説明

プロテアーゼ阻害物質の遮断又は検出による癌治療及び癌治療効能予測の改善

ここで開示されているのは、悪性細胞の中でのアポトーシスの誘発に依存する癌療法の改善方法である。プロテアーゼ阻害物質PAI−1及びTIMP−1のドッキングが、これらの阻害物質を発現する悪性細胞をアポトーシスに対しより感受性の高いものにし、一方非悪性細胞はアポトーシス誘発に対するその感受性を変えない、ということが発見されてきた。従ってさまざまな抗癌治療の効果を合理的な形で増大させ、1つのアポトーシス誘発性癌治療が1人の患者において有効か否かを予測することが可能である。該発明は同様に、プロテアーゼ阻害物質のアポトーシス感受性変調効果を阻害する作用物質を同定する方法、及びプロテアーゼ阻害物質によって変調され得るアポトーシス誘発機序によって左右されない抗癌化合物を同定する方法をも提供している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌療法の分野に関する。特に本発明は、さまざまなタイプの抗癌剤及び抗癌治療に対する悪性細胞の感受性を増大させるものの非悪性細胞の感受性は増大させないための方法に関する。特に、本発明は、癌患者の療法の改善及び癌療法の効能の予測における改善に関する。
【背景技術】
【0002】
アポトーシス
アポトーシス、すなわちプログラミングされた細胞死は、多細胞生体が組織ホメオスタシスを維持し、動物の存続を脅かす細胞を除去することができるようにする細胞自殺機序である。アポトーシスの調節不全は、過剰の細胞死が顕著である神経変性疾患及びアポトーシスが阻害されている癌といったようなさまざまな疾病において観察される。
【0003】
アポトーシスは、細胞表面死受容体(Fas、TRAIL−R1/R2、TNF−R1等)の活性化、抗癌剤、照射、生存因子の欠如、及び虚血を含むさまざまな刺激によってひき起こされる可能性がある。さまざまな刺激によって誘発される初期シグナル伝達経路はきわめて異なるものであり得るにせよ、それらの大部分によって誘発されるシグナル伝達カスケードは最終的に、カスパーゼとして知られているシステインプロテアーゼファミリーの活性化により特徴づけされる一般的なアポトーシス経路へと収束する。アポトーシスは、「外因性細胞死経路」及び「内因性細胞死経路」という2つのカスパーゼ活性化経路によって誘発され得る。これら2つの経路の刺激は、イニシエーターカスパーゼの活性化を誘発し、これがその後エフェクターカスパーゼを活性化する。ひとたび活性化されたならば、エフェクターカスパーゼは細胞内のタンパク質の小サブセットを分割し、アポトーシスの物理的特性の大部分を証明するのはこれらの分割事象の累積的効果である。
【0004】
アポトーシスを仲介するシグナル伝達経路は、1つの細胞が今後生存するか死滅するかを決定する正及び負のシグナルにより密接に制御されている。B細胞−2ファミリーの抗アポトーシス成員は、さまざまな刺激により誘発されるアポトーシスの調節において主要な役割を果たし、アポトーシスタンパク質の阻害物質(IAP)及び熱ショックタンパク質(Hsp)ファミリーの成員は、アポトーシス機構の主要構成要素と干渉することにより負のアポトーシスシグナル伝達を提供する。カスパーゼがアポトーシスにおける主たる死滅化因子とみなされているものの、その他のプロテアーゼも、細胞死において重要な役割を果たすことが示唆されてきている。カテプシン、カルパイン及びセリンプロテアーゼといったような数多くの非カスパーゼプロテアーゼがアポトーシスシグナル伝達経路内でカスパーゼと協力して作用し得るということを、いくつかの一連の証拠が示唆している。
【0005】
1型プラスミノゲン活性化因子阻害物質
1型プラスミノゲン活性化因子阻害物質、PAI−1は、他の2つのPAIタンパク質PAI−2及びPAI−3を含むさまざまなセリンプロテアーゼの阻害物質を内含するセルピン(セリンプロテアーゼ阻害物質)スーパファミリーに属する。PAI−1遺伝子は、細胞から分泌される最高50kDaのグリコシル化されたタンパク質についてコードする。PAI−1は、創傷治癒、炎症、血管血栓溶解、腫瘍浸潤及び血管形成を含めたさまざまな生理学的及び病理学的プロセスに関与するタンパク質分解カスケードであるプラスミノゲン活性化系の主要な阻害物質である。PAI−1は2つのタイプのプラスミノゲン活性化因子つまり組織型プラスミノゲン活性化因子(t−PA)及びウロキナーゼ型プラスミノゲン活性化因子(u−PA)を阻害する。両方の活性化因子は共に、癌の蔓延に関与する機序である、大部分の細胞外タンパク質を分解し得る活性プロテアーゼプラスミンへの不活性チモーゲンプラスミノゲンの転換の触媒として作用する能力をもつ。
【0006】
プラスミノゲン活性化系の阻害物質であることから、高いPAI−1レベルが腫瘍の進行を阻害するものと予想される。しかしながら、腫瘍内の高いPAI−1レベルは、乳房、卵巣、胃及び腎臓の癌腫を含めた数多くの腫瘍における予後の悪さと相関関係を有している。この見かけ上の矛盾に対する1つの説明は、PAI−1が催血管形成効果を有するということにある。しかしながら、PAI−1の予後に対する影響は単に血管形成に対するその関与にのみ基づくものではないということが示唆されてきた。もう1つの説明は、高いPAI−1レベルが、腫瘍細胞のアポトーシスを阻害することによって腫瘍の成長に寄与するということにある。この仮定の裏づけとして、培養中の腫瘍細胞に対する組換え型PAI−1の添加がアポトーシスを阻害することが示されてきた(Kwaan et al, Br J Cancer, 2000年5月;82(10):1702−8)。さらに、PAI−1のアポトーシス阻害機能は、PAI−1中和抗体との同時インキュベーションによって遮断することができた。
【0007】
PAI−1は同様に、抗エストロゲン治療に対する耐性の予測マーカーとしても提案されてきた。転移性乳癌及び高い腫瘍組織PAI−1含有量をもつ乳癌患者は、低い腫瘍組織PAI−1含有量を有する患者に比べてタモキシフェン治療に対するより高い耐性を有するように思われた。この観察事実と対する矛盾は、腫瘍組織PAI−1含有量と原発性乳癌のアジュバント化学療法治療の効果の間の関係を分析したHarbeckによる報告(Harbeck et al. 2002, Cancer Res 62, 4617-4622)である。彼らは、高い腫瘍組織PAI−1含有量を有する患者が、アシュバント化学療法の利益を受ける確率がより高いものであるという結論を下した。
【0008】
何年にもわたり、PAI−1のさまざまな機能が集中的に研究されてきたが、PAI−1がどのようにアポトーシスを調節するかについてはほとんど知られていない。
【0009】
メタロプロテアーゼ−1の組織阻害物質(TIMP−1)
TIMP−1は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)の4つの内因性阻害物質のファミリーのうちの1つである。TIMP−1は、1:1の化学量論比で大部分のMMPを結合する25kDaのタンパク質である。TIMP−1はさまざまなタンパク質及び体液中に存在し、血小板のα−顆粒の中に貯蔵され、活性化時点で放出される。TIMP−1の主要な機能はMMPの阻害にあると想定されているが、例えばアポトーシスの阻害及び細胞成長及び血管形成の調節といったようなTIMP−1のいくつかの代替的機能も記述されてきている。さらに、一部の研究は、TIMP−1が同様に、悪性表現型を導く早期プロセスにおいても1つの役割を果たし得るということを示唆してきた。
【0010】
我々は、血漿TIMP−1の測定が、早期結腸直腸癌の検出における高い特異性及び高い感受性を与えるということを記述してきた(Holten-Anderson et al)。さらに、我々は術前又は術後試料中の血漿TIMP−1の測定が、結腸直腸癌患者における強力かつ病期とは無関係の予後診断情報を生み出すということを示してきた(Holten-Anderson et al 2000年;Holten-Anderson et al., 2005年)。原発性乳癌組織中のTIMP−1タンパク質を測定することにより、我々及びその他の研究者は、高い腫瘍組織総TIMP−1レベルがより短い患者生存率と結びつけられることを示してきた(Schrohl et al., 2003年、2004年;Duffy et al)。
【0011】
アポトーシスの調節におけるTIMP−1の役割が報告されてきており、これが起こるために考えられる2つの方法が示唆されてきた。これらの両方が、TIMP−1がアポトーシスを阻害するという考えを支持している。
【0012】
第1に、細胞外マトリックスのタンパク質分解による分解は、インビトロ及びインビボの両方での乳房上皮細胞における分化の喪失及びアポトーシスを導く。このことはすなわち、細胞外マトリックスの無欠性及び細胞マトリックス相互作用の保護が乳房上皮細胞の生存を確保する上でのきわめて重大な要因であることを表わしている。MMPの阻害を通して、TIMP−1は、細胞外マトリックスの分解を阻害しかくして場合によってはアポトーシスを阻害する能力をもつ。TIMP−1トランスジェニックマウスと、乳腺中でMMP−3を過剰発現したマウスを交配することにより、Alexander及び共同研究者らは、MMP−3により誘発された乳房上皮細胞のアポトーシスがTIMP−1によって削減されたということを観察してTIMP−1のこのようなアポトーシス阻害効果を実証した。基底膜の単なる崩壊が、タンパク質分解活性により誘発されるアポトーシスの原因となり得るが、インテグリンを仲介とするシグナル伝達が一つの役割を果たしているということも又推測されてきた。
【0013】
第2に、MMP阻害とは無関係に発生するTIMP−1のアポトーシス阻害効果も同様に実証されてきた。ヒト乳房上皮細胞の中では、細胞粘着の廃止によって誘発されるアポトーシスを阻害する内因性TIMP−1の能力が実証されてきた。このことは、TIMP−1が細胞外マトリックス及び細胞−マトリックスの相互作用を安定化させることなくアポトーシスから細胞を救出する能力をもつことを表わしている。アポトーシスを阻害する上でのMMP−阻害の独立性は、全てのMMP阻害効果を喪失した還元及びアルキル化されたTIMP−1が、なおも有効にバーキットリンパ腫株化細胞におけるアポトーシスを阻害するという事実によって裏づけられる。このアポトーシス阻害効果についての機序は今のところわかっていないが、TIMP−1により調節される可能性のあるシグナル伝達経路に関しては異なる示唆が行なわれてきた。ヒト乳房上皮細胞内のTIMP−1の過剰発現は、通常シグナル伝達細胞の生存に関与するキナーゼである焦点粘着キナーゼ(FAK)のより効率の良い活性化及び構成性活性と結びつけられる。同様に、バーキットリンパ腫細胞内のTIMP−1タンパク質発現のアップレギュレーションが、抗アポトーシスタンパク質B細胞−XLの発現を増大した。バーキットリンパ腫細胞内のTIMP−1の抗アポトーシス効果はモノクローナル抗体による分泌されたTIMP−1の中和により廃絶されたことから、細胞シグナル伝達の変調は細胞表現受容体とTIMP−1の相互作用を介して媒介されるということが推測された。この見解はさらに、悪性乳房上皮細胞の表面に対するTIMP−1の結合を実証する研究によってさらに裏づけされる。
【0014】
従って、TIMP−1は、2つの異なる機序を介してアポトーシスを阻害する能力を有すると思われる。MMPの阻害を通して、TIMP−1は、細胞外マトリックス及び細胞−マトリックス相互作用を安定化し、かくして細胞外マトリックスの崩壊によって誘発されるアポトーシスを阻害する。しかしながら、TIMP−1は同様に、細胞外マトリックスのタンパク質分解による分解を阻害するその能力に依存しない1つの機序を介してアポトーシスを阻害する。この後者の機序は、アポトーシスに関与する細胞内シグナル伝達経路を調節する細胞表面上の受容体とTIMP−1の相互作用により媒介され得る。
【発明の開示】
【0015】
発明の要約
現在使用されている数多くのタイプの抗癌薬ならびに放射線療法が、プログラミングされた細胞死すなわちアポトーシスを誘発することによって客観的な腫瘍応答を誘発することは周知である。近年、天然に発生するプロテアーゼ阻害物質の高い腫瘍組織レベル又は高い血漿/血清レベルが、悪性脳腫瘍、悪性黒色腫、肉腫、頭頸部癌、胃、膵臓、結腸及び直腸癌といった消化器癌、カルチノイド、肺癌、乳癌、卵巣、子宮頸及び子宮体癌といった婦人科癌、及び前立腺、腎臓及び膀胱癌といった泌尿器癌を患う患者といったような癌患者の短い生存率と結びつけられるということが明確になってきた。
【0016】
腫瘍組織又は血液中の高いPAI−1レベル及び/又は高いTIMP−1レベルが、乳癌、結腸直腸癌及び肺腺癌における悪い予後と相関関係をもつという事実は、これらの分子が腫瘍成長、浸潤及び/又は転移を促進するか又は抗新生物治療に対する耐性を付与するということを示唆している。上述の通り、uPA系による分解に対して腫瘍組織を防御すること、癌細胞移動に参与すること、腫瘍血管形成に参与すること、成長因子の活性化/不活性化に干渉すること又はアポトーシスを阻害することといったように、PAI−1及びTIMP−1がこのような促進の役割を果たし得るようにする複数の機序が存在する。その他の細胞外タンパク質分解酵素及びその他の非タンパク質分解マトリックス分解酵素の一部の阻害物質が、腫瘍の成長、浸潤及び/又は転移を促進する上で類似の役割を果たす確率は高い。
【0017】
高いPAI−1レベルがアポトーシスの負の調節により腫瘍の成長に寄与するというのが、当該発明人らによる発見事実である。従って、PAI−1含有量の高い腫瘍は、アポトーシス誘発性の化学療法薬に対する感受性が比較的低くなる。一方、PAI−1の阻害は、PAI−1を過剰発現しない正常な細胞に影響を及ぼすことなく、その後のアポトーシス誘発性化学療法薬に対して癌細胞を感作させる。
【0018】
PAI−1がアポトーシス調節機能を有するという仮説を試験するため、我々は、PAI−1遺伝子欠損及び野生型マウス由来の線維肉腫株化細胞(線維芽細胞が3〜4回のインビトロ継代の後自然悪性形質転換を受ける初回肺線維芽細胞培養)を確立した。クローン原性検定を用いて、我々は、その全てがアポトーシスを誘発するものとして知られているさまざまな化学療法薬(エトポシド、ビンクリスチン、ドキソルビシン、シスプラチン及びARA−C)を試験した。PAI−1−/−線維肉腫細胞は野生型線維肉腫細胞よりもこれらの薬物での治療に対し著しく高い感受性を示した。我々は同様に、クローン原性潜在能の差異がPAI−1−/−線維肉腫細胞中の薬物の細胞毒性の増加に起因するものであるか否かを試験した。実際、PAI−1−/−線維肉腫細胞はエトポシドでの治療に対しPAI−1+/+線維肉腫細胞よりも著しく高い感受性を示した。興味深いことに、アポトーシスがTNFα治療によるデス受容体シグナル伝達経路を介して誘発された場合に、類似の結果が得られた。さらにこれらの結果は、新たに確立されたPAI−1−/−及びPAI+/+線維肉腫株化細胞対においても反復された。最近の実験において、我々はPAI−1発現を仲介する構成体でPAI−1−/−線維肉腫細胞を安定した形でトランスフェクトし、これらの細胞が実際にPAI−1タンパク質を発現することを示した。細胞をエトポシドに曝露することにより、我々はそれらがプラスミド単独でのトランスフェクションを受けた細胞に比べて薬物に対する耐性が増大していたことを示すことができた。全体としてこれらの結果は、PAI−1がアポトーシスに対する防御を行なうことを示唆している。しかしながら我々は、PAI−1遺伝子欠損及び野生型のマウスが、体重及び白血球数で測定される全身的エトポシド治療に対する同等の感受性を示し、かくしてPAI−1によるアポトーシス阻害に対する癌細胞と正常な細胞の間の感受性の差異を示唆している、ということをも実証した。この感受性の差はPAI−1を化学療法薬と組合せた魅力的な標的にしている、すなわちPAI−1阻害物質での予備治療は、正常な組織内に付加的な毒性を生じることなく癌細胞の細胞毒性を増大させることになる。
【0019】
同様に、我々は又TIMP−1+/+及びTIMP−1−/−マウスからの線維肉腫株化細胞の3つのセットを確立し、TIMP−1を含まない線維肉腫株化細胞が例えばエトポシドといったアポトーシス誘発性細胞毒性治療に対し有意な形でより高い感受性を示すということを示した。DNA−ヒストン複合体検定を実施することにより、我々はエトポシドがアポトーシスを誘発することを立証することができた。
【0020】
我々は、転移性疾患及びPAI−1及び/又はTIMP−1の高い腫瘍含有量を有する乳癌患者(n=174)が化学療法薬(CMF又はCEF)に対する耐性を有することを示してきたことから、近年我々の仮説に対する臨床的裏づけを得た。
【0021】
乳癌組織からのパラフィンブロック上で免疫組織化学を実施することにより、我々は、抗−TIMP−1モノクローナル抗体を用いて、およそ20%のケースにおいて、TIMP−1免疫反応性が腫瘍細胞に限定され、一方残りのケースではTIMP−1免疫反応性が腫瘍組織内の間質細胞に局在化されているということを示した。PAI−1についても類似の結果が公表された(Bianchi et al.)。かくして、化学療法に対する耐性を示す高腫瘍組織TIMP−1又はPAI−1のケースが、癌細胞の中でTIMP−1及び/又はPAI−1免疫反応性をもつケースであるということは、もっともらしいことであると思われる。この発見事実がもつ意味は、保存パラフィンブロック上でTIMP−1及び/又はPAI−1免疫組織化学反応を実施することを、化学療法に対する耐性を予測するために使用できたということにある。
【0022】
かくして、該発明は、PAI−1、TIMP−1及び/又はその他のプロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス機能を阻害し、かくしてPAI−1及び/又はTIMP−1の高い腫瘍組織レベル、高い血液レベル、高い尿レベル又は高い唾液レベル、及び/又は癌細胞中のTIMP−1及びPAI−1についての免疫反応性をもつことが立証されてきた患者におけて化学療法、内分泌療法又は照射といったようなアポトーシス誘発性抗癌治療に対する癌細胞の感受性をより高くする方法であって、抗新生物治療に対する正常な細胞の感受性を増大させることなく悪性腫瘍組織又は潜在的な悪性腫瘍組織内の非タンパク質分解性のマトリックス分解酵素又はプロテアーゼの阻害物質の抗アポトーシス機能を抑制する段階を含む方法に関する。前記抗新生物治療には、正常な細胞と悪性細胞の間にPAI−1及びTIMP−1阻害の差別化された効果が存在し、従って、PAI−1及び/又はTIMP−1の全身的阻害が後続するアポトーシス誘発治療に対して悪性細胞のみを感作させることが必要である。
【0023】
我々は、PAI−1又はTIMP−1遺伝子欠損が、化学療法薬及びTNFαにより誘発されるアポトーシスに対する感受性を線維肉腫細胞に付与することを示してきた。さらに我々は、PAI−1遺伝子欠損及び野生型マウスが全身的エトポシド治療に対し同等の感受性を示しかくして癌細胞と正常細胞の間のPAI−1によるアポトーシス阻害に対する感受性の差異を示唆するということを発見した。
【0024】
従ってここで提示される方法は、正常な組織/細胞に影響を及ぼすことなく、悪性腫瘍組織及び潜在的な悪性腫瘍組織内のプロテアーゼ阻害物質のアポトーシス予防効果を選択的に阻害することが可能であるという驚くべき発見に依存している。本発明に従うと、一部の腫瘍/患者の血液試料中に発見される高いプロテアーゼ阻害物質レベルが、アポトーシス刺激からの腫瘍細胞の防御に関与していることが考慮されている(ただし、いかなる理論にも制限されるものではない)。かくして、アポトーシスを誘発することによって作用する抗癌薬に曝露されている患者は、その腫瘍が高レベルのプロテアーゼ阻害物質を含む場合、治療による利益を全く経験しないことになる。
【0025】
該発明の方法によると、悪性腫瘍組織又は潜在的な悪性腫瘍組織内での前記阻害物質の阻害効果は、抑制、阻害又は中和され、かくして、アポトーシス誘発作用物質に対し悪性腫瘍細胞を感作させるものの正常な細胞は感作させない。
【0026】
該発明はかくして、患者の体内での抗癌療法の効果を改善するための方法であって、前記抗癌療法に対する非悪性細胞の感受性を実質的に増大させることなく前記抗癌療法に対する該患者の体内の悪性細胞の感受性を増大させる段階を含んで成る方法に関する。
【0027】
これは例えば1型プラスミノゲン活性化因子阻害物質又は組織タイプの1型メタロプロテアーゼ阻害物質といったようなプロテアーゼ阻害物質の抑制をもたらしその結果としてプロテアーゼ阻害物質のアポトーシス阻害機能を廃絶し又かくしてアポトーシス誘発性抗癌治療による腫瘍細胞死を増大させることによって得られる。該発明は、プロテアーゼ阻害物質の全身的阻害が抗癌療法の後続投与又は同時投与に対する非悪性細胞の感受性に影響を及ぼさないということを考慮している。
【0028】
かくして、簡単に言うと、本発明は癌療法の効能を増強するための方法であって、該増強がプロテアーゼ阻害物質に干渉することによりもたらされる方法に関する。
【0029】
該発明は同様に、プロテアーゼ阻害物質のアポトーシス予防効果を阻害できる化合物を選択し同定する方法ならびに癌患者の治療におけるかかる化合物の使用にも関する。
【0030】
さらに、本発明は、プロテアーゼ阻害物質の存在によりその効果が阻害される抗癌治療を同定するための方法をも提供し、これと合わせて、該発明は同様に、プロテアーゼ阻害物質の存在によりその効果が阻害されない抗癌治療を同定するための方法をも提供する。
【0031】
最後に、該発明は、従来の癌療法に応答しないが従来の抗癌治療と併せたプロテアーゼ阻害物質阻害治療に対する候補となる患者を同定するための方法を内含する。
【0032】
発明の詳細な説明
以下では、本発明の境界を特徴づけするために、いくつかの用語を定義する。
【0033】
「抑制」という語は、プロテアーゼの阻害物質又は非タンパク質分解性マトリックス分解酵素のアポトーシス阻害活性が、有意な形ですなわち少なくとも25%程度、好ましくは約50%、60%、70%といったより高い程度、又さらに一層好ましくは75%、80%、90%、95%又は100%程度だけ削減されていることを意味する。問題の阻害物質の阻害度は、適切な阻害試験を用いることによって立証することができる。
【0034】
該特許に関連して、「化合物」という用語は、元素の原子がしっかりと統合され明確な割合で存在しているように、2つ以上の元素で構成された物質というようなその最も広い文脈で理解されるべきであり、かくして該用語は、従来の化学的化合物ならびに例えば抗体を内含する。プロテアーゼ又は非タンパク質分解性マトリックス分解酵素の阻害物質のアポトーシス阻害活性を抑制する能力をもつ化合物をスクリーニングする目的で試験を開発し使用することは、明らかに、該明細書内の教示に基づいて当業者の技能範囲内に入るものである。
【0035】
「プロテアーゼ阻害物質」又は「プロテイナーゼ阻害物質」(これらの用語は互換的に用いられる)というのは、単数又は複数のプロテアーゼのタンパク質分解活性を阻害する分子である。これはすなわち、プロテアーゼ阻害物質が特異的であること又はそれがより一般的なプロテアーゼ阻害効果を及ぼし得ることを意味している。本発明の目的では、プロテアーゼ阻害物質は同様に、非タンパク質分解マトリックス分解酵素の活性を阻害する分子を意味することもできる。
【0036】
プロテアーゼ阻害物質の「ブロッカー」は、プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を抑制又は阻害する分子である。
【0037】
「アポトーシス」は、「発明の背景」の節で定義されるプロセスである。
【0038】
悪性細胞のアポトーシスにおける「選択的増大」というのは、悪性細胞が、非悪性細胞よりもアポトーシス細胞死に対しより感受性の高いものにされ、こうして通常X%の悪性細胞内及びY%の関連正常細胞内でアポトーシス細胞死を誘発すると思われる既知の抗癌治療投薬計画が、今や(X+n)%の悪性細胞内及びY%の関連正常細胞内でアポトーシス細胞死を誘発することになるという効果又は、X%の悪性細胞内及び(Y−m)%の関連正常細胞内でアポトーシス細胞死を誘発するより穏やかな治療投薬計画が存在することになるという効果(ここでn及びmは両方とも正の数である)が得られることを意味している。換言すると、抗癌治療投薬計画の治療指数が増大させられたということになる。
【0039】
「抗癌療法」というのは、癌の治癒又は緩和を目的とするあらゆる非外科的治療投与計画について使用される用語である。その例が以下で記されているが、抗癌療法は化学療法及び/又は放射線療法の両方であってよい。
【0040】
「細胞増殖抑制療法」というのは、細胞分裂との干渉が関与する化学療法的抗癌療法である。すなわちこれは、有糸分裂プロセスと幾分か相互作用し、かくして活発に分裂している細胞を死滅させる薬物が投与される治療投与計画である。細胞増殖抑制療法は、悪性細胞中で1つの構成要素に多少の差こそあれ選択的に結合する部分(例えば抗体又は抗体フラグメントに細胞増殖抑制物質をカップリングさせることによってターゲティングすることができる。
【0041】
「細胞毒性療法」は、細胞毒性物質すなわちさまざまな機序を介して細胞を死滅させる物質の投与が関与する化学療法的抗癌療法である。細胞毒性療法は、悪性細胞中で1つの構成要素に多少の差こそあれ選択的に結合する部分(例えば抗体又は抗体フラグメントに細胞毒性物質をカップリングさせることによってターゲティングすることができる。
【0042】
「内分泌療法」というのは、ホルモン又はホルモンの合成又は天然に発生する擬似体の投与又は代替的にホルモンの阻害物質又はホルモン受容体又はその類似体の投与が関与する化学療法的抗癌療法である。同様に内分泌療法をターゲティングすることも可能性である。
【0043】
「放射線療法」は、電離放射線を悪性細胞にあてることによる癌の治療である。伝統的な体外から適用される放射線とは別に、ターゲティング部分に放射性核種をカップリングさせることにより放射線療法をターゲティングすることもできる。
【0044】
「免疫療法」というのは、免疫機序に依存する癌療法である。1つの可能性は、腫瘍内の腫瘍特異的抗原に結合する抗体(モノクローナル、ポリクローナル又はそのフラグメント)の投与である。かかる抗体は、同様に二次的な免疫学的機序(NK細胞活性、補体活性など)をひき起こすこともできる。同じく、細胞毒性T細胞媒介型の腫瘍細胞死滅を誘発できる活性化された樹状細胞の投与も、1つの可能性である。第3に、癌抗原に対する免疫性を能動的に与え、かくして悪性細胞をターゲティングする能動免疫(細胞性及び体液性の両方)を誘発することも可能である。
【0045】
発明の好ましい実施形態の説明
該発明の治療的方法が、患者の体内での少なくとも1つのプロテアーゼ阻害物質のプロテアーゼ阻害物質活性の抗アポトーシス効果の阻害をもたらし、かくして前記抗癌療法に対する非悪性細胞の感受性に比べ前記抗癌療法に対する悪性細胞の感受性を増大させる段階を含んで成ることが好ましい。すなわち、該発明の方法は、抗癌治療に対する悪性細胞の感受性の選択的増大すなわち、抗癌治療に対する非悪性細胞の感受性を著しく変えることなく悪性細胞の感受性を変更することの無い選択的増大を考慮している。
【0046】
典型的には、該阻害は、患者に対するプロテアーゼ阻害物質のインビボ抗アポトーシス作用のブロッカーを投与することにより達成される。抑制/遮断のために有利なプロテアーゼ阻害物質は、セリンプロテアーゼ阻害物質、メタロプロテアーゼの阻害物質、システインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)の阻害物質、アスパラギン酸プロテアーゼの阻害物質、その他のあらゆるタンパク質分解酵素の阻害物質、ヘペラナーゼの阻害物質、又は非タンパク質分解酵素阻害物質といった細胞外マトリックスの分解に参与するあらゆる酵素の阻害物質である。好ましくは、プロテアーゼ阻害物質は、PAI−1、PAI−2、PAI−3、プロテアーゼネキシン1、TIMP−1、TIMP−2、TIMP−3、TIMP−4、ステフィンA、ステフィンB、及びシスタチンCから成る群から選択される。
【0047】
本発明に従って用いられるブロッカーは、適切には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗体フラグメント、可溶性レペプタ、低分子量分子、天然産物、ペプチド、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム及び、アンチセンスLNA又はPNA分子といったようなアンチセンスポリヌクレオチドの擬似体から成る群から選択される。当該技術分野ではすでに、モノクローナル抗体が腫瘍細胞上のアポトーシスに対し1つの効果を及ぼすことが示されてきている(Kwaan et al.)。
【0048】
該発明の通常の実施においては、ブロッカーは、抗癌療法を開始する前に投与されるが、抗癌療法の特定の種類及びブロッカーの薬物動態に応じて、ブロッカーは抗癌療法の開始時点又はその途中で投与することもできる。
【0049】
ブロッカーは、その純粋な形態の薬剤として、又は医薬組成物として役立つことができ、これらは当該技術分野において既知の通常のかつ受容できる方法のいずれかを単独又は組合せの形で用いて投与することができ、上述のとおり、数多くのかかるブロッカーがすでに知られており、これらは規制当局によりすでに受諾された要領で投与されることになる。
【0050】
組成物は、経口投与(口腔又は舌下を含む)に合わせて処方されてもよいし、そうでなければ非経口投与(静脈内(i.v.)、皮下(s.c.)、筋内内(i.m.)、腹腔内(i.p.)投与を含む)により処方されてもよい。
【0051】
本書で定義されているようなブロッカーを活性主成分として含む医薬組成物が、医薬的に許容される担体、希釈財、ビヒクル又は賦形剤との混和物の形をしている。典型的には、かかる医薬組成物は、経口投与剤形;口腔投与剤形;舌下投与剤形;肛門内投与剤形;及び静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、皮内及び頭蓋内投与剤形といったような非経口剤形から成る群から選択された剤形をしている。特に好ましい製剤は、ブロッカーの徐放性を提供する。
【0052】
組成物は、特定のブロッカー選択に応じて、当該技術分野にとって周知の方法で調製することができる。組成物は好ましくは、固体又は液体製剤の形態をしており、それらの調製方法は一般に「Remington's Pharmaceutical Sciences」、第17版、Alfonso R. Gennaro (Ed.), Mark Publishing Company, Easton, PA, U.S.A., 1985年、の中で記述されている。固体製剤が経口投与には特に適しており、一方、注射又は輸液(静脈内、皮下、筋肉内.又は腹腔内)又は鼻腔内投与のためには、溶液が最も有用である。
【0053】
このような組成物は、選択された投与経路と矛盾しない形で投薬量を提供するべく適切な担体と合わせて単数又は複数の活性ブロッカーを有効量含有することになる。該組成物は、ビヒクル、希釈剤、緩衝剤、張度調整剤、防腐剤及び安定剤の形の生理学的に受容可能な担体と合わせて、少なくとも1つのブロッカーを含む。担体を構成する賦形剤は、活性薬学成分(単複)と相容性がなくてはならず、好ましくは治療される対象にとって有害になることなくブロッカーを安定化する能力を有していなくてはならない。
【0054】
固体組成物は、錠剤、丸薬、カプセル、座薬、粉末又は腸溶性ペプチドといった従来の形態をとることが考えられる。液体組成物は、溶液、懸濁液、分散、エマルジョン、エレキシル剤ならびに徐放性製剤などの形をとり得る。局所施用組成物は、絆創膏又はペーストの形をしていてよく、吸入組成物はスプレー送達系の中に収納されていてよい。
【0055】
該発明の好ましい実施形態においては、ブロッカーのうちの少なくとも1つを含むデポ−製剤が想定されている。これは、抗癌療法での長期治療が行なわれる予定である場合に特に有用である(例えば、抗癌効果が数時間後に終結されない能動免疫療法又はその他の投与計画)。リポジトリ又はデポ−製剤の形態を、治療上有効な量の調製物が経皮注射又は被着の後長時間も何日も血液流の中に送達されるような形で使用することができる。徐放性製剤に適した製剤は、生物分解性重合体を内含し、L−乳酸、D−乳酸、DL−乳酸、ブリコリド、グリコール酸、及びその任意の異性体といった適切な生物分解性重合体から成り得る。同様にして、担体又は希釈剤は、単独の又はろうと混合された形のモノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルといったような当該技術分野において既知の任意の徐放性物質を含んでよい。
【0056】
その他のデポ−製剤には、リポソーム、ミクロスフェア、エマルジョン又はミセル及び液体安定化剤と組合せた状態において本書に開示されているブロッカーのうちの少なくとも1つを内含する製剤が含まれ得るがそれらに制限されるわけではない。
【0057】
ブロッカーの水性製剤を、注射又は輸液(静脈内、皮下、筋肉内、又は腹腔内)による非経口投与のために調製することができる。該ブロッカーは、選択に応じて、遊離酸又は塩基として又は塩として利用可能である。塩は当然のことながら、薬学的に受容可能でなくてはならず、これらは、酸性ブロッカーのアルカリ及び金属塩、例えばカリウム、ナトリウム又はマグネシウム塩を内含することになる。塩基性ブロッカーの塩としては、ハロゲン化物及び無機及び有機酸の塩、例えば塩化物、リン酸塩又は酢酸塩が含まれることになる。ブロッカーの塩は、当業者にとって周知の手順により容易に調製される。
【0058】
ブロッカーは、非経口投与(例えば低速放出デポ−製剤の注射、輸液又は被着)用の液体又は半液体組成物として提供することができる。ブロッカーは、例えば、約3.0〜約8.0のpHで、好ましくは約3.5〜約7.4、3.5〜6.0又は3.5〜約5.0のpHで適切に緩衝された溶液といった水性担体中で懸濁又は溶解可能である。有用な緩衝液としては、クエン酸ナトリウム/クエン酸、リン酸ナトリウム/リン酸、酢酸ナトリウム/酢酸、又はこれらの組み合わせが含まれる。
【0059】
かかる水溶液は、緩衝剤で浸透圧を調整することによってか、又は生理食塩水、水性デキストロース、グリコールを内含させることによってか又はラクトース、グルコース又はマンニトールなどといった糖を使用することによって等張性にすることができる。
【0060】
組成物は、「Handbook of Pharmaceutical Excipients (薬学賦形剤便覧)」、第3版、Arthur, H. Kibbe (編)、Pharmaceutical Press, London, UK(2000年)の中で記述されている、防腐剤、安定化剤、及び湿潤剤又は乳化剤といったその他の医薬的に許容される賦形剤を含有してよい。防腐剤には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、フェノール又はクレゾール及びパラベンが含まれ得る。安定化剤には、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリン又は洗浄剤が含まれ得る。
【0061】
調製物は、活性薬物物質及び無菌担体溶液から使用直前に製造することができる。代替的には、組成物は、密封されたガラスバイアル又はアンプル中に充填され、必要ならば、無菌状態で不活性ガスによりパージされ、必要となるまで保管され得る。こうして、連続的な多用量療法が可能となるが、同様に最高レベルの安定性が化合物に求められる。
【0062】
ブロッカーの脂肪性製剤は、注射による非経口投与(皮下.、筋肉内、又は腹腔内)又は局所施用のために調製され得る。担体は、石油、動物、植物又は合成由来のもの、例えばピーナツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などを含むさまざまな油から選択され得る。組成物は、溶液又は懸濁液の形をしていてよい。ブロッカーの溶液は洗浄剤及び乳化剤を用いて調製でき、粉末又は結晶塩を用いて懸濁液を調製することができる。組成物は、防腐剤(例えばブチル化ヒドロキシアニゾール又はブチル化ヒドロキシトルエン)で安定化され得る。
【0063】
肺吸入による経鼻投与のために、製剤は、液体担体特にエーロゾル塗布用の水性担体の中に溶解又は懸濁させられた単数又は複数のブロッカーを含有してよい。担体は、例えばプロピレングリコールといった可溶化剤、ポリオキシエチレンといった表面活性剤、高級アルコールエーテル及びレシチン又はシクロデキストリンといったような吸収エンハンサー及びソルビン酸、クレゾール又はパラベンといった防腐剤といった補助的添加剤を含有し得る。
【0064】
(癌療法が局所的アポトーシス効果のみを提供する場合に都合のよい)ブロッカーの局所的施用及び作用向けの局所性投与は、ピーナツ油、ゴマ油、トウモロコシ油などといった医薬的に許容される油の中に活性化合物を分散することにより、ペーストの形で行うことができる。代替的には、皮膚投与向けにパッチの中にブロッカーを取込むこともできる。パッチはイオン導入塗布向けの形態で調製され得る。
【0065】
経粘膜投与用の座薬は、有効量のブロッカーを含有するペレットの形をとることができ、カルボワックス、カルナバワックスなどの希釈剤及びステアリン酸マグネシウム又はカルシウムといった潤滑剤とブロッカーを混和することにより調製可能である。
【0066】
錠剤、丸薬、カプセル、粉末などの形での経口投与のためには固体組成物が好ましい。錠剤は、安定化緩衝剤(例えばクエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム及びリン酸カルシウム、崩壊剤(例えばジャガイモ又はタピオカでんぷん及び複合ケイ酸塩)結合剤(例えばポリビニルピロリドン、ラクトース、マンニトール、スクロース、ゼラチン、寒天、ペクチン及びアカシア)及び潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はラウリル硫酸ナトリウム)ならびにその他の充填剤(例えばセルロース又はポリエチレングリコール)を含有し得る。経口投与向けの液体製剤は、水、エタノール、ポリエチレングリコール、グリセリンといったような希釈剤に加えてさまざまな甘味料、着香剤、着色剤と組み合わせることができる。
【0067】
所望の治療効果に必要とされる本発明のブロッカー及び組成物の用量は、該ブロッカーの効力、使用される特定の組成物及び選択された投与経路により左右されることになる。ブロッカーは標準的に、一日患者一人あたり約0.001〜10g、好ましくは約1〜約1000mg、より好ましくは約10〜約100mgの範囲、約50mgで投与される。或る経路、例えば経口及びその他の非経口以外の投与経路向けの投薬量は、例えば約5〜100倍だけ、あらゆる生物学的利用能に対処する目的で増大させられるべきである。
【0068】
最も適切な投与計画は、各患者について個別に医者により決定されるのが最良であると考えられる。ブロッカー及び医薬組成物での最適な投与計画は、治療対象の特定の癌、所望の効果、及び患者の年令、体重又は肥満度指数及び全体的身体条件といったような要因によって左右される。投与は、単回単位剤形で又は経時的多回用量の形での連続療法として、行なうことができる。代替的には、連続的輸注系又は低速放出デポ−製剤も、場合によって利用することができる。2つ以上のブロッカー又は医薬組成物を任意の順序で同時に又は順次同時投与することができる。さらに、予防目的で類似の要領でブロッカーを投与することができる。最良の投与計画は、究極的に、各患者について個別に主治医により決定されることになる。
【0069】
好ましくは、本発明を用いて可能となる抗癌療法は、アポトーシスによる細胞死を誘発する条件に患者を付す段階を含む。従って、本発明に従うと、悪性細胞の感受性の増大は、抗癌療法に付される悪性細胞のアポトーシスの選択的増大の帰結である。
【0070】
こうして、その効能が腫瘍組織内のプロテアーゼ阻害物質の発現に左右されない抗癌薬での患者の治療によって抗癌療法が補完される好ましい1実施形態が可能となる。かくして該発明の方法は、(癌細胞がアポトーシス不感受性形態に形質転換されて薬物の効果から逃れることができるという欠点に悩まされない)このような薬物を利用した最適化された癌治療の選択を可能にすると同時に、既存の治療をより合理的かつ有効にする(その理由は、既存の治療が該当する場合、プロテアーゼ阻害物質を遮断することによりアポトーシス依存性薬物の効能を保つべく本発明の発見事実とその治療を組み合わせることができるからである)。
【0071】
腫瘍組織内のプロテアーゼ阻害物質の有無によりその効能が影響されないこのような抗癌薬の同定は、1つの抗癌治療の同定方法がより一般的に言って癌治療向けの薬物を含めたあらゆる手段の同定を提供することから、類似の抗癌の同定のために以下で論述するとおりに(そして例9で記されている通りに)達成可能である。
【0072】
従って、1)前記プロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である悪性腫瘍由来の細胞の第1の集団を提供する段階、2)前記プロテアーゼ阻害物質について−/−である悪性腫瘍由来細胞の第2の集団を提供する段階;3)プロテアーゼ阻害物質のアポトーシス防御を遮断する有効な濃度の作用物質の不在下及び存在下で推定上又は既知の抗癌薬での抗癌治療を前記第1及び第2の細胞集団の試料に施す段階;4)前記試料内で誘発されたアポトーシスの度合を決定する段階;及び5)(1)第1の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が作用物質の存在下で有意に高くない場合;及び(2)第2の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が作用物質の存在下で有意に高くない場合、その効能がアポトーシス阻害プロテアーゼ阻害物質の有無により左右されない薬物として推定又は既知の抗癌薬を同定する段階により、その効能がアポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無に左右されない抗癌薬を同定することは、本発明の範囲内に入る。この方法選択に関するさらなる詳細が以下で示されている。
【0073】
抗癌療法は、標準的に、放射線療法、内分泌療法、及び細胞毒性又は細胞増殖抑制化学療法、免疫療法、生物反応修飾物質での治療、タンパク質キナーゼ阻害物質での治療又はこれらの組み合わせから成る群から選択される。すなわち、これらの異なる治療のいずれかを、ブロッカーの使用の発明力ある効能増強効果と合わせて利用することが可能である。
【0074】
考えられるこれら全てのタイプの癌療法は、該発明に従って、これが医者により実施されている通りのすでに受容されたその形態で応用可能である。
【0075】
好ましい実施形態においては、細胞毒性又は細胞増殖抑制化学療法は、アルキル化剤、1型及び2型トポイソメラーゼ阻害物質、代謝拮抗物質、チュブリン阻害物質、プラチノイド及びタキサンでの治療から成る群から選択される。
【0076】
もう1つの好ましい実施形態においては、内分泌療法は、抗エステロゲン、アロマターゼ阻害物質、ゴナドトロビンの阻害物質、抗アンドロゲン、抗プロゲスチン又はその組合せを用いた治療である。
【0077】
プロテアーゼ阻害物質の高発現レベルと相関関係をもつ悪い予後を有する悪性腫瘍をターゲティングすることが有利である。従って、抗癌療法が悪性脳腫瘍、悪性黒色腫、肉腫、頭頸部癌、胃、膵臓、結腸及び直腸癌といった消化管癌、カルチノイド、肺癌、乳癌、卵巣、子宮頸及び子宮体癌といった婦人科の癌、及び前立腺、腎臓及び膀胱癌といった泌尿器科の癌から成る群から選択される腫瘍をターゲティングすることが有利である。
【0078】
以上で論述した治療的態様のための基礎を成す同じ発見事実に基づく該発明のもう1つの部分は、前記抗癌療法の効率がプロテアーゼ阻害物質の腫瘍組織発現に左右される場合に、癌患者が1つの抗癌療法から利益を受けることになるか否かを予測するための方法であって、該患者の体内の腫瘍組織からの細胞が予め選択された数多くのプロテアーゼ阻害物質のうちのいずれか1つを発現するか否かを決定する段階及び、前記プロテアーゼ阻害物質のうちのいずれか1つが関連する閾値を超えて発現されている場合該患者が抗癌療法から利益を受けないであろうということを立証し、予め選択されたプロテアーゼ阻害物質のいずれもその関連する閾値を超えて発現されない場合には該患者が該抗癌療法からの利益を受けるであろうということを立証する段階を含んで成る方法にある。
【0079】
さらに、抗癌療法の効率がプロテアーゼ阻害物質の腫瘍組織発現に左右される場合に、1人の癌患者がこの抗癌療法の利益を受けることになるか否かを組織切片又は腫瘍生検などに基づいて予測することも又本発明の1態様である。これはプロテアーゼの阻害物質すなわちPAI−1又はTIMP−1といった阻害物質の(免疫反応性を決定することで判断される通りの)高い発現を腫瘍組織内の腫瘍細胞が示すか否かを決定することによって行なうことができる。我々は、上述の通り、乳癌組織からのパラフィンブロックについて免疫組織化学反応を実施し、抗TIMP−1モノクローナル抗体を使用することによって、およそ20%のケースにおいてTIMP−1免疫反応性が腫瘍細胞に限定され、一方残りのケースではTIMP−1免疫反応性が腫瘍組織内の間質細胞に局在化されていることを示した。我々は、化学療法に対する耐性を示す高腫瘍組織TIMP−1又はPAI−1のケースが、腫瘍細胞内でTIMP−1及び/又はPAI−1免疫反応性を伴う(ただし、間質細胞中のみで免疫反応を示すケースではない)ケースであるという結論を下した。
【0080】
この発見事実の意味しているのは、関連患者に由来する保管パラフィンブロック(又はその他の保存された試料)といった材料上でもTIMP−1及び/又はPAI−1免疫組織化学反応(又は類似の情報を提供する分析、以下参照)を実施する作業を用いて化学療法に対する耐性を予測することができると思われる、ということである。例えば、患者由来の当初切除された腫瘍組織がプロテアーゼ阻害物質を発現したことを示すことができる転移性又は残留疾患のケースにおいて、化学療法を全て回避するか又は好ましくは本書で教示されているようにプロテアーゼ阻害物質のブロッカーの投与と化学療法を組み合わせることが適切なこととなる。従って、本発明は、試料採取により提供されうる材料に基づいて患者の評価を可能にするばかりでなく、何年もさかのぼるパラフィン切片といった保管材料に基づいた患者の評価さえも可能にする。しかしながら、当業者にとっては、該発明がいかなる形であれかかる保管材料の使用に制限されず、新鮮な組織試料、生検などについて実施される免疫組織化学反応及び匹敵する方法にも関するということは明白である。
【0081】
例えば免疫組織化学反応により免疫反応性を決定する代りに、阻害物質をコードする遺伝子の増幅を決定することも又可能であるということを指摘すべきである。かかる増幅の検出のための手段の例としては、螢光インサイツハイブリダイゼーション(FISH)及び発色インサイツハイブリダイゼーション(CISH)といった技術がある。腫瘍組織についての分析における免疫組織化学反応、FISH及びCISHを用いた実施的実施については、3つの方法全てを用いてHER−2−/neu腫瘍遺伝子増幅が査定されたTanner et al, Am J Pathol, 2000年11月;157(5):1467−72の中で詳述されている。
【0082】
上述の実施形態に従ってパラフィンブロック上での免疫組織化学反応において用いられた(例えば、モノクローナル)抗体は、それが変性形態にある場合必然的に、関連するプロテアーゼ阻害物質の中に存在するエピトープを認識する能力がなくてはならない。従って、関連するプロテアーゼ阻害物質上の線形エピトープを結合する抗体が好まれる。
【0083】
プロテアーゼ阻害物質の予め選択されたリストには、セリンプロテアーゼ阻害物質、TIMP−1又はTIMP−2といったようなメタロプロテアーゼの阻害物質、システインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)の阻害物質、アルパラギン酸プロテアーゼの阻害物質、その他の任意のタンパク質分解酵素の阻害物質、ヘペラナーゼの阻害物質及び細胞外マトリックスの分解に参加する任意のその他の酵素の阻害物質の中から選択される成員が含まれ、好ましくは、プロテアーゼ阻害物質は、PAI−1、PAI−2、PAI−3、プロテアーゼネキシン1、TIMP−1、TIMP−2、TIMP−3、TIMP−4、ステフィンA、ステフィンB及びシスタチンCから成る群から選択される。
【0084】
該発明の予測方法には、患者の体内の腫瘍組織に由来する細胞が予め選択された数多くのプロテアーゼ阻害物質のうちのいずれか1つを発現するか否かの決定が、腫瘍組織試料、血液試料、血漿試料、血清試料、尿試料、糞便試料、唾液試料及び胸腔又は腹腔に由来する漿液の試料から成る群から選択された試料について測定を行なうことにより実施されることが含まれる。該方法の測定段階は、インサイツハイブリダイゼーションを含めたがDNAレベル測定、mRNAレベル測定例えばインサイツハイブリダイゼーション、ノーザンブロット法、QRT−PCR、及び示差表示、ならびにタンパク質レベル測定例えばウェスタンブロット法、免疫組織化学、ELISA及びRIAを用いて都合よく実施される。
【0085】
本発明の治療用方法に関する論述と一致して、該予測方法は、(その効能が予測されている)抗癌療法がアポトーシスによる細胞死を誘発するということを伴っている。さらに該予測方法は、該癌療法を適用不可能又はその他の形で保証されないとみなした場合、プロテアーゼ阻害物質のうちのいずれかが閾値を超えて発現された場合にプロテアーゼ阻害物質の発現レベルに左右されないものであることが発見される可能性があるその他の薬物又は療法からの利益をその患者が受けることになるということを立証することができる。
【0086】
該発明の予測方法は、都合良く抗癌療法と組み合わせて改良型癌治療投与計画を提供することができる。かくして、本発明は同様に、癌患者の抗癌治療のための方法であって、該発明の予測方法に従って、その抗癌療法の効率がプロテアーゼ阻害物質の腫瘍組織発現によって左右される場合に該癌患者が1つの選択した抗癌療法から利益を受けることになるか否かを予測する段階、そしてその後、
a) 該予測が肯定的回答を提供した場合には患者に該抗癌療法を施す段階、又は
b) 該予測が否定的回答を提供した場合には患者を本発明に従った改良型癌療法に付す段階、
を含んで成る方法をも考慮している。
【0087】
肯定的回答はこの文脈において、抗癌治療の治療的効能に対しマイナスの影響をもたない問題のプロテアーゼ阻害物質の最小発現レベルを表わすカットオフ値(閾値)よりも、予め選択されたプロテアーゼ阻害物質の発現レベルの各々が下回っていることの統計に基づく標示である。
【0088】
従って、否定的回答は、選択されたプロテアーゼ阻害物質のうちの少なくとも1つのものの発現レベルがかかるカットオフ値を超えていることとして定義される。
【0089】
個々の患者の抗癌治療に対する耐性/感受性を決定するべく既定のプロテアーゼ阻害物質についての閾値レベルを立証するために、遡及的/前向き臨床試験を実施することができる。
【0090】
遡及的には、その癌疾患の再発を経験しその患者について彼らがどのように特定の抗癌治療に応答したかがわかっている患者から、保管された腫瘍組織又は血液又は尿、又は唾液又はその他のあらゆる体液が得られる。腫瘍組織の場合には、該組織は均質化され、各々個別の患者の試料内でプロテアーゼ阻害物質レベルが測定される。代替的には、免疫組織化学反応を、固定されたパラフィン包埋組織について実施することができる。体液の場合には、試料を希釈し、その後本書で論述されている方法の1つによりプロテアーゼ阻害物質の濃度を決定する。
【0091】
個々の患者の体内でのプロテアーゼ阻害物質の濃度をその後、この患者の抗癌治療に対する客観的応答と相関させる。ロジスティック回帰分析及び/又は受信者動作特性(ROC)曲線を用いて、任意のプロテアーゼ阻害物質濃度により得られた感受性及び特異性を研究集団について計算することができる。
【0092】
同様にして、前向きに収集された試料の中でプロテアーゼ阻害物質濃度が決定され次にプロテアーゼ阻害物質濃度と個々の患者の客観的応答の間の相関が行なわれる場合、同一の研究を実施することができる。ロジスティック回帰分析又はROC曲線を用いて、研究集団について、任意のプロテイナーゼ阻害物質濃度により得られる感受性及び特異性を計算することができる。
【0093】
代替的には、本発明は、既存の抗癌療法を受けている患者を監視する段階を考慮しており、ここでこの監視には、患者が該抗癌療法から利益を受け続けることになるか否かを立証するべく該発明の方法の予測方法を反復的に実行することによって実施され、さらに本発明は、
a) 該監視における予測が肯定的回答を提供した場合には患者に該抗癌療法を施し続ける段階;又は
b) 該監視における予測が否定的回答を提供した場合には該患者を本発明の癌治療方法を用いてもう1つの抗癌療法に切換える段階、
を考慮している。
【0094】
該発明の方法と組み合わせて用いられる抗癌療法は、有利にはネオアジュバント療法、アシュバント療法及び転移性疾患から選択される。
【0095】
本発明により同じく包含されているのは、本発明の実施において有用である作用物質を同定するための手段及び方法である。
【0096】
本発明は、プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を遮断する作用物質を同定するための(細胞依存型の)方法であって、
− プロテアーゼ阻害物質が外部供給源から提供されている場合又は前記プロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である(すなわち該プロテアーゼ阻害物質が一定の発現レベルを有することを意味する)悪性腫瘍由来の細胞の第1の集団を提供する段階、
− 前記プロテアーゼ阻害物質について−/−である悪性腫瘍由来細胞の第2の集団を提供する段階;
− 確定した濃度の候補作用物質の不在下及び存在下で実質的に同じアポトーシス誘発条件に前記第1及び第2の細胞集団の試料を付す段階;
− 前記試料内で誘発されたアポトーシス度を決定する段階;及び
− 1)第1の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が候補作用物質の存在下で有意に高くなった場合;及び2)第2の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が候補作用物質の存在下で有意に高くならない場合、プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を遮断する作用物質として該候補作用物質を同定する段階、
を含んで成る方法に関する。
【0097】
また、実験をインビボで実施することも可能である。実験動物は、細胞が該動物のものと同じMHCクラスのものであることを理由としてか又は動物が異種移植を受容する能力をもつものであることを理由として(ヌードマウスの場合がそれである)移植された細胞(プロテイナーゼ阻害物質についての+/+、+/−、又は−/−細胞)を拒絶しないものでなくてはならない。さらに、プロテイナーゼ阻害物質について+/+、+/−又は−/−であるマウスを使用することができる。当業者であれば、該発明の方法をセットアップし移植すべき特定の細胞型を設定する作業に直面した場合にどの種類の動物モデルを選択すべきかがわかるだろう。評価項目は、治療後の腫瘍のサイズなどによって決定される細胞死及び適用された薬物による全身的毒性となる。
【0098】
このような同定のための細胞を含まない(細胞独立型)系を利用することも又或る種のケースでは可能である。プロテアーゼ及びその基質に対するプロテアーゼ阻害物質の特定の効果がプロテアーゼ阻害物質のアポトーシス阻害効果のために適切であることがわかっている場合には、単純な検定が、プロテアーゼ阻害物質、プロテアーゼ及びその基質を含む系に対する規定の濃度の候補作用物質の付加を該基板の転換率の測定と組み合わせたものを構成することになる。規定の濃度の存在下での転換率の増加は、その候補作用物質がプロテアーゼ阻害物質活性の推定的ブロッカーであることを表わしている。
【0099】
有利には、可能なセットアップの中で異なる規定濃度の候補作用物質が任意には並行して試験され、かくして該方法を用いて同定されたブロッカーの最適な濃度の決定を可能にする。
【0100】
細胞依存型方法のみならず細胞独立型方法であっても、(関連するプロテアーゼ阻害物質について)−/−細胞を+/−又は+/+細胞に逆転させること及びアポトーシスに対する該逆転細胞の感受性が該候補作用物質により著しく増大され得ることを立証することによる確認段階で補完することが好ましい。
【0101】
細胞依存型系においては、第1の細胞集団及び第2の細胞集団の両方が候補作用物質の不在下でアポトーシス誘発条件に付される場合、第2の細胞集団よりも第1の細胞集団の方がアポトーシス誘発条件に対する感受性が低いことが好ましい。実験動物内ならびに培養中で第1及び第2の細胞集団の試料を成長させることが可能である。重要なのは、実験的設定条件の再現性である。細胞の試料用の宿主として実験動物が使用されるモデルは、不利な効果/毒性が即刻標示されるという利点を有するが、一方これは、細胞培養系を使用する場合、別の実験的セットアップを必要とすることになる。いずれにせよ、実験動物における不利な効果の度合をも決定することが好ましい。
【0102】
対照として−/−細胞を利用することに対する代替案としては、プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を遮断する作用物質を同定する場合に比較的単純な動物モデルを利用することが可能である。この方法には、
− プロテアーゼ阻害物質が外部供給源から提供されている場合又は前記プロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である悪性腫瘍由来の細胞の第1の集団を提供する段階;
− 実験動物の体内に第1の細胞集団を移植しそれらを成長させる段階;
− 規定された濃度の候補作用物質の不在下及び存在下で動物をアポトーシス誘発条件に付す段階;
− 前記動物の体内での腫瘍の発達及び/又は進行度を決定する段階;
− 前記動物の体内でのアポトーシスに関係する有害作用の度合を決定する段階;及び
− 1)候補作用物質の存在下で腫瘍発達度が有意に低くなった場合;及び2)アポトーシスに関係する有害作用の度合が候補作用物質の存在下で有意に高くならない場合、プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を遮断する作用物質として該候補作用物質を同定する段階、
を含んで成る方法が含まれる。
【0103】
このセットアップは当然のことながら、実験動物が+/+、+/−及び−/−細胞のための宿主として使用される上述の系に類似しているが、この場合動物の非悪性細胞に対する効果は推定的ブロッカーの効率の指標として用いられる。
【0104】
本発明は同様に、特定の抗癌治療又は抗癌薬が実際、治療すべき悪性腫瘍中のアポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無により左右されるか否かを決定することをも可能にする。この方法は、
− 前記プロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である悪性腫瘍由来細胞の第1の集団を提供する段階;
− 前記プロテアーゼ阻害物質について−/−である悪性腫瘍由来細胞の第2の集団を提供する段階;
− プロテアーゼ阻害物質のアポトーシス防御効果を遮断する有効濃度の作用物質(例えば本発明を用いて同定された作用物質)の不在下及び存在下で実質的に同じ抗癌治療(すなわち評価すべき抗癌治療)又は薬物に対し前記第1及び第2の細胞集団の試料を付す段階;
− 前記試料内で誘発されたアポトーシス度を決定する段階;及び
− 1)第1の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が該作用物質の存在下で有意に高くなった場合;及び2)第2の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が該作用物質の存在下で有意に高くならない場合、アポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無によりその効能が左右されるものとして該抗癌治療又は薬物を同定する段階、
を必要とする。
【0105】
いかなる負の対照も関与しない、より単純な(ただしストリンジェンジーが比較的低い)バージョンにおいては、該方法は、
− 前記プロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である悪性腫瘍由来細胞の第1の集団を提供する段階;
− プロテアーゼ阻害物質のアポトーシス防御効果を遮断する有効濃度の作用物質(例えば本発明を用いて同定された作用物質)の不在下及び存在下で実質的に同じ抗癌治療(すなわち評価すべき抗癌治療)又は薬物に対し前記第1の細胞集団の試料を付す段階、
− 前記試料内で誘発されたアポトーシス度を決定する段階、及び
− 1)第1の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が該作用物質の存在下で有意に高くなった場合;アポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無によりその効能が左右されるものとして該抗癌治療又は薬物を同定する段階、
を伴う。
【0106】
これらの実験的セットアップは共に当然、アポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無によってその効能が左右されない抗癌治療又は薬物を同定するために使用でき、該方法は、同一の初期段階を含むがこの場合、1)第1の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が該作用物質の存在下で有意に高くならない場合に、アポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無によりその効能が左右されないものとして該抗癌治療又は薬物を同定する。当然のことながら、試験に−/−細胞も使用される場合には、第2の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度は、該作用物質の存在下で有意に高いものであるべきではない。
【0107】
薬物及び療法についてのかかるスクリーンの例が、実施例9に記されている。
【0108】
該発明について、以下の制限な意味のない実施例を用いてさらに詳述する。当業者であれば、該発明の例示された実施形態をどのように拡張すべきかを理解するであろう。
【実施例】
【0109】
例1
遺伝子欠損動物由来の株化細胞の確立と特徴づけ
癌の抗新生物治療のための特定の遺伝子産物の意義を研究するために、該発明に従って野生型及び遺伝子欠損動物から株化細胞を確立する。これらの株化細胞を次にプロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス機能のブロッカーの同定ならびに細胞死とさまざまなタイプの抗新生物治療の効能の間の関連性を研究するためのスクリーニング系の中で使用することができる。
【0110】
当該例は、PAI−1遺伝子欠損マウスからの不死の線維肉腫株化細胞を確立し特徴づけするための方法について記述している。
【0111】
マウス
マウスを、12時間の昼夜サイクルで隔離状態に保ち、普通食を給餌した。PAI−1−/−マウスの生成については以前に記述されている(Carmellet P et al., 1993年12月、J 細胞ln Invest 92(6):2746-55)。PAI−1遺伝子ターゲッティングマウスをMETATM−Bom−nu(=METATM/Bom nu/nu)(Bronner N et al., 1993年、Breast Cancer Res Treat 24,257-64)胸腺欠損マウスへと交雑させ、6〜8世代にわたり戻し交雑させた。実験に用いられたマウスは、異型接合育種により得られた同型接合野生型マウスと同型接合遺伝子欠損マウスを表わす兄弟対である。対照として野生型マウスが関与する全ての実験において、これらは、PAI−1欠損マウスの同腹子であり、従って各々の別々の実験は同じ戻し交雑された世代からのマウスしか内含していなかった。全ての実験的評価は、腫瘍サイズの測定及び血液試料採取を含めて、動物の遺伝子型を認識していない治験責任医師によって実施された。全ての実験は、デンマーク動物愛護委員会が刊行する指針に従って行なわれた。
【0112】
一次培養
生後10〜13週目の雄Meta nu/nuマウスの肺を切除し、10mlの培地(30%のFCS、P/S及び0.15%のNaHCO3を伴うM199)の入ったペトリ皿の中に置く。肺を(約0.5〜1mm2)の小片に機械的に切断する。3〜6片を次に6ウェル平板(Nunc、組織培養品質)の1つのウェル内の1滴の培地(切断由来の)中に入れ、その後、20分間37℃のCO2−インキュベータ内に入れて、細胞をウェルの底面に接着させる。20分後に、1mlの培地を添加して組織を完全に被覆する。さらに30分後に、さらにもう1mlの培地を添加する。
【0113】
培地は3日毎に新しくする。ウェルを規則的間隔で点検し、3週間後、ペニシリン及びストレプトマイシンを含まない培地に切換える。4〜5週間後に、繊維芽細胞の派生物を伴うウェルを回収し、細胞をプールする。株化細胞を伝播、拡張させる。マイコプラズマ汚染について細胞を試験し、又遺伝子型特定してその由来を確認する。RT−PCR及びウェスタンブロットを用いることにより、細胞をPAI−1mRNA発現及びタンパク質産生のそれぞれについて試験する。このとき細胞を異なる継代で使用することができるようになる。
【0114】
PAI−1についてのマウス及び一次培養の遺伝子型特定
利用されたPAI−1欠損マウスの分断された対立遺伝子(Carmellet et al. 1993年, J Clln Invest 92(6):2746−55及びCarmllet et al. 1993年、J Clln Invest 92(6):2756−60)の中に、pPNTからのXhoI-BamHIネオマイシンカセット(Tybulewicz VL et al., 1991年6月、Cell 65(7):1153−63)を、PAI−1遺伝子のXhoI-Hind IIIフラグメントの代りに挿入する。Xho I (911)はPAI−1遺伝子のプロモータ領域(Acc.:M33961)の中に位置設定される。pPNTネオマイシンカセットの5’XhoI−末端は、そのEcoRI部位の平滑末端がpIBI30のポリリンカー(Acc.:L08878)のHincII−XhoI部分のHincIIに連結された状態でマウスホスホキナーゼ−1(PGK)プロモータ(Acc.:M18735)の507bpのEcoRI(417)−TaqI(924)フラグメントから成る。XhoI(911)部位の上流側のMPAI1.1P(TTCATGCCCTCTGGTCGCTG、配列番号1)及びその下流側のmpal1.2M(CTCCCTCCCTCCCAGTGACTTG、配列番号2)は、内因性対立遺伝子に特異的な349bpのストレッチを増幅し、一方ネオマイシンカセットPGKプロモータの5’末端内のmPAI1.1p及びmPGK2m(GCCTTGGGAAAAGCGCCTC、配列番号3)は、分断された対立遺伝子に特異的な219bpのストレッチを増幅する。
【0115】
腫瘍形成性試験
野生型又はPAI−1遺伝子欠損雌マウスの横腹に、0.2mlの等張NaCl体積中の2×106個の細胞(継代34PAI−1−/−及び継代28PAI−1+/+)を皮下接種した。
【0116】
PAI−1−/−細胞をPAI−1+/+マウス(n=27)の体内又はPAI−1−/−マウス(n=20)の体内に接種し、PAI−1+/+細胞をPAI−1+/+マウス(n=10)又はPAI−1−/−マウス(n=10)の体内に接種した。定期的にマウスを観察し、腫瘍の発生率及び腫瘍の成長を記録した。結果としての腫瘍は、日常的組織像(HE染色)用に処置した。
【0117】
軟質寒天内での平板固定効率に関する試験
3.5mlの培地体積中に細胞を再懸濁させ、これに対し、寒天と培地の混合物を添加した(寒天:60分間沸騰させた30mlの及び990mgのBacto寒天;培地:37℃まで加熱したFCS10%及びM199;混合物:混合し37℃まで水浴中で加熱した90mlの培地と10mlの寒天)。単細胞懸濁液を達成するべく1mlの注射器を用いて穏やかな吸引を反復した。
【0118】
その後、SRBCの支持細胞層上でペトリ皿内にトリプリケートで1mlを平板固定した。
【0119】
寒天が凝固した時点で1mlの培地を上に添加し、プラスチックトレー上に18〜24枚の皿を置き、水の入った2枚のペトリ皿を各トレイ上に置いて条件付けした。湿度100%、37℃でCO2−インキュベータ(CO2:75%)内で細胞を成長させた。3週間後にコロニー(細胞64個超)を計数した。
【0120】
単細胞懸濁液を達成するために1mlの注射器を用いて細胞を吸引し、ニグロシン0.1%(1:1)と混合した。8分後に元気な細胞を計数した。
【0121】
培地の調製
M199を、10%のFCS、25mMのHepes緩衝液、1.9mMのL−グルタミン、10mlの7.5%NaHCO3、50U/mlのペニシリン及び50μg/mlのストレプトマイシンで補完した。
【0122】
SRBC(ヒツジ赤血球)寒天平板の調製
寒天:
1200mgの寒天と100mlの無菌H2Oを1時間沸騰させ、次に5分間37℃の水浴上に置いた。
【0123】
SRBC:
ヒツジ血液を5500rpmで遠心分離し、上清を除去した。その後、等張生理食塩水中で2回赤血球を洗浄した。
【0124】
完全支持細胞層:
寒天、SRBC、培地及び補充物(supplement)を(示された溶液中最終濃度となるまで)混合した;L−グルタミンを含まないアールのMEM(×0.55)、アールのMEMアミノ酸(×0.547)、アールのMEMビタミン(×0.55)、L−グルタミン(1.1mM)、ペニシリン(27.4U/ml)、ストレプトマイシン(27.4U/ml)、グルコース(0.03%)、重炭酸ナトリウム(0.06%)、2−メルカプトエタノール(3μl/l)、寒天(0.5%)、SRBC(0.03ml/ml)。
【0125】
この混合物を1ml、次にペトリ皿に入れ、室温で1時間凝固させた。5℃に保ち、製造から1週間以内に使用した。
【0126】
材料:
PBS(pH7.5)は、NaCl 8.0g/l;KCl 0.2g/l;Na2HPO4、2H2O 1.44g/l;KH2PO4 0.2g/l、から成り、オートクレーブ内で滅菌した。
【0127】
Bacto寒天をBle&Berntsen(Roedouve、デンマーク)から入手し、Alsevers液中のヒツジ血液(1:1)は、States Serum Institute(Copenhagen、デンマーク)から入手した。
【0128】
全ての試薬はGibco(Taastrup、デンマーク)から入手した。
【0129】
結果
一次培養
3〜4日後に細胞は、一次外植片から発芽し始めた。およそ1〜2継代(培養中で3〜4週間)の後、細胞は危機的状況に陥り(最高8週間持続)、その後細胞は約1.5日の倍増時間で単層として成長した。両方の細胞型が現在40継代以上にわたり伝播させられた。
【0130】
RT−PCRは、野生型細胞のみにおいてPAI−1mRNAの発現を示し、ウェスタンブロットは、野生型細胞のみがPAI−1タンパク質を有することを確認した。
【0131】
インビボでの腫瘍の成長
野生型細胞及びPAI−1遺伝子欠損動物由来の細胞の両方が、野生型マウス及びPAI−1遺伝子欠損マウスの体内で腫瘍を形成した。しかしながら、PAI−1遺伝子欠損マウスからの細胞はより長い遅滞期間を有していた。図1参照。
【0132】
全ての腫瘍は、線維肉腫の組織学的外観を有し、両方の株化細胞共軟質寒天中でコロニーを形成したが、PAI−1+/+は、PAI−1−/−よりも10倍高い平板固定効能を有していた。
【0133】
論述
この例は、マウスの繊維芽細胞がインビトロで培養された時点で自然発生的悪性形質転換を受けることを示している。結果としての形質転換済み細胞は、マウス内で腫瘍を形成し、軟質寒天内でコロニーを形成し、これらは共に悪性形質転換を強く標示している。さらに、株化細胞は、多くの継代にわたり伝播され得たことから、不死であるように思われた。かくして、実験のために野生型及び遺伝子欠損連続株化細胞が利用可能である。
【0134】
同等の実験手順により、その他のタイプの遺伝子欠損及び野生型マウスからの株化細胞対を確立することができる。
【0135】
例2
クローン原性検定を用いた化学受容性についての線維肉腫株化細胞試験
【0136】
プロテアーゼ阻害物質のうちのいくつかは、アポトーシスに対し細胞を防御するものとして記述されてきた。数多くのタイプの抗新生物治療がアポトーシスを誘発することによって細胞を死滅させることから、プロテアーゼ阻害物質の発現が欠けている株化細胞は、アポトーシス誘発性抗新生物治療に対しより感受性の高いものになると予想されるように思われる。
【0137】
この例は、さまざまな細胞毒性薬物に対する野生及びPAI−1遺伝子欠損株化細胞の化学受容性についての試験について記述している。
【0138】
株化細胞
例1に記述されている株化細胞を使用した。該細胞は、継代35(野生型細胞)及び継代50(PAI−1遺伝子欠損細胞)にあった。
【0139】
クローン原性検定
薬物(35μl)と細胞(0.35ml)を混合し、これに対し寒天と培地の混合物3.15mlを添加した(寒天:60分間沸騰させた30mlの及び990mgのBacto寒天;培地:37℃まで加熱したFCS10%及びM199;混合物:混合し37℃まで水浴中で加熱した90mlの培地と10mlの寒天)。単細胞懸濁液を達成するべく1mlの注射器を用いて穏やかな吸引を繰り返した。
【0140】
その後、SRBCの支持細胞層上でペトリ皿内にトリプリケートで1mlを平板固定した(これらの調製については別段階を参照のこと)。
【0141】
寒天が凝固した時点で1mlの培地を上に添加し、プラスチックトレー上に18〜24枚の皿を置き、水の入った2枚のペトリ皿を各トレイ上に置いて条件付けした。湿度100%、37℃でCO2−インキュベータ(CO2:75%)内で細胞を成長させた。3週間後にコロニー(細胞64個超)を計数した。
【0142】
薬物の調製:
実験薬物を最終濃度の300倍で倍地中に溶解させる。
【0143】
細胞:
単細胞懸濁液を達成するために1mlの注射器を用いて細胞を吸引し、ニグロシン0.1%(1:1)と混合した。8分後に生存細胞を計数した。
【0144】
培地の調製
M199を、FCS10%、Hepes緩衝液25mM、L−グルタミン1.9mM、のペニシリン50U/ml及びのストレプトマイシン50μg/mlで補完した。
【0145】
SRBC(ヒツジ赤血球)寒天平板の調製
寒天:
1200mgの寒天と100mlの無菌H2Oを1時間沸騰させ、次に5分間37℃の水浴上に置いた。
【0146】
SRBC:
ヒツジ血液を5500rpmで遠心分離し、上清を除去した。その後、等張生理食塩水中で2回赤血球を洗浄した。
【0147】
完全支持細胞層:
寒天、SRBC、培地及び補充物を(示された溶液中最終濃度となるまで)混合した;L−グルタミンを含まないアールのMEM(×0.55)、アールのMEMアミノ酸(×0.547)、アールのMEMビタミン(×0.55)、L−グルタミン(1.1mM)、ペニシリン(27.4U/ml)、ストレプトマイシン(27.4U/ml)、グルコース(0.03%)、重炭酸ナトリウム(0.06%)、2−メルカプトエタノール(3μl/l)、寒天(0.5%)、SRBC(0.03ml/ml)。
【0148】
この混合物を1ml、次にペトリ皿に入れ、室温で1時間凝固させた。5℃に保ち、製造から1週間以内に使用した。
【0149】
材料:
PBS(pH7.5)は、NaCl8.0g/l;KCl0.2g/l;Na2HPO4、2H2O1.44g/l;KH2PO40.2g/lから成り、オートクレーブ内で滅菌した。
【0150】
Bacto寒天をBle&Berntsen(Rodouve、デンマーク)から入手し、Alsevers液中のヒツジ血液(1:1)は、States Serum Institute(Copenhagen、デンマーク)から入手した。
【0151】
全ての試薬はGibco(Taastrup、デンマーク)から入手した。
【0152】
結果
それぞれ野生型細胞及びPAI−1遺伝子欠損細胞のコロニー形成に対するさまざまなタイプの細胞毒性薬物の効果は、図4に示されている。PAI−1欠損細胞は、適用された薬物の全てに対する感受性が野生型細胞よりも高いことがわかる。
【0153】
論述
この例は、PAI−1発現が欠如した細胞のアポトーシス誘発剤に対する感受性がPAI−1を発現する細胞よりも高いことを示している。
【0154】
抗癌薬に対する野生型及び遺伝子欠損細胞のその他の対の感受性を試験するために同等の実験設計を使用することが可能である。
【0155】
例3
エトポシド(VP−16)のインビボ毒性に対するPAI−1遺伝子欠損の効果
【0156】
癌患者に対し全身的に細胞毒性薬を投与する場合、癌細胞と体内の残りの部分の正常な細胞の両方が薬物の毒性効果に対し曝露されることになる。細胞を薬物の細胞毒性効果に対し感作させる場合、かかる感作は潜在的に癌細胞と正常細胞の両方に影響を及ぼす。
【0157】
この例で我々は、細胞毒性薬に対する感受性がPAI−1発現の欠如した癌細胞において高まるのに対し、正常細胞における毒性を実験した場合にこれがあてはまらない、ということを示している。
【0158】
インビボでの毒性実験
我々は、体重減少に関してPAI−1+/+マウスと−/−マウスの間の感受性の「比較」により、無傷のマウスの感受性を調査した。
【0159】
さらに、予測された底値の日(3日目(WBC))と5日目に採血し、血液学的評価を行なった。この研究において使用した実験的薬物はエトポシドであった。
【0160】
マウス:METATM/Bom nu/nu;PAI−1+/+及びPAI−1−/−、サイズ(グラム):24〜30グラムの雌及び雄(さらなる特徴づけについては例1を参照のこと)。
【0161】
麻酔されていないマウスで尾部静脈から血液試料を取った場合WBCが高くなることがわかっていたため、採血の前に0.15mlのハイプノーム/ドルミカム(2.5mg/ml;1.25mg/ml)でマウスを麻酔した。雄4匹と雌6匹のPAI−1+/+マウス及び雄8匹及び雌6匹PAI−1−/−マウスに腹腔内で75mg/kgのエトポシドでの処置を施した。
【0162】
対照として、雄4匹、雌8匹のPAI−1+/+マウスと雄5匹及び雌4匹のPAI−1−/−マウスが腹腔内ビヒクルを受けた。
【0163】
薬物/試験製品:
Pharmacia A/S、デンマークから購入したエトポシド、バッチ番号:T309A。該薬物を、以下の表に従ってNaCl溶媒(バッチ3036111)中で体重との関係において作られたばかりの状態で、腹腔内で投与した。
【表1】

【0164】
結果
インビボ
体重減少に対して薬物が誘発する効果
【表2】

【0165】
エトポシド処置されたマウスにおいては有意な体重減少が存在する。
【0166】
初期体重に対する統計学的正規化によると、処置の効果としては、未処置マウス(P<0.0001)に比べて処置済みマウスに有意な体重減少がみられ、一方遺伝子型(P=0.30)又は性別(P=0.41)間で差異は全くみられなかった。
【0167】
白血球(WBC)に対して薬物が誘発する効果
3日目に底値を伴って(P=0.0003)両方の遺伝子型においてエトポシドは白血球計数(WBC)を抑制するが、PAI−1+/+及びPAI−1−/−マウスからの応答、又は雄と雌の間(O=0.58)には全く差異は見られない(P=0.99)。
【0168】
論述
この例は、細胞毒性薬に対する癌細胞の感受性がPAI−1遺伝子欠損によって増強されるものの、薬物により誘発される死滅、体重減少及びwbc計数によって示される通り生きた動物の体内の正常な細胞は、誘発されたPAI−1遺伝子欠損により細胞毒性薬物の細胞毒性効果に対し感作されない、ということを実証している。かくして、当該発見事実は、細胞毒性薬と及びプロテアーゼ阻害物質のブロッカーとの同時治療が細胞毒性薬の治療指数を増大させることになるということを表わしている。さらに広義には、この例は、全身的毒性の増大を結果としてもたらすことなく細胞毒性薬の投与に先立って、プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス機能のブロッカーを全身的に投与することができるということを表わしている。
【0169】
例4
野生型及びPAI−1遺伝子欠損線維肉腫細胞におけるVP−16又は腫瘍壊死因子−α(TNF−α)により誘発されたアポトーシスの定量
【0170】
クローン原性の潜在性の差異がPAI−1−/−線維肉腫細胞内の薬物の細胞毒性の増加に起因しているか否かが試験された。
【0171】
材料と方法
血漿膜の損傷は、細胞死についての1つのパラメータとして古典的に評価される。インビボでは、アポトーシス細胞の血漿膜は、細胞が貧食されるまで存続する。これとは対照的に、壊死細胞の死は結果として、細胞外環境に対する細胞質の漏れをもたらし、これは炎症性応答を導く。細胞培養条件下で、アポトーシス刺激に付された細胞は最初アポトーシスにより死滅するが、後に細胞培養内の食菌の欠如に起因して二次壊死へとシフトすることになる。細胞毒性又は細胞溶解は、培養液上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を決定することにより測定できる。この目的で、「細胞毒性検出キット」(Roche, Mannheim、ドイツ)が利用された。
【0172】
PAI−1−/−及びPAI−1+/+線維肉腫細胞を96ウェルのマイクロタイタープレート(2500細胞/ウェル)内に播種した。24時間後、図3及び2に示されている通りに、細胞をTNF−α及びエトポシドで24時間及び48時間処置する。50μlの培養液上清(合計;200μl)を新しい96ウェルのマイクロタイタープレートに移送し、50μlの基質混合物と混合する。残りの上清を廃棄し、200μlの溶解緩衝液(CM中の1%のトリトン−X100)を添加することで残った無傷細胞を溶解させる。37℃で30分間溶解した後、50μlの溶解物を新しい96ウェルのマイクロタイタープレートに移し、基質混合物50μlと混合する。基質混合物を光から保護した状態で、細胞培養液上清及び溶解物を10分間インキュベートする。λ1=490nm及び基準λ2=650nmで、分光光度計上で吸光度を測定する。%単位の放出LDH量を合計量と以下のように関係づけする:
【0173】
細胞毒性(LDH放出%)=LDHsupernatant/合計LDH(LDHsupernatant+LDHlysate)×100%
【0174】
結果
PAI−1遺伝子欠損が線維肉腫細胞をアポトーシスに対し感受性にしているか否かを分析するために、PAI−1−/−及びPAI−1+/+線維肉腫細胞をエトポシド及びTNF−αで処置した。図3及び2は、エトポシド及びTNF−αがPAI−1−/−及びPAI−1+/+の両方の線維肉腫細胞の用量依存型細胞溶解を誘発したことを示している。しかしながらPAI−1−/−線維肉腫細胞は、エトポキシド及びTNF−α処置に対しPAI−1−/−線維肉腫細胞よりも有意に高い感受性をもつ。図2に示されているように、1.25μMのエトポキシドでの処置は、PAI−1−/−線維肉腫細胞からは41.1%のLDHが放出されるのに対しPAI−1+/+線維肉腫細胞からの1%のLDH放出を誘発した。図3に示されているように、2.5ng/mlのTNF−αでの処置は、PAI−1−/−線維肉腫細胞から46.3%のLDHが放出されたのに対し、PAI−1+/+線維肉腫細胞からの7.3%のLDHの放出を誘発した。これらの結果は、PAI−1−/−及びPAI−1+/+線維肉腫株化細胞の新たに確立された対の中で再現された。
【0175】
結論:
全体として、本例は、PAI−1遺伝子発現の欠如により、悪性細胞はアポトーシス誘発剤に対しさらに高い感受性をもつものとなる、ということを示している。この発見事実は、例2及び3の発見事実と完全に一致しており、関連する抗癌治療の治療指数(TD50/ED50)を増大させるべくアポトーシス誘発性抗癌治療を補完することが可能となるということを強調している。
【0176】
例5
野生型及びTIMP−1遺伝子欠損線維肉腫細胞におけるVP−16により誘発されたアポトーシスの定量化エトポシドが野生型細胞に比べTIMP−1−/−線維肉腫細胞中で増大した細胞毒性を誘発するか否かが試験された。
【0177】
材料と方法
血漿膜の損傷は、細胞死についての1つのパラメータとして古典的に評価される。インビボでは、アポトーシス細胞の血漿膜は、細胞が貧食されるまで存続する。これとは対照的に、壊死細胞の死は結果として、細胞外環境に対する細胞質の漏れをもたらし、これは炎症性応答を導く。細胞培養条件下で、アポトーシス刺激に付された細胞は最初アポトーシスにより死滅するが、後に細胞培養内の食菌の欠如に起因して二次壊死へとシフトすることになる。細胞毒性又は細胞溶解は、培養液上清中の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)の放出を決定することにより測定できる。この目的で、「細胞毒性検出キット」(Roche, Mannheim、ドイツ)が利用された。
【0178】
TIMP−1−/−及びTIMP−1+/+線維肉腫細胞(マウスからの線維肉腫細胞の確立については上述の方法を参照のこと)を96ウェルのマイクロタイタープレート(2500細胞/ウェル)内に播種した。24時間後、細胞をエトポシドで24時間処置する。50μlの培養液上清(合計;200μl)を新しい96ウェルのマイクロタイタープレートに移送し、50μlの基質混合物と混合する。残りの上清を廃棄し、200μlの溶解緩衝液(CM中の1%のトリトン−X100)を添加することで残った無傷細胞を溶解させる。37℃で30分間溶解した後、50μlの溶解物を新しい96ウェルのマイクロタイタープレートに移し、基質混合物50μlと混合する。基質混合物を光から保護した状態で、細胞培養液上清及び溶解物を10分間インキュベートする。λ1=490nm及び基準λ2=650nmで、分光光度計上で吸光度を測定する。%単位の放出LDH量は合計量と以下のように関係づけられる:
【0179】
細胞毒性(LDH放出%)=LDHsupernatant/合計LDH(LDHsupernatant+LDHlysate)×100%
【0180】
結果
TIMP−1遺伝子欠損が線維肉腫細胞をアポトーシスに対し感受性あるものにしているか否かを分析するために、TIMP−1−/−及びTIMP−1+/+線維肉腫細胞をエトポシドで処置した。図6は、エトポシドがTIMP−1−/−及びTIMP−1+/+の両方の線維肉腫細胞の用量依存型細胞溶解を誘発したことを示している。しかしながらTIMP−1−/−線維肉腫細胞は、エトポキシド処置に対しTIMP−1−/−線維肉腫細胞よりも有意に高い感受性をもつ。これらの結果は、TIMP−1−/−及びTIMP−1+/+線維肉腫株化細胞の2つの付加的な対の中で再現された。
【0181】
結論:
この例は、TIMP−1遺伝子発現の欠如により、悪性細胞はアポトーシス誘発剤に対しさらに高い感受性をもつものとなる、ということを示し、関連する抗癌治療の治療指数(TD50/ED50)を増大させるべくアポトーシス誘発性抗癌治療を補完することが可能となるということを強調している。
【0182】
例6
プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス機能を阻害し得る化学物質及び天然産物についてのハイスループットスクリーニング
【0183】
A. PAI−1のブロッカーについてスクリーニングするための単細胞ベースの検定
96ウェルのマイクロタイタープレート(2500細胞/ウェル)の中にPAI−1+/+線維肉腫細胞を播種する。24時間後に、化学療法薬による処置の一時間前に化学化合物又は天然産物で細胞を処置する。例4で記述されているように、細胞毒性検出キット(Roche, ドイツ)により細胞死を分析する。化学療法薬での処置に対しPAI−1+/+線維肉腫細胞を感作させる化学化合物又は天然産物として、ヒットを定義づけする。そのヒットの感作効果がPAI−1の阻害に起因していることを確認するため、その後、PAI−1−/−線維肉腫細胞について、スクリーニングにおいて同定されたヒットを試験する。かくして、PAI−1+/+線維肉腫細胞を感作するもののPAI−1−/−細胞に対してはいかなる効果ももたない化合物及び天然産物が、さらなる分析のために選択される。
【0184】
その他の野生型及び遺伝子欠損線維肉腫株化細胞、例えばTIMP−1細胞の対について、類似の実験セットアップを使用することができる。
【0185】
B: PAI−1の抗アポトーシス機能のブロッカーについてスクリーニングするための代替的細胞ベースの検定
組換え型PAI−1は、培養中の細胞にrPAI−1が直接添加された時点で腫瘍細胞のエトポシド及びカンプトテシン誘発型アポトーシスを阻害することが実証されてきた(Kwaan et al., 2000年、BJC)。この防御効果は、PAI−1の抗アポトーシス効果を阻害する化合物(天然又は合成)についてスクリーニングするために使用可能である。PC−3細胞を96ウェルのマイクロタイター平板内に播種する。24時間後に、化学療法薬により処置する1時間前に組換え型ヒトPAI−1(rhPAI−1)で細胞を処置する。対照は次のものである:1)rhPAI−1及び化合物又は天然産物の添加無く化学療法薬で処置された細胞及び2)化合物又は天然産物無しでrhRAI−1と組合わされた化学療法薬で処置された細胞。48時間の処置後、例4で記述される通りに、細胞毒性検出キット(Roche、ドイツ)により細胞死を分析する。化学療法薬により誘発されたアポトーシスに対し細胞を感作させる化合物又は天然産物がさらなる分析のために選択される。例えばTIMP−1細胞といったその他の野生型及び遺伝子欠損線維肉腫株化細胞対及び例えばTIMP−1といった組換え型プロテアーゼ阻害物質で、類似の実験セットアップを使用することができる。
【0186】
C: PAI−1の抗アポトーシス機能の推定ブロッカーについてスクリーニングするための無細胞検定
マルチウェル平板の底面上に組換え型PAI−1をコーティングする。代替的には、マルチウェルのプラスチック表面に対しrPAI−1を連結させるために抗体を使用する。潜在的ブロッカーを伴う試験材料を添加し、混合物をインキュベートする。その後ウェルを洗浄し、ひき続き、標識されたuPA又はtPAを添加し、混合物をインキュベートする。ここでウェルは洗浄されており、標識された分子についての検出系が適用される。試験材料がPAI/1/uPA又はPAI−1/tPAのブロッカーを含有していた場合、いかなる標識も検出されない。
【0187】
例えばTIMP−1及びマトリックスメタロプロテイナーゼといったその他のプロテイナーゼ阻害物質についても、類似の実験セットアップを使用することができる。
【0188】
例7
遺伝子型の復帰による確認
PAI−1遺伝子欠損線維肉腫細胞のアポトーシスに対する感受性の増大が実際にPAI−1発現の欠如に起因することを確認するため、PAI−1発現の再導入により感受性ある表現型が復帰され得るか否かを試験した。
【0189】
材料と方法
PAI−1−/−線維肉腫細胞のトランスフェクションを、2×105細胞を利用しメーカーの指示事項に従ってリポフェクタミン2000(Roche)を使用することによって実施した。2日後に細胞を組織培養フラスコ内に播種し、100μg/mlのハイグロマイシンを培地に添加して、プールした集団内のトランスフェクション済みの細胞について選択した。トランスフェクションから2カ月後に実験を実施した。エトポシド及びトランスフェクション−αで細胞を処置し例4に記述した通りLDH放出を検出することによって、アポトーシスに対する感受性を測定した。
【0190】
結果
PAI−1−/−線維肉腫細胞内のマウスPAI−1の異所性発現により線維肉腫細胞のアポトーシスに対する感受性が低くなるか否かを分析するため、マウスPAI−1cDNAを含有する発現プラスミドでPAI−1−/−線維肉腫細胞を安定した形でトランスフェクトした。トランスフェクションを受けた細胞の選択の後、エトポシド及びTNF−αで、トランスフェクションを受けた線維肉腫細胞及び親線維肉腫細胞を処置した。図5a及び5bは、エトポシド及びTNFαが、トランスフェクションを受けた線維肉腫細胞及び親線維肉腫細胞の両方の細胞分解を誘発することを示している。しかしながら、mPAI−1を異所的に発現するPAI−1−/−細胞(PAI−1−/−(PAI−1プール))は、PAI−1−/−(ベクタープール)及び親PAI−1−/−線維肉腫細胞よりも有意に高い耐性をエトポシド及びTNF−α処置に対して有している。PAI−1−/−(PAI−1プール)細胞は、エトポシド及びTNFα誘発された細胞死に対して親PAI−1+/+線維肉腫細胞とほぼ同じ耐性を示した。この結果と一致して、PAI−1−/−(PAI−1プール)及びPAI−1+/+線維肉腫細胞は、PAI−1の類似の発現レベルを有している(データ図示せず)。
【0191】
結論:
この例は、PAI−1発現の再導入が悪性細胞を、アポトーシス誘発剤に対してより耐性にすることを示している。この発見事実は、PAI−1−/−線維肉腫細胞の感受性表現型がPAI遺伝子発現の欠如に起因することを確認している。このことは、PAI−1の抗アポトーシス機能の仮説を裏づけしている。
【0192】
例8
転移性乳癌患者におけるTIMP−1及びPAI−1の予測値
【0193】
序論
多数の乳癌患者が疾病の再発を経験することになる。転移性疾患の診断を受けたとき、これらの患者には、細胞毒性療法、内分泌治療、放射線治療又はその他の治療方法であり得る抗癌治療が提供される。転移性乳癌患者における治療に対する他覚的応答率は、通常50〜60%と低く、極わずかな患者しか治癒しない。かくして、50〜60%の患者しか治療に応答しないことから、高い割合の人は治療しても効果がない。しかしながら、治療を受けても応答しない患者のこのグループはそれでも該治療に付随する副作用に苦しんでいる。
【0194】
かくして、特定の治療の利益を受けないと思われる患者を同定するための方法が、患者の生活の質にとってきわめて重要であり、社会−経済的価値を有することにもなる。理想的には、異なる治療の効能を試験することが可能であるべきである。もしそうであれば、患者に、早期段階で最も効果的な治療タイプを提供することができるであろう。
【0195】
遡及的に、我々は、原発性腫瘍からの腫瘍組織内のTIMP−1及びPAI−1濃度の予測値を研究した。この研究には174人の患者が含み入れられ、全員転移性乳癌を有し全員が細胞毒性薬による化学療法を受けていた。
【0196】
材料と方法
患者
オランダ、ロッテルダムのエラスムス大学の医学倫理委員会により承認を受けたより大規模な研究の一部として、組織試料を収集した(プロトコル番号MEC02,953)。この大規模な研究のための内含基準は以下の通りであった。すなわち、患者は1978〜1992年の間に原発性乳癌の診断を受け、診断の時点で転移性疾患を全く有しておらず、以前に癌腫の診断を全く受けたことがなく(基底細胞皮膚癌腫及び第I期子宮頸癌を除く)、初回手術から1カ月以内には疾病の徴候を全く示さなかった。手術不可能なT4腫瘍(国際対癌連合TNM腫瘍−結節−転移分類に従った病期分類)を有する患者及び外科手術前に新アジュバント治療を受けた患者は除外された。生検から得られた組織試料は内含されなかった。さらに、初回手術から100日以上後に医療機関に受入れられた患者及び初回手術の時点で遠位転移を有する患者(M1患者)は除外された。試料の選択は、日常的なエストロゲン受容体(ER)及びプロゲステロン受容体(PgR)分析の後に残留していた貯蔵された細胞質ゾル抽出物(液体窒素中)の利用可能性に基づいていた。
【0197】
当該研究の中に内含された174の試料は、細胞毒性療法で治療された転移性疾患の存在に基づき試料の全グループから選択された。
【0198】
外科手術時の患者の年令中央値は47才(24〜79才の範囲)であった。116人(67%)はリンパ節陽性(うち2名の患者はリンパ節状態が未知である)であり、58人(33%)がリンパ節陰性であった。第1選択(First line)化学療法の開始時点で93人の患者(53%)が更年期前であり、81人(47%)が更年期後であった。T1腫瘍(≦2cm)は、42人の患者(24%)に存在し、T2腫瘍(2〜5cm)は101人の患者(58%)に存在し、T3腫瘍(>5cm)が16人(9%)の患者に存在し、手術可能なT4腫瘍が11人の患者(6%)に存在した。4人の患者はT状態のわからない腫瘍を有していた。病理学検査が以下の通りに実施された:腫瘍の最大の直径として腫瘍サイズを記録した。分化グレードは、領域病理学者の報告書中で記されているように組織学的及び細胞特性に基づいたものであり、全ての腫瘍試料の中央病理学的再調査に基づくものではなく、従って、それは日々の実施を反映している。局所病理学者は腫瘍を、高分化、中分化又は低分化腫瘍として分類した。リンパ節は、腫瘍の関与を伴う結節の数を確認するべく組織学的に検査された。組織学的分化グレードは、112人の患者(64%)において低分化、10名(6%)において中分化、そして52人の患者(30%)について未知であった。37名の患者(主として更年期前患者)に対しアジュバント化学療法(主としてシクロホスファミド/メトトレキサート/5−フロオルウラシル、CMF)が与えられ、一方25人の患者は、単独(24人の患者)又は化学療法と組み合わせて(1人の患者)、アジュバントホルモン療法(主として更年期後患者)を受けた。
【0199】
25人の患者は、局所領域的疾病再発を有し、18人は、鎖骨上再発を有し、116人は遠位転移を患い、7人は対側性胸部に至る疾患の拡がりを有し、8人の患者が局所リンパ節に至る転移を有していた。優勢な再発部位は30人の患者において軟組織であり、31人の患者で骨、113人において内臓であった。転移性疾患についての化学療法の開始における年令中央値は50才であった。94名の患者(54%)は、転移性疾患についてのCMFを受け、80人(46%)がアントラサイクリン含有投薬計画を受けた。初回化学療法の開始からの進行までの時間の中央値は5カ月であり、生存時間の中央値は14カ月であった。全体として、化学療法に対する他覚的応答率は37%であった。
【0200】
腫瘍組織の抽出
腫瘍組織試料を液体窒素の中に保存しシトゾルER及びPgR決定のために乳房腫瘍組織を処置するため、欧州癌研究・治療機関(EORTC)により推奨された通りにミクロディスメンブレーターを用いて凍結状態で粉砕した。結果として得た組織粉末をEORTC受容体緩衝液(10mMの塩化2カリウムEDTA、3mMのアジ化ナトリウム、10mMのモノチオグリセロール及び10%のv/vグリセロール、pH7.4)中で懸濁させた。上清画分(シトゾル)を得るために100,000×gで30分間懸濁液を遠心分離した。
【0201】
TIMP−1 ELISA
サンドイッチ−フォーマットのELISA法により、TIMP−1の合計レベルを決定した;免疫検定平板(Nunc Maxisorp, Nunc, Denmark)を、4℃で一晩0.1Mの炭酸塩緩衝液(pH9.5)中で4mg/Lとなるまで希釈した、100μLのヒツジポリクローナル抗−TIMP−1抗体でコーティングした。次にウェルを、PBS中で希釈させた200μLのPierce Superblock (Pierce Chemicals)で2回洗い流した。その後、1g/LのTween-20を含有するPBSで5回、ウェルの洗浄を実施した。洗浄後、組織抽出物の複製物とともに30℃で1時間、ウェルをインキュベートした。予めEORTC受容体緩衝液中で1mgのタンパク質/mlまで希釈された抽出物をさらに、試料希釈緩衝液(50mMのリン酸塩、pH7.4、10mg/mlのウシ血清アルブミン(画分V、Sigma-Aldrich, Steinheim, ドイツ)及び0.1%v/vのTween−20)中で22倍に希釈した。各検定平板上に、ヒト組換え型TIMP−1の7つの希釈物(それぞれ5、3、2、1、0.5、0.25及び0.1ng/ml)から成る一連の標準(上述のとおり検定希釈緩衝液中に希釈されたもの)が、ブランクウェルの複製物(検定希釈緩衝液のみ)と合わせてデュプリケートで内含されていた。TIMP−1の結合後に、1g/LのTween-20を内含するPBSでウェルを5回洗浄し、遊離TIMP−1及びTIMP−1とさまざまなMMPs[MAC15]の複合体の両方を検出する特異的抗−TIMP−1モノクローナル抗体を用いてTIMP−1を検出した。モノクローナル抗体を0.5mg/Lの濃度まで試料希釈緩衝液中で希釈させ、インキュベーションは、1ウェルにつき100μLの希釈された抗体で1時間30℃で行なわれた。平板を次に、1g/LのTween-20を含むPBSで5回洗浄し、1ウェルにつき100μLのアルカリホスファターゼ(DAKO, Glostrup, デンマーク)と接合されたウサギ抗マウスポリクローナル抗体と共に30℃で1時間インキュベートした。この抗体を試料希釈緩衝液中で1:2000に希釈した。インキュベーションの後、平板をPBSと1g/LのTween-20で5回そして純水で3回洗浄した。各ウェルに100μLの作られたばかりのP−ニトロフェニルホスファート(Sigma)基質溶液(0.1Mのトリス−HCl中1.7g、pH9.5、0.1MのNa細胞、5mMのMg細胞)を添加し、吸光マイクロプレートリーダーの中で405nmで平板を読取った。読取りは1時間10分毎に自動的に実施した。
【0202】
腫瘍のシトゾル抽出物中のTIMP−1濃度の測定のために、検定をその有効性について徹底的に確認した(Schrohl et al. 2003年、Mol Cell Proteomics. 2(3):164−72)。
【0203】
PAI−1 ELISA
サンドイッチフォーマットを用いてPAI−1の濃度を決定した。ポリクローナル抗−PAI−1抗体の溶液(#395−G、American Diagnostica, Greenwich, CT, 1ウェルあたり100μL、2μg/L)でマイクロタイタープレート(Greiner- Alphen a/d Rljn, オランダ)をコーティングした。コーティング溶液の除去後、100μLの組織抽出物又はPAI−1標準でウェルをインキュベートした。1mgのタンパク質/mlの濃度まで予め抽出物を希釈させ、さらに20倍に希釈させた。PAI−1標準は、0.05〜5.0ng/mlの範囲を網羅し、American Dignostica(#1090)から入手した。インキュベーションは加湿チャンバ内で4℃で一晩行なわれた。この後、平板を4回洗浄し、1:20に希釈した抗−PAI−1モノクローナル抗体(HD−PAI−1 14.1ref.)の培養液上清と共に23℃で1時間インキュベートした。この抗体は、活性形態ならびに不活性形態のPAI−1と同様ウロキナーゼ、組織型プラスミノゲン活性化因子及びビトロネクチンと複合した形でのPAI−1も検出する。インキュベーションの後、平板を洗浄し、23℃で1時間1ウェルあたり100μLのペルオキシダーゼ接合型ヤギ抗マウス抗体で処置した。PAI−1の量は、1.2フェニレンジアミン反応(DAKO, Glostrup, デンマーク)を用いて検出し、10分後に反応をH2SO4で停止し、吸光度を490nmで測定した。
【0204】
対照を全ての平板に内含させ(プールされたヒト乳房腫瘍シトゾル)、検定間変動の計算のために使用した;検定内変動も同様に決定した(Foekens et al.)。
【0205】
合計タンパク質濃度の決定
ヒト血清アルブミンを標準として用いてクーマシーブリリアントブルー方法(Bio Rad Laboratories、CA)を用いて合計シトゾルタンパク質を定量化した。TIMP−1及びPAI−1の濃度(合計タンパク質1mgあたりのTIMP−1又はPAI−1のng)の正規化のために、タンパク質濃度を用いた。
【0206】
結果
組織抽出物の合計タンパク質濃度(合計タンパク質1mgあたりのTIMP−1又はPAI−1のng)に対し、TIMP−1及びPAI−1の濃度を正規化した。
【0207】
TIMP−1−低及びTIMP−1−高の腫瘍及びPAI−1−低及びPAI−1−高の腫瘍へと腫瘍を類別できるようにするため、等調回帰分析を用いてカットポイントを識別した。
【0208】
これらのカットポイントを用いて、18名の患者をTIMP−1−高腫瘍を有するものとして(156人はTIMP−1−低腫瘍を有していた)分類し、25人の患者はPAI−1−高腫瘍を有していた(149人はPAI−1−低腫瘍を有していた)。我々は次に以下のグループの中で化学療法に対する応答を調べた:
a) 腫瘍組織 TIMP−1及びPAI−1低(142名の患者)
b) 腫瘍組織 TIMP−1低及びPAI−1高又はTIMP−1高及びPAI−1低又は両方共高(32名の患者)。
【0209】
化学療法に対する応答を応答(完全又は部分)又は無応答(進行性又は安定した疾病)として評価した。結果は以下の通りであった(P<0.001)。
グループ a(低/低) b(高/低又は高/高)
応答 44%(62/142) 6%(2/32)
無応答 56%(80/142) 94%(30/32)
【0210】
かくして、TIMP−1、PAI−1又はその両方の高い腫瘍組織レベルを有する患者のグループにおいて、化学療法(CMF又はアントラサイクリン)に対する応答率はわずか6%であった。その腫瘍内で低いTIMP−1及びPAI−1の両レベルを有していた患者のグループにおいては、応答率は44%であった。
【0211】
結論
この研究は、その原発性腫瘍が高いTIMP−1及び/又はPAI−1レベルを発現する乳癌患者が転移という設定でCMFでの化学療法又はアントラサイクリンベースの投薬計画に応答する最小限の確率しかもたないことを示している。しかしながら、原発性腫瘍においてTIMP−1及びPAI−1のレベルが低い患者は、CMF又はアントラサイクリンでの化学療法に対する応答を予測することのできるサブグループを構成する。
【0212】
本発明の以上の一般的記述において言及した通り、免疫組織化学又はFISH又はCISHを用いて、同じ患者からの癌細胞がTIMP−1又はPAI−1を発現するか否かを決定することも同様に可能であったと思われる−図7は、TIMP−1が間質細胞(図7A)及び癌細胞(図7B)内に局在化されている場合の、腫瘍組織内のTIMP−1の局在化パターンの著しい差異を実証しており、かくして腫瘍組織の免疫組織化学分析からの容易な読出しを実証している。このような場合、PAI−1又はTIMP−1に向かっての免疫反応(又は代替的にはFISH又はCISHにより示されているとおりの対応する遺伝子の増幅)を示す患者は、CMF又はアントラサイクリンでの化学療法投薬計画に対する非応答者とみなされる。
【0213】
例9
プロテアーゼ阻害物質における依存性のための薬物試験
プロテアーゼ阻害物質に対する依存性についての薬物試験マルチウェル皿内でPAI−1+/+又はPAI−1−/−線維肉腫細胞を播種する。24〜48時間後に抗癌薬を添加し、LDH放出により決定されるような効果(例4参照)を測定する。PAI−1+/+細胞に比べPAI−1−/−細胞が処置に対しより高い感受性を有する場合、問題の薬物の効能はPAI−1に左右されると結論づけることができ、一方2つの株化細胞内で類似の感受性が見られる場合、抗癌薬の効果はPAI−1と無関係である。その他のプロテイナーゼ阻害物質野生型及び遺伝子欠損線維肉腫株化細胞対を試験するためにも、類似の実験的セットアップを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0214】
【図1】野生型マウス及びPAI−1遺伝子欠損マウスの体内での野生型細胞及びPAI−1遺伝子欠損動物由来の細胞の腫瘍形成性を示すグラフ。 PAI−1−/−で形質転換された繊維芽細胞(線維肉腫)から成る腫瘍の成長は、宿主PAI−1遺伝子型(p=0.0001)とは無関係に19日目(中央値)に40mm3のサイズに達したPAI−1+/+線維肉腫に比べて、これらの腫瘍が74日目(中央値)にこのサイズに達したことから、著しく遅延されていた。
【図2】PAI−1−/−及びPAI−1+/+線維肉腫細胞に対するエトポシドの細胞毒性効果。 48時間、PAI−1−/−及びPAI−1+/+線維肉腫細胞をエトポシドで処置し、放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性(合計活性の%)として細胞毒性を測定した。値は、3つの独立した実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【図3】PAI−1−/−及びPAI−1+/+線維肉腫細胞に対するTNF−αの細胞毒性効果。 PAI−1−/−及びPAI−1+/+線維肉腫細胞を24時間TNF−αで処置し、放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性(合計活性の%)として細胞毒性を測定した。値は、3つの独立した実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【図4】それぞれ、野生型細胞及びPAI−1遺伝子欠損細胞のコロニー形成に対するさまざまなタイプの細胞毒性薬物の効果。
【図5A】PAI−1−/−及びPAI−1でのトランスフェクションを受けたPAI−1−/−線維肉腫細胞に対するエトポシドの細胞毒性効果。 48時間、PAI−1−/−及びトランスフェクションを受けたPAI−1−/−線維肉腫細胞をエトポシドで処置し、放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性(合計活性の%)として細胞毒性を測定した。値は、3つの独立した実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【図5B】PAI−1−/−及びPAI−1でのトランスフェクションを受けたPAI−1−/−線維肉腫細胞に対するエトポシドの細胞毒性効果。 48時間、PAI−1−/−及びトランスフェクションを受けたPAI−1−/−線維肉腫細胞をエトポシドで処置し、放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性(合計活性の%)として細胞毒性を測定した。値は、3つの独立した実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【図6】TIMP−1−/−及びTIMP−1+/+線維肉腫細胞に対するエトポシドの細胞毒性効果。TIMP−1−/−及びTIMP−1+/+線維肉腫細胞を48時間エトポシドで処置し、放出された乳酸デヒドロゲナーゼ活性(合計活性の%)として細胞毒性を測定した。値は、3つの独立した実験の平均値±標準偏差を表わしている。
【図7】ホルマリンで固定したパラフィン包埋乳癌組織中のTIMP−1の免疫反応性。 A:TIMP−1免疫反応性が腫瘍間質細胞内に見られる。B:TIMP−1免疫反応性が腫瘍細胞内に見られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内での抗癌療法の効果を改善するための方法であって、前記抗癌療法に対する非悪性細胞の感受性を実質的に増大させることなく前記抗癌療法に対する該患者の体内の悪性細胞の感受性を増大させる段階を含んで成る方法。
【請求項2】
患者の体内で少なくとも1つのプロテアーゼ阻害物質のプロテアーゼ阻害活性の抗アポトーシス効果の阻害をもたらし、これにより前記抗癌療法に対する非悪性細胞の感受性に比べて前記抗癌療法に対する悪性細胞の感受性を増大させる段階を含んで成る請求項1に記載の方法。
【請求項3】
患者に対しプロテアーゼ阻害物質のインビボ抗アポトーシス作用のブロッカーを投与することによって阻害が達成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
プロテアーゼ阻害物質がセリンプロテアーゼ阻害物質であるか、メタロプロテアーゼの阻害物質であるか、システインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)の阻害物質であるか、アスパラギン酸プロテアーゼの阻害物質であるか、その他の任意のタンパク質分解酵素の阻害物質であるか、ヘペラナーゼの阻害物質であるか、あるいは細胞外マトリックスの分解に参加するその他の任意の酵素の阻害物質であり、そして好ましくはプロテアーゼ阻害物質がPAI−1、PAI−2、PAI−3、プロテアーゼネキシン1、TIMP−1、TIMP−2、TIMP−3、TIMP−4、ステフィンA、ステフィンB、及びシスタチンCから成る群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ブロッカーが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗体フラグメント、可溶受容体、低分子分子、天然産物、ペプチド、アンチセンスポリヌクレオチド、リボザイム、及びアンチセンスLNA又はPNA分子といったようなアンチセンスポリヌクレオチドの擬態体から成る群から選択される、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
抗癌療法を開始する前にブロッカーを投与する、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
抗癌療法の開始時点又はその間にブロッカーを投与する、請求項3〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ブロッカーを医薬的に許容される担体、ビヒクル又は希釈剤を内含する医薬組成物の一部分として投与する、請求項3〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
医薬組成物が、経口投与剤形;口腔投与剤形;舌下投与剤形;肛門内投与剤形;及び静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、皮内、筋内及び頭蓋内投与剤形といったような非経口投与剤形から成る群から選択される剤形をしている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
投与が、皮内、皮下、動脈内、静脈内、及び筋内経路といった非経口経路;腹腔内経路;経口経路;口腔経路;舌下経路;硬膜外経路;脊髄経路;肛門経路;及び頭蓋内経路から成る群から選択された経路を介したものである、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
抗癌療法には、患者をアポトーシスによる細胞死を誘発する条件に付す段階が含まれている請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
悪性細胞の感受性の増大が、抗癌療法に付される悪性細胞内のアポトーシスの選択的増大の結果である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
抗癌療法が、腫瘍組織中のプロテアーゼ阻害物質の発現によってその効力が左右されない抗癌薬での患者の治療により補完される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
抗癌療法が、放射線療法、内分泌療法、及び細胞毒性又は細胞増殖抑制化学療法、免疫療法、生物反応修飾物質での治療、タンパク質キナーゼ阻害物質での治療又はこれらの組み合わせから成る群から選択されている、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
細胞毒性又は細胞増殖抑制化学療法が、アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害物質1型及び2型、代謝拮抗物質、チュブリン阻害物質、プラチノイド及びタキサンでの治療から成る群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
内分泌療法が、抗エステロゲン、アロマターゼ阻害物質、ゴナドトロピン阻害物質、抗アンドロゲン、抗黄体ホルモン、又はその組合せによる治療である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
抗癌療法が悪性脳腫瘍、悪性黒色腫、肉腫、頭頸部癌、胃、膵臓、結腸及び直腸癌といった消化管癌、カルチノイド、肺癌、乳癌、卵巣、子宮頸及び子宮体癌といった婦人科の癌、及び前立腺、腎臓及び膀胱癌といった泌尿器科の癌から成る群から選択される悪性新生物を標的としている、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
高いプロテアーゼ阻害物質発現が、悪い予後診断と相関している、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記抗癌療法の効率がプロテアーゼ阻害物質の腫瘍組織発現に左右される場合に、癌患者が1つの抗癌療法から利益を受けることになるか否かを予測するための方法であって、該患者の体内の腫瘍組織からの細胞が予め選択された数多くのプロテアーゼ阻害物質のうちのいずれか1つを発現するか否かを決定する段階及び、前記プロテアーゼ阻害物質のうちのいずれか1つが関連する閾値を超えて発現されている場合該患者が抗癌療法から利益を受けないであろうということを立証し、予め選択されたプロテアーゼ阻害物質のいずれもその関連する閾値を超えて発現されない場合には該患者が該抗癌療法からの利益を受けるであろうということを立証する段階を含んで成る方法。
【請求項20】
予め選択されたプロテアーゼ阻害物質が請求項4に記載のプロテアーゼ阻害物質から成る群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
患者の体内の腫瘍組織に由来する細胞が予め選択された数多くのプロテアーゼ阻害物質のうちのいずれか1つを発現するか否かの決定が、腫瘍組織試料、血液試料、血漿試料、血清試料、尿試料、糞便試料、唾液試料及び胸腔又は腹腔に由来する漿液の試料から成る群から選択された試料について測定を行なうことにより実施される、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
測定段階がDNAレベル測定、mRNAレベル測定例えばインサイツハイブリダイゼーション、ノーザンブロット法、QRT−PCR、及び示差表示、ならびにタンパク質レベル測定例えばウェスタンブロット法、免疫組織化学、ELISA及びRIAを用いて実施される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
抗癌療法がアポトーシスによる細胞死を誘発する、請求項19〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
測定段階が、DNAレベル測定又はタンパク質レベル測定を用いて実施され、腫瘍組織を含むパラフィンブロックといったような患者由来の保存材料について実施される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
DNAレベルの測定が、螢光インサイツハイブリダイゼーション及び発色インサイツハイブリダイゼーションから成る群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
タンパク質レベル測定が免疫組織化学である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
癌患者の抗癌治療のための方法であって、請求項19〜26のいずれか1項に記載の方法に従って、その抗癌療法の効率がプロテアーゼ阻害物質の腫瘍組織発現によって左右される場合に該癌患者が1つの抗癌療法から利益を受けることになるか否かを予測する段階、そしてその後、
a) 該予測が肯定的回答を提供した場合には患者に該抗癌療法を施す段階;又は
b) 該予測が否定的回答を提供した場合には患者を請求項1〜18のいずれか1項に記載の改良型癌療法に付す段階、
を含んで成る方法。
【請求項28】
癌患者の抗癌治療のための方法であって、既存の抗癌療法を受けている患者を監視する段階を含み、患者が該抗癌療法から利益を受け続けることになるか否かの請求項19〜23のいずれか1項に記載の方法に従った予測を反復的に実行することによって該監視が実施され、さらに、
a) 該監視における予測が肯定的回答を提供した場合には患者を該抗癌療法に付し続ける段階;又は
b) 該監視における予測が否定的回答を提供した場合には該患者を請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法を用いてもう1つの抗癌療法に切換える段階、
を含んで成る方法。
【請求項29】
抗癌療法がネオアジュバント療法、アシュバント療法、及び転移性疾患の治療から選択される、請求項27又は28に記載の方法。
【請求項30】
プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を遮断する作用物質を同定するための方法であって、
− プロテアーゼ阻害物質が外部供給源から提供されている場合又はプロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である悪性腫瘍由来の細胞の第1の集団を提供する段階;
− 前記プロテアーゼ阻害物質について−/−である悪性腫瘍由来細胞の第2の集団を提供する段階;
− 確定した濃度の候補作用物質の不在下及び存在下で実質的に同じアポトーシス誘発条件に前記第1及び第2の細胞集団の試料を付す段階;
− 前記試料内で誘発されたアポトーシス度を決定する段階;及び
− 1)第1の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が候補作用物質の存在下で有意に高くなった場合;及び2)第2の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が候補作用物質の存在下で有意に高くならない場合、プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を遮断する作用物質として該候補作用物質を同定する段階、
を含んで成る方法。
【請求項31】
規定された異なる濃度の候補作用物質が、任意的に並行して試験される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
その後、−/−細胞を+/−又は+/+細胞へと復帰させること及び復帰した細胞のアポトーシスに対する感受性が該候補作用物質により有意な形で増大され得ることを立証することによって、該結果が確認される、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
該候補作用物質の不在下で第2の集団に比べ、アポトーシス誘発条件に対する第1の細胞集団の感受性がより低いものである、請求項30〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
第1及び第2の細胞集団の試料が実験動物の体内で成長させられる、請求項27〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
第1及び第2の細胞集団の試料が培養液中で成長させられる、請求項27〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
動物の体内の有害作用の程度も決定される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を遮断する作用物質を同定するための方法であって、
− プロテアーゼ阻害物質が外部供給源から提供されている場合又はプロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である悪性腫瘍由来の細胞の第1の集団を提供する段階;
− 実験動物の体内に第1の細胞集団を移植しそれらを成長させる段階;
− 規定された濃度の候補作用物質の不在下及び存在下で動物をアポトーシス誘発条件に付す段階;
− 前記動物の体内での腫瘍の発達及び/又は進行度を決定する段階;
− 前記動物の体内でのアポトーシスに関係する有害作用の度合を決定する段階;及び
− 1)候補作用物質の存在下で腫瘍発達度が有意に低くなった場合;及び2)アポトーシスに関係する有害作用の度合が候補作用物質の存在下で有意に高くならない場合、プロテアーゼ阻害物質の抗アポトーシス効果を遮断する作用物質として該候補作用物質を同定する段階、
を含んで成る方法。
【請求項38】
アポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無によりその効能が左右される抗癌治療を同定するための方法であって、
− 前記プロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である悪性腫瘍由来細胞の第1の集団を提供する段階;
− 前記プロテアーゼ阻害物質について−/−である悪性腫瘍由来細胞の第2の集団を提供する段階;
− プロテアーゼ阻害物質のアポトーシス防御効果を遮断する有効濃度の作用物質の不在下及び存在下で実質的に同じ抗癌治療に対し前記第1及び第2の細胞集団の試料を付す段階;
− 前記試料内で誘発されたアポトーシス度を決定する段階;及び
− 1)第1の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が該作用物質の存在下で有意に高くなった場合;及び2)第2の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が該作用物質の存在下で有意に高くならない場合、アポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無によりその効能が左右される抗癌治療として該抗癌治療を同定する段階、
を含んで成る方法。
【請求項39】
アポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無によりその効能が左右されない抗癌治療を同定するための方法であって、
− 前記プロテアーゼ阻害物質について+/+又は+/−である悪性腫瘍由来細胞の第1の集団を提供する段階;
− 前記プロテアーゼ阻害物質について−/−である悪性腫瘍由来細胞の第2の集団を提供する段階;
− プロテアーゼ阻害物質のアポトーシス防御効果を遮断する有効濃度の作用物質の不在下及び存在下で実質的に同じ抗癌治療に対し前記第1及び第2の細胞集団の試料を付す段階;
− 前記試料内で誘発されたアポトーシス度を決定する段階;及び
− 1)第1の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が該作用物質の存在下で有意に高くならない場合;及び2)第2の細胞集団からの試料内で誘発されたアポトーシス度が該作用物質の存在下で有意に高くならない場合、アポトーシス阻害性プロテアーゼ阻害物質の有無によりその効能が左右されない抗癌治療として該抗癌治療を同定する段階、
を含んで成る方法。
【請求項40】
抗癌療法の効果を高めることを目的とする医薬調製物の調製のためのプロテアーゼ阻害物質のブロッカーの使用。
【請求項41】
プロテアーゼ阻害物質が請求項4に記載のプロテアーゼ阻害物質から成る群から選択されている、請求項40に記載の使用。
【請求項42】
ブロッカーが請求項5に記載のブロッカーから成る群から選択されている、請求項40又は41に記載の使用。
【請求項43】
抗癌療法がアポトーシスによる癌細胞死を誘発する条件に患者を付す段階を含んで成る、請求項40〜42のいずれか1項に記載の使用。
【請求項44】
患者が抗癌療法に付された時点で非悪性細胞に比べ悪性細胞内での選択的なアポトーシス増加をブロッカーが誘発する、請求項40〜43のいずれか1項に記載の使用。
【請求項45】
抗癌療法が、放射線療法、内分泌療法、及び細胞毒性若しくは細胞増殖抑制化学療法から成る群から選択される、あるいはこれらの組み合わせにおける、請求項40〜44のいずれか1項に記載の使用。
【請求項46】
細胞毒性又は細胞増殖抑制化学療法が請求項1に記載の作用物質での治療から成る群から選択されている、請求項45に記載の使用。
【請求項47】
内分泌療法が請求項15に記載の作用物質での治療から成る群から選択されている請求項45に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−530603(P2007−530603A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505380(P2007−505380)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国際出願番号】PCT/DK2005/000218
【国際公開番号】WO2005/094863
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(506330128)
【出願人】(506330139)
【Fターム(参考)】