説明

プロスタグランジンD2関連疾患治療のためのバイオマーカー及びその測定方法

【課題】PGD産生のバイオマーカーとなり得る新規なPGD代謝物を提供する。また、生体試料に含まれるPGD代謝物の検出方法及び測定方法、該PGD代謝物を検出及び/又は測定するPGD関連疾患の診断方法、並びにPGD代謝物を検出するための診断用キットを提供する。
【解決手段】生体試料を、逆相カラムを用い、溶離液として水系溶媒と水溶性有機溶媒との混液を用い、プロスタグランジンD2を標品として、液体クロマトグラフ質量分析のネガティブイオンモードによる分析に付す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジンD代謝物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマーカーは、特定の疾病や体の状態に相関して量的に変化する、細胞や尿、血液を含む生体液中に含まれる生体由来の指標物質である。バイオマーカー量の測定は、疾病の診断、治癒の確認、新たな治療法の開発等に有用であり、さらに、疾患を予防するための日常的な指標としても有用である。バイオマーカーの検査に用いられる生体試料としては血液、尿等があるが、採血よりも採尿の方が簡便で患者に負担が少ないため好ましいとされる。
【0003】
プロスタグランジンD(以下、PGDともいう)は、生体中アラキドン酸カスケードで産生される化学伝達物質の一つであり、アレルギー疾患などに関与すると考えられている。このため、生体内におけるPGD量の変化の指標となるバイオマーカーは、PGDが関与する様々な疾患の診断等に有用である。しかしながら、アラキドン酸カスケードで産生される物質は一般に不安定な化合物であると考えられたためか、その代謝物そのものをバイオマーカーとすることは、従来行われたことがなかった。
【0004】
尿に含まれるPGD代謝物を化学修飾して誘導体とし、該誘導体についてLC−MS又はGC−MSにより分析を行って代謝物の構造を推定したことが報告されている。
例えば、尿に含まれるPGDの代謝物として、ヒト及びマウスにPGDを静脈投与すると、11,15-Dioxo-9α-hydroxy-2,3,4,5-tetranorprostan-1,20-dioic acid(tetranor PGDM)が検出されたと報告されている(非特許文献1)。また、肥満細胞症の女性の尿に含まれる内因性PGDの代謝物を化学修飾により誘導体化し、該誘導体の構造をマススペクトルで分析したことが開示されている(非特許文献2)。
放射性元素でラベルしたPGDを健常人の静脈に投与し、尿中に排出されたPGD代謝物を化学修飾して誘導体化し、該誘導体の構造をGC−MSにより決定したことが開示されている(非特許文献3)。また、サルに標識PGDを投与し、尿中のPGD代謝物を化学修飾により誘導体化し、該誘導体の構造をGC−MSにより同定したことが開示されている(非特許文献4)。
しかしながら、尿中のPGD代謝物を誘導体化せずにその構造を決定したことについては未だ報告されていない。また、PGD代謝物を誘導体化せずに直接検出又は測定(定量)する方法についても、未だ開発されていない。誘導体化は、その誘導体化反応が完結するかどうかの確認や反応のバリデーション(工程が期待する結果を与えるかどうかの検証)が必要であり、また、反応の種類によっては複数の誘導体が生成するため総量としての誘導体量を測定することが困難な場合がある。
このため、上述するように、生体内におけるPGD産生に由来するバイオマーカーが望まれているが、特に、測定時に誘導化せずに測定することができる、PGD産生に由来する安定なバイオマーカーが望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】The Journal of Biological Chemistry Vol. 283, No. 2, pp.1179-1188, 2008
【非特許文献2】Prostaglandins Vol. 30, No. 3, pp.383-400, 1985
【非特許文献3】The Journal of Biological Chemistry, Vol. 260, No. 24, pp.13172-13180, 1985
【非特許文献4】The Journal of Biological Chemistry Vol. 254, No. 10, pp.4152-4163, 1979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、PGD産生のバイオマーカーとなり得る新規なPGD代謝物を提供することを目的とする。本発明はまた、生体試料に含まれる該PGD代謝物の検出方法及び測定方法、該PGD代謝物を検出及び/又は測定するPGD関連疾患の診断方法、並びにPGD代謝物を検出するための診断用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題に鑑み、本発明者等は鋭意研究を行った結果、PGDを投与したサルの尿中に、PGD代謝物として下記式(I)で表わされる化合物、下記式(III)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物、下記式(VII)で表わされる化合物及び下記式(VIII)で表わされる化合物、又は下記(a1)〜(a6)の化合物、(b1)〜(b6)の化合物若しくは(c1)〜(c6)の化合物が含まれることを見出した。また、尿に含まれるこれらのPGD代謝物を誘導体化することなく、簡便な操作で検出及び測定することができる方法を見出し、これらのPGD代謝物がPGD産生のバイオマーカーとして、すなわちPGD関連疾患治療のためのバイオマーカーとして有用であることを見出した。本発明者らは、この知見に基づきさらに鋭意研究を行い、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記〔1〕〜〔11〕からなる。
〔1〕生体試料を、逆相カラムを用いて、溶離液として水系溶媒と水溶性有機溶媒との混液を用いる液体クロマトグラフィーに付す工程を含むことを特徴とする下記式(I)で表わされる化合物、下記式(III)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物、下記式(VII)で表わされる化合物及び下記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の検出及び/又は測定方法。
【0009】
【化1】

【0010】
〔2〕生体試料が、尿である上記〔1〕に記載の検出及び/又は測定方法。
〔3〕生体試料に含まれる上記式(I)で表わされる化合物、上記式(III)で表わされる化合物、上記式(V)で表わされる化合物、上記式(VI)で表わされる化合物、上記式(VII)で表わされる化合物及び上記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定することを特徴とするプロスタグランジンD関連疾患の診断方法。
〔4〕生体試料が、尿である上記〔3〕に記載の診断方法。
〔5〕検出及び/又は測定する方法が、逆相カラムクロマトグラフィーを用い、下記化合物(b1)〜(b6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定する方法である上記〔3〕又は〔4〕に記載の診断方法;
プロスタグランジンDを標品として液体クロマトグラフ質量分析のネガティブイオンモードによる分析に付した際に、(b1)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.20〜0.22であり、かつ質量分析によるm/zが約329である化合物、(b2)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.67〜0.69であり、かつ質量分析によるm/zが約299である化合物、(b3)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.79〜0.81であり、かつ質量分析によるm/zが約297である化合物、及び(b4)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.82〜0.84であり、かつ質量分析によるm/zが約325である化合物、並びに(b5)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.27〜0.29であり、かつ質量分析によるm/zが約327である化合物及び(b6)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.94〜0.96であり、かつ質量分析によるm/zが約323である化合物。
〔6〕生体試料に含まれる上記式(I)で表わされる化合物、上記式(III)で表わされる化合物、上記式(V)で表わされる化合物、上記式(VI)で表わされる化合物、上記式(VII)で表わされる化合物及び上記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定することを特徴とするプロスタグランジンD関連疾患治療薬の投与が有効な患者の選別方法。
〔7〕生体試料が、尿である上記〔6〕に記載の選別方法。
〔8〕検出及び/又は測定する方法が、逆相カラムクロマトグラフィーを用い、下記化合物(b1)〜(b6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定する方法である上記〔6〕又は〔7〕に記載の選別方法:
プロスタグランジンDを標品として液体クロマトグラフ質量分析のネガティブイオンモードによる分析に付した際に、(b1)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.20〜0.22であり、かつ質量分析によるm/zが約329である化合物、(b2)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.67〜0.69であり、かつ質量分析によるm/zが約299である化合物、(b3)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.79〜0.81であり、かつ質量分析によるm/zが約297である化合物、及び(b4)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.82〜0.84であり、かつ質量分析によるm/zが約325である化合物、並びに(b5)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.27〜0.29であり、かつ質量分析によるm/zが約327である化合物及び(b6)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.94〜0.96であり、かつ質量分析によるm/zが約323である化合物。
〔9〕下記式(I)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物及び下記式(VII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物。
【0011】
【化2】

【0012】
〔10〕下記化合物(b1)〜(b4)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物;
逆相カラムクロマトグラフィーを用いた分析において、プロスタグランジンDを標品として液体クロマトグラフ質量分析のネガティブイオンモードによる分析に付した際に、(b1)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.20〜0.22であり、かつ質量分析によるm/zが329である化合物、(b2)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.67〜0.69であり、かつ質量分析によるm/zが299である化合物、(b3)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.79〜0.81であり、かつ質量分析によるm/zが297である化合物、及び(b4)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.82〜0.84であり、かつ質量分析によるm/zが325である化合物。
〔11〕プロスタグランジンD産生に由来するバイオマーカーとしての下記式(I)で表わされる化合物、下記式(III)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物、下記式(VII)で表わされる化合物及び下記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の使用。
【0013】
【化3】

【0014】
〔12〕上記式(I)で表わされる化合物、上記式(III)で表わされる化合物、上記式(V)で表わされる化合物、上記式(VI)で表わされる化合物、上記式(VII)で表わされる化合物及び上記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を標品として検出及び/又は測定することを特徴とするプロスタグランジンD関連疾患診断用キット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生体試料に含まれるPGD代謝物を簡便な操作で、誘導化することなく検出及び/又は測定することができるので、PGDの関与が深い疾患患者群を簡便に選択でき、また、特定疾患におけるPGDの関与を特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】H−PGDの尿中代謝物をHPLCにより分析した際のラジオクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.化合物(I)、(III)、(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)
本発明の化合物は、上記式(I)で表わされる化合物(以下、化合物(I)ともいう)、式(V)で表わされる化合物(以下、化合物(V)ともいう)、式(VI)で表わされる化合物(以下、化合物(VI)ともいう)及び式(VII)で表わされる化合物(以下、化合物(VII)ともいう)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物である。
これらの化合物や、上記式(III)で表わされる化合物(以下、化合物(III)ともいう)及び式(VIII)で表わされる化合物(以下、化合物(VIII)ともいう)は、生体試料に含まれるPGD代謝物であり、PGD産生のバイオマーカーとすることができるものである。
【0018】
バイオマーカーは、病態と相関して生体内における量が増減する物質である。PGDが過剰に産生されることによってPGD関連疾患に羅患したときには、生体内において、式(I)で表わされる化合物、式(III)で表わされる化合物、式(V)で表わされる化合物、式(VI)で表わされる化合物、式(VII)で表わされる化合物及び式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物は、その量が増加する。また、PGDが過剰に産生されることによるPGD関連疾患が治癒に向かっているときには、生体内において、式(I)で表わされる化合物、式(III)で表わされる化合物、式(V)で表わされる化合物、式(VI)で表わされる化合物、式(VII)で表わされる化合物及び式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物は、その量が減少する。
【0019】
上記化合物(I)、(III)、(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)は、例えば、以下の方法で製造することができる。以下の反応スキーム中、THPはテトラヒドロピラニル基を表わし、Bnはベンジル基を表わし、Meはメチル基を表わし、Acはアセチル基を表わし、Trはトリチル基を表わす。
【0020】
本発明においては、特に断わらない限り、当業者にとって明らかなように記号
【0021】
【化4】

【0022】
は紙面の向こう側(すなわちα−配置)に結合していることを表わし、
【0023】
【化5】

【0024】
は紙面の手前側(すなわちβ−配置)に結合していることを表わす。
【0025】
また、上記化合物(I)、(III)、(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)は塩であってもよく、薬理学的に許容される塩であれば、すべて含まれる。薬理学的に許容される塩は毒性の低い、水溶性のものが好ましく、適当な塩として、例えば、アルカリ金属(例えば、カリウム、ナトリウム、リチウム等)の塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム等)の塩等が挙げられる。
【0026】
また、上記化合物(I)、(III)、(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)は、例えば、PGDの代謝物を含む生体由来の試料を、後述する液体クロマトグラフィー等に付し、適当な条件下分取することにより得ることもできる。
【0027】
上記化合物(I)、(III)、(V)、(VI)、(VII)及び(VIII)の製造方法として好ましくは、反応スキーム1、2、3、4、5、又は7で示される化学合成による製造である。
化合物(I)の合成方法
化合物(I)は、下記反応スキーム1に示す工程1〜14の反応を行なうことにより製造することができる。
下記反応スキーム1中、式1で表わされる化合物(化合物1)は、例えば、文献J.Am.Chem.Soc. 93巻1490頁(1971)に記載の方法で製造することができる。式2で表わされる化合物(化合物2)は、化合物1に、ハロゲン化ベンジル及び有機溶媒中塩基を加えて反応させることにより製造することができる。式3で表わされる化合物(化合物3)は、化合物2を還元反応に付すことにより製造することができる。化合物2から化合物3を製造する反応では、有機溶媒中(トルエンなど)、低温下でジイソブチル水素化アルミニウムを用いるのが好ましい。式4で表わされる化合物(化合物4)は、化合物3をメトキシメチルトリフェニルホスフィニウムハライドと、有機溶媒中塩基の存在下Wittig反応を行うことで製造することができる。式5で表わされる化合物(化合物5)は、化合物4を酸性条件下で加水分解することで製造することができる。式6で表わされる化合物(化合物6)は化合物5を酸化条件に付すことにより製造することができる。化合物5から化合物6を製造する反応では、特に塩基性水溶液中酸化銀(I)を用いるのが好ましい。式7で表わされる化合物(化合物7)は、化合物6を有機溶媒中で酸触媒存在下、ジヒドロピランと反応させることにより製造することができる。式8で表わされる化合物(化合物8)は、化合物7を水素雰囲気下に有機溶媒中パラジウム−炭素触媒を用いて水素化反応に付すことにより製造することができる。式9で表わされる化合物(化合物9)は、化合物8を酸化反応に付すことにより製造することができる。式10で表わされる化合物(化合物10)は、化合物9をmethyl 7-(dimethoxyphosphoryl)-6-oxoheptanoateと有機溶媒中塩基存在下でHoner-Emons反応に付すことにより製造することができる。methyl 7-(dimethoxyphosphoryl)-6-oxoheptanoate は、例えば文献J. Org. Chem. 59巻5453頁(1994)に記載の方法で製造することができる。式11で表わされる化合物(化合物11)は、化合物10から製造される。具体的には、化合物10を、化合物8を製造したのと同様の反応に付すことで、化合物11を製造することができる。式12で表わされる化合物(化合物12)は、化合物11を有機溶媒中酸触媒存在下で1,2−エタンジチオールと反応させることにより製造することができる。式13で表わされる化合物(化合物13)は、有機溶媒中トリフェニルホスフィン及びジエチルアゾジカルボキシレートの存在下で化合物12と酢酸とを光延反応させることで製造することができる。式14で表わされる化合物(化合物14)は、化合物13を水−有機溶媒混合溶媒中CAN存在下反応させることで製造することができる。化合物(I)は、化合物14を塩基存在下加水分解反応に付すことで製造することができる。
【0028】
反応スキーム1
【0029】
【化6】

【0030】
上記化合物(I)の製造工程を表す反応スキーム1中、工程1〜14で表わされる反応は以下の通りである。
工程1:ベンジル化反応、工程2:還元反応、工程3:Wittig反応、工程4:酸性加水分解反応、工程5:酸化反応、工程6:テトラヒドロピラニル化反応、工程7:水素化反応、工程8:酸化反応、工程9:Honer−Emons反応、工程10:水素化反応、工程11:チオケタール化反応、工程12:光延反応、工程13:カルボニル基の保護基の脱保護反応、工程14:塩基性加水分解反応。
化合物(III)の合成
化合物(III)は、以下の反応スキーム2に示す反応を行うことによって製造することができる。
式15で表わされる化合物(化合物15)は、化合物12を有機溶媒中酸化反応に付すことにより製造することができる。式16で表わされる化合物(化合物16)は、化合物15から、上記反応スキーム1の化合物14を製造する方法(工程13)と同様の方法で製造することができる。化合物(III)は、化合物16から化合物(I)を製造するのと同様の方法で、すなわち化合物16を、上記工程14と同様に加水分解することにより製造することができる。
【0031】
反応スキーム2
【0032】
【化7】

【0033】
上記化合物(III)の製造工程を表す反応スキーム2中、工程15〜17で表わされる反応は以下の通りである。
工程15:酸化反応、工程16:カルボニル基の保護基の脱保護反応、工程17:塩基性加水分解反応。
化合物(V)の合成
化合物(V)は、以下の反応スキーム3に示す反応によって製造することができる。
反応スキーム3中、式17で表わされる化合物(化合物17)は、diethyl (2-oxoheptyl)phosphonate を用いて化合物10を製造するのと同様の方法(工程9)で製造することができる。diethyl (2-oxoheptyl)phosphonateは、例えばAldich社(カタログ番号36969-89-8)から購入することができる。式18で表わされる化合物(化合物18)は、化合物17から化合物11を製造するのと同様の方法(工程10)で製造することができる。式19で表わされる化合物(化合物19)は、化合物18から化合物12を製造するのと同様の方法(工程11)で製造することができる。式20で表わされる化合物(化合物20)は、化合物19から化合物13を製造するのと同様の方法(工程12)で製造することができる。式21で表わされる化合物(化合物21)は、化合物20から化合物14を製造するのと同様の方法(工程13)で製造することができる。化合物(V)は、化合物21から化合物(I)を製造するのと同様の方法(工程14)で製造することができる。
【0034】
反応スキーム3
【0035】
【化8】

【0036】
上記化合物(V)の製造工程を表す反応スキーム3中、工程18〜23で表わされる反応は以下の通りである。
工程18:Honer−Emons反応、工程19:水素化反応、工程20:チオケタール化反応、工程21:光延反応、工程22:カルボニル基の保護基の脱保護反応、工程23:塩基性加水分解反応。
化合物(VI)の合成
化合物(VI)は、以下の反応スキーム4に示す反応によって製造することができる。
反応スキーム4中、式23で表わされる化合物(化合物23)は、化合物19から化合物15を製造するのと同様の方法(工程15)で製造することができる。式24で表わされる化合物(化合物24)は、化合物23から化合物14を製造するのと同様の方法(工程13)で製造することができる。化合物(VI)は、化合物24から化合物(I)を製造するのと同様の方法(工程14)で製造することができる。
【0037】
反応スキーム4
【0038】
【化9】

【0039】
上記化合物(VI)の製造工程を表す反応スキーム4中、工程24〜26で表わされる反応は以下の通りである。
工程24:酸化反応、工程25:カルボニル基の保護基の脱保護反応、工程26:塩基性加水分解反応。
化合物(VII)の合成
化合物(VII)は、以下の反応スキーム5に示す反応によって製造することができる。
反応スキーム5中、式25で表わされる化合物(化合物25)は、例えばJ. Am. Chem. Soc. 92巻397頁に記載の方法で製造することができる。式26で表わされる化合物(化合物26)は、化合物25から化合物11を製造するのと同様の方法(工程10)で製造することができる。式27で表わされる化合物(化合物27)は、化合物26から化合物12を製造するのと同様の方法(工程11)で製造することができる。式28で表わされる化合物(化合物28)は、化合物27から化合物(I)を製造するのと同様の方法(工程14)で製造することができる。式29で表わされる化合物(化合物29)は、化合物28から化合物7を製造するのと同様の方法(工程6)で製造することができる。式30で表わされる化合物(化合物30)は、化合物29から化合物3を製造するのと同様の方法(工程2)で製造することができる。式31で表わされる化合物(化合物31)は、有機溶媒中塩基存在下、化合物30を式40で表わされる化合物(化合物40)とWittig反応させることで製造することができる。化合物40は、反応スキーム6中の式39で表わされる化合物(化合物39)を有機溶媒中塩基存在下でトリフェニルホスフィンと反応させることにより製造することができる。化合物39は、例えばJ. Chem. Res., Synop、806頁、2003年に記載の方法で製造することができる。式32で表わされる化合物(化合物32)は、化合物31を有機溶媒中塩基存在下で酢酸ハライドと反応させることにより製造することができる。式33で表わされる化合物(化合物33)は、化合物32をメタノールなどのアルコール溶媒中酸触媒を用いて反応させることで製造することができる。式34で表わされる化合物(化合物34)は、化合物33に有機溶媒中塩基存在下でトリチルクロライドを反応させることで製造することができる。式35で表わされる化合物(化合物35)は、化合物34から化合物13を製造するのと同様の方法(工程12)で製造することができる。式36で表わされる化合物(化合物36)は、化合物35を有機溶媒中、酸で処理することにより製造することができる。式37で表わされる化合物(化合物37)は、化合物36から化合物14を製造するのと同様の方法(工程13)で製造することができる。式38で表わされる化合物(化合物38)は、有機溶媒中で化合物37をジョーンズ酸化することで製造することができる。化合物(VII)は、化合物38から化合物(I)を製造するのと同様の方法(工程14)で製造することができる。
【0040】
反応スキーム5
【0041】
【化10】

【0042】
上記化合物(VII)の製造工程を表す反応スキーム5中、工程27〜40で表わされる反応は以下の通りである。
工程27:水素化反応、工程28:チオケタール化反応、工程29:塩基性加水分解反応、工程30:テトラヒドロピラニル化反応、工程31:還元反応、工程32:Wittig反応、工程33:アセチル化反応、工程34:アルコールの保護基の脱保護反応、工程35:トリチル化反応、工程36:光延反応、工程37:アルコールの保護基の脱保護反応、工程38:カルボニル基の保護基の脱保護反応、工程39:酸化反応、工程40:塩基性加水分解反応。
【0043】
反応スキーム6
【0044】
【化11】

【0045】
化合物40の製造工程を示す反応スキーム6中、工程41の反応は、リンイリド化反応である。
化合物(VIII)の合成
化合物(VIII)は、以下の反応スキーム7に示す反応によって製造することができる。
反応スキーム7中、式41で表わされる化合物(化合物41)は、化合物34から化合物15を製造するのと同様の方法(工程15)で製造することができる。式42で表わされる化合物(化合物42)は、化合物41から化合物36を製造するのと同様の方法(工程37)で製造することができる。式43で表わされる化合物(化合物43)は、化合物42から化合物14を製造するのと同様の方法(工程13)で製造することができる。式44で表わされる化合物(化合物44)は、化合物43から化合物38を製造するのと同様の方法(工程39)で製造することができる。化合物(VIII)は、化合物44から化合物(I)を製造するのと同様の方法(工程14)で製造することができる。
【0046】
反応スキーム7
【0047】
【化12】

【0048】
上記化合物(VIII)の製造工程を表す反応スキーム7中、工程42〜46で表わされる反応は以下の通りである。
工程42:酸化反応、工程43:アルコールの保護基の脱保護反応、工程44:カルボニル基の保護基の脱保護反応、工程45:酸化反応、工程46:塩基性加水分解反応。
【0049】
要するに上記した本発明の化合物はいずれも、公知方法又は自体公知の方法に従って、容易に製造できる。また、下記する化合物も同様である。
2.化合物(a1)〜(a6)、(b1)〜(b6)及び(c1)〜(c6)
下記(1)〜(3)に記載する化合物(a1)〜(a6)、(b1)〜(b6)及び(c1)〜(c6)も、PGD産生のバイオマーカーとすることができるものである。これらの化合物も、本発明の1つである。
なお、以下に示される保持時間および相対保持時間は、例え実験条件を同じくした場合においても、多少は増減するものであり、厳密に解釈されるべきものではない。
(1)下記分析条件で液体クロマトグラフィー質量分析(LC−MS)に付した際に、(a1)液体クロマトグラム(以下、LCともいう)における保持時間が12.1〜13.1分であり、かつ質量分析(以下、MSともいう)によるm/zが約329である化合物、(a2)LCにおける保持時間が40.0〜41.0分であり、かつMSによるm/zが約299である化合物、(a3)LCにおける保持時間が46.8〜47.8分であり、かつMSによるm/zが約297である化合物、及び(a4)LCにおける保持時間が48.8〜49.8分であり、かつMSによるm/zが約325である化合物、並びに(a5)LCにおける保持時間が15.7〜16.7分であり、かつMSによるm/zが約327である化合物及び(a6)LCにおける保持時間が55.7〜56.7分であり、かつMSによるm/zが約323である化合物;
LC−MS分析条件
(LC分析条件1)
カラム:ZORBAX SB-C18、5 μm、4.6 mm I.D.×250 mm L.(Agilent社製)
溶離液:A)10mmol/L 酢酸アンモニウム水溶液(pH4.0)
B)アセトニトリル
溶出条件:10→70% B)、120分でリニアグラジエントを行う
流速:1.0mL/分
カラム温度:35℃
(MS分析条件)
Polarity:Negative
質量範囲:m/z 200−800
(2)上記分析条件でPGDを標品としてLC−MSに付した際に、(b1)LCにおけるPGDに対する相対保持時間が0.20〜0.22であり、かつMSによるm/zが約329である化合物、(b2)LCにおけるPGDに対する相対保持時間が0.67〜0.69であり、かつMSによるm/zが約299である化合物、(b3)LCにおけるPGDに対する相対保持時間が0.79〜0.81であり、かつMSによるm/zが約297である化合物、及び(b4)LCにおけるPGDに対する相対保持時間が0.82〜0.84であり、かつMSによるm/z約325である化合物、並びに(b5)LCにおけるPGDに対する相対保持時間が0.27〜0.29であり、かつMSによるm/zが約327である化合物及び(b6)LCにおけるPGDに対する相対保持時間が0.94〜0.96であり、かつMSによるm/zが約323である化合物。
標品のPGDは、例えばJ. Org. Chem. 38巻2115頁(1973)に記載の方法で合成することができる。また、PGDの市販品を購入して用いてもよい。市販のPGDは、例えば、Cayman社(カタログ番号 12010)から購入することができる。
(3)下記分析条件でLC−MSに付した際に、(c1)LCにおける保持時間が13.8〜14.8分であり、かつMSによるm/zが約329である化合物、(c2)LCにおける保持時間が41.3〜42.3分であり、かつMSによるm/zが約299である化合物、(c3)LCにおける保持時間が48.9〜49.9分であり、かつMSによるm/zが約297である化合物、及び(c4)LCにおける保持時間が51.4〜52.4分であり、かつMSによるm/zが約325である化合物、並びに(c5)LCにおける保持時間が18.2〜19.2分であり、かつMSによるm/zが約327である化合物及び(c6)LCにおける保持時間が58.9〜59.9分であり、かつMSによるm/zが約323である化合物;
LC−MS分析条件
(LC分析条件2)
カラム:ZORBAX SB-C18、5 μm、4.6 mm I.D.×250 mm L.(Agilent社製)
溶離液:A)0.1% ギ酸水溶液
B)0.1% ギ酸を含むアセトニトリル
溶出条件:10→70% B)、120分でリニアグラジエントを行う
流速:1.0mL/分
カラム温度:35℃
(MS分析条件)
Polarity:Negative
質量範囲:m/z 200−800
図1に、Hで標識したPGDH−PGD)をカニクイザルに静脈内投与後、0〜6時間に尿を氷冷下採取し、上記LC分析条件1でHPLC分析した際のラジオクロマトグラムを示す。図1においては、放射能検出にはフローシンチレーションアナライザー(RAD、ParkinElmer社製)を用いている。図1において、Iで示されるピークは、保持時間が12.6分であり、(a1)の化合物のピークである。IIIで示されるピークは、保持時間が16.2分であり、(a5)の化合物のピークである。Vで示されるピークは、保持時間が40.5分であり、(a2)の化合物のピークである。VIで示されるピークは、保持時間が47.3分であり、(a3)の化合物のピークである。VIIで示されるピークは、保持時間が49.3分であり、(a4)の化合物のピークである。VIIIで示されるピークは、保持時間が56.2分であり、(a6)の化合物のピークである。なお、標品であるH−PGDの保持時間は、57.9分である。
化合物(a1)〜(a6)、(b1)〜(b6)及び(c1)〜(c6)として具体的には、上記化合物(I)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)、化合物(III)及び化合物(VIII)が挙げられる。
【0050】
生体試料に含まれる化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)並びに上記(a1)〜(a6)、(b1)〜(b6)及び(c1)〜(c6)の化合物は、PGDの代謝物であることから、PGD産生のバイオマーカーとして利用することができるものである。従って、生体試料に含まれるこれら化合物の少なくとも1種を検出及び/又は測定することにより、PGDの関与が深い疾患患者群を簡便に選択でき、また、特定疾患におけるPGDの関与を特定することができる。
【0051】
上記したネガティブイオンモードとは、液体クロマトグラフィー質量分析において負の電荷を持つイオンを観測する方法を意味し、本願記載の液体クロマトグラフィー質量分析において、ネガティブイオンモードを用いるのが好ましい。
3.生体試料に含まれる化合物の検出方法及び測定方法
生体試料に含まれる上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種の検出及び/又は測定は、例えば、生体試料を、ODSカラム等の逆相カラムを用いて、溶離液として水系溶媒と水溶性有機溶媒との混液を用いる液体クロマトグラフィーに付す工程を含む方法により、行うことができる。このような検出方法及び/又は測定方法も、本発明の1つである。
生体試料としては、上記PGDの代謝物を含む生体由来の試料であれば特に限定されず、例えば、ヒトを含む動物の尿、血液、組織抽出液、唾液、涙液、その他の体液等の生体から採取した試料が挙げられる。中でも、採取が簡便であり患者への負担が少ないことから尿が好ましい。また、本発明の方法においては、生体試料を液体クロマトグラフィーに付する前に、例えば、生体試料中に含まれるタンパク質等を除去するために生体試料に前処理を施すことが好ましい。さらに、本発明の方法においては、PGDの代謝物である上記化合物を誘導体化せずに検出及び/又は測定することができるため、生体試料を化学処理して化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種を誘導体化する工程を含まないことが好ましい。
【0052】
前処理としては、遠心分離、除タンパク、抽出(例えば、液液抽出法、固相抽出法)又は濃縮操作等が挙げられる。除タンパクの方法としては、公知の方法でよく、例えば、有機溶媒処理(例えば、フェノール、クロロホルム、クロロホルム−メタノール混液、アセトン、ベンゼン、アセトニトリル、メタノール、2−メチル−2−ブタノール等)又は熱処理等が挙げられる。液液抽出法において、上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)を抽出する溶媒としては、例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジオキサン、n−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、クロロホルム又は酢酸エチル−n−へキサン混液等が挙げられる。固相抽出法は、例えば、上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種の保持(吸着)に適した固相に該化合物を保持(吸着)させ、次いで溶出溶媒により固相に保持(吸着)された該化合物を溶出させる公知の方法により実施できる。溶出する溶媒としては、例えば、酢酸エチル、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジオキサン、n−ブタノール、2−メチル−2−ブタノール、クロロホルム又は酢酸エチル−n−へキサン混液等が挙げられる。濃縮操作としては、例えば、減圧濃縮や凍結乾燥等が挙げられる。
これら前処理は1種又は複数組み合わせて行うことができるが、処理時間の短縮化、簡便性、迅速性又は省力化等の観点から固相抽出法を含むことが好ましい。固相抽出法における固相としては、例えば、逆相系シリカゲル、イオン交換型シリカゲル、逆相系ポリマー、イオン交換型ポリマー等が挙げられるがこれらに限定されない。また、これら固相は1種又は2種以上を組み合わせて使用できる。好ましい固相としては、例えば、逆相系ポリマーである。固相抽出法は、上記固相が充填された市販のカートリッジ又はミニカラム等を用いることができる。そのようなカートリッジ又はミニカラム等としては、例えば、OASIS HLB(Waters社)、FOCUS(Varian社)等が挙げられるが、これらに限定されない。上記カートリッジ又はミニカラム等は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、固相抽出法には、固相マイクロ抽出法(SPME)が含まれる。SPMEとしては、上記固相を結合させた細いニードル等が挙げられる。固相抽出法における、固相に保持(吸着)された上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)を溶出する溶媒としては、固相の種類に応じて適宜選択すればよく、例えば逆相系シリカゲルや逆相系ポリマー系固相ではアセトニトリルやメタノール等が挙げられ、例えばイオン交換型シリカゲルやイオン交換型ポリマー固相では、酸性の水溶液等が挙げられる。
また、固相は、試料注入前に化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種を保持(吸着)し得るようコンディショニングすることが好ましい。コンディショニングは、固相により異なり、例えば、逆相系シリカゲルや逆相系ポリマー系固相ではメタノールで洗浄した後水の一定量を、イオン交換型シリカゲルやイオン交換型ポリマー固相ではメタノール続いて水で洗浄した後に塩基性水溶液の一定量を、固相が充填されたカートリッジ又はミニカラムに通すことにより実施できる。
上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種を保持した固相は、例えば水性溶媒[例えば、水、水/酢酸混液(約100:1〜80:1(V/V))、塩酸(0.1〜0.2N)等]の一定量で洗浄されるのが好ましい。該洗浄により、固相に負荷された試料に含まれる化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)以外の夾雑物を除去し得る。
固相抽出法により得られた化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種を含む溶液は、次いで濃縮操作により濃縮されることが好ましい。さらに、得られた濃縮物を後述する液体クロマトグラフィーの溶離液と同じ溶媒に溶解させることにより、試料を調製することができる。
【0053】
また、処理時間の短縮化、簡便性、迅速性又は省力化等の観点から、遠心分離操作のみを行い、濃縮操作を行うことなく前処理することも好ましい。遠心分離操作としては、遠心分離処理であれば特に限定されず、例えば、遠心分離処理(12,000rpm、5℃、5分間)して不溶物を沈殿させて、その上清をそのまま濃縮することなく、試料として用いることができる。
【0054】
試料の調製においては、内標準物質を添加することが好ましい。内標準物質の添加により、試料中に夾雑物が存在し、上記化合物の測定に影響を与える場合においても、正確に目的化合物の測定を行うことができる。内標準物質としては、上述したPGD、同位体元素で標識した化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が好ましい。
生体試料に含まれる上記化合物の検出及び/又は測定は、必要により前述の前処理を施した生体試料を、逆相カラムとして、例えばODSカラムを用い、溶離液として水系溶媒と水溶性有機溶媒との混液を用いる液体クロマトグラフに付すことにより行われる。本明細書において、ODSカラムとは、例えば、シリカゲル担体に、オクタデシルシリル基(OctaDecylSilyl=ODS基、C18基)が化学結合した充填剤が詰められた逆相クロマトグラフィーで用いられるカラムを意味する。ODSカラムとしては、ZORBAX SB−C18(Agilent社製)、YMC−Pack ODS−AM(YMC社製)、YMC−Pack Pro C18(YMC社製)、Sunfire TM C18(Waters社製)、Xbridge shield RP18(Waters社製)、Xbridge C18(Waters社製)、Unison UK−C18(Imtakt社製)、又はCadenza CD−C18(Imtakt社製)等が挙げられる。中でも、ZORBAX SB-C18、5 μm、4.6mm(I.D.)×250mm(L.)(Agilent社製)等が好ましい。
液体クロマトグラフィーにおけるカラム温度としては、20〜40℃が好ましく、25〜35℃がより好ましい。
水系溶媒としては、精製水、蒸留水又はHPLC用水等が挙げられる。水系溶媒には、例えばギ酸、酢酸、ギ酸アンモニウム又は酢酸アンモニウム等の揮発性物質が添加されることが好ましく、酢酸アンモニウム、ギ酸が特に好ましい。揮発性物質の濃度は、例えば0.01〜50mmol/Lが好ましく、1〜30mmol/Lがより好ましく、10〜25mmol/Lが特に好ましい。また、水系溶媒は、pH2.0〜4.0に調整されることが好ましい。水系溶媒のpH調整は、例えば、酢酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸等により行うことができる。
本発明の検出方法及び/又は測定方法においては、水系溶媒をA)液とし、アセトニトリルをB)液とし、以下の条件で液体クロマトグラフィーにより分離を行うことが好ましい。まず、溶離液の流速を、例えば、約0.2〜1.0mL/min、好ましくは1.0mL/minとし、B)液0〜100%、好ましくは0〜10%でカラムを平衡化する。次いで、30〜180分間、好ましくは60〜120分間のリニアグラジエントで、B液の最終濃度を55〜100%とする。試料の注入量は、10〜100μLが好ましく、20〜50μLがより好ましい。
【0055】
本発明の検出方法及び/又は測定方法における好ましいLC分析条件の一例を、下記に示す。
LC分析条件1
カラム:ZORBAX SB-C18、5 μm、4.6 mm I.D.×250 mm L.(Agilent社製)
溶離液:A)10mmol/L 酢酸アンモニウム水溶液(pH4.0)
B)アセトニトリル
溶出条件:10→70% B)、120分でリニアグラジエントを行う。
流速:1.0mL/分
カラム温度:35℃
LC分析条件2
カラム:ZORBAX SB-C18、5 μm、4.6 mm I.D.×250 mm L.(Agilent社製)
溶離液:A)0.1% ギ酸水溶液
B)0.1% ギ酸を含むアセトニトリル
溶出条件:10→55% B)、70分でリニアグラジエントを行う
流速:1.0mL/分
カラム温度:35℃
例えば、上記LC分析条件1によれば、化合物(I)の保持時間は12.1〜13.1分であり、化合物(III)の保持時間は15.7〜16.7分であり、化合物(V)の保持時間は40.0〜41.0分であり、化合物(VI)の保持時間は46.8〜47.8分であり、化合物(VII)の保持時間は48.8〜49.8分であり、化合物(VIII)の保持時間は55.7〜56.7分である。
【0056】
また、上記LC分析条件2によれば、化合物(I)の保持時間は13.8〜14.8分であり、化合物(III)の保持時間は18.2〜19.2分であり、化合物(V)の保持時間は41.3〜42.3分であり、化合物(VI)の保持時間は48.9〜49.9分であり、化合物(VII)の保持時間は51.4〜52.4分であり、化合物(VIII)の保持時間は58.9〜59.9分である。
液体クロマトグラフィーにおいて、検出器は、紫外分光検出器、多波長検出器、蒸発光散乱検出器、コロナ荷電化粒子検出器、質量分析検出器が好ましい。中でも、質量分析検出器、コロナ荷電化粒子検出器が好ましい。紫外分光検出器、多波長検出器の場合、測定波長は、190〜260nmが好ましく、195〜215nmがより好ましい。質量分析検出器としては、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換型が好ましい。さらに、生体試料中の放射能標識したPGD代謝物を検出及び/又は測定する場合には、検出にフローシンチレーションアナライザーを用いることもできる。
生体試料に含まれる上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)の測定、すなわち生体試料中のこれらの化合物の濃度の算出方法としては、例えば、これらの化合物の標準溶液を用いて作成した検量線を用いて行う方法が挙げられる。具体的には、例えば、液体クロマトグラフィーにより測定を行う場合の検量線は、これらの化合物の標準溶液に内標化合物を添加した溶液を用いて上記分析条件にて液体クロマトグラフィーによる分析を実施して得られる測定値から作成され得る。また、生体試料中の上記化合物の測定は、MS/MS分析法により、予め既知濃度のものを用いて用意しておいた検量線に基づいて行うことができる。MS/MS分析法としては、選択反応モニタリング法等が挙げられる。
本発明の検出方法又は測定方法を用いれば、例えば、1〜100mLの尿量で尿中の上記化合物の検出及び/又は測定を行うことが可能となる。好ましくは、1〜10mL程度の尿を用いる。
生体試料に含まれる上記(a1)〜(a6)、(b1)〜(b6)及び(c1)〜(c6)の化合物を検出及び/又は測定する方法は、上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)の検出方法又は測定方法と同様である。
本発明の検出方法及び測定方法は、生体試料に含まれるPGDの代謝物を簡便に検出及び/又は測定することができるため、PGD関連疾患の診断のために利用し得る。また、PGD関連疾患の予防及び/又は治療、並びに新たな治療法の開発のために利用し得る。例えば、ある個体由来の生体試料から化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)並びに上記(a1)〜(a6)、(b1)〜(b6)及び(c1)〜(c6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が検出され、一方、健常個体由来の生体試料においては該化合物が検出されないか、検出されても量が少ない場合には、該生体試料を採取した個体におけるPGD関連疾患の発症、進行等が示唆される。
4.PGD関連疾患の診断方法
生体試料に含まれる式(I)で表わされる化合物、式(III)で表わされる化合物、式(V)で表わされる化合物、式(VI)で表わされる化合物、式(VII)で表わされる化合物及び式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定するPGD関連疾患の診断方法も、本発明の1つである。生体試料としては、尿が好ましい。これらの化合物を検出及び/又は測定する方法としては、上述した方法が好適である。
本発明の診断方法においては、検出及び/又は測定する方法が、逆相カラムクロマトグラフィーを用い、上記(b1)〜(b6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定する方法であることが好ましい。すなわち上記(b1)〜(b6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定することにより、式(I)で表わされる化合物、式(III)で表わされる化合物、式(V)で表わされる化合物、式(VI)で表わされる化合物、式(VII)で表わされる化合物及び式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定することができる。
PGDは、アラキドン酸カスケードの中の代謝産物として知られており、アレルギー疾患、例えば、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アレルギー性結膜炎等に関与する化学伝達物質の1つと考えられている。また、PGDは主として肥満細胞から産生及び遊離され、遊離されたPGDは気管支収縮、血管透過性亢進、血管拡張又は収縮、粘液分泌促進、血小板凝集阻害作用等を示すことが知られている。さらにPGDは、インビボ(in vivo)においても気道収縮や鼻閉症状を誘起することが報告されており、全身性マストサイト−シス(肥満細胞症)患者、鼻アレルギー患者、アトピー性皮膚炎患者、蕁麻疹患者等の病態局所でPGD量の増加が認められる(N Engl J Med 1980; 303: 1400-4、Am Rev Respir Dis 1983; 128: 597-602、J Allergy Clin Immunol 1991; 88: 33-42、Arch Otolaryngol Head Neck Surg 1987; 113: 179-83、J Allergy Clin Immunol 1988; 82: 869-772、J Immunol 1991; 146: 671-6、J Allergy Clin Immunol 1989; 83: 905-12、N Engl J Med 1986; 315: 800-4、Am Rev Respir Dis 1990; 142: 126-32、J Allergy Clin Immunol 1991; 87: 540-8、J Allergy Clin Immunol 1986; 78: 458-61)。従って、これらの疾患は、本発明におけるPGD関連疾患に含まれる。
また、PGDは、神経活動(睡眠や摂食)、ホルモン分泌、疼痛、血小板凝集、グリコーゲン代謝、眼圧調整等にも関与しているとの報告もあるため、これらに関連する疾患もPGD関連疾患に含まれる。
また、PGDは、その受容体の1つであるDP受容体に結合することによりその作用を発揮するため、PGDがDP受容体に作動して誘発される疾患もPGD関連疾患として挙げられる。
DP介在性疾患、すなわちDPが介在するPGD関連疾患としては、例えばアレルギー性疾患(例えば、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、食物アレルギー等)、全身性肥満細胞症、全身性肥満細胞活性化障害、アナフィラキシーショック、気道収縮、蕁麻疹、湿疹、にきび、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、副鼻腔炎、片頭痛、鼻茸、過敏性血管炎、好酸球増多症、接触性皮膚炎、痒みを伴う疾患(例えば、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹、アレルギー性結膜炎、アレルギー性鼻炎、接触性皮膚炎等)、フラッシングを伴う疾患、炎症、慢性閉塞性肺疾患、虚血再灌流障害、脳血管障害、自己免疫疾患、脳外傷、肝障害、移植片拒絶、関節リウマチ、胸膜炎、変形性関節症、クローン病、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、間質性膀胱炎、筋ジストロフィー、多発性筋炎、多発性硬化症又は睡眠障害(例えば、ナルコレプシー等)等が挙げられる。また、血小板凝集にも関わっており、これらの疾患もPGD関連疾患として挙げられる。
本発明は従って、このような疾患の診断に有用である。
5.プロスタグランジンD関連疾患治療薬の投与が有効な患者の選別方法
生体試料に含まれる式(I)で表わされる化合物、式(III)で表わされる化合物、式(V)で表わされる化合物、式(VI)で表わされる化合物、式(VII)で表わされる化合物及び式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定するPGD関連疾患治療薬の投与が有効な患者の選別方法も、本発明の1つである。生体試料としては、尿が好ましい。これらの化合物を検出及び/又は測定する方法としては、上述した方法が好適である。
本発明の選別方法においては、検出及び/又は測定する方法が、逆相カラムクロマトグラフィーを用い、上記(b1)〜(b6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定する方法であることが好ましい。すなわち上記(b1)〜(b6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定することにより、式(I)で表わされる化合物、式(III)で表わされる化合物、式(V)で表わされる化合物、式(VI)で表わされる化合物、式(VII)で表わされる化合物及び式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定することができる。
前記4.PGD関連疾患の診断方法の項で列挙した疾患において、その成因は必ずしも一つとは限らない。例えば、アレルギー性鼻炎の原因としては、PGD以外にも、ヒスタミン、ロイコトリエン等が挙げられる。あるアレルギー性鼻炎患者において、PGDの関与が小さければ、DP拮抗剤を投与しても治療効果は小さい。反対に、PGDの関与が大きければ、DP拮抗剤を投与したときの治療効果は大きい。PGDの関与の程度は、生体試料に含まれるPGDの代謝物の量、すなわち式(I)で表わされる化合物、式(III)で表わされる化合物、式(V)で表わされる化合物、式(VI)で表わされる化合物、式(VII)で表わされる化合物及び式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定することにより判定することができるので、本発明は、PGD関連疾患治療薬の投与が有効な患者を選別する方法として有用である。
さらに、上記したPGD関連疾患治療薬の投与が有効な患者の選別方法はPGD関連疾患の重症度を判定する方法としても有用である。例えば、該選別方法においてPGDの関与が深い疾患患者であると選別された患者の該疾患の重症度を軽症、中等症、重症であると判定することができる。つまり、健常個体由来の生体試料と比較して、該患者の生体試料から化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)並びに上記(a1)〜(a6)、(b1)〜(b6)及び(c1)〜(c6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物が検出された程度に応じて、該患者の重症度を上記したように軽症、中等症、重症であると判定することができる。
6.診断用キット
上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を標品として検出及び/又は測定することを特徴とするPGD関連疾患診断用キットも、本発明の1つである。このようなキットを用いると、生体試料に含まれる上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)を効率よく検出及び/又は測定することができる。検出及び/又は測定する方法としては、例えば、上記液体クロマトグラフィーを用いる方法のほか、放射免疫測定法(RIA:Radio ImmunoAssay等)、酵素免疫測定法(EIA:Enzyme ImmunoAssay(例えば、ELISA:Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay等))等を用いた方法が用いられる。例えば、放射免疫測定法で検出及び/又は測定を行う場合には、上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)そのもの若しくはその標識体が用いられる。このため、放射免疫測定法で検出及び/又は測定を行う場合のキットは、上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種、又はその標識体を少なくとも含むことが好ましい。また、酵素免疫測定法で検出及び/又は測定を行う場合には、上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)の抗体が用いられる。このため、酵素免疫測定法で検出及び/又は測定を行う場合のキットは、上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)からなる群より選択される少なくとも1種に対する抗体を含むことが好ましい。
【0057】
また、該PGD関連疾患診断用キットに標品として用いられる上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)としては、化学合成によって製造されたものを用いてもよく、生体由来の試料から本願で後述される実施例に記載された液体クロマトグラフィー等に付し、適当な条件下分取されたものを用いてもよい。標品として用いられるのものとして、好ましくは、化学合成によって製造された上記化合物(I)、化合物(III)、化合物(V)、化合物(VI)、化合物(VII)及び化合物(VIII)である。
【実施例】
【0058】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、これらの実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
1.H−PGDをサルに投与後の尿中代謝物分析
1−1.Hで標識したPGD
Hで標識したPGDH−PGD)はPerkinElmer社より70%エタノール溶液として入手した。このH−PGDは、比放射能が6.327 TBq/mmol、Radiochemical purity >97 %であった。
1−2.投与液の調製方法
公知の方法で製造した非標識PGDをエタノールに溶解し、5μg/mL溶液を調製した。H−PGD(3.7MBq)(3.7MBq/mL、70%エタノール溶液)に5μg/mLの非標識PGD溶液200μLを添加した。この溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて蒸発乾固させた後、生理食塩液2mLを加え、氷冷下で3分間超音波処理した。激しく撹拌後、氷冷下で1分間放置した。氷冷下での超音波処理とその後の撹拌および氷冷下に1分放置する操作をさらに5回繰り返した後、生理食塩液約4mLを加えて投与液を調製した。
1−3.投与液の投与と尿の採取
投与前16時間絶食させた雄性カニクイザルに、1−2で調製した投与液全量を、橈側皮静脈内に単回投与した。H−PGDを投与したサルを代謝ケージに収め、投与後0〜6時間までの尿を氷冷下採取した。
1−4.尿中代謝物の分析
採取した尿を遠心分離(1,800g、4℃、5分)した後、その上清を以下の条件でHPLC分析した。HPLCのラジオクロマトグラムを図1に示す。
カラム: ZORBAX SB-C18、5 μm、4.6 mm I.D.×250 mm L.(Agilent社製)
溶離液: A) 10 mmol/L Ammonium Acetate aq. (pH4.0)
B) CH3CN
Time (min)/B% = 0/10 → 120/70(リニアグラジエント)
流速: 1.0 mL/min
カラム温度: 35℃
注入量: 50μL
放射能検出: フローシンチレーションアナライザー(RAD、PerkinElmer社製)
2.PGDをサルに投与後の尿中代謝物分析
2−1.PGD
PGDとして、公知の方法で製造したものを用いた。
PGDは、例えばJ. Org. Chem. 38巻2115頁(1973)に記載の方法で合成することができる。また、Cayman社(カタログ番号 12010)から購入することもできる。
2−2.投与液の調製
秤量したPGDに0.07w/v%炭酸水素ナトリウムを含む生理食塩液を添加して超音波処理を施し1mg/mL溶液を調製した。これを原液として、生理食塩液で希釈し、48μg/mL溶液を調製後、0.45μmのセルロースアセテート製メンブレンフィルター(DISMIC、ADVANTEC社製)で濾過し、投与液とした。
2−3.コントロール尿の採取
一夜絶食させたサルの排尿を確認しプレ採尿を行った後、塩酸ケタミン(動物用ケタラール50、三共エール薬品社製)10mg/kgを筋肉内投与することで導入麻酔を行った。37℃に設定した保温マット上に動物を横臥位に固定し、両側の後肢伏在静脈に留置針を挿入した。一方からは三方活栓を介してプロポフォール(1%ディプリバン、アストラゼネカ社製)と輸液用電解質液(ソリタT−3号、味の素ファルマ社製)とを投与した。プロポフォールは3mg/kgをbolus投与後、110μg/kg/minで持続投与した。輸液用電解質液は2〜3秒/滴の速度で点滴静注した。また他方は、生理食塩液が入った注射筒を接続した。塩酸リドカインゼリー(キシロカインゼリー、アストラゼネカ社製)を塗布した気管内チューブ(シェリダンCF気管内チューブ、KENDALL社製)を気管へ挿管後、人工呼吸器(SN−480−5、シナノ製作所社製)に接続し、実験中は約10mL/kg、25回/分の送気を行った。
【0059】
導入麻酔から約50分後、生理食塩液の静脈内持続投与を開始し、0.5mL/kg/hの速度で投与開始から3時間後まで持続投与した。投与終了後の動物は、自発呼吸を確認後、輸液用電解質液の点滴を止め、抜管し、飼育ケージへ戻した。その後、投与8時間後まで排尿ごとに採尿を行った。
【0060】
採尿及びサンプル調製は以下のように行った。採尿バットに尿が確認された場合は、遠心管に移し、3,000rpm、4℃、10分間で遠心分離を行った後、上清を別チューブに回収した。回収した尿サンプルは−80℃で凍結保存した。
2−4.非標識PGD投与尿の採取
一夜絶食したサルの排尿を確認しプレ採尿を行った後、塩酸ケタミン(動物用ケタラール50、三共エール薬品社製)10mg/kgを筋肉内投与することで導入麻酔を行った。37℃に設定した保温マット上に動物を横臥位に固定し、両側の後肢伏在静脈に留置針を挿入した。一方からは三方活栓を介してプロポフォール(1%ディプリバン、アストラゼネカ社製)と輸液用電解質液(ソリタT−3号、味の素ファルマ社製)とを投与した。プロポフォールは3mg/kgをbolus投与後、110μg/kg/minで持続投与した。輸液用電解質液は2〜3秒/滴の速度で点滴静注した。また他方は、PGD投与液が入った注射筒を接続した。塩酸リドカインゼリー(キシロカインゼリー、アストラゼネカ社製)を塗布した気管内チューブ(シェリダンCF気管内チューブ、KENDALL社製)を気管へ挿管後、人工呼吸器(SN−480−5、シナノ製作所社製)に接続し、実験中は約10mL/kg、25回/分の送気を行った。
【0061】
導入麻酔から約50分後、48μg/mL PGD投与液を0.5mL/kg/h(PGDを24μg/kg/h)の速度で3時間静脈内持続投与した。投与終了後の動物は、自発呼吸を確認後、輸液用電解質液の点滴を止め、抜管し、飼育ケージへ戻した。その後、投与8時間後まで排尿ごとに採尿を行った。
【0062】
採尿及びサンプル調製は以下のように行った。採尿バットに尿が確認された場合は、遠心管に移し、3,000rpm、4℃、10分間で遠心分離を行った後、上清を別チューブに回収した。回収した尿サンプルは−80℃で凍結保存した。
2−5.サル尿中PGD代謝物のLC−MSによる分析
2−5−1.LC−MS分析用サンプルの調製
2−3及び2−4で採取した尿サンプルのうち、生理食塩液投与終了後最初の採尿サンプル(C1尿)又は非標識PGD投与液投与終了後最初の採尿サンプル(S1尿)を以下の手順で処理し、LC−MS分析およびLC−MS/MS分析用サンプルを調製した。
C1尿及びS1尿各1mLを4℃、13000rpmで5分間遠心分離し、各上清を採取して各々に1N HCl 50μLを加えた。MeOH 1mL2回と水1mL2回を用いてOASIS HLB(Waters社)固相抽出カラム1mL用のコンディショニングを行い、減圧下C1尿及びS1尿の各上清の試料負荷を行った。各カラムを水1mL2回で洗浄した後、MeOH 1mL2回で溶出を行い、C1尿及びS1尿の各溶出液を遠心濃縮機で蒸発乾固後、水各200μLで再溶解し、LC−MS分析用サンプルを調製した。
2−5−2.LC−MSによる分析
2−5−1で調製したC1尿及びS1尿のLC−MS分析用サンプルを用いてLC−MS分析及びLC−MS/MS分析を行った。
LC−MS分析
<HPLC条件>
カラム: ZORBAX SB-C18、5 μm、4.6 mm I.D.×250 mm L.(Agilent社製)
溶離液: A) 10 mmol/L Ammonium Acetate aq. (pH4.0)
B) CH3CN
Time (min)/B% = 0/10 → 120/70
流速:1.0mL/min
カラム温度:35℃
注入量: 50μL
<MS条件>
測定機器: Applied Biosystems社製 QTRAP
Ion Source: Turbo Spray
Polarity: Negative
Scan Mode: Enhanced MS
Source Temp.:500℃
Declustering Potential:−30v
Ionspray Voltage:−4500v
ネブライザーガス:50psi
ターボガス:80psi質量範囲:m/z 200−800
C1尿及びS1尿のLC−MS分析により、図1中の放射能クロマトグラムの主要代謝物である化合物I、III、V、VI、VII及びVIIIに相当するピークについて表1に示す結果が得られた。
【0063】
【表1】

【0064】

LC−MS/MS分析
<HPLC条件>
カラム: ZORBAX SB-C18、5 μm、4.6 mm I.D.×250 mm L.(Agilent社製)
溶離液: A) 0.1% Formic acid aq.
B) 0.1% Formic acid in CH3CN
Time (min)/B% = 0/10 → 70/55
流速:1.0mL/min
カラム温度:35℃
注入量:50μL
<MS/MS条件>
測定機器: Thermo Fisher Scientific社製 LTQ-Orbitrap XL
イオン化法: Negative ESI
キャピラリー温度:350deg.
スプレー電圧:4kV
Seathガス流速:40arb.
Auxガス流速:5arb.
キャピラリー電圧:−20V
チューブレンズ電圧:−40V
HCD CE:50%、90%、110%
コリジョンエネルギー:35%
設定分解能: MS1 30,000(m/z 400)、MS/MSn 7,500(m/z 400)
C1尿及びS1尿の分析用サンプルを用いて測定を行い、SIEVEソフトウェアを用いてPGD投与によりS1尿中にのみ増加したピークを抽出した。このうちLC−MS分析で得られた化合物I、III、V、VI、VII及びVIIIに対応するm/z値の各ピークについてその精密質量測定値から分子式を、またMS/MS測定の情報からその構造推定を行った。なお、以下の開裂スキーム中、expは測定値を表わし、theorは理論値を表わす。
(1)化合物I
保持時間 14.4分
m/z 329.1607 (M-H)- C16H25O7
開裂スキーム
【0065】
【化13】

【0066】
これらのデータから化合物Iの構造を以下のように推定した。
【0067】
化合物I
【0068】
【化14】

【0069】
化合物Iの分子式 C1626、M.W.330
(2)化合物III
保持時間 18.7分
m/z 327.0763 (M-H)- C16H23O7
開裂スキーム
【0070】
【化15】

【0071】
これらのデータから化合物IIIの構造を以下のように推定した。
【0072】
化合物III
【0073】
【化16】

【0074】
化合物IIIの分子式 C1624、M.W.328
(3)化合物V
保持時間 41.8分
m/z 299.186 (M-H)- C16H27O5
開裂スキーム
【0075】
【化17】

【0076】
これらのデータから化合物Vの構造を以下のように推定した。
【0077】
化合物V
【0078】
【化18】

【0079】
化合物Vの分子式 C1628、M.W.300
(4)化合物VI
保持時間 49.4分
m/z 297.171 (M-H)- C16H25O5
開裂スキーム
【0080】
【化19】

【0081】
これらのデータから化合物VIの構造を以下のように推定した。
【0082】
化合物VI
【0083】
【化20】

【0084】
化合物VIの分子式 C1626、M.W.298
(5)化合物VII
保持時間 51.9分
m/z 325.202 (M-H)- C18H29O5
分子式 C1830、M.W.326
(6)化合物VIII
保持時間 59.4分
m/z 323.187 (M-H)- C18H27O5
分子式 C1828、M.W.324
2−6.サル尿中PGD代謝物のLC−NMR/MSによる分析
2−6−1.LC−NMR/MS分析用サンプルの調製
S1尿12mLに飽和コハク酸水溶液7mLを加え、4℃、3000rpmで10分間遠心分離した後上清を採取した。この上清に酢酸エチル12mLを加えよく振とうし、4℃、3000rpmで3分間遠心分離した後有機相を採取した。分離した水相に酢酸エチル12mLを加えよく振とうし、4℃、3000rpmで3分間遠心分離した後有機相を採取した。有機相を合わせて水浴上20℃でロータリーエバポレーターを用いて減圧下濃縮乾固し、CDOD 100μLに溶解させ、0.2μmのフィルターを用いて遠心ろ過を行いLC−NMR/MS分析用サンプルを調製した。
2−6−2.LC−NMR/MSによる分析
<HPLC条件>
カラム: ZORBAX SB-C18、5 μm、 4.6 mm I.D.×250 mm L.(Agilent社製)
溶離液: A) D2O containing 0.01% DCO2D
B) CD3CN
Time (min)/B% = 0/10 → 75/45
流速:1.0mL/min
カラム温度:35℃
注入量: 50μL
<MS条件>
イオン化法:Negative ESI
質量範囲:m/z 200−900
<NMR条件>
測定機器:Varian社製600MHz核磁気共鳴分析装置 VNMRS 600
プローブ:600MHz 1H{13C/15N}5 mm Φ PFG Triple Resonance 13C Enhanced Cold Probe
分画採取法:フラクションループ法
化学シフト基準: TSP−d (0ppm)
測定法: 1次元 H NMR、wetTOCSY法
2−6−1で調製したLC−NMR/MS分析用サンプルをHPLCに注入し、保持時間とm/z値を用いてフラクションループに採取した。採取した分画のうち化合物VII及び化合物VIIIに相当する分画についてNMRで測定を行い、以下のデータを得た。
化合物VII
保持時間56.5分、m/z 327 (M-3H+2D)-
δ(ppm) 5.70 (m, 1H), 5.55 (m, 1H), 4.23 (m, 2H), 3.12 (m, 2H), 2.62 (m, 1H), 2.52 (m, 1H), 2.50 (m, 2H), 2.23 (m, 2H), 1.90 (m, 1H), 1.75-1.50 (m, 5H), 1.35-1.15 (m, 4H), 0.84 (m, 3H)
化合物VIII
保持時間63.6分、m/z 324 (M-2H+D)-
δ(ppm) 5.70 (m, 1H), 5.55 (m, 1H), 3.12 (m, 2H), 2.60-2.10 (m, 10H), 1.82 (m, 1H), 1.70 (m, 1H), 1.52 (m, 2H), 1.35-1.20 (m, 4H), 0.86 (m, 3H)
LC−NMR/MS及びLC−MS/MSの分析結果より、化合物VII及び化合物VIIIの構造を以下のように推定した。
【0085】
化合物VII
【0086】
【化21】

【0087】
化合物VIIの分子式 C1830、M.W.326
化合物VIII
【0088】
【化22】

【0089】
化合物VIIIの分子式 C1828、M.W.324
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、PGD関連疾患の診断、プロスタグランジンD関連疾患治療薬の投与が有効な患者の選別、PGD関連疾患の治癒の確認、PGD関連疾患の新たな治療法の開発等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料を、逆相カラムを用いて、溶離液として水系溶媒と水溶性有機溶媒との混液を用いる液体クロマトグラフィーに付す工程を含むことを特徴とする下記式(I)で表わされる化合物、下記式(III)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物、下記式(VII)で表わされる化合物及び下記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の検出及び/又は測定方法。
【化1】

【請求項2】
生体試料が、尿である請求項1に記載の検出及び/又は測定方法。
【請求項3】
生体試料に含まれる下記式(I)で表わされる化合物、下記式(III)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物、下記式(VII)で表わされる化合物及び下記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定することを特徴とするプロスタグランジンD関連疾患治療薬の投与が有効な患者の選別方法。
【化2】

【請求項4】
生体試料が、尿である請求項3に記載の選別方法。
【請求項5】
検出及び/又は測定する方法が、逆相カラムクロマトグラフィーを用い、下記化合物(b1)〜(b6)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を検出及び/又は測定する方法である請求項3又は4に記載の選別方法:
プロスタグランジンDを標品として液体クロマトグラフ質量分析のネガティブイオンモードによる分析に付した際に、(b1)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.20〜0.22であり、かつ質量分析によるm/zが約329である化合物、(b2)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.67〜0.69であり、かつ質量分析によるm/zが約299である化合物、(b3)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.79〜0.81であり、かつ質量分析によるm/zが約297である化合物、及び(b4)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.82〜0.84であり、かつ質量分析によるm/zが約325である化合物、並びに(b5)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.27〜0.29であり、かつ質量分析によるm/zが約327である化合物及び(b6)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.94〜0.96であり、かつ質量分析によるm/zが約323である化合物。
【請求項6】
下記式(I)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物及び下記式(VII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物。
【化3】

【請求項7】
下記化合物(b1)〜(b4)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物;
逆相カラムクロマトグラフィーを用いた分析において、プロスタグランジンDを標品として液体クロマトグラフ質量分析のネガティブイオンモードによる分析に付した際に、(b1)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.20〜0.22であり、かつ質量分析によるm/zが329である化合物、(b2)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.67〜0.69であり、かつ質量分析によるm/zが299である化合物、(b3)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.79〜0.81であり、かつ質量分析によるm/zが297である化合物、及び(b4)液体クロマトグラムにおけるプロスタグランジンDに対する相対保持時間が0.82〜0.84であり、かつ質量分析によるm/zが325である化合物。
【請求項8】
プロスタグランジンD産生に由来するバイオマーカーとしての下記式(I)で表わされる化合物、下記式(III)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物、下記式(VII)で表わされる化合物及び下記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物の使用。
【化4】

【請求項9】
下記式(I)で表わされる化合物、下記式(III)で表わされる化合物、下記式(V)で表わされる化合物、下記式(VI)で表わされる化合物、下記式(VII)で表わされる化合物及び下記式(VIII)で表わされる化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を標品として検出及び/又は測定することを特徴とするプロスタグランジンD関連疾患診断用キット。
【化5】


【図1】
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【公開番号】特開2010−2416(P2010−2416A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123431(P2009−123431)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000185983)小野薬品工業株式会社 (180)
【Fターム(参考)】