説明

プロタミン及び/またはその塩と酸性高分子化合物とを含む生理活性複合体及びその用途

【課題】プロタミン及びプロタミン塩の特有の渋味・収斂味を低減し、かつこれらの脂肪吸収抑制効果を有効に理由できる方法を提供すること。
【解決手段】プロタミンまたはプロタミン塩に対して、渋味・収斂味が低減され、かつペプシンでの分解によりリパーゼ阻害活性を有するプロタミンを遊離させることのできる複合体を形成し得る酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方を反応させて、かかる複合体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性たんぱく質であり特有で強烈な渋味・収斂味を呈するプロタミン及びその塩を、経口摂取する場合においてその呈味を低減させ、かつ機能性(脂肪吸収抑制効果)を保持した複合体およびその製造方法、並びにその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロタミンは、脊椎動物の精子核中でDNAと結合している塩基性のたんぱく質であり、DNAを圧縮、保護することにより、遺伝情報の保護機能を担っていると考えられている。プロタミンは、生物種によりアミノ酸配列は若干異なるが、アルギニン残基が2/3を占めることが特徴で、一般細菌に対して抗菌作用があることから、主に魚類精巣(白子)から抽出されたプロタミンが食品の保存剤などとして広く利用されている(特開昭61−219363号公報)。また、プロタミンは、効力持続性インシュリン製剤や抗ヘパリン剤など医薬領域においても利用され、ニーズの高い天然素材である。そのほかにも、カテキン類を含む飲料に添加することで苦味・渋味を改良する効果(特開平5-328935号公報、同6-153875号公報)や、脂肪吸収に係わる酵素であるリパーゼを阻害することが報告されている(J. Biol. Chem. 215, 1-14 (1955)、特開平05-339168号公報)。
【0003】
近年、ライフスタイルの変化により摂取エネルギーは増加し、消費エネルギーは減少傾向にある。特に食生活の脂質の摂取が増加し、肥満や生活習慣病の増加との関連が問題視されている。プロタミンは0.5gの経口摂取時において脂肪吸収抑制効果が認められている(日本食品科学工学会誌55(8), 360-366 (2008))ことから、プロタミンの摂取により生活習慣の改善に貢献できると考えられる。
【0004】
しかし、プロタミンは特有の強烈な呈味(渋味・収斂味)を示すことから、有効量を摂取することが非常に困難であることが問題となった。プロタミンを抗菌剤として食品に利用する場合は、少量で効果が認められるため、その呈味が問題となることはないが、添加量が増加すると特有の呈味が問題となってくる。
【0005】
例えば飲料にプロタミン及び/またはその塩を添加し、食品の渋味や苦味を抑制させる効果において、プロタミンを適量使用する場合は、サポニン・タンニン・リモニン・カテキン・カフェインなどと化学結合して不溶物質を生成し、これを除去することにより苦味の低減効果が発揮されるが、プロタミンの添加量が多くなると特有のえぐ味を生じてくることが知られている(特開平5-328935号公報、同6-153875号公報)。実際にプロタミンの機能性(脂肪吸収抑制効果)を十分に発揮できる量を摂取する場合には、プロタミンの濃度を上げて摂取する必要があり、その場合には強烈な呈味が問題となり、食品としての利用が事実上制限される。これらのことから、プロタミンの機能性(脂肪吸収抑制効果)を損なわず、かつ特有の呈味を低減させた素材の提供が期待されている。プロタミンを含む栄養補助食品または飲料組成物の味質を改善については、ラフィノースを配合による味質の改善が提案されている(特開2003-144094号公報)。
【0006】
従来、飲食品の渋味を改善する方法が種々提案されている。例えば亜鉛や鉄イオンの呈する渋味改善剤としてのヒアルロン酸(特開2002-29950号公報)、核酸関連物質(特開2006-131618号公報)、カルニチン類(特開2005-255653号公報、特開2005-298484号公報)、コラーゲンペプチド(特開2006-045216号公報)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(特開2002-065177号公報、特開2003-073284号公報、特開2006-045217号公報)、乳由来塩基性タンパク質(特開2007-246413号公報)などが知られている。また、渋味を代表するポリフェノール類の渋味を低減させる技術として、シクロデキストリン(特開2003-183166号公報など)、甘味料(アスパルテーム:特開平2-056416号公報、ステビオール配糖体:特開2003-164268号公報、スクラロース:特開2008-099677号公報など)、オリゴ糖類(特開2006-280254号公報、特開2008-061593号公報)を添加する方法などが開示されている。また、大豆ペプチド由来の苦味や渋味に対しては、pHを調整してペクチンやカルボキシメチルセルロースなどの安定剤を添加する方法(特開2004-261139号公報)などが知られている。
【0007】
また、アルギン酸(特開2003-116496号公報、請求項3)やポリグルタミン酸(特開2005-130756号公報、請求項3)がポリフェノール系の渋味に対するマスキング効果があることが知られている。
【0008】
しかしながら、いずれの方法においてもプロタミンのような塩基性たんぱく質で特有の渋味・収斂味を示す物質に対する低減効果は知られてなく、かつ機能性の維持に関する検討は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-29950号公報
【特許文献2】特開2006-131618号公報
【特許文献3】特開2005-255653号公報
【特許文献4】特開2005-298484号公報
【特許文献5】特開2006-045216号公報
【特許文献6】特開2002-065177号公報
【特許文献7】特開2003-073284号公報
【特許文献8】特開2006-045217号公報
【特許文献9】特開2007-246413号公報
【特許文献10】特開2003-183166号公報
【特許文献11】特開平2-056416号公報
【特許文献12】特開2003-164268号公報
【特許文献13】特開2008-099677号公報
【特許文献14】特開2006-280254号公報
【特許文献15】特開2008-061593号公報
【特許文献16】特開2004-261139号公報
【特許文献17】特開2003-116496号公報
【特許文献18】特開2005-130756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、本来的に有するプロタミンの呈味(渋味・収斂味)に関する問題を明らかにした上で、その呈味を低減させ、抵抗なく容易に摂取することができると共に、プロタミンの持つ機能性(脂肪吸収抑制効果)を変えることなく保持して、様々な食品に適用できる食品用の複合体及びその製造方法、並びにその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
プロタミン及びその塩は、一般の苦味を有する疎水性アミノ酸やそのアミノ酸を多く含むペプチドとは異なり、その配列にアルギニンを多く含む塩基性のたんぱく質であり、特有の呈味(渋味・収斂味)を示す。渋味・収斂味は、基本5味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)とは区別され、口腔内で物理的刺激を伴って引き起こされる味刺激である。渋味・収斂味を示すものとしては、タンニン、カテキンなどのポリフェノール類が知られる。プロタミンは白子などに存在している時は、DNAと強固に結合して複合体(ヌクレオプロテイン)を形成しているため、その状態では渋味・収斂味は呈さない。しかし、ヌクレオプロテインはリパーゼ阻害活性を示さず、ヒトでの経口摂取においても脂肪吸収抑制効果は認められない(日本食品科学工学会誌55(8)360-366(2008))ため、肥満などの生活習慣病を予防する食品素材としての利用価値は低い。
【0012】
本発明者は、プロタミン及びその塩の呈味低減作用として、食品用材料として利用されている酸性高分子化合物またはアラビアゴムとの相互作用に着目し、また機能性評価として消化器官(胃)を模倣したペプシンを含む人工胃液による処理を行い、経口摂取した場合における消化機構に着目した。
【0013】
更に、プロタミン及びその塩は強い渋味・収斂味を呈するが、これはプロタミンがアルギニンを構成成分として多く持つ塩基性たんぱく質であるためと考えられる。一方、プロタミンとDNAの複合体であるヌクレオプロテインは無味である。DNAは酸であることから、塩基のプロタミンとDNAがイオン結合で強固に結合しているため、口腔内ではプロタミンが遊離せず、渋味・収斂味を呈しないと考えられた。しかし、ヌクレオプロテインは結合性が強く安定であるため、胃の中でプロタミンが分離せず十二指腸から分泌されるリパーゼに対する阻害作用が認められないことから、脂肪吸収抑制効果が確認できないと考えられた。これらのことから、口腔内条件では遊離せず、胃内の条件でプロタミンが分離するような材料と複合体を形成できれば、プロタミン特有の渋味・収斂味を抑えた脂肪吸収抑制効果が認められる食品素材を得ることができると考えられた。
【0014】
以上の事項に基づいて鋭意研究を行った結果、本発明者は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、これらの渋味・収斂味を低減し、かつペプシンにより分解してプロタミン由来のリパーゼ阻害活性を発現し得る複合体を形成できる材料として酸性高分子化合物及びアラビアゴムがあることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明にかかる複合体は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方の複合体であって、ペプシン処理によりプロタミンに基づくリパーゼ阻害活性を示すことを特徴とする複合体である。
【0016】
本発明にかかる複合体の製造方法は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方を含み、ペプシン処理によりプロタミンに基づくリパーゼ阻害活性を示す複合体の製造方法であって、
プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方とを、水性媒体中で混合して複合体を形成する工程を有することを特徴とする複合体の製造方法である。
【0017】
本発明にかかる酸性高分子化合物を使用する方法の第一の態様は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品において、プロタミン及びその塩の少なくとも1種による渋味の低減のために酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方を使用する方法である。
【0018】
本発明にかかる酸性高分子化合物を使用する方法の第二の態様は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品の製造において、プロタミン及びその塩の少なくとも1種による渋味の低減のために酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方を使用する方法である。
【0019】
本発明の粉末混合物は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種の粉末と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方の粉末の混合物であって、前記プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、前記酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方の複合体であって、ペプシン処理によりプロタミンに基づくリパーゼ阻害活性を示す複合体を水性媒体中で形成し得ることを特徴とする粉末混合物である。
【0020】
本発明にかかる機能性食品は、上記の複合体または上記の粉末混合物を含むことを特徴とする機能性食品である。
【0021】
本発明の脂肪吸収抑制剤は、上記の複合体または上記の粉末混合物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪吸収抑制剤である。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、従来特有の渋味・収斂味を呈し、機能性を発揮するために必要な量を摂取することが困難であったプロタミン及びその塩を、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方の複合体を形成することにより、その呈味を改善し、かつ機能性を保持することができる。また、本発明の複合体は、水性媒体中でプロタミン及びその塩の少なくとも1種と酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方とを直接混合するという簡素な方法で形成でき、しかも水難溶性のため分離が容易である。また、本発明で得られる複合体は、臭い、味、色に特異な厭味が認められない事から経口摂取が容易である。また、これらの2成分を粉末として混合することでも、同様の作用効果を得ることができる。その為、本発明で得られる複合体または粉末混合物を含有する各種製剤を、例えば、飲料類(清涼飲料(コーヒー、ココア、ジュース、ミネラル飲料、茶系飲料等)、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、酒類(日本酒、洋酒、果実酒等)等)、スプレッド(カスタードクリーム、バタークリーム、ピーナツクリーム、チョコレートクリーム、チーズクリーム等)、ペースト(フルーツペースト、野菜ペースト、ゴマペースト、海藻ペースト等)、洋菓子(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、エクレア、マフィン、ワッフル、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、クラッカー、ビスケット、スナック菓子、ケーキ、プリン等)、和菓子(飴、煎餅、かりんとう、あられ、団子、おはぎ、大福、豆もち、餅、餡、饅頭、カステラ、あんみつ、羊かん等)、氷菓(アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベット、かき氷等)、レトルト食品(カレー、牛丼、中華丼、雑炊、おかゆ、味噌汁、スープ、ラーメン、焼きそば、ミートソース、煮魚、焼き魚、ミートボール、ハンバーグ、シューマイ、おでん種、赤飯、焼き鳥、茶碗蒸し等)、即席食品(即席ラーメン、即席うどん、即席そば、即席焼きそば、即席ワンタン麺、即席しるこ、味噌汁の素、粉末スープの素、粉末ジュースの素、ホットケーキミックス等)、瓶詰・缶詰、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、テリーヌ、ゼリー状飲料等)、調味料(食塩、天然塩、醤油、みりん、酢、砂糖、蜂蜜、味噌、ドレッシング、複合調味料、ソース、マヨネーズ、ケチャップ、ふりかけ、天つゆ、麺つゆ、だしの素、中華スープの素、中華の素(麻婆豆腐の素、チンジャオロースの素)、ブイヨン、焼肉のたれ、冷しゃぶのたれ、カレールー、シチューのルー等)、乳製品(牛乳、チーズ、ヨーグルト、生クリーム等)、加工果実(ジャム、マーマレード、シロップ漬、干し果実等)、加工野菜(大根おろし、おろし山芋、ベジタブルミックス、冷凍ホウレンソウ等)、穀類加工食品(麺、パスタ、パン、ビーフン等)、漬物(たくあん、奈良漬、キムチ漬、福神漬、らっきょう漬、白菜漬、からし漬、しば漬、浅漬け、ピクルス等)、漬物の素(即席漬けのもと、キムチ漬のもと等)、魚肉製品(ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、はんぺん、フレーク等)、畜肉製品(ハム、ソーセージ、サラミ、ベーコン等)、珍味(さきするめ、さきタラ、ウニの塩辛、イカの塩辛、タコの塩辛、カワハギのみりんぼし、フグのみりんぼし、イカの薫製、コノワタの塩漬等)、乾物(味付け海苔等)、惣菜類(あえもの、揚げ物、炒め物、焼き物、煮物、酢の物等)、冷凍食品(フライ、天ぷら、から揚げ、コロッケ、春巻き、とんかつ、シューマイ、炒飯、餃子、ラーメン、焼きそば、ハンバーグ、たこ焼き、今川焼き、肉まん等)、油脂食品(サラダオイル、マーガリン、バター)等として提供することができる。機能性食品は、健康食品、栄養補助食品、特定保健用食品、あるいは各種飲料や食品に添加する健康志向食品への応用等、広範な用途への適用も期待でき、肥満症、高脂血症、動脈硬化等の生活習慣病の予防・治療・改善に優れた効果を奏するものである。更に、化粧品や医薬部外品としても提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】プロタミンの渋味・収斂味を示す濃度に関する検討の結果を示す図である。
【図2】プロタミンとアルギン酸の複合体形成時の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図3】プロタミンとアルギン酸の複合体形成時の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図4】胃条件処理の有無による複合体のリパーゼ阻害活性を示す図である。
【図5】複合体のリパーゼ阻害活性(胃条件処理)を示す図である。
【図6】アルギン酸複合体の胃条件処理後のリパーゼ阻害活性を示す図である。
【図7】アルギン酸複合体の胃条件処理後の1H NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明にかかる複合体は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、複合体形成用材料としての酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方とを反応させて得ることができる。酸性高分子化合物及びアラビアゴムとしては、食品用材料として利用可能であり、プロタミンのアルギニンに由来する渋味・収斂味のマスキング作用を有し、かつ上記の特性を有する複合体を形成し得るものが選択して用いられる。
【0025】
プロタミンは主に魚類の白子を原料として調製されるが、白子の種類としては特に制限はなく、サケ(サルミン)、ニジマス(イリジン)、ニシン(クルペイン)、サバ(スコンブリン)、チョウザメ(スツリン)マグロ、タラ、コイ、スズキ等が挙げられるが、入手容易性や、コスト等を考慮すると特にサケとニシンの白子由来のものが好ましい。また、その塩を構成する酸としては、塩の用途に応じて選択できるが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩が好ましい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、更にはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、またはフマル酸等のジカルボン酸との塩、更に、酢酸、プロピオン酸、または酪酸等のモノカルボン酸との塩等を挙げる事ができるが、入手容易性や、コスト等を考慮すると特に塩酸塩、硫酸塩が好ましい。
【0026】
酸性高分子化合物としては、アルギン酸及びその塩、並びにポリグルタミン酸及びその塩から選択された少なくとも1種が好ましい。
【0027】
アルギン酸は海藻の一種類である褐藻類から得られるもので、具体的な褐藻類としてはコンブ、ワカメ、ヒジキ、カジメ、アラメ等が挙げられる。アルギン酸としては、本発明の効果が得られるものを選択して使用し、分子量が0.5万を超えているものが好ましく、また、少なくとも1万であるアルギン酸またはその塩が更に好ましい。アルギン酸の分子量の上限は特に限定されないが、分子量が大きいと溶液の粘度が上昇して溶解性が低下するため操作性が悪くなることから、その上限が200万、更には100万程度であるものが好ましい。また、その塩を構成する塩基としては、上述した特性の複合体を形成できる塩を形成できるものであれば特に制限されないが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩を構成する塩基が好ましい。この塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、リチウム塩、アルミニウム塩等の無機塩や、メチルアミン塩、ジメチルアミン塩、トリエチルアミン塩の様なモノ−、ジ−及びトリ−アルキルアミン塩、モノ−、ジ−及びトリ−ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N−メチルグルコサミン塩などの有機塩を挙げることができる。
【0028】
ポリグルタミン酸はグルタミン酸がα−アミノ基とγ−カルボキシル基がアミド結合したポリマーで、納豆粘質物の成分として古くから知られ、バチルス属に属する細菌などによる培養法によって大量に生産されている。本発明に用いるポリグルタミン酸またはその塩としては、分子量が0.1万を超えているものが好ましく、また、少なくとも1万であるものが更に好ましい。ポリグルタミン酸の分子量の上限は特に限定されないが、分子量が大きいと溶液の粘度が上昇して溶解性が低下するため操作性が悪くなることから、その上限が100万程度であるものが好ましい。また、その塩を構成する塩基としては、上述した特性の複合体を形成できる塩を形成できるものであれば特に制限されないが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、以下に挙げる薬学的に許容される塩を構成する塩基が好ましい。この塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、リチウム塩、アルミニウム塩等の無機塩や、メチルアミン塩、ジメチルアミン塩、トリエチルアミン塩の様なモノ−、ジ−及びトリ−アルキルアミン塩、モノ−、ジ−及びトリ−ヒドロキシアルキルアミン塩、グアニジン塩、N−メチルグルコサミン塩などの有機塩を挙げることができる。
【0029】
アラビアゴムは特に限定されず、例えば、ガラクトースの1-3結合による主鎖とその6位の炭素にアラビノース、ガラクトース、ラムノース、およびグルクロン酸よりなる側鎖が結合したポリウロン酸(アラビン酸)の塩等を挙げることができる。アラビアゴムの分子量としては、200,000〜250,000程度のものが好適に利用できる。
【0030】
複合体を形成する際におけるプロタミン及びその塩の少なくとも1種(A)に対する複合体形成用材料(B)(酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方)の配合割合は、目的とする複合体の形成が可能であるように設定すれば制限されるものではない。(A):(B)が重量比で4:1〜1:10の範囲内になるように設定することが好ましい。更に、複合体形成用材料(B)として酸性高分子化合物を用いる場合は、(A):(B)が重量比で4:1〜1:2の範囲内になるように、すなわち、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、複合体形成用材料(B)の少なくとも1種を25重量%〜200重量%の割合に設定することが好ましい。この場合、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、複合体形成用材料(B)を50重量%以上配合することが更に好ましい。一方、複合体形成用材料(B)としてアラビアゴムを用いる場合は、(A):(B)が重量比で1:2〜1:10の範囲内になるように、すなわち、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、複合体形成用材料(B)の少なくとも1種を200重量%〜1000重量%の割合に設定することが好ましい。アラビアゴムの場合は、さらに1:3以上(プロタミンに対して300重量%以上)の添加が更に好ましい。
【0031】
本発明にかかる複合体は、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、複合体形成用材料と、を水性媒体中で混合して反応させることにより製造することができる。例えば、プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む水溶液と、複合体形成用材料を含む水性媒体を混合することにより複合体を容易に製造可能である。水性媒体中におけるプロタミン及びその塩や複合体形成用材料の濃度は、適宜調節でき制限されるものではないが、通常、それぞれ0.1重量%〜20重量%に調整することが好ましい。この製造に用いる水性媒体としては、上述した特性の複合体を形成できる塩を形成できるものであれば特に制限されないが、食品、化粧品、医薬品などへの用途を考慮すると、水、蒸留水、脱イオン水、生理食塩水、酸性水、塩基性水、緩衝液、アルコール水などを利用することができる。例えば、酸性水としは、有機酸であるクエン酸、リンゴ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、乳酸、ぎ酸、酒石酸、マレイン酸、シュウ酸、コハク酸、アスコルビン酸、グルコン酸、カルボン酸、フタル酸、トリフルオロ酢酸、モルホリノエタンスルホン酸、2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸及びその塩類、または無機酸である塩酸、過塩素酸、炭酸及びその塩類を少なくとも1種を含む水溶液等を挙げることができる。また、塩基性水用としては、有機塩基であるトリス(ヒドロキシメチル)、アミノメタン、アンモニア及びその塩類、または無機塩基である、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムを少なくとも1種を含む水溶液等を挙げる事ができる。また、緩衝液としては、用途に応じたpHに応じて、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液などを選択することができる。水性媒体を構成する上述の酸、塩基、緩衝液の濃度は、呈味に大きな影響を及ぼさない0.001重量%〜1重量%が好ましく、0.01重量%〜0.5重量%がより好ましい。また、塩基性水性媒体のpHは、8以上が好ましく、8〜12がより好ましく、9〜11がさらに好ましい。pHが高すぎると加水分解の懸念や取り扱い上の危険性があるため、上述の範囲が好ましい。酸性水性媒体のpHは、8未満が好ましく、2.0〜7.5がより好ましく、2.5〜5がさらに好ましい。pHを低くすることで、防腐剤を使用しなくても細菌の繁殖を抑制することができるため、上述の範囲が好ましい。また、アルコール水に使用するアルコールの具体例として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール、プロピレングリコール、グリセロールなどの多価アルコール等を挙げることができるが、生成した複合体を摂取する際の安全性を考慮すると、エタノールを用いるのが好ましい。アルコール水の含水率としては、60重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。いずれの水性媒体の温度に制限はないが、0℃〜80℃が好ましく、5℃〜60℃がより好ましく、15℃〜40℃がさらに好ましい。
【0032】
本発明にかかる複合体は、水に難溶性であり、水性媒体中に分散状態で、あるいは沈殿物として得られる。このようにして得られた複合体を必要に応じて水性媒体から回収し、脱塩し、更に、乾燥して、複合体製品とすることができる。この脱塩には、水洗が利用でき、複合体に含まれる塩分を目的とする程度まで低減する。
【0033】
更に、水性媒体中には、必要に応じて分散剤を添加して、水性媒体中で生成した複合体の乳化状態あるいは分散状態を維持することができる。この分散剤としては特に制限はないが、例えば、水溶性大豆多糖類、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ペクチン、カルボキシメチルセルロース又はその塩(CMC)、微結晶セルロース、発酵セルロース、カラギナン(イオタ、ラムダ、カッパ)、キサンタンガム、アラビアゴム、グァーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、ガティガム、マクロホモプシスガム、タラガム、ジェランガムなどが利用できる。分散剤の添加量は、一般には、溶液全体に対して0.001重量%〜1重量%、より好ましくは0.1重量%〜1重量%の範囲から選択する。この分散剤は、複合体を用いて飲料を製造する際に添加して、複合体の分散安定性を得るために使用してもよい。その際の配合割合も、一般には、飲料全体に対して0.01重量%〜10重量%、より好ましくは0.05重量%〜5重量%の範囲から選択する。また、水性媒体のpHは、2.5〜8.5の範囲から選択することが好ましい。
【0034】
従って、本発明にかかる複合体は、乳液、分散液、スラリー、乾燥品など種々の形態での提供が可能である。
【0035】
なお、分散剤を使用する場合は、複合体の形成時には分散剤が存在していることが好ましい。例えば、以下の方法及びそれらの2種以上の組み合わせによる方法を用いることが好ましい。
(1)プロタミン及びその塩の少なくとも1種と分散剤を水性媒体中で混合しておき、これに複合体形成用材料(あるいはその水性媒体溶液)を添加する。
(2)複合体形成用材料と分散剤を水性媒体中で混合しておき、これにプロタミン及びその塩の少なくとも1種(あるいはその水性媒体溶液)を添加する。
(3)プロタミン及びその塩の少なくとも1種と分散剤を粉末状などの固体の形態で混合しておき、これを複合体形成用材料の水性媒体溶液に添加する。
(4)複合体形成用材料と分散剤を粉末状などの固体の形態で混合しておき、これをプロタミン及びその塩の少なくとも1種の水性媒体溶液に添加する。
(5)水性媒体中に分散剤を予め添加しておいてから、これにプロタミン及びその塩の少なくとも1種(あるいはその水性媒体溶液)及び複合体形成用材料(あるいはその水性媒体溶液)を添加する。
(6)プロタミン及びその塩の少なくとも1種と複合体形成用材料と分散剤を粉末状などの固体の形態で混合しておき、これを水性媒体溶液に添加する。
【0036】
本発明にかかる複合体は、ペプシンにより分解されてプロタミンが遊離し、プロタミン由来のリパーゼ阻害活性を発現できるものであり、経口により摂取された後に胃の中で分解され、脂肪吸収抑制効果を発揮できるものである。従って、本発明にかかる複合体を用いることにより、プロタミン及びその塩の渋味・収斂味を低減し、かつ脂肪吸収抑制効果を示す組成物、食品及び医薬品を提供することができる。
【0037】
一方、プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品(あるいは食品用材料)に酸性高分子化合物を用いて複合体を形成することにより、これらに由来する渋味・収斂味を低減することが可能となる。従って、プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品(あるいは食品用材料)に複合体形成用材料を添加する、あるいはプロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品(あるいは食品用材料)の製造のいずれかの段階において複合体形成用材料を添加することにより、これらの複合体を食品(あるいは食品用材料)中で形成させ、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に由来する渋味・収斂味を低減することができる。
【0038】
さらに、プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品(あるいは食品用材料)に酸性高分子化合物を含む食品(あるいは食品用材料)を添加する、あるいはプロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品(あるいは食品用材料)の製造のいずれかの段階において複合体形成用材料を含む食品(あるいは食品用材料)を添加することにより、これらの複合体を食品(あるいは食品用材料)中で形成させ、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に由来する渋味・収斂味を低減することができる。
【0039】
複合体形成用材料としての酸性高分子化合物を含む食品(あるいは食品用材料)として、例えば、アルギン酸を含む褐藻類(コンブ、ワカメ、ヒジキ、カジメ、アラメ等)を含む食品、ポリグルタミン酸を含む納豆製品が挙げられる。
【0040】
一方、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、複合体形成用材料とを粉末状体で混合して上記複合体を製造するための原料として、あるいは、食品(あるいは食品用材料)などの各種製品中での上記複合体を形成させるための粉末混合物とすることができる。この粉末混合物は、脂肪吸収抑制剤等として経口摂取することで、口腔内の水分(唾液や追加的に飲用した水分など)中で上記複合体の形成を可能とする用途に使用することもできる。
【0041】
粉末混合物を製造する場合において、プロタミン及びその塩の少なくとも1種と複合体形成用材料の配合割合も、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、複合体形成用材料の少なくとも1種を25重量%〜200重量%の割合に設定することが好ましい。また、プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、複合体形成用材料を50重量%以上配合することが更に好ましい。
【0042】
プロタミン及びその塩の少なくとも1種、並びに、複合体形成用材料の粉末における粒径は1μm〜1000μmにあることが好ましい。
【0043】
この粉末混合物にも、先に挙げた分散剤を必要に応じて含有させることができる。このように、分散剤を予め粉末混合物に含有させることにより、粉末混合物を水性媒体に添加した際に形成される複合体が沈殿せずに水性媒体中に良好に分散可能となる。このように沈殿物を生じないという観点からは、液状食品、液体食品、飲料などに直接粉末混合物を用いる場合に特に好適である。更に、粉末混合物に分散剤を添加しておくことで、これを水性媒体に添加して得られる複合体の分散液は、食品や食品材料にこれを添加する際に均一な添加を操作性良くおこなうことができるという利点を有する。
【0044】
更に、この分散剤を含有する粉末混合物は、水性媒体に添加して液状の脂肪吸収抑制剤として経口投与する形態としても利用できる。また、粉末混合物を直接経口投与する場合においても、分散剤を含有させておくことで、口中での沈殿物の発生を抑えることができ、
不快感なく利用可能となる。
【0045】
粉末混合物中での分散剤の含有割合は、粉末混合物全体に対して0.1重量%〜100重量%、より好ましくは1重量%〜50重量%、さらに好ましくは5重量%〜25重量%の範囲から選択する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)プロタミンの渋味・収斂味を示す濃度に関する検討。
プロタミンを経口摂取したときの渋味・収斂味を感じる濃度の閾値を検証した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
プロタミン(0.8g)を蒸留水(40mL)に溶解して20,000μg/mLのプロタミン水溶液を調製した。この溶液を蒸留水で順次希釈して、10,000、5,000、2,500、1,000、500、250、100、50、25、10μg/mLの10種類の濃度のプロタミン溶液を調製した。濃度の薄い方から順次0.5mLずつ摂取して、3段階で渋味について評価した。その結果を図1に示す。
【0048】
プロタミンの渋味・収斂味を感じる濃度は、ヒトにより感度は異なるが、50〜250μg/mLで感じ始め、500μg/mLでは全員が感じた。また、1,000μg/mLでは8割の被験者が不快と感じることが明らかとなった。因みに、500μg/mLでプロタミンを脂肪吸収抑制効果が見られる量0.5gを摂取する場合、1Lとなり、呈味の改善を行わなければ実用的に難しいことが明らかとなった。
【0049】
(実施例2)プロタミンの渋味・収斂味を低減させる検討
脂肪吸収抑制効果が認められるプロタミンの1日摂取目安量は0.5gである。飲料用途を考えて、50mL中にプロタミンが0.5g含有する濃度(10mg/mL)で官能評価を行い、渋味・収斂味の低減効果を検証した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・ポリグルタミン酸:ヤクルト薬品工業(株)製 ポリグルタミン酸PGA
・グルタミン酸:チェイルジェダン(株)製 グルタミン酸ナトリウム
・カラギナン:(株)CPケルコジャパン製 Genugel carrageenan type CJ
・ペクチン:ダニスコジャパン製 Grindsted Pectin AMD 780
・コンドロイチン硫酸:(株)マルハニチロ食品製 SCP-NB
・ヒアルロン酸:(株)マルハニチロ食品製 ヒアルロン酸ナトリウム「マルハ」
・核酸:(株)マルハニチロ食品製 DNA-Na
・L-アスコルビン酸:日本バルク薬品(株)製 L-アスコルビン酸
・レシチン:花王(株)製 ベネコートBMI-40
・アルギン酸:(株)キミカ製 ULV-L3
・アルギン酸オリゴ糖:(株)マルハニチロ食品製 NaAO
・リンゴ酸:理研化学(株)製 DL-リンゴ酸
・クエン酸:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製 クエン酸(無水)細粒
評価溶液の調製方法:
プロタミン(10g)を蒸留水(500mL)に溶かして20mg/mLのプロタミン水溶液を調製した。一方、各種素材(2g)を蒸留水(100mL)に溶かして20mg/mLの水溶液を調製した(カラギナン、レシチンは10mg/mL、ヒアルロン酸は2mg/mLとした)。各種素材水溶液(2mL)にプロタミン水溶液(2mL)を加えて攪拌した。一部の混合液に沈殿が生じたため、遠心分離(3,000rpm、10分)した。上清部と沈殿部の官能検査を行い、プロタミンの渋味・収斂味に対する低減効果を検証した。得られた結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
評価:◎;渋味・収斂味が抑えられ、殆ど感じられない、○;渋味・収斂味が低減されるが、若干残る、△;渋味・収斂味が幾分抑えられる、×;効果なし、−;ブランク。
【0052】
ポリグルタミン酸とアルギン酸で良好な結果が得られ、いずれも複合体が形成されて無味であることを確認した。ポリグルタミン酸はグルタミン酸がα−アミノ基とγ−カルボキシル基がアミド結合したポリマーで、納豆の粘々成分の1種である。モノマーのグルタミン酸ナトリウムでは効果がないことから、プロタミンの渋味・収斂味低減効果には、一定の大きさの分子量が必要であると考えられる。アルギン酸は昆布などの海藻に含まれる粘々成分の1種である。分子量が0.2万程度のオリゴマーであるアルギン酸オリゴ糖では、複合体が形成されず渋味・収斂味の低減効果が見られなかったが、分子量が5.4万のポリマーではプロタミンと複合体を形成して良好な渋味・収斂味の低減効果が見られた。その他、酸性高分子食品素材のカラギナンやペクチン、さらに低分子化したDNAやレシチンでもプロタミンの渋味・収斂味に対する低減効果が幾分認められたが、実用的には難しいと考えられた。
【0053】
(実施例3)アルギン酸のプロタミンに対する渋味・収斂味低減効果の検証
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸:(株)キミカ製 ULV-L3
プロタミン(2g)を蒸留水(100mL)に溶かして20mg/mLのプロタミン水溶液を調製した。その溶液の一部を蒸留水で希釈して、10、5.0、2.86mg/mLの溶液を調製した。また、アルギン酸(4g)を蒸留水(100mL)に溶かして40mg/mLのアルギン酸水溶液を調製した。その溶液の一部を蒸留水で希釈して、20、15、10、7.5、5.0、2.5、1.0mg/mLの溶液を調製した。プロタミンの評価濃度が10mg/mLの場合として、各濃度のアルギン酸水溶液(2mL)に20mg/mLのプロタミン水溶液(2mL)を加えた(プロタミンを0.5g摂取する場合において、50mL飲料を想定した濃度)。プロタミンの評価濃度が5.0mg/mLの場合として、各濃度のアルギン酸水溶液(1mL)に10mg/mLのプロタミン水溶液(2mL)を加えた(プロタミンを0.5g摂取する場合において、100mL飲料を想定した濃度)。プロタミンの評価濃度が2.5mg/mLの場合として、各濃度のアルギン酸水溶液(1mL)に5mg/mLのプロタミン水溶液(4mL)を加えた(プロタミンを0.5g摂取する場合において、200mL飲料を想定した濃度)。さらに、プロタミンの評価濃度が1.43mg/mLの場合として、各濃度のアルギン酸水溶液(0.5mL)に2.86mg/mLのプロタミン水溶液(3.5mL)を加えた(プロタミンを0.5g摂取する場合において、350mL飲料を想定した濃度)。これらの溶液について、渋味・収斂味の官能検査を行った。得られた結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
評価:◎;渋味・収斂味が抑えられ、殆ど感じられない、○;渋味・収斂味が低減されるが、若干残る、△;渋味・収斂味が幾分抑えられやや良好、×;効果なし。
【0056】
アルギン酸は、プロタミン濃度が10mg/mLの水溶液に対する添加量が12.5重量%(1:8)までは渋味・収斂味に対する低減効果は認められない。添加量を25重量%(1:4)に増やすと渋味・収斂味の低減効果が現れ始め、添加量が37.5重量%(3:8)で十分な効果が認められた。さらに、添加量75重量%(3:4)で完全にプロタミンの渋味・収斂味は感じられなくなった。また、プロタミンの濃度が薄くなるにつれて、アルギン酸の添加量が少なくても渋味・収斂味の低減効果がみられた。
【0057】
(実施例4)ポリグルタミン酸のプロタミンに対する渋味・収斂味低減効果の検証
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・ポリグルタミン酸:ヤクルト薬品工業(株)製 ポリグルタミン酸PGA
実施例3と同様に、20、10、5.0、2.86mg/mLのプロタミン水溶液と40、20、10、7.5、5.0、2.5、1.0mg/mLのポリグルタミン酸水溶液を調製した後、各溶液を混合して渋味・収斂味について官能検査を行った。得られた結果を表3に示す。
【0058】
【表3】

【0059】
評価:◎;渋味・収斂味が抑えられ、殆ど感じられない、○;渋味・収斂味が低減されるが、若干残る、△;渋味・収斂味が幾分抑えられやや良好、×;効果なし。
【0060】
ポリグルタミン酸は、プロタミン濃度が10mg/mLの水溶液に対する添加量が12.5重量%(1:8)までは渋味・収斂味に対する低減効果は認められない。添加量を25重量%(1:4)に増やすと低減効果が現れ始め、添加量が50重量%(1:2)で十分な効果が認められた。さらに、添加量50重量%(3:4)で完全にプロタミンの呈味は感じられなくなった。
【0061】
(実施例5)ポリグルタミン酸の分子量の違いによるプロタミンに対する渋味・収斂味の低減効果
プロタミンに対して渋味・収斂味の低減効果が認められたポリグルタミン酸について、分子量の違いによる効果を検証した。
使用原料:
プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
ポリグルタミン酸:ヤクルト薬品工業(株)製 ポリグルタミン酸PGA
プロタミン(1.6g)を蒸留水(80mL)に溶かして20mg/mLのプロタミン水溶液を調製した。ポリグルタミン酸(2g)を蒸留水(50mL)に溶かして40mg/mLのポリグルタミン酸水溶液を調製後、蒸留水で希釈して40、20、15、10、7.5、5.0、2.5、1.0mg/mLの溶液を調製した。各濃度のポリグルタミン酸水溶液(2mL)にプロタミン水溶液(2mL)を加えて攪拌して、渋味・収斂味について官能検査を行った。得られた結果を表4に示す。
【0062】
【表4】

【0063】
評価:◎;渋味・収斂味が抑えられ、殆ど感じられない、○;渋味・収斂味が低減されるが、若干残る、△;渋味・収斂味が幾分抑えられやや良好、×;効果なし。
【0064】
ポリグルタミン酸は、分子量が大きいほどプロタミンに対する渋味・収斂味低減効果が強い傾向が認められた。最も分子量の大きいタイプAでは、プロタミンに対する添加量は50重量%(1:2)で低減が認められた。しかし、他のタイプでは添加量が75重量%(3:4)では殆ど無味であったが、50重量%(1:2)では渋味が残る傾向がみられた。また渋味の許容限界も高分子のタイプAでは添加量が25重量%(1:4)であったが、他のタイプでは37.5重量%(3:8)であった。
【0065】
(実施例6)アルギン酸の分子量の違いによるプロタミンに対する渋味・収斂味の低減効果
プロタミンに対して渋味・収斂味の低減効果が認められたアルギン酸について、分子量の違いによる効果を検証した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸:(株)キミカ製 I-8、IL-2、ULV-5、ULV-1、ULV-L3;(株)マルハニチロ食品製 アルギン酸オリゴ糖NaAO
プロタミン(1.6g)を蒸留水(80mL)に溶かして20mg/mLのプロタミン水溶液を調製した。また、各種アルギン酸(800mg)をそれぞれ蒸留水(20mL)に溶解して40mg/mLを調製した後、順次蒸留水で希釈して、20、15、10、7.5、5、2.5mg/mLの溶液を調製した。各アルギン酸溶液(0.5mL)にプロタミン溶液(0.5mL)を加えて攪拌し、遠心分離(10,000rpm、5分)を行った。沈殿部は蒸留水(1mL)にて洗浄した。各溶液の上清部と沈殿部を、渋味・収斂味について官能評価した。得られた結果を表5に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
評価:◎;渋味・収斂味が抑えられ、殆ど感じられない、○;渋味・収斂味が低減されるが、若干残る、△;渋味・収斂味が幾分抑えられる、×;効果なし、−;沈殿なし。
【0068】
アルギン酸の分子量の違いによるプロタミンの渋味・収斂味に対する低減効果は、ポリグルタミン酸の場合と異なる結果となった。ポリグルタミン酸は分子量が大きいほど低減効果が大きかったが、アルギン酸は、高分子(平均重量分子量174万)のものは、低分子(平均重量分子量5万)のものと比べると、渋味・収斂味の低減効果は弱くなった。また、オリゴ糖(平均重量分子量0.2万)まで低分子化した場合は、複合体を形成しないため、その低減効果は殆ど認められなかった。これらの結果から、アルギン酸のプロタミンに対して渋味・収斂味を低減するためには、複合体が形成できる一定の大きさ(オリゴマーではなくポリマーである)が必要であると考えられる。また、分子量が大きくなるにつれて渋味・収斂味の低減効果は弱くなった。分子量が100万を超えるとアルギン酸溶液の粘性が増加してプロタミンと複合体を形成し難くなると考えられた。これらのことから、プロタミンとの複合体を形成するアルギン酸の至適分子量は平均重量分子量0.2万より大きい必要があり、0.5万を超えているものが好ましいと考えられた。また、分子量の大小に係わりなく生じたアルギン酸の複合体は、いずれも無味であった。さらに沈殿として生じた複合体を水洗したため、混合時に生じた塩分も除去できたことで実施例1の結果で感じた塩味も取り除けたと考えられた。
【0069】
(実施例7)アルギン酸の塩やエステルの違いによるプロタミンに対する渋味・収斂味の低減効果
プロタミンに対して渋味・収斂味の低減効果が認められたアルギン酸について、塩の違いや構成するによる効果を検証した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸ナトリウム:(株)キミカ製 ULV-L3
・アルギン酸カリウム:(株)キミカ製 K-ULV-L3
・アルギン酸エステル:キミカ(株)製 LLV
プロタミン(1.6g)を蒸留水(80mL)に溶かして20mg/mLのプロタミン水溶液を調製した。アルギン酸塩またはアルギン酸エステル(800mg)をそれぞれ蒸留水(20mL)に溶解して40mg/mLを調製した後、順次蒸留水で希釈して、20、15、10、7.5、5、2.5mg/mLの溶液を調製した。各アルギン酸溶液(0.5mL)にプロタミン溶液(0.5mL)を加えて攪拌し、遠心分離(10,000rpm、5分)を行った。沈殿部は蒸留水(1mL)にて洗浄した。各溶液の上清部と沈殿部を、3段階で渋味・収斂味について官能評価した。得られた結果を表6に示す。
【0070】
【表6】

【0071】
評価:◎;渋味・収斂味が抑えられ、殆ど感じられない、○;渋味・収斂味が低減されるが、若干残る、△;渋味・収斂味が幾分抑えられる、×;効果なし、−;沈殿なし。
【0072】
カリウム塩もナトリウム塩と同様にプロタミンと複合体を形成し、プロタミンの渋味・収斂味を低減した。しかし、プロタミンに対して75重量%(3:4)で添加した場合、ナトリウム塩では上清部において渋味・収斂味を感じられなかったが、カリウム塩では幾分感じられ、カリウム塩はナトリウム塩と比べてその効果は弱かった。また、アルギン酸エステル(アルギン酸プロピレングリコールエステル)はプロタミンと複合体を形成せず、プロタミンの渋味・収斂味低減効果は認められなかった。
【0073】
(実施例8)プロタミン/アルギン酸複合体形成におけるプロタミンとアルギン酸の添加比率の検討
プロタミンとアルギン酸とからなる複合体を形成するときの比率をNMR測定により検証した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸:(株)キミカ製 ULV-L3
・重水:(株)メルク製
プロタミン(60mg)及びアルギン酸(60mg)をそれぞれ重水(2.5mL)に溶解して20mg/mLの重水溶液を調製した。プロタミン重水溶液(300μL)にアルギン酸重水溶液(75μLから300μLまで)を添加し、さらに総溶液量が600μLとなるように重水を加えて攪拌し、遠心分離(10,000rpm、5分)した。上清部(540μL)に0.3重量%TSP重水溶液(60μL)添加して、1H NMRを測定した。得られた測定結果を図2及び図3に示す。
【0074】
この結果から、プロタミンとアルギン酸が複合体を形成する場合、プロタミンに対するアルギン酸の必要量は80重量%(プロタミン:アルギン酸=40:32)であることが明らかとなった。
【0075】
(実施例9)複合体のリパーゼ阻害活性
複合体の経口摂取を想定して胃を模倣した条件で処理を行い、プロタミンとからなる複合体についてリパーゼ阻害活性を測定した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸:(株)キミカ製 ULV-L3
・ポリグルタミン酸:ヤクルト薬品工業(株)製 ポリグルタミン酸PGA
・ヌクレオプロテイン:(株)マルハニチロ食品製 ヌクレオプロテインP
・ペプシン:シグマ製 ブタ胃粘膜由来
・リパーゼ:シグマ製 ブタ膵臓由来
1.評価サンプルの調製
20mg/mLプロタミン溶液(25μL)に16mg/mLアルギン酸溶液(25μL)を加えて攪拌して、アルギン酸複合体懸濁液を調製した。同様に、20mg/mLプロタミン溶液(25μL)に10mg/mLポリグルタミン酸溶液(25μL)を加えて攪拌して、ポリグルタミン酸複合体懸濁液を調製した。また、プロタミンとDNAとの複合体であるヌクレオプロテイン(5mg)は、蒸留水(50μL)に加えて攪拌して懸濁液を調製した。対照として、20mg/mLプロタミン溶液(25μL)、16mg/mLアルギン酸溶液(25μL)、10mg/mLポリグルタミン酸溶液(25μL)にそれぞれ蒸留水(25μL)を加えた溶液も調製した。
2.胃条件処理
調製した複合体懸濁液(50μL)に、0.05M HCl-KCl溶液(4,350μL)を加えた後、37℃で5分間プレインキュベーションした。そこに、0.05M HCl-KCl溶液に1mg/mLでペプシンを溶解した酵素溶液(200μL)を加えて反応させた。1時間後、1M 炭酸水素ナトリウム溶液(400μL)を加えて反応液を中和した。なお、中和後にペプシンを加えたものを胃条件未処理液とした。
3.リパーゼ阻害評価
反応溶液を適宜蒸留水で希釈してリパーゼ阻害活性に供した。すなわち、評価濃度が1μg/mLの場合は、反応溶液(100μL)を蒸留水(400μL)で希釈(ヌクレオプロテインの反応溶液は10μLを蒸留水490μLで希釈)し、評価濃度が0.25μg/mLの場合は、反応溶液を(50μL)を蒸留水(1mL)で希釈した。希釈した反応溶液(10μL)に4-Methylumbelliferyl oleateを0.1M McIlvain緩衝液に31.4μg/mLの濃度で懸濁させた基質溶液(140μL)を加えた後、37℃で5分間プレインキュベーションした。そこに、リパーゼを0.1M McIlvain緩衝液に0.24μg/mLの濃度で懸濁させた酵素溶液(50μL)を加えて反応開始とした。20分後、0.1M塩酸(1mL)を加えて反応を停止した。各反応溶液(70μL)を96穴黒色プレートにとり、0.1Mクエン酸三ナトリウム溶液(140μL)を入れ、マイクロプレートリーダーで蛍光強度を測定した(励起波長:320nm、測定波長:450nm)。試験は5反復で実施し、酵素未添加をブランク、蒸留水を陰性対照とした。阻害率は下式から算出した。
阻害率(%)=1−(各試料の蛍光強度−各試料のブランク)の平均/(陰性対照の蛍光強度−陰性対照のブランク)の平均×100
得られた結果を図4及び図5に示す。
【0076】
図示した結果から、胃条件処理を実施しなかった場合、アルギン酸複合体はリパーゼ阻害活性が認められなかったが、胃条件処理を行うことでアルギン酸複合体もプロタミンと同様に阻害活性が認められた。また、ポリグルタミン酸複合体もアルギン酸複合体と同様に胃条件処理を行うことで阻害活性が認められたが、プロタミンとDNAの複合体であるヌクレオプロテインはリパーゼ阻害活性を示さなかった。
【0077】
(実施例10)プロタミンと分子量の異なるアルギン酸で形成された複合体の胃条件処理後のプロタミン遊離とリパーゼ阻害活性の検証
アルギン酸の分子量の違いによる複合体の違いについて検証するため、各分子量のアルギン酸を用いてプロタミンとの複合体を形成し、胃条件処理を行い、1H NMRを測定した。さらにリパーゼ阻害活性を評価した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸:(株)キミカ製 I-8、IL-2、ULV-5、ULV-1、ULV-L3
・ペプシン:シグマ製 ブタ胃粘膜由来
・リパーゼ:シグマ製 ブタ膵臓由来
実施例6で記載した方法で得た沈殿部を乾燥してアルギン酸複合体を得た。複合体(10mg)若しくはプロタミン(5mg)に0.05M DCl-KCl重水溶液(500μL)を加え、37℃で5分間プレインキュベーションした。そこに、0.05M DCl-KCl重水溶液に1mg/mLでペプシンを溶解した酵素溶液(100μL)を加えて反応開始とした。1時間後、1M炭酸水素ナトリウム重水溶液(50μL)を加えて中和した。溶液を遠心分離(5,000rpm、5分)した後、560μLをNMR測定管にとり、標準物質である0.3重量%TSP重水溶液(60μL)を加えて1H NMRを測定した。
さらに、反応溶液(20μL)を蒸留水(980μL)で希釈した溶液を用いてリパーゼ阻害活性について実施例9と同様な操作で実施した。得られた結果を図6及び図7に示す。
【0078】
これらの結果から、プロタミンとアルギン酸とで形成された複合体は、分子量の大きさに関係なく胃条件で処理することによりプロタミンが遊離し、リパーゼ阻害活性を示すことが明らかとなった。
【0079】
(実施例11)プロタミンとアルギン酸からなる複合体の飲料への適用を想定した製造に関する検討
プロタミンの渋味・収斂味を低減し、胃条件処理を行いリパーゼ阻害活性が見られるアルギン酸複合体の飲料への用途を目的に、製造方法と安定性を検討した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸:(株)キミカ製 ULV-L3
・増粘剤:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製 大豆多糖類SM-700
・リンゴ酸:理研化学(株)製 DL-リンゴ酸
プロタミンを経口摂取したときに脂肪吸収抑制効果が認められる摂取量は0.5gである。アルギン酸との複合体から、プロタミンとして0.5gを100mL飲料で摂取することを想定して溶液を調製した。また、清涼飲料水で保存料無添加の場合はpH4.0未満である必要があるため、リンゴ酸で酸性条件とした溶液も調製した。また、プロタミン溶液とアルギン酸溶液を混合すると即時に複合体を形成して粘性の高い複合体を形成して沈降するため、溶液に予め増粘剤を添加して複合体を分散させた。
【0080】
15mg/mLのアルギン酸溶液(1mL)に4濃度(0、2、6及び10mg/mL)の増粘剤溶液(2mL)と2濃度(0及び3.5mg/mL)のリンゴ酸溶液(0.5mL)を加えて攪拌した後、40mg/mLのプロタミン溶液(0.5mL)を加えて攪拌して、良好な複合体懸濁液を得た。各溶液を殺菌のため90℃で60分間加熱して、1週間室温で保管して、沈殿の有無と渋味・収斂味の官能検査を行った。得られた結果を表7に示す。
【0081】
【表7】

【0082】
官能評価:○;渋味・収斂味が殆ど感じられない、△;渋味・収斂味を若干感じる、×;渋味・収斂味を強く感じる。
【0083】
増粘剤を添加しなければ、アルギン酸複合体は沈降してしまい振とうしても分散されないが、増粘剤を0.1重量%以上添加することでアルギン酸複合体は沈降せずに良好に分散した。酸性条件においても安定して複合体は分散した。また、プロタミンの渋味・収斂味についても感じられなかった。
【0084】
(実施例12)アルギン酸およびポリグルタミン酸の粉末状態での混合添加によるプロタミンの渋味低減作用に関する検討
プロタミンは、溶液状態でアルギン酸やポリグルタミン酸と混合することで、渋味・収斂味を呈さず、かつ胃条件処理によりリパーゼ阻害活性を示し脂肪吸収抑制効果が期待できる複合体を形成する。経口摂取時にプロタミンとアルギン酸やポリグルタミン酸との複合体が形成されれば、渋味・収斂味を感じないと考えられたことから、プロタミンとアルギン酸乃至はポリグルタミン酸を粉末状態で混合したものについて官能検査で評価した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸:(株)キミカ製 ULV-L3
・ポリグルタミン酸:ヤクルト薬品工業(株)製 ポリグルタミン酸PGA
プロタミン200mgに対し、アルギン酸ナトリウム若しくはポリグルタミン酸ナトリウムをそれぞれ400mg、300mg、200mg、150mg、100mg、50mgずつ加えてよく混ぜ合わせた後、渋味・収斂味の官能検査を行った。得られた結果を表8に示す。
【0085】
【表8】

【0086】
評価:◎;渋味・収斂味が抑えられ、殆ど感じられない、○;渋味・収斂味が低減されるが、若干残る、△;渋味・収斂味が幾分抑えられやや良好、×;効果なし。
【0087】
粉末状態で混合させた場合、溶液状態で複合体を形成させた場合と比較して、プロタミンに対するアルギン酸やポリグルタミン酸の添加量は増加したが、良好な渋味低減効果が確認できた。ポリグルタミン酸の場合、プロタミンに対する添加量は50重量%(1:2)で低減が認められ、75重量%(3:4)で実用的な効果が見られ、100重量%(1:1)以上の添加で渋味は感じられなかった。また、アルギン酸の場合、プロタミンに対する添加量は50重量%(1:2)で低減が認められ、100重量%(1:1)で実用的な効果が見られ、150重量%(3:2)以上の添加で渋味は感じられなかった。
【0088】
これらの効果は、経口摂取時に口腔内の唾液を媒体として瞬時に複合体が形成されるためと考えられ、あらかじめ複合体を形成させなくても、乾燥状態で混合させるだけで十分な渋味低減効果が認められ、粉末剤や錠剤などの食品を製造する際にコストの低減が期待できる。
【0089】
(実施例13)アラビアゴムのプロタミンに対する渋味・収斂味低減効果の検証
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アラビアゴム:三栄薬品貿易(株)製 アラビックコールSS
プロタミン(2g)を蒸留水(100mL)に溶かして20mg/mLのプロタミン水溶液を調製した。また、アラビアゴム(10g)を蒸留水(50mL)に溶かして200mg/mLのアラビアゴム水溶液を調製した。その溶液の一部を蒸留水で希釈して、100、80、60、40、20mg/mLの溶液を調製した。プロタミンの評価濃度が10mg/mLの場合として、各濃度のアラビアゴム水溶液(2mL)に20mg/mLのプロタミン水溶液(2mL)を加えた(プロタミンを0.5g摂取する場合において、50mL飲料を想定した濃度)。これらの溶液について、渋味・収斂味の官能検査を行った。得られた結果を表9に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
評価:◎;渋味・収斂味が抑えられ、殆ど感じられない、○;渋味・収斂味が低減されるが、若干残る、△;渋味・収斂味が幾分抑えられやや良好、×;効果なし。

アラビアゴムは、プロタミン濃度が10mg/mLの水溶液に対する添加量が100重量%(1:1)までは渋味・収斂味に対する低減効果は認められない。添加量を200重量%(2:1)に増やすと渋味・収斂味の低減効果が現れ始め、添加量が400重量%(4:1)で十分な効果が認められた。さらに、添加量500重量%(5:1)で完全にプロタミンの渋味・収斂味は感じられなくなった。アラビアゴムは、アルギン酸塩と比べて添加量は多くなるが、プロタミンに加えても食塩などの塩が形成されない。そのため、血圧が高めの方など塩分を控えなければならない方に対しても安心して摂取することが可能である。また、大豆多糖類などの分散剤を使わなくても懸濁液の分散性が良い。そのため、飲料への用途拡大が大いに期待される。
【0092】
(実施例14)
アルギン酸乃至はアラビアゴムをプロタミンに添加したときに複合体が形成されるが、これらの添加によるプロタミンの脂肪吸収抑制効果に対する影響を動物試験により検証した。
使用原料:
・プロタミン:(株)マルハニチロ食品製 プロザーブ
・アルギン酸:(株)キミカ製 K-ULV-L3
・増粘剤:三栄源エフ・エフ・アイ(株)製 大豆多糖類SM-700
・アラビアゴム:三栄薬品貿易(株)製 アラビックコールSS
・烏龍茶:サントリーホールディングス(株)製 黒烏龍茶
1.評価サンプルの調製:
(1)対照群:蒸留水をメンブレンフィルター(DISMIC-13CP,PTFE,φ0.45μm,ADVANTEC)でろ過し、対照群の被験試料として用いた。
(2)プロタミン群:プロタミン(2.50g)をメンブレンフィルターでろ過した蒸留水で50mLに定溶し、プロタミン群の被験試料として用いた。
(3)アルギン酸配合群:分散剤として大豆多糖類(SM-700,400mg)をメンブレンフィルターでろ過した蒸留水で50mLに定溶し、0.8%分散剤溶液を調製した。プロタミン(2.00g)を0.8%分散剤溶液で20mLに定溶して調製したプロタミン溶液(12.5mL)に、アルギン酸(1.60g)を0.8%分散剤溶液で20mLに定溶して調製したアルギン酸溶液(12.5mL)を攪拌しながら加えてプロタミン複合体懸濁液を調製し、アルギン酸複合体群の被験試料として用いた。
(4)アラビアゴム配合群:プロタミン(2.00g)を蒸留水で20mLに定溶して調製したプロタミン溶液(12.5mL)に、アラビアゴム(10.0g)を蒸留水で20mLに定溶して調製したアルギン酸溶液(12.5mL)を攪拌しながら加えてプロタミン複合体懸濁液を調製し、アラビアゴム配合群の被験試料として用いた。
(5)烏龍茶乾燥物群:市販の烏龍茶を凍結乾燥して得られた乾燥物(2.50g)をメンブレンフィルターでろ過した蒸留水で50mLに定溶し、烏龍茶乾燥物群の被験試料として用いた。
2.動物試験
雄性SDラット(6週齢、1群7匹)を用いて評価した。1週間の馴化後、一晩絶食させ、被験物質を強制単回経口投与(5mL/kg:プロタミンとして0.5g/kgとなる)し、さらにその直後にコーン油の強制単回経口投与(5mL/kg)を行った。投与前、投与後1.5、3.0および4.5時間目に採血を行い、各ポイントでの血漿を採取した。採取した血漿を用いて、血中トリグリセライドの測定を行い、血中濃度曲線下面積(AUC)について対照群と比較した。結果を表10に示した。
【0093】
【表10】

【0094】
#:t検定(p<0.05)
プロタミン投与群は対照群と比べて有意な脂肪吸収抑制効果が確認された。また、アルギン酸複合体群もアラビアゴム配合群もプロタミンと同等の活性が認められ、アルギン酸やアラビアゴムの添加によるプロタミンの脂肪吸収抑制効果への影響はないと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方との複合体であって、ペプシン処理によりプロタミンに基づくリパーゼ阻害活性を示すことを特徴とする複合体。
【請求項2】
前記酸性高分子化合物が、プロタミンまたはその塩と複合体を形成することで、プロタミンまたはその塩の渋味の低減効果を有する請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記酸性高分子化合物が、アルギン酸、アルギン酸の塩、ポリグルタミン酸及びその塩から選択される少なくとも1種である請求項2に記載の複合体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合体を含むことを特徴とする機能性食品。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の複合体を有効成分として含むことを特徴とする脂肪吸収抑制剤。
【請求項6】
プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方とを含み、ペプシン処理によりプロタミンに基づくリパーゼ阻害活性を示す複合体の製造方法であって、
プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方とを、水性媒体中で混合して複合体を形成する工程を有することを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項7】
前記複合体を形成した後に脱塩を行う工程を更に有する請求項6に記載の複合体の製造方法。
【請求項8】
前記酸性高分子化合物が、プロタミンまたはその塩と複合体を形成することで、プロタミンまたはその塩の渋味の低減効果を有する請求項6または7に記載の複合体の製造方法。
【請求項9】
前記酸性高分子化合物が、アルギン酸、アルギン酸の塩、ポリグルタミン酸及びその塩から選択される少なくとも1種である請求項8に記載の複合体の製造方法。
【請求項10】
前記水性媒体が分散剤を含む請求項9に記載の複合体の製造方法。
【請求項11】
前記分散剤の濃度が、0.1重量%〜1重量%である請求項10に記載の複合体の製造方法。
【請求項12】
プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品において、プロタミン及びその塩の少なくとも1種による渋味の低減のために酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方を使用する方法。
【請求項13】
プロタミン及びその塩の少なくとも1種を含む食品の製造において、プロタミン及びその塩の少なくとも1種による渋味の低減のために酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方を使用する方法。
【請求項14】
前記酸性高分子化合物が、プロタミンまたはその塩と複合体を形成することで、プロタミンまたはその塩の渋味の低減効果を有する請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸性高分子化合物が、アルギン酸、アルギン酸の塩、ポリグルタミン酸及びその塩から選択される少なくとも1種である請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
プロタミン及びその塩の少なくとも1種に対して、アルギン酸、アルギン酸の塩、ポリグルタミン酸及びその塩から選択される少なくとも1種を25重量%〜200重量%の割合で使用する請求項15に記載の方法。
【請求項17】
プロタミン及びその塩の少なくとも1種の粉末と、酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方の粉末の混合物であって、前記プロタミン及びその塩の少なくとも1種と、前記酸性高分子化合物及びアラビアゴムの少なくとも一方との複合体であって、ペプシン処理によりプロタミンに基づくリパーゼ阻害活性を示す複合体を水性媒体中で形成し得ることを特徴とする粉末混合物。
【請求項18】
前記酸性高分子化合物が、プロタミンまたはその塩と複合体を形成することで、プロタミンまたはその塩の渋味の低減効果を有する請求項17に記載の粉末混合物。
【請求項19】
プロタミン及びその塩の少なくとも1種の粉末に対して、酸性高分子化合物の粉末を25重量%〜200重量%の割合で含む請求項17または18に記載の粉末混合物。
【請求項20】
分散剤を更に含む請求項17から19のいずれか1項に記載の粉末混合物。
【請求項21】
前記酸性高分子化合物が、アルギン酸、アルギン酸の塩、ポリグルタミン酸及びその塩から選択される少なくとも1種である請求項17から20のいずれか1項に記載の粉末混合物。
【請求項22】
請求項17から21のいずれか1項に記載の粉末混合物を含むことを特徴とする機能性食品。
【請求項23】
請求項17から21のいずれか1項に記載の粉末混合物を有効成分として含むことを特徴とする脂肪吸収抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−166906(P2010−166906A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255542(P2009−255542)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (A)刊行物での発表 発行者:芳賀聖一 刊行物名:日本食品科学工学会 第56回大会講演集、第133頁、講演番号3Ep5 発行年月日:2009年9月10日 (B)研究集会での発表 研究集会名:日本食品科学工学会 第56回大会 主催者:社団法人 日本食品科学工学会 開催日:2009年9月12日
【出願人】(000233620)株式会社マルハニチロ食品 (34)
【Fターム(参考)】