説明

プロタミンの定量法

【課題】試料中に含まれるプロタミンの定量方法を確立すること。
【解決手段】試料中に含まれるプロタミンの定量を、0〜10質量%の塩濃度の試料溶液を調製する工程と、前記試料溶液中のプロタミンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラムに吸着させる工程と、前記HPLCカラムに吸着したプロタミンを、1〜10質量%の塩及び0.1質量%の有機酸の水溶液と、有機溶剤による濃度勾配を用いて溶出し、プロタミンに基づく溶出ピークを得る工程と、前記溶出ピークから前記試料中のプロタミンを定量する工程とを有する方法によって行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロタミンの定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロタミンは、脊椎動物の精子核中でDNAと結合している塩基性のたんぱく質である。プロタミンのアミノ酸組成は、アルギニンが全体の約2/3を占めることから、プロタミンの古典的な定量方法としては、比色法によりアルギニン量を測定する方法がある。代表的な方法としては、坂口法や坂口変法があげられる。また、プロタミンにはアミノ酸配列が異なる4種類の分子種が知られており、Hoffmannらの方法(Protein Expression and Purification, 1, 127-133 (1990))によると、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により各分子種を単一ピークに分離したスペクトルが得られる。
【0003】
一方、プロタミンは強烈な渋味・収斂味を呈する。本発明者らは、プロタミンの脂肪吸収抑制作用に着眼し、機能性食品素材としての展開を図るために、プロタミンを酸性高分子食品素材と複合体化させることで、プロタミンの呈味を低減する方法を検討した。この複合体に含まれるプロタミンを上述のHPLCによる方法で定量しようとすると、塩酸での抽出過程においてプロタミンが分解されてしまい、定量のために期待されるプロタミン量が回収されなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Protein Expression and Purification, 1, 127-133 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の通り、プロタミン複合体から塩酸でプロタミンを塩酸により抽出しようとすると、プロタミンが分解されてしまい、期待される回収量が得られない。また、プロタミンに含まれるアルギニンを定量する方法では、他のたんぱく質やアミノ酸が混合した食品では定量することができない。さらに、HPLCを用いた定量方法では、プロタミンの保持時間が短く、複合体を形成させるために加えた複合体形成用材料、例えば酸性高分子化合物由来のピークと重なり定量できなかった。よって、本発明の課題は、試料中に含まれるプロタミンの定量方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、プロタミンまたはプロタミン複合体に含まれるプロタミンの定量における上記課題を鑑み、効率的にプロタミンを溶出させて高い検出感度をもつ定量方法を提供するものである。
【0007】
本発明者は、プロタミン複合体に5〜10質量%のNaCl水溶液を加えることで、本来は不溶性のプロタミン複合体が容易に溶解し、添加したプロタミンが定量的に回収されることを見出した。なお、プロタミンはNaClを添加しなくても容易に水に溶解する。次に、HPLCの分離条件において、溶出溶媒に1〜10質量%のNaClを添加することで、プロタミンの溶出力が増大し、定量限界も向上することを見出した。本発明はかかる本発明者の新たな知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
本発明の試料中に含まれるプロタミンの定量方法は、
試料溶液を調製する工程と、
前記試料溶液中のプロタミンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラムに吸着させる工程と、
前記HPLCカラムに吸着したプロタミンを、1〜10質量%の塩及び0.1質量%の有機酸の水溶液と、有機溶剤による濃度勾配を用いて溶出し、プロタミンに基づく溶出ピークを得る工程と、
前記溶出ピークから前記試料中のプロタミンを定量する工程と
を有することを特徴とするプロタミン複合体の定量方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、プロタミンまたはプロタミン複合体を高感度にプロタミンを安定に定量することができる。安定した定量方法が確立されることで、機能性食品の有効成分としてプロタミンまたはプロタミン複合体の用途が、飲料をはじめ様々な食品形態への適用が可能となる。また、分析機関における公定法としても適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)〜(C)は、従来のHPLC法によるプロタミンのクロマトグラフを示す図である。
【図2】プロタミン濃度1000 ppm におけるクロマトグラフを示す図である。
【図3】(A)は塩酸分解による脱塩複合体のクロマトグラフを示す図である。(B)は塩酸分解による Na 複合体のクロマトグラフを示す図である。(C)は塩酸分解によるプロタミン粉のクロマトグラフを示す図である。(D)は塩酸分解による Na 複合体懸濁液のクロマトグラフを示す図である。
【図4】各カラムによるプロタミンのクロマトグラフを示す図である。
【図5】各カラムによるプロタミンのクロマトグラフを示す図である。
【図6】各カラムによるプロタミンのクロマトグラフを示す図である。
【図7】各カラムによるプロタミンのクロマトグラフを示す図である。
【図8】プロタミン濃度 100 ppm におけるクロマトグラフを示す図及びプロタミン濃度 100-10000 ppm における検量線を示す図である
【図9】溶媒へ5%NaCl を添加したときのプロタミン濃度 100 ppm におけるクロマトグラフを示す図及び溶媒へ5%NaCl を添加したときのプロタミン濃度 10-3000 ppm における検量線を示す図である。
【図10】プロタミン濃度10 ppm、100 ppmにおける各種カラムを用いたクロマトグラフを示す図である。
【図11】プロタミン濃度10 ppm、100 ppmにおける各種カラムを用いたクロマトグラフを示す図である。
【図12】プロタミン濃度10 ppm、100 ppmにおける各種カラムを用いたクロマトグラフを示す図である。
【図13】プロタミン濃度10 ppm、100 ppmにおける各種カラムを用いたクロマトグラフを示す図である。
【図14】溶媒へ2%NaCl を添加したときのプロタミン濃度 100 ppm におけるクロマトグラフを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明おける定量法における分析対象はプロタミンである。分析試料中に含まれるプロタミンは、塩酸塩と硫酸塩などの塩として、あるいは他の物質と複合体を形成していてもよい。プロタミン複合体は、プロタミンまたはその塩と、複合体形成用材料とからなる複合体である。このプロタミン複合体としては、例えば、ペプシン処理によりプロタミンを放出する。プロタミンは、抗菌活性、インスリン効果持続作用、抗血液凝固作用、リパーゼ阻害活性を示す複合体など様々な効能があり、極めて有用な物質である。このプロタミン複合体は、例えば、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、複合体形成用材料としての酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方とを反応させて得ることができる。例えば、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方が複合体を形成していることにより、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方がプロタミンのアルギニンに由来する渋味・収斂味のマスキング作用が得られる。
【0012】
プロタミンは主に魚類の白子を原料として調製されるが、白子の種類としては特に制限はなく、サケ(サルミン)、ニジマス(イリジン)、ニシン(クルペイン)、サバ(スコンブリン)、チョウザメ(スツリン)マグロ、タラ、コイ、スズキ等が挙げられる。入手容易性や、コスト等を考慮すると特にサケとニシンの白子由来のものが好ましい。また、その塩を構成する酸としては、塩の用途に応じて選択できるが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、更にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、またはフマル酸等のジカルボン酸との塩、更に、酢酸、プロピオン酸、または酪酸等のモノカルボン酸との塩等を挙げる事ができるが、入手容易性や、コスト等を考慮すると特に塩酸塩、硫酸塩が好ましい。
【0013】
酸性高分子化合物としては、アルギン酸及びその塩、並びにポリグルタミン酸及びその塩から選択された少なくとも1種が好ましい。
【0014】
アルギン酸は海藻の一種類である褐藻類から得られるもので、具体的な褐藻類としてはコンブ、ワカメ、ヒジキ、カジメ、アラメ等が挙げられる。アルギン酸としては、本発明の効果が得られるものを選択して使用し、分子量が0.5万を超えているものが好ましく、また、少なくとも1万であるアルギン酸またはその塩が更に好ましい。アルギン酸の分子量の上限は特に限定されないが、分子量が大きいと溶液の粘度が上昇して溶解性が低下するため操作性が悪くなることから、その上限が200万、更には100万程度であるものが好ましい。また、その塩を構成する塩基としては、上述した特性の複合体を形成できる塩を形成できるものであれば特に制限されないが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩を構成する塩基が好ましい。この塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、リチウム塩、アルミニウム塩等の無機塩や、メチルアミン塩、ジメチルアミン塩、トリエチルアミン塩の様なモノ−、ジ−及びトリ−アルキルアミン塩、モノ−、ジ−及びトリ−ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N−メチルグルコサミン塩などの有機塩を挙げることができる。
【0015】
ポリグルタミン酸はグルタミン酸がα−アミノ基とγ−カルボキシル基がアミド結合したポリマーで、納豆粘質物の成分として古くから知られ、バチルス属に属する細菌などによる培養法によって大量に生産されている。本発明に用いるポリグルタミン酸またはその塩としては、分子量が0.1万を超えているものが好ましく、また、少なくとも1万であるものが更に好ましい。ポリグルタミン酸の分子量の上限は特に限定されないが、分子量が大きいと溶液の粘度が上昇して溶解性が低下するため操作性が悪くなることから、その上限が100万程度であるものが好ましい。また、その塩を構成する塩基としては、上述した特性の複合体を形成できる塩を形成できるものであれば特に制限されないが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩を構成する塩基が好ましい。この塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、リチウム塩、アルミニウム塩等の無機塩や、メチルアミン塩、ジメチルアミン塩、トリエチルアミン塩の様なモノ−、ジ−及びトリ−アルキルアミン塩、モノ−、ジ−及びトリ−ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N−メチルグルコサミン塩などの有機塩を挙げることができる。
【0016】
アラビアゴムは特に限定されず、例えば、ガラクトースの1-3結合による主鎖とその6位の炭素にアラビノース、ガラクトース、ラムノース、およびグルクロン酸よりなる側鎖が結合したポリウロン酸(アラビン酸)の塩等を挙げることができる。アラビアゴムの分子量としては、200,000〜250,000程度のものが好適に利用できる。
【0017】
複合体を形成する際におけるプロタミン及びその塩の少なくとも1種(A)に対する複合体形成用材料(B)(酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方)の配合割合は、目的とする複合体の形成が可能であるように設定すれば制限されるものではない。(A):(B)が重量比で4:1〜1:10の範囲内になるように設定することが好ましい。更に、複合体形成用材料(B)として酸性高分子化合物を用いる場合は、(A):(B)が重量比で4:1〜1:2の範囲内になるように、すなわち、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、複合体形成用材料(B)の少なくとも1種を25重量%〜200重量%の割合に設定することが好ましい。この場合、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、複合体形成用材料(B)を50重量%以上配合することが更に好ましい。一方、複合体形成用材料(B)としてアラビアゴムを用いる場合は、(A):(B)が重量比で1:2〜1:10の範囲内になるように、すなわち、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、複合体形成用材料(B)の少なくとも1種を200重量%〜1000重量%の割合に設定することが好ましい。アラビアゴムの場合は、1:3以上(プロタミンに対して300重量%以上)の添加が更に好ましい。
【0018】
プロタミン複合体は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、複合体形成用材料と、を水性媒体中で混合して反応させることにより製造することができる。例えば、プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む水溶液と、複合体形成用材料を含む水性媒体を混合することにより複合体を容易に製造可能である。水性媒体中におけるプロタミン及びその塩や複合体形成用材料の濃度は、適宜調節でき制限されるものではないが、通常、それぞれ0.1重量%〜20重量%に調整することが好ましい。この製造に用いる水性媒体としては、上述した特性の複合体を形成できる塩を形成できるものであれば特に制限されないが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、水、蒸留水、脱イオン水、生理食塩水、酸性水、塩基性水、緩衝液、アルコール水などを利用することができる。例えば、酸性水としは、有機酸であるクエン酸、リンゴ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、蟻酸、酒石酸、マレイン酸、シュウ酸、コハク酸、アスコルビン酸、グルコン酸、カルボン酸、フタル酸、トリフルオロ酢酸、モルホリノエタンスルホン酸、2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸及びその塩類、または無機酸である塩酸、過塩素酸、炭酸及びその塩類を少なくとも1種を含む水溶液等を挙げることができる。また、塩基性水用としては、有機塩基であるトリス(ヒドロキシメチル)、アミノメタン、アンモニア及びその塩類、または無機塩基である、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムを少なくとも1種を含む水溶液等を挙げる事ができる。また、緩衝液としては、用途に応じたpHに応じて、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液などを選択することができる。水性媒体を構成する上述の酸、塩基、緩衝液の濃度は、呈味に大きな影響を及ぼさない0.001重量%〜1重量%が好ましく、0.01重量%〜0.5重量%がより好ましい。また、塩基性水性媒体のpHは、8以上が好ましく、8〜12がより好ましく、9〜11がさらに好ましい。pHが高すぎると加水分解の懸念や取り扱い上の危険性があるため、上述の範囲が好ましい。酸性水性媒体のpHは、8未満が好ましく、2.0〜7.5がより好ましく、2.5〜5がさらに好ましい。pHを低くすることで、防腐剤を使用しなくても細菌の繁殖を抑制することができるため、上述の範囲が好ましい。また、アルコール水に使用するアルコールの具体例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール、プロピレングリコール、グリセロールなどの多価アルコール等を挙げることができるが、生成した複合体を摂取する際の安全性を考慮すると、エタノールを用いるのが好ましい。アルコール水の含水率としては、60重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。いずれの水性媒体の温度に制限はないが、0℃〜80℃が好ましく、5℃〜60℃がより好ましく、15℃〜40℃がさらに好ましい。
【0019】
プロタミン複合体は、水に難溶性であり、水性媒体中に分散状態で、あるいは沈殿物として得られる。このようにして得られた複合体を必要に応じて水性媒体から回収し、脱塩し、更に、乾燥して、複合体製品とすることができる。この脱塩には、水洗が利用でき、複合体に含まれる塩分を目的とする程度まで低減する。
【0020】
更に、水性媒体中には、必要に応じて分散剤を添加して、水性媒体中で生成した複合体の乳化状態あるいは分散状態を維持することができる。この分散剤としては特に制限はないが、例えば、水溶性大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ペクチン、カルボキシメチルセルロース又はその塩(CMC)、微結晶セルロース、発酵セルロース、カラギナン(イオタ、ラムダ、カッパ)、キサンタンガム、アラビアガム、グァーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、ガティガム、マクロホモプシスガム、タラガム、ジェランガムなどが利用できる。分散剤の添加量は、一般には、溶液全体に対して0.001重量%〜1重量%、より好ましくは0.1重量%〜1重量%の範囲から選択する。この分散剤は、複合体を用いて飲料を製造する際に添加して、複合体の分散安定性を得るために使用してもよい。その際の配合割合も、一般には、飲料全体に対して0.01重量%〜10重量%、より好ましくは0.05重量%〜5重量%の範囲から選択する。また、水性媒体のpHは、2.5〜8.5の範囲から選択することが好ましい。
【0021】
従って、プロタミン複合体は、乳液、分散液、スラリー、乾燥品など種々の形態で提供されている。
【0022】
プロタミン複合体を、食品や飲料に配合した際に、実際の配合量を定量する場合、従来の方法では精度良い定量ができない場合があった。例えば、アルギン酸塩との複合体(以後、アルギン酸複合体とする)は水に不溶であり、形成された複合体に含まれるプロタミンを定量的に分析する手法が見出せていなかった。白子からのプロタミン抽出は塩酸を用いて行うが、アルギン酸複合体に適用した場合にはプロタミンが分解し、添加分のプロタミンを回収できなかった。そこで、NaClの添加によるプロタミン複合体の溶解性を検証した。その結果、NaCl濃度が5質量%〜10質量%でプロタミンとアルギン酸塩との複合体は溶解した。さらに分散剤を加えた複合体懸濁液においても清澄な溶液になった。
【0023】
種々のオクタデカシリル(ODS)カラムと汎用性の高い溶媒系(メタノールやアセトニトリルと0.1質量%トリフロロ酢酸(TFA)水や0.1質量%蟻酸水の組合せ)について検討した結果、X BridgeTM BEH300 C18 カラム(Waters)でメタノール/0.1質量%TFA水系で溶出させる条件が、プロタミンを比較的担持し溶出時間を調整することができた。そこで、プロタミンの検量線を作成したが、100 ppm以下では添加した以上のピーク面積を示し、検量線の直線性が失われた。これはカラムの洗浄工程を入れたにも関わらず、カラムに吸着して残存したプロタミンの影響によるものと考えられた。
【0024】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析の有機系溶媒と水系溶媒の混合溶媒における溶出系において、水系溶媒に5質量%のNaClを添加することで、プロタミンの定量範囲が10 ppm から10000 ppm と広いグローバルレンジで良好な検量線を作成することできた。これにより従来の方法の数十倍感度を向上させて定量することが可能となり、またプロタミン複合体に含まれるプロタミン含量を測定することができるようになった。
【0025】
本発明の定量方法において用いることのできるHPLC用のカラムとしては、本発明において目的とするプロタミンの定量が可能であるカラムであればよい。好ましいカラムとして、例えば、BioSuite C18 PA-A 3μm(商品名)、BioSuite C18 PA-B 3μm(商品名)、Symmetry 300TM C18(商品名)、Symmetry 300TM C18(商品名)、Atlantis dC18(商品名)及びX BridgeTM BEH300 C18(商品名)が挙げられる。中でも、X BridgeTM BEH300 C18(商品名)及びBioSuite C18 PA-A 3μm(商品名)などのエンドキャップ有でポアサイズ50Å〜500Åであるカラムが好ましい。
【0026】
HPLCカラムに載せる試料は、種々の形態として調製できる。例えば、水を用いた水溶液として試料を調製することができる。水溶液試料の場合、必要に応じて10質量%までの塩濃度の水溶液とする。なお、水溶液中の溶解性分の濃度は10ppm〜10000ppmとすることが好ましい。試料をHPLCカラムに載せて、必要に応じて洗浄を行い、溶出液を用いるHPLCカラムに吸着したプロタミンを溶離させる。
【0027】
溶出液としては、1〜10質量%、好ましくは2質量%〜5質量%での塩及び0.1質量%の有機酸の水溶液と、有機溶剤とを用いて、濃度勾配を用いて溶出することが好ましい。
【0028】
試料の調製及び溶出液の調製に用いる塩としては、NaCl、KCl及びMgCl2を挙げることができ、これらの中ではNaClが好ましい。
【0029】
溶出液に添加する有機酸としては、トリフロロ酢酸(TFA)及び蟻酸を挙げることができ、0.1質量%程度の濃度で用いることが好ましい。
【0030】
濃度勾配用の有機溶剤としては、メタノール、エタノールなどのアルコール、及びアセトニトリルなどを挙げることができる。好ましい溶出液は、1〜10質量%、より好ましくは2質量%〜5質量%NaClと0.1質量%のTFAの水溶液と、メタノールの組合せである。
【0031】
有機溶剤の濃度勾配としては、0〜20%の範囲から10〜100%の範囲、好ましくは5%〜20%の範囲へのグラジエントが良い。
【0032】
試料中に含まれる定量対象がプロタミンであっても、プロタミン複合体であっても、プロタミンの4つの分子種に基づく溶出ピークを得ることができ、このピークを利用して試料中のプロタミンの定量を行うことができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限りこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例において「%」は特に記載されていない限り、質量基準である。
【0034】
(実施例1)食塩による複合体の溶解
使用原料:
プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
アルギン酸カリウム:(株)キミカ製 K-ULV-L3
分散剤:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製 大豆多糖類SM-700
プロタミン(lot:071120)を4.0094 gとり、蒸留水50 mLに溶解し80 mg/mLの溶液を調製した。アルギン酸カリウムを1.6062 gとり、蒸留水50 mLに溶解し32 mg/mLの溶液を調製した。分散剤を605.7 mgとり、蒸留水60 mLに溶解し10 mg/mLの溶液を調製した。
80 mg/mLプロタミン溶液を5 mL、10 mg/mL分散剤(大豆多糖類)溶液を12 mL、32 mg/mLアルギン酸塩溶液を10 mL、蒸留水13 mLを順次混合し、アルギン酸複合体懸濁液を40 mL調製した。この懸濁液1 mLにそれぞれNaCl(10, 20, 30, 40, 50, 60, 70, 80, 90, 100, 150, 200, 300 mg)を加えて溶解性を確認した。得られた結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
アルギン酸懸濁液にNaClを添加した場合、添加量が1%の時には変化は見られないが、2%から徐々に白濁が薄くなり、5%で完全に透明になり溶解した。10%まで透明な状態は維持するが、15%で再び白い沈殿が析出し。30%になると沈殿の量も多くなった。以上の結果から、アルギン酸複合体は5%〜10%のNaCl溶液に溶解することが確認されたため、アルギン酸複合体に含まれるプロタミンを定量する場合は、5%NaCl水溶液に溶解させて分析することとした。
【0037】
(参考例1)従来の方法によるHPLC分析
1.試薬の調製
移動相A:0.1M NaH2PO4 (pH 1.8)は、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4・2H2O) 15.60 g を約 750 mLの蒸留水に溶解し、リン酸でpH 1.8 に調整した後、蒸留水で1000 mLにメスアップした。メンブレンプラスチックホルダーに精密ろ過フィルター(ADVANTEC, Cellurose Acetate, φ0.45 μm)をセットし、HPLC移動相容器にろ過した。ろ過後、アスピレーターを用いて真空脱気を行い(15〜20分)、室温に戻して移動相Aとした。
【0038】
移動相B:0.1M NaH2PO4 / 6.5% アセトニトリル(pH 1.8)は、リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4・2H2O)7.80 g とアセトニトリル32.5 mLを約 400 mLの蒸留水に溶解し、リン酸でpH 1.8 に調整した後、500 mLにメスアップした。メンブレンプラスチックホルダーに精密ろ過フィルター(MILLIPORE, Type:JHWP4700, φ0.45 μm)をセットし、HPLC移動相容器にろ過した。ろ過後、アスピレーターを用いて真空脱気を行い(15〜20分)、室温に戻して移動相Bとした。
2.HPLC条件
流速:0.8 mL/分 (Max 150 Kgf)、カラム:Jupiter 5u C18 300A(250×4.6 mm)、カラム温度:50℃、サンプル温度:4℃、サンプル注入量:50 μL、検出波長:200 nm(PDA検出器を 190〜400 nmで設定)、分析時間:30分(interval 10分)、移動相の条件:0分(A:B=85:15)⇒20分(A:B=55:45)⇒25分(A:B=55:45)⇒30分(A:B=85:15)⇒40分(A:B=85:15)、
(※停止メソッド移動相(A:B=0:100)、カラム温度:30℃)、分析後のカラム洗浄:流速:1.0 mL/分 (Max 150 Kgf)、蒸留水100%で30分以上洗浄⇒流速:1.0 mL/分 (Max 150 Kgf)、70%メタノールで30分以上洗浄。
3.定量方法
複合体に含まれるプロタミン含量の定量は、プロタミン塩酸塩(プロザーブLot:071120)の0.1、0.5、1.0、5.0、10.0 mg/mL 0.01 M 塩酸を標準溶液とし、それぞれ4つの分子種のピーク面積を合計した値を用いて検量線を作成し、各サンプルのプロタミン含量をプロタミン塩酸塩換算で算出した。
【0039】
溶出時間が早く、分散剤由来のピークと重なり定量できなかった。得られた結果は、図1(A)〜(C)に示す。
【0040】
(参考例2)塩酸分解による検討
1.試薬の調製
プロタミン, lot:071120 2001.1 mg/25 mL (80 mg/mL)
アルギン酸ナトリウム ULV-L3, lot:8D16202, キミカ 800.0 mg/25 mL (32 mg/mL)
リンゴ酸(食品用), 105.2 mg/25 mL (4.2 mg/mL)
大豆多糖類 SM-700, lot:050628, 三栄源FFI 500.2 mg/50 mL (10 mg/mL)
<複合体>
プロタミン脱塩複合体 081104 20.8 mg
プロタミン複合体Na塩 081020 20.5 mg
プロタミン 071120 20.1 mg
2.粉末の塩酸分解
各複合体粉末(20 mg)に2 M塩酸(1 mL)を加えて室温で攪拌した。1時間後、2 M水酸化ナトリウム溶液(1 mL)を加えて中和し、メンブレンフィルターでろ過してHPLC分析に供した。
3.評価溶液の調製
80mg/mLプロタミン溶液(1mL)に4.2 mg/mLリンゴ酸溶液(1mL)、10 mg/mL大豆多糖類溶液(4mL)を加えた溶液に32 mg/mLアルギン酸ナトリウム溶液(2mL)を加えて懸濁液を調製した。調製した各試料液(2 mL)に6 M塩酸(1 mL)を加えて室温で攪拌した。1時間後、2 M水酸化ナトリウム溶液(3 mL)を加えて中和し、蒸留水(2 mL)を加えてプロタミンとしての濃度が2.5 mg/mLとなるようにした。メンブレンフィルターでろ過し、HPLC分析に供した。
4.プロタミン標準液の調製
プロタミン(lot:071120)1.0000 gを秤量し、100 mLに定容し10 mg/mL溶液を調製した。10 mg/mL溶液を25 mL容ホールピペットでとり、50 mLに定容し5.0 mg/mL溶液を調製した。10 mg/mL溶液を10 mL容ホールピペットでとり、100 mLに定容し1.0 mg/mL溶液を調製した。1.0 mg/mL溶液を10 mL容ホールピペットでとり、20 mLに定容し0.5 mg/mL溶液を調製した。1.0 mg/mL溶液を10 mL容ホールピペットでとり、100 mLに定容し0.1 mg/mL溶液を調製した。
5.HPLC条件
・使用機器:Waters Alliance 2695 / PDA2996 (Waters)
・カラム:Bio-suite PA-B 3.5 μm, 4.6 X 100 mm (Waters)
・使用溶媒:A液/メタノール、B液/蒸留水(0.1 %TFA)
・溶出グラジエント: 0分(A:B=18:82)⇒40分(A:B=24:76)⇒41分(A:B=60:40)⇒44分(A:B=60:40)⇒45分(A:B=18:82)
・流速:0.8 mL/min、分析時間:45分、注入量:5 μL、検出波長:PDA 190-400 nm
・試料濃度:プロタミン塩酸塩標準液10, 5, 1, 0.5, 0.1 mg/mL
塩酸での抽出過程においてプロタミンが分解されてしまい、期待されるプロタミン量が回収されなかった。プロタミン標準液について得られた結果を図4に、塩酸抽出を行った場合の結果を図5(A)〜(D)に示す。
【0041】
(参考例3)HPLC分析条件検討
1.試薬の調製
10 mg/mLプロタミン水溶液を調製し、各種カラムの検討を行った。
2.検討カラム
Symmetry 300TM C18 3.5 μm, 4.6 x 150 mm (Waters); BioSuiteTM C18 PA-A, 4.6 x 150 mm (Waters)
BioSuiteTM C18 PA-B, 4.6 x 150 mm (Waters); XTerra MS C18 3.5 μm, 4.6 x 100 mm (Waters)
XTerra Phenyl 3.5 μm, 4.6 x 100 mm (Waters); μ-Bondasphere CN 5 μm, 3.9 x 150 mm (Waters)
X BridgeTM BEH300 C18 3.5 μm 4.6 x 150 mm (Waters)
3.分離条件
使用溶媒:A液/メタノール、B液/アセトニトリル、C液/蒸留水(0.1%TFA)
(A液又はB液とC液又はD液の混合溶媒によるグラジエントによるプロタミンの溶出パターンにより評価)
使用機器:Waters Alliance 2695 / PDA2996 (Waters)
流速:0.8 mL/min、分析時間:40分、注入量:5 μL、検出波長:PDA 190-400 nm
各カラムを用いて分析したクロマトグラムを図4〜図7のA〜Jに示した。これらのカラムのうち、Symmetry 300TM C18やX BridgeTM BEH300 C18を用いた場合にプロタミンが比較的良好に担持された。そこで、X BridgeTM BEH300 C18を用いて検量線を作成した。
【0042】
(参考例4)検量線作成検討
1.標準溶液の調製
プロタミン100 mgを蒸留水で10 mLに定容し、10,000 ppm溶液を調製した。この溶液を2倍、10倍、20倍、100倍希釈して、それぞれ5,000 ppm、1,000 ppm、500 ppm、100 ppm溶液を調製した。これらをHPLC分析に供した。
2.HPLC分析
カラム: X BridgeTM BEH300 C18 3.5 μm 4.6 x 150 mm (Waters)
カラム温度:40℃、流速:0.8 mL/分、検出:PDA(190-400 nm, 検量線は210 nm)、サンプル温度:10℃
溶出条件:メタノール/0.1%TFA水(0分10/90⇒40分30/70⇒41分60/40⇒44分60/40⇒45分10/90)
X BridgeTM BEH300 C18カラムを用いて、メタノール/0.1%TFA水系で溶出した場合、プロタミンのピークは4種類の分子種が分離し、500 ppmから10,000 ppmの範囲で良好な検量線が得られた。しかし、100 ppmでは全ての分子種のピークが検出されず、硫酸プロタミンの純度測定の分離条件よりも検出限界(100 ppm)が高くなった。これは、注入したプロタミンの一部がカラムに吸着し、完全に溶出されていない可能性が示唆された。得られた結果は表2、図8に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
(実施例2)検量線作成検討(溶媒への5%NaCl の添加)
1.標準溶液の調製
プロタミン(100.0 mg)を蒸留水(10 mL)で定容して10,000 ppmの標準液を調製した。10,000 ppm溶液をホールピペットで3 mLをとり、蒸留水(10 mL)で定容して3,000 ppm溶液を、また10,000 ppm溶液をホールピペットで2 mLをとり、蒸留水(20 mL)で定容して1,000 ppm溶液を調製した。同様に1,000 ppm溶液を用いて300 ppm溶液と100 ppm溶液、100 ppm溶液を用いて30 ppm溶液と10 ppm溶液、10 ppm溶液を用いて3 ppm溶液と1 ppm溶液を調製した。
2.HPLC分析
NaCl(50.0 g)を蒸留水で溶解させた後、TFA(1 mL)を加え、蒸留水で1,000 mLに定容して溶出溶媒を調整した。
カラム: X BridgeTM BEH300 C18 3.5 μm 4.6 x 150 mm (Waters)
カラム温度:40℃、流速:0.8 mL/分、検出:PDA(190-400 nm, 検量線は210 nm)、サンプル温度:10℃
溶出条件:メタノール/5%NaCl+0.1%TFA水(0分5/95⇒30分20/80⇒31分60/40⇒34分60/40⇒35分5/95)
高極性側の0.1%TFA水に5%NaClを添加してメタノールとのグラジエントで溶出させた結果、プロタミンは3本のピークとして検出され、溶出時間が早くなりカラムに対する分離能や担持力は低下した。しかし、プロタミンのすべてのピークが10 ppmと低濃度まで検出でき、10 ppm〜3,000 ppmの範囲で検量線を作成すると非常に良好な直線性を得ることができた。得られた結果は表3、図9に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
(実施例3)カラムの検討
1.試薬の調製
0.1%TFA水に NaCl 濃度が 5.0% になるように NaCl を添加した。
2.プロタミン標準液の調製
10 ppm, 100 ppm のプロタミン水溶液を調製した。
3.HPLC条件
使用機器:Waters Alliance 2695 / PDA2996 (Waters)
カラム: X BridgeTM BEH300 C18 3.5 μm 4.6 x 150 mm (Waters);Symmetry 300TM C18 3.5 μm, 4.6 x 150 mm (Waters);BioSuiteTM C18 PA-A, 4.6 x 150 mm (Waters);BioSuiteTM C18 PA-B, 4.6 x 150 mm (Waters); XTerra MS C18 3.5 μm, 4.6 x 100 mm (Waters);EP-DF5-120A(洞海化学);EP-DF5-200A(洞海化学);EP-DF5-300A(洞海化学)
カラム温度:40℃、流速:0.8 mL/分、検出:PDA(190-400 nm, 検量線は210 nm)、サンプル温度:10℃
溶出条件:メタノール/2%各塩溶液+0.1%TFA水(0分5/95⇒30分20/80⇒31分60/40⇒34分60/40⇒35分5/95)
プロタミン濃度100ppmと10ppmのいずれにおいても、Watersカラムでは、X BridgeTM BEH300 C18, Symmetry 300TM C18, BioSuiteTM C18 PA-A, BioSuiteTM C18 PA-Bでは良好な分離と感度が得られたが、XTerra MS C18では充分な感度と分解能が得られなかった。また、洞海化学製のカラムではEP-DF5-120A、EP-DF5-200Aでは良いが、EP-DF3-300Aでは不十分であった。得られた結果は図10〜図13に示す。
【0047】
(実施例4)塩の濃度範囲
1.試薬の調製
0.1%TFA水に NaCl 濃度が0%, 0.5%, 1.0%, 1.5%, 2.0%, 2.5%, 3.0%, 3.5%, 4.0%, 4.5%, 5.0%になるように NaCl を添加した。
2.プロタミン標準液の調製
10 ppm, 100 ppm のプロタミン水溶液を調製した。
3.HPLC条件
使用機器:Waters Alliance 2695 / PDA2996 (Waters)
カラム: X BridgeTM BEH300 C18 3.5 μm 4.6 x 150 mm (Waters)
カラム温度:40℃、流速:0.8 mL/分、検出:PDA(190-400 nm, 検量線は210 nm)、サンプル温度:10℃
溶出条件:メタノール/0〜5%NaCl+0.1%TFA水(0分5/95⇒50分30/70⇒51分60/40⇒54分60/40⇒55分5/95)
NaCl添加濃度が1.0%以上濃い場合、プロタミン添加量に対して充分なピーク面積が得られた。NaCl添加濃度が1.0%より薄い場合、プロタミン添加量に対して約50%程度のピーク面積しか得られなかったため、1.0%〜10.0%のNaCl添加濃度がプロタミン検出感度を向上させると考えられる。得られた結果を表4に示す。尚、2%NaCl、プロタミン濃度 100 ppm のクロマトグラフを図14に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
(実施例5)溶出溶媒の検討
1.試薬の調製
2%NaCl溶液は0.34Mであり、0.1%TFA水に、KCl, MgCl2, CaCl2, CH3COONa, Na2SO4, NaH2PO4, Na2HPO4 の各金属イオン濃度が 0.34M になるように添加し、各溶媒を調製した。
2.プロタミン標準液の調製
10 ppm, 100 ppm のプロタミン水溶液を調製した。
3.HPLC条件
使用機器:Waters Alliance 2695 / PDA2996 (Waters)
カラム: X BridgeTM BEH300 C18 3.5 μm 4.6 x 150 mm (Waters)
カラム温度:40℃、流速:0.8 mL/分、検出:PDA(190-400 nm, 検量線は210 nm)、サンプル温度:10℃
溶出条件:メタノール/2%各塩溶液+0.1%TFA水(0分5/95⇒30分20/80⇒31分60/40⇒34分60/40⇒35分5/95)
KCl, MgCl2 において、プロタミンの検出感度は上昇したが、CaCl2, CH3COONa, Na2SO4, NaH2PO4, Na2HPO4 において検出感度上昇は見られなかった。得られた結果を表5に示す。
【0050】
【表5】

【0051】
(実施例6)アルギン酸複合体のプロタミン定量
1.試薬の調製
脱塩複合体(lot: 081224, プロタミン071120/ULV-L3, 20.0 mg)、Na複合体(lot: 081020, プロタミン071120/ULV-L3, 20.0 mg)、K複合体(lot: 090113, プロタミン071120/K-ULV-L3、佐藤製薬動物評価サンプル, 20.0 mg)、ポリグルタミン酸複合体(20.0mg)。
NaCl(10 g)を蒸留水(200 mL)に溶解して5%NaCl水溶液を調製した。各秤量したサンプル(20 mg)を5%NaCl水溶液に溶解し20 mLに定容した。メンブレでろ過した後、HPLC分析でプロタミンを定量した。
2.HPLC分析
実施例2に記載した条件に準拠した。
【0052】
各複合体に含まれるプロタミン含量を表6に示した。アルギン酸Na複合体やアルギン酸K複合体を調製するときにアルギン酸塩をプロタミンに対して80%を添加したため、プロタミン含量の理論値は55.6%になるが、定量値から算出された含有率は、アルギン酸Na複合体で56.9%、アルギン酸K複合体で54.9%となり、ほぼ定量的に検出された。また、アルギン酸脱塩複合体では含有率が64.9%と最も高くなった。これは水洗処理により塩が抜けたためと考えられる。また、ポリグルタミン酸複合体では5%NaCl水溶液に溶解させたときに不溶物を生じた。そのため、ポリグルタミン酸複合体の含有率は低くなったと考えられた。ポリグルタミン酸複合体を分析する場合には、塩濃度を上げるなど更なる検討が必要である。以上により、プロタミンとアルギン酸との複合体に含まれるプロタミンの定量は、5%NaCl水溶液に溶解し、溶出溶媒に5%NaClを添加することで高感度に分析することが可能となった。
【0053】
【表6】

【0054】
(実施例7)複合体懸濁液のプロタミン定量
1.懸濁液の調製
プロタミン(lot:071120 200.0 mg、lot:080910 200.2 mg)、アルギン酸カリウム(K-ULV-L3, lot:8H29202, キミカ, 200.1 mg)、アルギン酸ナトリウム(ULV-L3, lot:8D16202, キミカ, 200.0 mg)、アラビアガム(アラビックコールSS, lot:020924, 1000.2 mg)、大豆多糖類(SM-700, lot:050628, 三栄源FFI, 250.0 mg)、大豆多糖類(250 mg)を蒸留水で50 mLに定溶し、0.5%分散剤溶液を調製した。プロタミン(200 mg)およびアルギン酸塩(200 mg)をそれぞれ0.5%分散剤溶液で10 mLに定溶した。調製したプロタミン溶液(2 mL)にアルギン酸塩溶液(2 mL)を攪拌しながら加えてプロタミン複合体懸濁液を調製した(プロタミンとして10 mg/mL)。そこに10%NaCl水溶液(4 mL)を加えて懸濁液を溶解させた後、ホールピペットで1 mLをとり、5%NaCl水溶液で10mLに定容した(プロタミンとして500 ppm)。メンブレンフィルターでろ過した後、HPLC分析でプロタミンを定量した。
2.HPLC分析
実施例2に記載した条件に準拠した。
【0055】
定量結果を表7に示した。懸濁液の場合においても分散剤やアルギン酸、アラビアガムの影響を受けずに高感度でプロタミンを定量でき、添加したプロタミンに対する回収率も良好であった。以上の結果から、飲料などへの分析にも応用できると考えられた。
【0056】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に含まれるプロタミンの定量方法であって、
試料溶液を調製する工程と、
前記試料溶液中のプロタミンを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラムに吸着させる工程と、
前記HPLCカラムに吸着したプロタミンを、1〜10質量%の塩及び0.1質量%の有機酸の水溶液と、有機溶剤による濃度勾配を用いて溶出し、プロタミンに基づく溶出ピークを得る工程と、
前記溶出ピークから前記試料中のプロタミンを定量する工程と
を有することを特徴とするプロタミン複合体の定量方法。
【請求項2】
試料溶液が10質量%までの塩を含む請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
前記プロタミンが、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方の複合体として前記試料中に含まれる請求項1または2に記載の定量方法。
【請求項4】
前記酸性高分子化合物が、アルギン酸、アルギン酸の塩、ポリグルタミン酸及びその塩から選択される少なくとも1種である請求項3に記載の定量方法。
【請求項5】
前記塩が、NaCl、KCl及びMgCl2である請求項1〜4のいずれかに記載の定量方法。
【請求項6】
前記有機酸が、トリフロロ酢酸または蟻酸である請求項1〜5のいずれかに記載の定量方法。
【請求項7】
前記有機溶剤が、メタノール、エタノールまたはアセトニトリルである請求項1〜6のいずれかに記載の定量方法。
【請求項8】
前記HPLCカラムが、ODSが充填されたカラムであり、エンドキャップ有でポアサイズ50Å〜500ÅのHPLCカラムである請求項1〜7のいずれかに記載の定量方法。
【請求項9】
前記HPLCカラムが、BioSuite C18 PA-A 3μm(商品名)、BioSuite C18 PA-B 3μm(商品名)、Symmetry 300TM C18(商品名)、Atlantis dC18(商品名)及びX BridgeTM BEH300 C18(商品名)である請求項8に記載の定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−99790(P2011−99790A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255555(P2009−255555)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000233620)株式会社マルハニチロ食品 (34)