説明

プロセスオイル

【課題】アロマオイルと同等の特性を発揮することができ、かつ、発ガン性の問題もなく、安全性にも優れたプロセスオイル及びこのプロセスオイルの簡便な製造方法の提供。
【解決手段】プロセスオイルは、原油の減圧蒸留残渣を脱れき及び溶剤抽出して得られたエキストラクトと、多環芳香族炭化水素(PCA)含有量が3質量%未満の潤滑油基油とを混合して得られ、下記(a)〜(g)の性状を有する。(a)多環芳香族炭化水素(PCA)含有量3質量%未満(b)粘度(100℃)30〜80mm/s(c)アニリン点90℃以下(d)引火点240℃以上(e)ベンゾ(a)ピレン1質量ppm以下(f)特定芳香族化合物の含有量10質量ppm以下(g)極性物質の含有量10〜30質量%

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムや合成ゴムに適用されてゴム組成物を形成するプロセスオイルに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤ製造に用いられるゴム材料には、ゴム材料の機械的特性や加工性を向上させるために、プロセスオイルを配合することが一般的である。このプロセスオイルは、天然ゴム、合成ゴム等のゴム材料のほか、熱可塑性樹脂の可塑剤や印刷用インキの構成成分、再生アスファルトの軟化剤等に使用する潤滑油や溶剤成分として使用されている。
【0003】
このプロセスオイルは、ゴム用の添加剤として使用される場合にあっては、従来パラフィン系基油を溶剤精製により製造する際に複製されるエキストラクトが利用されてきたが、近年では発ガン性の問題から、発ガン性のないタイヤ用アロマオイルが各種の製造方法により製造されている。
【0004】
また、タイヤ用ゴムの製造においては、プロセスオイルとゴムとの相溶性が重視されるため、プロセスオイルにおけるアロマ分は重要な因子である一方、このアロマ分を過度に優先するとプロセスオイルの発ガン性が増すことにもなるため、発ガン性の元凶となるアロマ分は除去しつつ、プロセスオイルとゴムとの相溶性は良好な状態で維持する必要があった。
【0005】
更には、近年では、プロセスオイルにおける多環芳香族炭化水素(PCA:PolycyclicAromatics、PAH(Polyaromatic Hydrocarbon)と同意。以下同)の有害性が問題とな
っており、特に自動車タイヤ用に用いられるプロセスオイルは、タイヤ粉塵として環境を汚染するためプロセスオイル中のPCAを低減することが求められており、また、欧州等ではPCAが3質量%以上の鉱油は取り扱いに制限を受ける。一方、従来の製造方法により得られた高芳香族含量の抽出油中には多環芳香族炭化水素が多量に含まれており、PCAを低減させた(具体的には3質量%未満とした)プロセスオイル及びその製造方法の開発が急がれている。
【0006】
このような背景から、PCAを低減させ、ゴムとの相溶性と非発ガン性を両立するプロセスオイルに関する技術が検討されており、例えば、ナフテン系のアスファルテンと溶剤抽出油との組み合わせによるタイヤゴム用プロセスオイルの製造方法に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。また、他の手段としては、脱れき油を溶剤抽出したエキストラクトを利用したゴムプロセスオイルの製造方法に関する技術も開示されている(例えば、特許文献2及び特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−80434号公報
【特許文献2】特開2000−80208号公報
【特許文献3】特開2002−3861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記した特許文献1に開示された技術により得られたプロセスオイルは、安全性は考慮されているといえるものの、このプロセスオイルを用いたゴム組成物は、
従来のアロマオイルを用いたゴム組成物と同等の性能を示すことができなかった。また、前記した特許文献2や特許文献3に開示された技術により得られたプロセスオイルは、パラフィン系残油の脱れき油をそのまま使用していることもあって流動点が高くなるため、このプロセスオイルを用いたゴム組成物はゴムの表面にワックスが析出してしまい、好ましいものではなかった。
また、これらの特許文献では、いずれも、プロセスオイルを製造するために、脱れき油に対して溶剤抽出を行って得られたエキストラクトを利用している。しかし、エキストラクトにはアロマ分が多いため、さらに抽出処理を行ったり、水素化してアロマ分を規制値以下にする必要があり、多くの工程を要していた。
【0009】
前記の課題に鑑み、本発明の目的は、従来のアロマオイルと同等の特性を発揮することができ、かつ、発ガン性の問題もなく、安全性にも優れたプロセスオイル、及び、より簡易なプロセスオイルの製造方法を提供することにある。さらに、このプロセスオイルの製造に適した原料である脱れき油及びエキストラクトの製造方法をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のプロセスオイルは、原油の減圧蒸留残渣を脱れき及び溶剤抽出して得られたエキストラクトと、多環芳香族炭化水素(PCA)含有量が3質量%未満の潤滑油基油とを混合して得られるプロセスオイルであって、
下記(a)〜(g)の性状を有することを特徴とする。
(a)多環芳香族炭化水素(PCA)含有量 3質量%未満
(b)粘度(100℃) 30〜80mm/s
(c)アニリン点 90℃以下
(d)引火点 240℃以上
(e)ベンゾ(a)ピレン 1質量ppm以下
(f)特定芳香族化合物の含有量 10質量ppm以下
(g)極性物質の含有量 10〜30質量%
【0011】
本発明のプロセスオイルは、原油の減圧蒸留残渣を脱れき及び溶剤抽出して得られたエキストラクトと、所定の潤滑油基油とを混合して得られたものであって、PCAが3質量%未満であるため、発ガン性の問題もなく、安全性に優れたプロセスオイルである。さらに(b)〜(g)の性状を有するため、従来のアロマオイルと同等の諸特性を維持することができ、このプロセスオイルを天然ゴムや合成ゴムに適用したゴム組成物は、良好なゴム物性となるとともに、ゴム表面に油がにじむといったブリード現象の発生やワックスの析出を好適に防止することができる。
【0012】
また、本発明のプロセスオイルは、(c)アニリン点を60℃〜90℃とすれば、PCA含有量が適度となり、また、ゴムとの相溶性も良好となるため、前記した効果をより一層発揮することができるので好ましい。
【0013】
本発明は、原油の減圧蒸留残渣を原料として用い、下記(h)〜(j)の性状を有する脱れき油の製造方法であって、前記減圧蒸留残渣を脱れきする際に、溶剤としてプロパンあるいはブタン/プロパン混合溶剤を用い、溶剤比を4.5〜6、塔頂温度を85〜100℃、及び脱れき油の収率を30〜40容量%とすることを特徴とする。
(h)多環芳香族炭化水素(PCA)含有量 3質量%未満
(i)ベンゾ(a)ピレン 1質量ppm以下
(j)特定芳香族化合物の含有量 10質量ppm以下
【0014】
本発明によれば、特定の芳香族分を少なくした脱れき油を容易に得ることができるため、この脱れき油を粗原料として、(a)〜(g)の性状を有するプロセスオイルの原料と
して優れたエキストラクトを容易に製造することができる。
【0015】
本発明は、原油の減圧蒸留残渣を脱れきして得た脱れき油を原料として用い、下記(k)、(l)の性状を有するエキストラクトの製造方法であって、前記脱れき油から溶剤抽出する際に、前記溶剤抽出における抽出温度を80〜150℃、溶剤比を2.0〜15.0とすることを特徴とする。
(k)ベンゾ(a)ピレン 1質量ppm以下
(l)特定芳香族化合物の含有量 10質量ppm以下
【0016】
本発明によれば、特定の芳香族分を少なくしたエキストラクトを容易に得ることができるため、このエキストラクトを原料として、安全性に優れた(a)〜(g)の性状を有するプロセスオイルを容易に製造することができる。
【0017】
本発明プロセスオイルの製造方法は、原油の減圧蒸留残渣油を脱れきして脱れき油を得る脱れき工程と、前記脱れき油を溶剤抽出してエキストラクトを得る溶剤抽出工程とを備え、前記溶剤抽出工程で得たエキストラクトと、多環芳香族炭化水素(PCA)含有量が3質量%未満の潤滑油基油とを混合して得た混合油をプロセスオイルとすることを特徴とする。
本発明のプロセスオイルの製造方法によれば、前記した(a)〜(g)の性状を有するプロセスオイルを好適に提供できる。
【0018】
本発明プロセスオイルの製造方法では、前記潤滑油基油がさらに下記(m)〜(q)の性状を有することが好ましい。
(m)粘度(100℃) 5〜40mm/s
(n)アニリン点 75〜120℃
(o)引火点 200℃以上
(p)ベンゾ(a)ピレン 1質量ppm以下
(q)特定芳香族化合物の含有量 10質量ppm以下
【0019】
潤滑油基油がこのような性状を有していると、エキストラクトと潤滑油基油とを混合して(a)〜(g)の性状を有するプロセスオイルを得ることが一層容易となる。
【0020】
また、本発明プロセスオイルの製造方法では、前記エキストラクトと前記潤滑油基油との容量混合比を95/5〜60/40とすることが好ましい。
エキストラクトと潤滑油基油との容量混合比をこのような範囲にすると、(a)〜(g)の性状を有するプロセスオイルを得ることがより一層容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のプロセスオイルの製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のプロセスオイルは、原油の減圧蒸留残渣を脱れきして得た脱れき油から溶剤抽出して得られたエキストラクトと、多環芳香族炭化水素(PCA)含有量が3質量%未満の潤滑油基油とを混合して得られ、下記(a)〜(g)の性状を有するものである。
(a)多環芳香族炭化水素(PCA)含有量 3質量%未満
(b)粘度(100℃) 30〜80mm/s
(c)アニリン点 90℃以下
(d)引火点 240℃以上
(e)ベンゾ(a)ピレン 1質量ppm以下
(f)特定芳香族化合物の含有量 10質量ppm以下
(g)極性物質の含有量 10〜30質量%
【0023】
(a)多環芳香族炭化水素(PCA)含有量:
本発明のプロセスオイルは、PCAの含有量が3質量%未満であり、2.5質量%未満であることが好ましい。発ガン性の問題から、欧州等ではPCAが3質量%以上の鉱油は取り扱いに制限を受けるため、本発明のプロセスオイルも同様にPCAは3質量%未満とされている。このPCAを3質量%未満とすることにより、発ガン性の心配もなく、安全性に優れたプロセスオイルを提供することができる。
なお、プロセスオイルのPCAの含有量は、英国石油協会の規定によるIP346(92)法に準拠して測定すればよい。
【0024】
(b)粘度(100℃):
本発明のプロセスオイルは、100℃における粘度が30〜80mm/sであり、
40〜60mm/sであることが好ましい。粘度が30mm/sより小さいと、配合されるゴムの常態物性が低下する一方、粘度が80mm/sを超えると、粘度が高すぎて、ゴムへの配合の際、成形加工性や操作性に悪影響を与えるほか、ゴム物性も低下する。
なお、プロセスオイルの100℃における粘度の測定は、ASTM−D445に準拠して測定すればよい。
【0025】
(c)アニリン点:
本発明のプロセスオイルは、アニリン点が90℃以下であり、60〜90℃であることが好ましい。アニリン点が90℃を超えると、ゴムとの相溶性が悪くなり、プロセスオイルがゴム表面にブリードする場合がある。なお、アニリン点の下限は特に問わないが、60℃よりも低いと、PCAの含有量が高くなり、基準である3質量%を超える場合があるので注意が必要である。プロセスオイルのアニリン点は、ASTM−D611に準拠して測定すればよい。
【0026】
(d)引火点:
本発明のプロセスオイルは、引火点が240℃以上であり、260℃以上であることが好ましい。引火点が240℃よりも低いと、蒸発しやすくなり、安全性に問題があるとともに、環境へ悪影響を与える場合がある。
なお、プロセスオイルの引火点は、ASTM−D92に準拠して測定すればよい。
【0027】
(e)ベンゾ(a)ピレンの含有量:
本発明のプロセスオイルは、ベンゾ(a)ピレンの含有量が1質量ppm以下である。
ベンゾ(a)ピレンは、発ガン性物質であるが、その含有量を1質量ppm以下としているので発ガン性の心配もなく、安全性に優れたプロセスオイルを提供することができる。
【0028】
(f)特定芳香族化合物の含有量(総濃度):
本発明のプロセスオイルは、特定芳香族化合物の含有量(総濃度)が10質量ppm以下である。ここで、特定芳香族化合物とは、ベンゾ(a)アントラセン、クリセン及びトリフェニレン、ベンゾ(b)フルオランセン、ベンゾ(k)フルオランセン、ベンゾ(j)フルオランセン、ベンゾ(e)ピレン、ベンゾ(a)ピレン、及び、ジベンゾ(a,h)アントラセンの8種をいう。これらはいずれも、発ガン性の大きな物質であるが、その含有量(総濃度)を10質量ppm以下としているので発ガン性の心配もなく安全性に優れたプロセスオイルを提供することができる。なお、これらの濃度は以下のような方法で測定した。
【0029】
(特定芳香族化合物の濃度測定方法)
試料1gを50mlフラスコにてヘキサンに溶解し、2質量%の試料溶液を調製する。この試料溶液1mlを5質量%含水シリカゲル5gに負荷し、ヘキサン20mlで洗浄後
、5vol%のアセトンを含んだヘキサン溶液50mlで吸着していた対象成分を溶出させる。溶出液を1mlまで濃縮後、内部標準物質としてクリセンd12又はベンゾ(a)ピレンd12を1μg添加してガスクロマトグラフ質量分析計にて分析する。
【0030】
(g)極性物質の含有量:
本発明のプロセスオイルは、極性物質の含有量が10〜30質量%であり、12〜20質量%であることが好ましく、12〜15質量%であることがより好ましい。極性物質の含有量が10質量%より小さいと、ゴムとの相溶性が悪くなり、一方、極性物質の含有量が30質量%を超えると、PCAの含有量が高くなり、基準である3質量%を超え、特定芳香族化合物の含有量が10質量ppmを越えるおそれがある。
なお、プロセスオイルの極性物質の含有量の測定は、ASTM−D2007に準拠して測定すればよい。
【0031】
以下に、前記した本発明のプロセスオイルを製造する手段の一例について詳細に説明する。
〔脱れき油の製造(脱れき工程)〕
脱れき工程では、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた減圧残渣油を脱れきすることにより脱れき油を得る。
【0032】
ここで、原油を常圧蒸留するには、公知の常圧蒸留装置および蒸留条件で行うことができる。例えば、精製対象となるパラフィン系原油やナフテン系原油等からなる原油を、加熱炉等で約350℃程度に熱せられたのちに常圧蒸留塔に送り出し、常圧蒸留塔内部で石油蒸気とされ、冷却後、沸点の低いものから高いものへと順に分離する。本発明は常圧蒸留及び減圧蒸留により減圧残渣油を得るため、沸点が350℃以上の常圧残油を得るようにすればよい。
【0033】
次に、得られた常圧残油に対して、減圧下における蒸留(減圧蒸留)をさらに実施する。減圧蒸留を行うには、従来公知の減圧蒸留装置および運転条件で行えばよく、かかる減圧蒸留により減圧ナフサ、減圧軽油、減圧残渣油の各留分に分留されることになり、この中から減圧残渣油を得るようにすればよい。
【0034】
そして、この減圧残渣油を、例えば液化プロパン(または液化プロパン/ブタン混合溶剤)等の溶剤を用いて、油分(脱れき油)とアスファルト分とに分離する。液化プロパンによる脱れきは、例えば、減圧残渣油に対して4.5〜6倍の液化プロパンを混合して、抽出温度を塔頂/塔底=85〜100℃/60〜75℃として脱れき油を抽出すればよい。
【0035】
ここで、この脱れき工程で得られた脱れき油の収率(得率)は、減圧蒸留残渣油基準で30〜40容量%である。また、得られた脱れき油の100℃における粘度は、30〜50mm/sであることが好ましく、30〜45mm/sであることが特に好ましい。
【0036】
以上のような工程により、下記(h)〜(j)の性状を有する脱れき油を製造することができる。
(h)多環芳香族炭化水素(PCA)含有量 3質量%未満
(i)ベンゾ(a)ピレン 1質量ppm以下
(j)特定芳香族化合物の含有量 10質量ppm以下
【0037】
〔エキストラクトの製造(溶剤抽出工程)〕
溶剤抽出工程では、前記した脱れき工程によって得られた脱れき油を極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより、エキストラクトを得る。脱れき油に対して溶剤抽出を行いエキ
ストラクトとすることにより、PCAを3質量%未満に維持したプロセスオイルとしやすくなり、かつアニリン点を適度に調整することができ、ブリードの発生を抑制することができる。
【0038】
ここで、使用できる極性溶剤としては、フルフラール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、フェノール、クレゾール、スルフォラン、ジメチルスルフォキシド、フォルミルモルフォリン、グリコール系溶剤等を使用することができ、特にフルフラール、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが好ましい。
【0039】
溶剤抽出工程にあっては、溶剤比(溶剤/脱ろう油(または脱れき油)の容量比)は2.0〜15.0の範囲内とすることが好ましく、5.0〜10.0の範囲内とすることが特に好ましい。また、この場合の抽出温度は、80〜150℃とすることが好ましく、90〜130℃とすることが特に好ましい。このような条件で溶剤抽出を行えば、PCAの含有量を3質量%未満としたエキストラクトを効率よく得ることができる。
【0040】
また、この溶剤抽出工程により得られたエキストラクトの得率(収率)は、脱れき油基準で50質量%以上として、60質量%以上とすることが好ましい。エキストラクトの得率が脱れき油基準で50質量%以上であれば、PCAの含有量が3質量%未満のプロセスオイルを好適に得ることができる。
なお、得率を脱れき油基準で50質量%以上となるようにエキストラクトを得るには、例えば、溶剤としてフルフラールを使用した場合にあっては、溶剤比を10〜12程度として、抽出温度を120〜150℃程度とすればよく、また、溶剤としてNMPを使用した場合にあっては、溶剤比を5〜8程度として、抽出温度を100〜120℃程度とすればよい。
【0041】
以上のような工程により、下記(k)、(l)の性状を有するエキストラクトを製造することができる。
(k)ベンゾ(a)ピレン 1質量ppm以下
(l)特定芳香族化合物の含有量 10質量ppm以下
【0042】
〔エキストラクトと潤滑油基油の混合(混合工程)〕
エキストラクトに混合される潤滑油基油については、特に製法は制限されない。少なくともPCAの含有量が3質量%未満であればよく、好ましくは前記した(m)〜(q)の性状を有していればよい。
このような潤滑油基油は、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留するか、あるいは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油または残渣油を脱れきして得られる脱れき油を常法にしたがって精製することによって得られる。例えば、溶剤精製油、水添精製油などを挙げることができる。これらの精製法の精製条件を調製することにより、前記した性状を有する潤滑油基油を得ることができる。なお、精製油は、適宜、脱ろう処理、白土処理を行ってもよい。
そして、エキストラクトと潤滑油基油を混合するだけという簡便な操作で得られた混合油をそのままプロセスオイルとして提供できる。
エキストラクトと潤滑油基油との容量混合比は95/5〜60/40であり、好ましくは80/20〜60/40である。容量混合比を95/5〜60/40とすることで、前記(a)〜(g)の性状を有するプロセスオイルを効率よく提供することができる。
【0043】
本発明のプロセスオイルの製造方法を図1のフローチャートに沿って説明すると、まず、原油を常圧蒸留して得られた常圧残油を更に減圧蒸留して、減圧蒸留残渣油を得て(S1,S21,S22,S2)、得られた減圧蒸留残渣油を脱れき工程により脱れきして脱れき油を得る(S31,S3)。また、得られた脱れき油を溶剤抽出工程により溶剤抽出
してエキストラクトを得る(S51,S5)。
【0044】
そして、得られたエキストラクトは、多環芳香族炭化水素(PCA)含有量が3質量%未満の潤滑油基油と混合され(S61,S6)、混合油をプロセスオイルとして適用できる(S7)。
【0045】
このようにして得られた本発明のプロセスオイルは、前記した(a)〜(g)の性状を有することにより、ゴムの加工性や耐ブリード性等、従来のプロセスに要求される諸特性を備えるとともに、人体に有害なPCAを3質量%未満に抑え、さらにベンゾ(a)ピレンが1質量ppm以下、特定芳香族化合物の含有量が10質量ppm以下であるため、発ガン性もなく安全性にも優れるプロセスオイルとなる。
【0046】
また、このようなプロセスオイルを得るために、従来のタイヤ用アロマ代替油製造では、二段抽出したり、エキストラクトをさらに水素化処理する設備(工程)が必要であり、処理ごとに収率が低下せざるを得なかった。それに対して、本発明では、エキストラクトと潤滑油基油とを混合するだけという簡便な方法でよいため、プロセスオイルの製法として格段に優れている。
【0047】
このプロセスオイルは、天然ゴムや合成ゴムに配合することにより、各種ゴム組成物を好適に提供することとなり、また、得られたゴム組成物は、タイヤ等の様々なゴム物品に用いることができる。
更には、プロセスオイルは、熱可塑性樹脂の可塑剤や印刷インキ成分や、舗装用改質アスファルトの軟化剤としても使用することができる。
【0048】
ここで、本発明のプロセスオイルを用いてゴム(ゴム組成物)を製造する場合にあっては、例えば、ゴム成分100重量部に対して、本発明のプロセスオイルを10〜50重量部、好ましくは20〜40重量部配合して製造すればよい。
また、ゴム組成物を製造する場合には、本発明のプロセスオイルやゴム成分のほかに、カーボンブラック、シリカ等の補強剤、加硫剤、加硫促進剤、充填剤、ワックス類等の劣化防止剤、本発明のゴム配合油以外の軟化剤または可塑剤等の通常ゴム業界で用いられるものを適宜配合してもよい。
【0049】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。また、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達成できる範囲内において、他の構造や形状等としてもよい。
例えば、前記した態様では、(a)〜(g)の性状を有する本発明のプロセスオイルを製造する手段としては、図1に示す製造方法を用いた例を示したが、当該(a)〜(g)の性状を有するのであれば、プロセスオイルを得る手段は適宜調整しても問題はない。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら制約されるものではない。
【0051】
[実施例1]
(脱れき工程)
中東系原油を常圧蒸留して灯油、軽油などの燃料油を取り出し、蒸留塔底部から流出した常圧残渣油に対し、さらに減圧蒸留して減圧軽油などを分留した後の減圧残渣油を脱れき用の原料として用いた。この減圧残渣油に対し、プロパンを溶剤として溶剤比5.5、
所定の抽出温度(塔頂90℃、塔底65℃)で脱れきを行い、脱れき油収率35容量%の脱れき油Aを得た。性状を表1に示す。
【0052】
(溶剤抽出工程)
脱れき工程で得られた脱れき油をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を溶剤として、溶剤比3.0、抽出温度120℃で抽出し、エキストラクトE1を得た。性状を表1に示す。
【0053】
(混合工程)
このエキストラクトE1に、表1に示す性状を有する潤滑油基油B1を10容量%混合して、100℃粘度が約60mm/sの混合油を得た(容量混合比90/10)。この混合油を本発明である実施例1のプロセスオイルとした。
【0054】
[実施例2]
実施例1で得られたエキストラクトE1に、表1に示す性状を有する潤滑油基油B2を30容量%混合して、100℃粘度が約60mm/sの混合油を得た(容量混合比70/30)。この混合油を本発明である実施例2のプロセスオイルとした。
【0055】
[実施例3]
実施例1で得られたエキストラクトE1に、表1に示す性状を有する潤滑油基油B3を7容量%混合して、100℃粘度が約60mm/sの混合油を得た(容量混合比93/7)。この混合油を本発明である実施例3のプロセスオイルとした。
【0056】
[比較例1]
実施例1で得られた減圧残渣油を、溶剤比7.0、所定の抽出温度(塔頂75℃、塔底60℃)で脱れきを行い、脱れき油収率60容量%の脱れき油Bを得た。この脱れき油Bから、実施例1と同様の抽出条件で表1に示す性状を有するエキストラクトE2を得た。このエキストラクトE2に、潤滑油基油B1を15容量%混合して100℃粘度が約60mm/sの混合油を得た(容量混合比85/15)。この混合油を比較例1のプロセスオイルとした。
【0057】
[比較例2]
エキストラクトE2に潤滑油基油B1を80容量%混合して得た混合油を比較例2のプロセスオイルとした(容量混合比20/80)。
【0058】
[比較例3]
エキストラクトE2に潤滑油基油B2を35容量%混合して得た混合油を比較例3のプロセスオイルとした(容量混合比65/35)。
【0059】
[比較例4]
エキストラクトE2に潤滑油基油B2を80容量%混合して得た混合油を比較例4のプロセスオイルとした(容量混合比20/80)。
【0060】
なお、実施例1〜3、比較例1〜4のプロセスオイル及び参照として従来のアロマオイルの性状を表2に示した(評価に際し、規格等は前記した内容に準ずる)。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
[試験例1]
前記の実施例1〜3及び比較例1〜4により得られたプロセスオイルを用いて、下記表3及び表4の処方で高スチレン系ゴム及び汎用スチレン系ゴムを製造した。
【0064】
【表3】

【0065】
【表4】

【0066】
そして、得られた高スチレン系ゴム及び汎用スチレン系ゴムについて、高スチレン系ゴムについては、ブリード現象(ゴム表面に油がにじむ現象)の発生の有無及びワックスの析出を目視により確認し、また、汎用スチレン系ゴムについては、ゴム物性(伸び、硬度、引張り強さ及びM300(300%伸長率時のゴムの弾力性))を、JIS K6301に準拠して測定して、それぞれ比較・評価した。結果を表5に示す。
なお、汎用スチレンゴムのゴム物性値は、測定値を、従来のアロマオイル(性状は表2参照)を用いて同様に製造した汎用スチレン系ゴムの測定値と比較して、アロマオイルの測定値を100としたときの相対値を用いて評価した。結果を表5に示す。
【0067】
【表5】

【0068】
表5の結果から分かるように、実施例1〜3のプロセスオイルを適用した高スチレン系ゴムは、ブリード現象もなく、また、ワックスの析出もなく、高スチレン系ゴムとして問題なく使用できるものであった。
また、実施例1〜3のプロセスオイルを適用した汎用スチレン系ゴムのゴム物性は、従来使用されているアロマ系プロセスオイルと比較しても遜色なく、従来品と同様のゴム物性を維持できることが確認できた。
【0069】
一方、比較例1、3のプロセスオイルは、原料として用いたエキストラクトの特定芳香族化合物の含有量、および、ベンゾ(a)ピレンの含有量がいずれも高いため、潤滑油基油と混合して得られたプロセスオイルについても発ガン性ないしは安全性に問題があるプロセスオイルとなる。また、粘度(100℃)が低いためにゴム物性が基準となるアロマオイルよりも劣る。
また、比較例2、4のプロセスオイルは、ベンゾ(a)ピレンの含有量および、特定芳香族化合物の含有量については満足できるものの、アニリン点が高く、高スチレン系ゴムでは、ブリード現象が認められた。特に比較例4は、アニリン点が非常に高いため、汎用スチレン系ゴムの伸び、引っ張り強さ、及びM300がいずれも劣っている。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のプロセスオイルは、天然ゴムや合成ゴムの加工油、展延剤としてや、熱可塑性樹脂の可塑剤や印刷インキ成分や、舗装用改質アスファルトの軟化剤として有利に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原油の減圧蒸留残渣を脱れき及び溶剤抽出して得られたエキストラクトと、多環芳香族炭化水素(PCA)含有量が3質量%未満の潤滑油基油とを混合して得られるプロセスオイルであって、
下記(a)〜(g)の性状を有することを特徴とするプロセスオイル。
(a)多環芳香族炭化水素(PCA)含有量 3質量%未満
(b)粘度(100℃) 30〜80mm/s
(c)アニリン点 90℃以下
(d)引火点 240℃以上
(e)ベンゾ(a)ピレン 1質量ppm以下
(f)特定芳香族化合物の含有量 10質量ppm以下
(g)極性物質の含有量 10〜30質量%
【請求項2】
請求項1に記載のプロセスオイルにおいて、
(c)アニリン点が60℃〜90℃であることを特徴とするプロセスオイル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−72407(P2012−72407A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228112(P2011−228112)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【分割の表示】特願2005−274689(P2005−274689)の分割
【原出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】