説明

プロスタグランジンE2産生抑制剤及びその利用

【課題】刺激物質及び/又は紫外線により誘導されるプロスタグランジンE2の産生抑制剤及び、それを含む肌荒れ予防用外用剤、色素沈着予防用外用剤の提供。
【解決手段】L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトール(GPI)及び/又はそれらの塩を有効成分とする。該化合物は刺激物質や紫外線による、表皮細胞からのPG(プロスタグランジン)E2産生増加に対して有意な抑制作用をもつこと、すなわち、表皮細胞において刺激物質や紫外線の暴露による即時的な細胞内カルシウムがトリガーとなる非常に早期の炎症応答機構に対して有効である。これらを配合した皮膚外用剤は、肌荒れの予防及び緩和効果、日焼けによる色素沈着・しみ・そばかす・肝班等の予防及び緩和効果を発揮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロスタグランジンE2産生抑制剤及びその利用に関する。さらに詳しくは、刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制作用を有し、肌荒れ予防効果に優れる肌荒れ予防及び/又は肌荒れ緩和用外用剤、並びに日焼けによる色素沈着・しみ・そばかす・肝班等の予防及び/又は緩和効果を発揮する色素沈着予防及び/又は色素沈着緩和用外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚の微弱炎症が荒れ肌やシワ形成をはじめとする種々の皮膚老化現象に関与することが報告されている。
【0003】
皮膚における炎症反応は、さまざまな化学物質による化学的刺激や、熱や摩擦などの物理的刺激、紫外線などで損傷を受けた表皮細胞が、種々のケミカルメディエータを放出することによりおこるといわれている。代表的なケミカルメディエータとしては、アラキドン酸代謝物であるプロスタグランジン類やロイコトリエン類、サイトカインの一種であるインターロイキン類や腫瘍壊死因子−αなどがあるが、中でもプロスタグランジンE2(PGE2)は代表的な炎症性メディエーターとして広く知られている。
【0004】
こうしたケミカルメディエータの産生には、細胞膜の構成成分であるリン脂質からアラキドン酸を遊離させる細胞内ホスホリパーゼA2(cPLA2)が関与していることが示唆されており、本発明者らはすでに、L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトール(GPI)、その誘導体及び/又はそれらの塩が、cPLA2の活性化によって仲介される病変の治療、また、皮膚炎症の治療に有効であることを見出している(特許文献1)。
【0005】
しかしながら、GPI及び/又はそれらの塩の皮膚組織、皮膚細胞における具体的な作用機序は明らかにされておらず、また、皮膚炎症に起因する肌荒れや色素沈着の予防に有用であることも知られていない。
【0006】
なお、本発明者らの報告を除き、GPIの皮膚科学分野における使用に関しては、シクロスポリンとα−グリセロホスホリルイノシトールとを含む薬剤組成物が、炎症性状態、自己免疫疾患などを処置するために利用すること(特許文献2)以外ほとんど報告されていない。
【特許文献1】特表2004−513176号公報
【特許文献2】特表2000−510857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導プロスタグランジンE2産生抑制剤及び、それを含む肌荒れ予防及び/又は肌荒れ緩和用外用剤、色素沈着及び/又は色素沈着緩和用外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、GPI及び/又はそれらの塩の皮膚組織、皮膚細胞における具体的な作用機序を明らかにすべく、鋭意研究を行った結果、GPI及び/又はそれらの塩はカプサイシンなどの刺激物質や紫外線による、表皮細胞からのPGE2産生増加に対して有意な抑制作用をもつこと、すなわち、表皮細胞において刺激物質や紫外線の暴露による即時的な細胞内カルシウムがトリガーとなる非常に早期の炎症応答機構に対して有効であることを、また、これらを配合した皮膚外用剤は、肌荒れの予防及び緩和効果、日焼けによる色素沈着・しみ・そばかす・肝班等の予防及び緩和効果を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、GPI及び/又はその塩を有効成分として含有する刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤である。
【0010】
また、本発明は、前記GPI及び/又はその塩を刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤として含有することを特徴とする肌荒れ予防及び/又は肌荒れ緩和用外用剤である。
【0011】
さらに、本発明は前記GPI及び/又はその塩を刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤として含有することを特徴とする色素沈着予防及び/又は色素沈着緩和用外用剤である。
【発明の効果】
【0012】
GPI及び/又はその塩について、刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制試験を実施したところ、その効果が顕著であった。これらを皮膚外用剤に配合することで肌荒れの予防効果、日焼けによる色素沈着・しみ・そばかす・肝班等の予防効果を発揮する、皮膚外用剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成を更に詳細に説明する。
【0014】
本発明に用いるGPI及び/又はその塩は公知の化合物であって、例えば、特表2004−513176号公報に記載の製造方法等により製造することができる。
【0015】
本発明で用いるGPI塩類としては、特に限定されるものではないが、無機元素のカチオンであるか薬理学的に許容できる有機塩基のカチオンが利用できる。
【0016】
GPI塩類の無機元素のカチオンとしては、特表2004−513176号公報に記載したように、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、鉄塩、セレン塩、クロム塩、銅塩などが挙げられる。就中、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩が好ましく、さらに好ましくはナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩であるが、いずれもこれらに限定するものではない。
【0017】
GPI塩類の薬理学的に許容できる有機塩基のカチオンとしては、特表2004−513176号公報に記載したように、モノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラ−アルキルアンモニム塩などが挙げられる。N−(2−ヒドロキシエチル)−ジメチルアンモニウム塩、コリン塩、リシン塩、アルギニン塩、アミノ酸、モノ−、ジ−、トリ−もしくはテトラ−ペプチド塩、カルノシン塩、キサンチン塩基のカチオン塩、カフェインなどが好ましく、さらに好ましくは、テトラブチルアンモニウム塩、コリン塩、リシン塩であるが、いずれもこれらに限定するものではない。
【0018】
GPI及び/又はその塩の外用剤への配合量は、用途、剤型、配合目的等によって異なり、特に限定されるものではないが、一般的には、外用剤中0.001〜20.0質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜10.0質量%である。
【0019】
本発明の外用剤にはGPI及び/又はその塩に対して、更に他の成分と組み合わせることにより、その効果を相乗的に高めることができる。GPI及び/又はその塩と組み合わせて使用される他の成分は、抗酸化剤、細胞賦活剤から選ばれるものであるが、具体的な成分としては、例えば、それぞれ以下に示すものが挙げられる。ここで以下に記載する「誘導体」には形成可能な塩が含まれる。
【0020】
抗酸化剤としては、ビタミンEおよびその誘導体(天然ビタミンE、dl−α(β、γ)−トコフェロール、酢酸dl−α−トコフェリル、ニコチン酸−dl−α−トコフェリル、リノール酸−dl−α−トコフェリル、レチノイン酸トコフェリル、コハク酸dl−α−トコフェロリル等のトコフェロールおよびその誘導体、トコトリエノール等)、ビタミンAおよびその誘導体(レチノール、パルミチン酸レチノール、リノール酸レチノール、酢酸レチノール、水添レチノール、レチナールおよびデヒドロレチナール等の誘導体)、カロチノイド(カロチン、リコピン、アスタキサンチン、ルテイン等)、ビタミンBおよびその誘導体(チアミン塩酸塩、チアミン硫酸塩、チアミンリン酸塩、リボフラビン、酢酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、塩酸ピリドキシン、ジオクタン酸ピリドキシン、ジパルミチン酸ピリドキシン、トリヘキシルデカン酸ピリドキシン、シアノコバラミン、葉酸類、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル等のニコチン酸類、コリン類等)、ビタミンCおよびその誘導体(ジパルミチン酸アスコルビルやテトラヘキシルデカ
ン酸アスコルビル等のアスコルビン酸アルキルエステル、アスコルビン酸リン酸エステル、アスコルビン酸硫酸エステル、3−O−セチルアスコルビン酸等のアスコルビン酸アルキルエーテル等)、ビタミンDおよびその誘導体(エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、ジヒドロキシスタナール等)、ビタミンK5、コエンザイムQ10、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、ノルジヒドログアヤレチン、没食子酸プロピル、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、チオジプロピオン酸ジラウリル、トリルビグアナイド、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム等のエリソルビン酸塩、ハイドロキノンおよびその誘導体、エラグ酸、SOD、エルゴチオネイン、グルタチオン、チオタウリン、ヒポタウリン等の還元性基を有するアミノ酸、マンニトールオイゲノール、イソオイゲノール、カテキン、ケルセチン、リグナン、タンニン等のポリフェノール類、ルチンおよびその誘導体、サポニン、イチョウエキス、クスノハコケモモエキス、リンゴエキス、チャエキス、ブドウエキス、チョウジエキス、エイジツエキス、トマトエキス、シソエキス、ニンジンエキス、ハマメリスエキス、メヤシャジツエキス、メリッサエキス、ローズマリーエキス等の植物抽出物、海藻抽出物、あるいは植物油中に含まれる天然型の抗酸化剤又はそれらから誘導される抗酸化剤、例えばフラボノイド類を含む甘草エキス、ゴマ油、ブドウ種子油、棉実油由来のセサミン、エピセサミン等、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0021】
これらの抗酸化剤のうち、特に好ましいものとしては、ビタミンEおよびその誘導体、ビタミンCおよびその誘導体が挙げられる。
【0022】
細胞賦活剤としては、前記のビタミンAおよびその誘導体、前記のカロチノイド、前記のビタミンBおよびその誘導体、前記のビタミンCおよびその誘導体、前記のビタミンEおよびその誘導体、ピロリドンカルボン酸、クエン酸、グリコール酸、酒石酸、乳酸等のα−ヒドロキシ酸、β−乳酸、サリチル酸等のβ−ヒドロキシ酸、α−又はγ−リノレン酸、サイクリックAMP、トウモロコシ種子エキス、エルゴチオネイン、ヒドロキシプロリンなどのアミノ酸、イチョウエキス、スギナエキス、ツボクサエキス、ダイズ発酵エキス、トマトエキス、トウキンセンカエキス、ニンジンエキス、ホップエキス、マツエキス、レモンエキス、ローズマリーエキス等の植物抽出物、海藻抽出物、酵母エキス等、またはそれらの混合物が挙げられる。
【0023】
これらの細胞賦活剤のうち、特に好ましいものとしては、ビタミンAおよびその誘導体、ビタミンCおよびその誘導体、ビタミンBおよびその誘導体、クエン酸、リンゴ酸、ピロリドンカルボン酸、酵母エキスが挙げられる。
【0024】
本発明の刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤、外用剤への抗酸化剤及び/又は細胞賦活剤の配合比は、その種類により相違するが、一般的には、その配合比が質量基準で100:1〜1:100であることが好ましく、10:1〜1:10がより好ましい。この範囲であると、より優れたPGE2産生抑制効果が発現し、かつ、優れた肌荒れ予防及び/又は肌荒れ緩和効果、色素沈着予防及び/又は色素沈着緩和効果を発揮することができる。
【0025】
本発明の外用剤にはGPI及び/又はその塩とともに、既存のPGE2産生抑制剤、抗炎症剤、肌荒れ予防/改善剤、色素沈着予防/改善剤を配合することができる。これらの成分を併用することは、本効果の相乗効果をもたらし、本効果を損なうものではない。
【0026】
既存のPGE2産生抑制剤としては、ギガルチナステラータエキス、コンドルスクリスプスエキス、厚朴エキスなどの植物・海藻エキス、ホーノキオール、マグノロール、ポリアルコキシフラボノイド、プロアントシアニジンなどのポリフェノール類、各種ステロイド類などが挙げられる。
【0027】
既存の抗炎症剤としては、ステロイド系抗炎症剤(ヒドロコルチゾンなど)、非ステロイド系抗炎症剤(アスピリンなど)、消炎酵素剤(キモトリプシン)、ε−アミノカプロン酸及びその誘導体、アラントイン、塩化リゾチーム、グアイアズレン、グリチルレチン酸やグリチルリチン酸及びそれらの誘導体、コンドロイチン硫酸及びその誘導体、コンフリー、各種ポリフェノールなど、また、甘草エキス、アルニカエキス、オトギリソウエキス、カモミラエキス、ティーツリーオイル、シコンエキス、シソエキス、シラカバエキス、ソウハクヒエキス、トウキエキス、トウキンセンカエキス、ニワトコエキス、モモ葉エキス、ヨモギエキスなどの植物エキス等が挙げられる。
【0028】
既存の肌荒れ予防/改善剤としては、保湿剤、細胞間脂質及びその類似体、ビタミン類などが挙げられる。保湿剤としては、グリセリン、ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール、トレハロース類、混合異性化糖、プルラン、マルトースなどの糖類、ヒアルロン酸ナトリウム、コラーゲン、エラスチン、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどの生態高分子、アミノ酸、乳酸ナトリウム、尿素、ベタイン、カモミラエキスなどの各種植物・海藻エキス等が、細胞間脂質及びその類似体としては、スフィンゴ脂質、セラミド、擬似セラミド、コレステロール及びその誘導体、リン脂質及びそれらの誘導体が、ビタミン類としては、ビタミンA群、ビタミンD群、ビタミンE群、パントテン酸カルシウム、ビオチン、ビタミンC群、ニコチン酸アミド、ビタミンB6群及びそれらの誘導体が、トラネキサム酸及びその誘導体、カルニチン及びその誘導体などが挙げられる。
【0029】
既存の色素沈着予防/改善剤としては、前記のビタミンC及びその誘導体、アルキルグリセリルエーテル、アルブチン、イオウ、エラグ酸、カモミラエキス、コウジ酸、プラセンタエキス、ルシノール、リノール酸及びリノレン酸およびそれらの誘導体、亜鉛グリシン錯体、ニコチン酸アミド、トラネキサム酸およびその誘導体、ビタミンEフェルラ酸エステルなどが挙げられる。
【0030】
本発明の外用剤には、本発明の効果を損なわない範囲で化粧品、医薬部外品等に配合される成分として流動パラフィンなどの炭化水素、植物油脂、ロウ類、合成エステル油、シリコーン系の油相成分、フッ素系の油相成分、高級アルコール類、脂肪酸類、増粘剤、紫外線吸収剤、粉体、顔料、色材、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、多価アルコール、糖、高分子化合物、生理活性成分、経皮吸収促進剤、溶媒、酸化防止剤、香料、防腐剤等を配合することができる。
【0031】
本発明に係る化粧料の剤型は任意であり、化粧水、ローション、乳液、クリーム、パック、軟膏、分散液、固形物、ムース等の任意の剤型をとることができる。また、用途としては、化粧料の外、皮膚外用剤、医薬用軟膏等に好適に使用できる。
【0032】
なお、GPIの誘導体として、特表2004−513176号公報に、過アセチル化されたL−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのカリウム塩、グリセロチオ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのカリウム塩[−S−P−]、グリセロチオ−ホスホチオ−D−ミオ−イノシトールのカリウム塩[−P=S]をはじめとする、O−置換されたグリセロ−ホスホイノシトール誘導体、その類似体、その塩が記載されているが、ここに記載の化合物も本発明の効果及び使用が期待できる。
【0033】
また、本発明の外用剤は、肌荒れの予防及び緩和効果、日焼けによる色素沈着・しみ・そばかす・肝班等の予防及び緩和効果を発揮するが、皮膚のシワやたるみの形成や弾力性低下などの老化現象及び光老化現象の防止効果、角化症防止効果、免疫機能の低下を防止する効果も期待できる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
【0035】
実施例1
1.紫外線(UVB)によるPGE2産生増加に対する抑制作用評価
UVBによる即時的な炎症応答機構に対する抑制作用を表皮細胞の培養系を用いて評価した。
【0036】
1−1.方法
正常ヒト表皮細胞を播種し、各種GPI塩含有培地(HuMedia KG2)にて24時間培養した。培養後、培地をハンクス緩衝液に交換し、UVBを25mJ/cm2の線量にて照射した。照射後さらに、各種GPI塩含有培地(HuMedia KB2)で24時間培養し、培養上清中に放出されたPGE2量をELISA法にて定量した。
【0037】
1−2.試料
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのテトラブチルアンモニウム塩
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのリシン塩
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩+dl−α−トコフェロール(10μM)
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩+レチノール(5μM)
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩+アスコルビン酸
(10μM)
1−3.結果
GPIのコリン塩、テトラブチルアンモニウム塩およびリシン塩を培地に添加した細胞では、濃度に依存した有意なUVB誘導によるPGE2産生量の減少が認められた(表1)。また、GPIのコリン塩のdl−α−トコフェロール、レチノールおよびアスコルビン酸との併用により、さらに顕著なPGE2産生量の減少が認められた。
【0038】
【表1】

【0039】
実施例2
2.炎症誘導物質によるによるPGE2産生増加に対する抑制作用評価
炎症誘導物質による即時的な炎症応答機構に対する抑制作用を表皮細胞の培養系を用いて評価した。
【0040】
2−1.方法
正常ヒト表皮細胞を播種し、24時間培養した。培養後、炎症誘導物質であるカプサイシンあるいは1−オレオイル−2−アセチル−sn−グリセロール(OAG)を含有するハンクス緩衝液に交換し、10分間培養した。培養後さらに培地(HuMedia KB2)で24時間培養し、培養上清中に放出されたPGE2量をELISA法にて定量した。
【0041】
2−2.試料
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのテトラブチルアンモニウム塩
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのリシン塩
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩+dl−α−トコフェロール(10μM)
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩+レチノール(5μM)
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩+アスコルビン酸(10μM)
2−3.結果
GPIのコリン塩、テトラブチルアンモニウム塩およびリシン塩を培地に添加した細胞では、濃度に依存した有意な炎症誘導物質によるPGE2産生量の減少が認められた(表2、3)。
【0042】
我々は、UVB照射や代表的な皮膚に対する炎症誘導物質であるカプサイシン及びOAGによって、即時的に細胞内カルシウム濃度が増加することを確認している。このことは、紫外線や炎症誘導物質による表皮細胞からのPGE2産生機構のひとつとして、細胞内カルシウムによるcPLA2とそれにともなうアラキドン酸カスケードの活性化メカニズムの存在の示唆している。今回、cPLAの活性抑制剤であるGPI塩を用いた、表皮細胞系におけるUVB照射及び炎症誘導物質による即時的な炎症応答機構に対する抑制作用評価において、表皮細胞からのPGE2産生が有意に抑制されたことから、細胞内カルシウムの増加を抑えることでGPI塩が細胞内カルシウムをトリガーとした即時的な炎症応答に対して有効であることが示唆された。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
実施例3
3.in vivoにおけるUVB誘導紅斑抑制評価
3−1.方法
評価は成人男性の背部を対象として実施した。プラセボ、0.5質量%および1.0%質量濃度のGPIのコリン塩含有製剤を塗布した部位に対して、ソーラーシミュレーターを用いてUVを1.5MEDの線量にて照射した。照射後GPI製剤を再度塗布し、6、24、48時間後の紅斑の状態を評価した。紅斑の評価は、目視による程度判定、色差計(ミノルタ(株))によるa*値の測色ならびにドップラー計(オメガウェーブ(株))による血流測定にて実施した。なお、紅斑の状態は無塗布およびプラセボと比較した。
【0046】
3−2.被験製剤
以下に示す処方の被験製剤を用いた。水中油型乳化組成物の調製方法の常法に従い被験製剤を得た。
【0047】
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトールのコリン塩
3−3.結果
プラセボと比較してGPI塩含有製剤を塗布した部位における有意なΔa*値および血流量の減少が認められた(表4)。また、目視においても顕著な紅斑の緩和が認められた(図1)。このことは、GPI塩を配合した外用剤は、紫外線に起因する肌荒れや色素沈着を予防及び/又は緩和する作用をもつことを示している。
【0048】
【表4】

【0049】
以下に、本発明に係る化合物を配合した皮膚外用剤の応用例を挙げる。配合量は質量%を表す。実施例4〜13で得られた応用品は、いずれも肌荒れ予防及び/又は肌荒れ緩和作用、色素沈着予防及び/又は色素沈着予防緩和効果が認められた。
【0050】
実施例4
美容液
質量%
GPIコリン塩 0.1
スクワラン 1.0
べヘニルアルコール 4.0
ワセリン 3.0
流動パラフィン 15.0
モノラウリン酸デカグリセリル 1.0
モノステアリン酸POE(20)ソルビタン
3.0
キサンタンガム 0.1
1,3−ブチレングリコール 10.0
防腐剤 適量
香料 適量
精製水 残部
(調製方法)
水中油型乳化組成物の製法の常法に従い調製した。
【0051】
実施例5
化粧水
質量%
GPIナトリウム塩 1.0
GPIカリウム塩 1.0
ε−アミノカプロン酸 0.1
L−アスコルビン酸−2−リン酸マグネシウム
0.1
カモミラエキス 0.1
コンドルスクリスプスエキス 0.1
シソエキス 0.1
スクワラン 0.2
モノラウリン酸デカグリセリル 2.0
ヒアルロン酸ナトリウム 0.2
1,3−ブチレングリコール 3.0
エチルアルコール 10.0
防腐剤 適量
香料 適量
精製水 残部
(調製方法)
全ての成分を50℃で均一になるまで混合し、調製した。
【0052】
実施例6
クリーム2(エモリエントタイプ)
質量%
GPI 0.05
テトラヘキシルデカン酸アスコルビル 1.0
トリヘキシルデカン酸ピリドキシン 0.5
dl−α−トコフェロール 0.2
パルミチン酸レチノール 0.1
水添レチノール 0.1
スクワラン 10.0
ミリスチン酸イソセチル 6.0
トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 3.0
マカデミアナッツ油 1.0
ジメチルポリシロキサン 0.2
セタノール 5.0
POE(20)セチルエーテル 1.0
テトラオレイン酸POE(40)ソルビット
0.5
モノステアリン酸グリセリル 1.0
水素添加大豆レシチン 0.2
1,3−ブチレングリコール 5.0
キサンタンガム 0.1
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
クエン酸 0.1
クエン酸ナトリウム 0.4
防腐剤 適量
精製水 残部
(調製方法)
水中油型乳化組成物の製造方法の常法に従い調製した。
【0053】
実施例7
美容オイル
(処方) 質量%
GPIアルギニン塩 0.001
ミリスチン酸イソセチル 10.0
ホホバ油 5.0
ブドウ種子油 1.0
天然ビタミンE 0.1
リノール酸レチノール 0.1
油溶性甘草エキス 0.1
スクワラン 残部
(調製方法)
全ての成分を50℃で均一になるまで混合し、調製した。
【0054】
実施例8
スキンローション
(処方) 質量%
トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル
0.1
POP(4)POE(20)セチルエーテル
0.6
プロピレングリコール 10.0
GPIカルシウム塩 0.5
GPIマグネシウム塩 0.5
GPIカリウム塩 0.5
グリチルレチン酸ジカリウム 0.2
ギガルチナステラータエキス 0.2
ブドウエキス 0.001
エルゴチオネイン 0.001
乳酸、グルコース、クエン酸、リンゴ酸、
チャエキスの混合物 0.3
ヒアルロン酸ナトリウム 0.1
防腐剤 適量
精製水 残部
(調製方法)
水中油型乳化組成物の製造方法の常法に従い調製した。
【0055】
実施例9
乳液
(処方) 質量%
d−δ−トコフェロール 0.1
油溶性トマトエキス(リコピン1%含有) 0.01
スクワラン 5.0
2−エチルヘキサン酸セチル 5.0
ジメチルポリシロキサン 0.5
パルミチン酸セチル 0.5
ベヘニルアルコール 1.5
ステアリン酸 0.5
セラミド2 0.1
キミルアルコール 0.1
親油型モノステアリン酸グリセリル
1.0
モノステアリン酸POE(20)ソルビタン
1.0
テトラオレイン酸POE(40)ソルビタン
1.5
プロピレングリコール 7.0
GPI亜鉛塩 5.0
塩酸グルコサミン、海藻エキス、酵母エキス
および尿素の混合物 0.3
キサンタンガム 0.1

防腐剤 適量
精製水 残部
(調製方法)
水中油型乳化組成物の製造方法の常法に従い調製した。
【0056】
実施例10
クリーム3(油中水型エモリエントタイプ)
(処方) 質量%
GPIテトラブチルアンモニウム塩 1.0
ε−アミノカプロン酸セチル 0.1
亜鉛グリシン錯体 0.1
ジメチコンコポリオール 0.5
デカメチルシクロペンタシロキサン 5.0
トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル
15.0
ミツロウ 2.0
ペンタヒドロキシ酸デカグリセリル 2.0
イソステアリン酸 1.0
グリセリン 4.5
ヒアルロン酸ナトリウム 0.01
防腐剤 適量
精製水 残部
(調製方法)
油中水型乳化組成物の乳化法の常法に従い、乳化組成物を調製した。
【0057】
実施例11
サンスクリーンクリーム
(処方) 質量%
GPIコリン塩 0.5
GPIリシン塩 0.5
GPIアルギニン塩 0.5
流動パラフィン 7.0
デカメチルシクロペンタシロキサン 3.0
セチルアルコール 4.0
縮合リシノール酸ヘキサグリセリル 0.5
POE(20)セチルエーテル 1.0
パラメトキシ桂皮酸オクチル 7.0
酸化チタン 3.0
セチル硫酸ナトリウム 1.0
ステアロイルメチルタウリンナトリウム 0.3
1,3−ブチレングリコール 5.0
キサンタンガム 0.3
ピロリドンカルボン酸ナトリウム 0.1
ツボクサエキス 0.1
スギナエキス 0.1
ローズマリーエキス 0.1
防腐剤 適量
精製水 残部
(調製方法)
粉体相を油相中に添加した後、油中水型乳化組成物の乳化法の常法に従い、乳化組成物を調製した。
【0058】
実施例12
外用剤(軟膏製剤)
(処方) 質量%
GPIコリン塩 10.0
POE(30)セチルエーテル 2.0
モノステアリン酸グリセリル 10.0
流動パラフィン 10.0
白色ワセリン 5.0
セタノール 6.0
プロピレングリコール 10.0
防腐剤 適量
精製水 残部
(調製方法)
軟膏組成物の製造方法の常法に従い、乳化組成物を調製した。
【0059】
実施例13
外用剤(乳剤)
(処方) 質量%
GPIカリウム塩 15.0
白色ワセリン 41.0
マイクロクリスタリンワックス 3.0
ラノリン 10.0
モノオレイン酸ソルビタン 4.75
モノオレイン酸POE(20)ソルビタン 0.25
防腐剤 適量
精製水 残部
(調製方法)
乳剤組成物の製造方法の常法に従い、乳化組成物を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
GPI及び/又はそれらの塩は刺激物質や紫外線による、表皮細胞からのPGE2産生抑制剤として利用でき、更には、このPGE2産生抑制剤を含有することを特徴とする肌荒れ予防及び/又は肌荒れ緩和用外用剤、色素沈着の予防及び/又は緩和用外用剤などの、細胞内カルシウムがトリガーとなる非常に早期の炎症応答を抑制する外用剤を提供ならしめるものである。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】UVB誘導紅斑抑制評価の目視による観察結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−α−グリセロ−ホスホ−D−ミオ−イノシトール(GPI)及び/又はその塩を有効成分として含有する刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導プロスタグランジンE2(PGE2)産生抑制剤。
【請求項2】
前記のGPIの塩が、無機元素のカチオンであるか、薬理学的に許容できる有機塩基のカチオンであることを特徴とする請求項1に記載の刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤。
【請求項3】
前記のGPIの塩が、ナトリウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩、テトラブチルアンモニウム塩、コリン塩、リシン塩、アルギニン塩の1種又は2種以上から選択されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤。
【請求項4】
更に、抗酸化剤、細胞賦活剤よりなる群から選択された薬効剤の少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤を含むことを特徴とする肌荒れ予防及び/又は肌荒れ緩和用外用剤。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の刺激物質誘導及び/又は紫外線誘導PGE2産生抑制剤を含むことを特徴とする色素沈着予防及び/又は色素沈着緩和用外用剤。

【図1】
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【公開番号】特開2009−269851(P2009−269851A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120998(P2008−120998)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り SCCJ研究討論会 (第61回) 講演要旨集
【出願人】(000226437)日光ケミカルズ株式会社 (60)
【出願人】(301068114)株式会社コスモステクニカルセンター (57)
【出願人】(503166908)イ.エルレ.ビ.イスティトゥト ディ リチェルケ ビオテクノロジケ ソチエタ レスポンサビリタ リミテ (2)
【Fターム(参考)】