説明

プロテアーゼ活性回復方法

【課題】プロテアーゼ活性を阻害したタンパク質溶液のプロテアーゼ活性を、大量に希釈することなく、効率よく回復する、プロテアーゼ活性回復方法を提供する。
【解決手段】プロテアーゼ(A)、下記プロテアーゼ活性阻害剤(B)及び溶剤(C)を含有するタンパク質溶液(X)のプロテアーゼ活性回復方法であって、吸光度を利用した活性測定法による(X)のプロテアーゼ活性Xiが、下記タンパク質溶液(S)の活性を基準として20%以下であり、(X)に、(X)の重量を基準として100〜1000000重量%の(C)をさらに添加するタンパク質溶液(X)のプロテアーゼ活性回復方法。
プロテアーゼ活性阻害剤(B):基質(D)を用いて、プロテアーゼ(A)の活性の最適温度、最適pH及び最適基質濃度の条件下でHendersonプロットにより求めた(A)に対する阻害定数Kiが1pM〜10μMであるプロテアーゼ活性阻害剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ活性の回復方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼは、ペプチド結合の加水分解を触媒する酵素群の総称で、微生物、動物及び植物中に広く存在が知られている。その応用分野としては、衣料用洗浄剤、自動食器洗浄機用洗浄剤、コンタクトレンズ用洗浄剤、浴用剤、角質除去用化粧料、食品の改質剤(製パン、肉の軟化、水産加工など)、ビールの清澄剤、皮革なめし剤、写真フィルムのゼラチン除去剤、消化助剤及び消炎剤などがあり、多くの分野で盛んに利用されている。
しかしながら、プロテアーゼは、プロテアーゼ自身や他のタンパク質を加水分解してしまい、プロテアーゼ自身や他のタンパク質の活性が経時的に著しく低下するという問題が発生している。
そこで、プロテアーゼや他のタンパク質の加水分解を抑えるために、プロテアーゼ活性を阻害するプロテアーゼ活性阻害剤の研究が行われている。例えば、ボロニックアシッドがセリンプロテアーゼやズブチリシンの活性を阻害することが知られている(非特許文献1)。また、4−置換フェニルボロン酸がプロテアーゼの活性を阻害することが知られている(特許文献1)。
しかしながら、これらのプロテアーゼ活性阻害剤は、プロテアーゼ活性の阻害効果が低く、大量に添加してもプロテアーゼやタンパク質の加水分解を十分に抑えることができず、実用的でない。一方、プロテアーゼ活性の阻害効果が高いプロテアーゼ活性阻害剤を用いた場合、大量に希釈しなければプロテアーゼ活性を回復させることができない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−507680号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Molecular & Cellular Biochemistry,51,1983,p5−p32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、プロテアーゼ活性を阻害したタンパク質溶液のプロテアーゼ活性を、大量に希釈することなく、効率よく回復するプロテアーゼ活性回復方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、プロテアーゼ(A)、下記プロテアーゼ活性阻害剤(B)及び溶剤(C)を含有するタンパク質溶液(X)のプロテアーゼ活性回復方法であって、吸光度を利用した活性測定法による(X)のプロテアーゼ活性Xiが、下記タンパク質溶液(S)の活性を基準として20%以下であり、(X)に、(X)の重量を基準として100〜1000000重量%の(C)をさらに添加するタンパク質溶液(X)のプロテアーゼ活性回復方法である。
プロテアーゼ活性阻害剤(B):基質(D)としてベンジルオキシカルボニルフェニルアラニンニトロアニリド、ベンゾイルアルギニンニトロアニリド、フリルアクリロイルグリシルロイシンアミド又はサクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリドのうちいずれか1つを用いて、プロテアーゼ(A)の活性の最適温度、最適pH及び最適基質濃度の条件下でHendersonプロットにより求めた(A)に対する阻害定数Kiが1pM〜10μMであるプロテアーゼ活性阻害剤。
タンパク質溶液(S):タンパク質溶液(X)において、(B)を(B)と同重量の(C)で置きかえたタンパク質溶液。
【発明の効果】
【0007】
本発明のプロテアーゼ活性回復方法は、大量に希釈することなく効率よくプロテアーゼ活性を回復することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】豚トリプシンに対する基質のミカエリス定数Kmを求めるために作成したHanes−Woolfプロットであり、縦軸をそれぞれの基質濃度での酵素反応初速度の逆数(1/v)、横軸を基質(D)の濃度[S]としてプロットしたグラフである。
【図2】豚トリプシンの活性の最適pHを求めるために、縦軸をpH4.5〜9.5における傾き係数k、横軸をpHとしてプロットし、豚トリプシンの活性のpH依存性を表したグラフである。
【図3】豚トリプシンの活性の最適温度を求めるために、縦軸を20〜70℃における傾き係数k、横軸を温度としてプロットし、豚トリプシンの活性の温度依存性を表したグラフである。
【図4】大豆トリプシン阻害剤の豚トリプシンに対する阻害定数Kiを求めるために作成したHendersonプロットであり、豚トリプシンの残存活性をαとしたときに、縦軸を{[大豆トリプシン阻害剤のモル濃度]/(1−α)}、横軸を1/αとしてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明においてプロテアーゼ(A)とは、ペプチド又はタンパク質を基質として加水分解を触媒する酵素である。(A)としては、セリンプロテアーゼ(A−1)、アスパラギン酸プロテアーゼ(A−2)、システインプロテアーゼ(A−3)及び金属プロテアーゼ(A−4)が含まれる。
【0010】
セリンプロテアーゼ(A−1)は、触媒残基としてセリン残基をもつプロテアーゼであり、キモトリプシン、トリプシン、トロンビン、プラスミン、エラスターゼ、スブチリシン及びケキシン等が含まれる。具体的には、ブタすい臓由来トリプシン、バシラス菌(Bacillus)由来のサブチリシン Novo、サブチリシン Carlsberg、サブチリシン 309、サブチリシン 147及びサブチリシン 168等が挙げられる。
市販のセリンプロテアーゼ(A−1)としては、ノボザイムス社製のセリンプロテアーゼ(アルカラーゼ、サビナーゼ、カンナーゼ、エバラーゼ及びPTN等)及びジェネンコア社のセリンプロテアーゼ(ピュラフェクト及びピュラフェクト OXP等)等が挙げられる。
【0011】
アスパラギン酸プロテアーゼ(A−2)は、活性中心にアスパラギン酸の存在するプロテアーゼであり、ペプシン、カテプシンD、レニン及びキモシン等が含まれる。具体的には、ヒト胃由来のペプシン等が挙げられる。
【0012】
システインプロテアーゼ(A−3)は、チオール基が活性中心に存在するプロテアーゼであり、パパイン、ブロメライン、フィシン、アクチニジン、カテプシンB、カテプシンH、カテプシンL及びショウガプロテアーゼ等が含まれる。
【0013】
金属プロテアーゼ(A−4)は、活性中心に金属イオンを含むプロテアーゼであり、例えば、サーモライシン、マトリックスメタロプロテイナーゼ、カルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼB及びコラゲナーゼ等が挙げられる。
【0014】
上記プロテアーゼ(A)のうち、基質であるタンパク質を効率よく低分子に分解するとの観点から、セリンプロテアーゼ(A−1)が好ましく、さらに好ましくはスブチリシンである。
【0015】
本発明においてプロテアーゼ活性阻害剤(B)は、プロテアーゼ(A)と可逆的に結合し、プロテアーゼ(A)の活性を阻害するものである。さらに、基質(D)としてベンジルオキシカルボニルフェニルアラニンニトロアニリド、ベンゾイルアルギニンニトロアニリド、フリルアクリロイルグリシルロイシンアミド又はサクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリドのうちいずれか1つを用いて、プロテアーゼ(A)の活性の最適温度、最適pH及び最適基質濃度の条件下でHendersonプロットにより求めた(A)に対する阻害定数Kiが1pM〜10μMであるプロテアーゼ活性阻害剤である。
【0016】
基質(D)について、上記ベンジルオキシカルボニルフェニルアラニンニトロアニリドは、フェニルアラニンのアミノ基にオキシカルボキシベンジル基が結合し、カルボキシル基にニトロアニリンがペプチド結合したものであり、MP−バイオメディカル社(製品名:N−cbz−L−phenylalanine−p−nitroanilide)から入手可能である。
上記ベンゾイルアルギニンニトロアニリドは、アルギニンのアミノ基にカルボキシベンジル基が結合し、アルギニンのカルボキシル基にニトロアニリンがペプチド結合したものであり、和光純薬工業(株)(製品名:Nα−ベンゾイル−DL−アルギニン−p−ニトロアニリド塩酸塩 )から入手可能である。
上記フリルアクリロイルグリシルロイシンアミドは、グリシルロイシンアミドのアミノ基にフリルアクリル酸がペプチド結合したものであり、シグマ社(製品名:N‐(3‐[2‐Furyl]acryloyl)‐Gly‐Leu amide)から入手可能である。
上記サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリドは、アラニルアラニルプロリルフェニルアラニンの末端アミノ基に無水コハク酸が結合し、末端カルボキシル基にニトロアニリンがペプチド結合したものであり、Bachem AG社(製品名:Suc−Ala−Ala−Pro−Phe−pNA)から入手可能である。
【0017】
上記基質(D)のうち、Kiを求める際にどの基質を用いるかは、プロテアーゼ活性阻害剤(B)が活性を阻害するプロテアーゼ(A)の分類により適宜選択される。上記アスパラギン酸プロテアーゼ(A−2)であればベンジルオキシカルボニルフェニルアラニンニトロアニリド、システインプロテアーゼ(A−3)であればベンゾイルアルギニンニトロアニリド、金属プロテアーゼ(A−4)であればフリルアクリロイルグリシルロイシンアミド、セリンプロテアーゼ(A−1)であればサクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリドを使用する。
上記にプロテアーゼ(A)として例示されていないプロテアーゼについては、参考文献1(Rawlings, N.D. & Barrett, A.J. (1993) Evolutionary families of peptidases. Biochem J 290, p205−218)に、(A−1)〜(A−4)のいずれに分類されるかが記載されている。
また、上記にも、参考文献1にも記載されていないプロテアーゼが、(A−1)〜(A−4)のいずれに分類されるかは、参考文献2(Woessner & Barrett(1998)Handbook of proteolytic enzymes.Academic Press)に示される方法を用いることで分類できる。
【0018】
本発明においてプロテアーゼ(A)の活性の最適基質濃度は、プロテアーゼ(A)に対する基質(D)のミカエリス定数Kmの3分の1倍〜2倍である。ミカエリス定数Kmは酵素反応初速度の基質濃度依存性を求めることによって求められる。具体的には、下記のミカエリス定数Km測定法によって求めたものである。
<ミカエリス定数Km測定法>
一定量の基質(D)、プロテアーゼ(A)、pH調整剤(M)及び水を含む一定の温度及びpHに調製した酵素反応溶液(I)を作成する。
酵素反応溶液(I)の温度は、20〜70℃の範囲内で、プロテアーゼ(A)の活性が失活せず、活性があり、吸光度の測定ができる温度で、酵素反応溶液(I)作成時から測定終了までの間、一定温度に保つことができればいい。
酵素反応溶液(I)のpHは、pH3〜12の範囲内であればいい。後述する最適pHがわかっている場合は、最適pHであることが好ましい。
酵素反応溶液(I)に用いるpH調整剤(M)は、扱いやすさ及び安定性の観点から、HEPESバッファー、MESバッファーなどのGoodバッファーが好ましい。酵素反応溶液(I)中の(M)の濃度(モル濃度)は、25〜500mMである。
酵素反応溶液(I)中のプロテアーゼ(A)の濃度(モル濃度)は、各プロテアーゼによって適宜選択されるが、後述する吸光度の変化ΔAλを縦軸に、時間hを横軸にプロットした場合、プロットが直線となる濃度を選ぶ。
酵素反応溶液(I)中の基質(D)の濃度(モル濃度)は、経時的な吸光度変化を観測できる最小の基質濃度から最大の基質濃度の間で3点以上選べばよい。測定に使用する(A)と類似のプロテアーゼのミカエリス定数Kmが分かっている場合は、類似プロテアーゼのKmの1/50倍〜10倍の間で3点以上選べばよい。
酵素反応溶液(I)について、分光光度計を用いて、波長300〜450nmの範囲内で、酵素反応の生成物が極大吸収をもつ波長での吸光度Aλを経時的に測定する。測定時の温度は、酵素反応溶液(I)を作成したときの温度と同温度である。測定時間は酵素の活性によって異なるが、吸光度が0.8を超えない範囲で0.1以上変化するのが見られれば良い。基質(D)及びプロテアーゼ(A)を混合した直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλhとし、吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)と生成物の測定波長におけるモル吸光定数εを用いて下記数式(1)から酵素反応初速度v(M/s)を算出する。
v=ΔAλ/(ε×h×3600) (1)
さらに、基質(D)の濃度が異なる酵素反応溶液(I)を用いて、同様に測定し、酵素反応初速度vを算出する。
ミカエリス定数Kmはミカエリスメンテン式から派生するHanes−Woolfプロットを用いて求める。Hanes−Woolfプロットは、横軸(x軸)にそれぞれの基質(D)の濃度[S]、縦軸(y軸)にそれぞれの基質濃度での酵素反応初速度の逆数(1/v)をプロットしたものであり、プロットの近似直線とx軸との交点が−Kmである。
【0019】
プロテアーゼ(A)の活性の最適pHは、様々なpHで酵素反応溶液の吸光度を測定することによって決定できる。具体的には、下記の最適pH測定法によって求めたpHである。
<最適pH測定法>
一定量の基質(D)、プロテアーゼ(A)、pH調整剤(M)及び水を含むpHを3〜12の範囲で、pH1きざみ(3.5、4.5、5.5、6.5及び7.5等)に調製した酵素反応溶液(II)を作成する。
酵素反応溶液(II)の温度は、20〜70℃の範囲内で、プロテアーゼ(A)の活性が失活せず、活性があり、吸光度の測定ができる温度で、酵素反応溶液(II)作成時から測定終了までの間、一定温度に保つことができればいい。
酵素反応溶液(II)に用いるpH調整剤(M)は、扱いやすさ及び安定性の観点から、HEPESバッファー及びMESバッファー等のGoodバッファーが好ましい。酵素反応溶液(II)中の(M)の濃度(モル濃度)は、25〜500mMである。
酵素反応溶液(II)中の基質(D)の濃度(モル濃度)は、上記プロテアーゼ(A)の基質(D)に対するミカエリス定数Kmの4〜6倍である。
酵素反応溶液(II)中のプロテアーゼ(A)の濃度(モル濃度)は、各プロテアーゼによって適宜選択され、後述する吸光度の変化ΔAλを縦軸に、時間hを横軸にプロットした場合、プロットが直線となる濃度を選ぶ。
酵素反応溶液(II)において、分光光度計を用いて、波長300〜450nmの範囲内で、酵素反応の生成物が極大吸収をもつ波長での吸光度Aλを経時的に測定する。測定時の温度は、酵素反応溶液(II)を作成したときの温度と同温度である。測定時間hは酵素の活性によって異なるが、吸光度が0.8を超えない範囲で、0.1以上変化すれば良い。基質(D)及びプロテアーゼ(A)を混合した直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλh(3点以上)とし、吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)を縦軸に、時間hを横軸にプロットし、直線の傾き(係数k)を求める。さらに、それぞれのpH(3〜12)の酵素反応溶液(II)を用いて測定した係数kを用いて、縦軸を係数k、横軸をpHとしてプロットし、係数kが極大値となるpHが最適pHである。
pHを調整する際に、バッファーの種類を変更する場合は、バッファーによってプロテアーゼ活性が異なるため、適宜これを補正する必要がある。補正する方法としては、バッファーの種類を変える境目のpHにおいて、両方のバッファーで活性を測定しておき、片方のバッファーで測定した値を基準として活性を補正する方法が挙げられる。
【0020】
プロテアーゼ(A)の活性の最適温度は、様々な温度で酵素反応溶液の吸光度を測定することによって求められる。具体的には、下記の最適温度測定法によって求めた温度である。
<最適温度測定法>
一定量の基質(D)、プロテアーゼ(A)、pH調整剤(M)及び水を含む最適pHに調整した酵素反応溶液(III)を作成する。
酵素反応溶液(III)の温度は、20〜70℃の範囲で、温度が異なるもの(各温度の間隔がおよそ10℃くらい)を数種類作成する。
酵素反応溶液(III)に用いるpH調整剤(M)は、扱いやすさ及び安定性の観点から、HEPESバッファー及びMESバッファー等のGoodバッファーが好ましい。酵素反応溶液(III)中の(M)の濃度(モル濃度)は、25〜500mMである。
酵素反応溶液(III)中の基質(D)の濃度(モル濃度)は、後述するプロテアーゼ(A)の基質(D)に対するミカエリス定数Kmの4〜6倍である。
酵素反応溶液(III)中のプロテアーゼ(A)の濃度(モル濃度)は、各プロテアーゼによって適宜選択され、後述する吸光度の変化ΔAλを縦軸に、時間hを横軸にプロットした場合、プロットが直線となる濃度を選ぶ。
酵素反応溶液(III)について、分光光度計を用いて、波長300〜450nmの範囲内で、酵素反応の生成物が極大吸収をもつ波長での吸光度Aλを経時的に測定する。測定時の温度は、酵素反応溶液(III)を作成したときの温度と同温度である。測定時間hは酵素の活性によって異なるが、吸光度が0.8を超えない範囲で、0.1以上変化すれば良い。基質(D)及びプロテアーゼ(A)を混合した直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλh(3点以上)とし、吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)を縦軸に、時間hを横軸にプロットして、直線の傾き(係数k)を求める。20〜70℃の各温度で作成した酵素反応溶液(III)において測定した係数kを用いて、縦軸を係数k、横軸を温度としてプロットする。係数kが極大値となる温度がプロテアーゼ(A)の活性の最適温度である。
【0021】
阻害定数Kiは、上記の測定法により求めたプロテアーゼ(A)の活性の最適温度、最適pH及び最適基質濃度の条件下、下記測定方法によって求められる。
<阻害定数Kiの測定方法>
最適温度、最適pHに調製した、一定量のプロテアーゼ(A)、プロテアーゼ活性阻害剤(B)、pH調整剤(M)及び水を含むプロテアーゼ・プロテアーゼ活性阻害剤混合溶液(i)を作成する。また、(B)の濃度が異なる(i)を数種類作成する。作成した(i)は、数十分〜数時間静置する。静置後のそれぞれの(i)に、基質(D)を添加して酵素反応溶液(IV)を作成する。
(i)及び(IV)に用いるpH調整剤(M)は、扱いやすさ及び安定性の観点から、HEPESバッファー、MESバッファーなどのGoodバッファーが好ましい。(i)及び(IV)中の(M)の濃度(モル濃度)は、25〜500mMであり、最適pHに調整できればいい。
(i)中のプロテアーゼ(A)の濃度(モル濃度)は、前述のKmを求めた際の(A)の濃度付近であり、且つ、後に(i)に添加する基質(D)溶液のモル濃度の100000分の1倍〜1000分の1倍の濃度である。(IV)中の(A)のモル濃度は、(IV)中の基質(D)のモル濃度の100000分の1倍〜1000分の1倍の濃度である。
(i)及び(IV)中のプロテアーゼ活性阻害剤(B)の濃度(モル濃度)は、プロテアーゼ(A)の濃度(モル濃度)の10分の1倍〜1000倍で、(B)の濃度が異なる溶液(i)を4種類以上作成する。
酵素反応溶液(IV)中の基質(D)のモル濃度は、最適基質濃度(上記ミカエリス定数Kmの3分の1倍〜2倍)であり、且つ、プロテアーゼ(A)のモル濃度の5〜100000倍の濃度で作成する。
(i)の静置時間は、(A)と(B)が十分に結合し、プロテアーゼ(A)の活性が一定になるまでの時間であり、あらかじめ実験して求めておく。
プロテアーゼ(A)の活性が一定になるまでの時間は、後述する吸光度を利用した活性測定法により求めることができる。具体的には、プロテアーゼ・プロテアーゼ活性阻害剤混合溶液(i)を作成してから、一定時間おきに、後述する吸光度を利用した活性測定法により、直線の傾き(係数k)を求める。係数kが一定になるまでの時間が(A)の活性が一定になるまでの時間である。
プロテアーゼ活性の最適温度及び最適pHの条件下、酵素反応溶液(IV)を作成後、分光光度計を用いて、波長300〜450nmの範囲内で、生成物が極大吸収をもつ波長での吸光度Aλを経時的に測定する。測定時間hは酵素の活性によって異なるが、吸光度が0.8を超えない範囲で0.1以上変化すれば良い。(IV)を作成した直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλhとし、吸光度変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)と生成物の測定波長におけるモル吸光定数εから上記数式(1)を用いて酵素反応初速度vを算出する。また、プロテアーゼ活性阻害剤(B)の濃度が異なる(i)を用いて作成した酵素反応溶液(IV)についても同様に測定し、酵素反応初速度vを算出する。
酵素反応溶液(IV)において、(B)に変えて溶剤(C)((B)の重量分の(C)を加えた)以外は同様にして作成した酵素反応溶液(IV’)を用いて測定した酵素反応初速度をvoとし、各(B)濃度での残存活性α(α=vi/vo)を算出する。
横軸に1/αを、縦軸に[(B)のモル濃度]/(1−α)をプロットし、Hendersonプロットを作成する。このプロットに近似直線を描いたときの傾きKi(app)、測定時の基質濃度[S]、ミカエリス定数Kmを、下記数式(2)に当てはめることによりKiを算出する。
Ki=Ki(app)/(1+[S]/Km)(2)
上記Hendersonプロットは、具体的には、Biochem.J.,127,1972,p21−333に記載されている方法を用いる。
【0022】
本発明において、プロテアーゼ活性阻害剤(B)の阻害定数Kiは、1pM〜10μMであり、適度なプロテアーゼ濃度範囲でプロテアーゼ活性を抑制し、回復できるとの観点及びプロテアーゼ活性の持続性の観点から、1nM〜1μMが好ましい。
【0023】
上記阻害定数Kiが1pM未満では、プロテアーゼとプロテアーゼ活性阻害剤の結合が強いため、プロテアーゼの活性を回復させるには大量に希釈しなければならない。例えば、Kiが0.1pMのプロテアーゼ活性阻害剤を、プロテアーゼと等モル量用いてプロテアーゼの活性を20%以下にした場合、希釈後の(A)の濃度が約1.0×10-10重量%になるように大希釈しなければプロテアーゼの活性を50%以上に回復することができない。しかしながら、(A)の濃度が1.0×10-10重量%以下では、プロテアーゼを衣料用洗浄剤等として使用する場合、添加することによる有用な効果が得られない。
一方、阻害定数Kiが10μMより大きくなると、(A)の活性を20%以下にするのが困難である。また、タンパク質溶液(X)のプロテアーゼ活性の持続性が低い。
本発明において、プロテアーゼ活性の持続性とは、タンパク質溶液(X)を一定期間保存した後に回復させたプロテアーゼ活性と、保存する前に回復させたプロテアーゼ活性との差が小さく、プロテアーゼ活性の比(%){(一定期間保存した後に回復させたプロテアーゼ活性)/(保存する直前に回復させたプロテアーゼ活性)×100}が100%に近くなり、一定のプロテアーゼ活性の回復性があることを意味する。
【0024】
本発明において、プロテアーゼ活性阻害剤(B)の阻害定数Kiが1pM〜10μMであることにより、少量の添加で適度にプロテアーゼ活性を阻害することができ、プロテアーゼや他のタンパク質の加水分解を抑えることができる。そのため、タンパク質溶液(X)において、(B)により阻害され、低下したプロテアーゼ(A)の活性を、大量に希釈することなく、効率よく回復させることができる。また、タンパク質溶液(X)を長期間保存した後も、プロテアーゼ活性を効率よく回復することができ、プロテアーゼ活性の持続性が高い。
【0025】
上記阻害定数Kiを満たすプロテアーゼ活性阻害剤(B)としては、タンパク質性プロテアーゼ活性阻害剤(B−1)、ペプチド型プロテアーゼ活性阻害剤(B−2)及び低分子プロテアーゼ活性阻害剤(B−3)が挙げられる。
【0026】
タンパク質性プロテアーゼ活性阻害剤(B−1)は、天然物から抽出された又は宿主細胞に遺伝子を組み込むことで発現されたタンパク質であって、アミノ酸の数が50を超えるタンパク質で下記(B−2)以外のタンパク質であり、プロテアーゼの活性を阻害するタンパク質である。上記阻害定数Kiを満たす(B−1)として、具体的には、配列番号1のコムギ由来のタンパク質性プロテアーゼ活性阻害剤(アルカラーゼに対する阻害定数Kiが1pM、サビナーゼに対する阻害定数Kiが75pM、カンナーゼに対する阻害定数が123pM)、Streptomyces albogriseolous由来Strepto myces subtilisin inhibitor(SSI)に代表されるStreptomyces属由来のスブチリシン阻害剤(スブチリシンBPNに対する阻害定数Kiが71ppm)、大豆由来トリプシン阻害剤(キモトリプシンに対する阻害定数Kiが0.67μM、豚トリプシンに対する阻害定数Kiが1.4nM)、ヒト由来シスタチンB(パパインに対する阻害定数Kiが0.12nM)、回虫由来ペプシン阻害剤及びジャガイモ由来カテプシンD阻害剤(カテプシンDに対する阻害定数Kiが260nM)等が挙げられる。
【0027】
ペプチド型プロテアーゼ活性阻害剤(B−2)には、2〜50個のアミノ酸からなるペプチド並びにその末端及び/又はアミノ酸側鎖が修飾されたもの等が含まれる。
2〜50個のアミノ酸からなるペプチドとしては、天然物から抽出された又は宿主細胞に遺伝子を組み込むことで発現されたペプチドであり、プロテアーゼの活性を阻害するペプチドである。
ペプチドの末端の修飾としては、上記ペプチドのN及び/又はC末端の化学修飾が挙げられ、具体的にはN末端にサクシニルクロリドを反応させてサクシニル基を導入したもの、C末端にカルボジイミド塩酸塩を反応させてBoc基を導入したもの等が挙げられる。
アミノ酸側鎖の修飾としては、上記ペプチドのアミノ酸側鎖の化学修飾が挙げられる。具体的には、上記ペプチド中のアミノ酸残基(セリン、トレオニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、リシン及びチロシン等)の側鎖(カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基及びチオール基等)に、官能基(カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、スルホ基)を有する化合物が反応したもの等が挙げられる。また、宿主細胞を用いたペプチド発現の過程で翻訳後、化学修飾を受けたもの等も挙げられる。
(B−2)として、具体的には、ロイペプチン(トリプシンに対する阻害定数31nM)及びエグリンC(ケキシンに対する阻害定数Kiが38pM)等が挙げられる。また、(B−1)の一部を加水分解したものも含まれる。
【0028】
低分子プロテアーゼ活性阻害剤(B−3)には、上記(B−2)以外の分子量50〜1000の化合物であり、プロテアーゼ(A)と可逆的な結合を形成し、プロテアーゼの活性を阻害するものが含まれる。例えば、カルボキシル基やアミノ基等を有し、プロテアーゼと水素結合する化合物等が挙げられる。
(B−3)として、具体的には、カルボキシフェニルボロン酸(アルカラーゼに対する阻害定数Kiが10μM)、ジクロロフェニルボランジオール(スブチリシンに対する阻害定数Kiが8μM)及び3−ニトロフェニルホウ酸(スブチリシンに対する阻害定数Kiが8μM)等が挙げられる。
【0029】
上記プロテアーゼ活性阻害剤(B)のうち、低添加量で(A)の活性を阻害し、大量に希釈せずに活性を回復できるとの観点及びプロテアーゼ活性の持続性の観点から、タンパク質性プロテアーゼ活性阻害剤(B−1)が好ましい。
【0030】
本発明において、溶剤(C)としては、水、有機溶剤及びこれらの混合物が挙げられる。
【0031】
水としては、特に限定されるものではなく、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水及び逆浸透水等が挙げられる。また、水中に、後述するpH調整剤(M)を含むバッファー水溶液等が挙げられる。
【0032】
有機溶剤としては、アルコール(炭素数1〜18のアルコールが挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール及びグリセリン等)、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル(テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、環状エーテル等)、スルホキシド(ジメチルスルホキシド等)、脂肪族または脂環式炭化水素(n−ヘキサン、n−ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等)及びふっ素含有化合物(テトラフルオロエチレン等)等が挙げられる。これらの有機溶剤のうち、タンパク質の安定性の観点からスルホキシドが好ましい。
【0033】
溶剤(C)としては、タンパク質の安定性の観点からスルホキシド及び水が好ましく、さらに好ましくは水であり、特に好ましくはpH調整剤(M)を含むバッファー水溶液である。
【0034】
本発明におけるタンパク質溶液(X)は、上記プロテアーゼ(A)、プロテアーゼ活性阻害剤(B)及び溶剤(C)を含有するものである。
タンパク質溶液(X)中の(A)の含有量(重量%)は、(A)の凝集を防止する観点から、(A)、(B)及び(C)の合計重量を基準として、0.0000000001〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.000000001〜2重量%であり、特に好ましくは0.00000001〜0.1重量%である。
タンパク質溶液(X)中の(B)の含有量(重量%)は、凝集を防止し、(A)の活性を阻害し、大量に希釈せずに活性を回復させる観点及びプロテアーゼ活性の持続性の観点から、(A)、(B)及び(C)の合計重量を基準として、0.000000001〜20重量%が好ましく、さらに好ましくは0.00000001〜5重量%であり、特に好ましくは0.0000001〜0.1重量%である。
タンパク質溶液(X)中の(C)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点から、(A)、(B)及び(C)の合計重量を基準として、75〜99.9999999989重量%が好ましく、さらに好ましくは93〜99.999999989重量%であり、特に好ましくは99.8〜99.99999989である。
【0035】
タンパク質溶液(X)中のプロテアーゼ活性阻害剤(B)とプロテアーゼ(A)とのモル比((B)のモル数/(A)のモル数)は、(X)中で(A)の活性を十分に阻害し、大量に希釈せずに活性を回復させる観点及びプロテアーゼ活性の持続性の観点から0.8〜10が好ましく、さらに好ましくは1〜8であり、特に好ましくは1.5〜5である。
【0036】
本発明におけるタンパク質溶液(X)には、上記のプロテアーゼ(A)、プロテアーゼ活性阻害剤(B)及び溶剤(C)以外に、界面活性剤(E)、無機塩(F)、糖(G)、アミノ酸(H)、低分子有機化合物(I)、脂肪酸(J)、油脂(K)、(A)及び(B)以外のタンパク質(L)及びpH調整剤(M)を含有することができる。
【0037】
界面活性剤(E)としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び非イオン性界面活性剤が挙げられ、例えば、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレン/ポリオキシエチレン共重合物、ソルビタンアルキルエステルエチレンオキシド付加物、脂肪族アルコールエチレンオキシド付加物、脂肪酸エチレンオキシド付加物及びアルキルアミンエチレンオキシド付加物等が挙げられる。
【0038】
無機塩(F)として、塩化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、ギ酸ナトリウム、硫酸マグネシウム及び硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0039】
糖(G)として、トレハロース、スクロース、デキストリン、シクロデキストリン、マルトース、フルクトース、ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸等が挙げられる。
【0040】
アミノ酸(H)として、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、アスパラギン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、ロイシン、リシン、ヒスチジン、システイン、グルタミン、グルタミン酸、イソロイシン、メチオニン、プロリン、セリン、トレオニン、バリン及びそれらの塩等が挙げられる。
【0041】
低分子有機化合物(I)としては、酢酸ベンジル、メチルサリチル酸、ベンジルサリチル酸、ヒドロキシ安息香酸、けい皮酸、カフェ酸、カテキン類、アスコルビン酸及びカロテノイド等が挙げられる。
【0042】
脂肪酸(J)として、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ドコサヘキサエン酸及びエイコサペンタエン酸等が挙げられる。
【0043】
油脂(K)としては、上記脂肪酸(J)のモノ、ジ又はトリグリセリドが挙げられる。
【0044】
(A)及び(B)以外のタンパク質(L)としては、特に限定するものではないが、プロテアーゼ以外の酵素、組み換えタンパク質、抗体及びペプチド等が挙げられ、具体的には、血清アルブミン、コラーゲン、カゼイン、ゼラチン及びシルクペプチド等が挙げられる。
【0045】
pH調整剤(M)としては、従来のpH調整剤が使用でき、例えば、ホウ酸バッファー、リン酸バッファー、酢酸バッファー、Trisバッファー、HEPESバッファー及びクエン酸等が挙げられる。
【0046】
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれる界面活性剤(E)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0〜50が好ましく、さらに好ましくは0〜25、特に好ましくは0〜10である。
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれる無機塩(F)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0〜10が好ましく、さらに好ましくは0〜5、特に好ましくは0〜3である。
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれる糖(G)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0〜50が好ましく、さらに好ましくは0〜30、特に好ましくは0〜20である。
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれるアミノ酸(H)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0〜50が好ましく、さらに好ましくは0〜30、特に好ましくは0〜20である。
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれる低分子有機化合物(I)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0〜50が好ましく、さらに好ましくは0〜30、特に好ましくは0〜20である。
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれる脂肪酸(J)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0〜50が好ましく、さらに好ましくは0〜30、特に好ましくは0〜20である。
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれる油脂(K)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0〜50が好ましく、さらに好ましくは0〜30、特に好ましくは0〜20である。
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれるプロテアーゼ以外のタンパク質(L)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0〜50が好ましく、さらに好ましくは0〜30、特に好ましくは0〜20である。
本発明のタンパク質溶液(X)に含まれるpH調整剤(M)の含有量(重量%)は、タンパク質の安定性の観点からタンパク質溶液(X)の重量に対し0.01〜25が好ましく、さらに好ましくは0.01〜15、特に好ましくは0.01〜10である。
【0047】
本発明におけるタンパク質溶液(X)は、各成分を混合することにより得られ、製造方法は特に限定されるものではない。1例を下記に示す。
(1)溶剤(C)にpH調整剤(M)及びプロテアーゼ(A)を添加し、25℃で均一になるまで撹拌する。
(2)プロテアーゼ活性阻害剤(B)を添加し、25℃で均一になるまで撹拌する。
(3)最後に(E)〜(L)を添加し、25℃で均一になるまで撹拌し、タンパク質溶液(X)を製造する。
【0048】
本発明におけるタンパク質溶液(X)のpHは、タンパク質の安定性への影響の観点から、pH5〜10が好ましく、さらに好ましくはpH7〜9である。
(X)のpHは、pH調整剤(M)によって適宜調整できる。
【0049】
本発明におけるタンパク質溶液(X)は、吸光度を利用した活性測定法によるプロテアーゼ活性Xiが、タンパク質溶液(S)の活性を基準として20%以下であるタンパク質溶液である。
【0050】
タンパク質溶液(S)は、タンパク質溶液(X)において、(B)を(B)と同重量の(C)で置きかえたタンパク質溶液である。例えば、(X)中の(A)、(B)及び(C)の含有量(重量%)が(A)、(B)及び(C)の合計重量を基準として、(A)が2重量%、(B)が18重量%、(C)が80重量%である場合、(S)中の(A)は2重量%、(C)は98重量%である。
【0051】
本発明において、吸光度を利用した活性測定法とは、基質(D)を用いて、一定温度、一定pH、上述のプロテアーゼ(A)の活性の最適基質濃度の条件下で、酵素反応の生成物が極大吸収をもつ波長での吸光度Aλを経時的に測定する方法である。
基質(D)として、どの基質を用いるかは、上記Kiを求める際に使用する基質と同様、タンパク質溶液(X)中のプロテアーゼ(A)の分類により適宜選択される。
吸光度を利用した活性測定法として、具体的には、下記の測定によって求められる。
【0052】
<吸光度を利用した活性測定法>
○プロテアーゼ活性Xi
一定量のタンパク質溶液(X)及び一定量の基質(D)を添加して酵素反応溶液(V)を作成する。
酵素反応溶液(V)の温度は、20〜70℃の範囲内で、プロテアーゼ(A)の活性が失活せず、活性があり、吸光度の測定ができる温度で、測定の間一定に保つことができればいい。
酵素反応溶液(V)中の基質(D)のモル濃度は、最適基質濃度で上記ミカエリス定数Kmの3分の1倍〜2倍であり、且つ、(V)中のプロテアーゼ(A)のモル濃度の5〜100000倍の濃度であればいい。
酵素反応溶液(V)について、分光光度計を用いて、波長300〜450nmの範囲内で、酵素反応の生成物が極大吸収をもつ波長での吸光度Aλを経時的に測定する。測定時の温度は、酵素反応溶液(V)を作成したときの温度と同温度である。酵素反応溶液(V)を作成直後の吸光度Aλ0及び酵素反応溶液(V)を作成からh時間後の吸光度Aλh(3点以上)を測定し、吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)を求める。測定時間は酵素の活性によって異なるが、吸光度が0.8を超えない範囲で0.1以上変化するのが見られれば良い。吸光度の変化ΔAλを縦軸に、時間hを横軸にプロットして、直線の傾き(係数kX)を求める。
【0053】
タンパク質溶液(X)に変えてタンパク質溶液(S)を使用する以外は同様にして吸光度を測定し、直線の傾き(係数kS)を求める。
【0054】
上記タンパク質溶液(X)及び(S)は、作成してから30分以上6時間以内のものを使用する。
【0055】
(X)のプロテアーゼ活性Xiは、タンパク質溶液(X)及びタンパク質溶液(S)を用いた上記の直線の傾き係数kX及びkSから、下記数式(3)によって求められる。
プロテアーゼ活性Xi(%)={kX/kS}×100 (3)
【0056】
本発明において(X)の吸光度を利用した活性測定法によるプロテアーゼ活性Xiは20%以下であり、プロテアーゼ活性の残存によるプロテアーゼ自身及び/又は他のタンパク質の分解を防止するとの観点から、0〜10%が好ましく、さらに好ましくは0.00001〜5%であり、次にさらに好ましくは0.001〜3%であり、特に好ましくは0.01〜3%である。
【0057】
本発明のプロテアーゼ活性回復方法は、(X)の重量を基準として(C)を100〜1000000重量%添加する方法である。(C)の添加量は、プロテアーゼ活性を十分に回復させるとの観点から、500〜1000000重量%が好ましく、さらに好ましくは1000〜1000000重量%であり、次にさらに好ましくは9900〜1000000重量%である。
【0058】
本発明のプロテアーゼ活性回復方法において、回復とは、(X)の重量を基準として(C)を100〜1000000重量%添加して希釈した後のタンパク質溶液(Y)のプロテアーゼ活性Yiが、タンパク質溶液(T)の活性を基準として20%よりも大きくなることを意味する。プロテアーゼ活性Yiは、産業上で有効なプロテアーゼ活性を得る観点から、25〜100%が好ましく、さらに好ましくは40〜100%であり、次にさらに好ましくは60〜100%であり、特に好ましくは80〜100%である。
【0059】
タンパク質溶液(T)は、タンパク質溶液(Y)において添加された(C)と同重量の(C)をタンパク質溶液(S)に添加したタンパク質溶液である。
【0060】
○プロテアーゼ活性Yi
タンパク質溶液(Y)のプロテアーゼ活性Yiは、上記吸光度を利用した活性測定法において、タンパク質溶液(X)に変えて(Y)を用いて直線の傾き(係数kY)を求め、タンパク質溶液(S)に変えて(T)を用いて直線の傾き(係数kT)を求め、下記数式(4)に当てはめることによって求められる。
プロテアーゼ活性Yi(%)={kY/kT}×100 (4)
活性測定法で使用するタンパク質溶液(Y)及び(T)は、作成してから30分以上6時間以内のものを使用する。
【0061】
本発明のプロテアーゼ活性回復方法は、(X)に(X)の重量を基準として(C)を100〜1000000重量%添加するものであれば特に限定されないが、(X)と(C)を均一に混合することが重要であり、(C)添加後の粘度及び温度等が均一な溶液になるまで攪拌することが好ましい。また、(X)中のタンパク質の変性に問題がなければ、なるべく高い温度(20〜30℃)の(C)を一度に添加したほうが速やかに活性を回復できるので好ましい。
1例を下記に示す。
(1)一定量の(X)に一定量の溶剤(C)を添加し、25℃で120分攪拌する。
【実施例】
【0062】
以下の実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
<製造例1>
配列番号1〜3のアミノ酸配列をコードする遺伝子(遺伝子北海道システム・サイエンス社に人工合成を依頼したもの)を制限酵素NcoIとBamHIで処理後、pET−22bプラスミド(Novagen社)のNcoI制限酵素サイトとBamHI制限酵素サイトに結合した。そのBL21(DE3)大腸菌株にこのプラスミドを形質転換してプロテアーゼ活性阻害剤遺伝子発現株(r1)〜(r3)を作成した。
【0064】
プロテアーゼ活性阻害剤遺伝子発現株(r1)〜(r3)をそれぞれLB培養液(アンピシリン 100mg/L含有)1mLに植菌して30℃で12時間培養を行い、終夜培養液を作成し、さらにこの終夜培養液0.5mlをLB培養液(アンピシリン 100mg/L含有)5mlに植菌して30℃3時間振とう培養を行い前培養液を作成した。前培養液を50mLの培養液(水50mL中のそれぞれの成分の含有量は、酵母エキス(日本製薬社製)1.2g、ポリペプトン(日本製薬社製)0.6g、リン酸2カリウム0.47g、リン酸1カリウム0.11g、硫酸アンモニウム0.35g、リン酸2ナトリウム12水和物0.66g、クエン酸ナトリウム2水和物0.02g、グリセロール0.2g、ラクトアルブミン水解物1.5g、消泡剤(信越シリコーン製、「KM−70」)0.3g、1mM硫酸マグネシウム、微量金属溶液(塩化カルシウム18.9μg、塩化鉄(III)500μg、硫酸亜鉛7水和物9.0μg、硫酸銅5.1μg、塩化マンガン4水和物6.7μg、塩化コバルト4.9μg、エチレンジアミン4酢酸4ナトリウム200μg)、100mg/Lアンピシリン)に植菌し微生物培養装置(エイブル社製、製品名「BioJr.8」)を用いてpH6.8、30℃を維持したまま培養を行った。培養開始後1M IPTG溶液を0.15mLを加えた。培養開始14時間後から、グリセリン/タンパク質溶液(50% グリセリン、50g/L ラクトアルブミン水解物、33g/L 消泡剤(信越シリコーン製、「KM−70」)、100mg/L アンピシリン)の滴下を開始した。培養開始後、48時間目に培養液(R1)〜(R3)を回収した。
【0065】
得られた培養液(R1)〜(R3)から遠心分離機(KUBOTA社製「5922」、4℃、6000×g、10分)を用いて菌体を分離し上清のみを回収した。その後、上清25mlに1M CaCl2水溶液を25μlとイソプロパノール6.25ml加えて、遠心分離機(KUBOTA社製「5922」、4℃、6000×g、10分)を用いて沈殿除去を行った後、限外ろ過膜(Millipore社製「アミコンウルトラ−15」分画分子量10000)を用いて、1ml程度になるまで上清の濃縮を行い、配列番号1〜3のプロテアーゼ活性阻害剤(B1)〜(B3)の溶液(L1)〜(L3)を得た。
【0066】
プロテアーゼ活性阻害剤(B1)〜(B3)の溶液(L1)〜(L3)をそれぞれ1μLと、クマシーブリリアントブルーとSDSを含むSDS−PAGEサンプル処理液1μL(アトー社製「イージーステイン・アクア」をそれぞれ混合し、ポリアクリルアミドゲル(アトー社製、e・パジェル 5〜20%)を用いて20mAで60分間電気泳動した。同様に処理した1μg、3μgおよび5μLのウシ血清アルブミン(和光純薬工業社製)とのバンドの濃さの比較から、(L1)〜(L3)中のプロテアーゼ活性阻害剤の濃度を決定しところ、すべて約1μg/μLであった。
【0067】
<豚トリプシンの活性の最適pHの測定>
豚トリプシン(和光純薬工業株式会社)100mgを390mLのバッファー1[50mM 酢酸Naバッファー(pH4.5、25℃)水溶液]に溶解させ、豚トリプシン溶液(A1)(11.1μM)とした。
(A1)を1570μL、分光光度計のセル(底面積1cm×1cm)に入れた。分光光度計の試料室を25℃に保ち、セルを試料室内で5分静置し、温調した。ここに、25℃に温調した基質溶液(1){基質(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド、Bachem AG社製、製品名:Suc−Ala−Ala−Pro−Phe−pNA)をバッファー1に溶解して5mg/mL(0.119mM)の濃度にしたもの}を400μL添加し、酵素反応溶液(II−1)とした。(II−1)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を測定した。
同様に、バッファー1に変えてバッファー2[50mM 酢酸Naバッファー(pH5.5、25℃)水溶液]、バッファー3[50mM 酢酸Naバッファー(pH6.5、25℃)水溶液]、バッファー4[50mM リン酸Naバッファー(pH6.5、25℃)水溶液]、バッファー5[50mM リン酸Naバッファー(pH7.5、25℃)水溶液]、バッファー6[50mM リン酸Naバッファー(pH8.5、25℃)水溶液]、バッファー7[50mM TAPS−NaOHバッファー(pH8.5、25℃)水溶液]及びバッファー8[50mM TAPS−NaOHバッファー(pH9.5、25℃)水溶液]を用いて豚トリプシン溶液(A2)〜(A8)及び基質溶液(2)〜(8)を作成した。
(A1)に変えて(A2)〜(A8)を、基質溶液(1)に変えて基質溶液(2)〜(8)用いる以外は同様にして、酵素反応溶液(II−2)〜(II−8)を作成し、(II−2)〜(II−8)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を測定した。
酵素反応溶液(II−1)〜(II−8)について、それぞれ(II−1)〜(II−8)を作成した直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλhとし、吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)を縦軸に、時間hを横軸にプロットし、直線の傾き係数kを求た。縦軸を係数k、横軸をpHとしてプロットし(図2)、係数kが極大値となるpHを求めたところ、最適pHはpH7.5であった。
なお、バッファーの種類を変える境目のpH(pH6.5及び8.5)において、両方のバッファーで活性を測定しておき、片方のバッファーで測定した値を基準として活性を補正した。pH6.5(バッファー3及び4)では、バッファー4を使用して求めた値をpH6.5での結果とし、バッファー1及び2を用いて求めた係数kにはバッファー3と4の比(バッファー4での係数k/バッファー3での係数k)をかけて補正した。同様に、pH8.5(バッファー6及び7)ではバッファー6での値をpH8.5の結果とし、バッファー8を用いて求めた係数kにはバッファー6と7の比(バッファー6での係数k/バッファー7での係数k)をかけて補正した。
【0068】
<豚トリプシンの活性の最適温度の測定>
豚トリプシン(和光純薬工業株式会社)100mgを390mLのバッファー5(pH7.5)に溶解させた豚トリプシン溶液(A5)(11.1μM)を1570μL、分光光度計のセル(底面積1cm×1cm)に入れた。分光光度計の試料室を20℃に保ち、セルを試料室内で5分静置した。
次に、セルに、20℃に温調した基質溶液(5)(0.119mM、pH7.5)を400μL添加し、酵素反応溶液(III−1)とした。(III−1)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を測定した。
分光光度計の試料室をそれぞれ30℃、40℃、50℃、60℃又は70℃に設定して温調し、基質溶液(5)も試料室と同じ温度で温調してからセルに添加する以外は同様にして、酵素反応溶液(III−2)〜(III−6)を作成した。(III−2)〜(III−6)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を測定した。
酵素反応溶液(III−1)〜(III−6)について、それぞれ(III−1)〜(III−6)を作成した直後の吸光度をAλ0、2分後の吸光度をAλhとし、吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)を縦軸に、時間hを横軸にプロットし、直線の傾き係数kを求た。縦軸を係数k、横軸を温度としてプロットし(図3)、係数kが極大値となる温度を求めたところ、最適温度は40℃であった。
【0069】
<豚トリプシンに対する基質のミカエリス定数Kmの測定>
豚トリプシン溶液(A5)を1570μL、分光光度計のセル(底面積1cm×1cm)に入れた。分光光度計の試料室を25℃に保ち、セルを試料室内で30分静置した。ここに、25℃に温調した基質溶液(5)(基質濃度:5mg/mL(0.119mM)、pH7.5)を400μL添加し、酵素反応溶液(I−1)とした。(I−1)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を測定した。
基質溶液(5)において、基質(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド)のバッファー5中のモル濃度を0.024mM(基質溶液(9)、1mg/mL)、0.237mM(基質溶液(10)、10mg/mL)、0.474mM(基質溶液(11)、20mg/mL)及び1.19mmM(基質溶液(12)、50mg/mL)とした溶液を作成した。基質溶液(5)に変えて基質溶液(9)〜(12)を用いる以外は同様にして酵素反応溶液(I−2)〜(I−5)を作成した。(I−2)〜(I−5)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を測定した。
(I−1)〜(I−5)を作成直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλhとし、それぞれ吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)と405nmにおけるモル吸光定数εを用いて下記数式(1)からそれぞれの酵素反応初速度v(M/s)を算出した。
v=ΔAλ/(ε×h×3600)(1)
算出した酵素反応初速度vを用いて、横軸(x軸)にそれぞれの基質濃度[S]、縦軸(y軸)にそれぞれの基質濃度での酵素反応初速度の逆数1/vをプロットし、Hanes−Woolfプロットを作成した(図1)。プロットの近似直線とx軸との交点(−Km)から、ミカエリス定数Kmは0.004mMであった。
【0070】
<大豆トリプシン阻害剤の豚トリプシンに対する阻害定数Kiの測定>
大豆トリプシン阻害剤(和光純薬工業株式会社)25mgを50mLのバッファー5(pH7.5)に溶解させ、大豆トリプシン阻害剤溶液(b1)(20μM)とした。(b1)をバッファー5で1/10、1/4、1/2および3/4倍のモル濃度に希釈したものを(b2)〜(b5)とした。
バッファー5を1530μL、分光光度計のセル(底面積1cm×1cm)に入れ、豚トリプシン溶液(A5)を40μL及び(b1)を40μL添加し、プロテアーゼ・プロテアーゼ活性阻害剤混合溶液(i−1)を作成した。
分光光度計の試料室を40℃に保ち、セルを試料室内で30分静置した。ここに、40℃に温調した基質溶液(13){基質(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド)をバッファー5に溶解して0.16mg/mL(0.004mM)の濃度にしたもの}を400μL添加し、酵素反応溶液(IV−1)を作成した。(IV−1)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を記録した。
(b1)に変えて(b2)〜(b5)及びバッファー5を用いる以外は同様にして、プロテアーゼ・プロテアーゼ活性阻害剤混合溶液(i−2)〜(i−6)を作成し、基質溶液(13)を用いて酵素反応溶液(IV−2)〜(IV−6)を作成し、同様に吸光度を記録した。
(IV−1)〜(IV−6)を作成直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλhとし、それぞれ吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)と405nmにおけるモル吸光定数εを用いて下記数式(1)からそれぞれの酵素反応初速度v(M/s)を算出した。
v=ΔAλ/(ε×h×3600)(1)
(IV−1)〜(IV−5)の酵素反応初速度vi、(IV−6)の酵素反応初速度をvoとし、大豆トリプシン阻害剤の各濃度での残存活性α(x=vi/vo)を算出した。
横軸に1/αを、縦軸に[大豆トリプシン阻害剤の各モル濃度]/(1−α)をプロットし、Hendersonプロットを作成した(図4)。このプロットに近似直線を描いたときの傾きKi(app)、測定時の基質濃度[S]、豚トリプシンに対する基質のミカエリス定数Kmを、下記数式(2)に当てはめることによりKiを算出した。Kiは1.4nMであった。
Ki=Ki(app)/(1+[S]/Km) (2)
【0071】
<アルカラーゼの活性の最適pHの測定>
アルカラーゼ(ノボザイムス社製)10μLをそれぞれバッファー1〜8(10mL)に希釈し、アルカラーゼ溶液(A9)〜(A16)(0.04μM)とした。また、基質(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド)をそれぞれバッファー1〜8に希釈(118mg/mL(2.8mM))して、基質溶液(14)〜(21)を作成した。
上記[豚トリプシンの活性の最適pHの測定]において、(A1)〜(A8)に変えて(A9)〜(A16)を用いて、基質溶液(1)〜(8)に変えて(14)〜(21)を用いる以外は同様にして測定したところ、アルカラーゼの活性の最適pHは8.5であった。
【0072】
<アルカラーゼの活性の最適温度の測定>
アルカラーゼ(ノボザイムス社製)10μLを10mLのバッファー6(pH8.5)に溶解させた(A14)(0.04μM)を使用した。
上記[豚トリプシンの活性の最適温度の測定]において、(A5)に変えて(A14)を用いて、基質溶液(5)に変えて基質溶液(19)(pH8.5)を用いる以外は同様にして測定したところ、アルカラーゼの活性の最適温度は50℃であった。
【0073】
<アルカラーゼに対する基質のミカエリス定数Kmの測定>
上記[豚トリプシンに対する基質のミカエリス定数Kmの測定]において、(A5)に変えて下記(A14)を用いて、バッファー5に変えてバッファー6を用いて、基質溶液(5)、(9)〜(12)に変えて、基質溶液(19)、(22)〜(24){バッファー6を用いて、それぞれ基質濃度:50mg/mL(1.19mM)、基質濃度:30mg/mL(0.714mM)、基質濃度:10mg/mL(0.238mM)としたもの}を用いて、分光光度計の試料室及びそれぞれの溶液の温度を50℃にする以外は同様にした。アルカラーゼの基質に対するミカエリス定数Kmは0.7mMであった。
【0074】
<フェニルボロン酸のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定>
カルボキシフェニルボロン酸(東京化成工業株式会社)25mgを50mLのバッファー6(pH8.5)に溶解させ、フェニルボロン酸溶液(b6)(4.1mM)とした。(b6)をバッファー6で1/10、1/4、1/2および3/4のモル濃度に希釈したものを(b7)〜(b10)とした。
基質(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド)をバッファー6に溶解して、基質溶液(25)(15mg/mL(0.35mM))を作成した。
上記[大豆トリプシン阻害剤の豚トリプシンに対する阻害定数Kiの測定]において、(A5)に変えて(A14)を、バッファー5に変えてバッファー6を用いて、(b1)〜(b5)に変えて(b6)〜(b10)を用いて、基質溶液(13)に変えて(25)を用いて、分光光度計の試料室及びそれぞれの溶液の温度を50℃にする以外は同様にした。フェニルボロン酸のアルカラーゼに対する阻害定数Kiは10μMであった。
【0075】
<コムギプロテアーゼ活性阻害剤(B1)のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定>
製造例1で得た(B1)の溶液(L1)(1μg/μL)1mLを50mLのバッファー6(pH8.5)に溶解させ、コムギプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b11)(0.8μM)とした。(b11)をバッファー6で1/50、1/30、1/20および1/10倍のモル濃度に希釈したものを(b12)〜(b15)とした。上記[フェニルボロン酸のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定]において、(b6)〜(b10)に変えて(b11)〜(b15)を使用して同様に測定し、コムギプロテアーゼ活性阻害剤(B1)のアルカラーゼに対する阻害定数Kiを求めたところ、Kiは1pMであった。
【0076】
<ストレプトマイセスプロテアーゼ活性阻害剤(B2)のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定>
製造例1で得た(B2)の溶液(L2)(1μg/μL)1mLを50mLのバッファー6(pH8.5)に溶解させ、ストレプトマイセスプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b16)(0.7μM)とした。(b16)をバッファー6で1/50、1/30、1/20および1/10倍のモル濃度に希釈したものを(b17)〜(b20)とした。上記[フェニルボロン酸のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定]において、(b6)〜(b10)に変えて(b16)〜(b20)を使用して同様に測定し、ストレプトマイセスプロテアーゼ活性阻害剤(B2)のアルカラーゼに対する阻害定数Kiを求めたところ、Kiは0.1pMであった。
【0077】
<ヒトプロテアーゼ活性阻害剤(B3)のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定>
製造例1で得た(B3)の溶液(L3)(1μg/μL)1mLを50mLのバッファー6(pH8.5)に溶解させ、コムギプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b21)(0.6μM)とした。(b21)をバッファー6で1/50、1/30、1/20および1/10倍のモル濃度に希釈したものを(b22)〜(b25)とした。上記[フェニルボロン酸のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定]において、(b6)〜(b10)に変えて(b21)〜(b25)を使用して同様に測定し、ヒトプロテアーゼ活性阻害剤(B3)のアルカラーゼに対する阻害定数Kiを求めたところ、Kiは20μMであった。
【0078】
<4−カルボキシフェニルボロン酸のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定>
4−カルボキシフェニルボロン酸(東京化成工業株式会社)25mgを50mLのバッファー6に溶解させ、4−カルボキシフェニルボロン酸溶液(b26)(121mM)とした。(b26)をバッファー6で1/10、1/4、1/2及び3/4のモル濃度に希釈したものを(b27)〜(b30)とした。
上記[フェニルボロン酸のアルカラーゼに対する阻害定数Kiの測定]において、(b6)〜(b10)に変えて(b26)〜(b30)を使用して同様に測定し、4−カルボキシフェニルボロン酸のアルカラーゼに対する阻害定数Kiを求めたところ、Kiは2.1mMであった。
【0079】
<サビナーゼ活性の最適pHの測定>
サビナーゼ(ノボザイムス社製)10μLをそれぞれバッファー1〜8及びバッファー9[50mM TAPS−NaOHバッファー(pH10.5、25℃)水溶液](10mL)に希釈し、サビナーゼ溶液(A17)〜(A25)とした。上記[豚トリプシンの活性の最適pHの測定]において、(A1)〜(A8)に変えて(A17)〜(A25)を用いて、基質溶液(1)〜(8)に変えて基質溶液(14)〜(21)及び(26){基質溶液(26)はバッファー9を用いて基質濃度:118mg/mL(2.8mM)としたもの}を用いる以外は同様にして測定したところ、サビナーゼの活性の最適pHは9.5であった。
【0080】
<サビナーゼ活性の最適温度の測定>
上記[豚トリプシンの活性の最適温度の測定]において、(A5)に変えて(A24)を用いて、基質溶液(5)に変えて基質溶液(21)(pH9.5)を用いる以外は同様にして測定したところ、サビナーゼの活性の最適温度は50℃であった。
【0081】
<サビナーゼの基質に対するKmの測定>
上記[豚トリプシンに対する基質のミカエリス定数Kmの測定]において、(A5)に変えて(A24)を用いて、バッファー5に変えてバッファー8を用いて、基質溶液(5)及び(9)〜(12)に変えて基質溶液(21)及び(27)〜(29){基質溶液(27)〜(29)はバッファー8を用いて、それぞれ基質濃度:50mg/mL(1.19mM)、基質濃度:30mg/mL(0.714mM)、基質濃度:10mg/mL(0.238mM)としたもの}を用いて、分光光度計の試料室及びそれぞれの溶液の温度を50℃にする以外は同様にしてサビナーゼの基質に対するKmを測定した。サビナーゼの基質に対するミカエリス定数Kmは0.7mMであった。
【0082】
<コムギプロテアーゼ活性阻害剤のサビナーゼに対する阻害定数Kiの測定>
製造例1で得た(B1)の溶液(L1)(1μg/μL)1mLを50mLのバッファー8(pH9.5)に溶解させ、コムギプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b31)(2.7μM)とした。(b31)をバッファー8で1/50、1/30、1/20および1/10倍のモル濃度に希釈したものを(b32)〜(b35)とした。上記[大豆トリプシン阻害剤の豚トリプシンに対する阻害定数Kiの測定]において、(A5)に変えて(A24)を、(b1)〜(b5)に変えて(b31)〜(b35)を、基質溶液(13)に変えて基質溶液(30){バッファー8を用いて、基質濃度:15mg/mL(0.35mM)としたもの}を使用し、分光光度計の試料室及びそれぞれの溶液の温度を50℃にする以外は同様にした。コムギプロテアーゼ活性阻害剤のサビナーゼに対する阻害定数を測定したところ、Kiは75pMであった。
【0083】
<カンナーゼ活性の最適pHの測定>
カンナーゼ(ノボザイムス社製)10μLをそれぞれバッファー1〜8(10mL)に希釈し、カンナーゼ溶液(A26)〜(A33)とした。上記[豚トリプシンの活性の最適pHの測定]において、(A1)〜(A8)に変えて(A26)〜(A33)を用いて、基質溶液(1)〜(8)に変えて(14)〜(21)を用いる以外は同様にして測定したところ、カンナーゼの活性の最適pHは8.5であった。
【0084】
<カンナーゼ活性の最適温度の測定>
上記[豚トリプシンの活性の最適温度の測定]において、(A5)に変えて(A31)を用いて、基質溶液(5)に変えて基質溶液(19)(pH8.5)を用いる以外は同様にして測定したところ、カンナーゼの活性の最適温度は40℃であった。
【0085】
<カンナーゼの基質に対するKmの測定>
上記[豚トリプシンに対する基質のミカエリス定数Kmの測定]において、(A5)に変えて(A31)を用いて、バッファー5に変えてバッファー6を用いて、基質溶液(5)、(9)〜(12)に変えて基質溶液(19)及び(22)〜(24)を用いて、分光光度計の試料室及びそれぞれの溶液の温度を40℃にする以外は同様にカンナーゼの基質に対するKmを測定した。カンナーゼの基質に対するミカエリス定数Kmは0.4mMであった。
【0086】
<コムギプロテアーゼ活性阻害剤のカンナーゼに対する阻害定数Kiの測定>
上記[大豆トリプシン阻害剤の豚トリプシンに対する阻害定数Kiの測定]において、(A5)に変えて(A31)を、(b1)〜(b5)に変えて(b11)〜(b15)を、基質溶液(13)に変えて基質溶液(25)を使用し、分光光度計の試料室及びそれぞれの溶液の温度を40℃にする以外は同様にして測定した。コムギプロテアーゼ活性阻害剤のカンナーゼに対する阻害定数Kiは123pMであった。
【0087】
<実施例1>
1530μLのバッファー5に、前述の豚トリプシン溶液(A5)(0.256g/L、11.1μM)40μLおよび前述の大豆トリプシン阻害剤溶液(b1)(0.5g/L、20μM)40μLを添加し、タンパク質溶液(X−1)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(X−1)のプロテアーゼ活性Xiを測定したところ1%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−1)を800μLと、バッファー5を800μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−1−1)を作成した(実施例1−1)。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−1−1)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ、プロテアーゼ活性は29%に回復していた。
また、(X−1)とバッファー5を、表1に記載の量(μL)で混合し、(Y−1−2)〜(Y−1−8)を作成し(実施例1−2〜1−8)、プロテアーゼ活性Yiを測定した。結果を表1にまとめた。
【0088】
<実施例2>
1530μLのバッファー6に、前述のアルカラーゼ溶液(A14)(0.1mg/L、0.04μM)40μLおよび前述のフェニルボロン酸溶液(b6)(0.5g/L、32.8mM)40μLを添加し、タンパク質溶液(X−2)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(X−2)のプロテアーゼ活性Xiを測定したところ1%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−2)を16μLと、バッファー6を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−2−1)を作成した(実施例2−1)。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−2−1)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ、プロテアーゼ活性は41%に回復していた。
また、(X−2)とバッファー6を、表1に記載の量で混合し、(Y−2−2)〜(Y−2−7)を作成し(実施例2−2〜2−7)、プロテアーゼ活性Yiを測定した。結果を表1にまとめた。
【0089】
<実施例3>
1530μLのバッファー6に、前述のアルカラーゼ溶液(A14)(0.1mg/L、0.04μM)40μLおよび前述のコムギプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b11)(0.02g/L、0.8μM)40μLを添加し、タンパク質溶液(X−3)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(X−3)のプロテアーゼ活性Xiを測定したところ0.01%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−3)を16μLと、バッファー6を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−3−1)を作成した(実施例3−1)。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−3−1)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ、プロテアーゼ活性は25%に回復していた。
また、(X−3)とバッファー6を、表1に記載の量で混合し、(Y−3−2)〜(Y−2−7)を作成し(実施例3−2〜3−7)、プロテアーゼ活性Yiを測定した。結果を表1にまとめた。
【0090】
<実施例4>
1530μLのバッファー8に、前述のサビナーゼ溶液(A24)(0.1mg/L、0.04μM)40μLおよび前述のコムギプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b11)(0.8μM)40μLを添加し、タンパク質溶液(X−4)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(X−4)のプロテアーゼ活性Xiを測定したところ1%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−4)を16μLと、バッファー8を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−4−1)を作成した(実施例4−1)。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−4−1)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ、プロテアーゼ活性は35%に回復していた。
また、(X−4)とバッファー8を、表1に記載の量で混合し、(Y−4−2)〜(Y−4−7)を作成し(実施例4−2〜4−7)、プロテアーゼ活性Yiを測定した。結果を表1にまとめた。
【0091】
<実施例5>
1530μLのバッファー6に、前述のカンナーゼ溶液(A31)(0.1mg/L、0.04μM)40μLおよび前述のコムギプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b11)(0.8μM)40μLを添加し、タンパク質溶液(X−5)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(X−5)のプロテアーゼ活性Xiを測定したところ3%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−5)を16μLと、バッファー6を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−5−1)を作成した(実施例5−1)。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−5−1)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ、プロテアーゼ活性は31%に回復していた。
また、(X−5)とバッファー7を、表1に記載の量で混合し、(Y−5−2)〜(Y−5−7)を作成し(実施例5−2〜5−7)、プロテアーゼ活性Yiを測定した。結果を表1にまとめた。
【0092】
<実施例6>
1330μLのバッファー6に、前述のカンナーゼ溶液(A31)(0.1mg/L、0.04μM)100μLおよび前述のコムギプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b11)(0.8μM)100μLを添加し、タンパク質溶液(X−6)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(X−6)のプロテアーゼ活性Xiを測定したところ1%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−6)を16μLと、バッファー7を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−6−1)を作成した(実施例5−1)。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−6−1)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ、プロテアーゼ活性は25%に回復していた。
また、(X−6)とバッファー6を、表1に記載の量で混合し、(Y−6−2)〜(Y−6−7)を作成し(実施例6−2〜6−7)、プロテアーゼ活性Yiを測定した。結果を表1にまとめた。
【0093】
<実施例7>
1330μLのバッファー6に、前述のカンナーゼ溶液(A31)(0.1mg/L、0.04μM)100μLおよび前述のコムギプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b14)(0.04μM)100μLを添加し、タンパク質溶液(X−7)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(X−7)のプロテアーゼ活性Xiを測定したところ19%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−7)を16μLと、バッファー7を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−7−1)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−6−1)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ、プロテアーゼ活性は55%に回復していた。
また、(X−7)とバッファー6を、表1に記載の量で混合し、(Y−7−2)〜(Y−7−7)を作成し(実施例7−2〜7−7)、プロテアーゼ活性Yiを測定した。結果を表1にまとめた。
【0094】
<比較例1>
前述のアルカラーゼ溶液(A14)(0.1mg/L、0.04μM)40μLに4−カルボキシフェニルボロン酸溶液(b36){4−カルボキシフェニルボロン酸1mgを2mLのバッファー6に溶解させたもの(4−カルボキシフェニルボロン酸の濃度:0.5g/L、121mM)}1530μLを添加し、タンパク質溶液(X−8)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(X−8)のプロテアーゼ活性Xiを測定したところ40%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−8)を16μLと、バッファー6を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−8)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−8)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ98%であった。
【0095】
<比較例2>
1530μLのバッファー6に、前述のアルカラーゼ溶液(A14)(0.1mg/L、0.04μM)40μLおよび前述のストレプトマイセスプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b16)(0.7μM)40μLを添加し、タンパク質溶液(X−9)を作成した。プロテアーゼ活性は0%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−9)を1μLと、バッファー6を1,000,000μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−8)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−9)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ7%であった。
【0096】
<比較例3>
前述のアルカラーゼ溶液(A14)(0.1mg/L、0.04μM)40μLに、前述のヒトプロテアーゼ活性阻害剤溶液(b37){溶液(L3)785μLを785μLのバッファー6に溶解させたもの(ヒトプロテアーゼ(B3)の濃度:0.5g/L、15μM)}1570μLを添加し、タンパク質溶液(X−10)を作成した。プロテアーゼ活性は21%であった。
作成して30分以上2時間以内のタンパク質溶液(X−10)を16μLと、バッファー6を159,984μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(Y−10)を作成した。下記吸光度を利用した活性測定法により、(Y−10)のプロテアーゼ活性Yiを測定したところ96%であった。
【0097】
【表1】

【0098】
<吸光度を利用した活性測定法>
○タンパク質溶液(X−1)の場合
タンパク質溶液(X−1)1570μLを分光光度計のセル(底面積1cm×1cm)に入れ、分光光度計の試料室を25℃に保ち、セルを試料室内で30分静置した。ここに、25℃に温調した基質溶液(31){基質(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド)をバッファー5に溶解して1.3mg/mL(0.029mM)の濃度にしたもの}を400μL添加し、酵素反応溶液(V−1)を作成した。(V−1)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を記録した。
(V−1)を作成した直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλhとし、吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)を縦軸に、時間hを横軸にプロットし、直線の傾き係数kXを求た。
○タンパク質溶液(S−1)を用いた吸光度の測定
1570μLのバッファー6に、豚トリプシン溶液(A6)(11.1μM)40μLを添加し、タンパク質溶液(S−1)を作成した。これを全量、分光光度計のセル(底面積1cm×1cm)に入れ、分光光度計の試料室を25℃に保ち、セルを試料室内で30分静置した。ここに、25℃に温調した基質溶液(27)(0.029mM)を400μL添加し、酵素反応溶液(V−2)を作成した。(V−2)を作成直後及び5秒おきに2分間の405nmにおける吸光度を記録した。
(V−2)を作成した直後の吸光度をAλ0、h時間後の吸光度をAλhとし、吸光度の変化ΔAλ(ΔAλ=Aλh−Aλ0)を縦軸に、時間hを横軸にプロットし、直線の傾き係数kSを求た。
○タンパク質溶液(X−1)のプロテアーゼ活性Xiの算出
係数kX及び係数kSを用いて、下記数式(3)からタンパク質溶液(X−1)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
プロテアーゼ活性Xi(%)={kX/kS}×100 (3)
【0099】
○タンパク質溶液(X−2)の場合
基質溶液(32){基質(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド)をバッファー6に溶解して119mg/mL(2.8mM)の濃度にしたもの}を作成した。
1570μLのバッファー6に、前述のアルカラーゼ溶液(A14)40μLを添加し、タンパク質溶液(S−2)を作成した。
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−2)を使用し、基質溶液(31)に変えて(32)を使用し、(S−1)に変えて(S−2)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−2)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0100】
○タンパク質溶液(X−3)の場合
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−3)を使用し、基質溶液(31)に変えて(32)を使用し、(S−1)に変えて(S−2)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−3)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0101】
○タンパク質溶液(X−4)の場合
基質溶液(33){(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド)をバッファー8に溶解して60mg/mL(1.4mM)の濃度にしたもの}を作成した。
1570μLのバッファー8に、前述のサビナーゼ溶液(A24)40μLを添加し、タンパク質溶液(S−4)を作成した。
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−4)を使用し、基質溶液(31)に変えて(33)を使用し、(S−1)に変えて(S−4)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−4)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0102】
○タンパク質溶液(X−5)の場合
基質溶液(34){(サクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリド)をバッファー6に溶解して60mg/mL(1.4mM)の濃度にしたもの}を作成した。
1570μLのバッファー6に、前述のカンナーゼ溶液(A31)40μLを添加し、タンパク質溶液(S−5)を作成した。
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−5)を使用し、基質溶液(31)に変えて(34)を使用し、(S−1)に変えて(S−5)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−5)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0103】
○タンパク質溶液(X−6)の場合
1430μLのバッファー6に、前述のカンナーゼ溶液(A31)100μLを添加し、タンパク質溶液(S−6)を作成した。
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−6)を使用し、基質溶液(31)に変えて(34)を使用し、(S−1)に変えて(S−6)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−6)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0104】
○タンパク質溶液(X−7)の場合
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−7)を使用し、基質溶液(31)に変えて(34)を使用し、(S−1)に変えて(S−6)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−7)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0105】
○タンパク質溶液(X−8)の場合
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−8)を使用し、基質溶液(31)に変えて(32)を使用し、(S−1)に変えて(S−2)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−8)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0106】
○タンパク質溶液(X−9)の場合
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−9)を使用し、基質溶液(31)に変えて(32)を使用し、(S−1)に変えて(S−2)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−9)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0107】
○タンパク質溶液(X−10)の場合
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(X−10)を使用し、基質溶液(31)に変えて(32)を使用し、(S−1)に変えて(S−2)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(X−10)のプロテアーゼ活性Xiを求めた。
【0108】
○タンパク質溶液(Y−1)の場合
タンパク質溶液(S−1)を16μLと、バッファー5を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(T−1−1)を作成した。
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(Y−1−1)を使用し、(S−1)に変えて(T−1−1)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(Y−1−1)のプロテアーゼ活性Yiを求めた。
表1に記載の(X)の量と同量の(S−1)及び溶剤を混合し、(T−1−2)〜(T−1−8)を作成し、(Y−1−2)〜(Y−1−8)について同様にプロテアーゼ活性Yiを求めた。
【0109】
○タンパク質溶液(Y−2)の場合
タンパク質溶液(S−2)を16μLと、バッファー6を1584μL、分光光度計のセル中で混合し、タンパク質溶液(T−2−1)を作成した。
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えて(Y−2−1)を使用し、(S−1)に変えて(T−2−1)を使用し、基質溶液(31)に変えて基質溶液(32)を使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(Y−2−1)のプロテアーゼ活性Yiを求めた。
表1に記載の(X)の量と同量の(S−2)及び溶剤を混合し、(T−2−2)〜(T−2−7)を作成し、(Y−2−2)〜(Y−2−7)について同様にプロテアーゼ活性Yiを求めた。
【0110】
○タンパク質溶液(Y−3)〜(Y−10)の場合
上記[吸光度を利用した活性測定法]において、タンパク質溶液(X−1)に変えてタンパク質溶液(Y−3)〜(Y−10)をそれぞれ使用し、(S−1)に変えて(T−3)〜(T−10)をそれぞれ作成して使用し、基質溶液(31)に変えて基質溶液(32)〜(35)をそれぞれ使用する以外は同様にして、タンパク質溶液(Y−3)〜(Y−10)のプロテアーゼ活性Yiを求めた。
【0111】
<実施例8〜14及び比較例4〜6>
<30℃、3ヶ月保存後のタンパク質溶液のプロテアーゼ活性>
30℃で3ヶ月保存した後のタンパク質溶液(X−1)〜(X−10)を用いて表2に記載の通りタンパク質溶液(Y’−1−1)〜(Y’−10)を作成し、実施例1〜7及び比較例1〜3と同様にして[吸光度を利用した活性測定法]によりプロテアーゼ活性Yiを求めた。結果を表2に示す。
【0112】
<プロテアーゼ活性の持続性>
タンパク質溶液(Y−1−1)〜(Y−9)及びタンパク質溶液(Y’−1−1)〜(Y’−9)のプロテアーゼ活性Yiを下記式に当てはめることにより、プロテアーゼ活性の持続性を算出した。
プロテアーゼ活性の持続性(%)={タンパク質溶液(Y−1−1)〜(Y−9)のプロテアーゼ活性Yi}/{タンパク質溶液(Y’−1−1)〜(Y’−9)のプロテアーゼ活性Yi}
【0113】
【表2】

【0114】
プロテアーゼ(A)に対する阻害定数Kiが2.1mM又は20μMのプロテアーゼ活性阻害剤(B)を含む比較例1及び比較例3のタンパク質溶液(X−8)及び(X−10)は、実施例1〜7のタンパク質溶液よりも大量の(B)を含んでいるものの、活性Xiは21%以上と高く、プロテアーゼ活性を十分に抑制できないことが分かる。また、表2の結果から、30℃で3ヶ月保存後のタンパク質溶液(X−8)及び(X−10)に溶剤を添加したタンパク質溶液(Y)の活性Yiは3〜5%と低く、プロテアーゼ活性の持続性も3〜5%と低かった。
また、プロテアーゼ(A)に対する阻害定数Kiが0.1pMの比較例2のプロテアーゼ活性阻害剤(B)を含むタンパク質溶液(X−9)の活性Xiは0%と低く、プロテアーゼ活性は抑制できていた。しかしながら、表1の結果から、このタンパク質溶液(X−9)に大量に溶剤を添加したタンパク質溶液(Y)の活性Yiは7%と低く、プロテアーゼの活性を効率よく回復できないことが分かる。
一方、それぞれのプロテアーゼ(A)に対する阻害定数Kiが1pM〜10μMであるプロテアーゼ活性阻害剤(B)を含む実施例1〜7のタンパク質溶液(X−1)〜(X−7)の活性Xiは3以下と低く、プロテアーゼ活性を十分抑制できていた。また、表1の結果から、このタンパク質溶液(X−1)〜(X−7)に溶剤を添加したタンパク質溶液(Y)の活性Yiは25〜97%と高く、プロテアーゼの活性を大量に希釈することなく効率よく回復できていることが分かる。さらに、表2の結果から、30℃で3ヶ月保存後のタンパク質溶液(X−1)〜(X−7)に溶剤を添加したタンパク質溶液(Y)の活性Yiも高く、プロテアーゼ活性の持続性が46〜100%と非常に高かった。
以上のことから、本発明のプロテアーゼ活性回復方法は、タンパク質溶液のプロテアーゼ活性を大量に希釈することなく、効率よく回復できることが分かる。また、タンパク質溶液を長期保存した場合も同様に、プロテアーゼ活性を大量に希釈することなく効率よく回復できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明のプロテアーゼ活性回復方法は、保存溶液中でプロテアーゼ活性を抑え、適度な希釈時にプロテアーゼ活性を回復するので、プロテアーゼと他のタンパク質の混合溶液の保存、例えば液体洗浄剤、繊維改質剤及び化粧品などに使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテアーゼ(A)、下記プロテアーゼ活性阻害剤(B)及び溶剤(C)を含有するタンパク質溶液(X)のプロテアーゼ活性回復方法であって、
吸光度を利用した活性測定法による(X)のプロテアーゼ活性Xiが、下記タンパク質溶液(S)の活性を基準として20%以下であり、
(X)に、(X)の重量を基準として100〜1000000重量%の(C)をさらに添加するタンパク質溶液(X)のプロテアーゼ活性回復方法。
プロテアーゼ活性阻害剤(B):基質(D)としてベンジルオキシカルボニルフェニルアラニンニトロアニリド、ベンゾイルアルギニンニトロアニリド、フリルアクリロイルグリシルロイシンアミド又はサクシニルアラニルアラニルプロリルフェニルアラニンニトロアニリドのうちいずれか1つを用いて、プロテアーゼ(A)の活性の最適温度、最適pH及び最適基質濃度の条件下でHendersonプロットにより求めた(A)に対する阻害定数Kiが1pM〜10μMであるプロテアーゼ活性阻害剤。
タンパク質溶液(S):タンパク質溶液(X)において、(B)を(B)と同重量の(C)で置きかえたタンパク質溶液。
【請求項2】
タンパク質溶液(X)中のプロテアーゼ(A)、プロテアーゼ活性阻害剤(B)及び溶剤(C)の重量が、(A)、(B)及び(C)の合計重量を基準として、(A)が0.0000000001〜5重量%、(B)が0.000000001〜20重量%、(C)が75〜99.9999999989重量%である請求項1に記載のプロテアーゼ活性回復方法。
【請求項3】
タンパク質溶液(X)中のプロテアーゼ活性阻害剤(B)とプロテアーゼ(A)とのモル比((B)のモル数/(A)のモル数)が0.8〜10である請求項1又は2に記載のプロテアーゼ活性回復方法。
【請求項4】
プロテアーゼ(A)がセリンプロテアーゼである請求項1〜3のいずれかに記載のプロテアーゼ活性回復方法。
【請求項5】
プロテアーゼ(A)がスブチリシンである請求項1〜4のいずれかに記載のプロテアーゼ活性回復方法。
【請求項6】
プロテアーゼ活性阻害剤(B)が、天然物から抽出された又は宿主細胞に遺伝子を組み込むことで発現されたタンパク質であって、50個を超えるアミノ酸からなるタンパク質であるタンパク質性プロテアーゼ活性阻害剤(B−1)である請求項1〜5のいずれかに記載のプロテアーゼ活性回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−175972(P2012−175972A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−17434(P2012−17434)
【出願日】平成24年1月31日(2012.1.31)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】