プロテインキナーゼCイプシロンを欠如する細胞及び動物
【課題】新規動物細胞及びその使用。
【解決手段】プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)をコードする遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子の中に操作された突然変異を含有する二倍体動物細胞であって、前記突然変異により、野生型細胞に比べて低いPKCε活性レベルを有する細胞、前記の細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物、及びその使用。
【解決手段】プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)をコードする遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子の中に操作された突然変異を含有する二倍体動物細胞であって、前記突然変異により、野生型細胞に比べて低いPKCε活性レベルを有する細胞、前記の細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物、及びその使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインキナーゼCイソ酵素ε(PKCε)を欠如する細胞および非ヒト動物;薬物のターゲットとしてのPKCεの使用;不安(anxiety)を減少し、アルコール消費および他の乱用薬物の自己投与を調節(モジュレート)し、アルコールの作用を変更し、そしてGABAAレセプターの不十分な活性に関連する症状を治療する方法におけるPKCεのモジュレーターの使用;およびアルコール中毒症または嗜癖の他の型に対する感受性が増大した個体の同定に関する。
【背景技術】
【0002】
不安(anxiety)は、重症であるか、あるいは持続性である場合、非常に不能状態であることがある、非常に普通の感覚である。不安に関係する障害は非常に流行しているので、最も頻繁に処方されている不安解消薬であるベンゾジアゼピンは、最も重要な20または25の最も頻繁に処方されている薬物のリストの中に規則的に出現する。ベンゾジアゼピンおよび他の不安減少薬物の望ましくない副作用が明らかにされると、不安の新しい治療法が必要となる。
【0003】
アルコール中毒症は薬物乱用の最も普通の形態であり、そして世界的な主要な公衆の問題である。それにもかかわらず、アルコール摂取を変更する薬物の存在はわずかでありかつ脳および行動プロセスに対するアルコールの作用に影響を及ぼす遺伝的因子はほとんど特性決定されてない。こうして、アルコール中毒症となる素因を有する個体を同定できる診断試験が必要であり、そしてアルコール消費を変更できる治療方法が必要である。
【0004】
Lewinグループは1992年におけるアルコールおよび薬物乱用のための米国社会に対する経済的コストを2460億ドルであると推定し、それらのうちの1480億ドルはアルコール乱用に帰属され、そして980億ドルは薬物の乱用および依存症に由来した(H. Harwood他、The Economic Cost of Alcohol and Drug Abuse in the United States、1992、NIH Publication Number 98-4327(Sept. 1988))。インフレーションおよび人口増加を調節するとき、1992年についてのアルコール推定値は過去20年にわたって製造されたコストの推定値に非常に類似し、そして薬物推定値は定常的な強い増加のパターンを証明する。現在の推定値は、アルコールおよび薬物について1985年について明らかにされた最近の推定値よりもかなり大きい(Rice他、1990)−人口増加およびインフレーションのための増加よりもアルコールについて42%高くそして薬物について50%高い。
【0005】
プロテインキナーゼC(PKC)は、多数のシグナル伝達経路に対して中心のリン脂質依存性、セリン−スレオニンキナーゼの多重遺伝子族である。これまで、PKC族の10メンバー、すなわち、イソ酵素が記載されてきており、これらは9つの異なる遺伝子によりコードされる。10のイソ酵素はα−、βI、βII、γ−、δ−、ε−、ζ−、η−、τ−、およびθ−イソ酵素として表示される。Nishizuka、1992、Science 258:607-614;Selbie他、1993、J. Biol. Chem. 268;24296−24302。配列の相同性および生化学的性質に基づいて、PKC遺伝子族は3つのグループに分割された。
【0006】
第1グループ、すなわち、α、β1、β2、およびγイソ酵素は、「従来の」PKCsと表示され、カルシウム、ジアシルグリセロールおよびホルボールエステルにより調節される。第2グループ、すなわち、δ、ε、θおよびηイソ酵素は、「新規な」PKCsと表示され、カルシウム依存性であるが、ジアシルグリセロールおよびホルボールエステル感受性である。最後に、第3グループ、すなわち、ζ、およびτイソ酵素は、「非定型」PKCsと表示され、カルシウム、ジアシルグリセロールおよびPMAに対して不感受性である。さらに、2つの関係するリン脂質依存性キナーゼ、PKCμおよびプロテインキナーゼDは、それらの調節ドメインが新規なPKCsに対して配列相同性を共有し、新しいサブグループを構成する。Johannes他、1994、J. Biol. Chem. 269:6140-6148;Valverde他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:8572−8576。
【0007】
腫瘍促進ホルボールエステルを使用する多数の研究は、PKCが神経分化をモジュレートすること示唆する。例えば、ホルボールエステルはクセノプス(Xenopus)胚における外胚葉から神経組織を誘導し(Otte他、1988、Nature 334:618−620)そしてヒヨコの知覚神経節(Mehta他、1993、J. Neurochem. 60:972−981、Hsu他、1984、Cancer Res. 44:4607−4614)、ヒヨコの毛様体神経節ニューロン(Bixby、1989、Neuron 3:287−297)、いくつかのヒト神経芽細胞腫細胞系統(Pahlman他、1983、Cell Diff. 12:165−170;Spinelli他、1982、Cancer Res. 42:5067−5073)、およびラットPC12細胞(Roivainen他、1993、Brain Res. 624:85−93;Hall他、1988、J. Biol. Chem. 263:4460−4466)から神経突起成長を誘発する。
【0008】
精製されたイソ酵素、キナーゼ欠如突然変異、およびトランスジェニックまたは突然変異細胞系統を使用する研究は、非神経細胞の分化においてPKCα、−β、−δ、−ε、および−ζを関係づけづけた(Berra他、1993、Cell 74:555−563;Goodnight他、1994、Adv. Cancer Res. 64:159-209;Gruber他、1992、J. Biol. Chem. 267:13356-13360;MacfarlaneおよびManzel、1994、J. Biol. Chem. 269:4327-4331;Power他、1992、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:146-151)。クセノプス(Xenopus)胚中のPKCαまたは−βの過剰発現は神経の誘導を増強する(OtteおよびMoon、1992、Cell 68:1021-1029)が、神経の分化を調節する特定のPKCイソ酵素の同定についてほとんど知られていない。
【0009】
最近の証拠は、PKCεが神経の分化および可塑性においてある役割を演ずる。PKCεは主として神経系において発現され、特に海馬、嗅結節;および脳皮質の層IおよびIIの中に豊富に存在する(Saito他、1993、Brain Res. 607:241-248)。免疫反応性ニューロン内において、PKCεはゴルジ装置および軸索およびシナプス前神経末端に局在化する(Saito他、supra)。PKCεは神経の分化を刺激する成長因子、例えば、インスリンにより活性化される(Heidereich他、1990、J. Biol. Chem. 265:15076-15082)およびNGF(Ohmichi他、1993、Biochem. J. 295:767-772)。さらに、発育するヒヨコの脳中で、PKCεは非分割性、分化性ニューロンの中に見出される主要なイソ酵素である(Mangoura他、1993、J. Neurosci. Res. 35:488-498)。
【0010】
神経の分化におけるPKCεの掛かり合いについての他の証拠は、PC12細胞を使用する研究から得られた。PC12細胞を神経堤に由来し、NFGまたは線維芽細胞成長因子で処理するとき、劇的な生化学的および形態学的分化を行い、成熟症候性神経のいくつかの特徴を発現する。Greene他、Culturing Nerve Cells(Banker、G.およびGoslin、K.、編)pp.207-226、MIT Press、マサチュセッツ州ケンブリッジ。PKC活性化ホルボールエステルは、ERK1およびERK2マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼのNGF誘導活性化およびPC12細胞における神経突起成長を増強し、PKCがNGFに対する応答をモジュレートすることを示唆する(Rolvainen他、1993、supra;Hall他、1988、supra;Rolvainen他、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1891-1895)。
【0011】
エタノール処理したPC12細胞を使用する研究は、PKCεがこの効果の原因となることを示唆した。ホルボールエステルと同様に、エタノールはPKC依存的メカニズムを通してNGF誘導MAPキナーゼ活性化および神経突起成長を増加させる(Roivainen他、1993、supra;Roivainen他、1995、supra)。エタノールは、2つのPKCイソ酵素、すなわち、PKCδおよびPKCεのメッセンジャーRNAおよびタンパク質のレベルを増加することによって、PC12細胞におけるPKC仲介リン酸化を促進する(Messing他、1991、J. Biol. Chem. 266:23428-23432;Roivainen他、1994、Toward a Molecular Basis of Alcohol Use and Abuse、pp.29-38)。
【0012】
最近のデータが証明するように、PKCεの過剰発現はNGF誘導MAPキナーゼ活性化および神経突起成長を増強するが、PKCδは増強しない(Hundle他、1995、J. Biol. Chem. 270:30134-30140)。これらの発見は、PKCεを神経突起成長の陽性のモジュレーターとして確立する。また、それらが示唆するように、PKCεはPC12細胞におけるエタノールおよびホルボールエステルの神経突起促進作用を仲介する。
【0013】
PKCεはPC12細胞におけるホルボールエステルおよびエタノールのMAPキナーゼ活性化および神経突起成長の増強を特異的に仲介することを、最近の研究は示唆する。PKC活性化は、細胞の粒子画分中の脂質含有構造への酵素の転位に一般に関連する。詳しくは、PKCεまたはPKCδの第1可変ドメインに由来する、フラグメントεV1またはδV1を安定に発現するPC12細胞系統を使用する研究において、各フラグメントはその対応するイソ酵素のホルボールエステル誘導転位を選択的に阻害し、これらのフラグメントがイソ酵素選択的転位インヒビターとして機能できることを示すことが証明された。NGF誘導MAPキナーゼリン酸化および神経突起成長はεV1を発現する細胞においてホルボールエステルまたはエタノールにより増強されないが、それらはδV1を発現する細胞およびエンプティーベクターでトランスフェクトされた細胞においてこれらの因子により増加される。
【0014】
エタノールへの慢性暴露は、PC12細胞における全PKC活性、高いアフィニティーのホルボールエステルの結合およびPKC仲介リン酸化を増加することが証明された(Messing他、1991、J. Biol. Chem. 266:23428-23432)これは2つのPKCイソ酵素、すなわち、PKCδおよびPKCεについての免疫反応性およびmRNAレベルの選択的増加に関連する(Roivainen他、1994、Protein kinase C and adaptations to ethanol、Toward a Molecular Basis of Alcohol Use and Abuse、Jansson B、J rvall H.、Rydberg U、Terenius L.、およびVallee B.L.、編、Birkhduser Verlag、Basel、pp.29−38)。エタノールはPC12細胞におけるジアシルグリセロールの生成を増加しないか、あるいはラット脳から部分的に精製されたPKCイソ酵素の混合物を使用するin vitroアッセイにおいてPKC活性を変更しない。
【0015】
これらの発見が示唆するように、エタノールへの慢性暴露はPKCδおよびPKCεの発現を増加することによってPKC活性を増加する。さらに、PKCεはPC12細胞における2つのエタノール誘導プロセスに関係づけられることが証明された;第1に、PKCε依存的メカニズムによるPC12細胞におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼおよび神経突起成長のNGF誘導活性をエタノールは増強することが示された(Roivainen他、1993、Brain Res. 624:85-93;Roivainen他、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1891-1895;Messing他、1991、Brain Res. 565:301-311);第2に、PKCε依存的プロセスによるPC12細胞および齧歯類脳におけるN型電圧ゲーテッドCa2+チャンネルの数を増加することを証拠は示唆している(Messing他、Alcoholism Clinical and Experimental Research 22:Abstract S26:2(1998))。
【0016】
神経の可塑性(RobinsonおよびKolb、1998、J. Neurosci. 17:8491-8497)およびCa2+チャンネルの増加(MessingおよびDiamond、1997、Molecular biology of alcohol dependence、The Molecular and Genetic Basis of Neurological Diseases、Rosenberg R.、Prusiner S.、DiMauro S.、およびBarchi R.、編、Butterworth−Heinemann、Boston、pp.1109-1126)の両方は薬物依存症に寄与することがあるので、PKCεは行動モジュレート作用を有することがある。
【0017】
GABA(ガンマアミノ酪酸)は脳における主要な阻害性神経伝達物質であり、そしてGABAAレセプターはレセプターゲーテッド塩化物チャンネルである。GABAが結合すると、これらのチャンネルは開き、塩化物は細胞を出入りすることができる。これは細胞の膜電位を静止膜電位に近い陰性値に保持し、これにより活動電位の発生を防止する傾向がある。ベンゾジアゼピンは不安を減少させるために普通に使用されている薬物の1クラスである。ベンゾジアゼピンは高いアフィニティーで中枢神経系におけるGABAAレセプターに結合する。DeLoreyおよびOlsen、1992、J. Biol. Chem. 267:16747-16750。
【0018】
ペントバルビタールおよびベンゾジアゼピン、例えば、ジアゼパムはGABAAレセプターのチャンネルをアロステリックに調節し、Cl-チャンネルが開いている時間またはGABAに応答してチャンネルが開く確率を増加する(A. Guidotti、M. G. Corda、B. C. Wise、F. Vaccarino、E. Costa、Neuropharmacology 22:1471-9(1983))。GABA依存的神経伝達はこれにより増強される。対照的に、ムシモール(muscimol)はGABAAレセプター上のGABA認識部位に競合的に結合し、内因的GABAに対して独立にCl-伝導性を増強することができる。
【0019】
以前の研究は、GABAAレセプターのPKC調節に関して矛盾する報告を提供した。GABAAレセプターは関係するサブユニットのヘテロペンタマーの複合体であり、それらのいくつかはPKCリン酸化のコンセンサス配列を含有する。Moss、1992、J. Biol. Chem. 267:14470-14476。GABAAレセプターのγ2サブユニットはmRNAのオールタネイトスプライシングにより産生された2つの形態で存在し、そしてPKCリン酸化のユニークコンセンサス部位を含有する、長いスプライス変異型(γ2L)はGABAAレセプターのエタノール感受性に特に要求されることを、いくつかの研究は示唆している(Wafford他、1990、Science 249:291-293;K. A. Wafford、P. J. Whiting、FEBS Letters 313:113-7(1992))。
【0020】
しかしながら、他の研究はこの要件を観測しなかった(W. Marszalec、Y.、Kurata、B.、J.Hamilton、D. B. Carter、T. Narahashi、Journal of Pharmocology and Expermental Therapeutics 269:157-63(1994);E. Sigel、R. Baur、P. Malherbe、FEBS Letters 324:140-142(1993);D. W. Sapp、H. H. Yeh、Journal of Pharmocology and Expermental Therapeutics 284:768-76(1998)、そしてγ2Lを欠如するマウスはエタノールに対して正常の行動および電気生理学的応答を示す(G. E. Homanics、J. J. Quinlan、R. M. Mihalek、L. L. Fireston、Frontiers in Bioscience 3:D548-58(1998))。
【0021】
小脳マイクロサックまたはクセノプス(Xenopus)卵母細胞およびGABAAレセプターサブユニットを発現するヒト腎臓細胞のホルボールエステル治療は、GABAまたはムシモールによりレセプターの活性化を阻害する(B. J. Krishek他、Neuron 12:1081-95(1994);N. J. Leidenheimer、R. A. Harris、Advances in Biochemical Psychopharmacology 47:269-79(1992));S. Kellenberger、P. Malherbe、E. Sigel、The Journal of Biolgical Chemistry 267:25660-25663(1992))。対照的に、PKCの活性触媒ドメインは、繊維芽細胞において発現されるか、あるいはCA1海馬錐体ニューロンの中へマイクロインジェクトされたとき、GABA刺激電流を増強する(P. Poisbeau、M. C. Cheney、M. D. Browning、I. Mody、Journal of Neuroscience 19:674-83(1999);Y. F. Lin、M. D. Browning、E. M. Dudek、R. L. Macdonald、Neuron、1421-1431(1994))。
【0022】
上に論じたように、本発明の以前において、アルコール中毒症、不安、薬物乱用またはGABAAレセプターの機能におけるin vivoのPKCεの役割についてほとんど知られていない。
【発明の開示】
【0023】
アルコール中毒症、不安、薬物乱用、GABAAレセプターの機能、および他のプロセスにおけるPKCεのin vivoの役割を研究するために、本発明者らはPKCεを欠如する突然変異マウスをつくるために相同的組換えによる遺伝子ターゲッティングを使用した。
【0024】
本発明は、なかでも、1)PKCε欠如細胞および非ヒト動物の産生;2)哺乳動物における不安のモジュレーションのためのターゲットとしてPKCイソ酵素ε(PKCε)の同定および使用;3)アルコール消費および他の乱用薬物の自己投与およびアルコールおよび他の薬物の消費の作用をモジュレートするためのPKCεのモジュレーターの使用;4)GABAAレセプターのアロステリックアゴニストによる治療が可能である症状、例えば、不安、嗜癖、禁断症候群、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を治療するために、PKCεのインヒビターを単独で、またはGABAAレセプターのアロステリックアゴニストと組み合わせて使用すること、および5)アルコール中毒症または他の薬物の乱用者となる危険にある個体を同定する診断方法;に関する。
【0025】
本発明は、一部分、PKCε-/-マウスが野生型マウスよりも少ない恐怖および不安を有するという発見に基づく。これが示唆するように、PKCεは不安減少薬物の開発のためのターゲットである。さらに、本発明は、一部分、GABAAレセプター、例えば、エタノール、ペントバルビタールまたはベンゾジアゼピンに作用する薬物を腹腔内注射したとき、PKCε-/-マウスが野生型マウスの2倍長い時間睡眠するという本発明者らの発見に基づく。これらの結果が示すように、PKCε-/-マウスはGABAAレセプターに作用する化合物の鎮静精神機能減退作用に対して過敏性である。こうして、PKCεのインヒビターはGABAAレセプター仲介シグナリングを増強し、GABAAアゴニストが不安緩解薬であるという事実に基づいて、PKCεインヒビターは不安の効力のある抑制薬であると結論することができる。この結論は、PKCε-/-マウスがストレス関連ホルモンの基底レベルを減少し、このようなレベルを増加する事象に引き続いてホルモンのレベルの減少を促進したという観測により支持される。
【0026】
1つの特定の面において、本発明は、PKCεをコードする核酸配列中の崩壊のためにPKCε欠如である動物細胞に関する。したがって、本発明は、PKCεをコードする遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子(アレレ)の中に操作された突然変異を含有する二倍体動物細胞を提供する。本発明の追加の面は、PKCε欠如非ヒトトランスジェニック胚および動物を発生させるための遺伝的に修飾されたPKCε欠如細胞の使用である。本発明の他の面は、PKCε遺伝子中にターゲッテッド崩壊を含んでなり、それゆえ野生型より低いレベルのPKCε活性を産生するPKCε欠如非ヒト、好ましくはマウス、トランスジェニック胚および動物、および子孫である。本発明のPKCε欠如非ヒトトランスジェニック動物は、突然変異したPKCεアレレに対してヘテロ接合性またはホモ接合性であることができる。
【0027】
本発明は、また、不安解消化合物を同定するアッセイに関する。本発明のアッセイは、PKCεの酵素活性を阻害する化合物の同定、およびこのような化合物の単離を含んでなる。本発明は、また、不安をモジュレートする化合物を同定する方法を提供する。この方法は、被検化合物として、PKCε活性をモジュレートする化合物を選択し、被検化合物を被検体に添加して不安の症状がモジュレートされたかどうかを決定することを含んでなる。本発明の他の面は、有効量のPKCεモジュレーターに投与することによって、不安または乱用薬物の消費または作用をモジュレートする方法である。特定の他の面において、本発明は、治療的に有効な量のPKCεの酵素活性を阻害する化合物と、薬学上許容される担体とを含んでなる医薬組成物に関する。さらに、本発明は、このような医薬組成物の投与により不安を治療することに関する。
【0028】
本発明の他の面は、PKCεのモジュレーターを投与することによって、乱用薬物の消費および/またはこのような薬物の作用をモジュレートする方法である。PKCεのインヒビターの投与は、これによりアルコール、バルビツエート、ニコチン、オピエート、または神経刺激薬の消費を減少するであろう。このような薬物の消費の増加は、PKCεのエンハンサーの投与を含む方法の態様から生ずるであろう。
【0029】
本発明の他の面は、PKCεがGABAAレセプターの内因的および非内因的アロステリックアゴニストの選択的モジュレーターとして作用するという発見に基づく。したがって、このようなGABAアルファレセプターのアロステリックモジュレーターによる治療が可能である症状は、本発明の方法により治療することができる。この方法は、プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)を単独でまたはこのようなアロステリックモジュレーター、好ましくはアロステリックアゴニストと組み合わせて投与することを含む。
【0030】
このような治療に適当な症状は、不安、嗜癖、禁断症状、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を包含する。PKCεインヒビターおよびGABAAレセプターのアゴニスト、好ましくはアロステリックアゴニストを含んでなる組成物は、本発明のなお他の面である。本発明の追加の面は、プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)のインヒビターをこのようなアロステリックアゴニストと組み合わせて投与することによって、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの有効投与量を減少する方法である。
【0031】
本発明の追加の面は、薬物の製造におけるPKCεのモジュレーター、例えば、PKCεインヒビターの使用を包含する。このような薬物は、不安、および/または乱用薬物の消費または作用をモジュレートするために使用することができる。PKCεインヒビターを含んでなる薬物は、また、GABAAレセプターのアロステリックモジュレーターによる治療が可能である症状の治療において使用することができる。
【0032】
本発明の他の面は、人が乱用薬物を常用するようになる可能性を予測する診断方法およびキットを包含する。人が乱用薬物の依存性または乱用者となる可能性を決定する好ましい方法は、(1)人からのPKCεを含有するか、あるいはPKCεをコードする核酸を含有する試料を分析して、前記人におけるPKCεの活性または濃度を測定し;(2)乱用薬物依存性に関する既知の特性を有する人の集団から得られた同様な試料について、それぞれ、ある範囲のPKCεの活性または濃度から選択される標準値と前記活性または濃度を比較し;そして(3)PKCεの活性または濃度を前記標準値に関係づけ、ここで統計的に異なる活性または濃度は前記乱用薬物に依存するようになる人または乱用薬物の乱用者の可能性の程度を指示する;を含んでなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
A. 一般的概観
本発明は、下記の面を包含する:1)PKCε欠如細胞および非ヒト動物の産生;2)哺乳動物における不安のモジュレーションのためのターゲットとしてPKCイソ酵素ε(PKCε)の同定および使用;3)アルコール消費および他の乱用薬物の自己投与およびアルコールの消費の作用をモジュレートするためのPKCεのモジュレーターの使用;4)GABAAレセプターのアロステリックアゴニストによる治療が可能である症状、例えば、不安、嗜癖、禁断症状、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を治療するために、PKCεのインヒビターを単独で、またはGABAAレセプターのアロステリックアゴニストと組み合わせて使用すること、および5)アルコール中毒症または他の薬物の乱用となる危険にある個体を同定する診断方法。
【0034】
B. 定義
「薬学上許容される処方物」は、所望の結果を与えかつまた患者に対する潜在的害が患者に対する潜在的利益より大きいことを医師に確信させるために十分な悪い副作用を産生しない方法で、PKCεモジュレーターを投与するために適当な処方物を含んでなる。注射可能な処方物のための基本成分は水ベヒクルである。使用する水は、注射用の無菌水についての米国薬局方の標準規格を満足する純度を有する。有用な水性ベヒクルは、塩化ナトリウム(NaCl)溶液、リンガー溶液、NaCl/デキストロース溶液、およびその他を包含する。PKCεモジュレーターを完全に溶解するために、水混和性ビヒクルもまた有用である。抗菌剤、緩衝剤および酸化防止剤は、必要に応じて、有効である。
【0035】
「有効量」は、所望の結果を生ずる量である。このような有効量は、人毎に、人の症状、体重、年齢、および健康、PKCεを投与するモード、特定の投与するモジュレーター、および他の因子に依存して変化するであろう。結局、特定の組の条件下に特定の患者について有効量を決定することが推奨される。
「PKCεモジュレーター」は、PKCεのインヒビターまたはPKCεのエンハンサーである。
【0036】
「PKCεインヒビター」は、(1)PKCεの発現、修飾、調節、活性化または分解、(2)PKCεの1または複数の正常の機能、または(3)PKCε依存的経路においてPKCεの下流で作用する分子の発現、修飾、調節または活性化、を妨害する分子または分子のグループを含んでなる。PKCεの正常の機能(それらの多くは活性化依存性である)は、基質のリン酸化(すなわち、PKCεの触媒活性)、自己リン酸化、活性化時の1つの細胞内位置から他への動き(すなわち、細胞内転位)、および所定の位置にPKCεを定着する1またはそれ以上のタンパク質への結合またはそれらからの解放を包含する。また、PKCεインヒビターは、また、PKCの他のイソ酵素を阻害することができる。
【0037】
しかしながら、選択的PKCεインヒビターは、他のPKCイソ酵素が有意に阻害されない濃度において、PKCεの1またはそれ以上の正常の機能を有意に阻害する。静電的または化学的相互作用を介してインヒビターがPKCεに結合するとき、インヒビターは「PKCεに直接的に作用する」。このような相互作用は他の分子により仲介されるか、あるいはされないことがある。インヒビターの最も即時の作用がPKCεの発現、活性化または機能化またはPKCεの下流の作用に影響を及ぼすPKCε以外の分子に対するとき、インヒビターは「PKCεに対して間接的に」作用する。
【0038】
「PKCεエンハンサー」は、(1)PKCεの発現、修飾、調節、活性化または分解、(2)PKCεの1またはそれ以上の正常の機能、または(3)PKCε依存的経路においてPKCεの下流で作用する分子の発現、修飾、調節または活性化、を増強する分子または分子のグループを含んでなる。PKCεの正常の機能(それらの多くは活性化依存性である)は、基質のリン酸化(すなわち、PKCεの触媒活性)、自己リン酸化、活性化時の1つの細胞内位置から他への動き(すなわち、細胞内転位)、および所定の位置にPKCεを定着する1またはそれ以上のタンパク質への結合またはそれらからの解放を包含する。また、PKCεエンハンサーは、また、PKCの他のイソ酵素を増強することができる。
【0039】
しかしながら、選択的PKCεエンハンサーは、他のPKCイソ酵素が有意に影響されない濃度において、PKCεの1またはそれ以上の正常の機能を有意に増強することができる。静電的または化学的相互作用を介してエンハンサーがPKCεに結合するとき、エンハンサーは「PKCεに直接的に作用する」。このような相互作用は他の分子により仲介されるか、あるいはされないことがある。エンハンサーの最も即時の作用がPKCεの発現、活性化または機能化またはPKCεの下流の作用に影響を及ぼすPKCε以外の分子に対するとき、エンハンサーは「PKCεに対して間接的に」作用する。
【0040】
化合物または分子は、それが(1)PKCεの1またはそれ以上の正常の機能、または(2)PKCεの発現、活性化または機能化またはPKCεの上流で作用する分子に影響を与える場合、調節または酵素的経路において「PKCεのその活性をモジュレートする」。PKCεの正常の機能(それらの多くは活性化依存性である)は、基質のリン酸化(すなわち、PKCεの触媒活性)、自己リン酸化、活性化時の1つの細胞内位置から他への動き(すなわち、細胞内転位)、および所定の位置にPKCεを定着する1またはそれ以上のタンパク質への結合またはそれらからの解放を包含する。
【0041】
PKCε遺伝子の対立遺伝子(アレレ)中の「操作された突然変異」は、PKCε遺伝子のヌクレオチド配列中の変化を含んでなり、このような変化は(1)このような変化の非存在下に産生される量に関してPKCεタンパク質の量を増加または減少させ、または(2)このような変化の非存在下に正常の機能に関してこのような機能が増強または障害されたPKCεタンパク質を産生する。PKCεの正常の機能(それらの多くは活性化依存性である)は、基質のリン酸化(すなわち、PKCεの触媒活性)、自己リン酸化、活性化時の1つの細胞内位置から他への動き(すなわち、細胞内転位)、および所定の位置にPKCεを定着する1またはそれ以上のタンパク質への結合またはそれらからの解放を包含する。
【0042】
「乱用薬物(drug of abuse)」は、本明細書において定義されるか、あるいはアメリカン・サイキアトリック・アソシエーション(American Psychiatric Association)により公布された現在のDSM基準または同等の基準により定義される、物質依存症または物質乱用の診断を、その過剰の消費または投与が可能とする、物質を含んでなる。乱用薬物は下記のものを包含するが、これらに限定されない:エタノール、神経刺激薬、オピエート、および他の鎮静−精神機能減退薬物。明瞭のため、乱用薬物はヘロイン、コカイン、メタンフェンタミン(metamhphetamines)およびバルビツエートを包含するが、これらに限定されない。
【0043】
「物質依存症」(注1:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、同一の12カ月の期間において任意の時間において起こる、3つの(またはそれより多い)下記の症状により発現される、臨床的に有意な障害または困難に導く、物質使用の順応性のないパターンを含んでなる:
【0044】
(1)下記のいずれかによる定義される、耐性:(a)中毒または所望の作用を達成するための物質の量を顕著に増加することの必要性、または(b)同一量の物質の連続使用による作用の顕著な減少;
(2)下記の症状の発現による、禁断症状(withdrawal):(a)物質について特徴的な禁断症状(特定の物質からの禁断症状についての基準の組の基準AおよびB参照)、または(b)禁断症状を軽減または回避するために、同一(または密接に関係する)物質を取る;
(3)物質をより多い量で取るか、あるいは意図するよりも長い期間にわたって取る;
(4)物質使用を減少または調節するための持続的願望または努力の不成功;
【0045】
(5)物質を得るために必要な活動(例えば、多数回の医師への訪問または長い距離の運転)、物質を使用するために必要な活動(例えば、チェーンスモーキング)、またはその作用から回復するために必要な活動において消費される莫大な時間;
(6)物質使用のために、重要な社会的、職業的、またはレクレーションの活動をあきらめるか、あるいは減少する;および
(7)物質により引き起こされるか、あるいは悪化されるようになる、持続的または再発する身体的または心理学的問題を有することが知られているにもかかわらず、物質使用を続ける(例えば、コカイン誘導鬱病の認識にかかわらず現在のコカインの使用、またはアルコール消費により潰瘍が悪化したという認識にかかわらず連続した飲酒)。
【0046】
「物質乱用(Substance abuse)」(注2:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、12カ月以内に起こる、1つの(またはそれより多い)下記により発現される、臨床的に有意な障害または困難に導く、物質使用の順応性のないパターンを含んでなる:
【0047】
(1)仕事、学校、または家庭における主要な役割の義務を満足することを不可能にする、再発性の物質使用(例えば、物質使用に関係する反復した欠席または仕事実行;物質に関係する欠席、一時的停止、または学校の追放;子供または家族の無視);(2)物質が身体的に危険である状況における反復した物質使用(例えば、物質使用による障害されるとき、自動の運転または機械の操作);(3)反復した物質に関係する法的問題(例えば、物質に関係する無秩序のふるまいについての阻止);および(4)物質の作用により引き起こされるか、あるいは悪化する持続的または反復した社会的または対人関係の問題を有するにかかわらず、連続的物質使用(例えば、中毒、身体的闘争の結果についての配偶者との議論)。
【0048】
「物質中毒(Substance intoxication)」(注3:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、物質の最近の摂取(またはそれに対する暴露)のための可逆的物質特異的症候群の発生を含んでなり、ここで中枢神経系に対する物質の作用(例えば、闘争的性格、気分不安定性、認知障害、判断障害、社会的または職業的機能)のためである、臨床的に有意な順応性のない行動的または心理学的変化が、物質使用の間または直後に発生し、そして一般的医学的状態のためでないか、あるいは他の精神障害によりよく説明されない。
【0049】
「物質禁断症状(Substance withdrawal)」(注4:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、大量でありかつ延長した物質使用の停止(または減少)のための、物質特異的症候群の発生を含んでなり、このような物質禁断症状は仕事の社会的、職業的、または他の重要な領域において、臨床的に有意な困難または障害を引き起こし、そして一般的医学的状態のためでないか、あるいは他の精神障害によりよく説明されない。
【0050】
「アルコール中毒(Alcohol intoxication)」(注5:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、アルコール摂取の間、または直後に発生し、下記の徴候の1つ(またはそれ以上)を伴う、臨床的に有意な順応性のない行動的または心理学的変化(例えば、不適切な性的または攻撃的行動、気分不安定性、判断の障害、社会的または職業的機能の障害)を含んでなる:(1)不明瞭言語、(2)協調不能、(3)不安定歩行、(4)ナイスタギヌス(nystaginus)、(5)注意または記憶の障害、または(6)昏迷または昏睡、ここで症候群は一般的医学的状態のためでないか、あるいは他の精神障害によりよく説明されない。
【0051】
「アルコール禁断症状(Alcohol withdrawal)」(注6:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、大量の延長したアルコール使用使用の停止(または減少)後、数時間〜数日以内に発生し、一般的医学的状態のためでないか、あるいは他の精神障害によりよく説明されず、そして仕事の社会的、職業的、または他の重要な領域において、臨床的に有意な困難または障害を引き起こす、下記の症候の2つ(またはそれ以上)により特徴づけられる症状を含んでなる:(1)自律神経性活動過剰(例えば、発汗または100より大きい脈拍数)、(2)手の振せん不眠の増加、(3)不眠、(4)悪心または嘔吐、(5)一過性視的、触覚的または聴覚的幻覚または錯覚、(6)神経運動性動揺、および(8)大発作急発作。
【0052】
「乱用薬物の作用」は、乱用薬物の投与の結果としておよびその投与後の合理的時間内に起こる、生化学的または行動的変化を含んでなる。乱用薬物およびその投与した量に依存して、異なる作用を期待することができる。例えば、低い投与量のエタノールの作用は歩行活性化を包含するが、高い投与量の作用はアルコール中毒の症候を包含する。
【0053】
「GABAAレセプターのアロステリックアゴニストによる治療が可能である症状」は、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの投与が食物および薬物の投与(the Food and Drug Administration)により承認されているか、あるいは医学的文献において推奨または承認されている任意の適用を含んでなる。REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY、第19版(1995)は、このような適用に関する情報源の1つである。GABAAレセプターのアロステリックアゴニストによる治療が可能である症状は、不安、嗜癖、禁断症状、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を包含するが、これらに限定されない。
【0054】
人が免許医師または他の適当な認定された医学的職員によりこのような乱用薬物に関する物質依存症についての基準を満足すると決定される場合、このような人は「乱用薬物に依存性」である。
人が免許医師または他の適当な認定された医学的職員によりこのような乱用薬物に関する物質乱用についての基準を満足すると決定される場合、このような人は「乱用薬物の乱用者」である。
以上の定義において述べた特定の項目は、本発明の好ましい態様を表す。
【0055】
C. PKCε-/-動物の形成およびキャラクタリゼーション
1つの態様において、本発明は、PKCεをコードする核酸配列中の破壊のためにPKCε欠如である動物細胞に関する。他の態様において、本発明は、PKCε欠如非ヒトトランスジェニック胚および動物を発生させるための、遺伝的に修飾されたPKCε欠如細胞の使用に関する。再び他の態様において、本発明は、PKCε遺伝子中にターゲッテッド破壊を含んでなり、それゆえ野生型レベルより低いPKCε活性を産生する、PKCε欠如非ヒト、好ましくはマウス、トランスジェニック胚および動物に関する。本発明のPKCε欠如非ヒトトランスジェニック動物は、突然変異したPKCεアレレに対してヘテロ接合性またはホモ接合性であることができる。
【0056】
本発明の1つの面は、PKCε欠如細胞、およびPKCε欠如非ヒト動物の産生に関する。本発明に包含される非ヒトトランスジェニック動物は、一般に、PKCεまたはPKCε相同体をコードする、任意の脊椎動物、好ましくは哺乳動物を包含する。このような非ヒトトランスジェニック動物は、例えば、トランスジェニックブタ、トランスジェニックラット、トランスジェニックウサギ、トランスジェニック畜牛、トランスジェニックヤギ、およびこの分野において知られている他のトランスジェニック動物種、特に哺乳動物種を包含することができる。さらに、ウシ、およびブタ種、齧歯類族の他のメンバー、例えば、ラット、ならびにウサギおよびモルモットおよび非ヒト霊長目、例えば、チンパンジーを使用して、本発明を実施することができる。特に好ましい動物はラット、ウサギ、モルモット、最も好ましくはマウスである。
【0057】
本発明の他の面は、PKCεをコードする遺伝子の少なくとも1つのアレレの中に操作された突然変異を含んでなる二倍体動物細胞、および1またはそれ以上のこのような細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物を包含する。好ましい態様は下記のものを包含する:細胞が操作された突然変異に対してホモ接合性である;細胞がマウス胚幹細胞である;細胞が前記突然変異に対してホモ接合性である胚繊維芽細胞である;トランスジェニック動物がこのような突然変異を有する生殖細胞系統の細胞を含有する;およびこのような突然変異が野生型よりも低いまたは高いPKCε活性を有する突然変異細胞を生ずる。
【0058】
より低いレベルを使用して、PKCεタンパク質の機能をさらに特性決定し、そしてそれが相互作用する、内因的および非内因的である両方の、PKCεと同一経路における分子を包含する、他の分子を同定することができる。増強されたレベルのPKCε活性を有する細胞または動物を使用して、このようなPKCε活性を阻害または損なう能力について分子を同定および/または試験することができる。欠失突然変異である操作された突然変異は、特にこのような突然変異がPKCεをコードする配列の少なくとも約1,200塩基のヌクレオチドを欠失するとき、好ましい。
【0059】
PKCεをコードする遺伝子の少なくとも1つのアレレの中に操作された突然変異を有する細胞を含んでなり、かつ先祖(前の世代からの直接的関係)としてこのような操作された突然変異を有する1またはそれ以上の細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物を有する、胚、幼若体および成体動物は好ましい;このような胚および動物は時には非ヒトトランスジェニック動物の「子孫」または「それに由来する」と呼ばれる。子孫の細胞のすべてまたはほとんどすべてについて、突然変異PKCε遺伝子に対してホモ接合性であることが特に好ましい。なおより好ましくは、このような細胞がホモ接合性である突然変異は欠失突然変異である。
【0060】
本発明の好ましい態様は、PKCε遺伝子の2つの染色体アレレを含有する二倍体マウス細胞、マウス胚、およびマウスを包含し、ここで少なくとも1つのPKCεアレレは突然変異を含有し、前記細胞は野生型より低いレベルのPKCε活性を産生する。神経系、およびエタノール嗜癖におけるPKCεの示唆された役割に基づいて、PKCε欠如動物および細胞は、なかでも、実験モデル、例えば、行動、神経学的応答およびエタノール嗜癖、発癌性、心臓機能、虚血、および細胞成長を研究するための実験モデルとして有用であると考えられる。
【0061】
PKCε-+-およびPKCε-/-細胞および動物を発生させるために使用できる、種々の方法、ベクター合成および他の道具はこの分野において知られている。例えば、下記の文献を参照のこと:Joyner AJ、編、Gene Targeting。The Practical Approach Series、Richwood D.およびFlames B.D.、編、1993、IRL Press:New York。
一般に、ターゲット遺伝子、すなわち、PKCε中の突然変異、またはターゲッテッド破壊は、この分野においてよく知られている多数のよく確立された突然変異の任意のものを使用して操作することができる。好ましくは、突然変異は欠失突然変異であるが、置換突然変異および/または挿入突然変異は本発明の範囲内に含まれる。
【0062】
置換突然変異は、部位特異的突然変異誘発により生成することができる。部位特異的突然変異誘発において、PKCεタンパク質の不完全産生、またはPKCε活性を欠如する突然変異タンパク質の産生を生ずるように、ターゲット遺伝子の5'末端付近に停止コドンまたは他の突然変異を導入する。
同様に、挿入突然変異は、PKCε遺伝子中の好都合な制限部位、例えば、エクソン制限部位またはPKCε遺伝子のエクソン配列決定および制限マッピングにより容易に同定できる他の部位の任意の部位を利用することによって、PKCε遺伝子内に導入することができる。
【0063】
挿入または他の突然変異を導入する他の方法は、下記の文献に記載される方法に類似する方法を使用して、PKCε遺伝子座の中に組込まれるレトロウイルスを感染させ、これにより突然変異したPKCεアレレをつくることから成る:von Melcher他、1992、Genes and Development 6:919-927。
PKCε欠如細胞を単離する別法は、ウイルス配列が挿入された遺伝子を不活性化する統合されたウイルス(通常レトロウイルスまたはアデノ関連ウイルス)配列を組込むように処理されたES細胞のライブラリーをスクリーニングする方法である。いったん単離されると、PKCε欠如ES細胞を使用してトランスジェニック動物を発生させることができる。
【0064】
欠陥PKCεアレレが生ずる可能性が多くなるように、本発明の突然変異はPKCεをコードするDNA配列の一部分を欠如することが好ましい。PKCεのコーディング領域は2721bpであり、709アミノ酸に対応する。Ono他、1988、J. Biol. Chem. 263:6927-6932。PKCεタンパク質の適切なフォルディングまたは基質の結合が防止されるように、PKCε遺伝子のコーディング領域からDNAフラグメントを排除することによって、欠失突然変異を生成することができる。欠失のサイズは変化可能であるが、一般に、より大きい欠失はPKCε活性の欠陥を生ずる可能性がより高いので、より大きい欠失はより小さい欠失よりも好ましい。
【0065】
あるいは、コーディング領域から1つの塩基対または2つの塩基対(または3で割ることのできない任意の数の塩基対)を欠失することによって、PKCεタンパク質を変更するフレームシフトの突然変異を発生させることができる。後者の場合において、ポリペプチドの合成はフレームシフトが導入された停止コドンのために妨害されるので、トランケートポリペプチドを生成することができる。なお、PKCε遺伝子のコーディング領域の単一塩基対の変化はまた突然変異であり、この突然変異は、アミノ酸変化を生ずる場合、PKCεタンパク質の適切なフォルディングを変更し、これによりPKCε欠如をつくることができる。そのように発生した単一アミノ酸変化は、また、その基質に対するPKCεのアフィニティーを変更し、これによりPKCε活性を欠如させることができる。
【0066】
他の別法は、PKCεメッセンジャーRNAの適切なスプライシングを実現する欠失または他の突然変異をPKCε遺伝子の非コーディング領域の中に発生させることである。このような突然変異は、野生型PKCεmRNA中に通常存在する全体のエクソンまたはいくつかのエクソンを欠如する、突然変異PKCε転写物を効果的につくるであろう。
【0067】
他の別法は、非コーディング調節領域を欠失させて、PKCε遺伝子の発現を減少させることである。欠失の好ましいサイズは、遺伝子の5'末端付近において約数百ヌクレオチドである。好ましくは、このような欠失は3で均一に割ることができない数のヌクレオチドをコーディング領域から排除し、これによりその上フレームシフトの突然変異をつくる。あるいは、PKCε遺伝子の転写を損なうプロモーター配列を欠失または変更することができる。
【0068】
また、アンチセンスRNAトランスジーンを使用して、特定の遺伝子の発現を部分的または完全にノックアウトすることができる。下記の文献を参照のこと:HeleneおよびToulme、1990、Biochimica Biophys. Acta 1049:99;Pepin他、1991、Nature 355:725、StoutおよびCaskey、1990、Somat. Cell Mol. Genet. 16:369;Munir他、1990、Somat. Cell Mol. Genet. 16:383。
【0069】
一般に、アンチセンスポリヌクレオチドは本発明の目的に対してPKCε遺伝子の配列の一部分に対して相補的である。相補的アンチセンスポリヌクレオチドはアンチセンスRNAを含み、このようなアンチセンスRNAは個々のmRNAに特異的にハイブリダイゼーションし、そしてmRNA種の転写および/またはRNAプロセシングおよび/またはコードされたポリペプチドの転写を妨害または防止することができる(Ching他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10006-10010;Broder他、Ann. Int. Med. 113:604-618;Loreau他、FEBS Letters 274:53-56;Holcenberg他、WO91/11535号;WO91/09865号;WO90/04735号;WO90/13641号;およびEP386563号)。
【0070】
アンチセンス配列は、細胞中の1またはそれ以上のターゲット遺伝子配列に対して実質的に相補的である、少なくとも約15隣接ヌクレオチド長さ、典型的には少なくとも20〜30ヌクレオチド長さ、好ましくは約30より大きいヌクレオチド長さのポリヌクレオチド配列である。いくつかの態様において、アンチセンス配列は相補的ターゲット配列に比較して置換、付加、または欠失を有するが、特定のハイブリダイゼーションが保持されるかぎり、ポリヌクレオチドは一般に遺伝子発現のアンチセンスインヒビターとして機能するであろう。
【0071】
好ましくは、アンチセンス配列は内因的PKCεターゲット遺伝子配列に対して相補的である。ある場合において、PKCεターゲット領域配列に対応するセンス配列は、特に転写を妨害することによって、発現を抑制する機能することができる。あるいは、アンチセンスポリヌクレオチドは一般に転写後のレベルにおいてPKCε発現を抑制するであろう。
アンチセンスポリヌクレオチドが細胞中の1またはそれ以上のポリペプチドの産生を阻害することが与えられると、それらはPKCεタンパク質を産生する非ヒトトランスジェニック動物の能力をさらに変更することができる。
【0072】
アンチセンスポリヌクレオチドはトランスジェニック多能性胚幹細胞の中に挿入された異種発現カセットから産生されることができ、これは引き続いて現在記載したPKCε欠如動物を発生させるために使用することができる。特定の条件下にまたは胚発生の特定の相において主として、またはもっぱら活性であるプロモーター因子の制御下にアンチセンスポリヌクレオチドの発現が配置される場合、ターゲット遺伝子の発現を選択的に抑制することが可能である。ターゲット領域配列は、特に転写を妨害することによって、発現を抑制するように機能することができる。あるいは、アンチセンスポリヌクレオチドは一般に転写後のレベルにおいてPKCε発現を抑制するであろう。
【0073】
アンチセンスポリヌクレオチドが細胞中の1またはそれ以上のポリペプチドの産生を阻害することが与えられると、それらはPKCεタンパク質を産生する非ヒトトランスジェニック動物の能力をさらに変更することができる。
【0074】
アンチセンスポリヌクレオチドはトランスジェニック多能性胚幹細胞の中に挿入された異種発現カセットから産生されることができ、これは引き続いて現在記載したPKCε欠如動物を発生させるために使用することができる。特定の条件下にまたは胚発生の特定の相において主として、またはもっぱら活性であるプロモーター因子の制御下にアンチセンスポリヌクレオチドの発現が配置される場合、ターゲット遺伝子の発現を選択的に抑制することが可能である。
【0075】
本発明の遺伝子修飾動物細胞は、この分野においてよく知られているいくつかの技術の任意のものにより調製することができる。特に、米国特許第5,464,764号(CapecchiおよびThomas、1995年11月7日発行、引用することによって本明細書の一部とされる)において教示されているものに概念的に類似する技術を使用することができる。一般に、PKCε欠如細胞は下記の工程を使用して操作することができる:
【0076】
(1)相同性領域と呼ぶ互いに対して5'→3'の向きである、マウスPKCε遺伝子またはゲノム遺伝子座の2つの領域に隣接した(flanked)、クローニングベクターと、少なくとも1つの正に選択可能なマーカー(正の選択マーカー)を含有するDNAフラグメントと、を含んでなるターゲッティングベクターを構築する;
(2)ターゲッティングベクターの中に、相同性領域の1つに隣接して負に選択可能なマーカー(負の選択マーカー)を含める。この負に選択可能なマーカーは、PKCε遺伝子の一部分を欠失させる所望の相同的組換え事象を回復する可能性を増加することができるが、それは不必要である。
【0077】
(3)工程(2)のターゲッティングベクターでPKCε+/+マウス細胞をトランスフェクトする;
(4)工程(3)の生ずるトランスフェクトされたマウス細胞中の1またはそれ以上の前記マーカーについてスクリーニングまたは選択する;そして
(5)1またはそれ以上の前記正の選択マーカーを含有または発現するが、1またはそれ以上の前記負の選択マーカーを発現しないことが見出される、工程(4)における細胞からPKCε欠如マウス細胞についてスクリーニングする。
【0078】
工程(1)のターゲッティングベクター中に存在しなくてはならない正確なPKCε遺伝子または遺伝子座配列は、欠失のために選択した配列、および(2)欠失突然変異の操作において使用すべき制限ヌクレアーゼに依存する。
【0079】
本発明において使用する特定の正および負の選択マーカーは、本発明の実施において決定的ではない。好ましい正および負の選択マーカーは、米国特許第5,464,764号の表1に列挙されている。正の選択マーカーは相同性領域の間に位置すべきであり、そして使用する場合、負のマーカーは相同性領域の外側に位置すべきである。相同性領域は、一般に、互いに関して同一の5'→3'向きにベクター中に存在すべきである。逆に、正および負の選択マーカーの相対的向きは決定的ではない。事実、負の選択マーカーの存在がターゲッテッドクローンについての選択を改良できるが、負の選択マーカーを含むことは実際に不必要である。
【0080】
好ましくは、正の選択マーカーは遺伝子修飾をターゲットとする細胞において発現される。選択可能なマーカーをコードするDNA配列が配列を発現する細胞に正または負の表現型の特徴を与えることができる場合、正および/または負の選択マーカーはトランスフェクトされた細胞において機能的であると考えられる。一般に、マーカーはマーカーの発現をモジュレートする調節配列に作用可能に連鎖されているであろう。核酸マーカーは、他の核酸配列と機能的関係に配置される場合、「作用可能に連結」されている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーが配列の転写に影響を与える場合、それはコーディング配列に作用可能に連結されている。転写調節配列に関すると、作用可能に連結されたは、連結されるDNA配列が隣接していることを意味する。
【0081】
さらに、正の選択マーカー遺伝子を機能的とする手段は本発明にとって決定的ではない。統合された正の選択マーカーを含有しないか、もしくは発現しない細胞を殺すか、又はそうでなければ選択する適当な因子に細胞を暴露させることによって、正の選択は達成される。正の選択マーカー遺伝子はその発現を推進するプロモーターを有するか、あるいはターゲット遺伝子座において正の選択マーカーと転写因子を並列することによってそれを推進することができる。後者の遺伝子の体制化は、転写因子がトランスフェクトされた細胞において活性であることを必要とする。
【0082】
相同性領域において使用するDNAはPKCε遺伝子座からのゲノムDNA、またはPKCε遺伝子座を隣接する配列に由来すべきである。マウス遺伝子をターゲットとする場合、DNAが由来するマウス系統は重要ではなく、それは細胞が遺伝子転移についてターゲットとされるときのマウス系統と同一であることが好ましいであろう。遺伝子のターゲッティングを実行する細胞に対して同質遺伝子的であるDNAを相同領域において使用すると、遺伝子のターゲッティングを達成する効率を増大することができる。
【0083】
相同性領域はマウスDNAのゲノムライブラリーに由来することができ、これは種々のライブラリーベクター、例えば、ラムダファージベクター、コスミドベクター、プラスミドベクター、p1ファージベクター、酵母人工的染色体ベクター、または他のベクターの中にクローニングすることができる。ターゲッティングベクターにおいて使用すべき相同性領域は、また、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用してゲノムDNAから直接的に誘導することができる。この方法は、発表されたPKCε遺伝子の配列、またはフランキング配列についての多少の知識を有することに頼る。そのように誘導された相同性領域は、ターゲッティングベクターの中に直接的にサブクローニングすることができるであろう。
【0084】
記載したターゲッティングベクターの構築に使用する特定のクローニングベクターは、なかでも、正の選択マーカー遺伝子により分離されたPKCε相同性の2つの領域を一般に含有するであろう。必要に応じて、相同性領域をフランキングする領域のいずれか、または両方の中に、また、負の選択マーカーは含めることができる。いずれの場合においても、使用する特定のクローニングベクターは、選択的特性、例えば、薬物耐性をコードする遺伝子を含有するかぎり、決定的ではない。
【0085】
適当なクローニングベクターの例は下記のものを包含するが、これらに限定されない:pBR322およびpBR322をベースとするベクター(Sekiguchi、1983)、pMB9、pBR325、pKH47(Bethesda Research Laboratoies)、pBR328、pHC79、ファージCharon 28(Bethesda Research Laboratoies、Boehringer Mannheim Biochemicals)、pKB11、pKSV-10(P-L Biochemicals)、pMAR420(Otsuka、1981)およびオリゴヌクレオチド(dg)テイルド(tailed)pBR322(Bethesda Research Laboratoies)、pBluescriptまたは同様なプラスミド(Stratagene)、puc19または同様なプラスミド(New England Biolabs)。
【0086】
あるいは、正の選択マーカー遺伝子および任意の隣接負の選択マーカーにより分離されたPKCε相同性の2つの領域を含んでなるターゲッティングベクターは、他のクローニングベクター、例えば、ラムダファージベクター、コスミドベクター、プラスミドベクター、p1ファージベクター、酵母人工的染色体ベクター、または他のベクターの中にクローニングすることができる。他の意見は、PCRにより、かつ互いに関して相同領域の適切な向きを保証する結合のための制限エンドヌクレアーゼ部位を選択することによって各成分をその適切な位置に単に結合することによって、ターゲッティングベクターの成分を合成的に製造すること、および正の選択マーカーが相同性領域の間に確実に位置させることである。いったん構築されると、この「ターゲッティングカセット」を適当なベクター、例えば、前述のベクターの中に配置するか、あるいは広範な種類のウイルスベクター(アデノウイルス、乳頭腫ウイルス、レトロウイルス、アデノ関連ウイルス、およびその他)の中に配置することができる。
【0087】
本発明のターゲッティングベクターの成長に使用する特定の宿主は決定的ではない。このような宿主の例は、大腸菌(E. coli)K12RRI(Bolivar他、1977);大腸菌(E. coli)K12HBIOI(ATCC No. 33694);大腸菌(E. coli)MM21(ATCC No. 336780);および大腸菌(E. coli) DHI (ATCC No. 33849)である。本発明において好ましい宿主はDH5α(Life Technologies)。同様に、別のベクター/クローニング系、例えば、大腸菌(E. coli)またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、または両方において成長するターゲッティングベクター、またはバシラス・サチリス(B. subtilis)において成長するプラスミドベクター(Ure他、1983、Methods in Enzymology″Recombinant DNA″、vol. 101、Academic Press、NY)を使用することができる。
【0088】
本発明において突然変異した特定のマウス細胞は決定的ではないが、好ましくは前駆体多能性細胞である。前駆体という用語は、多能性細胞が本発明に従い製造される所望のトランスフェクトされた多能性細胞の前駆体であることを意味する。多能性細胞をin vivoで培養して突然変異マウスを産生することができる(Evans他、1981、Nature 292:292-156)。本発明において使用できるマウス細胞の例は、胚幹(ES)細胞(好ましくはES細胞の一次分離株)、例えば、AB1またはA132.1を包含する。ES細胞の一次分離株は、例えば、一般にEK.CCE細胞系統またはES細胞について記載されているように、胚から直接的に得ることができる。
【0089】
本発明において使用する特定の胚幹細胞は決定的ではない。胚幹細胞の例は、AB2.1、hprt-細胞系統、AB1、hprt+細胞系統である。
ES細胞は、下記の文献に記載されているように、ストロマ細胞、例えば、STO細胞および/または一次胚繊維芽細胞上で培養することが好ましい;Rovertson、1987、″Teratocarcinomas and embryonic stem cells;a practical approach″、E. J. Robertson、編(Oxford:IRL Press)、pp. 71−112。ストロマ(および/または繊維芽)細胞は、異常なES細胞のクローナル発芽後成長を減少する働きをする。ある場合において、白血球阻害因子の存在下にES細胞を培養することが好ましいが、それは決定的ではない(Gough他、1989、Reprod. Fertil. Dev.:281;Yamagouchi他、1989、Science 246:1412)。
【0090】
本発明のPKCε欠如マウスを得るために、下記の文献に記載されているように、突然変異胚幹細胞をマウス芽細胞の中に注入する:Bradley、1987、″Teratocarcinomas and embryonic stem cells;a practical approach″、E. Robertson、編(Oxford:IRL Press)、pp. 113-151。
本発明において使用する特定のマウス芽細胞は決定的ではない。適当な芽細胞の例は、C57BI-6マウス、C57BL6AIbino、Swiss異系交配、CFLP、MFIまたは他のマウスに由来するものを包含するが、これらに限定されない。
【0091】
本発明の特定の態様において、戦略はすべてのエクソンIおよび下流のイントロン配列の一部分を包含する、マウスPKCεのゲノムDNA配列の1.2kbを「ノックアウト」するターゲッティングベクターをつくるように設計された。ターゲッティングベクターをつくるために、831bpのフラグメント(ヌクレオチド470−1282)をマウスPKCε cDNA(Schaap他、1989、FEBS Lett. 243:351-357)からPCRにより増幅した。このフラグメントを使用して、ラムダFIX 11 129マウス肝臓ゲノムライブラリー(Stratagene #946308)をスクリーニングした。
【0092】
2つの13kbおよび15kbのオーバーラッピングゲノムクローンを選択し、pBluescript 11 SK+(Stratagene)のNod部位の中にサブクローニングした。クローンをBamHIおよびEcoRI制限酵素で消化し、フラグメントをpBluescript 11 SK+の中にサブクローニングした。サブクローンを20種類の酵素で制限消化してゲノム地図を構成することによって、分析した。いくつかのクローンを使用して、ATG開始コドンから5'の配列の1700bpを同定した。PKCε-/-動物を発生させ、このような動物を特性決定する好ましいアプローチは実施例に記載されている、下の節VI.B参照。
【0093】
D. PKCε活性を阻害する化合物を同定するアッセイ
本発明のPKCε-/-マウスは、約60日齢の同腹子野生型対照に比較して、正常の体重を有し、2週の期間にわたって食べ、飲んだ。同様に、PKCε-/-マウスは、1日3回の1時間の試験の間に、野生型対照に比較して、正常の自発的歩行行動および新奇な環境に対する馴化を示した。PKCε-/-マウスは正常の全般的歩行行動を示したが、それ以上の分析において、オープンフィールドの活動、新奇な物体の探索、および高いプラス迷路の動作の特定の測度について、野生型対照と有意に異なることが示された。
【0094】
例えば、PKCε-/-マウスは、移動距離の2倍の増加、およびオープンフィールドの中心領域における静止に消費した時間の3倍の増加を示した。これらの両方の発見は、突然変異マウスにおける不安レベルの減少と一致する。PKCε-/-マウスは、また、新奇な物体をオープンフィールドの中心に配置したとき、探索行動の2倍の増加を示し、これはまた不安レベルの減少を示唆する。そのうえ、高いプラス迷路、すなわち、不安のよく規定された試験において試験したとき、PKCε-/-マウスは、対照に比較して、2倍の移動距離、訪問時間、歩行時間、およびオープンアームにおける静止時間を示した。
【0095】
最後に、PKCε-/-マウスは、野生型マウスよりも、低い基底レベルのストレスホルモン、すなわち、コルチコステロンおよびアドレノコルチコトロピックホルモン(ACTH)を有し、そして、ストレスのある事象は突然変異マウスおよび野生型マウスの両方においてコルチコステロンのレベルを増加させるが、コルチコステロンは突然変異マウスにおいて野生型マウスよりもいっそう急速に基底レベルに戻る。これらのデータが明瞭に証明するように、PKCεは不安の調節において重要な役割を演じ、そしてPKCεインヒビターは、レシピエントを不活発としないで、あるいはそうでなければ環境刺激に対する適切な応答を不能としないで、不安を低下させる。
【0096】
GABAAレセプターはエタノールの鎮静作用を仲介することが広く知られている(AllanおよびHarris、1987、Pharmacol. Biochem. Behav. 27:665-670;MehtaおよびTicku、1988、J. Pharmacol. Exp. Ther. 246:558-564)。しかしながら、エタノールの作用に対するGABAAレセプターの感受性とプロテインキナーゼCイプシロン(PKCε)イソ酵素との間の関係はよく定められていない。本発明のPKCε-/-動物は、エタノール誘導立直り反射の喪失(LORR)の開始および期間により測定して、PKCεイソ酵素がエタノールの鎮静作用の仲介に関係するかどうかを決定するために適したモデルである。
【0097】
その目的で、PKCε-/-マウスおよび野生型マウスに3つの投与量のエタノール(3.2、3.6、および4.0g/kg)を腹腔内注射し、次いでLORRの潜伏期および期間を測定した。すべてのマウスはLORR期間の投与量依存的増加を示した。PKCε-/-マウスは野生型対照よりも有意に高いLORR期間を有することが見出された。この作用がGABAAレセプター活性の変化により仲介されるかどうかを決定するために、鎮静投与量のGABAAアゴニストペントバルビタールの作用を試験した。PKCε-/-マウスはペントバルビタールの鎮静作用に対して2倍大きい感受性を示した。これが示唆するように、PKCεはGABA作動(GABA-ergic)メカニズムを通してエタノールの鎮静作用を仲介する。
【0098】
本発明は、一部分、野生型マウスと比較したとき、PKCε-/-マウスはより少ない恐怖および不安を示すという本発明者らの発見に基づく。詳しくは、野生型同腹子に比較して、PKCε-/-マウスは歩行活動を増加させ、そしてオープンフィールドの中心においてより多い時間を消費することが発見された。PKCε-/-マウスは、また、野生型マウスよりもいっそう広範に新奇な物体を探索する。高いプラス迷路上で、雄マウスは迷路のオープンアーム上で2倍長い時間を消費した。これらの結果が示唆するように、野生型マウスよりも、PKCε-/-マウス、特に雄はより少ない恐怖および不安を有する。
【0099】
他の態様において、本発明は不安解消化合物を同定するアッセイに関する。本発明のアッセイは、PKCεの酵素活性を阻害する化合物の同定、およびこのような化合物単離を含んでなる。このような化合物の存在および非存在においてPKCε活性を比較し、このような化合物を被検体に添加し、被検体がより少ない不安を感ずるようになるかどうかを決定することによって、このような化合物を同定することができる。追加の面において、本発明は、治療的に有効量のPKCεの酵素活性を阻害する化合物と、薬学上許容される担体とを含んでなる医薬組成物に関する。再びそれ以上の面において、本発明は、PKCεの酵素活性を阻害する化合物と、薬学上許容される担体とを含有する医薬組成物を投与することによって、不安を治療することに関する。このような医薬組成物は、さらに、治療的に有効量のGABAAアゴニスト、好ましくはGABAAレセプターのアミノ酸、より好ましくはベンゾジアゼピンを含む。
【0100】
さらに、本発明は、一部分、PKCε-/-マウスはGABAAレセプターに作用する化合物の鎮静精神機能減退作用に対して過敏性であるという本発明者らの発見に基づく。詳しくは、アルコールに関係する行動の研究において、GABAAレセプターに作用する薬物、例えば、エタノール、ペントバルビタールまたはジアゼパムの鎮静投与量を腹腔内注射するとき、突然変異マウスは野生型マウスの2倍長い時間の間睡眠することが示される。オープンフィールドおよび高いプラス迷路のデータと一緒に、これらの発見が示唆するように、PKCεの阻害はGABAAレセプター仲介シグナリングを増強する。GABAAアゴニストは不安解消性であるので、PKCεインヒビターは不安に対して抑制作用を有し、GABAAレセプターまたはそのシグナリング経路に作用する不安解消薬物の作用を増強することを期待することができる。
【0101】
不安のサプレッサーおよびGABAAレセプターのインヒビターの不安解消作用のエンハンサーとしてのPKCεインヒビター
本発明により明らかにされるように、PKCεはヒトおよび非ヒト動物を包含する動物の不安の調節に関係づけられる。それ自体、PKCε活性のモジュレーターは非ヒトおよびヒト哺乳動物を包含する、必要とする被検体における不安をダウンレギュレートまたはアップレギュレートするための因子として有用であろう。PKCε活性を増強するアゴニストは酵素作用をアップレギュレートする有効な因子であるが、PKCε活性を阻害するアンタゴニストは被検体における不安を抑制する有効な因子である。本発明は、PKCεアゴニストおよびアンタゴニストとして作用する両方の化合物を同定するアッセイ、およびこのようなアッセイにより同定された化合物を包含する。
【0102】
特定の実施態様において、本発明は、PKCεを阻害する化合物の同定、および同定された化合物に関する。治療的に有効量のこのような同定されたPKCεインヒビターは、不安、例えば、下記のものを包含する不安の障害ような症状を治療するための医薬組成物の製造に使用される:恐慌障害(例えば、広所恐怖症を伴わない恐慌障害、広所恐怖症を伴う恐慌障害)、恐慌障害の病歴を伴わない広所恐怖症、特定の恐怖、社会的恐怖、強迫−強制障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、一般化不安障害、物質誘導不安障害、またはそうでなければ特定しなかった不安障害。このような医薬組成物は、不安症候の改善を必要とする被検体に投与することができる。
【0103】
1つの態様において、医薬組成物は治療的に有効量のPKCε阻害化合物と、薬学上許容される担体とを含んでなる。これらの医薬組成物は不安の治療を必要とする被検体に投与することができる。このような医薬組成物は、GABAAアゴニストを使用する不安の治療を超えた重要な利点を有する。詳しくは、不安の治療に現在使用されているGABAAアゴニストと対照的に、非常に覚醒しておりかつ活動的であり、ストレスのある事象に対して適当に応答する、本発明のPKCε-/-マウスの表現型により証明されるように、PKCεインヒビターは治療される被検体に対して鎮静作用を示さない。それ自体、本発明の医薬組成物は鎮静副作用を示さないで不安の治療を可能とする。
【0104】
他の態様において、本発明は、治療的に有効量のPKCεインヒビターおよびGABAAアゴニストと、薬学上許容される担体とを含んでなる医薬組成物に関する。PKCεアンタゴニストおよびPKCεアゴニストの両方を含んでなる医薬組成物は、GABAAアゴニストの不安減少作用の増強を望む場合、重度の不安の症候の治療に特に有効である。
【0105】
1つの面において、本発明は、PKCε活性をモジュレートおよび/または妨害する、好ましくは阻害する化合物を同定するアッセイに関する。このような化合物は、不安、例えば、下記のものを包含する不安の障害ような症状を治療するための医薬組成物の発生に使用される:恐慌障害(例えば、広所恐怖症を伴わない恐慌障害、広所恐怖症を伴う恐慌障害)、恐慌障害の病歴を伴わない広所恐怖症、特定の恐怖、社会的恐怖、強迫−強制障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、一般化不安障害、物質誘導不安障害、またはそうでなければ特定しなかった不安障害。アッセイの2つの一般的型は好ましい。一方において、アッセイはPKCεの酵素活性を変更する化合物を同定するように設計することができる。他方において、アッセイはPKCε特異的シグナルトランスダクションがモジュレートされる、例えば、中断されるように、PKCεと細胞の結合相手との特異的相互作用をブロックする化合物を同定するように設計することができる。
【0106】
本発明によるPKCεの機能を変更し、阻害し、または増強する化合物を同定し、単離するために、PKCεを発現する適当な細胞系を使用することができる。あるいは、PKCεを単離し、その活性を特異的に妨害する化合物を同定および単離するin vitroまたはin vivoアッセイに使用することができる。一般に、PKCεを精製し、その活性をアッセイする方法は下記の文献に記載されている:Ohmichi他、1993、Biochem. J. 295:767−772;Hundle他、1995、J. Biol. Chem. 270:30134-30140;Hundle他、1997、J. Biol. Chem. 272:15028-15035;UchidaおよびFilburn、1984、J. Biol. Chem. 259:12311-12314;Chakravarthy他、1994、Biochem. J. 304:809-816;Walton他、1987、Analytical Biochemistry 161:425-437;Roth他、J. Neurochem. 52:215-221;Lehel他、1997、Analytical Biochemistry 244:340−346;およびPapadopoulos and Hall、1989、J. Cell. Biol. 108:553-567。
【0107】
さらに詳しくは、PKCεを発現する適当なアッセイ系における細胞を化学化合物または化合物のライブラリーに暴露して、所望のモジュレート作用を有する化合物を同定することができる。あるいは、任意の源からの化合物の高い処理量の試験を可能とするように設計された、適当な発現系においてPKCεを発現させ、必要に応じて単離し、PKCεに結合するか、あるいはPKCεに対して測定可能な阻害作用を有する分子を同定することができる。
【0108】
よく知られている組換えDNA技術に従い、PKCεをコードするヌクレオチド配列を使用して、対応する精製されたタンパク質を産生することができる。遺伝子を単離した後、遺伝子を発現させる方法を教示する多数の刊行物の1例は次の通りである:Gene Expression Technology,Methods and Enzymology、Vol. 185、Goeddel編、Academic Press、カリフォルニア州サンディエゴ(1990)。
【0109】
PKCεは原核性または真核性の、種々の宿主細胞において発現させることができる。多くの場合において、宿主細胞が真核細胞であり、より好ましくは宿主細胞は哺乳動物細胞である。宿主細胞は、本発明の方法により同定されたタンパク質をコードする核酸配列が天然に存在する、すなわち、内因的である種と同一であるか、あるいは異なる種からのものであることができる。細胞の発現系において組換えDNA技術によりPKCεを産生する利点は、モジュレートする化合物を同定する最適化されたアッセイ系の開発を包含する。
【0110】
一般に、本発明の発現系は、それらが大量の組換えタンパク質を産生する系を容易に提供するという利点を有する。しかしながら、当業者が認識するある種の環境下に、別の発現系は、ある場合において、また、精製のためのPKCεの高度に濃縮された源を獲得しかつ簡素化された精製手法が利用可能であるという利点を証明することができる。タンパク質を組換え産生する方法は一般にこの分野において非常によく確立されており、そして、なかでも、下記の文献に記載されている:Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor(1989)。
【0111】
本発明の1つの態様において、その遺伝子配列の発現および細胞培養物からの組換え的産生されたタンパク質の回収に好適なの条件下に、PKCεをコードする発現ベクターで形質転換された細胞を培養する。使用する遺伝子および特定の遺伝的構築物の特質に依存して、組換え細胞により産生されるPKCεタンパク質は分泌されるか、あるいは細胞内に含有されることがある。一般に、分泌された形態で組換えタンパク質を製造することはいっそう好都合である。精製工程は、産生および産生される特定のタンパク質の特質に依存するであろう。精製方法はこの分野においてよく確立されている;当業者は精製条件を最適化する方法を知っている。特定のタンパク質についての精製条件は、なかでも、下記の文献に記載されている:Scopes、Protein Purification:Principles and Practice、1985、Springer-Verlag、New York、Heidelberg、Berlin。
【0112】
組換え産生に加えて、固相技術を使用する直接的ペプチド合成により、PKCεのペプチドフラグメントを製造することができる。下記の文献を参照のこと:Steward他、Solid−Phase Peptide Synthesis(1969)、W. H. Freeman Co.、San Francisco;およびMerrifield、1963、J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154。
【0113】
マニュアル技術または自動化技術を使用して、in vitroポリペプチド合成を実施することができる。自動化合成は、例えば、製造業者により供給される使用説明書に従いアプライド・バイオシステムス(Applied Biosystems)431Aペプチド合成装置(フォスターシティー、カリフォルニア州)を使用して、達成することができる。
【0114】
本発明の1つの態様において、PKCεタンパク質および/またはPKCεタンパク質を発現する細胞系統を使用して、PKCε遺伝子活性のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用する抗体、ペプチド、有機分子または他のリガンドについてスクリーニングする。例えば、活性、例えば、PKCεの酵素活性を妨害するか、あるいは結合相手、例えば、リガンド、アダプター分子、または基質との相互作用を妨害することができる抗体を使用して、PKCεの機能を阻害する。PKCεの機能を増幅することを望む場合、例えば、対応するシグナルトランスダクション経路のリガンド、アダプター分子または基質を模擬する抗体を開発することができる。明らかなように、PKCεの活性、機能、または特異性を修飾する抗体を発生させることができる。
【0115】
あるいは、組換え的に発現されたPKCεまたはPKCεを発現する細胞系統でペプチドライブラリーまたは有機化合物をスクリーニングすることは、その生物学的活性を阻害、増強または修飾することによって機能する療法上の分子の同定に有効であることがある。
【0116】
潜在的に生物学的に活性な物質の合成化合物、自然産物、および他の源を多数の方法でスクリーニングすることができる。ターゲットタンパク質の機能を阻害、増強またはモジュレートする被検化合物の能力は、PKCεの機能を測定する適当なアッセイにより決定することができる。例えば、応答、例えば、その活性、例えば、酵素活性、またはそのリガンド、アダプター分子または基質に結合するPKCεの能力をin vitroアッセイにおいて決定することができる。第2メッセンジャーの産生、細胞代謝の変化、または酵素活性に対する作用のモジュレーションをモニターするために、細胞アッセイを開発することができる。
【0117】
これらの目的のために開発された慣用技術を使用して、これらのアッセイを実施することができる。最後に、PKCεの機能を阻害、増強またはモジュレートする被検化合物の能力は、適当な動物モデルにおいてin vivoで測定されるであろう。例えば、不安、例えば、下記のものを包含する不安の障害ような症状を抑制または減少する化合物の能力をモニターするために、マウスモデルが使用されるであろう:恐慌障害(例えば、広所恐怖症を伴わない恐慌障害、広所恐怖症を伴う恐慌障害)、恐慌障害の病歴を伴わない広所恐怖症、特定の恐怖、社会的恐怖、強迫−強制障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、一般化不安障害、物質誘導不安障害、またはそうでなければ特定しなかった不安障害。
【0118】
本発明の1つの態様において、固相支持体に結合したアミノ酸のすべての可能な組合わせから成るランダムペプチドライブラリーを使用して、PKCεの機能を妨害することができるペプチドを同定する。例えば、リガンド、アダプター分子または基質に結合するPKCεの部位またはその機能的ドメイン、例えば、酵素ドメインに結合するペプチドを同定することができる。したがって、ペプチドライブラリーをスクリーニングすると、その活性を妨害する、療法上の価値を有する化合物を得ることができる。
【0119】
組換え可溶性PKCεタンパク質でペプチドライブラリーをスクリーニングすることによって、PKCεに結合できる分子を同定することができる。PKCεタンパク質を発現させ、精製する方法を使用して、問題の機能的ドメインに依存して、組換えの完全なPKCεタンパク質またはそのフラグメントを発現させることができる。
【0120】
PKCεと相互作用し、PKCεとの複合体を形成する、ペプチド/固相支持体を同定し、単離するために、PKCεタンパク質分子またはそのフラグメントを標識化または「タッグ(tag)」することが必要である。例えば、PKCεを酵素、例えば、アルカリ性ホスファターゼまたはセイヨウワサビペルオキシダーゼに、または他の試薬、例えば、蛍光標識、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)またはローダミンに結合させることができる。PKCεへの任意の所定の標識の結合は、この分野において日常的な技術に従い実施することができる。
【0121】
可溶性PKCε分子またはそのフラグメントを使用することに加えて、他の態様において、完全な細胞を使用して、PKCεに結合するペプチドを同定することができる。PKCεの機能が機能的であるために細胞膜の脂質ドメインを必要とする場合、完全な細胞の使用は好ましい。本発明の方法および発現系で同定されたPKCεを発現する細胞系統を発生させる方法。この技術において使用する細胞は、生きている細胞または固定された細胞のいずれであることもできる。細胞をランダムペプチドライブラリーとインキュベートし、そしてこれらの細胞はライブラリー中のある種の細胞に結合するであろう。そのように形成したPKCεと関係する固相支持体/ペプチドとの間の複合体を標準的方法、例えば、分画遠心分離により単離することができる。
【0122】
細胞膜の脂質ドメインを必要とするPKCεの機能を測定する場合において、全細胞アッセイに対する別法は、標識または「タグ(tag)」を結合できるリポソームにレセプター分子を再構成することである。
【0123】
他の態様において、PKCεを発現する細胞系統、あるいは、単離されたPKCεまたはそのフラグメントを使用して、PKCε活性またはシグナルトランスダクションを阻害し、増強し、またはモジュレートする分子についてスクリーニングする。このような分子は、PKCε活性に影響を与えるか、あるいはそのリガンド、アダプター分子または基質との複合体の形成を促進または妨害する、小さい有機または無機の化合物、または他の分子を包含することができる。一般に当業者に知られている多数の方法において、潜在的生物学的に活性な方法の合成化合物、自然産物、および他の源をスクリーニングことができる。
【0124】
例えば、標準的生化学的技術を使用して、PKCεの機能を妨害する被験分子の能力を測定することができる。あるいは、細胞の応答、例えば、他のタンパク質の触媒活性、リン酸化、脱リン酸化、または他の修飾の活性化または抑制、第2メッセンジャー産生の活性化または修飾、細胞のイオンレベルの変化、シグナリング分子の会合、解離または転位、あるいは特定の遺伝子の転写または翻訳をまたモニターすることができる。これらのアッセイは、スクリーニングの過程において、これらの目的のために開発された慣用技術を使用して実施することができる。
【0125】
さらに、PKCεの機能は、シグナルトランスダクション経路を介して、種々の細胞プロセスに影響を与えることがある。そのシグナリング経路の制御下の細胞プロセスは下記のものを包含するが、これらに限定されない:正常の細胞の機能、増殖、分化、細胞形状の維持、および付着、ならびに異常なまたは潜在的に有害なプロセス、例えば、非調節の細胞増殖、接触阻害の喪失、および分化のブロッキングまたは細胞死。この分野において知られている技術による記載された任意の細胞プロセスの定性的または定量的観測および測定は、スクリーニングの過程におけるシグナルトランスダクションのスコアリング手段として好都合に使用することができる。
【0126】
PKCεと相互作用する化合物のスクリーニング、同定、および評価に種々の技術を使用することができ、このような化合物はPKCεの制御下に種々の細胞プロセスに影響を与えることができる。
【0127】
例えば、PKCεまたはその機能的誘導体を、純粋なまたは半純粋な形態で、膜の調製において、または生きているまたは固定された全細胞中で、化合物とインキュベートする。引き続いて、適当な条件下に、例えば、化合物の活性、またはそのシグナルトランスダクションを測定し、その活性を、化合物の非存在下に同一条件下にインキュベートしたPKCε活性と比較し、これにより化合物がPKCε活性を刺激または阻害するかどうかを決定することによって、PKCεの機能に対する化合物の作用を精査する。
【0128】
化合物をスクリーニングするためにPKCεを発現する全細胞を使用することに加えて、本発明は、また、可溶性または固定化PKCεを使用する方法を包含する。例えば、PKCεに結合することができる分子を生物学的または化学的調製物内において同定することができる。例えば、PKCεまたはその機能的フラグメント、例えば、問題の特定のドメインを含有するフラグメントを固相マトリックスに固定化し、引き続いて化合物が結合できるために十分な時間の間、生物学的または化学的調製物を固定化PKCεと接触させる。次いで非結合物質を固相マトリックスから洗浄除去し、固相に結合した化合物の存在を検出し、これにより化合物を同定する。次いで適当な手段を使用して、結合する化合物を溶離する。
【0129】
1. 候補の被検化合物の源
このようなアッセイに使用する被検化合物は、下記の源を包含する、任意の商業的源から入手される:アルドリッヒ(Aldrich)(ウイスコンシン州ミルウォーキー、ウェスト セント・ポールアヴェニュー1001)、シグマ・ケミカル(Sigma Chemical)(ミゾリー州63178セントルイス、郵便私書箱14508)、フルカ・ヘルメ社(Fluka Cherme AG)(スイス国CH-9471ブヘス、インダストリエストラッセ(Fluka Chemical Corp.、ニューヨーク州11779ロンコンコマ、サウス・セカンド・ストリート))、イーストマン・ケミカル・カンパニー(Eastman Chemical Company)、ファイン・ケミカルス(Fine Chemicals)(テネシー州37662キングスポート、郵便私書箱431)、ベーリンガー・マンヘイム社(Boehringer Mannheim GnbH)(D-68298マンヘイム、サンドホフェル・ストラッセ116)、タカサゴ(Takasago)(ニュージャージイ州07647、ロックレイヒ、ボルボ・ドライブ4)、SSTコーポレーション(Corporation)(ニュージャージイ州07012、クリフトン、ブリストン・ロード635)、フェロ(Ferro)(ルイジアナ州70791、ザチャリイ、ウェスト・イレン・ローソ111)、リーデル−デヘン・アクチエンゲゼルシャフト(Riedel−deHaen Aktiengesellschaft)(ドイツ国、ゼールゼ、郵便私書箱D-30918)、PPGインダストリーズ・インコーポレーテッド(Industries Inc.)、ファイン・ケミカルス(Fine Chemicals)(ペンシルベニア州15272、ピッツバーグ、第34フローア、ワンPPGプレイス)。本発明のアッセイカスケードを使用して、微生物、菌類または植物の抽出物を包含する、それ以上の任意の種類の製品をスクリーニングすることができる。
【0130】
2. 他のPKCεモジュレーターおよびそれらの性質
PKCεイソ酵素を阻害する任意の分子は不安を低下させまたはアルコール消費を減少させるために十分であるが、PKCε−突然変異マウスにより示されるように、PKCεの排除が主要な発生の異常性または重大な鎮静作用を引き起こさないので、PKCεイソ酵素を選択的に阻害する分子は好ましい。また、PKCε以外のPKCイソ酵素を阻害することができる分子はそれらのイソ酵素が実行する種々の機能を妨害するので、このような非選択的インヒビターは、不安またはアルコール消費を減少するが、多数の望ましくない副作用を有するように思われる。
【0131】
本発明において使用できるPKCεの多数の既知のインヒビターが存在する。例えば、米国特許第5,783,405号には、PKCイソ酵素を阻害する多数のペプチドが記載されている。これらののうちで、εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6およびεV1-7ペプチドはPKCεに対して選択的である。PKCの小さい分子のインヒビターは、米国特許第5,141,957号、第5,204,370号、第5,216,014号、第5,270,310号、第5,292,737号、第5,344,841号、第5,360,818号、および第5,432,198号に記載されている。
【0132】
これらの分子は下記のクラスに属する:N,N'−ビス−(スルホンアミド)−2−アミノ−4−イミノナフタレン−1−オン;N,N'−ビス−(アミド)−2−アミノ−4−イミノナフタレン−1−オン;ビシナル−置換カルボサイクル;1,3−ジオキサン誘導体;1,4−ビス−(アミノ−ヒドロキシアルキルアミノ)−アントラキノン;フロ−クマリンスルホンアミド;ビス−(ヒドロキシアルキルアミノ)−アントラキノン;およびN−アミノアルキルアミド。前述の特許の関係する部分は引用することによって本明細書の一部とされる。
【0133】
PKCεの活性化、細胞内転位、細胞内レセプター(例えば、PACKs)への結合または触媒活性を測定するアッセイを使用して、追加のPKCεのインヒビターを同定することができる。伝統的には、ホスフェートドナーとして放射性ATPおよび基質としてヒストンタンパク質または短いペプチドを用いる再構成されたリン脂質環境において、少なくとも部分的に精製されたPKCを使用して、PKC族のメンバーのキナーゼ活性はアッセイされてきている(T. Kitano、M. Go、U. Kikkawa、Y. Nishizuka、Meth. Enzymol. 124:349-352(1986);R. O. Messing、P. J. Peterson、C. J. Henrich、J. Biol. Chem. 266:23428-23432(1991))。
【0134】
最近の改良は、生理学的濃度においてプロテインキナーゼ活性を測定し、自動化することができおよび/または高い処理量のスクリーニングにおいて使用することができる、急速な、高度に感受性の化学発光アッセイ(C. Lehel、S. Daniel-Issakaini、M. Brasseur、B. Strulovici、Anal. Biochem. 244:340-346(1997))および単離された膜中のPKCおよびMARCKSタンパク質に由来する選択的ペプチド基質を使用してアッセイ(B. R. Chakravarty、A Bussey、J. F. Whitfield、M. Sikorska、R. E. Williams、J. P. Durkin、Anal. Biochem. 196:144-150(1991))を包含する。
【0135】
分画(R.O. Messing、P. J. Peterson、C. J. Henrich、J. Biol. Chem. 266:23428-23432(1991))または免疫組織化学(米国特許第5,783,405号;米国特許出願第08/686,796号)により、PKCεの細胞内局在化を測定する、アッセイにより、PKCεの細胞内転位に影響を与えるインヒビターを同定することができる。PKCεインヒビターを同定するために、PKCεを使用してアッセイを実施すべきである。PKCεに対するインヒビターを他のPKCイソ酵素に対するその作用と比較することによって、このようなPKCεインヒビターの選択性を決定することができる。前述の特許および刊行物の関係する部分は、引用することによって本明細書の一部とされる。
【0136】
3. PKCε酵素活性またはシグナルトランスダクションを妨害する化合物を使用する適応症
本発明の方法により同定される化合物はPKCεの酵素活性のモジュレーターであるか、あるいはPKCε誘導シグナルトランスダクション経路におけるタンパク質/タンパク質の相互作用のモジュレーターである。このような化合物は下記のものを包含する多数の適応症の治療に有効である:不安、例えば、不安の障害ような症状、例えば、恐慌障害(例えば、広所恐怖症を伴わない恐慌障害、広所恐怖症を伴う恐慌障害)、恐慌障害の病歴を伴わない広所恐怖症、特定の恐怖、社会的恐怖、強迫−強制障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、一般化不安障害、物質誘導不安障害、またはそうでなければ特定しなかった不安障害。
【0137】
E. 処方物/投与経路
同定された化合物は単独で、または医薬組成物と組合わせてヒトの患者に投与することができる。医薬組成物において、化合物は適当な担体または1またはそれ以上の賦形剤と種々の障害の治療または改善に治療的に有効な投与量において混合されている。治療的に有効な投与量は、さらに、例えば、患者の不安の減少を測定したとき、症候を改善するために十分な化合物の量を意味する。本発明の化合物を処方し、投与する技術は下記の文献の中に見出すことができる:″Remington's Pharmaceutical Sciences″、Mack Publishing Company、ペンシルベニア州イーストン、最近の編集。
【0138】
1. 投与経路
適当な投与経路は、例えば、経口、経直腸、経粘膜、または腸投与;非経口的デリバリー、例えば、筋肉内、皮下、髄内注射、ならびに髄腔内、直接的心室内、静脈内、腹腔内、鼻内、または眼内注射を包含する。
【0139】
あるいは、本発明の化合物を全身的方法よりむしろ局所的に、例えば、充実腫瘍の中への直接的注射により、しばしばデポー製剤で、または持続放出性処方物で投与することができる。
さらに、薬物はターゲテッド薬物送出系を介して、例えば、腫瘍特異的抗体で被覆されたリポソームの形態で投与可能である。リポソームは腫瘍にターゲッティングされ、腫瘍により選択的に吸収される。
【0140】
2. 組成物/処方物
PKCεは細胞内タンパク質であるので、本発明の好ましい態様は形質膜を透過できる薬学上許容されるインヒビター処方物を包含する。小さい無極分子はしばしば膜透過性である。他の分子の膜透過性は種々の既知の方法により増強することができる。このような方法は、分子を低張溶液中に溶解する方法、それらを輸送タンパク質にカップリングさせる方法、およびそれらをミセルの中にパッケージする方法を包含する。
【0141】
本発明の医薬組成物は、慣用の混合、溶解、粒状化、糖剤製造、磨砕、乳化、カプセル化、捕捉または凍結乾燥の方法により製造することができる。
こうして、本発明に従い使用するための医薬組成物は、慣用法において、薬学的に使用できる調製物への活性化合物のプロセシングを促進する賦形剤および助剤を含んでなる1またはそれ以上の生理学上許容される担体を使用して処方することができる。適切な処方物は選択した投与経路に依存する。
【0142】
注射のために、本発明の薬物は水溶液、好ましくは生理学的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス溶液、リンガー溶液、または生理的塩類緩衝液中で処方することができる。経粘膜投与のために、透過すべき障壁に対して適当な浸透剤を処方物において使用する。このような浸透剤は一般にこの分野において知られている。
【0143】
経口投与のために、活性化合物をこの分野においてよく知られている薬学上許容される担体と組合わせることによって、化合物は容易に処方することができる。このような担体を使用すると、治療すべき患者による経口摂取のために、本発明の化合物は錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液およびその他として処方することができる。経口的使用のための医薬製剤は、固体賦形剤として、必要に応じて生ずる混合物を粉砕し、顆粒混合物をプロセシングし、所望ならば、適当な助剤を添加した後、錠剤または糖剤コアを得ることによって、製造することができる。
【0144】
適当な賦形剤は下記のものを包含する:充填剤、例えば、糖、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトール;セルロース調製物、例えば、トウモロコシ澱粉、イネ澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)。所望ならば、崩壊剤、例えば、架橋したポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムを添加することができる。
【0145】
糖剤コアは適当な被覆を有する。この目的のために、濃縮糖溶液を使用することができ、これらの溶液は必要に応じてアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルバポルゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適当な有機溶媒または溶媒混合物を含有することができる。活性化合物の投与量の異なる組合わせを同定または特徴づけるために、染料または顔料を錠剤または糖剤被覆に添加することができる。
【0146】
経口的に使用できる医薬製剤は、ゼラチンから作られた押込嵌めカプセル剤、ならびにゼラチンおよび可塑剤、例えば、グリセロールまたはソルビトールから作られた軟質、密閉カプセル剤を包含する。押込嵌めカプセル剤は、充填剤、例えば、ラクトース、結合剤、例えば、澱粉、および/または滑剤、例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムおよび、必要に応じて、安定化を混合された活性成分を含有することができる。軟質カプセル剤において、活性化合物を適当な液体、例えば、脂肪油、液状パラフィンまたは液状ポリエチレングリコールの中に溶解または懸濁させることができる。さらに、安定剤を添加することができる。経口投与のためのすべての処方物は、このような投与に適当な投与量であるべきである。
【0147】
経頬投与のために、組成物は慣用法で処方された錠剤またはロゼンジの形態を取ることができる。
【0148】
吸入による投与のために、本発明による化合物は、適当な噴射剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適当なガスを使用して、加圧パックまたはネブライザーから提供されるエーロゾルスプレーの形態で好都合に送出される。加圧エーロゾルの場合において、計量した量を送出す弁を設けることによって、投与単位を決定することができる。吸入器または注入器において使用するための化合物と適当な粉末状基剤、例えば、ラクトースまたは澱粉との粉末状混合物を含有する、例えば、ゼラチンの、カプセルまたはカートリッジを処方することができる。
【0149】
化合物は、注射、例えば、ボーラス注射または連続的注入により非経口投与のために処方することができる。注射用処方物は、単位投与形態で、例えば、アンプルまたは多投与容器で、保存剤を添加して、提供することができる。組成物は油性または水性ベヒクル中の懸濁液、溶液または乳濁液のような形態を取ることができ、そして処方剤、例えば、懸濁剤、安定剤および/または分散剤を含有することができる。
【0150】
非経口投与のための医薬処方物は、水溶性形態の活性化合物の水溶液を包含する。さらに、活性化合物の懸濁液は適当な油性注射懸濁液として調製することができる。適当な親油性溶媒またはベヒクルは、脂肪油、例えば、ゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリド、またはリポソームを包含する。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加する物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストランを含有することができる。必要に応じて、懸濁液は、また、適当な安定剤または化合物の溶解度を増加する物質を含有して、高度に濃厚な溶液を調製することができる。
【0151】
あるいは、活性成分は、使用前に、適当なビヒクル、例えば、無菌の発熱物質を含まない水で再構成するための粉末の形態であることができる。
化合物は、また、例えば、慣用の坐剤基剤、例えば、カカオバターまたは他のグリセリドを含有する坐剤または保持浣腸のような経直腸組成物に処方することができる。
【0152】
本明細書に記載する処方物に加えて、化合物はデポー製剤として処方することもできる。このような長時間作用する処方物は、移植(例えば、皮下または筋肉内)または筋肉内注射により投与することができる。こうして、化合物は適当なポリマーまたは疎水性物質(例えば、許容される油中の乳濁液として)またはイオン交換樹脂を使用して処方するか、あるいは難溶性誘導体、例えば、難溶性塩として処方することができる。
本発明の疎水性化合物のための薬学上の担体は、ベンジルアルコール、非極性界面活性剤、水混和性有機ポリマー、および水性相を含んでなる補助溶媒系である。
【0153】
補助溶媒系は、VPD補助溶媒系であることができる。VPDは3%w/vのベンジルアルコール、8%w/vの非極性界面活性剤ポリソルベート80、および65%w/vのポリエチレングリコール300の溶液であり、無水エタノールで必要な体積に構成される。VPD補助溶媒系(VPD:5W)は、水中の5%デキストロース溶液で1:1に希釈されたVPDから成る。この補助溶媒系は疎水性化合物をよく溶解し、それ自体全身的投与のとき低い毒性を生成する。当然、補助溶媒系の比率は、その溶解度および毒性特徴を破壊しないで、かなり変化させることができる。
【0154】
さらに、補助溶媒成分の同一性を変化させることができる:他の低い毒性の非極性界面活性剤をポリソルベート80の代わりに使用することができる;ポリエチレングリコールの画分サイズを変化させることができる;他の生物適合性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドンをポリエチレングリコールの代わりに使用することができる;そして他の糖または多糖をデキストロースと置換することができる。
【0155】
あるいは、疎水性薬学的化合物のための他のデリバリーシステムを使用することができる。リポソームおよび乳濁液は疎水性薬物のための送出ベヒクルまたは担体のよく知られている例である。ある種の有機溶媒、例えば、ジメチルスルホキシドを使用することもできるが、通常毒性が大きい。
【0156】
さらに、化合物は持続放出性システム、例えば、治療剤を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスを使用して送出すことができる。種々の持続放出性物質は確立されており、この分野においてよく知られている。持続放出性カプセル剤は、それらの化学的特質に依存して、化合物を数週から100日までにわたって放出することができる。
治療剤の化学的特質および生物学的安定性に依存して、タンパク質安定化のために追加の戦略を用いることができる。
【0157】
医薬組成物は、また、適当な固体またはゲル相の担体または賦形剤を含んでなることができる。このような担体または賦形剤の例は下記のものを包含するが、これらに限定されない:炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖、澱粉、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリマー、例えば、ポリエチレングリコール。
【0158】
本発明の多数の不安抑制化合物は、薬学的に適合性の対イオンを有する塩として提供することができる。薬学的に適合性の塩は下記のものを包含するが、これらに限定されない多数の酸を使用して形成することができる:塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、およびその他。塩は対応する遊離塩基の形態である水性または他のプロトン性溶媒中でいっそう可溶性である傾向がある。
【0159】
3. 有効投与量
本発明において使用するために適当な医薬組成物は、活性成分がその意図する目的を達成するために有効な量で含有される組成物を包含する。さらに詳しくは、治療的に有効量は、治療される被検体の現存する症候、例えば、不安の症候の進展を予防するか、あるいはそれを軽減するために有効な量を意味する。有効量の決定は、特に本明細書において提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0160】
PKCεインヒビターは、毎時、数回/日、毎日または治療を受けている人またはその人の医師が適当と解釈する頻度で投与することができる。好ましくは、投与の間隔は8〜24時間の範囲である。PKCεインヒビターの治療の適当な間隔を決定するとき、患者の症状の程度を考慮することができる。PKCεインヒビターの治療は、数日、1カ月、数カ月、1年、数年または患者の寿命の期間の過程にわたって続けることができる。あるいは、PKCεインヒビターは1回のみの基準で投与することができる。PKCεインヒビターは、患者の身体において所望の作用を産生するために十分なレベルで投与すべきである。当業者は理解するように、患者が症候の所望のモジュレーションを経験するまで、増加する投与量のPKCεインヒビターを投与すべきであり、そしてより多い投与量はより望ましいモジュレーションを行うことができない。
【0161】
インヒビターの投与量は、多数の因子、例えば、インヒビターの特質および投与のモードに依存して変化するであろう。εPKC-v1ペプチドについて、150μg/mlの細胞内濃度はPKCεのトランスロケーションおよびPKCε活性化の下流の作用を阻害した(米国特許第5,783,405号)。N,N'−ビス−(スルホンアミド)−2−アミノ−4−イミノナフタレン−1−オンまたはN,N'−ビス−(アミド)−2−アミノ−4−イミノナフタレン−1−オンであるPKCインヒビターについて、1μg/kg〜100mg/kg体重、好ましくは1μg/kg〜1mg/kg、最も好ましくは10μg/kg〜1mg/kgの範囲の1日量が考えられる。ビシナル−置換炭素環であるPKCインヒビターについて、1μg/kg〜100mg/kg体重、好ましくは1μg/kg〜40mg/kg、最も好ましくは10μg/kg〜20mg/kgの範囲の1日量が考えられる。
【0162】
1,4−ビス−(アミノ−ヒドロキシアルキルアミノ)−アントラキノン、ビス−(ヒドロキシアルキルアミノ)−アントラキノン、またはN−アミノアルキルアミドであるPKCインヒビターについて、5〜400mg/kg体重、好ましくは10〜200mg/kg、最も好ましくは10〜50mg/kgの範囲の1日量が考えられる。1,3−ジオキサン誘導体であるPKCインヒビターについて、0.1〜40mg/kg体重、好ましくは1〜20mg/kgの範囲の1日量が考えられる。フロ−クマリンスルホンアミドであるPKCインヒビターについて、0〜100mg/kg体重の範囲の1日量が考えられる。
【0163】
本発明の方法において使用する任意の化合物について、治療的に有効な投与量は細胞培養アッセイから最初に推定することができる。例えば、投与量を動物モデルにおいて処方して、細胞培養において測定してIC50(すなわち、PKCε酵素活性の最大の1/2を達成する被験化合物の濃度)を包含する循環濃度を達成することができる。このような情報を使用して、ヒトにおいて有効な投与量をいっそう正確に決定することができる。
【0164】
治療的に有効な投与量は、症候を改善するか、あるいは患者の生存を延長する化合物の量を意味する。このような化合物の毒性および治療効果は、標準の薬学的手法により細胞培養物または実験動物において、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的投与量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な投与量)を決定することによって決定することができる。毒性と治療効果との間の比は治療指数であり、そしてLD50とED50との間の比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物は好ましい。
【0165】
これらの細胞培養アッセイおよび動物の研究から得られたデータを使用して、ヒトにおいて使用する投与量範囲を処方することができる。このような化合物の投与量は、毒性をほとんど、あるいはまったく示さないED50を包含する循環濃度の範囲内であることが好ましい。用いる投薬形態および利用する投与経路に依存してこの範囲内で、投与量は変化することができる。個々の医師は、患者の症状にかんがみて、正確な処方、投与経路および投与量を選択することができる(例えば、下記の文献を参照のこと:Fingl他、1975、″The Pharmacological Basis of Therapeutics″、Ch. 1 p1)。
【0166】
キナーゼモジュレート作用、または最小有効濃度(MEC)を維持するために十分である活性成分の血漿レベルを提供するために、投与量および間隔を個々に調節することができる。MECは各化合物について変化するであろうが、in vitroデータ、例えば、本明細書に記載するアッセイを使用してキナーゼの50〜90%を達成するために必要な濃度から推定することができる。MECを達成するために必要な投与量は、個体の特徴および投与経路に依存するであろう。しかしながら、HPLCアッセイまたはバイオアッセイを使用して血漿濃度を測定することができる。
【0167】
また、MEC値を使用して投与間隔を決定することができる。時間の10〜90%、好ましくは30〜90%、最も好ましくは50〜90%の間MECを超えるように血漿レベルを維持する養生法を使用して、化合物を投与すべきである。局所投与または選択的吸収の場合において、薬物の有効局所濃度は血漿濃度に関係づけることができない。
投与した組成物の量は、もちろん、治療される被検体、被検体の体重、病気の程度、投与方法および処方医師に依存するであろう。
【0168】
4. 包装
組成物は、所望ならば、活性成分を含有する1またはそれ以上の単位投与形態を含有できるパックまたはディスペンサー装置で提供することができる。パックは、例えば、金属またはプラスチックの箔、例えば、ブリスターパックを含んでなることができる。パックまたはディスペンサー装置に、投与の説明書を添付することができる。薬学上の適合性担体中に調剤された本発明の化合物を含む組成物を、また、調製し、適当な容器の中に入れ、指示した症状の治療のためにラベルを付すことができる。ラベル上に示された適当な症状は、不安障害、発作障害、癌、心臓不整脈、疼痛、およびその他の改善を含むことができる。
【0169】
F. アルコール消費を変更しかつ他の乱用薬物の自己投与およびそれらの作用を変更するためのPKCεのモジュレーターの使用
PKCεを欠如する突然変異マウスは野生型同腹子よりも有意に少ないアルコールを随意に消費し、野生型同腹子よりもアルコールの歩行の活性化および鎮静作用に対して非常にいっそう感受性であり、そして野生型同腹子の側座核において起こる細胞外ドーパミンレベルのエタノール誘導ピークを経験することができないということを、本発明の発明者らは発見した。また、GABAAレセプター機能のエタノールモジュレーションは突然変異マウスの脳皮質において増加する。これらのデータが示すように、PKCεは飲酒偏好、エタノールに対する急性行動的応答および脳におけるエタノール媒介応報経路を調節する。
【0170】
こうして、本発明は、それぞれ、アルコール摂取または薬物使用をモジュレートしようとする人にPKCε活性のモジュレーターに投与することによって、アルコール摂取または他の乱用薬物の自己投与を変更する方法を包含する。PKCεインヒビターの投与は人の飲酒量または乱用薬物の自己投与量を減少させるが、PKCε活性のエンハンサーはアルコールまたは乱用薬物の消費を増加させるであろう。したがって、アルコール中毒症、薬物嗜癖およびアルコール依存症または他の薬物に対する嗜癖に誘発された人は、PKCεインヒビターの好ましいレシピエントである。
【0171】
最も好ましい態様はアルコール中毒症によるアルコール消費を減少する。上記節V.Dに論じた方法により、PKCε活性のこのようなインヒビターを同定および/または投与することができる。アルコール中毒症およびアルコール依存症に誘発された人は規則的基準でPKCεインヒビターを受け取ることができるが、特定の時間にアルコール消費を変更しようとする人は、アルコール摂取前に、間にまたは後にPKCεモジュレーターを自己投与することができる。好ましくは、PKCεモジュレーターはエタノールも存在する時間に存在することができ、そして薬学上許容される処方物の一部分として投与されるであろう。
【0172】
さらに、PKCεモジュレーターをアルコール飲料に直接添加することができ、そしてアルコールとPKCεモジュレーターとを含んでなる組成物は本発明の1つの態様である。このようなモジュレーターの有効投与量は、節V.D.3に記載されている方法により確立することができる。あるいは、有効投与量の範囲は、飲用行動をモニターし、それをPKCε突然変異マウスにより証明されるものと比較することによって、確立することができる。次いで、このような投与量を調節して、なマウスと治療すべき被検体の種との間の差を説明することができる。
【0173】
有効量のPKCεの選択的インヒビターまたは選択的エンハンサーの投与を包含する乱用薬物の消費をモジュレートする方法は、好ましい態様である。好ましい選択的インヒビターは下記のペプチドを包含する:εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6およびεV1-7;εV1-2は特に好ましい。PKCεモジュレーターは小さい分子の化合物(すなわち、約2000ダルトンより小さいか、またはそれに等しい、好ましくは1000ダルトンより小さいか、またはそれに等しい、最も好ましくは500ダルトンより小さいか、またはそれに等しい、分子量を有する化合物)である。PKCεの触媒活性またはPKCεの細胞内転位を阻害するPKCεインヒビターを、本発明の方法において投与することができる。PKCεに直接的に作用するインヒビターは好ましい。
【0174】
本発明の他の面は、飲酒する人に対するアルコールの作用をモジュレートする方法である。PKCεがより低い投与量および高い投与量の両方のアルコールの作用をモジュレートすることを本発明者らは示したので、この方法を種々のやり方で使用して、運動性協調または鎮静作用に対する作用を包含する、アルコールの種々の作用を潜在的に変更することができる。1つの態様において、酩酊するようにならないで飲酒しようとする人はPKCεのエンハンサー取ることができる。これにより、機械を操作し、スポーツに参加し、または覚醒を維持する能力の減少に脅かされないで、アルコール消費の快感(味覚、社会的、およびその他)を人は経験することができる。
【0175】
他の態様において、個体は大量のアルコールを飲用しないでアルコールの作用を経験しようとすることができる。例えば、人はちょうど1回の飲酒後に快いほろ酔いとなり、これによりカロリー、費用、およびより多いアルコール消費に関連する他の消極的因子を回避することができる。時期尚早の出産の危険における妊娠した女性は、高いレベルのアルコールに胎児を暴露しないでアルコールの効果を前以て妨ぐ初期の労力を経験することがある。
【0176】
中脳腹側被蓋区域(VTA)から突起するニューロンのシナプス前終末からの側座核において放出されるドーパミンは、薬物の応報および強化の主要なメディエイターである。すべての乱用可能な薬物の急性投与は側座核におけるドーパミンの細胞外レベルを増加し、そしてこの領域に注射されたドーパミンレセプターアンタゴニストは動物におけるアルコールおよび薬物自己投与を減少させる(Di Chiara、G.、およびImperato、A.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5274-5278(1988);Hodge他、Pharmacol. Biochem. Behav. 48:141-150(1994))。VTAおよび側座核は薬物応報および薬物依存症の動機づけの面に関係づけられる主要な構造として同定され(Koob他、Neuron 21:467−476(1998))そして現在嗜癖研究の主な焦点であるメソコルチコリンンビック・ドーパミン系(mesocorticolimbic dopamine system)の成分である。
【0177】
エタノールがPKCεマウスの側座核におけるドーパミンレベルを増加させないという発見が示唆するように、側座核におけるドーパミンの再吸収は増加されるか、あるいは側座核におけるVTAニューロンによるドーパミンの分泌はこれらのマウス抑制される。乱用性薬物がドーパミン放出を促進するメカニズムは変化する[注7:コカインおよびアンフェタミンはVTA神経終末におけるドーパミン再吸収を阻害し、これにより側座核中のシナプスにおけるドーパミン濃度を増加する(Amara、S.G.、およびSonders、M.S.、Drug Alchol Depend. 51:87−96(1988))。
【0178】
オピエートは異なるメカニズムで作用する。通常VTAにおいて、GABAを含有するニューロンは側座核に対して突起するドーパミン作動性VTAニューロンの発射を抑制する。オピエートは、GABAを含有するニューロンにより発現されたオピオイドレセプターに結合することによって、これらのドーパミン作動性VTAニューロンを脱阻害する(Wise、R.A.、Curr. Opin. Neurobiol. 6:243−251(1996))。これはドーパミン作動性VTAニューロンの発射速度を増加し、側座核におけるドーパミン放出を促進する。ニコチンはVTAドーパミン作動性ニューロンを直接活性化する(Wise、R.A.、Curr. Opin. Neurobiol. 6:243−251(1996))。
【0179】
エタノールは、また、イオンチャンネル機能を直接を変更することによって、ドーパミン作動性VTAニューロンを活性化する(Brodie、M.S.、およびAppel、S.B.、Alcoholism,Clinical and Experimental Reserch 22:236−244(1988))。これはこれらのニューロンの発射速度を増加し、側座核においてドーパミン放出を刺激する。]が、前の文章において論じたエタノール誘導ドーパミンレベルの増加に対するPKCεの作用についてのメカニズムは、側座核におけるきわめてすぐれたドーパミンレベルを増加する他の乱用性薬物の能力を抑制する。
【0180】
側座核におけるドーパミンレベルが乱用性薬物の応報性質に重要であることが与えられると、PKCεマウスはアルコール以外の他の乱用性薬物の自己投与を減少させることが非常にありうる。アルコール中毒症または他の薬物の乱用者になる危険にある個体を同定する診断方法の関係において前述したように、それはいくつかの乱用薬物に対する嗜癖の治療におけるPKCεインヒビターの役割を示すであろう。
【0181】
G. 不安、嗜癖、禁断症状、筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を治療するためのPKCεインヒビターの使用
PKCεマウスは、また、アロステリックGABAAレセプターアゴニストの歩行活性化および鎮静作用に対して有意にいっそう感受性であることを、本発明者らは発見した。GABAAレセプター機能のベンゾジアゼピンのモジュレーションは、また、突然変異マウスの脳皮質において増加される。突然変異は、他のPKCイソ酵素のレベルを有意に変更しないで、全脳ホモジネートにおけるPKCε免疫反応性を検出不可能なレベルに減少したので、GABAAレセプター機能に対する作用は他のPKCイソ酵素の変更よりむしろPKCεの非存在のためである。
【0182】
これらのデータが示すように、PKCεはアロステリックアゴニストに対するGABAAレセプターの応答を調節する。それ自体として、PKCεモジュレーターは、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの選択的モジュレーターとして作用する薬物の新しいクラスを定める。PKCεマウスにおいて観測されるタウリンレベルの増大は、これらのマウスにおける見られたGABAAレセプター活性の増強が、一部分、アロステリックGABAAレセプターアゴニストのレベルの増加のためであることを示す。
【0183】
PKCεがGABAAレセプターの両方の内因的および非内因的アロステリックアゴニストをモジュレートすることを本発明者らは示したので、GABAAレセプター活性を増加することによって改善できる症状を治療するために、PKCεインヒビターを単独で投与するか、あるいはこのようなアロステリックアゴニストと組み合わせて投与することができる。このような症状は、不安、嗜癖、禁断症状、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を包含する。不安は多数の環境のためであることがあり、このような環境は痛みのある事象または外科的または内視鏡手術の性能の予測を包含するが、これらに限定されず、この場合において麻酔剤投与前にPKCεインヒビターを投与することが好ましい。
【0184】
PKCεインヒビターを単独で投与するか、あるいはこのようなアロステリックアゴニストと組み合わせて投与ことによって治療される禁断症状は、エタノールまたは任意の他の鎮静−精神機能減退薬物により誘導される禁断症状を包含し、これらの薬物からの禁断症状は発作および自律神経性機能亢進により特徴づけられる。アルコールによる禁断症状の治療、またはアルコールの投与により改善できる禁断症状を有する薬物による禁断症状の治療は好ましい。
【0185】
1またはそれ以上のPKCεインヒビターと1またはそれ以上のGABAAレセプターのアロステリックアゴニストとの組合わせで患者を治療することは、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストのみを使用する先行技術の治療よりも好ましい。なぜなら、組合わせ療法はより少ない投与量のGABAAレセプターのアロステリックアゴニストを使用して同一治療効果を達成し、これにより望ましくない副作用、例えば、アロステリックアゴニストの嗜癖または鎮静を最小にすることができるからである。こうして、本発明は、また、PKCεインヒビターをこのようなGABAAレセプターのアロステリックアゴニストと組合わせて投与することによって、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの有効投与量を減少する方法を包含する。
【0186】
本発明の他の面は、PKCεインヒビターとGABAAレセプターのアロステリックアゴニストとを含んでなる組成物である。ベンゾジアゼピンは好ましいアロステリックアゴニストである。この組成物およびこのような組成物を使用する方法において使用できるベンゾジアゼピンは下記のものを包含するが、これらに限定されない:アルプラゾラム、クロルジアゼポキシド、クロルジアゼポキシド塩酸塩、クロルメザノン、クロバザム、クロナゼパム、クロラゼペート二カリウム、ジアゼパム、ドロペリドール、エスタゾラム、フェンタニルシトレート、フラゼパム塩酸塩、ハラゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム塩酸塩、オキサゼパム、プラゼパム、クアゼパム、テマゼパム、およびトライゾラム。アモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、アプロバルビタール、ブタバルビタールナトリウム、ヘキソバルビタールナトリウム、メホバルビタール、メタルビタール、メトヘキシタールナトリウム、ペントバルビタール、ペントバルビタールナトリウム、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、セコバルビタール、セコバルビタールナトリウム、タルブタール、チアミラールナトリウム、およびチオペンタールナトリウムは、本発明において使用するために適当なバルビツエートである。
【0187】
H. アルコール中毒および/または嗜癖の傾向のある個体を同定する診断方法
一般的因子が哺乳動物におけるアルコールに対する行動的応答に影響を及ぼすという増大しつつある証拠が存在する(J.C. Crabbe、J.K. Belknap、K.J. Buck、Science 264:1715−23(1994);K. Demarest、J. McCaughram,Jr.、E. Mahjubi、L. Cipp、R. Hitzenmann、Journal of Neuroscience 19:549-61(1999))。ヒトの個体群において、アルコール乱用およびアルコール中毒は遺伝的成分を有することが広く証明されてきているが、特定の確実な遺伝子に関する情報は制限されている(V. Hesselbrock、The Genetics of Alcoholism H. Begleiter、B. Kissin、編(Oxford、New York、1995)pp.17-39;T. Reich他、American Journal of Medical Genetics 81:207-15(1998))。
【0188】
アルコールに対する急性感受性によりアルコール中毒の発生に対する遺伝的危険を予測できることを証拠は示している。エタノールに対するより大きい急性応答を証明したアルコール中毒の息子は、より低い応答を証明したものよりアルコール中毒になる可能性が低かった(M.A. Schuckit、American Journal of Psyciatry 151:184-9(1994))。アルコール以外の乱用薬物に対する嗜癖の遺伝学はよく理解されていないが、多数の人は2以上の乱用薬物に対して嗜癖となる傾向がある。
【0189】
PKCεの遺伝子を欠如する突然変異マウスはエタノールの急性投与量に対していっそう感受性であり、野生型マウスよりも非常に少ないアルコールを自己投与し、そしてそれらはエタノール投与後にドーパミンレベルのピークを達成しないことを本発明者らは発見した。これにより示されるように、PKCε遺伝子はエタノールに対する感受性およびアルコール中毒および/または他の乱用薬物に対する嗜癖を発生する危険に影響を及ぼす。人の遺伝子によりコードされるPKCεタンパク質の活性を決定し、そしてこのような人が飲酒家になる可能性を予測するためにこのような情報を使用する試験は、本発明の他の面である。このような試験を実施するキットは、本発明のなお他の態様である。
【0190】
PKCε活性レベルは多数の方法で測定することができる。例えば、人の2つのPKCεアレレの各々をコードする核酸配列を配列決定し、コードされたPKCεタンパク質のアミノ酸配列を推定することができる。両方のアミノ酸配列が野生型PKCεの配列と同一でありかつ調節的であることができる遺伝子の非コーディング部分の中に突然変異が発見されない場合、このような人のPKCε活性は対照集団からの個体において報告されたPKCε活性の領域内に入ると仮定することができ、そしてこのような人は飲酒家になる素因をもたないとして分類されるであろう。
【0191】
PKCεアミノ酸配列のいずれかが野生型PKCεタンパク質の配列と異なる場合、このような「突然変異」PKCεタンパク質の活性は、例えば、下記の方法により測定することができる:1)このような「突然変異」PKCεタンパク質の活性が以前に測定されているかどうかを決定する;2)「突然変異」PKCεタンパク質をin vitroまたは試験細胞中で発現させ、そして既知の方法によりその活性をアッセイする;または3)このような「突然変異」PKCεタンパク質の活性のコンピューターシミュレーションを実施する。非コーディング領域の中に突然変異が存在する場合、PKCε発現に対するこのような突然変異の効果をPKCεタンパク質の転写、翻訳または量の直接的測定により評価することができる。
【0192】
あるいは、PKCεタンパク質を含有する試料を試験している個体から入手し、そして前記PKCεタンパク質の活性をPKCε活性についての多数のアッセイの1つにより直接測定することができる。
【0193】
試料を核酸分析のために使用すべき場合、それは核DNAを有する任意の細胞または組織源から得ることができる。試料をタンパク質分析のために使用すべき場合、それはタンパク質が存在する細胞または組織源から収集しなくてはならない。このような細胞または組織はニューロン、アストログリア(astroglial)細胞、プルキニエ(purkinje)細胞、リンパ球、好中球および表皮ケラチノサイトを包含する。
【0194】
個体のPKCε活性レベルを標準値と比較して、個体が飲酒家になる可能性を決定する。標準値は通常(1)対照集団において同一型の試料についてのPKCε活性の範囲または(2)飲酒家の対照集団において同一型の試料についてのPKCε活性の範囲。標準値(1)および(2)の両方との比較は可能であり、そして個体が飲酒家になる可能性の確証となる証拠を提供することができる。
【0195】
前述の第1の一般的標準値、すなわち、対照集団における同一型の試料についてのPKCε活性の範囲は、典型的には、最高の相関を保証するために試験する試料にこの方法を適用するとき使用される、同一アッセイ技術を使用して得られる。比較を行う対照値の統計的に有意である範囲を生成するために十分な測定を適当な対照集団内で実施する。適当な対照集団が試験する特定の患者に依存して変化することが理解される。
【0196】
好ましくは、対照集団のメンバーがアルコール中毒に罹らず、PKCε活性レベルに影響を与えることが知られている特性または症状(アルコール中毒以外の)に関して試験する患者とほぼ合致するように、対照集団を選択する。こうして、この集団から測定されるPKCε活性レベルの範囲は、試験する個々の患者についてのPKCε濃度または活性の基線として働く。多数の場合において、適当な対照集団は正常の健康なヒトから成るであろう。試験する患者がPKCε活性レベルの増加に寄与することがあるアルコール中毒に無関係の症状を含まないとき、正常の健康なヒトから成る対照集団は特に適当である。試験する患者が、PKCεレベルの増加に関連する、アルコール中毒に向かう傾向以外の、症状を有することが知られているとき、適当な対照集団は好ましくは同一症状を有する集団である。
【0197】
しかしながら、本発明の方法のすべての適用について実際の対照集団を測定しなくてはならないことを、前述の論考は示唆していない。いったん臨床的に満足な標準が確立されると、この決定された標準範囲は、対照集団をさらに試験しないで、引き続く評価に使用することができる。また、他の障害に関連するPKCεレベルの増加を考慮することによって、任意の患者についてのPKCεレベルを正常のヒトの対照に関係づけることができる。
【0198】
前述の第1の一般的標準値を得るために、適当な対照集団についてのPKCε濃度または活性を多数の方法で測定することができることは明らかであろう。例えば、それは関係する科学的または臨床的文献中の値から推定することができ、それは測定した値と推定した調節因子(すなわち、PKCε活性に影響を与える、アルコール中毒に向かう傾向以外の、症状の存在または非存在についての調節)との組合わせから構成することができるか、あるいはそれは実際に測定することができる。
【0199】
上記別法として記載した第2の一般的標準値は、飲酒家の集団における同一型の試料からのPKCε濃度または活性の範囲である。典型的には、飲酒家の集団におけるPKCε濃度または活性の測定は、試験の適用において使用したのと同一の技術を使用して実施される。
いずれかの一般的標準値を分析試料のPKCε値との比較に使用するとき、飲酒家になる可能性の増加を示す限界濃度または活性は任意の適当な統計的方法により決定することができる。適当な対照集団について前もって決定したPKCε濃度または活性範囲の平均を前述した濃度または活性は、アルコール中毒の開始が特定の確実性水準で起こる限界値を示すであろう。
【0200】
統計を知っているものは認識するように、アルコール中毒の素因の陽性的指示として使用する標準偏差の数字は、適当な診断目標を考慮して選択される。平均から1より大きい標準偏差の濃度または活性は、特に他の危険因子と組み合わせた、アルコール中毒の素因と相関させることができる。平均から2より大きい標準偏差の濃度または活性は、一般に、統計的有意性を示し、アルコール中毒の素因を予測させる。
【0201】
したがって、3より大きい標準偏差の濃度または活性値はより高い確実度でアルコール中毒の素因を予測させ、そして4より大きい標準偏差の値はなおより高い確実度でアルコール中毒の素因を予測させる。また、認識されるように、対照集団について観測された範囲外である濃度または活性レベルは統計的に有意な値である。好ましくは、アルコール中毒の素因の陽性の指示を反映すると考えられるPKCεの特定の濃度または活性は主治医により最もよく選択され、患者の症状ならびにアルコール中毒を発生する他の危険因子の存在に依存して変化するであろう。
【0202】
第2標準値を得ることができるアルコール中毒集団を構成する人は、アルコール依存症について記載された基準を満足する個体として同定することができる。
【0203】
こうして、本発明の1つの面は、アルコール中毒または薬物依存症に対する人の感受性を測定する方法である。この方法は次のようにして実施することができる。人のPKCεの活性または濃度を測定し、ほぼ同一のPKCεの活性または濃度を有する人の統計的に有意なグループの中の薬物乱用者の百分率と相関する嗜癖危険因子を人に帰属させることによって実施することができる。あるいは、この方法は次のようにして実施することができる。適当な試料(すなわち、人からのPKCεまたはPKCεをコードする核酸)中のPKCε活性または濃度を分析し、乱用薬物に対する依存症に関する既知の特性を有する人の集団から得られた同様な試料についての、それぞれ、PKCε活性または濃度の範囲から選択した標準値と、人のPKCε活性または濃度を比較し、前記PKCεの活性または濃度を前記標準値に関係づけ、ここで統計的に異なる活性または濃度は、前記乱用薬物の依存症または乱用者になる前記人の可能性の程度を予測させる。
【0204】
本発明の他の態様は、適当な試料中のPKCε活性または濃度をアッセイする成分および、前記PKCε活性または濃度を前もって決定した標準値と比較し、前記PKCε活性または濃度と前記前もって決定した標準値との間に存在する統計的有意差が乱用薬物の依存症または乱用者になる可能性の増加または減少を予測するかどうかを決定する説明書を含んでなるキットまたは製造物品である。
【0205】
下記の実施例により、本発明を詳細に説明する。下記の製造および実施例は、本発明をいっそうよく理解し、実施できるように記載される。しかしながら、本発明は、本発明の単一面の例示を意図する、示された態様により限定されず、そして機能的に同等である方法は本発明の範囲内に入る。事実、本明細書に記載するものに加えて本発明の種々の変更が、上記説明および添付図面から、当業者にとって明らかとなるであろう。このような変更は本発明の範囲内に入ることを意図する。
【実施例】
【0206】
A. 実施例1:PKCε-/-マウスの発生
エタノールは、PKCε依存的メカニズムにより、PC12細胞におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼおよび神経突起成長のNGF誘導活性化を増強する(Roivainen他、1993、Brain Res. 624:85-93;Roivainen他、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1891-1895;Hundle他、1995、J. Biol. Chem. 270:30134-30140;Hundle他、1997、J. Biol. Chem. 272:15028-15035)。ニューロンの可塑性(NestlerおよびAghajanian、1997、Science 278:58−63)は薬物依存症に寄与することがあるので、マウスにおける行動モジュレート作用におけるPKCεの役割に我々は関心をもつようになった。下記において、相同的組換えによるPKCε-/-マウスの発生を記載する(Joyner AJ、編、Gene Targetin.g、The Practical Approach Series、編、Rkcwood D.およびHarries B.D. 1993、IRL Press、New York)。
【0207】
すべてのエクソンIおよび下流のイントロン配列の一部分を含む、マウスPKCεのゲノムDNA配列の1.5kbを「ノックアウト」するターゲッティングベクターをつくるような戦略を設計した。ターゲッティングベクターをつくるために、マウスPKCεcDNA(94)からの813bpのフラグメントをPCRにより増幅した。ラムダFLX 11 129マウス肝臓ゲノムライブラリー(Stratagene #946308)(Stratagene、カリフォルニア州ラジョラ)をスクリーニングするために、このフラグメントを使用した。2つの13kbおよび15kbのオーバーラッピングゲノムライブラリーを選択し、pBluescript 11 SK+(Stratagene)のNod部位の中にサブクローニングした。クローンをBamHIおよびEcoRI制限酵素で消化し、フラグメントをpBluescript 11 SK+の中にサブクローニングした。20酵素を使用する制限消化によりサブクローンを分析して、ゲノム地図を構成した。いくつかのクローンを使用して、ATG開始コドンに対して5'の約1700bpの配列を同定した。
【0208】
第1図はPKCε-/-マウスの発生を描写する。ターゲッティングベクター(第1A図)により導入されたユニークApaI部位(A*)は、突然変異ゲノムDNAのApaIおよびScaI消化物のサザンブロット上の1.6kbのフラグメントの検出を可能とする。第1B図は、雄キメラおよびC5BI/6J雌のヘテロ接合性子孫に生まれたマウスの子からの尾部試料のサザンブロットを示し、ここで1.6kbのフラグメントが放射能標識化プローブで可視化されている。7つのホモ接合性ノックアウトからの試料を含有するレーンは性により標識されている。第1C図は、野生型(+/+)、ヘテロ接合性(+/−)およびノックアウト同腹子からの脳試料の抗PKCε抗体を使用するウェスタンブロットを描写する。
【0209】
1.0kbのBssHII「短いアーム」のフラグメント(ATG開始コドンから5'の60bpから開始する)をベクターpNTKのBamHI部位の中にクローニングした(Steward他、1987、EMBO J. 6:383-388;Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel他、編、1993、John Wiley & Sons、Unit 9.16)。このベクターは、正の選択のためのネオマイシン耐性遺伝子および負の選択のための単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)配列を含有し、両方はPGKプロモーターに由来する。PKCεの第1エクソンから下流の6.1kbのStuIのゲノム「長いアーム」のフラグメントを、短いアームを含有するpNTK構築物のHindIII部位の中にクローニングした。
【0210】
次いで完結した構築物をClaIで線状化し、129/RF8胚幹細胞の中へのエレクトロポレーションによりトランスフェクトした。Meiner他、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:14041-14046。ネオマイシンおよびFIAUの存在下に培養することによって、クローンを選択した。400の耐性クローンを拡張し、サザン分析により検査した。9つの正しくターゲッティングされたクローンを同定し、2つを3.5日の胚C5BI/6J芽細胞の中にマイクロインジェクトした。
【0211】
3つの80〜90%のアグーティ毛皮色の雄キメラをC5BI/6J雌と交配させた。SmaIおよびApaIを使用する消化後、新規な1.6kbnoDNAフラグメントを検出するプローブを使用するサザン分析により、生殖細胞系統の伝達を証明した(第1図)、ヘテロ接合性マウスの交配は突然変異に対してホモ接合性の7匹のマウスを最初に産生し、そして1匹の動物のウェスタン分析は他のPKCイソ酵素のレベルを補償的に増加させないで(第2図)脳中のPKCε免疫反応性の非存在を明らかにした(第1図)。
【0212】
B. 実施例2:PKCε-/-マウスのCNS形態学
実施例1に記載する手順を使用して、80匹を超えるPKCε-/-マウスの総数を同定した。突然変異マウスにおけるCNS形態学を次のようにして特性決定した。
【0213】
全体の脳構造は、ヘマトキシリンおよびエオシンの染色により、肉眼的および顕微鏡的に正常であるように見える。しかしながら、線維染色は6月齢のノックアウトマウスのCAIセクターの放線状層において構造的異常性を明らかにする。そこで、MAP-2免疫反応性先端樹状突起はより短く、野生型同腹子対照よりも初期に分岐するように思われる(第3図)。さらに、アセチルコリンエステラーゼについての染色はPKCε-/-マウスの海馬のコリン作動性関与の減少を明らかにする(第4図)。海馬形態のこれらの変更にかかわらず、Morris水迷路により評価して、6週齢PKCε-/-マウスにおいて空間的学習の欠如は見出されなかった。
【0214】
C. 実施例3:PKCε-/-マウスにおける行動の研究
下記はPKCε-/-マウスの行動の分析である。
基本的特性決定 PKCε-/-マウスは、約60日齢において同腹子野生型対照に比較して、2週の期間にわたって正常の体重、飲食を証明した(第5図)。同様に、PKCε-/-マウスは、3回の毎日1時間の試験の間に野生型対照に比較して、正常の自発的歩行行動および新奇な環境に対するハビテーションを証明した(第6図および表1)。
【0215】
【表1】
【0216】
不安に関係する行動
PKCε-/-マウスは正常の全般的歩行行動を示したが、それ以上の分析において、PKCε-/-マウスはオープンフィールド活動、新奇な物体、および高いプラス迷路の動作の特定の測度について野生型対照と有意に異なることが明らかにされた。例えば、PKCε-/-マウスは移動距離の2倍の増加、オープンフィールドの中心領域における、静止に消費した時間の3倍の増加を証明した(第7図および第8図)。これらの発見の両方は、突然変異マウスにおける不安レベルの減少と一致する。
【0217】
PKCε-/-マウスは、また、新奇な物体がオープンフィールドの中心に配置されたとき、探索行動を2倍増加し、これはまた不安レベルの減少を示唆する。そのうえ、高いプラス迷路、すなわち、不安のよく規定された試験において試験したとき、PKCε-/-マウスは、対照に比較して、2倍の移動距離、訪問時間、歩行時間、およびオープンアームにおける静止時間を示した(第9図)。これらのデータは、PKCεが不安の調節において重要な役割を演ずるという新しい発見を表す。
【0218】
エタノールおよびGABAAアゴニストの鎮静作用
GABAAレセプターはエタノールの鎮静作用をモジュレートすることが広く知られている(AllanおよびHarris、1987、Pharmacol. Biochem. Behav. 27:665-670;MehtaおよびTicku、1988、J. Pharmacol. Exp. Ther. 246:558-564)。しかしながら、エタノールの作用に対して感受性のGABAAレセプターとプロテインキナーゼCイプシロン(PKCε)イソ酵素との間の関係はよく規定されていない。この研究の1つの目的は、立直り反射のエタノール誘導喪失(LORR)の開始および期間により測定して、エタノールの鎮静作用のモジュレーションに関係づけられるかどうかを決定することであった。
【0219】
PKCεを欠如する突然変異マウスおよび野生型対照に3種類の投与量のエタノール(3.2、3.6、および4.0g/kg/i.p.)を注射し、次いでLORRの潜伏期および期間を測定した。すべてのマウスはLORR期間の投与量依存的増加を示した。PKCεノックアウトマウスは、野生型対照よりも有意に高いLORR期間を有することが見出された(第10図)。この作用がGABAAレセプター活性の変化により仲介されるかどうかを決定するために、GABAAアゴニストのペントバルビタールの鎮静投与量の作用を試験した。PKCε-/-マウスは、ペントバルビタールの鎮静作用に対する2倍大きい感受性を示した(第11図)。これが示唆するように、PKCεはGABA作動性メカニズムを通してエタノールの鎮静作用をモジュレートする。これらの実験の最新バージョンは、下記の実施例5および6に記載されており、そして第13C図および第14A図に描写されている。
【0220】
D. 実施例4:PKCε-/-マウスにおけるアルコール消費はそれらの野生型同腹子のそれよりも有意に少ない
PKCεがエタノール消費をモジュレートするかどうかを決定するために、野生型マウスおよびPKCεを欠如する突然変異マウスにおいてエタノール偏好飲用を比較した。発表された方法(C. Hodge、C. Slawecki、A. Aiken、Alcohol Clin. Exp. Res. 21:250-260(1996))を使用してエタノール偏好飲用を検査し、これによりマウスは2本の飲用びんに連続的にアクセスし、一方は水を含有し、そして他方は増加する濃度のエタノールを含有した。12匹のPKCε+/+マウスおよび12匹のPKCε-/-マウスを平行して試験した。
【0221】
水が唯一の入手可能な流体である1週の順化期間後、マウスにエタノール(2%)および水を選択させた。2本のびんの飲用の時限を23時間/日、7日/週を実施した。暴露期間の過程の間に、エタノール濃度を2.0%から14%に増加させ、マウスは下記のエタノール濃度の各々に4日間アクセスさせた:2、4、6、10、14%。各日に、マウスを秤量し、個々の保持室に入れ、その間流体をホームケージ(home cage)に取り付けた。23時間の流体のアクセス期間の開示および終了に、初期の流体レベルを最も近いミリミットルデで記録した。各溶液の位置(左または右)を毎日交互して副偏好についてコントロールした。
【0222】
PKCε突然変異マウス(PKCε-/-)は、野生型同腹子対照(PKCε+/+)マウスよりも有意に少ないエタノールを随意に消費した(第12A図)。両方の遺伝子型はエタノールよりも水を好んだが、PKCε-/-マウスはPKCε+/+マウスに比較してエタノールの偏好の75%の減少を示した(第12B図)。エタノール偏好飲用の試験の間に、毎日の流体摂取において差は観測されなかった(エタノール+水のml数:PKCε+/+について6.6±0.3/PKCε-/-について6.2±0.24)。
【0223】
エタノール摂取の減少は食欲または流体均衡の一般的崩壊により影響を受けることがあるので、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの毎日の体重および消費行動を2週の期間にわたって測定した。遺伝子型の間の体重、食物、または水の摂取において有意差は存在しなかった(第12C図、第12D図、第12E)。示差的味覚反応性がまたエタノール摂取に影響を及ぼすことがあることが与えられると、エタノール自己投与手順後1月に、味覚新奇恐怖症を検出できる順序均衡(order-balanced)実験の設計において、同一マウスをサッカリン(甘い物)およびキニン(苦い物)の摂取および偏好について試験した(J.C. Crabbe他、Nature Genetics 14:98-101(1996))。
【0224】
サッカリンナトリウム塩およびキニンヘミサルフェート塩(Sigma、ミゾリー州セントルイス)を水道水中に溶解した。これらの溶液をそれらの強い味覚、カロリー値の欠如、および混同する薬理学的作用の非存在について使用する。PKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間において、各濃度において2日にわたる平均のサッカリンまたはキニンの摂取における差(第12E図)、または水に関する偏好における差が存在しなかった。こうして、PKCε-/-マウスによるエタノール摂取の減少およびエタノール偏好は、遺伝子型の消費行動の遺伝子型の欠如または特定の味覚新奇恐怖症に関係するように思われない。
【0225】
E. 実施例5:PKCε-/-マウスはエタノールの活性化および鎮静作用に対して過敏性である
ヒトにおけるアルコール中毒を発生する危険の減少およびマウスにおける随意のエタノール摂取の減少の両方は、エタノールの急性作用に対する感受性の増加に関連する(M.A. Schuckit、American Journal of Psyciatry 151:184-9(1994);T.E. Thiele、D.J. Marsh、L. Ste. Marie、I,L. Bernstein、R.D. Palmiter、Nature 396:366-9(1998))、エタノールの急性作用に対するPKCε-/-マウスの感受性を試験した。マウスにおいて、低い投与量の急性エタノールは歩行活性化を産生したが、高い投与量は鎮静を生ずる(D.A. Finn.、P.J. Syapin、M. Bejanian、B.L. Jones、R.T. Alkana、Alcoholism,Clinical and Experimental Research 18:382-6(1994);G.D. Frye、G.R. Breese、Psycopharmacology 75:372-9(1981))。
【0226】
外部の騒音をマスクする排気ファンを装備した消音キュービクルの中に位置するプレクシグラスチャンバー(17×17インチ)中で、素朴なPKCε-/-マウス(n=6)およびPKCε+/+マウス(n=6)の自発的歩行活動およびハビテーションを測定した(Med Associates、インジアナ州ラファエッテ)。2組の16パルスのモジュレートした赤外線を対向する壁上に1インチの中心に配置して、X−Y歩行運動を記録した。100ミリ秒の分解能において採取したデータのために、活動チャンバーをコンピューターインターフェースした(Med Associates、インジアナ州ラファエッテ)。活動の試験の1週前に、マウスを取扱い、毎日秤量した。水平移動距離(cm)を3日間毎日1時間記録した。これらの実験において、自発的歩行活動および新奇な環境に対するハビテーションは、突然変異マウスと野生型マウスとの間で異ならなかった(第13A図)。
【0227】
しかしながら、活性モニター開始直前に2g/kgのエタノール(歩行活性化を誘導するために十分な量)を雄マウスに急性腹腔内注射したとき、PKCε-/-マウスはPKCε+/+マウスよりも15分の期間にわたって歩行活動の2倍の増加を示した(第13B図)。
【0228】
ある範囲の鎮静投与量のエタノール(3.2、3.6、および4.0g/kg/i.p.)を投与した後、マウスを背中を下にして置き、立直り反射の喪失(LORR)について試験した。LORRは30秒の間隔の範囲内に立直り反射を完結する不能として定義された。LORRの期間は、LORRと立直り反射の復帰との間の時間間隔として定義された。PKCε-/-マウスは、ペプチド同腹子に比較して、立直り反射を回復するために必要な時間の投与量に関係する2倍の増加を示した(第13C図)。
【0229】
PKCε-/-マウスにおいて観測されたエタノールに対する感受性の増加がエタノールの示差的吸収、分布、またはクリアランスのためであるかどうかを試験するために、尾静脈から20μlの血液試料を抜き出すことによって、エタノール腹腔内投与(4.0g/kg)後10〜180分における血液エタノール濃度を測定した。1.8mlのトリクロロ酢酸溶液を含有する遠心管に血液を添加し、渦形成により混合した。シグマ・アルコール・診断キット(Sigma Alcohol Diagnstic Kit)322(Sigma、ミゾリー州セントルイス)。
【0230】
エタノールのクリアランスはPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの両方において正常のパターン(報告されたものと一致する(T. Miyakawa他、Science 278:698-701(1997))を示した(第13D図)。こうして、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの間において観測されたエタノールの急性歩行活性化および鎮静作用に対する示差的感受性は、突然変異マウスにおける示差的運動能力またはエタノール反応速度の関数よりむしろPKCε活性の喪失に直接帰するように思われる。
【0231】
F. 実施例6:PKCε-/-マウスはアロステリックGABAAアゴニストの活性化および鎮静作用に対して増強した感受性および直接的GABAAアゴニストおよびNMDAアンタゴニストに対する正常の感受性を示す
脳および行動プロセスに対する多数のエタノールの作用はGABAAレセプターの機能の変化により仲介される(C.W. Hodge、A.A. Cox、Psycopharmacology 139:95-107(1998):A. Allan、R. Harris、Pharmocology,Biochemistry & Behavior 27:665-670(1987))。
【0232】
生化学的証拠が示すように、GABAAレセプターを直接的にPKCによりリン酸化することができ、そしてPKCは海馬CA1ニューロンにおけるGABA作動性電流を調節する(B.J. Krishek他、Neuron 12:1081-95(1994);P. Poisbeau、M.C. Cheney、M.D. Browning、I. Mody、Journal of Neuroscience 19:674-83(1999);J. Weiner、C. Valenzuela、P. Watson、C. Frazier、T. Dunwiddie、Journal of Neuroscience 68:1949-1959(1997))。
【0233】
同様に、NMDAレセプターはエタノールに対する急性応答を仲介し、そしてそれらはPKCによりリン酸化される(D.M. Lovinger、G. White、F. Weight、Science 243:1721-1724(1989);P.C. Suen他、Brain Res. Mol. Brain Res. 59:215-28(1998))。PKCεとGABAAレセプター機能またはNMDAレセプター機能との間の潜在的連結を検査するために、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおけるアロステリックGABAAアゴニスト、直接的GABAAアゴニストおよびNMDAアンタゴニストの作用を試験した。
【0234】
30、40、または50mg/kgのペントバルビタールまたは20、30、または40mg/kgのジアゼパムの腹腔内注射後、実施例5におけるようにPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおいて立直り反射の喪失(LORR)を試験した。突然変異マウスは、対照マウスに比較して、ペントバルビタール、すなわち、アロステリックGABAAアゴニストの鎮静作用に対して投与量に関係する3倍の大きい感受性を示した(第14A図)。そのうえ、PKCε-/-マウスは、ペントバルビタールおよびベンゾジアゼピン族の1メンバーよりも、ジアゼパム、すなわち、より選択的なアロステリックGABAAアゴニストの鎮静作用に対して30倍多く感受性であった(第14B図)。
【0235】
より低い投与量がいずれの遺伝子型においても立直り反射の喪失(LORR)測度を生成しないという事実のための、PKCε-/-マウスにおけるジアゼパムの鎮静作用についての完全な投与量応答曲線を決定することができなかったので、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおける0.5、1.5および4.0mg/kgの腹腔内注射の歩行活性化作用を実施例5に記載する方法により評価した。突然変異マウスは、野生型マウスに比較して、ジアゼパムの急性注射後、移動距離の有意な増加を示した(第14C図)。
【0236】
アロステリックGABAAアゴニストのジアゼパムおよびペントバルビタールに対するPKCε-/-マウスの感受性の増大と対照的に、ムシモール、すなわち、直接的GABAAアゴニストの0.1、0.2および0.4mg/kgの腹腔内注射に対するPKCε-/-マウスの歩行の応答は同様に処置したPKCε+/+マウスのそれと区別できなかった(第14D図)。
【0237】
最後に、非競合的NMDAアンタゴニストMK-801の0.01、0.02、0.03mg/kgの腹腔内注射の歩行活性化作用を実施例5に記載する方法により検査した。MK-801に対する応答において突然変異マウスと野生型マウスとの間に差は観測されなかった(第14E図)。
これらのデータが証明するように、PKCε-/-マウスはアロステリックGABAAアゴニスト、例えば、バルビツエートおよびベンゾジアゼピンの急性鎮静作用および歩行活性化作用に対して過敏性であるが、直接的GABAAアゴニストまたはNMDAアンタゴニストにより示差的に影響を受けない。
【0238】
G. 実施例7:GABAAレセプターの機能はPKCεインヒビターで処置されたPKCε-/-マウスおよび野生型マウスにおいて変更される
実施例5および6において証明されたエタノール、ペントバルビタール、およびジアゼパムに対するPKCε-/-マウスの感受性の増加は、PKCεはGABAAレセプターのアロステリックモジュレーションに選択的に影響を及ぼすことができることを示唆する。GABAAレセプターの機能を野生型マウスおよび突然変異マウスにおいて直接試験した。
【0239】
GABAAレセプターはそれらの活性化がCl-コンダクタンスを増加するリガンド−ゲーテッドイオンチャンネルであるので、発表された方法の変更されたバージョンを使用して前頭皮質から調製した膜小胞(マイクロサック)中の36Cl-フラックスを測定することによって、GABAAレセプターの機能モニターし(Leidenheimer、N.J.、McQuilkin、S.J.、Hahner、L.D.、Whiting、P. & Harris、R.A.、Activation of protein kinase C selecively inhibits the γ-aminobutyric acidA receptor:role of desensitizaition、Mol. Pharmacol. 41:1116-1123(1992);Harris、R.A. & Allan、A.M.、Functional coupling of gamma-aminobutyric acid receptors to Chloride channels in brain membranes、Science 228:1108-10(1989))ここでアッセイ緩衝液は下記のプロテアーゼインヒビターを含有した:40μg/mlのロイペプチン、40μg/mlのアプロニチン、25μg/mlのダイズトリプシンインヒビター、および1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル。
【0240】
34℃の震盪水浴中で5分間インキュベートした後、200μlの36Cl-(0.2μCi/mlのアッセイ緩衝液)を含有する溶液を添加し、直ちに撹拌することによって、200μlの膜アリコート中で塩化物の吸収を開始した。薬物(ムシモール、フルニトラゼパム、またはエタノール)を36Cl-溶液にのみ添加した。36Cl-の添加後5秒に、ヘファー(Hoefer)マニホールド(Hoefer Scientific、カリフォルニア州サンフランシスコ)を使用して、2.5cmのワットマン(Whatman)GF/Cガラス製ミクロフィルター上に真空(10〜15インチHg)下に4mlの氷冷アッセイ緩衝液を添加し、急速に濾過することによって、流入を停止した。追加の12mlの氷冷アッセイ緩衝液でフィルターを洗浄した。フィルターをフィルトロン(Filtron)−X(National Diagnostics)の中に沈め、フィルター上の放射能の量を液体シンチレーション分光光度測定により測定した。ムシモール依存的吸収は、ムシモールが媒質中に存在する間に吸収された36Cl-の全量−ムシモールが存在しないときの36Cl-の吸収量として定義した。
【0241】
直接的GABAAレセプターアゴニストのムシモールにより刺激されたCl-吸収は、ノックアウトおよび野生型同腹子において類似する(第15A図)。しかしながら、エタノールまたはフルニトラゼパム、すなわち、ベンゾジアゼピンによるムシモール刺激Cl-吸収の増強は、PKCε-/-マウスからのマイクロサックにおいて2倍大きかった(第15B図)。これらの発見が証明するように、PKCε突然変異マウスの前頭皮質中のGABAAレセプターはエタノールおよびベンゾジアゼピンによりアロステリックモジュレーションに対していっそう感受性である。GABAAレセプターのアロステリックモジュレーターに対するこの感受性の増大は、PKCε仲介シグナルトランスダクションの欠如ためであろう。
【0242】
PKCε-/-マウスのGABAAレセプターのアロステリックモジュレーターに対する感受性の増強が成体マウスにおけるPKCε機能の障害の結果であり、そして発生の間のPKCεの非存在に主として起因しないことを確かめるために、PKCεの選択的インヒビターであるεV1-2で処置した野生型マイクロサックにおいて、ムシモール刺激Cl-吸収を検査した(J.A. Johnson、M.O. Gray、C.-H. Chen、D. Mochly-Rosen、Journal of Biological Chemistry 271:24962-24966(1996))。
【0243】
マイクロサックを前述したように野生型マウスから調製し、4℃において、100μMのεV1-2(EAVSLKPT)またはS-εV1-2(LSETKPAV)ペプチドの存在または非存在下に、下記の成分を含有する透過可能化緩衝液で15分間処理した:140mMのKCl、10mMのEGTA、20mMのHEPES(pH7.4)、50μg/mlのサポニン、5mMのアジ化ナトリウム、5mMのシュウ酸カリウム、6mMのATP、および0.2%(w/v)の無プロテアーゼウシ血清アルブミン(Johnson、J.A.他、J. Biol. Chem. 271:24962-24966(1996))。900×g、4℃において15分間遠心した後、マイクロサックをアッセイ緩衝液+プロテアーゼインヒビターの中に再懸濁させ、氷上でさらに15分間インキュベートした。次いでマイクロサックを900×g、4℃において15分間遠心した後、36Cl-吸収をアッセイする直前に、アッセイ緩衝液の中に5mg/mlのプロテアーゼインヒビターとともに再懸濁させた。
【0244】
εV1-2とのインキュベーションはムシモール刺激Cl-吸収に対するフルニトラゼパムの増強作用を著しく増加したが、このペプチドのスクランブルドバージョン、S-εV1-2とのインキュベーションは作用をもたなかった(第15C図)。PKCεインヒビターεV1-2によるPKCε-/-マウスのマイクロサックの処理は、マイクロサックにおけるムシモールおよびフルニトラゼパム刺激36Cl-吸収に影響を与えなかった。成体のニューロンにおけるPKCε仲介シグナリングの非存在は、PKCε突然変異マウスにおけるアロステリックモジュレーターに対するGABAAレセプターの感受性の増強に関係するという結論を、これらの結果は強く支持する。
【0245】
H. 実施例8:PKCε-/-マウスにおけるGABAAレセプターの機能のモジュレーションは他のPKCイソ酵素の発現の変更のためではない
PKCγを欠如する突然変異マウスはエタノールに応答してGABAAレセプター機能の増強の減少を示す(R.A. Harris他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:3658-3662(1995))ので、PKCε-/-マウスにおいて前述したエタノールおよびGABAAアゴニストの作用はPKCγまたは他の1またはそれ以上のPKCイソ酵素のアップレギュレートのためであることがある。
【0246】
この理論を試験するために、種々のPKCイソ酵素のウェスタン分析(B. Hundle他、Journal of Biological Chemistry 272:15028-35(1997))をPKCε-/-マウスからのタンパク質試料について実施した。PKCε以外のPKCイソ酵素のレベルの変更はPKCε-/-マウスにおいて観測されなかった(第15D図)。したがって、PKCε-/-マウスにおいて観測されたGABAAアゴニストに対する応答の変更は、他のPKCイソ酵素の存在量の変更よりむしろPKCεの喪失のためであるように思われる。
【0247】
I. 実施例9:PKCεはアルコールの禁断症状に影響を与える
GABAAレセプターの活性化はエタノール禁断症状の重症度を減少し(G.D. Frye、T.J. McCown、G.R. Breese、The Journal of Pharmocology and Experimental Therapeutics 226:720-725(1983));B.R. Cooper、K. Viik,R.M. Ferris、H.L. White、Journal of Pharmocology and Experimental Therapeutics 209:396-403(1979))そしてPKCε突然変異マウスはGABA作動性機能の増強と一致する行動および生化学的プロファイルを証明するので、エタノール誘導禁断発作をPKCε+/+マウスおよびPKCε-/-マウスにおいて試験した。エタノールに対して慢性的に暴露させた後、マウスを取扱うことによって、ハンドリング誘導痙攣(HIC)として知られている禁断発作をマウスにおいて誘導することができる。
【0248】
標準化HIC評価目盛り(表II)により測定した、発作の重症度は、エタノール依存症および禁断症状の定量的測度を表す(J.C. Crabbe、C. Merrill、J.K. Belknap、The Journal of Pharmocology and Experimental Therapeutics 257:663-667(1991))。食物および流体の唯一の源として5%のエタノールを含有する完全栄養の液状食事(Dyets、ペンシルベニア州ベツレヘム)の2週暴露させた後、禁断発作を4匹のPKCε+/+マウスおよび4匹のPKCε-/-マウスにおいて評価した。かごからエタノールを除去した後、2、4、6、および7時間後に発作をビデオ録画し、そして遺伝子型および薬物暴露に対してブラインドである観察者が等級づけた。時−点およびマウスを横切って、データを平均した。
第16図に示すように、PKCε-/-マウスは野生型同腹子に比較して発作重症度を50%減少させた。これらのデータはPKCεがエタノール禁断症状をモジュレートすることを証明し、そしてPKCεインヒビターがこのような症状を軽減または予防する。
【0249】
【表2】
【0250】
J. 実施例10:PKCεはニューロステロイドの活性をモジュレートする
ニューロステロイドは、血漿レベルに独立的した濃度で脳の中に見出されるステロイドホルモンである。アロプレウノロン(3アルファ−ヒドロキシ−5アルファ−プレグナン−20−オン)およびアロテトラヒドロコルチコステロン(THDOC)は、次のようなニューロステロイドである:1)GABAAレセプターへの結合ついてリガンド[35S]−t−ブチルビシクロ−ホスホロチオエート(TBPS)と競合する;2)GABAAレセプターに対するGABAおよびベンゾジアゼピンの結合をアロステリックに増強する;3)齧歯類に投与したとき、不安解消および精神機能減退作用を有する;4)GABAAレセプターに作用する因子、例えば、ビクリン、ピクロトキシン、およびペンチレンテトラゾールにより生成する発作を減少する;そして5)グリシンアンタゴニストのストリキニンにより誘導される発作を抑制しない。こうして、アロプレグナノロンおよびTHDOCはGABAAレセプターの内因的アロステリックモジュレーターである。
【0251】
PKCεはGABAAレセプターの内因的アロステリックモジュレーターであるベンゾジアゼピンの活性をモジュレートするので、ニューロステロイドの活性をモジュレートするPKCεの能力を試験した。PKCε-/-マウス(n=6)およびPKCε+/+マウス(n=4)から調製されたマイクロサックにおけるムシモール刺激Cl-吸収を、実施例7に記載する方法に従い0〜10-6Mの異なる濃度のアロプレグナノロンの存在下に測定した。
【0252】
第17図に示すように、10-12〜10-9Mの濃度のアロプレグナノロンはPKCε-/-マウスからのGABAAレセプターを実質的に活性化するが、PKCε+/+マウスからのGABAAレセプターの活性に対する作用を比較的にほとんどもたない。これらのデータが証明するように、PKCεはGABAAレセプターに対するニューロステロイドの作用をモジュレートする。ニューロステロイドは内因的であるので、このようなデータが示すように、PKCεインヒビターは、単独で(すなわち、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの同時投与なしに)投与したとき、ニューロステロイドがモジュレートするGABAAレセプターの活性を増加するであろう。
【0253】
K. 実施例11:PKCεはストレスホルモンのレベルをモジュレートする
実施例3において論じた実験はPKCε-/-マウスがそれらの野生型同腹子よりも有意に少ない不安に関係する行動を表示することを証明したので、ストレスホルモンの基底レベルおよび不安誘導条件に応答したこのようなレベルの変化をこれらのマウスにおいて測定した。
【0254】
PKCε-/-マウス(それぞれ、n=13および13)およびPKCε+/+マウス(それぞれ、n=15および16)におけるラジオイムノアッセイにより、コルチコステロンおよびアドレノコルチコトロピックホルモン(ACTH)の基底レベルを測定した。また、不安誘導事象の1モデルである、プラスチックスリーブの中にマウスを10分間拘束した直後および1時間後に、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおいてコルチコステロンのレベルを測定した(Hauger、R.L.他、Endocrinology 123:396−405(1988))。
【0255】
第18図および第19図に示すように、PKCε-/-マウスはそれらの野生型同腹子よりも有意に(p<0.05)低い、それぞれ、コルチコステロンおよびACTHの基底レベルを示した。拘束直後におけるコルチコステロンのレベルは、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの両方において、基底レベルよりも実質的に高かった。PKCε-/-マウス(n=4)におけるコルチコステロンのレベルはこの時点(0時間)においてそれらの野生型同腹子(n=4)よりも低かったが、この差は有意ではなかった。コルチコステロンのレベルを再び1時間後に測定したとき、レベルはPKCε+/+マウス(n=6)においてわずかに増加し、そしてPKCε-/-マウスにおいて実質的に減少した。
【0256】
突然変異マウスと野生型マウスとの間におけるコルチコステロンレベルの差は、この時点(1時間)において有意(p<0.05)であった。これらのデータが証明するように、PKCεはストレスホルモンの基底レベルをモジュレートしかつ不安生成事象後の回復期間の間のこのようなホルモンのレベルをモジュレートした。データがまた示すように、PKCεインヒビターの投与は一般的不安を減少し、そして不安生成事象に対して適当に応答するレシピエントの能力を障害しないで、このような事象後の平静の再確立を促進する。
【0257】
L. 実施例12:PKCεはGABAAレセプターのアロステリックアゴニストである阻害性アミノ酸神経伝達物質のレベルをモジュレートする
PKCε-/-マウスにおいて観察された行動プロファイル(例えば、不安の減少、薬物禁断症状の減少、アルコール自己投与の減少、およびGABAAレセプターのアロステリックアゴニストの感受性の増大)は、内因的神経伝達物質またはGABAAレセプターの機能を仲介する神経伝達物質の変化を反映する。この可能性を研究するために、覚醒し、自由に運動するPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの側座核中のアミノ酸レベルを下記の微量透析法により測定した。
【0258】
同心微量透析プローブ(Jolly、D.およびVezina、P.、J. Neurosci. Methods、68:259−267(1996);Robinson、T.E.およびCamp、D.M.、The feasibility of repeated microdialysis procedures for within-subjects design experiments:studies on the mesostriatal dopamine system.In T.E. RobinsonおよびJ.B. Justrice Jr.(編)、Microdialysis in the Neuroscience.7 Techniques in the Behavioral and Neural Science、Elsevier、アムステルダム、pp. 189-234(1991))を、案内カニューレを通して各6匹のPKCε-/-マウスおよび6匹のPKCε+/+マウスの側座核の中に外科的に移植した。プローブを人工的脳脊髄液(aCSF)で灌流し、動物を一夜回復させた。
【0259】
光ビーム(photobeams)を装備したオープンフィールドのチャンバーの中にマウスを入れ、透析試料管を10分の間隔で交換した。透析試料中のアミノ酸神経伝達物質の含量をHPLCおよび電気化学的検出により無勾配的に定量した(Donzanti、B.A.およびYamamoto、B.K.、An improved and rapid HPLC-EC method for the isocratic separation of amino acid neurotransmitters from brain and microdialysis perfusate、Life Sci.、43:913−922(1988);Gamache、P.、Ryan、E.、Svendsen、C.、Murayama,K.およびAcworth、I.N.、Simultaneous measurement of monoamines,metabolites and amino acids in brain tissue and microdialysis perfusates、J. Chromatogr. B. Biomed. Appl.,614:213-220(1993))。
【0260】
第20図に示すように、PKCε-/-マウス(n=6)における刺激性アミノ酸のアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩およびグリシンおよび阻害性アミノ酸のガンマアミノ酪酸(GABA)のレベルはそれらの野生型同腹子(n=6)のそれらと有意に異ならなかった。しかも、阻害性アミノ酸のタウリンはPKCε+/+マウスにおけるよりもPKCε-/-マウスにおいて2倍高かった、有意差(p<0.05、t−検定)。タウリンはGABAAレセプターの内因的アゴニストであるので、これらのデータが証明するように、PKCε-/-マウスにおいて見られたGABAAレセプターの増大した活性(実施例6および7参照)は、これらのマウスにおいて増大したタウリンレベルに帰するレセプターの活性化の増加を一部分原因とする。こうして、PKCε活性を減少または排除することによってGABAAレセプターの活性を増加する2つのメカニズムがここにおいて証明される:タウリンレベルの増加およびアロステリックアゴニストに対するGABAAレセプターの感受性の増大。
【0261】
M. 実施例13:PKCεはドーパミンレベルの薬物誘導増加をモジュレートする
エタノールまたは他の乱用薬物の急性投与は、脳の側座核領域におけるドーパミンの細胞外レベルを短時間であるが、実質的に増加させることは十分に確立されている。この増加は、脳の腹側被蓋区域(VTA)に由来するニューロンの前シナプス終末からのドーパミンの放出により引き起こされ、薬物応報、および薬物依存症に導く強化の主要なメディエイターである。事実、側座核の中にドーパミンレセプターアンタゴニストを注射した後、処置された動物は薬物自己投与を減少する(Di Chiara、G.およびImperato、A.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5274-5278(1988))。実施例4において論じた実験はPKCε-/-マウスがそれらの野生型同腹子よりも有意に少ないアルコールを消費するので、側座核におけるドーパミンレベルの増加を誘導するエタノールの能力を試験した。
【0262】
生理食塩水の腹腔内注射、2.0g/kgのエタノールの腹腔内注射または無処置(基底)後の種々の時点においてカテコールアミンレベルを定量するように変更した、実施例12に記載する微量透析法(Gobert、A.、Rivet、J.-M.、Audinot、V.、Newman-Tancredi、A.、Cistarelli、L.およびMillan、M.J.、Simultaneous quantification of serotonin,dopamine and noradrenaline levels in single frontal cortex dialysis of freely-moving rats reveals a complex pattern auto- and heteroreceptor-mediated control of release、Neuroscience、84:413−429(1998))により、覚醒し、自由に運動するPKCε-/-マウス(n=8)およびPKCε+/+マウス(n=8)の側座核における細胞外ドーパミンレベルを測定した。
【0263】
第21図に示すように、エタノール投与後においてPKCε+/+マウスに見られるドーパミンレベルの一時的増加はPKCε-/-マウスにおいて起こらなかった。PKCε-/-マウスにおいて、エタノールへの暴露後、ドーパミンレベルの変化は観測されなかった。これらのデータが示すように、PKCεは側座核中の細胞外ドーパミンレベルのエタノール誘導増加をモジュレートする。こうして、PKCεはアルコール消費に関連する応報を経験する生物の能力およびこのような生物が消費するアルコールの量の両方に影響を与える。
【0264】
PKCε-/-マウスの側座核中のドーパミンレベルの一時的増加を誘導する他の乱用薬物の急性投与の能力を、類似の方法により試験する。すべての試験した乱用薬物の投与後にPKCε-/-マウスが一時的増加を経験することができなかったことを示す結果が証明するように、PKCεは乱用薬物に共通の薬物応報経路の成分をモジュレートする。このようなデータは、応報達成と薬物消費との間の関係について現存する知識と一緒に、PKCεインヒビターの投与が広範な種類の乱用薬物の自己投与を減少することを強く示唆する。
【0265】
N. 実施例14:PKCεは乱用薬物の消費、作用および禁断症状に影響を与える
ドーパミン放出を引き起こす乱用薬物の作用はGABAAレセプターにより仲介されるという、いくつかの証拠が存在する(Dewey、SL;Morgan、AE;Ashby、CR Jr.;Horan、B;Kushner、SA;Logan、J;Volkow、ND;Fowler、JS;Gardner、EL;Brodie、JD。A novel strategy for the treatment of cocaine addiction. Synapse 30:119-29(1998))ので、このような薬物の摂取、作用および禁断症状のモジュレーションにおけるPKCεの役割をin vivoおよびin vitroにおいて試験する。
【0266】
PKCε-/-マウスによる神経刺激薬(例えば、コカインおよびアンフェタミン)およびオピエート(例えば、モルフィンおよびヘロイン)の自己投与をPKCε+/+マウスおそれと比較する。実施例4に記載する方法に類似する方法により、自己投与を摂取可能な薬物について試験する。通常静脈内投与される薬物について、静脈内自己投与法、例えば、Mello他の方法(Mello、N.K.、Negus、S.S.、Lukas、S.E.、Mendelson、J.H.、Sholar、J.W. & Drieze、J.、A primate model of polydrug abuse:cocaine and heroin combinations、The Journal of Pharmocology and Experimental Therapeutics 274:1325-37(1995)を使用する。
【0267】
低いおよび高い投与量の問題の薬物をPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスに腹腔内急性注射し、そして実施例5に記載する方法により、それぞれ、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおいて低いおよび高い投与量により引き起こされる歩行活動の量または立直り反射の喪失の期間を比較することによって、神経刺激薬およびオピエートの作用をモジュレートするPKCεの能力を検査する。問題の薬物の作用に対するPKCε-/-の大きい感受性を示すデータは、PKCεインヒビターの投与が薬物の作用を増加し、そしてPKCεのエンハンサーがこのような作用を減少することを示す。
【0268】
実施例9に記載する方法に類似する方法により、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおいて、禁断症状が発作および自律的不安定性を引き起こす、鎮静−精神機能減退薬物の禁断症状に対するPKCεの効果を試験する。それらの野生型マウスに関して、PKCε-/-マウスにおいて有意に減少した発作の重症度を示すデータは、PKCεインヒビターの投与がこのような薬物に依存する個体における禁断症状の重症度を低下させることを示す。
この明細書に記載したすべての刊行物および特許出願は、各個々の刊行物および特許出願が特別にかつ個々に引用することによって本明細書の一部とされると示される場合と同一程度に、引用することによって本明細書の一部とされる。
【0269】
本発明を詳しく記載したが、本発明の精神および範囲から逸脱しないで種々の変化および変更が可能であることは当業者にとって明らであろう。
【図面の簡単な説明】
【0270】
【図1A】第I図はPKCε-/-マウスの世代を描写する。第1A図は、突然変異ゲノムDNAのApaIおよびScaI消化物のサザンブロット上の1.6kbのフラグメントの検出を可能とするターゲッティングベクターによる、新規なApaI部位(A*)を示す。
【図1B】第1B図は、雄キメラおよびC5BI/6J雌のヘテロ接合性子孫に対して生まれたマウスの子からの尾試料のサザンブロット分析を描写する。7匹のホモ接合性ノックアウトからの試料を含有するレーンは性別により標識されている。
【図1C】第1C図は、野生型(+/+)、ホモ接合性およびノックアウト(−/−)同腹子からの脳試料の抗PKCε抗体を使用するウェスタンブロットを描写する。
【0271】
【図2】第2図は、野生型、ヘテロ接合性および突然変異PKCεマウスにおけるPKCイソ酵素免疫反応性を描写する。他のPKCイソ酵素の補償的増加はノックアウトマウスにおいて観測されない。
【図3A】第3A図は、野生型同腹子におけるCAI放線状層中のMAP2の免疫反応性を描写する。マウス(6月齢)に生理食塩水を灌流し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。脳の冠状切片をMAP-2について染色した。FITC標識化二次抗体で標識化後、切片を共焦点走査レーザー顕微鏡検査により検査した。CAI錐体ニューロンの先端の樹枝突起はより短く、PKCε-/-マウスにおいていっそう分枝鎖状に見える。
【図3B】第3B図は、PKCε-/-同腹子におけるCAI放線状層中のMAP2の免疫反応性を描写する。マウス(6月齢)に生理食塩水を灌流し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。脳の冠状切片をMAP-2について染色した。FITC標識化二次抗体で標識化後、切片を共焦点走査レーザー顕微鏡検査により検査した。CAI錐体ニューロンの先端の樹枝突起はより短く、PKCε-/-マウスにおいていっそう分枝鎖状に見える。
【0272】
【図4A】第4A図は、PKCε-/-マウスのCAI海馬中のアセチルコリンステラーゼ活性の減少を描写する。PKCε-/-マウス(6月齢)および野生型同腹子に生理食塩水を灌流し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。海馬を通る冠状脳切片をコリンステラーゼ含有神経繊維の存在について染色した。図4A:野生型マウス。略号:SO、海馬多形細胞層;SP、三角骨層;SR、放線状層;SL/M、多孔層および分子。
【図4B】第4B図は、PKCε-/-マウスのCAI海馬中のアセチルコリンステラーゼ活性の減少を描写する。PKCε-/-マウス(6月齢)および野生型同腹子に生理食塩水を灌流し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。海馬を通る冠状脳切片をコリンステラーゼ含有神経繊維の存在について染色した。図4B:PKCε-/-マウス。略号:SO、海馬多形細胞層;SP、三角骨層;SR、放線状層;SL/M、多孔層および分子。
【0273】
【図5A】第5A図は、2週間毎日測定した体重を描写する。PKCε-/-マウスはいずれの測定についても対照と異ならなかった。*、**は雄と異なることを示す、P<0.05;0.01。
【図5B】第5B図は、2週間毎日測定した食物摂取を描写する。PKCε-/-マウスはいずれの測定についても対照と異ならなかった。*、**は雄と異なることを示す、P<0.05;0.01。
【図5C】第5C図は、2週間毎日測定した水摂取を描写する。PKCε-/-マウスはいずれの測定についても対照と異ならなかった。*、**は雄と異なることを示す、P<0.05;0.01。
【0274】
【図6A】第6A図は、オープンフィールド運動装置中のマウスの分析を描写する。PKCε-/-マウスは、正常の歩行行動を示した。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図6B】第6B図は、オープンフィールド運動装置中のマウスの分析を描写する。PKCε-/-マウスは、新奇な環境に対する馴化を示した。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【0275】
【図7A】第7A図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7B】第7B図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7C】第7C図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7D】第7D図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7E】第7E図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7F】第7F図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【0276】
【図8A】第8A図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8B】第8B図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8C】第8C図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8D】第8D図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8E】第8E図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8F】第8F図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【0277】
【図9A】第9A図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図9B】第9B図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0278】
【図9C】第9C図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図9D】第9D図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図9E】第9E図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0279】
【図10A】第10A図は、PKCε-/-マウスはエタノールの立直り反射の喪失(LORR)作用の期間に対する2倍大きい応答を示したことを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図10B】第10B図は、PKCε-/-マウスはエタノールの立直り反射の喪失(LORR)作用の期間に対する2倍大きい応答を示したことを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図11A】第11A図は、PKCε-/-マウスはペントバルビタールの立直り反射の喪失(LORR)作用期間に対する2倍大きい応答を示したことを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図11B】第11B図は、PKCε-/-マウスはペントバルビタールの立直り反射の喪失(LORR)作用期間に対する2倍大きい応答を示したことを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0280】
【図12A】第12A図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間のエタノール摂取を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12B】第12B図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間のエタノール偏好(エタノールのml/全消費ml)を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12C】第12C図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間の平均の毎日の体重を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0281】
【図12D】第12D図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間の食物摂取描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12E】第12E図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間の水摂取を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12F】第12F図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間の各濃度において2日にわたって測定したサッカリン(Sacc)の摂取を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12G】第12G図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間のキニン(Quin)の平均摂取を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0282】
【図13A】第13A図は、自発的歩行行動および新奇な環境に対する馴化に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図13B】第13B図は、エタノール注射後の歩行活性化に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図13C】第13C図は、エタノールにより産生された立直り反射の喪失(LORR)期間に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図13D】第13D図は、エタノール注射後の血液エタノールのクリアランスに関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0283】
【図14A】第14A図は、GABAAアロステリックアゴニストペントバルビタールに応答した立直り反射の喪失(LORR)期間に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図14B】第14B図は、ジアゼパムに応答した立直り反射の喪失(LORR)期間に応答した歩行活動に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図14C】第14C図は、ジアゼパムに応答した歩行活動に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図14D】第14D図は、直接的GABAAアゴニストムシモールに応答した歩行活動に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図14E】第14E図は、NMDAアゴニストMK-801に応答した歩行活動に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0284】
【図15A】第15A図は、0〜20μMのムシモール(A)または20mMのエタノール(EtOH)または0.1μMのフルニトラゼパム(Flu)の存在下の1μMのムシモール(B)と5秒間インキュベートしたPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスから調製された皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収を描写する。
【図15B】第15B図は、0〜20μMのムシモール(A)または20mMのエタノール(EtOH)または0.1μMのフルニトラゼパム(Flu)の存在下の1μMのムシモール(B)と5秒間インキュベートしたPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスから調製された皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収を描写する。第15B図中のデータは、ムシモール単独中でインキュベートしたマイクロサックにおいて測定した吸収を超える百分率として表されており、20回(エタノール)、5回(フルニトラゼパム)および3回(ペプチド)の実験からの平均±SE値である。*は同一薬物で処理した野生型マイクロサック、またはすべての他の条件に暴露されたマイクロサック有意に異なることを示す、p<0.05。
【0285】
【図15C】第15C図は、まず未処理で放置した(Con)、サポニンのみで透過化した(Sap)、またはεV1-2(εV)ペプチドまたはスクランブルドS-εV1-2(SεV)ポリペプチドの存在下にサポニンで透過化し、引き続いて1μMのムシモールおよび0.1μMのフルニトラゼパムと5秒間インキュベートした、野生型マウスから調製された皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収を描写する。第15C図中のデータは、ムシモール単独中でインキュベートしたマイクロサックにおいて測定した吸収を超える百分率として表されており、20回(エタノール)、5回(フルニトラゼパム)および3回(ペプチド)の実験からの平均±SE値である。*は同一薬物で処理した野生型マイクロサック、またはすべての他の条件に暴露されたマイクロサック有意に異なることを示す、p<0.05。
【図15D】第15D図は、サンタ・クルズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)(カリフォルニア州サンタクルズ)からの示したPKCイソ酵素に対するポリクローナル抗PKC抗体(0.5μg/ml)を使用する、野生型(+/+)およびPKCε突然変異体(−/−)からの前脳組織のウェスタンブロットを描写する。
【0286】
【図16】第16図は、エタノールを含有する液状食事を除去した後における、PKCε+/+マウスおよびPKCε-/-マウスにおける平均ハンドリング誘導痙攣(HIC)のスコアを描写する。*はゼロエタノールと有意に異なることを示す、p<0.05;**は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図17】第17図は、1μMのムシモールのみとインキュベートした、それぞれ、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスから調製した皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収に関する、1μMのムシモールおよび0〜10-6Mのアロプレグノロンと5秒間インキュベートしたPKCε-/-マウス(KO)およびPKCε+/+マウス(WT)から調製した皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収の増加百分率を描写する。
【0287】
【図18】第18図は、基底の条件下に拘束後0および1時間におけるPKCε+/+マウス(WT)およびPKCε-/-マウス(KO)における血漿コルチコステロンのレベルを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図19】第19図は、PKCε+/+マウス(WT)およびPKCε-/-マウス(KO)における血漿ACTHの基底レベルを描写する。
【0288】
【図20】第20図は、微量透析により測定したPKCε+/+マウスおよびPKCε-/-マウスの側座核におけるアミノ酸、アスパラギン酸塩(Asp)、グルタミン酸塩(Glu)、およびグリシン(Gly)、タウリン(Taur)およびガンマアミノ酪酸(GABA)のレベルを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図21】第21図は、3つの120分の相の間(基線、生理食塩水の注射後、およびエタノールの注射後)におけるPKCε+/+マウスおよびPKCε-/-マウスの側座核におけるドーパミン(DA)レベルを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインキナーゼCイソ酵素ε(PKCε)を欠如する細胞および非ヒト動物;薬物のターゲットとしてのPKCεの使用;不安(anxiety)を減少し、アルコール消費および他の乱用薬物の自己投与を調節(モジュレート)し、アルコールの作用を変更し、そしてGABAAレセプターの不十分な活性に関連する症状を治療する方法におけるPKCεのモジュレーターの使用;およびアルコール中毒症または嗜癖の他の型に対する感受性が増大した個体の同定に関する。
【背景技術】
【0002】
不安(anxiety)は、重症であるか、あるいは持続性である場合、非常に不能状態であることがある、非常に普通の感覚である。不安に関係する障害は非常に流行しているので、最も頻繁に処方されている不安解消薬であるベンゾジアゼピンは、最も重要な20または25の最も頻繁に処方されている薬物のリストの中に規則的に出現する。ベンゾジアゼピンおよび他の不安減少薬物の望ましくない副作用が明らかにされると、不安の新しい治療法が必要となる。
【0003】
アルコール中毒症は薬物乱用の最も普通の形態であり、そして世界的な主要な公衆の問題である。それにもかかわらず、アルコール摂取を変更する薬物の存在はわずかでありかつ脳および行動プロセスに対するアルコールの作用に影響を及ぼす遺伝的因子はほとんど特性決定されてない。こうして、アルコール中毒症となる素因を有する個体を同定できる診断試験が必要であり、そしてアルコール消費を変更できる治療方法が必要である。
【0004】
Lewinグループは1992年におけるアルコールおよび薬物乱用のための米国社会に対する経済的コストを2460億ドルであると推定し、それらのうちの1480億ドルはアルコール乱用に帰属され、そして980億ドルは薬物の乱用および依存症に由来した(H. Harwood他、The Economic Cost of Alcohol and Drug Abuse in the United States、1992、NIH Publication Number 98-4327(Sept. 1988))。インフレーションおよび人口増加を調節するとき、1992年についてのアルコール推定値は過去20年にわたって製造されたコストの推定値に非常に類似し、そして薬物推定値は定常的な強い増加のパターンを証明する。現在の推定値は、アルコールおよび薬物について1985年について明らかにされた最近の推定値よりもかなり大きい(Rice他、1990)−人口増加およびインフレーションのための増加よりもアルコールについて42%高くそして薬物について50%高い。
【0005】
プロテインキナーゼC(PKC)は、多数のシグナル伝達経路に対して中心のリン脂質依存性、セリン−スレオニンキナーゼの多重遺伝子族である。これまで、PKC族の10メンバー、すなわち、イソ酵素が記載されてきており、これらは9つの異なる遺伝子によりコードされる。10のイソ酵素はα−、βI、βII、γ−、δ−、ε−、ζ−、η−、τ−、およびθ−イソ酵素として表示される。Nishizuka、1992、Science 258:607-614;Selbie他、1993、J. Biol. Chem. 268;24296−24302。配列の相同性および生化学的性質に基づいて、PKC遺伝子族は3つのグループに分割された。
【0006】
第1グループ、すなわち、α、β1、β2、およびγイソ酵素は、「従来の」PKCsと表示され、カルシウム、ジアシルグリセロールおよびホルボールエステルにより調節される。第2グループ、すなわち、δ、ε、θおよびηイソ酵素は、「新規な」PKCsと表示され、カルシウム依存性であるが、ジアシルグリセロールおよびホルボールエステル感受性である。最後に、第3グループ、すなわち、ζ、およびτイソ酵素は、「非定型」PKCsと表示され、カルシウム、ジアシルグリセロールおよびPMAに対して不感受性である。さらに、2つの関係するリン脂質依存性キナーゼ、PKCμおよびプロテインキナーゼDは、それらの調節ドメインが新規なPKCsに対して配列相同性を共有し、新しいサブグループを構成する。Johannes他、1994、J. Biol. Chem. 269:6140-6148;Valverde他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:8572−8576。
【0007】
腫瘍促進ホルボールエステルを使用する多数の研究は、PKCが神経分化をモジュレートすること示唆する。例えば、ホルボールエステルはクセノプス(Xenopus)胚における外胚葉から神経組織を誘導し(Otte他、1988、Nature 334:618−620)そしてヒヨコの知覚神経節(Mehta他、1993、J. Neurochem. 60:972−981、Hsu他、1984、Cancer Res. 44:4607−4614)、ヒヨコの毛様体神経節ニューロン(Bixby、1989、Neuron 3:287−297)、いくつかのヒト神経芽細胞腫細胞系統(Pahlman他、1983、Cell Diff. 12:165−170;Spinelli他、1982、Cancer Res. 42:5067−5073)、およびラットPC12細胞(Roivainen他、1993、Brain Res. 624:85−93;Hall他、1988、J. Biol. Chem. 263:4460−4466)から神経突起成長を誘発する。
【0008】
精製されたイソ酵素、キナーゼ欠如突然変異、およびトランスジェニックまたは突然変異細胞系統を使用する研究は、非神経細胞の分化においてPKCα、−β、−δ、−ε、および−ζを関係づけづけた(Berra他、1993、Cell 74:555−563;Goodnight他、1994、Adv. Cancer Res. 64:159-209;Gruber他、1992、J. Biol. Chem. 267:13356-13360;MacfarlaneおよびManzel、1994、J. Biol. Chem. 269:4327-4331;Power他、1992、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:146-151)。クセノプス(Xenopus)胚中のPKCαまたは−βの過剰発現は神経の誘導を増強する(OtteおよびMoon、1992、Cell 68:1021-1029)が、神経の分化を調節する特定のPKCイソ酵素の同定についてほとんど知られていない。
【0009】
最近の証拠は、PKCεが神経の分化および可塑性においてある役割を演ずる。PKCεは主として神経系において発現され、特に海馬、嗅結節;および脳皮質の層IおよびIIの中に豊富に存在する(Saito他、1993、Brain Res. 607:241-248)。免疫反応性ニューロン内において、PKCεはゴルジ装置および軸索およびシナプス前神経末端に局在化する(Saito他、supra)。PKCεは神経の分化を刺激する成長因子、例えば、インスリンにより活性化される(Heidereich他、1990、J. Biol. Chem. 265:15076-15082)およびNGF(Ohmichi他、1993、Biochem. J. 295:767-772)。さらに、発育するヒヨコの脳中で、PKCεは非分割性、分化性ニューロンの中に見出される主要なイソ酵素である(Mangoura他、1993、J. Neurosci. Res. 35:488-498)。
【0010】
神経の分化におけるPKCεの掛かり合いについての他の証拠は、PC12細胞を使用する研究から得られた。PC12細胞を神経堤に由来し、NFGまたは線維芽細胞成長因子で処理するとき、劇的な生化学的および形態学的分化を行い、成熟症候性神経のいくつかの特徴を発現する。Greene他、Culturing Nerve Cells(Banker、G.およびGoslin、K.、編)pp.207-226、MIT Press、マサチュセッツ州ケンブリッジ。PKC活性化ホルボールエステルは、ERK1およびERK2マイトジェン活性化タンパク質(MAP)キナーゼのNGF誘導活性化およびPC12細胞における神経突起成長を増強し、PKCがNGFに対する応答をモジュレートすることを示唆する(Rolvainen他、1993、supra;Hall他、1988、supra;Rolvainen他、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1891-1895)。
【0011】
エタノール処理したPC12細胞を使用する研究は、PKCεがこの効果の原因となることを示唆した。ホルボールエステルと同様に、エタノールはPKC依存的メカニズムを通してNGF誘導MAPキナーゼ活性化および神経突起成長を増加させる(Roivainen他、1993、supra;Roivainen他、1995、supra)。エタノールは、2つのPKCイソ酵素、すなわち、PKCδおよびPKCεのメッセンジャーRNAおよびタンパク質のレベルを増加することによって、PC12細胞におけるPKC仲介リン酸化を促進する(Messing他、1991、J. Biol. Chem. 266:23428-23432;Roivainen他、1994、Toward a Molecular Basis of Alcohol Use and Abuse、pp.29-38)。
【0012】
最近のデータが証明するように、PKCεの過剰発現はNGF誘導MAPキナーゼ活性化および神経突起成長を増強するが、PKCδは増強しない(Hundle他、1995、J. Biol. Chem. 270:30134-30140)。これらの発見は、PKCεを神経突起成長の陽性のモジュレーターとして確立する。また、それらが示唆するように、PKCεはPC12細胞におけるエタノールおよびホルボールエステルの神経突起促進作用を仲介する。
【0013】
PKCεはPC12細胞におけるホルボールエステルおよびエタノールのMAPキナーゼ活性化および神経突起成長の増強を特異的に仲介することを、最近の研究は示唆する。PKC活性化は、細胞の粒子画分中の脂質含有構造への酵素の転位に一般に関連する。詳しくは、PKCεまたはPKCδの第1可変ドメインに由来する、フラグメントεV1またはδV1を安定に発現するPC12細胞系統を使用する研究において、各フラグメントはその対応するイソ酵素のホルボールエステル誘導転位を選択的に阻害し、これらのフラグメントがイソ酵素選択的転位インヒビターとして機能できることを示すことが証明された。NGF誘導MAPキナーゼリン酸化および神経突起成長はεV1を発現する細胞においてホルボールエステルまたはエタノールにより増強されないが、それらはδV1を発現する細胞およびエンプティーベクターでトランスフェクトされた細胞においてこれらの因子により増加される。
【0014】
エタノールへの慢性暴露は、PC12細胞における全PKC活性、高いアフィニティーのホルボールエステルの結合およびPKC仲介リン酸化を増加することが証明された(Messing他、1991、J. Biol. Chem. 266:23428-23432)これは2つのPKCイソ酵素、すなわち、PKCδおよびPKCεについての免疫反応性およびmRNAレベルの選択的増加に関連する(Roivainen他、1994、Protein kinase C and adaptations to ethanol、Toward a Molecular Basis of Alcohol Use and Abuse、Jansson B、J rvall H.、Rydberg U、Terenius L.、およびVallee B.L.、編、Birkhduser Verlag、Basel、pp.29−38)。エタノールはPC12細胞におけるジアシルグリセロールの生成を増加しないか、あるいはラット脳から部分的に精製されたPKCイソ酵素の混合物を使用するin vitroアッセイにおいてPKC活性を変更しない。
【0015】
これらの発見が示唆するように、エタノールへの慢性暴露はPKCδおよびPKCεの発現を増加することによってPKC活性を増加する。さらに、PKCεはPC12細胞における2つのエタノール誘導プロセスに関係づけられることが証明された;第1に、PKCε依存的メカニズムによるPC12細胞におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼおよび神経突起成長のNGF誘導活性をエタノールは増強することが示された(Roivainen他、1993、Brain Res. 624:85-93;Roivainen他、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1891-1895;Messing他、1991、Brain Res. 565:301-311);第2に、PKCε依存的プロセスによるPC12細胞および齧歯類脳におけるN型電圧ゲーテッドCa2+チャンネルの数を増加することを証拠は示唆している(Messing他、Alcoholism Clinical and Experimental Research 22:Abstract S26:2(1998))。
【0016】
神経の可塑性(RobinsonおよびKolb、1998、J. Neurosci. 17:8491-8497)およびCa2+チャンネルの増加(MessingおよびDiamond、1997、Molecular biology of alcohol dependence、The Molecular and Genetic Basis of Neurological Diseases、Rosenberg R.、Prusiner S.、DiMauro S.、およびBarchi R.、編、Butterworth−Heinemann、Boston、pp.1109-1126)の両方は薬物依存症に寄与することがあるので、PKCεは行動モジュレート作用を有することがある。
【0017】
GABA(ガンマアミノ酪酸)は脳における主要な阻害性神経伝達物質であり、そしてGABAAレセプターはレセプターゲーテッド塩化物チャンネルである。GABAが結合すると、これらのチャンネルは開き、塩化物は細胞を出入りすることができる。これは細胞の膜電位を静止膜電位に近い陰性値に保持し、これにより活動電位の発生を防止する傾向がある。ベンゾジアゼピンは不安を減少させるために普通に使用されている薬物の1クラスである。ベンゾジアゼピンは高いアフィニティーで中枢神経系におけるGABAAレセプターに結合する。DeLoreyおよびOlsen、1992、J. Biol. Chem. 267:16747-16750。
【0018】
ペントバルビタールおよびベンゾジアゼピン、例えば、ジアゼパムはGABAAレセプターのチャンネルをアロステリックに調節し、Cl-チャンネルが開いている時間またはGABAに応答してチャンネルが開く確率を増加する(A. Guidotti、M. G. Corda、B. C. Wise、F. Vaccarino、E. Costa、Neuropharmacology 22:1471-9(1983))。GABA依存的神経伝達はこれにより増強される。対照的に、ムシモール(muscimol)はGABAAレセプター上のGABA認識部位に競合的に結合し、内因的GABAに対して独立にCl-伝導性を増強することができる。
【0019】
以前の研究は、GABAAレセプターのPKC調節に関して矛盾する報告を提供した。GABAAレセプターは関係するサブユニットのヘテロペンタマーの複合体であり、それらのいくつかはPKCリン酸化のコンセンサス配列を含有する。Moss、1992、J. Biol. Chem. 267:14470-14476。GABAAレセプターのγ2サブユニットはmRNAのオールタネイトスプライシングにより産生された2つの形態で存在し、そしてPKCリン酸化のユニークコンセンサス部位を含有する、長いスプライス変異型(γ2L)はGABAAレセプターのエタノール感受性に特に要求されることを、いくつかの研究は示唆している(Wafford他、1990、Science 249:291-293;K. A. Wafford、P. J. Whiting、FEBS Letters 313:113-7(1992))。
【0020】
しかしながら、他の研究はこの要件を観測しなかった(W. Marszalec、Y.、Kurata、B.、J.Hamilton、D. B. Carter、T. Narahashi、Journal of Pharmocology and Expermental Therapeutics 269:157-63(1994);E. Sigel、R. Baur、P. Malherbe、FEBS Letters 324:140-142(1993);D. W. Sapp、H. H. Yeh、Journal of Pharmocology and Expermental Therapeutics 284:768-76(1998)、そしてγ2Lを欠如するマウスはエタノールに対して正常の行動および電気生理学的応答を示す(G. E. Homanics、J. J. Quinlan、R. M. Mihalek、L. L. Fireston、Frontiers in Bioscience 3:D548-58(1998))。
【0021】
小脳マイクロサックまたはクセノプス(Xenopus)卵母細胞およびGABAAレセプターサブユニットを発現するヒト腎臓細胞のホルボールエステル治療は、GABAまたはムシモールによりレセプターの活性化を阻害する(B. J. Krishek他、Neuron 12:1081-95(1994);N. J. Leidenheimer、R. A. Harris、Advances in Biochemical Psychopharmacology 47:269-79(1992));S. Kellenberger、P. Malherbe、E. Sigel、The Journal of Biolgical Chemistry 267:25660-25663(1992))。対照的に、PKCの活性触媒ドメインは、繊維芽細胞において発現されるか、あるいはCA1海馬錐体ニューロンの中へマイクロインジェクトされたとき、GABA刺激電流を増強する(P. Poisbeau、M. C. Cheney、M. D. Browning、I. Mody、Journal of Neuroscience 19:674-83(1999);Y. F. Lin、M. D. Browning、E. M. Dudek、R. L. Macdonald、Neuron、1421-1431(1994))。
【0022】
上に論じたように、本発明の以前において、アルコール中毒症、不安、薬物乱用またはGABAAレセプターの機能におけるin vivoのPKCεの役割についてほとんど知られていない。
【発明の開示】
【0023】
アルコール中毒症、不安、薬物乱用、GABAAレセプターの機能、および他のプロセスにおけるPKCεのin vivoの役割を研究するために、本発明者らはPKCεを欠如する突然変異マウスをつくるために相同的組換えによる遺伝子ターゲッティングを使用した。
【0024】
本発明は、なかでも、1)PKCε欠如細胞および非ヒト動物の産生;2)哺乳動物における不安のモジュレーションのためのターゲットとしてPKCイソ酵素ε(PKCε)の同定および使用;3)アルコール消費および他の乱用薬物の自己投与およびアルコールおよび他の薬物の消費の作用をモジュレートするためのPKCεのモジュレーターの使用;4)GABAAレセプターのアロステリックアゴニストによる治療が可能である症状、例えば、不安、嗜癖、禁断症候群、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を治療するために、PKCεのインヒビターを単独で、またはGABAAレセプターのアロステリックアゴニストと組み合わせて使用すること、および5)アルコール中毒症または他の薬物の乱用者となる危険にある個体を同定する診断方法;に関する。
【0025】
本発明は、一部分、PKCε-/-マウスが野生型マウスよりも少ない恐怖および不安を有するという発見に基づく。これが示唆するように、PKCεは不安減少薬物の開発のためのターゲットである。さらに、本発明は、一部分、GABAAレセプター、例えば、エタノール、ペントバルビタールまたはベンゾジアゼピンに作用する薬物を腹腔内注射したとき、PKCε-/-マウスが野生型マウスの2倍長い時間睡眠するという本発明者らの発見に基づく。これらの結果が示すように、PKCε-/-マウスはGABAAレセプターに作用する化合物の鎮静精神機能減退作用に対して過敏性である。こうして、PKCεのインヒビターはGABAAレセプター仲介シグナリングを増強し、GABAAアゴニストが不安緩解薬であるという事実に基づいて、PKCεインヒビターは不安の効力のある抑制薬であると結論することができる。この結論は、PKCε-/-マウスがストレス関連ホルモンの基底レベルを減少し、このようなレベルを増加する事象に引き続いてホルモンのレベルの減少を促進したという観測により支持される。
【0026】
1つの特定の面において、本発明は、PKCεをコードする核酸配列中の崩壊のためにPKCε欠如である動物細胞に関する。したがって、本発明は、PKCεをコードする遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子(アレレ)の中に操作された突然変異を含有する二倍体動物細胞を提供する。本発明の追加の面は、PKCε欠如非ヒトトランスジェニック胚および動物を発生させるための遺伝的に修飾されたPKCε欠如細胞の使用である。本発明の他の面は、PKCε遺伝子中にターゲッテッド崩壊を含んでなり、それゆえ野生型より低いレベルのPKCε活性を産生するPKCε欠如非ヒト、好ましくはマウス、トランスジェニック胚および動物、および子孫である。本発明のPKCε欠如非ヒトトランスジェニック動物は、突然変異したPKCεアレレに対してヘテロ接合性またはホモ接合性であることができる。
【0027】
本発明は、また、不安解消化合物を同定するアッセイに関する。本発明のアッセイは、PKCεの酵素活性を阻害する化合物の同定、およびこのような化合物の単離を含んでなる。本発明は、また、不安をモジュレートする化合物を同定する方法を提供する。この方法は、被検化合物として、PKCε活性をモジュレートする化合物を選択し、被検化合物を被検体に添加して不安の症状がモジュレートされたかどうかを決定することを含んでなる。本発明の他の面は、有効量のPKCεモジュレーターに投与することによって、不安または乱用薬物の消費または作用をモジュレートする方法である。特定の他の面において、本発明は、治療的に有効な量のPKCεの酵素活性を阻害する化合物と、薬学上許容される担体とを含んでなる医薬組成物に関する。さらに、本発明は、このような医薬組成物の投与により不安を治療することに関する。
【0028】
本発明の他の面は、PKCεのモジュレーターを投与することによって、乱用薬物の消費および/またはこのような薬物の作用をモジュレートする方法である。PKCεのインヒビターの投与は、これによりアルコール、バルビツエート、ニコチン、オピエート、または神経刺激薬の消費を減少するであろう。このような薬物の消費の増加は、PKCεのエンハンサーの投与を含む方法の態様から生ずるであろう。
【0029】
本発明の他の面は、PKCεがGABAAレセプターの内因的および非内因的アロステリックアゴニストの選択的モジュレーターとして作用するという発見に基づく。したがって、このようなGABAアルファレセプターのアロステリックモジュレーターによる治療が可能である症状は、本発明の方法により治療することができる。この方法は、プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)を単独でまたはこのようなアロステリックモジュレーター、好ましくはアロステリックアゴニストと組み合わせて投与することを含む。
【0030】
このような治療に適当な症状は、不安、嗜癖、禁断症状、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を包含する。PKCεインヒビターおよびGABAAレセプターのアゴニスト、好ましくはアロステリックアゴニストを含んでなる組成物は、本発明のなお他の面である。本発明の追加の面は、プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)のインヒビターをこのようなアロステリックアゴニストと組み合わせて投与することによって、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの有効投与量を減少する方法である。
【0031】
本発明の追加の面は、薬物の製造におけるPKCεのモジュレーター、例えば、PKCεインヒビターの使用を包含する。このような薬物は、不安、および/または乱用薬物の消費または作用をモジュレートするために使用することができる。PKCεインヒビターを含んでなる薬物は、また、GABAAレセプターのアロステリックモジュレーターによる治療が可能である症状の治療において使用することができる。
【0032】
本発明の他の面は、人が乱用薬物を常用するようになる可能性を予測する診断方法およびキットを包含する。人が乱用薬物の依存性または乱用者となる可能性を決定する好ましい方法は、(1)人からのPKCεを含有するか、あるいはPKCεをコードする核酸を含有する試料を分析して、前記人におけるPKCεの活性または濃度を測定し;(2)乱用薬物依存性に関する既知の特性を有する人の集団から得られた同様な試料について、それぞれ、ある範囲のPKCεの活性または濃度から選択される標準値と前記活性または濃度を比較し;そして(3)PKCεの活性または濃度を前記標準値に関係づけ、ここで統計的に異なる活性または濃度は前記乱用薬物に依存するようになる人または乱用薬物の乱用者の可能性の程度を指示する;を含んでなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
A. 一般的概観
本発明は、下記の面を包含する:1)PKCε欠如細胞および非ヒト動物の産生;2)哺乳動物における不安のモジュレーションのためのターゲットとしてPKCイソ酵素ε(PKCε)の同定および使用;3)アルコール消費および他の乱用薬物の自己投与およびアルコールの消費の作用をモジュレートするためのPKCεのモジュレーターの使用;4)GABAAレセプターのアロステリックアゴニストによる治療が可能である症状、例えば、不安、嗜癖、禁断症状、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を治療するために、PKCεのインヒビターを単独で、またはGABAAレセプターのアロステリックアゴニストと組み合わせて使用すること、および5)アルコール中毒症または他の薬物の乱用となる危険にある個体を同定する診断方法。
【0034】
B. 定義
「薬学上許容される処方物」は、所望の結果を与えかつまた患者に対する潜在的害が患者に対する潜在的利益より大きいことを医師に確信させるために十分な悪い副作用を産生しない方法で、PKCεモジュレーターを投与するために適当な処方物を含んでなる。注射可能な処方物のための基本成分は水ベヒクルである。使用する水は、注射用の無菌水についての米国薬局方の標準規格を満足する純度を有する。有用な水性ベヒクルは、塩化ナトリウム(NaCl)溶液、リンガー溶液、NaCl/デキストロース溶液、およびその他を包含する。PKCεモジュレーターを完全に溶解するために、水混和性ビヒクルもまた有用である。抗菌剤、緩衝剤および酸化防止剤は、必要に応じて、有効である。
【0035】
「有効量」は、所望の結果を生ずる量である。このような有効量は、人毎に、人の症状、体重、年齢、および健康、PKCεを投与するモード、特定の投与するモジュレーター、および他の因子に依存して変化するであろう。結局、特定の組の条件下に特定の患者について有効量を決定することが推奨される。
「PKCεモジュレーター」は、PKCεのインヒビターまたはPKCεのエンハンサーである。
【0036】
「PKCεインヒビター」は、(1)PKCεの発現、修飾、調節、活性化または分解、(2)PKCεの1または複数の正常の機能、または(3)PKCε依存的経路においてPKCεの下流で作用する分子の発現、修飾、調節または活性化、を妨害する分子または分子のグループを含んでなる。PKCεの正常の機能(それらの多くは活性化依存性である)は、基質のリン酸化(すなわち、PKCεの触媒活性)、自己リン酸化、活性化時の1つの細胞内位置から他への動き(すなわち、細胞内転位)、および所定の位置にPKCεを定着する1またはそれ以上のタンパク質への結合またはそれらからの解放を包含する。また、PKCεインヒビターは、また、PKCの他のイソ酵素を阻害することができる。
【0037】
しかしながら、選択的PKCεインヒビターは、他のPKCイソ酵素が有意に阻害されない濃度において、PKCεの1またはそれ以上の正常の機能を有意に阻害する。静電的または化学的相互作用を介してインヒビターがPKCεに結合するとき、インヒビターは「PKCεに直接的に作用する」。このような相互作用は他の分子により仲介されるか、あるいはされないことがある。インヒビターの最も即時の作用がPKCεの発現、活性化または機能化またはPKCεの下流の作用に影響を及ぼすPKCε以外の分子に対するとき、インヒビターは「PKCεに対して間接的に」作用する。
【0038】
「PKCεエンハンサー」は、(1)PKCεの発現、修飾、調節、活性化または分解、(2)PKCεの1またはそれ以上の正常の機能、または(3)PKCε依存的経路においてPKCεの下流で作用する分子の発現、修飾、調節または活性化、を増強する分子または分子のグループを含んでなる。PKCεの正常の機能(それらの多くは活性化依存性である)は、基質のリン酸化(すなわち、PKCεの触媒活性)、自己リン酸化、活性化時の1つの細胞内位置から他への動き(すなわち、細胞内転位)、および所定の位置にPKCεを定着する1またはそれ以上のタンパク質への結合またはそれらからの解放を包含する。また、PKCεエンハンサーは、また、PKCの他のイソ酵素を増強することができる。
【0039】
しかしながら、選択的PKCεエンハンサーは、他のPKCイソ酵素が有意に影響されない濃度において、PKCεの1またはそれ以上の正常の機能を有意に増強することができる。静電的または化学的相互作用を介してエンハンサーがPKCεに結合するとき、エンハンサーは「PKCεに直接的に作用する」。このような相互作用は他の分子により仲介されるか、あるいはされないことがある。エンハンサーの最も即時の作用がPKCεの発現、活性化または機能化またはPKCεの下流の作用に影響を及ぼすPKCε以外の分子に対するとき、エンハンサーは「PKCεに対して間接的に」作用する。
【0040】
化合物または分子は、それが(1)PKCεの1またはそれ以上の正常の機能、または(2)PKCεの発現、活性化または機能化またはPKCεの上流で作用する分子に影響を与える場合、調節または酵素的経路において「PKCεのその活性をモジュレートする」。PKCεの正常の機能(それらの多くは活性化依存性である)は、基質のリン酸化(すなわち、PKCεの触媒活性)、自己リン酸化、活性化時の1つの細胞内位置から他への動き(すなわち、細胞内転位)、および所定の位置にPKCεを定着する1またはそれ以上のタンパク質への結合またはそれらからの解放を包含する。
【0041】
PKCε遺伝子の対立遺伝子(アレレ)中の「操作された突然変異」は、PKCε遺伝子のヌクレオチド配列中の変化を含んでなり、このような変化は(1)このような変化の非存在下に産生される量に関してPKCεタンパク質の量を増加または減少させ、または(2)このような変化の非存在下に正常の機能に関してこのような機能が増強または障害されたPKCεタンパク質を産生する。PKCεの正常の機能(それらの多くは活性化依存性である)は、基質のリン酸化(すなわち、PKCεの触媒活性)、自己リン酸化、活性化時の1つの細胞内位置から他への動き(すなわち、細胞内転位)、および所定の位置にPKCεを定着する1またはそれ以上のタンパク質への結合またはそれらからの解放を包含する。
【0042】
「乱用薬物(drug of abuse)」は、本明細書において定義されるか、あるいはアメリカン・サイキアトリック・アソシエーション(American Psychiatric Association)により公布された現在のDSM基準または同等の基準により定義される、物質依存症または物質乱用の診断を、その過剰の消費または投与が可能とする、物質を含んでなる。乱用薬物は下記のものを包含するが、これらに限定されない:エタノール、神経刺激薬、オピエート、および他の鎮静−精神機能減退薬物。明瞭のため、乱用薬物はヘロイン、コカイン、メタンフェンタミン(metamhphetamines)およびバルビツエートを包含するが、これらに限定されない。
【0043】
「物質依存症」(注1:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、同一の12カ月の期間において任意の時間において起こる、3つの(またはそれより多い)下記の症状により発現される、臨床的に有意な障害または困難に導く、物質使用の順応性のないパターンを含んでなる:
【0044】
(1)下記のいずれかによる定義される、耐性:(a)中毒または所望の作用を達成するための物質の量を顕著に増加することの必要性、または(b)同一量の物質の連続使用による作用の顕著な減少;
(2)下記の症状の発現による、禁断症状(withdrawal):(a)物質について特徴的な禁断症状(特定の物質からの禁断症状についての基準の組の基準AおよびB参照)、または(b)禁断症状を軽減または回避するために、同一(または密接に関係する)物質を取る;
(3)物質をより多い量で取るか、あるいは意図するよりも長い期間にわたって取る;
(4)物質使用を減少または調節するための持続的願望または努力の不成功;
【0045】
(5)物質を得るために必要な活動(例えば、多数回の医師への訪問または長い距離の運転)、物質を使用するために必要な活動(例えば、チェーンスモーキング)、またはその作用から回復するために必要な活動において消費される莫大な時間;
(6)物質使用のために、重要な社会的、職業的、またはレクレーションの活動をあきらめるか、あるいは減少する;および
(7)物質により引き起こされるか、あるいは悪化されるようになる、持続的または再発する身体的または心理学的問題を有することが知られているにもかかわらず、物質使用を続ける(例えば、コカイン誘導鬱病の認識にかかわらず現在のコカインの使用、またはアルコール消費により潰瘍が悪化したという認識にかかわらず連続した飲酒)。
【0046】
「物質乱用(Substance abuse)」(注2:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、12カ月以内に起こる、1つの(またはそれより多い)下記により発現される、臨床的に有意な障害または困難に導く、物質使用の順応性のないパターンを含んでなる:
【0047】
(1)仕事、学校、または家庭における主要な役割の義務を満足することを不可能にする、再発性の物質使用(例えば、物質使用に関係する反復した欠席または仕事実行;物質に関係する欠席、一時的停止、または学校の追放;子供または家族の無視);(2)物質が身体的に危険である状況における反復した物質使用(例えば、物質使用による障害されるとき、自動の運転または機械の操作);(3)反復した物質に関係する法的問題(例えば、物質に関係する無秩序のふるまいについての阻止);および(4)物質の作用により引き起こされるか、あるいは悪化する持続的または反復した社会的または対人関係の問題を有するにかかわらず、連続的物質使用(例えば、中毒、身体的闘争の結果についての配偶者との議論)。
【0048】
「物質中毒(Substance intoxication)」(注3:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、物質の最近の摂取(またはそれに対する暴露)のための可逆的物質特異的症候群の発生を含んでなり、ここで中枢神経系に対する物質の作用(例えば、闘争的性格、気分不安定性、認知障害、判断障害、社会的または職業的機能)のためである、臨床的に有意な順応性のない行動的または心理学的変化が、物質使用の間または直後に発生し、そして一般的医学的状態のためでないか、あるいは他の精神障害によりよく説明されない。
【0049】
「物質禁断症状(Substance withdrawal)」(注4:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、大量でありかつ延長した物質使用の停止(または減少)のための、物質特異的症候群の発生を含んでなり、このような物質禁断症状は仕事の社会的、職業的、または他の重要な領域において、臨床的に有意な困難または障害を引き起こし、そして一般的医学的状態のためでないか、あるいは他の精神障害によりよく説明されない。
【0050】
「アルコール中毒(Alcohol intoxication)」(注5:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、アルコール摂取の間、または直後に発生し、下記の徴候の1つ(またはそれ以上)を伴う、臨床的に有意な順応性のない行動的または心理学的変化(例えば、不適切な性的または攻撃的行動、気分不安定性、判断の障害、社会的または職業的機能の障害)を含んでなる:(1)不明瞭言語、(2)協調不能、(3)不安定歩行、(4)ナイスタギヌス(nystaginus)、(5)注意または記憶の障害、または(6)昏迷または昏睡、ここで症候群は一般的医学的状態のためでないか、あるいは他の精神障害によりよく説明されない。
【0051】
「アルコール禁断症状(Alcohol withdrawal)」(注6:定義の由来:American Psychiatric Association、Diagnostic Criteria for DSM-IV、ワシントンD.C.、APA、1994)は、大量の延長したアルコール使用使用の停止(または減少)後、数時間〜数日以内に発生し、一般的医学的状態のためでないか、あるいは他の精神障害によりよく説明されず、そして仕事の社会的、職業的、または他の重要な領域において、臨床的に有意な困難または障害を引き起こす、下記の症候の2つ(またはそれ以上)により特徴づけられる症状を含んでなる:(1)自律神経性活動過剰(例えば、発汗または100より大きい脈拍数)、(2)手の振せん不眠の増加、(3)不眠、(4)悪心または嘔吐、(5)一過性視的、触覚的または聴覚的幻覚または錯覚、(6)神経運動性動揺、および(8)大発作急発作。
【0052】
「乱用薬物の作用」は、乱用薬物の投与の結果としておよびその投与後の合理的時間内に起こる、生化学的または行動的変化を含んでなる。乱用薬物およびその投与した量に依存して、異なる作用を期待することができる。例えば、低い投与量のエタノールの作用は歩行活性化を包含するが、高い投与量の作用はアルコール中毒の症候を包含する。
【0053】
「GABAAレセプターのアロステリックアゴニストによる治療が可能である症状」は、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの投与が食物および薬物の投与(the Food and Drug Administration)により承認されているか、あるいは医学的文献において推奨または承認されている任意の適用を含んでなる。REMINGTON:THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY、第19版(1995)は、このような適用に関する情報源の1つである。GABAAレセプターのアロステリックアゴニストによる治療が可能である症状は、不安、嗜癖、禁断症状、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を包含するが、これらに限定されない。
【0054】
人が免許医師または他の適当な認定された医学的職員によりこのような乱用薬物に関する物質依存症についての基準を満足すると決定される場合、このような人は「乱用薬物に依存性」である。
人が免許医師または他の適当な認定された医学的職員によりこのような乱用薬物に関する物質乱用についての基準を満足すると決定される場合、このような人は「乱用薬物の乱用者」である。
以上の定義において述べた特定の項目は、本発明の好ましい態様を表す。
【0055】
C. PKCε-/-動物の形成およびキャラクタリゼーション
1つの態様において、本発明は、PKCεをコードする核酸配列中の破壊のためにPKCε欠如である動物細胞に関する。他の態様において、本発明は、PKCε欠如非ヒトトランスジェニック胚および動物を発生させるための、遺伝的に修飾されたPKCε欠如細胞の使用に関する。再び他の態様において、本発明は、PKCε遺伝子中にターゲッテッド破壊を含んでなり、それゆえ野生型レベルより低いPKCε活性を産生する、PKCε欠如非ヒト、好ましくはマウス、トランスジェニック胚および動物に関する。本発明のPKCε欠如非ヒトトランスジェニック動物は、突然変異したPKCεアレレに対してヘテロ接合性またはホモ接合性であることができる。
【0056】
本発明の1つの面は、PKCε欠如細胞、およびPKCε欠如非ヒト動物の産生に関する。本発明に包含される非ヒトトランスジェニック動物は、一般に、PKCεまたはPKCε相同体をコードする、任意の脊椎動物、好ましくは哺乳動物を包含する。このような非ヒトトランスジェニック動物は、例えば、トランスジェニックブタ、トランスジェニックラット、トランスジェニックウサギ、トランスジェニック畜牛、トランスジェニックヤギ、およびこの分野において知られている他のトランスジェニック動物種、特に哺乳動物種を包含することができる。さらに、ウシ、およびブタ種、齧歯類族の他のメンバー、例えば、ラット、ならびにウサギおよびモルモットおよび非ヒト霊長目、例えば、チンパンジーを使用して、本発明を実施することができる。特に好ましい動物はラット、ウサギ、モルモット、最も好ましくはマウスである。
【0057】
本発明の他の面は、PKCεをコードする遺伝子の少なくとも1つのアレレの中に操作された突然変異を含んでなる二倍体動物細胞、および1またはそれ以上のこのような細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物を包含する。好ましい態様は下記のものを包含する:細胞が操作された突然変異に対してホモ接合性である;細胞がマウス胚幹細胞である;細胞が前記突然変異に対してホモ接合性である胚繊維芽細胞である;トランスジェニック動物がこのような突然変異を有する生殖細胞系統の細胞を含有する;およびこのような突然変異が野生型よりも低いまたは高いPKCε活性を有する突然変異細胞を生ずる。
【0058】
より低いレベルを使用して、PKCεタンパク質の機能をさらに特性決定し、そしてそれが相互作用する、内因的および非内因的である両方の、PKCεと同一経路における分子を包含する、他の分子を同定することができる。増強されたレベルのPKCε活性を有する細胞または動物を使用して、このようなPKCε活性を阻害または損なう能力について分子を同定および/または試験することができる。欠失突然変異である操作された突然変異は、特にこのような突然変異がPKCεをコードする配列の少なくとも約1,200塩基のヌクレオチドを欠失するとき、好ましい。
【0059】
PKCεをコードする遺伝子の少なくとも1つのアレレの中に操作された突然変異を有する細胞を含んでなり、かつ先祖(前の世代からの直接的関係)としてこのような操作された突然変異を有する1またはそれ以上の細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物を有する、胚、幼若体および成体動物は好ましい;このような胚および動物は時には非ヒトトランスジェニック動物の「子孫」または「それに由来する」と呼ばれる。子孫の細胞のすべてまたはほとんどすべてについて、突然変異PKCε遺伝子に対してホモ接合性であることが特に好ましい。なおより好ましくは、このような細胞がホモ接合性である突然変異は欠失突然変異である。
【0060】
本発明の好ましい態様は、PKCε遺伝子の2つの染色体アレレを含有する二倍体マウス細胞、マウス胚、およびマウスを包含し、ここで少なくとも1つのPKCεアレレは突然変異を含有し、前記細胞は野生型より低いレベルのPKCε活性を産生する。神経系、およびエタノール嗜癖におけるPKCεの示唆された役割に基づいて、PKCε欠如動物および細胞は、なかでも、実験モデル、例えば、行動、神経学的応答およびエタノール嗜癖、発癌性、心臓機能、虚血、および細胞成長を研究するための実験モデルとして有用であると考えられる。
【0061】
PKCε-+-およびPKCε-/-細胞および動物を発生させるために使用できる、種々の方法、ベクター合成および他の道具はこの分野において知られている。例えば、下記の文献を参照のこと:Joyner AJ、編、Gene Targeting。The Practical Approach Series、Richwood D.およびFlames B.D.、編、1993、IRL Press:New York。
一般に、ターゲット遺伝子、すなわち、PKCε中の突然変異、またはターゲッテッド破壊は、この分野においてよく知られている多数のよく確立された突然変異の任意のものを使用して操作することができる。好ましくは、突然変異は欠失突然変異であるが、置換突然変異および/または挿入突然変異は本発明の範囲内に含まれる。
【0062】
置換突然変異は、部位特異的突然変異誘発により生成することができる。部位特異的突然変異誘発において、PKCεタンパク質の不完全産生、またはPKCε活性を欠如する突然変異タンパク質の産生を生ずるように、ターゲット遺伝子の5'末端付近に停止コドンまたは他の突然変異を導入する。
同様に、挿入突然変異は、PKCε遺伝子中の好都合な制限部位、例えば、エクソン制限部位またはPKCε遺伝子のエクソン配列決定および制限マッピングにより容易に同定できる他の部位の任意の部位を利用することによって、PKCε遺伝子内に導入することができる。
【0063】
挿入または他の突然変異を導入する他の方法は、下記の文献に記載される方法に類似する方法を使用して、PKCε遺伝子座の中に組込まれるレトロウイルスを感染させ、これにより突然変異したPKCεアレレをつくることから成る:von Melcher他、1992、Genes and Development 6:919-927。
PKCε欠如細胞を単離する別法は、ウイルス配列が挿入された遺伝子を不活性化する統合されたウイルス(通常レトロウイルスまたはアデノ関連ウイルス)配列を組込むように処理されたES細胞のライブラリーをスクリーニングする方法である。いったん単離されると、PKCε欠如ES細胞を使用してトランスジェニック動物を発生させることができる。
【0064】
欠陥PKCεアレレが生ずる可能性が多くなるように、本発明の突然変異はPKCεをコードするDNA配列の一部分を欠如することが好ましい。PKCεのコーディング領域は2721bpであり、709アミノ酸に対応する。Ono他、1988、J. Biol. Chem. 263:6927-6932。PKCεタンパク質の適切なフォルディングまたは基質の結合が防止されるように、PKCε遺伝子のコーディング領域からDNAフラグメントを排除することによって、欠失突然変異を生成することができる。欠失のサイズは変化可能であるが、一般に、より大きい欠失はPKCε活性の欠陥を生ずる可能性がより高いので、より大きい欠失はより小さい欠失よりも好ましい。
【0065】
あるいは、コーディング領域から1つの塩基対または2つの塩基対(または3で割ることのできない任意の数の塩基対)を欠失することによって、PKCεタンパク質を変更するフレームシフトの突然変異を発生させることができる。後者の場合において、ポリペプチドの合成はフレームシフトが導入された停止コドンのために妨害されるので、トランケートポリペプチドを生成することができる。なお、PKCε遺伝子のコーディング領域の単一塩基対の変化はまた突然変異であり、この突然変異は、アミノ酸変化を生ずる場合、PKCεタンパク質の適切なフォルディングを変更し、これによりPKCε欠如をつくることができる。そのように発生した単一アミノ酸変化は、また、その基質に対するPKCεのアフィニティーを変更し、これによりPKCε活性を欠如させることができる。
【0066】
他の別法は、PKCεメッセンジャーRNAの適切なスプライシングを実現する欠失または他の突然変異をPKCε遺伝子の非コーディング領域の中に発生させることである。このような突然変異は、野生型PKCεmRNA中に通常存在する全体のエクソンまたはいくつかのエクソンを欠如する、突然変異PKCε転写物を効果的につくるであろう。
【0067】
他の別法は、非コーディング調節領域を欠失させて、PKCε遺伝子の発現を減少させることである。欠失の好ましいサイズは、遺伝子の5'末端付近において約数百ヌクレオチドである。好ましくは、このような欠失は3で均一に割ることができない数のヌクレオチドをコーディング領域から排除し、これによりその上フレームシフトの突然変異をつくる。あるいは、PKCε遺伝子の転写を損なうプロモーター配列を欠失または変更することができる。
【0068】
また、アンチセンスRNAトランスジーンを使用して、特定の遺伝子の発現を部分的または完全にノックアウトすることができる。下記の文献を参照のこと:HeleneおよびToulme、1990、Biochimica Biophys. Acta 1049:99;Pepin他、1991、Nature 355:725、StoutおよびCaskey、1990、Somat. Cell Mol. Genet. 16:369;Munir他、1990、Somat. Cell Mol. Genet. 16:383。
【0069】
一般に、アンチセンスポリヌクレオチドは本発明の目的に対してPKCε遺伝子の配列の一部分に対して相補的である。相補的アンチセンスポリヌクレオチドはアンチセンスRNAを含み、このようなアンチセンスRNAは個々のmRNAに特異的にハイブリダイゼーションし、そしてmRNA種の転写および/またはRNAプロセシングおよび/またはコードされたポリペプチドの転写を妨害または防止することができる(Ching他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:10006-10010;Broder他、Ann. Int. Med. 113:604-618;Loreau他、FEBS Letters 274:53-56;Holcenberg他、WO91/11535号;WO91/09865号;WO90/04735号;WO90/13641号;およびEP386563号)。
【0070】
アンチセンス配列は、細胞中の1またはそれ以上のターゲット遺伝子配列に対して実質的に相補的である、少なくとも約15隣接ヌクレオチド長さ、典型的には少なくとも20〜30ヌクレオチド長さ、好ましくは約30より大きいヌクレオチド長さのポリヌクレオチド配列である。いくつかの態様において、アンチセンス配列は相補的ターゲット配列に比較して置換、付加、または欠失を有するが、特定のハイブリダイゼーションが保持されるかぎり、ポリヌクレオチドは一般に遺伝子発現のアンチセンスインヒビターとして機能するであろう。
【0071】
好ましくは、アンチセンス配列は内因的PKCεターゲット遺伝子配列に対して相補的である。ある場合において、PKCεターゲット領域配列に対応するセンス配列は、特に転写を妨害することによって、発現を抑制する機能することができる。あるいは、アンチセンスポリヌクレオチドは一般に転写後のレベルにおいてPKCε発現を抑制するであろう。
アンチセンスポリヌクレオチドが細胞中の1またはそれ以上のポリペプチドの産生を阻害することが与えられると、それらはPKCεタンパク質を産生する非ヒトトランスジェニック動物の能力をさらに変更することができる。
【0072】
アンチセンスポリヌクレオチドはトランスジェニック多能性胚幹細胞の中に挿入された異種発現カセットから産生されることができ、これは引き続いて現在記載したPKCε欠如動物を発生させるために使用することができる。特定の条件下にまたは胚発生の特定の相において主として、またはもっぱら活性であるプロモーター因子の制御下にアンチセンスポリヌクレオチドの発現が配置される場合、ターゲット遺伝子の発現を選択的に抑制することが可能である。ターゲット領域配列は、特に転写を妨害することによって、発現を抑制するように機能することができる。あるいは、アンチセンスポリヌクレオチドは一般に転写後のレベルにおいてPKCε発現を抑制するであろう。
【0073】
アンチセンスポリヌクレオチドが細胞中の1またはそれ以上のポリペプチドの産生を阻害することが与えられると、それらはPKCεタンパク質を産生する非ヒトトランスジェニック動物の能力をさらに変更することができる。
【0074】
アンチセンスポリヌクレオチドはトランスジェニック多能性胚幹細胞の中に挿入された異種発現カセットから産生されることができ、これは引き続いて現在記載したPKCε欠如動物を発生させるために使用することができる。特定の条件下にまたは胚発生の特定の相において主として、またはもっぱら活性であるプロモーター因子の制御下にアンチセンスポリヌクレオチドの発現が配置される場合、ターゲット遺伝子の発現を選択的に抑制することが可能である。
【0075】
本発明の遺伝子修飾動物細胞は、この分野においてよく知られているいくつかの技術の任意のものにより調製することができる。特に、米国特許第5,464,764号(CapecchiおよびThomas、1995年11月7日発行、引用することによって本明細書の一部とされる)において教示されているものに概念的に類似する技術を使用することができる。一般に、PKCε欠如細胞は下記の工程を使用して操作することができる:
【0076】
(1)相同性領域と呼ぶ互いに対して5'→3'の向きである、マウスPKCε遺伝子またはゲノム遺伝子座の2つの領域に隣接した(flanked)、クローニングベクターと、少なくとも1つの正に選択可能なマーカー(正の選択マーカー)を含有するDNAフラグメントと、を含んでなるターゲッティングベクターを構築する;
(2)ターゲッティングベクターの中に、相同性領域の1つに隣接して負に選択可能なマーカー(負の選択マーカー)を含める。この負に選択可能なマーカーは、PKCε遺伝子の一部分を欠失させる所望の相同的組換え事象を回復する可能性を増加することができるが、それは不必要である。
【0077】
(3)工程(2)のターゲッティングベクターでPKCε+/+マウス細胞をトランスフェクトする;
(4)工程(3)の生ずるトランスフェクトされたマウス細胞中の1またはそれ以上の前記マーカーについてスクリーニングまたは選択する;そして
(5)1またはそれ以上の前記正の選択マーカーを含有または発現するが、1またはそれ以上の前記負の選択マーカーを発現しないことが見出される、工程(4)における細胞からPKCε欠如マウス細胞についてスクリーニングする。
【0078】
工程(1)のターゲッティングベクター中に存在しなくてはならない正確なPKCε遺伝子または遺伝子座配列は、欠失のために選択した配列、および(2)欠失突然変異の操作において使用すべき制限ヌクレアーゼに依存する。
【0079】
本発明において使用する特定の正および負の選択マーカーは、本発明の実施において決定的ではない。好ましい正および負の選択マーカーは、米国特許第5,464,764号の表1に列挙されている。正の選択マーカーは相同性領域の間に位置すべきであり、そして使用する場合、負のマーカーは相同性領域の外側に位置すべきである。相同性領域は、一般に、互いに関して同一の5'→3'向きにベクター中に存在すべきである。逆に、正および負の選択マーカーの相対的向きは決定的ではない。事実、負の選択マーカーの存在がターゲッテッドクローンについての選択を改良できるが、負の選択マーカーを含むことは実際に不必要である。
【0080】
好ましくは、正の選択マーカーは遺伝子修飾をターゲットとする細胞において発現される。選択可能なマーカーをコードするDNA配列が配列を発現する細胞に正または負の表現型の特徴を与えることができる場合、正および/または負の選択マーカーはトランスフェクトされた細胞において機能的であると考えられる。一般に、マーカーはマーカーの発現をモジュレートする調節配列に作用可能に連鎖されているであろう。核酸マーカーは、他の核酸配列と機能的関係に配置される場合、「作用可能に連結」されている。例えば、プロモーターまたはエンハンサーが配列の転写に影響を与える場合、それはコーディング配列に作用可能に連結されている。転写調節配列に関すると、作用可能に連結されたは、連結されるDNA配列が隣接していることを意味する。
【0081】
さらに、正の選択マーカー遺伝子を機能的とする手段は本発明にとって決定的ではない。統合された正の選択マーカーを含有しないか、もしくは発現しない細胞を殺すか、又はそうでなければ選択する適当な因子に細胞を暴露させることによって、正の選択は達成される。正の選択マーカー遺伝子はその発現を推進するプロモーターを有するか、あるいはターゲット遺伝子座において正の選択マーカーと転写因子を並列することによってそれを推進することができる。後者の遺伝子の体制化は、転写因子がトランスフェクトされた細胞において活性であることを必要とする。
【0082】
相同性領域において使用するDNAはPKCε遺伝子座からのゲノムDNA、またはPKCε遺伝子座を隣接する配列に由来すべきである。マウス遺伝子をターゲットとする場合、DNAが由来するマウス系統は重要ではなく、それは細胞が遺伝子転移についてターゲットとされるときのマウス系統と同一であることが好ましいであろう。遺伝子のターゲッティングを実行する細胞に対して同質遺伝子的であるDNAを相同領域において使用すると、遺伝子のターゲッティングを達成する効率を増大することができる。
【0083】
相同性領域はマウスDNAのゲノムライブラリーに由来することができ、これは種々のライブラリーベクター、例えば、ラムダファージベクター、コスミドベクター、プラスミドベクター、p1ファージベクター、酵母人工的染色体ベクター、または他のベクターの中にクローニングすることができる。ターゲッティングベクターにおいて使用すべき相同性領域は、また、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用してゲノムDNAから直接的に誘導することができる。この方法は、発表されたPKCε遺伝子の配列、またはフランキング配列についての多少の知識を有することに頼る。そのように誘導された相同性領域は、ターゲッティングベクターの中に直接的にサブクローニングすることができるであろう。
【0084】
記載したターゲッティングベクターの構築に使用する特定のクローニングベクターは、なかでも、正の選択マーカー遺伝子により分離されたPKCε相同性の2つの領域を一般に含有するであろう。必要に応じて、相同性領域をフランキングする領域のいずれか、または両方の中に、また、負の選択マーカーは含めることができる。いずれの場合においても、使用する特定のクローニングベクターは、選択的特性、例えば、薬物耐性をコードする遺伝子を含有するかぎり、決定的ではない。
【0085】
適当なクローニングベクターの例は下記のものを包含するが、これらに限定されない:pBR322およびpBR322をベースとするベクター(Sekiguchi、1983)、pMB9、pBR325、pKH47(Bethesda Research Laboratoies)、pBR328、pHC79、ファージCharon 28(Bethesda Research Laboratoies、Boehringer Mannheim Biochemicals)、pKB11、pKSV-10(P-L Biochemicals)、pMAR420(Otsuka、1981)およびオリゴヌクレオチド(dg)テイルド(tailed)pBR322(Bethesda Research Laboratoies)、pBluescriptまたは同様なプラスミド(Stratagene)、puc19または同様なプラスミド(New England Biolabs)。
【0086】
あるいは、正の選択マーカー遺伝子および任意の隣接負の選択マーカーにより分離されたPKCε相同性の2つの領域を含んでなるターゲッティングベクターは、他のクローニングベクター、例えば、ラムダファージベクター、コスミドベクター、プラスミドベクター、p1ファージベクター、酵母人工的染色体ベクター、または他のベクターの中にクローニングすることができる。他の意見は、PCRにより、かつ互いに関して相同領域の適切な向きを保証する結合のための制限エンドヌクレアーゼ部位を選択することによって各成分をその適切な位置に単に結合することによって、ターゲッティングベクターの成分を合成的に製造すること、および正の選択マーカーが相同性領域の間に確実に位置させることである。いったん構築されると、この「ターゲッティングカセット」を適当なベクター、例えば、前述のベクターの中に配置するか、あるいは広範な種類のウイルスベクター(アデノウイルス、乳頭腫ウイルス、レトロウイルス、アデノ関連ウイルス、およびその他)の中に配置することができる。
【0087】
本発明のターゲッティングベクターの成長に使用する特定の宿主は決定的ではない。このような宿主の例は、大腸菌(E. coli)K12RRI(Bolivar他、1977);大腸菌(E. coli)K12HBIOI(ATCC No. 33694);大腸菌(E. coli)MM21(ATCC No. 336780);および大腸菌(E. coli) DHI (ATCC No. 33849)である。本発明において好ましい宿主はDH5α(Life Technologies)。同様に、別のベクター/クローニング系、例えば、大腸菌(E. coli)またはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、または両方において成長するターゲッティングベクター、またはバシラス・サチリス(B. subtilis)において成長するプラスミドベクター(Ure他、1983、Methods in Enzymology″Recombinant DNA″、vol. 101、Academic Press、NY)を使用することができる。
【0088】
本発明において突然変異した特定のマウス細胞は決定的ではないが、好ましくは前駆体多能性細胞である。前駆体という用語は、多能性細胞が本発明に従い製造される所望のトランスフェクトされた多能性細胞の前駆体であることを意味する。多能性細胞をin vivoで培養して突然変異マウスを産生することができる(Evans他、1981、Nature 292:292-156)。本発明において使用できるマウス細胞の例は、胚幹(ES)細胞(好ましくはES細胞の一次分離株)、例えば、AB1またはA132.1を包含する。ES細胞の一次分離株は、例えば、一般にEK.CCE細胞系統またはES細胞について記載されているように、胚から直接的に得ることができる。
【0089】
本発明において使用する特定の胚幹細胞は決定的ではない。胚幹細胞の例は、AB2.1、hprt-細胞系統、AB1、hprt+細胞系統である。
ES細胞は、下記の文献に記載されているように、ストロマ細胞、例えば、STO細胞および/または一次胚繊維芽細胞上で培養することが好ましい;Rovertson、1987、″Teratocarcinomas and embryonic stem cells;a practical approach″、E. J. Robertson、編(Oxford:IRL Press)、pp. 71−112。ストロマ(および/または繊維芽)細胞は、異常なES細胞のクローナル発芽後成長を減少する働きをする。ある場合において、白血球阻害因子の存在下にES細胞を培養することが好ましいが、それは決定的ではない(Gough他、1989、Reprod. Fertil. Dev.:281;Yamagouchi他、1989、Science 246:1412)。
【0090】
本発明のPKCε欠如マウスを得るために、下記の文献に記載されているように、突然変異胚幹細胞をマウス芽細胞の中に注入する:Bradley、1987、″Teratocarcinomas and embryonic stem cells;a practical approach″、E. Robertson、編(Oxford:IRL Press)、pp. 113-151。
本発明において使用する特定のマウス芽細胞は決定的ではない。適当な芽細胞の例は、C57BI-6マウス、C57BL6AIbino、Swiss異系交配、CFLP、MFIまたは他のマウスに由来するものを包含するが、これらに限定されない。
【0091】
本発明の特定の態様において、戦略はすべてのエクソンIおよび下流のイントロン配列の一部分を包含する、マウスPKCεのゲノムDNA配列の1.2kbを「ノックアウト」するターゲッティングベクターをつくるように設計された。ターゲッティングベクターをつくるために、831bpのフラグメント(ヌクレオチド470−1282)をマウスPKCε cDNA(Schaap他、1989、FEBS Lett. 243:351-357)からPCRにより増幅した。このフラグメントを使用して、ラムダFIX 11 129マウス肝臓ゲノムライブラリー(Stratagene #946308)をスクリーニングした。
【0092】
2つの13kbおよび15kbのオーバーラッピングゲノムクローンを選択し、pBluescript 11 SK+(Stratagene)のNod部位の中にサブクローニングした。クローンをBamHIおよびEcoRI制限酵素で消化し、フラグメントをpBluescript 11 SK+の中にサブクローニングした。サブクローンを20種類の酵素で制限消化してゲノム地図を構成することによって、分析した。いくつかのクローンを使用して、ATG開始コドンから5'の配列の1700bpを同定した。PKCε-/-動物を発生させ、このような動物を特性決定する好ましいアプローチは実施例に記載されている、下の節VI.B参照。
【0093】
D. PKCε活性を阻害する化合物を同定するアッセイ
本発明のPKCε-/-マウスは、約60日齢の同腹子野生型対照に比較して、正常の体重を有し、2週の期間にわたって食べ、飲んだ。同様に、PKCε-/-マウスは、1日3回の1時間の試験の間に、野生型対照に比較して、正常の自発的歩行行動および新奇な環境に対する馴化を示した。PKCε-/-マウスは正常の全般的歩行行動を示したが、それ以上の分析において、オープンフィールドの活動、新奇な物体の探索、および高いプラス迷路の動作の特定の測度について、野生型対照と有意に異なることが示された。
【0094】
例えば、PKCε-/-マウスは、移動距離の2倍の増加、およびオープンフィールドの中心領域における静止に消費した時間の3倍の増加を示した。これらの両方の発見は、突然変異マウスにおける不安レベルの減少と一致する。PKCε-/-マウスは、また、新奇な物体をオープンフィールドの中心に配置したとき、探索行動の2倍の増加を示し、これはまた不安レベルの減少を示唆する。そのうえ、高いプラス迷路、すなわち、不安のよく規定された試験において試験したとき、PKCε-/-マウスは、対照に比較して、2倍の移動距離、訪問時間、歩行時間、およびオープンアームにおける静止時間を示した。
【0095】
最後に、PKCε-/-マウスは、野生型マウスよりも、低い基底レベルのストレスホルモン、すなわち、コルチコステロンおよびアドレノコルチコトロピックホルモン(ACTH)を有し、そして、ストレスのある事象は突然変異マウスおよび野生型マウスの両方においてコルチコステロンのレベルを増加させるが、コルチコステロンは突然変異マウスにおいて野生型マウスよりもいっそう急速に基底レベルに戻る。これらのデータが明瞭に証明するように、PKCεは不安の調節において重要な役割を演じ、そしてPKCεインヒビターは、レシピエントを不活発としないで、あるいはそうでなければ環境刺激に対する適切な応答を不能としないで、不安を低下させる。
【0096】
GABAAレセプターはエタノールの鎮静作用を仲介することが広く知られている(AllanおよびHarris、1987、Pharmacol. Biochem. Behav. 27:665-670;MehtaおよびTicku、1988、J. Pharmacol. Exp. Ther. 246:558-564)。しかしながら、エタノールの作用に対するGABAAレセプターの感受性とプロテインキナーゼCイプシロン(PKCε)イソ酵素との間の関係はよく定められていない。本発明のPKCε-/-動物は、エタノール誘導立直り反射の喪失(LORR)の開始および期間により測定して、PKCεイソ酵素がエタノールの鎮静作用の仲介に関係するかどうかを決定するために適したモデルである。
【0097】
その目的で、PKCε-/-マウスおよび野生型マウスに3つの投与量のエタノール(3.2、3.6、および4.0g/kg)を腹腔内注射し、次いでLORRの潜伏期および期間を測定した。すべてのマウスはLORR期間の投与量依存的増加を示した。PKCε-/-マウスは野生型対照よりも有意に高いLORR期間を有することが見出された。この作用がGABAAレセプター活性の変化により仲介されるかどうかを決定するために、鎮静投与量のGABAAアゴニストペントバルビタールの作用を試験した。PKCε-/-マウスはペントバルビタールの鎮静作用に対して2倍大きい感受性を示した。これが示唆するように、PKCεはGABA作動(GABA-ergic)メカニズムを通してエタノールの鎮静作用を仲介する。
【0098】
本発明は、一部分、野生型マウスと比較したとき、PKCε-/-マウスはより少ない恐怖および不安を示すという本発明者らの発見に基づく。詳しくは、野生型同腹子に比較して、PKCε-/-マウスは歩行活動を増加させ、そしてオープンフィールドの中心においてより多い時間を消費することが発見された。PKCε-/-マウスは、また、野生型マウスよりもいっそう広範に新奇な物体を探索する。高いプラス迷路上で、雄マウスは迷路のオープンアーム上で2倍長い時間を消費した。これらの結果が示唆するように、野生型マウスよりも、PKCε-/-マウス、特に雄はより少ない恐怖および不安を有する。
【0099】
他の態様において、本発明は不安解消化合物を同定するアッセイに関する。本発明のアッセイは、PKCεの酵素活性を阻害する化合物の同定、およびこのような化合物単離を含んでなる。このような化合物の存在および非存在においてPKCε活性を比較し、このような化合物を被検体に添加し、被検体がより少ない不安を感ずるようになるかどうかを決定することによって、このような化合物を同定することができる。追加の面において、本発明は、治療的に有効量のPKCεの酵素活性を阻害する化合物と、薬学上許容される担体とを含んでなる医薬組成物に関する。再びそれ以上の面において、本発明は、PKCεの酵素活性を阻害する化合物と、薬学上許容される担体とを含有する医薬組成物を投与することによって、不安を治療することに関する。このような医薬組成物は、さらに、治療的に有効量のGABAAアゴニスト、好ましくはGABAAレセプターのアミノ酸、より好ましくはベンゾジアゼピンを含む。
【0100】
さらに、本発明は、一部分、PKCε-/-マウスはGABAAレセプターに作用する化合物の鎮静精神機能減退作用に対して過敏性であるという本発明者らの発見に基づく。詳しくは、アルコールに関係する行動の研究において、GABAAレセプターに作用する薬物、例えば、エタノール、ペントバルビタールまたはジアゼパムの鎮静投与量を腹腔内注射するとき、突然変異マウスは野生型マウスの2倍長い時間の間睡眠することが示される。オープンフィールドおよび高いプラス迷路のデータと一緒に、これらの発見が示唆するように、PKCεの阻害はGABAAレセプター仲介シグナリングを増強する。GABAAアゴニストは不安解消性であるので、PKCεインヒビターは不安に対して抑制作用を有し、GABAAレセプターまたはそのシグナリング経路に作用する不安解消薬物の作用を増強することを期待することができる。
【0101】
不安のサプレッサーおよびGABAAレセプターのインヒビターの不安解消作用のエンハンサーとしてのPKCεインヒビター
本発明により明らかにされるように、PKCεはヒトおよび非ヒト動物を包含する動物の不安の調節に関係づけられる。それ自体、PKCε活性のモジュレーターは非ヒトおよびヒト哺乳動物を包含する、必要とする被検体における不安をダウンレギュレートまたはアップレギュレートするための因子として有用であろう。PKCε活性を増強するアゴニストは酵素作用をアップレギュレートする有効な因子であるが、PKCε活性を阻害するアンタゴニストは被検体における不安を抑制する有効な因子である。本発明は、PKCεアゴニストおよびアンタゴニストとして作用する両方の化合物を同定するアッセイ、およびこのようなアッセイにより同定された化合物を包含する。
【0102】
特定の実施態様において、本発明は、PKCεを阻害する化合物の同定、および同定された化合物に関する。治療的に有効量のこのような同定されたPKCεインヒビターは、不安、例えば、下記のものを包含する不安の障害ような症状を治療するための医薬組成物の製造に使用される:恐慌障害(例えば、広所恐怖症を伴わない恐慌障害、広所恐怖症を伴う恐慌障害)、恐慌障害の病歴を伴わない広所恐怖症、特定の恐怖、社会的恐怖、強迫−強制障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、一般化不安障害、物質誘導不安障害、またはそうでなければ特定しなかった不安障害。このような医薬組成物は、不安症候の改善を必要とする被検体に投与することができる。
【0103】
1つの態様において、医薬組成物は治療的に有効量のPKCε阻害化合物と、薬学上許容される担体とを含んでなる。これらの医薬組成物は不安の治療を必要とする被検体に投与することができる。このような医薬組成物は、GABAAアゴニストを使用する不安の治療を超えた重要な利点を有する。詳しくは、不安の治療に現在使用されているGABAAアゴニストと対照的に、非常に覚醒しておりかつ活動的であり、ストレスのある事象に対して適当に応答する、本発明のPKCε-/-マウスの表現型により証明されるように、PKCεインヒビターは治療される被検体に対して鎮静作用を示さない。それ自体、本発明の医薬組成物は鎮静副作用を示さないで不安の治療を可能とする。
【0104】
他の態様において、本発明は、治療的に有効量のPKCεインヒビターおよびGABAAアゴニストと、薬学上許容される担体とを含んでなる医薬組成物に関する。PKCεアンタゴニストおよびPKCεアゴニストの両方を含んでなる医薬組成物は、GABAAアゴニストの不安減少作用の増強を望む場合、重度の不安の症候の治療に特に有効である。
【0105】
1つの面において、本発明は、PKCε活性をモジュレートおよび/または妨害する、好ましくは阻害する化合物を同定するアッセイに関する。このような化合物は、不安、例えば、下記のものを包含する不安の障害ような症状を治療するための医薬組成物の発生に使用される:恐慌障害(例えば、広所恐怖症を伴わない恐慌障害、広所恐怖症を伴う恐慌障害)、恐慌障害の病歴を伴わない広所恐怖症、特定の恐怖、社会的恐怖、強迫−強制障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、一般化不安障害、物質誘導不安障害、またはそうでなければ特定しなかった不安障害。アッセイの2つの一般的型は好ましい。一方において、アッセイはPKCεの酵素活性を変更する化合物を同定するように設計することができる。他方において、アッセイはPKCε特異的シグナルトランスダクションがモジュレートされる、例えば、中断されるように、PKCεと細胞の結合相手との特異的相互作用をブロックする化合物を同定するように設計することができる。
【0106】
本発明によるPKCεの機能を変更し、阻害し、または増強する化合物を同定し、単離するために、PKCεを発現する適当な細胞系を使用することができる。あるいは、PKCεを単離し、その活性を特異的に妨害する化合物を同定および単離するin vitroまたはin vivoアッセイに使用することができる。一般に、PKCεを精製し、その活性をアッセイする方法は下記の文献に記載されている:Ohmichi他、1993、Biochem. J. 295:767−772;Hundle他、1995、J. Biol. Chem. 270:30134-30140;Hundle他、1997、J. Biol. Chem. 272:15028-15035;UchidaおよびFilburn、1984、J. Biol. Chem. 259:12311-12314;Chakravarthy他、1994、Biochem. J. 304:809-816;Walton他、1987、Analytical Biochemistry 161:425-437;Roth他、J. Neurochem. 52:215-221;Lehel他、1997、Analytical Biochemistry 244:340−346;およびPapadopoulos and Hall、1989、J. Cell. Biol. 108:553-567。
【0107】
さらに詳しくは、PKCεを発現する適当なアッセイ系における細胞を化学化合物または化合物のライブラリーに暴露して、所望のモジュレート作用を有する化合物を同定することができる。あるいは、任意の源からの化合物の高い処理量の試験を可能とするように設計された、適当な発現系においてPKCεを発現させ、必要に応じて単離し、PKCεに結合するか、あるいはPKCεに対して測定可能な阻害作用を有する分子を同定することができる。
【0108】
よく知られている組換えDNA技術に従い、PKCεをコードするヌクレオチド配列を使用して、対応する精製されたタンパク質を産生することができる。遺伝子を単離した後、遺伝子を発現させる方法を教示する多数の刊行物の1例は次の通りである:Gene Expression Technology,Methods and Enzymology、Vol. 185、Goeddel編、Academic Press、カリフォルニア州サンディエゴ(1990)。
【0109】
PKCεは原核性または真核性の、種々の宿主細胞において発現させることができる。多くの場合において、宿主細胞が真核細胞であり、より好ましくは宿主細胞は哺乳動物細胞である。宿主細胞は、本発明の方法により同定されたタンパク質をコードする核酸配列が天然に存在する、すなわち、内因的である種と同一であるか、あるいは異なる種からのものであることができる。細胞の発現系において組換えDNA技術によりPKCεを産生する利点は、モジュレートする化合物を同定する最適化されたアッセイ系の開発を包含する。
【0110】
一般に、本発明の発現系は、それらが大量の組換えタンパク質を産生する系を容易に提供するという利点を有する。しかしながら、当業者が認識するある種の環境下に、別の発現系は、ある場合において、また、精製のためのPKCεの高度に濃縮された源を獲得しかつ簡素化された精製手法が利用可能であるという利点を証明することができる。タンパク質を組換え産生する方法は一般にこの分野において非常によく確立されており、そして、なかでも、下記の文献に記載されている:Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor(1989)。
【0111】
本発明の1つの態様において、その遺伝子配列の発現および細胞培養物からの組換え的産生されたタンパク質の回収に好適なの条件下に、PKCεをコードする発現ベクターで形質転換された細胞を培養する。使用する遺伝子および特定の遺伝的構築物の特質に依存して、組換え細胞により産生されるPKCεタンパク質は分泌されるか、あるいは細胞内に含有されることがある。一般に、分泌された形態で組換えタンパク質を製造することはいっそう好都合である。精製工程は、産生および産生される特定のタンパク質の特質に依存するであろう。精製方法はこの分野においてよく確立されている;当業者は精製条件を最適化する方法を知っている。特定のタンパク質についての精製条件は、なかでも、下記の文献に記載されている:Scopes、Protein Purification:Principles and Practice、1985、Springer-Verlag、New York、Heidelberg、Berlin。
【0112】
組換え産生に加えて、固相技術を使用する直接的ペプチド合成により、PKCεのペプチドフラグメントを製造することができる。下記の文献を参照のこと:Steward他、Solid−Phase Peptide Synthesis(1969)、W. H. Freeman Co.、San Francisco;およびMerrifield、1963、J. Am. Chem. Soc. 85:2149-2154。
【0113】
マニュアル技術または自動化技術を使用して、in vitroポリペプチド合成を実施することができる。自動化合成は、例えば、製造業者により供給される使用説明書に従いアプライド・バイオシステムス(Applied Biosystems)431Aペプチド合成装置(フォスターシティー、カリフォルニア州)を使用して、達成することができる。
【0114】
本発明の1つの態様において、PKCεタンパク質および/またはPKCεタンパク質を発現する細胞系統を使用して、PKCε遺伝子活性のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用する抗体、ペプチド、有機分子または他のリガンドについてスクリーニングする。例えば、活性、例えば、PKCεの酵素活性を妨害するか、あるいは結合相手、例えば、リガンド、アダプター分子、または基質との相互作用を妨害することができる抗体を使用して、PKCεの機能を阻害する。PKCεの機能を増幅することを望む場合、例えば、対応するシグナルトランスダクション経路のリガンド、アダプター分子または基質を模擬する抗体を開発することができる。明らかなように、PKCεの活性、機能、または特異性を修飾する抗体を発生させることができる。
【0115】
あるいは、組換え的に発現されたPKCεまたはPKCεを発現する細胞系統でペプチドライブラリーまたは有機化合物をスクリーニングすることは、その生物学的活性を阻害、増強または修飾することによって機能する療法上の分子の同定に有効であることがある。
【0116】
潜在的に生物学的に活性な物質の合成化合物、自然産物、および他の源を多数の方法でスクリーニングすることができる。ターゲットタンパク質の機能を阻害、増強またはモジュレートする被検化合物の能力は、PKCεの機能を測定する適当なアッセイにより決定することができる。例えば、応答、例えば、その活性、例えば、酵素活性、またはそのリガンド、アダプター分子または基質に結合するPKCεの能力をin vitroアッセイにおいて決定することができる。第2メッセンジャーの産生、細胞代謝の変化、または酵素活性に対する作用のモジュレーションをモニターするために、細胞アッセイを開発することができる。
【0117】
これらの目的のために開発された慣用技術を使用して、これらのアッセイを実施することができる。最後に、PKCεの機能を阻害、増強またはモジュレートする被検化合物の能力は、適当な動物モデルにおいてin vivoで測定されるであろう。例えば、不安、例えば、下記のものを包含する不安の障害ような症状を抑制または減少する化合物の能力をモニターするために、マウスモデルが使用されるであろう:恐慌障害(例えば、広所恐怖症を伴わない恐慌障害、広所恐怖症を伴う恐慌障害)、恐慌障害の病歴を伴わない広所恐怖症、特定の恐怖、社会的恐怖、強迫−強制障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、一般化不安障害、物質誘導不安障害、またはそうでなければ特定しなかった不安障害。
【0118】
本発明の1つの態様において、固相支持体に結合したアミノ酸のすべての可能な組合わせから成るランダムペプチドライブラリーを使用して、PKCεの機能を妨害することができるペプチドを同定する。例えば、リガンド、アダプター分子または基質に結合するPKCεの部位またはその機能的ドメイン、例えば、酵素ドメインに結合するペプチドを同定することができる。したがって、ペプチドライブラリーをスクリーニングすると、その活性を妨害する、療法上の価値を有する化合物を得ることができる。
【0119】
組換え可溶性PKCεタンパク質でペプチドライブラリーをスクリーニングすることによって、PKCεに結合できる分子を同定することができる。PKCεタンパク質を発現させ、精製する方法を使用して、問題の機能的ドメインに依存して、組換えの完全なPKCεタンパク質またはそのフラグメントを発現させることができる。
【0120】
PKCεと相互作用し、PKCεとの複合体を形成する、ペプチド/固相支持体を同定し、単離するために、PKCεタンパク質分子またはそのフラグメントを標識化または「タッグ(tag)」することが必要である。例えば、PKCεを酵素、例えば、アルカリ性ホスファターゼまたはセイヨウワサビペルオキシダーゼに、または他の試薬、例えば、蛍光標識、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン(PE)またはローダミンに結合させることができる。PKCεへの任意の所定の標識の結合は、この分野において日常的な技術に従い実施することができる。
【0121】
可溶性PKCε分子またはそのフラグメントを使用することに加えて、他の態様において、完全な細胞を使用して、PKCεに結合するペプチドを同定することができる。PKCεの機能が機能的であるために細胞膜の脂質ドメインを必要とする場合、完全な細胞の使用は好ましい。本発明の方法および発現系で同定されたPKCεを発現する細胞系統を発生させる方法。この技術において使用する細胞は、生きている細胞または固定された細胞のいずれであることもできる。細胞をランダムペプチドライブラリーとインキュベートし、そしてこれらの細胞はライブラリー中のある種の細胞に結合するであろう。そのように形成したPKCεと関係する固相支持体/ペプチドとの間の複合体を標準的方法、例えば、分画遠心分離により単離することができる。
【0122】
細胞膜の脂質ドメインを必要とするPKCεの機能を測定する場合において、全細胞アッセイに対する別法は、標識または「タグ(tag)」を結合できるリポソームにレセプター分子を再構成することである。
【0123】
他の態様において、PKCεを発現する細胞系統、あるいは、単離されたPKCεまたはそのフラグメントを使用して、PKCε活性またはシグナルトランスダクションを阻害し、増強し、またはモジュレートする分子についてスクリーニングする。このような分子は、PKCε活性に影響を与えるか、あるいはそのリガンド、アダプター分子または基質との複合体の形成を促進または妨害する、小さい有機または無機の化合物、または他の分子を包含することができる。一般に当業者に知られている多数の方法において、潜在的生物学的に活性な方法の合成化合物、自然産物、および他の源をスクリーニングことができる。
【0124】
例えば、標準的生化学的技術を使用して、PKCεの機能を妨害する被験分子の能力を測定することができる。あるいは、細胞の応答、例えば、他のタンパク質の触媒活性、リン酸化、脱リン酸化、または他の修飾の活性化または抑制、第2メッセンジャー産生の活性化または修飾、細胞のイオンレベルの変化、シグナリング分子の会合、解離または転位、あるいは特定の遺伝子の転写または翻訳をまたモニターすることができる。これらのアッセイは、スクリーニングの過程において、これらの目的のために開発された慣用技術を使用して実施することができる。
【0125】
さらに、PKCεの機能は、シグナルトランスダクション経路を介して、種々の細胞プロセスに影響を与えることがある。そのシグナリング経路の制御下の細胞プロセスは下記のものを包含するが、これらに限定されない:正常の細胞の機能、増殖、分化、細胞形状の維持、および付着、ならびに異常なまたは潜在的に有害なプロセス、例えば、非調節の細胞増殖、接触阻害の喪失、および分化のブロッキングまたは細胞死。この分野において知られている技術による記載された任意の細胞プロセスの定性的または定量的観測および測定は、スクリーニングの過程におけるシグナルトランスダクションのスコアリング手段として好都合に使用することができる。
【0126】
PKCεと相互作用する化合物のスクリーニング、同定、および評価に種々の技術を使用することができ、このような化合物はPKCεの制御下に種々の細胞プロセスに影響を与えることができる。
【0127】
例えば、PKCεまたはその機能的誘導体を、純粋なまたは半純粋な形態で、膜の調製において、または生きているまたは固定された全細胞中で、化合物とインキュベートする。引き続いて、適当な条件下に、例えば、化合物の活性、またはそのシグナルトランスダクションを測定し、その活性を、化合物の非存在下に同一条件下にインキュベートしたPKCε活性と比較し、これにより化合物がPKCε活性を刺激または阻害するかどうかを決定することによって、PKCεの機能に対する化合物の作用を精査する。
【0128】
化合物をスクリーニングするためにPKCεを発現する全細胞を使用することに加えて、本発明は、また、可溶性または固定化PKCεを使用する方法を包含する。例えば、PKCεに結合することができる分子を生物学的または化学的調製物内において同定することができる。例えば、PKCεまたはその機能的フラグメント、例えば、問題の特定のドメインを含有するフラグメントを固相マトリックスに固定化し、引き続いて化合物が結合できるために十分な時間の間、生物学的または化学的調製物を固定化PKCεと接触させる。次いで非結合物質を固相マトリックスから洗浄除去し、固相に結合した化合物の存在を検出し、これにより化合物を同定する。次いで適当な手段を使用して、結合する化合物を溶離する。
【0129】
1. 候補の被検化合物の源
このようなアッセイに使用する被検化合物は、下記の源を包含する、任意の商業的源から入手される:アルドリッヒ(Aldrich)(ウイスコンシン州ミルウォーキー、ウェスト セント・ポールアヴェニュー1001)、シグマ・ケミカル(Sigma Chemical)(ミゾリー州63178セントルイス、郵便私書箱14508)、フルカ・ヘルメ社(Fluka Cherme AG)(スイス国CH-9471ブヘス、インダストリエストラッセ(Fluka Chemical Corp.、ニューヨーク州11779ロンコンコマ、サウス・セカンド・ストリート))、イーストマン・ケミカル・カンパニー(Eastman Chemical Company)、ファイン・ケミカルス(Fine Chemicals)(テネシー州37662キングスポート、郵便私書箱431)、ベーリンガー・マンヘイム社(Boehringer Mannheim GnbH)(D-68298マンヘイム、サンドホフェル・ストラッセ116)、タカサゴ(Takasago)(ニュージャージイ州07647、ロックレイヒ、ボルボ・ドライブ4)、SSTコーポレーション(Corporation)(ニュージャージイ州07012、クリフトン、ブリストン・ロード635)、フェロ(Ferro)(ルイジアナ州70791、ザチャリイ、ウェスト・イレン・ローソ111)、リーデル−デヘン・アクチエンゲゼルシャフト(Riedel−deHaen Aktiengesellschaft)(ドイツ国、ゼールゼ、郵便私書箱D-30918)、PPGインダストリーズ・インコーポレーテッド(Industries Inc.)、ファイン・ケミカルス(Fine Chemicals)(ペンシルベニア州15272、ピッツバーグ、第34フローア、ワンPPGプレイス)。本発明のアッセイカスケードを使用して、微生物、菌類または植物の抽出物を包含する、それ以上の任意の種類の製品をスクリーニングすることができる。
【0130】
2. 他のPKCεモジュレーターおよびそれらの性質
PKCεイソ酵素を阻害する任意の分子は不安を低下させまたはアルコール消費を減少させるために十分であるが、PKCε−突然変異マウスにより示されるように、PKCεの排除が主要な発生の異常性または重大な鎮静作用を引き起こさないので、PKCεイソ酵素を選択的に阻害する分子は好ましい。また、PKCε以外のPKCイソ酵素を阻害することができる分子はそれらのイソ酵素が実行する種々の機能を妨害するので、このような非選択的インヒビターは、不安またはアルコール消費を減少するが、多数の望ましくない副作用を有するように思われる。
【0131】
本発明において使用できるPKCεの多数の既知のインヒビターが存在する。例えば、米国特許第5,783,405号には、PKCイソ酵素を阻害する多数のペプチドが記載されている。これらののうちで、εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6およびεV1-7ペプチドはPKCεに対して選択的である。PKCの小さい分子のインヒビターは、米国特許第5,141,957号、第5,204,370号、第5,216,014号、第5,270,310号、第5,292,737号、第5,344,841号、第5,360,818号、および第5,432,198号に記載されている。
【0132】
これらの分子は下記のクラスに属する:N,N'−ビス−(スルホンアミド)−2−アミノ−4−イミノナフタレン−1−オン;N,N'−ビス−(アミド)−2−アミノ−4−イミノナフタレン−1−オン;ビシナル−置換カルボサイクル;1,3−ジオキサン誘導体;1,4−ビス−(アミノ−ヒドロキシアルキルアミノ)−アントラキノン;フロ−クマリンスルホンアミド;ビス−(ヒドロキシアルキルアミノ)−アントラキノン;およびN−アミノアルキルアミド。前述の特許の関係する部分は引用することによって本明細書の一部とされる。
【0133】
PKCεの活性化、細胞内転位、細胞内レセプター(例えば、PACKs)への結合または触媒活性を測定するアッセイを使用して、追加のPKCεのインヒビターを同定することができる。伝統的には、ホスフェートドナーとして放射性ATPおよび基質としてヒストンタンパク質または短いペプチドを用いる再構成されたリン脂質環境において、少なくとも部分的に精製されたPKCを使用して、PKC族のメンバーのキナーゼ活性はアッセイされてきている(T. Kitano、M. Go、U. Kikkawa、Y. Nishizuka、Meth. Enzymol. 124:349-352(1986);R. O. Messing、P. J. Peterson、C. J. Henrich、J. Biol. Chem. 266:23428-23432(1991))。
【0134】
最近の改良は、生理学的濃度においてプロテインキナーゼ活性を測定し、自動化することができおよび/または高い処理量のスクリーニングにおいて使用することができる、急速な、高度に感受性の化学発光アッセイ(C. Lehel、S. Daniel-Issakaini、M. Brasseur、B. Strulovici、Anal. Biochem. 244:340-346(1997))および単離された膜中のPKCおよびMARCKSタンパク質に由来する選択的ペプチド基質を使用してアッセイ(B. R. Chakravarty、A Bussey、J. F. Whitfield、M. Sikorska、R. E. Williams、J. P. Durkin、Anal. Biochem. 196:144-150(1991))を包含する。
【0135】
分画(R.O. Messing、P. J. Peterson、C. J. Henrich、J. Biol. Chem. 266:23428-23432(1991))または免疫組織化学(米国特許第5,783,405号;米国特許出願第08/686,796号)により、PKCεの細胞内局在化を測定する、アッセイにより、PKCεの細胞内転位に影響を与えるインヒビターを同定することができる。PKCεインヒビターを同定するために、PKCεを使用してアッセイを実施すべきである。PKCεに対するインヒビターを他のPKCイソ酵素に対するその作用と比較することによって、このようなPKCεインヒビターの選択性を決定することができる。前述の特許および刊行物の関係する部分は、引用することによって本明細書の一部とされる。
【0136】
3. PKCε酵素活性またはシグナルトランスダクションを妨害する化合物を使用する適応症
本発明の方法により同定される化合物はPKCεの酵素活性のモジュレーターであるか、あるいはPKCε誘導シグナルトランスダクション経路におけるタンパク質/タンパク質の相互作用のモジュレーターである。このような化合物は下記のものを包含する多数の適応症の治療に有効である:不安、例えば、不安の障害ような症状、例えば、恐慌障害(例えば、広所恐怖症を伴わない恐慌障害、広所恐怖症を伴う恐慌障害)、恐慌障害の病歴を伴わない広所恐怖症、特定の恐怖、社会的恐怖、強迫−強制障害、外傷後ストレス障害、急性ストレス障害、一般化不安障害、物質誘導不安障害、またはそうでなければ特定しなかった不安障害。
【0137】
E. 処方物/投与経路
同定された化合物は単独で、または医薬組成物と組合わせてヒトの患者に投与することができる。医薬組成物において、化合物は適当な担体または1またはそれ以上の賦形剤と種々の障害の治療または改善に治療的に有効な投与量において混合されている。治療的に有効な投与量は、さらに、例えば、患者の不安の減少を測定したとき、症候を改善するために十分な化合物の量を意味する。本発明の化合物を処方し、投与する技術は下記の文献の中に見出すことができる:″Remington's Pharmaceutical Sciences″、Mack Publishing Company、ペンシルベニア州イーストン、最近の編集。
【0138】
1. 投与経路
適当な投与経路は、例えば、経口、経直腸、経粘膜、または腸投与;非経口的デリバリー、例えば、筋肉内、皮下、髄内注射、ならびに髄腔内、直接的心室内、静脈内、腹腔内、鼻内、または眼内注射を包含する。
【0139】
あるいは、本発明の化合物を全身的方法よりむしろ局所的に、例えば、充実腫瘍の中への直接的注射により、しばしばデポー製剤で、または持続放出性処方物で投与することができる。
さらに、薬物はターゲテッド薬物送出系を介して、例えば、腫瘍特異的抗体で被覆されたリポソームの形態で投与可能である。リポソームは腫瘍にターゲッティングされ、腫瘍により選択的に吸収される。
【0140】
2. 組成物/処方物
PKCεは細胞内タンパク質であるので、本発明の好ましい態様は形質膜を透過できる薬学上許容されるインヒビター処方物を包含する。小さい無極分子はしばしば膜透過性である。他の分子の膜透過性は種々の既知の方法により増強することができる。このような方法は、分子を低張溶液中に溶解する方法、それらを輸送タンパク質にカップリングさせる方法、およびそれらをミセルの中にパッケージする方法を包含する。
【0141】
本発明の医薬組成物は、慣用の混合、溶解、粒状化、糖剤製造、磨砕、乳化、カプセル化、捕捉または凍結乾燥の方法により製造することができる。
こうして、本発明に従い使用するための医薬組成物は、慣用法において、薬学的に使用できる調製物への活性化合物のプロセシングを促進する賦形剤および助剤を含んでなる1またはそれ以上の生理学上許容される担体を使用して処方することができる。適切な処方物は選択した投与経路に依存する。
【0142】
注射のために、本発明の薬物は水溶液、好ましくは生理学的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス溶液、リンガー溶液、または生理的塩類緩衝液中で処方することができる。経粘膜投与のために、透過すべき障壁に対して適当な浸透剤を処方物において使用する。このような浸透剤は一般にこの分野において知られている。
【0143】
経口投与のために、活性化合物をこの分野においてよく知られている薬学上許容される担体と組合わせることによって、化合物は容易に処方することができる。このような担体を使用すると、治療すべき患者による経口摂取のために、本発明の化合物は錠剤、丸剤、糖剤、カプセル剤、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液およびその他として処方することができる。経口的使用のための医薬製剤は、固体賦形剤として、必要に応じて生ずる混合物を粉砕し、顆粒混合物をプロセシングし、所望ならば、適当な助剤を添加した後、錠剤または糖剤コアを得ることによって、製造することができる。
【0144】
適当な賦形剤は下記のものを包含する:充填剤、例えば、糖、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトール;セルロース調製物、例えば、トウモロコシ澱粉、イネ澱粉、ジャガイモ澱粉、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)。所望ならば、崩壊剤、例えば、架橋したポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはその塩、例えば、アルギン酸ナトリウムを添加することができる。
【0145】
糖剤コアは適当な被覆を有する。この目的のために、濃縮糖溶液を使用することができ、これらの溶液は必要に応じてアラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルバポルゲル、ポリエチレングリコール、および/または二酸化チタン、ラッカー溶液、および適当な有機溶媒または溶媒混合物を含有することができる。活性化合物の投与量の異なる組合わせを同定または特徴づけるために、染料または顔料を錠剤または糖剤被覆に添加することができる。
【0146】
経口的に使用できる医薬製剤は、ゼラチンから作られた押込嵌めカプセル剤、ならびにゼラチンおよび可塑剤、例えば、グリセロールまたはソルビトールから作られた軟質、密閉カプセル剤を包含する。押込嵌めカプセル剤は、充填剤、例えば、ラクトース、結合剤、例えば、澱粉、および/または滑剤、例えば、タルクまたはステアリン酸マグネシウムおよび、必要に応じて、安定化を混合された活性成分を含有することができる。軟質カプセル剤において、活性化合物を適当な液体、例えば、脂肪油、液状パラフィンまたは液状ポリエチレングリコールの中に溶解または懸濁させることができる。さらに、安定剤を添加することができる。経口投与のためのすべての処方物は、このような投与に適当な投与量であるべきである。
【0147】
経頬投与のために、組成物は慣用法で処方された錠剤またはロゼンジの形態を取ることができる。
【0148】
吸入による投与のために、本発明による化合物は、適当な噴射剤、例えば、ジクロロフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適当なガスを使用して、加圧パックまたはネブライザーから提供されるエーロゾルスプレーの形態で好都合に送出される。加圧エーロゾルの場合において、計量した量を送出す弁を設けることによって、投与単位を決定することができる。吸入器または注入器において使用するための化合物と適当な粉末状基剤、例えば、ラクトースまたは澱粉との粉末状混合物を含有する、例えば、ゼラチンの、カプセルまたはカートリッジを処方することができる。
【0149】
化合物は、注射、例えば、ボーラス注射または連続的注入により非経口投与のために処方することができる。注射用処方物は、単位投与形態で、例えば、アンプルまたは多投与容器で、保存剤を添加して、提供することができる。組成物は油性または水性ベヒクル中の懸濁液、溶液または乳濁液のような形態を取ることができ、そして処方剤、例えば、懸濁剤、安定剤および/または分散剤を含有することができる。
【0150】
非経口投与のための医薬処方物は、水溶性形態の活性化合物の水溶液を包含する。さらに、活性化合物の懸濁液は適当な油性注射懸濁液として調製することができる。適当な親油性溶媒またはベヒクルは、脂肪油、例えば、ゴマ油、または合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチルまたはトリグリセリド、またはリポソームを包含する。水性注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加する物質、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、またはデキストランを含有することができる。必要に応じて、懸濁液は、また、適当な安定剤または化合物の溶解度を増加する物質を含有して、高度に濃厚な溶液を調製することができる。
【0151】
あるいは、活性成分は、使用前に、適当なビヒクル、例えば、無菌の発熱物質を含まない水で再構成するための粉末の形態であることができる。
化合物は、また、例えば、慣用の坐剤基剤、例えば、カカオバターまたは他のグリセリドを含有する坐剤または保持浣腸のような経直腸組成物に処方することができる。
【0152】
本明細書に記載する処方物に加えて、化合物はデポー製剤として処方することもできる。このような長時間作用する処方物は、移植(例えば、皮下または筋肉内)または筋肉内注射により投与することができる。こうして、化合物は適当なポリマーまたは疎水性物質(例えば、許容される油中の乳濁液として)またはイオン交換樹脂を使用して処方するか、あるいは難溶性誘導体、例えば、難溶性塩として処方することができる。
本発明の疎水性化合物のための薬学上の担体は、ベンジルアルコール、非極性界面活性剤、水混和性有機ポリマー、および水性相を含んでなる補助溶媒系である。
【0153】
補助溶媒系は、VPD補助溶媒系であることができる。VPDは3%w/vのベンジルアルコール、8%w/vの非極性界面活性剤ポリソルベート80、および65%w/vのポリエチレングリコール300の溶液であり、無水エタノールで必要な体積に構成される。VPD補助溶媒系(VPD:5W)は、水中の5%デキストロース溶液で1:1に希釈されたVPDから成る。この補助溶媒系は疎水性化合物をよく溶解し、それ自体全身的投与のとき低い毒性を生成する。当然、補助溶媒系の比率は、その溶解度および毒性特徴を破壊しないで、かなり変化させることができる。
【0154】
さらに、補助溶媒成分の同一性を変化させることができる:他の低い毒性の非極性界面活性剤をポリソルベート80の代わりに使用することができる;ポリエチレングリコールの画分サイズを変化させることができる;他の生物適合性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドンをポリエチレングリコールの代わりに使用することができる;そして他の糖または多糖をデキストロースと置換することができる。
【0155】
あるいは、疎水性薬学的化合物のための他のデリバリーシステムを使用することができる。リポソームおよび乳濁液は疎水性薬物のための送出ベヒクルまたは担体のよく知られている例である。ある種の有機溶媒、例えば、ジメチルスルホキシドを使用することもできるが、通常毒性が大きい。
【0156】
さらに、化合物は持続放出性システム、例えば、治療剤を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスを使用して送出すことができる。種々の持続放出性物質は確立されており、この分野においてよく知られている。持続放出性カプセル剤は、それらの化学的特質に依存して、化合物を数週から100日までにわたって放出することができる。
治療剤の化学的特質および生物学的安定性に依存して、タンパク質安定化のために追加の戦略を用いることができる。
【0157】
医薬組成物は、また、適当な固体またはゲル相の担体または賦形剤を含んでなることができる。このような担体または賦形剤の例は下記のものを包含するが、これらに限定されない:炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖、澱粉、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリマー、例えば、ポリエチレングリコール。
【0158】
本発明の多数の不安抑制化合物は、薬学的に適合性の対イオンを有する塩として提供することができる。薬学的に適合性の塩は下記のものを包含するが、これらに限定されない多数の酸を使用して形成することができる:塩酸、硫酸、酢酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、およびその他。塩は対応する遊離塩基の形態である水性または他のプロトン性溶媒中でいっそう可溶性である傾向がある。
【0159】
3. 有効投与量
本発明において使用するために適当な医薬組成物は、活性成分がその意図する目的を達成するために有効な量で含有される組成物を包含する。さらに詳しくは、治療的に有効量は、治療される被検体の現存する症候、例えば、不安の症候の進展を予防するか、あるいはそれを軽減するために有効な量を意味する。有効量の決定は、特に本明細書において提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0160】
PKCεインヒビターは、毎時、数回/日、毎日または治療を受けている人またはその人の医師が適当と解釈する頻度で投与することができる。好ましくは、投与の間隔は8〜24時間の範囲である。PKCεインヒビターの治療の適当な間隔を決定するとき、患者の症状の程度を考慮することができる。PKCεインヒビターの治療は、数日、1カ月、数カ月、1年、数年または患者の寿命の期間の過程にわたって続けることができる。あるいは、PKCεインヒビターは1回のみの基準で投与することができる。PKCεインヒビターは、患者の身体において所望の作用を産生するために十分なレベルで投与すべきである。当業者は理解するように、患者が症候の所望のモジュレーションを経験するまで、増加する投与量のPKCεインヒビターを投与すべきであり、そしてより多い投与量はより望ましいモジュレーションを行うことができない。
【0161】
インヒビターの投与量は、多数の因子、例えば、インヒビターの特質および投与のモードに依存して変化するであろう。εPKC-v1ペプチドについて、150μg/mlの細胞内濃度はPKCεのトランスロケーションおよびPKCε活性化の下流の作用を阻害した(米国特許第5,783,405号)。N,N'−ビス−(スルホンアミド)−2−アミノ−4−イミノナフタレン−1−オンまたはN,N'−ビス−(アミド)−2−アミノ−4−イミノナフタレン−1−オンであるPKCインヒビターについて、1μg/kg〜100mg/kg体重、好ましくは1μg/kg〜1mg/kg、最も好ましくは10μg/kg〜1mg/kgの範囲の1日量が考えられる。ビシナル−置換炭素環であるPKCインヒビターについて、1μg/kg〜100mg/kg体重、好ましくは1μg/kg〜40mg/kg、最も好ましくは10μg/kg〜20mg/kgの範囲の1日量が考えられる。
【0162】
1,4−ビス−(アミノ−ヒドロキシアルキルアミノ)−アントラキノン、ビス−(ヒドロキシアルキルアミノ)−アントラキノン、またはN−アミノアルキルアミドであるPKCインヒビターについて、5〜400mg/kg体重、好ましくは10〜200mg/kg、最も好ましくは10〜50mg/kgの範囲の1日量が考えられる。1,3−ジオキサン誘導体であるPKCインヒビターについて、0.1〜40mg/kg体重、好ましくは1〜20mg/kgの範囲の1日量が考えられる。フロ−クマリンスルホンアミドであるPKCインヒビターについて、0〜100mg/kg体重の範囲の1日量が考えられる。
【0163】
本発明の方法において使用する任意の化合物について、治療的に有効な投与量は細胞培養アッセイから最初に推定することができる。例えば、投与量を動物モデルにおいて処方して、細胞培養において測定してIC50(すなわち、PKCε酵素活性の最大の1/2を達成する被験化合物の濃度)を包含する循環濃度を達成することができる。このような情報を使用して、ヒトにおいて有効な投与量をいっそう正確に決定することができる。
【0164】
治療的に有効な投与量は、症候を改善するか、あるいは患者の生存を延長する化合物の量を意味する。このような化合物の毒性および治療効果は、標準の薬学的手法により細胞培養物または実験動物において、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的投与量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な投与量)を決定することによって決定することができる。毒性と治療効果との間の比は治療指数であり、そしてLD50とED50との間の比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物は好ましい。
【0165】
これらの細胞培養アッセイおよび動物の研究から得られたデータを使用して、ヒトにおいて使用する投与量範囲を処方することができる。このような化合物の投与量は、毒性をほとんど、あるいはまったく示さないED50を包含する循環濃度の範囲内であることが好ましい。用いる投薬形態および利用する投与経路に依存してこの範囲内で、投与量は変化することができる。個々の医師は、患者の症状にかんがみて、正確な処方、投与経路および投与量を選択することができる(例えば、下記の文献を参照のこと:Fingl他、1975、″The Pharmacological Basis of Therapeutics″、Ch. 1 p1)。
【0166】
キナーゼモジュレート作用、または最小有効濃度(MEC)を維持するために十分である活性成分の血漿レベルを提供するために、投与量および間隔を個々に調節することができる。MECは各化合物について変化するであろうが、in vitroデータ、例えば、本明細書に記載するアッセイを使用してキナーゼの50〜90%を達成するために必要な濃度から推定することができる。MECを達成するために必要な投与量は、個体の特徴および投与経路に依存するであろう。しかしながら、HPLCアッセイまたはバイオアッセイを使用して血漿濃度を測定することができる。
【0167】
また、MEC値を使用して投与間隔を決定することができる。時間の10〜90%、好ましくは30〜90%、最も好ましくは50〜90%の間MECを超えるように血漿レベルを維持する養生法を使用して、化合物を投与すべきである。局所投与または選択的吸収の場合において、薬物の有効局所濃度は血漿濃度に関係づけることができない。
投与した組成物の量は、もちろん、治療される被検体、被検体の体重、病気の程度、投与方法および処方医師に依存するであろう。
【0168】
4. 包装
組成物は、所望ならば、活性成分を含有する1またはそれ以上の単位投与形態を含有できるパックまたはディスペンサー装置で提供することができる。パックは、例えば、金属またはプラスチックの箔、例えば、ブリスターパックを含んでなることができる。パックまたはディスペンサー装置に、投与の説明書を添付することができる。薬学上の適合性担体中に調剤された本発明の化合物を含む組成物を、また、調製し、適当な容器の中に入れ、指示した症状の治療のためにラベルを付すことができる。ラベル上に示された適当な症状は、不安障害、発作障害、癌、心臓不整脈、疼痛、およびその他の改善を含むことができる。
【0169】
F. アルコール消費を変更しかつ他の乱用薬物の自己投与およびそれらの作用を変更するためのPKCεのモジュレーターの使用
PKCεを欠如する突然変異マウスは野生型同腹子よりも有意に少ないアルコールを随意に消費し、野生型同腹子よりもアルコールの歩行の活性化および鎮静作用に対して非常にいっそう感受性であり、そして野生型同腹子の側座核において起こる細胞外ドーパミンレベルのエタノール誘導ピークを経験することができないということを、本発明の発明者らは発見した。また、GABAAレセプター機能のエタノールモジュレーションは突然変異マウスの脳皮質において増加する。これらのデータが示すように、PKCεは飲酒偏好、エタノールに対する急性行動的応答および脳におけるエタノール媒介応報経路を調節する。
【0170】
こうして、本発明は、それぞれ、アルコール摂取または薬物使用をモジュレートしようとする人にPKCε活性のモジュレーターに投与することによって、アルコール摂取または他の乱用薬物の自己投与を変更する方法を包含する。PKCεインヒビターの投与は人の飲酒量または乱用薬物の自己投与量を減少させるが、PKCε活性のエンハンサーはアルコールまたは乱用薬物の消費を増加させるであろう。したがって、アルコール中毒症、薬物嗜癖およびアルコール依存症または他の薬物に対する嗜癖に誘発された人は、PKCεインヒビターの好ましいレシピエントである。
【0171】
最も好ましい態様はアルコール中毒症によるアルコール消費を減少する。上記節V.Dに論じた方法により、PKCε活性のこのようなインヒビターを同定および/または投与することができる。アルコール中毒症およびアルコール依存症に誘発された人は規則的基準でPKCεインヒビターを受け取ることができるが、特定の時間にアルコール消費を変更しようとする人は、アルコール摂取前に、間にまたは後にPKCεモジュレーターを自己投与することができる。好ましくは、PKCεモジュレーターはエタノールも存在する時間に存在することができ、そして薬学上許容される処方物の一部分として投与されるであろう。
【0172】
さらに、PKCεモジュレーターをアルコール飲料に直接添加することができ、そしてアルコールとPKCεモジュレーターとを含んでなる組成物は本発明の1つの態様である。このようなモジュレーターの有効投与量は、節V.D.3に記載されている方法により確立することができる。あるいは、有効投与量の範囲は、飲用行動をモニターし、それをPKCε突然変異マウスにより証明されるものと比較することによって、確立することができる。次いで、このような投与量を調節して、なマウスと治療すべき被検体の種との間の差を説明することができる。
【0173】
有効量のPKCεの選択的インヒビターまたは選択的エンハンサーの投与を包含する乱用薬物の消費をモジュレートする方法は、好ましい態様である。好ましい選択的インヒビターは下記のペプチドを包含する:εV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6およびεV1-7;εV1-2は特に好ましい。PKCεモジュレーターは小さい分子の化合物(すなわち、約2000ダルトンより小さいか、またはそれに等しい、好ましくは1000ダルトンより小さいか、またはそれに等しい、最も好ましくは500ダルトンより小さいか、またはそれに等しい、分子量を有する化合物)である。PKCεの触媒活性またはPKCεの細胞内転位を阻害するPKCεインヒビターを、本発明の方法において投与することができる。PKCεに直接的に作用するインヒビターは好ましい。
【0174】
本発明の他の面は、飲酒する人に対するアルコールの作用をモジュレートする方法である。PKCεがより低い投与量および高い投与量の両方のアルコールの作用をモジュレートすることを本発明者らは示したので、この方法を種々のやり方で使用して、運動性協調または鎮静作用に対する作用を包含する、アルコールの種々の作用を潜在的に変更することができる。1つの態様において、酩酊するようにならないで飲酒しようとする人はPKCεのエンハンサー取ることができる。これにより、機械を操作し、スポーツに参加し、または覚醒を維持する能力の減少に脅かされないで、アルコール消費の快感(味覚、社会的、およびその他)を人は経験することができる。
【0175】
他の態様において、個体は大量のアルコールを飲用しないでアルコールの作用を経験しようとすることができる。例えば、人はちょうど1回の飲酒後に快いほろ酔いとなり、これによりカロリー、費用、およびより多いアルコール消費に関連する他の消極的因子を回避することができる。時期尚早の出産の危険における妊娠した女性は、高いレベルのアルコールに胎児を暴露しないでアルコールの効果を前以て妨ぐ初期の労力を経験することがある。
【0176】
中脳腹側被蓋区域(VTA)から突起するニューロンのシナプス前終末からの側座核において放出されるドーパミンは、薬物の応報および強化の主要なメディエイターである。すべての乱用可能な薬物の急性投与は側座核におけるドーパミンの細胞外レベルを増加し、そしてこの領域に注射されたドーパミンレセプターアンタゴニストは動物におけるアルコールおよび薬物自己投与を減少させる(Di Chiara、G.、およびImperato、A.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5274-5278(1988);Hodge他、Pharmacol. Biochem. Behav. 48:141-150(1994))。VTAおよび側座核は薬物応報および薬物依存症の動機づけの面に関係づけられる主要な構造として同定され(Koob他、Neuron 21:467−476(1998))そして現在嗜癖研究の主な焦点であるメソコルチコリンンビック・ドーパミン系(mesocorticolimbic dopamine system)の成分である。
【0177】
エタノールがPKCεマウスの側座核におけるドーパミンレベルを増加させないという発見が示唆するように、側座核におけるドーパミンの再吸収は増加されるか、あるいは側座核におけるVTAニューロンによるドーパミンの分泌はこれらのマウス抑制される。乱用性薬物がドーパミン放出を促進するメカニズムは変化する[注7:コカインおよびアンフェタミンはVTA神経終末におけるドーパミン再吸収を阻害し、これにより側座核中のシナプスにおけるドーパミン濃度を増加する(Amara、S.G.、およびSonders、M.S.、Drug Alchol Depend. 51:87−96(1988))。
【0178】
オピエートは異なるメカニズムで作用する。通常VTAにおいて、GABAを含有するニューロンは側座核に対して突起するドーパミン作動性VTAニューロンの発射を抑制する。オピエートは、GABAを含有するニューロンにより発現されたオピオイドレセプターに結合することによって、これらのドーパミン作動性VTAニューロンを脱阻害する(Wise、R.A.、Curr. Opin. Neurobiol. 6:243−251(1996))。これはドーパミン作動性VTAニューロンの発射速度を増加し、側座核におけるドーパミン放出を促進する。ニコチンはVTAドーパミン作動性ニューロンを直接活性化する(Wise、R.A.、Curr. Opin. Neurobiol. 6:243−251(1996))。
【0179】
エタノールは、また、イオンチャンネル機能を直接を変更することによって、ドーパミン作動性VTAニューロンを活性化する(Brodie、M.S.、およびAppel、S.B.、Alcoholism,Clinical and Experimental Reserch 22:236−244(1988))。これはこれらのニューロンの発射速度を増加し、側座核においてドーパミン放出を刺激する。]が、前の文章において論じたエタノール誘導ドーパミンレベルの増加に対するPKCεの作用についてのメカニズムは、側座核におけるきわめてすぐれたドーパミンレベルを増加する他の乱用性薬物の能力を抑制する。
【0180】
側座核におけるドーパミンレベルが乱用性薬物の応報性質に重要であることが与えられると、PKCεマウスはアルコール以外の他の乱用性薬物の自己投与を減少させることが非常にありうる。アルコール中毒症または他の薬物の乱用者になる危険にある個体を同定する診断方法の関係において前述したように、それはいくつかの乱用薬物に対する嗜癖の治療におけるPKCεインヒビターの役割を示すであろう。
【0181】
G. 不安、嗜癖、禁断症状、筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を治療するためのPKCεインヒビターの使用
PKCεマウスは、また、アロステリックGABAAレセプターアゴニストの歩行活性化および鎮静作用に対して有意にいっそう感受性であることを、本発明者らは発見した。GABAAレセプター機能のベンゾジアゼピンのモジュレーションは、また、突然変異マウスの脳皮質において増加される。突然変異は、他のPKCイソ酵素のレベルを有意に変更しないで、全脳ホモジネートにおけるPKCε免疫反応性を検出不可能なレベルに減少したので、GABAAレセプター機能に対する作用は他のPKCイソ酵素の変更よりむしろPKCεの非存在のためである。
【0182】
これらのデータが示すように、PKCεはアロステリックアゴニストに対するGABAAレセプターの応答を調節する。それ自体として、PKCεモジュレーターは、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの選択的モジュレーターとして作用する薬物の新しいクラスを定める。PKCεマウスにおいて観測されるタウリンレベルの増大は、これらのマウスにおける見られたGABAAレセプター活性の増強が、一部分、アロステリックGABAAレセプターアゴニストのレベルの増加のためであることを示す。
【0183】
PKCεがGABAAレセプターの両方の内因的および非内因的アロステリックアゴニストをモジュレートすることを本発明者らは示したので、GABAAレセプター活性を増加することによって改善できる症状を治療するために、PKCεインヒビターを単独で投与するか、あるいはこのようなアロステリックアゴニストと組み合わせて投与することができる。このような症状は、不安、嗜癖、禁断症状、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇を包含する。不安は多数の環境のためであることがあり、このような環境は痛みのある事象または外科的または内視鏡手術の性能の予測を包含するが、これらに限定されず、この場合において麻酔剤投与前にPKCεインヒビターを投与することが好ましい。
【0184】
PKCεインヒビターを単独で投与するか、あるいはこのようなアロステリックアゴニストと組み合わせて投与ことによって治療される禁断症状は、エタノールまたは任意の他の鎮静−精神機能減退薬物により誘導される禁断症状を包含し、これらの薬物からの禁断症状は発作および自律神経性機能亢進により特徴づけられる。アルコールによる禁断症状の治療、またはアルコールの投与により改善できる禁断症状を有する薬物による禁断症状の治療は好ましい。
【0185】
1またはそれ以上のPKCεインヒビターと1またはそれ以上のGABAAレセプターのアロステリックアゴニストとの組合わせで患者を治療することは、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストのみを使用する先行技術の治療よりも好ましい。なぜなら、組合わせ療法はより少ない投与量のGABAAレセプターのアロステリックアゴニストを使用して同一治療効果を達成し、これにより望ましくない副作用、例えば、アロステリックアゴニストの嗜癖または鎮静を最小にすることができるからである。こうして、本発明は、また、PKCεインヒビターをこのようなGABAAレセプターのアロステリックアゴニストと組合わせて投与することによって、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの有効投与量を減少する方法を包含する。
【0186】
本発明の他の面は、PKCεインヒビターとGABAAレセプターのアロステリックアゴニストとを含んでなる組成物である。ベンゾジアゼピンは好ましいアロステリックアゴニストである。この組成物およびこのような組成物を使用する方法において使用できるベンゾジアゼピンは下記のものを包含するが、これらに限定されない:アルプラゾラム、クロルジアゼポキシド、クロルジアゼポキシド塩酸塩、クロルメザノン、クロバザム、クロナゼパム、クロラゼペート二カリウム、ジアゼパム、ドロペリドール、エスタゾラム、フェンタニルシトレート、フラゼパム塩酸塩、ハラゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム塩酸塩、オキサゼパム、プラゼパム、クアゼパム、テマゼパム、およびトライゾラム。アモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、アプロバルビタール、ブタバルビタールナトリウム、ヘキソバルビタールナトリウム、メホバルビタール、メタルビタール、メトヘキシタールナトリウム、ペントバルビタール、ペントバルビタールナトリウム、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、セコバルビタール、セコバルビタールナトリウム、タルブタール、チアミラールナトリウム、およびチオペンタールナトリウムは、本発明において使用するために適当なバルビツエートである。
【0187】
H. アルコール中毒および/または嗜癖の傾向のある個体を同定する診断方法
一般的因子が哺乳動物におけるアルコールに対する行動的応答に影響を及ぼすという増大しつつある証拠が存在する(J.C. Crabbe、J.K. Belknap、K.J. Buck、Science 264:1715−23(1994);K. Demarest、J. McCaughram,Jr.、E. Mahjubi、L. Cipp、R. Hitzenmann、Journal of Neuroscience 19:549-61(1999))。ヒトの個体群において、アルコール乱用およびアルコール中毒は遺伝的成分を有することが広く証明されてきているが、特定の確実な遺伝子に関する情報は制限されている(V. Hesselbrock、The Genetics of Alcoholism H. Begleiter、B. Kissin、編(Oxford、New York、1995)pp.17-39;T. Reich他、American Journal of Medical Genetics 81:207-15(1998))。
【0188】
アルコールに対する急性感受性によりアルコール中毒の発生に対する遺伝的危険を予測できることを証拠は示している。エタノールに対するより大きい急性応答を証明したアルコール中毒の息子は、より低い応答を証明したものよりアルコール中毒になる可能性が低かった(M.A. Schuckit、American Journal of Psyciatry 151:184-9(1994))。アルコール以外の乱用薬物に対する嗜癖の遺伝学はよく理解されていないが、多数の人は2以上の乱用薬物に対して嗜癖となる傾向がある。
【0189】
PKCεの遺伝子を欠如する突然変異マウスはエタノールの急性投与量に対していっそう感受性であり、野生型マウスよりも非常に少ないアルコールを自己投与し、そしてそれらはエタノール投与後にドーパミンレベルのピークを達成しないことを本発明者らは発見した。これにより示されるように、PKCε遺伝子はエタノールに対する感受性およびアルコール中毒および/または他の乱用薬物に対する嗜癖を発生する危険に影響を及ぼす。人の遺伝子によりコードされるPKCεタンパク質の活性を決定し、そしてこのような人が飲酒家になる可能性を予測するためにこのような情報を使用する試験は、本発明の他の面である。このような試験を実施するキットは、本発明のなお他の態様である。
【0190】
PKCε活性レベルは多数の方法で測定することができる。例えば、人の2つのPKCεアレレの各々をコードする核酸配列を配列決定し、コードされたPKCεタンパク質のアミノ酸配列を推定することができる。両方のアミノ酸配列が野生型PKCεの配列と同一でありかつ調節的であることができる遺伝子の非コーディング部分の中に突然変異が発見されない場合、このような人のPKCε活性は対照集団からの個体において報告されたPKCε活性の領域内に入ると仮定することができ、そしてこのような人は飲酒家になる素因をもたないとして分類されるであろう。
【0191】
PKCεアミノ酸配列のいずれかが野生型PKCεタンパク質の配列と異なる場合、このような「突然変異」PKCεタンパク質の活性は、例えば、下記の方法により測定することができる:1)このような「突然変異」PKCεタンパク質の活性が以前に測定されているかどうかを決定する;2)「突然変異」PKCεタンパク質をin vitroまたは試験細胞中で発現させ、そして既知の方法によりその活性をアッセイする;または3)このような「突然変異」PKCεタンパク質の活性のコンピューターシミュレーションを実施する。非コーディング領域の中に突然変異が存在する場合、PKCε発現に対するこのような突然変異の効果をPKCεタンパク質の転写、翻訳または量の直接的測定により評価することができる。
【0192】
あるいは、PKCεタンパク質を含有する試料を試験している個体から入手し、そして前記PKCεタンパク質の活性をPKCε活性についての多数のアッセイの1つにより直接測定することができる。
【0193】
試料を核酸分析のために使用すべき場合、それは核DNAを有する任意の細胞または組織源から得ることができる。試料をタンパク質分析のために使用すべき場合、それはタンパク質が存在する細胞または組織源から収集しなくてはならない。このような細胞または組織はニューロン、アストログリア(astroglial)細胞、プルキニエ(purkinje)細胞、リンパ球、好中球および表皮ケラチノサイトを包含する。
【0194】
個体のPKCε活性レベルを標準値と比較して、個体が飲酒家になる可能性を決定する。標準値は通常(1)対照集団において同一型の試料についてのPKCε活性の範囲または(2)飲酒家の対照集団において同一型の試料についてのPKCε活性の範囲。標準値(1)および(2)の両方との比較は可能であり、そして個体が飲酒家になる可能性の確証となる証拠を提供することができる。
【0195】
前述の第1の一般的標準値、すなわち、対照集団における同一型の試料についてのPKCε活性の範囲は、典型的には、最高の相関を保証するために試験する試料にこの方法を適用するとき使用される、同一アッセイ技術を使用して得られる。比較を行う対照値の統計的に有意である範囲を生成するために十分な測定を適当な対照集団内で実施する。適当な対照集団が試験する特定の患者に依存して変化することが理解される。
【0196】
好ましくは、対照集団のメンバーがアルコール中毒に罹らず、PKCε活性レベルに影響を与えることが知られている特性または症状(アルコール中毒以外の)に関して試験する患者とほぼ合致するように、対照集団を選択する。こうして、この集団から測定されるPKCε活性レベルの範囲は、試験する個々の患者についてのPKCε濃度または活性の基線として働く。多数の場合において、適当な対照集団は正常の健康なヒトから成るであろう。試験する患者がPKCε活性レベルの増加に寄与することがあるアルコール中毒に無関係の症状を含まないとき、正常の健康なヒトから成る対照集団は特に適当である。試験する患者が、PKCεレベルの増加に関連する、アルコール中毒に向かう傾向以外の、症状を有することが知られているとき、適当な対照集団は好ましくは同一症状を有する集団である。
【0197】
しかしながら、本発明の方法のすべての適用について実際の対照集団を測定しなくてはならないことを、前述の論考は示唆していない。いったん臨床的に満足な標準が確立されると、この決定された標準範囲は、対照集団をさらに試験しないで、引き続く評価に使用することができる。また、他の障害に関連するPKCεレベルの増加を考慮することによって、任意の患者についてのPKCεレベルを正常のヒトの対照に関係づけることができる。
【0198】
前述の第1の一般的標準値を得るために、適当な対照集団についてのPKCε濃度または活性を多数の方法で測定することができることは明らかであろう。例えば、それは関係する科学的または臨床的文献中の値から推定することができ、それは測定した値と推定した調節因子(すなわち、PKCε活性に影響を与える、アルコール中毒に向かう傾向以外の、症状の存在または非存在についての調節)との組合わせから構成することができるか、あるいはそれは実際に測定することができる。
【0199】
上記別法として記載した第2の一般的標準値は、飲酒家の集団における同一型の試料からのPKCε濃度または活性の範囲である。典型的には、飲酒家の集団におけるPKCε濃度または活性の測定は、試験の適用において使用したのと同一の技術を使用して実施される。
いずれかの一般的標準値を分析試料のPKCε値との比較に使用するとき、飲酒家になる可能性の増加を示す限界濃度または活性は任意の適当な統計的方法により決定することができる。適当な対照集団について前もって決定したPKCε濃度または活性範囲の平均を前述した濃度または活性は、アルコール中毒の開始が特定の確実性水準で起こる限界値を示すであろう。
【0200】
統計を知っているものは認識するように、アルコール中毒の素因の陽性的指示として使用する標準偏差の数字は、適当な診断目標を考慮して選択される。平均から1より大きい標準偏差の濃度または活性は、特に他の危険因子と組み合わせた、アルコール中毒の素因と相関させることができる。平均から2より大きい標準偏差の濃度または活性は、一般に、統計的有意性を示し、アルコール中毒の素因を予測させる。
【0201】
したがって、3より大きい標準偏差の濃度または活性値はより高い確実度でアルコール中毒の素因を予測させ、そして4より大きい標準偏差の値はなおより高い確実度でアルコール中毒の素因を予測させる。また、認識されるように、対照集団について観測された範囲外である濃度または活性レベルは統計的に有意な値である。好ましくは、アルコール中毒の素因の陽性の指示を反映すると考えられるPKCεの特定の濃度または活性は主治医により最もよく選択され、患者の症状ならびにアルコール中毒を発生する他の危険因子の存在に依存して変化するであろう。
【0202】
第2標準値を得ることができるアルコール中毒集団を構成する人は、アルコール依存症について記載された基準を満足する個体として同定することができる。
【0203】
こうして、本発明の1つの面は、アルコール中毒または薬物依存症に対する人の感受性を測定する方法である。この方法は次のようにして実施することができる。人のPKCεの活性または濃度を測定し、ほぼ同一のPKCεの活性または濃度を有する人の統計的に有意なグループの中の薬物乱用者の百分率と相関する嗜癖危険因子を人に帰属させることによって実施することができる。あるいは、この方法は次のようにして実施することができる。適当な試料(すなわち、人からのPKCεまたはPKCεをコードする核酸)中のPKCε活性または濃度を分析し、乱用薬物に対する依存症に関する既知の特性を有する人の集団から得られた同様な試料についての、それぞれ、PKCε活性または濃度の範囲から選択した標準値と、人のPKCε活性または濃度を比較し、前記PKCεの活性または濃度を前記標準値に関係づけ、ここで統計的に異なる活性または濃度は、前記乱用薬物の依存症または乱用者になる前記人の可能性の程度を予測させる。
【0204】
本発明の他の態様は、適当な試料中のPKCε活性または濃度をアッセイする成分および、前記PKCε活性または濃度を前もって決定した標準値と比較し、前記PKCε活性または濃度と前記前もって決定した標準値との間に存在する統計的有意差が乱用薬物の依存症または乱用者になる可能性の増加または減少を予測するかどうかを決定する説明書を含んでなるキットまたは製造物品である。
【0205】
下記の実施例により、本発明を詳細に説明する。下記の製造および実施例は、本発明をいっそうよく理解し、実施できるように記載される。しかしながら、本発明は、本発明の単一面の例示を意図する、示された態様により限定されず、そして機能的に同等である方法は本発明の範囲内に入る。事実、本明細書に記載するものに加えて本発明の種々の変更が、上記説明および添付図面から、当業者にとって明らかとなるであろう。このような変更は本発明の範囲内に入ることを意図する。
【実施例】
【0206】
A. 実施例1:PKCε-/-マウスの発生
エタノールは、PKCε依存的メカニズムにより、PC12細胞におけるマイトジェン活性化プロテインキナーゼおよび神経突起成長のNGF誘導活性化を増強する(Roivainen他、1993、Brain Res. 624:85-93;Roivainen他、1995、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:1891-1895;Hundle他、1995、J. Biol. Chem. 270:30134-30140;Hundle他、1997、J. Biol. Chem. 272:15028-15035)。ニューロンの可塑性(NestlerおよびAghajanian、1997、Science 278:58−63)は薬物依存症に寄与することがあるので、マウスにおける行動モジュレート作用におけるPKCεの役割に我々は関心をもつようになった。下記において、相同的組換えによるPKCε-/-マウスの発生を記載する(Joyner AJ、編、Gene Targetin.g、The Practical Approach Series、編、Rkcwood D.およびHarries B.D. 1993、IRL Press、New York)。
【0207】
すべてのエクソンIおよび下流のイントロン配列の一部分を含む、マウスPKCεのゲノムDNA配列の1.5kbを「ノックアウト」するターゲッティングベクターをつくるような戦略を設計した。ターゲッティングベクターをつくるために、マウスPKCεcDNA(94)からの813bpのフラグメントをPCRにより増幅した。ラムダFLX 11 129マウス肝臓ゲノムライブラリー(Stratagene #946308)(Stratagene、カリフォルニア州ラジョラ)をスクリーニングするために、このフラグメントを使用した。2つの13kbおよび15kbのオーバーラッピングゲノムライブラリーを選択し、pBluescript 11 SK+(Stratagene)のNod部位の中にサブクローニングした。クローンをBamHIおよびEcoRI制限酵素で消化し、フラグメントをpBluescript 11 SK+の中にサブクローニングした。20酵素を使用する制限消化によりサブクローンを分析して、ゲノム地図を構成した。いくつかのクローンを使用して、ATG開始コドンに対して5'の約1700bpの配列を同定した。
【0208】
第1図はPKCε-/-マウスの発生を描写する。ターゲッティングベクター(第1A図)により導入されたユニークApaI部位(A*)は、突然変異ゲノムDNAのApaIおよびScaI消化物のサザンブロット上の1.6kbのフラグメントの検出を可能とする。第1B図は、雄キメラおよびC5BI/6J雌のヘテロ接合性子孫に生まれたマウスの子からの尾部試料のサザンブロットを示し、ここで1.6kbのフラグメントが放射能標識化プローブで可視化されている。7つのホモ接合性ノックアウトからの試料を含有するレーンは性により標識されている。第1C図は、野生型(+/+)、ヘテロ接合性(+/−)およびノックアウト同腹子からの脳試料の抗PKCε抗体を使用するウェスタンブロットを描写する。
【0209】
1.0kbのBssHII「短いアーム」のフラグメント(ATG開始コドンから5'の60bpから開始する)をベクターpNTKのBamHI部位の中にクローニングした(Steward他、1987、EMBO J. 6:383-388;Current Protocols in Molecular Biology、Ausubel他、編、1993、John Wiley & Sons、Unit 9.16)。このベクターは、正の選択のためのネオマイシン耐性遺伝子および負の選択のための単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(TK)配列を含有し、両方はPGKプロモーターに由来する。PKCεの第1エクソンから下流の6.1kbのStuIのゲノム「長いアーム」のフラグメントを、短いアームを含有するpNTK構築物のHindIII部位の中にクローニングした。
【0210】
次いで完結した構築物をClaIで線状化し、129/RF8胚幹細胞の中へのエレクトロポレーションによりトランスフェクトした。Meiner他、1996、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93:14041-14046。ネオマイシンおよびFIAUの存在下に培養することによって、クローンを選択した。400の耐性クローンを拡張し、サザン分析により検査した。9つの正しくターゲッティングされたクローンを同定し、2つを3.5日の胚C5BI/6J芽細胞の中にマイクロインジェクトした。
【0211】
3つの80〜90%のアグーティ毛皮色の雄キメラをC5BI/6J雌と交配させた。SmaIおよびApaIを使用する消化後、新規な1.6kbnoDNAフラグメントを検出するプローブを使用するサザン分析により、生殖細胞系統の伝達を証明した(第1図)、ヘテロ接合性マウスの交配は突然変異に対してホモ接合性の7匹のマウスを最初に産生し、そして1匹の動物のウェスタン分析は他のPKCイソ酵素のレベルを補償的に増加させないで(第2図)脳中のPKCε免疫反応性の非存在を明らかにした(第1図)。
【0212】
B. 実施例2:PKCε-/-マウスのCNS形態学
実施例1に記載する手順を使用して、80匹を超えるPKCε-/-マウスの総数を同定した。突然変異マウスにおけるCNS形態学を次のようにして特性決定した。
【0213】
全体の脳構造は、ヘマトキシリンおよびエオシンの染色により、肉眼的および顕微鏡的に正常であるように見える。しかしながら、線維染色は6月齢のノックアウトマウスのCAIセクターの放線状層において構造的異常性を明らかにする。そこで、MAP-2免疫反応性先端樹状突起はより短く、野生型同腹子対照よりも初期に分岐するように思われる(第3図)。さらに、アセチルコリンエステラーゼについての染色はPKCε-/-マウスの海馬のコリン作動性関与の減少を明らかにする(第4図)。海馬形態のこれらの変更にかかわらず、Morris水迷路により評価して、6週齢PKCε-/-マウスにおいて空間的学習の欠如は見出されなかった。
【0214】
C. 実施例3:PKCε-/-マウスにおける行動の研究
下記はPKCε-/-マウスの行動の分析である。
基本的特性決定 PKCε-/-マウスは、約60日齢において同腹子野生型対照に比較して、2週の期間にわたって正常の体重、飲食を証明した(第5図)。同様に、PKCε-/-マウスは、3回の毎日1時間の試験の間に野生型対照に比較して、正常の自発的歩行行動および新奇な環境に対するハビテーションを証明した(第6図および表1)。
【0215】
【表1】
【0216】
不安に関係する行動
PKCε-/-マウスは正常の全般的歩行行動を示したが、それ以上の分析において、PKCε-/-マウスはオープンフィールド活動、新奇な物体、および高いプラス迷路の動作の特定の測度について野生型対照と有意に異なることが明らかにされた。例えば、PKCε-/-マウスは移動距離の2倍の増加、オープンフィールドの中心領域における、静止に消費した時間の3倍の増加を証明した(第7図および第8図)。これらの発見の両方は、突然変異マウスにおける不安レベルの減少と一致する。
【0217】
PKCε-/-マウスは、また、新奇な物体がオープンフィールドの中心に配置されたとき、探索行動を2倍増加し、これはまた不安レベルの減少を示唆する。そのうえ、高いプラス迷路、すなわち、不安のよく規定された試験において試験したとき、PKCε-/-マウスは、対照に比較して、2倍の移動距離、訪問時間、歩行時間、およびオープンアームにおける静止時間を示した(第9図)。これらのデータは、PKCεが不安の調節において重要な役割を演ずるという新しい発見を表す。
【0218】
エタノールおよびGABAAアゴニストの鎮静作用
GABAAレセプターはエタノールの鎮静作用をモジュレートすることが広く知られている(AllanおよびHarris、1987、Pharmacol. Biochem. Behav. 27:665-670;MehtaおよびTicku、1988、J. Pharmacol. Exp. Ther. 246:558-564)。しかしながら、エタノールの作用に対して感受性のGABAAレセプターとプロテインキナーゼCイプシロン(PKCε)イソ酵素との間の関係はよく規定されていない。この研究の1つの目的は、立直り反射のエタノール誘導喪失(LORR)の開始および期間により測定して、エタノールの鎮静作用のモジュレーションに関係づけられるかどうかを決定することであった。
【0219】
PKCεを欠如する突然変異マウスおよび野生型対照に3種類の投与量のエタノール(3.2、3.6、および4.0g/kg/i.p.)を注射し、次いでLORRの潜伏期および期間を測定した。すべてのマウスはLORR期間の投与量依存的増加を示した。PKCεノックアウトマウスは、野生型対照よりも有意に高いLORR期間を有することが見出された(第10図)。この作用がGABAAレセプター活性の変化により仲介されるかどうかを決定するために、GABAAアゴニストのペントバルビタールの鎮静投与量の作用を試験した。PKCε-/-マウスは、ペントバルビタールの鎮静作用に対する2倍大きい感受性を示した(第11図)。これが示唆するように、PKCεはGABA作動性メカニズムを通してエタノールの鎮静作用をモジュレートする。これらの実験の最新バージョンは、下記の実施例5および6に記載されており、そして第13C図および第14A図に描写されている。
【0220】
D. 実施例4:PKCε-/-マウスにおけるアルコール消費はそれらの野生型同腹子のそれよりも有意に少ない
PKCεがエタノール消費をモジュレートするかどうかを決定するために、野生型マウスおよびPKCεを欠如する突然変異マウスにおいてエタノール偏好飲用を比較した。発表された方法(C. Hodge、C. Slawecki、A. Aiken、Alcohol Clin. Exp. Res. 21:250-260(1996))を使用してエタノール偏好飲用を検査し、これによりマウスは2本の飲用びんに連続的にアクセスし、一方は水を含有し、そして他方は増加する濃度のエタノールを含有した。12匹のPKCε+/+マウスおよび12匹のPKCε-/-マウスを平行して試験した。
【0221】
水が唯一の入手可能な流体である1週の順化期間後、マウスにエタノール(2%)および水を選択させた。2本のびんの飲用の時限を23時間/日、7日/週を実施した。暴露期間の過程の間に、エタノール濃度を2.0%から14%に増加させ、マウスは下記のエタノール濃度の各々に4日間アクセスさせた:2、4、6、10、14%。各日に、マウスを秤量し、個々の保持室に入れ、その間流体をホームケージ(home cage)に取り付けた。23時間の流体のアクセス期間の開示および終了に、初期の流体レベルを最も近いミリミットルデで記録した。各溶液の位置(左または右)を毎日交互して副偏好についてコントロールした。
【0222】
PKCε突然変異マウス(PKCε-/-)は、野生型同腹子対照(PKCε+/+)マウスよりも有意に少ないエタノールを随意に消費した(第12A図)。両方の遺伝子型はエタノールよりも水を好んだが、PKCε-/-マウスはPKCε+/+マウスに比較してエタノールの偏好の75%の減少を示した(第12B図)。エタノール偏好飲用の試験の間に、毎日の流体摂取において差は観測されなかった(エタノール+水のml数:PKCε+/+について6.6±0.3/PKCε-/-について6.2±0.24)。
【0223】
エタノール摂取の減少は食欲または流体均衡の一般的崩壊により影響を受けることがあるので、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの毎日の体重および消費行動を2週の期間にわたって測定した。遺伝子型の間の体重、食物、または水の摂取において有意差は存在しなかった(第12C図、第12D図、第12E)。示差的味覚反応性がまたエタノール摂取に影響を及ぼすことがあることが与えられると、エタノール自己投与手順後1月に、味覚新奇恐怖症を検出できる順序均衡(order-balanced)実験の設計において、同一マウスをサッカリン(甘い物)およびキニン(苦い物)の摂取および偏好について試験した(J.C. Crabbe他、Nature Genetics 14:98-101(1996))。
【0224】
サッカリンナトリウム塩およびキニンヘミサルフェート塩(Sigma、ミゾリー州セントルイス)を水道水中に溶解した。これらの溶液をそれらの強い味覚、カロリー値の欠如、および混同する薬理学的作用の非存在について使用する。PKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間において、各濃度において2日にわたる平均のサッカリンまたはキニンの摂取における差(第12E図)、または水に関する偏好における差が存在しなかった。こうして、PKCε-/-マウスによるエタノール摂取の減少およびエタノール偏好は、遺伝子型の消費行動の遺伝子型の欠如または特定の味覚新奇恐怖症に関係するように思われない。
【0225】
E. 実施例5:PKCε-/-マウスはエタノールの活性化および鎮静作用に対して過敏性である
ヒトにおけるアルコール中毒を発生する危険の減少およびマウスにおける随意のエタノール摂取の減少の両方は、エタノールの急性作用に対する感受性の増加に関連する(M.A. Schuckit、American Journal of Psyciatry 151:184-9(1994);T.E. Thiele、D.J. Marsh、L. Ste. Marie、I,L. Bernstein、R.D. Palmiter、Nature 396:366-9(1998))、エタノールの急性作用に対するPKCε-/-マウスの感受性を試験した。マウスにおいて、低い投与量の急性エタノールは歩行活性化を産生したが、高い投与量は鎮静を生ずる(D.A. Finn.、P.J. Syapin、M. Bejanian、B.L. Jones、R.T. Alkana、Alcoholism,Clinical and Experimental Research 18:382-6(1994);G.D. Frye、G.R. Breese、Psycopharmacology 75:372-9(1981))。
【0226】
外部の騒音をマスクする排気ファンを装備した消音キュービクルの中に位置するプレクシグラスチャンバー(17×17インチ)中で、素朴なPKCε-/-マウス(n=6)およびPKCε+/+マウス(n=6)の自発的歩行活動およびハビテーションを測定した(Med Associates、インジアナ州ラファエッテ)。2組の16パルスのモジュレートした赤外線を対向する壁上に1インチの中心に配置して、X−Y歩行運動を記録した。100ミリ秒の分解能において採取したデータのために、活動チャンバーをコンピューターインターフェースした(Med Associates、インジアナ州ラファエッテ)。活動の試験の1週前に、マウスを取扱い、毎日秤量した。水平移動距離(cm)を3日間毎日1時間記録した。これらの実験において、自発的歩行活動および新奇な環境に対するハビテーションは、突然変異マウスと野生型マウスとの間で異ならなかった(第13A図)。
【0227】
しかしながら、活性モニター開始直前に2g/kgのエタノール(歩行活性化を誘導するために十分な量)を雄マウスに急性腹腔内注射したとき、PKCε-/-マウスはPKCε+/+マウスよりも15分の期間にわたって歩行活動の2倍の増加を示した(第13B図)。
【0228】
ある範囲の鎮静投与量のエタノール(3.2、3.6、および4.0g/kg/i.p.)を投与した後、マウスを背中を下にして置き、立直り反射の喪失(LORR)について試験した。LORRは30秒の間隔の範囲内に立直り反射を完結する不能として定義された。LORRの期間は、LORRと立直り反射の復帰との間の時間間隔として定義された。PKCε-/-マウスは、ペプチド同腹子に比較して、立直り反射を回復するために必要な時間の投与量に関係する2倍の増加を示した(第13C図)。
【0229】
PKCε-/-マウスにおいて観測されたエタノールに対する感受性の増加がエタノールの示差的吸収、分布、またはクリアランスのためであるかどうかを試験するために、尾静脈から20μlの血液試料を抜き出すことによって、エタノール腹腔内投与(4.0g/kg)後10〜180分における血液エタノール濃度を測定した。1.8mlのトリクロロ酢酸溶液を含有する遠心管に血液を添加し、渦形成により混合した。シグマ・アルコール・診断キット(Sigma Alcohol Diagnstic Kit)322(Sigma、ミゾリー州セントルイス)。
【0230】
エタノールのクリアランスはPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの両方において正常のパターン(報告されたものと一致する(T. Miyakawa他、Science 278:698-701(1997))を示した(第13D図)。こうして、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの間において観測されたエタノールの急性歩行活性化および鎮静作用に対する示差的感受性は、突然変異マウスにおける示差的運動能力またはエタノール反応速度の関数よりむしろPKCε活性の喪失に直接帰するように思われる。
【0231】
F. 実施例6:PKCε-/-マウスはアロステリックGABAAアゴニストの活性化および鎮静作用に対して増強した感受性および直接的GABAAアゴニストおよびNMDAアンタゴニストに対する正常の感受性を示す
脳および行動プロセスに対する多数のエタノールの作用はGABAAレセプターの機能の変化により仲介される(C.W. Hodge、A.A. Cox、Psycopharmacology 139:95-107(1998):A. Allan、R. Harris、Pharmocology,Biochemistry & Behavior 27:665-670(1987))。
【0232】
生化学的証拠が示すように、GABAAレセプターを直接的にPKCによりリン酸化することができ、そしてPKCは海馬CA1ニューロンにおけるGABA作動性電流を調節する(B.J. Krishek他、Neuron 12:1081-95(1994);P. Poisbeau、M.C. Cheney、M.D. Browning、I. Mody、Journal of Neuroscience 19:674-83(1999);J. Weiner、C. Valenzuela、P. Watson、C. Frazier、T. Dunwiddie、Journal of Neuroscience 68:1949-1959(1997))。
【0233】
同様に、NMDAレセプターはエタノールに対する急性応答を仲介し、そしてそれらはPKCによりリン酸化される(D.M. Lovinger、G. White、F. Weight、Science 243:1721-1724(1989);P.C. Suen他、Brain Res. Mol. Brain Res. 59:215-28(1998))。PKCεとGABAAレセプター機能またはNMDAレセプター機能との間の潜在的連結を検査するために、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおけるアロステリックGABAAアゴニスト、直接的GABAAアゴニストおよびNMDAアンタゴニストの作用を試験した。
【0234】
30、40、または50mg/kgのペントバルビタールまたは20、30、または40mg/kgのジアゼパムの腹腔内注射後、実施例5におけるようにPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおいて立直り反射の喪失(LORR)を試験した。突然変異マウスは、対照マウスに比較して、ペントバルビタール、すなわち、アロステリックGABAAアゴニストの鎮静作用に対して投与量に関係する3倍の大きい感受性を示した(第14A図)。そのうえ、PKCε-/-マウスは、ペントバルビタールおよびベンゾジアゼピン族の1メンバーよりも、ジアゼパム、すなわち、より選択的なアロステリックGABAAアゴニストの鎮静作用に対して30倍多く感受性であった(第14B図)。
【0235】
より低い投与量がいずれの遺伝子型においても立直り反射の喪失(LORR)測度を生成しないという事実のための、PKCε-/-マウスにおけるジアゼパムの鎮静作用についての完全な投与量応答曲線を決定することができなかったので、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおける0.5、1.5および4.0mg/kgの腹腔内注射の歩行活性化作用を実施例5に記載する方法により評価した。突然変異マウスは、野生型マウスに比較して、ジアゼパムの急性注射後、移動距離の有意な増加を示した(第14C図)。
【0236】
アロステリックGABAAアゴニストのジアゼパムおよびペントバルビタールに対するPKCε-/-マウスの感受性の増大と対照的に、ムシモール、すなわち、直接的GABAAアゴニストの0.1、0.2および0.4mg/kgの腹腔内注射に対するPKCε-/-マウスの歩行の応答は同様に処置したPKCε+/+マウスのそれと区別できなかった(第14D図)。
【0237】
最後に、非競合的NMDAアンタゴニストMK-801の0.01、0.02、0.03mg/kgの腹腔内注射の歩行活性化作用を実施例5に記載する方法により検査した。MK-801に対する応答において突然変異マウスと野生型マウスとの間に差は観測されなかった(第14E図)。
これらのデータが証明するように、PKCε-/-マウスはアロステリックGABAAアゴニスト、例えば、バルビツエートおよびベンゾジアゼピンの急性鎮静作用および歩行活性化作用に対して過敏性であるが、直接的GABAAアゴニストまたはNMDAアンタゴニストにより示差的に影響を受けない。
【0238】
G. 実施例7:GABAAレセプターの機能はPKCεインヒビターで処置されたPKCε-/-マウスおよび野生型マウスにおいて変更される
実施例5および6において証明されたエタノール、ペントバルビタール、およびジアゼパムに対するPKCε-/-マウスの感受性の増加は、PKCεはGABAAレセプターのアロステリックモジュレーションに選択的に影響を及ぼすことができることを示唆する。GABAAレセプターの機能を野生型マウスおよび突然変異マウスにおいて直接試験した。
【0239】
GABAAレセプターはそれらの活性化がCl-コンダクタンスを増加するリガンド−ゲーテッドイオンチャンネルであるので、発表された方法の変更されたバージョンを使用して前頭皮質から調製した膜小胞(マイクロサック)中の36Cl-フラックスを測定することによって、GABAAレセプターの機能モニターし(Leidenheimer、N.J.、McQuilkin、S.J.、Hahner、L.D.、Whiting、P. & Harris、R.A.、Activation of protein kinase C selecively inhibits the γ-aminobutyric acidA receptor:role of desensitizaition、Mol. Pharmacol. 41:1116-1123(1992);Harris、R.A. & Allan、A.M.、Functional coupling of gamma-aminobutyric acid receptors to Chloride channels in brain membranes、Science 228:1108-10(1989))ここでアッセイ緩衝液は下記のプロテアーゼインヒビターを含有した:40μg/mlのロイペプチン、40μg/mlのアプロニチン、25μg/mlのダイズトリプシンインヒビター、および1mMのフッ化フェニルメチルスルホニル。
【0240】
34℃の震盪水浴中で5分間インキュベートした後、200μlの36Cl-(0.2μCi/mlのアッセイ緩衝液)を含有する溶液を添加し、直ちに撹拌することによって、200μlの膜アリコート中で塩化物の吸収を開始した。薬物(ムシモール、フルニトラゼパム、またはエタノール)を36Cl-溶液にのみ添加した。36Cl-の添加後5秒に、ヘファー(Hoefer)マニホールド(Hoefer Scientific、カリフォルニア州サンフランシスコ)を使用して、2.5cmのワットマン(Whatman)GF/Cガラス製ミクロフィルター上に真空(10〜15インチHg)下に4mlの氷冷アッセイ緩衝液を添加し、急速に濾過することによって、流入を停止した。追加の12mlの氷冷アッセイ緩衝液でフィルターを洗浄した。フィルターをフィルトロン(Filtron)−X(National Diagnostics)の中に沈め、フィルター上の放射能の量を液体シンチレーション分光光度測定により測定した。ムシモール依存的吸収は、ムシモールが媒質中に存在する間に吸収された36Cl-の全量−ムシモールが存在しないときの36Cl-の吸収量として定義した。
【0241】
直接的GABAAレセプターアゴニストのムシモールにより刺激されたCl-吸収は、ノックアウトおよび野生型同腹子において類似する(第15A図)。しかしながら、エタノールまたはフルニトラゼパム、すなわち、ベンゾジアゼピンによるムシモール刺激Cl-吸収の増強は、PKCε-/-マウスからのマイクロサックにおいて2倍大きかった(第15B図)。これらの発見が証明するように、PKCε突然変異マウスの前頭皮質中のGABAAレセプターはエタノールおよびベンゾジアゼピンによりアロステリックモジュレーションに対していっそう感受性である。GABAAレセプターのアロステリックモジュレーターに対するこの感受性の増大は、PKCε仲介シグナルトランスダクションの欠如ためであろう。
【0242】
PKCε-/-マウスのGABAAレセプターのアロステリックモジュレーターに対する感受性の増強が成体マウスにおけるPKCε機能の障害の結果であり、そして発生の間のPKCεの非存在に主として起因しないことを確かめるために、PKCεの選択的インヒビターであるεV1-2で処置した野生型マイクロサックにおいて、ムシモール刺激Cl-吸収を検査した(J.A. Johnson、M.O. Gray、C.-H. Chen、D. Mochly-Rosen、Journal of Biological Chemistry 271:24962-24966(1996))。
【0243】
マイクロサックを前述したように野生型マウスから調製し、4℃において、100μMのεV1-2(EAVSLKPT)またはS-εV1-2(LSETKPAV)ペプチドの存在または非存在下に、下記の成分を含有する透過可能化緩衝液で15分間処理した:140mMのKCl、10mMのEGTA、20mMのHEPES(pH7.4)、50μg/mlのサポニン、5mMのアジ化ナトリウム、5mMのシュウ酸カリウム、6mMのATP、および0.2%(w/v)の無プロテアーゼウシ血清アルブミン(Johnson、J.A.他、J. Biol. Chem. 271:24962-24966(1996))。900×g、4℃において15分間遠心した後、マイクロサックをアッセイ緩衝液+プロテアーゼインヒビターの中に再懸濁させ、氷上でさらに15分間インキュベートした。次いでマイクロサックを900×g、4℃において15分間遠心した後、36Cl-吸収をアッセイする直前に、アッセイ緩衝液の中に5mg/mlのプロテアーゼインヒビターとともに再懸濁させた。
【0244】
εV1-2とのインキュベーションはムシモール刺激Cl-吸収に対するフルニトラゼパムの増強作用を著しく増加したが、このペプチドのスクランブルドバージョン、S-εV1-2とのインキュベーションは作用をもたなかった(第15C図)。PKCεインヒビターεV1-2によるPKCε-/-マウスのマイクロサックの処理は、マイクロサックにおけるムシモールおよびフルニトラゼパム刺激36Cl-吸収に影響を与えなかった。成体のニューロンにおけるPKCε仲介シグナリングの非存在は、PKCε突然変異マウスにおけるアロステリックモジュレーターに対するGABAAレセプターの感受性の増強に関係するという結論を、これらの結果は強く支持する。
【0245】
H. 実施例8:PKCε-/-マウスにおけるGABAAレセプターの機能のモジュレーションは他のPKCイソ酵素の発現の変更のためではない
PKCγを欠如する突然変異マウスはエタノールに応答してGABAAレセプター機能の増強の減少を示す(R.A. Harris他、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:3658-3662(1995))ので、PKCε-/-マウスにおいて前述したエタノールおよびGABAAアゴニストの作用はPKCγまたは他の1またはそれ以上のPKCイソ酵素のアップレギュレートのためであることがある。
【0246】
この理論を試験するために、種々のPKCイソ酵素のウェスタン分析(B. Hundle他、Journal of Biological Chemistry 272:15028-35(1997))をPKCε-/-マウスからのタンパク質試料について実施した。PKCε以外のPKCイソ酵素のレベルの変更はPKCε-/-マウスにおいて観測されなかった(第15D図)。したがって、PKCε-/-マウスにおいて観測されたGABAAアゴニストに対する応答の変更は、他のPKCイソ酵素の存在量の変更よりむしろPKCεの喪失のためであるように思われる。
【0247】
I. 実施例9:PKCεはアルコールの禁断症状に影響を与える
GABAAレセプターの活性化はエタノール禁断症状の重症度を減少し(G.D. Frye、T.J. McCown、G.R. Breese、The Journal of Pharmocology and Experimental Therapeutics 226:720-725(1983));B.R. Cooper、K. Viik,R.M. Ferris、H.L. White、Journal of Pharmocology and Experimental Therapeutics 209:396-403(1979))そしてPKCε突然変異マウスはGABA作動性機能の増強と一致する行動および生化学的プロファイルを証明するので、エタノール誘導禁断発作をPKCε+/+マウスおよびPKCε-/-マウスにおいて試験した。エタノールに対して慢性的に暴露させた後、マウスを取扱うことによって、ハンドリング誘導痙攣(HIC)として知られている禁断発作をマウスにおいて誘導することができる。
【0248】
標準化HIC評価目盛り(表II)により測定した、発作の重症度は、エタノール依存症および禁断症状の定量的測度を表す(J.C. Crabbe、C. Merrill、J.K. Belknap、The Journal of Pharmocology and Experimental Therapeutics 257:663-667(1991))。食物および流体の唯一の源として5%のエタノールを含有する完全栄養の液状食事(Dyets、ペンシルベニア州ベツレヘム)の2週暴露させた後、禁断発作を4匹のPKCε+/+マウスおよび4匹のPKCε-/-マウスにおいて評価した。かごからエタノールを除去した後、2、4、6、および7時間後に発作をビデオ録画し、そして遺伝子型および薬物暴露に対してブラインドである観察者が等級づけた。時−点およびマウスを横切って、データを平均した。
第16図に示すように、PKCε-/-マウスは野生型同腹子に比較して発作重症度を50%減少させた。これらのデータはPKCεがエタノール禁断症状をモジュレートすることを証明し、そしてPKCεインヒビターがこのような症状を軽減または予防する。
【0249】
【表2】
【0250】
J. 実施例10:PKCεはニューロステロイドの活性をモジュレートする
ニューロステロイドは、血漿レベルに独立的した濃度で脳の中に見出されるステロイドホルモンである。アロプレウノロン(3アルファ−ヒドロキシ−5アルファ−プレグナン−20−オン)およびアロテトラヒドロコルチコステロン(THDOC)は、次のようなニューロステロイドである:1)GABAAレセプターへの結合ついてリガンド[35S]−t−ブチルビシクロ−ホスホロチオエート(TBPS)と競合する;2)GABAAレセプターに対するGABAおよびベンゾジアゼピンの結合をアロステリックに増強する;3)齧歯類に投与したとき、不安解消および精神機能減退作用を有する;4)GABAAレセプターに作用する因子、例えば、ビクリン、ピクロトキシン、およびペンチレンテトラゾールにより生成する発作を減少する;そして5)グリシンアンタゴニストのストリキニンにより誘導される発作を抑制しない。こうして、アロプレグナノロンおよびTHDOCはGABAAレセプターの内因的アロステリックモジュレーターである。
【0251】
PKCεはGABAAレセプターの内因的アロステリックモジュレーターであるベンゾジアゼピンの活性をモジュレートするので、ニューロステロイドの活性をモジュレートするPKCεの能力を試験した。PKCε-/-マウス(n=6)およびPKCε+/+マウス(n=4)から調製されたマイクロサックにおけるムシモール刺激Cl-吸収を、実施例7に記載する方法に従い0〜10-6Mの異なる濃度のアロプレグナノロンの存在下に測定した。
【0252】
第17図に示すように、10-12〜10-9Mの濃度のアロプレグナノロンはPKCε-/-マウスからのGABAAレセプターを実質的に活性化するが、PKCε+/+マウスからのGABAAレセプターの活性に対する作用を比較的にほとんどもたない。これらのデータが証明するように、PKCεはGABAAレセプターに対するニューロステロイドの作用をモジュレートする。ニューロステロイドは内因的であるので、このようなデータが示すように、PKCεインヒビターは、単独で(すなわち、GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの同時投与なしに)投与したとき、ニューロステロイドがモジュレートするGABAAレセプターの活性を増加するであろう。
【0253】
K. 実施例11:PKCεはストレスホルモンのレベルをモジュレートする
実施例3において論じた実験はPKCε-/-マウスがそれらの野生型同腹子よりも有意に少ない不安に関係する行動を表示することを証明したので、ストレスホルモンの基底レベルおよび不安誘導条件に応答したこのようなレベルの変化をこれらのマウスにおいて測定した。
【0254】
PKCε-/-マウス(それぞれ、n=13および13)およびPKCε+/+マウス(それぞれ、n=15および16)におけるラジオイムノアッセイにより、コルチコステロンおよびアドレノコルチコトロピックホルモン(ACTH)の基底レベルを測定した。また、不安誘導事象の1モデルである、プラスチックスリーブの中にマウスを10分間拘束した直後および1時間後に、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおいてコルチコステロンのレベルを測定した(Hauger、R.L.他、Endocrinology 123:396−405(1988))。
【0255】
第18図および第19図に示すように、PKCε-/-マウスはそれらの野生型同腹子よりも有意に(p<0.05)低い、それぞれ、コルチコステロンおよびACTHの基底レベルを示した。拘束直後におけるコルチコステロンのレベルは、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの両方において、基底レベルよりも実質的に高かった。PKCε-/-マウス(n=4)におけるコルチコステロンのレベルはこの時点(0時間)においてそれらの野生型同腹子(n=4)よりも低かったが、この差は有意ではなかった。コルチコステロンのレベルを再び1時間後に測定したとき、レベルはPKCε+/+マウス(n=6)においてわずかに増加し、そしてPKCε-/-マウスにおいて実質的に減少した。
【0256】
突然変異マウスと野生型マウスとの間におけるコルチコステロンレベルの差は、この時点(1時間)において有意(p<0.05)であった。これらのデータが証明するように、PKCεはストレスホルモンの基底レベルをモジュレートしかつ不安生成事象後の回復期間の間のこのようなホルモンのレベルをモジュレートした。データがまた示すように、PKCεインヒビターの投与は一般的不安を減少し、そして不安生成事象に対して適当に応答するレシピエントの能力を障害しないで、このような事象後の平静の再確立を促進する。
【0257】
L. 実施例12:PKCεはGABAAレセプターのアロステリックアゴニストである阻害性アミノ酸神経伝達物質のレベルをモジュレートする
PKCε-/-マウスにおいて観察された行動プロファイル(例えば、不安の減少、薬物禁断症状の減少、アルコール自己投与の減少、およびGABAAレセプターのアロステリックアゴニストの感受性の増大)は、内因的神経伝達物質またはGABAAレセプターの機能を仲介する神経伝達物質の変化を反映する。この可能性を研究するために、覚醒し、自由に運動するPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスの側座核中のアミノ酸レベルを下記の微量透析法により測定した。
【0258】
同心微量透析プローブ(Jolly、D.およびVezina、P.、J. Neurosci. Methods、68:259−267(1996);Robinson、T.E.およびCamp、D.M.、The feasibility of repeated microdialysis procedures for within-subjects design experiments:studies on the mesostriatal dopamine system.In T.E. RobinsonおよびJ.B. Justrice Jr.(編)、Microdialysis in the Neuroscience.7 Techniques in the Behavioral and Neural Science、Elsevier、アムステルダム、pp. 189-234(1991))を、案内カニューレを通して各6匹のPKCε-/-マウスおよび6匹のPKCε+/+マウスの側座核の中に外科的に移植した。プローブを人工的脳脊髄液(aCSF)で灌流し、動物を一夜回復させた。
【0259】
光ビーム(photobeams)を装備したオープンフィールドのチャンバーの中にマウスを入れ、透析試料管を10分の間隔で交換した。透析試料中のアミノ酸神経伝達物質の含量をHPLCおよび電気化学的検出により無勾配的に定量した(Donzanti、B.A.およびYamamoto、B.K.、An improved and rapid HPLC-EC method for the isocratic separation of amino acid neurotransmitters from brain and microdialysis perfusate、Life Sci.、43:913−922(1988);Gamache、P.、Ryan、E.、Svendsen、C.、Murayama,K.およびAcworth、I.N.、Simultaneous measurement of monoamines,metabolites and amino acids in brain tissue and microdialysis perfusates、J. Chromatogr. B. Biomed. Appl.,614:213-220(1993))。
【0260】
第20図に示すように、PKCε-/-マウス(n=6)における刺激性アミノ酸のアスパラギン酸塩、グルタミン酸塩およびグリシンおよび阻害性アミノ酸のガンマアミノ酪酸(GABA)のレベルはそれらの野生型同腹子(n=6)のそれらと有意に異ならなかった。しかも、阻害性アミノ酸のタウリンはPKCε+/+マウスにおけるよりもPKCε-/-マウスにおいて2倍高かった、有意差(p<0.05、t−検定)。タウリンはGABAAレセプターの内因的アゴニストであるので、これらのデータが証明するように、PKCε-/-マウスにおいて見られたGABAAレセプターの増大した活性(実施例6および7参照)は、これらのマウスにおいて増大したタウリンレベルに帰するレセプターの活性化の増加を一部分原因とする。こうして、PKCε活性を減少または排除することによってGABAAレセプターの活性を増加する2つのメカニズムがここにおいて証明される:タウリンレベルの増加およびアロステリックアゴニストに対するGABAAレセプターの感受性の増大。
【0261】
M. 実施例13:PKCεはドーパミンレベルの薬物誘導増加をモジュレートする
エタノールまたは他の乱用薬物の急性投与は、脳の側座核領域におけるドーパミンの細胞外レベルを短時間であるが、実質的に増加させることは十分に確立されている。この増加は、脳の腹側被蓋区域(VTA)に由来するニューロンの前シナプス終末からのドーパミンの放出により引き起こされ、薬物応報、および薬物依存症に導く強化の主要なメディエイターである。事実、側座核の中にドーパミンレセプターアンタゴニストを注射した後、処置された動物は薬物自己投与を減少する(Di Chiara、G.およびImperato、A.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5274-5278(1988))。実施例4において論じた実験はPKCε-/-マウスがそれらの野生型同腹子よりも有意に少ないアルコールを消費するので、側座核におけるドーパミンレベルの増加を誘導するエタノールの能力を試験した。
【0262】
生理食塩水の腹腔内注射、2.0g/kgのエタノールの腹腔内注射または無処置(基底)後の種々の時点においてカテコールアミンレベルを定量するように変更した、実施例12に記載する微量透析法(Gobert、A.、Rivet、J.-M.、Audinot、V.、Newman-Tancredi、A.、Cistarelli、L.およびMillan、M.J.、Simultaneous quantification of serotonin,dopamine and noradrenaline levels in single frontal cortex dialysis of freely-moving rats reveals a complex pattern auto- and heteroreceptor-mediated control of release、Neuroscience、84:413−429(1998))により、覚醒し、自由に運動するPKCε-/-マウス(n=8)およびPKCε+/+マウス(n=8)の側座核における細胞外ドーパミンレベルを測定した。
【0263】
第21図に示すように、エタノール投与後においてPKCε+/+マウスに見られるドーパミンレベルの一時的増加はPKCε-/-マウスにおいて起こらなかった。PKCε-/-マウスにおいて、エタノールへの暴露後、ドーパミンレベルの変化は観測されなかった。これらのデータが示すように、PKCεは側座核中の細胞外ドーパミンレベルのエタノール誘導増加をモジュレートする。こうして、PKCεはアルコール消費に関連する応報を経験する生物の能力およびこのような生物が消費するアルコールの量の両方に影響を与える。
【0264】
PKCε-/-マウスの側座核中のドーパミンレベルの一時的増加を誘導する他の乱用薬物の急性投与の能力を、類似の方法により試験する。すべての試験した乱用薬物の投与後にPKCε-/-マウスが一時的増加を経験することができなかったことを示す結果が証明するように、PKCεは乱用薬物に共通の薬物応報経路の成分をモジュレートする。このようなデータは、応報達成と薬物消費との間の関係について現存する知識と一緒に、PKCεインヒビターの投与が広範な種類の乱用薬物の自己投与を減少することを強く示唆する。
【0265】
N. 実施例14:PKCεは乱用薬物の消費、作用および禁断症状に影響を与える
ドーパミン放出を引き起こす乱用薬物の作用はGABAAレセプターにより仲介されるという、いくつかの証拠が存在する(Dewey、SL;Morgan、AE;Ashby、CR Jr.;Horan、B;Kushner、SA;Logan、J;Volkow、ND;Fowler、JS;Gardner、EL;Brodie、JD。A novel strategy for the treatment of cocaine addiction. Synapse 30:119-29(1998))ので、このような薬物の摂取、作用および禁断症状のモジュレーションにおけるPKCεの役割をin vivoおよびin vitroにおいて試験する。
【0266】
PKCε-/-マウスによる神経刺激薬(例えば、コカインおよびアンフェタミン)およびオピエート(例えば、モルフィンおよびヘロイン)の自己投与をPKCε+/+マウスおそれと比較する。実施例4に記載する方法に類似する方法により、自己投与を摂取可能な薬物について試験する。通常静脈内投与される薬物について、静脈内自己投与法、例えば、Mello他の方法(Mello、N.K.、Negus、S.S.、Lukas、S.E.、Mendelson、J.H.、Sholar、J.W. & Drieze、J.、A primate model of polydrug abuse:cocaine and heroin combinations、The Journal of Pharmocology and Experimental Therapeutics 274:1325-37(1995)を使用する。
【0267】
低いおよび高い投与量の問題の薬物をPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスに腹腔内急性注射し、そして実施例5に記載する方法により、それぞれ、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおいて低いおよび高い投与量により引き起こされる歩行活動の量または立直り反射の喪失の期間を比較することによって、神経刺激薬およびオピエートの作用をモジュレートするPKCεの能力を検査する。問題の薬物の作用に対するPKCε-/-の大きい感受性を示すデータは、PKCεインヒビターの投与が薬物の作用を増加し、そしてPKCεのエンハンサーがこのような作用を減少することを示す。
【0268】
実施例9に記載する方法に類似する方法により、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスにおいて、禁断症状が発作および自律的不安定性を引き起こす、鎮静−精神機能減退薬物の禁断症状に対するPKCεの効果を試験する。それらの野生型マウスに関して、PKCε-/-マウスにおいて有意に減少した発作の重症度を示すデータは、PKCεインヒビターの投与がこのような薬物に依存する個体における禁断症状の重症度を低下させることを示す。
この明細書に記載したすべての刊行物および特許出願は、各個々の刊行物および特許出願が特別にかつ個々に引用することによって本明細書の一部とされると示される場合と同一程度に、引用することによって本明細書の一部とされる。
【0269】
本発明を詳しく記載したが、本発明の精神および範囲から逸脱しないで種々の変化および変更が可能であることは当業者にとって明らであろう。
【図面の簡単な説明】
【0270】
【図1A】第I図はPKCε-/-マウスの世代を描写する。第1A図は、突然変異ゲノムDNAのApaIおよびScaI消化物のサザンブロット上の1.6kbのフラグメントの検出を可能とするターゲッティングベクターによる、新規なApaI部位(A*)を示す。
【図1B】第1B図は、雄キメラおよびC5BI/6J雌のヘテロ接合性子孫に対して生まれたマウスの子からの尾試料のサザンブロット分析を描写する。7匹のホモ接合性ノックアウトからの試料を含有するレーンは性別により標識されている。
【図1C】第1C図は、野生型(+/+)、ホモ接合性およびノックアウト(−/−)同腹子からの脳試料の抗PKCε抗体を使用するウェスタンブロットを描写する。
【0271】
【図2】第2図は、野生型、ヘテロ接合性および突然変異PKCεマウスにおけるPKCイソ酵素免疫反応性を描写する。他のPKCイソ酵素の補償的増加はノックアウトマウスにおいて観測されない。
【図3A】第3A図は、野生型同腹子におけるCAI放線状層中のMAP2の免疫反応性を描写する。マウス(6月齢)に生理食塩水を灌流し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。脳の冠状切片をMAP-2について染色した。FITC標識化二次抗体で標識化後、切片を共焦点走査レーザー顕微鏡検査により検査した。CAI錐体ニューロンの先端の樹枝突起はより短く、PKCε-/-マウスにおいていっそう分枝鎖状に見える。
【図3B】第3B図は、PKCε-/-同腹子におけるCAI放線状層中のMAP2の免疫反応性を描写する。マウス(6月齢)に生理食塩水を灌流し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。脳の冠状切片をMAP-2について染色した。FITC標識化二次抗体で標識化後、切片を共焦点走査レーザー顕微鏡検査により検査した。CAI錐体ニューロンの先端の樹枝突起はより短く、PKCε-/-マウスにおいていっそう分枝鎖状に見える。
【0272】
【図4A】第4A図は、PKCε-/-マウスのCAI海馬中のアセチルコリンステラーゼ活性の減少を描写する。PKCε-/-マウス(6月齢)および野生型同腹子に生理食塩水を灌流し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。海馬を通る冠状脳切片をコリンステラーゼ含有神経繊維の存在について染色した。図4A:野生型マウス。略号:SO、海馬多形細胞層;SP、三角骨層;SR、放線状層;SL/M、多孔層および分子。
【図4B】第4B図は、PKCε-/-マウスのCAI海馬中のアセチルコリンステラーゼ活性の減少を描写する。PKCε-/-マウス(6月齢)および野生型同腹子に生理食塩水を灌流し、次いで4%のパラホルムアルデヒドを灌流した。海馬を通る冠状脳切片をコリンステラーゼ含有神経繊維の存在について染色した。図4B:PKCε-/-マウス。略号:SO、海馬多形細胞層;SP、三角骨層;SR、放線状層;SL/M、多孔層および分子。
【0273】
【図5A】第5A図は、2週間毎日測定した体重を描写する。PKCε-/-マウスはいずれの測定についても対照と異ならなかった。*、**は雄と異なることを示す、P<0.05;0.01。
【図5B】第5B図は、2週間毎日測定した食物摂取を描写する。PKCε-/-マウスはいずれの測定についても対照と異ならなかった。*、**は雄と異なることを示す、P<0.05;0.01。
【図5C】第5C図は、2週間毎日測定した水摂取を描写する。PKCε-/-マウスはいずれの測定についても対照と異ならなかった。*、**は雄と異なることを示す、P<0.05;0.01。
【0274】
【図6A】第6A図は、オープンフィールド運動装置中のマウスの分析を描写する。PKCε-/-マウスは、正常の歩行行動を示した。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図6B】第6B図は、オープンフィールド運動装置中のマウスの分析を描写する。PKCε-/-マウスは、新奇な環境に対する馴化を示した。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【0275】
【図7A】第7A図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7B】第7B図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7C】第7C図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7D】第7D図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7E】第7E図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図7F】第7F図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における移動距離の増加を描写する。*は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【0276】
【図8A】第8A図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8B】第8B図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8C】第8C図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8D】第8D図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8E】第8E図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【図8F】第8F図は、不安の減少を包含する、PKCε-/-によるオープンフィールドの中心における静止に消費した時間の増加を描写する。*、**は野生型と異なることを示す、p<0.05、p<0.01。+は第1日と異なることを示す、p<0.05。
【0277】
【図9A】第9A図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図9B】第9B図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0278】
【図9C】第9C図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図9D】第9D図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図9E】第9E図は、高いプラス迷路(elevated plus maze)上の動作分析を描写する。PKCε-/-マウスは、野生型対照と比較して、2倍の移動(図9B)、静止に消費した時間の3倍の増加(図9C)、ならびに訪問時間およびオープンアームにおける歩行時間の2倍の増加を示した。これらの結果はPKCε-/-マウスにおける不安の減少を示す。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0279】
【図10A】第10A図は、PKCε-/-マウスはエタノールの立直り反射の喪失(LORR)作用の期間に対する2倍大きい応答を示したことを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図10B】第10B図は、PKCε-/-マウスはエタノールの立直り反射の喪失(LORR)作用の期間に対する2倍大きい応答を示したことを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図11A】第11A図は、PKCε-/-マウスはペントバルビタールの立直り反射の喪失(LORR)作用期間に対する2倍大きい応答を示したことを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図11B】第11B図は、PKCε-/-マウスはペントバルビタールの立直り反射の喪失(LORR)作用期間に対する2倍大きい応答を示したことを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0280】
【図12A】第12A図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間のエタノール摂取を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12B】第12B図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間のエタノール偏好(エタノールのml/全消費ml)を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12C】第12C図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間の平均の毎日の体重を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0281】
【図12D】第12D図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間の食物摂取描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12E】第12E図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間の水摂取を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12F】第12F図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間の各濃度において2日にわたって測定したサッカリン(Sacc)の摂取を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図12G】第12G図は、PKCε-/-およびPKCε+/+マウスにおける2週にわたって測定した随意の24時間のキニン(Quin)の平均摂取を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0282】
【図13A】第13A図は、自発的歩行行動および新奇な環境に対する馴化に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図13B】第13B図は、エタノール注射後の歩行活性化に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図13C】第13C図は、エタノールにより産生された立直り反射の喪失(LORR)期間に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図13D】第13D図は、エタノール注射後の血液エタノールのクリアランスに関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0283】
【図14A】第14A図は、GABAAアロステリックアゴニストペントバルビタールに応答した立直り反射の喪失(LORR)期間に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図14B】第14B図は、ジアゼパムに応答した立直り反射の喪失(LORR)期間に応答した歩行活動に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図14C】第14C図は、ジアゼパムに応答した歩行活動に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図14D】第14D図は、直接的GABAAアゴニストムシモールに応答した歩行活動に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図14E】第14E図は、NMDAアゴニストMK-801に応答した歩行活動に関するPKCε-/-マウスとPKCε+/+マウスとの間の差を描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05;╂はベヒクル対照と有意に異なることを示す、p<0.05。
【0284】
【図15A】第15A図は、0〜20μMのムシモール(A)または20mMのエタノール(EtOH)または0.1μMのフルニトラゼパム(Flu)の存在下の1μMのムシモール(B)と5秒間インキュベートしたPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスから調製された皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収を描写する。
【図15B】第15B図は、0〜20μMのムシモール(A)または20mMのエタノール(EtOH)または0.1μMのフルニトラゼパム(Flu)の存在下の1μMのムシモール(B)と5秒間インキュベートしたPKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスから調製された皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収を描写する。第15B図中のデータは、ムシモール単独中でインキュベートしたマイクロサックにおいて測定した吸収を超える百分率として表されており、20回(エタノール)、5回(フルニトラゼパム)および3回(ペプチド)の実験からの平均±SE値である。*は同一薬物で処理した野生型マイクロサック、またはすべての他の条件に暴露されたマイクロサック有意に異なることを示す、p<0.05。
【0285】
【図15C】第15C図は、まず未処理で放置した(Con)、サポニンのみで透過化した(Sap)、またはεV1-2(εV)ペプチドまたはスクランブルドS-εV1-2(SεV)ポリペプチドの存在下にサポニンで透過化し、引き続いて1μMのムシモールおよび0.1μMのフルニトラゼパムと5秒間インキュベートした、野生型マウスから調製された皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収を描写する。第15C図中のデータは、ムシモール単独中でインキュベートしたマイクロサックにおいて測定した吸収を超える百分率として表されており、20回(エタノール)、5回(フルニトラゼパム)および3回(ペプチド)の実験からの平均±SE値である。*は同一薬物で処理した野生型マイクロサック、またはすべての他の条件に暴露されたマイクロサック有意に異なることを示す、p<0.05。
【図15D】第15D図は、サンタ・クルズ・バイオテクノロジー(Santa Cruz Biotechnology)(カリフォルニア州サンタクルズ)からの示したPKCイソ酵素に対するポリクローナル抗PKC抗体(0.5μg/ml)を使用する、野生型(+/+)およびPKCε突然変異体(−/−)からの前脳組織のウェスタンブロットを描写する。
【0286】
【図16】第16図は、エタノールを含有する液状食事を除去した後における、PKCε+/+マウスおよびPKCε-/-マウスにおける平均ハンドリング誘導痙攣(HIC)のスコアを描写する。*はゼロエタノールと有意に異なることを示す、p<0.05;**は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図17】第17図は、1μMのムシモールのみとインキュベートした、それぞれ、PKCε-/-マウスおよびPKCε+/+マウスから調製した皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収に関する、1μMのムシモールおよび0〜10-6Mのアロプレグノロンと5秒間インキュベートしたPKCε-/-マウス(KO)およびPKCε+/+マウス(WT)から調製した皮質マイクロサックにおける36Cl-吸収の増加百分率を描写する。
【0287】
【図18】第18図は、基底の条件下に拘束後0および1時間におけるPKCε+/+マウス(WT)およびPKCε-/-マウス(KO)における血漿コルチコステロンのレベルを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図19】第19図は、PKCε+/+マウス(WT)およびPKCε-/-マウス(KO)における血漿ACTHの基底レベルを描写する。
【0288】
【図20】第20図は、微量透析により測定したPKCε+/+マウスおよびPKCε-/-マウスの側座核におけるアミノ酸、アスパラギン酸塩(Asp)、グルタミン酸塩(Glu)、およびグリシン(Gly)、タウリン(Taur)およびガンマアミノ酪酸(GABA)のレベルを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【図21】第21図は、3つの120分の相の間(基線、生理食塩水の注射後、およびエタノールの注射後)におけるPKCε+/+マウスおよびPKCε-/-マウスの側座核におけるドーパミン(DA)レベルを描写する。*は野生型と有意に異なることを示す、p<0.05。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)をコードする遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子の中に操作された突然変異を含有する二倍体動物細胞であって、前記突然変異により、野生型細胞に比べて低いPKCε活性レベルを有する細胞。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項3】
工程:
被検化合物として、PKCεの活性を調節する化合物を選択し、そして
前記被検化合物を被検体に投与して、不安の症状が調節されたかどうかを決定する、
を含んでなる、不安を調節する化合物を同定する方法。
【請求項4】
有効量のPKCεのモジュレーターを投与することを含んでなる、不安または乱用薬物の消費もしくは作用を調節する方法。
【請求項5】
GABAAレセプターのアロステリックモジュレーターによる治療が可能である症状を有する被検体に、有効量のPKCεのインヒビターを投与することを含んでなる、このような症状を治療する方法。
【請求項6】
GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの有効量を前記被検体に投与することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程:
人からのPKCεを含有するか、あるいは前記PKCεをコードする核酸を含有する試料を分析して、前記人におけるPKCεの活性または濃度を測定し;
乱用薬物依存性に関する既知の特性を有する人の集団から得られた同様な試料について、それぞれ、所定範囲のPKCεの活性または濃度から選択される標準値と前記活性または濃度とを比較し;そして
PKCεの活性または濃度を前記標準値に関係づけ、ここで統計的に異なる活性または濃度は前記乱用薬物に依存するようになる前記人または前記乱用薬物の乱用者の可能性の程度を指示する、
ことを含んでなる、人が乱用薬物の依存性または乱用者となる可能性を決定する方法。
【請求項8】
前記乱用薬物がアルコールである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PKCεのインヒビターと、GABAAレセプターのアゴニストと、を含んでなる組成物。
【請求項10】
前記アゴニストがベンゾジアゼピンまたはバルビツエートである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ベンゾジアゼピンがアルプラゾラム、クロルジアゼポキシド、クロルジアゼポキシド塩酸塩、クロルメザノン、クロバザム、クロナゼパム、クロラゼペート二カリウム、ジアゼパム、ドロペリドール、エスタゾラム、フェンタニルシトレート、フルラゼパム塩酸塩、ハラゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム塩酸塩、オキサゼパム、プラゼパム、クアゼパム、テマゼパム、およびトライゾラムから成る群から選択され、そして
前記バルビツエートがアモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、アプロバルビタール、ブタバルビタールナトリウム、ヘキソバルビタールナトリウム、メホバルビタール、メタルビタール、メトヘキシタールナトリウム、ペントバルビタール、ペントベルビタールナトリウム、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、セコバルビタール、セコバルビタールナトリウム、タルブタール、チアミラールナトリウム、およびチオペンタールナトリウムから成る群から選択される、
請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
不安または乱用薬物の消費または作用を調節するための薬物の製造におけるPKCεのモジュレーターの使用。
【請求項13】
前記乱用薬物がアルコール、神経刺激薬、オピエートおよび鎮静−睡眠薬物から成る群から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記乱用薬物がアルコールである、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記モジュレーターがPKCεのインヒビターである、請求項12に記載の使用。
【請求項16】
前記インヒビターがεV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6およびεV1-7から成る群から選択されるペプチドである、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
GABAAレセプターのアロステリックモジュレーターによる治療が可能である症状を治療するための薬物の製造におけるPKCεのインヒビターの使用。
【請求項18】
前記症状が不安、嗜癖、禁断症候群、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇から成る群から選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記症状が不安または禁断症候群である、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)をコードする遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子の中に操作された突然変異を含有する二倍体動物細胞であって、前記突然変異により、野生型細胞に比べて高いPKCε活性レベルを有する細胞。
【請求項21】
請求項20に記載の細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項1】
プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)をコードする遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子の中に操作された突然変異を含有する二倍体動物細胞であって、前記突然変異により、野生型細胞に比べて低いPKCε活性レベルを有する細胞。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物。
【請求項3】
工程:
被検化合物として、PKCεの活性を調節する化合物を選択し、そして
前記被検化合物を被検体に投与して、不安の症状が調節されたかどうかを決定する、
を含んでなる、不安を調節する化合物を同定する方法。
【請求項4】
有効量のPKCεのモジュレーターを投与することを含んでなる、不安または乱用薬物の消費もしくは作用を調節する方法。
【請求項5】
GABAAレセプターのアロステリックモジュレーターによる治療が可能である症状を有する被検体に、有効量のPKCεのインヒビターを投与することを含んでなる、このような症状を治療する方法。
【請求項6】
GABAAレセプターのアロステリックアゴニストの有効量を前記被検体に投与することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程:
人からのPKCεを含有するか、あるいは前記PKCεをコードする核酸を含有する試料を分析して、前記人におけるPKCεの活性または濃度を測定し;
乱用薬物依存性に関する既知の特性を有する人の集団から得られた同様な試料について、それぞれ、所定範囲のPKCεの活性または濃度から選択される標準値と前記活性または濃度とを比較し;そして
PKCεの活性または濃度を前記標準値に関係づけ、ここで統計的に異なる活性または濃度は前記乱用薬物に依存するようになる前記人または前記乱用薬物の乱用者の可能性の程度を指示する、
ことを含んでなる、人が乱用薬物の依存性または乱用者となる可能性を決定する方法。
【請求項8】
前記乱用薬物がアルコールである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PKCεのインヒビターと、GABAAレセプターのアゴニストと、を含んでなる組成物。
【請求項10】
前記アゴニストがベンゾジアゼピンまたはバルビツエートである、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記ベンゾジアゼピンがアルプラゾラム、クロルジアゼポキシド、クロルジアゼポキシド塩酸塩、クロルメザノン、クロバザム、クロナゼパム、クロラゼペート二カリウム、ジアゼパム、ドロペリドール、エスタゾラム、フェンタニルシトレート、フルラゼパム塩酸塩、ハラゼパム、ロラゼパム、ミダゾラム塩酸塩、オキサゼパム、プラゼパム、クアゼパム、テマゼパム、およびトライゾラムから成る群から選択され、そして
前記バルビツエートがアモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、アプロバルビタール、ブタバルビタールナトリウム、ヘキソバルビタールナトリウム、メホバルビタール、メタルビタール、メトヘキシタールナトリウム、ペントバルビタール、ペントベルビタールナトリウム、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、セコバルビタール、セコバルビタールナトリウム、タルブタール、チアミラールナトリウム、およびチオペンタールナトリウムから成る群から選択される、
請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
不安または乱用薬物の消費または作用を調節するための薬物の製造におけるPKCεのモジュレーターの使用。
【請求項13】
前記乱用薬物がアルコール、神経刺激薬、オピエートおよび鎮静−睡眠薬物から成る群から選択される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
前記乱用薬物がアルコールである、請求項12に記載の使用。
【請求項15】
前記モジュレーターがPKCεのインヒビターである、請求項12に記載の使用。
【請求項16】
前記インヒビターがεV1-1、εV1-2、εV1-3、εV1-4、εV1-5、εV1-6およびεV1-7から成る群から選択されるペプチドである、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
GABAAレセプターのアロステリックモジュレーターによる治療が可能である症状を治療するための薬物の製造におけるPKCεのインヒビターの使用。
【請求項18】
前記症状が不安、嗜癖、禁断症候群、骨格筋痙攣、痙攣性発作、および癲癇から成る群から選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記症状が不安または禁断症候群である、請求項17に記載の使用。
【請求項20】
プロテインキナーゼCのεイソ酵素(PKCε)をコードする遺伝子の少なくとも1つの対立遺伝子の中に操作された突然変異を含有する二倍体動物細胞であって、前記突然変異により、野生型細胞に比べて高いPKCε活性レベルを有する細胞。
【請求項21】
請求項20に記載の細胞を含んでなる非ヒトトランスジェニック動物。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図12E】
【図12F】
【図12G】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図14E】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図9E】
【図10A】
【図10B】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図12C】
【図12D】
【図12E】
【図12F】
【図12G】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図14D】
【図14E】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2008−220373(P2008−220373A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64222(P2008−64222)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【分割の表示】特願2000−558195(P2000−558195)の分割
【原出願日】平成11年7月2日(1999.7.2)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【分割の表示】特願2000−558195(P2000−558195)の分割
【原出願日】平成11年7月2日(1999.7.2)
【出願人】(592130699)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア (364)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of The University of California
【Fターム(参考)】
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