説明

プロスタグランジン含有脂肪乳剤

【課題】プロスタグランジンの安定性を向上させ、乳化安定性に優れ、透明性に優れ、保存期限の長いプロスタグランジン含有脂肪乳剤の提供。
【解決手段】プロスタグランジン類、油成分、レシチン、pKaが4.0〜6.0の解離基を有する水溶性の酸又はその塩、及び水を含んでなる脂肪乳剤であって、前記レシチンの含有量が前記油成分の0.15質量倍以上であり、かつ、pHが4.5〜6.0であるプロスタグランジン含有脂肪乳剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静脈注射可能なプロスタグランジン含有脂肪乳剤、該プロスタグランジン含有脂肪乳剤を含む注射用製剤及びプレフィルドシリンジ製剤の製造方法に関する。更に、注射用製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロスタグランジンE1(PGE)製剤の一形態として、静脈注射用の脂肪乳剤が開発され、「リプル注」(田辺三菱製薬)、「パルクス注」(大正製薬)等の名称にて市販されている。
しかしながら、上記のプロスタグランジンE1脂肪乳剤は有効成分であるプロスタグランジンE1が分解しやすいため、5℃以下の遮光下に保存する必要があり、有効期間は通常の製剤よりも短い1年間と定められている。このような製剤は流通段階や臨床現場における薬剤管理コストの増大を招く事から、有効期間の長い製剤の開発が切望されている。
【0003】
これまで、プロスタグランジンE1の安定性を高める検討が種々なされてきた。
例えば、精製したリン脂質を使用する(特許文献1参照)、高級脂肪酸を実質的に含有しない(特許文献2参照)、等によりプロスタグランジンの安定性向上が認められている。しかしながら、上記公報に記載された方法では、プロスタグランジンの安定性向上効果が十分とは言えず、さらには脂肪乳剤の乳化安定性が低下してしまうことがあるために、製剤の有効期間の延長が求められていた。
また、特許文献3には特定の乳化剤/油比において、プロスタグランジンの安定性が向上することが認められている。
【0004】
一方、前記のプロスタグランジンE1の脂肪乳剤は白濁状の外観を呈しているため、アンプル開封時における異物混入や、微生物汚染、さらには保存時に発生した粗大粒子を検知することが困難である。そのため臨床現場における薬剤管理が極めて困難な製剤であるといえる。
特許文献3に記載された方法では、確かにプロスタグランジンの安定性向上効果が認められるが、過剰に存在するレシチンが加水分解されるため、長期間での保存期間向上効果は十分ではないことがわかった。
一方、脂肪乳剤の安定化剤としてクエン酸と特定のアミノ酸が知られている(特許文献4)。しかしながら、該安定化剤には脂肪乳剤の変色抑制効果があることは知られているものの、内封した薬剤の安定化効果は認められていない。特にpHを6.5〜7.5に調製しており、この様なpHにおいてはプロスタグランジンの分解を抑制することができない。さらには、クエン酸は乳化破壊を伴いやすいため、乳化の安定性を得るにはpHが6.0を越える条件で乳化しなければならい。
しかしながら、pH6.0を越えるとプロスタグランジンの安定性が急激に低下することは知られており、特許文献4に記載の方法では保存安定性の高い脂肪乳剤を得ることは困難である。
【0005】
このような状況に鑑みて、有効成分(プロスタグランジン)の安定性及び乳化安定性、さらには透明性に優れたプロスタグランジン含有脂肪乳剤の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平8−18989号公報
【特許文献2】特開平4−338333号公報
【特許文献3】国際公開第2009/93650号
【特許文献4】特開平8−81360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の第1の目的は、プロスタグランジンの安定性を向上させ、かつ乳化安定性に優れた保存期限の長い脂肪乳剤を提供することにある。第2の目的は、透明性が高い脂肪乳剤を提供することにある。第3の目的は、プロスタグランジン含有脂肪乳剤を含む注射用製剤及びプレフィルドシリンジ製剤を提供することにある。更に、容易に滅菌することが可能な注射用製剤の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記構成によりなる。
[1]
プロスタグランジン類、油成分、レシチン、pKaが4.0〜6.0の解離基を有する水溶性の酸又はその塩、及び水を含んでなる脂肪乳剤であって、
前記レシチンの含有量が前記油成分の0.15質量倍以上であり
かつ、pHが4.5〜6.0であるプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[2]
前記水溶性の酸又はその塩が、0.01mmol/L〜5mmol/L含まれることを特徴とする[1]に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[3]
前記水溶性の酸がクエン酸であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[4]
前記脂肪乳剤におけるレシチンの含有量が、前記油成分の含有量に対して0.3質量倍以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載のプロスラグランジン含有脂肪乳剤。
[5]
前記脂肪乳剤における油成分の含有量が、脂肪乳剤中0.01〜5質量%であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載のプロスラグランジン含有脂肪乳剤。
[6]
前記レシチンが、ホスファチジルコリンを98質量%以上含有する卵黄レシチンであることを特徴とする請求項[1]〜[5]のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[7]
前記油成分が、ダイズ油であることを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[8]
前記脂肪乳剤が更に高級脂肪酸を含有し、脂肪乳剤における高級脂肪酸の含有量が、前記レシチンの含有量に対して0.06質量倍以下であることを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[9]
光散乱法により測定した前記脂肪乳剤の平均粒径が30〜150nmであることを特徴とする[1]〜[8]のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[10]
前記プロスタグランジン類がプロスタグランジンE1であることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[11]
前記プロスタグランジン含有脂肪乳剤が、濾過滅菌されたプロスタグランジン含有脂肪乳剤であることを特徴とする[1]〜[10]のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
[12]
[1]〜[11]のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤を含む注射用製剤。
[13]
[1]〜[11]のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤又は[12]の注射用製剤がシリンジに充填されていることを特徴とするプレフィルドシリンジ製剤。
[14]
[12]又は[13]に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤を濾過滅菌する工程を含むことを特徴とする[12]又は[13]に記載の注射用製剤の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の構成により脂肪乳剤の乳化安定性も向上するだけでなく、プロスタグランジンの安定性が大幅に向上し、更に、粗大粒子が低減するという予想外の効果を見出した。すなわち本発明の構成によれば、従来の製品に比べて、保管期限が大幅に向上した静脈注射可能なプロスタグランジン含有脂肪乳剤、注射用製剤及びプレフィルドシリンジ製剤を提供することができる。また本脂肪乳剤は、透明性が向上しているため、異物の混入を容易に検出することが可能であり、臨床現場での薬剤管理にも有効となりうる製剤である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の静脈内投与可能なプロスタグランジン含有脂肪乳剤は、プロスタグランジン類、油成分、レシチン、pKaが4.0〜6.0の解離基を有する水溶性の酸又はその塩、及び水を含んでなる脂肪乳剤であって、前記レシチンの含有量が前記油成分の0.15質量倍以上であり、かつ、pHが4.5〜6.0であることを特徴とする。
従来、脂肪酸が存在すると脂肪乳剤中のプロスタグランジンの安定性が低下することは広く公知であった。しかし、特定の水溶性の酸を存在させることで、脂肪乳剤中のプロスタグランジンの安定性が顕著に向上するという予想外の効果を見出した。
ここで、「質量倍」とは質量で何倍となるかを表すものとする。
【0011】
<水溶性の酸>
本発明の脂肪乳剤はpKaが4.0〜6.0の解離基を有する水溶性の酸又はその塩を含有する。ここで、酸解離定数pKaは25℃の水中におけるものである。また、多官能の酸の場合、複数ある酸解離定数のいずれかが4.0〜6.0の範囲内であればよい。
このような水溶性の酸としては、有機酸が好ましく、炭素数2〜10のカルボン酸類がより好ましい。水溶性の酸の例としては、具体的には酢酸(pKa=4.76)、酪酸(pKa=4.63)、安息香酸(pKa=4.00)、クエン酸(pKa1=3.15、pKa2=4.77、pKa3=6.40)、コハク酸(pKa1=4.00、pKa2=5.24)、酒石酸(pKa1=3.2、pKa2=4.8)、フタル酸(pKa1=2.94、pKa2=5.41)、フマル酸(pKa1=2.85、pKa2=4.10)、マレイン酸(pKa1=1.75、pKa2=5.83)、リンゴ酸(pKa1=3.40、pKa2=5.13)等が挙げられる。これらの内、酢酸、クエン酸が好ましく、クエン酸が特に好ましい。
水溶性の酸は、複数種類を併用しても良い。
水溶性の酸は、塩の形で含有されていてもよく、緩衝系となっていてもよい。塩の種類は特に限定されないが、アルカリ金属、又はアルカリ土類金属との塩などが挙げられ、ナトリウム、カリウム、又はカルシウムとの塩が好ましい。
【0012】
前記水溶性の酸又はその塩は脂肪乳剤中0.001mmol/L〜50mmol/L含まれることが好ましく、0.005mmol/L〜10mmol/Lがより好ましく、0.01mmol/L〜5mmol/L含まれることが特に好ましい。この範囲とすることで、プロスタグランジンの安定性効果が充分に得られ、かつ、乳化安定性も維持できるので、好ましい。
【0013】
<プロスタグランジン類>
本発明の脂肪乳剤を構成する成分のうち、プロスタグランジン類としては、プロスタグランジンE1(PGE)、プロスタグランジンA2(PGA2)、プロスタグランジンD2(PGD2)、プロスタグランジンE2(PGE)、プロスタグランジンF1α(PGF1α)、プロスタグランジンI2(PGI2)及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらのうち、本発明は脂肪乳剤としての需要が大きいプロスタグランジンE1(PGE)が好ましく、PGEにおいて特に有効である。
プロスタグランジンは、複数種類を併用しても良い。
本発明のプロスタグランジン含有脂肪乳剤は、プロスタグランジン類を含有する。具体的には、本発明の脂肪乳剤におけるプロスタグランジン類の含有量は0.00001〜0.01質量%であることが好ましく、0.0001〜0.005質量%であることがより好ましく、0.0003〜0.001質量%であることが更に好ましい。
【0014】
<レシチン>
本発明の脂肪乳剤はレシチンを含有する。
ここで、レシチンとはホスファチジルコリン自体、又は、少なくともホスファチジルコリンを含む混合物である。
ホスファチジルコリンを含む混合物は、一般的に、ホスファチジルコリンの他に、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、N−アシルホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリン、リゾホスファチジン酸、スフィンゴミエリン、スフィンゴエタノールアミン等を含みうる混合物である。
レシチンは合成品でも天然物由来でもよいが、一般的には卵黄レシチン(卵黄由来のレシチン、以下同様)、大豆レシチン、綿実レシチン、なたねレシチン、トウモロコシレシチン等が挙げられる。本発明におけるレシチンとしては、卵黄レシチン及び大豆レシチンが好ましく、卵黄レシチンがより好ましい。卵黄レシチンを精製して得られる精製卵黄レシチンが好ましく、高度精製卵黄レシチンがより好ましい。本発明におけるレシチンは、ホスファチジルコリンを含有し、ホスファチジルコリンの含有量が96%以上の卵黄レシチンが好ましく、ホスファチジルコリンの含有量が98%以上の卵黄レシチンがより好ましく、静脈注射用脂肪乳剤に好適に使用することができる。
尚、ホスファチジルコリンの含有量が98%以上の卵黄レシチンとしては「高度精製卵黄レシチン」の名称で医薬品添加物事典2007(薬事日報社)に掲載されているものを使用することができ、具体的にはPC−98N(キューピー(株)製)が挙げられる。
【0015】
本発明の脂肪乳剤におけるレシチンの含有量は前記プロスタグランジン類の含有量の100〜20000質量倍であることが好ましく、500〜10000質量倍であることがより好ましく、1000〜5000質量倍であることが特に好ましい。また、レシチンの含有量は脂肪乳剤に対して0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがより更に好ましく、1.2質量%以上であることが特に好ましい。また、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。レシチンの含有量がこの範囲であることで、乳化安定性が高く、かつ、脂肪乳剤中で水中に遊離するプロスタグランジンが減り、高い薬効が得られるので好ましい。
【0016】
<油成分>
本発明の脂肪乳剤は油成分を含有する。
本発明で用いられる油成分としては、脂肪酸グリセリド(モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、及びこれらのうち複数の混合物)が好ましく使用することができる。
脂肪酸グリセリドとしては、中鎖脂肪酸グリセリド、長鎖脂肪酸グリセリドいずれも使用することができる。
ここで中鎖脂肪酸グリセリドとは、炭素数6〜12の脂肪酸とグリセリンとの縮合物であり、例えば、TCG−M(高級アルコール工業)、クロダモルGTCC(クローダジャパン)、ココナードMK(花王)、ココナードRK(花王)、サンファットMCT−7(太陽化学)、デリオス(コグニスジャパン)、パナセート(日本油脂)、ミグリオール810(ミツバ貿易)、ミグリオール812(ミツバ貿易)、ミリトール318(コグニスジャパン)、パナセート810(油化産業)を挙げることができる。
長鎖脂肪酸グリセリドとは炭素数14以上の脂肪酸とグリセリンとの縮合物であり、例えば、ダイズ油、オリーブ油、ゴマ油、ナタネ油、ラッカセイ油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、サフラワー油、綿実油等が挙げられる。これらのうち、ダイズ油、オリーブ油、ゴマ油が好ましく、ダイズ油が特に好ましい。
これらの脂肪酸グリセリドは、さらに水蒸気蒸留等により精製して使用してもよい。
本発明における油成分の含有量は、レシチンの加水分解を防ぎつつ、かつ乳化安定性と透明性を維持しやすくする観点においては、脂肪乳剤中0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、0.01〜2質量%であることが特に好ましい。一方、静脈注射可能な範囲で発生する粗大粒子を更に低減するという観点においては、前記油性分の含有量は、脂肪乳剤中0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましく、2〜5質量%であることが特に好ましい。
【0017】
<油成分に対するレシチンの質量比>
本発明の脂肪乳剤において、前記レシチンの含有量は、経時での粒径変化抑制及び乳化安定性の観点から前記油成分の含有量の0.15〜50質量倍であることが好ましく、0.5〜20質量倍であることがより好ましく、0.7〜10質量倍であることが特に好ましく、0.7〜6質量倍であることが最も好ましい。一方、静脈注射可能な範囲で発生する粗大粒子を更に低減するという観点においては、前記レシチンの含有量は、前記油成分の含有量の0.15〜50質量倍であることが好ましく、0.2〜10質量倍がより好ましく、0.3〜1質量倍であることが特に好ましく、0.3〜0.7質量倍であることが最も好ましい。
【0018】
<高級脂肪酸>
本発明の脂肪乳剤において、乳化安定性を向上させる目的で高級脂肪酸を配合してもよい。
ここで高級脂肪酸とは炭素数10以上の脂肪酸であり、飽和、不飽和いずれの脂肪酸でもよい。本発明において、高級脂肪酸は乳化補助剤としての働きをするもので、脂肪乳剤の乳化安定性を向上させる機能がある。本発明で用いられる高級脂肪酸としては、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレン酸等が好ましく挙げられ、オレイン酸が特に好ましい。
脂肪乳剤が高級脂肪酸を含有し、該高級脂肪酸の含有量が、前記レシチンの含有量に対して0.06質量倍以下であることが好ましく、0.0001〜0.06質量倍であることが好ましく、0.0001〜0.03質量倍であることがより好ましく、0.0001〜0.01質量倍であることが特に好ましく、実質的に添加しないことが最も好ましい。
ここで実質的に添加しないとは、あくまでも配合目的で添加されることがないことをいい、例えば、油成分又はリン脂質の分解により生じた遊離高級脂肪酸や、意図しない混入により含有される遊離高級脂肪酸を除くものとする。
【0019】
<乳化剤及び分散剤>
本発明の脂肪乳剤においては、乳化安定性を向上させる目的で、さらに乳化剤もしくは分散剤を添加してもよい。
乳化剤としては、ポロキサマー(ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体)、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40水素化ヒマシ油、ポリオキシル60水素化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート、ポリオキシエチレンソルビタントリステアラート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート、12−ヒドロキシステアリン酸ポリオキシエチレンエステル、d−アルファ−トコフェリルポリエチレングリコールスクシナート、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタンセスキオレイン酸エステルが挙げられる。
分散剤としては、ヒト血清アルブミン、精製ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ウルソデスオキシコール酸、ウルソデスオキシコール酸塩、デスオキシコール酸、デスオキシコール酸塩等が挙げられる。
これらの乳化剤及び分散剤の添加量は、脂肪乳剤の安定性に影響を与えない限り、特に限定されないが、添加する場合、一般的に前記油成分の0.1質量倍以上であり、20質量倍以下であることが好ましく、10質量倍以下であることがより好ましく、5質量倍以下であることが更に好ましい。
【0020】
<その他の成分>
本発明に脂肪乳剤では必要に応じて、等張化剤(例えば、グリセリン、ブドウ糖、塩化ナトリウム)、抗酸化剤(例えば、ジブチルヒドロキシアニソール、ジブチルヒドロキシトルエン、α−トコフェロール、D−ソルビトール)、pH調製剤(水酸化ナトリウム、塩酸、リン酸)を含有していてもよい。
【0021】
<脂肪乳剤の粒子径>
動的光散乱法により測定した本発明の脂肪乳剤における(乳化直後の)平均粒径は30〜150nmであることが好ましく、30〜120nmであることがより好ましく、30〜100nmであることが特に好ましい。前記範囲の粒子径とすることで、脂肪乳剤の透明性が向上するため、異物混入や微生物汚染の発見が容易となり、臨床現場において使用上の問題が生じた製剤を容易に発見することが可能となる。さらには、濾過滅菌が可能となるため分解物の低減の観点でも好ましい。また、本発明の脂肪乳剤を濾過滅菌する場合、脂肪乳剤の粒径が上記の範囲内であれば濾過滅菌用のフィルターを目詰まり無く通過できる。
【0022】
前記粒径は、後述する乳化装置を用い、処理圧および処理回数を制御することで達成することができる。
ここで、脂肪乳剤の粒子径は、市販の粒度分布計等で計測することができる。粒度分布測定法としては、光学顕微鏡法、共焦点レーザー顕微鏡法、電子顕微鏡法、原子間力顕微鏡法、静的光散乱法、レーザー回折法、動的光散乱法、遠心沈降法、電気パルス計測法、クロマトグラフィー法、超音波減衰法等が知られており、それぞれの原理に対応した装置が市販されている。
本発明における粒径測定では、粒径範囲及び測定の容易さから、光散乱法、より好ましくは動的光散乱法、またはレーザー回折法を適用することが好ましい。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、ナノトラックUPA(日機装(株))、動的光散乱式粒径分布測定装置LB−550((株)堀場製作所)、濃厚系粒径アナライザーFPAR−1000(大塚電子(株))等が挙げられる。
特に本発明における脂肪乳剤の粒子径は、FPAR−1000を用いて測定した値であり、具体的にはContin法より得られる散乱強度分布のメジアン径を粒子径とした。
【0023】
<脂肪乳剤のpH>
本発明の脂肪乳剤のpHは4.5〜6.0の範囲にあることが好ましく、pH4.8〜5.8の範囲であることがより好ましく、pH5.0〜5.5であることが特に好ましい。pHがこの範囲にあることで、プロスタグランジンの安定性をさらに高くすることが可能である。pH4.5を下回ると、プロスタグランジンの安定性が低下するだけでなく、脂肪乳剤の乳化安定性も低下することがある。一方で、pH6.0を越えるとpHの上昇に従ってプロスタグランジンの安定性が低下する。
尚、水素イオン指数pHは25℃におけるものである。
【0024】
<脂肪乳剤の製造方法>
本発明の脂肪乳剤は、例えば、プロスタグランジン類、油成分、レシチンの混合物に、必要に応じて水を加えて乳化させることで製造できる。本発明の脂肪乳剤の製造方法は、とくに制限されないが、スターラーやインペラー攪拌、ホモミキサー、連続流通式剪断装置等の剪断作用を利用する通常の乳化装置を用いて乳化をした後、高圧ホモジナイザーを通す等の方法で2種以上の乳化装置を併用するのが特に好ましい。高圧ホモジナイザーを使用することで、乳化物を更に均一な微粒子の液滴に揃えることが出来る。
【0025】
高圧ホモジナイザーには、処理液の流路が固定されたチャンバーを有するチャンバー型高圧ホモジナイザー及び均質バルブを有する均質バルブ型高圧ホモジナイザーが挙げられる。これらの中では、均質バルブ型高圧ホモジナイザーは、処理液の流路の幅を容易に調節することができるので、操作時の圧力及び流量を任意に設定することができ、その操作範囲が広いため特に食品や化粧品などの乳化分野で広く用いられている。これに対し、操作の自由度は低いが、圧力を高める機構が作りやすいため、超高圧を必要とする用途にはチャンバー型高圧ホモジナイザーが用いられる。
チャンバー型高圧ホモジナイザーとしては、マイクロフルイダイザー(マイクロフルイディクス社製)、ナノマイザー(吉田機械興業(株)製)、アルティマイザー((株)スギノマシン製)等が挙げられる。
均質バルブ型高圧ホモジナイザーとしては、ゴーリンタイプホモジナイザー(APV社製)、ラニエタイプホモジナイザー(ラニエ社製)、高圧ホモジナイザー(ニロ・ソアビ社製)、ホモゲナイザー(三和機械(株)製)、高圧ホモゲナイザー(イズミフードマシナリ(株)製)、超高圧ホモジナイザー(イカ社製)等が挙げられる。
【0026】
高圧ホモジナイザーによる分散は、液体が非常に狭い(小さな)間隙を高速度で通過する際に発生する大きな剪断力によるものと考えられる。この剪断力の大きさはほぼ圧力に比例し、高圧になればなるほど液体中に分散された粒子にかかる剪断力すなわち分散力は強くなる。しかし、液体が高速で流れるときの運動エネルギーの大半は熱に変わるため、高圧になればなるほど液体の温度は上昇し、これによって分散液成分の劣化や粒子の再凝集が促進される事がある。従って、高圧ホモジナイザーの圧力は最適点が存在するが、その最適点は分散される物、狙うべく粒径によっても異なると考えられる。本発明において、ホモジナイザーの圧力は、好ましくは50MPa以上、より好ましくは50〜250MPa、更に好ましくは100〜250MPaで処理することが好ましい。この範囲の高圧条件にて分散を行うことで、前記粒径に制御することが可能である。好ましい。また、乳化液はチャンバー通過直後30秒以内、好ましくは3秒以内に何らかの冷却器を通して冷却することが好ましい。
【0027】
微細な乳化物を得るもう一つの有力な方法として、超音波ホモジナイザーの使用を挙げることが出来る。具体的には、上記に述べた様な剪断作用を利用する通常の乳化装置を用いて乳化をした後、15〜40kHzの周波数で超音波を照射する方法が知られていた。高出力超音波ホモジナイザーの例としては、超音波ホモジナイザーUS−1200T、同RUS−1200T、同MUS−1200T(以上、(株)日本精機製作所製)、超音波プロセッサーUIP2000,UIP−4000、UIP−8000,UIP−16000(以上、ヒールッシャー社製)等が挙げられる。これらの高出力超音波照射装置を用いて25kHz以下の周波数、好ましくは15〜20kHzの周波数で、且つ分散部のエネルギー密度が100W/cm2以上、好ましくは120W/cm2とすることにより、微細乳化が可能である。
【0028】
超音波ホモジナイザーを前記の超高圧ホモジナイザーと併用して用いてもよい。すなわち、剪断作用を利用する通常の乳化装置を用いて乳化をした後に、超高圧ホモジナイザー分散を行うことで超高圧ホモジナイザー分散の効率が高まり、パス回数の低減が図られると共に、粗大粒子の低減により高品質な乳化物を得ることが可能となる。また、超高圧ホモジナイザー乳化を行った後に、更に超音波照射を行うことで、粗大粒子を低減させることが出来る。また、超高圧分散と超音波照射を交互に行うなど任意の順序でこれらの工程を繰り返し行うことも出来る。
【0029】
<製剤の形態>
本発明はプロスタグランジン含有脂肪乳剤を含む注射用製剤にも関する。
本脂肪乳剤の製剤形態としては、注射用製剤として適したものであれば特に限定されない。具体的にはアンプル管、バイアル瓶、プレフィルドシリンジ、バッグ等の容器に充填した製剤が挙げられる。
容器の容量、材質および形状は、プロスタグランジン含有脂肪乳剤の充填量と使い易さの観点で適宜選択できる。また、充填時に空隙の気体を少なくする、あるいは窒素置換するとさらに安定性が改善されるため好ましい。
さらにこれらの容器内部はシリコート処理等の表面処理がなされていることが好ましい。
【0030】
上記製剤の中でも、アンプル管製剤またはプレフィルドシリンジ製剤が好ましく、プレフィルドシリンジ製剤がより好ましい。
本発明はプロスタグランジン含有脂肪乳剤又は注射用製剤がシリンジに充填されているプレフィルドシリンジ製剤にも関する。
プレフィルドシリンジ製剤は、調製時の希釈ミスや薬剤取り違えのミス、分割使用・保存による細菌汚染や活性の低下等を防ぐために、使用濃度・量であらかじめシリンジに充填されており、感染の危険の低減、医療従事者の労働生産性向上等の観点においても好ましい。
【0031】
該注射用製剤、及びプレフィルドシリンジ製剤に使用される注射器は特に限定されず、従来公知のものを好適に用いることができる。
本発明の注射器は、シリンジ(注射筒)およびガスケット等から構成することができる。該シリンジは一端(基端開放部)側の開口にガスケットがはめ込まれ、他端(先端開放部)側にガスケットの押し込みによりプロスタグランジン含有脂肪乳剤を排出する排出口を有する筒状体であることが好ましい。排出口には、使用前には通常、キャップがはめ込まれ、上記ガスケットとともに薬液を保持することができる。また、該ガスケットには、プランジャーロッドが連結されていてもよい。シリンジの基端からキャップ先端までの長さ、およびシリンジの内径は充填する薬液(プロスタグランジン含有脂肪乳剤)の容量によって適宜決定することができる。
【0032】
本発明において使用されるシリンジおよびプランジャーロッドの材質としては通常のプラスチックあるいはガラスが挙げられる。プラスチックとしては、例えば、ポリオレフィン系(例、ポリエチレン、ポリプロピレン)、環状ポリオレフィン系などが例示される。容量としては本製剤の臨床使用量に合せて適宜決定することができる。具体的には1〜20mL容のものが例示される。
ガラス製またはプラスチック製のシリンジを必要に応じて、焼き付けまたは塗布によりシリコン等で処理して、ガスケットの摺動抵抗を小さくし、シリンジ内でのガスケットの移動を容易にすることができる。排出口の形成される先端開放部は、接続する器具の形状に対応するルアーチップ形状になっていることが、注射針または血管カテーテルとの接続の容易さの観点から好ましい。
本発明において使用されるキャップは特に限定されないが、好ましくはゴム製または熱可塑性エラストマーなどの弾性体キャップである。該ガスケットには、好ましくはプランジャーロッドが結合する手段、例えば螺子部が設けられていてもよい。また、プランジャーロッドとガスケットとは一体に成形されていてもよい。
また、本製剤の投与においては、本発明の脂肪乳剤をそのまま注射用製剤として静脈注射してもよく、生理食塩水等の輸液にて適宜希釈したのち点滴投与しても良い。
【0033】
脂肪乳剤の滅菌方法としては、例えば、高圧蒸気滅菌、濾過滅菌が挙げられる。滅菌時の薬剤の分解抑制、乳化破壊の抑制の観点で、脂肪乳剤は濾過滅菌されることが好ましい。また、脂肪乳剤の調整前に、液体成分そのものや、液体成分および/または固体成分の溶液を濾過滅菌することも好ましい。
【0034】
本発明はプロスタグランジン含有脂肪乳剤を濾過滅菌する工程を含む注射用製剤の製造方法にも関する。
濾過滅菌は通常、プロスタグランジン含有脂肪乳剤を調整後に行うことができる。
濾過滅菌に用いるフィルターとしては、孔径0.01〜0.22μmのフィルターが好ましく、より好ましくは0.1〜0.22μmの濾過滅菌用のフィルターである。濾過滅菌用のフィルターは市販品を利用することもできる。濾過滅菌用のフィルターとして具体的には、ザルトポア2、ザルトブラン(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社)、デュラポア(日本ミリポア社)、フロロダインII、スーポア、フロロダインEX、ウルチポアN66、ポジダイン(日本ポール社)などが挙げられる。
また、濾過滅菌に際しては加圧濾過器にて差圧をかけることができ、差圧としては0.01MPa〜1MPaが好ましく、0.05MPa〜0.3MPaがより好ましい。ここで差圧とは、濾過の一次側(入口側)と二次側(出口側)の圧力の差のことをいう。二次側の圧力は通常大気圧である。
これらの条件は使用するプロスタグランジン類、油成分、及びレシチンの濃度や含み得る添加剤の種類及び濃度などによって適宜選択することができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
尚、本明細書において、別記がない場合は%は質量%である。
【0036】
(実施例1)
プロスタグランジンE1(アルプロスタジル、第一ファインケミカル(株)製)をエタノールに10mg/mlの濃度で溶解した。このうち42μl(プロスタグランジンE1として420μg)と、ダイズ油(カネダ(株)製)0.252g、及び、高度精製卵黄レシチンPC−98N(キューピー(株)製)0.504gとを混合した。この混合物に対し、別途、日本薬局方濃グリセリン(花王(株)製)と精製水を混合して得た2.5質量%グリセリン水溶液を、合計60mlになるように加え、撹拌した。これをホモミキサー(15000rpm、12min)にて粗分散し、さらにチャンバー型高圧ホモジナイザーにて乳化した。乳化液に終濃度0.5mMとなるクエン酸/クエン酸ナトリウム緩衝液を添加し、pHを5.0に調整することで、分散液1を作製した。
【0037】
(実施例2〜11、比較例1〜4)
実施例1と同様にして、表1の組成にて分散液2〜15を作製した。尚、比較例1〜3の塩酸の量は上記のように表に記載のpHとなるように添加した量である。
【0038】
(比較例5:既存薬相当)
実施例1と同様とするが、表1の組成にて分散液16を作製した。尚、オレイン酸は事前に所定量をダイズ油に溶解させて乳化を行い、その後水酸化ナトリウムにてpHを5.3に調整した。
【0039】
(脂肪乳剤の評価)
<粒径測定>
表1に記載の実施例、比較例にて調製した分散液(脂肪乳剤)について、乳化直後に精製水を用いて10〜100倍に希釈し、光散乱粒度分布測定装置(FPAR−1000、大塚電子製)にてContin法より得られる散乱強度分布のメジアン径を、粒径として記録した。
【0040】
<pH>
表1に記載の実施例、比較例にて調製した分散液について、原液のまま、コンパクトpHメーター(HORIBA製)にてpHを測定し、pHとして記録した。
【0041】
<粒径変化>
分散液1〜16について、2mlずつシリコートバイアル瓶(CS−10、不二硝子製)に分注し、ゴム栓、アルミシールをした。40℃にて14日間保存後の分散液について、上記記載の粒径測定を行った。調製直後の粒径に対する変化について、以下の基準にて評価を行い、結果を表1に記す。
◎:粒径の増大が認められなかった
○:粒径の増大が10nm以下である
△:粒径の増大が10nmを超え20nm未満である
×:粒径の増大が20nm以上である
【0042】
【表1】

【0043】
(実施例12〜20、比較例6〜8)
<PGE残存率評価>
分散液1〜7、10、11及び比較用の分散液13、14、及び16について、2mlずつシリコートバイアル瓶(CS−10、不二硝子製)に分注し、ゴム栓、アルミシールをした。40℃にて7日間及び14日間保存後の分散液について、高速液体クロマトグラフィーによりプロスタグランジンE1を定量した。尚、この時、1−ナフトールを内部標準として使用し、定量を行った。PGEの残存率(%)を以下の式にて算出した。結果を表2に記す。
PGE残存率(%)=(経時後のPGE濃度/初期のPGE濃度)×100
【0044】
【表2】

【0045】
表1の実施例が示す様に、クエン酸を添加した分散液1〜11及び16においては、経時での粒径の増大が許容範囲内又は認められず、安定な乳化液であることが分かった。一方で、pKaの小さい酸を使用した分散液12〜15(乳酸の25℃でのpKaは3.79)においては、経時での粒径の増大が認められ、経時での安定性が得られなかった。
さらに、表2の実施例が示す様に、クエン酸を添加した分散液1〜7及び10、11は、プロスタグランジンそのものの安定性が向上するという予想外の効果を見出した。既存薬相当の分散液16との比較より、既存薬の約3倍以上の保存期限を有することが推定できる。一方、pKaの小さい塩酸を使用した分散液13、14においては保存経時の初期は既存薬相当の分散液16よりもプロスタグランジンの残存率が高いが、14日後においてはプロスタグランジンの残存率が顕著に低下することが分かった。
【0046】
さらに、表1に示す様に本発明の分散液1〜11はいずれも150nm以下の粒径であり、外観上は半透明状態である。したがって本発明のプロスタグランジン含有脂肪乳剤は、保存期間を拡大するだけでなく、透明性が高いことから異物混入等の薬剤管理が容易になることが期待できる。
【0047】
<希釈液の粗大粒子目視評価>
分散液1、7、10、11をそれぞれ5mlバイアル瓶(無色透明)中に適量採取し、精製水にて1〜6倍に希釈した。1m以上離れた蛍光灯と肉眼との間にバイアル瓶を置き、バイアル瓶の側面から、上記の希釈液を目視観察した。このとき、液中に目視可能な粒子が見える程度について、以下の基準にて粗大粒子目視評価を行い、結果を表3に示す。
× 沈殿がはっきりと見える
△ 微細な粒子が少し見える
○ 微細な粒子がごく僅かに見える
◎ 目視可能な粒子はない
【0048】
【表3】

【0049】
<アンプル製剤、プレフィルドシリンジ製剤の安定性評価>
分散液10について、容器を表4に記載の容器とする以外は実施例19と同様にして、40℃7日間保存し、PGE残存率を求めた。結果を表4に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
<分散液の滅菌>
分散液10 10mLをシリコートバイアル瓶(CS−10、不二硝子製)に分注し、ゴム栓、アルミシールをした。これをオートクレーブ(オートクレーブSP200、ヤマト科学社)を用いて121℃での保持時間を1分として高圧蒸気滅菌した。この液の外観を観察したところ、油滴の分離が見られた。
分散液10 500mlを、滅菌フィルターとしてザルトポア2(直径47mm、孔径0.2μm、ザルトリウス・ステディム・ジャパン社)を用い、加圧濾過器にて0.2MPaの差圧をかけ、濾過滅菌を行った。分散液全量を閉塞なく濾過滅菌できた。外観、粒径、pH、PGE量を上記と同様に測定したところ、濾過前後で有意な変化は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジン類、油成分、レシチン、pKaが4.0〜6.0の解離基を有する水溶性の酸又はその塩、及び水を含んでなる脂肪乳剤であって、
前記レシチンの含有量が前記油成分の0.15質量倍以上であり
かつ、pHが4.5〜6.0であるプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項2】
前記水溶性の酸又はその塩が、0.01mmol/L〜5mmol/L含まれることを特徴とする請求項1に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項3】
前記水溶性の酸がクエン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項4】
前記脂肪乳剤におけるレシチンの含有量が、前記油成分の含有量に対して0.3質量倍以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプロスラグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項5】
前記脂肪乳剤における油成分の含有量が、脂肪乳剤中0.01〜5質量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のプロスラグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項6】
前記レシチンが、ホスファチジルコリンを98質量%以上含有する卵黄レシチンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項7】
前記油成分が、ダイズ油であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項8】
前記脂肪乳剤が更に高級脂肪酸を含有し、脂肪乳剤における高級脂肪酸の含有量が、前記レシチンの含有量に対して0.06質量倍以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項9】
光散乱法により測定した前記脂肪乳剤の平均粒径が30〜150nmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項10】
前記プロスタグランジン類がプロスタグランジンE1であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項11】
前記プロスタグランジン含有脂肪乳剤が、濾過滅菌されたプロスタグランジン含有脂肪乳剤であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤を含む注射用製剤。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤又は請求項12の注射用製剤がシリンジに充填されていることを特徴とするプレフィルドシリンジ製剤。
【請求項14】
請求項12又は13に記載のプロスタグランジン含有脂肪乳剤を濾過滅菌する工程を含むことを特徴とする請求項12又は13に記載の注射用製剤の製造方法。

【公開番号】特開2012−214430(P2012−214430A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194203(P2011−194203)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】