説明

プロセスチーズ類及び齲蝕予防方法

【課題】 齲蝕予防・治癒効果を備えた食品及びこれを用いた齲蝕予防方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 有効量のCPP−ACP及びフッ素を含有するプロセスチーズ類により、簡便且つ高い齲蝕予防・治癒効果を提供することができる。またフッ素含量が高い場合にもこの効果は低下することなく維持する。本発明のプロセスチーズ類を少なくとも30g/日以上の用量で摂取する齲食予防方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセスチーズ類及び齲蝕予防方法に関し、特に特定成分を含有することで齲蝕予防・治療に効果を有するプロセスチーズ類とそれを用いた齲蝕予防方法に関する。より具体的にはカゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフォスフェート(以下、「CPP−ACP」ともいう)及びフッ素を含有するプロセスチーズ類とそれを用いた齲蝕予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の表面では通常脱灰と再石灰化という動的な可逆反応プロセスが平衡を保った状態にある。歯垢の中に存在するバクテリアにより糖類が酸に変わると脱灰が促される。これにより脱灰と再石灰化とのバランスが崩れ、脱灰が優勢になると齲蝕、即ちいわゆる虫歯が進行する。しかし、程度が軽微である初期虫歯の場合には再石灰化が優勢になれば齲蝕は治癒する。即ち、再石灰化を優勢にすることで虫歯の予防・治療をある程度行うことができると考えられている。
【0003】
近年、歯の再石灰化を促す食品は、機能性化合物を含むガムを中心に多くが開発されている。しかし、これらの食品においては、その成分がどの程度の再石灰化能を有するかについては未だに未解明の部分が多く、現在も研究が進められている。
【0004】
従来、歯の再石灰化を促進する素材として、カゼインホスホペプチド−非晶形リン酸カルシウム結合体(カゼインホスホペプチド−アモルファスカルシウムフォスフェート、CPP−ACPと略称する)、フッ素等が知られている。また、食品として、チーズの再石灰化能はWHOによってもフッ素に次いで高いランキングに位置づけされている。こうした機能性素材やこれを含む食品は、生体においては、唾液が本来持っている再石灰化能をさらに増強する効果が期待される。
【0005】
そのような要望に対して、これまで様々な機能性素材、またこれを含む製品が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、歯科治療患者用栄養剤が開示されている。好ましい栄養剤は、再石灰化促進成分、例えばCPP−ACP(カゼインホスホペプチド−非結晶リン酸カルシウム複合体)、さらにフッ化物を含有する。その課題としては、歯科治療中に歯に負担無く咀嚼摂取でき、虫歯助長成分を含まない栄養剤を提供し、具体的なものとしてはコンニャクゼリー状のものであり、また具体的にこれら成分を用いた効果については開示が無く、不明である。
【0007】
特許文献2は、歯牙へ塗布して使用するう蝕予防用組成物であって、CPP−ACP、CMCNa、粘稠剤、場合によりフッ素化合物を含有するものを開示する。目的は保存安定性向上であり、フッ素化合物併用による効果は単純な上乗せ効果であり、相乗効果については不明である。
【0008】
さらに特許文献3は本出願人によるものであり、高CPP含量の飲食品、特にプロセスチーズ類を提供している。この技術においてはCPP含量については着目しているが、フッ素化合物についての併用効果については述べられていない。
【0009】
特許文献4は、有効成分としてカゼインホスホペプチド−非結晶リン酸カルシウム(CPP−ACP)複合体またはカゼインホスホペプチドー非結晶フッ化リン酸カルシウム(CPP−ACFP)複合体を含む歯科修復組成物を開示している。この組成物は場合によってはフッ化物を含んでも良いとされているが、その用途は例えば歯科修復用セメントなどであり、食品ではない。
【0010】
特許文献5は再石灰化促進組成物を開示し、特にグルコサミン及び/又はオリゴ糖+フッ素イオンについての共存系における効果を評価している。そのなかで、フッ素濃度を1.5ppmと2ppmとに変化させて評価を行っているが、グルコサミンとの併用においていずれも高濃度フッ素含量組成物の場合にその向上度がむしろ低くなるという結果が得られている(本公報における試験例1の処理液Fに対してB,処理液Eに対してDの再石灰化評価)。従って、フッ素イオンについてはその併用により、場合によっては効果が低減してしまう可能性があると思われる。
【0011】
一方、特許文献6にはカルシウムホスホペプチド複合体であって、CPP−ACP等を含む複合体と、それを含む運搬媒介物が開示されている。運搬媒介物の一例として乳製品が挙げられているが、具体的な記述はない。従って、その効果についても不明である。
【0012】
【特許文献1】特開2007−63228号公報
【特許文献2】特開2005−145952号公報
【特許文献3】特開2006−115764号公報
【特許文献4】特表2004−531553号公報
【特許文献5】特開2006−241122号公報
【特許文献6】特表2002−500626号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記のように、様々な齲蝕予防・治療促進についての技術が開発されているが、いずれも未だ不十分であり、かつ食品としての効果については殆ど検討されていない。また、場合によっては、機能性素材としてのフッ素の濃度が素材併用系において効果を阻害する可能性も示唆されている。
【0014】
そこで、本発明の目的は、飲食という簡便な方法によって齲蝕予防・治癒効果が期待でき、少量の摂取でも効果が得られる齲蝕予防・治癒効果の高いプロセスチーズ類、言い換えれば歯の再石灰化促進効果の高いプロセスチーズ類及びこれを用いた齲蝕予防方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の問題点に鑑み本発明者らは鋭意研究を進めたところ、CPP−ACP及びフッ素を含有するプロセスチーズ類を調製したところ、高い再石灰化促進効果を有することが判った。また驚くべきことに、当該効果が高フッ素濃度であっても低下せずに維持されることが判り、本発明を完成するに至った。
【0016】
即ち、本発明の一態様は、それぞれ有効量のCPP−ACP及びフッ素を含有するプロセスチーズ類である。
【0017】
本発明によるプロセスチーズ類においては、前記CPP−ACPの有効量が1mg/g以上であることが好ましく、更に好ましくは2mg/g以上である。
【0018】
また、本発明によるプロセスチーズ類においては、前記フッ素の有効量が0.001mg/g以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.0025mg/g以上である。
【0019】
本発明によるプロセスチーズ類においては、前記フッ素が緑茶抽出物由来の物質として含有していることが好ましい。
【0020】
本発明によるプロセスチーズ類においては、原料ナチュラルチーズとして、少なくともゴーダチーズ及びエメンタールのいずれか1種の原料ナチュラルチーズを含有することが好ましい。
【0021】
また本発明の他の一態様は、上記したいずれかのプロセスチーズ類を、30g/日以上の用量で摂取することを特徴とする齲蝕予防方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によるプロセスチーズ類を摂取することで、飲食という簡便な方法にて齲蝕予防・治癒効果が期待できる。また少量の摂取であっても再石灰化促進効果が非常に高く、その効果は高フッ素濃度であっても低下せずに維持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0024】
本発明によるプロセスチーズ類は、ナチュラルチーズを主原料としてこれを粉砕し、加熱溶融し乳化したもの、及び加熱溶融及び/又は殺菌工程を必要とするもの等、全てのチーズ様食品を含み、プロセスチーズフード、チーズスプレッド、チーズディップ、チーズデザート、プロセスチーズサブスティテュート等、プロセスチーズ類似物をも含む。
【0025】
本発明によるプロセスチーズ類では様々な原料を使用することができ、例えば、チェダー、チェシャー、コルビー、モンテレージャック等のチェダータイプチーズ、ゴーダ、サムソー、マリボー等のゴーダタイプチーズ、エダムタイプチーズ、パルメザン、ロマノ、グラナパダノ等の超硬質チーズ、エメンタール、グリュイエール等のスイスタイプチーズ、カマンベール、ブリー等の白カビチーズ、スティルトン、ロックフォール、ゴルゴンゾーラ、ダナブルー等の青カビチーズ、リンバーガー等の細菌による表面熟成チーズ、クリームチーズ、マスカルボーネ、カッテージ、モッツァレラ等の熟成しないタイプのチーズ、リコッタ等のホエーチーズなどが例示される。また本発明においては、特に原料ナチュラルチーズとして、ゴーダチーズ及びエメンタールの少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0026】
本発明によるプロセスチーズ類はこれらの原料ナチュラルチーズの複数種を組み合わせて用いることができ、原料としてのナチュラルチーズを好ましくは60%以上含むことが望ましい。
【0027】
本発明によるプロセスチーズ類に用いられる副原料としては、溶融塩、安定剤、pH調整剤、調味料等の食品衛生法で認められており、チーズ製造に一般的に用いられる添加物を適宜用いることができる。
【0028】
本発明によるプロセスチーズ類の製品形態は特に限定されず、主原料にチーズを使用する製品すべてが含まれる。その製品形態としては、固形状食品、液状食品、半固形状食品、粉状食品が例示される。
【0029】
本発明によるプロセスチーズ類の製造方法としては、一般的なプロセスチーズ類の製造方法を適用することができる。例えば、原料を乳化釜、チーズニーダー等に入れて、加熱、溶融、撹拌を行い、次いで例えば、高温(65〜90℃程度)の状態で充填されるホットパック方式(ポーション、個包装スライス、カルトン等)や、低温(15〜35℃程度)まで冷却しながら成形し、その後、さらに冷却して包装する方式(キャンディー包装チーズ、スライス・オン・スライス等)等が挙げられる。
【0030】
本発明によるプロセスチーズ類には、CPP−ACPが添加されている。CPP−ACPとは、カゼインホスホペプチド−非晶形リン酸カルシウム結合体を指し、例えば、リカルデント(登録商標)の製品名にて市販されているものを用いることができる。また、チーズ中にもCPP−ACPの原料となる成分が含まれていることから、これを適宜の定量分析法により測定し、定量されたチーズの所定量を混合して本発明によるプロセスチーズ類としてもよい。
【0031】
本発明によるプロセスチーズ類に含有されるCPP−ACPは、好ましくは1mg/g(チーズ1g当たり)以上であり、さらに好ましくは2mg/g(チーズ1g当たり)以上である。
【0032】
フッ素としては、様々なフッ素供給源を用いることができ、例えば食品添加物として許可されている緑茶抽出物等が挙げられる。緑茶抽出物としては、1g粉末当たりフッ素2mgを含有するEX.サンフェノンMRF(太陽化学)を好ましく用いることができる。
【0033】
本発明によるプロセスチーズ類に含有されるフッ素は、好ましくは0.001mg/g(チーズ1g当たり)以上であり、さらに好ましくは0.0025mg/g(チーズ1g当たり)以上である。
【0034】
本発明の齲蝕予防方法は、先述の本発明によるプロセスチーズ類の所要量を摂取することを特徴とするものである。好ましい摂取量としては、30g/日以上であり、より好ましくは75g/日以上である。
摂取の方法としては通常の食事・間食と共に行っても良いが、本発明によるプロセスチーズ類のみを摂取することが好ましく、また摂取の時期としては、食中または食事・間食直後が好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、本明細書において%表示は明示しない場合には重量%を示す。
【0036】
[実施例1]
[唾液サンプルの調製]
被験者よりモデル系を構成する唾液サンプルを2種13名分採取した。2種のサンプルとしては、対照としてのコントロール唾液(Control saliva)とチーズ摂取後のチーズ唾液(Cheese saliva)とを採取した。コントロール唾液は、水道水で口を濯いだ後、パラフィルムを噛みながら約11ml採取したものを用いた。また、引き続き5〜10分間の休憩を挟んで再度水道水で口を濯いだ後、チーズ(明治北海道十勝6Pチーズ)25gを約1.5分かけて摂取し、摂取直後からパラフィルムを咬みながら唾液を約11ml回収し、これをチーズ唾液とした。
【0037】
採取した唾液サンプルは遠心分離(2,000xG,10分、4℃)して残渣を除き、コントロール唾液、チーズ唾液毎に各10mlずつ上清をまとめ、これを試験に用いた。これら唾液サンプルは、再石灰化処理に供するまで1日冷蔵保存した。
【0038】
保存したコントロール唾液およびチーズ唾液に、CPP−ACP(Lot.09R8、Cadbury−Schweppes−Recaldent Pty Ltd)をその濃度が2.19mg/mlとなるように添加して、それぞれ調製した。また、フッ素供給源用緑茶抽出物として、1g粉末当たりフッ素2mgを含有するEX.サンフェノンMRF(Lot.604191、太陽化学)を用い、コントロール唾液およびチーズ唾液にフッ素添加濃度が0.0011、0.0022及び0.0044mg/mlとなるように添加して、それぞれ調製した。これらの試料内容について表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
[再石灰化試験]
1群当たり脱灰処理した牛歯6片を単位として歯科用レジンに包埋した検体を用意した。各歯片の半分は再石灰化処理の影響を受けないようにマニキュアを塗布した。
再石灰化処理は、各検体を蒸留水で水和した後、調製後の各唾液サンプル(10ml)に浸漬した(37℃、16時間)。浸漬終了後、各検体を蒸留水で濯ぎ、ペーパータオルで水分を除いた後、風乾した。
【0041】
計測は、再石灰化前および再石灰化後にQuantitative light induced fluorescence(QLF)法(QLF−PRO、Inspector Dental Care BV、オランダ)にて歯片毎にマニキュア塗布部分で補正して行った。再石灰化度は再石灰化処理前後のQLF測定値の差を取って評価した。
得られた結果を図1に示す。
【0042】
図1において、縦軸は測定値の差、即ち再石灰化度を示し、数値が大きいほど再石灰化度が良好であることを示す。隣り合う棒グラフは、それぞれコントロール唾液と、それに対するチーズ唾液を示し、それらのサンプルは同一のフッ素及びCPP−ACP含量である。
【0043】
図1のグラフから判るように、サンプル1に比較してサンプル3においては、CPP−ACP及びフッ素を含有させることで、再石灰化度に著しい向上が見られる。しかし、サンプル4,5においては、フッ素含量が増えるに従いその再石灰化効果が低減してしまっている。これに対して、本発明の構成によるサンプル6〜8においては、フッ素含量が増えるに従っても再石灰化効果は低減することなく、むしろ驚くべきことに更に向上していることが判った。
以上の結果より、本発明の構成を用いることで、簡便且つ高い齲蝕予防・治癒効果を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明による有効量のCPP−ACP及びフッ素を含有するプロセスチーズ類を摂取することで、飲食という簡便な方法にて齲蝕予防・治癒効果が期待できる。少量の摂取であっても再石灰化促進効果が非常に高く、またその効果は高フッ素濃度であっても低下せずに維持される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】フッ素含量とCPP−ACP含量とを変化させた場合の再石灰化度を示すグラフ図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ有効量のCPP−ACP及びフッ素を含有するプロセスチーズ類。
【請求項2】
前記CPP−ACPの有効量が1mg/g以上である請求項1に記載のプロセスチーズ類。
【請求項3】
前記CPP−ACPの有効量が2mg/g以上である請求項1に記載のプロセスチーズ類。
【請求項4】
前記フッ素の有効量が0.001mg/g以上である請求項1乃至3のいずれかに記載のプロセスチーズ類。
【請求項5】
前記フッ素の有効量が0.0025mg/g以上である請求項1乃至3のいずれかに記載のプロセスチーズ類。
【請求項6】
前記フッ素が緑茶抽出物由来の物質として含有されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のプロセスチーズ類。
【請求項7】
原料ナチュラルチーズとして、少なくともゴーダチーズ及びエメンタールのいずれか1種の原料ナチュラルチーズを含有する請求項1乃至6のいずれかに記載のプロセスチーズ類。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のプロセスチーズ類を、30g/日以上の用量で摂取することを特徴とする齲蝕予防方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−105916(P2010−105916A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276195(P2008−276195)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006138)明治乳業株式会社 (265)
【出願人】(507148456)学校法人 岩手医科大学 (19)
【Fターム(参考)】