説明

プロテインS異常症の検出方法

【課題】プロテインS異常症を正確、簡便かつ迅速に検出する方法を提供する。
【解決手段】本発明のプロテインS異常症の検出方法は、試料中の総プロテインS活性値及び総プロテインSタンパク質量を測定する工程、及び、前記測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較する工程、を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインS異常症の検出方法に関するものである。
本発明は、特に、臨床検査、分子生物学、及び医学などの生命科学分野等において有用なものである。
【背景技術】
【0002】
プロテインSは、生体内の血液凝固系の制御機構において中心的に機能する血漿タンパク質である。
【0003】
このプロテインSは、主に血液中に存在するものであって、活性化プロテインCの補欠因子(補助因子)であり、活性化プロテインCの活性を上昇させることができ、血液中での活性化プロテインCの働きに欠かせないものである。
【0004】
なお、活性化プロテインCは、ヒトにおける血液凝固を促進する活性化血液凝固第V因子(第Va因子;FVa)、及び活性化血液凝固第VIII因子(第VIIIa因子;FVIIIa)を分解することにより、血液凝固反応を抑制する役割を担った因子である。
【0005】
プロテインSは、C4b結合タンパク質(補体第4因子b結合タンパク質;C4bBP)と1対1で特異的に結合し、複合体を形成する。つまり、C4b結合タンパク質は、プロテインSのリガンドとなる。
【0006】
このプロテインSとC4b結合タンパク質との複合体形成反応は、下に示した通りであるが、この反応は可逆反応である。
【0007】
【化1】

【0008】
そして、ヒト血液中においては、通常、プロテインSに比べてC4b結合タンパク質のモル濃度は小さく、また解離定数も小さいため、血液中には「プロテインS」及び「プロテインS−C4b結合タンパク質複合体」のみ存在する。つまり、下記の反応の平衡は、完全に右に寄っていることになる。
【0009】
通常、健常者の血液中(血漿中)のプロテインSは、その約60%が「プロテインS−C4b結合タンパク質複合体」(すなわち、結合型)であり、その約40%は「遊離状態のプロテインS」(すなわち、遊離型)である。
【0010】
なお、遊離のプロテインS(すなわち、遊離型)のみが、活性化プロテインCに対する補酵素活性を示し、活性化プロテインSの活性を上昇させることができるのである。
【0011】
なお、本明細書において、「プロテインS」又は「C4b結合タンパク質」等の語は、特に複合体(若しくは結合型)又は遊離(若しくは遊離型)等の記載が無い場合は、それぞれこれらの物質の複合体(又は結合型)及び遊離状態(又は遊離型)のものの総称を意味するものとする。
【0012】
下に、プロテインC及びプロテインSによる血液凝固系の制御機構の模式図を示した。
【0013】
【化2】

【0014】
プロテインCは生体内において、トロンビン・トロンボモジュリン複合体により限定分解され活性化ペプチドが遊離することにより活性化され、活性化プロテインCとなる。
【0015】
活性化プロテインCは、ヒトおける血液凝固を促進する活性化血液凝固第V因子、及び活性化血液凝固第VIII因子を分解することにより、血液凝固反応を抑制する役割を担ったセリンプロテアーゼである。
【0016】
プロテインSは、活性化プロテインCの補欠因子(補助因子)であり、プロテインSの存在により、活性化プロテインCの活性は上昇し、活性化プロテインCによる活性化血液凝固第V因子の分解反応及び活性化血液凝固第VIII因子の分解反応は促進される。
【0017】
血液凝固反応を抑制する働きを持つプロテインSの活性の低下又は異常は、生体内において血栓症を引き起こす原因となりうる。
実際、プロテインSの先天性異常症者は、高い頻度で深部静脈血栓症、表在性静脈炎若しくは肺梗塞などの静脈性血栓症、又は心不全の原因となる冠状動脈血栓症などの動脈性血栓症等を発症することになる。
また、播種性血管内凝固症候群(DIC)、ビタミンK欠乏症又は肝機能低下症等においても、プロテインSの活性の低下又は異常が認められる。
【0018】
即ち、血漿等の試料中のプロテインSの活性を測定することにより、プロテインSの活性の低下又は異常を把握することができ、引いては血栓症等の疾患の発症の予測、早期発見及び治療効果の判定等に重要な役割を果たすものである。
【0019】
ところで、試料中のプロテインSの活性を測定する方法として、試料を蛇毒からのプロテインC−活性化剤と共に、活性化プロテインCの形成下にインキュベートし、血液凝固第XII因子、血液凝固第VII因子又は血液凝固第II因子(プロトロンビン)の活性化剤を添加し、かつ血液凝固因子及びその活性剤により媒介される、プロトロンビンからのトロンビンの形成の減少を、色素原トロンビン基質を使用して測光測定する方法が開示されている(特許文献1参照。)。
【0020】
別の試料中のプロテインSの活性を測定する方法として、血漿試料にプロテインCを活性化するプロテインC活性化物質又は活性化プロテインCを添加し、次に活性化血液凝固第IX因子を加えインキュベートし、生成するトロンビンの量を知られた方法で測定し、これをプロテインS活性が既知の標品を測定して得た値と比較して、試料中のプロテインSの活性を測定する方法が開示されている(特許文献2参照。)。
【0021】
また、別の試料中のプロテインSの活性を測定する方法として、試料を、活性化プロテインC、血液凝固第VIII因子、リン脂質及びカルシウムイオンとインキュベートし、次にこの混合物を、活性化血液凝固第II因子(トロンビン)、活性化血液凝固第IX因子及び活性化血液凝固第X因子とインキュベートし、次にこのインキュベーション混合物へ活性化血液凝固第X因子特異性基質を添加し、この基質の開裂によって生成したシグナルの量を測定することよりなる、試料中のプロテインSの活性を測定する方法が開示されている(特許文献3参照。)。
【0022】
これら従来の試料中のプロテインSの活性測定方法及び活性測定試薬においては、その測定反応に使用する血液凝固反応の成分(因子)の少なくとも一つは、試料に含まれている成分(因子)をそのまま用いているものであった。すなわち、試料に含まれている成分に依存しているものであった。
【0023】
従って、このような試料に含まれている成分(因子)をそのまま用いる従来の試料中のプロテインSの活性測定方法及び活性測定試薬においては、その成分(因子)〔例えば、活性化血液凝固第X因子〕がその試料提供者において欠損又は低下しているときには、前記測定反応の反応成分(因子)の少なくとも一つが十分量存在しない訳であるから、測定反応は十分に進行せず、得られるプロテインS活性値は、場合により本来の値よりかい離し、誤差を含むものになるという問題を有するものであった。
【0024】
すなわち、測定値が、血液凝固反応に係わる成分(因子)の試料中の存在量(濃度)又はその変異により、影響を受けてしまうことが起こるという問題を有するものであった。
【0025】
そこで、本発明者らは、試料に由来しない、活性化プロテインC、リン脂質、カルシウムイオン、活性化血液凝固第V因子、活性化血液凝固第X因子、プロトロンビン及びトロンビンの基質を含有する試料中のプロテインSの活性測定試薬、並びに、試料に由来しない、活性化プロテインC、リン脂質、カルシウムイオン、活性化血液凝固第V因子、活性化血液凝固第X因子、プロトロンビン及びトロンビンの基質を試料と接触させ、次に、前記の各成分による反応の結果トロンビンの基質から生成されるシグナル量を測定し、次に、試料に含まれるプロテインSの活性に応じて生成が抑制されたシグナル量を求めることにより、試料中に含まれていたプロテインSの活性値を得る試料中のプロテインSの活性測定方法を発明し、開示した(特許文献4及び非特許文献1参照。)。
【0026】
しかしながら、従来の試料中のプロテインSの活性測定方法及び活性測定試薬は、いずれも遊離のプロテインS(遊離型)の活性を測定するものであった。
つまり、従来の試料中のプロテインSの活性測定方法及び活性測定試薬はいずれも、試料中に存在する全てのプロテインS〔プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)、及び遊離のプロテインS(遊離型)〕を、すなわち、総プロテインSの活性を測定することは出来ないものであった。
【0027】
ところで、プロテインS異常症は、反復して血栓症を発症することが知られており、特にプロテインS遺伝子変異はアジア人に高頻度に存在することが近年数多く報告されている。
【0028】
例えば、日本人の静脈血栓塞栓症(Venous Thromboembolism;VTE)のリスクファクターの一つとして注目されているプロテインS徳島(PS−K155E遺伝子変異)がその一つである。
なお、プロテインS徳島(PS−K155E遺伝子変異)等の遺伝子変異によるプロテインSの分子異常は、プロテインSII型異常症に分類され、血中に分泌されるプロテインSタンパク質量は正常であるが、プロテインS活性が低下するものである。
【0029】
このプロテインSの活性の低下をともなうプロテインS異常症の検出は、静脈血栓塞栓症などの血栓症等の疾患の予防、診断及び治療に役立つものと思われる。
しかしながら、このプロテインS異常症は、従来の方法及び試薬では、簡便かつ正確に検出することは困難であることが報告されている(非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開昭62−212569号公報
【特許文献2】特表平4−506603号公報
【特許文献3】特表平6−504682号公報
【特許文献4】特開2004−337143号公報
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】Clin Chem Lab Med,2004,Vol.42,No.3,p.350−352
【非特許文献2】Journal of Thrombosis and Haemostasis,2006,Vol.4,p.2010−2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明の課題は、プロテインS異常症を正確、簡便かつ迅速に検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明者らは、プロテインS異常症の検出方法について検討を重ねたところ、試料中の総プロテインS活性値及び総プロテインSタンパク質量を測定し、これらを比較することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
すなわち、本発明は、以下の発明よりなる。
(1) プロテインS異常症の検出方法であって、試料中の総プロテインS活性値及び総プロテインSタンパク質量を測定する工程、及び、前記測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較する工程、を含むプロテインS異常症の検出方法。
(2) 測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較し、この総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とが乖離している場合にはプロテインS異常症である又はその疑いがあるとする、前記(1)記載のプロテインS異常症の検出方法。
(3) 測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較することが、この総プロテインS活性値をこの総プロテインSタンパク質量で除した比活性を求めることである、前記(1)又は(2)記載のプロテインS異常症の検出方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明のプロテインS異常症の検出方法は、プロテインS異常症を正確、簡便かつ迅速に検出することが出来るものである。
【0036】
よって、本発明のプロテインS異常症の検出方法を用いることにより、プロテインSの異常症を簡便かつ正確に検出し、血栓症等の疾患の予防、診断及び治療等に役立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】試料中の総プロテインSの活性値の測定結果と試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定結果との比較を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
I.プロテインS異常症の検出方法の総論
本発明のプロテインS異常症の検出方法は、試料中の総プロテインS活性値及び総プロテインSタンパク質量を測定する工程、及び、前記測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較する工程、を含むものである。
【0039】
なお、総プロテインS活性値を測定するとは、試料中に存在する全てのプロテインS〔プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)、及び遊離のプロテインS(遊離型)〕についてその活性を測定することである。
つまり、「遊離のプロテインS(遊離型)」の活性に加えて、「プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)」に含まれるプロテインSが遊離のプロテインS(遊離型)となった場合に発現する活性もあわせて測定することである。
【0040】
また、総プロテインSタンパク質量を測定するとは、試料中に存在する全てのプロテインS〔プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)、及び遊離のプロテインS(遊離型)〕についてそのタンパク質量を測定することである。
つまり、「遊離のプロテインS(遊離型)」のタンパク質量に加えて、「プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)」に含まれるプロテインSのタンパク質量もあわせて測定することである。
【0041】
なお、本発明においては、総プロテインS活性値を測定する方法(活性測定方法)及び試薬(活性測定試薬)は、特に限定はなく、総プロテインSの活性値を測定することができる方法及び試薬であればどのようなものでもよい。
【0042】
また、本発明においては、総プロテインSタンパク質量を測定する方法(測定方法)及び試薬(測定試薬)は、特に限定はなく、総プロテインSのタンパク質量を測定することができる方法及び試薬であればどのようなものでもよい。
【0043】
次に、試料中の総プロテインS活性値及び総プロテインSタンパク質量の測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較する工程であるが、この比較する方法については適宜定めればよく、特に限定はない。
【0044】
この比較の方法については、例えば、測定により得た総プロテインS活性値の数値と、測定により得た総プロテインSタンパク質量の数値を比較することや、測定により得られた総プロテインS活性値をグラフの縦軸(横軸でもよい)にプロットし、測定により得られた総プロテインSタンパク質量をグラフの横軸(縦軸でもよい)にプロットして、このグラフ上で比較することや、又は測定により得た総プロテインS活性値を測定により得た総プロテインSタンパク質量で除した比活性を求めること等を挙げることが出来る。
【0045】
本発明においては、測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量との比較を、この総プロテインS活性値をこの総プロテインSタンパク質量で除した比活性を求めることにより行うことが好ましい。
【0046】
なお、本発明においては、例えば、測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較し、この総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とが乖離している場合にはプロテインS異常症である又はその疑いがあるとすることが出来る。
【0047】
例えば、測定により得た総プロテインS活性値の数値と、測定により得た総プロテインSタンパク質量の数値を比較して、乖離している場合にはプロテインS異常症である又はその疑いがあるとすることが出来る。
【0048】
また、例えば、測定により得た総プロテインS活性値をグラフの縦軸(横軸でもよい)にプロットし、測定により得た総プロテインSタンパク質量をグラフの横軸(縦軸でもよい)にプロットして、このグラフ上における判定の結果、この総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とが乖離している場合にはプロテインS異常症である又はその疑いがあるとすることが出来る。
例えば、このグラフ上に前記の通りプロットした点(データ)がy=xの線(式)の上になく、このy=xの線(式)から離れている場合は、乖離していると判定することもできる。
また、プロテインS異常症でないことが分かっている複数の人について総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量を測定し、この測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量を前記の通りにグラフ上にプロットし、このプロテインS異常症でないことが分かっている人達の試料についてプロットした点(データ)の集合(又はこの集合を表す式)と対比を行ない、この集合(又はこの集合を表す式)から離れている場合には、乖離していると判定することもできる。
【0049】
また、例えば、測定により得た総プロテインS活性値を測定により得た総プロテインSタンパク質量で除した比活性を求めることにより、測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量との比較を行い、この総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とが乖離している場合にはプロテインS異常症である又はその疑いがあるとすることが出来る。
【0050】
なお、測定により得た総プロテインS活性値を測定により得た総プロテインSタンパク質量で除した比活性を求めることは、例えば、測定により得た総プロテインS活性値の数値を測定により得た総プロテインSタンパク質量の数値で除することによりこの比活性を求めることが出来るが、また、測定により得た総プロテインS活性値をグラフの縦軸にプロットし、測定により得た総プロテインSタンパク質量をグラフの横軸にプロットしてグラフを作成すること等によってもこの比活性を求めることが出来る。
【0051】
そして、前記のようにして測定により得た総プロテインS活性値を測定により得た総プロテインSタンパク質量で除した比活性を求め、この比活性の値が1ではなく、1よりも小さく離れた値であるときは、乖離していると判定することもできる。
【0052】
また、プロテインS異常症でないことが分かっている複数の人について総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量を測定し、この測定により得た総プロテインS活性値をこの測定により得た総プロテインSタンパク質量で除して比活性を求め、このプロテインS異常症でないことが分かっている人達の試料についての比活性の値の集合(又はこの集合を表す式)と対比を行ない、この集合(又はこの集合を表す式)から離れている場合には、乖離していると判定することもできる。
【0053】
なお、この、プロテインS異常症でないことが分かっている人達の試料についての比活性の値の集合(又はこの集合を表す式)と対比を行ない、この集合(又はこの集合を表す式)から離れている場合には、乖離していると判定することであるが、プロテインS異常症でないことが分かっている人達の試料についての比活性の値の集合の標準偏差の2倍の範囲(より好ましくはこの標準偏差の3倍の範囲)を外れる場合には、この集合から離れており、乖離していると判定してもよい。
【0054】
また、例えば、測定により得た総プロテインS活性値をグラフの縦軸にプロットし、測定により得た総プロテインSタンパク質量をグラフの横軸にプロットする等して、このグラフ上に比活性が表されるようにし、このグラフ上に表された比活性より、総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とが乖離していると判定できる場合にはプロテインS異常症である又はその疑いがあるとすることが出来る。
【0055】
例えば、このグラフ上に前記の通りプロットした比活性の点(データ)がy=xの線(式)の上になく、このy=xの線(式)よりも下で離れている場合は、乖離していると判定し、プロテインS異常症である又はその疑いがあるとすることもできる。
【0056】
また、プロテインS異常症でないことが分かっている複数の人について総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量を測定し、この測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量を前記の通りにグラフ上にプロットし、このグラフ上に比活性が表されるようにし、このプロテインS異常症でないことが分かっている人達の試料についてプロットした比活性の点(データ)の集合(又はこの集合を表す式)と対比を行ない、この集合(又はこの集合を表す式)よりも下で離れている場合には、乖離していると判定し、プロテインS異常症である又はその疑いがあるとすることもできる。
【0057】
なお、この、プロテインS異常症でないことが分かっている複数の人について総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量を測定し、この測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量を前記の通りにグラフ上にプロットし、このグラフ上に比活性が表されるようにし、このプロテインS異常症でないことが分かっている人達の試料についてプロットした比活性の点(データ)の集合(又はこの集合を表す式)と対比を行ない、この集合(又はこの集合を表す式)から離れている場合には、乖離していると判定することであるが、プロテインS異常症でないことが分かっている人達の試料についてプロットした比活性の点(データ)の集合より平均値と標準偏差(以下、「SD」ということがある)を求め、平均−2SD(より好ましくは、平均−3SD)以下の場合には、この集合から離れており、乖離していると判定してもよい。
【0058】
II.試料中の総プロテインSの活性測定方法
先に述べたように、本発明においては、総プロテインS活性値を測定する方法(活性測定方法)及び試薬(活性測定試薬)は、特に限定はなく、総プロテインSの活性値を測定することができる方法及び試薬であればどのようなものでもよいが、以下、この試料中の総プロテインSの活性測定方法の例について説明を行う。
【0059】
1.総論
試料中の総プロテインSの活性測定方法であるが、総プロテインS活性の測定反応時に、界面活性剤を存在させることが好ましい。
【0060】
なお、試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、プロテインSによる活性化プロテインCの活性上昇反応時及び当該活性上昇した活性化プロテインCによる活性化血液凝固第V因子の分解反応時に、界面活性剤を存在させることが好ましい。
【0061】
また、試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、総プロテインS活性の測定反応時に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンよりなるリン脂質を存在させることが好ましい。
【0062】
そして、試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、プロテインSによる活性化プロテインCの活性上昇反応時及び当該活性上昇した活性化プロテインCによる活性化血液凝固第V因子の分解反応時に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンよりなるリン脂質を存在させることが好ましい。
【0063】
更に、試料中の総プロテインSの活性測定方法は、試料中の総プロテインS活性の測定が、次の(a)〜(c)の工程を含む方法により行われるものであることが好ましい。
(a) 活性化プロテインC、界面活性剤、リン脂質、カルシウムイオン、活性化血液凝固第V因子、活性化血液凝固第X因子、プロトロンビン及びトロンビンの基質を試料と接触させる。
(b) 次に、前記(a)の各成分による反応の結果トロンビンの基質から生成されるシグナル量を測定する。
(c) 次に、この試料に含まれる総プロテインSの活性に応じて生成が抑制されたシグナル量より、試料中に含まれていた総プロテインSの活性値を得る。
【0064】
また、試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、試料中の総プロテインS活性の測定が、次の(a)〜(e)の工程を含む方法により行われるものであることが好ましい。
(a) 試料と、少なくとも活性化プロテインC、界面活性剤、リン脂質及びカルシウムイオンを接触させることにより、試料にプロテインSが含まれる場合には活性化プロテインCの活性が上昇する。
(b) 次に、前記(a)の成分及び活性化血液凝固第V因子の存在下、活性化プロテインCが触媒する活性化血液凝固第V因子の分解反応が、前記(a)における活性化プロテインCの活性の上昇により、促進される。
(c) 次に、活性化血液凝固第V因子により促進される、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下に活性化血液凝固第X因子が触媒するプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応が、前記(b)における活性化血液凝固第V因子の分解反応が促進されることにより抑制されて、トロンビンの生成が低減される。
(d) 次に、前記(c)におけるトロンビンの生成の低減により、トロンビンが触媒するトロンビンの基質からシグナルを生じさせる反応が抑制される。
(e) 次に、前記(d)における反応の抑制により生成が抑制されたシグナル量を測定することにより、試料中に含まれていた総プロテインSの活性値を得る。
【0065】
2.試料中の総プロテインSの活性測定の方法
試料中の総プロテインSの活性測定方法における測定の方法として、次の(1)又は(2)に記載の方法等を挙げることができ、これらの方法等により行うことが好ましい。
【0066】
(1)
(a) 活性化プロテインC、界面活性剤、リン脂質、カルシウムイオン、活性化血液凝固第V因子(第Va因子;FVa)、活性化血液凝固第X因子(第Xa因子;FXa)、プロトロンビン及びトロンビンの基質を試料と接触させる。
なお、これらの成分と試料との接触は、1回に全ての成分との接触を行わせて、下記の反応系の全ての反応を1段階に行ってもよく(1ステップ法)、また、前記成分を分け、接触を複数段階に分けて行うことにより下記の反応系の反応を複数段階に分けて行ってもよい(多ステップ法)。
【0067】
(b) 前記(a)における接触により、前記の各成分による下記の反応が進行する。
そして、この一連の反応によりトロンビンの基質から生成されるシグナル量を測定する。
即ち、前記の一連の反応により、トロンビンの基質がトロンビンにより分解等の作用を受け、この結果生じるシグナルの量(例えば、吸光度等)を測定する。
【0068】
(c) 試料にプロテインSが含まれている場合には、活性化プロテインCがリン脂質の存在下に活性が上昇し、これにより活性化血液凝固第V因子の分解が促進されるので、その結果トロンビンが触媒するトロンビンの基質からシグナルを生じさせる反応が抑制されて、シグナルの生成が抑制される。
このシグナル生成の抑制度は、試料に含まれていた総プロテインSの活性値に応じて大きくなる。
従って、前記(b)においてシグナル量を測定することにより、生成が抑制されたシグナル量を測定することになり、これにより試料中に含まれていた総プロテインSの活性値を得ることができる。
【0069】
【化3】

【0070】
(2)
活性化プロテインC、界面活性剤、リン脂質、カルシウムイオン、活性化血液凝固第V因子(第Va因子;FVa)、活性化血液凝固第X因子(第Xa因子;FXa)、プロトロンビン及びトロンビンの基質より構成される次の反応系を用いて試料中のプロテインSの活性値を測定する方法であって、
【0071】
(a) 試料と、少なくとも活性化プロテインC、界面活性剤、リン脂質及びカルシウムイオンを接触させる。
これにより、試料にプロテインSが含まれる場合にはリン脂質及びカルシウムイオンの存在下に活性化プロテインCの活性が上昇する。
【0072】
(b) 活性化プロテインCの前記(a)における活性の上昇により、活性化プロテインCがリン脂質及びカルシウムイオンの存在下に触媒する活性化血液凝固第V因子の分解反応が、界面活性剤の共存下で促進される。
【0073】
(c) 活性化血液凝固第V因子により促進される、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下に活性化血液凝固第X因子が触媒するプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応が、前記(b)における活性化血液凝固第V因子の分解反応が促進されることにより抑制されて、トロンビンの生成が低減する。
【0074】
(d) 前記(c)におけるトロンビンの生成の低減により、トロンビンが触媒するトロンビンの基質からシグナルを生じさせる反応が抑制される。
なお、このシグナル生成の抑制度は、試料に含まれていた総プロテインSの活性に応じて大きくなる。
【0075】
(e) 前記(d)における反応の抑制により生成が抑制されたシグナル量を測定する。
以上の通り前記の反応により生成したシグナル量を測定し、すなわち生成が抑制されたシグナル量を測定することにより、試料中に含まれていた総プロテインSの活性値を得る。
【0076】
【化4】

【0077】
3.試料
試料中の総プロテインSの活性測定方法において、試料とは、プロテインSを含有する可能性がある物質である。
【0078】
この試料として、例えば、生体試料(ヒト又は動物などに由来する試料)等を挙げることができる。
【0079】
生体試料としては、例えば、血液、血漿、唾液、汗、尿、涙、髄液、腹水、羊水などの生体の液体;肝臓、心臓、脳、骨、毛髪、皮膚、爪、筋肉、神経組織などの臓器、組織、細胞などの抽出液等を挙げることができる。
【0080】
4.活性化プロテインC
試料中の総プロテインSの活性測定方法において用いる活性化プロテインCは、その由来(起源)や調製方法によらず、特に制限なく用いることができる。
例えば、ヒト、ウシ又はブタ等の哺乳動物由来のもの等を挙げることができる。また、血漿等の体液若しくは臓器などから精製し調製したものや、又は遺伝子工学操作、細胞工学操作若しくは細胞培養操作などにより調製したもの等を挙げることができる。
また、試料中の総プロテインSの活性測定方法における測定反応中に、プロテインC活性化物質等によりプロテインCより活性化プロテインCを生成させて、これを本発明における活性化プロテインCとして用いてもよい。
【0081】
試料中の総プロテインSの活性測定方法において、活性化プロテインCは、試料と接触することにより、試料中にプロテインSが含まれている場合には、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下、この活性化プロテインCの活性が上昇する。
そして、活性化プロテインCは、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下、活性化血液凝固第V因子を分解する反応の触媒となる。
よって、プロテインSが存在することにより、活性化プロテインCが活性化血液凝固第V因子を分解する反応は促進される。
【0082】
前記の活性化プロテインC等と試料を接触させることと、活性化プロテインCを活性化血液凝固第V因子等と接触させることは、同時に行ってもよい。
また、活性化プロテインCをリン脂質とともに試料と接触させ、少なくとも1分間以上、好ましくは5分間以上、室温又は37℃等においてインキュベートした後に、活性化血液凝固第V因子及びカルシウムイオンと接触させ、インキュベートして、活性化血液凝固第V因子の分解反応を行わせてもよい。
【0083】
この活性化プロテインCを用いる際の濃度は、活性化血液凝固第V因子と接触させ、界面活性剤、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下に活性化血液凝固第V因子を分解させる際には、通常、1pM〜100nMにあることが好ましい。
しかしながら、測定の感度を高く得るには、活性化プロテインC濃度が高い方が好ましいので、前記の活性化プロテインC濃度としては、10pM〜10nMにあることがより好ましく、100pM〜1nMにあることが特に好ましい。
【0084】
5.界面活性剤
総プロテインSの活性測定方法においては、当該総プロテインS活性の測定反応時に、界面活性剤を存在させることが好ましい。
【0085】
この界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤又は陽イオン性界面活性剤などの各種界面活性剤等の1種又は2種以上を適宜存在させればよい。
【0086】
この界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール、フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、硬化ヒマシ油若しくはポリオキシエチレンラノリンなどの非イオン性界面活性剤;酢酸ベタインなどの両性界面活性剤;又は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩若しくはポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩などの陰イオン性界面活性剤等を挙げることができる。
【0087】
なお、この界面活性剤が非イオン性界面活性剤の場合、そのHLB(Hydrophile−Lipophile Balance)は、10〜20の範囲のものが好ましく、12〜18の範囲のものがより好ましく、13〜16の範囲のものが特に好ましい。
【0088】
この界面活性剤は、非イオン性界面活性剤としては、Triton X−100〔ポリオキシエチレン(n=9,10)p−t−オクチルフェニルエーテル、HLB:13.5〕、Triton X−114〔ポリオキシエチレン(n=7,8)p−t−オクチルフェニルエーテル、HLB:12.4〕、NP−10〔ポリオキシエチレン(n=10)ノニルフェニルエーテル、HLB:16.5〕、NP−11〔ポリオキシエチレン(n=11)ノニルフェニルエーテル〕、NP−12〔ポリオキシエチレン(n=12)ノニルフェニルエーテル〕、NP−13〔ポリオキシエチレン(n=13)ノニルフェニルエーテル〕、NP−15〔ポリオキシエチレン(n=15)ノニルフェニルエーテル、HLB:18.0〕、BT−9〔ポリオキシエチレン(n=9)2級アルキルエーテル、HLB:13.5〕、又はBT−12〔ポリオキシエチレン(n=12)2級アルキルエーテル、HLB:14.5〕等が好ましい。
また、両イオン性界面活性剤としては、AM−301〔ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン水溶液〕等が好ましい。
そして、陰イオン性界面活性剤としては、サルコシネート LN〔ラウロイルサルコシンナトリウム〕等が好ましい。
更に、陽イオン性界面活性剤としては、CA−2350〔塩化セチルトリメチルアンモニウム〕等が好ましい。
【0089】
なお、総プロテインS活性の測定反応時に界面活性剤を存在させる際の濃度は、特に限定されるものではないが、0.00001〜5%(W/V)が好ましく、0.0001〜1%(W/V)がより好ましく、0.001〜0.1%(W/V)が更に好ましく、0.005〜0.05%(W/V)が特に好ましい。
【0090】
そして、非イオン性界面活性剤においては0.001〜0.01%(W/V)が非常に好ましく、両イオン性界面活性剤においては0.001〜0.01%(W/V)が非常に好ましく、陰イオン性界面活性剤においては0.001〜0.1%(W/V)が非常に特に好ましく、陽イオン性界面活性剤においては0.00001〜0.001%(W/V)が非常に好ましい。
【0091】
なお、総プロテインSの活性測定方法においては、試料中に含まれていたプロテインSによる活性化プロテインCの活性上昇反応時、及び当該活性上昇したプロテインCによる活性化血液凝固第V因子の分解反応時に、界面活性剤を存在させることが、試料中の総プロテインSの活性測定のために好ましい。
【0092】
6.リン脂質
(1)総論
総プロテインSの活性測定方法においては、総プロテインS活性の測定反応時に、リン脂質を存在させる。
【0093】
このリン脂質は、その由来(起源)や調製方法によらず、特に制限なく用いることができる。
例えば、ヒト、ウシ又はブタ等の哺乳動物由来のもの、その他の動物由来のもの、植物由来のもの、微生物由来のもの又は人工的に合成したもの等を挙げることができる。
【0094】
総プロテインS活性の測定反応時に、リン脂質を存在させる際の濃度は、通常、0.03μM〜100μMにあることが好ましく、0.3μM〜50μMにあることがより好ましく、3μM〜30μMにあることが特に好ましい。
【0095】
このリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール若しくはジホスファチジルグリセロールなどのグリセロリン脂質や、又はスフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質等を挙げることができる。
【0096】
なお、このリン脂質としては、総プロテインS活性の測定反応時に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンよりなるリン脂質を存在させることが、、試料中の総プロテインSの活性測定のために好ましい。
【0097】
また、このホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンよりなるリン脂質を存在させる場合、この3種類のリン脂質の組成としては、ホスファチジルエタノールアミンの組成比が10%(W/V)以上であり、かつホスファチジルセリンの組成比が20%(W/V)以上であることが好ましい。
特に、ホスファチジルエタノールアミンの組成比が30%(W/V)以上であり、かつホスファチジルセリンの組成比が30%(W/V)以上であることが好ましい。
【0098】
(2)活性化プロテインCによる触媒反応に用いるリン脂質
総プロテインSの活性測定方法においては、試料中に含まれていたプロテインSによる活性化プロテインCの活性上昇反応時、及びこの活性化プロテインCによる活性化血液凝固第V因子の分解反応時には、その活性化プロテインCの活性上昇反応及び活性化血液凝固第V因子の分解反応に必要なリン脂質を存在させる。
【0099】
このリン脂質は、その由来(起源)や調製方法によらず、特に制限なく用いることができる。
例えば、ヒト、ウシ又はブタ等の哺乳動物由来のもの、その他の動物由来のもの、植物由来のもの、微生物由来のもの又は人工的に合成したもの等を挙げることができる。
【0100】
前記の活性化プロテインCの活性上昇反応時及び活性化血液凝固第V因子の分解反応時にリン脂質を存在させる際の濃度は、通常、0.1μM〜100μMにあることが好ましく、1μM〜50μMにあることがより好ましく、10μM〜30μMにあることが特に好ましい。
【0101】
このリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール若しくはジホスファチジルグリセロールなどのグリセロリン脂質や、又はスフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質等を挙げることができる。
【0102】
なお、このリン脂質としては、前記の活性化プロテインCの活性上昇反応時及び活性化血液凝固第V因子の分解反応時に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンよりなるリン脂質を存在させることが、試料中の総プロテインSの活性測定のために好ましい。
【0103】
また、このホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンよりなるリン脂質を存在させる場合、この3種類のリン脂質の組成としては、ホスファチジルエタノールアミンの組成比が10%(W/V)以上であり、かつホスファチジルセリンの組成比が20%(W/V)以上であることが好ましい。
特に、ホスファチジルエタノールアミンの組成比が30%(W/V)以上であり、かつホスファチジルセリンの組成比が30%(W/V)以上であることが好ましい。
【0104】
(3)活性化血液凝固第X因子による触媒反応に用いるリン脂質
総プロテインSの活性測定方法においては、活性化血液凝固第V因子の存在下に活性化血液凝固第X因子が触媒するプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応時には、その反応に必要なリン脂質を存在させる。
【0105】
このリン脂質は、その由来(起源)や調製方法によらず、特に制限なく用いることができる。
例えば、ヒト、ウシ又はブタ等の哺乳動物由来のもの、その他の動物由来のもの、植物由来のもの、微生物由来のもの又は人工的に合成したもの等を挙げることができる。
【0106】
前記のプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応時にリン脂質を存在させる際の濃度は、通常、0.1μM〜100μMにあることが好ましく、0.5μM〜50μMにあることがより好ましく、1μM〜10μMにあることが特に好ましい。
【0107】
このリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール若しくはジホスファチジルグリセロールなどのグリセロリン脂質や、又はスフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質等を挙げることができる。
【0108】
なお、このリン脂質としては、前記のプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応時に、ホスファチジルコリン及びホスファチジルセリン、又はホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンよりなるリン脂質を存在させることが、前記反応の促進の効果が高くなるため好ましい。
【0109】
また、このホスファチジルコリン及びホスファチジルセリンよりなるリン脂質を存在させる場合、この2種類のリン脂質の組成としては、
ホスファチジルコリンの組成比が85%(W/V)〜50%(W/V)であり、かつホスファチジルセリンの組成比が15%(W/V)〜50%(W/V)であることが好ましい。
特に、ホスファチジルコリンの組成比が80%(W/V)〜70%(W/V)であり、かつホスファチジルセリンの組成比が20%(W/V)〜30%(W/V)であることが好ましい。
【0110】
あるいは、このホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン及びホスファチジルエタノールアミンよりなるリン脂質を存在させる場合、この3種類のリン脂質の組成としては、ホスファチジルエタノールアミンの組成比が10%(W/V)以上であり、かつホスファチジルセリンの組成比が20%(W/V)以上であることが好ましい。
特に、ホスファチジルエタノールアミンの組成比が30%(W/V)以上であり、かつホスファチジルセリンの組成比が30%(W/V)以上であることが好ましい。
【0111】
なお、このプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応の際のリン脂質としては、前記の活性化プロテインCの活性上昇反応時及び活性化血液凝固第V因子の分解反応時に用いたリン脂質をそのまま用いることができる。
しかしながら、先に述べたとおり、適したリン脂質の組成がそれぞれの反応により異なるので、各々の反応に適した組成のリン脂質をその反応時に存在させて用いることが好ましい。
なお、このプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応の際に、先に加えた前記の活性化プロテインCの活性上昇反応及び活性化血液凝固第V因子の分解反応に適した組成のリン脂質が、このプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応に適した組成のリン脂質と共存したとしても、本発明の試料中の総プロテインSの活性測定方法及び活性測定試薬においては全く支障はない。
【0112】
7.カルシウムイオン
試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、試料中に含まれていたプロテインSによる活性化プロテインCの活性上昇反応時、活性化プロテインCによる活性化血液凝固第V因子の分解反応時、及び活性化血液凝固第X因子及び活性化血液凝固第V因子によるプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応時には、カルシウムイオンを存在させる。
【0113】
このカルシウムイオンとしては、カルシウムイオン自体はもちろんのこと、又はカルシウムの塩等のカルシウムイオンを含む化合物であれば、特に制限なく用いることができる。
【0114】
このカルシウムイオンを含む化合物としては、例えば、フッ化カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム又はシアン化カルシウム等を挙げることができる。
【0115】
このカルシウムイオンを用いる際の濃度は、試料中に含まれていたプロテインSによる活性化プロテインCの活性上昇反応の際、活性化プロテインCによる活性化血液凝固第V因子の分解反応の際、そして活性化血液凝固第X因子及び活性化血液凝固第V因子によるプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応の際には、通常、0.1mM〜100mMにあることが好ましく、1mM〜10mMにあることが特に好ましい。
【0116】
8.活性化血液凝固第V因子
試料中の総プロテインSの活性測定方法において用いる活性化血液凝固第V因子(第Va因子;FVa)は、その由来(起源)や調製方法によらず、特に制限なく用いることができる。
例えば、ヒト、ウシ又はブタ等の哺乳動物由来のもの等を挙げることができる。
また、血漿等の体液若しくは臓器などから精製し調製したものや、又は遺伝子工学操作、細胞工学操作若しくは細胞培養操作などにより調製したもの等を挙げることができる。
【0117】
試料中の総プロテインSの活性測定方法において、活性化血液凝固第V因子は、界面活性剤、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下、活性化プロテインCにより分解される。
そして、試料中にプロテインSが含まれている場合そのプロテインSの存在により、活性化プロテインCの活性が上昇して、この分解反応は促進される。
【0118】
また、活性化血液凝固第V因子は、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下に活性化血液凝固第X因子が触媒する、プロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応を促進するものである。
【0119】
よって、試料中にプロテインSが含まれていると、活性化プロテインCの活性が上昇して、活性化血液凝固第V因子の分解反応が促進されて、活性化血液凝固第V因子の存在量(濃度)は少なくなる。
そうすると、活性化血液凝固第X因子が触媒するプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応に対する活性化血液凝固第V因子の促進効果が小さくなるので、前記のプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応は抑制される。
【0120】
前記の活性化血液凝固第V因子と活性化プロテインC等とを接触させることと、活性化血液凝固第V因子と活性化血液凝固第X因子及びプロトロンビン等とを接触させることは、同時に行ってもよい。
【0121】
しかしながら、活性化血液凝固第V因子を、界面活性剤、リン脂質及びカルシウムイオンとともに活性化プロテインCと接触させ、少なくとも1分間以上、好ましくは5分間以上、室温又は37℃等においてインキュベートした後に、活性化血液凝固第X因子及びプロトロンビン等と接触させ、インキュベートして、プロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応を行わせることが好ましい。
【0122】
この活性化血液凝固第V因子を用いる際の濃度は、活性化プロテインCと接触させ、界面活性剤、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下に活性化血液凝固第V因子を分解する反応を行わせる際には、通常、0.5pM〜5nMにあることが好ましい。
しかしながら、この活性化血液凝固第V因子の濃度が高いと、試料に由来する成分(因子)等による血液凝固反応が進行してしまい、フィブリンが析出したり又は多大な発色が生じて正確な測定が行えなくなるので、前記の活性化血液凝固第V因子濃度としては、5pM〜500pMにあることがより好ましく、20pM〜200pMにあることが特に好ましい。
【0123】
9.活性化血液凝固第X因子
試料中の総プロテインSの活性測定方法において用いる活性化血液凝固第X因子(第Xa因子;FXa)は、その由来(起源)や調製方法によらず、特に制限なく用いることができる。
例えば、ヒト、ウシ又はブタ等の哺乳動物由来のもの等を挙げることができる。
また、血漿等の体液若しくは臓器などから精製し調製したものや、又は遺伝子工学操作、細胞工学操作若しくは細胞培養操作などにより調製したもの等を挙げることができる。
【0124】
試料中の総プロテインSの活性測定方法において、活性化血液凝固第X因子は、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下、プロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応を触媒する。
この活性化血液凝固第X因子によるプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応は、活性化血液凝固第V因子の存在により促進される。
【0125】
よって、先に述べたように、試料中にプロテインSが含まれていると、活性化プロテインCの活性が上昇し、これにより活性化血液凝固第V因子の分解反応が促進され、このため活性化血液凝固第X因子が触媒するトロンビンを生成させる反応に対する活性化血液凝固第V因子の促進効果が小さくなるので、前記のトロンビンを生成させる反応は抑制される。
【0126】
この活性化血液凝固第X因子を用いる際の濃度は、活性化血液凝固第V因子及びプロトロンビン等と接触させ、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下、プロトロンビンよりトロンビンを生成させる際には、通常、0.1pM〜300pMにあることが好ましい。
【0127】
しかしながら、この活性化血液凝固第X因子の濃度が高いと、先の活性化血液凝固第V因子の場合と同様、試料に由来する成分(因子)等による血液凝固反応が進行してしまい、フィブリンが析出したり又は多大な発色が生じて正確な測定が行えなくなるので、前記の活性化血液凝固第X因子濃度としては、1pM〜100pMにあることがより好ましく、10pM〜50pMにあることが特に好ましい。
【0128】
10.プロトロンビン
試料中の総プロテインSの活性測定方法において用いるプロトロンビンは、その由来(起源)や調製方法によらず、特に制限なく用いることができる。
例えば、ヒト、ウシ又はブタ等の哺乳動物由来のもの等を挙げることができる。
また、血漿等の体液若しくは臓器などから精製し調製したものや、又は遺伝子工学操作、細胞工学操作若しくは細胞培養操作などにより調製したもの等を挙げることができる。
【0129】
試料中の総プロテインSの活性測定方法において、プロトロンビンは、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下、活性化血液凝固第X因子が触媒する反応の基質となり、トロンビンになる。
この活性化血液凝固第X因子によるプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応は、活性化血液凝固第V因子の存在により促進される。
【0130】
よって、先に述べたように、試料中にプロテインSが含まれていると、活性化プロテインCの活性が上昇し、これにより活性化血液凝固第V因子の分解反応が促進され、このため活性化血液凝固第X因子が触媒するプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応に対する活性化血液凝固第V因子の促進効果が小さくなるので、前記のプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応は抑制され、生成されるトロンビンの量(濃度)は低減される。
【0131】
このプロトロンビンを用いる際の濃度は、活性化血液凝固第V因子及び活性化血液凝固第X因子と接触させ、リン脂質及びカルシウムイオンの存在下、プロトロンビンよりトロンビンを生成させる際には、通常、1nM〜50μMにあることが好ましく、50nM〜5μMにあることがより好ましく、そして100nM〜1μMにあることが特に好ましい。
【0132】
11.トロンビンの基質
試料中の総プロテインSの活性測定方法において用いるトロンビンの基質は、トロンビンのプロテアーゼとしての触媒作用を(トロンビンの基質として)受けることにより何らかのシグナルを生じるもの、又はトロンビンによる触媒反応に加え更に他の反応を続けることにより何らかのシグナルが生じるものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0133】
この何らかのシグナルが生じるということであるが、これはトロンビンの触媒作用を受けることにより光学的、電気的、磁気的若しくは他のエネルギー等におけるシグナル(信号)の生成又は変化を検出することができるということを意味する。
【0134】
例えば、トロンビンの触媒作用を受けることにより、吸光度、透過率若しくは蛍光強度が変化するもの、光の吸収曲線が変化するもの、又は発光するもの等を挙げることができる。
【0135】
この一例としては、遊離したときに吸光度、透過率若しくは蛍光強度、又は光の吸収曲線が変化するような化合物を結合したペプチド又はタンパク質、或いは遊離したときに発光するような化合物を結合したペプチド又はタンパク質等であって、トロンビンの触媒作用により前記の化合物が前記のペプチド又はタンパク質より遊離するような物質等を挙げることができる。
【0136】
このような物質においては、トロンビンの触媒作用を受け、前記化合物が遊離することにより、吸光度、透過率若しくは蛍光強度又は光の吸収曲線の変化或いは発光等として検出できるので、トロンビンの触媒作用すなわちトロンビンの酵素活性を、生成したシグナル(吸光度、透過率若しくは蛍光強度又は光の吸収曲線の変化或いは発光等)の量を測定することにより求めることができる。
【0137】
このような物質としては、例えば、「H−D−フェニルアラニル−L−ピペコリル−L−アルギニル−p−ニトロアニリド・二塩酸塩」〔テストチーム(登録商標)
発色基質S−2238〕(製造元:Chromogenix-Instrumentation Laboratory社〔イタリア国〕、販売元:積水メディカル社〔日本国〕)、「H−D−ヘキサハイドロチロシル−L−アラニル−L−アルギニル−p−ニトロアニリド・二酢酸塩」〔SPECTROZYME(登録商標)
TH〕(AMERICAN DIAGNOSTICA社・コスモバイオ社)、「ベンゾイル−フェニルアラニル−バリニル−アルギニル−p−ニトロアニリド・塩酸塩」〔Thrombin
Substrate I,Colorimetric〕(CALBIOCHEM社・コスモバイオ社)、「トシル−グリシル−プロリル−アルギニル−p−ニトロアニリド」〔CHROMOZYME
TH〕(PENTAPHARM社)、「H−D−フェニルアラニル−プロリル−アルギニル−3−カルボキシ−4−ヒドロキシ−アニリン」(第一三共社)、「ベンゾイル−フェニルアラニル−バリニル−アルギニル−AMC・塩酸塩」〔Thrombin Substrate III,Fluorogenic〕(CALBIOCHEM社・コスモバイオ社)、「t−ブトキシカルボニル−アスパラギル(O−ベンジル)−プロリル−アルギニル−MCA」(ペプチド研究所)、又は「t−ブトキシカルボニル−バリニル−プロリル−アルギニル−MCA」(ペプチド研究所)等を挙げることができる。なお、特に「H−D−フェニルアラニル−L−ピペコリル−L−アルギニル−p−ニトロアニリド・二塩酸塩」が好ましい。
【0138】
前記の活性化血液凝固第V因子と活性化血液凝固第X因子とプロトロンビン等とを接触させることと、生成したトロンビンとこのトロンビンの基質とを接触させることは、同時に行ってもよいし、別々の段階として分けて行ってもよい。
【0139】
なお、いずれにしても、生成したトロンビンにトロンビンの基質を接触させ、少なくとも1分間以上、好ましくは5分間以上、室温又は37℃等においてインキュベートして、トロンビンの基質からシグナルを生じさせる。
【0140】
このトロンビンの基質を用いる際の濃度は、このトロンビンの基質がトロンビンの触媒作用を受ける際に、通常、5μM〜100mMにあることが好ましく、50μM〜10mMにあることが特に好ましい。
【0141】
12.シグナル量の測定
試料中の総プロテインSの活性測定方法におけるトロンビンの基質は、プロトロンビンより生成したトロンビンの触媒作用を受けることによりシグナルを生じる。
試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、このトロンビンの基質より生成したシグナルの量を測定する。
なお、試料中にプロテインSが含まれている場合、このシグナルの量は、試料中の総プロテインSの活性値に応じて生成が抑制されたシグナルの量である。
【0142】
この生成したシグナル量(生成が抑制されたシグナル量)の測定は、そのシグナルに応じて適宜行えばよい。
例えば、シグナルが、吸光度、透過率若しくは蛍光強度又は光の吸収曲線の変化或いは発光等である場合には、吸光度、透過率、蛍光強度又は発光強度などを測定する等により行う。
【0143】
より具体的には、トロンビンの基質が、前記の「H−D−フェニルアラニル−L−ピペコリル−L−アルギニル−p−ニトロアニリド・二塩酸塩」、「H−D−ヘキサハイドロチロシル−L−アラニル−L−アルギニル−p−ニトロアニリド・二酢酸塩」、「ベンゾイル−フェニルアラニル−バリニル−アルギニル−p−ニトロアニリド・塩酸塩」、又は「トシル−グリシル−プロリル−アルギニル−p−ニトロアニリド」等の、ペプチドにp−ニトロアニリンを結合させた物質である場合には、トロンビンの触媒作用により遊離したp−ニトロアニリンが波長405nm近辺に有する光の吸収を、波長405nm又はその近辺の波長において吸光度を測定することにより行う。
この場合、吸光度の測定は、主波長のみの一波長測定でもよいし、又は主波長と副波長において測定する二波長測定でもよい。
そして、この吸光度の測定は、エンドポイント法でもよいし、又はレート法でもよい。
【0144】
13.試料中に含まれていた総プロテインSの活性値
試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、試料中にプロテインSが含まれていると、活性化プロテインCの活性が上昇して、活性化血液凝固第V因子の分解反応が促進されて、活性化血液凝固第V因子の存在量(濃度)は少なくなる。
そうすると、活性化血液凝固第X因子が触媒するプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応に対する活性化血液凝固第V因子の促進効果が小さくなるので、前記のプロトロンビンよりトロンビンを生成させる反応は抑制される。
これにより、トロンビンの生成が低減するので、このトロンビンが触媒するトロンビンの基質からシグナルを生じさせる反応も抑制されて、生成するシグナルの量は抑制される。
すなわち、試料中に含まれる総プロテインSの活性値に応じて、このシグナル生成の抑制度は大きくなる。
従って、試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、試料と活性化プロテインC等とを接触させ前記の通りの反応を行わせることによって生成したシグナル量を測定して、すなわち生成が抑制されたシグナル量を測定することにより、試料中に含まれていた総プロテインSの活性値を得る。
【0145】
この生成が抑制されたシグナル量を測定した後、試料中に含まれていた総プロテインSの活性値を得ることは、適宜行えばよいが、例えば以下のようにして行うことができる。
【0146】
総プロテインSの活性値が分かっている試料の少なくとも一つと、総プロテインSの活性値が「ゼロ」であることが分かっている試料(生理食塩水又は純水等)について、前記の通り測定操作を行い、生成したシグナル量(生成が抑制されたシグナル量)を求める。
そして、この生成したシグナル量(生成が抑制されたシグナル量)と試料中に含まれる総プロテインSの活性値との関係を、数式又はグラフ等に表して、検量線を作成する。
この検量線は、すなわち、シグナル生成の抑制度と試料中に含まれる総プロテインSの活性値との関係を表したものである。
次に、総プロテインSの活性値が未知の試料について、前記の通り同様に測定操作を行い、生成したシグナル量(生成が抑制されたシグナル量)を求める。
このシグナル量を前記の検量線に当てはめ、相当する総プロテインSの活性値を求める。
これにより、総プロテインSの活性値が未知の試料における生成したシグナル量(生成が抑制されたシグナル量)より、その試料の総プロテインSの活性値を得ることができる。
【0147】
なお、前記の検量線は、シグナル量(生成が抑制されたシグナル量)すなわちシグナル生成の抑制度と、試料中に含まれる総プロテインSの活性値との関係を表したものであるが、この検量線におけるシグナル量(生成が抑制されたシグナル量)は、測定されたシグナル量そのものでもよいが、そのシグナル量の値を基に算出した数値であってもよい。
【0148】
つまり、前記の検量線は、測定されたシグナル量の値を基に算出した数値と、試料中に含まれる総プロテインSの活性値との関係を表したものであってもよい。
なお、この場合であっても、測定されたシグナル量の値を基に算出した数値は、生成が抑制されたシグナル量に対応したものである。
【0149】
この測定されたシグナル量の値を基に算出した数値としては、例えば、測定されたシグナル量の単位時間当たりの変化量の数値、又は測定されたシグナル量の値を時間に対して一次微分して算出した数値、若しくは二次微分して算出した数値等を挙げることができる。
【0150】
例として、測定により得られた吸光度の1分間当たりの変化量、又は測定により得られた吸光度を時間に対して一次微分して得た吸光度変化の速度、若しくは測定により得られた吸光度を時間に対して二次微分して得た吸光度変化の加速度等を挙げることができる。
【0151】
14.タンパク質
試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)若しくは卵白アルブミンなどのアルブミン、カゼイン、又はゼラチン等のタンパク質を前記の活性測定反応時に存在させることが好ましい。
【0152】
このタンパク質を存在させる濃度は、通常、0.1μM〜1mMにあることが好ましい。
【0153】
15.塩
試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、ハロゲン元素とアルカリ金属の塩又はハロゲン元素とアルカリ土類金属の塩等の塩を前記の活性測定反応時に存在させることが好ましい。
【0154】
ハロゲン元素とアルカリ金属の塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、臭化ナトリウム又は臭化カリウム等を挙げることができる。
また、ハロゲン元素とアルカリ土類金属の塩としては、例えば、塩化マグネシウム、フッ化マグネシウム又は臭化マグネシウム等を挙げることができる。
【0155】
この塩を存在させる濃度は、通常、5mM〜1Mにあることが好ましく、50mM〜250mMにあることが特に好ましい。
そして、本発明の試料中の総プロテインSの活性測定試薬においては、この塩が前記の濃度となるように、この活性測定試薬に含有させることが好ましい。
例えば、この塩を、5mM〜2M含有させることが好ましく、50mM〜500mM含有させることが特に好ましい。
【0156】
16.希釈液
試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、試料を希釈液により希釈した後に、前記の活性測定反応を行わせることが、試料中の総プロテインSの活性測定のために好ましい。
【0157】
この希釈液のpHは、特に限定はないが、pH6.0〜pH10.0(20℃)のpH範囲のものであることが好ましく、pH6.5〜pH8.5(20℃)のpH範囲のものであることがより好ましい。
【0158】
なお、この希釈液には、pHを前記のpH範囲に保つため、前記のpH範囲に緩衝能を有する緩衝剤を適宜存在させ又は含有させることが好ましい。
【0159】
また、この希釈液には、必要に応じて適宜、タンパク質、塩、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、活性化剤、又は糖類等の成分を含有させることができる。
【0160】
この希釈液としては、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、又は緩衝液等を挙げることができる。
【0161】
この希釈液により試料を希釈する際の希釈倍率であるが、特に限定はないものの、試料中の総プロテインSの活性測定のためには、2倍〜60倍が好ましく、5倍〜40倍がより好ましく、10倍〜20倍が特に好ましい。
【0162】
17.pH
試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、前記の活性測定反応を、pH6.0〜pH10.0(20℃)の範囲で行うことが好ましく、pH6.5〜pH8.5(20℃)の範囲で行うことが特に好ましい。
【0163】
なお、試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、活性測定反応におけるpHを前記のpH範囲に保つため、前記のpH範囲に緩衝能を有する緩衝剤を適宜存在させることが好ましい。
【0164】
18.他の成分
試料中の総プロテインSの活性測定方法においては、必要に応じて適宜、防腐剤、安定化剤、活性化剤、又は糖類等の前記記載した成分以外の成分を前記の活性測定反応時に存在させることができる。
【0165】
19.測定手法
試料中の総プロテインSの活性測定方法における、試料中の総プロテインSの活性の測定は、用手法により行ってもよく、又は自動分析装置等の装置を使用して行ってもよい。
【0166】
20.測定段階
試料中の総プロテインSの活性測定方法おいて、前記詳述した活性測定反応は、1回に全ての成分と試料との接触を行わせて、全ての反応を1段階に行ってもよく(1ステップ法)、また、成分を分け、接触を複数段階に分けて行うことにより活性測定反応を複数段階に分けて行ってもよい(多ステップ法)。
複数段階に分ける場合、特に制限はないが、例えば次のように行うことができる。
【0167】
(1)2ステップ法−1
(a) 試料、活性化プロテインC、界面活性剤、リン脂質、カルシウムイオン及び活性化血液凝固第V因子を接触させる。
(b) 次に、前記(a)のものに、活性化血液凝固第X因子、プロトロンビン及びトロンビンの基質を接触させる。
【0168】
(2)2ステップ法−2
(a) 試料、活性化プロテインC、界面活性剤、リン脂質及びカルシウムイオンを接触させる。
(b) 次に、前記(a)のものに、活性化血液凝固第V因子、活性化血液凝固第X因子、プロトロンビン、トロンビンの基質及びリン脂質を接触させる。
【0169】
(3)3ステップ法
(a) 試料、活性化プロテインC、界面活性剤、リン脂質及びカルシウムイオンを接触させる。
(b) 次に、前記(a)のものに、活性化血液凝固第V因子を接触させる。
(c) 更に、前記(b)のものに、活性化血液凝固第X因子、プロトロンビン及びトロンビンの基質を接触させる。
【0170】
III.試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法
先に述べたように、本発明においては、総プロテインSタンパク質量を測定する方法(測定方法)及び試薬(測定試薬)は、特に限定はなく、総プロテインSのタンパク質量を測定することができる方法及び試薬であればどのようなものでもよいが、以下、この試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法の例について説明を行う。
【0171】
1.総論
試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法であるが、プロテインSに対する抗体を固定化した担体粒子と試料とを接触させ、前記抗体と試料に含まれていたプロテインSとの抗原抗体反応により生成した凝集物を測定することにより、試料中の総プロテインSタンパク質量を測定する方法において、前記抗原抗体反応の反応時にC4b結合タンパク質を存在させるものであることが好ましい。
【0172】
なお、試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法においては、担体粒子がラテックス粒子であることが好ましい。
【0173】
また、試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法においては、試料中の総プロテインSタンパク質量の測定が、次の(a)及び(b)の工程を含む方法により行われるものであることが好ましい。
(a)試料と、C4b結合タンパク質とを混合し、接触させ、この混合液中において前記試料に含まれる遊離のプロテインSとC4b結合タンパク質との複合体を形成させる工程。
(b)前記混合液をプロテインSに対する抗体を固定化した担体粒子と接触させ、前記抗体とプロテインSとC4b結合タンパク質との複合体との抗原抗体反応により生成した凝集物を測定する工程。
【0174】
2.プロテインSに対する抗体
試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法において、プロテインSに対する抗体とは、プロテインSに結合することができる抗体(抗プロテインS抗体)のことをいう。
【0175】
この抗プロテインS抗体としては、例えば、(プロテインSに結合することができる)モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ポリクローナル抗体を含む抗血清、キメラ抗体、ヒト化抗体又は一本鎖抗体(scFv)、及びこれらの抗体の断片〔Fab、F(ab’)2、Fab’、Fv、sFv、dsFvなど〕等を挙げることができる。
また、前記の抗体又は抗体断片に、蛋白質又は低分子化合物を結合させた誘導体を使用することもできる。
【0176】
なお、抗プロテインS抗体の由来については特に限定はなく、例えば、哺乳動物(マウス、ウサギ、ラット、ヒツジ、ヤギ、若しくはウマなど)、又は鳥類(ニワトリ、ウズラ、キジ、ダチョウ、若しくはアヒルなど)等を挙げることができる。
【0177】
3.担体粒子
試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法において、担体粒子は、前記の抗プロテインS抗体を固定化することができるものであれば、特に制限なく用いることができる。
【0178】
すなわち、プロテインSと抗プロテインS抗体との抗原抗体反応を利用して試料中の総プロテインSタンパク質量の測定を行う測定試薬及び測定方法に使用されている担体粒子、又は使用することが可能な担体粒子であればよい。
【0179】
この担体粒子の材質は、特に限定はなく、例えば、ポリスチレン、スチレン−スチレンスルホン酸塩共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、塩化ビニル−アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体、ポリアクロレイン、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−グリシジル(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体、ゼラチン、シリカ、アルミナ、カーボンブラック、金属化合物、金属、セラミックス又は磁性体等を挙げることができる。
【0180】
そして、この担体粒子としては、例えば、ラテックス粒子、金属コロイド粒子、リポソーム、マイクロカプセル、又は赤血球等の粒子等を挙げることができる。
また、この担体粒子としては、ラテックス粒子であることが好ましい。
【0181】
試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法において、抗プロテインS抗体を担体粒子に固定化することは、物理的吸着法、化学的結合法又はこれらの併用等の公知の方法により行うことができる。
物理的吸着法による場合は、公知の方法に従い、抗プロテインS抗体と、担体粒子とを、緩衝液等の溶液中で混合し接触させたり、或いは緩衝液等に溶解した抗プロテインS抗体を、担体粒子に接触させること等により行うことができる。
【0182】
また、化学的結合法により行う場合は、日本臨床病理学会編「臨床病理臨時増刊特集第53号 臨床検査のためのイムノアッセイ−技術と応用−」,臨床病理刊行会,1983年発行;日本生化学会編「新生化学実験講座1 タンパク質IV」,東京化学同人,1991年発行等に記載の公知の方法に従い、抗プロテインS抗体と、担体粒子とを、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、イミドエステル又はマレイミド等の二価性の架橋試薬と混合、接触させ、抗プロテインS抗体と、担体粒子の、それぞれのアミノ基、カルボキシル基、チオール基、アルデヒド基又は水酸基等と前記の二価性の架橋試薬とを反応させること等により行うことができる。
【0183】
更に、抗プロテインS抗体を固定化した担体粒子の自然凝集や、非特異的反応等を抑制するために処理を行う必要があれば、抗プロテインS抗体を固定化した担体粒子の表面に、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ゼラチン、卵白アルブミン若しくはその塩などのタンパク質、界面活性剤又は脱脂粉乳等を接触させ被覆させること等の公知の方法により処理して、担体粒子のブロッキング処理(マスキング処理)を行ってもよい。
【0184】
なお、試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定を、ラテックス免疫比濁法等の比濁法により測定を行う場合、ラテックス粒子等の担体粒子の大きさ(粒径)については、特に制限はない。
しかし、抗プロテインS抗体を固定化した担体粒子が、試料中に含まれていたプロテインSとの凝集物(凝集塊)を生成する程度、及びこの生成した凝集物の測定の容易さ等の理由より、担体粒子の大きさ(粒径)は、その平均径(平均粒径)が、0.01μm〜10μmであることが好ましく、0.04μm〜1μmであることがより好ましい。
また、試料中のプロテインSのタンパク質量の測定方法において、担体粒子は、その大きさ(粒径)、材質、又は形状等が異なる2種類以上の担体を使用してもよい。
【0185】
なお、試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定を、ラテックス免疫比濁法等の比濁法により測定を行う場合、抗プロテインS抗体を固定化した担体粒子の測定反応時における濃度は、前記の特異的結合物質の担体表面上での分布密度、担体粒子の大きさ(粒径)、試料と測定試薬の混合比率等の各種条件により最適な濃度は異なるので一概に言うことはできない。
しかし、通常は、試料と測定試薬が混合され、担体粒子に固定化された抗プロテインS抗体と、試料中に含まれていたプロテインSとの、抗原抗体反応が行われる測定反応時に、抗プロテインS抗体を固定化した担体粒子の濃度が、この測定反応時の反応混合液中において0.005〜1%(w/v)となるようにするのが一般的であり、この場合、反応混合液中においてこのような濃度になるような濃度の抗プロテインS抗体を固定化した担体粒子を測定試薬に含有させることが好ましい。
【0186】
試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定方法においては、抗プロテインS抗体を固定化した担体粒子を、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)、カゼイン若しくはその塩などのタンパク質;カルシウムイオンなどの各種金属イオン;カルシウム塩などの各種塩類;各種糖類;脱脂粉乳;正常ウサギ血清などの各種動物血清;アジ化ナトリウム若しくは抗生物質などの各種防腐剤;活性化物質;反応促進物質;ポリエチレングリコールなどの感度増加物質;非特異的反応抑制物質;又は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤もしくは陰イオン性界面活性剤などの各種界面活性剤等の1種又は2種以上と共存させてもよい。
【0187】
そして、上記の各物質を共存させる際の濃度は特に限定されるものではないが、0.001〜10%(W/V)が好ましく、特に0.01〜5%(W/V)が好ましい。
【0188】
4.C4b結合タンパク質
試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定方法においては、C4b結合タンパク質を存在させることが好ましい。ここで、C4b結合タンパク質とは、肝細胞やマクロファージで産生される高分子糖タンパク質であり、プロテインSと1対1で特異的に結合し、複合体を形成するものをいう。
【0189】
また、試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定方法において用いるC4b結合タンパク質は、その由来(起源)や調製方法によらず、特に制限なく用いることができる。
例えば、ヒト、ウシ又はブタ等の哺乳動物由来のもの等を挙げることができる。また、血漿等の体液若しくは臓器などから精製し調製したものや、又は遺伝子工学操作、細胞工学操作若しくは細胞培養操作などにより調製したもの等を挙げることができる。
【0190】
試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法において、前記のC4b結合タンパク質を総プロテインSタンパク質量の測定試薬に存在させる濃度は、試料と測定試薬を混合した後の測定反応液中において、C4b結合タンパク質と試料に含まれていた遊離プロテインSとの比が0.9以上(C4b結合タンパク質/遊離プロテインS≧0.9)となるように設定することが好ましい。
【0191】
なお、前記のC4b結合タンパク質を総プロテインSタンパク質量の測定試薬に存在させる方法であるが、このC4b結合タンパク質を、担体粒子に固定化された抗プロテインS抗体と、試料に含まれていたプロテインSとの、抗原抗体反応が行われる測定反応時に、前記の総プロテインSタンパク質量の測定試薬に存在させることができればいかなる方法でも良い。
【0192】
例えば、前記のC4b結合タンパク質を緩衝液に含有させた試薬を調製し、抗プロテインS抗体を固定化した担体粒子を含む試薬と混合することによって、担体粒子に固定化された抗プロテインS抗体と試料に含まれていたプロテインSとの、抗原抗体反応が行われる測定反応時に、C4b結合タンパク質を存在させるようにすれば良い。
【0193】
なお、通常、健常者の試料中には、「プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)」と、「遊離のプロテインS(遊離型)」の両方が存在しているが、本発明においては、C4b結合タンパク質を、試料と混合、接触させることにより、試料に含まれていた遊離のプロテインSがこのC4b結合タンパク質と複合体を形成する。
すなわち、試料中のプロテインSは、全て「プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)」となる。
これにより、試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法では、全てのプロテインS〔プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)、及び遊離のプロテインS(遊離型)〕についてそのタンパク質量を、すなわち、総プロテインSのタンパク質量を測定することが可能となる。
【0194】
5.試料
試料中の総プロテインSのタンパク質量測定方法において、試料とは、プロテインSが存在する可能性があり、かつプロテインSの存在の有無、又は含有量(濃度)の測定を行おうとするものをいう。
このような試料としては、例えば、ヒト又は動物の血液、血清、血漿、唾液、汗、尿、涙、髄液、羊水、腹水などの体液、又は肝臓、心臓、脳、骨、毛髪、皮膚、爪、筋肉、神経組織などの臓器、組織若しくは細胞などの抽出液等、プロテインSが含まれる可能性のあるものを挙げることができる。
【0195】
6.測定方法
試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定方法は、担体粒子に固定化された「プロテインSに対する抗体」と試料中に含まれていた「プロテインS」との抗原抗体反応により生成した凝集物を測定することにより、試料中の総プロテインSタンパク質量を測定する方法において、該抗原抗体反応の反応時にC4b結合タンパク質を存在させるものである。
【0196】
試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定方法における測定操作は、公知の測定操作に従って行うことができる。
【0197】
この測定は、用手法により行ってもよいし、又は分析装置等の装置を用いて行ってもよい。
【0198】
また、この測定は、1ステップ法(1試薬法)により行ってもよいし、又は2ステップ法(2試薬法)等の複数の操作ステップにより行う方法によって実施してもよい。
【0199】
以下、ラテックス免疫比濁法を測定原理とする試料中の総プロテインSタンパク質量の測定試薬を用いて、試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定を行う場合を例にとって、具体的に説明を行う。
【0200】
(1)まず、試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定試薬として、以下のものを準備する。
第1試薬:C4b結合タンパク質を含有する緩衝液
第2試薬:プロテインSに対する抗体を固定化したラテックス粒子を含有する緩衝液
【0201】
(2)血漿等の試料の一定量と前記の第1試薬の一定量を混合し、一定温度下で一定時間静置する。
なお、試料と第1試薬の混合比率(量比)は、適宜選択すればよい。
また、前記の静置時の温度は、室温(1〜30℃)又は微温(30〜40℃)の範囲内の一定温度であることが好ましい(例えば、37℃等)。
【0202】
試料と第1試薬との混合により、試料に含まれていた遊離のプロテインSがこのC4b結合タンパク質と複合体を形成する。
すなわち、試料中のプロテインSは、全て「プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)」となる。
【0203】
(3)一定時間後、前記の試料と第1試薬との混合液に、前記の第2試薬の一定量を添加、混合し、反応混合液として、一定温度下で一定時間静置する。
なお、第2試薬の添加量は、適宜選択すればよい。
また、前記の静置時の温度は、室温(1〜30℃)又は微温(30〜40℃)の範囲内の一定温度であることが好ましい(例えば、37℃等)。
そして、前記の静置の時間は、1分以上、10分以下の一定時間であることが好ましく、3分以上、5分以下の一定時間であることがより好ましい。
【0204】
試料と第1試薬との混合液への第2試薬の添加、混合により、ラテックス粒子に固定化した抗プロテインS抗体と、試料中のプロテインS(プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型))との抗原抗体反応(測定反応)を行わせる。
【0205】
そして、この抗原抗体反応(測定反応)により、「…〔抗プロテインS抗体=ラテックス粒子=抗プロテインS抗体〕−〔プロテインS〕−〔抗プロテインS抗体=ラテックス粒子=抗プロテインS抗体〕…」の架橋が形成され、抗プロテインS抗体を固定化したラテックス粒子同士の凝集物が生成する。
【0206】
(4)そして、分析装置又は分光光度計等において、反応混合液に光を照射して、生成したラテックス粒子同士の凝集物により生ずるシグナルである適当な波長の透過光強度の減少(吸光度の増加)又は散乱光強度の増加を測定することにより、生成した前記凝集物の量、すなわち、試料中の総プロテインSのタンパク質量を求める。
【0207】
(5)そして、「試料の測定を行って得た測定値(透過光強度の減少(吸光度の増加)又は散乱光強度の増加の値)」と、「標準液、標準血清等の標準物質(既知濃度のプロテインSを含む試料)の測定を行って得た測定値(透過光強度の減少(吸光度の増加)又は散乱光強度の増加の値)」とを比較することにより、測定を行った試料中の総プロテインSのタンパク質量(濃度)の算出を行う。
【実施例】
【0208】
以下、本発明を実施例により更に説明する。なお、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0209】
〔実施例1〕(総プロテインSの活性値と総プロテインSのタンパク質量との比較)
試料中の総プロテインSの活性測定方法及び活性測定試薬により得た総プロテインSの活性値と、ラテックス比濁法による試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定方法及び測定試薬により得た総プロテインSのタンパク質量とを比較した。
【0210】
I.試料中の総プロテインSの活性測定方法及び活性測定試薬による測定
1.総プロテインSの活性測定試薬
(1)希釈液
下記の成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pHをpH8.0(20℃)に調整して、希釈液を調製した。
【0211】
Triton X−100(和光純薬工業社、日本国) 0.06%(W/V)
ウシ血清アルブミン(BSA) 0.1%(W/V)
塩化ナトリウム 0.1M
クエン酸三ナトリウム 10.6mM
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 50mM
【0212】
(2)第1試薬
下記の成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pHをpH8.0(20℃)に調整して、第1試薬を調製した。
【0213】
活性化プロテインC(精製ヒト活性化プロテインC;Enzyme Research Laboratories,Inc社、米国) 397pM
界面活性剤
リン脂質
塩化カルシウム 2.5mM
ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma−Aldrich社、米国) 0.1%(W/V)
塩化ナトリウム 0.1M
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 50mM
【0214】
なお、界面活性剤は、Triton X−100(和光純薬工業社、日本国)を0.006%(W/V)の濃度となるように含有させた。
【0215】
また、リン脂質は、ホスファチジルセリン(ブタ脳ホスファチジルセリン;PS;DOOSAN Serdary Research Laboratories社、韓国)0.4mg、ホスファチジルコリン(ブタ肝臓ホスファチジルコリン;PC;DOOSAN Serdary Research Laboratories社、韓国)0.4mg、及びホスファチジルエタノールアミン(ブタ肝臓ホスファチジルエタノールアミン;PE;DOOSAN Serdary Research Laboratories社、韓国)0.4mgをそれぞれ試験管に採取し、エバポレーターにて溶媒であるクロロフォルムを蒸発させた後、蒸留水を添加し1分間激しく撹拌した後、60℃で10分間超音波処理を行って調製したホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンの組成比が1:1:1(すなわち、33.33%(W/V):33.33%(W/V):33.33%(W/V))のリン脂質を、24μMの濃度となるように含有させた。〔なお、このホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンの組成比が1:1:1のリン脂質を、以下「リン脂質(PS:PC:PE=1:1:1)」ということがある。〕
【0216】
(3)第2試薬
下記の成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pHをpH8.0(20℃)に調整して、第2試薬を調製した。
【0217】
活性化血液凝固第V因子(精製ヒト活性化血液凝固第V因子;Haematologic Technologies,Inc社、米国) 357pM
界面活性剤
リン脂質
塩化カルシウム 2.5mM
ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma−Aldrich社、米国) 0.1%(W/V)
塩化ナトリウム 0.1M
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 50mM
【0218】
なお、界面活性剤は、Triton X−100(和光純薬工業社、日本国)を0.006%(W/V)の濃度となるように含有させた。
【0219】
また、リン脂質は、前記のリン脂質(PS:PC:PE=1:1:1)を、24μMの濃度となるように含有させた。
【0220】
(4)第3試薬
下記の成分をそれぞれ記載の濃度になるように純水に溶解し、pHをpH7.5(20℃)に調整して、第3試薬を調製した。
【0221】
活性化血液凝固第X因子(精製ウシ活性化血液凝固第X因子;New England Biolabs,Inc社、米国) 50pM
プロトロンビン(精製ヒトプロトロンビン;Enzyme Research Laboratories,Inc社、米国) 738nM
テストチーム(登録商標) 発色基質S−2238(トロンビンの基質〔トロンビンの発色基質〕;製造元:Chromogenix-Instrumentation Laboratory社〔イタリア国〕、販売元:積水メディカル社〔日本国〕) 750μM
リン脂質
塩化カルシウム 5.0mM
ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma−Aldrich社、米国) 0.1%(W/V)
塩化ナトリウム 0.15M
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 50mM
【0222】
なお、リン脂質は、ホスファチジルセリン(ブタ脳ホスファチジルセリン;PS;DOOSAN Serdary Research Laboratories社、韓国)0.6mg、ホスファチジルコリン(ブタ肝臓ホスファチジルコリン;PC;DOOSAN Serdary Research Laboratories社、韓国)0.4mg、及びホスファチジルエタノールアミン(ブタ肝臓ホスファチジルエタノールアミン;PE;DOOSAN Serdary Research Laboratories社、韓国)1.0mgをそれぞれ試験管に採取し、エバポレーターにて溶媒であるクロロフォルムを蒸発させた後、蒸留水を添加し1分間激しく撹拌した後、60℃で10分間超音波処理を行って調製したホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンの組成比が3:2:5(すなわち、30%(W/V):20%(W/V):50%(W/V))のリン脂質を、7.5μMの濃度となるように含有させた。〔なお、このホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンの組成比が3:2:5のリン脂質を、以下「リン脂質(PS:PC:PE=3:2:5)」ということがある。〕
【0223】
2.試料
次の(1)〜(4)をそれぞれ試料として用いた。
(1) 健常人211名の血漿
(2) プロテインSの遺伝子変異であるPS−K155Eヘテロ接合体(プロテインSの異常症の一つであるプロテインS徳島)であることが判明している7名の血漿
(3) プロテインSの遺伝子変異であるPS−K155Eホモ接合体(プロテインSの異常症の一つであるプロテインS徳島)であることが判明している1名の血漿
(4) プロテインSの遺伝子変異であるC206Fヘテロ接合体(プロテインSの異常症の一つ)であることが判明している1名の血漿
【0224】
3.試料中の総プロテインSの活性値の測定
各試料の総プロテインSの活性値の測定は、日立ハイテクノロジーズ社(日本国)の7170S形汎用自動分析装置を使用して行った。
【0225】
(1) 前記2の試料それぞれについて、前記1の(1)の希釈液により希釈倍率15倍で希釈を行った。
【0226】
(2) 前記(1)で希釈した試料2.0μLに、前記1の(2)の第1試薬の98μLを添加し、37℃で1.4分間反応させた。
【0227】
(3) 次に、前記1の(3)の第2試薬の20μLを添加し、37℃で8.3分間反応させた。
【0228】
(4) 次に、前記1の(4)の第3試薬の236μLを添加し、37℃で反応させた。
【0229】
(5) 前記(4)における第3試薬の添加の後、主波長405nm及び副波長505nmにおける吸光度の変化を12.3分間測定した。
【0230】
(6) 前記(1)〜(5)の操作を繰り返して計5回行い、同時再現性の検討を行なった。
【0231】
(7) また、前記(1)〜(5)の操作を連続する3日間のそれぞれの日に行い、日差再現性の検討を行なった。
【0232】
4.試料中の総プロテインSの活性値の算出
前記3の(5)において測定した第3試薬添加後の吸光度変化(反応のタイムコース)の値を微分して、試料中の総プロテインSの活性値を求めた。
【0233】
なお、予め、総プロテインS活性値が既知の試料について、前記3の通り測定を行い、測定した第3試薬添加後の吸光度変化(反応のタイムコース)の1分間当りの吸光度変化量を時間に対して直線式(微分直線)を求め、この直線の傾きをこの既知の総プロテインS活性値に対してプロットして検量線を作成した。
【0234】
そして、前記2の試料を前記3の通り測定を行って得た、第3試薬添加後の吸光度変化(反応のタイムコース)の1分間当りの吸光度変化量を、時間に対して直線式(微分直線)を求め、この直線の傾きを前記の検量線に当てはめて、試料中の総プロテインSの活性値を算出した。
すなわち、測定により得られた吸光度より吸光度変化の加速度(吸光度の二次微分値)を求め、検量線に当てはめてることにより、試料中の総プロテインSの活性値を算出した。
【0235】
この試料中の総プロテインSの活性値の測定を行って得られた結果を図1に示した。
【0236】
II.ラテックス比濁法による試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定方法及び測定試薬による測定
1.ラテックス比濁法による総プロテインSのタンパク質量の活性測定試薬
(1)第1試薬
C4b結合タンパク質を、B.Dahlbeackらの方法〔Biochem.J.,209巻,847〜856頁,1983年〕に基づいて、ヒト血漿より調製した。
次に、0.1%(w/v)BSA、0.3mol/L塩化ナトリウム及び0.05%アジ化ナトリウムを含有する50mM MES−塩酸緩衝液〔pH6.2(20℃)〕を調製した。
ここに、前記の通り調製したC4b結合タンパク質を25μg/mLの濃度となるように添加し、第1試薬とした。
【0237】
(2)第2試薬
(a)抗プロテインS抗体の調製
本発明者らが、精製した遊離状態のプロテインSを免疫抗原として、常法に従って抗プロテインS抗体の調製を行った。
プロテインSのC4b結合タンパク質との結合部位以外の部位に特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングを行い、マウス/マウスのハイブリドーマ(9H6株)を得た。
【0238】
このハイブリドーマ(9H6株)より産生されたマウス抗プロテインS・モノクローナル抗体の5mgを、0.5mLのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)に溶解した。
これに、0.6mgのS−アセチルメルカプトコハク酸無水物を溶解した0.01mLのN,N−ジメチルホルムアミドを加え、室温で30分間インキュベートした。
【0239】
次に、これに、0.1M EDTA水溶液の0.02mL、1Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝液(pH7.0)の0.1mL、及び1Mヒドロキシルアミン塩酸緩衝液(pH7.0)の0.1mLをそれぞれ加え、30℃で30分間インキュベートした。
その後、これを、5mM EDTAを含む0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)で平衡化しておいた、セファデックスG−25カラムでゲルろ過を行い、メルカプト・サクシニル化したマウス抗プロテインSモノクローナル抗体を得た。
【0240】
(b)抗プロテインS抗体固定化ラテックス粒子懸濁液の調製
平均粒径0.192μmのラテックス粒子の10%懸濁液1.0mLと50mM MES−塩酸緩衝液〔pH6.0(20℃)〕1.0mLとを混和し、更に320mMカルボジイミド(同仁化学研究所;製品番号:348−03631)水溶液32μLを添加して混和し、氷上で10分間放置した。
前記の氷上で10分間放置したラテックス粒子懸濁液1.2mLに、前記(a)で調製したメルカプト・サクシニル化したマウス抗プロテインSモノクローナル抗体を0.083g/dLの濃度で50mM MES−塩酸緩衝液〔pH6.0(20℃)〕に混和した液1.8mLを加え、4℃で一晩攪拌した。
次に、遠心分離により上清を除去した後、沈殿部を0.8%BSAを含む50mM Tris−塩酸緩衝液〔pH8.0(20℃)〕にて懸濁し、37℃で3時間放置し、ブロッキング処理を行った。
次に、遠心分離により沈殿部を回収した後、これを0.1%BSAを含む0.05%アジ化ナトリウム水溶液で再分散し、波長700nmにおける吸光度が15.0ODとなるように懸濁した。
これを抗プロテインS抗体固定化ラテックス粒子懸濁液とした。
【0241】
(c)第2試薬の調製
前記(b)で調製した抗プロテインS抗体固定化ラテックス粒子懸濁液を、0.1%BSAを含む0.05%アジ化ナトリウム水溶液で10倍希釈し、0.1%の「抗プロテインS抗体固定化ラテックス粒子」を含有する懸濁液を調製した。
これを第2試薬とした。
【0242】
2.試料
前記のIの2の(1)〜(4)の各試料を、試料として用いた。
【0243】
3.試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定及び算出
(1)測定手順
(a)測定は、東芝−120FR形自動分析装置(東芝メディカルシステムズ社製)を使用して行った。
まず、測定用セル(キュベット)に、前記2の試料の3μLを添加した。
次に、これらの測定用セル(キュベット)に、前記1の(1)の第1試薬の100μLを添加し、混合した。
そして、これらの測定用セル(キュベット)を、37℃で静置した。
これにより、前記の試料に含まれていた遊離のプロテインSと、前記の第1試薬中のC4b結合タンパク質との複合体を形成させた。すなわち、試料に含まれていたプロテインSは、全て「プロテインSとC4b結合タンパク質との複合体(結合型)」となった。
【0244】
(b)前記の第1試薬の添加後4分40秒目(16ポイント目)に、これらの測定用セル(キュベット)内の混合液に、更に、前記1の(2)の(b)の第2試薬の100μLを添加し、混合した。
【0245】
(c)前記の第1試薬の添加後5分35秒目(19ポイント目)に、これらの測定用セル(キュベット)内の混合液の吸光度(波長700nm)を試料盲検として測定した。
そして、これらの測定用セル(キュベット)を、37℃で静置して、反応を行わせた。
これにより、前記のラテックス粒子に固定化された抗プロテインS抗体と、前記の試料に含まれていたプロテインSとの抗原抗体反応を行わせ、ラテックス粒子の凝集塊を生成させた。
【0246】
(d)前記の第1試薬の添加後9分47秒目(33ポイント目)に、この測定用セル(キュベット)内の反応混合液の吸光度(波長700nm)を、前記試料の測定値として測定した。
【0247】
(e)前記(d)において測定した吸光度(測定値)から前記(c)において測定した吸光度(試料盲検)を差し引き、吸光度差を得た。
なお、この吸光度差は試料に含まれる総プロテインSタンパク質量(濃度)に比例したものである。
これらの試料の吸光度差より検量線を作成し、実検体(3.2%クエン酸血漿)を同様の方法で測定した際の吸光度差を検量線に当てはめて、試料中の総プロテインSタンパク質濃度を求めた。
このようにして、前記2の各試料の総プロテインSのタンパク質量を得た。
【0248】
この試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定を行って得られた結果を図1に示した。
【0249】
III.測定結果
1.図の説明
前記Iにおける試料中の総プロテインSの活性値の測定結果と、前記IIにおける試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定結果とを比較する図を、図1として示した。
【0250】
この図において、横軸(x)は前記IIのラテックス比濁法による試料中の総プロテインSのタンパク質量の測定結果を表す。この測定値の単位は「μg/mL」である。
また、この図において、縦軸(y)は前記Iにおける試料中の総プロテインSの活性値の測定結果を表す。この測定値の単位は「μg/mL当量」である。
【0251】
2.健常人の試料の比較
前記Iの総プロテインSの活性値の測定結果と、前記IIのラテックス比濁法による総プロテインSのタンパク質量の測定結果との比較を、次のようにして行った。
【0252】
試料が健常人211名の血漿である場合について、前記Iの総プロテインSの活性値の測定結果と、前記IIの総プロテインSのタンパク質量の測定結果より、プロテインSの比活性(総プロテインS活性値/総プロテインSタンパク質量)を求めた。
【0253】
この健常人211名の血漿の試料のプロテインSの比活性の平均値と標準偏差(SD)を算出し、平均±2SD(0.98±0.26)の範囲を求めた。
この範囲を外れる試料が10あったので、この10の試料を除外した健常人201名の試料について、再度、総プロテインSの活性値の測定結果と、総プロテインSのタンパク質量の測定結果より求めたプロテインSの比活性(総プロテインS活性値/総プロテインSタンパク質量)の平均値と標準偏差を算出し、平均±2SD(0.99±0.20)範囲と平均±3SD(0.99±0.30)範囲を求めた。
【0254】
なお、この図は、各々の試料について、試料中の総プロテインSの活性値を総プロテインSのタンパク質量で除した比活性を表すものでもある。
【0255】
この図において、比活性の平均値であるy=0.99xの式の線を実線で表した。
また、この式y=0.99xの線の上及び下に、平均±2SDを示す線(y=1.19x、及びy=0.79x)を破線でこの図に表した。
そして、この式y=0.99xの線の上に平均+3SDを示す線(y=1.29x)を点線で、またこの式y=0.99xの線の下に平均−3SDを示す線(y=0.69x)を実線でこの図に表した。
【0256】
健常人211名の血漿の試料の測定結果において、この図1で、前記のy=0.69x(平均−3SD)の線よりも下に外れるものが、7つ認められた。
すなわち、総プロテインSの活性値を総プロテインSのタンパク質量で除した比活性が0.69以下の試料が、7つ認められた。
【0257】
これらの比活性が0.69以下の7つの試料のうち、すなわち総プロテインSの活性値と総プロテインSのタンパク質量が大きく乖離している7つの試料のうち、同意が得られた3つの試料についてプロテインS遺伝子の塩基配列を調べたところ、これらの3つの試料のいずれもプロテインS遺伝子のPS−K155E変異(プロテインSの異常症の一つ)であることが判明した。〔図1において、これらの3つの試料に矢印(↓又は↑)を付した。〕
【0258】
このことより、試料中の総プロテインSの活性値及び試料中の総プロテインSのタンパク質量を測定し、この測定により得た総プロテインSの活性値と総プロテインSのタンパク質量とを、比活性を求める等により比較することにより、プロテインSの遺伝子の変異等のプロテインSの異常症を検出することが出来ることが確かめられた。
【0259】
3.プロテインSの遺伝子変異(プロテインSの異常症)であることが判明している試料の比較
前記Iの2の(2)〜(4)のプロテインSの遺伝子変異(プロテインSの異常症)であることが判明している試料(計9名の試料)のそれぞれについて、前記Iの総プロテインSの活性値の測定結果と、前記IIのラテックス比濁法による総プロテインSのタンパク質量の測定結果との比較を行う。
【0260】
図1において、前記Iの2の(2)のプロテインSの遺伝子変異であるPS−K155Eヘテロ接合体(プロテインSの異常症の一つ)であることが判明している7名の血漿の試料を「●」で示した。
また、前記Iの2の(3)のプロテインSの遺伝子変異であるPS−K155Eホモ接合体(プロテインSの異常症の一つ)であることが判明している1名の血漿の試料を「◆」で示した。
そして、前記Iの2の(4)のプロテインSの遺伝子変異であるC206Fヘテロ接合体(プロテインSの異常症の一つ)であることが判明している1名の血漿の試料を「□」で示した。
【0261】
プロテインSの遺伝子変異であることが判明しているこれらの9つの試料(●、◆及び□)はいずれも、前記の図1におけるy=0.69x(平均−3SD)の線よりも下に外れていることが分かる。
すなわち、プロテインSの遺伝子変異であることが判明しているこれらの9つの試料(●、◆及び□)はいずれも、総プロテインSの活性値を総プロテインSのタンパク質量で除した比活性が0.69以下であることが分かる。
つまり、これらの9つの試料は、総プロテインSの活性値と総プロテインSのタンパク質量が大きく乖離していることが分かる。
【0262】
よって、試料中の総プロテインSの活性値及び試料中の総プロテインSのタンパク質量を測定し、この測定により得た総プロテインSの活性値と総プロテインSのタンパク質量とを、比活性を求める等により比較することにより、プロテインSの遺伝子の変異等のプロテインSの異常症を検出することが出来ることが、これらのプロテインSの遺伝子変異の9つの試料の比較結果からも確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0263】
本発明のプロテインS異常症の検出方法は、正確、簡便かつ迅速にプロテインS異常症を検出することができるものである。
【0264】
よって、本発明のプロテインS異常症の検出方法を用いることにより、プロテインSの異常症を簡便かつ正確に検出し、血栓症等の疾患の予防、診断及び治療等に役立てることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテインS異常症の検出方法であって、試料中の総プロテインS活性値及び総プロテインSタンパク質量を測定する工程、及び、前記測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較する工程、を含むプロテインS異常症の検出方法。
【請求項2】
測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較し、この総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とが乖離している場合にはプロテインS異常症である又はその疑いがあるとする、請求項1記載のプロテインS異常症の検出方法。
【請求項3】
測定により得た総プロテインS活性値と総プロテインSタンパク質量とを比較することが、この総プロテインS活性値をこの総プロテインSタンパク質量で除した比活性を求めることである、請求項1又は請求項2記載のプロテインS異常症の検出方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−191852(P2012−191852A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56019(P2011−56019)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(399015388)学校法人九州文化学園 (4)
【Fターム(参考)】