説明

プロテインA組成物およびその使用方法

【課題】被験体における免疫応答を調節するための方法および組成物、または免疫機能不全を有する被験体もしくはその危険性がある被験体における免疫機能不全を処置するための方法を提供する。
【解決手段】被験体における免疫応答を調節するための方法および組成物が提供される。この方法では、免疫応答を調節するために十分なリンパ球分化因子(例えば、プロテインA(PA))の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。この組成物には、リンパ球分化因子(例えば、プロテインA(PA))が1μg未満の量で含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国出願第10/121,481号(2002年4月10日出願)およびPCT出願第US03/07019号(2003年3月6日出願)の一部継続出願であり、これらの優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、免疫応答の調節、ならびに、免疫障害、および、免疫障害に関連する病理、または、免疫障害によって引き起こされる病理を処置することに関連する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
プロテインAは、様々な細菌の細胞壁から抽出される40,000Daの糖タンパク質である。細菌はPAを組織付着のための標的化部位および結合部位として使用する。プロテインAは大きな親和性をある種の免疫グロブリンクラスのFc部分について有しており、抗原に結合すると、さらに一層大きな親和性をそのような免疫グロブリンについて有する。PAのこの生化学的性質が非常に多くの適用において使用されている。PAのこれらの適用では、分子のFc結合特性の使用が反映されるか、または、体液性免疫を特異的な抗原誘導の非存在下で刺激するPAの能力が反映される(スーパー抗原適用)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
本発明は、少なくとも部分的には、そのFc結合特性およびスーパー抗原性質とは異なるPAの特徴に基づいている。このような特徴は動物において下記の活性の1つまたは複数をもたらす:異常なプロセスを再調節することができ、かつ、組織損傷を阻害するか、または、調節されないプロセスによって引き起こされる存在している組織損傷の少なくとも一部分を逆転させることができること;異常な免疫プロセスまたは望ましくない免疫プロセスを再調節することができること。
【0005】
従って、本発明は、被験体における免疫応答を調節するための方法を提供する。1つの実施形態において、1つの方法では、免疫応答を調節するために十分なリンパ球分化因子の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、リンパ球分化因子はプロテインA(PA)を含む。
【0006】
免疫機能不全を有する被験体、または、免疫機能不全の危険性がある被験体における免疫機能不全を処置するための方法もまた提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、免疫機能不全を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、免疫機能不全は自己免疫障害(例えば、慢性関節リウマチ、若年性慢性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、糖尿病、多発性硬化症、脳脊髄炎、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス(SLE)、自己免疫甲状腺炎、アトピー性皮膚炎、湿疹性皮膚炎、乾癬、シェーグレン症候群、クローン病、アフタ性潰瘍、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー性喘息、皮膚エリテマトーデス、強皮症、膣炎、直腸炎、癩性結節性紅斑、自己免疫ブドウ膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳脊髄炎、特発性両側性進行性感音難聴、再生不良性貧血、赤芽球癆、特発性血小板減少症、多発性軟骨炎、ヴェーゲナー肉芽腫症、慢性活動性肝炎、スティーヴンズ−ジョンソン症候群、特発性スプルー、扁平苔癬、グレーヴズ病、類肉腫症、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、間質性肺線維症、橋本甲状腺炎、自己免疫多腺性症候群、インスリン依存性糖尿病、インスリン抵抗性糖尿病、免疫媒介不妊症、自己免疫アジソン病、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、疱疹状皮膚炎、自己免疫脱毛症、白斑、自己免疫溶血性貧血、自己免疫血小板減少性紫斑病、悪性貧血、ギラン−バレー症候群、スティッフマン症候群、急性リウマチ熱、交感性眼炎、グッドパスチャー症候群、全身性壊死性脈管炎、抗リン脂質症候群またはアレルギー)を含む。別の局面において、免疫機能不全は免疫不全症(例えば、重症複合免疫不全症(SCID)、例えば、リコンビナーゼ活性化遺伝子(RAG 1/2)欠損症、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症、インターロイキン受容体γ鎖(γ)欠損症、Janus関連キナーゼ3(JAK3)欠損症および細網異形成症など;原発性T細胞免疫不全症、例えば、ディジョージ症候群、ヌード症候群、T細胞受容体欠損症、MHCクラスII欠損症、TAP−2欠損症(MHCクラスI欠損症)、ZAP70チロシンキナーゼ欠損症およびプリンヌクレオチドホスホリラーゼ(PNP)欠損症など;主に抗体欠損症、例えば、X連鎖無ガンマグロブリン血症(ブルトンチロシンキナーゼ欠損症)など;常染色体劣性無ガンマグロブリン血症、例えば、Mu重鎖欠損症など;代用軽鎖(γ5/14.1)欠損症;高IgM症候群、X連鎖型(CD40リガンド欠損症)などのいずれか;Ig重鎖遺伝子欠失;IgA欠損症;IgGサブクラスの欠損症(IgA欠損症を伴うもの、またはIgM欠損症を伴わないもの);分類不能型免疫不全症(CVID);正常な免疫グロブリンを伴う抗体欠損症;乳児の一過性低ガンマグロブリン血症;インターフェロンγ受容体(IFNGR1、IFNGR2)欠損症;インターロイキン12欠損症およびインターロイキン12受容体欠損症;胸腺腫を伴う免疫不全症;ヴィスコット−オールドリッチ症候群(WASタンパク質欠損症);毛細管拡張性運動失調(ATM欠損症);X連鎖リンパ増殖性症候群(SH2D1A/SAP欠損症);および高IgE症候群)を含む。さらに別の局面において、免疫機能不全は、別の疾患に関連する免疫不全または別の疾患に対して二次的な免疫不全(例えば、染色体の不安定性または不完全な修復、例えば、ブルーム症候群、色素性乾皮症、ファンコーニ貧血、ICF症候群、ナイミーヘン染色体不安定症候群およびゼッケル症候群など;染色体の欠陥、例えば、ダウン症候群(第21トリソミー)、ターナー症候群、および、第18染色体の欠失または環(18p−および18q−)など;骨格の異常、例えば、四肢短縮骨格形成異常(四肢短縮型低身長症)および軟骨毛髪形成不全症(骨幹端軟骨異形成)など;全身性成長遅延に関連する免疫不全症、例えば、シムケ免疫骨異形成、デュボウィッツ症候群、SCID、Mulibrey小人症、成長遅延、顔面異常および免疫不全症を伴う後弯肢異形成症、ならびに、早老症(ハッチンソン−ギルフォード症候群)など;皮膚学的欠陥を伴う免疫不全、例えば、欠指−外胚葉異形成−裂隙症候群、母指欠損、無嗅覚症および魚鱗癬を伴う免疫不全症、限局性白皮症、天性角化不全症、ネザートン症候群、無汗症性外胚葉性異形成、パピヨン−ルフェーブル症候群ならびに先天性魚鱗癬など;遺伝性の代謝欠陥、例えば、腸性先端皮膚炎、トランスコバラミン2欠乏症、1型遺伝性オロチン酸尿症、難治性下痢症、異常な顔面、裂毛症および免疫不全症、メチルマロン酸血症、ビオチン依存性カルボキシラーゼ欠乏症、マンノシドーシス、グリコーゲン貯蔵疾患(タイプ1b)、チェディアック−東症候群など;免疫グロブリンの異化亢進、例えば、家族性異化亢進、腸リンパ管拡張症など;慢性粘膜皮膚カンジダ症;遺伝性または先天性の脾機能低下症または無脾症;およびイベルマルク症候群)を含む。
【0007】
さらには、炎症性応答を有する被験体、または、炎症性応答の危険性がある被験体における炎症性応答を低下させるための方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、炎症性応答を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、炎症性応答は慢性または急性である。別の局面において、炎症性応答は少なくとも部分的には抗体(例えば、1つまたは複数の自己抗体)によって媒介されるか、または、少なくとも部分的には細胞性免疫によって媒介される。
【0008】
加えて、被験体における炎症を低下させるための方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、炎症を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、炎症は慢性または急性である。別の局面において、炎症は少なくとも部分的には抗体媒介または細胞媒介である。なおさらに別の局面において、処置は炎症の症状(例えば、腫大、痛み、頭痛、発熱、悪心、骨格関節の硬直、あるいは、組織損傷または細胞損傷)の重症度における軽減をもたらす。さらに別の局面において、処置は抗体産生またはリンパ系細胞増殖の阻害をもたらす。
【0009】
さらに、炎症性応答または炎症によって引き起こされる被験体における組織損傷または細胞損傷を阻害するための方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、炎症性応答または炎症によって引き起こされる組織損傷または細胞損傷を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、組織損傷または細胞損傷は慢性または急性の炎症性応答または炎症によって引き起こされる。別の局面において、炎症性応答または炎症は少なくとも部分的には抗体媒介または細胞媒介である。さらに別の局面において、組織損傷または細胞損傷は、胸腺、肝臓、腎臓、脾臓、皮膚または骨格関節(例えば、膝、足首、股関節、肩、手首、指、足指または肘)に存在する。なおさらに別の局面において、処置はさらなる組織損傷または細胞損傷の阻害または防止をもたらす。
【0010】
炎症性応答または炎症によって引き起こされる被験体における存在している組織損傷または細胞損傷を処置するための方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、炎症性応答または炎症によって引き起こされる存在している組織損傷または細胞損傷を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、存在している組織損傷または細胞損傷は慢性または急性の炎症性応答または炎症によって引き起こされる。別の局面において、炎症性応答または炎症は少なくとも部分的には抗体媒介または細胞媒介である。さらに別の局面において、存在している組織損傷または細胞損傷は、胸腺、肝臓、腎臓、脾臓、皮膚または骨格関節(例えば、膝、足首、股関節、肩、手首、指、足指または肘)に存在する。なおさらに別の局面において、処置は組織損傷または細胞損傷の逆転をもたらすか、あるいは、さらなる組織損傷または細胞損傷の阻害または防止をもたらす。
【0011】
被験体における巨脾腫を処置するための方法もまた提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、巨脾腫を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。
【0012】
加えて、望ましくない脾細胞増殖または脾細胞生存を有する被験体、あるいは、望ましくない脾細胞増殖または脾細胞生存を有する危険性がある被験体における脾細胞の増殖または生存を阻害する方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、脾細胞の増殖または生存を阻害するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。
【0013】
さらに、望ましくない脾細胞増殖または脾細胞アポトーシスを有する被験体、あるいは、望ましくない脾細胞増殖または脾細胞アポトーシスを有する危険性がある被験体における脾細胞の分化またはアポトーシスを刺激する方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、脾細胞の分化またはアポトーシスを刺激するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。
【0014】
望ましくない数の抗体を有する被験体、あるいは、望ましくない数の抗体を有する危険性がある被験体における脾細胞による抗体産生を低下させる方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、脾細胞による抗体(例えば、自己抗体)産生を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。
【0015】
望ましくない数の脾細胞を有する被験体、または、望ましくない数の脾細胞を有する危険性がある被験体における抗体産生脾細胞の数を低下させる方法もまた提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、抗体(例えば、自己抗体)産生脾細胞を減少させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。
【0016】
加えて、ナチュラルキラー(NK)細胞の望ましくない細胞毒性を有する被験体、または、NK細胞の望ましくない細胞毒性を有する危険性がある被験体におけるNK細胞の細胞毒性を低下させる方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、NK細胞の望ましくない細胞毒性を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。
【0017】
さらに、被験体における移植された細胞、組織または器官の拒絶を阻害する方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、移植された細胞、組織または器官(例えば、同種移植片または異種移植片)の拒絶を阻害するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。様々な局面において、PAが、細胞、組織または器官を移植する前に、あるいは、細胞、組織または器官を移植するのと実質的に同時に、あるいは、細胞、組織または器官を移植した後に投与される。
【0018】
リンパ系細胞の分化を刺激する方法が提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、1つまたは複数のリンパ系細胞を、1つまたは複数のリンパ系細胞の分化を刺激するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物と、インビトロ、エクスビボまたはインビボで接触させることが含まれる。様々な局面において、リンパ系細胞はT細胞またはB細胞である。
【0019】
本発明はまた、少なくとも部分的には、これらの活性を達成するために必要とされるPAの量が少ないことに基づいている。具体的には、PAは、低い濃度で、典型的には、スーパー抗原適用のために使用される量よりも少ない量で上記の活性を有する。
【0020】
従って、本発明の方法は、本明細書中に開示される活性の1つまたは複数を誘発するために効果的であり、しかし、実質的なスーパー抗原活性(Fc結合活性)を伴わない量で、または、体液性免疫を実質的に刺激することを伴わない量でPAを用いて実施することができる。1つの実施形態において、マウスにおける量は約1ピコグラム〜約1マイクログラムのPAの用量(これは約50ピコグラム/kg〜約50μg/kgと等価である)である。別の実施形態において、マウスにおける量は、約1週間〜15週間にわたって断続的に投与される約1ピコグラム〜約1マイクログラムのPAの単回用量(これは約50pg/kg〜約50μg/kgと等価である)である。さらに別の実施形態において、量は、約7日間〜21日間にわたって1日おきに投与される約1ピコグラム〜約1マイクログラムのPAの単回用量(これは約50ピコグラム/kg〜約50μg/kgと等価である)である。
【0021】
さらに、本発明は、本明細書中に開示される活性の1つまたは複数を誘発を誘発する組成物を単位投薬形態で提供する。1つの実施形態において、組成物は、マウスについては、約0.5ピコグラム〜5ピコグラム、5ピコグラム〜10ピコグラム、10ピコグラム〜20ピコグラム、20ピコグラム〜50ピコグラム、または、50ピコグラム〜100ピコグラム、100ピコグラム〜500ピコグラム、100ピコグラム〜1000ピコグラムのPAの単位投薬形態を含む。別の実施形態において、組成物は、マウスについては、約1ナノグラム〜10ナノグラム、10ナノグラム〜100ナノグラム、100ナノグラム〜500ナノグラム、または、約500ナノグラム〜1000ナノグラムのPAの単位投薬形態を含む。PAの等価な単位投薬形態は、約25pg/kg〜250pg/kg、250pg/kg〜500pg/kg、500pg/kg〜1000pg/kg、1000pg/kg〜2500pg/kg、または、2500pg/kg〜5000pg/kg、5000pg/kg〜25,000pg/kg、5000pg/kg〜50,000pg/kgであり、また、約50ng/kg〜500ng/kg、500ng/kg〜5000ng/kg、5000ng/kg〜25,000ng/kg、または、25,000ng/kg〜50,000ng/kgである。さらに別の実施形態において、組成物は、被験体における炎症性応答または炎症を低下させるために十分なPAの単位投薬形態を含む。
【0022】
PAの単位投薬形態(例えば、マウスについては、0.5ピコグラム〜5ピコグラム、5ピコグラム〜10ピコグラム、10ピコグラム〜20ピコグラム、20ピコグラム〜50ピコグラム、または、50ピコグラム〜100ピコグラム、100ピコグラム〜500ピコグラム、100ピコグラム〜1000ピコグラム;1ナノグラム〜10ナノグラム、10ナノグラム〜100ナノグラム、100ナノグラム〜500ナノグラム、または、約500ナノグラム〜1000ナノグラム、これは、25pg/kg〜250pg/kg、250pg/kg〜500pg/kg、500pg/kg〜1000pg/kg、1000pg/kg〜2500pg/kg、または、2500pg/kg〜5000pg/kg、5000pg/kg〜25,000pg/kg、5000pg/kg〜50,000pg/kg;および、50ng/kg〜500ng/kg、500ng/kg〜5000ng/kg、5000ng/kg〜25,000ng/kg、または、25,000ng/kg〜50,000ng/kgと等価である)を含む医薬組成物が提供される。本明細書中に開示される活性の1つまたは複数を誘発する(例えば、被験体における炎症性応答または炎症を低下させる)PAの単位投薬形態を含む医薬組成物が提供される。
PAの単位投薬形態(または医薬組成物)を含むキットもまた提供され、そのようなキットは場合により、本発明の方法における使用(例えば、炎症性応答、炎症、または、炎症性応答もしくは炎症によって引き起こされる組織損傷または細胞損傷を被験体において低下させることにおける使用)のための指示をさらに含む。1つの実施形態において、キットはPAの多数の単位投薬形態を含む。別の実施形態において、キットはさらに薬物(例えば、炎症性応答または炎症を低下させる薬物)を含む。
本発明は例えば、以下の項目を提供する:
(項目1)
被験体における免疫応答を調節するための方法であって、該免疫応答を調節するために十分なリンパ球分化因子の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目2)
前記リンパ球分化因子がプロテインA(PA)を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
免疫機能不全を有する被験体、または、免疫機能不全の危険性がある被験体における免疫機能不全を処置するための方法であって、該免疫機能不全を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目4)
前記免疫機能不全が自己免疫障害を含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記自己免疫障害が、重症複合免疫不全症(SCID)、リコンビナーゼ活性化遺伝子(RAG 1/2)欠損症、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症、インターロイキン受容体γ鎖(γ)欠損症、Janus関連キナーゼ3(JAK3)欠損症、細網異形成症、原発性T細胞免疫不全症、ディジョージ症候群、ヌード症候群、T細胞受容体欠損症、MHCクラスII欠損症、TAP−2欠損症(MHCクラスI欠損症)、ZAP70チロシンキナーゼ欠損症、プリンヌクレオチドホスホリラーゼ(PNP)欠損症、抗体欠損症、X連鎖無ガンマグロブリン血症(ブルトンチロシンキナーゼ欠損症)、常染色体劣性無ガンマグロブリン血症、Mu重鎖欠損症、代用軽鎖(γ5/14.1)欠損症、高IgM症候群、X連鎖(CD40リガンド欠損症)、Ig重鎖遺伝子欠失、IgA欠損症、IgA欠損症を伴うか、またはIgA欠損症を伴わないIgGサブクラスの欠損、分類不能型免疫不全症(CVID)、正常な免疫グロブリンを伴う抗体欠損症、乳児の一過性低ガンマグロブリン血症、インターフェロンγ受容体(IFNGR1またはIFNGR2)欠損症、インターロイキン12欠損症、インターロイキン12受容体欠損症、胸腺腫を伴う免疫不全症、ヴィスコット−オールドリッチ症候群(WASタンパク質欠損症)、毛細管拡張性運動失調(ATM欠損症)、X連鎖リンパ増殖性症候群(SH2D1A/SAP欠損症)および高IgE症候群を含む、項目4に記載の方法。
(項目6)
炎症性応答を有する被験体、または、炎症性応答の危険性がある被験体における炎症性応答を低下させるための方法であって、炎症性応答を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目7)
前記炎症性応答が慢性または急性である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記炎症性応答が少なくとも部分的には抗体によって媒介される、項目6に記載の方法。
(項目9)
前記抗体が1つまたは複数の自己抗体を含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記炎症性応答が少なくとも部分的には細胞性免疫によって媒介される、項目6に記載の方法。
(項目11)
炎症を有する被験体、または、炎症の危険性がある被験体における炎症を処置するための方法であって、該炎症を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目12)
前記炎症が慢性または急性である、項目11に記載の方法。
(項目13)
前記炎症が少なくとも部分的には抗体媒介型または細胞媒介型である、項目11に記載の方法。
(項目14)
前記処置が炎症の症状の重症度における軽減をもたらす、項目11に記載の方法。
(項目15)
前記症状が、腫大、痛み、頭痛、発熱、悪心、骨格関節の硬直、あるいは、組織損傷または細胞損傷を含む、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記処置が抗体産生またはリンパ系細胞増殖の阻害をもたらす、項目11に記載の方法。
(項目17)
炎症性応答または炎症によって引き起こされる被験体における組織損傷または細胞損傷を阻害する方法であって、炎症性応答または炎症によって引き起こされる組織損傷または細胞損傷を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目18)
前記組織損傷または細胞損傷が慢性または急性の炎症性応答または炎症によって引き起こされる、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記炎症性応答または炎症が少なくとも部分的には抗体媒介型または細胞媒介型である、項目17に記載の方法。
(項目20)
前記組織損傷または細胞損傷が、胸腺、肝臓、腎臓、脾臓、皮膚または骨格関節に存在する、項目17に記載の方法。
(項目21)
前記骨格関節が、膝、足首、股関節、肩、手首、指、足指または肘を含む、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記処置がさらなる組織損傷または細胞損傷の阻害または防止をもたらす、項目17に記載の方法。
(項目23)
炎症性応答または炎症によって引き起こされる被験体において存在している組織損傷または細胞損傷を処置する方法であって、炎症性応答または炎症によって引き起こされる存在している組織損傷または細胞損傷を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目24)
前記存在している組織損傷または細胞損傷が慢性または急性の炎症性応答または炎症によって引き起こされる、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記炎症性応答または炎症が少なくとも部分的には抗体媒介型または細胞媒介型である、項目23に記載の方法。
(項目26)
前記存在している組織損傷または細胞損傷が、胸腺、肝臓、腎臓、脾臓、皮膚または骨格関節に存在する、項目23に記載の方法。
(項目27)
前記骨格関節が、膝、足首、股関節、肩、手首、指、足指または肘を含む、項目26に記載の方法。
(項目28)
前記処置が組織損傷または細胞損傷の逆転をもたらす、項目23に記載の方法。
(項目29)
前記処置がさらなる組織損傷または細胞損傷の阻害または防止をもたらす、項目23に記載の方法。
(項目30)
被験体における巨脾腫を処置する方法であって、巨脾腫を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目31)
望ましくない脾細胞増殖または脾細胞生存を有する被験体、あるいは、望ましくない脾細胞増殖または脾細胞生存を有する危険性がある被験体における脾細胞の増殖または生存を阻害する方法であって、該脾細胞の増殖または生存を阻害するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目32)
望ましくない脾細胞分化または脾細胞アポトーシスを有する被験体、あるいは、望ましくない脾細胞分化または脾細胞アポトーシスを有する危険性がある被験体における脾細胞の分化またはアポトーシスを刺激する方法であって、該脾細胞の分化またはアポトーシスを刺激するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目33)
望ましくない数の抗体を有する被験体、あるいは、望ましくない数の抗体を有する危険性がある被験体における脾細胞による抗体産生を低下させる方法であって、脾細胞による抗体産生を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目34)
抗体産生脾細胞の数を、望ましくない数の該脾細胞を有する被験体、または、望ましくない数の該脾細胞を有する危険性がある被験体において減少させる方法であって、該抗体産生脾細胞を減少させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目35)
前記抗体が1つまたは複数の自己抗体を含む、項目33および34のいずれか1項に記載の方法。
(項目36)
ナチュラルキラー(NK)細胞の望ましくない細胞毒性を有する被験体、または、NK細胞の望ましくない細胞毒性を有する危険性がある被験体におけるNK細胞の細胞毒性を低下させる方法であって、NK細胞の望ましくない細胞毒性を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目37)
被験体における移植された細胞、組織または器官の拒絶を阻害する方法であって、移植された細胞、組織または器官の拒絶を阻害するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を該被験体に投与することを含む、方法。
(項目38)
PAが、前記細胞、組織または器官を移植する前に、あるいは、該細胞、組織または器官を移植するのと実質的に同時に、あるいは、該細胞、組織または器官を移植した後に投与される、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記移植された細胞、組織または器官が同種移植片または異種移植片である、項目38に記載の方法。
(項目40)
1つまたは複数のリンパ系細胞と、1つまたは複数のリンパ系細胞の分化を刺激するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物とを、インビトロ、エクスビボまたはインビボで接触させることを含む、リンパ系細胞の分化を刺激する方法。
(項目41)
前記リンパ系細胞がT細胞またはB細胞である、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記有効な量が約1ピコグラム(50pg/kg)〜約1マイクログラム(50μg/kg)のPAの用量である、項目1、3、6、11、17、23、30〜34、36、37または40のいずれか1項に記載の方法。
(項目43)
前記有効な量が約50ピコグラム/kg〜約50マイクログラム/kgのPAの用量である、項目1、3、6、11、17、23、30〜34、36、37または40のいずれか1項に記載の方法。
(項目44)
前記有効な量が約5000ピコグラム/kg〜約50,000ピコグラム/kgのPAの単回用量である、項目1、3、6、11、17、23、30〜34、36、37または40のいずれか1項に記載の方法。
(項目45)
前記有効な量が、投与された約50ピコグラム/kg〜約50マイクログラム/kgのPAの単回用量である、項目1、3、6、11、17、23、30〜34、36、37または40のいずれか1項に記載の方法。
(項目46)
被験体における炎症性応答、炎症を低下させるために十分なPAの単位投薬形態を含む組成物。
(項目47)
前記単位投薬形態が、約0.5〜5ピコグラム、5ピコグラム〜10ピコグラム、10ピコグラム〜20ピコグラム、20ピコグラム〜50ピコグラム、50ピコグラム〜100ピコグラム、100ピコグラム〜500ピコグラム、または、100ピコグラム〜1000ピコグラムのPA(25pg/kg〜250pg/kg、250pg/kg〜500pg/kg、500pg/kg〜1000pg/kg、1000pg/kg〜2500pg/kg、または、2500pg/kg〜5000pg/kg、5000pg/kg〜25,000pg/kg、5000pg/kg〜50,000pg/kg)である、項目46に記載の組成物。
(項目48)
炎症性応答または炎症を低下させる薬物をさらに含む、項目47に記載の組成物。
(項目49)
被験体における炎症性応答、炎症を低下させるために十分なPAの単位投薬形態を含む医薬組成物。
(項目50)
被験体における炎症性応答、炎症、あるいは、炎症性応答または炎症によって引き起こされる組織損傷または細胞損傷を低下させるために十分なPAの単位投薬形態を含むキット。
(項目51)
PAの単位投薬形態と、使用のための指示とを含むキット。
(項目52)
PAの多数の単位投薬形態をさらに含む、項目50または51に記載のキット。
(項目53)
炎症性応答または炎症を低下させる薬物をさらに含む、項目50または51に記載のキット。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1−1】A)処置されていないコントロールの正常なマウス(C57BL/6J);B)処置されていないBXSBマウス;およびC)PA処置を伴うBXSBマウスの体重増加および成長の速度論を示す。
【図1−2】A)処置されていないコントロールの正常なマウス(C57BL/6J);B)処置されていないBXSBマウス;およびC)PA処置を伴うBXSBマウスの体重増加および成長の速度論を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(詳細な説明)
本発明は、少なくとも部分的には、そのスーパー抗原性質とは異なると考えられるプロテインA(PA)の1つまたは複数の活性の特徴づけ(Fc結合活性、または、体液性免疫を刺激するその能力)に基づいている。これらの異なったPA活性は、望ましくない生理学的プロセスまたは異常な生理学的プロセス(例えば、免疫機能不全など)を再調節または正常化するPAの能力に少なくとも部分的には起因し得ると考えられる。生理学的プロセスを再調節または正常化するPAの能力により、例えば、異常な免疫応答または望ましくない免疫応答を変化させること(例えば、再調節または正常化すること)、自己免疫性を改善または軽減すること、炎症または炎症性応答を低下させること、調節されないプロセス(例えば、望ましくない免疫応答または異常な免疫応答など)によって引き起こされる組織損傷の少なくとも一部を阻害または逆転させることをはじめとする、多くの異なる有益な活性がもたらされる。
【0025】
より具体的には、PAの効力がコラーゲン誘導関節炎(CIA)マウス炎症モデルの使用によって明らかにされている。II型コラーゲンに対する誘導された免疫応答は抗体媒介であり、患部関節における炎症を測定することによって、また、さらには、患部関節についての標準化された臨床的評価(これは「臨床的指標」または「CI」と呼ばれる)を適用することによって評価することができる迅速に進行する炎症性応答を引き起こす。CI評価では、腫大測定および運動性測定の両方が伴う。実施例1に示されるように、低濃度のPAはCIAマウスモデルにおいて急性の炎症性応答を阻害している。膝関節および足関節の組織学的検査では、滑膜の免疫細胞浸潤の低下と同様に、組織損傷における低下が明らかにされた。
【0026】
PAの効力はまた、オス性動物の早期死亡をもたらす遺伝的基礎を有する複合自己免疫不全疾患を表すBXSB動物モデルでも明らかにされる。実施例3〜実施例8に示されるように、低濃度のPAはBXSB動物における多くの疾患特徴を緩和し、多くの場合には、疾患の様々な症状発現(細胞性および組織学的)をベースラインレベルに向かって(すなわち、正常化に向かって)再調節する。例えば、PAは、消耗(体重減少)の早期発症を阻害または防止し;脾臓区画の拡張を規制し;体液性免疫の過剰発現または過剰活性を阻害し;細胞性免疫の過剰発現または過剰活性を阻害し;リンパ系細胞系譜の細胞の分化を調節し;かつ、疾患プロセスによって引き起こされる組織損傷、または、疾患プロセスに関連する組織損傷を改善し、または軽減させ、または逆転させる。データはさらに、PAがCIAモデルの場合と同じ用量応答パターンを有することを示している。
【0027】
従って、低濃度でのPA活性には、例えば、脾臓区画の拡張を規制すること(増殖、アポトーシスまたは分化を調節すること)、異常な体液性免疫または望ましくない体液性免疫を調節すること(これにより、自己抗体産生を阻害すること、または、自己抗体を産生する細胞を阻害すること)、異常な細胞性免疫または望ましくない細胞性免疫を調節すること(これにより、TH/THのバランスを正常化すること、細胞毒性応答を阻害すること)、リンパ系細胞系譜における細胞の増殖、アポトーシスまたは分化を調節すること(これにより、例えば、T細胞集団を正常化すること、例えば、成熟T細胞(例えば、CD69−CD4+)の数を増大させることなど)、望ましくない免疫応答または異常な免疫応答によって引き起こされる細胞損傷または組織損傷を阻害し、または逆転させること(これにより、疾患の進行を阻害または防止すること、疾患の逆転または組織の再生を促進または強化すること)、および、T脾細胞またはB脾細胞の数、あるいは、1つまたは複数の有糸分裂促進因子に対するそれらの応答を正常化することが含まれる。
【0028】
従って、PAは、PAに関連する上記活性の1つまたは複数を必要としている被験体を処置することにおいて有用である。従って、本発明は、なかでも、免疫応答(細胞性または体液性)を調節するための方法、望ましくない免疫応答または異常な免疫応答(例えば、免疫機能不全)を処置するための方法、および、被験体における免疫応答によって引き起こされる生理学的影響、または、被験体における免疫応答に関連する生理学的影響を阻害し、または防止し、または逆転させるための方法を提供する。1つの実施形態において、1つの方法では、免疫応答を調節するために十分なリンパ球分化因子の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。別の実施形態において、1つの方法では、免疫応答を調節するために十分なPAの有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。
【0029】
本明細書中で使用される用語「調節する」は、この用語が言及している活性または機能または作用における検出可能な変化を意味する。調節するは、この用語が言及する活性または機能または作用における任意の増加、低下、減少、阻害、防止、刺激、促進、強化を意味し得る。例えば、免疫応答を調節することは、免疫応答の活性または機能または作用が検出可能に変化すること(例えば、体液性免疫または細胞媒介免疫の増加、低下、減少、阻害、防止、刺激、促進または強化)を意味する。調節ということを示す免疫応答における変化には、例えば、T細胞およびB細胞の数、増殖、アポトーシス、分化、細胞毒性、抗体産生または抗体産生細胞の数(例えば、自己抗体)、有糸分裂促進因子応答性、炎症、細胞損傷または組織損傷またはそれらの症状が含まれ、そのような変化は、本明細書中に開示される様々な方法によって、または、この分野で知られている様々な方法によって測定することができる。「有効な量」または「十分な量」は、そのような活性または作用を達成するために必要である量を意味する。
【0030】
本明細書中で使用される用語「再調節する」、用語「正常化する」およびそれらの文法的変化体は、ベースラインレベルに向かう変化を意味する。ベースラインレベルに向かう変化には、例えば、細胞数、分化状態、抗体産生、または、抗体(例えば、循環における自己抗体)の量、細胞毒性、あるいは、有糸分裂促進因子に対する応答における変化が含まれ得る。従って、例えば、BXSBの脾臓における脾細胞の数を再調節または正常化することは、正常な動物(例えば、疾患のない動物)の脾臓(例えば、C57BL/6)において典型的に見出される脾細胞の数に向かって復帰させることを意味する。同様に、自己抗体を再調節または正常化することは、そのような自己抗体の量を、正常な動物(例えば、疾患のない動物)においてより典型的に見出される量に減らすことを意味する。BXSBにおいてT細胞の集団を再調節または正常化することは、例えば、C57BL/6において典型的に観測されるT細胞集団に向かってT細胞集団を変化させること(例えば、未成熟なT細胞集団から成熟T細胞集団への変化)を意味する。
【0031】
生じさせることができる再調節または正常化の量は、正常な動物について典型的であるベースラインレベルへの復帰、または、正常な動物について典型的であるベースラインレベルの近くへの(ベースラインの5%〜25%の範囲内への)復帰が可能であるが、それよりも小さくてもよく、例えば、変化がレベルをベースラインに、または、ベースラインの近くに復帰させないとしても、(例えば、ベースラインの25%〜100%の範囲内または25%〜200%の範囲内で)ベースラインレベルに向かう検出可能な変化であってもよい。そのような変化は、処置されていない状態におけるベースラインからのずれの程度、投与されたPAの量、および、何がベースラインに戻されようとしているかに依存する。例えば、BXSBについての脾細胞の数はC57BL/6よりも5倍〜6倍大きい。BXSBについての脾細胞の数の再調節または正常化は、脾細胞の数が処置後のBXSBにおいて減少したことを意味する。例えば、C57BL/6マウスよりも5倍〜6倍大きい数から、C57BL/6マウスよりも1倍〜3倍大きい数への減少、または、それ以上の減少、例えば、C57BL/6マウスにおいて典型的に観測される脾細胞数の約10%〜50%の範囲内への減少など。同様に、BXSBでは、5週間でANAの200%の増大、11週間でANAの1000%の増大が存在する。従って、BXSBについての自己抗体の再調節または正常化は、自己抗体の数(例えば、ANA)が処置後に減少したことを意味する。例えば、0.01μgのPAを用いた処置は、これらの値をベースラインに、または、ベースラインの近くに(例えば、ベースラインの25%の範囲内に)戻した。従って、自己抗体の数が、C57BL/6マウスよりも10倍大きい数から、C57BL/6マウスよりも5倍〜8倍大きい数に、または、C57BL/6マウスよりも1倍〜5倍大きい数に、またはそれ以上に、例えば、C57BL/6マウスにおける自己抗体の数の約10%〜50%の範囲内などに減少し得る。
【0032】
従って、本発明はさらに、なかでも、免疫機能不全を有する被験体、または、免疫機能不全の危険性がある被験体における免疫機能不全を処置するための方法を提供する。1つの実施形態において、1つの方法では、免疫機能不全を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、免疫機能不全は自己免疫障害を含む。
【0033】
本明細書中で使用される「免疫機能不全」または「免疫障害」は、所望されるよりも大きい望ましくない免疫応答、機能または活性(例えば、自己免疫性)、あるいは、所望されるよりも小さい望ましくない免疫応答、機能または活性(例えば、免疫不全症)を意味する。望ましくない免疫応答、機能または活性は、正常な応答、機能または活性である場合がある。従って、正常な免疫応答が望まれない限り、異常であると見なされない正常な免疫応答が、これらの用語の意味に含まれる。望ましくない免疫応答、機能または活性はまた、正常でない応答、機能または活性である場合がある。正常でないか、または異常な免疫応答、機能または活性は正常から外れている。免疫機能不全または免疫障害は、慢性または急性のいずれかであっても、主に体液性または細胞性または両方であり得る。
【0034】
免疫機能不全または免疫障害には、多くの異なる生理学的な症状または異常によって特徴づけられる障害が含まれる。本明細書中に開示されるように、BXSBマウスモデルは、本発明に従って処置することができる非常に様々な生理学的な症状および異常によって特徴づけられる免疫障害である(例えば、実施例4〜実施例9を参照のこと)。従って、本発明は、BXSBマウスモデルに類似する1つまたは複数の生理学的な症状または異常を有する障害、あるいは、異なる生物種における同等な障害を含めて、多くの異なる生理学的な症状および異常によって特徴づけられる任意の免疫機能不全または免疫障害を処置することにおいて有用である。例えば、BXSBマウスは、脾臓区画の拡張をもたらし、その結果としての、未成熟な脾細胞の数の増大をもたらす、脾細胞の異常な増殖、アポトーシスまたは分化によって特徴づけられる。従って、BXSBマウスにおいてその数が増大する脾細胞の特定のタイプが、(例えば、それらのCDマーカーに関して)免疫障害を有する別の生物種の脾細胞の特定のタイプとは異なる場合があるが、本発明は、被験体における(過度な細胞増殖、生存、または、アポトーシスの失敗によって引き起こされる)望ましくない数の未成熟な脾細胞、または、被験体における低下した数の成熟した脾細胞を有するとして特徴づけられる任意の障害に対して適用可能である。
【0035】
従って、本発明は、免疫応答の多くの様相を再調節または正常化するために有用であり、これにより、免疫障害の多くの異なる症状および異常の1つまたは複数を改善または軽減することをもたらすので、本発明は、BXSBマウスにおいて発生する障害とは異なる障害に対して広範囲に適用可能である。当然のことではあるが、本発明に従って処置可能である障害には、BXSBマウスにおいて存在する障害よりも重症でないとしても、BXSBの1つまたは複数の特徴、症状または異常を有するとして特徴づけられる障害が含まれる。
【0036】
本発明が適用される免疫障害の具体的な例には、自己免疫障害および免疫不全症が含まれる。自己免疫障害は一般には、免疫系の望ましくないか、または異常な応答、活性または機能として特徴づけられる。免疫不全症は一般には、低下したか、または不十分な体液性または細胞媒介型の免疫応答性または免疫記憶、あるいは、増大したか、または望ましくない寛容性によって特徴づけられる。本発明に従って処置することができるそのような障害には、被験体における細胞損傷または組織/器官損傷を引き起こす様々な障害が含まれるが、それらに限定されない。
【0037】
従って、本発明はさらに、なかでも、自己免疫障害を有する被験体、または、自己免疫障害の危険性がある被験体における自己免疫障害を処置するための方法を提供する。1つの実施形態において、1つの方法では、自己免疫障害を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。様々な局面において、自己免疫障害は、慢性関節リウマチ、若年性慢性関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、糖尿病、多発性硬化症、脳脊髄炎、重症筋無力症、全身性エリテマトーデス(SLE)、自己免疫甲状腺炎、アトピー性皮膚炎、湿疹性皮膚炎、乾癬、シェーグレン症候群、クローン病、アフタ性潰瘍、虹彩炎、結膜炎、角結膜炎、潰瘍性大腸炎、喘息、アレルギー性喘息、皮膚エリテマトーデス、強皮症、膣炎、直腸炎、癩性結節性紅斑、自己免疫ブドウ膜炎、アレルギー性脳脊髄炎、急性壊死性出血性脳脊髄炎、特発性両側性進行性感音難聴、再生不良性貧血、赤芽球癆、特発性血小板減少症、多発性軟骨炎、ヴェーゲナー肉芽腫症、慢性活動性肝炎、スティーヴンズ−ジョンソン症候群、特発性スプルー、扁平苔癬、グレーヴズ病、類肉腫症、原発性胆汁性肝硬変、後部ブドウ膜炎、間質性肺線維症、橋本甲状腺炎、自己免疫多腺性症候群、インスリン依存性糖尿病、インスリン抵抗性糖尿病、免疫媒介不妊症、自己免疫アジソン病、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、疱疹状皮膚炎、自己免疫脱毛症、白斑、自己免疫溶血性貧血、自己免疫血小板減少性紫斑病、悪性貧血、ギラン−バレー症候群、スティッフマン症候群、急性リウマチ熱、交感性眼炎、グッドパスチャー症候群、全身性壊死性脈管炎、抗リン脂質症候群またはアレルギーを含む。
【0038】
本発明はさらに、なかでも、免疫不全を有する被験体、または、免疫不全の危険性がある被験体における免疫不全を処置するための方法を提供する。1つの実施形態において、1つの方法では、免疫不全を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。様々な局面において、免疫不全は、重症複合免疫不全症(SCID)、例えば、リコンビナーゼ活性化遺伝子(RAG 1/2)欠損症、アデノシンデアミナーゼ(ADA)欠損症、インターロイキン受容体γ鎖(γ)欠損症、Janus関連キナーゼ3(JAK3)欠損症および細網異形成症など;原発性T細胞免疫不全症、例えば、ディジョージ症候群、ヌード症候群、T細胞受容体欠損症、MHCクラスII欠損症、TAP−2欠損症(MHCクラスI欠損症)、ZAP70チロシンキナーゼ欠損症およびプリンヌクレオチドホスホリラーゼ(PNP)欠損症など;主に抗体欠損症、X連鎖無ガンマグロブリン血症(ブルトンチロシンキナーゼ欠損症)など;常染色体劣性無ガンマグロブリン血症、例えば、Mu重鎖欠損症など;代用軽鎖(γ5/14.1)欠損症;高IgM症候群、X連鎖型(CD40リガンド欠損症)などのいずれか;Ig重鎖遺伝子欠失;IgA欠損症;IgGサブクラスの欠損症(IgA欠損症を伴うもの、またはIgM欠損症を伴わないもの);分類不能型免疫不全症(CVID);正常な免疫グロブリンを伴う抗体欠損症;乳児の一過性低ガンマグロブリン血症;インターフェロンγ受容体(IFNGR1、IFNGR2)欠損症;インターロイキン12欠損症およびインターロイキン12受容体欠損症;胸腺腫を伴う免疫不全症;ヴィスコット−オールドリッチ症候群(WASタンパク質欠損症);毛細管拡張性運動失調(ATM欠損症);X連鎖リンパ増殖性症候群(SH2D1A/SAP欠損症);および高IgE症候群を含む。さらに別の局面において、免疫機能不全は、別の疾患に関連する免疫不全または別の疾患に対して二次的な免疫不全(例えば、染色体の不安定性または不完全な修復、例えば、ブルーム症候群、色素性乾皮症、ファンコーニ貧血、ICF症候群、ナイミーヘン染色体不安定症候群およびゼッケル症候群など;染色体の欠陥、例えば、ダウン症候群(第21トリソミー)、ターナー症候群、および、第18染色体の欠失または環(18p−および18q−)など;骨格の異常、例えば、四肢短縮骨格形成異常(四肢短縮型低身長症)および軟骨毛髪形成不全症(骨幹端軟骨異形成)など;全身性成長遅延を伴う免疫不全症、例えば、シムケ免疫骨異形成、デュボウィッツ症候群、SCID、Mulibrey小人症、成長遅延、顔面異常および免疫不全症を伴う後弯肢異形成症、ならびに、早老症(ハッチンソン−ギルフォード症候群)など;皮膚学的欠陥を伴う免疫不全、例えば、欠指−外胚葉異形成−裂隙症候群、母指欠損、無嗅覚症および魚鱗癬を伴う免疫不全症、限局性白皮症、天性角化不全症、ネザートン症候群、無汗症性外胚葉性異形成、パピヨン−ルフェーブル症候群ならびに先天性魚鱗癬など;遺伝性の代謝欠陥、例えば、腸性先端皮膚炎、トランスコバラミン2欠乏症、1型遺伝性オロチン酸尿症、難治性下痢症、異常な顔面、裂毛症および免疫不全症、メチルマロン酸血症、ビオチン依存性カルボキシラーゼ欠乏症、マンノシドーシス、グリコーゲン貯蔵疾患(タイプ1b)、チェディアック−東症候群など;免疫グロブリンの異化亢進、例えば、家族性異化亢進、腸リンパ管拡張症など;慢性粘膜皮膚カンジダ症;遺伝性または先天性の脾機能低下症または無脾症;およびイベルマルク症候群)を含む。
【0039】
本発明が適用される免疫機能不全または免疫障害のさらなる具体的な例には、望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症が含まれる。そのような障害は、細胞性免疫または体液性免疫または両者の組合せによって媒介され得る。
【0040】
従って、本発明はまた、なかでも、炎症性応答または炎症を有する被験体、あるいは、炎症性応答または炎症の危険性がある被験体における炎症性応答または炎症(慢性または急性)を低下させるか、または阻害するための方法を提供する。1つの実施形態において、1つの方法では、炎症性応答を低下させるか、または阻害するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。別の実施形態において、1つの方法では、炎症を低下させるか、または阻害するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、炎症性応答または炎症は少なくとも部分的には抗体(例えば、1つまたは複数の自己抗体)によって媒介される。別の局面において、炎症性応答または炎症は少なくとも部分的には細胞性免疫によって媒介される。様々な局面において、1つの方法(例えば、処置)は、炎症性応答または炎症の症状の重症度または頻度における軽減をもたらす。特定の局面において、症状には、腫大、痛み、頭痛、発熱、悪心、骨格関節の硬直、あるいは、組織損傷または細胞損傷の1つまたは複数が含まれる。さらなる特定の局面において、1つの方法(例えば、処置)は抗体産生またはリンパ系細胞増殖の阻害をもたらす。
【0041】
免疫機能不全、例えば、望ましくないか、または異常な炎症または炎症性応答は、多数の細胞、組織または器官に対するか、あるいは、特異的に1つだけの細胞タイプ、器官または組織タイプに対するかのいずれかであっても、それらに対する細胞損傷または組織/器官損傷を直接的または間接的に引き起こし得る。例えば、実施例に開示されるように、CIAモデルおよびBXSBモデルは、組織学における変化によって明らかにされるように多数の組織において損傷を示した。損傷を示した組織には、膝、足首、胸腺、腎臓および肝臓が含まれた。本発明による処置は、存在している組織損傷の少なくとも部分的な逆転、または、正常な組織の再生をもたらした(例えば、表9および表10を参照のこと)。
【0042】
従って、本発明はまた、なかでも、免疫機能不全(例えば、望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症)によって引き起こされる被験体における組織損傷または細胞損傷を処置するための方法、阻害するための方法、および、逆転させるための方法、ならびに、免疫機能不全(例えば、望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症)によって引き起こされる被験体における組織再生または細胞再生を促進または強化させるための方法を提供する。1つの実施形態において、1つの方法では、免疫機能不全(例えば、望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症)によって引き起こされる存在している組織損傷または細胞損傷を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。別の実施形態において、1つの方法では、免疫機能不全(例えば、慢性または急性の望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症)によって引き起こされる組織損傷または細胞損傷(存在している、または予防)を阻害するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。さらに別の実施形態において、1つの方法では、免疫機能不全(例えば、望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症)によって引き起こされる存在している組織損傷または細胞損傷を逆転させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。なおさらに別の実施形態において、1つの方法では、免疫機能不全(例えば、望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症)によって引き起こされる組織再生または細胞再を促進または強化させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。1つの局面において、炎症性応答または炎症は少なくとも部分的には抗体(例えば、1つまたは複数の自己抗体)によって媒介される。別の局面において、炎症性応答または炎症は少なくとも部分的には細胞性免疫によって媒介される。さらに別の局面において、組織損傷は、胸腺、肝臓、腎臓、脾臓、皮膚または骨格関節に存在する。特定の局面において、骨格関節における組織損傷は、膝、足首、股関節、肩、手首、指、足指または肘に存在する。
【0043】
本発明の方法では、さらなる組織損傷または細胞損傷を阻害または防止する処置方法が含まれる。従って、本発明はまた、さらなる組織損傷または細胞損傷を阻害または防止するのと同様に、免疫機能不全(例えば、望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症)によって引き起こされる被験体における存在している組織損傷または細胞損傷を処置する方法を提供する。1つの実施形態において、1つの方法では、免疫機能不全(例えば、望ましくないか、または異常な炎症性応答または炎症)によって引き起こされるさらなる組織損傷または細胞損傷を阻害または防止するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。本発明によって処置可能な存在している損傷の例には、例えば、組織または器官の損傷が含まれる。本明細書中に開示されるような例示的な損傷は、胸腺、肝臓、腎臓、脾臓、皮膚または骨格関節(例えば、膝または足首)に存在する。
【0044】
炎症性応答または炎症の処置を含む本発明の方法は、炎症性応答または炎症の症状または特徴を軽減するために所望される。全身レベルにおいて、炎症性応答または炎症は、一般には、腫大、痛み、頭痛、発熱、悪心、骨格関節の硬直または運動性の欠如、赤みまたは他の変色によって特徴づけられる。細胞レベルにおいて、炎症性応答または炎症は、領域の細胞浸潤、抗体(例えば、自己抗体)の産生、サイトカイン、リンホカイン、ケモカイン、インターフェロンおよびインターロイキンの産生、成長および成熟化(例えば、分化因子)、細胞増殖、分化、蓄積または遊走、ならびに、細胞、組織または器官の損傷によって特徴づけられる。従って、処置は、炎症性応答または炎症の症状(重症度または発生頻度)または特徴の1つまたは複数を軽減し、または阻害し、または防止する。
【0045】
本発明の方法ではまた、被験体における巨脾腫(すなわち、肥大した脾臓)を処置することが含まれる。そのような方法では、巨脾腫を処置するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。何らかの理論によって拘束されることはないが、巨脾腫を処置することは、典型的には、成熟リンパ球(例えば、T脾細胞またはB脾細胞)の増殖もしくは生存、または、未成熟細胞からの成熟細胞への分化を刺激し、または増大させ、または促進させ、あるいは、正常な動物(すなわち、巨脾腫を示さない動物)のより典型的な生理学的状態への未成熟細胞の増殖または生存を阻害し、または低下させる。従って、成熟リンパ球(例えば、T脾細胞またはB脾細胞)の増殖または生存、あるいは、未成熟リンパ球からの成熟リンパ球(例えば、T脾細胞またはB脾細胞)への分化を刺激し、または増大させ、または促進させるための方法、および、未成熟リンパ球(例えば、T脾細胞またはB脾細胞)の増殖または生存を阻害し、または低下させるための方法が提供される。
【0046】
本発明の方法ではさらに、被験体における抗体産生を阻害すること、または低下させること、または防止することが含まれる。1つの実施形態において、1つの方法では、抗体産生を低下させるために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を、望ましくない抗体または異常な抗体を有する被験体に投与することが含まれる。自己抗体は、その産生を阻害し、または低下させ、または防止することが所望され得る抗体の一例にすぎない。抗体産生は、抗体を産生する細胞(例えば、脾細胞)に、抗体産生を低下させることによって直接的に、または、抗体を産生する細胞(例えば、脾細胞)の数を減少させることによって間接的に、そのいずれかで阻害することができ、または低下させることができ、または防止することができる。
【0047】
加えて、本発明の方法では、ナチュラルキラー(NK)細胞の望ましくない細胞毒性を有する被験体、または、NK細胞の望ましくない細胞毒性を有する危険性がある被験体におけるNK細胞の細胞毒性を阻害すること、または低下させること、または防止することが含まれる。1つの実施形態において、1つの方法では、NK細胞の望ましくない細胞毒性を阻害し、または低下させ、または防止するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。
【0048】
そのうえ、本発明の方法では、リンパ系細胞の分化を刺激すること、または促進させること、または強化することが含まれる。1つの実施形態において、1つの方法では、リンパ系細胞を、リンパ系細胞の分化を刺激し、または促進させ、または強化するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物と、インビトロ、エクスビボまたはインビボで接触させることが含まれる。
【0049】
用語「接触させる」は、2つ以上の実体の間(例えば、PAと、細胞または分子との間)での直接的または間接的な結合または相互作用を意味する。接触させることは、本明細書中で使用される場合、溶液中、固相中、インビトロ、細胞内およびインビボであることを包含する。
【0050】
PAの活性を検出するためのアッセイでは、本明細書中に開示されるように、また、さらにこの分野で知られているように、トリパンブルー排除(生存性)を含めた、リンパ球の数、増殖、アポトーシスまたは生存および分化における細胞変化;細胞のCDマーカーまたは他の分子(分化)における変化;抗体の量(例えば、循環している自己抗体を、ELISAまたは他の抗体検出アッセイを使用して測定することができる);さらなる損傷を阻害すること、または、存在している組織損傷を逆転させることを含めた、組織または器官の改善(改善された機能を示す組織学、組織または器官の機能、あるいは、酵素レベル);身体全体の影響(体重増加、あるいは、体重減少または消耗の低下、改善された運動性);および脾臓の拡大(組織学、リンパ球の数およびその分化状態)が含まれる。
【0051】
本発明は、被験体における望ましくない免疫応答を阻害し、または低下させ、または防止するために使用することができるので、被験体における移植された細胞、組織または器官の拒絶(すなわち、宿主対移植片病)を阻害し、または低下させ、または防止するための方法がさらに提供される。1つの実施形態において、1つの方法では、移植された細胞、組織または器官の拒絶を阻害し、または低下させ、または防止するために十分なプロテインA(PA)の有効な量を含む組成物を被験体に投与することが含まれる。例示的な細胞には、神経細胞が含まれる。例示的な組織には、皮膚、血管、眼および骨髄が含まれる。例示的な器官には、心臓、肺、肝臓および腎臓が含まれる。様々な局面において、PAは、細胞、組織または器官を移植する前に、あるいは、細胞、組織または器官を移植するのと実質的に同時に、あるいは、細胞、組織または器官を移植した後に投与される。移植された細胞、組織または器官は同種移植片または異種移植片であり得る。
【0052】
本明細書中で使用される用語「移植する」、用語「移植」およびそれらの文法的変化体は、細胞、組織または器官を、身体の、ある部分から別の部分に、または、ある個体/動物から別の個体/動物に継ぎ足し、または埋め込み、または移植することを意味する。この用語はまた、例えば、形質転換された細胞、組織および器官が、移植片をその後に受け入れる人、または、異なる人/動物から得られるか、あるいは、移植片をその後に受け入れる人、または、異なる人/動物に由来するエクスビボ遺伝子治療による遺伝子改変された細胞、組織および器官を包含する。
【0053】
本発明の方法および組成物は、インビトロ、エクスビボまたはインビボで使用することができる。組成物は、毎日連続して、または1日おきに、または間欠的に単回投薬形態または多回投薬形態として投与することができる。例えば、単回投薬形態または多回投薬形態は、約7日間〜45日間または約1週間〜15週間にわたって1日おきに、または間欠的に投与することができる。1つの実施形態において、組成物は、3週間〜5週間の間、1日おきに単回服用物として投与される。
【0054】
処置は通常、被験体の状態における改善、すなわち、検出可能である、被験体、被験体における組織または細胞または細胞集団にとって有益な変化をもたらす。従って、処置は、状態または障害または症状の進行または悪化、あるいは、状態または障害の1つまたは複数のさらなる症状のさらなる悪化または発症を阻害し、または軽減し、または防止することをもたらし得る。従って、成功した処置結果は「治療効果」をもたらし、あるいは、被験体における障害または状態の症状の重症度もしくは頻度または根本的な原因を阻害し、または軽減し、または防止することをもたらす。障害または症状を安定化させることもまた、成功した処置結果の1つである。従って、処置は、状態または障害の1つまたは複数の症状の重症度または頻度を軽減または防止することができ、あるいは、状態または障害の進行または悪化を阻害することができ、また、場合により、状態または障害を逆転させることができる。従って、例えば、免疫障害の場合において、処置は、免疫障害によって引き起こされる病理組織学的変化の改善、または、免疫障害に関連する病理組織学的変化の改善をもたらすことができ、例えば、骨格関節の浸潤または組織破壊、あるいは、胸腺、腎臓、肝臓、脾臓または皮膚の組織浸潤または組織破壊をさらに防止し、または軽減し、または再生することをもたらすことができる。
【0055】
処置ではまた、状態または障害またはその症状の根本的な原因に影響を及ぼすことが含まれる。従って、例えば、免疫障害の場合において、リンパ球(例えば、脾細胞)の絶対数または成熟リンパ球の数を正常なベースラインに向かって再調節または正常化することは、成功した処置結果であると見なされる。同様に、循環している抗体(例えば、自己抗体)を正常なベースラインに向かって減少させることは、成功した処置結果であると見なされる。
【0056】
用語「改善する」は、被験体の全体的な状態における検出可能な改善を意味する。検出可能な改善には、障害もしくは状態によって引き起こされるか、または、障害もしくは状態に関連する症状の重症度または頻度における主観的な軽減、あるいは、障害または状態の根本的な原因における改善、あるいは、障害または状態の逆転が含まれ、そのような軽減、改善または逆転は、アッセイを使用して検出可能である。
【0057】
本発明の方法は、症状が始まる前に(すなわち、予防)、または、症状が始まった後に、症状もしくは障害が発症する前に、または、症状もしくは障害が発症した後に、(例えば、細胞移植、組織移植または臓器移植の前に)実施することができる。症状の発症の前または直後に組成物を投与することにより、被験体における症状の重症度または頻度を低下させることができる。加えて、症状の発症の前または直後に組成物を投与することにより、例えば、免疫機能不全(例えば、自己免疫性)の期間中に生じる細胞、組織および器官に対する損傷を低下させ、または防止することができる。
【0058】
用語「被験体」は動物を示し、典型的には、哺乳動物(例えば、非ヒト霊長類(ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、マカク、テナガザルなど)、飼い慣らされた動物(イヌおよびネコ)、農場動物(ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ)、実験用動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット)およびヒトを示す。ヒト被験体には、成人および小児が含まれる。ヒト被験体には、免疫機能不全を有するヒト被験体、または、免疫機能不全を有する危険性があるヒト被験体が含まれる。危険性のある被験体は遺伝子スクリーニングによって特定することができる。特定され得る遺伝子的に関係づけられる免疫障害の具体的な例には、X連鎖重症複合免疫不全症、アデノシンデアミナーゼ欠損症、ディジョージ異常、毛細管拡張性運動失調、ヴィスコット−オールドリッチ症候群、白血球接着不全症および筋緊張性ジストロフィーが含まれる。これらの障害および他の障害は、Samter’s Immunologic Diseases(MM Frank、KF Austen、HN ClamanおよびER Unanue編、Little,Brown and Company)に記載されるように、胎児血液または羊膜細胞によって、あるいは、成人組織サンプルによって検出可能である。家族歴を検討することを、障害(例えば、自己免疫性または免疫機能不全)を発症する遺伝パターンまたは増大した危険性(素因)を検出するために使用することができる。危険性のある被験体はまた、特定の特徴(例えば、リンパ球(例えば、脾細胞)または自己抗体の望ましくない集団または異常な集団の存在など)についてスクリーニングすることによって特定することができる。危険性のある被験体には、細胞移植、組織移植または臓器移植を必要としている被験体が含まれる。被験体にはさらに、本発明の組成物のインビボ効力を調べるための疾患モデル動物(例えば、マウスおよび非ヒト霊長類など)が含まれる(例えば、CIAマウスモデル、BXSBマウスモデル、EAEマウスモデルおよびSCIDマウスモデル)。
【0059】
本発明は、細胞のシグナル伝達またはシグナル伝達に対する応答を調節または変化させることができる分子で、次いで、細胞自身の細胞挙動、そのような細胞が関係する他の細胞またはプロセス(例えば、免疫系機能)を再調節し、または正常化し、または変化させることができる分子である、「リンパ球分化因子」として知られている化合物を用いて実施される。本明細書中に示されるように、リンパ球分化因子の具体的な一例がPAである。リンパ球分化因子を、PAについて本明細書中に示されるような少量で本発明に従って使用することができる。
【0060】
本発明はまた、少なくとも部分的には、本明細書中に開示される活性の1つまたは複数を生じさせることができる少量のPAに基づいている。例えば、マウスに1日おき(M/W/F)に施される服用あたり1x10−5μg(1x10−11G)のPAは、二次的な抗原誘導のときに開始した場合、続いて起こる炎症性応答の発現および/または進行を調節し、かつ、発現を調節し、かつ/あるいは、炎症性応答によって引き起こされる組織損傷を逆転させた(実施例1および実施例3)。しかしながら、この量のPAでは、実質的なスーパー抗原活性または体液性免疫の実質的な刺激が全くなかった。
【0061】
当然のことではあるが、当業者は、PAの量が、実質的なスーパー抗原活性または実質的な体液性免疫を刺激することなく、被験体の大きさに依存して増減され得ることを理解する。例えば、ヒト被験体については、PAの量が、実質的なスーパー抗原活性または体液性免疫の実質的な刺激を生じさせることなく、マウスにおける所望される活性を有するPA量に基づいて、ヒト被験体の大きさに依存して増大させられる。
【0062】
従って、本発明はまた、実質的なスーパー抗原活性、体液性免疫の実質的な刺激、または、Fc結合の実質的な依存性を生じさせることなく、PAに関連する活性の1つまたは複数を生じさせることができる量でPAを含む組成物を提供する。そのような量でのPAの活性には、例えば、異常な体液性免疫応答または細胞性免疫応答あるいは望ましくない体液性免疫応答または細胞性免疫応答を再調節し、または正常化すること(これにより、リンパ球の増殖、アポトーシスまたは分化を調節すること)、および、自己免疫、炎症または炎症性応答、あるいは、望ましくない免疫応答または異常な免疫応答によって引き起こされる組織損傷の少なくとも一部を阻害し、または逆転させ、または改善し、または低下させること(これにより、疾患の進行を阻害し、または防止し、疾患の逆転または組織の再生を促進させ、または強化すること)、および、T脾細胞またはB脾細胞の数、あるいは、1つまたは複数の有糸分裂促進因子に対するそれらの応答パターンを正常化することが含まれる。
【0063】
従って、1つの実施形態において、組成物は、PAを、リンパ球の増殖、アポトーシスまたは分化を調節するために十分な量で含む。別の実施形態において、組成物は、自己免疫、炎症または炎症性応答を阻害し、または逆転させ、または改善し、または低下させるために十分な量でのPAの量を含む。さらに別の実施形態において、組成物は、望ましくない免疫応答または異常な免疫応答によって引き起こされる細胞損傷、組織損傷または器官損傷の少なくとも一部を阻害し、または逆転させ、または改善し、または低下させるために十分な量でのPAの量を含む。なおさらに他の実施形態において、組成物は、T脾細胞またはB脾細胞の数、あるいは、1つまたは複数の有糸分裂促進因子に対するそれらの応答パターンを再調節し、または正常化するために十分な量でのPAの量を含む。1つの局面において、マウスについては、PAの量は1μg未満である。別の局面において、PAの量は1μg未満であり、しかし、0.01ピコグラム(pG)よりも多い。さらに別の局面において、PAの量は0.5μg〜0.1μgよりも少なく、しかし、0.1pGよりも多い。なおさらに別の局面において、PAの量は0.1μg〜0.01μgよりも少なく、しかし、1pGよりも多い。さらなる局面において、PAの量は1μg〜0.1μgよりも少なく、しかし、1pGよりも多い;0.1μg〜0.01μgよりも少なく、しかし、1pGよりも多い;0.01μg〜0.001μgよりも少なく、しかし、1pGよりも多い;1ng〜0.5ngよりも少なく、しかし、1pGよりも多い;500pG〜250pGよりも少なく、しかし、1pGよりも多い;250pG〜50pGよりも少なく、しかし、5pGよりも多い;また、50pG〜25pGよりも少なく、しかし、5pGよりも多く、例えば、20pG、15pGまたは約10pGである。さらにさらなる局面において、PAの量は、実質的なスーパー抗原活性、体液性免疫の実質的な刺激、または、Fc結合の実質的な依存性を生じさせない。実質的なスーパー抗原活性または体液性免疫の実質的な刺激を生じさせることなくマウスにおいて活性をもたらすPA量に基づいて、等価なPA量は、約25pg/kg〜250pg/kg、250pg/kg〜500pg/kg、500pg/kg〜1000pg/kg、1000pg/kg〜2500pg/kgまたは2500pg/kg〜5000pg/kg、5000pg/kg〜25,000pg/kg、5000pg/kg〜50,000pg/kgの範囲であり、また、約50ng/kg〜500ng/kg、500ng/kg〜5000ng/kg、5000ng/kg〜25,000ng/kgまたは25,000ng/kg〜50,000ng/kgの範囲である。
【0064】
本明細書中で使用される表現「実質的に伴うことなく」または表現「実質的に依存する」は、PAのスーパー抗原活性、体液性免疫の刺激またはFc結合に関して使用されるとき、示された特性が、その量でのPAの観測された活性に著しく寄与しないことを意味する。従って、実質的なスーパー抗原活性を生じさせないPAの量は、PAのスーパー抗原活性がその量のPAの活性に著しく寄与しないことを意味する。同様に、体液性免疫の実質的な刺激を生じさせないPAの量は小さい体液性活性を生じさせることがあるが、しかし、再度ではあるが、生じた免疫性が、使用されたPAの量でのPAの活性に著しく寄与しないことを意味する。同様に、Fc結合に実質的に依存しないPAの量は、Fc結合が、使用されたPAの量でのPAの活性に著しく寄与しないことを意味する。言い換えれば、PAのFc機能を除去し、または弱めることにより、使用された量でのPAの活性は損なわれないと考えられる。一般に、使用されたPAの量が少ないとき、PAのスーパー抗原活性、体液性免疫の刺激またはFc結合はPAの活性に著しく寄与しない。
【0065】
スーパー抗原活性は典型的には、T細胞の非特異的なサブセットが刺激されて、増殖することによって特徴づけられる。すなわち、T細胞の増殖はエピトープ特異性に主に依存している。スーパー抗原活性では、典型的には、約5%〜10%のT細胞が、増殖するように刺激され、これに対して、通常の抗原では、個体において10個の細胞で約1個の細胞が刺激され得る。従って、スーパー抗原活性は、増殖するように刺激されるT細胞の数を明らかにすることによってアッセイすることができる。そのようなアッセイの例が、例えば、Johnson他、Scientific American、1992年4月号、92頁〜101頁;Kotzin他、Adv.Immunol.、54:99(1993)に記載される。スーパー抗原およびFC結合のアッセイが、例えば、Romagnani他、J.Immunol.、129:596(1982)に記載される。FC結合アッセイが、例えば、Langone JJ、Adv.Immunol.、32:157(1982)に記載される。体液性免疫の刺激のアッセイが、例えば、Leonetti他、J.Exp.Med.、189:1217(1999)に記載される。
【0066】
従って、本発明の方法は、本発明の組成物を使用して実施することができる。例えば、1つの実施形態において、マウスでは、PAの有効な量は約0.1ピコグラム〜約1マイクログラムの用量である。別の実施形態において、PAの有効な量は約1ピコグラム〜約1マイクログラムの用量である。さらに別の実施形態において、PAの有効な量は約10ピコグラム〜約1マイクログラムの用量である。なおさらに別の実施形態において、PAの有効な量は約10ピコグラム〜約0.1マイクログラムの用量である。さらなる実施形態において、PAの有効な量は約10ピコグラム〜約0.1マイクログラムの単回用量である。本発明のさらなる実施形態には、大きさに従った等価なPA量が含まれる。例えば、PAの等価な量は、約25pg/kg〜250pg/kg、250pg/kg〜500pg/kg、500pg/kg〜1000pg/kg、1000pg/kg〜2500pg/kgまたは2500pg/kg〜5000pg/kg、5000pg/kg〜25,000pg/kg、5000pg/kg〜50,000pg/kgの範囲であり、また、約50ng/kg〜500ng/kg、500ng/kg〜5000ng/kg、5000ng/kg〜25,000ng/kgまたは25,000ng/kg〜50,000ng/kgの範囲である。
【0067】
組成物を任意の経路によって全身的または局所的に投与することができる。例えば、PAを、静脈内投与、経口投与(例えば、摂取または吸入)、筋肉内投与、腹腔内投与、皮内投与、皮下投与、腔内投与、頭蓋内投与、経皮(局所的)投与、非経口(例えば、経粘膜および直腸)投与によって投与することができる。医薬処方物を含む本発明の組成物はマイクロカプセル化送達システムによって投与することができ、または、投与のためのインプラントに詰めることができる。
【0068】
組成物にはさらに、本明細書中に開示された活性の1つまたは複数を有する量でPAを含有する医薬処方物が含まれる。様々な実施形態において、医薬処方物は、実質的なスーパー抗原活性を伴うことなく、体液性免疫の実質的な刺激を伴うことなく、または、Fc結合の実質的な依存性を伴うことなく、異常な体液性免疫応答または細胞性免疫応答あるいは望ましくない体液性免疫応答または細胞性免疫応答を再調節し、または正常化する(これにより、リンパ球の増殖、アポトーシスまたは分化を調節する)ために、あるいは、自己免疫、炎症もしくは炎症性応答、または、望ましくない免疫応答もしくは異常な免疫応答によって引き起こされる組織損傷の少なくとも一部を阻害し、または逆転させ、または改善し、または低下させる(これにより、疾患の進行を阻害し、または防止し、疾患の逆転または組織の再生を促進させ、または強化する)ために、また、T脾細胞またはB脾細胞の数、あるいは、1つまたは複数の有糸分裂促進因子に対するそれらの応答を正常化するために十分な量でのPAと、医薬的に許容され得るキャリアまたは賦形剤とを含む。
【0069】
本明細書中で使用される用語「医薬的に許容され得る」および用語「生理学的に許容され得る」は、過度な有害な副作用(例えば、悪心、腹痛、頭痛など)を好ましくは生じさせることなく被験体に投与することができるキャリア、賦形剤および希釈剤などを示す。投与のためのそのような調製物には、無菌の水性または非水性の溶液、懸濁物およびエマルションが含まれる。
【0070】
様々な医薬処方物を、被験体への投与との適合性を有するキャリア、希釈剤、賦形剤、溶媒、分散媒体、被覆剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などから作製することができる。そのような処方物は、錠剤(被覆錠剤または非被覆錠剤)、カプセル(硬カプセルまたは軟カプセル)、マイクロビーズ、エマルション、粉末、顆粒、結晶、懸濁物、シロップまたはエリキシル剤に含有され得る。他の添加剤の中でも、補助的な活性な化合物および保存剤もまた存在させることができる(例えば、抗菌剤、酸化防止剤、キレート化剤および不活性ガスなど)。
【0071】
医薬処方物は、その意図された投与経路と適合性であるように配合され得る。従って、医薬処方物は、腹腔内経路、皮内経路、皮下経路、経口経路(例えば、摂取または吸入)、静脈内経路、腔内経路、頭蓋内経路、経皮(局所的)経路、非経口(例えば、経粘膜および直腸)経路をはじめとする様々な経路による投与のために好適であるキャリア、希釈剤または賦形剤を含む。
【0072】
非経口適用、皮内適用または皮下適用のために使用される溶液または懸濁物は下記のものを含むことができる:無菌の希釈剤、例えば、注射用水、生理的食塩水溶液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒など;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなど;酸化防止剤、例えば、アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなど;キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸など;緩衝剤、例えば、酢酸塩、クエン酸塩またはリン酸塩など、および、張性を調節するための薬剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースなど。pHを酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)で調節することができる。非経口調製物は、ガラスまたはプラスチックから作製されたアンプル、使い捨てシリンジまたは多回服用バイアルに封入することができる。
【0073】
注射のために好適な医薬処方物には、無菌の水性の溶液(水溶性の場合)または分散物、および、無菌の注射可能な溶液または分散物をその場で調製するための無菌の粉末が含まれる。静脈内投与については、好適なキャリアには、生理学的な生理的食塩水、静菌化水、Cremophor ELTM(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)が含まれる。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液状ポリエチレングリコールなど)およびそれらの好適な混合物を含有する溶媒または分散媒体が可能である。流動性を、例えば、被覆剤(例えば、レシチンなど)の使用によって、分散物の場合には要求される粒子サイズを維持することによって、また、界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用の防止を様々な抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン類、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって達成することができる。等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マニトール、ソルビトールなど)、塩化ナトリウム)を組成物において含むことができる。注射可能な処方物の長期間にわたる吸収を、吸収を遅らせる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムまたはゼラチンなど)を含むことによって達成することができる。
【0074】
経口投与については、組成物は、錠剤、トローチ剤またはカプセル(例えば、ゼラチンカプセル)の形態で賦形剤とともに配合することができる。医薬的に適合し得る結合剤および/または補助物質を経口処方物において含むことができる。錠剤、ピル、カプセルおよびトローチ剤などは下記成分のいずれかまたは類似する性質の化合物を含有することができる:結合剤、例えば、微結晶セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチンなど;賦形剤、例えば、デンプンまたはラクトースなど、崩壊剤、例えば、アルギン酸、Primogelまたはトウモロコシデンプンなど;滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはSterotesなど;流動促進剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素など;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリンなど;または矯味矯臭剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチルまたは香味剤など。
【0075】
処方物はまた、組成物を迅速な分解または身体からの迅速な除去から保護するためのキャリアを含むことができる(例えば、体内でゆっくり分解し、次いで有効成分を放出する材料を含む制御放出処方物など)。例えば、徐放性材料(例えば、単独またはワックスとの組合せでのグリセリルモノステアラートまたはグリセリルステアラートなど)を用いることができる。
【0076】
さらなる処方物は、投与された組成物の送達を制御するために、生分解性粒子または生体適合性粒子あるいはポリマー物質(例えば、ポリエステル、ポリアミン酸、ヒドロゲル、ポリビニルピロリドン、ポリ無水物、ポリグリコール酸、エチレン−酢酸ビニル、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、硫酸プロタミン、またはラクチド/グリコリド共重合体、ポリラクチド/グリコリド共重合体、またはエチレンビニルアセタート共重合体など)を含む。そのような処方物を調製するための様々な方法が当業者には明らかである。そのような材料はまた、例えば、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Inc.から商業的に得ることができる。
【0077】
組成物の放出速度を、そのような高分子の濃度または組成を変化させることによって制御することができる。例えば、組成物を、液滴形成技術によって、または、例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチン−マイクロカプセルまたはポリ(メチルメタクリラート)マイクロカプセルの使用による界面重合によってそれぞれ調製されたマイクロカプセルに包み込むことができ、あるいは、コロイド薬物送達システムに包み込むことができる。コロイド状分散システムには、高分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、マイクロビーズ、ならびに、水中油型エマルション、ミセル、混合ミセルおよびリポソームをはじめとする脂質に基づく系が含まれる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されるように、当業者に知られている方法に従って調製することができる。
【0078】
投与のために適切である様々なさらなる医薬処方物がこの分野では知られており、本発明の方法および組成物において適用可能である(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1990)、第18版、Mack Publishing Co.、Easton、PA;The Merck Index(1996)、第12版、Merck Publishing Group、Whitehouse、NJ;およびPharmaceutical Principles of Solid Dosage Forms、Technonic Publishing Co.,Inc.、Lancaster、Pa.(1993)を参照のこと)。
【0079】
本発明の組成物は他の組成物の組合せを含むことができ、また、本発明の医薬組成物において含むことができる。例えば、炎症性応答または炎症を低下させる薬物、あるいは、細胞の分化を刺激する薬物を少量のPAとともに含むことができる。例示的な薬物には、ステロイド系抗炎症剤(SAI)および非ステロイド系抗炎症剤(NSAI)(例えば、コルチコステロイドなど)、cox−2阻害剤、または、免疫系に影響を及ぼす薬物(例えば、ケモカインおよびサイトカイン(例えば、インターロイキンおよびインターフェロンなど)など)が含まれる。
【0080】
医薬処方物を含めて、本発明の組成物は、使用のための指示(例えば、本発明の方法を実施するための指示)を場合により含有し得るキットに詰めることができる。従って、本発明はキットを提供する。1つの実施形態において、キットは、医薬処方物を含み、好適な包装材に詰められた本発明の1つまたは複数の組成物(例えば、PA)を含む。さらなる実施形態において、キットは、本発明の方法を実施するためのラベルまたは添付文書を含む。従って、1つの実施形態において、キットは、免疫障害または免疫機能不全を有する被験体、あるいは、免疫障害または免疫機能不全を有する危険性がある被験体をインビトロまたはインビボまたはエクスビボで処置するための指示を含む。さらにさらなる実施形態において、キットは、自己免疫障害を有する被験体を少量のPAでインビボまたはエクスビボで処置するための指示を含むラベルまたは添付文書を含む。
【0081】
本明細書中で使用される用語「包装材」は、キットの構成成分を収容する物理的構造体を示す。包装材は構成成分を無菌状態で維持することができ、かつ、そのような目的のために一般に使用される材料(例えば、紙、段ボール、ガラス、プラスチック、ホイル、アンプルなど)から作製することができる。ラベルまたは添付文書は、文字による適切な指示(例えば、本発明の方法を実施するための指示)を含むことができる。従って、本発明のキットはさらに、キット構成成分を本発明の方法において使用するための指示を含むことができる。
【0082】
指示には、本明細書中に記載される本発明の方法のいずれかを使用するための指示が含まれ得る。従って、本発明の医薬組成物は、被験体に投与するための指示とともに、容器、パックまたはディスペンサーにおいて含むことができる。指示にはさらに、適応症、満足すべき臨床的エンドポイント、生じ得る何らかの有害な症状、または、ヒト被験体に対する使用のために米国食品医薬品局によって要求されるさらなる情報が含まれる場合がある。
【0083】
そのような指示は「印刷物」においてであってもよく、例えば、キット内の紙または厚紙において、キットまたは包装材に張り付けられたラベルにおいて、あるいは、キットの構成成分を含有するバイアルまたはチューブに取り付けられたラベルにおいてであってもよい。指示は、コンピューター読み取り可能な媒体(フロッピー(登録商標)ディスケットまたはハードディスク)、オプティカルCD(例えば、CD−ROM/RAMまたはDVD−ROM/RAMなど)、磁気テープ、電子的保存媒体(例えば、RAMおよびROMなど)、および、これらのハイブリッド(例えば、磁気/光学的保存媒体など)に場合により含まれ得るボイステープまたはビデオテープを含む場合がある。
【0084】
本発明のキットはまた、相乗的効果または付加的効果をもたらす1つまたは複数の薬物、あるいは、薬物または障害の1つまたは複数の症状を軽減または改善する1つまたは複数の薬物を含むことができる。例えば、炎症性応答または炎症を低下させる薬物を含むことができる。例示的な薬物には、ステロイド系抗炎症剤(SAI)および非ステロイド系抗炎症剤(NSAI)(例えば、コルチコステロイドなど)、またはcox−2阻害剤が含まれる。本発明のキットは、緩衝化剤、保存剤または安定化剤をさらに含むことができる。キットはさらに、処置の活性または効果をアッセイするためのコントロール成分を含むことができる。キットのそれぞれの構成成分を別個の個々の容器に封入することができる。例えば、キットは、本明細書中に示されるように少量のPAを有する単回単位投薬量(例えば、マウスについて1μg未満〜1pG、または、50μg/kg〜50pG/kgの等価な用量)を含むことができる。あるいは、キットは、少量のPAを有する多数の単位投薬形態を含むことができる。例えば、多数の単位投薬形態のそれぞれは別個の個々の容器において少量のPAを含有する(例えば、PAの各単位用量は、マウスについて服用あたり1μg未満〜1pG、または、50μg/kg〜50pG/kgの等価な用量である)。キットの構成成分が1つまたは複数の容器の混合物においてであることが可能であり、また、様々な容器のすべてを1つだけの包装物または多数の包装物に含むことができる。
【0085】
別途定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載される方法および材料と類似または同等な方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、好適な方法および材料が本明細書中に記載される。
【0086】
本明細書中で引用されるすべての刊行物、特許および他の参考文献はそれらの全体が参考として組み込まれる。矛盾する場合、定義を含めて、本明細書が優先する。
【0087】
本明細書中で使用される場合、「a」、「and」および「the」の単数形態は、文脈がそうでないことを明瞭に示さない限り、複数の参照物を包含する。従って、例えば、「リンパ球(a lymphocyte)」に対する参照は複数のそのような細胞を包含する。
【0088】
本発明の数多くの実施形態が記載されている。それにもかかわらず、様々な改変が、本発明の精神および範囲から逸脱することなく行われ得ることが理解される。従って、下記の実施例は、請求項に記載される本発明の範囲を限定するためではなく、請求項に記載される本発明の範囲を例示するために意図される。
【実施例】
【0089】
(実施例1)
本実施例では、動物の炎症(関節炎)モデル、および、非常に低い濃度で投与されたPAが炎症を低下させることができ、かつ、炎症によって引き起こされる組織損傷を阻害または逆転させることができることを示す組織学的データが記載される。
【0090】
それぞれが5匹の動物からなる3つの群を用いた3つの別個の研究(処置群あたり合計で15匹の動物)。第1の群はコントロールであり、リン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBSキャリア)が注射された。第2の群には、100μg/マウス/日のEnbrelが与えられた。これは、製造者(Immunex,Corp.、Seattle、WA)によって記載されるような最適なEnbrel用量であった。第3の群には、10ピコグラム(pG;これは500ピコグラム/kgと等価である)のPAが、処置期間中、月曜日、水曜日および金曜日にPBSキャリアにおいて注射された(Amersham/Pharmacia Biotech、Piscataway、NJ)。PAはまた、Sigma−Aldrich(St.Louis、MO)、Pierce Chemical Co.(Pittsburgh、PA)およびCalbiochem(San Diego、CA)から得ることができる。
【0091】
下記の表1には、これらの感受性動物における進行性の炎症性応答を示すコントロール群についての臨床指標データがまとめられる。応答は、使用された時間範囲内でピークまたはプラトーには達しておらず、そのため、応答がその健康状態を損ねたとき、コントロール動物を屠殺した。
【0092】
(表1:コントロールの臨床指標読み取り−CIAモデル)
【0093】
【表1】

表1:CIAプロトコルによって調べられた15匹のコントロール動物についての平均臨床指標測定値の生データ。このデータは3つの別個の研究からのまとめられたデータである。
【0094】
表2は、同じ期間におけるコントロール群動物の足のカリパス測定値についての類似するデータを示す。これらのデータは、応答におけるプラトー部が10日目以降に現れることを除いて、臨床指標データを反映する。この応答プラトー部は、典型的な抗体誘導による炎症性応答の速度論に一致する。
【0095】
(表2:コントロールの足測定値−CIAモデル)
【0096】
【表2】

表2:CIAプロトコルによって調べられた15匹のコントロール動物についての平均カリパス足標測定値の生データ。このデータは3つの別個の研究からのまとめられたデータである。
【0097】
炎症性応答の15日目に行われたコントロール動物の膝および足首の組織学的分析は広範囲の免疫浸潤および組織破壊を示した。免疫細胞がコントロール動物の滑膜に集まっていた。35日目のEnbrel処置動物は、膝および足首の滑膜における継続した免疫浸潤、ならびに、継続した組織破壊の証拠を示した。
【0098】
表3には、コントロールの処置されていないDBA/1動物の膝関節および足関節の組織学的検査の結果がまとめられる。これらの評点は、1〜10の連続したスケールで、組織学者によって盲検様式で割り当てられ、1は「正常な」組織学的外観を表し、10は大きな程度の損傷を表す。コラーゲン誘導後のコントロール動物の膝関節および足関節は最大の組織損傷(「10」)を示している。このことは臨床指標データ(表1)および身体測定データ(表2)の両方と相関する。
【0099】
(表3:CIAモデルの組織学的評価−コントロール動物)
【0100】
【表3】

炎症性応答の35日目でのPA処置動物は、免疫浸潤のはるかに少ない証拠、および、組織破壊のほんのわずかな証拠のみを示した。ほんの少数の宿主免疫細胞が滑膜に存在していただけであり、組織細分化または組織破壊の証拠は全くなかった。従って、これらのデータは、PAがCIAモデルにおける急性炎症を低下させることを明らかにしている。これらのデータはまた、PAが組織破壊を低下させるか、または、組織修復をEnbrelよりも大きく促進することを明らかにしている。
【0101】
表4および表5には、PA(10pG/注射/マウス(500pg/kg)、M/W/F)の影響を調べる3つの別個の研究の結果が示される。Enbrelを比較のために調べた;得られた結果は、発表された結果と同程度であった。PA処置は非常に効果的であり、Enbrel標準物のために要求された動物の数の約10%において有意性に達した。全体的な臨床指標(表4)および身体測定値(表5)についての結果は同程度である。
【0102】
(表4:CIAモデルに対するPA処置(全体的な臨床指標))
【0103】
【表4】

(表5:CIAモデルに対するPA処置(測定値))
【0104】
【表5】

表6には、それらの処置計画期間中の1週間、2週間および3週間において屠殺されたDBA/1マウスの組織学的評価の結果が示される。PA処置およびEnbrel処置はともに、組織レベルでの著しい損傷を示している。これらのデータは、全体的な臨床指標および足測定値(表4および表5)における著しい低下にもかかわらず、組織レベルでの損傷が依然として存在することを明らかにしている。PA処置は組織損傷を遅らせるようであり(コントロールに対する第1週での処置)、しかし、その損傷を防止していない。
【0105】
(表6:PA処置および組織学的損傷)
【0106】
【表6】

CIAモデルプロトコルに従ってII型コラーゲンにより誘導されたDBA/1マウスを2回目の抗原注射の直後に処置した−コントロールについては溶媒キャリア(PBS)、PA(10pG/注射(500pg/kg)/マウスで、M/W/F)およびEnbrel(100ug/注射または5mg/kg、毎日)。
【0107】
表7には、処置を35日に延長した後の組織学的結果が示される。コントロールマウスを人道的理由から18日で屠殺した。それらの18日目のデータが比較のために含められる。Enbrel処置は組織学的損傷の改善を全く示さなかった。対照的に、PA処置は14日〜21日で組織学的損傷を逆転させた。この組織学的データはこれらの動物の全体的な臨床指標と相関する。従って、PA処置は急性炎症性応答の重症度を著しく低下させ、また、処置を続けることにより、応答によって引き起こされる存在している組織損傷を逆転させた。
【0108】
(表7:PA延長処置および組織学的評価)
【0109】
【表7】

これらの組織の組織学的評価では、低倍率、中倍率および高倍率での評価が含まれた。コントロール処置群(18日目、屠殺時)およびEnbrel処置群の両方において、滑膜は非常に多数の活性化されたリンパ球を有し、これに対して、処置の35日目のPA群は、数および形態学がII型コラーゲン抗原誘導の前のDBA/1マウスにおける数および形態学と類似した少数のリンパ様細胞を有していた。
【0110】
まとめると、これらのデータは、足測定値および臨床指標評価はCIA動物モデルにおける誘導された炎症性応答を立証すること、また、PAは急性期の期間中の炎症性応答を低下させ(コントロールに対するP値、0.05未満)、かつ、処置の35日までに、応答によって引き起こされる組織学的損傷を逆転させること、また、PAは、BXSB動物モデルおよび組織培養評価(下記においてさらに議論される)によって予測される濃度および投薬スケジュールでその改善的効果を有すること、また、Enbrelは14日目で炎症を低下させ(有意差なし、N=15)、しかし、観測された炎症性損傷を35日目において低下させないこと(このことは、PAがEnbrelよりも効果的であることを示す)が明らかにされる。
【0111】
(実施例2)
本実施例では、PAの作用機構(MOA)がEnbrelとは異なるようであることを示すデータが記載される。
【0112】
CIA動物モデルについての受け入れられているMOAはα−TNFの発現の競合的阻害である。Enbrelは、知られているα−TNF阻害剤である。Enbrelデータの回帰分析では、炎症性応答の発症の遅れが示された。対照的に、PAデータの回帰分析では、炎症性プロセス自体の変化が示唆された。従って、PAのMOAは主にα−TNF阻害によらないようである。加えて、PAは、処置された動物における誘導された炎症性応答を低下させることにおいてEnbrelよりも効果的であるだけでなく、そのプロセスによって引き起こされる以前から存在している組織損傷を逆転させることができる。
【0113】
何らかの理論によって拘束されないが、PAは、従って、免疫依存的な応答を統合することに関わる基礎的な制御機構を「調節する」ことができる。このMOAは、単純な標的分子競合的阻害のかわりに、ただ自己調節の観点から、α−TNFの阻害を包含すると考えられる。そのようなMOAは、下記の性質を有することが予測される:
1)少量が要求される−さらなる機構に影響を及ぼすために「分岐する」初期の制御機構に対する調節作用;
2)自己調節的−PAが初期の制御点において作用するならば、系は、存在するとしても、副作用をほとんどもたらさないそのような機構の強度および方向を調整する能力を有する;
3)多形質発現性標的、すなわち、細胞系譜非特異的−PAの制御点が初期であるならば、その後の制御は多様であるはずであり、また、PAの濃度および投薬スケジュールは一定であるはずである;および
4)PAのエフェクター分子構造が数多くのより複雑な構造に関連して見出されるはずである。
【0114】
(実施例3)
本実施例では、PAが、早期の死亡をもたらす遺伝的基礎を有する複合自己免疫不全疾患によって特徴づけられる動物モデルにおいて多数の調節活性を有することを示すデータが記載される。具体的には、PAは、消耗の早期発症、脾臓区画の拡大を防止し、体液性免疫(自己抗体)、細胞性免疫(TH/THのバランス)およびリンパ系細胞の分化を調節し、同様に、疾患プロセスによって引き起こされる組織損傷を改善する。
【0115】
BXSBマウスモデルは、典型的には腎不全からのオスにおける早期死亡を伴って現れる、遺伝子(Yaa)に基づく動物モデルである。このモデルは、ヒトの全身性狼瘡についての類似物として文献では見なされている。遺伝子欠陥が、下記のパターンを有する一連の相互に関連した進行性の全身性自己免疫疾患として発現する:胸腺萎縮、抗核抗体、肝臓疾患、関節炎疾患、腎臓疾患および早期死亡。
【0116】
これは、多数の結末を伴う遺伝的モデルであるので、他の研究者による以前の研究はこの疾患の1つだけの局面に集中している。本明細書中で研究された疾患プロセスの多数の局面に対するPAの影響には、
1.動物の生理学に対する全体的な影響
a.成長曲線
b.胸腺、肝臓、脳、腎臓、足首および膝の組織学
2.免疫調節−細胞増殖/アポトーシス
a.脾臓サイズ、および
b.細胞数
3.リンパ球の動力学
a.有糸分裂促進性の刺激因子に対するT/B応答
4.リンパ球の機能
a.体液性免疫
i.Ig−PFC産生
ii.自己抗体:ANA、抗カルジオリピン
b.細胞性免疫
i.ナチュラルキラー
c.細胞表面マーカー
d.細胞性サイトカイン
が含まれる。
【0117】
研究設計:
1.長期間の処置、異常:25匹のオスBXSBの群(コントロール+4つの処置群)を定期的なピールオフ(peel−off)屠殺(通常、3週間の処置ごとに)とともに15週間の期間にわたってPAによりM/W/Fで処置した。
【0118】
2.長期間の処置、正常:15匹のオスC57BL/6Jの群を定期的なピールオフ屠殺(通常、3週間の処置ごとに)とともに15週間の期間にわたってPAによりM/W/Fで処置した。
【0119】
3.短期間の処置、異常:15匹のオスBXSBの群を上記で決定された量のPAにより3週間にわたって処置し、その後、動物を、処置後3週間、6週間および9週間で屠殺した。
【0120】
4.短期間の処置、正常:15匹のオスC57BL/6Jの群を上記で決定された量のPAにより3週間にわたって処置し、その後、動物を、処置後3週間、6週間および9週間で屠殺した。
【0121】
PA濃度の決定:
様々なPA量を1μG/注射〜10−7μG/注射(50μg/kg〜5pg/kg)の8対数の濃度にわたってBXSBに投与した。その結果は2つのPA最適値を示している(1つが0.01μG/注射(5μg/kg)においてであり、もう1つが10−5μG/注射(50pg/kg)においてである)。用量応答曲線の形状はガウス型である。明確化のために、示されているデータは10−5μG/注射(50pg/kg)についてである(図1)。
【0122】
図1はPA投与後のBXSBオスの体重増加を示す。体重を、動物にキャリアまたはPAのいずれかが注射された毎に測定した。パネルAは正常なC57BL/6Jマウス系統についての体重増加成長曲線であり、正常な体重増加成長曲線の典型的な形状を示すために提供される。パネルBは25匹のコントロールのBXSBオスマウスからの体重増加データの累積和を示す。この曲線は、約4月齢での体重ピークとその後の体重の減少を示しており、このことはBXSB自己免疫疾患の報告された発症に対応する。体重の減少は、腎臓における免疫複合体の沈着に関係づけられる「消耗」症候群をもたらす。
【0123】
パネルCは最適な2つの濃度でのPAの長期間にわたる処置の影響を示す(8つの濃度が研究された)。0.01μG/注射(0.5μg/kg)および0.00001μG/注射(0.0005μg/kg)はともに、BXSBコントロールの場合よりも、正常なロジスティック形状に良好に匹敵する体重増加成長曲線の両方の形状における著しい変化を示し、両方の処置された動物群の平均体重はコントロールよりも著しく大きい(10−5μG(0.0005μg/kg)の用量について、X=24.16、P=0.0002)。
【0124】
BXSB動物群をPAで処置したとき、これらの成長曲線を分析し、また、それらを比較するために、回帰分析をデータに対して行った。上記で示されたC57BL/6Jの成長データは下記の三次式によって最も良く表される:
C57BL/6Jコントロール−−y=−0.0286x+0.4067x−0.8452x+16.816[R=0.9886]
値は、実際のデータと、線式との間での極めて良好な一致を示している。式そのものは、「ロジスティック」形状の曲線を比較的単純に引き出したものであり、正常な成長曲線の典型である(図1)。
【0125】
コントロールのBXSB成長曲線については4つの異なるデータ組がある。すべてのデータ組が組内で一致し、まとめられたデータについての全体的な式は下記の通りである:
まとめられたBXSB−−y=−0.0001x+0.0034x+0.1851x+18.746[R=0.9384]
この式は、図1のパネルAおよびパネルBの間で認められる曲線形状における違いの定量的な表示である。三次関数および二次関数により、全体的な形状が規定され、それらの非常に小さい値により、体重、および、体重が時間の関数として減少することが認められる「消耗」期における増大率が規定される。この研究では、目的は、それぞれの系統がそれら自身の特異的な成長特性を有するので、BXSBの成長曲線をC57BL/6Jの曲線に「似せる」ことではなく、むしろ、最初に成長速度を増大させ、そして、図1のパネルDにおいて明らかな「消耗期」を減少させるか、または除くことである。
【0126】
表8には、BXSB動物の様々なPA処置群についての近似された式が示される。初期成長曲線の傾き(これは成長速度を示す)がBXSBコントロール動物ではひどく制限される。BXSBコントロール動物における変曲点は疾患プロセスの致死的影響を示す。結果は、PA処置が用量依存的様式で成長速度および致死性の両方に対して正の影響を有することを示している。
【0127】
(表8:BXSBの成長速度論に対するPAの影響(μg/マウス))
【0128】
【表8】

組織学的分析:
BXSBマウスモデルの様々な器官の組織学的悪化は複合自己免疫不全疾患の顕著な特徴である。この症候群は多面的であり、数多くの器官が関わる。器官の損傷は進行性であり、個々の損傷は組織タイプに従って変化し得る。
【0129】
表9は、より大きな量のPA(1μg/注射〜0.001μg/注射、すなわち、50μg/kg〜0.05μg/kg)の組織学的分析からの結果を示し、PAが用量依存的な様式で組織学的変化の発症および/または重症度を変化させたことを示している。表10には、より少ない量のPA(0.00001μg/注射/マウス〜0.0000001μg/注射/マウス、すなわち、0.0005μg/kg〜0.000005μg/kg)についての類似するデータが示される。両方のPA用量は器官の組織学における最大の改善を示した。
【0130】
(表9および表10:BXSBの組織)
【0131】
【表9】

【0132】
【表10】

表9および表10における結果は、BXSBマウスのPA処置が用量依存的様式で自己免疫損傷を低下させることができたことを示している。処置は胸腺萎縮の発症を遅らせ、かつ、肝臓および関節の炎症の重症度を低下させた。腎臓は正常範囲内のままであった。PA処置動物の組織は、C57BL/6J動物と比較して完全には正常ではなかったが、BXSBコントロールの組織に存在する損傷の逆転を示した。最適なPA用量は0.0001μg(0.005μg/kg)であり、これは他のアッセイ系(例えば、Ig−PFC産生、NK活性、有糸分裂促進因子応答パターン、サイトカイン産生、自己抗体産生、脾臓サイズ、組織学的改善)と一致している。
【0133】
まとめると、これらの研究は、PAが消耗の早期発症を防止し、かつ、胸腺、肝臓、腎臓、膝および足首をはじめとする組織における自己免疫疾患プロセスによって引き起こされる損傷を改善するか、または逆転させることを示している。
【0134】
(実施例4)
本実施例では、PAが、脾臓の拡大および脾細胞の細胞数の阻害によって反映される脾臓における免疫調節活性(例えば、増殖、アポトーシスまたは分化)を有することを示すデータが記載される。
【0135】
脾臓を研究期間中に動物から取り出した。正常なC57BL/6Jの脾臓が基準点であった。処置されていないBXSB動物からの脾臓は著しく肥大していた。対照的に、PAで処置されたBXSB動物の脾臓は、正常なC57BL/6Jの脾臓のサイズに類似していた。
【0136】
非処置BXSB動物における肥大した脾臓は巨脾腫として知られており、甚だしい全身的感染プロセス、または、異常な細胞アポトーシスもしくは細胞増殖のいずれかの結果である。これらの動物は無菌環境で維持されているので、肥大した脾臓は、細胞成長/細胞死の不完全な制御の結果である可能性が高い。肥大した脾臓についての別の説明は、細胞がその個々のサイズにおいて増大していたということ(ブラストシス(blastosis)として知られているプロセス)が考えられる。細胞サイズを測定するための蛍光活性化細胞分取(FACS)データの検査により、この可能性が除外された。FACS分析では、わずかにより大きな細胞に至る傾向がBXSBコントロールにおいて認められたが、細胞サイズにおける統計学的に有意な増大が何ら認められないことが明らかにされた。BXSBの脾細胞数が正常な動物の脾細胞数の5倍よりも大きいこと(表11、上段)は、これらの知見と一致している。
【0137】
(表11:巨脾腫に対するPAの影響)
【0138】
【表11】

表11(上段)は両方のコントロールマウス系統(C57BL/6JおよびDBA/2J)およびBXSBのオスの脾臓の含有量を示す。BXSB脾細胞の細胞数は、これらの正常な系統のいずれかについて見出される細胞数の5倍よりも多い。PA処置はBXSB脾細胞数を著しく減少させた(表11、下段)。
【0139】
まとめると、これらの研究は、PAが、自己免疫疾患によって引き起こされる脾臓区画の拡大(増殖/アポトーシス)、および、脾細胞数を規制することを示している。PA処置は用量依存的様式で脾臓サイズおよび脾細胞数の両方を著しく減少させた。
【0140】
(実施例5)
本実施例では、BXSB動物が脾細胞の異常な分化または増殖またはアポトーシスを呈することを示すデータが記載される。従って、このデータは、BXSBの脾臓におけるPA活性には、異常/不完全な脾細胞分化または脾細胞増殖/アポトーシスを再調節すること(すなわち、正常な細胞増殖またはアポトーシスを回復すること)が含まれることを示している。
【0141】
有糸分裂促進因子は、一般的な細胞集団(例えば、Tリンパ球および/またはBリンパ球)において細胞分裂を刺激する非特異的な能力を有するレクチンである。様々なレクチンが植物および動物において見出され、今日、抗体分子の前駆体として最も良く特徴づけられている。様々なレクチンが細胞内および他の形態の連絡のために使用される。
【0142】
BXSBマウスにおけるTリンパ球区画が異常であるかどうかを明らかにするために、2つのT細胞特異的有糸分裂促進因子および2つのB細胞特異的有糸分裂促進因子を、BXSBマウスから単離された脾細胞の応答を研究するために使用した。7つの異なる有糸分裂促進因子濃度および4つの速度論的時点を、応答振幅(存在する細胞数の目安)、および、第2に、最適な刺激濃度(細胞の分化状態の目安)に関してBXSB動物の脾細胞応答を調べるために使用した。
【0143】
簡単に記載すると、BXSBマウスおよびコントロールマウスを処置計画期間中に定期的に屠殺し、それらの脾臓を取り出した。1〜2x10個/mlでの脾細胞の細胞懸濁物を96ウエルプレートに分注する。有糸分裂促進因子(10μG/10uL〜0.01μG/10uL)を三連でウエルに加え、培養物を培養の24時間から96時間まで24時間間隔で集めた。すべての培養物を、集める前の16時間、トリチウム化チミジンで処理した。新たに合成された放射能標識DNAを含むDNAをガラス繊維フィルター上に抽出し、放射能を液体シンチレーション計数によって求めた。
【0144】
(表12:正常体(C57BL/6J)の有糸分裂促進因子応答(刺激指数、S.I.))
【0145】
【表12】

表12は、フィトヘマグルチニン(PHA)、コンカナバリンA(Con−A)、ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)およびリポ多糖(LPS)に対するC57BL/6Jマウスの有糸分裂促進因子応答を示す。PHAおよびCon−Aは、基礎的なTリンパ球集団が増殖することを用量依存的様式で刺激し、これに対して、SEBおよびLPSはBリンパ球集団の用量依存的な増殖を刺激する。
【0146】
(表13:BXSBの有糸分裂促進因子応答)
【0147】
【表13】

表13はBXSBコントロールの有糸分裂促進因子研究からの結果を示す。統計学的分析により、すべての有糸分裂促進因子応答がC57BL/6Jコントロールよりも著しく低いことが示される。加えて、BXSBコントロールについてのPHA応答曲線およびCon−A応答曲線の形状は、正常なC57BL/6Jコントロールとは異なる。両方について、ピーク応答を達成するために、有糸分裂促進因子の低濃度側への変化が認められた。応答曲線の形状におけるこれらの変化は分化状態における変化に関連している。
【0148】
(表14:コントロールに対するBXSBの有糸分裂促進因子応答の統計学的比較)
【0149】
【表14】

表14はコントロールBXSBの統計学的比較を示す。コントロールのC57BL/6に対する有糸分裂促進因子応答。ほぼどの場合でも、BXSBにおける有糸分裂促進因子応答の振幅は抑えられており、このことは、成熟細胞集団の減少、および、より低い値への最適応答濃度における変化を示している。従って、これらのデータは、脾細胞の過剰成長または低下したアポトーシスを生じさせる、コントロールのBXSB脾細胞における異常な分化を示している。
【0150】
(表15:PA処置の関数としてのPHA応答)
【0151】
【表15】

(表16:PA処置の関数としてのCon−A応答)
【0152】
【表16】

(表17:PA処置の関数としてのSEB応答)
【0153】
【表17】

(表18:PA処置の関数としてのLPS応答)
【0154】
【表18】

表15〜表18はBXSB脾細胞の有糸分裂促進因子応答に対するPAの影響を示す。速度論は複雑ではあるが、いくつかの結論を引き出すことができる。PA(0.5μG)がPHAの応答およびCon−Aの応答を上昇させることは、T細胞集団およびB細胞集団の動力学の正常化を示している。PAがまた、有糸分裂促進因子応答の振幅の多く、および、応答曲線の形状を回復させることは、有糸分裂促進因子に対するT細胞応答およびB細胞応答の部分的または完全な回復を示している。
【0155】
まとめると、これらの研究は、BXSBの異常な脾臓リンパ球数、ならびに、典型的なT有糸分裂促進因子応答およびB有糸分裂促進因子応答が、PA処置により、少なくとも部分的ではあるが、正され得ることを示している。
【0156】
(実施例6)
本実施例では、PAが、BXSB動物における組織破壊に関わることが考えられる自己抗体の数を減少させることを示すデータが記載される。
【0157】
体液性免疫は抗体産生に関わり、また、RA患者の著しい割合において見出されるリウマチ抗体として重要である。異常な抗体が一部の患者の滑膜において見出されている。BXSBモデルでは、異常な抗体が産生される。
【0158】
コントロールのBXSB動物およびPA処置のBXSB動物から得られた脾臓の細胞をプラーク形成細胞(PFC)アッセイで研究した。このアッセイでは、標的の赤血球が、抗原の特異性にもかかわらず、従って、広範囲の体液性免疫をもたらす任意の分泌された免疫グロブリンと結合するプロテインAにより標識される。
【0159】
(表19:BXSBの非特異的抗体産生細胞)
【0160】
【表19】

表19はコントロールBXSB脾細胞のIg−PFC応答を示し、この応答はコントロールのC57BL/6J脾細胞よりも100倍大きく、このことはBXSB動物における異常な抗体産生を示している。
【0161】
(表20:BXSB動物におけるPA処置およびIg−PFC産生)
【0162】
【表20】

表20は、Ig−PFC産生に対するPAの、用量に関連づけられる影響を示す。すべてのPA量で、Ig−PFCの過剰産生が著しく減少し、0.0001μGのPAが最大の減少を示した。
【0163】
BXSBのコントロール脾細胞は非常に大きなレベル(61400+−6435PFC/1E06)で抗体を作製し、分泌している。これは、C57BL/6Jの正常なコントロールにおいて観測される値の約100倍である。PA処置は用量依存的および時間依存的な様式で自己抗体のレベルを著しく減少させる。
【0164】
(表21:BXSB動物における循環自己抗体に対するPAおよび影響)
【0165】
【表21】

表21はBXSB動物における自己抗体の発達を示す(より大きな数字は、循環している自己抗体の数がより大きいことを示す)。PA処置は、測定されたすべての時点で自己抗体のレベルを減少させる。
【0166】
(表22:自己抗体産生(ANA)に対するPA濃度の影響)
【0167】
【表22】

表22は、自己抗体のPA媒介による減少が用量依存的であることを示す。最大の減少が0.00001μGで生じている。
【0168】
まとめると、PAは非特異的な抗体の数を規制し、これにより、損傷をもたらす自己抗体の量を減少させる。PAがまた、BXSBの脾臓における抗体産生細胞を減少させることは、このデータと相関する。従って、PA処置は、少なくとも部分的ではあるが、体液性免疫を回復させる。
【0169】
(実施例7)
本実施例では、PAがBXSBマウスの細胞毒性応答を減少させ、これにより、この応答をベースラインレベルまたはベースラインレベルの近くに再調節することを示すデータが記載される。
【0170】
免疫系の細胞性成分は免疫系全体についての機能の最初のインテグレーターであり、これにより、T細胞およびB細胞がそれらの様々な分化した形態で認識およびエフェクター機能の両方のために供給される。BXSB動物モデルでは、細胞媒介免疫(CMI)系が無傷であるという報告がなされている。しかしながら、これらの報告に反して、下記に記載されるデータは、CMIがBXSBマウスでは影響を受けることを示している。
【0171】
BXSBマウス(コントロールおよびPA処置の両方)を、放射能標識クロムにより標識された非特異的な標識を認識および溶解するそれらの能力について研究した。簡単に記載すると、コントロールのBXSBマウスおよびPA処置のBXSBマウスに由来する約200μlの脾臓細胞(1x10/ml)をRPMI培地においてマイクロタイタープレートに置床し、5つの2倍連続希釈物をRPMI培地で作製した。P815細胞をクロム(Cr51)により放射能標識し、96ウエルプレートの各ウエルに加え、12分間遠心分離し、その後、37℃で3時間〜4時間インキュベーションした。細胞を再び遠心分離し、110μlのサンプルをCr51について計数した。より詳細なプロトコルが、Current Protocols in Immunology(3.11、Assays for T cell Function)に含まれる。
【0172】
(表23:BXSBマウスおよび正常マウスの細胞毒性応答)
【0173】
【表23】

表23は、正常なマウス(中央の欄)が、Cr51により標識されたP−815標的に対するナチュラルキラー活性の典型的なベースラインレベルを有することを示す;レベルは100:1のエフェクター標的比で0%〜3%の細胞毒性である。左側の欄は、同じ標的に対するBXSBマウスの細胞毒性応答を示す;細胞毒性のレベルは6:1のエフェクター/標的比で50%を超えて極めて高い。3週間〜15週間の期間にわたるBXSBのPA処置(右側の欄)は、回帰分析を何ら可能にすることなく、細胞毒性をベースラインレベル(すなわち、100:1のE/T比で0%〜3%)に低下させた。
【0174】
まとめると、これらの研究は、PA処置が、調節されていないBXSB細胞毒性応答を、20分の1、すなわち、コントロールのベースラインレベルまたはコントロールのベースラインレベルの近くに低下させることを示している。従って、PA処置は、少なくとも部分的ではあるが、細胞性免疫を回復させる。
【0175】
(実施例8)
本実施例では、PAが、リンパ系系譜の細胞の細胞分化、増殖またはアポトーシスの調節を反映するCDマーカーの発現を調節することを示すデータが記載される。
【0176】
クラスター化した決定基(CDマーカー)の発現により、リンパ系細胞の分化状態が示される。PAはこれらのマーカーを特異的に調節する。この調節は、上記で記載されたデータとの直接的な相関関係を有する。
【0177】
(表24A:CDマーカーのプロフィル)
【0178】
【表24A】

表24Aは数多くのT細胞CDマーカーのデータを示す。正常な脾細胞(BL6コントロール)の約80%が非活性化(CD69−)T細胞(CD69−、CD4+)である。この集団は若いBXSB動物(2実験週〜10実験週、すなわち、暦齢で10週齢〜18週齢)および加齢のBXSB動物(11実験週〜15実験週、すなわち、暦齢で19週齢〜23週齢)の両方で減少する。速度論的影響もまた認められる:11週〜15週のBXSB動物は、それらのT細胞マーカーに関して、より若いBXSB動物よりもはるかにひどく損なわれている。このことは、低下した細胞機能および増大した全体的な死亡率に相関している。
【0179】
(表24B:CDマーカーのプロフィル(続き))
【0180】
【表24B】

表24Bは数多くのB細胞CDマーカーのデータを示す。3つのマーカーの第1の組は休止B細胞(すなわち、非活性化)を示し、最後の3つは活性化B細胞を表す。これらのデータは、B細胞集団が、系統と、BXSBマウスにおける疾患プロセスの段階との両方に対して不応性であることを示す。従って、BXSBの複合免疫不全疾患プロセスの最初の細胞免疫成分はT細胞を伴うようである。
【0181】
グラフ1には、様々な濃度のPA(注射あたり1E−03μG〜1E−07μGのPA)によるBXSBマウスの長期間にわたる処置(3週間〜15週間)の影響からのデータが示される。このデータの第1の重要な特徴は、PAによるBXSBマウスの処置により、CD69−/CD4+のT細胞の集団が調節されるということである。この調節はそれ以外のT細胞マーカーの調節と相互に関係づけられ、このことは、1つの細胞集団がフィードバック機構およびフィードフォワード機構の両方で系列内(および他の細胞系列内)で他の細胞集団に対して作用するので予想されることである。細胞集団に対するPA用量応答効果もまた存在しており、これは、機能的アッセイにおいて上記で記載された応答と一致している;用量−時間の速度論的応答もまた同様に存在する。これらのデータは、PA処置が実際にT細胞の分化を調節することを示している。
【0182】
グラフ1ではまた、E−03(5μg/kg)用量のPAが、早期の時点でBXSBコントロールにおいて認められたCD69−CD4+の減少を正し、だが、もっと後では、長期間にわたる処置のより長い時点においてこの効果が失われることを示すデータが示される。対照的に、E−07(50pg/kg)の用量は、短い時点と長い時点との両方で効果があると思われる。これらのデータは生体調節療法の下記の特徴と一致している:1)用量応答曲線がガウス型である;および2)効果を生じさせるPAの量が少ないことは、より従来的な1つだけのエフェクター標的の代わりに、プロセス指向標的を示唆している。
【0183】
(グラフ1)
【0184】
【化1】

表25には、6週間および9週間の期間にわたって週に3回投与された長期間PA(1E−05μG/服用)の影響が、1回だけの3週間の期間について週に3回の同じ量での短期間の処置、その後、処置を伴わないさらなる6週間および9週間と比較されて示される。短期間の処置は、CDマーカーの呈示を変化させることにおいて効果的である。複雑ではあるが、データは様々なマーカーの間での相互関係を明らかにしている;再度ではあるが、CD8系列は、PAに対して、CD4系列またはB細胞系列よりも感受性がないようである。
【0185】
(表25)
【0186】
【表25】

表26は、これらの研究で使用された9個のT細胞マーカーの系列に対する単回PA用量(1E−05μG)の時間プロフィルを示す。再度ではあるが、二重陽性細胞(これはアポトーシスを受ける運命にある)、ならびに、CD8を有する活性化系列は、処置に対して比較的不応性である。PA処置はまさに活性化CD4系列および成熟した細胞毒性T細胞(CD8+CD4−)を変化させている。
【0187】
(表26)
【0188】
【表26】

まとめると、これらの研究は、短期間または長期間のPA処置が、正常な有糸分裂促進応答の部分的回復(実施例5)、自己抗体産生の低下(実施例6)および細胞毒性応答の低下(実施例7)を含む上記で記載された機能的変化と対応する用量依存的および速度論依存的な様式でBXSBマウスにおいてT細胞のCDマーカーを調節したことを示している。従って、PAはリンパ系系譜の細胞の分化シーケンスを調節する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1−1】
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【図1−2】
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【公開番号】特開2012−107070(P2012−107070A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−52994(P2012−52994)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2007−532397(P2007−532397)の分割
【原出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(504376821)プロタレックス, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】