プロセスの操業状態の制御方法、装置、及びコンピュータプログラム
【課題】 物理現象が複雑で非線形性が強い製造プロセスの時系列データベースに対し、指定した操業条件と類似の過去の操業事例を検索し、検索結果から将来状態を予測して操業状態を制御する方法を提供する。
【解決手段】 製造プロセスの時系列データベースを逐次作成し、現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数値を量子化し、現在時刻と合わせて検索用テーブルに格納する。制御起点時刻を起点としたプロセス変数値を量子化し、該量子化値を検索キーとして検索用テーブルを検索する。類似度基準に従い、前記検索キーと類似する量子化値を有するプロセス変数値の時刻を特定し、該プロセス変数値の制御起点時刻の操作変数の値と制御実現将来時刻の制御変数の値を取り出し、制御実現将来時刻で制御変数の値が設定した目標値に近づく操作変数の値を決定する。
【解決手段】 製造プロセスの時系列データベースを逐次作成し、現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数値を量子化し、現在時刻と合わせて検索用テーブルに格納する。制御起点時刻を起点としたプロセス変数値を量子化し、該量子化値を検索キーとして検索用テーブルを検索する。類似度基準に従い、前記検索キーと類似する量子化値を有するプロセス変数値の時刻を特定し、該プロセス変数値の制御起点時刻の操作変数の値と制御実現将来時刻の制御変数の値を取り出し、制御実現将来時刻で制御変数の値が設定した目標値に近づく操作変数の値を決定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造業における高炉等の製造プラント(以下では単に「プラント」と記す)の製造プロセス(以下では単に「プロセス」と記す)において、時系列データベースの中から指定する時刻の操業状態と類似の過去の操業事例を検索し、当該検索結果からプロセスの将来状態を予測し、当該予測結果と過去の操作事例からプロセスの制御変数を目標値になるように制御する操作量を決定するプロセスの操業状態の制御方法、装置、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造業における高炉等のプロセス操業において、操業不良又は操業異常が発生すると、人手により操業日誌等から過去の事例を探して、取るべき操業アクションを決定する行為が実施されていた。操業アクションの成功例、失敗例を問わず過去の操業知見を将来の操業改善に活用することは重要であるが、従来は蓄積された高炉等のプロセス操業状態の時系列データを十分に活用する手段がなく、操業者の記憶に頼るのが一般的であった。そのため、操業者の経験により意見の異なる操業アクションが選択される問題があった。
【0003】
本発明が対象とするプロセスは、高炉等の複雑、非線形、かつ非定常なプロセスである。このようなプロセスを対象とする数学モデルは、プロセスによっては連立する数式群に定式化されているものがあるが、これらの数式群を連立させた形で数値計算を行い、プロセスの動的挙動(時間的推移、ダイナミクス)を現実的な計算時間内でシミュレーションするには、現時点での計算機能力では限界がある場合が多い。
【0004】
そこで、事例ベース推論技術がいくつかの分野で利用されている。特許文献1では、過去の問題解決事例に基づいて現在の問題解決を行う事例ベース推論を適用する手法が開示されている。また、特許文献2では、事例ベース推論のための表形式のエディタを提案し、専門家の知識の体系化を支援する手法が開示されている。さらに、特許文献3では、浄水場プロセスの排水量予測システムを対象とし、また、特許文献4では、浄水場プロセスの濁度の予測、制御及び管理システムを対象として、複数の事例を一つ集約して代表事例から構成される事例ベースを構築し、プロセスの予測、制御及び管理を行う手法が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示された手法は、ルール型問題の解決事例の1次解をユーザに提示し、ユーザに確認を求め、1次解が失敗事例と判断されれば、以前の失敗回避事例をもとに不足している制約を推測し、新たな2次解の候補をユーザに提示する手法である。事前に蓄積された知識データベースだけでは解決事例を導けない場合は、専門家(ユーザ)の情報を入力・編集し、知識データベースに記憶させるとされている。この手法の場合、ユーザが解決すべきルール型問題に対して、システムが提示する解が成功であるか否か、またシステムだけで解決事例を提示できない場合、どのような知識ルールを知識データベースに追加すべきかどうかに関して、十分な知識を有する専門家であることが前提であり、どのようなユーザに対しても有効な手法か否かという観点から、汎用性、客観性に欠ける。システムの予測精度を維持するとすれば、知識の収集、事例ベースの構築やその更新に、ユーザが大きな労力を費やさざるを得ない。
【0006】
特許文献2に開示された手法は、特許文献1と同様にルール型の事例ベース推論を基本とする手法である。計算機の専門知識を持たない現場の操業者が、自らのもつ専門知識をシステムに入力するのに際し、知識ルールを予め5つの種類に分類・体系化しておき、それぞれについて汎用的な表形式のエディタ画面を準備することにより、現場の操業者が知識ルールを入力することを容易かつ効率化し、事例ベース推論を用いたエキスパートシステムの開発効率、品質、保守性の向上を図る手法である。本手法も知識ルールの決定に基本的に人が介在するシステムであり、特許文献1と同様にどのような現場操業者に対しても有効な手法か否かという観点からは、汎用性及び客観性に欠ける。
【0007】
特許文献3及び4に開示された手法は、浄水設備の配水量の予測、濁度の予測や制御を目的とし、事例ベース推論の知識ルール生成に相当する事例ベース生成に、入力変数が構成する入力空間を量子化してプロセスの履歴データを配置し、1つ以上の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の履歴データを代表する事例を作成する手法である。本手法による知識ルールの生成には人の介在がなく、ユーザによる個人差の少ない汎用性及び客観性のある手法である。しかしながら、特許文献3及び4に開示された手法は、単位入力空間内の複数の履歴データを一つの代表する事例として集約してしまうため、本発明が対象とする高炉等の非線形プロセスのように、過去操業事例の類似事例検索結果から現在時刻の操業と類似な操業事例の時刻を特定し、操業日誌等と照らす等して現時刻で取るべき操業アクションを決定したい現場操業者にとって必要かつ重要な過去の類似事例の時刻情報が欠落してしまうという課題がある。
【0008】
特許文献5に開示された手法は、特許文献3及び4に開示されたものと同様の視点から事例ベース推論の知識ルール生成に相当する事例ベース生成に入力変数が構成する入力空間を量子化してプロセスの履歴データを配置する手法であり、ユーザによる個人差の少ない汎用性及び客観性のある手法である。量子化入力空間に履歴データを配置する際、その履歴データの時刻及び/又は時系列データベースの格納番号と合わせて格納した検索用テーブルを採用することにより、1つ以上の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の履歴データを一つの代表する事例に集約することを回避する手法である。その結果、特許文献5に開示された手法は、過去操業事例の類似事例検索結果から現在時刻の操業と類似な操業事例の時刻が特定可能で、操業日誌等と照らす等して現時刻で取るべき操業アクションを決定したい現場操業者にとって必要かつ重要な過去の類似事例の時刻情報が提示可能な手法である。しかしながら、特許文献5ではプロセスの状態類似事例検索方法と状態予測方法について開示されているが、プロセスの操業制御方法については言及されていないため、特許文献5で開示された手法を基盤として、どのようにプロセスの操業状態を制御するかという課題が解決できなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平3−132826号公報
【特許文献2】特開平7−271588号公報
【特許文献3】特開2001−288782号公報
【特許文献4】特開2002−119956号公報
【特許文献5】特開2004−310492号公報
【非特許文献1】河口至商著、多変量解析入門I、森北出版(1973年)、P.3〜33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、例えば鉄鋼業における製造プラントの製造プロセスにおいて、複雑、非線形かつ非定常な高炉等のプロセスの過去操業事例を、該時刻を特定した形で高速かつ高精度に検索し、該時刻における操業状態の推移情報から、プロセスの操業状態の制御を的確に実施可能とするオンライン制御手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段として、本発明によるプロセスの操業状態の制御方法について説明すれば、本発明のプロセスの操業状態の制御方法は、製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する方法において、現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する工程と、該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する工程と、前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数、及び制御変数の目標値を予め設定する工程と、制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する工程と、該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する工程と、該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする工程と、該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する工程と、予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する工程を有する点に特徴を有する。
本発明の他のプロセスの操業状態の制御方法は、製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する方法において、現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する工程と、該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する工程と、前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数及び制御変数の目標値を予め設定する工程と、制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する工程と、該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する工程と、該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする工程と、該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する工程と、予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値を取り出して量子化し、予め設定した類似度指標と予め設定した制御入力空間の近傍範囲値に従い、前記検索テーブル上の制御入力量子化空間を決定する工程と、該制御入力量子化空間に格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した前記時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する工程を有する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物理現象が複雑で非線形性が強い高炉等の大量に蓄積される時系列データについて、プラントの設備設計上或いはプロセス操業において予め定格として定めた動作点(すなわち定格設計点)以外の幅広い動作範囲にわたりプロセスデータ(プロセス変数値)を時系列データベースにオンラインでシステマティックに蓄積することによって、過去の類似操業事例の検索に基づく操業状態の制御量の計算を逐次、オンラインで高速に実現する。そして、操業アクションの判断にあたって操業者やプロセス技術者に有益なガイダンス情報を提供し、プロセス操業の安定化に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明によるプロセスの操業状態の制御方法、装置、及びコンピュータプログラムを実施するための最良の形態について、高炉を例にして説明する。ここでは高炉を例に説明するが、以下の如く、本発明のプロセスの操業状態の制御方法等の詳細を一般的な数式等を用いて説明できることから、高炉以外のプロセスについても実施可能である。
【0014】
図1は、本発明のプロセスの操業状態の制御装置の構成を示すブロック図である。同図において、1は高炉設備であり、温度、圧力、ガス成分、位置等のプロセス変数を計測する各種のセンサが複数設置されている。
【0015】
2は高炉設備1の計測・制御装置であり、高炉設備1に設置した前記各種センサで計測した各種のプロセス変数の時系列データを収集し、高炉の操業オペレータに提示し、必要に応じて操業オペレータの介在のもと高炉の制御操作を実施する。
【0016】
3は本発明を適用したプロセスの操業状態の制御装置である。計測・制御装置2を経由して計測した各種プロセス変数の時系列データが、一定時間毎に時系列データベース4に格納される。ここでは説明のため一定時間周期で格納されるものとするが、プロセス変数の種類によって時系列データベース4への格納周期が異なる場合は、短周期のプロセス変数に合わせて長周期のプロセス変数の値をホールドすることによって短周期のプロセス変数に変換して、以後、同様の取り扱いが可能であることは言うまでもない。
【0017】
4は時系列データベース4であり、溶銑温度、微粉炭吹き込み量、ソリューションロスカーボン、熱流比、装入ピッチ、溶銑中Si濃度、溶銑中Ti濃度、熱風温度、炉頂温度、熱負荷、炉頂ガスCO濃度、出銑速度、PCR(微粉炭比)、スラグ中Al2O2量、スラグ中TiO2量の現在値又はこれらの時間遅れ変数から少なくとも一つ以上が選択されたプロセス変数の組が、当該時刻データ又は当該時系列データベースの格納番号と共に格納されている。
【0018】
本発明のプロセスの操業状態の制御方法は、近年、計算機ハードウエアやデータベースシステム技術の発展に伴って大量データの蓄積と高速検索が可能になったことを背景とする新しい考え方の局所的なモデリング手法である。以後、本発明のプロセスの操業状態の制御方法の詳細を一般的に説明するため、時系列データベース4に格納されるプロセス変数を観測出力ベクトルy及び制御入力ベクトルu、当該時刻データtと表記して説明する。当該時刻データtを当該時系列データベース格納番号として表現しても一般性は失われない。したがって、以後、当該時刻データtのみを用いて説明を実施する。
【0019】
なお、明細書中の文では分けて示さないが、各式において、行列を大文字の太字書体で、ベクトルを小文字の太字書体で、スカラを小文字の斜字体で示す。
【0020】
(基本的な考え方)
一般に、ある時刻において対象とするシステムから観測されるデータ、すなわちシステムの状態変数の一組(データセット)をシステムの相(又は位相)と呼び、システムがとりうる相の全体をシステムの相空間(Topological Space)と呼ぶ。このときシステムの相がn個の数値の組で表わせるとき、nをシステムの次元と呼び、n次元システムの相空間はn次元ユークリッド空間Rn又はその一部の領域Dである。ある時刻のシステムの相は、相空間T上の点である。このことを強調するために相のことを相点とも呼ぶ。また、一般に、システムに非線形性が存在すると、例え次数nが小さいシステムであってもシステムの時間的変動(動的挙動、ダイナミックス)は複雑な挙動を呈する。この場合、システムの相空間に観測データの時間遅れ座標軸を考慮すると、システムの時間的変動を顕在化でき、このような相空間Tを非線形システム論では再構成状態空間と呼ぶ。
【0021】
本発明のプロセスの操業状態の制御方法は、プロセス変数の時間遅れ変数を考慮した前記相空間Tを検索用テーブルに採用する。
【0022】
まず、過去の類似操業事例の探索方法と将来状態の予測方法について数式を用いた処理を図2のフローチャートを参照して説明する。対象とするプロセスは非線形で動的なシステムであり、時間的挙動が下式(1)の回帰式モデルで与えられると仮定する。
【0023】
【数1】
【0024】
このとき、プロセスの入力ベクトルxkと出力ベクトルykを下式(2)、下式(3)のように再定義すると、時刻tの推移に伴い入力ベクトルxkと出力ベクトルykのデータセットが(x1,y1)、(x2,y2)、・・・の如く高炉設備1から大量に収集され、データ集合{(xk,yk)}(k=1、2、・・・)として図1の時系列データベース4に蓄積される。ここで、kは時刻tの離散化時間である(図2の処理110、処理111)。
【0025】
【数2】
【0026】
過去の類似操業事例の探索方法と将来状態の予測方法は、プロセスの操業状態の過去類似事例探索や予測の必要が生じる都度、蓄積されているデータ集合{(xk,yk)}から非線形関数fを求めることに相当する。すなわち、過去類似事例探索や予測の必要が生じる都度、前記要求点(xkq,ykq)を指定し(図2の処理100)、要求点を量子化し(図2の処理101)、量子化した値を検索キーとして前記検索用テーブル上を検索し(図2の処理102〜処理107)、類似度基準に従い、要求点に類似した前記近傍データセット{(xki,yki)}(ki<kq)が過去に観測されてデータ集合に存在すれば、前記要求点の時間的発展を記述する(すなわち予測する)非線形関数fkqは、過去の非線形関数fkiと似たものになるとする考え方である。
【0027】
このとき、近傍データセットが複数存在すれば、これらのデータセットの出力ベクトルykiを補間する局所モデルを用い(図2の処理108)、システムの出力ベクトルykqを予測する(図2の処理109)。都度、局所モデルは廃棄され、観測データが新たに蓄積されてデータ集合{(xk,yk)}が更新されていくことで、対象プロセスの経時的な特性変化が反映される(図2の処理110、処理111)。
【0028】
以後、過去の類似操業事例の探索方法と将来状態の予測方法の処理フローの詳細をあらためて図2のフローチャートを参照して説明する。
【0029】
(プロセス変数値の量子化値を検索キーとする検索用テーブルの作成)
大量に蓄積されるデータセットをオンラインで高速に扱うことを実現するため、プロセス変数値を相空間T上の量子化された検索用テーブルに格納しておき、この検索用テーブル上で前記要求点の近傍データセットを量子単位で検索することによって検索の効率化と計算負荷の大幅な低減を図る。
【0030】
図1の検索用テーブル作成手段5は、入力ベクトルxkを量子化し、量子空間Xkを下式(4)で定義する(図2の処理110、処理111)。
【0031】
【数3】
【0032】
ここで、Z(・)は量子化演算子であり、入力ベクトルxkの第l番目の要素xlkに対し、予め設定しておく最大値xl_max及び最小値xl_minと量子化数nlを用いて、量子空間Xkの第1番目の要素nlkを下式(5)で計算する。round(・)は、小数点以下四捨五入して最も近い整数値に丸める関数である。このとき、小数点以下切り上げ、又は切り下げによって整数値に丸めても構わない。
【0033】
【数4】
【0034】
また、式(5)は量子化数nlを用いた均等幅での量子化を例示したが、要素xlkの分散又は標準偏差の値に基づき、不等分割幅による量子化を用いても構わない。
【0035】
図1の検索用テーブル作成手段5における量子化演算によって、量子空間Xkすなわち図1の検索用テーブル6が定義される。検索用テーブル6は、量子空間Xkが1次元では区間、2次元では平面、一般には相空間Tの次元数nに対応したn次の超直方体空間となる。
【0036】
(検索用テーブル上の類似度基準)
図1の類似事例検索手段7は、要求点を量子化した値を検索キーとして前記検索用テーブルを検索し、類似度基準に従って要求点の近傍データセットを抽出し、過去のプロセスの操業状態の類似事例を検索する。ここで、量子空間XkiとXkjの類似度基準として、量子空間相互の無限大ノルムで定義する相似度s(kl,kj)を下式(6)に例示する(図2の処理102)。また、相似度s(kl,kj)には、他に、下式(7)に例示する量子空間ベクトルの差の絶対値の和を用いることも可能である。
【0037】
【数5】
【0038】
なお、量子空間XkiとXkjの類似度基準として更に別の相似度の定義を用いてもかまわない。
【0039】
(相似度を用いた要求点の近傍空間の定義)
要求点xkqが属する量子空間をXkqとし、要求点xkqの近傍空間Ωqを、下式(8)で定義する。ここで、Tは上述した相空間である。
【0040】
【数6】
【0041】
(要求点の近傍空間を用いた過去の操業類似事例の検索)
図1の類似事例検索手段7における過去の操業類似事例の検索方法について説明する。ここで、相似度sは離散値である。類似事例検索手段7で要求点(xkq,ykq)の過去の操業類似事例を検索するには、まず、近傍空間Ωq内の要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)を参照し、{(xki,yki)}(ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図2の処理103、処理104)。
【0042】
データセットが存在すれば検索を終了し(図2の処理105でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図2の処理105でNo)、次に隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)を参照し、再び、近傍空間Ωq中で{(xki,yki)}(ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図2の処理104、処理105)。
【0043】
ここで、データセットが存在すれば検索を終了し(図2の処理105でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図2の処理105でNo)、更に隣の量子空間(すなわち相似度s=2の量子空間)を参照する・・・、という処理手順で検索用テーブル上の近傍空間Ωqを単純かつ効率的に検索し、最終的にデータセットが存在する最小の相似度sで定義される近傍空間Ωqに帰属するデータセット{(xki,yki)}(ki<kq)を、要求点(xkq,ykq)の過去の操業類似事例とする(図2の処理106、処理107)。
【0044】
図3に、要求点xkqと要求点を含む量子空間Xkq、要求点xkqの近傍空間Ωqと近傍空間Ωqに帰属する要求点xkqの過去の操業類似事例{(xki,yki)}(ki<kq)の関係を示す。なお、相空間Tは一般にn次の超直方体空間であるが、図3は説明のため2次元平面を用いている。図3は、要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)に近傍データセットが存在せず、隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)に近傍データセットが6つ存在した例を示している。類似事例検索方法は、これら6つの近傍データセットの時刻又は時系列データベースの格納番号から、過去の操業類似事例を特定する。図3では、近傍空間Ωqを定義する相似度sの最小値は1である。
【0045】
(要求点の近傍空間を用いた将来状態予測)
図1の将来状態予測手段8における将来状態予測方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。図1の将来状態予測手段8は、類似事例検索手段7で抽出した要求点xkqの近傍データセットの出力ベクトルyki(ki<kq)を補間する局所モデルを用いて、出力ベクトルの推定値y^kqの計算、すなわち将来状態の予測を実施する(図2の処理108)。下式(9)に重み付き線形平均法(LWA)を、下式(10)に重み付き局所回帰法(LWR)を表わす。なお、本明細書において「a^」という表記は、aの上に^を付した記号を表わすものとする。
【0046】
【数7】
【0047】
このとき、y^kqは要求点(xkq,ykq)の出力ベクトルykqの推定値ベクトルであり、θ、θ^は局所モデルのパラメータとその同定値である。wiは要求点の近傍データセットのうち第i番目のデータに対応する重みであり、mは近傍空間Ωqに属する近傍データセット、すなわち、要求点xkqの過去の操業類似事例{(xki,yki)}(ki<kq)の数である。
【0048】
ここで、式(9)、式(10)で例示した局所モデルの重みwiの特性として、要求点と近傍データセット間の距離dによって両者の距離が遠ければ0に近づき、逆に近ければ1に近づくような重み関数として、下式(11)のGaussian関数、下式(12)のTricube関数、下式(13)の逆距離関数を例示する。なお、他の重み関数を用いても構わないことは言うまでもない。
【0049】
【数8】
【0050】
(本発明のプロセスの操業状態の制御方法:その1)
図1の操業状態制御手段9における本発明によるプロセスの操業状態の制御方法の数式を用いた処理を図4のフローチャートを参照して説明する。また、第1の発明の処理フローを図12に示し、以下に説明する第1の発明の数式を用いた処理フローとの対応を明示する。
【0051】
図1の操業状態制御手段9は、将来状態予測手段8で前記局所モデルを用いて推定した要求点(xkq,ykq)の出力ベクトルykqの推定値ベクトルy^kqが、予め設定する目標値ベクトルykqrefに近づくような要求点の入力ベクトルxkqを構成する制御入力ベクトルukqを決定する。説明のため、式(1)において、プロセスの制御入力ベクトルuk、状態ベクトルx-k、出力ベクトルykを式(14)、式(15)、式(16)のように再定義する。なお、本明細書において「a-」という表記は、aの上に-を付した記号を表わすものとする。
【0052】
【数9】
【0053】
このとき、式(1)は、下式(17)となる。
【0054】
【数10】
【0055】
ここで、ukは離散化時刻kにおけるプロセスの操業上の制御入力ベクトルであり、Fは非線形関数である(図4の処理220、図12の処理410)。図1の検索用テーブル作成手段5で、プロセスの制御入力ベクトルuk、状態ベクトルx-kが各々構成する相空間を量子化し、量子空間X-k及びUkを下式(18)、(19)のように定義する。
【0056】
【数11】
【0057】
ここで、Z(・)は前記と同様の量子化演算子である。要求点を(x-kq,y-kq)とすれば、Ukは選択できる現在の時刻kの制御入力空間となり、このことを利用して量子化した制御入力空間Ukに対する目標値追従問題を考える(図4の処理221、図12の処理411、処理412、処理413)。
【0058】
すなわち、図1の操業状態制御手段9は、要求点(x-kq,ykq)に対し、局所モデルを用いて推定する出力ベクトルykqの推定値ベクトルy^kqが、予め設定する目標値ベクトルykqrefに近づくような制御入力ベクトルukqを下式(20)をもとに決定する。
【0059】
【数12】
【0060】
具体的な処理手順は、以下のとおりである。すなわち、予測の必要が生じる都度、前記要求点(x-kq,ykq)を指定し(図4の処理200、図12の処理400〜処理402)、要求点を量子化して要求点x-kqを含む量子空間をX-kqとし(図4の処理201、図12の処理403)、量子化した値を検索キーとして前記検索用テーブル上を検索し、要求点x-kqの近傍空間Ω-qを、式(8)と同様にして、下式(21)で定義する。ここで、Tは前記の相空間、sは前記と同様な相似度である(図4の処理202、図12の処理404)。
【0061】
【数13】
【0062】
操業状態制御手段9では、要求点(x-kq,ykq)における制御入力ベクトルukqの決定にあたって、まず、要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)を参照し、[(x-ki,yki)](ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図4の処理203〜処理205)。
【0063】
データセットが存在すれば検索を終了し(図4の処理205でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図4の処理205でNo)、次に隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)を参照し、[(x-ki,yki)](ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図4の処理204、処理205)。
【0064】
ここで、データセットが存在すれば検索を終了し(図4の処理205でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図4の処理205でNo)、相似度s←s+1とし、更に隣の量子空間(すなわち相似度s=2の量子空間)を参照する・・・、という処理手順で検索用テーブル上の近傍空間Ω-qを単純かつ効率的に検索し、最終的にデータセットが存在する最小の相似度sで定義される近傍空間Ω-qに帰属するm個のデータセット[(x-ki,yki)](ki<kq)を要求点(x-kq,ykq)の過去の操業類似事例として抽出し(図4の処理206)、各操業類似事例の時刻kiにおける合計m個の制御入力ベクトルuki(ki<kq)を、要求点(xkq,ykq)における制御入力ベクトルukqの候補とする(図4の処理207、図12の処理405、処理406)。
【0065】
図5に、要求点x-kqと要求点を含む量子空間X-kq、要求点x-kqの近傍空間Ω-qと近傍空間Ω-qに帰属する要求点x-kqの過去の操業類似事例[(uki,x-ki,yki)](ki<kq)の関係を示す。なお、相空間Tは一般にn次の超直方体空間であるが、図5は説明のため2次元平面を用いている。
【0066】
図5は、要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)に近傍データセットが存在せず、隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)に近傍データセットが5つ存在した例を示している。本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)は、これら5つの近傍データセットの時刻又は時系列データベースの格納番号から、制御入力量を決定する。図5では、近傍空間Ω-qを定義する相似度sの最小値は1である。
【0067】
次に、制御入力の異なるm個の要求点(uki,x-kq,ykq)(ただし、ki<kqかつi=1、2、・・・、m)を設定し、各要求点が帰属する量子化空間、すなわち、(Uki,X-kq)の各量子空間に帰属するデータセットの出力ベクトルykqi(ただし、i=1、2、・・・、m)の推定値y^kqiを、前記局所モデルで計算する(図4の処理208)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(22)である。
【0068】
【数14】
【0069】
ここで、ykqiは量子化空間(Uki,X-kq)に帰属するデータセットの出力であり、Mqiはその数である。そして、下式(23)にしたがって、||ykqref−y^kqi||を最小とするkiのときの量子化空間Ukqi(kqi<kq)を選択し(図4の処理209)、||ykqref−y^kqi||≦||ykq-1ref−ykq-1||ならば(図4の処理210でYes)、このときの量子化空間Ukqi(kqi<kq)を制御入力空間Ukqiに決定する(図4の処理211)。
【0070】
【数15】
【0071】
一方、||ykqref−y^kqi||>||ykq-1ref−ykq-1||ならば(図4の処理210でNo)、最小相似度をs=s+1として、式(21)に戻り、要求点x-kqの近傍空間Ω-qを再度定義し(図4の処理206)、同様の処理手順(図4の処理207〜処理210)を繰り返して制御入力空間Ukqを決定する(図4の処理211)。
【0072】
最後に決定した制御入力空間Ukqに帰属する制御入力ベクトルukqを、前記局所モデルで計算する(図4の処理212、図12の処理407)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(24)となる。ここで、ukqjは量子化制御入力空間Ukqに帰属するデータセットの制御入力であり、Nqはその数である。
【0073】
【数16】
【0074】
なお、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)では、都度、局所モデルは廃棄され、観測データが新たに蓄積されてデータ集合[(u-k,x-k,yk)]が更新されていくことで、対象プロセスの経時的な特性変化が反映される(図4の処理220、処理221、図12の処理410〜処理413)。
【0075】
(本発明のプロセスの操業状態の制御方法:その2)
さらに、図1の操業状態制御手段9で操作変数ukqを決定するもう一つの本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)の数式を用いた処理を図6のフローチャートを参照して説明する。また、第2の発明の処理フローを図13に示し、以下に説明する第2の発明の数式を用いた処理フローとの対応を明示する。
【0076】
この方法では、前記のプロセスの操業状態の制御方法(その1)における式(20)に代えて、下式(25)をもとに制御入力ベクトルukqを決定する。
【0077】
【数17】
【0078】
具体的な処理手順は、以下のとおりである。すなわち、予測の必要が生じる都度、前記要求点(x-kq,ykq)を指定し(図6の処理300、図13の処理500〜処理502)、要求点x-kqを量子化して要求点x-kq含む量子空間をX-kqとし(図6の処理301、図13の処理503)、量子化した値を検索キーとして前記検索用テーブル上を検索し、要求点x-kqの近傍空間Ω-qを、式(21)と同様にして、下式(26)で定義する。ここで、Tは前記の相空間、sは前記と同様な相似度である(図6の処理302、図13の処理504)。
【0079】
【数18】
【0080】
操業状態制御手段9で、要求点(x-kq,ykq)における制御入力ベクトルukqの決定にあたって、まず、要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)を参照し、[(x-ki,yki)](ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図6の処理303〜処理305)。
【0081】
データセットが存在すれば検索を終了し(図6の処理305でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図6の処理305でNo)、次に隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)を参照し、[(x-ki,yki)](ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図6の処理304、処理305)。
【0082】
ここで、データセットが存在すれば検索を終了し(図6の処理305でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図6の処理305でNo)、相似度s←s+1とし、更に隣の量子空間(すなわち相似度s=2の量子空間)を参照する・・・、という処理手順で検索用テーブル上の近傍空間Ω-qを単純かつ効率的に検索し、最終的にデータセットが存在する最小の相似度sで定義される近傍空間Ω ̄qに帰属するm個のデータセット[(x-ki,yki)](ki<kq)を要求点(x-kq,ykq)の過去の操業類似事例として抽出し(図6の処理306)、各操業類似事例の時刻kiにおける合計m個の制御入力ベクトルuki(ki<kq)を、要求点(xkq,ykq)における制御入力ベクトルukqの候補とし、前記局所モデルで制御入力ベクトルu-kq計算する(図6の処理307、図13の処理505、処理506)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(27)となる。
【0083】
【数19】
【0084】
次に、式(19)を用いて、下式(28)に表わすように、式(27)の制御入力ベクトルu-kqが帰属する量子化制御入力空間U-kqを決定する(図6の処理308)。
【0085】
【数20】
【0086】
このときの要求点x-kqと要求点を含む量子空間X-kq、要求点x-kqの近傍空間Ω-q、近傍空間Ω-qに帰属する要求点x-kqの過去の操業類似事例[(uki,x-ki,yki)](ki<kq)の関係は、前記プロセスの操業状態の制御方法(その1)で示した図5と同じである。そして、前記量子空間Xkの場合と同様に量子化制御空間U-kqの類似度基準を定義する。ここでは、下式(29)に表わすように、量子空間相互の無限大ノルムで定義する相似度su(kp,kq)を例示する(図6の処理309)。ここで、式(27)の制御入力ベクトルu-kqが帰属する量子化制御入力空間U-kqの相似度su(kq,kq)は、下式(30)となる。
【0087】
【数21】
【0088】
次に、式(27)の制御入力ベクトルu-kqが帰属する量子化制御入力空間U-kqの近傍空間Ψqを、下式(31)で定義する。ここで、Nuは、量子化制御入力空間範囲を設定する相似度の値である。初期値Nu=0とし、上限値NuLを設定する(図6の処理310、図13の処理507)。
【0089】
【数22】
【0090】
まず、類似度su(kq,kp)=l(0≦l≦Nu)に対しUlkqが存在する場合、(Ulkq,X-kq)の量子空間に帰属するデータセットの出力ベクトルylkqの推定値y^lkqを、前記局所モデルで計算する(図6の処理311、図13の処理508)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(32)となる。
【0091】
【数23】
【0092】
ここで、ylkqiは量子化空間(Ulkq,X-kq)に帰属するデータセットの出力であり、Mqlはその数である。そして、量子化制御入力空間Ulkq(0≦l≦Nu)から、式(25)にしたがって、||ykqref−y^lkq||を最小とする量子化空間Ulkqを選択し(図6の処理312)、||ykqref−y^lkq||≦||ykq-1ref−ykq-1||ならば(図6の処理313でYes)、このときの量子化空間Ulkqを制御入力空間Ukqに決定する(図6の処理314)。
【0093】
一方、||ykqref−y^lkq||>||ykq-1ref−ykq-1||ならば(図6の処理313でNo)、量子化制御入力空間範囲設定値Nu=Nu+1として、式(31)に戻り、制御入力空間U-kqの近傍空間Ψqを再度定義し(図6の処理310)、同様の処理手順(図6の処理311〜処理313)をNuL=Nuとなるまで繰り返して制御入力空間Ukqを決定する(図6の処理314)。
【0094】
このときの入力点u-kqと入力点を含む量子空間U-kq、入力点u-kqの近傍空間Ψqと近傍空間Ψqに帰属する入力点u-kqの過去の近傍入力データセット[(l,uki)](ki<kq、0≦l≦Nu)の関係を図7に示す。なお、図7は説明のため2次元平面を用いている。
【0095】
最後に決定した制御入力空間Ukqに帰属する制御入力ベクトルukqを、前記局所モデルで計算する(図6の処理315、図13の処理509、処理510)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(33)となる。ここで、ukqjは量子化制御入力空間Ukqに帰属するデータセットの制御入力であり、Nqはその数である。
【0096】
【数24】
【0097】
なお、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)では、都度、局所モデルは廃棄され、観測データが新たに蓄積されてデータ集合、[(u-k,x-k,yk)]が更新されていくことで、対象プロセスの経時的な特性変化が反映される(図6の処理320、処理321、図13の処理520〜処理523)。
【0098】
(ステップワイズ法による時系列データベースを構成するプロセス変数の数の削減)
本発明においては、前記プロセスの操業状態の制御方法をオンラインで高速処理を実現することを目的に、時系列データベースを構成するプロセス変数の数を多変量解析で用いられるステップワイズ法によって予め削減することも可能である。
【0099】
ステップワイズ法とは、式(1)の回帰式モデルにおいて、できるだけ入力変数の数を少なくし、かつ観測値と予測値の差の平方和(残差平方和)が実用に耐え得るほど小さいものとするために、ある検定基準を設けて入力変数の追加、除去を行う方法である。すなわち、ある入力変数を回帰式モデルに追加した場合、残差平方和の変化量を残差分散で正規化した値、いわゆる"変数の寄与率F"が予め設けた検定基準より大きければその入力変数を追加し、ある入力変数を回帰式モデルから除去した場合の"変数の寄与率F"が検定基準より小さければ、その入力変数を除去する。この手順を出力変数との単相関係数の最も大きい入力変数から順に行い、ある段階で追加される入力変数も除去される入力変数もなくなったとき、最終的に得られた回帰式を最良の回帰式とするものである。ステップワイズ法のアルゴリズムについては、例えば非特許文献1に詳細に説明されている。
【0100】
(出力手段)
図1の出力手段10は、本発明のプロセスの操業状態の制御状態をディスプレイやモニタ等に表示する。
【0101】
(装置の実現)
なお、これまでに説明した本発明を実現する手段、すなわち図1の本発明によるプロセスの操業状態の制御装置3は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等で構成されるものであり、RAMやROMに記録されたプログラムが動作することによって実現できる。従って、コンピュータが上記機能を果たすように動作させるプログラムを記憶媒体に記録し、コンピュータに読み取らせることによって実現できるものである。記憶媒体としては、CD−ROM、DVD、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気テープ、不揮発性のメモリカード等を用いることができる。また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより上述の実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施形態の機能が実現される場合にもかかるプログラムコードは本発明の実施形態に含まれることは言うまでもない。
【0102】
(実施例)
本実施例は、ある高炉の時系列データを対象とした。データ項目数は235項目、サンプリング時間は1時間である。データ収集期間は2004年1月1日〜2005年1月31日でデータ点数は9528点である。
【0103】
本発明のプロセスの操業状態の制御方法の実施例を説明する前に、まず、図2の処理フローに従い、過去の操業状態の類似例を検索する方法と将来状態を予測する方法の実施例を説明する。
【0104】
(時系列データベースの作成)
ここでは、式(1)において入力変数ベクトルuと出力変数ベクトルyを区別せずに取り扱い、全ての変数は高炉から収集する変数ベクトルyで記述できるものとして説明する。すなわち、p時間後の高炉の将来状態は、下式(34)のような回帰式モデルで表現できると仮定する。
【0105】
【数25】
【0106】
このとき、式(34)を式(2)、(3)の如く、下式(35)、(36)と再定義したとき、高炉設備1から大量のデータセット[(xk,yk)](k=1、2、3、・・・)が時系列データベース4に蓄積される。
【0107】
【数26】
【0108】
(ステップワイズ法による時系列データベースを構成するプロセス変数の数の削減)
高炉から収集する変数の数がN個で、このうち第1変数y1を回帰式モデルの出力として式(34)を変数ベクトルの各要素で書くと、下式(37)となる。
【0109】
【数27】
【0110】
式(37)はp時間後の第1変数の値y1(t+p)が下式(38)で表わされる個数の変数の回帰式で表現されることを示している。
【0111】
【数28】
【0112】
高炉プロセスでは観測する変数の数Nが大きく、また短い周期から長い周期の特性を有する変数が多数混在しているため次数nyの値も予め大きく設定する必要があり、その結果、回帰式を構成する変数の数が膨大な数となる。本実施例では、予測時間p=1とし、予測したい出力変数y1を溶銑温度とする。1時間後の溶銑温度に影響を与える変数因子として現在値を含む過去12時間以内のデータで表現できると仮定、すなわちn1=n2=・・・=n235=12とすると、1時間後の溶銑温度y1(t+1)は、下式(39)の如く3055個の変数を持つ回帰式モデルとなる。
【0113】
【数29】
【0114】
本実施例では、ステップワイズ法を用いて1時間後の溶銑温度y1(t+1)に対する変数の寄与率(F値)を計算して入力変数を削減した。このとき、ステップワイズ法の一般的な検定基準Fin=Fout=2.0では変数415が選択されたが、ノイズとなる変数がまだ多く存在し、その結果、溶銑温度の予測精度が十分でなかったため、F値が20以上となる上位32変数を選択した(表1)。
【0115】
【表1】
【0116】
(プロセス変数値の量子化値を検索キーとする検索用テーブルの作成)
ステップワイズ法で選択した32変数について、各々量子数20で量子化し、量子化した32次元相空間を構築した。量子化数の設定にあたってはいくつかの指針があるが、ここではスタージェスの公式によって得られる量子数(下式(40))やLeave-one-out Cross Validation等を参考にして何通りか設定し、溶銑温度の予測精度が最良となる量子数20を選択した。
【0117】
【数30】
【0118】
(要求点の設定と過去の類似事例の検索)
2004年1月1日〜2005年1月31日の全データセット9528点の中から、2005年1月29日06:00のデータセットを取り出して要求点(xkq,ykq)とする。検索用テーブル作成手段6における要求点の量子化を実施し、要求点の量子空間Xkqと入力量子空間Xkとの相似度の計算により、要求点より過去のデータセット{(xki,yki)}(ki<kq)から近傍データセットを検索する。その結果、相似度s=2の近傍空間Ωqに5つのデータセットが存在し、すなわち2005年1月29日06:00のデータセットと類似した操業状態として、5ケースを検索できた(図8の(b))。このとき、相似度s=0、1、すなわち要求点が属する量子空間や一つ隣の量子空間には類似な操業事例が存在しなかった。なお、ここでは、相似度の計算に式(6)の量子空間相互の無限大ノルムを用いた。
【0119】
(将来状態の予測)
続いて、将来状態の予測事例を説明する。検索した近傍データセットの出力ベクトルykに対し、局所モデル式(9)を用いて出力変数、すなわち1時間後の溶銑温度を推定した。ここでは、全データ9528点のデータセットからランダムに200セットを取り出してそれぞれを要求点xkqとし、各要求点xkqの類似操業事例を前記手法で検索し、前記将来状態の予測方法を用いて1時間後の溶銑温度の予測値y^1kq+1を計算し実績値y1kq+1との相関で溶銑温度の予測精度を評価した例を示す(図9)。このとき相関係数ρは0.788であり、前記将来状態の予測方法を用いて、1時間後の溶銑温度が良好に予測できることが確認できる。なお、前記のごとく2005年1月29日06:00のデータセットを要求点(xkq,ykq)として検索した5つ近傍データセットの1時間後以降の実績値を用いて、1時間後だけでなく基準時間から将来の12時間にわたる溶銑温度の推移を、局所モデル式(9)を用いて予測することにより、2005年1月29日06:00以降12時間の溶銑温度推移予測値を実施することも可能である(図8の(a))。
【0120】
このとき、要求点(xkq,ykq)を2005年1月29日06:00から1時間毎将来にシフトして設定し、都度、過去の類似事例を検索して将来状態の予測を繰り返し、2005年1月29日06:00以降12時間の溶銑温度推移予測値を実施することも可能である。なお、ここでは、局所モデル式(9)として、最も単純な相加平均法を用いた。すなわち、要求点(xkq,ykq)の出力ベクトルykqの推定値ベクトルy^kqを、下式(41)で算出した。ここで、Mは近傍空間Ωqに属する出力ベクトルykの個数である。
【0121】
【数31】
【0122】
(1)本発明のプロセスの操業状態の制御方法:その1
ここから、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)の実施例を説明する。
式(1)を式(17)のごとく、再定義したとき、高炉設備1から大量のデータセット{(uk,x-k,yk)}(k=1、2、3、・・・)が時系列データベース4に蓄積される。
【0123】
(ステップワイズ法による時系列データベースを構成するプロセス変数の数の削減)
式(17)を変数ベクトルの各要素で書くと、下式(42)となる。
【0124】
【数32】
【0125】
本実施例では、回帰式モデルの入力変数をu1かつ遅れ時間d1,u=0、出力変数をy1かつ予測時間(ここでは、制御を実現したい将来時刻)p=1とした。このとき、式(42)は、下式(43)のようになる。本実施例では、入力変数u1すなわち操作変数にPCR量を、出力変数y1すなわち制御変数に溶銑温度を採用した例を示す。
【0126】
【数33】
【0127】
上述した過去の類似事例検索方法及び将来状態の予測方法の実施例において、時系列データベース4に蓄積される{(xk,yk)}(k=1、2、3、・・・)に対して実施した処理手順と同様にして、{(uk,x-k,yk)}(k=1、2、3、・・・)の入力空間x-kに対して、ステップワイズ法による時系列データベース及び検索用テーブルを構成するプロセス変数の数の削減を実施する。なお、本実施例は、表1のステップワイズ法による選択結果を利用した場合を例示する。
【0128】
(要求点の設定と過去の制御量の決定)
2004年1月1日〜2005年1月31日の全データセット9528点の中から、2005年1月1日06:00のデータセットを取り出して要求点(x-kq,ykq)とし、以後、図5の処理フローにしたがって本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)によってPCR量u1kqを決定した実施例を図10に示す。図10は、要求点の基準時刻2005年1月1日06:00で溶銑温度の目標値ykqrefを1530[℃]に設定して目標値制御を開始した場合の溶銑温度y1(制御変数)の応答と操作変数として採用したPCR量u1kqの応答を示す。図10は、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)によって、制御変数である溶銑温度y1が制御可能であることを示している。
【0129】
なお、ここでは、式(22)、式(24)の局所モデルに最も単純な相加平均法を用いた。すなわち、式(22)について、下式(44)である。また、式(24)について、下式(45)である。
【0130】
【数34】
【0131】
なお、図10は、2005年1月1日06:00のデータセットを要求点(x-kq,ykq)として、要求点(xkq,ykq)を2005年1月1日06:00から1時間毎将来にシフトして設定し、都度、PCR量u1kqの決定を繰り返し、2005年1月1日06:00以降24時間の溶銑温度y1の制御結果を示したものである。
【0132】
(2)本発明のプロセスの操業状態の制御方法:その2
最後に、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)の実施例を説明する。前記、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)と同様にして、2004年1月1日〜2005年1月31日の全データセット9528点の中から、2005年1月1日06:00のデータセットを取り出して要求点(x-kq,ykq)とし、以後、図7の処理フローにしたがって本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)によってPCR量u1kqを決定した実施例を図11に示す。
【0133】
図11は、要求点の基準時刻2005年1月1日06:00で溶銑温度の目標値ykqrefを1530[℃]に設定して目標値制御を開始した場合の溶銑温度y1(制御変数)の応答と操作変数として採用したPCR量u1kqの応答を示す。図11は、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)によって制御変数である溶銑温度y1が制御可能であることを示している。
【0134】
なお、ここでは、式(27)、式(32)、式(33)の局所モデルに最も単純な相加平均法を用いた。すなわち、式(27)について、下式(46)である。また、式(32)について、下式(47)である。さらに、式(34)について、下式(48)である。
【0135】
【数35】
【0136】
なお、図11は、2005年1月1日06:00のデータセットを要求点(x-kq,ykq)として、要求点(xkq,ykq)を2005年1月1日06:00から1時間毎将来にシフトして設定し、都度、PCR量u1kqの決定を繰り返し、2005年1月1日06:00以降24時間の溶銑温度y1の制御結果を示したものである。本実施例では、高炉プロセスを例に、操作変数にPCR量、制御変数に溶銑温度を用い、1入力1出力系の目標値追従制御問題として例示したが、これまでの説明および図2、図4、図6に例示した処理フローを用いることで、多入力多出力系の目標値追従制御を実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明を実施する装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】操業類似事例の検索方法及び将来状態の予測方法の処理を説明するフローチャートである。
【図3】類似操業事例の検索と将来状態の予測における要求点と近傍データセットを説明する図である。
【図4】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)の処理を説明するフローチャートである。
【図5】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)における要求点と近傍データセットを説明する図である。
【図6】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)の処理を説明するフローチャートである。
【図7】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)における入力点と近傍データセットを説明する図である。
【図8】要求点の設定と過去の類似操業事例検索結果の実施例を説明する図である。
【図9】1時間後の溶銑温度実績値と予測値の相関を説明する図である。
【図10】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)による制御結果例を説明する図である。
【図11】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)による制御結果例を説明する図である。
【図12】第1の発明の処理を説明するフローチャートである。
【図13】第2の発明の処理を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0138】
1 高炉設備
2 計測・制御装置
3 本発明のプロセスの操業状態の制御装置
4 時系列データベース
5 検索用テーブル作成手段
6 検索用テーブル
7 類似事例検索手段
8 将来状態予測手段
9 操業状態制御手段
10 表示手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造業における高炉等の製造プラント(以下では単に「プラント」と記す)の製造プロセス(以下では単に「プロセス」と記す)において、時系列データベースの中から指定する時刻の操業状態と類似の過去の操業事例を検索し、当該検索結果からプロセスの将来状態を予測し、当該予測結果と過去の操作事例からプロセスの制御変数を目標値になるように制御する操作量を決定するプロセスの操業状態の制御方法、装置、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、製造業における高炉等のプロセス操業において、操業不良又は操業異常が発生すると、人手により操業日誌等から過去の事例を探して、取るべき操業アクションを決定する行為が実施されていた。操業アクションの成功例、失敗例を問わず過去の操業知見を将来の操業改善に活用することは重要であるが、従来は蓄積された高炉等のプロセス操業状態の時系列データを十分に活用する手段がなく、操業者の記憶に頼るのが一般的であった。そのため、操業者の経験により意見の異なる操業アクションが選択される問題があった。
【0003】
本発明が対象とするプロセスは、高炉等の複雑、非線形、かつ非定常なプロセスである。このようなプロセスを対象とする数学モデルは、プロセスによっては連立する数式群に定式化されているものがあるが、これらの数式群を連立させた形で数値計算を行い、プロセスの動的挙動(時間的推移、ダイナミクス)を現実的な計算時間内でシミュレーションするには、現時点での計算機能力では限界がある場合が多い。
【0004】
そこで、事例ベース推論技術がいくつかの分野で利用されている。特許文献1では、過去の問題解決事例に基づいて現在の問題解決を行う事例ベース推論を適用する手法が開示されている。また、特許文献2では、事例ベース推論のための表形式のエディタを提案し、専門家の知識の体系化を支援する手法が開示されている。さらに、特許文献3では、浄水場プロセスの排水量予測システムを対象とし、また、特許文献4では、浄水場プロセスの濁度の予測、制御及び管理システムを対象として、複数の事例を一つ集約して代表事例から構成される事例ベースを構築し、プロセスの予測、制御及び管理を行う手法が開示されている。
【0005】
特許文献1に開示された手法は、ルール型問題の解決事例の1次解をユーザに提示し、ユーザに確認を求め、1次解が失敗事例と判断されれば、以前の失敗回避事例をもとに不足している制約を推測し、新たな2次解の候補をユーザに提示する手法である。事前に蓄積された知識データベースだけでは解決事例を導けない場合は、専門家(ユーザ)の情報を入力・編集し、知識データベースに記憶させるとされている。この手法の場合、ユーザが解決すべきルール型問題に対して、システムが提示する解が成功であるか否か、またシステムだけで解決事例を提示できない場合、どのような知識ルールを知識データベースに追加すべきかどうかに関して、十分な知識を有する専門家であることが前提であり、どのようなユーザに対しても有効な手法か否かという観点から、汎用性、客観性に欠ける。システムの予測精度を維持するとすれば、知識の収集、事例ベースの構築やその更新に、ユーザが大きな労力を費やさざるを得ない。
【0006】
特許文献2に開示された手法は、特許文献1と同様にルール型の事例ベース推論を基本とする手法である。計算機の専門知識を持たない現場の操業者が、自らのもつ専門知識をシステムに入力するのに際し、知識ルールを予め5つの種類に分類・体系化しておき、それぞれについて汎用的な表形式のエディタ画面を準備することにより、現場の操業者が知識ルールを入力することを容易かつ効率化し、事例ベース推論を用いたエキスパートシステムの開発効率、品質、保守性の向上を図る手法である。本手法も知識ルールの決定に基本的に人が介在するシステムであり、特許文献1と同様にどのような現場操業者に対しても有効な手法か否かという観点からは、汎用性及び客観性に欠ける。
【0007】
特許文献3及び4に開示された手法は、浄水設備の配水量の予測、濁度の予測や制御を目的とし、事例ベース推論の知識ルール生成に相当する事例ベース生成に、入力変数が構成する入力空間を量子化してプロセスの履歴データを配置し、1つ以上の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の履歴データを代表する事例を作成する手法である。本手法による知識ルールの生成には人の介在がなく、ユーザによる個人差の少ない汎用性及び客観性のある手法である。しかしながら、特許文献3及び4に開示された手法は、単位入力空間内の複数の履歴データを一つの代表する事例として集約してしまうため、本発明が対象とする高炉等の非線形プロセスのように、過去操業事例の類似事例検索結果から現在時刻の操業と類似な操業事例の時刻を特定し、操業日誌等と照らす等して現時刻で取るべき操業アクションを決定したい現場操業者にとって必要かつ重要な過去の類似事例の時刻情報が欠落してしまうという課題がある。
【0008】
特許文献5に開示された手法は、特許文献3及び4に開示されたものと同様の視点から事例ベース推論の知識ルール生成に相当する事例ベース生成に入力変数が構成する入力空間を量子化してプロセスの履歴データを配置する手法であり、ユーザによる個人差の少ない汎用性及び客観性のある手法である。量子化入力空間に履歴データを配置する際、その履歴データの時刻及び/又は時系列データベースの格納番号と合わせて格納した検索用テーブルを採用することにより、1つ以上の履歴データを有する単位入力空間ごとにその単位入力空間の履歴データを一つの代表する事例に集約することを回避する手法である。その結果、特許文献5に開示された手法は、過去操業事例の類似事例検索結果から現在時刻の操業と類似な操業事例の時刻が特定可能で、操業日誌等と照らす等して現時刻で取るべき操業アクションを決定したい現場操業者にとって必要かつ重要な過去の類似事例の時刻情報が提示可能な手法である。しかしながら、特許文献5ではプロセスの状態類似事例検索方法と状態予測方法について開示されているが、プロセスの操業制御方法については言及されていないため、特許文献5で開示された手法を基盤として、どのようにプロセスの操業状態を制御するかという課題が解決できなかった。
【0009】
【特許文献1】特開平3−132826号公報
【特許文献2】特開平7−271588号公報
【特許文献3】特開2001−288782号公報
【特許文献4】特開2002−119956号公報
【特許文献5】特開2004−310492号公報
【非特許文献1】河口至商著、多変量解析入門I、森北出版(1973年)、P.3〜33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、例えば鉄鋼業における製造プラントの製造プロセスにおいて、複雑、非線形かつ非定常な高炉等のプロセスの過去操業事例を、該時刻を特定した形で高速かつ高精度に検索し、該時刻における操業状態の推移情報から、プロセスの操業状態の制御を的確に実施可能とするオンライン制御手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段として、本発明によるプロセスの操業状態の制御方法について説明すれば、本発明のプロセスの操業状態の制御方法は、製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する方法において、現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する工程と、該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する工程と、前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数、及び制御変数の目標値を予め設定する工程と、制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する工程と、該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する工程と、該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする工程と、該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する工程と、予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する工程を有する点に特徴を有する。
本発明の他のプロセスの操業状態の制御方法は、製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する方法において、現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する工程と、該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する工程と、前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数及び制御変数の目標値を予め設定する工程と、制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する工程と、該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する工程と、該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする工程と、該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する工程と、予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値を取り出して量子化し、予め設定した類似度指標と予め設定した制御入力空間の近傍範囲値に従い、前記検索テーブル上の制御入力量子化空間を決定する工程と、該制御入力量子化空間に格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した前記時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する工程を有する点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物理現象が複雑で非線形性が強い高炉等の大量に蓄積される時系列データについて、プラントの設備設計上或いはプロセス操業において予め定格として定めた動作点(すなわち定格設計点)以外の幅広い動作範囲にわたりプロセスデータ(プロセス変数値)を時系列データベースにオンラインでシステマティックに蓄積することによって、過去の類似操業事例の検索に基づく操業状態の制御量の計算を逐次、オンラインで高速に実現する。そして、操業アクションの判断にあたって操業者やプロセス技術者に有益なガイダンス情報を提供し、プロセス操業の安定化に大きく寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明によるプロセスの操業状態の制御方法、装置、及びコンピュータプログラムを実施するための最良の形態について、高炉を例にして説明する。ここでは高炉を例に説明するが、以下の如く、本発明のプロセスの操業状態の制御方法等の詳細を一般的な数式等を用いて説明できることから、高炉以外のプロセスについても実施可能である。
【0014】
図1は、本発明のプロセスの操業状態の制御装置の構成を示すブロック図である。同図において、1は高炉設備であり、温度、圧力、ガス成分、位置等のプロセス変数を計測する各種のセンサが複数設置されている。
【0015】
2は高炉設備1の計測・制御装置であり、高炉設備1に設置した前記各種センサで計測した各種のプロセス変数の時系列データを収集し、高炉の操業オペレータに提示し、必要に応じて操業オペレータの介在のもと高炉の制御操作を実施する。
【0016】
3は本発明を適用したプロセスの操業状態の制御装置である。計測・制御装置2を経由して計測した各種プロセス変数の時系列データが、一定時間毎に時系列データベース4に格納される。ここでは説明のため一定時間周期で格納されるものとするが、プロセス変数の種類によって時系列データベース4への格納周期が異なる場合は、短周期のプロセス変数に合わせて長周期のプロセス変数の値をホールドすることによって短周期のプロセス変数に変換して、以後、同様の取り扱いが可能であることは言うまでもない。
【0017】
4は時系列データベース4であり、溶銑温度、微粉炭吹き込み量、ソリューションロスカーボン、熱流比、装入ピッチ、溶銑中Si濃度、溶銑中Ti濃度、熱風温度、炉頂温度、熱負荷、炉頂ガスCO濃度、出銑速度、PCR(微粉炭比)、スラグ中Al2O2量、スラグ中TiO2量の現在値又はこれらの時間遅れ変数から少なくとも一つ以上が選択されたプロセス変数の組が、当該時刻データ又は当該時系列データベースの格納番号と共に格納されている。
【0018】
本発明のプロセスの操業状態の制御方法は、近年、計算機ハードウエアやデータベースシステム技術の発展に伴って大量データの蓄積と高速検索が可能になったことを背景とする新しい考え方の局所的なモデリング手法である。以後、本発明のプロセスの操業状態の制御方法の詳細を一般的に説明するため、時系列データベース4に格納されるプロセス変数を観測出力ベクトルy及び制御入力ベクトルu、当該時刻データtと表記して説明する。当該時刻データtを当該時系列データベース格納番号として表現しても一般性は失われない。したがって、以後、当該時刻データtのみを用いて説明を実施する。
【0019】
なお、明細書中の文では分けて示さないが、各式において、行列を大文字の太字書体で、ベクトルを小文字の太字書体で、スカラを小文字の斜字体で示す。
【0020】
(基本的な考え方)
一般に、ある時刻において対象とするシステムから観測されるデータ、すなわちシステムの状態変数の一組(データセット)をシステムの相(又は位相)と呼び、システムがとりうる相の全体をシステムの相空間(Topological Space)と呼ぶ。このときシステムの相がn個の数値の組で表わせるとき、nをシステムの次元と呼び、n次元システムの相空間はn次元ユークリッド空間Rn又はその一部の領域Dである。ある時刻のシステムの相は、相空間T上の点である。このことを強調するために相のことを相点とも呼ぶ。また、一般に、システムに非線形性が存在すると、例え次数nが小さいシステムであってもシステムの時間的変動(動的挙動、ダイナミックス)は複雑な挙動を呈する。この場合、システムの相空間に観測データの時間遅れ座標軸を考慮すると、システムの時間的変動を顕在化でき、このような相空間Tを非線形システム論では再構成状態空間と呼ぶ。
【0021】
本発明のプロセスの操業状態の制御方法は、プロセス変数の時間遅れ変数を考慮した前記相空間Tを検索用テーブルに採用する。
【0022】
まず、過去の類似操業事例の探索方法と将来状態の予測方法について数式を用いた処理を図2のフローチャートを参照して説明する。対象とするプロセスは非線形で動的なシステムであり、時間的挙動が下式(1)の回帰式モデルで与えられると仮定する。
【0023】
【数1】
【0024】
このとき、プロセスの入力ベクトルxkと出力ベクトルykを下式(2)、下式(3)のように再定義すると、時刻tの推移に伴い入力ベクトルxkと出力ベクトルykのデータセットが(x1,y1)、(x2,y2)、・・・の如く高炉設備1から大量に収集され、データ集合{(xk,yk)}(k=1、2、・・・)として図1の時系列データベース4に蓄積される。ここで、kは時刻tの離散化時間である(図2の処理110、処理111)。
【0025】
【数2】
【0026】
過去の類似操業事例の探索方法と将来状態の予測方法は、プロセスの操業状態の過去類似事例探索や予測の必要が生じる都度、蓄積されているデータ集合{(xk,yk)}から非線形関数fを求めることに相当する。すなわち、過去類似事例探索や予測の必要が生じる都度、前記要求点(xkq,ykq)を指定し(図2の処理100)、要求点を量子化し(図2の処理101)、量子化した値を検索キーとして前記検索用テーブル上を検索し(図2の処理102〜処理107)、類似度基準に従い、要求点に類似した前記近傍データセット{(xki,yki)}(ki<kq)が過去に観測されてデータ集合に存在すれば、前記要求点の時間的発展を記述する(すなわち予測する)非線形関数fkqは、過去の非線形関数fkiと似たものになるとする考え方である。
【0027】
このとき、近傍データセットが複数存在すれば、これらのデータセットの出力ベクトルykiを補間する局所モデルを用い(図2の処理108)、システムの出力ベクトルykqを予測する(図2の処理109)。都度、局所モデルは廃棄され、観測データが新たに蓄積されてデータ集合{(xk,yk)}が更新されていくことで、対象プロセスの経時的な特性変化が反映される(図2の処理110、処理111)。
【0028】
以後、過去の類似操業事例の探索方法と将来状態の予測方法の処理フローの詳細をあらためて図2のフローチャートを参照して説明する。
【0029】
(プロセス変数値の量子化値を検索キーとする検索用テーブルの作成)
大量に蓄積されるデータセットをオンラインで高速に扱うことを実現するため、プロセス変数値を相空間T上の量子化された検索用テーブルに格納しておき、この検索用テーブル上で前記要求点の近傍データセットを量子単位で検索することによって検索の効率化と計算負荷の大幅な低減を図る。
【0030】
図1の検索用テーブル作成手段5は、入力ベクトルxkを量子化し、量子空間Xkを下式(4)で定義する(図2の処理110、処理111)。
【0031】
【数3】
【0032】
ここで、Z(・)は量子化演算子であり、入力ベクトルxkの第l番目の要素xlkに対し、予め設定しておく最大値xl_max及び最小値xl_minと量子化数nlを用いて、量子空間Xkの第1番目の要素nlkを下式(5)で計算する。round(・)は、小数点以下四捨五入して最も近い整数値に丸める関数である。このとき、小数点以下切り上げ、又は切り下げによって整数値に丸めても構わない。
【0033】
【数4】
【0034】
また、式(5)は量子化数nlを用いた均等幅での量子化を例示したが、要素xlkの分散又は標準偏差の値に基づき、不等分割幅による量子化を用いても構わない。
【0035】
図1の検索用テーブル作成手段5における量子化演算によって、量子空間Xkすなわち図1の検索用テーブル6が定義される。検索用テーブル6は、量子空間Xkが1次元では区間、2次元では平面、一般には相空間Tの次元数nに対応したn次の超直方体空間となる。
【0036】
(検索用テーブル上の類似度基準)
図1の類似事例検索手段7は、要求点を量子化した値を検索キーとして前記検索用テーブルを検索し、類似度基準に従って要求点の近傍データセットを抽出し、過去のプロセスの操業状態の類似事例を検索する。ここで、量子空間XkiとXkjの類似度基準として、量子空間相互の無限大ノルムで定義する相似度s(kl,kj)を下式(6)に例示する(図2の処理102)。また、相似度s(kl,kj)には、他に、下式(7)に例示する量子空間ベクトルの差の絶対値の和を用いることも可能である。
【0037】
【数5】
【0038】
なお、量子空間XkiとXkjの類似度基準として更に別の相似度の定義を用いてもかまわない。
【0039】
(相似度を用いた要求点の近傍空間の定義)
要求点xkqが属する量子空間をXkqとし、要求点xkqの近傍空間Ωqを、下式(8)で定義する。ここで、Tは上述した相空間である。
【0040】
【数6】
【0041】
(要求点の近傍空間を用いた過去の操業類似事例の検索)
図1の類似事例検索手段7における過去の操業類似事例の検索方法について説明する。ここで、相似度sは離散値である。類似事例検索手段7で要求点(xkq,ykq)の過去の操業類似事例を検索するには、まず、近傍空間Ωq内の要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)を参照し、{(xki,yki)}(ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図2の処理103、処理104)。
【0042】
データセットが存在すれば検索を終了し(図2の処理105でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図2の処理105でNo)、次に隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)を参照し、再び、近傍空間Ωq中で{(xki,yki)}(ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図2の処理104、処理105)。
【0043】
ここで、データセットが存在すれば検索を終了し(図2の処理105でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図2の処理105でNo)、更に隣の量子空間(すなわち相似度s=2の量子空間)を参照する・・・、という処理手順で検索用テーブル上の近傍空間Ωqを単純かつ効率的に検索し、最終的にデータセットが存在する最小の相似度sで定義される近傍空間Ωqに帰属するデータセット{(xki,yki)}(ki<kq)を、要求点(xkq,ykq)の過去の操業類似事例とする(図2の処理106、処理107)。
【0044】
図3に、要求点xkqと要求点を含む量子空間Xkq、要求点xkqの近傍空間Ωqと近傍空間Ωqに帰属する要求点xkqの過去の操業類似事例{(xki,yki)}(ki<kq)の関係を示す。なお、相空間Tは一般にn次の超直方体空間であるが、図3は説明のため2次元平面を用いている。図3は、要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)に近傍データセットが存在せず、隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)に近傍データセットが6つ存在した例を示している。類似事例検索方法は、これら6つの近傍データセットの時刻又は時系列データベースの格納番号から、過去の操業類似事例を特定する。図3では、近傍空間Ωqを定義する相似度sの最小値は1である。
【0045】
(要求点の近傍空間を用いた将来状態予測)
図1の将来状態予測手段8における将来状態予測方法について、図2のフローチャートを参照して説明する。図1の将来状態予測手段8は、類似事例検索手段7で抽出した要求点xkqの近傍データセットの出力ベクトルyki(ki<kq)を補間する局所モデルを用いて、出力ベクトルの推定値y^kqの計算、すなわち将来状態の予測を実施する(図2の処理108)。下式(9)に重み付き線形平均法(LWA)を、下式(10)に重み付き局所回帰法(LWR)を表わす。なお、本明細書において「a^」という表記は、aの上に^を付した記号を表わすものとする。
【0046】
【数7】
【0047】
このとき、y^kqは要求点(xkq,ykq)の出力ベクトルykqの推定値ベクトルであり、θ、θ^は局所モデルのパラメータとその同定値である。wiは要求点の近傍データセットのうち第i番目のデータに対応する重みであり、mは近傍空間Ωqに属する近傍データセット、すなわち、要求点xkqの過去の操業類似事例{(xki,yki)}(ki<kq)の数である。
【0048】
ここで、式(9)、式(10)で例示した局所モデルの重みwiの特性として、要求点と近傍データセット間の距離dによって両者の距離が遠ければ0に近づき、逆に近ければ1に近づくような重み関数として、下式(11)のGaussian関数、下式(12)のTricube関数、下式(13)の逆距離関数を例示する。なお、他の重み関数を用いても構わないことは言うまでもない。
【0049】
【数8】
【0050】
(本発明のプロセスの操業状態の制御方法:その1)
図1の操業状態制御手段9における本発明によるプロセスの操業状態の制御方法の数式を用いた処理を図4のフローチャートを参照して説明する。また、第1の発明の処理フローを図12に示し、以下に説明する第1の発明の数式を用いた処理フローとの対応を明示する。
【0051】
図1の操業状態制御手段9は、将来状態予測手段8で前記局所モデルを用いて推定した要求点(xkq,ykq)の出力ベクトルykqの推定値ベクトルy^kqが、予め設定する目標値ベクトルykqrefに近づくような要求点の入力ベクトルxkqを構成する制御入力ベクトルukqを決定する。説明のため、式(1)において、プロセスの制御入力ベクトルuk、状態ベクトルx-k、出力ベクトルykを式(14)、式(15)、式(16)のように再定義する。なお、本明細書において「a-」という表記は、aの上に-を付した記号を表わすものとする。
【0052】
【数9】
【0053】
このとき、式(1)は、下式(17)となる。
【0054】
【数10】
【0055】
ここで、ukは離散化時刻kにおけるプロセスの操業上の制御入力ベクトルであり、Fは非線形関数である(図4の処理220、図12の処理410)。図1の検索用テーブル作成手段5で、プロセスの制御入力ベクトルuk、状態ベクトルx-kが各々構成する相空間を量子化し、量子空間X-k及びUkを下式(18)、(19)のように定義する。
【0056】
【数11】
【0057】
ここで、Z(・)は前記と同様の量子化演算子である。要求点を(x-kq,y-kq)とすれば、Ukは選択できる現在の時刻kの制御入力空間となり、このことを利用して量子化した制御入力空間Ukに対する目標値追従問題を考える(図4の処理221、図12の処理411、処理412、処理413)。
【0058】
すなわち、図1の操業状態制御手段9は、要求点(x-kq,ykq)に対し、局所モデルを用いて推定する出力ベクトルykqの推定値ベクトルy^kqが、予め設定する目標値ベクトルykqrefに近づくような制御入力ベクトルukqを下式(20)をもとに決定する。
【0059】
【数12】
【0060】
具体的な処理手順は、以下のとおりである。すなわち、予測の必要が生じる都度、前記要求点(x-kq,ykq)を指定し(図4の処理200、図12の処理400〜処理402)、要求点を量子化して要求点x-kqを含む量子空間をX-kqとし(図4の処理201、図12の処理403)、量子化した値を検索キーとして前記検索用テーブル上を検索し、要求点x-kqの近傍空間Ω-qを、式(8)と同様にして、下式(21)で定義する。ここで、Tは前記の相空間、sは前記と同様な相似度である(図4の処理202、図12の処理404)。
【0061】
【数13】
【0062】
操業状態制御手段9では、要求点(x-kq,ykq)における制御入力ベクトルukqの決定にあたって、まず、要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)を参照し、[(x-ki,yki)](ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図4の処理203〜処理205)。
【0063】
データセットが存在すれば検索を終了し(図4の処理205でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図4の処理205でNo)、次に隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)を参照し、[(x-ki,yki)](ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図4の処理204、処理205)。
【0064】
ここで、データセットが存在すれば検索を終了し(図4の処理205でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図4の処理205でNo)、相似度s←s+1とし、更に隣の量子空間(すなわち相似度s=2の量子空間)を参照する・・・、という処理手順で検索用テーブル上の近傍空間Ω-qを単純かつ効率的に検索し、最終的にデータセットが存在する最小の相似度sで定義される近傍空間Ω-qに帰属するm個のデータセット[(x-ki,yki)](ki<kq)を要求点(x-kq,ykq)の過去の操業類似事例として抽出し(図4の処理206)、各操業類似事例の時刻kiにおける合計m個の制御入力ベクトルuki(ki<kq)を、要求点(xkq,ykq)における制御入力ベクトルukqの候補とする(図4の処理207、図12の処理405、処理406)。
【0065】
図5に、要求点x-kqと要求点を含む量子空間X-kq、要求点x-kqの近傍空間Ω-qと近傍空間Ω-qに帰属する要求点x-kqの過去の操業類似事例[(uki,x-ki,yki)](ki<kq)の関係を示す。なお、相空間Tは一般にn次の超直方体空間であるが、図5は説明のため2次元平面を用いている。
【0066】
図5は、要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)に近傍データセットが存在せず、隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)に近傍データセットが5つ存在した例を示している。本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)は、これら5つの近傍データセットの時刻又は時系列データベースの格納番号から、制御入力量を決定する。図5では、近傍空間Ω-qを定義する相似度sの最小値は1である。
【0067】
次に、制御入力の異なるm個の要求点(uki,x-kq,ykq)(ただし、ki<kqかつi=1、2、・・・、m)を設定し、各要求点が帰属する量子化空間、すなわち、(Uki,X-kq)の各量子空間に帰属するデータセットの出力ベクトルykqi(ただし、i=1、2、・・・、m)の推定値y^kqiを、前記局所モデルで計算する(図4の処理208)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(22)である。
【0068】
【数14】
【0069】
ここで、ykqiは量子化空間(Uki,X-kq)に帰属するデータセットの出力であり、Mqiはその数である。そして、下式(23)にしたがって、||ykqref−y^kqi||を最小とするkiのときの量子化空間Ukqi(kqi<kq)を選択し(図4の処理209)、||ykqref−y^kqi||≦||ykq-1ref−ykq-1||ならば(図4の処理210でYes)、このときの量子化空間Ukqi(kqi<kq)を制御入力空間Ukqiに決定する(図4の処理211)。
【0070】
【数15】
【0071】
一方、||ykqref−y^kqi||>||ykq-1ref−ykq-1||ならば(図4の処理210でNo)、最小相似度をs=s+1として、式(21)に戻り、要求点x-kqの近傍空間Ω-qを再度定義し(図4の処理206)、同様の処理手順(図4の処理207〜処理210)を繰り返して制御入力空間Ukqを決定する(図4の処理211)。
【0072】
最後に決定した制御入力空間Ukqに帰属する制御入力ベクトルukqを、前記局所モデルで計算する(図4の処理212、図12の処理407)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(24)となる。ここで、ukqjは量子化制御入力空間Ukqに帰属するデータセットの制御入力であり、Nqはその数である。
【0073】
【数16】
【0074】
なお、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)では、都度、局所モデルは廃棄され、観測データが新たに蓄積されてデータ集合[(u-k,x-k,yk)]が更新されていくことで、対象プロセスの経時的な特性変化が反映される(図4の処理220、処理221、図12の処理410〜処理413)。
【0075】
(本発明のプロセスの操業状態の制御方法:その2)
さらに、図1の操業状態制御手段9で操作変数ukqを決定するもう一つの本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)の数式を用いた処理を図6のフローチャートを参照して説明する。また、第2の発明の処理フローを図13に示し、以下に説明する第2の発明の数式を用いた処理フローとの対応を明示する。
【0076】
この方法では、前記のプロセスの操業状態の制御方法(その1)における式(20)に代えて、下式(25)をもとに制御入力ベクトルukqを決定する。
【0077】
【数17】
【0078】
具体的な処理手順は、以下のとおりである。すなわち、予測の必要が生じる都度、前記要求点(x-kq,ykq)を指定し(図6の処理300、図13の処理500〜処理502)、要求点x-kqを量子化して要求点x-kq含む量子空間をX-kqとし(図6の処理301、図13の処理503)、量子化した値を検索キーとして前記検索用テーブル上を検索し、要求点x-kqの近傍空間Ω-qを、式(21)と同様にして、下式(26)で定義する。ここで、Tは前記の相空間、sは前記と同様な相似度である(図6の処理302、図13の処理504)。
【0079】
【数18】
【0080】
操業状態制御手段9で、要求点(x-kq,ykq)における制御入力ベクトルukqの決定にあたって、まず、要求点を含む同一量子空間(すなわち相似度s=0の量子空間)を参照し、[(x-ki,yki)](ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図6の処理303〜処理305)。
【0081】
データセットが存在すれば検索を終了し(図6の処理305でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図6の処理305でNo)、次に隣の量子空間(すなわち相似度s=1の量子空間)を参照し、[(x-ki,yki)](ki<kq)となるデータセットが存在するか否かをチェックする(図6の処理304、処理305)。
【0082】
ここで、データセットが存在すれば検索を終了し(図6の処理305でYes)、もしデータセットが存在しなければ(図6の処理305でNo)、相似度s←s+1とし、更に隣の量子空間(すなわち相似度s=2の量子空間)を参照する・・・、という処理手順で検索用テーブル上の近傍空間Ω-qを単純かつ効率的に検索し、最終的にデータセットが存在する最小の相似度sで定義される近傍空間Ω ̄qに帰属するm個のデータセット[(x-ki,yki)](ki<kq)を要求点(x-kq,ykq)の過去の操業類似事例として抽出し(図6の処理306)、各操業類似事例の時刻kiにおける合計m個の制御入力ベクトルuki(ki<kq)を、要求点(xkq,ykq)における制御入力ベクトルukqの候補とし、前記局所モデルで制御入力ベクトルu-kq計算する(図6の処理307、図13の処理505、処理506)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(27)となる。
【0083】
【数19】
【0084】
次に、式(19)を用いて、下式(28)に表わすように、式(27)の制御入力ベクトルu-kqが帰属する量子化制御入力空間U-kqを決定する(図6の処理308)。
【0085】
【数20】
【0086】
このときの要求点x-kqと要求点を含む量子空間X-kq、要求点x-kqの近傍空間Ω-q、近傍空間Ω-qに帰属する要求点x-kqの過去の操業類似事例[(uki,x-ki,yki)](ki<kq)の関係は、前記プロセスの操業状態の制御方法(その1)で示した図5と同じである。そして、前記量子空間Xkの場合と同様に量子化制御空間U-kqの類似度基準を定義する。ここでは、下式(29)に表わすように、量子空間相互の無限大ノルムで定義する相似度su(kp,kq)を例示する(図6の処理309)。ここで、式(27)の制御入力ベクトルu-kqが帰属する量子化制御入力空間U-kqの相似度su(kq,kq)は、下式(30)となる。
【0087】
【数21】
【0088】
次に、式(27)の制御入力ベクトルu-kqが帰属する量子化制御入力空間U-kqの近傍空間Ψqを、下式(31)で定義する。ここで、Nuは、量子化制御入力空間範囲を設定する相似度の値である。初期値Nu=0とし、上限値NuLを設定する(図6の処理310、図13の処理507)。
【0089】
【数22】
【0090】
まず、類似度su(kq,kp)=l(0≦l≦Nu)に対しUlkqが存在する場合、(Ulkq,X-kq)の量子空間に帰属するデータセットの出力ベクトルylkqの推定値y^lkqを、前記局所モデルで計算する(図6の処理311、図13の処理508)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(32)となる。
【0091】
【数23】
【0092】
ここで、ylkqiは量子化空間(Ulkq,X-kq)に帰属するデータセットの出力であり、Mqlはその数である。そして、量子化制御入力空間Ulkq(0≦l≦Nu)から、式(25)にしたがって、||ykqref−y^lkq||を最小とする量子化空間Ulkqを選択し(図6の処理312)、||ykqref−y^lkq||≦||ykq-1ref−ykq-1||ならば(図6の処理313でYes)、このときの量子化空間Ulkqを制御入力空間Ukqに決定する(図6の処理314)。
【0093】
一方、||ykqref−y^lkq||>||ykq-1ref−ykq-1||ならば(図6の処理313でNo)、量子化制御入力空間範囲設定値Nu=Nu+1として、式(31)に戻り、制御入力空間U-kqの近傍空間Ψqを再度定義し(図6の処理310)、同様の処理手順(図6の処理311〜処理313)をNuL=Nuとなるまで繰り返して制御入力空間Ukqを決定する(図6の処理314)。
【0094】
このときの入力点u-kqと入力点を含む量子空間U-kq、入力点u-kqの近傍空間Ψqと近傍空間Ψqに帰属する入力点u-kqの過去の近傍入力データセット[(l,uki)](ki<kq、0≦l≦Nu)の関係を図7に示す。なお、図7は説明のため2次元平面を用いている。
【0095】
最後に決定した制御入力空間Ukqに帰属する制御入力ベクトルukqを、前記局所モデルで計算する(図6の処理315、図13の処理509、処理510)。例えば、重み付き線形平均法(LWA)を局所モデルに用いた場合、下式(33)となる。ここで、ukqjは量子化制御入力空間Ukqに帰属するデータセットの制御入力であり、Nqはその数である。
【0096】
【数24】
【0097】
なお、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)では、都度、局所モデルは廃棄され、観測データが新たに蓄積されてデータ集合、[(u-k,x-k,yk)]が更新されていくことで、対象プロセスの経時的な特性変化が反映される(図6の処理320、処理321、図13の処理520〜処理523)。
【0098】
(ステップワイズ法による時系列データベースを構成するプロセス変数の数の削減)
本発明においては、前記プロセスの操業状態の制御方法をオンラインで高速処理を実現することを目的に、時系列データベースを構成するプロセス変数の数を多変量解析で用いられるステップワイズ法によって予め削減することも可能である。
【0099】
ステップワイズ法とは、式(1)の回帰式モデルにおいて、できるだけ入力変数の数を少なくし、かつ観測値と予測値の差の平方和(残差平方和)が実用に耐え得るほど小さいものとするために、ある検定基準を設けて入力変数の追加、除去を行う方法である。すなわち、ある入力変数を回帰式モデルに追加した場合、残差平方和の変化量を残差分散で正規化した値、いわゆる"変数の寄与率F"が予め設けた検定基準より大きければその入力変数を追加し、ある入力変数を回帰式モデルから除去した場合の"変数の寄与率F"が検定基準より小さければ、その入力変数を除去する。この手順を出力変数との単相関係数の最も大きい入力変数から順に行い、ある段階で追加される入力変数も除去される入力変数もなくなったとき、最終的に得られた回帰式を最良の回帰式とするものである。ステップワイズ法のアルゴリズムについては、例えば非特許文献1に詳細に説明されている。
【0100】
(出力手段)
図1の出力手段10は、本発明のプロセスの操業状態の制御状態をディスプレイやモニタ等に表示する。
【0101】
(装置の実現)
なお、これまでに説明した本発明を実現する手段、すなわち図1の本発明によるプロセスの操業状態の制御装置3は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等で構成されるものであり、RAMやROMに記録されたプログラムが動作することによって実現できる。従って、コンピュータが上記機能を果たすように動作させるプログラムを記憶媒体に記録し、コンピュータに読み取らせることによって実現できるものである。記憶媒体としては、CD−ROM、DVD、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、磁気テープ、光磁気テープ、不揮発性のメモリカード等を用いることができる。また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより上述の実施形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムコードがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施形態の機能が実現される場合にもかかるプログラムコードは本発明の実施形態に含まれることは言うまでもない。
【0102】
(実施例)
本実施例は、ある高炉の時系列データを対象とした。データ項目数は235項目、サンプリング時間は1時間である。データ収集期間は2004年1月1日〜2005年1月31日でデータ点数は9528点である。
【0103】
本発明のプロセスの操業状態の制御方法の実施例を説明する前に、まず、図2の処理フローに従い、過去の操業状態の類似例を検索する方法と将来状態を予測する方法の実施例を説明する。
【0104】
(時系列データベースの作成)
ここでは、式(1)において入力変数ベクトルuと出力変数ベクトルyを区別せずに取り扱い、全ての変数は高炉から収集する変数ベクトルyで記述できるものとして説明する。すなわち、p時間後の高炉の将来状態は、下式(34)のような回帰式モデルで表現できると仮定する。
【0105】
【数25】
【0106】
このとき、式(34)を式(2)、(3)の如く、下式(35)、(36)と再定義したとき、高炉設備1から大量のデータセット[(xk,yk)](k=1、2、3、・・・)が時系列データベース4に蓄積される。
【0107】
【数26】
【0108】
(ステップワイズ法による時系列データベースを構成するプロセス変数の数の削減)
高炉から収集する変数の数がN個で、このうち第1変数y1を回帰式モデルの出力として式(34)を変数ベクトルの各要素で書くと、下式(37)となる。
【0109】
【数27】
【0110】
式(37)はp時間後の第1変数の値y1(t+p)が下式(38)で表わされる個数の変数の回帰式で表現されることを示している。
【0111】
【数28】
【0112】
高炉プロセスでは観測する変数の数Nが大きく、また短い周期から長い周期の特性を有する変数が多数混在しているため次数nyの値も予め大きく設定する必要があり、その結果、回帰式を構成する変数の数が膨大な数となる。本実施例では、予測時間p=1とし、予測したい出力変数y1を溶銑温度とする。1時間後の溶銑温度に影響を与える変数因子として現在値を含む過去12時間以内のデータで表現できると仮定、すなわちn1=n2=・・・=n235=12とすると、1時間後の溶銑温度y1(t+1)は、下式(39)の如く3055個の変数を持つ回帰式モデルとなる。
【0113】
【数29】
【0114】
本実施例では、ステップワイズ法を用いて1時間後の溶銑温度y1(t+1)に対する変数の寄与率(F値)を計算して入力変数を削減した。このとき、ステップワイズ法の一般的な検定基準Fin=Fout=2.0では変数415が選択されたが、ノイズとなる変数がまだ多く存在し、その結果、溶銑温度の予測精度が十分でなかったため、F値が20以上となる上位32変数を選択した(表1)。
【0115】
【表1】
【0116】
(プロセス変数値の量子化値を検索キーとする検索用テーブルの作成)
ステップワイズ法で選択した32変数について、各々量子数20で量子化し、量子化した32次元相空間を構築した。量子化数の設定にあたってはいくつかの指針があるが、ここではスタージェスの公式によって得られる量子数(下式(40))やLeave-one-out Cross Validation等を参考にして何通りか設定し、溶銑温度の予測精度が最良となる量子数20を選択した。
【0117】
【数30】
【0118】
(要求点の設定と過去の類似事例の検索)
2004年1月1日〜2005年1月31日の全データセット9528点の中から、2005年1月29日06:00のデータセットを取り出して要求点(xkq,ykq)とする。検索用テーブル作成手段6における要求点の量子化を実施し、要求点の量子空間Xkqと入力量子空間Xkとの相似度の計算により、要求点より過去のデータセット{(xki,yki)}(ki<kq)から近傍データセットを検索する。その結果、相似度s=2の近傍空間Ωqに5つのデータセットが存在し、すなわち2005年1月29日06:00のデータセットと類似した操業状態として、5ケースを検索できた(図8の(b))。このとき、相似度s=0、1、すなわち要求点が属する量子空間や一つ隣の量子空間には類似な操業事例が存在しなかった。なお、ここでは、相似度の計算に式(6)の量子空間相互の無限大ノルムを用いた。
【0119】
(将来状態の予測)
続いて、将来状態の予測事例を説明する。検索した近傍データセットの出力ベクトルykに対し、局所モデル式(9)を用いて出力変数、すなわち1時間後の溶銑温度を推定した。ここでは、全データ9528点のデータセットからランダムに200セットを取り出してそれぞれを要求点xkqとし、各要求点xkqの類似操業事例を前記手法で検索し、前記将来状態の予測方法を用いて1時間後の溶銑温度の予測値y^1kq+1を計算し実績値y1kq+1との相関で溶銑温度の予測精度を評価した例を示す(図9)。このとき相関係数ρは0.788であり、前記将来状態の予測方法を用いて、1時間後の溶銑温度が良好に予測できることが確認できる。なお、前記のごとく2005年1月29日06:00のデータセットを要求点(xkq,ykq)として検索した5つ近傍データセットの1時間後以降の実績値を用いて、1時間後だけでなく基準時間から将来の12時間にわたる溶銑温度の推移を、局所モデル式(9)を用いて予測することにより、2005年1月29日06:00以降12時間の溶銑温度推移予測値を実施することも可能である(図8の(a))。
【0120】
このとき、要求点(xkq,ykq)を2005年1月29日06:00から1時間毎将来にシフトして設定し、都度、過去の類似事例を検索して将来状態の予測を繰り返し、2005年1月29日06:00以降12時間の溶銑温度推移予測値を実施することも可能である。なお、ここでは、局所モデル式(9)として、最も単純な相加平均法を用いた。すなわち、要求点(xkq,ykq)の出力ベクトルykqの推定値ベクトルy^kqを、下式(41)で算出した。ここで、Mは近傍空間Ωqに属する出力ベクトルykの個数である。
【0121】
【数31】
【0122】
(1)本発明のプロセスの操業状態の制御方法:その1
ここから、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)の実施例を説明する。
式(1)を式(17)のごとく、再定義したとき、高炉設備1から大量のデータセット{(uk,x-k,yk)}(k=1、2、3、・・・)が時系列データベース4に蓄積される。
【0123】
(ステップワイズ法による時系列データベースを構成するプロセス変数の数の削減)
式(17)を変数ベクトルの各要素で書くと、下式(42)となる。
【0124】
【数32】
【0125】
本実施例では、回帰式モデルの入力変数をu1かつ遅れ時間d1,u=0、出力変数をy1かつ予測時間(ここでは、制御を実現したい将来時刻)p=1とした。このとき、式(42)は、下式(43)のようになる。本実施例では、入力変数u1すなわち操作変数にPCR量を、出力変数y1すなわち制御変数に溶銑温度を採用した例を示す。
【0126】
【数33】
【0127】
上述した過去の類似事例検索方法及び将来状態の予測方法の実施例において、時系列データベース4に蓄積される{(xk,yk)}(k=1、2、3、・・・)に対して実施した処理手順と同様にして、{(uk,x-k,yk)}(k=1、2、3、・・・)の入力空間x-kに対して、ステップワイズ法による時系列データベース及び検索用テーブルを構成するプロセス変数の数の削減を実施する。なお、本実施例は、表1のステップワイズ法による選択結果を利用した場合を例示する。
【0128】
(要求点の設定と過去の制御量の決定)
2004年1月1日〜2005年1月31日の全データセット9528点の中から、2005年1月1日06:00のデータセットを取り出して要求点(x-kq,ykq)とし、以後、図5の処理フローにしたがって本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)によってPCR量u1kqを決定した実施例を図10に示す。図10は、要求点の基準時刻2005年1月1日06:00で溶銑温度の目標値ykqrefを1530[℃]に設定して目標値制御を開始した場合の溶銑温度y1(制御変数)の応答と操作変数として採用したPCR量u1kqの応答を示す。図10は、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)によって、制御変数である溶銑温度y1が制御可能であることを示している。
【0129】
なお、ここでは、式(22)、式(24)の局所モデルに最も単純な相加平均法を用いた。すなわち、式(22)について、下式(44)である。また、式(24)について、下式(45)である。
【0130】
【数34】
【0131】
なお、図10は、2005年1月1日06:00のデータセットを要求点(x-kq,ykq)として、要求点(xkq,ykq)を2005年1月1日06:00から1時間毎将来にシフトして設定し、都度、PCR量u1kqの決定を繰り返し、2005年1月1日06:00以降24時間の溶銑温度y1の制御結果を示したものである。
【0132】
(2)本発明のプロセスの操業状態の制御方法:その2
最後に、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)の実施例を説明する。前記、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)と同様にして、2004年1月1日〜2005年1月31日の全データセット9528点の中から、2005年1月1日06:00のデータセットを取り出して要求点(x-kq,ykq)とし、以後、図7の処理フローにしたがって本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)によってPCR量u1kqを決定した実施例を図11に示す。
【0133】
図11は、要求点の基準時刻2005年1月1日06:00で溶銑温度の目標値ykqrefを1530[℃]に設定して目標値制御を開始した場合の溶銑温度y1(制御変数)の応答と操作変数として採用したPCR量u1kqの応答を示す。図11は、本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)によって制御変数である溶銑温度y1が制御可能であることを示している。
【0134】
なお、ここでは、式(27)、式(32)、式(33)の局所モデルに最も単純な相加平均法を用いた。すなわち、式(27)について、下式(46)である。また、式(32)について、下式(47)である。さらに、式(34)について、下式(48)である。
【0135】
【数35】
【0136】
なお、図11は、2005年1月1日06:00のデータセットを要求点(x-kq,ykq)として、要求点(xkq,ykq)を2005年1月1日06:00から1時間毎将来にシフトして設定し、都度、PCR量u1kqの決定を繰り返し、2005年1月1日06:00以降24時間の溶銑温度y1の制御結果を示したものである。本実施例では、高炉プロセスを例に、操作変数にPCR量、制御変数に溶銑温度を用い、1入力1出力系の目標値追従制御問題として例示したが、これまでの説明および図2、図4、図6に例示した処理フローを用いることで、多入力多出力系の目標値追従制御を実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明を実施する装置の構成を説明するブロック図である。
【図2】操業類似事例の検索方法及び将来状態の予測方法の処理を説明するフローチャートである。
【図3】類似操業事例の検索と将来状態の予測における要求点と近傍データセットを説明する図である。
【図4】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)の処理を説明するフローチャートである。
【図5】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)における要求点と近傍データセットを説明する図である。
【図6】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)の処理を説明するフローチャートである。
【図7】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)における入力点と近傍データセットを説明する図である。
【図8】要求点の設定と過去の類似操業事例検索結果の実施例を説明する図である。
【図9】1時間後の溶銑温度実績値と予測値の相関を説明する図である。
【図10】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その1)による制御結果例を説明する図である。
【図11】本発明のプロセスの操業状態の制御方法(その2)による制御結果例を説明する図である。
【図12】第1の発明の処理を説明するフローチャートである。
【図13】第2の発明の処理を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0138】
1 高炉設備
2 計測・制御装置
3 本発明のプロセスの操業状態の制御装置
4 時系列データベース
5 検索用テーブル作成手段
6 検索用テーブル
7 類似事例検索手段
8 将来状態予測手段
9 操業状態制御手段
10 表示手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する方法において、
現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する工程と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する工程と、
前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数、及び制御変数の目標値を予め設定する工程と、
制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する工程と、
該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する工程と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする工程と、
該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する工程と、
予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する工程を有することを特徴とするプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項2】
製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する方法において、
現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する工程と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する工程と、
前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数及び制御変数の目標値を予め設定する工程と、
制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する工程と、
該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する工程と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする工程と、
該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する工程と、
予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値を取り出して量子化し、予め設定した類似度指標と予め設定した制御入力空間の近傍範囲値に従い、前記検索テーブル上の制御入力量子化空間を決定する工程と、
該制御入力量子化空間に格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した前記時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する工程を有することを特徴とするプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項3】
前記時系列データベースが高炉プロセスを対象とし、前記プロセス変数値を溶銑温度、微粉炭吹き込み量、ソリューションロスカーボン、熱流比、装入ピッチ、溶銑中Si濃度、溶銑中Ti濃度、熱風温度、炉頂温度、熱負荷、炉頂ガスCO濃度、出銑速度、PCR(微粉炭比)、スラグ中Al2O2量、スラグ中TiO2量から少なくとも一つ以上選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項4】
前記時系列データベースが高炉プロセスを対象とし、前記プロセス変数値を溶銑温度、微粉炭吹き込み量、ソリューションロスカーボン、熱流比、装入ピッチ、溶銑中Si濃度、溶銑中Ti濃度、熱風温度、炉頂温度、熱負荷、炉頂ガスCO濃度、出銑速度、PCR(微粉炭比)、スラグ中Al2O2量、スラグ中TiO2量の現在値又はこれらの時間遅れ変数から少なくとも一つ以上選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項5】
前記時系列データベースのプロセス変数について、ステップワイズ法を用いて変数の数を削減することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項6】
前記検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する前記工程において、類似度基準として、前記プロセス変数値の量子化値ベクトルの無限大ノルム又は該量子化値ベクトルの差の絶対値の和を採用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセスの操業状態の制御方法の処理工程をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する装置において、
現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する手段と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する手段と、
前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数、及び制御変数の目標値を予め設定する手段と、
制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する手段と、
該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する手段と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする手段と、
該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する手段と、
予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する手段と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す手段と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する手段とを備えることを特徴とするプロセスの操業状態の制御装置。
【請求項9】
製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する装置において、
現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する手段と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する手段と、
前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数及び制御変数の目標値を予め設定する手段と、
制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する手段と、
該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する手段と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする手段と、
該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する手段と、
予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する手段と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す手段と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値を取り出して量子化し、予め設定した類似度指標と予め設定した制御入力空間の近傍範囲値に従い、前記検索テーブル上の制御入力量子化空間を決定する手段と、
該制御入力量子化空間に格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する手段と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した前記時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す手段と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する手段とを備えることを特徴とするプロセスの操業状態の制御装置。
【請求項1】
製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する方法において、
現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する工程と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する工程と、
前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数、及び制御変数の目標値を予め設定する工程と、
制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する工程と、
該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する工程と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする工程と、
該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する工程と、
予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する工程を有することを特徴とするプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項2】
製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する方法において、
現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する工程と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する工程と、
前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数及び制御変数の目標値を予め設定する工程と、
制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する工程と、
該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する工程と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする工程と、
該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する工程と、
予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値を取り出して量子化し、予め設定した類似度指標と予め設定した制御入力空間の近傍範囲値に従い、前記検索テーブル上の制御入力量子化空間を決定する工程と、
該制御入力量子化空間に格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する工程と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した前記時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す工程と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する工程を有することを特徴とするプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項3】
前記時系列データベースが高炉プロセスを対象とし、前記プロセス変数値を溶銑温度、微粉炭吹き込み量、ソリューションロスカーボン、熱流比、装入ピッチ、溶銑中Si濃度、溶銑中Ti濃度、熱風温度、炉頂温度、熱負荷、炉頂ガスCO濃度、出銑速度、PCR(微粉炭比)、スラグ中Al2O2量、スラグ中TiO2量から少なくとも一つ以上選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項4】
前記時系列データベースが高炉プロセスを対象とし、前記プロセス変数値を溶銑温度、微粉炭吹き込み量、ソリューションロスカーボン、熱流比、装入ピッチ、溶銑中Si濃度、溶銑中Ti濃度、熱風温度、炉頂温度、熱負荷、炉頂ガスCO濃度、出銑速度、PCR(微粉炭比)、スラグ中Al2O2量、スラグ中TiO2量の現在値又はこれらの時間遅れ変数から少なくとも一つ以上選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項5】
前記時系列データベースのプロセス変数について、ステップワイズ法を用いて変数の数を削減することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項6】
前記検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する前記工程において、類似度基準として、前記プロセス変数値の量子化値ベクトルの無限大ノルム又は該量子化値ベクトルの差の絶対値の和を採用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセスの操業状態の制御方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のプロセスの操業状態の制御方法の処理工程をコンピュータに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項8】
製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する装置において、
現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する手段と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する手段と、
前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数、及び制御変数の目標値を予め設定する手段と、
制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する手段と、
該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する手段と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする手段と、
該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する手段と、
予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する手段と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す手段と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する手段とを備えることを特徴とするプロセスの操業状態の制御装置。
【請求項9】
製造プロセス(プロセス)の操業状態の時系列データベースを逐次作成し、該作成したデータベースを用いてプロセスの操業状態を制御する装置において、
現在時刻から予め指定した過去時刻までの所定のプロセス変数の値(プロセス変数値)を前記時系列データベースから抽出する手段と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、該量子化値を現在時刻及び/又は現在の時系列データベースの格納番号と合わせて検索用テーブルに格納する手段と、
前記プロセス変数のなかから制御変数、操作変数及び制御変数の目標値を予め設定する手段と、
制御の起点時刻A及び制御を実現したい将来時刻Bを設定する手段と、
該制御の起点時刻Aを起点としてプロセス変数値を前記時系列データベースから抽出する手段と、
該抽出したプロセス変数値を量子化し、量子化した値を検索キーとする手段と、
該検索キーを用いて前記検索用テーブルを検索する手段と、
予め設定した類似度基準に従い、前記制御の起点時刻Aを起点とした該検索キーと類似する量子化値を有する検索テーブルに格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する手段と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す手段と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値を取り出して量子化し、予め設定した類似度指標と予め設定した制御入力空間の近傍範囲値に従い、前記検索テーブル上の制御入力量子化空間を決定する手段と、
該制御入力量子化空間に格納されたプロセス変数値の時刻又は前記時系列データベースの格納番号を特定する手段と、
該特定した時刻を起点として前記制御を実現したい将来時刻まで、又は該特定した前記時系列データベースの格納番号を起点として前記制御を実現したい将来時刻の格納番号までのプロセス変数値を前記時系列データベースから取り出す手段と、
該取り出したプロセス変数値の該起点時刻の操作変数の値と該起点時刻から前記設定した制御を実現したい将来時刻の制御変数の値を取り出し、前記制御の起点時刻Aを起点とした前記指定した制御を実現したい将来時刻Bにおいて、前記制御変数の値が前記設定した目標値に近づく前記操作変数の値を決定する手段とを備えることを特徴とするプロセスの操業状態の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−4728(P2007−4728A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187361(P2005−187361)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)
【Fターム(参考)】
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