説明

プロスタグランジン類及びその類縁体の定量方法

【課題】血液等の生体試料中に含まれるPG類を正確かつ高感度で定量する方法を提供すること。
【解決手段】プロスタグランジン類を含有する生体試料を第一次液体クロマトグラフィーに付して、プロスタグランジン類を含む溶出液とプロスタグランジン類を含まない溶出液に分離し、プロスタグランジン類を含む溶出液を濃縮カラムに導入して濃縮されたプロスタグランジン類溶出液を得て、これを第二次液体クロマトグラフィーに付してプロスタグランジン類を単離して溶出し、溶出液中の分離されたプロスタグランジン類をタンデム質量分析計で定量することを特徴とするプロスタグランジン類の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の生体試料中のプロスタグランジン(以下、PGと略記することもある。)類を定量する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PG類は、1930年に子宮筋を収縮又は弛緩させる物質として発見され、1960年にはPGE1及びPGFが単離された。PG類は、プロスタン酸を基本骨格とし、分子の中央に5員環をもち、2本の側鎖をもった炭素数20個の脂肪酸である。5員環の構造によりA,B,C,D,E,F,G,H又はI等に、さらに側鎖の二重結合の数により1群、2群又は3群に分類されている。また、PGFについては9位の水酸基の立体配置の違いからαとβに区別されている。PG類は哺乳動物の臓器や体液中に広く分布し、微量でさまざまな生理活性を持つことが知られている。また、PG類は生体内のあらゆる細胞で生成可能である。多様な生理活性を有するPG類は、重要な生理機能調節因子であるので、PG類の近縁化合物が多数合成され、臨床的に降圧剤、抗凝血剤、消化潰瘍剤又は抗癌剤等、多様な新薬としての可能性が検討されてきている。
しかし、PG類は生体内物質でもあり、またPG類の感受性は個人差が大きくPG類の投与に際しては、その投与量の管理が重要となっている。特に、妊娠末期における陣痛誘発又は陣痛促進を目的に、例えばPGE2が使用される場合、PGE2の感受性は個人差が大きく、少量でも過強陣痛並びにそれに伴う子宮破裂や胎児仮死の危険性が起こりうる。このため、PGE製剤の投与は通常1回1錠を1時間毎に6回、1日総量6錠を1クールとして経口投与されているが症状および経過に応じて適宜増減する投与方法がとられているのが現状である。
【0003】
血液等の生体試料中に含まれるPG類の定量方法としては、ELISA(酵素免疫測定法;非特許文献1参照)、GC/MS(ガスクロマトグラフィー/質量分析機;非特許文献2参照)、一次元LC−MS/MS(液体クロマトグラフィー−タンデム型質量分析計;非特許文献3参照)等が知られているが、例えば感度不足であったり、特異性が不十分であるか又は検討されていなかったり、また、PG類とその代謝物との同時測定が不可能である等の欠点がある。このため、生体内でのPG類の薬物動態についての検討は十分であるとはいえない。
【非特許文献1】ジ・ホッファー(G. Hofer)、プロスタグランジンズ(Prostaglandins)、1993年、第45巻、p.413
【非特許文献2】ディ・ティシカス(D. Tsikas)、ジャーナル・オブ・クロマトグラフィー・ビー(J. Chromatography B)、1998年、第717巻、p.201
【非特許文献3】ピー・アロージョ(P. Araujo)、ジャーナル・オブ・クロマトグラフィー・ビー(J. Chromatography B)、2006年、第830巻、p.212
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、血液等の生体試料中に含まれるPG類を正確かつ高感度で定量することを可能にし、上記従来技術の問題点を一挙に解決し得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、血液等の生体試料中に含まれるPG類を高感度で定量する方法について鋭意研究を行った結果、目的とするPG類を含有する生体試料を第一次液体クロマトグラフィーに付して、目的とするPG類を含む溶出液と目的とするPG類を含まない溶出液に分離し、目的とするPG類を含む溶出液を濃縮カラムに導入して濃縮された目的とするPG類溶出液を得て、これを第二次液体クロマトグラフィーに付して目的とするPG類を分離して溶出し、溶出液中の分離された目的とするPG類をタンデム質量分析計で定量することにより、生体試料中に含まれるPG類を容易に高感度で正確に検出できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1] PG類を含有する生体試料を第一次液体クロマトグラフィーに付して、PG類を含む溶出液とPG類を含まない溶出液に分離し、PG類を含む溶出液を濃縮カラムに導入して濃縮されたPG類溶出液を得て、
これを第二次液体クロマトグラフィーに付してPG類を単離して溶出し、溶出液中の分離されたPG類をタンデム質量分析計で定量することを特徴とするPG類の分析方法、
[2] PG類がPGA1、PGA2、PGA3、PGB1、PGB2、PGB3、PGC1、PGC2、PGC3、PGD1、PGD2、PGD3、PGE1、PGE2、8−イソPGE2、PGE3、PGF、PGF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGF8−イソPGF、8−イソ−13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGF、8−エピPGF、PGF、PGF、PGF、PGF、PGG1、PGG2、PGG3、PGH1、PGH2、PGH3、PGI1、PGI2、PGI3、PGJ2、6−ケト−PGF、2,3−ジノル−6−ケト−PGF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGE2、7α−ヒドロキシ−5,11−ジケト−テトラノル−プロスタ−1,16−ジオン酸、5α,7α−ジヒドロキシ−11−ケト−テトラノル−プロスタ−1,16−ジオン酸及びそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記[1]に記載の分析方法、
[3] PG類がPGE1、PGE2、PGF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGF、PGI2及びそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする前記[2]に記載の分析方法、
[4] 第一次液体クロマトグラフィーがC4−30アルキル基、フェニル基又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲル充填カラムを使用して行なわれることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の分析方法、
[5] 第二次液体クロマトグラフィーがC4−30アルキル基、フェニル基又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲル充填カラムを使用して行なわれることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載の分析方法、
[6] C4−30アルキル基がオクタデシル基である前記[4]又は[5]に記載の分析方法、
[7] 第二次液体クロマトグラフィーの溶出液の流速が、第一次液体クロマトグラフィーの溶出液の流速に対して1/2〜1/5倍であることを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれかに記載の分析方法、
[8] 第二次液体クロマトグラフィーの溶出液がアセトニトリル/水系溶媒であることを特徴とする前記[7]に記載の分析方法、
[9] 生体試料が、血液、尿又は組織抽出液であることを特徴とする前記[1]〜[8]のいずれかに記載の分析方法、
[10] PG類を含む溶出液を濃縮カラムに導入して濃縮されたPG類溶出液を得る工程が、第一次液体クロマトグラフィーで得られるPG類を含む溶出液を濃縮カラムに導入し、PG類を充分に濃縮カラムに保持させた後、切り替えバルブによって、第二次液体クロマトグラフィーに使用される展開溶媒を濃縮カラムに導入して、濃縮カラムに保持されたPG類を溶出して濃縮されたPG類溶出液を得ることを含んでなる前記[1]に記載の分析方法、
[11] PG類関連疾患の診断のための前記[1]に記載の分析方法。
[12] PG類関連疾患の予防及び/又は治療のために行なわれる前記[1]に記載の分析方法、
[13] PG類関連疾患予防及び/又は治療薬の有効量を決定するための前記[1]に記載の分析方法、及び
[14] PG類及び/又はそれらの誘導体の体内動態を究明するための前記[1]に記載の分析方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、高感度で種々のPG類を同時に測定(定量)できる。また、ヒト血漿中の微量のPG類をも測定(定量)し得るので、内在性のPG類の測定はもちろん、投与されたPG類の薬物動態を測定することも可能となる。このことによってPG類の投与量の管理が可能となり、例えば陣痛促進等に投与されるPGE2やPGFの過剰投与による過強陣痛や強直性子宮収縮等を防止し、さらには強直性子宮収縮等による胎児仮死、子宮破裂、頸管裂傷又は羊水栓塞等を事前に防止し得る。
また、本発明に従えば、高感度で種々のPG類を測定(定量)し得るので、PG類の生体情報(例えば、ヒト血漿中におけるPG類の濃度等)を数値化、定量化してヒト等におけるPG類のバイオマーカーを設定し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、PG類としては、下記プロスタン酸;
【化1】

を基本骨格とする、分子の中央に5員環をもち、2本の側鎖をもった炭素数20個の脂肪酸又はその誘導体が挙げられる。前記誘導体にはプロスタン酸の5員環の代わりに6員環を有するもの、又は炭素数が20未満(約15〜19)もしくは20を超えるもの(約21〜25)も包含される。
【0009】
PG類の具体例としては、例えばPGA1、PGA2、PGA3、PGB1、PGB2、PGB3、PGC1、PGC2、PGC3、PGD1、PGD2、PGD3、PGE1、PGE2(ジノプロストン)、8−イソPGE2、PGE3、PGF、PGF(ジノプロスト)、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGF、8−イソPGF、8−イソ−13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGF、8−エピPGF、PGF、PGF、PGF、PGF、PGG1、PGG2、PGG3、PGH1、PGH2、PGH3、PGI1、PGI2、PGI3、PGJ2、6−ケト−PGF、2,3−ジノル−6−ケト−PGF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGE2、7α−ヒドロキシ−5,11−ジケト−テトラノル−プロスタ−1,16−ジオン酸、5α,7α−ジヒドロキシ−11−ケト−テトラノル−プロスタ−1,16−ジオン酸又はそれらの誘導体等が挙げられ、好ましくはPGE1、PGE2、PGF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGF、PGI2、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGE2、8−イソPGF、8−イソ−13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGF又はそれらの誘導体である。PG類の誘導体としては、例えば、アルプロスタジル、オルノプロスチル、リマプロスト、ゲメプロスト、ベラプロスト、トリモプロスチル、ミソプロストール、アルバプロスチル又はエンプロスチル等が挙げられる。
【0010】
また、PG類は遊離の塩基の状態のみならず、塩の状態も含まれる。PG類の塩としては、アルカリ金属(例えば、カリウム、ナトリウム等)の塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)の塩、アンモニウム塩、薬学的に許容される有機アミン(例えば、テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、シクロペンチルアミン、ベンジルアミン、フェネチルアミン、ピペリジン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン、N−メチル−D−グルカミン等)又は酸付加塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩のような無機酸塩;又は酢酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、グルクロン酸塩、グルコン酸塩のような有機酸塩等)等が挙げられる。
【0011】
本発明の分析方法に使用される生体試料としては、PG類を含有し生体由来の試料であれば制限されず、例えば、ヒトを含む動物の血液、尿、組織抽出液、唾液、涙液、その他の体液等が挙げられる。血液には、血漿又は血清等が含まれる。また、組織抽出液の組織には、各種の臓器(例えば、脾臓、小腸、脊髄、肺、胃、副睾丸、胸腺、脳、腎臓、精巣、子宮、骨髄、網膜、内耳等)又は皮膚等が含まれる。組織抽出液の抽出方法は特に制限はなく、公知の方法、例えば肝臓組織抽出液の場合には、肝臓組織を、インドメタシンを含む生理食塩液でホモジナイズし、その上清を固相抽出する方法等が挙げられる。
【0012】
生体試料は、後記液体クロマトグラフィー(以下、LCと略記する。)に付す前に、生体試料中に含まれる例えばタンパク質等を除去するために前処理を施されることが好ましい。前処理としては、除タンパク、抽出(例えば、液液抽出法、固相抽出法)又は濃縮操作等が挙げられる。除タンパクの方法としては、公知の方法でよいが、例えば有機溶媒処理(例えば、フェノール、クロロホルム、クロロホルム−メタノール混液、アセトン等)又は熱処理等が挙げられる。液液抽出法において、PG類を抽出する溶媒としては、例えば、酢酸エチル、クロロホルム又は酢酸エチル−n-へキサン混液等が挙げられる。固相抽出法は、例えば、PG類に合致した固相にPG類を保持(吸着)させ、次いで溶出溶媒により固相に保持(吸着)されたPG類を溶出させる公知の方法により実施できる。濃縮操作は、例えば減圧濃縮等が挙げられる。これら前処理は1種又は複数組み合わせて行うことができるが、処理時間の短縮化、簡便性、迅速性又は省力化等の観点から固相抽出法を含むことが好ましい。固相抽出法における固相としては、例えば、オクタデシルシリル化シリカゲル(ODS)、弱塩基性陰イオン交換体、シリカゲル、スチレンジビニルベンゼン共重合体(SDB)、プロピルスルホニルシリル化シリカゲル、ベンゼンスルホニルプロピルシリル化シリカゲル、アクリルアミド共重合体結合グリセリルプロピルシリル化シリカゲル、アミノプロピルシリル化シリカゲル、アルミナ、エチルシリル化シリカゲル、エチレンジアミン−N−プロピルシリル化シリカゲル、カルボキシメチルシリル化シリカゲル、強塩基性陰イオン交換体又はグリセリルプロピルシリル化シリカゲル等が挙げられるがこれらに限定されない。また、これら固相は1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい固相の組み合わせとしては、例えばODS、弱塩基性陰イオン交換体、シリカゲル、SDBの組み合わせである。固相抽出法は、上記固相が充填された市販のカートリッジ又はミニカラム等を用いることができる。そのようなカートリッジ又はミニカラム等としては、例えばBond Elut C18(Varian製;ODS系固相)、Bond Elut LRC−C18(Varian製;ODS系固相)、Sep−Pak Vac C18(Waters社製;ODS系固相)、Sep−Pak Plus C18(Waters社製;ODS系固相)、Bond Elut DEA(Varian製;弱塩基性陰イオン交換体固相)、abselut NEXUS(Varian製;SDB系固相)又はSep−Pak Plus PS−2(Waters社製;SDB系固相)等が挙げられるが、これらに限定されない。前記カートリッジ又はミニカラム等は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、固相抽出法には、固相マイクロ抽出法(SPME)が含まれる。SPMEとしては、上記固相を結合させた細いニードル等が挙げられる。固相抽出法における、固相に保持(吸着)されたPG類を溶出する溶媒としては、例えばODS系やSDB系固相では酢酸エチル、クロロホルム、メタノール又はアセトニトリル等が挙げられ、例えば弱塩基性陰イオン交換体固相では、水−アルコール混液[例えば、水/酢酸混液(約100:1〜80:1(V/V))/メタノール(約9:1〜5:5(V/V))]等が挙げられる。
【0013】
また、固相は、試料注入前にPG類を保持(吸着)し得るようコンディショニングすることが好ましい。コンディショニングは、固相により異なり、例えば、ODS系やSDB系固相ではまず溶出溶媒(例えば、酢酸エチル、クロロホルム等)、次いで極性の高い溶媒(例えば、メタノール、エタノール、アセトン、アセトニトリル等)、次いで水性溶媒[例えば、水、水/酢酸混液(約100:1〜80:1(V/V))、塩酸(0.1〜0.5N)等]の一定量を、また、例えば弱塩基性陰イオン交換体固相では、有機溶媒(例えば、酢酸エチル、メタノール等)の一定量を、固相が充填されたカートリッジ又はミニカラムに通すことにより実施できる。
【0014】
PG類を保持した固相は、例えば水性溶媒[例えば、水、水/酢酸混液(約100:1〜80:1(V/V))、塩酸(0.1〜0.2N)等]の一定量で洗浄されるのが好ましい。該洗浄により、固相に負荷された試料に含まれるPG類以外の夾雑物を除去し得る。
【0015】
生体試料の前処理には、内標準物質を添加することが好ましい。内標準物質の添加により、試料中に夾雑物が存在し、PG類の測定に影響を与える場合においても、正確にPG類の測定を行うことができる。内標準物質としては、測定するPG類に近い保持時間をもち、いずれのピークとも完全に分離する安定な物質が好ましい。内標準物質としては、測定するPG類の重水素(d4〜d6)置換体等が挙げられ、例えばPGE2に対してはd4−PGE2;PGF、PGF、11β−PGF2及び8−epiPGFに対してはd5−PGF又はd4−PGF2a;6−ケトPGFに対してはd4−6−ケトPGF;PGE1に対してはd4−PGE1;及びPGD2に対してはd4−PGD2等が挙げられる。
【0016】
上記前処理を施した生体試料におけるPG類の分析は、好ましくは例えば以下の工程1乃至4を含む工程により実施し得る。
工程1:目的とするPG類を含む試料又はその処理物をまず第一次LCに付して、目的とするPG類を含む溶出液と目的とするPG類を含まない溶出液に分離する。
工程2:工程1における目的とするPG類を含む溶出液を濃縮カラムに導入して濃縮する。
工程3:工程2において濃縮された目的とするPG類を含む溶出液を第二次LCに付して、目的とするPG類を、夾雑物をほとんど含まず実質的に純粋な状態に単離された目的とするPG類として溶出する。
工程4:工程3において単離された目的とするPG類を含む溶出液を、MS/MSに導入し、単離された溶出液中の目的とするPG類の各質量を測定する。
上記工程1乃至4を含む工程を実施する装置としては二次元LC/MS/MSシステム、例えば図1に示す装置が挙げられる。
以下、各工程につき説明する。
【0017】
工程1:
第一次LCにおけるカラム(図1で示すC1)は、C4−30アルキル基導入シリカゲル充填カラム(炭素数4−30アルキル基を導入したシリカゲルを充填したカラム)、フェニル基導入シリカゲル充填カラム又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲル充填カラムが好ましい。C4−30アルキル基、フェニル基又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲルは、シリカゲルの表面に存在するシラノールに、シリル化剤、例えばトリメチルシリル化剤のメチル基がC4−30アルキル基、フェニル基又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基の1個又は2個で置換されたシリル化剤を化学結合させたシリカゲル等が挙げられる。C4−30アルキル基、フェニル基又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲルは、シリカゲルの表面に存在するシラノールにC4−30アルキル基、フェニル基又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基を化学結合させた後に残ったシラノールを、所望により不活性化処理(例えば、エンドキャッピング等)されたものを包含する。C4−30アルキル基導入シリカゲル充填カラムとしては、例えば、ブチル基結合シリカゲル(C4)カラム、オクチル基結合シリカゲル(C8)カラム、オクタデシル基結合シリカゲル(C18;ODS)カラム又はトリアコンチル基結合シリカゲル(C30)カラム等が挙げられる。中でもODSカラムが好ましい。フェニル基導入シリカゲル充填カラムとしては、例えばフェニルシリル化シリカゲル(Ph)カラム等が挙げられる。ω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲル充填カラムとしては、例えばフェニルエチルシリル化シリカゲルカラム(例えば、コスモシール NPEカラム等)等が挙げられる。カラムに充填される充填剤の粒子径は、約5μm以下、好ましくは約3μm以下がPG類の分離能等の点から好ましい。ODSカラムとしては、例えばCAPCELL PAK C18 UG120(株式会社資生堂製)、L−column ODS(化学品検査協会製)、Develosil ODS UG−5(野村化学株式会社製)、Develosil ODS HG−5(野村化学株式会社製)、Cosmosil 5C18MS(ナカライテスク株式会社製)、J−sphere ODS M80(株式会社YMC製)、TSK GEL ODS 80TS(東ソー株式会社製)、Kaseisorb LC ODS Super(東京化成株式会社製)、Wakosil 5C18 HG(和光純薬工業株式会社製)、Wakosil 5C18 RS(和光純薬工業株式会社製)、ULTRON VX ODS(信和化工株式会社製)、日本分光 Crestpak C18S(日本分光株式会社製)、Inertsil ODS−2(ジーエルサイエンス株式会社製)、Inertsil ODS−3(ジーエルサイエンス株式会社製)、Puresil ODS(ウォーターズ社製)、Purosphere RP−18(メルク社製)、Cadenza CD−C18(インタクト株式会社製)又はYMC−Pack Pro C18(株式会社ワイエムシー)等を挙げることができる。中でも、ODS粒子が約3μmのInertsil ODS−3(φ2.1×50mm)やCadenza CD−C18(φ2.0×50mm)等が好ましく挙げられる。
【0018】
本発明において、第一次LCにおけるカラム温度としては、室温〜約50℃が挙げられ、好ましくは約35〜45℃である。
【0019】
本発明において、第一次LCにおける溶出液(移動層)としては、低級アルコール/水系溶媒(低級アルコールと水との混合物)が好適に用いられる。低級アルコールとしては、例えば炭素数1〜3のアルコールが挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール又はイソプロパノール等が挙げられるが、メタノールが好ましい。水系溶媒としては、精製水、蒸留水又はHPLC用水等が挙げられる。水系溶媒には、例えばギ酸、酢酸、ギ酸アンモニウム又は酢酸アンモニウム等の揮発性物質が添加されること及び、例えばpH約3〜4の酸性に調整されることが好ましい。揮発性物質の濃度は、例えば約0.1〜10mmol/Lが好ましく、約1〜7mmol/Lがより好ましい。低級アルコールと水系溶媒の比率は、約60/40%(V/V)〜約40/60%(V/V)が好ましい。
前処理を行った目的とするPG類を含む試料は、第一次LCにおけるオートサンプラー(図1におけるAS)からサンプリングされ得る。また、第一次LCにおける溶出液は、図1におけるポンプ1(P1)から送液され得る。
【0020】
目的とするPG類を含む溶出液と目的とするPG類を含まない溶出液の分離は、あらかじめ第一次LCのカラムから溶出される溶出液に含まれる目的とするPG類の溶出時間を測定して、その溶出時間に溶出する溶出画分を採取し、それ以外の溶出画分から分離することにより行われる。上記溶出時間の測定は、目的とするPG類を含む試料を、公知の一次元LC/MS/MSに付すことにより実施し得る。具体的には、まず前処理を行った目的とするPG類を含む試料を第一次LCに付し、その溶出液を直接MS/MSに導入して、得られたMS/MSにおける目的とするPG類の分離パターンから目的とするPG類が検出されている時間(保持時間)と検出されない時間とを認識する。目的とするPG類を含む溶出液と目的とするPG類を含まない溶出液の分離は、目的とするPG類を含む溶出液のカラムからの溶出開始から溶出を終える時間まで(保持時間)に溶出する溶出液と目的とするPG類を含まない溶出液がカラムから溶出している時間の溶出液とを分離することにより実施できる。前記分離により、MS/MSにおける第一次LCの目的とするPG類の分離パターンから、例えば第一次LCにおいてある目的とするPGがカラムから溶出を始める時間から溶出を終える時間まで(保持時間)の溶出液を、目的とするPG類を含む溶出液とすることができる。また、例えば第一次LCにおいて最初の目的とするPG類がカラムから溶出を始めるまでの時間の溶出液、又はある目的とするPGがカラムから溶出を終える時間から次の目的とするPGがカラムから溶出を始める時間までの時間の溶出液を、目的とするPG類を含まない溶出液とする。このある目的とするPG又は次の目的とするPGのカラムからの溶出には、複数種類の目的とするPGが完全又は部分的に重複して溶出される場合が含まれる。
また、上記一次元LC/MS/MSにおける目的とするPG類の保持時間から、本発明における二次元LC/MS/MSにおける下記バルブの切換時間及びバルブポジションを設定し得る。上記一次元LC/MS/MSにおける目的とするPG類の保持時間中は、例えば図1におけるバルブ(V)のバルブポジションをBとなるように設定し(バルブ(V)における溶出液の流れを図3の矢印で示す。)、それ以外の時間はバルブポジションをAとなるように設定する(バルブ(V)における溶出液の流れを図2の矢印で示す。)ことが好ましい。
【0021】
目的とするPG類を含む溶出液は、工程2の濃縮カラムに導入され、目的とするPG類を含まない溶出液は廃棄されてよい。溶出液の濃縮カラムへの導入と廃棄への切り換えは、上記一次元LC/MS/MSにおける目的とするPG類の溶出時間のパターンに従い一定時間毎にバルブ(図1におけるV)を切り換えることにより実施できる。すなわち、第一次LCにおけるカラムから溶出された目的とするPG類を含む溶出液は、例えば図1におけるバルブのバルブポジションがAからBに切換えられることにより、第一次LCにおけるカラムから濃縮カラム(図1におけるC2)に導入され得る(図3)。第一次LCにおけるカラムから溶出される目的とするPG類を含まない溶出液は、例えば図1におけるバルブのバルブポジションがAに切換えられることにより、廃棄される(図2)。廃棄される目的とするPG類を含まない溶出液は目的とするPG類以外の夾雑物を通常は含む。
【0022】
工程2:
工程2において、使用される濃縮カラム(図1におけるC2)としては、C4−30アルキル基導入シリカゲル充填カラム、フェニル基導入シリカゲル充填カラム[フェニルシリル化シリカゲル(Ph)カラム]又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲル充填カラム(例えば、フェニルエチルシリル化シリカゲルカラム)等が好ましい。C4−30アルキル基導入シリカゲル充填カラムとしては、上記第一次LCにおけるC4−30アルキル基導入シリカゲル充填カラムと同様のものが挙げられる。濃縮カラムは、目的とするPG類を濃縮できればよく、第一次LCにおけるカラムより細くてかつ短い(約10〜20mm)ものが好ましい。具体的には例えば、ODS粒子が約5μmのInertsil ODS−3(φ1.0×10mm)やYMC−Pack Pro C18(φ1.0×10mm)等が好ましく挙げられる。
【0023】
本発明において濃縮カラムにおけるカラム温度としては、約5〜50℃が挙げられ、好ましくは室温である。
【0024】
目的とするPG類はこの濃縮カラムにいったん保持され、目的とするPG類以外の夾雑物は廃棄、除去されるので、工程2によって試料中の目的とするPG類が濃縮されることになる。
【0025】
工程1において分離された目的とするPG類を含む溶出液は、濃縮カラムに導入され、目的とするPG類は濃縮カラムに保持(吸着)される(図3)。この場合、濃縮カラム内で目的とするPG類が保持(吸着)され得るように、例えば第一次LCから溶出された溶出液の極性を上げることが好ましい。溶出液の極性を上げる方法としては、極性の高い溶液を前記溶出液に混合する方法が挙げられる。極性の高い溶液としては、水等が好ましく挙げられる。水としては、精製水、蒸留水又はHPLC用水等が挙げられ、該水にはギ酸、酢酸、ギ酸アンモニウム又は酢酸アンモニウム等の揮発性物質が添加されてもよい。添加される揮発性物質の濃度は、例えば約1〜20mmol/Lが好ましい。極性の高い溶液を前記溶出液に混合する方法としては、第一次LCのカラムから溶出され濃縮カラムに至るラインの途中で、前記極性の高い溶液(移動相)が異なるポンプ(図1におけるP2)から送液され、送液ライン中で両溶液が混合されることが好ましい。
この工程においては、例えば図1におけるバルブのバルブポジションはBに切換えられているので濃縮カラムから溶出された目的とするPG類を含まない溶液は廃棄される(図3)。
【0026】
工程3:
次いで、濃縮カラムに保持(吸着)された目的とするPG類を含む溶液、すなわち濃縮された目的とするPG類溶出液を第二次LCに付して目的とするPG類を分離する。複数の目的とするPG類はそれぞれの種類の目的とするPGに単離される。本工程3において、第二次LCにおいて使用されるカラム(図1におけるC3)としては、C4−30アルキル基導入シリカゲル充填カラム、フェニル基導入シリカゲル充填カラム[フェニルシリル化シリカゲル(Ph)カラム]又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲル充填カラム[例えば、フェニルエチルシリル化シリカゲルカラム(例えば、コスモシール NPEカラム等)]が好ましい。C4−30アルキル基導入シリカゲル充填カラムとしては、上記第一次LCにおけるC4−30アルキル基導入シリカゲル充填カラムと同様のものが挙げられる。カラムに充填される充填剤の粒子径は、約3μm以下が好ましい。第二次LCにおいて使用されるカラムは、濃縮カラムに保持(吸着)された目的とするPG類をさらに高性能に分離できるカラムが好ましく、第一次LCにおけるカラムよりも約、1.5〜10倍、好ましくは約3〜6倍長いものが好ましい。具体的には、例えば、ODS粒子が約3μmのCadenza CD−C18(φ1.0×250mm)等が好ましく挙げられる。
【0027】
本発明において第二次LCにおけるカラム温度としては、約5〜50℃が挙げられ、好ましくは室温である。
【0028】
濃縮カラムに保持(吸着)された目的とするPG類の溶出は、第二次LCに使用される展開溶媒を濃縮カラムに導入することにより実施し得る。展開溶媒としては、アセトニトリル/水系溶媒(アセトニトリルと水系溶媒の混合液)が好ましく挙げられる。水系溶媒としては、精製水、蒸留水又はHPLC用水等が挙げられる。該水系溶媒には、ギ酸又は酢酸、ギ酸アンモニウム又は酢酸アンモニウム等の揮発性物質が添加されることが好ましい。揮発性物質の濃度は、例えば約0.1〜10mmol/L、好ましくは約0.5〜5mmol/Lである。アセトニトリルと水系溶媒の比率は、約30/70%(V/V)〜約70/30%(V/V)が好ましい。
【0029】
濃縮カラムへ導入する第一次LCからの溶出液と第二次LCに使用される展開溶媒との交換は、切り替えバルブ(図1におけるV)により行うことができる。具体的には、例えば図1におけるポンプ1(P1)及びポンプ2(P2)からの送液を、ポンプ3(P3)から送液される展開溶媒に切り換えることにより実施できる。該切り換えは、上記一次元LC/MS/MSにおける目的とするPG類の溶出時間のパターンに従い一定時間毎にバルブ(図1におけるV)を切り換えることにより実施できる。例えば第一次LCにおいて最初の目的とするPGが溶出を終えた時間から第2番目の目的とするPGが溶出するまでの時間は、上記したようにバルブのバルブポジションはAに切り換えられている。このため、バルブポジションAの状態でポンプ3から送液される展開溶媒が、濃縮カラムに導入され、濃縮カラムに保持(吸着)された目的とするPG類を溶出して濃縮された目的とするPG類を含む展開溶媒を第二次LCにおけるカラム(図1におけるC3)に導入され得るようにポンプ3からの送液回路が設定されることが好ましい(図2)。
第二次LCのカラムにおける展開溶媒の流速は、MS/MSにおける検出感度を向上させるために、第一次LCのカラムにおける溶出液の流速よりも遅く(例えば、約1/2〜1/5倍)することが好ましい。具体的には、第一次LCのカラムにおける目的とするPG類を含む溶出液の流速が例えば約200μL/分である場合、第二次LCのカラムにおける展開溶媒の流速は、約40〜100μL/分とするのが好ましい。
【0030】
また、濃縮カラムに保持(吸着)された目的とするPG類が濃縮カラムから溶出され第二次LCのカラムに導入されている間、第一次LCのカラムから次の目的とするPG類が溶出しない様に第一次LCのカラムに導入される溶出液の流速を低下させることが好ましい。この場合、バルブポジションはAに切り換えられているので、第一次LCからの溶出液は廃棄される(図2)。
【0031】
濃縮カラムに保持(吸着)された目的とするPG類が濃縮カラムから溶出され第二次LCのカラムに導入された後に、バルブポジションはBに切り換えられてよい。この場合、第二次LCのカラムに導入される展開溶媒は、濃縮カラムを通らず図1におけるポンプ3(P3)から第二次LCのカラムに直接導入されるように該導入経路が同時に切り換えられることが好ましい(図3)。このように切り換えを行うことにより、第二次LCのカラムにおいて、目的とするPG類の分離が中断されることなく行われ得る。濃縮カラムから溶出され第二次LCのカラムに導入される溶出液は、好ましくは目的とするPG類を含むが目的とするPG類以外の夾雑物をほとんど含まない。
【0032】
工程4:
【0033】
第二次LCにおいて分離された目的とするPG類はMS/MSに導入され分析される。MS/MSは、2台の直列に接続された質量分析計(タンデム質量分析計)で、衝突誘起解離を行い、構造情報をもったスペクトルを得る方法を含む。具体的には、第二次LCにおいて夾雑物から分離され単離された目的とするPG類はMS/MSのイオン化室に導入されイオン化される。第一段目の質量分析計(MS1)でプリカーサーイオンを選択し、ついでコリジョンセルと呼ばれる衝突室でターゲットガスと衝突させてプリカーサーイオンを解離(イオン化)させ新しいイオン群を発生させるのが好ましい。この新しいイオン群のうち最大のピークを示すイオンが通常プロダクトイオンとして選択され、第2段目の質量分析計(MS2)で分析される。ターゲットガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、キセノンガス等が挙げられる。プリカーサーイオンを解離(イオン化)させる方法としては、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI)又は大気圧化学イオン化(APCI)等が挙げられる。この中でもESIが好ましく、ESIターボイオンスプレー法がより好適に用いられる。生成したプロダクトイオンの検出方法としては、一般に、フルスキャン法、選択イオンモニタリング(SIM)法又はマルチリアクションモニタリング(MRM)法等が挙げられるが、本発明においてはMRM法が好適に用いられる。このMRM法においては、例えば、目的とするPG類がPGE2の場合、PGE2のプリカーサーイオンとして、m/z351.0付近のイオンのみを選択し、次に、このイオンを窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスに衝突させ分解させた際に生じるプロダクトイオンのうちm/z271.0付近のイオンを選択してそのイオンの量をモニターすることにより、PGE2を高感度で定量することができる。同様に例えばPGFのプリカーサーイオンとして、m/z353.0付近のイオンを選択し、且つプロダクトイオンとして、m/z193.0付近のイオンを選択し、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGFのプリカーサーイオンとして、m/z353.0付近のイオンを選択し、且つプロダクトイオンとして、m/z275.0付近のイオンを選択し、PGF又は13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGFが高感度に定量され得る。このとき、内部標準物質のd4−PGE2のプリカーサーイオンとして、m/z355.0付近のイオンを選択し、且つプロダクトイオンとして、m/z275.0付近のイオンを選択し、d4−PGFのプリカーサーイオンとして、m/z357.0付近のイオンを選択し、且つプロダクトイオンとして、m/z197.0付近のイオンを選択するのがよい。
【0034】
本発明において上記第4工程は好ましくは二次元LC/MS/MSシステムにより実施し得る。二次元LC/MS/MSシステムとしては、例えばAPI4000を含むLC/MS/MSシステム(アプライドバイオシステム社製)、4000 Q TRAPを含むLC/MS/MSシステム(アプライドバイオシステム社製)、Q TRAPを含むLC/MS/MSシステム(アプライドバイオシステム社製)、API3000を含むLC/MS/MSシステム(アプライドバイオシステム社製)、API5000を含むLC/MS/MSシステム(アプライドバイオシステム社製)、TSQ QUANTUMを含むLC/MS/MSシステム(サーモエレクトロン社製)又はTSQ7000を含むLC/MS/MSシステム(サーモエレクトロン社製)等が挙げられる。
【0035】
PG類の濃度の算出手段としては、例えばPG類の標準溶液を用いて作成した検量線を用いて行う手段が挙げられる。具体的には、検量線はPG類の標準溶液に内標化合物を添加した溶液を用いて上記工程1〜4を実施して得られる測定値から作成され得る。
また、本工程において用いる検量線は、真度(RE)が±20%以内であり、好ましくは±15%以内であり、精度(CV)が±20%以内であり、好ましくは±15%以内であり、かつ相関係数が0.99以上である検量線を用いるのが好ましい。内標化合物を用いた場合には、たとえば、PG類のピーク面積値と内標化合物のピーク面積値との比を求め、この比をグラフ上にプロットすることにより信頼性の高い検量線を作成することができる。上記真度は、測定値(定量値)の平均から添加濃度を減じた値を添加濃度で除することで算出される。上記精度は、測定値(定量値)の標準誤差を測定値(定量値)の平均で除することで算出される。上記相関係数は、例えば最小2乗法を用いて算出できる。
【0036】
本発明の分析方法を用いれば、例えば、試料として血漿を用いる場合、約1mLの血漿量で血漿中のPG類の定量を行うことが可能となる
【0037】
本発明に係る分析方法は、高感度でかつ特異的にPG類を測定(定量)できるので、PG類の関連疾患の診断に利用しうる。PG類の関連疾患としては、例えばPG類が受容体に作動して誘発される疾患等が挙げられる。PG類の受容体としては、例えばPGE2受容体サブタイプ(EP1、EP2、EP3、EP4)を含むEP、PGF受容体であるFP、PGD2受容体であるDP又はPGI2受容体であるIP等が挙げられる。
【0038】
EP1介在性疾患としては、例えば疼痛、発熱、頻尿(神経因性膀胱、神経性膀胱、刺激膀胱、不安定膀胱、前立腺肥大に伴う頻尿等)、尿失禁又は下部尿路症等が挙げられる。
【0039】
EP2介在性疾患としては、例えば免疫疾患(筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、シェーグレン症候群、慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応等)、アレルギー性疾患(例えば、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、食物アレルギー等)、神経細胞死、月経困難症、早産、流産、禿頭症、緑内障等の網膜神経障害、勃起不全、関節炎、肺傷害、肺線維症、肺気腫、気管支炎、慢性閉塞性呼吸器疾患、肝傷害、急性肝炎、肝硬変、ショック、腎炎(例えば、急性腎炎、慢性腎炎)、腎不全、循環器系疾患(例えば、高血圧、心筋虚血、慢性動脈閉塞症、振動病等)、全身性炎症反応症候群、敗血症、血球貪食症候群、マクロファージ活性化症候群、スチル(Still)病、川崎病、熱傷、全身性肉芽腫、潰瘍性大腸炎、クローン病、透析時の高サイトカイン血症、多臓器不全又は骨疾患(例えば、骨折、再骨折、難治性骨折、骨癒合不全、偽関節、骨軟化症、骨ページェット症、硬直性脊椎炎、癌骨転移、変形性関節症及びそれらの類似疾患における骨・軟骨の破壊等)等が挙げられる。
【0040】
EP4介在性疾患としては、例えば免疫疾患[筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症、シェーグレン症候群、慢性関節リューマチ、全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応、AIDS等]、喘息、神経細胞死、関節炎、変形性関節症、肺傷害、肺線維症、肺気腫、気管支炎、慢性閉塞性呼吸器疾患、肝傷害、急性肝炎、腎炎(例えば、急性腎炎、慢性腎炎)、腎不全、高血圧、心筋虚血、全身性炎症反応症候群、敗血症、血球貪食症候群、マクロファージ活性化症候群、スチル(Still)病、川崎病、熱傷、全身性肉芽腫、潰瘍性大腸炎、クローン病、透析時の高サイトカイン血症、多臓器不全、ショック、消化管潰瘍(例えば、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等)、口内炎、禿頭症、脱毛症、骨疾患[例えば、原発性骨粗鬆症(例えば、加齢に伴う原発性骨粗鬆症、閉経に伴う原発性骨粗鬆症、卵巣摘出術に伴う原発性骨粗鬆症等)、二次性骨粗鬆症(例えば、グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症、甲状腺機能亢進性骨粗鬆症、固定誘発性骨粗鬆症、ヘパリン誘発性骨粗鬆症、免疫抑制誘発性骨粗鬆症、腎不全による骨粗鬆症、炎症性骨粗鬆症、クッシング症候群に伴う骨粗鬆症、リューマチ性骨粗鬆症等)、癌(例えば、癌形成、癌増殖、癌の臓器転移、癌骨転移、癌の骨転移に伴う高カルシウム血症等)、ページェット病、骨欠損(例えば、歯槽骨欠損、下顎骨欠損、小児期突発性骨欠損等)、関節リウマチ、骨形成異常等]、骨壊死、睡眠障害、血栓症(例えば、血小板凝集)、歯槽膿漏、歯肉炎、歯周病、慢性頭痛(例えば、片頭痛、緊張型頭痛又はそれらの混合型頭痛、又は群発性頭痛)、血管炎、静脈不全、静脈瘤、痔瘻、尿崩症、新生児動脈管開存症、胆石症又は緑内障等が挙げられる。
【0041】
EP3介在性疾患としては、例えば疼痛(例えば、癌性、骨折時、手術後、抜歯後等)、アロディニア、ハイパーアルゲシア、掻痒、蕁麻疹、アトピ−性皮膚炎、接触性皮膚炎、ウルシ皮膚炎、アレルギー性結膜炎、透析時の種々の症状、喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎、鼻閉、くしゃみ、乾癬、頻尿(例えば、神経因性膀胱、神経性膀胱、刺激膀胱、不安定膀胱、前立腺肥大に伴う頻尿等)、排尿障害、射精障害、発熱、全身性炎症反応、学習障害、アルツハイマー、血管新生、ガン(例えば、ガン形成、ガン増殖、ガンの臓器転移、ガンの骨転移、ガンの骨転移に伴う高カルシウム血症等)、網膜症、赤斑、紅斑、白斑、皮膚のしみ、熱傷、火傷、ステロイド焼け、腎不全、腎症、急性腎炎、慢性腎炎、血液電解質異常、切迫早産、切迫流産、月経過多、月経困難症、子宮内膜症、月経前症候群、子宮腺筋症、生殖障害、ストレス、不安、鬱、心身症、精神障害、血栓症、塞栓症、一過性虚血発作、脳梗塞、アテローム、臓器移植、心筋梗塞、心不全、高血圧、動脈硬化、循環障害とこれに伴う潰瘍、神経障害、血管性痴呆、浮腫、下痢、便秘、胆汁排泄障害、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性大腸炎、ステロイド剤使用後のリバウンド現象の軽減又はステロイド剤の減量及び離脱の補助等が挙げられる。
【0042】
DP介在性疾患としては、例えばアレルギー性疾患(例えば、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、食物アレルギー等)、全身性肥満細胞症、全身性肥満細胞活性化障害、アナフィラキシーショック、気道収縮、蕁麻疹、湿疹、にきび、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、副鼻腔炎、片頭痛、鼻茸、過敏性血管炎、好酸球増多症、接触性皮膚炎、痒みを伴う疾患(例えば、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、接触性皮膚炎等)、痒みに伴う行動(例えば、引っかき行動、殴打等)により二次的に発生する疾患(例えば、白内障、網膜剥離、炎症、感染、睡眠障害等)、炎症、慢性閉塞性肺疾患、虚血再灌流障害、脳血管障害、自己免疫疾患、脳外傷、肝障害、移植片拒絶、慢性関節リウマチ、胸膜炎、変形性関節症、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、間質性膀胱炎、筋ジストロフィー、多発性筋炎、多発性硬化症又は睡眠障害(例えば、ナルコレプシー等)等が挙げられる。
また、PG類の関連疾患としては、閉塞性血栓血管炎又は脊柱管狭窄症等も包含される。
【0043】
本発明に係る分析方法は、高感度でかつ特異的にPG類を測定(定量)できるので、PG類関連疾患の予防及び/又は治療薬の有効量決定に利用し得る。PG類関連疾患の予防及び/又は治療薬としては、上記したPG類の受容体(例えば、EP、FP、DP、IP等)の作動薬又は拮抗薬等が挙げられる。また、前記の他、PG類の受容体の作動薬又は拮抗薬は、例えば骨の手術後の骨形成(例えば、骨折後の骨形成、骨移植後の骨形成、人工関節術後の骨形成、脊椎固定術後の骨形成、多発性骨髄腫、肺癌、乳癌等の外科手術後の骨形成、その他骨再建術後の骨形成等)の促進・治癒促進剤、骨移植代替療法、また、歯周疾患等における歯周組織の再生促進剤等、あるいは子宮頸管熟化(促進)剤等としても用いられ得る。
【0044】
本発明に係る分析方法は、高感度でかつ特異的にPG類を測定(定量)できるので、PG類及び/又はそれらの誘導体の体内動態を究明するために利用し得る。また、PG類及び/又はそれらの誘導体の体内動態を究明することにより、例えばPG類を陣痛促進等に使用する場合において、過強陣痛や強直性子宮収縮等による胎児仮死、子宮破裂、頸管裂傷又は羊水栓塞等を事前に防止し得る。
【0045】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、比は容積比を示す。
【実施例1】
【0046】
PG類の定量
1.標準物質
PG類の標準物質として、以下を使用した。
(1)PGE2[純度100%(分析方法:HPLC法)、Cayman Chemical社製]
【化2】

【0047】
(2)PGF[純度99.4%(分析方法:HPLC法)、Cayman Chemical社製]
【化3】

【0048】
(3)13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGF[以下、F−Mと略記する;純度98%(分析方法:TLC法)、Cayman Chemical社製]
【化4】

【0049】
2.内標準物質
PG類の内標準物質として、以下を使用した。
(1)d4−PGE2[PGE2測定用;純度98.9%(分析方法:HPLC法)、Cayman Chemical社製]
【化5】

【0050】
(2)d4−PGF2a[PGF及びF−M測定用;純度99%(分析方法:TLC法)、Cayman Chemical社製]
【化6】

【0051】
3.検量線の作成
以下の手順に従い、検量線を作成した。
(1)PG類混合標準溶液の調製:PGE2及びPGF5mg以上をそれぞれ50mLの別のメスフラスコに精密に秤量し、エタノール/酢酸エチル混液(1:1)で溶解して正確に50mLとした。これらをエタノール/酢酸エチル混液(1:1)で希釈し、それぞれ20μg/mLの溶液を調製した。またF−M(10mg/mL酢酸メチル溶液)20μLを、マイクロシリンジを用いて20mLのメスフラスコに分取し、窒素気流下溶媒を乾固した後、エタノール/酢酸エチル混液(1:1)で溶解して正確に20mLとした(10μg/mL)。このPGE2、PGF及びF−Mを20mLのメスフラスコにそれぞれ1mL、5mL及び10mLずつ採取した後、エタノール/酢酸エチル混液(1:1)を加えて正確に20mLにし、PGE2:1μg/mL、PGF及びF−M:5μg/mLの濃度の調製液を調製した。この調製液を順次エタノール/酢酸エチル混液(1:1)で希釈して、PGE2/(PGF、F−M)が0.0500ng/mL/0.250ng/mL、0.100ng/mL/0.500ng/mL、0.200ng/mL/1.00ng/mL、0.500ng/mL/2.50ng/mL、1.00ng/mL/5.00ng/mL、2.00ng/mL/10.0ng/mL、4.00ng/mL/20.0ng/mL及び5.00ng/mL/25.0ng/mLであるPG類混合標準溶液を調製した。
【0052】
(2)内標準物質混合溶液(以下、内標準溶液と略記する)の調製:d4−PGE2(0.5mg/mL酢酸メチル溶液)及びd4−PGF(0.5mg/mL酢酸メチル溶液)をマイクロシリンジで20μLずつ同じ20mLメスフラスコに分取し、窒素気流下溶媒を乾固した。これをエタノール/酢酸エチル混液(1:1)で溶解して正確に20mLとした後、エタノール/酢酸エチル混液(1:1)で希釈して、d4−PGE2及びd4−PGFともに0.500ng/mLの内標準溶液を調製した。
【0053】
(3)検量線用試料の調製:ガラス試験管に内標準溶液20μL及びPG類混合標準溶液10μL(BKG及びISDは除く)を添加し、溶媒を減圧下乾固した後、リン酸緩衝液1mLを加え、検量線用試料[PGE2/(PGF、F−M)が0.500pg/mL/2.5pg/mL、1.00pg/mL/5.00pg/mL、2.00pg/mL/10.0pg/mL、5.00pg/mL/25.0pg/mL、10.0pg/mL/50.0pg/mL、20.0pg/mL/100pg/mL、及び50.0pg/mL/250pg/mL]を調製した。ブランクはリン酸緩衝液を用いた。
【0054】
(4)前処理
検量線用試料は、以下に記載のように吸引マニホールド(Waters社製)を用いて前処理を行った。マニホールドの吸引は、マニホールド用ポンプ(APN−215MV−1−50;Iwaki社製)を用いて行った。
(i)まず、検量線用試料に水/酢酸混液(100:1)2mLを添加して攪拌溶解し、試料溶液を調製した。
(ii)Bond Elut LRC−C18(Varian社製;以下、固相カラム1という。)による固相抽出
固相カラム1を吸引マニホールドに設置し、酢酸エチル2mL、メタノール2mL、水/酢酸混液(100:1)2mLでコンディショニングした。上記(i)の検量線用試料を固相カラム1に負荷した。上記(i)の試料溶液が入っていたガラス試験管を水/酢酸混液(100:1)2mLで洗浄した。この洗浄液を固相カラム1に負荷し、検量線用試料を固相カラム1に保持(吸着)させた。固相カラム1を水2mLで洗浄した。次いで固相カラム1をヘキサン2mLで洗浄した。固相カラム1を吸引マニホールドから外した。
(iii)Bond Elut DEA(Varian社製;以下、固相カラム2という。)による固相抽出
固相カラム2を吸引マニホールドに設置し、酢酸エチル2mLでコンディショニングした。次いでアダプターを使って固相カラム2の上に上記(ii)の検量線用試料を保持(吸着)させた固相カラム1を装着した。次いで、酢酸エチル4mLで固相カラム1に保持(吸着)させた検量線用試料を溶出させると同時に検量線用試料を含む溶出液を固相カラム2に負荷した。固相カラム1及びアダプターを取り外した後、固相カラム2を水/酢酸混液(100:1)2mLで洗浄し、検量線用試料に含まれる標準物質及び内標準物質を固相カラム2に保持(吸着)させた。固相カラム2を吸引マニホールドから外した。
(iv)abselut NEXUS(Varian社製;以下、固相カラム3という。)による固相抽出
固相カラム3を吸引マニホールドに設置し、酢酸エチル2mL、メタノール2mL、水/酢酸混液(100:1)2mLでコンディショニングした。アダプターを使って固相カラム3の上に上記(iii)で検量線用試料に含まれる標準物質及び内標準物質を保持(吸着)させた固相カラム2を装着し、(水/酢酸混液(100:1))/メタノール混液(7:3)2mLで2回溶出した。固相カラム2及びアダプターを取り外し、固相カラム3を約1500g(3000rpm)で1分間遠心した。酢酸エチル2mLで2回溶出した。遠心エバポレーター(非加熱)で前記溶出液を乾固した。5mmol/Lギ酸アンモニウム、pH3.5/メタノール混液(3:2)125μLを添加して前記乾固物を溶解した後、約5秒間攪拌し、約1500g(3000rpm)で1分間遠心した。その上清をHPLC用試料とした。
【0055】
(5)測定
前記(4)の前処理を施したHPLC用試料100μLを二次元LC/MS/MSシステム〔API4000 LC/MS/MSシステム(AB/MDS SCIEX製)〕に注入し、HPLC用試料に含まれる標準物質及び内標準物質を測定した。二次元LC/MS/MSシステムは以下の測定条件で行った。
【0056】
なお、下記ポンプ1及びポンプ3のグラジエント条件及びバルブポジションを決定するため、事前に上記HPLC用試料(PGE2/(PGF、F−M):50/250pg/mL)を一次元LC/MS/MSに付した。すなわち、HPLC用試料を第一次LCのカラム(C1)に付し、当該カラムからの溶出液を直接MS/MSシステム(API4000、アプライドバイオシステム社製)に接続し、MS/MSシステムにおいて検出されるPGE2、PGF及びF−Mの保持時間を確認した。移動相A(ポンプ1)の流速は200μL/分と設定した。このときのPGE2の保持時間(PGE2溶出開始からF−Mの溶出終了までの時間(以下、PGE2/F−Mの保持時間という。)は12.3分から30.0分であった。得られたPGE2の保持時間、及びPGE2/F−Mの保持時間から、バルブポジションを下記条件に設定した。すなわち、PGE2の保持時間、及びPGE2/F−Mの保持時間をバルブポジションAとなるよう、それ以外の時間をバルブポジションBとなるようにバルブ切換時間を設定した。また、ポンプ1及びポンプ3のグラジエント条件は下記条件に設定した。また、試験期間中は随時カラム1における、PGE2、PGF及びF−Mの保持時間を確認した。変動が認められた場合、LC条件のバルブ切替時間及びポンプ1のグラジエント条件を変更した。
【0057】
測定条件:
本発明における二次元LC/MS/MSは、例えばLCシステム(Agilent 1100シリーズ、Agilent Technologies製)とMS/MSシステム(API4000、アプライドバイオシステム社製)から構成され、その流路図を図1に示した。また、測定条件を以下に示した。
LC条件
移動相(溶出液)
移動相A(ポンプ1):5mmol/Lギ酸アンモニウム、pH3.5
移動相B(ポンプ1):メタノール
移動相C(ポンプ2):10mmol/Lギ酸
移動相D(ポンプ3):1mmol/Lギ酸
移動相E(ポンプ3):アセトニトリル
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
カラム温度
カラム1:40℃
カラム2:室温
カラム3:室温
オートサンプラー温度 4℃
注入量 100μL
分析時間 60分
【0063】
MS/MS条件
イオン化法:ターボイオンスプレー
検出モード:MRM(Multiple reaction monitoring)
Polarity:Negative
【0064】
【表5】

【0065】
(6)結果
検量線用試料を測定した。PGE2、PGF及びF−Mは、それぞれ異なるリテンションタイムで分離できた。各PGE2、PGF又はF−Mの濃度(X)とピーク面積比(Y:PGsのピーク面積/ISのピーク面積)から線形最小二乗法により直線回帰して傾きと切片及び相関係数(r)を求めた。また、PGE2については0.500〜50.0pg/mL、PGF及びF−Mについては2.50〜250pg/mLの範囲で検量線を作成した(n=3;図4)。相関係数(r)はいずれも0.9900以上であった。
なお、前記ピーク面積値は二次元LC/MS/MSに接続されたコンピュータ(Analyst、アプライドバイオシステム社製)によって自動的に算出される。
本結果から、本発明によれば、複数のPG、例えばPGE2、PGF及びF−Mを同時に定量的に測定できることが分かった。また、PG類の濃度は、5pg/mL以下の非常に低い濃度でも測定できることが分かった。
【実施例2】
【0066】
ヒト血漿中PGE2、PGF及びF−Mの測定
(1)方法
ヒト生体試料(血液)はボランティアより採取した。ヒト血液は、前腕部皮静脈よりインドメタシン/EDTA混液を添加した注射筒を用いて採血した。インドメタシン/EDTA混液は、15%EDTA・2Na/0.1mol/Lトリス緩衝液(pH7.6)と18mg/mLインドメタシン−エタノール溶液を20:1の割合で混合した溶液を採血時に血液10mLに対して0.2mLの割合で注射筒に添加した。
採血した血液を4℃、約1500g(3000rpm)で10分間遠心分離して血漿を分離した。分離した血漿は、試験に供するまで超低温庫(設定温度−80℃)にて保管した。
ガラス試験管に内標準溶液20μLを添加し溶媒を減圧下乾固した後、ヒト血漿1mLを加えHPLC用ヒト血漿試料とした。該試料を、上記実施例1における(4)前処理及び(5)測定に従い二次元LC/MS/MSに付し、ヒト血漿中PGE2、PGF及びF−Mを測定した。対照として、HPLC用ヒト血漿試料を一次元LC/MS/MSに付した。
(2)結果
HPLC用ヒト血漿試料を一次元LC/MS/MSに付した結果を図5に、二次元LC/MS/MSに付した結果を図6に示した。ヒト血漿を一次元LC/MS/MSに付した場合、PGE2、PGF及びF−Mの検出はできなかった(図5)。一方、ヒト血漿を二次元LC/MS/MSに付した場合、PGE2、PGF及びF−Mは、いずれも単一の成分として分離ができ(図6)、かつ実施例1で得られた検量線からそれぞれの濃度を算出することができた。実施例1の検量線から算出したヒト血漿中PGE2、PGF及びF−Mの濃度を表6に示す。
【表6】

【実施例3】
【0067】
ヒト血漿を用いた再現性試験
(1)試験方法
(1−1)同時再現性試験
ガラス試験管に内標準溶液20μL及びPG類混合標準溶液10μLを添加し、溶媒を減圧下乾固した後、ヒト血漿1mLを加え、ヒト血漿再現性用試料[PGE2/(PGF、F−M)が1.00pg/mL/5.00pg/mL、5.00pg/mL/25.0pg/mL、40.0pg/mL/200pg/mL]を調製した。各濃度n=5とした。ヒト血漿再現性用試料の調製にはすべて同一ロットのヒト血漿を用いた。PG類非添加血漿及び前記3濃度(各n=5)のヒト血漿再現性用試料の濃度測定を3日間実施し、測定日ごとに得られた測定値より各濃度におけるRE及びCVを求め同時再現性を検討した。以下の判定基準を3日間ともに満たした時、同時再現性があると判定した。
なお、理論値はヒト血漿(ブランク)の測定値の平均値に添加濃度を加えたものとし、ヒト血漿(ブランク)については真度を算出しない。
<判定基準>
REが±15.0%以内かつCVが15.0%以内であること。
【0068】
(1−1)日間再現性試験
上再現性記同時で得られた測定値(各濃度n=15)より各濃度におけるRE及びCVを求め、日間再現性を検討した。以下の判定基準を満たした時、日間再現性があると判定した。
なお、理論値はヒト血漿(ブランク)の測定値の平均値に添加濃度を加えたものとし、ヒト血漿(ブランク)については真度を算出しない。
<判定基準>
REが±15.0%以内かつCVが15.0%以内であること。
【0069】
(2)結果
(2−1)同時再現性
各濃度におけるPGE2、PGF及びF−Mは、いずれも同時再現性の判定基準を満たした。
(2−1)日間再現性
各濃度におけるPGE2、PGF及びF−Mは、いずれも日間再現性の判定基準を満たした。
【実施例4】
【0070】
特異性の検討
(1)試験方法
PGE2、PGF及びF−Mと分子量が近似した表7のPG類について、エタノール/酢酸エチル混液(1:1)を用いてそれぞれ10ng/mLの溶液を調製した。各溶液100μLずつを1本のガラス試験管に分注し、窒素気流下溶媒を乾固した。これに5mmol/Lギ酸アンモニウム(pH3.5)/メタノール溶液(3:2)1.25mLを加えて再溶解した後、100μLを前述の二次元LC/MS/MSに注入し、PGE2、PGF又はF−Mの保持時間にピークが認められるかどうか検討した。
【表7】

【0071】
(2)試験方法
PGE2、PGF又はF−Mの保持時間にピークは認められなかった。すなわち、本測定方法は構造の類似したPG類を効果的に分離できる極めて特異性を有することが示された。
【実施例5】
【0072】
ヒト血漿中PGE2、PGF及びF−M以外のPG類の測定
実施例3と同様の方法で、PGD2、8−イソPGF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGE2、8−イソ−13,14−ジヒドロ15−ケト−PGF、PGE1及び8−イソPGE1を測定した。3個体の測定結果を表8に示す。PGD2、8−イソPGF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−PGE2及び8−イソ−13,14−ジヒドロ15−ケト−PGFは、いずれも単一の成分として分離ができ、かつ各々の濃度を算出することができた。PGE1及び8−イソPGE1は、いずれの個体も血漿中濃度は0.5pg/mL以下、及び1pg/mL以下であった。
【表8】

【0073】
以上の結果から、本発明の方法に従えば、ヒト血漿中のPG類の測定、なかんずく複数のPG類を同時に分離定量することができることが分かった。このことは、いままで不可能であったヒト血漿中のPG類のバイオマーカーを決定することを可能にさせるものであり、さらに、いままで不可能であったPG類の薬物動態測定を可能とするものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、PG類を同時に測定(定量)できるので、PG類の投与量の管理等に有用である。またPG関連疾患に対する治療薬を開発する上でバイオマーカーとしてPG濃度を定量することは有用である。例えばPGE2はEP1受容体を介し疼痛を生じることが知られている。血液中並びに尿中のPGE2及びその代謝物濃度が高い患者ではEP1拮抗剤の奏効率が高い可能性が考えられる。またPGD2は喘息に関与している。血液中並びに尿中のPGD2又はその代謝物濃度が亢進している患者ではDP拮抗剤が有効に働く可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は二次元LC/MS/MS(API4000)装置の概略図の例を示す。図中、ASは、オートサンプラーを、P1はポンプ1を、P2はポンプ2を、P3はポンプ3を示し、Vはバルブを示し、C1は第一次LCにおけるカラムを、C2は濃縮カラムを、C3は第二次LCにおけるカラムを示す。
【図2】図2は二次元LC/MS/MS(API4000)装置においてバルブポジションをAに切り替えた時のバルブにおける溶出液の流れを示す例である。図中、矢印は溶出液の流れを示す。
【図3】図3は二次元LC/MS/MS(API4000)装置においてバルブポジションをBに切り替えた時のバルブにおける溶出液の流れを示す例である。図中、矢印は溶出液の流れを示す。
【図4】図4はPGE2、PGF及びF−Mの検量線の例を示す。(実施例1)
【図5】図5はヒト血漿を一次元LC/MS/MSに付した結果を示す。
【図6】図6はヒト血漿を二次元LC/MS/MSに付した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロスタグランジン類を含有する生体試料を第一次液体クロマトグラフィーに付して、プロスタグランジン類を含む溶出液とプロスタグランジン類を含まない溶出液に分離し、
プロスタグランジン類を含む溶出液を濃縮カラムに導入して濃縮されたプロスタグランジン類溶出液を得て、
これを第二次液体クロマトグラフィーに付してプロスタグランジン類を単離して溶出し、
溶出液中の分離されたプロスタグランジン類をタンデム質量分析計で定量することを特徴とするプロスタグランジン類の分析方法。
【請求項2】
プロスタグランジン類がプロスタグランジンA1、プロスタグランジンA2、プロスタグランジンA3、プロスタグランジンB1、プロスタグランジンB2、プロスタグランジンB3、プロスタグランジンC1、プロスタグランジンC2、プロスタグランジンC3、プロスタグランジンD1、プロスタグランジンD2、プロスタグランジンD3、プロスタグランジンE1、プロスタグランジンE2、8−イソプロスタグランジンE2、プロスタグランジンE3、プロスタグランジンF、プロスタグランジンF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジンF、8−イソプロスタグランジンF、8−イソ−13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジンF、8−エピプロスタグランジンF、プロスタグランジンF、プロスタグランジンF、プロスタグランジンF、プロスタグランジンF、プロスタグランジンG1、プロスタグランジンG2、プロスタグランジンG3、プロスタグランジンH1、プロスタグランジンH2、プロスタグランジンH3、プロスタグランジンI1、プロスタグランジンI2、プロスタグランジンI3、プロスタグランジンJ2、6−ケト−プロスタグランジンF、2,3−ジノル−6−ケト−プロスタグランジンF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジンE2、7α−ヒドロキシ−5,11−ジケト−テトラノル−プロスタ−1,16−ジオン酸、5α,7α−ジヒドロキシ−11−ケト−テトラノル−プロスタ−1,16−ジオン酸及びそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の分析方法。
【請求項3】
プロスタグランジン類がプロスタグランジンE1、プロスタグランジンE2、プロスタグランジンF、13,14−ジヒドロ−15−ケト−プロスタグランジンF、プロスタグランジンI2及びそれらの誘導体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項2に記載の分析方法。
【請求項4】
第一次液体クロマトグラフィーがC4−30アルキル基、フェニル基又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲル充填カラムを使用して行なわれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の分析方法。
【請求項5】
第二次液体クロマトグラフィーがC4−30アルキル基、フェニル基又はω−フェニルC1−6直鎖アルキル基導入シリカゲル充填カラムを使用して行なわれることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の分析方法。
【請求項6】
C4−30アルキル基がオクタデシル基である請求項4又は5に記載の分析方法。
【請求項7】
第二次液体クロマトグラフィーの溶出液の流速が、第一次液体クロマトグラフィーの溶出液の流速に対して1/2〜1/5倍であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の分析方法。
【請求項8】
第二次液体クロマトグラフィーの溶出液がアセトニトリル/水系溶媒であることを特徴とする請求項7に記載の分析方法。
【請求項9】
生体試料が、血液、尿又は組織抽出液であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の分析方法。
【請求項10】
プロスタグランジン類を含む溶出液を濃縮カラムに導入して濃縮されたプロスタグランジン類溶出液を得る工程が、第一次液体クロマトグラフィーで得られるプロスタグランジン類を含む溶出液を濃縮カラムに導入し、プロスタグランジン類を充分に濃縮カラムに保持させた後、切り替えバルブによって、第二次液体クロマトグラフィーに使用される展開溶媒を濃縮カラムに導入して、濃縮カラムに保持されたプロスタグランジン類を溶出して濃縮されたプロスタグランジン類溶出液を得ることを含んでなる請求項1に記載の分析方法。
【請求項11】
プロスタグランジン類関連疾患の診断のための請求項1に記載の分析方法。
【請求項12】
プロスタグランジン類関連疾患の予防及び/又は治療のために行なわれる請求項1に記載の分析方法。
【請求項13】
プロスタグランジン類関連疾患予防及び/又は治療薬の有効量を決定するための請求項1に記載の分析方法。
【請求項14】
プロスタグランジン類及び/又はそれらの誘導体の体内動態を究明するための請求項1に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−278750(P2007−278750A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103033(P2006−103033)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】