説明

プロテアーゼ検出

発色性アミノ酸を含むポリペプチド。該発色性アミノ酸がそのNおよびC末端において少なくとも1つのアミノ酸に隣接している。該発色性アミノ酸のアミン基は5未満のpKaを有する。該発色性アミノ酸は共役アルデヒドと反応可能である。該ポリペプチドは、該発色性アミノ酸のアミノ基を含むペプチド結合を切断しうる標的プロテアーゼに対する標的配列を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発色性アミノ酸を含むポリペプチド、そのようなポリペプチドを含む産物、およびそのようなポリペプチドの製造方法に関する。本発明はまた、プロテアーゼ酵素の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質分解の測定に使用される多数の試薬または化合物が当技術分野で公知である。これらには、タンパク質分解により切断されると指示部分または不安定分子を遊離する合成的に修飾されたポリペプチド基質、例えば、C末端においてp−ニトロアニリドまたはナプチルアミンとして修飾された合成ポリペプチドが含まれる。例えば、EP−A−0864864は、発色性ペプチドではなく蛍光性ペプチドであるDnP−Pro−β−シクロヘキシル−Ala−Gly−Cys(Mu)−His−Ala−Lys(N−Me−AbZ)−NHを使用する、プロテアーゼ酵素の検出を開示している。Plapingerら,J.Org.Chem 1965,30,1781は、アルギニンの誘導体である、トリプシンにより切断される発色性基質に関して報告している。
【0003】
そのようなペプチド基質のC末端からp−ニトロアニリンが切断され溶液中に遊離した後、UV吸収の増加が測定されうる。ナフチルアミンを含むペプチド基質の場合、遊離した発色性部分は追加的なレポーター分子により捕捉されて、視認可能な変色をもたらしうる。例えば歯周病の診断を補助するためのタンパク質分解活性に関するアッセイにおいては、合成トリプシン基質Nα−ベンゾイル−DL−アルギニン−β−ナフタルアミン(BANA)が一般に使用される。
【0004】
BANAのような当技術分野で公知の発色性プロテアーゼ基質は、(チオペプトリド以外、後記を参照)該ポリペプチドのC末端に配置されたそのそれぞれの発色性部分を有する。そのような発色性プロテアーゼ基質の問題は、該ポリペプチドのC末端に配置された発色性部分の場合、隣接アミノ酸を欠く該ポリペプチドの限定形態のため、限られたプロテアーゼ特異性しか存在しないことである。また、当技術分野で公知の発色性ペプチドは低い水溶性を有し、より長いポリペプチドの合成はその合成方法を複雑にする。これは該ポリペプチドの製剤化を困難にし、商業的規模での該ポリペプチドの益々増大する製造のコストを増加させる。
【0005】
また、該C末端発色源を固体表面に直接的に結合させることは不可能であり、このことは、診断においてこれらのポリペプチドを使用してタンパク質分解の結果を可視化するために用いられうる方法を制限する。
【0006】
Weingartenら,Biochem,1985,24,6730−6734に記載されているとおり、チオペプトリドは該ペプチド配列の内部に発色性部分を有するが、アミド結合を用いていない。チオペプトリドに基づくペプチド基質での問題は、それがタンパク質分解切断部位に通常のアミド結合を含まないため、それが最高の基質認識またはターンオーバーをもたらさないことである。
【0007】
本発明は、前記の問題の1以上を軽減することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0864864号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Plapingerら,J.Org.Chem 1965,30,1781
【非特許文献2】Weingartenら,Biochem,1985,24,6730−6734
【発明の概要】
【0010】
本発明の1つの態様においては、発色性アミノ酸を含むポリペプチドであって、該発色性アミノ酸がそのNおよびC末端において少なくとも1つのアミノ酸に隣接している、ポリペプチドを提供する。
【0011】
好ましくは、該発色性アミノ酸のアミン基は5未満のpKaを有し、該発色性アミノ酸は共役アルデヒドと反応可能である。
【0012】
有利には、該ポリペプチドは、該発色性アミノ酸のアミノ基を含むペプチド結合を切断しうる標的プロテアーゼに対する標的配列を含む。
【0013】
本発明においては、発色性アミノ酸を含むポリペプチドであって、該発色性アミノ酸がそのNおよびC末端において少なくとも1つのアミノ酸に隣接しており、該発色性アミノ酸のアミン基が5未満のpKaを有し、該発色性アミノ酸が共役アルデヒドと反応可能であり、該ポリペプチドが、該発色性アミノ酸のアミノ基を含むペプチド結合を切断しうる標的プロテアーゼに対する標的配列を含む、ポリペプチドをも提供する。
【0014】
好都合には、該発色性アミノ酸は、該発色性アミノ酸のアミノ基の窒素原子に直接結合した芳香環部分を含む。
【0015】
好ましくは、該発色性アミノ酸は立体的な等価性において天然アミノ酸に合致している。
【0016】
好都合には、該標的配列は該発色性アミノ酸を含む。
【0017】
好ましくは、該発色性アミノ酸は、標的配列が切断されると検出可能なシグナルを与えるよう共役アルデヒドと反応可能である。
【0018】
有利には、該共役アルデヒドは、置換ベンズアルデヒドまたはシンナムアルデヒドまたはトランス,トランス フェニルペンタジエナールである。
【0019】
好ましくは、該共役アルデヒドはDMACまたはDMABである。
【0020】
好都合には、該芳香族部分はフェニルまたはナフチル部分である。
【0021】
有利には、該ポリペプチドは直鎖状ポリペプチドである。
【0022】
好ましくは、該ポリペプチドは該ポリペプチドのC末端もしくはN末端において又はその付近において固体表面上に固定化されている。
【0023】
有利には、該ポリペプチドは該固体表面に共有結合している。
【0024】
好都合には、該ポリペプチドは更に、該ポリペプチドのC末端もしくはN末端において又はその付近において第1および第2結合部分を含む。
【0025】
好ましくは、該ポリペプチドは2から100アミノ酸長、より好ましくは3から40アミノ酸長である。
【0026】
本発明のもう1つの態様においては、サンプル中のプロテアーゼ酵素の検出方法であって、
(i)先行請求項のいずれか一項に記載のポリペプチドに該サンプルをさらし、該プロテアーゼに該ポリペプチドを切断させて断片(該断片はそのN末端に発色性アミノ酸を示す。)を得る工程、
(ii)共役アルデヒドを、該発色性アミノ酸を含む該断片と反応させて、着色付加体を得る工程、および
(iii)該着色付加体を検出する工程であって、該着色付加体の存在が該サンプル中のプロテアーゼ酵素の存在を示す工程、
を含む方法を提供する。
【0027】
好都合には、工程(i)は、該発色性アミノ酸のアミノ基を含むポリペプチドのペプチド結合を切断するプロテアーゼ酵素を含む。
【0028】
本発明のもう1つの態様においては、
i.1つの発色性アミノ酸を含むアミノ酸二量体を合成し、
ii.該ポリペプチドの合成中に、該二量体を該ポリペプチドの残部に取り込ませる工程を含んでなる、本発明の製造方法を提供する
好都合には、工程(ii)は、該二量体を新生オリゴペプチドに結合させることを含む。
【0029】
本発明のもう1つの態様においては、
本発明のポリペプチドおよび
該ポリペプチドが固定化されうる固体支持体
を含んでなる、サンプル中のプロテアーゼ酵素を検出するための製品を提供する。
【0030】
好ましくは、該製品は更に、共役アルデヒドを含む。
【0031】
有利には、該固体支持体は、ヒンジにより連結された第1および第2シートを含み、該ポリペプチドは第1シート上に固定化されており、該共役アルデヒドは第2シート上に位置していて、それらのシートを一緒に折り畳むすることにより第1シートから第2シートへの物質の移動が可能となる。
【0032】
好都合には、該製品は更に、第1シート上に固定化されたポリペプチドと、第2シート上に位置する共役アルデヒドとの間に介在しうる膜を含み、該膜は、閾サイズより大きなサイズを有する物質の、第1シートから第2シートへの通過を妨げ、該ポリペプチドは、発色性アミノ酸を含む断片を遊離するようプロテアーゼ酵素により切断可能であり、該断片は該閾サイズより小さい。
【0033】
あるいは、該固体支持体はクロマトグラフィー媒体を含む。
【0034】
有利には、該クロマトグラフィー媒体は更に、プロテアーゼ酵素による切断の後に該ポリペプチドから遊離可能な該発色性アミノ酸を含む該ポリペプチドの断片に結合しうる断片結合性分子を含み、該ポリペプチドは指示区域において該クロマトグラフィー媒体上に固定化可能であり、該断片結合性分子は可視化区域において該クロマトグラフィー媒体上に固定化可能である。
【0035】
好都合には、該ポリペプチドは第1および第2断片へと切断可能であり、第1断片は該発色性アミノ酸を含み、該製品は更に、第2断片と結合可能な検出可能な標識、ならびに該クロマトグラフィー媒体内または上に固定化された第1および第2捕捉分子を含み、第1捕捉分子は第1断片に結合可能であり、第2捕捉分子は第2断片または該検出可能標識に結合可能である。
【0036】
好ましくは、該標識は、第2断片に結合可能な結合性成分を含む。
【0037】
有利には、該クロマトグラフィー媒体は試験ストリップを含む。
【0038】
有利には、該クロマトグラフィー媒体は多孔性物質のカラムを含む。
【0039】
本発明のもう1つの態様においては、立体的な等価性において天然アミノ酸に合致している少なくとも1つの発色性アミノ酸および複数の成分アミノ酸を含んでなる合成ポリペプチドを提供する。
【0040】
本発明のもう1つの態様においては、サンプル中のプロテアーゼ酵素の検出のための、本発明の合成ポリペプチドの使用を提供する。
【0041】
該発色性部分を該ペプチド配列内に埋め込むことにより、合成および使用の際の疎水性の影響が軽減される。本発明における発色源は該ペプチド配列内に存在するため、該ペプチドのCおよびN末端は、当業者に公知の標準的な結合(カップリング)化学法を用いて自由に利用される。
【0042】
本明細書における「発色性アミノ酸」は、変色可能な(アミノ基およびカルボキシル基を含有する。)アミノ酸分子を意味する。より詳しくは、それがペプチド基質のプロテアーゼ切断部位におけるP1’位に位置し、タンパク質分解により遊離し、ついで共有結合化学法により第2の分子と反応すると、それは、400から900nmで測定可能な着色付加体を形成しうる。
【0043】
本明細書における「標的プロテアーゼ」は、発色性ポリペプチド上の標的領域を認識し切断するプロテアーゼとして定義され、ここで、該標的領域は該切断部位のP1’位に発色性アミノ酸を含む。
【0044】
「天然アミノ酸」は以下のアミノ酸のいずれかを意味する:アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、チロシン、トリプトファンおよびバリン。
【0045】
本明細書における「隣接」アミノ酸は、少なくとも1つの他のアミノ酸に連結されたアミノ酸であり、ここで、この連結は一方のアミノ酸のアミノ末端と他方のカルボキシル基との間のペプチド結合により生じる。
【0046】
本明細書における「立体的な等価性において合致」は、天然アミノ酸および対応する発色性アミノ酸に関して用いられる。それは、合致した置換発色性アミノ酸が、それが代用されている天然アミノ酸の場合に類似した空間的占拠状態を有することを意味する。天然アミノ酸を含むペプチド配列に特異的なプロテアーゼが、該天然アミノ酸が発色性アミノ酸により置換されているポリペプチドをも切断する場合、該発色性アミノ酸は立体的な等価性において該天然アミノ酸に合致しているとみなされうる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は本発明のポリペプチドとプロテアーゼ酵素との反応を示す。簡潔に説明するために膵エラスターゼの場合の一例として、配列Ala−[pABA]−Glyが用いられている(この場合、アラニンアミノ酸がpABAにより置換されている。)。
【図2】図2は、本発明の実施形態において使用される発色性アミノ酸の、選ばれた代表例を示す。
【図3】図3は、本発明の1つの実施形態によりプロテアーゼ酵素を検出するための製品の透視図を示す。
【図4】図4は、本発明のもう1つの実施形態によりプロテアーゼ酵素を検出するための製品の断面図を示す。
【図5】図5は、本発明のもう1つの実施形態によりプロテアーゼ酵素を検出するための製品の見取り図を示す。
【図6】図6は、本発明のもう1つの実施形態によるポリペプチドの合成方法を示す流れ図である。固相上で合成される一例として(樹脂が円で示されている。)、配列Val−Arg−[p−ABA]−Glyが用いられている。該分子の合成における鍵反応は工程iii)である。この反応は、入ってくるアミノ酸の活性化エステルを使用する標準的なペプチド化学法では容易には達成され得ない。しかし、入ってくるアミノ酸の酸クロリドの使用は該反応化学を実質的に改善する。
【図7A】図7Aは、本発明の1つの実施形態によりプロテアーゼ酵素を検出するための製品の使用の結果および生じた陽性発色反応(陽性プロテアーゼサンプル)のイメージを示す。
【図7B】図7Bは、図3に記載されている形態の装置において陽性(上の線)および陰性(下の線)サンプルで電子的読取り装置から得られたデータのグラフ表示である。
【図7C】図7Cは、商業的に入手可能な発色性基質であるベンゾイル−アルギニル−ナフチルアミド(BANA)と比較した場合の、同じ陽性プロテアーゼサンプルのグラフ表示である。該発色性基質は、同一条件下のBANAと比べて改善された酵素ターンオーバーおよび発色を示す。
【図8A】図8Aは、エラスターゼ基質としてのAAPV−[pABA]−GGCおよびAAPV−[ANA]−GGCを比較するプレートアッセイの結果を示す。
【図8B】図8Bは、エラスターゼ基質としてのAAPV−[pABA]−GGCおよびAAPV−[ANA]−GGCを比較する垂直流動アッセイの結果を示す。
【図9】図9は発色性アミノ酸ANA(2−アミノナフトエ酸)およびpABA(パラ−アミノ安息香酸)の構造比較を示す。
【図10A】図10AはAAPV−[pABA]−GGCのエレクトロスプレー質量スペクトルを示し、予想質量は692.78であり、実測質量は692.2である。
【図10B】図10BはAAPC−[ANA]−GGCのエレクトロスプレー質量スペクトルを示し、予想質量は742.84であり、実測質量は742.4である。
【図11】図11はFmoc−Val−pABA−OHのH NMRスペクトルを示す。
【図12】図12は、Fmoc−Val−pABA−GGCを使用して合成されたAAPV−[pABA]−GGCのエレクトロスプレー質量スペクトルを示し、予想質量は692.78であり、実測質量は692.3である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明の第1の実施形態においては、サンプル中のプロテアーゼ酵素、例えばパパインまたはトリプシンの検出方法を提供する。該方法は、溶液中の切断可能なポリペプチドが配置される容器を準備することを含む。切断可能なポリペプチドは、N末端からC末端に、配列アラニン−[p−アミノベンゾイル]−グリシンを含む。すなわち、該ポリペプチドは、2つの他のアミノ酸(アラニンおよびグリシン)にNおよびC末端において隣接している発色性アミノ酸(p−アミノ安息香酸)を含む。p−アミノ安息香酸を含む、このようなポリペプチドは、切断され第2の試薬と反応するまでは無色である。この実施形態において使用される第2試薬は、共役アルデヒドであるジメチル−アミノ−シンナムアルデヒド(DMAC)である。
【0049】
該サンプルはバイアル内に配置され、標的酵素が該ペプチド基質を切断するのに十分な長さの時間、典型的には10分未満にわたり、該ポリペプチドと混合される。この例においては、アミノ酸配列が選ばれたものであるため、該プロテアーゼは該ポリペプチド配列を迅速に3分未満で切断する。結果として、図1に示されているとおり、該プロテアーゼ酵素はアラニン残基の−CO−部分とp−アミノ安息香酸残基の−NH−部分との間のペプチド結合において該ポリペプチドを切断する。この切断は2つの分子の遊離を招き、第1の分子は該遊離アラニン残基であり、第2の分子は、グリシン残基に結合したp−アミノ安息香酸残基を含む。第2の分子は発色性中間体である。
【0050】
該方法の次工程において、DMACを該バイアルに加え、混合する。図1に示されているとおり、DMACは、酸性条件下、該発色性中間体と反応して着色付加体を形成する。より詳しくは、陽性プロテアーゼサンプルにおいては、新たに生成した発色性中間体はDMACと反応して赤色を示す。これとは対照的に、陰性プロテアーゼサンプルにおいては、該基質は元のままであり、pABA部分のマスクは、それを、入ってくるDMACに対して無反応性にする。DMAC分子自体は弱酸性条件下で黄色化合物であり、露出したpABAの非存在下では黄色を示す。
【0051】
したがって、本発明のこの実施形態の方法は、サンプル中のプロテアーゼ酵素の存在(赤色)または非存在(黄色)に応答して発色をもたらす。
【0052】
図1に例示されている実施形態においては、該ポリペプチド内の発色性アミノ酸のアミノ側のペプチド結合は標的プロテアーゼにより加水分解されて、該発色性アミノ酸のアミン基を露出させる。この実施形態においては、該共役アルデヒドはDMACであるが、他の実施形態においては、代替的アルデヒド、例えば置換ベンズアルデヒドおよびシンナムアルデヒド、例えばジメチル−アミノ−ベンズアルデヒド(DMAB)が使用されうる。
【0053】
本発明の実施形態におけるポリペプチドの合成を以下に説明する。該発色性ポリペプチドは、当業者によく知られた固相上の通常のFmoc化学法により合成される。いくつかの実施形態においては、それぞれのアミノ酸カップリングは、入ってくるアミノ酸の活性化エステルを使用することにより達成される。他の実施形態においては、入ってくるアミノ酸を該発色性残基に結合させるために、酸クロリドが使用される。該ペプチド合成の前にP1アミノ酸発色源(P1’)を含むビルディングブロックを合成し、該ビルディングブロック全体を単一部分として導入することにより、効率の改善がもたらされうる。そのようなビルディングブロックの一例は、アミノ酸と同じ方法で新生ポリペプチドに加えられうるFmoc−アラニル−パラ−アミノ安息香酸である。該ポリペプチドの長さは、典型的には、2から100残基の範囲である。この方法を用いて、種々の長さの発色性ポリペプチドを合成するのが容易であり、この製造方法の自動化が容易に利用可能である。これは商業的使用のための大規模製造の場合に有利である。また、本発明の発色性ポリペプチドは、判明している発癌性を有さず、したがって、これは大規模製造における安全性の問題とはならないであろう。
【0054】
第1の実施形態においては、該ポリペプチドは、発色性アミノ酸であるp−アミノ安息香酸を含む。しかし、代替的実施形態においては、異なる発色性アミノ酸、例えば図2に示されているものが使用される。これらの発色性アミノ酸は芳香族部分(例えば、フェニルまたはナフチル)または別の複素環式類似体を含有し、該芳香環部分は該発色性アミノ酸(すなわち、それはアニリンである。)のアミノ基の近位に存在する。それでも、本発明の他の実施形態においては、芳香環部分を含まない発色性酸が提供されると理解されるべきである。重要なのは、該発色性アミノ酸のアミン基が、該ポリペプチド内に存在するいずれの他のアミノ酸(アミノ末端または側鎖)よりも有意に低いpKa(例えば、5未満)を有することである。このようにして、低いpHの条件下では、該発色性アミンは少なくとも部分的に脱プロトン化されるが、存在する該構造内のその他のアミンは実質的に完全にプロトン化される。これは、該共役アルデヒドとの反応が、該発色性アミノ酸と優先的に生じることを可能にする。もちろん、該発色性酸は、立体障害が該共役アルデヒドとの相互作用を妨げないようなものであることも必要である。
【0055】
理想的には、該ポリペプチドにおいて使用される発色性アミノ酸は、標的プロテアーゼの基質の構造を可能な限り厳密に模擬するよう、立体的な等価性において天然アミノ酸に合致している。したがって、個々の標的プロテアーゼに特異的な標的領域を有する発色性ポリペプチドが合成される。該発色性アミノ酸は、それが該アミノ酸のC末端に位置しない限り、該ポリペプチドペプチド内のいずれの位置に配置されることも可能である。
【0056】
いくつかの実施形態においては、本発明のポリペプチドは、ブックレットの形態をとる、サンプル中のプロテアーゼ酵素を検出するための製品に組み込まれる。適当なそのようなブックレットはPCT出願第PCT/GB2007/000643号(これを参照により本明細書に組み入れることとする。)に開示されている。図3を参照して、この実施形態におけるブックレット1を以下に説明する。該ブックレットは、ヒンジ4により連結された、厚紙のような平面状の基体の第1および第2シート2、3を含む。第1シートの中央には、吸収パッド5の上に薄い反応フィルム25が設けられている。反応フィルム25は該発色性ポリペプチドで含浸されており、PVAから製造されうる。第2シート3の中央には、反応フィルム25および吸収パッド5と並ぶ穴6が設けられている。穴6は可視化フィルム7により覆われていて、第1および第2シート2、3が互いに押し合った場合、可視化フィルム7は穴6と反応フィルム25との間に位置する。可視化フィルム7はDMACおよびHClで含浸される。場合によっては、使用前には、反応フィルム25および吸収パッド5が環境から密閉されたままとなるよう、反応フィルム25および吸収パッド5は、取り外し可能なフィルム(示されていない。)で覆われている。
【0057】
使用の際には、反応フィルム25および吸収パッド5を覆う取り外し可能なフィルムが使われている場合にはそれを剥がし取り、プロテアーゼ酵素を含有する疑いのあるサンプルを反応フィルム25上に配置し、吸収パッド5内に染み込ませる。該サンプル中にプロテアーゼが存在する場合には、第1の実施形態において記載されているとおり、該プロテアーゼは該発色性ポリペプチドを切断して発色性中間体を遊離させる。ついでブックレット1の第1および第2シート2、3を互いに押し合わせて、反応フィルム25上の成分を可視化フィルム7、より詳しくはDMACと接触させる。
【0058】
このようにして、該発色性中間体の幾らかが反応フィルム25および吸収パッド5から可視化フィルム7上へ移り、この部位において、それはDMACと反応して着色付加体を形成する。前記のとおり、該着色付加体は赤色であり、これは穴6を通してブックレット1の使用者に視認可能である。
【0059】
あるいは、該発色性ポリペプチドを切断しうるプロテアーゼ酵素を該サンプルが含有しない場合には、該発色性中間体は形成されず、該発色性ポリペプチドは黄色のままである。したがって、該可視化フィルムはその色を維持するか、または黄色に着色される。
【0060】
この実施形態の変形においては、膜が設けられ、これは該可視化フィルムを覆い、ある閾サイズを超える物質がそれを通過するのを阻止する。色を本来有する該サンプル中のいずれの物質も該膜を通過できない程度に大きいが、発色性中間体は通過するのに十分な程度に小さく、したがって該可視化フィルム、より詳しくはその上のDMACと接触しうるよう、該閾値は選択される。
【0061】
つぎに図4を参照して、本発明のもう1つの実施形態を説明する。この実施形態においては、本発明のポリペプチドは、垂直流動生化学的アッセイの形態をとる、プロテアーゼ酵素を検出するための製品内に含まれている。検出装置8は、上部区域10を有する容器9を含み、上部区域10は、その最上部に開口部11を有し、そしてその最下部に、頚部13に接続された漏斗12を有する。頚部13は、透明物質、例えばパースペックスまたはガラスからなり、倒立漏斗14につながっており、そしてこれは下部区域15の最上部に位置する。頚部13はマトリックス16を含み、ここにおいて、本発明の複数の発色性ポリペプチドが固定化されている。例えば、幾つかの実施形態においては、マトリックス16は、アミド結合またはチオール相互作用(チオエーテルを形成する。)により発色性ポリペプチドがそのC末端またはC末端付近において共有結合した複数の粒子を含む。この場合、「付近」は該C末端の10または20アミノ酸残基以内を意味する。
【0062】
使用の際には、プロテアーゼ酵素を含有する疑いのあるサンプルを、それが漏斗12内に流動しマトリックス16内にゆっくりと遊離するよう、容器9の上部区域10の開口末端11を経由して加える。該サンプルは重力および毛管作用により一定速度でマトリックス16を経由して通過する。該サンプル中のプロテアーゼはマトリックス16内の発色性ポリペプチドを、該発色性アミノ酸の−NH−部分と、N末端方向に直接隣接したアミノ酸の−CO−部分との間のペプチド結合において切断する。このようにして、該発色性ポリペプチドのN末端断片は遊離し、該発色性中間体はマトリックス16内に固定化されたままとなる。場合によっては、全てのN末端断片がマトリックス16から容器9の下部区域15内へと洗い落とされることが保証されるよう、該サンプルをバッファーで洗浄する。
【0063】
ついで、DMACを含むバッファーを収容する容器(示されていない。)を容器9の上部区域10の開口末端11の上に配置し、その下部末端に穴を開けて、容器9の漏斗12内に該バッファーを放出させる。DMACを含有するバッファーはマトリックス16を通って流動し、それが該発色性中間体と接触すると、それと反応して着色付加体を形成する。過剰のDMACは基体16を通って容器9の下部区域15内に流動する。既に説明されているとおり、該着色付加体は赤色であり、したがってサンプル中のプロテアーゼの存在はマトリックス16を赤変させる。これは頚部13から視認可能である。
【0064】
あるいは、該サンプルが、標的配列において発色性ペプチドを切断しうるプロテアーゼ酵素を含有しない場合には、マトリックス16内の発色性ペプチドは未切断のままであり、したがって、DMACが反応する発色性中間体は存在しない。DMACは黄色であり、幾らかは非特異的付着によりマトリックス16内に残存する。したがって、プロテアーゼ陰性サンプルに応答して、マトリックス16は黄変する。
【0065】
発色性ポリペプチドの合成中、発色性アミノ酸の−NH−部分への天然アミノ酸のアミドカップリング反応は該合成の比較的非効率的な部分であることが観察されている。したがって、該合成反応は、しばしば、該発色性アミノ酸のN末端に結合したアミノ酸が存在しない或る割合の不完全なポリペプチドを生成する。該不完全ポリペプチドは該発色性中間体と同じ構造を有し、完全ポリペプチドと共にマトリックス16に結合するため、そのような不完全なポリペプチドの割合が有意である場合には、これは偽陽性結果をもたらしうる。したがって、該サンプル中にプロテアーゼが存在しない場合であっても、該不完全ポリペプチドはDMACと反応し、変色をもたらすであろう。したがって、幾つかの代替的実施形態においては、該発色性ポリペプチドはそれらのN末端を介してマトリックス16に固定化(例えば、共有結合)される。このようにして、いずれの不完全なポリペプチドも該マトリックスに結合されない。なぜなら、それらは、マトリックス16への結合に用いられるN末端アミノ酸を欠くからである。そのような実施形態においては、活性プロテアーゼを含有するサンプルが適用されると、該発色性中間体はマトリックス16から遊離し、遊離した発色性中間体を捕捉し変色を示すためにマトリックス16の下に吸収サンプ(例えば、綿毛栓)が設けられる。
【0066】
本発明の他の実施形態においては、該発色性ポリペプチドは第1および第2結合部分をいずれかの末端に含む。そのようなポリペプチドの合成の一例を実施例2に示す。この特定の実施形態においては、ビオチンを該ポリペプチドのC末端に結合させ、フルオレセインをN末端に結合させる。該発色性ポリペプチドは、側方流動を含む二官能性リガンド捕捉プロテアーゼ検出アッセイにおいて使用される。側方流動アッセイの更なる詳細はPCT出願番号PCT/GB2007/000637およびGB0716492.4(それらを参照により本明細書に組み入れることとする。)に記載されている。図5を参照すると、側方流動装置17は、上流末端22と下流末端23とを含むニトロセルロースストリップ18を含む。上流末端22に隣接して、吸収物質から構成されるサンプル受容区域19が位置する。下流末端23へ更に進むと、第1可視化区域20が存在する。下流末端23へ更に進むと、第2可視化区域21が存在する。第1可視化区域20は、ストリップ18の表面上に固定化された複数のポリペプチド結合性分子を含む。該ポリペプチド結合性分子のそれぞれは、該発色性ポリペプチドに、そのC末端により結合しうる。したがって、この特定の実施形態においては、第1ポリペプチド結合性分子は、該ポリペプチドのC末端上のビオチンに結合しうるストレプトアビジンである。第2可視化区域21は、ストリップ18の表面上に固定化された複数の抗マウス抗体を含む。
【0067】
使用の際には、プロテアーゼ酵素を含有する疑いのあるサンプルを前記の複数の発色性ポリペプチドと混合する。該プロテアーゼ酵素は該ポリペプチドを切断して、該ポリペプチドのC末端に対応する発色性中間体、および該ポリペプチドのN末端に対応する断片を遊離させる。ついで該混合物に、該N末端断片に結合したフルオレセイン基に結合するマウス抗FITC−金抗体を加える。サンプル受容区域19上に該サンプル混合物を配置する。ついで、矢印24の方向の下流末端23に向かう毛管作用により、ニトロセルロースストリップ18の長さに沿って該サンプル混合物を吸着させる。したがって、それは第1可視化区域20を通過し、ついで第2可視化区域21を通過する。
【0068】
該サンプル混合物が第1可視化区域20を通過する際に、該ビオチンタグが該ストレプトアビジンに結合し、該発色性中間体が第1可視化区域20上に固定化される。該発色性中間体は第1可視化区域に結合したままであり、該N末端断片は更に、ニトロセルロースストリップ20に沿って第2可視化区域21に吸着される。該抗マウス抗体は該マウス抗FITC−金抗体に結合して、第2可視化区域21において該N末端断片を固定化する。
【0069】
ついでDMACをサンプル受容区域19に加え、それは矢印24の方向にストリップ18に沿って吸着される。該DMACが第1可視化区域に到達すると、それは該固定化発色性中間体と反応し、赤色付加体が形成される。また、該抗FITC抗体に結合した金粒子が、ニトロセルロースストリップ18上の第2検出区域21において、視認可能な線を形成すると、該金粒子も観察されうる。
【0070】
あるいは、プロテアーゼ酵素がサンプル中に存在しない場合には、該ポリペプチドがニトロセルロースストリップ18に沿って吸着されると、該ポリペプチド全体が第1検出区域において固定化される。ついでDMACをサンプル受容区域19に加えると、それはニトロセルロースストリップ18に沿って吸着されるが、該発色性アミノ酸は該ポリペプチド上に露出していないため、該DMACは、反応することなく第1検出区域を通過する。したがって、第1検出区域20においては(黄色である残存DMAC以外は)色は生成されず、さらに、該金粒子は第1検出区域20において濃縮されている。したがって、該サンプルにおける機能性プロテアーゼ酵素の非存在は、第1検出区域20における、赤色ではなく、該金粒子により形成される視認可能な線の存在により、および第2検出区域21における視認可能な線の非存在により示される。
【0071】
したがって、この実施形態は2波の反応性(すなわち、1つはDMACの使用、もう1つは金粒子検出の使用)の検出を可能にする。
【実施例】
【0072】
実施例1 − Val−Arg−[pABA]−Glyの合成
図6を参照して、Val−Arg−[pABA]−Glyの合成を以下に説明する。
【0073】
Fmoc−化学法(Fmoc solid phase synthesis−a practical approach.2000 Chan,WCおよびWhite,PD Oxford University Press)を用いて、固相(Wang Resin Merck Biosciences)上でペプチド合成を行った。典型的な合成においては、50mgの樹脂(ローディング0.91mmol/g)を20μm濾過カラム(Kinesis)内でジメチルホルムアミド(DMF)(2ml)中で1時間膨張させた。該樹脂を更に、DMF(2×2ml)で洗浄し、真空下で排液させて乾固させた。2mlの乾燥DMF中に溶解された0.23mmol PYBOP(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノ−ホスホニウム ヘキサフルオロホスファート)および0.23mmol HOBT(ヒドロキシベンゾトリアゾール)および0.23mmol 保護グリシン残基を使用して、第1アミノ酸カップリングを行った。0.46mmolのDIPEA(ジイソプロピルアミン)を該溶液に加え、ついでこれを該樹脂に分注した。該樹脂スラリーを室温で90分間攪拌した後、真空下で排液させ、DMF(2×2ml)での洗浄を行った。樹脂反応部位が全範囲にわたることが保証されるよう、反復反応を行った。DMF(3×2ml)、DCM(ジクロロメタン)(3×2ml)で洗浄し、更にもう一度DMF(2ml)で洗浄した後、DMF(5ml)中の20% ピペリジンの溶液を加え、5分間攪拌することにより、該樹脂のFmoc脱保護を行った。ついで該樹脂をDMF(2×2ml)で洗浄し、該反応をもう一度反復した。該樹脂をDMF(3×2ml)、DCM(3×2ml)、そして最後にDMF(2ml)で十分に洗浄した。ついでこの反応を残りのアミノ酸残基に関して反復した。該発色性部分のあとのアミノ酸の付加のために、カップリングの前に以下のとおりに酸クロリドを調製した。トリホスゲン(0.077mmol)およびFmoc保護アミノ酸(0.23mmol)を1mlのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した。0.76mmol コリジンを該溶液に滴下して白色懸濁液を得た。ついでこれを該樹脂に加え、室温で1時間混合した。該反応混合物を排液させ、THF(2×2ml)およびDCM(3×2ml)で洗浄した。該反応を、完了が保証されるまで反復し、ついで該樹脂を排液させ、THF(2×2ml)、DCM(3×2ml)、ついでDMF(2ml)で十分に洗浄した。前記のとおりに、脱保護を促進させた。
【0074】
該樹脂からの切断および側鎖の脱保護をTFA:水:トリエチルシラン(TES)(95%:2.5%:2.5%)の添加により行った。該スラリーを激しく90分間攪拌した。該合成を完了させるために、該粗ペプチド混合物を、0.1% TFA水(2×5ml)での更なる洗浄により、該樹脂スラリーから取り出した。ついで該混合物を蒸発乾固させ、乾燥エーテル(2×10ml)を該ペプチド残基上に注意深く流し次いで廃棄することにより、該乾燥エーテルで洗浄した。該残基を1時間風乾させた後、最少量の水(3から5ml)に溶解し、0.2μmフィルターで濾過した。該濾液を、分析および後続の分取HPLCのために、Phenomenex Jupiterプロテオカラム上に注入した。純粋画分を合わせ、蒸発乾固させ、ついで純水(0.5から1ml)に再溶解し、エッペンドルフチューブ内で急速冷凍し、凍結乾燥させて、白色/無色粉末状固体を得た。正イオンエレクトロスプレー質量分析を用いるLC−MSにより、ペプチドを確認した。
【0075】
実施例2 − パパインの検出
サンプル溶液中のパパインの存在を検出するためのアッセイにおいて、発色性ポリペプチドVal−Arg−[pABA]−Glyを使用した。プロテアーゼ酵素であるパパインを含むサンプルを、図3に記載されている実施形態によるブックレット(図8Aを参照されたい。)の第1シートに適用した。該ブックレットの第1シートは該発色性ポリペプチドで予め含浸されていた。5分後、該ブックレットの第1および第2シートを一緒に折り畳んだ。該ブックレットの第2シートはDMACで予め含浸されており、該ブックレットの第2シート内の穴から観察可能なとおり、10分後、DMACは黄色から赤色に変化した。また、対照として、該サンプルの代わりに水を使用して、該アッセイを反復した。変色の結果を図8Bのグラフに示す。
【0076】
また、該発色性ポリペプチドの代わりにBANAを使用して、同一条件下、該プロテアーゼアッセイを反復した。該アッセイ中に検出された変色の速度を比較し、その結果を図8Cにグラフ表示する。Val−Arg−[pABA]−Glyは、BANA(ベンゾイルアルギニルナフチルアミド)より速い検出可能な変色を惹起することが示され、これはin situ検出装置にとって有利である。
【0077】
実施例3A − エラスターゼの存在を検出するための適当な発色性基質の測定
2つのペプチド、すなわち、AAPV−[pABA]−GGCおよびAAPV−[ANA]−GGC(ここで、pABAはパラ−アミノ安息香酸であり、ANAは2−アミノナフトエ酸である。)を合成した。両方のペプチドを、好中球エラスターゼ酵素に対する基質としてのそれらの適合性に関して試験した。AAPV−[pABA]−GGCおよびAAPV−[ANA]−GGCのエレクトロスプレー質量スペクトルを、それぞれ、図10Aおよび10Bに示す。
【0078】
種々の濃度(18、9、6および3単位/mlの希釈度の5μl)のエラスターゼを別々のプレートウェル内の0.5mg/ml ペプチド(5μl)に加えた。該混合物を20μlのバッファー(50mm リン酸塩、5mM EDTA;pH7.4)で希釈し、37℃で30分間インキュベートした。15μlの実施用DMAC溶液(0.3mg/ml DMAC、50mM HCl)を各プレートウェルに加え、十分に混合して可視化した。
【0079】
この実験の結果を図8Aに示す。該ウェル内のエラスターゼの最終濃度が3、1.5または1単位/mlであった場合のAAPV−[pABA]−GGCを使用するアッセイはエラスターゼ活性に関する陽性結果(すなわち、該ウェルは赤色/オレンジ色に変化した(Pantone(商標)136U))を与えた。この変色はエラスターゼの存在を示した。0.5単位/ml エラスターゼを含有するウェルは、AAPV−[pABA]−GGC(Pantone(商標)108U)と混合された場合、弱い陽性結果を与えた。該対照ウェルは陰性結果を与えた。
【0080】
これとは対照的に、AAPV−[ANA]−GGCを含有するウェルはいずれも、有意には変色せず、それらは黄色のままであった(Pantone(商標)394U)。したがって、該ウェル内のエラスターゼの存在にもかかわらず、エラスターゼ活性は検出されなかった。
【0081】
実施例3B
2つのペプチド、すなわち、AAPV−[pABA]−GGCおよびAAPV−[ANA]−GGCの存在下の酵素好中球エラスターゼの活性に関して試験するために、もう1つのアッセイ形態を用いた。固体表面への結合の手段として、該ペプチドのC末端システイン基を使用した。ヨードアセチル基で官能基化された半融ポリエチレンフリットを50mM リン酸ナトリウム、5mM EDTA(pH7.4)中で10分間洗浄した。ついで該フリットを、30分間、増感のために0.5mg/ml ペプチド(PBS中)の溶液に移した。ついで該フリットを、リン酸EDTAバッファー中でもう一度、10分間洗浄した。該フリットを空カラム内にローディングし、200μlのエラスターゼを30秒の概算流動接触時間で加えた。該アッセイを展開するために、100μlの実施用DMAC溶液(0.3mg/ml DMAC、50mM HCl)を該カラムに通過させた。
【0082】
このアッセイの結果を図8Bに示す。AAPV−[pABA]−GGCおよびエラスターゼ酵素の両方を含有するアッセイカラムは陽性結果を示し(Pantone(登録商標)参照体1505 U)、AAPV−[pABA]−GGCを含有するがエラスターゼを含有しないカラムは陰性結果を示した(Pantone(登録商標)参照体3945 U)。AAPV−[ANA]−GGCを含有するカラム(一方はエラスターゼ酵素を含有し、他方はそれを含有しない。)は共に、陰性結果を示した(Pantone(登録商標)参照体3945 U)。
【0083】
実施例3Aおよび3Bの結論
2つのペプチドの間で、それらの存在下で検出されるエラスターゼ活性の点で、明らかな相違が観察される。エラスターゼ基質は、好ましくは、セリン、トレオニン(共に親水性側鎖を有する。)またはグリシンをP1’位に有する(情報源:MEROPSデータベース)。したがって、大きな疎水性表面を有する嵩高い発色性アミノ酸がこれらの好ましいアミノ酸に対して適度に立体的に合致するとは考えにくい。ナフトエ酸(ANA)はパラ−アミノ安息香酸(pABA)より嵩高く、より疎水性であり、したがって、AAPV−[ANA]−GGCは不良なエラスターゼ基質である。これらの両方の分子の構造を図9に示す。pABA発色性アミノ酸は、セリンおよびトレオニンに対して、遥かに良好に立体的に合致し、したがってAAPV−[pABA]−GGCは、エラスターゼに対する基質として、有意に、より好適であり、基質および酵素が混合されると、エラスターゼ活性をもたらす。したがってAAPV−[pABA]−GGCはエラスターゼの存在の検出において使用されうる。
【0084】
実施例4 − AAPV−[pABA]−GGCの合成
発色性アミノ酸を含有するペプチドの合成を改善するために開発された新規タイプのビルディングブロックを製造した。この場合、該ビルディングブロックの合成は自動化合成に適合しうる。このビルディングブロックを合成するために用いた方法は、実施例1に記載されているBTC/コリジン法の使用を要さない。BTC/コリジン法は有効であるが、過酷な条件を要し、不溶性沈殿物を生成して、それを、自動化ペプチド合成との併用に不適当なものにする。
【0085】
この新規タイプのビルディングブロックはオフラインで合成された。それはP1アミノ酸およびP1’発色性アミノ酸を含む。それは、該配列内の全ての他のアミノ酸に用いられる標準的な条件を用いて、合成に簡便に組み込まれうる。困難なカップリング工程における望ましくない副反応が回避されて、迅速でクリーンな方法がもたらされる。
【0086】
Fmoc−Val−OH(10mmol)およびt−ブチル−pABA(10mmol)を乾燥ピリジン(30ml)に溶解した。該溶液をエチレングリコール/ドライアイスの浴内で−15℃に冷却し、オキシ塩化リン(1ml、11mmol)を、激しく攪拌しながら滴下した。30分後、TLCによれば、該反応は完了した。粉砕された氷(100ml)を加え、該水性混合物を酢酸エチル(3×50ml)で抽出した。ついでこの有機抽出物を飽和NaHCO(3×50ml)およびブライン(3×50ml)で洗浄した。ついで該有機抽出物を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。該粗混合物を蒸発乾固させ、ついでトルエン、酢酸エチルおよびメタノールで順次、同時蒸発させた。該生成物を、シリカゲル上で、19:1 ジクロロメタン/メタノールで溶出して精製した。精製されたt−Buエステルを。ジクロロメタン中、1:1 TFAで1時間、脱保護し、蒸発させて、淡黄色固体を得た。個々のpABAおよびバリンカップリング工程を置換して、この化合物をAAPV−[pABA]−GGCの合成に直接使用して、予想ペプチドを成功裏に得た。HPLCによる粗製純度は典型的には70%であった(一方、元の方法で観察された純度は35%であった)。Fmoc−Val−pABA−OHのH NMRスペクトルを図11に示し、Fmoc−Val−pABA−OHを使用して合成されたAAPV−[pABA]−GGCのエレクトロスプレー質量スペクトルを図12に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発色性アミノ酸を含むポリペプチドであって、該発色性アミノ酸がそのNおよびC末端において少なくとも1つのアミノ酸に隣接しており、該発色性アミノ酸のアミン基が5未満のpKaを有し、および該発色性アミノ酸が共役アルデヒドと反応可能であり、ならびに該ポリペプチドが、該発色性アミノ酸のアミノ基を含むペプチド結合を切断しうる標的プロテアーゼに対する標的配列を含む、ポリペプチド。
【請求項2】
発色性アミノ酸が、該発色性アミノ酸のアミノ基の窒素原子に直接結合した芳香環部分を含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
発色性アミノ酸が立体的な等価性において天然アミノ酸に合致している、請求項1または請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
標的配列が発色性アミノ酸を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
発色性アミノ酸が、該標的配列が切断されると検出可能なシグナルを与えるよう共役アルデヒドと反応可能である、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリペプチド。

【請求項6】
共役アルデヒドが置換ベンズアルデヒドまたはシンナムアルデヒドまたはトランス,トランス フェニルペンタジエナールである、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
共役アルデヒドがDMACまたはDMABである、請求項1から6のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項8】
芳香族部分がフェニルまたはナフチル部分である、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項9】
ポリペプチドが該ポリペプチドのC末端もしくはN末端において又はその付近において固体表面上に固定化されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項10】
ポリペプチドが固体表面に共有結合している、請求項1から9のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項11】
ポリペプチドのC末端もしくはN末端において又はその付近において第1および第2結合部分を更に含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項12】
ポリペプチドが2から100アミノ酸長、好ましくは3から40アミノ酸長である、請求項1から11のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項13】
サンプル中のプロテアーゼ酵素の検出方法であって、
(i)請求項1から12のいずれか一項に記載のポリペプチドに該サンプルをさらし、該プロテアーゼに該ポリペプチドを切断させて断片(該断片はそのN末端に発色性アミノ酸を示す。)を得る工程、
(ii)共役アルデヒドを、該発色性アミノ酸を含む該断片と反応させて、着色付加体を得る工程、および
(iii)該着色付加体を検出する工程であって、該着色付加体の存在が該サンプル中のプロテアーゼ酵素の存在を示す工程、
を含む方法。
【請求項14】
工程(i)が、発色性アミノ酸のアミノ基を含むポリペプチドのペプチド結合を切断するプロテアーゼ酵素を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から12のいずれか一項に記載のポリペプチドの製造方法であって、
i.1つの発色性アミノ酸を含むアミノ酸二量体を合成する工程、および
ii.該ポリペプチドの合成中に、該二量体を該ポリペプチドの残部に取り込ませる工程
を含んでなる、方法。
【請求項16】
工程(ii)が、該二量体を新生オリゴペプチドに結合させることを含む、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
請求項1から12のいずれか一項に記載のポリペプチドおよび
該ポリペプチドが固定化されうる固体支持体
を含んでなる、サンプル中のプロテアーゼ酵素を検出するための製品。
【請求項18】
共役アルデヒドを更に含む、請求項17に記載の製品。
【請求項19】
固体支持体が、ヒンジにより連結された第1および第2シートを含み、ポリペプチドが第1シート上に固定化されており、および共役アルデヒドが第2シート上に位置していて、それらのシートを一緒に折り畳むことにより第1シートから第2シートへの物質の移動が可能となる、請求項18に記載の製品。
【請求項20】
製品が更に、第1シート上に固定化されたポリペプチドと、第2シート上に位置する共役アルデヒドとの間に介在しうる膜を含み、該膜が、閾サイズより大きなサイズを有する物質の、第1シートから第2シートへの通過を妨げ、該ポリペプチドが、該発色性アミノ酸を含む断片を遊離するようプロテアーゼ酵素により切断可能であり、該断片が該閾サイズより小さい、請求項19に記載の製品。
【請求項21】
固体支持体がクロマトグラフィー媒体を含む、請求項17または18に記載の製品。
【請求項22】
クロマトグラフィー媒体が更に、プロテアーゼ酵素による切断の後にポリペプチドから遊離可能な発色性アミノ酸を含む該ポリペプチドの断片に結合しうる断片結合性分子を含み、該ポリペプチドが指示区域において該クロマトグラフィー媒体上に固定化可能であり、ならびに該断片結合性分子が可視化区域において該クロマトグラフィー媒体上に固定化可能である、請求項21に記載の製品。
【請求項23】
ポリペプチドが第1および第2断片へと切断可能であり、第1断片が該発色性アミノ酸を含み、ならびに製品が更に、第2断片と結合可能な検出可能な標識、および該クロマトグラフィー媒体内または上に固定化された第1および第2捕捉分子を含み、第1捕捉分子が第1断片に結合可能であり、および第2捕捉分子が第2断片または該検出可能標識に結合可能である、請求項21に記載の製品。
【請求項24】
標識が、第2断片に結合可能な結合性成分を含む、請求項23に記載の製品。
【請求項25】
クロマトグラフィー媒体が試験ストリップを含む、請求項21から24のいずれか一項に記載の製品。
【請求項26】
クロマトグラフィー媒体が多孔性物質のカラムを含む、請求項21から24のいずれか一項に記載の製品。
【請求項27】
複数の成分アミノ酸および立体的な等価性において天然アミノ酸に合致している少なくとも1つの発色性アミノ酸を含んでなる合成ポリペプチド。
【請求項28】
サンプル中のプロテアーゼ酵素の検出のための、請求項27に記載の合成ポリペプチドの使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2011−503160(P2011−503160A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533653(P2010−533653)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003833
【国際公開番号】WO2009/063208
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(508257348)モロジック リミテッド (6)
【Fターム(参考)】