によって許容され、かつ好ましくはプラセボまたは0.9%のNaCl溶液に類似していることを意味する。
【0054】
本発明の別の目的は、先に記載したエマルジョンの製造方法である。特に、本発明は、出発物質からの負のゼータ電位を有するエマルジョンの製造に関し、本エマルジョンは、アニオン性界面活性剤を含有しないが、非イオン性界面活性剤を含有し、製造工程中に負の成分を放出する能力を示す。
【0055】
本発明の方法は、プロスタグランジンF2α、2以下のヨウ素価を有する油、非イオン性界面活性剤および水を出発物質として使用し、プロスタグランジンと油を混合して油相を調製する工程と、非イオン性界面活性剤と水を混合して水相を調製する工程と、油相および水相を剪断混合する工程と、得られたエマルジョンのpHを調整する工程と、場合により、得られたエマルジョンを高圧蒸気滅菌する工程とを含む。
【0056】
好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、プロスタグランジン(例えば、ラタノプロストなど)と飽和油(例えば、MCTなど)を混合して油相を調製する工程と、水溶性成分(例えば、グリセリンおよび/またはポリソルベート80など)と精製水を混合して水相を調製する工程と、油相を水相に組み込む工程と、得られた粗いエマルジョンを好ましくは75℃で急速に加熱する工程と、当業者に知られている任意の好適な手段(例えば、剪断混合)によって、エマルジョンの液滴の大きさを減少させる工程と、氷浴を用いて好ましくは約20℃までエマルジョンを冷却する工程と、冷却したエマルジョンを均質化する工程と、場合により、例えばNaOHまたはHClを用いてpHを生理的pHに調整する工程と、好ましくは滅菌する、より好ましくは高圧蒸気滅菌によって滅菌する工程とを含む。
【0057】
本発明に係るエマルジョンは、好ましくは、眼の表面または毛髪(例えば、睫毛)に局所的に塗布することを目的としている。
【0058】
本発明の目的は、高眼圧症および/または緑内障の治療方法で使用される本発明に係るアニオン性水中油型エマルジョンである。
【0059】
本発明の目的は、睫毛の成長を促進する方法または睫毛の貧毛の治療方法で使用される本発明に係るアニオン性水中油型エマルジョンである。
【0060】
本発明の目的は、場合により眼科的に許容される担体と組み合わせた本発明に係るアニオン性水中油型エマルジョンを含む眼科用製剤である。眼科用製剤は、点眼薬、眼軟膏または眼科用ゲルの形態であってもよい。
【0061】
本発明の目的は、プロスタグランジンの化学的安定性を高めるための本発明に係るアニオン性水中油型エマルジョンの使用である。
【0062】
本発明の目的は、本発明に係るアニオン性水中油型エマルジョンを含む送達装置である。
【0063】
典型的には、本発明に係る送達装置は、レンズ、眼科用パッチ、インプラント、挿入物を含む群から選択される。
【0064】
本発明の他の特徴および利点については、以下の非限定的な実施例を読めば明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のエマルジョンの投与後の毛様体および角膜におけるラタノプロスト遊離酸の濃度。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0066】
1.アニオン性水中油型エマルジョンの調製
本発明に係るアニオン性水中油型エマルジョンを、プロスタグランジン(ラタノプロスト)と飽和油(MCT)を50℃で混合して油相を調製する工程、グリセリンとポリソルベート80と精製水を50℃で混合して水相を調製する工程、油相を水相に組み込む工程、得られた粗いエマルジョンを75℃で急速に加熱する工程、当業者に知られている任意の好適な手段、例えば16000rpmで5分間の剪断混合(ポリトロン(Polytron)PT6100、Kinematica社、スイス)によってエマルジョンの液滴の大きさを減少させる工程、氷浴を用いて約20℃までエマルジョンを冷却する工程、冷却したエマルジョンを15000psiで20分間均質化する(Emulsiflex C3、Avestin社、カナダ)工程、pH7の1MのNaOHを用いてpHを調整する工程、および高圧蒸気滅菌によってエマルジョンを滅菌する工程によって調製する。
【0067】
エマルジョンの組成を表1に示す。
【表1】

MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)
qs:適量
【0068】
2.安定性試験および比較試験
実施例1のエマルジョンの安定性は、加速条件「苛酷試験」(80℃で14日間)で評価し、アニオン性エマルジョン(発明)とキサラタン(登録商標)との比較分析を同じ「苛酷試験」条件で行なった。両方の試験において、HPLC−紫外部測定法によってプロスタグランジン含有量を分析した。
【0069】
その結果を表2(安定性試験)および表3(比較試験)に示す。
【表2】

【0070】
本発明に係るエマルジョンは、そのような苛酷試験条件(すなわち、苛酷試験)に少なくとも14日間曝された後に著しい安定性を示す。
【表3】

【0071】
T0において、本エマルジョン(発明)およびキサラタン(登録商標)におけるプロスタグランジンの濃度は約0.005%である。しかし、両エマルジョンを「苛酷試験」(80℃で14日間)に曝した後は、プロスタグランジンの濃度は、エマルジョン(発明)では同じ値を維持したが、キサラタン(登録商標)の場合は、半分を超えて減少したことが認められる。
【0072】
3.表1のエマルジョンの薬物動態学的/薬力学的研究
雄および雌のニュージランドホワイト種ウサギに表1のエマルジョンを投与し、投与後の異なる時点(0.25、0.5、1、4、6および24時間後)で、標的組織(結膜、角膜、眼房水および毛様体)におけるラタノプロスト遊離酸の濃度を測定した。TmaxおよびAUC0.5〜24時間を計算し、以下の表4に示す。ラタノプロスト遊離酸は、エステラーゼによってその活性型に加水分解されたラタノプロストである。
【表4】

maxは、最大濃度のラタノプロスト遊離酸に到達する時間を表す
【0073】
図1(毛様体および角膜)および上に示した結果は、本エマルジョンの投与後にラタノプロスト遊離酸が標的眼組織内に高濃度で存在することを示している。前記濃度はシュレム管の開口および、よって眼房水の排出を可能にし、それにより眼内圧を低下させるのに十分であることが分かっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイド状水中油型エマルジョンであって、
プロスタグランジンF2α
2以下のヨウ素価を有する油と、
非イオン性界面活性剤と、
水と、
を含み、
前記非イオン性界面活性剤は前記エマルジョンの製造工程中に負の電荷を放出し、
前記エマルジョンは−10mV未満の負のゼータ電位を有し、かつポリビニルアルコールを含有していないコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項2】
前記プロスタグランジンは、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロスト、あるいはラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラボプロスト、ビマトプロスト、タフルプロストのエステルもしくはアミドプロドラッグまたはそれらの混合物の中から選択される、請求項1に記載のコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項3】
前記油は、油性脂肪酸、油性脂肪族アルコール、脂肪酸エステル(例えば、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル)、植物油、動物油、鉱油(例えば、ワセリン)、流動パラフィン、半合成油(例えば、植物油から得られる分別油)またはそれらの混合物の中から選択される、請求項1または2のいずれか1項に記載のコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項4】
前記分別油は中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)である、請求項3に記載のコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤は、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェノールポリエチレンオキシド、ポロクサマー、チロキサポール、アルキルポリグルコシド、脂肪族アルコール、コカミドMEA、コカミドDEA、ソルビタンエステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリソルベートまたはそれらの混合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項6】
前記エマルジョンの総重量に対するプロスタグランジンの量は、0.001〜1%w/w、好ましくは0.002〜0.3%w/w、さらにより好ましくは0.004〜0.15%w/wの範囲である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項7】
前記エマルジョンの総重量に対する前記油の量は、7%w/w以下、好ましくは0.5〜5%w/w、さらにより好ましくは1〜3%w/wである、請求項1〜6のいずれか1項に記載のコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項8】
前記エマルジョンはどんな緩衝液も含有していない、請求項1〜7のいずれか1項に記載のコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項9】
高眼圧症の治療および/または緑内障の治療に使用される請求項1〜8のいずれか1項に記載のコロイド状水中油型エマルジョン。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のコロイド状カチオン性水中油型エマルジョンを含む送達装置。
【請求項11】
プロスタグランジンF2αと、
2以下のヨウ素価を有する油と、
非イオン界面活性剤と、
水と、
を出発物質として含み、
前記プロスタグランジンと前記油を混合して油相を調製する工程と、前記非イオン性界面活性剤と前記水を混合して水相を調製する工程と、前記油相と前記水相を剪断混合する工程と、前記得られたエマルジョンのpHを調整する工程と、場合により、前記得られたエマルジョンを高圧蒸気滅菌する工程とを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載のコロイド状水中油型エマルジョンの製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−519664(P2012−519664A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552443(P2011−552443)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052740
【国際公開番号】WO2010/100217
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(312001247)ノバガリ ファーマ エスエー (3)
【Fターム(参考)】