説明

プロスタグランジン含有医薬組成物

【課題】プロスタグランジンF2αを含有する製剤において、プロスタグランジンF2αの分解が抑制された安定な水性の医薬組成物を提供する。
【解決手段】プロスタグランジンF2α誘導体を、油、例えば中鎖脂肪酸トリグリセリド、水溶性高分子および水とともに水中油型エマルジョンとすることにより前記課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジンF2α誘導体、油、水溶性高分子および水を含有してなる水中油型エマルジョンである医薬組成物、ならびに、該組成物においてプロスタグランジンF2αの分解を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロスタグランジンは多価不飽和脂肪酸由来の生理活性物質であり、微量でさまざまの重要な薬理学的、生理学的作用を有することから、種々の誘導体が合成され医療用に開発されている。例えば、プロスタグランジンF2αの誘導体は緑内障や高眼圧症の治療剤として有用であり、すでにいくつかの点眼剤が開発され市販されている。しかしながら、プロスタグランジンの誘導体を水性の液剤とするには、一般に、プロスタグランジンおよびその誘導体が水に難溶であり、また水に溶解すると分解し易く、さらに容器への吸着によって含量低下をきたすなどの問題を考慮しなければならない。プロスタグランジンまたはその誘導体の水性液剤として、例えば、プロスタグランジンをエーテル化シクロデキストリンと錯形成することにより可溶化、安定化させた組成物(特許文献1参照)、安定なPGE類縁体の脂肪乳剤(特許文献2参照)、ポリエトキシ化ひまし油を含有するプロスタグランジン組成物(特許文献3参照)、精製オリーブ油、リン脂質および水を含有する静脈内投与可能なプロスタグランジン脂肪乳剤(特許文献4参照)、非イオン性界面活性剤および/または抗酸化剤を配合したプロスタグランジン誘導体を含有する点眼液(特許文献5参照)等が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開平1−221317号公報(対応EP330511)
【特許文献2】特開平7−10833号公報
【特許文献3】特表平11−500122号公報(対応WO97/29752)
【特許文献4】特開2001−10958号公報
【特許文献5】特開2002−161037号公報(対応EP1321144)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、プロスタグランジンF2α誘導体の分解が抑制された新規な水性の医薬組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、プロスタグランジンF2α誘導体を含有する水性の医薬組成物につき、プロスタグランジンF2α誘導体の分解を防止できる剤形を求めて検討を行った結果、油、とりわけ中鎖脂肪酸トリグリセリドと水溶性高分子を配合して水中油型エマルジョンとすることにより、プロスタグランジンF2α誘導体の分解が顕著に抑制された医薬用組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち本発明は、以下を提供するものである。
(1)プロスタグランジンF2α誘導体、油、水溶性高分子および水を含有する水中油型エマルジョンからなる医薬組成物、
(2)プロスタグランジンF2α誘導体がラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラバプロストおよびビマトプロストから選ばれた少なくとも1種である(1)記載の医薬組成物、
(3)プロスタグランジンF2α誘導体がラタノプロストである(2)記載の医薬組成物、
(4)水溶性高分子がポリビニル化合物、水溶性セルロース化合物および多糖類から選ばれた少なくとも1種である(1)記載の医薬組成物、
(5)ポリビニル化合物がポリビニルアルコールである(4)記載の医薬組成物、
(6)油が動植物油および/または中鎖脂肪酸トリグリセリドである(1)記載の医薬組成物、
(7)中鎖脂肪酸トリグリセリドがミグリオールである(6)記載の医薬組成物、
(8)医薬組成物が眼科用組成物である(1)〜(7)のいずれかに記載の医薬組成物、
(9)眼科用組成物が点眼剤である(8)記載の医薬組成物、
(10)ラタノプロスト、ミグリオール、ポリビニルアルコールおよび水を含有する水中油型エマルジョンである点眼剤、
(11)プロスタグランジンF2α誘導体、油、水溶性高分子および水を配合して水中油型エマルジョンとすることを特徴とする該エマルジョン中のプロスタグランジンF2α誘導体の分解を抑制する方法、および
(12)ラタノプロスト、ミグリオール、ポリビニルアルコールおよび水を配合して水中油型エマルジョンとすることを特徴とする該エマルジョン中のラタノプロストの分解を抑制する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プロスタグランジンF2αの分解を顕著に抑制することができる。このため、プロスタグランジンF2αを配合した安定な医薬組成物を製造し、使用に供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明の医薬組成物は、プロスタグランジンF2α誘導体とともに油、水溶性高分子および水を含有する水中油型エマルジョンである。かかる剤形とすることにより、プロスタグランジンF2α誘導体の分解を顕著に抑制することができる。
【0009】
本発明において用いられるプロスタグランジンF2α誘導体は、いずれも薬学的に許容されるそれらの塩およびエステルを含む。薬学的に許容される塩としては、例えばナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、およびアンモニウム塩などの有機塩基との塩、また塩酸、リン酸などの無機酸や、酢酸、クエン酸、コハク酸などの有機酸などとの塩が挙げられる。薬学的に許容されるエステルとしては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルなどの低級アルキルのエステルなどが挙げられる。
本発明の医薬組成物に配合されるプロスタグランジンF2α誘導体として、例えば、ラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラバプロスト、ビマトプロストおよび特開2002−161037号公報(前記特許文献5)に記載されている化合物などが挙げられるが、ラタノプロストがとりわけ好ましい。本発明の医薬組成物には、プロスタグランジンF2α誘導体を、下限は約0.0001(W/V)%、好ましくは約0.001(W/V)%、上限は約0.4(W/V)%、好ましくは約0.05(W/V)%配合することができる。
【0010】
本発明で使用される油としては、特に制限はないが、中鎖脂肪酸トリグリセリドまたは脂肪酸トリグリセリドを主成分とする動植物油、もしくは両者を併せて用いることができる。これらの中で、中鎖脂肪酸トリグリセリドがより好ましい。中鎖脂肪酸トリグリセリドとは、炭素数が4から12の飽和脂肪酸トリグリセリド、または大部分がそれらの炭素数の脂肪酸トリグリセリドからなる混合物を示す。実用的には、ヤシ油、パーム核油等を一旦加水分解してから精製し、再度化合した、炭素数8(カプリル酸)や10(カプリン酸)などの脂肪酸トリグリセリドを主成分とする製品を用いることができる。このような製品(商品名)として、ミグリオール(ミツバ貿易)、ココナード(花王)、ODO(日清オイリオ)、パナセート(日本油脂)、TCG-M(高級アルコール工業)、およびアクター(理研ビタミン)などがあるが、とりわけミグリオールが好ましい。ミグリオールの中では、ミグリオール812と810が特に好ましい。動植物油としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等の炭素数4〜24の脂肪酸のトリグリセリドを含む、ヒマシ油、大豆油、落花生油、綿実油、オリーブ油、ゴマ油、ツバキ油、ヒマワリ油、ココナツ油、ヤシ油、パーム核油、ピーナッツ油、キリ油、ナタネ油、トウモロコシ油、牛脂、豚脂等が挙げられる。これらの油は1種単独で、または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0011】
本発明の医薬組成物における油の配合量は、水中油型エマルジョンが形成される限りプロスタグランジンF2α誘導体の配合量等に応じて適宜設定してよいが、下限は約0.005W/V%、好ましくは約0.1W/V%、上限は約20W/V%、好ましくは約5W/V%である。
【0012】
本発明の医薬組成物では、水溶性高分子を乳化剤として用いる。この水溶性高分子の他に、乳化剤として、卵黄レシチンなどのリン脂質や界面活性剤などと適宜組合わせて用いることも可能である。
【0013】
水溶性高分子における水溶性とは、該高分子化合物が20℃の水100gに1g以上の溶解性を示すことを意味する。水溶性高分子としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースナトリウム等の水溶性セルロース化合物、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等のポリビニル化合物、およびアルギン酸、キサンタンガム、カラギーナン、キトサン等の多糖類などが挙げられ、好ましくはポリビニルアルコールおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースであり、最も好ましくはポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールは部分ケン化物および完全ケン化物のいずれも使用できる。これらの水溶性高分子化合物は1種単独で、または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明の医薬組成物における水溶性高分子の配合量は、水中油型エマルジョンが形成される限り油等の配合量等によって適宜設定してよいが、下限は、約0.001(W/V)%、好ましくは約0.1(W/V)%、上限は約20(W/V)%、好ましくは約5(W/V)%である。
【0015】
さらに、本発明の医薬組成物には、緩衝剤、等張化剤、保存剤、溶解補助剤、安定化剤、キレート剤、粘稠剤、pH調整剤等の各種の添加剤を適宜配合することができる。
【0016】
緩衝剤としては、例えば、ホウ酸またはその塩(ホウ砂等)、クエン酸またはその塩(クエン酸ナトリウム等)、酒石酸またはその塩(酒石酸ナトリウム等)、グルコン酸またはその塩(グルコン酸ナトリウム等)、酢酸またはその塩(酢酸ナトリウム等)、リン酸またはその塩(リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等)、グルタミン酸やイプシロンアミノカプロン酸等の各種アミノ酸およびトリス緩衝剤など、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0017】
等張化剤としては、例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトール、グリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が挙げられる。
【0018】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、ソルビン酸またはその塩、グルコン酸クロルヘキシジン、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化セチルピリジニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、クロロブタノール等が挙げられる。
【0019】
溶解補助剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、ステアリン酸ポリオキシル40等が挙げられる。
【0020】
安定化剤としては、例えば、エデト酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、シクロデキストリン、縮合リン酸またはその塩、亜硫酸塩、クエン酸またはその塩、ジブチルヒドロキシトルエン等が挙げられる。
【0021】
キレート剤としては、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、縮合リン酸またはその塩(縮合リン酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0022】
粘稠剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、コンドロイチン硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0023】
pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、ホウ酸またはその塩(ホウ砂)、塩酸、クエン酸またはその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム等)、リン酸またはその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウム等)、酢酸またはその塩(酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム等)、酒石酸またはその塩(酒石酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0024】
本発明の医薬組成物の油滴のメディアン径としては、0.0001〜5μmが好ましく、0.001〜1μmがより好ましく、0.01〜1μmが特に好ましい。メディアン径の測定は、粒度分布測定装置を用いて行うことができる。
本発明の医薬組成物のpHは、3〜10、好ましくはpH5〜8となるように調整される。
【0025】
本発明の医薬組成物は、注射剤等の剤形で全身的に投与することができる他、局所的に投与される点眼剤等の眼科用組成物として使用することができる。本発明の医薬組成物は、プロスタグランジンF2α誘導体の分解が顕著に抑制されるので、開封後一定期間継続して使用されることの多い点眼剤において、とりわけ有用である。
【0026】
本発明のプロスタグランジンF2α誘導体含有医薬組成物は、水中油型エマルジョンを調製する慣用の方法により提供することができる。好ましい方法として、以下の方法が例示される。すなわち、水に乳化剤および必要に応じて上記の添加剤を添加した後、プロスタグランジンF2α誘導体を溶解した油を添加して乳化物とし、pH調整剤を用いてpHを3〜10に調整することにより調製する。均一に乳化を行うために、ミキサー、ホモジナイザー、ホモミキサー、マイクロフルイダイザー、高圧ホモジナイザー等の公知の手段を使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下に、試験例および製剤実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、これらは単なる例示であり、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0028】
[試験例1] ラタノプロストの油中の安定性
試験方法
油類として、オリーブ油、綿実油、ピーナッツ油、ナタネ油、大豆油、キリ油およびミグリオール812を用いた。ラタノプロスト(イソプロピル-(Z)-7-[(1R, 2R, 3R, 5S)-3,5-ジヒドロキシ-2-[(3R)-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンチル]シクロペンチル]-5-ヘプタノエート)5mgを秤取し、それに各油を1000mgずつ秤量して加えた。ラタノプロストが溶解するようにマグネチックスターラーを用いて30分間攪拌し、ラタノプロスト油溶液(5mg/g)を約1000mg調製した。溶解を目視で観察した後、ラタノプロスト油溶液をサンプリングし、HPLC法にてラタノプロスト含量を測定した(0日目)。これらのラタノプロスト油溶液をガラスサンプル瓶に500μLずつ分注し、60℃または80℃で7日間保存した。7日目にサンプリングを行い、ラタノプロスト含量を測定し、0日目の測定値との比から残存率を算出した。各サンプリングは、ラタノプロスト油溶液の一定量を量り、テトラヒドロフランおよび下記移動相Aで希釈して行い、HPLCの測定に供した。
HPLC分析条件:ウォーターズエクステラ RP18,5μm,φ4.6 x 150mmカラムを使用した。移動相Aは アセトニトリル:10mM 1−オクタンスルホン酸ナトリウム塩水溶液(pH3.5)=35:65を、移動相Bは アセトニトリル:10mM 1−オクタンスルホン酸ナトリウム塩水溶液(pH3.5)=10:90であった。注入体積は50μLとし、検出器は紫外吸光光度計(測定波長:210 nm)を用いた。カラム温度は25℃付近の一定温度とした。分析は移動相Aを30min流して行い、その後カラム洗浄のために移動相Bを5min、平衡化のために移動相Aを7min流した。移動相の流速は1.5mL/minであった。
【0029】
試験結果
各油中のラタノプロスト残存率(%)を表1に示した。
【表1】

【0030】
これらの試験結果から明らかなように、ラタノプロストを油中に溶解して保存することで、加温しているにも拘わらず、60℃では多種類の油中でラタノプロストが安定であり、80℃においては特にミグリオール812中で安定であることが認められた。
【0031】
[試験例2] ラタノプロスト含有水中油型エマルジョンの安定性
試験方法
ラタノプロスト0.01g、ミグリオール812 2.0g、ゴーセノールEG05(商品名、ポリビニルアルコール部分けん化物、日本合成化学工業)4.0g、濃グリセリン(グリセリン含量98重量%以上)5.2g、精製水 適量をもちいて、全量を100mLにした。すなわち、まず一部の精製水を約70℃に加温し、ゴーセノールと濃グリセリンを加えて溶かして水相を得た。別にラタノプロストをミグリオール812に加えて溶かしたものを油相とした。次に水相をホモミキサー(ROBO MICS、東京特殊機化工業)で撹拌しながら徐々に油相を加えて粗乳化(8000rpm, 15min)し、粗乳化物に滅菌精製水を加えて規定量とした。この粗乳化物をマイクロフルイダイザー(M-110EH、マイクロフルイディクスコーポレーション)を用いて微粒子化(1500 kgf/cm2、10 pass)し、0.01%ラタノプロスト乳剤(原液)を得た。
【0032】
この0.01%ラタノプロスト乳剤を、別に調製したpHが5、6または7の下記各緩衝液で約2倍に希釈し、NaOHおよび/またはHClを用いて、緩衝液と同じpHになるように調整し、最終濃度0.005%となるラタノプロストの6種の乳剤を調製した(処方1〜6)。

処方1 0.3%ε-アミノカプロン酸緩衝液(pH5)
処方2 0.2%酢酸ナトリウム酸緩衝液(pH5)
処方3 0.2%酢酸ナトリウム酸緩衝液(pH6)
処方4 0.2%リン酸緩衝(pH6)
処方5 0.2%リン酸緩衝(pH7)
処方6 0.2%ホウ酸緩衝液(pH7)

各処方を2mL褐色硝子アンプルに2mLずつ充填し、遮光下、4℃または60℃で4週間保存した。保存サンプルは1週ごとにサンプリングを行い、ラタノプロスト含量を試験例1と同様の条件のHPLC法にて測定した。各サンプルは希釈せずに、そのまま測定に供した。比較対照処方として、キサラタン点眼液(商品名、0.005%ラタノプロスト含有、pH6.5〜6.9、ファルマシア製、Lot No.PT480)を同様の保存条件で保存し、ラタノプロスト含量を測定した。
【0033】
試験結果
各処方におけるラタノプロスト残存率:
%=(60℃の残存量/4℃の残存量)x100
を表2に示した。
【表2】

60℃で4週間保存した、1〜6の処方中のラタノプロスト残存率はいずれもキサラタンのそれよりも高く、ラタノプロストはこれら処方で安定であることが示された。
【0034】
以上の試験結果から明らかなように、ラタノプロストを中鎖脂肪酸トリグリセリドおよび水溶性高分子を含有する水中油型エマルジョンとすることにより、ラタノプロストの分解が顕著に抑制されることが認められた。
【0035】
以下に、本発明によるプロスタグランジンF2α誘導体含有水中油型エマルジョンの製剤実施例を示す。
[製剤実施例1] 点眼剤
ラタノプロスト 0.01g
濃グリセリン 2.4g
ポリビニルアルコール 2g
酢酸ナトリウム 0.1g
エデト酸ナトリウム 0.01g
グルコン酸クロルヘキシジン液(20W/V%) 0.025mL
ミグリオール812 1g
塩酸 適量
精製水 全量100mL
pH 7.0
上記処方に従い、酢酸ナトリウム水溶液に濃グリセリンとポリビニルアルコールを分散し、加温してホモミキサーで激しく攪拌しながら溶解させ、さらにラタノプロストを溶解させたミグリオールを加えて乳化させた。室温まで冷却し、エデト酸ナトリウム、グルコン酸クロルヘキシジン液を加え、1N塩酸を加えてpHを調整した後、メスアップし、ろ過滅菌して点眼剤を製した。
【0036】
[製剤実施例2] 点眼剤
ラタノプロスト 0.005g
濃グリセリン 2.4g
ホウ酸 1.6g
エデト酸ナトリウム 0.01g
ソルビン酸 0.2g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 0.9g
ミグリオール812 0.6g
塩酸 適量
精製水 全量100mL
pH 7.0
上記処方に従い、ホウ酸水溶液に濃グリセリンとヒドロキシプロピルメチルセルロースを徐々に分散し、加温してホモミキサーで激しく攪拌しながら溶解後、さらにラタノプロストを溶解させたミグリオールを加えて乳化させた。室温まで冷却し、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸を加え、塩酸を加えてpHを調整した後、メスアップし、ろ過滅菌して点眼剤を製した。
【0037】
[製剤実施例3] 点眼剤
ラタノプロスト 0.005g
濃グリセリン 2.4g
酢酸ナトリウム 0.1g
エデト酸ナトリウム 0.01g
ソルビン酸 0.2g
キサンタンガム 0.9g
ピーナッツ油 0.6g
塩酸 適量
精製水 全量100mL
pH 6.0
上記処方に従い、酢酸ナトリウム水溶液に濃グリセリンとキサンタンガムを徐々に分散し、加温してホモミキサーで激しく攪拌しながら溶解し、さらにラタノプロストを溶解させたピーナッツ油を加えて乳化させた。室温まで冷却し、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸を加え、1N塩酸を加えてpHを調整した後、メスアップし、ろ過滅菌して点眼剤を製した。
【0038】
[製剤実施例4]
イソプロピルウノプロストン 0.12g
濃グリセリン 2.4g
ポリビニルアルコール 2.0g
酢酸ナトリウム 0.1g
エデト酸ナトリウム 0.01g
グルコン酸クロルヘキシジン液(20W/V%) 0.025mL
ミグリオール812 1.0g
塩酸 適量
精製水 全量100mL
pH 6.0
上記処方に従い、酢酸ナトリウム水溶液に濃グリセリンとポリビニルアルコールを分散し、加温してホモミキサーで激しく撹拌しながら溶解させた。さらにイソプロピルウノプロストンを溶解したミグリオールを加えて乳化した。室温まで冷却し、エデト酸ナトリウム、グルコン酸クロルヘキシジン液を加えた。1N塩酸を加えてpHを調整した後、メスアップし、ろ過滅菌して点眼剤を製した。
【0039】
[製剤実施例5]
イソプロピルウノプロストン 0.12g
濃グリセリン 2.4g
ポリビニルアルコール 2.0g
ポリソルベート80 2.0g
酢酸ナトリウム 0.1g
エデト酸ナトリウム 0.01g
ソルビン酸 0.2g
ミグリオール812 5.0g
塩酸 適量
精製水 全量100mL
pH 6.5
上記処方に従い、酢酸ナトリウム水溶液に濃グリセリン、ポリソルベート80とポリビニルアルコールを分散し、加温してホモミキサーで激しく撹拌しながら溶解させた。さらにイソプロピルウノプロストンを溶解したミグリオールを加えて乳化した。室温まで冷却し、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸を加えた。1N塩酸を加えてpHを調整した後、メスアップし、ろ過滅菌して点眼剤を製した。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、プロスタグランジンF2α誘導体を含有する安定な医薬組成物、例えば、緑内障や高眼圧症に適用される点眼剤を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジンF2α誘導体、油、水溶性高分子および水を含有する水中油型エマルジョンからなる医薬組成物。
【請求項2】
プロスタグランジンF2α誘導体がラタノプロスト、イソプロピルウノプロストン、トラバプロストおよびビマトプロストから選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
プロスタグランジンF2α誘導体がラタノプロストである請求項2記載の医薬組成物。
【請求項4】
水溶性高分子がポリビニル化合物、水溶性セルロース化合物および多糖類から選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
ポリビニル化合物がポリビニルアルコールである請求項4記載の医薬組成物。
【請求項6】
油が動植物油および/または中鎖脂肪酸トリグリセリドである請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
中鎖脂肪酸トリグリセリドがミグリオールである請求項6記載の医薬組成物。
【請求項8】
医薬組成物が眼科用組成物である請求項1〜7のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項9】
眼科用組成物が点眼剤である請求項8記載の医薬組成物。
【請求項10】
ラタノプロスト、ミグリオール、ポリビニルアルコールおよび水を含有する水中油型エマルジョンである点眼剤。
【請求項11】
プロスタグランジンF2α誘導体、油、水溶性高分子および水を配合して水中油型エマルジョンとすることを特徴とする該エマルジョン中のプロスタグランジンF2α誘導体の分解を抑制する方法。
【請求項12】
ラタノプロスト、ミグリオール、ポリビニルアルコールおよび水を配合して水中油型エマルジョンとすることを特徴とする該エマルジョン中のラタノプロストの分解を抑制する方法。

【国際公開番号】WO2005/044276
【国際公開日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【発行日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515261(P2005−515261)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015828
【国際出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】