プロテインキナーゼの検出及び活性測定方法
【課題】簡易かつ高感度のプロテインキナーゼの検出及び活性測定を可能にするデバイスを提供する。
【解決手段】本発明のポリイオンコンプレックスは、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光物質部分を含むアニオン性分子とを含むことを特徴とする。
【解決手段】本発明のポリイオンコンプレックスは、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光物質部分を含むアニオン性分子とを含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)の検出及び活性測定方法、並びにプロテインキナーゼの検出及び活性測定に用いることのできるデバイス等に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインキナーゼは、癌をはじめ各種疾患の発症と密接に関係していることが報告されている(非特許文献1等を参照)。実際に、プロテインキナーゼの阻害剤は、医薬品開発のターゲットとなっており、抗癌剤として開発されている例もある。
プロテインキナーゼ活性の測定方法としては、従来、放射性同位元素を用いるRI法、リン酸化部位を認識する抗体を用いる方法、及びリン酸基付与による質量の増加を検出する質量分析法等が知られており、実用化もされている。しかし、RI法では、安全上、特殊な設備が必要であり、かつ、半減期の問題から試薬の長期保存ができないという問題があり、抗体を用いる方法では、特異抗体がない場合に検出ができないという問題点があり、質量分析法では、高額な測定装置を要し且つ大規模スクリーニングには不向きであるという問題点があった。
【0003】
これに対し、本発明者はこれまでに、プロテインキナーゼの特異的基質ペプチドを開発し、当該基質ペプチド並びに金ナノ粒子の凝集及び分散反応を用いた色素発色法によって、簡易且つ大規模スクリーニングに適したプロテインキナーゼの検出方法を開発している(非特許文献2等を参照)。
しかしながら、このプロテインキナーゼの検出方法は、生体内の当該キナーゼの検出及び活性測定は可能であるものの、塩の濃度や共存物質の影響を受けやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Hofmann, Curr. Cancer Drug Targets, 4, 125-146 (2004)
【非特許文献2】Jun Oishi, Yoji Asami, Takeshi Mori, Jeong-Hun Kang, Takuro Niidome, Yoshiki Katayama, Colorimetric enzymatic activity assay based on "non-crosslinking aggregation" of gold nanoparticles induced by adsorption of substrate peptides, Biomacromolecules, 9, 2301-2308 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下において、簡易であり且つ感度の高いプロテインキナーゼの検出及び活性測定を可能にするデバイスの開発、ひいては、そのようなデバイスを用いたプロテインキナーゼの検出及び活性測定方法、並びにプロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、ポリイオンコンプレックス、プロテインキナーゼの検出方法及び検出用キット、プロテインキナーゼの活性測定方法及び活性測定用キット、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニングキット等を提供するものである。
【0007】
(1)プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光物質部分を含むアニオン性分子とを含むことを特徴とする、ポリイオンコンプレックス。
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、前記カチオン性分子と前記アニオン性分子とが静電的相互作用により結合したものが挙げられる。
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、プロテインキナーゼの非存在下では前記蛍光物質由来の蛍光が減弱し、プロテインキナーゼの存在下では当該蛍光が増強し得るものが挙げられる。
【0008】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、カチオン性分子が、さらに脂肪酸由来の脂質部分を含むものが挙げられる。ここで、当該カチオン性分子は、例えば、下記式:
【化1】
(式中、R1はプロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を表し、kは1〜8の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体であるものが挙げられる。
【0009】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、カチオン性分子が、さらにポリカチオン部分を含むものが挙げられる。ここで、ポリカチオン部分は、例えば、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドが挙げられ、カチオン性分子は、例えば、下記式:
【化2】
(式中、R1はプロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を表し、l1は1〜5800の整数を表し、m1は1〜1200の整数を表し、n1は1〜3000の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体であるものが挙げられる。
【0010】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、プロテインキナーゼがプロテインキナーゼAであるものが挙げられる。この場合、カチオン性の基質ペプチドは、例えば、配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
LRRASLG (配列番号1)
LRRASLGW (配列番号2)
ALRRASLGW (配列番号3)
【0011】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、プロテインキナーゼがプロテインキナーゼCであるものが挙げられる。この場合、カチオン性の基質ペプチドは、例えば、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
FKKQGSFAKKK (配列番号4)
【0012】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、アニオン性分子中のポリアニオン部分が、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドであるものが挙げられる。また、本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、アニオン性分子中の蛍光物質部分が、5-カルボキシフルオレセイン又は6-カルボキシフルオレセインであるものが挙げられる。
【0013】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、アニオン性分子が、下記式:
【化3】
(式中、l2は5〜1500の整数を表し、m2は0〜200の整数を表し、n2は1〜450の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体であるものが挙げられる。
【0014】
(2)被験試料に上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスを接触させる工程、及び、当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程を含む、プロテインキナーゼの検出方法。
【0015】
(3)被験試料に上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスを接触させる工程、当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程、及び得られた検出結果を指標として被験試料中のプロテインキナーゼの活性を評価する工程を含む、プロテインキナーゼの活性測定方法。
【0016】
(4)上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼの検出用又は活性測定用キット。
【0017】
(5)候補物質の存在下で、上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスとプロテインキナーゼとを接触させる工程、当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程、及び得られた検出結果を指標としてプロテインキナーゼの阻害活性を有する物質を選択する工程を含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法。
【0018】
(6)上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易であり且つ感度の高いプロテインキナーゼの検出及び活性測定を可能にするデバイスとしてのポリイオンコンプレックスを提供することができる。
本発明のポリイオンコンプレックスは、プロテインキナーゼの検出及び活性測定のほか、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニングを行う場合にも簡易且つ好感度のデバイスとして用いることができるため、抗癌剤等の医薬品開発に貢献し得る点で、極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】複合体形成による消光評価の結果を示す図である(化合物3a: pAsp-F1.1との複合体、化合物3b: pAsp-F3.7との複合体)。
【図2】リン酸化による蛍光回復評価の結果を示す図である。
【図3】リン酸化に伴った光散乱強度 (Count rate 値) の評価の結果を示す図である。
【図4】18-Kemp-S/pAsp-F3.7 複合体のリン酸化による光散乱強度の変化を示す図である。
【図5】リン酸化反応の経時変化 (MALDI-TOF-MS により評価)を示す図である。
【図6】10-Kemp-S/pAsp-F3.7 の複合体を用いたPKA 阻害剤の検出の結果を示す図である。
【0021】
【図7】複合体形成による消光評価の結果を示す図である。
【図8】リン酸化による蛍光回復評価の結果を示す図である。
【図9】リン酸化に伴った光散乱強度 (Count rate値) の評価の結果を示す図である。
【図10】複合体形成による消光評価の結果を示す図である。
【図11】リン酸化による蛍光回復評価の結果を示す図である。
【図12】プロテインキナーゼ活性検出の原理を示す模式図である。
【図13】プロテインキナーゼ活性検出の原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0023】
1.本発明の概要
本発明者は、前述した簡易かつ高感度のタンパク質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)の検出及び活性測定を可能にするデバイスを開発するため、鋭意検討を行った。その結果、プロテインキナーゼのカチオン性基質ペプチドを含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光標識物質を含むアニオン性分子とを、適切な割合で混合することにより、これらが静電的相互作用により結合した粒子状の複合体(ポリイオンコンプレックス)を形成し、上記検出及び活性測定を可能にするデバイスとして有用なものとなることを見出した。
本発明のポリイオンコンプレックスは、複合体構造を形成した状態では蛍光標識物質に由来する蛍光は消光又は減弱しており、蛍光は検出されない。しかしながら、プロテインキナーゼの存在下においては、カチオン性分子中の基質ペプチドがリン酸化され、当該基質ペプチドへのリン酸基の導入による正電荷の減少が引き金になり、ポリイオンコンプレックス全体の電荷のバランスが変化する。そうすると、もとの複合体構造の一部又は全部が崩壊し、アニオン性分子中の蛍光標識物質由来の蛍光が再び検出される(蛍光が回復する)ことになる(図12及び図13参照)。本発明者は、このように蛍光が回復(増強)する原理を利用することにより、蛍光強度のレベルに基づいてプロテインキナーゼの検出及び活性測定を簡易かつ高感度に行うことができることを見出して、本発明を完成した。
【0024】
2.ポリイオンコンプレックス
本発明のポリイオンコンプレックスは、特定のカチオン性分子とアニオン性分子とを含んでなる複合体であり、具体的には、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光物質部分を含むアニオン性分子とを含むことを特徴とする複合体である。
(1)カチオン性分子
本発明のポリイオンコンプレックスの構成成分となるカチオン性分子は、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むものである。なお、当該カチオン性分子が有するカチオン性の電荷は、上記基質ペプチド部分のみに由来する電荷であってもよいし、また他の部分に由来する電荷も含んでいてもよく、限定はされない。
カチオン性の基質ペプチドのアミノ酸配列は、特に限定はされず、当該基質ペプチドに結合しリン酸化するプロテインキナーゼの種類等に応じて、適宜設計及び選択することができる。当該基質ペプチドのアミノ酸残基数は、限定はされないが、例えば、5〜30残基が好ましく、より好ましくは7〜15残基である。
【0025】
プロテインキナーゼとしては、例えば、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、MAPキナーゼ、Rhoキナーゼ、Akt等が好ましく挙げられ、中でもプロテインキナーゼA及びプロテインキナーゼCがより好ましい。さらに、プロテインキナーゼCとしては、そのアイソザイムとして、プロテインキナーゼCα、プロテインキナーゼCβI、プロテインキナーゼCβII及びプロテインキナーゼCγが挙げられるが、中でも、プロテインキナーゼCαが好ましい。
プロテインキナーゼAに対するカチオン性の基質ペプチドとしては、限定はされないが、例えば、下記の配列番号1、2及び3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく挙げられる。なお、当該アミノ酸配列は、アミノ酸の一文字表記で示されている(他においても同様)。
【0026】
LRRASLG (配列番号1)
LRRASLGW (配列番号2)
ALRRASLGW (配列番号3)
プロテインキナーゼCに対するカチオン性の基質ペプチドとしては、限定はされないが、例えば、下記の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく挙げられる。
【0027】
FKKQGSFAKKK (配列番号4)
カチオン性分子としては、前記カチオン性の基質ペプチド部分に加えて、さらに脂肪酸由来の脂質部分を含むものが好ましく挙げられる。具体的には、下記式:
【化4】
で示されるカチオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体が好ましく挙げられる。
ここで、上記式中、R1は、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分であり、具体的には、前述した配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく挙げられる。また上記式中、kは1〜8の整数を表し、好ましくは3〜8、より好ましくは4〜8である。
【0028】
また、カチオン性分子の別の態様としては、前記カチオン性の基質ペプチド部分に加えて、さらにポリカチオン部分を含むものが好ましく挙げられる。ここで、ポリカチオン部分としては、限定はされないが、例えば、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドを含む部分が好ましく挙げられる。具体的には、下記式:
【化5】
で示されるカチオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体が好ましく挙げられる。
【0029】
ここで、上記式中、R1は、前記同様、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分であり、具体的には、前述した配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく挙げられる。また上記式中、l1は1〜5800の整数を表し、好ましくは58〜3000、より好ましくは300〜3000である。m1は1〜1200の整数を表し、好ましくは60〜1000、より好ましくは120〜1000である。n1は1〜3000の整数を表し、好ましくは1〜2000、より好ましくは1〜1500である。
【0030】
本発明におけるカチオン性分子の塩としては、限定はされないが、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩、有機酸塩、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが挙げられる。また、当該カチオン性分子又はその塩の誘導体としては、限定はされず、各種官能基の導入、酸化、還元、原子置換がされたものなどが挙げられる。
本発明におけるカチオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体は、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含し、便宜上の構造式の記載等に限定されるものではなく、さらにS-体、R-体あるいはRS-体のいずれであってもよい。
【0031】
(2)アニオン性分子
本発明のポリイオンコンプレックスの構成成分となるアニオン性分子は、ポリアニオン部分と蛍光物質部分とを含むものである。
ここで、ポリアニオン部分としては、限定はされないが、例えば、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドを含む部分が好ましく挙げられる。
また、蛍光物質部分としては、限定はされないが、例えば、5-カルボキシフルオレセイン(5-カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル由来の部分)、6-カルボキシフルオレセイン(6-カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル由来の部分)、5あるいは6-カルボキシローダミン、Cy3、Cy5、Cy5.5、インドシアニングリーン等が好ましく挙げられ、中でも、5-カルボキシフルオレセイン及び6-カルボキシフルオレセインがより好ましい。
【0032】
アニオン性分子としては、具体的には、下記式:
【化6】
で示されるアニオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体が挙げられる。
【0033】
ここで、上記式中、l2は1〜1500の整数を表し、好ましくは50〜1000、より好ましくは50〜500である。m2は0〜200の整数を表し、好ましくは0〜100、より好ましくは0〜10である。n2は1〜450の整数を表し、好ましくは1〜250、より好ましくは1〜200である。
本発明におけるアニオン性分子の塩としては、限定はされないが、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩、有機酸塩、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが挙げられる。また、当該アニオン性分子又はその塩の誘導体としては、限定はされず、各種官能基の導入、酸化、還元、原子置換がされたものなどが挙げられる。
本発明におけるアニオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体は、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含し、便宜上の構造式の記載等に限定されるものではなく、さらにS-体、R-体あるいはRS-体のいずれであってもよい。
【0034】
(3)ポリイオンコンプレックス
本発明のポリイオンコンプレックスは、前述したカチオン性分子とアニオン性分子とが静電的相互作用により結合し、粒子状の複合体を形成したものである。
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、前述したカチオン性分子とアニオン性分子とを任意のバッファー(例えばHEPESバッファー、Trisバッファー等)中で混合することにより容易に調製することができる。
カチオン性分子とアニオン性分子との混合比は、限定はされないが、例えば、カチオン性分子由来の総電荷(C)とアニオン性分子由来の総電荷(A)との比(C/A比)が1〜20であることが好ましく、より好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜5である。C/A比が上記範囲内のときは、例えば、遊離のカチオン性分子を低減することができる等の点で好ましい。
【0035】
本発明のポリイオンコンプレックスの大きさは、限定はされないが、例えば、動的光散乱測定法(DLS)による粒径が20〜1000 nmであることが好ましく、より好ましくは50〜1000 nmである。
本発明のポリイオンコンプレックスは、プロテインキナーゼの非存在下においては、複合体粒子を構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光が減弱した状態であるため、蛍光の検出レベルは低い状態を保持する。一方、プロテインキナーゼの存在下においては、複合体粒子を構成するカチオン性分子中の基質ペプチドがリン酸化される結果、複合体粒子全体の電荷バランスが崩れ、カチオン性分子とアニオン性分子との静電的相互作用による結合力が低下する。そうすると、複合体粒子中に閉じ込められていた(封入されていた)アニオン性分子中の蛍光物質の一部又は全部が、露出されるようになるため、当該蛍光が増強した状態となり、蛍光の検出レベルが高い状態を保持する。
【0036】
本発明のポリイオンコンプレックスは、リン酸化反応から迅速に蛍光が増強する(回復する)ため(例えば10分以内)、従来のリン酸化反応検出デバイスに比べて格段に早くリン酸化の有無を検出する(プロテインキナーゼ活性を検出及び測定する)ことができるという点で、例えば、キナーゼ活性に関連する物質の大規模かつハイスループットスクリーニングに好適であるなど、極めて有用性の高いものである。
【0037】
3.検出方法、活性測定方法
本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを用いる、被験試料中のプロテインキナーゼの検出方法を提供することができる。当該検出方法は、具体的には以下の工程を含むことを特徴とするものである。
(i) 被験試料にポリイオンコンプレックスを接触させる工程(接触工程)
(ii) 当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程(検出工程)
【0038】
接触工程において、用い得る被験試料としては、限定はされず、精製酵素溶液、細胞破砕液、組織抽出液、血漿等が挙げられる。
被験試料にポリイオンコンプレックスを接触させる際は、適当なバッファー(例えばHEPESバッファー、Trisバッファー等)中で行うことが好ましい。
接触時の温度は、プロテインキナーゼの活性が低下又は失活しない温度であればよく、限定はされないが、例えば、5〜40℃であることが好ましく、より好ましくは20〜36℃である。また、接触させた後、次の検出工程を行うまでの時間は、限定はされないが、例えば、5〜360分であることが好ましく、より好ましくは30〜120分である。
検出工程において、アニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する方法は、限定はされず、使用した蛍光物質の蛍光を検出する方法及び装置として従来公知のものを用いればよい。当該装置としては、例えば、マルチラベルカウンター(マルチラベルリーダー)、プレートリーダー、蛍光分光器、蛍光顕微鏡等が好ましく挙げられる。
【0039】
また、本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを用いる、被験試料中のプロテインキナーゼの活性測定方法を提供することができる。当該活性測定方法は、具体的には以下の工程を含むことを特徴とするものである。
(i) 被験試料にポリイオンコンプレックスを接触させる工程(接触工程)
(ii) 当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程(検出工程)
(iii) 得られた検出結果を指標として被験試料中のプロテインキナーゼの活性を評価する工程(評価工程)
【0040】
ここで、接触工程及び検出工程については、前述した説明が同様に適用できる。
評価工程におけるプロテインキナーゼの活性の評価方法は、限定はされないが、例えば、ポリイオンコンプレックスの調製に用いたアニオン性分子のみの蛍光を予め検出及び定量しておき、その蛍光強度を基準(例えば1とする)としたときの比率により評価する方法が好ましい。当該評価は、一時的、断続的、連続的のいずれの態様で行ってもよい。
【0041】
4.スクリーニング方法
本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを用いる、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法を提供することができる。なお、本発明でいう阻害剤とは、プロテインキナーゼの活性を完全に失わせるものに限らず、その活性を少なくとも抑制するものも含む意味である。当該スクリーニング方法は、具体的には以下の工程を含むことを特徴とするものである。
(i) 候補物質の存在下で、ポリイオンコンプレックスとプロテインキナーゼとを接触させる工程(接触工程)
(ii) 当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程(検出工程)
(iii) 得られた検出結果を指標としてプロテインキナーゼの阻害活性を有する物質を選択する工程(選択工程)
【0042】
接触工程において使用される候補物質としては、限定はされず、例えば、天然又は人為的に合成された各種ペプチド、タンパク質(酵素や抗体を含む)、核酸(ポリヌクレオチド(DNA、RNA)、オリゴヌクレオチド(siRNA等)、ペプチド核酸(PNA)など)、低分子又は高分子有機化合物等を用いることができる。
接触工程において用いるプロテインキナーゼは、阻害剤開発の対象とするプロテインキナーゼを適宜選択すればよく、特に限定はされない。
ポリイオンコンプレックスとプロテインキナーゼとを接触させる際は、候補物質を含む適当なバッファー(例えばHEPESバッファー、Trisバッファー等)中で行うことが好ましい。あるいは、適当なバッファー中で候補物質とプロテインキナーゼとを接触させておき、その後ポリイオンコンプレックスを添加するようにしてもよい。
接触時の温度は、プロテインキナーゼの活性が低下又は失活しない温度であればよく、限定はされないが、例えば、0〜40℃であることが好ましく、より好ましくは20〜36℃である。また、接触させた後、次の検出工程を行うまでの時間は、限定はされないが、例えば、10〜360分であることが好ましく、より好ましくは30〜120分である。
【0043】
検出工程については、前述した本発明の検出方法等(前記3.項)の接触工程に関する説明が同様に適用できる。
選択工程においては、プロテインキナーゼの阻害活性を有する物質を選択するが、検出工程において検出される蛍光の強度が、候補物質の非存在下の場合と比較して弱くなる場合は、使用された候補物質がプロテインキナーゼの阻害活性を有する物質であるとして評価及び選択することができる。当該蛍光の強度がより弱くなるほど、プロテインキナーゼの阻害活性がより高い物質であると評価することができ、プロテインキナーゼと接触させる前のポリイオンコンプレックスのみの場合と同程度の蛍光強度である場合(蛍光の減弱(消光)状態)は、上記阻害活性が極めて高い物質であると評価することができる。
本発明のスクリーニング方法は、プロテインキナーゼの阻害活性を有する物質(阻害剤)を簡易に且つ大規模にスクリーニングするために用いることができるため、抗癌剤等の医薬品開発を強力に推し進めることができる点で、極めて有用性の高いものである。
【0044】
5.キット
本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼの検出用又は活性測定用キットを提供することができる。なお、本発明のキットは、当該ポリイオンコンプレックスに代えて、その構成成分であるカチオン性分子及びアニオン性分子をそれぞれ含むキットであってもよい。当該キットは、前述した本発明の検出方法及び活性測定方法(前記3.項)に好ましく用いることができる。
また、本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング用キットを提供することができる。なお、本発明のキットは、当該ポリイオンコンプレックスに代えて、その構成成分であるカチオン性分子及びアニオン性分子をそれぞれ含むキットであってもよい。当該キットは、前述した本発明のスクリーニング方法(前記4.項)に好ましく用いることができる。
【0045】
本発明のキットにおいて、ポリイオンコンプレックス、又はカチオン性分子及びアニオン性分子の保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して溶液状又は粉末状等の状態を適宜選択できる。
本発明のキットは、上記ポリイオンコンプレックス、又はカチオン性分子及びアニオン性分子以外に他の何らかの構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、各種バッファー、溶解用バッファー、各種タンパク質、及び使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。特に、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング用キットの場合は、阻害剤開発の対象とするプロテインキナーゼを、構成要素として含んでいてもよい。
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
1.カチオン性分子の調製
異なるアルキル鎖長の脂肪酸及びステロイド型の脂質を修飾した5つのカチオン性分子(脂質修飾カチオン性基質ペプチド)を設計した。表1に、脂質修飾カチオン性基質ペプチドのサンプル名(6-Kemp-S等)、構造、及び分子量(カッコ内の値はリン酸化時の分子量)を示した。
【表1】
【0048】
表1中に示される、LRRASLG(配列番号1)及びLRRASLGW(配列番号2)のアミノ酸配列からなるペプチドをFmoc 固相合成法により合成し、そのN末端を各脂質〔6-Kemp-Sではカプロン酸, 10-Kemp-Sではカプリン酸, 14- Kemp-Sではミリスチン酸, 18-Kemp-Sではステアリン酸, Lit-Kemp-Sではリトコリック酸 (Lithocolic acid) (すべてSIGMA-ALDRICH)〕と反応させた。精製は逆相HPLC により行った。
【0049】
2.アニオン性分子の調製
蛍光物質で標識したポリアニオンであるアニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン)として、ポリアスパラギン酸の主鎖に、エチレンジアミンを介してフルオレセインを導入した分子を設計した(下記式参照)。
【化7】
上記式で示されるアニオン性分子(フルオレセイン標識ポリアスパラギン酸)を、下記スキームに従って合成した。
【0050】
【化8】
【0051】
(1)化合物1の合成
ポリアスパラギン酸 [Mw: 10,500, 100 mg, 10μmol, (-COOH 720μmol) (SIGMA-ALDRICH)]、WSC [138 mg, 720μmol (DOJINDO)]、HOBt・H2O [110 mg, 720μmol (渡辺化学工業)] を0.1M NaHCO3 buffer (pH8.5) 6.8 mLに溶解し、氷冷した。この溶液に氷冷下でBoc-ethylenediamine [a : 11.6 mg, 72μmol (もしくはb : 5.8 mg, 36μmol) (Fluka)] (DMF 1mLに溶解したもの) を滴下した。滴下後、室温で一晩撹拌した。反応溶液を分画分子量3,500の透析膜を用いて、超純水に対して4日間透析することで精製した。この溶液を凍結乾燥し、個体の化合物1を得た。
【0052】
(2)化合物2の合成 (Boc基の脱保護)
化合物1をTFA/DCM (1/1=v/v) 3 mLに溶解し、脱保護した。この反応溶液に40 mLのジエチルエーテルを添加することで再沈殿を行った。その後、5分間遠心 (4℃、5,000×g) し、個体を回収後、真空乾燥することで化合物2を得た。TNBS assayにより、第一級アミンの存在を確認し、第一級アミンを定量することによって、ポリアスパラギン酸の主鎖にどのくらいエチレンジアミンが導入されたかを算出したところ、主鎖のカルボン酸残基(100 mol%) に対して4.5 mol%(化合物2a:pAsp-EDA4.5)及び2.8 mol%(化合物2b:pAsp-EDA2.8)のエチレンジアミンが導入されていた。
【0053】
(3)化合物3aの合成
化合物2a (pAsp-EDA4.5) [100 mg, (-NH2 3.3μmol]、5- (and 6-) carboxyfluorescein, succinimidyl ester [3.1 mg, 6.6μmol (Pierce)]、DIEA [2.1 mg, 16.5μmol (渡辺化学工業)]、ピリジン [100μL (和光純薬工業)]、DMSO (和光純薬工業) 262μLを混合し、一晩撹拌した。続いて、反応溶液を2M NaOHでpH11に調整し、この溶液を分画分子量3,500の透析膜を用いて、超純水に対して5日間透析することで精製した。この溶液を凍結乾燥することで個体の化合物3aを得た。PBS (pH=7.4) 中の494 nmの吸光度を測定 (UV-VISIBLE SPECTROPHOTOMETER, UV-2550, SHIMADZU) することで、フルオレセインの導入量を算出したところ、主鎖のカルボン酸残基 (100 mol%) に対して3.7 mol%であった。
【0054】
(4)化合物3b の合成
化合物2b (pAsp-EDA2.8) [100 mg, (-NH2 2.0μmol]、5- (and 6-) carboxyfluorescein, succinimidyl ester [1.9 mg, 4.0μmol (Pierce)]、DIEA [1.3 mg, 10μmol (渡辺化学工業)]、ピリジン [100μL (和光純薬工業)]、DMSO (和光純薬工業) 236μL を混合し、一晩撹拌した。続いて、反応溶液を2 M NaOH でpH11 に調整し、この溶液を分画分子量3,500 の透析膜を用いて、超純水に対して5日間透析することで精製した。この溶液を凍結乾燥することで個体の化合物3bを得た。PBS (pH=7.4) 中の493 nmの吸光度を測定することで、フルオレセインの導入量を算出したところ、主鎖のカルボン酸残基(100 mol%) に対して1.1 mol%であった。
【0055】
3.蛍光消光実験
上記1項及び2項で合成した、カチオン性分子(脂質修飾カチオン性基質ペプチド)とアニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン)とを様々な電荷比で混合することで、消光する複合体(ポリイオンコンプレックス)の形成条件を探索した。
(1)材料・方法
アニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン;pAsp-F1.1, pAsp-F3.7)とカチオン性分子(脂質修飾カチオン性基質ペプチド;6-Kemp-S, 10-Kemp-S, 14- Kemp-S, 18-Kemp-S, Lit-Kemp-S)との電荷比 (C/A 比) が0.0〜4.0 となるように混合し、15 分間静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。これに、それぞれ終濃度が200μM ATP、1 mM MgCl2 となるようにATP (SIGMA-ALDRICH), MgCl2 (MgCl2・6H2O(和光純薬工業))を加えた。最後に10 mM HEPES バッファー (pH7.3) で反応溶液の全量100μL に調整し、マルチラベルカウンター(Wallac 1420 ARVO sx, フィルター : 485 nm〜510 nm) にて蛍光強度を測定した(測定時の温度37℃に固定した)。
【0056】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM
【0057】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1 として算出した。その結果を図1に示した。
図1の結果より、複合体形成条件 (C/A 比) を表2のように決定した。
【表2】
【0058】
4.蛍光回復実験
それぞれの複合体にPKA を添加し、リン酸化反応を行うことで蛍光強度が回復するかを評価した。
(1)材料・方法
表2で決定したC/A 比となるように複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。その後、終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー(pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0 としてマルチラベルカウンターにて蛍光強度を測定した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA (Promega)、及びコントロールとして熱失活したPKA(熱失活の条件:5分間90℃で加熱)、またはPKA と等量の超純水を添加し、1, 3, 5, 10, 20, ・・・, 60 分まで蛍光強度を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0059】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0060】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1 として算出した。その結果を図2に示した。
※蛍光強度測定後に、MALDI-TOF-MS にて基質のリン酸化率を評価したところ、PKA を添加した場合は、f(18-Kemp-S/pAsp-F3.7) 以外の複合体は、ほぼ100 %リン酸化されていた。18-Kemp-S/pAsp-F3.7 は、約57%であった。
図2の結果から、6-Kemp-S/pAsp-F1.1 及び6-Kemp-S/pAsp-F3.7 以外の複合体において、PKA 添加時に蛍光が回復することが明らかとなった。
【0061】
5.リン酸化による複合体の状態変化の追跡 (光散乱強度の変化)
図2の結果から、リン酸化に伴って蛍光が回復することが明らかとなったので、続いて、蛍光回復がリン酸化による複合体の崩壊に起因するものであるかを評価した。複合体の崩壊挙動は、動的光散乱測定時のCount rate値の経時変化により評価した。複合体を形成していると光が散乱されるため、Countrate 値 (散乱強度) は高いが、複合体が崩壊してしまうと散乱することができなくなり、Countrate 値は下がるという原理である。
【0062】
(1)材料・方法
表2で決定したC/A 比となるように複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。その後、終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー(pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0 としてZeta-sizer にてCount rate 値を測定した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA、およびコントロールとして熱失活したPKA(熱失活の条件 : 5 分間90℃で加熱)を添加し、1 分毎に15 分間Count rate 値を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0063】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0064】
(2)結果
Relative Scattered Intensity は、t=0 時のCount rate 値を1 として算出した。その結果を図3に示した。なお、6-Kemp-S/pAsp-F1.1, 6-Kemp-S/pAsp-F3.7 については、散乱強度が小さく、多分散であり、正確な測定ができなかった。18-Kemp-S/pAsp-F3.7 については、図4に示すような結果が得られたが、複合体を形成した時点で粒子径が多分散であった。
【0065】
PKA を加える前の粒子径を表3に示した。
【表3】
【0066】
6.リン酸化の経時変化
リン酸化反応進行度と蛍光の回復および、複合体の崩壊挙動に相関があるかを評価した。リン酸化反応の進行度は、今回は目安としてMALDI-TOF-MSによって評価した
【0067】
(1)材料・方法
表2で決定したC/A 比となるように複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。その後、終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー(pH 7.3) となるように溶液を調製した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA を添加後、37℃でインキュベートし、1,2,3, ・・・,10,15,20,30,・・・, 60 分に1μL ずつ反応溶液を回収し、MALDI-TOF -MS にてリン酸化率を算出した。
【0068】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0069】
(2)結果
算出したリン酸化反応(リン酸化率)の経時変化の結果を図5に示した。
図2、図3及び図5の結果を比較したところ、リン酸化の反応進行度と蛍光回復、及び複合体の崩壊に相関性が見られた。よって、本実施例で作製した複合体(ポリイオンコンプレックス)は、リン酸化による複合体構造の崩壊に伴って蛍光が回復することが示された。
【0070】
7.PKA 阻害剤H-89 のIC50 値測定
本実施例で作製した複合体(ポリイオンコンプレックス)が阻害剤の定量的な評価に用いることができるかを評価するため、PKA の阻害剤であるH-89 のIC50 値を、当該複合体 (10-Kemp-S/pAsp-F3.7) を用いて算出した。
【0071】
(1)材料・方法
10-Kemp-S とpAsp-F3.7 をC/A=3.0 となるように混合することで、複合体を作製し、15 分静置した(脂質修飾カチオン性基質の終濃度を30μM に固定した)。その後、終濃度で、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー(pH 7.3) 、5, 1, 0.5, 0.1, 0.05, 0.01, 0.005μM H-89 (BIOMOL International)、100 U/mL PKA となるように溶液を調製した。続いて、終濃度が100μM となるようにATPを添加後、37℃でインキュベートし、1, 3, 5, 10, 15, 20, 30, ・・・, 60 分までマルチラベルカウンターにて蛍光強度を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0072】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 100μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0073】
(2)結果
IC50 値の算出方法としては、各時間の蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオンの終濃度が19.8μM) の場合の蛍光強度を1 として、各時間の各サンプルの相対蛍光強度A を算出した。続いて、阻害剤濃度が異なる各サンプルの60 分後の相対蛍光強度A の値を1 分後の相対蛍光強度A で割り、各サンプルの相対蛍光強度B を算出した。その結果を図6に示した。図6のグラフでは、相対蛍光強度B の値をRelative Fluorescence Intensity として示している。
<データ処理>
シグモイド曲線フィッティング及びIC50 値の算出には、GraphPad Prism(登録商標) sigmoidal dose response (variable slope) software を用いた。
シグモイド曲線にフィッティングし、IC50 値を算出したところ、656.9 nM であった。この値は、文献値135 nM(S.P. Davies, H. Reddy. M. Caivano, P. Cohen, Biochem. J, 351, 95-105 (2000))と同じオーダーであり、本実施例の複合体は、阻害剤の定量的な評価にも用いることができることが示された。
【実施例2】
【0074】
1.カチオン性分子の調製
PKA(プロテインキナーゼA)のカチオン性基質ペプチドをグラフトしたポリカチオンとして、直鎖状ポリエチレンイミンの主鎖にクリックケミストリーという反応を用いてPKA のカチオン性基質ペプチドを導入した分子を設計した(下記式参照)。
【化9】
【0075】
上記式で示されるカチオン性分子を、下記スキームに従って合成した。
【化10】
【0076】
(1) アジ化ペプチド1 の合成
H2N-ALRRASLGW-NH2(配列番号3)に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをFmoc 固相合成法により合成した。そのN末端のアラニンのFmoc 基を脱保護した後、あらかじめ反応していた3-ブロモプロピオン酸 (東京化成工業) とアジ化ナトリウム (和光純薬工業) から得た3-アジドプロピオン酸 (未精製) と縮合反応させた。精製は逆相HPLC により行った。
【0077】
(2) 化合物4 の合成
窒素置換した二口フラスコに直鎖状ポリエチレンイミン [Mw = 25,000, 301 mg, 二級アミン 7.0 mmol,(Polyscience Inc.)]、5-クロロ-1-ペンチン [718 mg, 7.0 mmol (東京化成工業)]、ジアザビシクロウンデセン(DBU) [320 mg, 2.1 mmol (東京化成工業)]、無水ピリジン [1.1 g, 14 mmol (和光純薬工業)]、無水DMSO [30 ml (SIGMA-ALDRICH)] を加えた。この反応溶液を、窒素雰囲気下、50℃で、24 時間撹拌した。反応後、溶媒を減圧留去し、メタノールに再溶解した。分画分子量3,500 の透析膜を用いて、メタノール、0.05 N HCl に対して7 日間透析し、精製した。その後、凍結乾燥を行い、黄褐色で個体の化合物4 を得た。アルキンの導入率は、13C-NMRの結果より算出した。その結果、主鎖の二級アミン (100mol%) に対し、アルキンの導入率は20.4 mol%であった。
【0078】
(3) 化合物5 の合成
化合物4 [4.4 mg, アルキン 9.6μmol]、アジ化ペプチド1 [5mg, 4.7μmol]、硫酸銅 (II) 五水和物 [2.4mg, 9.4μmol (和光純薬工業)]、アスコルビン酸ナトリウム [37.2
mg, 188μmol (和光純薬工業)] を超純水/エタノール (=1/1) 1026μLに溶解し、室温で24時間撹拌した。反応後、0.1 M EDTA (pH8.0, 和光純薬工業) を2 mL 添加し、室温で2 時間撹拌した。反応溶液を分画分子量3,500 の透析膜に入れ、超純水に対して3 日間、0.05 N HCl に対して1 日間透析し、精製した。凍結乾燥により黄褐色で個体の化合物5 を得た。
【0079】
2.アニオン性分子の調製
蛍光物質で標識したポリアニオンとして、ポリアスパラギン酸の主鎖に、エチレンジアミンを介してフルオレセインを導入した分子を設計した(下記式参照)。
【化11】
上記式で示されるアニオン性分子(フルオレセイン標識ポリアスパラギン酸)は、実施例1に記載の方法(化合物3aの合成方法)と同様の方法により合成した。
【0080】
3.蛍光消光実験
上記1項及び2項で合成した、カチオン性分子(カチオン性基質ペプチドグラフトポリカチオン)とアニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン)とを様々な電荷比で混合することで、消光する複合体(ポリイオンコンプレックス)の形成条件を探索した。
【0081】
(1)材料・方法
アニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン;pAsp-F3.7)とカチオン性分子(カチオン性基質ペプチドグラフトポリカチオン;LPEI-Kemp-S10.3)の電荷比 (C/A 比) が0.0〜8.0 となるように混合し、15 分間静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。続いて、10 mM HEPES バッファー (pH7.3) で反応溶液の全量100μL に調整し、マルチラベルカウンター(Wallac 1420 ARVO sx, フィルター : 485 nm〜510 nm) にて蛍光強度を測定した(温度 : 室温)。
【0082】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1 として算出した。その結果を図7に示した。
図7の結果より、以後実験する際の複合体形成条件 は、C/A=3.0 に決定した。
【0083】
4.蛍光回復実験
それぞれの複合体にPKA を添加し、リン酸化反応を行うことで蛍光強度が回復するかを評価した。
【0084】
(1)材料・方法
LPEI-Kemp-S10.3 とpAsp-F3.7 をC/A=3.0 となるように混合することで複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した) 。その後、終濃度で、200μM ATP(SIGMA-ALDRICH)、1 mM MgCl2 (MgCl2・6H2O(和光純薬工業))、10 mM HEPES バッファー (pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0 としてマルチラベルカウンターにて蛍光強度を測定した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA (Promega)、及びコントロールとして熱失活したPKA(熱失活の条件: 5分間90℃で加熱)、またはPKA と等量の超純水を添加し、1, 5, 10, 20, ・・・, 60 分まで蛍光強度を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0085】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0086】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1 として算出した。その結果を図8に示した。
図8の結果、LPEI-Kemp-S10.3/pAsp-F3.7 の複合体は、PKA を添加することで蛍光が回復することが明らかになった。
【0087】
5.リン酸化による複合体の状態変化の追跡 (光散乱強度の変化)
図8の結果から、リン酸化に伴って蛍光が回復することが明らかとなったので、続いて、蛍光回復がリン酸化による複合体の崩壊に起因するものであるかを評価した。複合体の崩壊挙動は、動的光散乱測定時のCount rate値の経時変化により評価した。複合体を形成していると光が散乱されるため、Countrate 値 (散乱強度) は高いが、複合体が崩壊してしまうと散乱することができなくなり、Countrate 値は下がるという原理である。
【0088】
(1)材料・方法
LPEI-Kemp-S10.3 とpAsp-F3.7 をC/A=3.0 となるように混合することで複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。その後、終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー (pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0 としてZeta-sizer にてCount rate 値を測定した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA、およびコントロールとして熱失活したPKA(熱失活の条件 : 5 分間90℃で加熱)を添加し、1 分毎に15 分間Count rate 値を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0089】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0090】
(2)結果
Relative Scattered Intensity は、t=0 時のCount rate 値を1 として算出した。その結果を図9に示した。
【0091】
PKA を加える前の粒子径を表4に示した。
【表4】
図8と図9の結果を比較したところ、蛍光回復と複合体の崩壊に相関性が見られた。よって、リン酸化による複合体の崩壊に伴って蛍光が回復することが示された。
【実施例3】
【0092】
1.カチオン性分子の調製
PKCα(プロテインキナーゼCα)に対するカチオン性基質ペプチドを、ミリスチン酸で修飾した、脂質修飾カチオン性基質ペプチドを設計した(下記式参照)。
【化12】
FKKQGSFAKKK(配列番号4)のアミノ酸配列からなるペプチドをFmoc固相合成法により合成し、そのN末端をミリスチン酸(SIGMA-ALDRICH) と反応させた。精製は逆相HPLCにより行った。
【0093】
2.アニオン性分子の調製
蛍光物質で標識したポリアニオンとして、ポリアスパラギン酸の主鎖に、エチレンジアミンを介してフルオレセインを導入した分子を設計した(下記式参照)。
【化13】
上記式で示されるアニオン性分子(フルオレセイン標識ポリアスパラギン酸)は、実施例1に記載の方法(化合物3aの合成方法)と同様の方法により合成した。
【0094】
3.蛍光消光実験
カチオン性分子とアニオン性分子とを様々な電荷比で混合することで、消光する複合体(ポリイオンコンプレックス)の形成条件を探索した。
(1)材料・方法
アニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン;pAsp-F3.7)とカチオン性分子(脂質修飾カチオン性基質ペプチド;14-PKC64-S)との電荷比 (C/A比) が0.0〜4.0となるように混合し、15分間静置した (アニオン性分子のアニオンの終濃度は15μMに固定した)。これに、それぞれ終濃度が200μM ATP、1 mM MgCl2、0.5 mM CaCl2、2μg/ml 1,2-Dioctanoyl-sn-glycerol (DAG)、2.5μg/ml 3-sn-Phosphatidyl-L-serine sodium salt from boovine brain (PS)、10 mM HEPESとなるようにATP (SIGMA-ALDRICH), MgCl2 (MgCl2・6H2O(和光純薬工業)、CaCl2 (和光純薬工業)、DAG (SIGMA-ALDRICH)、PS (SIGMA-ALDRICH)、HEPESバッファー (pH 7.3)(DOJINDO) を加え、全量を100μlに調製した。最後にマルチラベルカウンター(Wallac 1420 ARVO sx, フィルター : 485 nm〜510 nm) にて蛍光強度を測定した(測定時の温度 37℃に固定した)。
【0095】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, CaCl2 : 0.5 mM, DAG : 2μg/ml,
PS : 2.5μg/ml, HEPES : 10 mM
【0096】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、アニオン性分子のみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1として算出した。その結果を図10に示した。
図10の結果より、複合体形成条件 (C/A比) をC/A=2.0に決定した。
【0097】
4.蛍光回復実験
14-PKC64-S/pAsp-F3.7の複合体にPKCα添加し、リン酸化反応を行うことで蛍光強度が回復するかを評価した。
(1)材料・方法
C/A=2.0となるように複合体を作製し、15分静置した (アニオン性分子のアニオンの終濃度は15μMに固定した)。その後終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、0.5 mM CaCl2、2μg/ml (DAG)、2.5μg/ml (PS)、10 mM HEPESバッファー (pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0としてマルチラベルカウンターにて蛍光強度を測定した。続いて、終濃度が1.1 ng/μLとなるようにPKCa (SIGMA-ALDRICH)、及びコントロールとして熱失活したPKCα(熱失活の条件:5分間90℃で加熱)、またはPKCaと等量の超純水を添加し、1, 3, 5, 10, 20, ・・・, 60分まで蛍光強度を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0098】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, CaCl2 : 0.5 mM, DAG : 2μg/ml, PS : 2.5μg/ml,
HEPES : 10 mM, PKCα : 1.1 ng/μL
【0099】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、アニオン性分子のみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1として算出した。その結果を図11に示した。
図11より、PKCαの添加により、蛍光が回復することが明らかとなった。図11より、活性のあるPKCαを添加した場合のみで蛍光が回復していることから、蛍光の回復は、PKCαによるリン酸化に起因するものであると考えられる。よって、カチオン性分子としての脂質修飾PKCα基質ペプチドと、アニオン性分子としてのフルオレセイン標識ポリアスパラギン酸との複合体(ポリイオンコンプレックス)を用いた本アッセイ系は、基質ペプチドの種類を変えるだけで、カチオン性基質をもつ様々なキナーゼに応用することが可能であると言える。
【配列表フリーテキスト】
【0100】
配列番号1:合成ペプチド
配列番号2:合成ペプチド
配列番号3:合成ペプチド
配列番号4:合成ペプチド
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)の検出及び活性測定方法、並びにプロテインキナーゼの検出及び活性測定に用いることのできるデバイス等に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテインキナーゼは、癌をはじめ各種疾患の発症と密接に関係していることが報告されている(非特許文献1等を参照)。実際に、プロテインキナーゼの阻害剤は、医薬品開発のターゲットとなっており、抗癌剤として開発されている例もある。
プロテインキナーゼ活性の測定方法としては、従来、放射性同位元素を用いるRI法、リン酸化部位を認識する抗体を用いる方法、及びリン酸基付与による質量の増加を検出する質量分析法等が知られており、実用化もされている。しかし、RI法では、安全上、特殊な設備が必要であり、かつ、半減期の問題から試薬の長期保存ができないという問題があり、抗体を用いる方法では、特異抗体がない場合に検出ができないという問題点があり、質量分析法では、高額な測定装置を要し且つ大規模スクリーニングには不向きであるという問題点があった。
【0003】
これに対し、本発明者はこれまでに、プロテインキナーゼの特異的基質ペプチドを開発し、当該基質ペプチド並びに金ナノ粒子の凝集及び分散反応を用いた色素発色法によって、簡易且つ大規模スクリーニングに適したプロテインキナーゼの検出方法を開発している(非特許文献2等を参照)。
しかしながら、このプロテインキナーゼの検出方法は、生体内の当該キナーゼの検出及び活性測定は可能であるものの、塩の濃度や共存物質の影響を受けやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Hofmann, Curr. Cancer Drug Targets, 4, 125-146 (2004)
【非特許文献2】Jun Oishi, Yoji Asami, Takeshi Mori, Jeong-Hun Kang, Takuro Niidome, Yoshiki Katayama, Colorimetric enzymatic activity assay based on "non-crosslinking aggregation" of gold nanoparticles induced by adsorption of substrate peptides, Biomacromolecules, 9, 2301-2308 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下において、簡易であり且つ感度の高いプロテインキナーゼの検出及び活性測定を可能にするデバイスの開発、ひいては、そのようなデバイスを用いたプロテインキナーゼの検出及び活性測定方法、並びにプロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、ポリイオンコンプレックス、プロテインキナーゼの検出方法及び検出用キット、プロテインキナーゼの活性測定方法及び活性測定用キット、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニングキット等を提供するものである。
【0007】
(1)プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光物質部分を含むアニオン性分子とを含むことを特徴とする、ポリイオンコンプレックス。
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、前記カチオン性分子と前記アニオン性分子とが静電的相互作用により結合したものが挙げられる。
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、プロテインキナーゼの非存在下では前記蛍光物質由来の蛍光が減弱し、プロテインキナーゼの存在下では当該蛍光が増強し得るものが挙げられる。
【0008】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、カチオン性分子が、さらに脂肪酸由来の脂質部分を含むものが挙げられる。ここで、当該カチオン性分子は、例えば、下記式:
【化1】
(式中、R1はプロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を表し、kは1〜8の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体であるものが挙げられる。
【0009】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、カチオン性分子が、さらにポリカチオン部分を含むものが挙げられる。ここで、ポリカチオン部分は、例えば、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドが挙げられ、カチオン性分子は、例えば、下記式:
【化2】
(式中、R1はプロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を表し、l1は1〜5800の整数を表し、m1は1〜1200の整数を表し、n1は1〜3000の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体であるものが挙げられる。
【0010】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、プロテインキナーゼがプロテインキナーゼAであるものが挙げられる。この場合、カチオン性の基質ペプチドは、例えば、配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
LRRASLG (配列番号1)
LRRASLGW (配列番号2)
ALRRASLGW (配列番号3)
【0011】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、プロテインキナーゼがプロテインキナーゼCであるものが挙げられる。この場合、カチオン性の基質ペプチドは、例えば、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが挙げられる。
FKKQGSFAKKK (配列番号4)
【0012】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、アニオン性分子中のポリアニオン部分が、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドであるものが挙げられる。また、本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、アニオン性分子中の蛍光物質部分が、5-カルボキシフルオレセイン又は6-カルボキシフルオレセインであるものが挙げられる。
【0013】
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、アニオン性分子が、下記式:
【化3】
(式中、l2は5〜1500の整数を表し、m2は0〜200の整数を表し、n2は1〜450の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体であるものが挙げられる。
【0014】
(2)被験試料に上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスを接触させる工程、及び、当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程を含む、プロテインキナーゼの検出方法。
【0015】
(3)被験試料に上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスを接触させる工程、当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程、及び得られた検出結果を指標として被験試料中のプロテインキナーゼの活性を評価する工程を含む、プロテインキナーゼの活性測定方法。
【0016】
(4)上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼの検出用又は活性測定用キット。
【0017】
(5)候補物質の存在下で、上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスとプロテインキナーゼとを接触させる工程、当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程、及び得られた検出結果を指標としてプロテインキナーゼの阻害活性を有する物質を選択する工程を含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法。
【0018】
(6)上記(1)に記載のポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング用キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易であり且つ感度の高いプロテインキナーゼの検出及び活性測定を可能にするデバイスとしてのポリイオンコンプレックスを提供することができる。
本発明のポリイオンコンプレックスは、プロテインキナーゼの検出及び活性測定のほか、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニングを行う場合にも簡易且つ好感度のデバイスとして用いることができるため、抗癌剤等の医薬品開発に貢献し得る点で、極めて有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】複合体形成による消光評価の結果を示す図である(化合物3a: pAsp-F1.1との複合体、化合物3b: pAsp-F3.7との複合体)。
【図2】リン酸化による蛍光回復評価の結果を示す図である。
【図3】リン酸化に伴った光散乱強度 (Count rate 値) の評価の結果を示す図である。
【図4】18-Kemp-S/pAsp-F3.7 複合体のリン酸化による光散乱強度の変化を示す図である。
【図5】リン酸化反応の経時変化 (MALDI-TOF-MS により評価)を示す図である。
【図6】10-Kemp-S/pAsp-F3.7 の複合体を用いたPKA 阻害剤の検出の結果を示す図である。
【0021】
【図7】複合体形成による消光評価の結果を示す図である。
【図8】リン酸化による蛍光回復評価の結果を示す図である。
【図9】リン酸化に伴った光散乱強度 (Count rate値) の評価の結果を示す図である。
【図10】複合体形成による消光評価の結果を示す図である。
【図11】リン酸化による蛍光回復評価の結果を示す図である。
【図12】プロテインキナーゼ活性検出の原理を示す模式図である。
【図13】プロテインキナーゼ活性検出の原理を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0023】
1.本発明の概要
本発明者は、前述した簡易かつ高感度のタンパク質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)の検出及び活性測定を可能にするデバイスを開発するため、鋭意検討を行った。その結果、プロテインキナーゼのカチオン性基質ペプチドを含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光標識物質を含むアニオン性分子とを、適切な割合で混合することにより、これらが静電的相互作用により結合した粒子状の複合体(ポリイオンコンプレックス)を形成し、上記検出及び活性測定を可能にするデバイスとして有用なものとなることを見出した。
本発明のポリイオンコンプレックスは、複合体構造を形成した状態では蛍光標識物質に由来する蛍光は消光又は減弱しており、蛍光は検出されない。しかしながら、プロテインキナーゼの存在下においては、カチオン性分子中の基質ペプチドがリン酸化され、当該基質ペプチドへのリン酸基の導入による正電荷の減少が引き金になり、ポリイオンコンプレックス全体の電荷のバランスが変化する。そうすると、もとの複合体構造の一部又は全部が崩壊し、アニオン性分子中の蛍光標識物質由来の蛍光が再び検出される(蛍光が回復する)ことになる(図12及び図13参照)。本発明者は、このように蛍光が回復(増強)する原理を利用することにより、蛍光強度のレベルに基づいてプロテインキナーゼの検出及び活性測定を簡易かつ高感度に行うことができることを見出して、本発明を完成した。
【0024】
2.ポリイオンコンプレックス
本発明のポリイオンコンプレックスは、特定のカチオン性分子とアニオン性分子とを含んでなる複合体であり、具体的には、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光物質部分を含むアニオン性分子とを含むことを特徴とする複合体である。
(1)カチオン性分子
本発明のポリイオンコンプレックスの構成成分となるカチオン性分子は、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むものである。なお、当該カチオン性分子が有するカチオン性の電荷は、上記基質ペプチド部分のみに由来する電荷であってもよいし、また他の部分に由来する電荷も含んでいてもよく、限定はされない。
カチオン性の基質ペプチドのアミノ酸配列は、特に限定はされず、当該基質ペプチドに結合しリン酸化するプロテインキナーゼの種類等に応じて、適宜設計及び選択することができる。当該基質ペプチドのアミノ酸残基数は、限定はされないが、例えば、5〜30残基が好ましく、より好ましくは7〜15残基である。
【0025】
プロテインキナーゼとしては、例えば、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼC、MAPキナーゼ、Rhoキナーゼ、Akt等が好ましく挙げられ、中でもプロテインキナーゼA及びプロテインキナーゼCがより好ましい。さらに、プロテインキナーゼCとしては、そのアイソザイムとして、プロテインキナーゼCα、プロテインキナーゼCβI、プロテインキナーゼCβII及びプロテインキナーゼCγが挙げられるが、中でも、プロテインキナーゼCαが好ましい。
プロテインキナーゼAに対するカチオン性の基質ペプチドとしては、限定はされないが、例えば、下記の配列番号1、2及び3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく挙げられる。なお、当該アミノ酸配列は、アミノ酸の一文字表記で示されている(他においても同様)。
【0026】
LRRASLG (配列番号1)
LRRASLGW (配列番号2)
ALRRASLGW (配列番号3)
プロテインキナーゼCに対するカチオン性の基質ペプチドとしては、限定はされないが、例えば、下記の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく挙げられる。
【0027】
FKKQGSFAKKK (配列番号4)
カチオン性分子としては、前記カチオン性の基質ペプチド部分に加えて、さらに脂肪酸由来の脂質部分を含むものが好ましく挙げられる。具体的には、下記式:
【化4】
で示されるカチオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体が好ましく挙げられる。
ここで、上記式中、R1は、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分であり、具体的には、前述した配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく挙げられる。また上記式中、kは1〜8の整数を表し、好ましくは3〜8、より好ましくは4〜8である。
【0028】
また、カチオン性分子の別の態様としては、前記カチオン性の基質ペプチド部分に加えて、さらにポリカチオン部分を含むものが好ましく挙げられる。ここで、ポリカチオン部分としては、限定はされないが、例えば、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドを含む部分が好ましく挙げられる。具体的には、下記式:
【化5】
で示されるカチオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体が好ましく挙げられる。
【0029】
ここで、上記式中、R1は、前記同様、プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分であり、具体的には、前述した配列番号1〜3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドが好ましく挙げられる。また上記式中、l1は1〜5800の整数を表し、好ましくは58〜3000、より好ましくは300〜3000である。m1は1〜1200の整数を表し、好ましくは60〜1000、より好ましくは120〜1000である。n1は1〜3000の整数を表し、好ましくは1〜2000、より好ましくは1〜1500である。
【0030】
本発明におけるカチオン性分子の塩としては、限定はされないが、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩、有機酸塩、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが挙げられる。また、当該カチオン性分子又はその塩の誘導体としては、限定はされず、各種官能基の導入、酸化、還元、原子置換がされたものなどが挙げられる。
本発明におけるカチオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体は、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含し、便宜上の構造式の記載等に限定されるものではなく、さらにS-体、R-体あるいはRS-体のいずれであってもよい。
【0031】
(2)アニオン性分子
本発明のポリイオンコンプレックスの構成成分となるアニオン性分子は、ポリアニオン部分と蛍光物質部分とを含むものである。
ここで、ポリアニオン部分としては、限定はされないが、例えば、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドを含む部分が好ましく挙げられる。
また、蛍光物質部分としては、限定はされないが、例えば、5-カルボキシフルオレセイン(5-カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル由来の部分)、6-カルボキシフルオレセイン(6-カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル由来の部分)、5あるいは6-カルボキシローダミン、Cy3、Cy5、Cy5.5、インドシアニングリーン等が好ましく挙げられ、中でも、5-カルボキシフルオレセイン及び6-カルボキシフルオレセインがより好ましい。
【0032】
アニオン性分子としては、具体的には、下記式:
【化6】
で示されるアニオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体が挙げられる。
【0033】
ここで、上記式中、l2は1〜1500の整数を表し、好ましくは50〜1000、より好ましくは50〜500である。m2は0〜200の整数を表し、好ましくは0〜100、より好ましくは0〜10である。n2は1〜450の整数を表し、好ましくは1〜250、より好ましくは1〜200である。
本発明におけるアニオン性分子の塩としては、限定はされないが、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩、有機酸塩、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが挙げられる。また、当該アニオン性分子又はその塩の誘導体としては、限定はされず、各種官能基の導入、酸化、還元、原子置換がされたものなどが挙げられる。
本発明におけるアニオン性分子、又はその塩、あるいはこれらの誘導体は、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含し、便宜上の構造式の記載等に限定されるものではなく、さらにS-体、R-体あるいはRS-体のいずれであってもよい。
【0034】
(3)ポリイオンコンプレックス
本発明のポリイオンコンプレックスは、前述したカチオン性分子とアニオン性分子とが静電的相互作用により結合し、粒子状の複合体を形成したものである。
本発明のポリイオンコンプレックスは、例えば、前述したカチオン性分子とアニオン性分子とを任意のバッファー(例えばHEPESバッファー、Trisバッファー等)中で混合することにより容易に調製することができる。
カチオン性分子とアニオン性分子との混合比は、限定はされないが、例えば、カチオン性分子由来の総電荷(C)とアニオン性分子由来の総電荷(A)との比(C/A比)が1〜20であることが好ましく、より好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜5である。C/A比が上記範囲内のときは、例えば、遊離のカチオン性分子を低減することができる等の点で好ましい。
【0035】
本発明のポリイオンコンプレックスの大きさは、限定はされないが、例えば、動的光散乱測定法(DLS)による粒径が20〜1000 nmであることが好ましく、より好ましくは50〜1000 nmである。
本発明のポリイオンコンプレックスは、プロテインキナーゼの非存在下においては、複合体粒子を構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光が減弱した状態であるため、蛍光の検出レベルは低い状態を保持する。一方、プロテインキナーゼの存在下においては、複合体粒子を構成するカチオン性分子中の基質ペプチドがリン酸化される結果、複合体粒子全体の電荷バランスが崩れ、カチオン性分子とアニオン性分子との静電的相互作用による結合力が低下する。そうすると、複合体粒子中に閉じ込められていた(封入されていた)アニオン性分子中の蛍光物質の一部又は全部が、露出されるようになるため、当該蛍光が増強した状態となり、蛍光の検出レベルが高い状態を保持する。
【0036】
本発明のポリイオンコンプレックスは、リン酸化反応から迅速に蛍光が増強する(回復する)ため(例えば10分以内)、従来のリン酸化反応検出デバイスに比べて格段に早くリン酸化の有無を検出する(プロテインキナーゼ活性を検出及び測定する)ことができるという点で、例えば、キナーゼ活性に関連する物質の大規模かつハイスループットスクリーニングに好適であるなど、極めて有用性の高いものである。
【0037】
3.検出方法、活性測定方法
本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを用いる、被験試料中のプロテインキナーゼの検出方法を提供することができる。当該検出方法は、具体的には以下の工程を含むことを特徴とするものである。
(i) 被験試料にポリイオンコンプレックスを接触させる工程(接触工程)
(ii) 当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程(検出工程)
【0038】
接触工程において、用い得る被験試料としては、限定はされず、精製酵素溶液、細胞破砕液、組織抽出液、血漿等が挙げられる。
被験試料にポリイオンコンプレックスを接触させる際は、適当なバッファー(例えばHEPESバッファー、Trisバッファー等)中で行うことが好ましい。
接触時の温度は、プロテインキナーゼの活性が低下又は失活しない温度であればよく、限定はされないが、例えば、5〜40℃であることが好ましく、より好ましくは20〜36℃である。また、接触させた後、次の検出工程を行うまでの時間は、限定はされないが、例えば、5〜360分であることが好ましく、より好ましくは30〜120分である。
検出工程において、アニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する方法は、限定はされず、使用した蛍光物質の蛍光を検出する方法及び装置として従来公知のものを用いればよい。当該装置としては、例えば、マルチラベルカウンター(マルチラベルリーダー)、プレートリーダー、蛍光分光器、蛍光顕微鏡等が好ましく挙げられる。
【0039】
また、本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを用いる、被験試料中のプロテインキナーゼの活性測定方法を提供することができる。当該活性測定方法は、具体的には以下の工程を含むことを特徴とするものである。
(i) 被験試料にポリイオンコンプレックスを接触させる工程(接触工程)
(ii) 当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程(検出工程)
(iii) 得られた検出結果を指標として被験試料中のプロテインキナーゼの活性を評価する工程(評価工程)
【0040】
ここで、接触工程及び検出工程については、前述した説明が同様に適用できる。
評価工程におけるプロテインキナーゼの活性の評価方法は、限定はされないが、例えば、ポリイオンコンプレックスの調製に用いたアニオン性分子のみの蛍光を予め検出及び定量しておき、その蛍光強度を基準(例えば1とする)としたときの比率により評価する方法が好ましい。当該評価は、一時的、断続的、連続的のいずれの態様で行ってもよい。
【0041】
4.スクリーニング方法
本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを用いる、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法を提供することができる。なお、本発明でいう阻害剤とは、プロテインキナーゼの活性を完全に失わせるものに限らず、その活性を少なくとも抑制するものも含む意味である。当該スクリーニング方法は、具体的には以下の工程を含むことを特徴とするものである。
(i) 候補物質の存在下で、ポリイオンコンプレックスとプロテインキナーゼとを接触させる工程(接触工程)
(ii) 当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程(検出工程)
(iii) 得られた検出結果を指標としてプロテインキナーゼの阻害活性を有する物質を選択する工程(選択工程)
【0042】
接触工程において使用される候補物質としては、限定はされず、例えば、天然又は人為的に合成された各種ペプチド、タンパク質(酵素や抗体を含む)、核酸(ポリヌクレオチド(DNA、RNA)、オリゴヌクレオチド(siRNA等)、ペプチド核酸(PNA)など)、低分子又は高分子有機化合物等を用いることができる。
接触工程において用いるプロテインキナーゼは、阻害剤開発の対象とするプロテインキナーゼを適宜選択すればよく、特に限定はされない。
ポリイオンコンプレックスとプロテインキナーゼとを接触させる際は、候補物質を含む適当なバッファー(例えばHEPESバッファー、Trisバッファー等)中で行うことが好ましい。あるいは、適当なバッファー中で候補物質とプロテインキナーゼとを接触させておき、その後ポリイオンコンプレックスを添加するようにしてもよい。
接触時の温度は、プロテインキナーゼの活性が低下又は失活しない温度であればよく、限定はされないが、例えば、0〜40℃であることが好ましく、より好ましくは20〜36℃である。また、接触させた後、次の検出工程を行うまでの時間は、限定はされないが、例えば、10〜360分であることが好ましく、より好ましくは30〜120分である。
【0043】
検出工程については、前述した本発明の検出方法等(前記3.項)の接触工程に関する説明が同様に適用できる。
選択工程においては、プロテインキナーゼの阻害活性を有する物質を選択するが、検出工程において検出される蛍光の強度が、候補物質の非存在下の場合と比較して弱くなる場合は、使用された候補物質がプロテインキナーゼの阻害活性を有する物質であるとして評価及び選択することができる。当該蛍光の強度がより弱くなるほど、プロテインキナーゼの阻害活性がより高い物質であると評価することができ、プロテインキナーゼと接触させる前のポリイオンコンプレックスのみの場合と同程度の蛍光強度である場合(蛍光の減弱(消光)状態)は、上記阻害活性が極めて高い物質であると評価することができる。
本発明のスクリーニング方法は、プロテインキナーゼの阻害活性を有する物質(阻害剤)を簡易に且つ大規模にスクリーニングするために用いることができるため、抗癌剤等の医薬品開発を強力に推し進めることができる点で、極めて有用性の高いものである。
【0044】
5.キット
本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼの検出用又は活性測定用キットを提供することができる。なお、本発明のキットは、当該ポリイオンコンプレックスに代えて、その構成成分であるカチオン性分子及びアニオン性分子をそれぞれ含むキットであってもよい。当該キットは、前述した本発明の検出方法及び活性測定方法(前記3.項)に好ましく用いることができる。
また、本発明においては、前述したポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング用キットを提供することができる。なお、本発明のキットは、当該ポリイオンコンプレックスに代えて、その構成成分であるカチオン性分子及びアニオン性分子をそれぞれ含むキットであってもよい。当該キットは、前述した本発明のスクリーニング方法(前記4.項)に好ましく用いることができる。
【0045】
本発明のキットにおいて、ポリイオンコンプレックス、又はカチオン性分子及びアニオン性分子の保存状態は、限定はされず、その安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮して溶液状又は粉末状等の状態を適宜選択できる。
本発明のキットは、上記ポリイオンコンプレックス、又はカチオン性分子及びアニオン性分子以外に他の何らかの構成要素を含んでいてもよい。他の構成要素としては、例えば、各種バッファー、溶解用バッファー、各種タンパク質、及び使用説明書(使用マニュアル)等を挙げることができる。特に、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング用キットの場合は、阻害剤開発の対象とするプロテインキナーゼを、構成要素として含んでいてもよい。
【0046】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0047】
1.カチオン性分子の調製
異なるアルキル鎖長の脂肪酸及びステロイド型の脂質を修飾した5つのカチオン性分子(脂質修飾カチオン性基質ペプチド)を設計した。表1に、脂質修飾カチオン性基質ペプチドのサンプル名(6-Kemp-S等)、構造、及び分子量(カッコ内の値はリン酸化時の分子量)を示した。
【表1】
【0048】
表1中に示される、LRRASLG(配列番号1)及びLRRASLGW(配列番号2)のアミノ酸配列からなるペプチドをFmoc 固相合成法により合成し、そのN末端を各脂質〔6-Kemp-Sではカプロン酸, 10-Kemp-Sではカプリン酸, 14- Kemp-Sではミリスチン酸, 18-Kemp-Sではステアリン酸, Lit-Kemp-Sではリトコリック酸 (Lithocolic acid) (すべてSIGMA-ALDRICH)〕と反応させた。精製は逆相HPLC により行った。
【0049】
2.アニオン性分子の調製
蛍光物質で標識したポリアニオンであるアニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン)として、ポリアスパラギン酸の主鎖に、エチレンジアミンを介してフルオレセインを導入した分子を設計した(下記式参照)。
【化7】
上記式で示されるアニオン性分子(フルオレセイン標識ポリアスパラギン酸)を、下記スキームに従って合成した。
【0050】
【化8】
【0051】
(1)化合物1の合成
ポリアスパラギン酸 [Mw: 10,500, 100 mg, 10μmol, (-COOH 720μmol) (SIGMA-ALDRICH)]、WSC [138 mg, 720μmol (DOJINDO)]、HOBt・H2O [110 mg, 720μmol (渡辺化学工業)] を0.1M NaHCO3 buffer (pH8.5) 6.8 mLに溶解し、氷冷した。この溶液に氷冷下でBoc-ethylenediamine [a : 11.6 mg, 72μmol (もしくはb : 5.8 mg, 36μmol) (Fluka)] (DMF 1mLに溶解したもの) を滴下した。滴下後、室温で一晩撹拌した。反応溶液を分画分子量3,500の透析膜を用いて、超純水に対して4日間透析することで精製した。この溶液を凍結乾燥し、個体の化合物1を得た。
【0052】
(2)化合物2の合成 (Boc基の脱保護)
化合物1をTFA/DCM (1/1=v/v) 3 mLに溶解し、脱保護した。この反応溶液に40 mLのジエチルエーテルを添加することで再沈殿を行った。その後、5分間遠心 (4℃、5,000×g) し、個体を回収後、真空乾燥することで化合物2を得た。TNBS assayにより、第一級アミンの存在を確認し、第一級アミンを定量することによって、ポリアスパラギン酸の主鎖にどのくらいエチレンジアミンが導入されたかを算出したところ、主鎖のカルボン酸残基(100 mol%) に対して4.5 mol%(化合物2a:pAsp-EDA4.5)及び2.8 mol%(化合物2b:pAsp-EDA2.8)のエチレンジアミンが導入されていた。
【0053】
(3)化合物3aの合成
化合物2a (pAsp-EDA4.5) [100 mg, (-NH2 3.3μmol]、5- (and 6-) carboxyfluorescein, succinimidyl ester [3.1 mg, 6.6μmol (Pierce)]、DIEA [2.1 mg, 16.5μmol (渡辺化学工業)]、ピリジン [100μL (和光純薬工業)]、DMSO (和光純薬工業) 262μLを混合し、一晩撹拌した。続いて、反応溶液を2M NaOHでpH11に調整し、この溶液を分画分子量3,500の透析膜を用いて、超純水に対して5日間透析することで精製した。この溶液を凍結乾燥することで個体の化合物3aを得た。PBS (pH=7.4) 中の494 nmの吸光度を測定 (UV-VISIBLE SPECTROPHOTOMETER, UV-2550, SHIMADZU) することで、フルオレセインの導入量を算出したところ、主鎖のカルボン酸残基 (100 mol%) に対して3.7 mol%であった。
【0054】
(4)化合物3b の合成
化合物2b (pAsp-EDA2.8) [100 mg, (-NH2 2.0μmol]、5- (and 6-) carboxyfluorescein, succinimidyl ester [1.9 mg, 4.0μmol (Pierce)]、DIEA [1.3 mg, 10μmol (渡辺化学工業)]、ピリジン [100μL (和光純薬工業)]、DMSO (和光純薬工業) 236μL を混合し、一晩撹拌した。続いて、反応溶液を2 M NaOH でpH11 に調整し、この溶液を分画分子量3,500 の透析膜を用いて、超純水に対して5日間透析することで精製した。この溶液を凍結乾燥することで個体の化合物3bを得た。PBS (pH=7.4) 中の493 nmの吸光度を測定することで、フルオレセインの導入量を算出したところ、主鎖のカルボン酸残基(100 mol%) に対して1.1 mol%であった。
【0055】
3.蛍光消光実験
上記1項及び2項で合成した、カチオン性分子(脂質修飾カチオン性基質ペプチド)とアニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン)とを様々な電荷比で混合することで、消光する複合体(ポリイオンコンプレックス)の形成条件を探索した。
(1)材料・方法
アニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン;pAsp-F1.1, pAsp-F3.7)とカチオン性分子(脂質修飾カチオン性基質ペプチド;6-Kemp-S, 10-Kemp-S, 14- Kemp-S, 18-Kemp-S, Lit-Kemp-S)との電荷比 (C/A 比) が0.0〜4.0 となるように混合し、15 分間静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。これに、それぞれ終濃度が200μM ATP、1 mM MgCl2 となるようにATP (SIGMA-ALDRICH), MgCl2 (MgCl2・6H2O(和光純薬工業))を加えた。最後に10 mM HEPES バッファー (pH7.3) で反応溶液の全量100μL に調整し、マルチラベルカウンター(Wallac 1420 ARVO sx, フィルター : 485 nm〜510 nm) にて蛍光強度を測定した(測定時の温度37℃に固定した)。
【0056】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM
【0057】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1 として算出した。その結果を図1に示した。
図1の結果より、複合体形成条件 (C/A 比) を表2のように決定した。
【表2】
【0058】
4.蛍光回復実験
それぞれの複合体にPKA を添加し、リン酸化反応を行うことで蛍光強度が回復するかを評価した。
(1)材料・方法
表2で決定したC/A 比となるように複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。その後、終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー(pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0 としてマルチラベルカウンターにて蛍光強度を測定した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA (Promega)、及びコントロールとして熱失活したPKA(熱失活の条件:5分間90℃で加熱)、またはPKA と等量の超純水を添加し、1, 3, 5, 10, 20, ・・・, 60 分まで蛍光強度を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0059】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0060】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1 として算出した。その結果を図2に示した。
※蛍光強度測定後に、MALDI-TOF-MS にて基質のリン酸化率を評価したところ、PKA を添加した場合は、f(18-Kemp-S/pAsp-F3.7) 以外の複合体は、ほぼ100 %リン酸化されていた。18-Kemp-S/pAsp-F3.7 は、約57%であった。
図2の結果から、6-Kemp-S/pAsp-F1.1 及び6-Kemp-S/pAsp-F3.7 以外の複合体において、PKA 添加時に蛍光が回復することが明らかとなった。
【0061】
5.リン酸化による複合体の状態変化の追跡 (光散乱強度の変化)
図2の結果から、リン酸化に伴って蛍光が回復することが明らかとなったので、続いて、蛍光回復がリン酸化による複合体の崩壊に起因するものであるかを評価した。複合体の崩壊挙動は、動的光散乱測定時のCount rate値の経時変化により評価した。複合体を形成していると光が散乱されるため、Countrate 値 (散乱強度) は高いが、複合体が崩壊してしまうと散乱することができなくなり、Countrate 値は下がるという原理である。
【0062】
(1)材料・方法
表2で決定したC/A 比となるように複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。その後、終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー(pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0 としてZeta-sizer にてCount rate 値を測定した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA、およびコントロールとして熱失活したPKA(熱失活の条件 : 5 分間90℃で加熱)を添加し、1 分毎に15 分間Count rate 値を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0063】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0064】
(2)結果
Relative Scattered Intensity は、t=0 時のCount rate 値を1 として算出した。その結果を図3に示した。なお、6-Kemp-S/pAsp-F1.1, 6-Kemp-S/pAsp-F3.7 については、散乱強度が小さく、多分散であり、正確な測定ができなかった。18-Kemp-S/pAsp-F3.7 については、図4に示すような結果が得られたが、複合体を形成した時点で粒子径が多分散であった。
【0065】
PKA を加える前の粒子径を表3に示した。
【表3】
【0066】
6.リン酸化の経時変化
リン酸化反応進行度と蛍光の回復および、複合体の崩壊挙動に相関があるかを評価した。リン酸化反応の進行度は、今回は目安としてMALDI-TOF-MSによって評価した
【0067】
(1)材料・方法
表2で決定したC/A 比となるように複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。その後、終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー(pH 7.3) となるように溶液を調製した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA を添加後、37℃でインキュベートし、1,2,3, ・・・,10,15,20,30,・・・, 60 分に1μL ずつ反応溶液を回収し、MALDI-TOF -MS にてリン酸化率を算出した。
【0068】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0069】
(2)結果
算出したリン酸化反応(リン酸化率)の経時変化の結果を図5に示した。
図2、図3及び図5の結果を比較したところ、リン酸化の反応進行度と蛍光回復、及び複合体の崩壊に相関性が見られた。よって、本実施例で作製した複合体(ポリイオンコンプレックス)は、リン酸化による複合体構造の崩壊に伴って蛍光が回復することが示された。
【0070】
7.PKA 阻害剤H-89 のIC50 値測定
本実施例で作製した複合体(ポリイオンコンプレックス)が阻害剤の定量的な評価に用いることができるかを評価するため、PKA の阻害剤であるH-89 のIC50 値を、当該複合体 (10-Kemp-S/pAsp-F3.7) を用いて算出した。
【0071】
(1)材料・方法
10-Kemp-S とpAsp-F3.7 をC/A=3.0 となるように混合することで、複合体を作製し、15 分静置した(脂質修飾カチオン性基質の終濃度を30μM に固定した)。その後、終濃度で、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー(pH 7.3) 、5, 1, 0.5, 0.1, 0.05, 0.01, 0.005μM H-89 (BIOMOL International)、100 U/mL PKA となるように溶液を調製した。続いて、終濃度が100μM となるようにATPを添加後、37℃でインキュベートし、1, 3, 5, 10, 15, 20, 30, ・・・, 60 分までマルチラベルカウンターにて蛍光強度を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0072】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 100μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0073】
(2)結果
IC50 値の算出方法としては、各時間の蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオンの終濃度が19.8μM) の場合の蛍光強度を1 として、各時間の各サンプルの相対蛍光強度A を算出した。続いて、阻害剤濃度が異なる各サンプルの60 分後の相対蛍光強度A の値を1 分後の相対蛍光強度A で割り、各サンプルの相対蛍光強度B を算出した。その結果を図6に示した。図6のグラフでは、相対蛍光強度B の値をRelative Fluorescence Intensity として示している。
<データ処理>
シグモイド曲線フィッティング及びIC50 値の算出には、GraphPad Prism(登録商標) sigmoidal dose response (variable slope) software を用いた。
シグモイド曲線にフィッティングし、IC50 値を算出したところ、656.9 nM であった。この値は、文献値135 nM(S.P. Davies, H. Reddy. M. Caivano, P. Cohen, Biochem. J, 351, 95-105 (2000))と同じオーダーであり、本実施例の複合体は、阻害剤の定量的な評価にも用いることができることが示された。
【実施例2】
【0074】
1.カチオン性分子の調製
PKA(プロテインキナーゼA)のカチオン性基質ペプチドをグラフトしたポリカチオンとして、直鎖状ポリエチレンイミンの主鎖にクリックケミストリーという反応を用いてPKA のカチオン性基質ペプチドを導入した分子を設計した(下記式参照)。
【化9】
【0075】
上記式で示されるカチオン性分子を、下記スキームに従って合成した。
【化10】
【0076】
(1) アジ化ペプチド1 の合成
H2N-ALRRASLGW-NH2(配列番号3)に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをFmoc 固相合成法により合成した。そのN末端のアラニンのFmoc 基を脱保護した後、あらかじめ反応していた3-ブロモプロピオン酸 (東京化成工業) とアジ化ナトリウム (和光純薬工業) から得た3-アジドプロピオン酸 (未精製) と縮合反応させた。精製は逆相HPLC により行った。
【0077】
(2) 化合物4 の合成
窒素置換した二口フラスコに直鎖状ポリエチレンイミン [Mw = 25,000, 301 mg, 二級アミン 7.0 mmol,(Polyscience Inc.)]、5-クロロ-1-ペンチン [718 mg, 7.0 mmol (東京化成工業)]、ジアザビシクロウンデセン(DBU) [320 mg, 2.1 mmol (東京化成工業)]、無水ピリジン [1.1 g, 14 mmol (和光純薬工業)]、無水DMSO [30 ml (SIGMA-ALDRICH)] を加えた。この反応溶液を、窒素雰囲気下、50℃で、24 時間撹拌した。反応後、溶媒を減圧留去し、メタノールに再溶解した。分画分子量3,500 の透析膜を用いて、メタノール、0.05 N HCl に対して7 日間透析し、精製した。その後、凍結乾燥を行い、黄褐色で個体の化合物4 を得た。アルキンの導入率は、13C-NMRの結果より算出した。その結果、主鎖の二級アミン (100mol%) に対し、アルキンの導入率は20.4 mol%であった。
【0078】
(3) 化合物5 の合成
化合物4 [4.4 mg, アルキン 9.6μmol]、アジ化ペプチド1 [5mg, 4.7μmol]、硫酸銅 (II) 五水和物 [2.4mg, 9.4μmol (和光純薬工業)]、アスコルビン酸ナトリウム [37.2
mg, 188μmol (和光純薬工業)] を超純水/エタノール (=1/1) 1026μLに溶解し、室温で24時間撹拌した。反応後、0.1 M EDTA (pH8.0, 和光純薬工業) を2 mL 添加し、室温で2 時間撹拌した。反応溶液を分画分子量3,500 の透析膜に入れ、超純水に対して3 日間、0.05 N HCl に対して1 日間透析し、精製した。凍結乾燥により黄褐色で個体の化合物5 を得た。
【0079】
2.アニオン性分子の調製
蛍光物質で標識したポリアニオンとして、ポリアスパラギン酸の主鎖に、エチレンジアミンを介してフルオレセインを導入した分子を設計した(下記式参照)。
【化11】
上記式で示されるアニオン性分子(フルオレセイン標識ポリアスパラギン酸)は、実施例1に記載の方法(化合物3aの合成方法)と同様の方法により合成した。
【0080】
3.蛍光消光実験
上記1項及び2項で合成した、カチオン性分子(カチオン性基質ペプチドグラフトポリカチオン)とアニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン)とを様々な電荷比で混合することで、消光する複合体(ポリイオンコンプレックス)の形成条件を探索した。
【0081】
(1)材料・方法
アニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン;pAsp-F3.7)とカチオン性分子(カチオン性基質ペプチドグラフトポリカチオン;LPEI-Kemp-S10.3)の電荷比 (C/A 比) が0.0〜8.0 となるように混合し、15 分間静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。続いて、10 mM HEPES バッファー (pH7.3) で反応溶液の全量100μL に調整し、マルチラベルカウンター(Wallac 1420 ARVO sx, フィルター : 485 nm〜510 nm) にて蛍光強度を測定した(温度 : 室温)。
【0082】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1 として算出した。その結果を図7に示した。
図7の結果より、以後実験する際の複合体形成条件 は、C/A=3.0 に決定した。
【0083】
4.蛍光回復実験
それぞれの複合体にPKA を添加し、リン酸化反応を行うことで蛍光強度が回復するかを評価した。
【0084】
(1)材料・方法
LPEI-Kemp-S10.3 とpAsp-F3.7 をC/A=3.0 となるように混合することで複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した) 。その後、終濃度で、200μM ATP(SIGMA-ALDRICH)、1 mM MgCl2 (MgCl2・6H2O(和光純薬工業))、10 mM HEPES バッファー (pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0 としてマルチラベルカウンターにて蛍光強度を測定した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA (Promega)、及びコントロールとして熱失活したPKA(熱失活の条件: 5分間90℃で加熱)、またはPKA と等量の超純水を添加し、1, 5, 10, 20, ・・・, 60 分まで蛍光強度を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0085】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0086】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、蛍光標識ポリアニオンのみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1 として算出した。その結果を図8に示した。
図8の結果、LPEI-Kemp-S10.3/pAsp-F3.7 の複合体は、PKA を添加することで蛍光が回復することが明らかになった。
【0087】
5.リン酸化による複合体の状態変化の追跡 (光散乱強度の変化)
図8の結果から、リン酸化に伴って蛍光が回復することが明らかとなったので、続いて、蛍光回復がリン酸化による複合体の崩壊に起因するものであるかを評価した。複合体の崩壊挙動は、動的光散乱測定時のCount rate値の経時変化により評価した。複合体を形成していると光が散乱されるため、Countrate 値 (散乱強度) は高いが、複合体が崩壊してしまうと散乱することができなくなり、Countrate 値は下がるという原理である。
【0088】
(1)材料・方法
LPEI-Kemp-S10.3 とpAsp-F3.7 をC/A=3.0 となるように混合することで複合体を作製し、15 分静置した (蛍光標識ポリアニオンのアニオンの終濃度は15μM に固定した)。その後、終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、10 mM HEPES バッファー (pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0 としてZeta-sizer にてCount rate 値を測定した。続いて、終濃度が100 U/mL となるようにPKA、およびコントロールとして熱失活したPKA(熱失活の条件 : 5 分間90℃で加熱)を添加し、1 分毎に15 分間Count rate 値を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0089】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, HEPES : 10 mM, PKA : 100 U/ml
【0090】
(2)結果
Relative Scattered Intensity は、t=0 時のCount rate 値を1 として算出した。その結果を図9に示した。
【0091】
PKA を加える前の粒子径を表4に示した。
【表4】
図8と図9の結果を比較したところ、蛍光回復と複合体の崩壊に相関性が見られた。よって、リン酸化による複合体の崩壊に伴って蛍光が回復することが示された。
【実施例3】
【0092】
1.カチオン性分子の調製
PKCα(プロテインキナーゼCα)に対するカチオン性基質ペプチドを、ミリスチン酸で修飾した、脂質修飾カチオン性基質ペプチドを設計した(下記式参照)。
【化12】
FKKQGSFAKKK(配列番号4)のアミノ酸配列からなるペプチドをFmoc固相合成法により合成し、そのN末端をミリスチン酸(SIGMA-ALDRICH) と反応させた。精製は逆相HPLCにより行った。
【0093】
2.アニオン性分子の調製
蛍光物質で標識したポリアニオンとして、ポリアスパラギン酸の主鎖に、エチレンジアミンを介してフルオレセインを導入した分子を設計した(下記式参照)。
【化13】
上記式で示されるアニオン性分子(フルオレセイン標識ポリアスパラギン酸)は、実施例1に記載の方法(化合物3aの合成方法)と同様の方法により合成した。
【0094】
3.蛍光消光実験
カチオン性分子とアニオン性分子とを様々な電荷比で混合することで、消光する複合体(ポリイオンコンプレックス)の形成条件を探索した。
(1)材料・方法
アニオン性分子(蛍光標識ポリアニオン;pAsp-F3.7)とカチオン性分子(脂質修飾カチオン性基質ペプチド;14-PKC64-S)との電荷比 (C/A比) が0.0〜4.0となるように混合し、15分間静置した (アニオン性分子のアニオンの終濃度は15μMに固定した)。これに、それぞれ終濃度が200μM ATP、1 mM MgCl2、0.5 mM CaCl2、2μg/ml 1,2-Dioctanoyl-sn-glycerol (DAG)、2.5μg/ml 3-sn-Phosphatidyl-L-serine sodium salt from boovine brain (PS)、10 mM HEPESとなるようにATP (SIGMA-ALDRICH), MgCl2 (MgCl2・6H2O(和光純薬工業)、CaCl2 (和光純薬工業)、DAG (SIGMA-ALDRICH)、PS (SIGMA-ALDRICH)、HEPESバッファー (pH 7.3)(DOJINDO) を加え、全量を100μlに調製した。最後にマルチラベルカウンター(Wallac 1420 ARVO sx, フィルター : 485 nm〜510 nm) にて蛍光強度を測定した(測定時の温度 37℃に固定した)。
【0095】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, CaCl2 : 0.5 mM, DAG : 2μg/ml,
PS : 2.5μg/ml, HEPES : 10 mM
【0096】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、アニオン性分子のみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1として算出した。その結果を図10に示した。
図10の結果より、複合体形成条件 (C/A比) をC/A=2.0に決定した。
【0097】
4.蛍光回復実験
14-PKC64-S/pAsp-F3.7の複合体にPKCα添加し、リン酸化反応を行うことで蛍光強度が回復するかを評価した。
(1)材料・方法
C/A=2.0となるように複合体を作製し、15分静置した (アニオン性分子のアニオンの終濃度は15μMに固定した)。その後終濃度で、200μM ATP、1 mM MgCl2、0.5 mM CaCl2、2μg/ml (DAG)、2.5μg/ml (PS)、10 mM HEPESバッファー (pH 7.3) となるように溶液を調製した。これをt=0としてマルチラベルカウンターにて蛍光強度を測定した。続いて、終濃度が1.1 ng/μLとなるようにPKCa (SIGMA-ALDRICH)、及びコントロールとして熱失活したPKCα(熱失活の条件:5分間90℃で加熱)、またはPKCaと等量の超純水を添加し、1, 3, 5, 10, 20, ・・・, 60分まで蛍光強度を測定した (測定時の温度は37℃に固定した)。
【0098】
なお、各種材料等の使用条件(終濃度)は以下の通りである。
ATP : 200μM, MgCl2 : 1 mM, CaCl2 : 0.5 mM, DAG : 2μg/ml, PS : 2.5μg/ml,
HEPES : 10 mM, PKCα : 1.1 ng/μL
【0099】
(2)結果
Relative Fluorescence Intensity (RFI) は、アニオン性分子のみ (アニオン終濃度が15μM) の場合の蛍光強度を1として算出した。その結果を図11に示した。
図11より、PKCαの添加により、蛍光が回復することが明らかとなった。図11より、活性のあるPKCαを添加した場合のみで蛍光が回復していることから、蛍光の回復は、PKCαによるリン酸化に起因するものであると考えられる。よって、カチオン性分子としての脂質修飾PKCα基質ペプチドと、アニオン性分子としてのフルオレセイン標識ポリアスパラギン酸との複合体(ポリイオンコンプレックス)を用いた本アッセイ系は、基質ペプチドの種類を変えるだけで、カチオン性基質をもつ様々なキナーゼに応用することが可能であると言える。
【配列表フリーテキスト】
【0100】
配列番号1:合成ペプチド
配列番号2:合成ペプチド
配列番号3:合成ペプチド
配列番号4:合成ペプチド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光物質部分を含むアニオン性分子とを含むことを特徴とする、ポリイオンコンプレックス。
【請求項2】
前記カチオン性分子と前記アニオン性分子とが静電的相互作用により結合したものである、請求項1記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項3】
プロテインキナーゼの非存在下では前記蛍光物質由来の蛍光が減弱し、プロテインキナーゼの存在下では当該蛍光が増強し得るものである、請求項1又は2記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項4】
カチオン性分子が、さらに脂肪酸由来の脂質部分を含むものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項5】
カチオン性分子が、下記式:
【化14】
(式中、R1はプロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を表し、kは1〜8の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体である、請求項4記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項6】
カチオン性分子が、さらにポリカチオン部分を含むものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項7】
ポリカチオン部分が、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドである、請求項6記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項8】
カチオン性分子が、下記式:
【化15】
(式中、R1はプロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を表し、l1は1〜5800の整数を表し、m1は1〜1200の整数を表し、n1は1〜3000の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体である、請求項6又は7記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項9】
プロテインキナーゼがプロテインキナーゼAである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項10】
カチオン性の基質ペプチドが、配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
LRRASLG (配列番号1)
LRRASLGW (配列番号2)
ALRRASLGW (配列番号3)
【請求項11】
プロテインキナーゼがプロテインキナーゼCである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項12】
カチオン性の基質ペプチドが、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1〜8及び11のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
FKKQGSFAKKK (配列番号4)
【請求項13】
ポリアニオン部分が、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドである、請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項14】
蛍光物質部分が、5-カルボキシフルオレセイン又は6-カルボキシフルオレセインである、請求項1〜13のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項15】
アニオン性分子が、下記式:
【化16】
(式中、l2は5〜1500の整数を表し、m2は0〜200の整数を表し、n2は1〜450の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体である、請求14記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項16】
被験試料に請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスを接触させる工程、及び、
当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程
を含む、プロテインキナーゼの検出方法。
【請求項17】
被験試料に請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスを接触させる工程、
当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程、及び
得られた検出結果を指標として被験試料中のプロテインキナーゼの活性を評価する工程
を含む、プロテインキナーゼの活性測定方法。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼの検出用又は活性測定用キット。
【請求項19】
候補物質の存在下で、請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスとプロテインキナーゼとを接触させる工程、
当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程、及び
得られた検出結果を指標としてプロテインキナーゼの阻害活性を有する物質を選択する工程
を含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項20】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング用キット。
【請求項1】
プロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を含むカチオン性分子と、ポリアニオン部分及び蛍光物質部分を含むアニオン性分子とを含むことを特徴とする、ポリイオンコンプレックス。
【請求項2】
前記カチオン性分子と前記アニオン性分子とが静電的相互作用により結合したものである、請求項1記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項3】
プロテインキナーゼの非存在下では前記蛍光物質由来の蛍光が減弱し、プロテインキナーゼの存在下では当該蛍光が増強し得るものである、請求項1又は2記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項4】
カチオン性分子が、さらに脂肪酸由来の脂質部分を含むものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項5】
カチオン性分子が、下記式:
【化14】
(式中、R1はプロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を表し、kは1〜8の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体である、請求項4記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項6】
カチオン性分子が、さらにポリカチオン部分を含むものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項7】
ポリカチオン部分が、側鎖にカチオン性基を有するポリペプチドである、請求項6記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項8】
カチオン性分子が、下記式:
【化15】
(式中、R1はプロテインキナーゼに対するカチオン性の基質ペプチド部分を表し、l1は1〜5800の整数を表し、m1は1〜1200の整数を表し、n1は1〜3000の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体である、請求項6又は7記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項9】
プロテインキナーゼがプロテインキナーゼAである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項10】
カチオン性の基質ペプチドが、配列番号1〜3のいずれかに示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
LRRASLG (配列番号1)
LRRASLGW (配列番号2)
ALRRASLGW (配列番号3)
【請求項11】
プロテインキナーゼがプロテインキナーゼCである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項12】
カチオン性の基質ペプチドが、配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである、請求項1〜8及び11のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
FKKQGSFAKKK (配列番号4)
【請求項13】
ポリアニオン部分が、側鎖にアニオン性基を有するポリペプチドである、請求項1〜12のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項14】
蛍光物質部分が、5-カルボキシフルオレセイン又は6-カルボキシフルオレセインである、請求項1〜13のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項15】
アニオン性分子が、下記式:
【化16】
(式中、l2は5〜1500の整数を表し、m2は0〜200の整数を表し、n2は1〜450の整数を表す。)
で示されるもの、又はその塩、あるいはこれらの誘導体である、請求14記載のポリイオンコンプレックス。
【請求項16】
被験試料に請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスを接触させる工程、及び、
当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程
を含む、プロテインキナーゼの検出方法。
【請求項17】
被験試料に請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスを接触させる工程、
当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程、及び
得られた検出結果を指標として被験試料中のプロテインキナーゼの活性を評価する工程
を含む、プロテインキナーゼの活性測定方法。
【請求項18】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼの検出用又は活性測定用キット。
【請求項19】
候補物質の存在下で、請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスとプロテインキナーゼとを接触させる工程、
当該ポリイオンコンプレックスを構成するアニオン性分子中の蛍光物質由来の蛍光を検出する工程、及び
得られた検出結果を指標としてプロテインキナーゼの阻害活性を有する物質を選択する工程
を含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング方法。
【請求項20】
請求項1〜15のいずれか1項に記載のポリイオンコンプレックスを含む、プロテインキナーゼ阻害剤のスクリーニング用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−254938(P2012−254938A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211148(P2009−211148)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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