説明

プロタミン及びホウ酸含有防腐剤

【課題】プロタミンとホウ酸の抗菌・防腐・保存効果を簡便な方法で相乗的に向上させ、プロタミンの含有量が少ないものであっても、その殺菌、静菌、殺真菌及び/又は静真菌効果が優れた水性組成物を提供すること。
【解決手段】プロタミンに対し、高濃度のホウ酸を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性組成物であり、さらにポリソルベート類及び/又はエデト酸類を含有することができ、具体的には、プロタミン1重量部あたりに対し、ホウ酸6〜630,000重量部を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロタミンと高濃度のホウ酸とを配合させることにより得られる殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性組成物の改良された水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロタミンは、天然物から得られるタンパク質であり、従来から、抗菌性のタンパク質又は保存剤として食品に添加され利用されている。また、医薬品分野では、ヘパリンに対する中和作用を有するヘパリン拮抗剤としても利用されている。
一方、ホウ酸は、点眼液の防腐剤、緩衝剤として広く利用されている成分である。またホウ酸は医薬品添加物として、安定(化)剤、緩衝剤、等張化剤、pH調節剤、防腐剤、保存剤、溶解補助剤としての用途が知られている。その場合の投与経路・最大使用量としては、例えば、経皮投与剤にあっては18mg/g(製剤重量)、眼科用製剤にあっては20mg/mL、耳鼻科用製剤にあっては20mg/mL等が知られている。
【0003】
ホウ酸緩衝液の調製に際し、必要に応じて使用されるホウ砂についても同様に、安定(化)剤、緩衝剤、等張化剤、pH調節剤、防腐剤、保存剤としての用途が知られている。また、その投与経路・最大使用量としては、例えば、一般外用剤にあっては5mg/g(製剤重量)、経皮投与製剤にあっては1mg/g(製剤重量)、眼科用製剤にあっては4mg/mL、耳鼻科用製剤にあっては5.7mg、その他の外用製剤として5mg等が知られている。
【0004】
ところで、上記のプロタミン、或いは緩衝剤としてのホウ酸及び/又はホウ砂とを含有する液剤について、これまでいくつかの提案がなされている。例えば、食品、飲料品、化粧品、コンタクトレンズ製品、食品成分又は酵素組成物の保存のための、細胞壁分解酵素及び/又はオキシドリダクターゼと、プロタミン又は硫酸プロタミン及びその組み合わせによる殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性組成物が提案されている(特許文献1)。
さらに、ソフトコンタクトレンズの洗浄及び消毒用組成物として、pH緩衝剤(ホウ酸等)、微生物の細胞壁/細胞膜に作用する酵素、抗菌性タンパク質(例えばプロタミン又はその塩)及びピマリシンを含有する含水性洗浄及び消毒用組成物が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、プロタミンを含有する点眼液用保存剤として、例えば、プロタミンを点眼液(EDTA、ホウ酸、ホウ砂、塩化ナトリウム、プロピレングリコール、l−メントール、精製水)に添加した保存剤が提案されており、大腸菌、緑濃菌、黄色ブドウ状球菌、カンジダ、黒コウジカビに対し、保存効果を発揮するとされている(特許文献3)。さらにまた、チアミンラウリル硫酸塩と硫酸プロタミンとを含有する眼科用製剤が提案されている(特許文献4)。
【0006】
前記特許文献1には、プロタミンの静真菌及び抗真菌活性が具体的に記載さており、それによると、例えばプロタミンの最小阻害濃度(MIC)は、A. nigerに対しては1000μg/mLと高いものであるが、プロタミンの静真菌及び殺真菌作用は、細菌に対する作用と同様に高いpH及び低い接種量が至摘であり、pHの上昇はMICの有意な低下をもたらし、静真菌作用は殺真菌作用を決定したときに用いたものよりも2〜5分の1のプロタミン濃度で得られたことが報告されている。
【0007】
また、前記特許文献2に記載の組成物は、微生物の溶菌現象に関与するある種の酵素、いわゆる溶菌酵素による酵素反応を利用したものである。かかる組成物は、抗菌性タンパク質(例えば、プロタミン又はその塩)と角膜真菌症用点眼液又は眼軟膏に用いられている抗真菌剤であるピマリシンを共存させているものであり、例えば、硫酸プロタミンと50mMのホウ酸緩衝液(pH7.5)とを組み合わせた組成物が記載されているが、プロタミンとホウ酸との組み合わせた場合の相乗的な抗真菌作用効果については、一切記載されているものではない。
【0008】
さらにまた、特許文献3には、プロタミン0.01〜0.1g/100mLに所定のアミノ酸を添加することによってその保存効果が相乗的に高まり、点眼液中の菌の増殖を押さえることができることが報告されているが、そこに開示されるプロタミンの使用量は多いものであった。また、特許文献4は、防腐剤としてチアミンラウリル硫酸塩を用いる眼科用製剤である。
【0009】
このように、これまで提案されている組成物は、いずれも抗菌性タンパク質であるプロタミンの使用量はかなり過大なものであり、例えば、点眼液に用いる場合には、その実用性に問題があった。
したがって、天然由来の安全な抗菌性タンパク質であるプロタミンを少ない量で含有しながら、殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性に優れた水性組成物の開発が期待されている。
【特許文献1】特表平10−505592号公報
【特許文献2】特開平9−10288号公報(特許3655359号公報)
【特許文献3】特開2001−261552号公報
【特許文献4】特開2004−315472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状を鑑み、プロタミンとホウ酸の抗菌・防腐・保存効果を簡便な方法で相乗的に向上させ、プロタミンの含有量が少ないものであっても、その殺菌、静菌、殺真菌及び/又は静真菌効果が優れた水性組成物を提供することを目的とする。
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、少量のプロタミンと高濃度のホウ酸を配合した組成物が、プロタミンとホウ酸が個々に示す抗菌・防腐・保存効果を相乗的に著しく向上させるものであり、その結果、殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性が改良された、優れた組成物となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
上記した特許文献には、少量のプロタミンと高濃度のホウ酸を組み合わせて得られる液剤が、プロタミンの抗菌・抗真菌・防腐・保存効果を相乗的に向上させるという本願発明の特異的な効果については、一切記載も示唆もされているものではない。したがって、その点で本願発明は極めて特異的なものであるといえる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
しかして、本発明は、具体的には以下の構成からなる。すなわち、
(1)プロタミンに対し、高濃度のホウ酸を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物、
(2)プロタミンに対し、高濃度のホウ酸と、さらにエデト酸類を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物、
(3)プロタミンに対し、高濃度のホウ酸と、さらにポリソルベート類を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物、
(4)プロタミンに対し、高濃度のホウ酸と、さらにポリソルベート類及びエデト酸類を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物、
(5)プロタミン1重量部あたりに対し、ホウ酸6〜630000重量部を含有する請求項1〜4に記載の殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物、
(6)プロタミン1重量部あたりに対し、ホウ酸600〜63000重量部を含有する請求項1〜4に記載の殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物、
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、天然由来の安全な抗菌性タンパク質であるプロタミンと、安価なホウ酸を特定の配合比で組み合わせることにより、プロタミン及びホウ酸がそれぞれ有している抗菌・防腐・保存効果を相乗的に向上させることができ、その結果、殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性が改良された、優れた水性組成物が提案される利点を有している。
【0015】
本発明が提供するプロタミンに対して高濃度のホウ酸を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物は、これまで提案されているプロタミンの使用量を1/1,000〜1/10,000程度に抑えることができ、例えば、点眼液100重量に対して僅かに0.1重量部程度の用量で、点眼液の用途には十分な殺真菌作用を示すものであることが確認された。したがって、本発明により高価なプロタミンの使用量を減少させることができる利点を有している。
また、本発明が提案する水性組成物は、液状の形態で利用することができるので、安全性の高い、抗菌剤、防腐剤、保存剤として、例えば、皮膚、粘膜、創傷、打ち身、微生物細胞の殺傷、化粧品、コンタクトレンズ製品の殺菌・消毒、又は点眼用剤等に利用できる利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、その基本的態様としては、前記したように、プロタミンに対し、高濃度のホウ酸を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物である。
以下、本発明について説明する。
【0017】
本発明が提供する組成物に使用される抗菌性タンパク質であるプロタミンは、プロタミン又はその塩類であり、天然由来のものが好ましい。プロタミンの塩類としては、例えば、硫酸プロタミン(ニシン由来又はサケ由来)が市販されている。
なお、本明細書及び特許請求の範囲の記載において、特記しない限り、プロタミンとはプロタミン又はその塩類の両者を含めたものを意味する。
【0018】
本発明における水性組成物中のプロタミンの使用量は特に限定されるものではないが、従来提案されているプロタミンの使用量を大幅に減少させることが可能であり、具体的には、水性組成物中、0.0001〜10重量%、好ましくは、0.0001〜2重量%、より好ましくは0.0001〜0.5重量%、特に好ましくは0.0001〜0.2重量%である。
【0019】
一方、プロタミンと共に水性組成物中に配合されるホウ酸、或いはホウ砂は医薬品として使用されている通常の規格品であり、例えば日本薬局方記載の局方品等を使用することができる。
【0020】
本発明が提供する水性組成物を調製する際には、ホウ酸に加え、pH調整のためにホウ砂を添加しても良い。添加するホウ砂は、溶液のpH調整に使用されるものであり、その使用量は特に限定されない。なおこの場合、ホウ砂の量をホウ酸量に換算することにより配合量に含めて表示することもできる。
【0021】
本発明の水性組成物に用いるホウ酸とホウ砂の配合量は、使用するプロタミン又はその塩類の種類、使用量、その他添加する成分の種類により異なり、特に限定されるものではない。
本発明者等の検討によれば、少量のプロタミンに対して高濃度のホウ酸を含有させることにより、プロタミン及びホウ酸のそれぞれが個別的に有する抗菌・防腐・保存効果を相乗的に向上させることができることが判明した。したがって、その配合量は、好ましくはプロタミン1重量部あたりに対し、ホウ酸とホウ砂の合計量が6〜630,000重量部、より好ましくはホウ酸16〜630,000重量部、さらに好ましくはホウ酸60〜630,000重量部、特に好ましくはホウ酸600〜630,000重量部配合することがよい。
【0022】
本発明が提供する水性組成物は、それ自体公知の簡便な方法で調製することができる。
例えば、硫酸プロタミンと、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の等張化剤、ポリソルベート80等の安定剤(又は界面活性剤)、ホウ酸、pH調整剤としてのホウ砂を水に溶解させ、均一に混合することにより調製することができる。
なお、本発明の水性組成物にあっては、更に所望により、安定剤(又はキレート化剤)としてのエデト酸類、例えば、エデト酸ナトリウム、その他の添加剤を添加することもできる。
安定剤(又はキレート化剤)としてのエデト酸ナトリウムの添加量は、使用するプロタミンにより異なり特に限定されるものではないが、0.001mg〜50mg/100mLであり、好ましくは0.001mg〜40mg/100mLである。
【0023】
上記で調製される水性組成物のpHは、pH5〜8、好ましくはpH7〜8、より好ましくはpH7付近であるのがよい。
また、浸透圧比は0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1、より好ましくは0.95〜1.05であるのがよい。
【0024】
本発明により提供される水性組成物は、そのまま使用可能な液剤として、又は濃厚なものを調製した場合は、水で適宜希釈して、安全性の高い、抗菌剤、防腐剤、保存剤として、例えば、皮膚、粘膜、創傷、打ち身、微生物細胞の殺傷、化粧品、コンタクトレンズ製品の殺菌・消毒、又は点眼用剤等に使用することができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例、比較例、各種試験例等を記載することにより、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載により限定されるものではない。
【0026】
実施例1〜12:
下記表1及び表2に記載の各成分(単位:mg表示)を順次精製水に溶解させ、pH7.0〜pH7.5に調整し、滅菌ろ過し、精製水で全量を100mLとして各実施例の水性組成物を調製した。このときの浸透圧比は0.95〜1.05の範囲内であった。
なお、表1及び表2中の配合比は、プロタミンに対するホウ酸およびホウ砂の合計の配合比であり、下記式で求められる。
配合比=(ホウ酸+ホウ砂の合計重量)÷(プロタミンの重量)
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
比較例1〜5:
下記表3の各成分(単位:mg表示)を順次精製水に溶解させ、pH7.0に調整し、滅菌ろ過し、精製水で全量を100mLとして組成物を調製した。このときの浸透圧比は0.95〜1.05の範囲内であった。
【0030】
【表3】

【0031】
本発明の組成物について、その細胞毒性が低いものであることを確認するため、前記実施例及び比較例で得られた各組成物について、常法に従って、細胞毒性試験を行った。
【0032】
1.細胞毒性試験:
前記実施例及び比較例で得られた水性組成物(以下、被験体という)を用いて、下記の方法により、細胞(ウサギ角膜由来細胞:SIRC又はヒト角膜上皮由来細胞:HCE−T)の生存率を測定・算出した。
【0033】
[方法]
・各培地に35mm dishで細胞を所定時間培養
・培地をアスピレート
・被験体溶液(37℃に調整、pH調整なし)1mL添加
・各処理時間経過と同時に上記被験体溶液をアスピレートし、37℃のPBS 2mL×2回ずつ洗浄
・dishに0.5mLトリプシンを添加し、37℃、5%COで10分間インキュベート
・9.5mLのPBSでdishを洗浄しながら測定用のセルに移す(total 10mL)
・コールターカウンター(Z2型)[BECKMAN COULTER、BECKMAN COULTER(株)製]にて0.1mLあたりの細胞数測定
【0034】
[計算方法]
dishあたりの細胞数=(コールターカウンター測定値−PBSのみのブランク測定値)×10÷0.1
生存率=[サンプル細胞数÷コントロール平均細胞数×100(%)]
【0035】
すなわち、被験体溶液処理をせずPBSで洗浄しただけの細胞(コントロール)の数の平均を100とした時の被験体溶液処理した各サンプルの細胞数の割合である。
なお、コントロール群を含めてすべてのサンプルはn=3で実験を行い、これを2回以上繰り返した。「2回平均」のデータは(n=3)×2の平均値とSDを求めたものである。
【0036】
あわせて、ホウ酸およびプロタミンの細胞毒性試験も実施した。
(a)ホウ酸の細胞毒性試験:
精製水、ホウ酸、ホウ砂、必要ならば、塩化ナトリウム、塩化カリウムからなる組成物(このときのpH7.5〜7.77、浸透圧比0.95〜1.07)を調製し、組成物100mLあたり、ホウ酸800mg、1038mg、2000mg、2500mgを含有する各組成物を調製し、常法に従って、細胞障害確認試験により生存率(%)を求めた。
その結果、SIRC細胞を用いた場合、ホウ酸については、2500mg/100mLでも15分後の細胞生存率が80%を超える結果となり、この量でも組成物として十分に使用可能であることが分かった。
【0037】
(b)プロタミンの細胞毒性試験:
また、硫酸プロタミンは生体由来のものであり、本来細胞毒性が低いものであるが、前記各組成物100mLあたり、硫酸プロタミン0mg(無添加)、0.016mg、0.16mg、1.6mg、16mg、32mg、64mg、128mgを添加した各組成物を調製し、常法に従って、細胞障害確認試験により生存率(%)を求めた。
その結果、SIRC細胞を用いた場合、128mg/100mLの添加量であっても、15分後の細胞生存率が80%を超える結果となり、やはり細胞障害については問題のないことが分かった。
【0038】
それらの細胞毒性試験の詳細な結果は、以下のとおりであった。
(1)ホウ酸800mgに対し、硫酸プロタミン0mg(無添加)、0.016mg、0.16mg、1.6mg、16mgを100mLあたり含有する被験体を用いて生存率を求めたところ、30分後の生存率はすべて80%を超えていた。
(2)ホウ酸1038mgに対し、硫酸プロタミン0mg(無添加)、16mg、32mg、64mg、128mgを100mLあたり含有する被験体を用いて生存率を求めたところ、30分後の生存率はすべて80%を超えていた。
(3)ホウ酸2000mgに対し、硫酸プロタミン0mg(無添加)、16mg、32mg、64mg、128mgを100mLあたり含有する被験体を用いて生存率を求めたところ、無添加と16mg及び32mg含有被験体の30分後の生存率は80%を超えていた。
なお、硫酸プロタミン64mgの30分後の生存率は約50%であった。また、硫酸プロタミン128mgの30分後の生存率は約30%であった。
(4)ホウ酸2500mgに対し、硫酸プロタミン0mg(無添加)、16mg、32mg、64mg、128mgを100mLあたり含有する被験体を用いて生存率を求めたところ、無添加と16mg及び32mg含有被験体の30分後の生存率は80%を超えていた。
なお、硫酸プロタミン64mgの30分後の生存率は60%を超えるものであった。また、硫酸プロタミン128mgの30分後の生存率は約40%であった。
【0039】
2.保存効力試験
前記実施例及び比較例で得られた各水性組成物について、常法に従って、例えば、第15改正日本薬局方解説書(F−344、平成18年6月20日初版)参考情報 保存効力試験法に従って、下記保存効力試験を行った。
【0040】
1)試験菌株
A:黄色ブドウ球菌(S. aureus)
大腸菌(E. coli)
緑膿菌(P. aeruginosa)
B:カンジダ・アルビカンス(C. albicans)
C:黒麹菌(A. niger)
【0041】
2)接種菌液調製法
上記試験菌株A:32.0℃、24時間
SCD寒天培地
上記試験菌株B:22.5℃、48時間
サブロー・ブドウ糖寒天培地
上記試験菌株C:22.5℃、7日間
サブロー・ブドウ糖寒天培地
各培養後、希釈液にて懸濁し、各々約10CFU/mLの接種菌液を調製する。
【0042】
3)試料溶液の調製及び保存
約10CFU/mLに調製した接種菌液を各組成物に対し1/100容量(理論菌数)添加し、均一になるように混和し、試料溶液とする。試料溶液は22.5℃のインキュベーター内に静置する。
【0043】
4)生菌数測定
経日毎に試料溶液を適宜希釈し、第15改正日本薬局方 微生物限度試験法1.(2)カンテン平板混釈法に準じて生菌数を測定する。測定日は7、14及び28日とする。
培地:細菌用 SCD寒天培地
真菌用 サブロー・ブドウ糖寒天培地
【0044】
5)判定基準
製剤区分:カテゴリーIAの注射剤及び無菌の非経口剤
イ.細菌については
14日後:接種菌数(理論菌数)の0.1%以下
28日後:14日後のレベルと同等若しくはそれ以下
ロ.真菌については
14日後:接種菌数(理論菌数)と同レベル若しくはそれ以下
28日後:接種菌数(理論菌数)と同レベル若しくはそれ以下
の場合に保存効果有りと判定する。
【0045】
保存効力試験の結果を、以下の試験例で示す。
試験例1:前記実施例1の製法で得られた水性組成物の保存効力試験:
実施例1の水性組成物は、A. nigerを除く試験菌株において、菌接種7日後には生菌数が検出レベル以下となり、A. nigerについても、7日後には生菌数が接種菌数の0.1%以下となり、その後も経時的に菌数の減少を認めた(図1参照)。
【0046】
試験例2〜3:前記実施例2〜3の製法で得られた水性組成物の保存効力試験:
実施例1の組成物と同様の結果が得られた。
【0047】
対照例1:前記比較例1の製法で得られた水性組成物の保存効力試験:
対照として用いた比較例1のプロタミンを含まない水性組成物では、E. coliを除く試験菌株において、経時的な菌数の減少を認めたが、その保存効果は試験例1に比して弱く、E. coliに関しては、28日後も菌数の減少が認められなかった(図2参照)。
【0048】
試験例4〜5:前記実施例4〜5の製法で得られた水性組成物の保存効力試験:
これらの水性組成物は、C. albicansを除く試験菌株において、菌接種7日後には生菌数が検出レベル以下となり、C. albicansについても、7日後には生菌数が接種菌数の0.1%以下となり、その後も経時的に菌数の減少を認めた。
【0049】
試験例6〜8:前記実施例6〜8の製法で得られた組成物の保存効力試験:
前記試験例1と同様にして試験した。
実施例1の組成物と同様の結果が得られた(図3参照)。
【0050】
対照例2:前記比較例2の製法で得られた組成物の保存効力試験:
対照として用いた比較例2のプロタミンを含まない組成物は、E. coliを除く試験菌株において、経時的な菌数の減少を認めたが、その保存効果は試験例6〜8に比して弱く、E. coliに関しては、28日後に菌数の減少が認められたが、判定基準値を満たしていなかった(図4参照)。
対照例1に比して抗菌性が強くなる傾向が見られた。
【0051】
試験例9〜11:
保存効果を示す硫酸プロタミンの最小量を確認するため、前記実施例1及び実施例9〜11の製法で得られた組成物を用いて、E. coliについて前記と同様に7日間の保存効力試験を行なったところ、硫酸プロタミン0.0016〜0.016mg/100mLを含有する実施例10及び実施例11の被験体は、静菌性、静真菌性を示し、また、0.16mg/100mLを含有する実施例9の被験体は、殺菌性、殺真菌性の効力を発揮し、菌接種7日後のE. coliの生菌数は接種菌数の約10分の1に、また、前記実施例1の組成物は菌接種7日後のE. coliの生菌数が0.1%以下まで減少した。結果として硫酸プロタミンが組成物100mL中に0.001mg以上、好ましくは約0.16mg以上、より好ましくは約1.6mg以上存在することにより本発明の組成物の強力な相乗効果が発揮されるものと考えられる。
【0052】
試験例12:前記実施例12の製法で得られた組成物の保存効力試験:
実施例12のホウ酸を400mg/100mL、硫酸プロタミンを1.6mg/100mL含有する組成物では、A. nigerを除くすべての試験菌株において、経時的な菌数の減少を認め、A. nigerについても、静菌性、静真菌性を示した。
【0053】
前記比較例3〜5の組成物は、ホウ酸、ホウ砂に代えて、緩衝剤として通常使用されているリン酸系緩衝剤を用いた組成物である。比較例3〜4の硫酸プロタミンを3〜16mg/100mL含有する組成物では、保存効果が認められなかった。硫酸プロタミン160mg/100mLを含有する比較例5の被験体では、E. coliについては7日後に、P. aeruginosaについては14日後に、S. aureusについては28日後に菌数が検出レベル以下となったが、A. niger及びC. albicansに関しては、静真菌効果のみ認められた(図5参照)。
【0054】
比較例5の結果と、実施例3の結果を対比させると、プロタミン単独では殺真菌効果がないがホウ酸と組み合わせることにより顕著な殺真菌効果を示すことがわかる。
以上の結果により、硫酸プロタミン単独、又はホウ酸単独で用いた組成物の抗菌、静菌効果に対し、硫酸プロタミンとホウ酸とを組み合わせた場合、プロタミン単独の場合の使用量に対し、はるかに少量の使用量で抗菌、静菌効果を発現させることができた。この現象は硫酸プロタミンとホウ酸との組み合わせに特異的なものであり、このことによりプロタミンと高濃度のホウ酸からなる組成物が顕著な相乗効果を示すことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明により、天然由来の安全な抗菌性タンパク質と、安価なホウ酸を特定の配合比で組み合わせることにより、プロタミンとホウ酸の抗菌・防腐・保存効果が簡便な方法で相乗的に向上され、殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性が改良された組成物を得ることができた。
本発明の組成物は、従来の眼に刺激性のある塩化ベンザルコニウム等の抗菌剤を用いなくても良いものである。また、本発明により高価なプロタミンの使用量を減少させることができた。また、本発明の組成物は、液状の形態で利用することができるので、安全性の高い、抗菌剤、防腐剤、保存剤として、例えば、皮膚、粘膜、創傷、打ち身、微生物細胞の殺傷、化粧品、コンタクトレンズ製品の殺菌、又は角膜上皮細胞に障害を起こさない点眼薬の防腐剤として点眼用剤等の用途があり、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】実施例1の組成物の抗菌作用を示す図である。縦軸は生菌数(CFU/mL)、横軸は保存日数を示す。
【図2】比較例1の組成物の抗菌作用を示す図である。縦軸は生菌数(CFU/mL)、横軸は保存日数を示す。
【図3】実施例6の組成物の抗菌作用を示す図である。縦軸は生菌数(CFU/mL)、横軸は保存日数を示す。
【図4】比較例2の組成物の抗菌作用を示す図である。縦軸は生菌数(CFU/mL)、横軸は保存日数を示す。
【図5】比較例5の組成物の抗菌作用を示す図である。縦軸は生菌数(CFU/mL)、横軸は保存日数を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロタミンに対し、高濃度のホウ酸を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物。
【請求項2】
プロタミンに対し、高濃度のホウ酸と、さらにエデト酸類を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物。
【請求項3】
プロタミンに対し、高濃度のホウ酸と、さらにポリソルベート類を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物。
【請求項4】
プロタミンに対し、高濃度のホウ酸と、さらにポリソルベート類及びエデト酸類を含有する殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物。
【請求項5】
プロタミン1重量部あたりに対し、ホウ酸6〜630,000重量部を含有する請求項1〜4に記載の殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物。
【請求項6】
プロタミン1重量部あたりに対し、ホウ酸600〜63,000重量部を含有する請求項1〜4に記載の殺菌性、静菌性、殺真菌性及び/又は静真菌性の水性組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−174513(P2008−174513A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11109(P2007−11109)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【出願人】(594105224)東亜薬品株式会社 (15)
【出願人】(595060487)有限会社ユーワ商事 (3)
【Fターム(参考)】