説明

プロテオグリカンの製造方法

【課題】動物組織からプロテオグリカンを効率よく抽出し、化粧品、健康食品及び医薬品等の原料に適したプロテオグリカンを安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】プロテオグリカンの製造方法は、プロテオグリカンを含有する動物組織を少なくとも過酢酸を含む溶液に浸漬する工程と、浸漬後の溶液を回収する工程とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテオグリカンを含有する魚類、鳥類又は哺乳類等の軟骨組織等からプロテオグリカンを抽出し、製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテオグリカンは、タンパク質に糖鎖(グリコサミノグリカン)が結合した糖タンパク質の一種である。プロテオグリカンは、動物の細胞外マトリックスの主要構成成分のひとつとして軟骨組織に多く含まれており、水分の保持、骨形成、関節の潤滑及び細胞間の情報伝達等のさまざまな機能を有するとされている。
【0003】
近年、このプロテオグリカンは、化粧品、健康食品又は医薬品の原料として注目されている。これらの用途に適したプロテオグリカン、すなわち安全性が高く、経口摂取可能なプロテオグリカンを得るため、動物組織からのプロテオグリカンの抽出及び製造方法の開発が行われている。
【0004】
特許文献1には、酢酸を溶出溶媒に用いて、動物組織からプロテオグリカンを溶出する方法が記載されている。また、特許文献2には、動物組織をアルカリ溶液に浸漬させることにより、動物組織からプロテオグリカンを製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3731150号公報
【特許文献2】特許第4219974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された酢酸を用いて抽出する方法では、プロテオグリカンの回収率が低いためにコストが高く、化粧品や健康食品又は医薬品の原料としては実用的ではなかった。
【0007】
また、医薬品の一次原料は高純度であり、単一の成分であることが望ましいとされている。しかし、特許文献2に記載されたアルカリ溶液を用いて抽出する方法では、動物組織からプロテオグリカンを抽出する際にプロテオグリカンの一部が分解してしまい、抽出物に複数の成分が含まれるという問題が生じていた。そのため、単一の成分に精製するための精製処理が必要となり、手間とコストがかかっていた。
【0008】
本発明は上述した点に鑑み案出されたもので、その目的は、動物組織からプロテオグリカンを効率よく抽出し、化粧品、健康食品又は医薬品等の原料に適したプロテオグリカンを安価に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、過酢酸を用いて抽出処理を行うことで、安全性が高く、経口摂取可能なプロテオグリカンを効率よく動物組織から回収できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明のプロテオグリカンの製造方法は、プロテオグリカンを含有する動物組織を少なくとも過酢酸を含む溶液に浸漬する工程と、浸漬後の溶液を回収する工程とを含んでいる。
【0011】
動物組織を少なくとも過酢酸を含む溶液に浸漬することにより、動物組織中に含まれているプロテオグリカンが、過酢酸を含む溶液に効率よく抽出される。具体的には、過酢酸は酸化剤として作用することから、過酢酸が動物組織、たとえば軟骨組織の軟骨基質に存在するプロテオグリカンを抽出し易い状態にする等して、プロテオグリカンの抽出を促進するように作用すると考えられる。それゆえ、浸漬後の溶液を回収することによりプロテオグリカンを効率よく製造することができる。また、過酢酸は殺菌剤としても作用することから、プロテオグリカンの抽出と同時に動物組織中に含まれる細菌やウイルスが排除され、プロテオグリカンを無菌的に得ることができる。さらに、過酢酸は溶液中で酢酸と過酸化水素とに分解し、過酸化水素はさらに水と酸素に分解されるため、人体に対する安全性が高い。それゆえ、安全性が高く、経口摂取可能なプロテオグリカンを製造することができる。
【0012】
他方、溶液に抽出されたプロテオグリカンは実質的に単一の成分として溶液に抽出される。プロテオグリカンのコアタンパク質及び糖鎖は変性や分解を受けずに抽出される。それゆえ、抽出後の溶液を回収することにより単一の成分のプロテオグリカンを製造することができる。
【0013】
また、溶液の過酢酸の濃度は、1×10−4重量%〜2重量%であることが好ましい。過酢酸の溶液中の濃度を1×10−4重量%〜2重量%とすることで、好適にプロテオグリカンが抽出される溶液中の過酢酸の濃度が選択される。
【0014】
なお、本発明における過酢酸の濃度とは、溶液に動物組織の浸漬を開始した時点の濃度のことをいう。過酢酸は時間の経過や反応に伴って、酢酸と過酸化水素に分解されるため、動物組織の溶液への浸漬後、過酢酸の濃度は徐々に減少する。
【0015】
また、溶液には、酢酸と過酸化水素とがさらに含まれる。溶液には過酢酸原料に含まれている平衡過酢酸組成物として、酢酸と過酸化水素とが含まれ得る。そして、過酢酸の分解物としての酢酸と過酸化水素も含まれ得る。酢酸は食品にも使用される物質であり、過酸化水素は水と酸素に分解されることから安全性が高い。それゆえ、安全性が高く、経口摂取可能なプロテオグリカンを製造することができる。
【0016】
また、浸漬後の溶液を回収する工程には、浸漬後の溶液と動物組織との混合物を遠心分離し、液層を回収することが含まれる。浸漬後の溶液と動物組織との混合物を遠心分離することで、プロテオグリカンの抽出溶液と抽出残渣とを簡便に分離し、プロテオグリカンを高濃度で含む液層を回収することができる。
【0017】
また、プロテオグリカンを含有する動物組織は、魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の軟骨組織又は魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の皮であることが好ましい。これら軟骨組織や皮はプロテオグリカンを多量に含み、食品加工の分野では通常廃棄される部位であるため、低コストのプロテオグリカンを製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有するプロテオグリカンの製造方法を提供することができる。
(1)安全性が高く、経口摂取可能なプロテオグリカンを高効率かつ簡便に動物組織から抽出することができる。
(2)動物組織から細菌やウイルスを排除しつつ、無菌的にプロテオグリカンを抽出することができる。
(3)プロテオグリカンの変性又は分解を防ぎ、単一の成分として抽出することができる。
(4)加工食品分野で従来廃棄処分されてきた魚類、鳥類又は哺乳類などの軟骨組織等から化粧品、健康食品又は医薬品の原料に適したプロテオグリカンを安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】シロサケ鼻軟骨試料を過酢酸水溶液、水酸化ナトリウム水溶液又は酢酸水溶液に浸漬させて得られた(a)プロテオグリカン(ウロン酸)の回収量及び(b)コンドロイチン硫酸の純度を経時的に示すグラフである。丸形のマーカーは過酢酸水溶液を示し、三角形のマーカーは水酸化ナトリウム水溶液を示し、そして、四角形のマーカーは酢酸水溶液を示す。
【図2】シロサケ鼻軟骨試料を(a)過酢酸水溶液、又は(b)水酸化ナトリウム水溶液に浸漬させて得られたプロテオグリカンの分子量分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のプロテオグリカンの製造方法は、動物組織を過酢酸溶液に浸漬して高効率かつ無菌的にプロテオグリカンを抽出する工程と、プロテオグリカンが抽出された溶液を回収する工程とからなる。以下詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の出発原料として用いられるプロテオグリカンを含む動物組織について説明する。本発明で用いる動物組織としては、プロテオグリカンを含有していればよいが、プロテオグリカンを多量に含み、食品加工の分野で通常廃棄される部位として安価に入手可能である観点から、魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の軟骨組織又は魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の皮が好ましい。特に限定されないが、例えば、魚類の軟骨組織としてはサケの鼻軟骨(氷頭)、エイの軟骨又はサメの軟骨、鳥類の軟骨組織としては、鶏の胸軟骨若しくは膝軟骨、哺乳類の軟骨組織としては、ウシの喉軟骨若しくは気管支軟骨又はクジラの軟骨等が好ましく、魚類の軟骨組織であるサケの鼻軟骨又はエイの軟骨がより好ましい。なお、本発明において軟骨組織とは、硝子軟骨、弾性軟骨若しくは線維軟骨をはじめ、軟骨基質、軟骨細胞又は軟骨膜等を有する組織のことをいい、軟骨周辺部位の組織も含まれる。
【0022】
上述した軟骨組織等の動物組織は、動物種や部位毎に処理することもできるが、動物種や部位に関係なく混合して処理することもできる。これらの動物組織は、プロテオグリカンの抽出効率を高めるため、ミートチョッパー等の破砕手段を用いて予め破砕しておくことが好ましい。さらに、プロテオグリカンの抽出効率を高めると共に動物組織の脂質に含まれる特有の臭いを除去するために、動物組織に含まれる脂質を除去しておくことも好ましい。具体的には、例えば、破砕した動物組織にエタノール又はアセトン等の有機溶媒を加えて脂質を有機溶媒に抽出させ、有機溶媒を除去することによって行われる。
【0023】
次に、本発明でプロテオグリカンの抽出に用いられる過酢酸を含む溶液について説明する。この過酢酸溶液に含まれる過酢酸の濃度は、動物組織の浸漬を開始した時点において、1×10−5重量%〜3重量%であることが好ましく、効率よくプロテオグリカンを抽出する観点及び動物組織中に含まれる細菌やウイルスを排除して、無菌状態のプロテオグリカンを得る観点から、1×10−4重量%〜2重量%であることがより好ましい。過酢酸は反応に伴って酢酸と過酸化水素に分解されるため、動物組織を溶液に浸漬した後は、過酢酸の濃度は徐々に減少する。
【0024】
本発明の過酢酸を含む溶液を調製するにあたり、過酢酸原料としては、例えば、三菱ガス化学株式会社製の過酢酸(過酢酸濃度36〜42重量%)、メルク株式会社製の過酢酸38〜40%(過酢酸濃度38〜40%)、シグマアルドリッチ社製の過酢酸溶液(過酢酸濃度39%)、ADEKAクリーンエイド株式会社製のデオメイトPA(過酢酸濃度6〜9%)又はテックP−10(過酢酸濃度9〜10%)等が挙げられる。これらの過酢酸原料を所定の過酢酸濃度となるように、水で希釈して本発明の過酢酸溶液を作成する。また、これらの過酢酸原料は、単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
本発明の過酢酸溶液には、過酢酸の他に酢酸と過酸化水素とがさらに含まれ得る。過酢酸原料には過酢酸の分解を抑制するため、通常、酢酸と過酸化水素とが含まれている。例えば、三菱ガス化学株式会社製の過酢酸(過酢酸濃度36〜42重量%)には、酢酸が38〜45重量%、過酸化水素が4〜6重量%含まれている。それゆえ、本発明の溶液には過酢酸原料中に含まれる平衡過酢酸組成物である、酢酸と過酸化水素とが含まれ得る。そして、過酢酸溶液には、過酢酸の分解物である酢酸と過酸化水素も含まれ得る。本発明の過酢酸溶液に含まれる酢酸濃度としては、好適な過酢酸濃度との関係から、1×10−5重量%〜3重量%であることが好ましく、1×10−4重量%〜2重量%であることがより好ましい。また、過酸化水素濃度としては、好適な過酢酸濃度との関係から、1×10−6重量%〜1重量%であることが好ましく、1×10−5重量%〜0.2重量%であることがより好ましい。
【0026】
本発明の過酢酸溶液には、人体に対する安全性を妨げず、プロテオグリカンの抽出の妨げとならない範囲において、過酢酸の安定剤等その他の物質がさらに含まれていてもよい。
【0027】
次に、動物組織を過酢酸溶液に浸漬する工程について説明する。浸漬に用いる過酢酸溶液の量は特に限定されないが、動物組織(未処理の状態)1重量部に対して過酢酸溶液2〜15重量部が好ましく、十分に動物組織を過酢酸溶液に浸漬させるために、4〜12重量部がより好ましく、6〜12重量部が特に好ましい。浸漬の際には、抽出効率を高めるために、動物組織と過酢酸溶液とを充分に接触させるべく、スターラーやミキサー等を用いて溶液を攪拌させることが好ましい。
【0028】
動物組織の過酢酸溶液の浸漬温度は、プロテオグリカンの分解及び変性を防ぎ、高純度で未分解のプロテオグリカンを抽出する観点から、0℃超〜20℃以下が好ましく、4℃〜15℃がより好ましい。また、浸漬時間は30分以上が好ましく、プロテオグリカンを多量に抽出する観点及び動物組織中に含まれる細菌やウイルスを排除する観点から、1時間以上がより好ましく、3時間以上が特に好ましい。
【0029】
この工程において、動物組織中に含まれるプロテオグリカンは、過酢酸の作用により過酢酸溶液中に効率よく抽出される。過酢酸が動物組織に存在するプロテオグリカンを抽出し易い状態にする等して抽出が促進されているものと考えられる。ここで、プロテオグリカンは、タンパク質に糖鎖(軟骨組織においてはコンドロイチン硫酸)が結合した糖タンパク質であるところ、一般にタンパク質は熱やアルカリ、酸等により変性又は分解しやすい性質を有している。また、プロテオグリカンのコアタンパク質と糖鎖との結合も、熱やアルカリ等により分解を受けやすい。しかし、本発明の過酢酸溶液を用いた抽出工程においては、プロテオグリカンはその変性や部分的な分解がほとんど見られない状態で抽出される。
【0030】
さらに、動物組織を過酢酸溶液に浸漬する工程においては、溶液中の過酢酸の作用により、動物組織中に含まれる細菌やウイルスが排除され、プロテオグリカンが無菌的に抽出される。これまで動物組織からプロテオグリカンを製造するにあたり、熱に弱いプロテオグリカンの加熱殺菌処理を行うことはできず、細菌やウイルスの排除は困難であった。本発明においては、動物組織からプロテオグリカンを抽出する際に、同時に細菌及びウイルスの排除も行うことができ、化粧品、健康食品又は医薬品の原料に適したプロテオグリカンを製造することができる。
【0031】
次に、動物組織を浸漬した後の溶液を回収する工程について説明する。浸漬後の溶液には、動物組織から抽出されたプロテオグリカンが含まれているため、この溶液を回収することによりプロテオグリカンが得られる。ここで、浸漬後の溶液と動物組織の混合物には、溶液中に抽出されたプロテオグリカンの他、動物組織の抽出残渣や動物組織由来の脂質成分が含まれる。よって、浸漬後の溶液と動物組織の混合物について遠心分離処理又は濾過処理等を行って、プロテオグリカンの抽出溶液をその他の成分から分離して回収することが好ましく、簡便に分離できる観点から、遠心分離処理がより好ましい。浸漬後の溶液と動物組織の混合物を遠心分離すると、下層には主にコラーゲンからなる動物組織の抽出残渣による沈殿が形成され、上層には動物組織由来の油脂層が形成され、その間の中間層にはプロテオグリカンを含む溶液の液層が形成される。この中間層の液層を回収することにより、プロテオグリカンを含む溶液が得られる。なお、この溶液は、そのまま使用することも可能であるが、真空凍結乾燥処理等によって濃縮液としたり、粉末状とすることも可能である。
【0032】
本発明により抽出され、回収されたプロテオグリカンを含む溶液は精製前においても高純度であるが、用途に合わせてさらなる精製処理を施すこともできる。特に限定されないが、回収した溶液について透析処理や限外濾過濃縮等を行うことにより、得られたプロテオグリカンの純度及び濃度を高くすることができる。さらに、回収されたプロテオグリカンを含む溶液又はその濃縮液に食塩飽和エタノールを加え、プロテオグリカンを沈殿物として得ることもできる。
【0033】
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0034】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、シロサケの鼻軟骨を選択した。−40℃で保管したシロサケの頭部から鼻軟骨を摘出して、電動ミートチョッパーで細かく破砕し、ミンチ状の破砕物を得た。この破砕物をアセトンに浸漬させて脱脂及び脱水を行ったのち、減圧乾燥させて試料を得た。他方、3L容量の容器に6℃に冷却した蒸留水1679.83gを準備し、濃度が36〜42重量%の過酢酸(三菱ガス化学株式会社製品)0.17gを添加して過酢酸溶液1680gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が0.0036〜0.0042重量%、酢酸が0.0038〜0.0045重量%及び過酸化水素が0.0004〜0.0006重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液にシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料12gを入れ、スターラーで攪拌しつつ6℃で浸漬処理を行った。
【0035】
さらに、上記の過酢酸溶液を0.085重量%(0.021N)の水酸化ナトリウム水溶液に替えて、または4.0%(0.67N)の酢酸水溶液に替えて、シロサケ鼻軟骨試料の浸漬処理を上記と同様に行った。
【0036】
各溶液に試料を浸漬してから15分後、30分後、1時間後、3時間後、6時間後、9時間後及び24時間後に所定量ずつ各溶液を回収した。回収後直ちに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)により各溶液中のウロン酸量を定量し、各浸漬時間におけるプロテオグリカンの回収量を調べた。また、定量した各溶液中のウロン酸量とコンドロイチン硫酸換算係数(2.703)とからコンドロイチン硫酸量を算出し、各溶液中のコンドロイチン硫酸の純度を経時的に調べた。結果を図1に示す。丸形のマーカーは過酢酸水溶液を示し、三角形のマーカーは水酸化ナトリウム水溶液を示し、そして、四角形のマーカーは酢酸水溶液を示している。
【0037】
この結果より、抽出溶媒が過酢酸溶液の場合、酢酸水溶液(特許文献1)と比べて抽出効率が7倍以上優れることが分かった(図1a)。また、抽出効率に優れるとされている水酸化ナトリウム水溶液(特許文献2)と過酢酸水溶液とを比較しても、両者は同程度の抽出効率であることから、過酢酸水溶液は高い抽出効率を有することが分かった。さらに、過酢酸溶液を用いて抽出したコンドロイチン硫酸、すなわちプロテオグリカンの純度は、水酸化ナトリウム水溶液や酢酸水溶液で得られたものの純度と比較して顕著に高いことが示された(図1b)。
【0038】
さらに、抽出溶媒が過酢酸水溶液である場合と水酸化ナトリウム水溶液である場合とについて、浸漬24時間後の過酢酸溶液中に含まれるプロテオグリカンの分子量分布をゲルろ過クロマトグラフィーにより測定した。測定には、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用い、カラムはTSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。結果を図2に示す。
【0039】
この結果より、過酢酸水溶液を用いて抽出処理を行った場合には、得られた抽出物は単一の約130万Dの分子量分布を示した(図2a)。この130万Dはプロテオグリカンの分子量に相当するものであることから、過酢酸水溶液による抽出処理により得られたプロテオグリカンは、医薬品等の原料にもなり得る単一の分子量分布と純度を兼ね備えたプロテオグリカンであることが示された。他方、水酸化ナトリウム水溶液を用いて抽出処理を行った場合には、プロテオグリカンに相当する約130万Dと、それよりも小さい約6〜8万Dの2つの分子量分布を示した(図2b)。この6〜8万Dの分子量は、プロテオグリカンの骨格の一部であるコンドロイチン硫酸の分子量に相当することから、プロテオグリカンに部分的に分解が生じているものと考えられる。
【実施例2】
【0040】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、実施例1と同様にシロサケの鼻軟骨を選択した。−40℃で保管したシロサケの頭部から鼻軟骨を摘出して、電動ミートチョッパーで細かく破砕し、ミンチ状の破砕物を得た。他方、2L容量の容器に4℃に冷却した蒸留水799.92gを準備し、濃度が36〜42重量%の過酢酸(三菱ガス化学株式会社製品)0.08gを添加して過酢酸溶液800gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が0.0036〜0.0042重量%、酢酸が0.0038〜0.0045重量%及び過酸化水素が0.0004〜0.0006重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液にシロサケ鼻軟骨の破砕物100gを入れ、スターラーで攪拌しつつ4℃で24時間浸漬処理を行った。
【0041】
浸漬処理後、遠心分離機(日立工機株式会社製、型番CF7D2)を用いて、浸漬後の過酢酸溶液と動物組織の混合物を7000rpmで15分間遠心分離を行い、油脂相等を避け、プロテオグリカンを含む液相を回収した。次に、回収した液相をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過し、ろ液を得た。このろ液にぺリスタポンプ(登録商標、アトー株式会社製)を使用し、連続的にろ液の10倍量の蒸留水を加え、ポリエーテルスルホンメンブレン(日本ミリポア株式会社製、バイオマックス(登録商標)100K:分画分子量10万D)を用いて、分画と濃縮を同時に行い、濃縮液を得た。この濃縮液について真空凍結乾燥を行い、プロテオグリカンの固形粉末を得た。
【0042】
次に、得られた固形粉末の乾燥重量を測定した。測定は、得られた固形粉末を定温乾燥器(株式会社三商製、SDN27)で105℃で16時間乾燥させ、完全に水分を蒸発させた後、残った固形分を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GX−10K)で精密に測定することにより行われた。その結果、100gのシロサケ鼻軟骨の破砕物から2.2gの乾燥固形分を得ることができ、収率は2.2%であった。
【0043】
他方、プロテオグリカンの固形粉末中の窒素量をケルダール法により定量してタンパク質量を算出するとともに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)によりウロン酸量を定量してプロテオグリカン量を計算した。この結果、得られた固形粉末中には、タンパク質が25.0%、コンドロイチン硫酸が72.2%、脂質が0.05%存在することが分かった。ここで、プロテオグリカンのコアタンパク質の重量比はプロテオグリカンに対して約7.0%である(特許文献1)。従って、本実施例で得られたプロテオグリカンの純度は、コンドロイチン硫酸が72.2%であることから計算すると、約77.3%と推定された。
【0044】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用いて、固形粉末中のプロテオグリカンの分子量を測定した。カラムには、TSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。ここで、抽出されたプロテオグリカンに分解が生じ、プロテオグリカン由来のコンドロイチン硫酸が生成していた場合には、ポリエーテルスルホンメンブレンによる分画を行っても、分解したコンドロイチン硫酸がプロテオグリカンに接着したままであり、プロテオグリカンとは分画されないため、コンドロイチン硫酸に相当するピークが検出される。本実施例で得られたプロテオグリカンは単一のピークを示し、分子量は約129万Dであった。このことから、得られたプロテオグリカンは、未分解のまま抽出され、単一の分子量分布と純度を兼ね備えたプロテオグリカンであることが示された。
【0045】
また、得られた固形粉末について、微生物検査を行った結果、一般細菌数は300個/g以下、大腸菌群は陰性であった。
【実施例3】
【0046】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、実施例1〜2と同様にシロサケの鼻軟骨を選択した。−40℃で保管したシロサケの頭部から鼻軟骨を摘出して、電動ミートチョッパーで細かく破砕し、ミンチ状の破砕物を得た。この破砕物をアセトンに浸漬させて脱脂及び脱水を行ったのち、減圧乾燥させて試料を得た。他方、3L容量の容器に10℃に冷却した蒸留水1678.32gを準備し、濃度が36〜42重量%の過酢酸(三菱ガス化学株式会社製品)1.68gを添加して過酢酸溶液1680gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が0.036〜0.042重量%、酢酸が0.038〜0.045重量%及び過酸化水素が0.004〜0.006重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液にシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料12gを入れ、スターラーで攪拌しつつ10℃で48時間浸漬処理を行った。
【0047】
浸漬処理後、遠心分離機(日立工機株式会社製、型番CF7D2)を用いて、浸漬後の過酢酸溶液と動物組織の混合物を7000rpmで15分間遠心分離を行い、油脂相等を避け、プロテオグリカンを含む液相を回収した。次に、回収した液相をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過し、ろ液を得た。このろ液にろ液の8倍量の蒸留水を加え、ポリエーテルスルホンメンブレン(日本ミリポア株式会社製、バイオマックス(登録商標)100K:分画分子量10万D)を用いて、分画と濃縮を同時に行い、濃縮液を得た。この濃縮液について真空凍結乾燥を行い、プロテオグリカンの固形粉末を得た。
【0048】
次に、得られた固形粉末の乾燥重量を測定した。測定は、得られた固形粉末を定温乾燥器(株式会社三商製、SDN27)で105℃で16時間乾燥させ、完全に水分を蒸発させた後、残った固形分を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GX−10K)で精密に測定することにより行われた。その結果、12gのシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料から3.84gの乾燥固形分を得ることができ、収率は32%であった。
【0049】
他方、プロテオグリカンの固形粉末中の窒素量をケルダール法により定量してタンパク質量を算出するとともに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)によりウロン酸量を定量してプロテオグリカン量を計算した。この結果、得られた固形粉末中には、タンパク質が16.0%、コンドロイチン硫酸が83.2%、脂質が0.05%存在することが分かった。ここで、プロテオグリカンのコアタンパク質の重量比は約7.0%であり(特許文献1)、上記のとおりコンドロイチン硫酸が83.2%であることから計算すると、本実施例で得られたプロテオグリカンの純度は、約89%と推定された。
【0050】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用いて、固形粉末中のプロテオグリカンの分子量を測定した。カラムには、TSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。本実施例で得られたプロテオグリカンは単一のピークを示し、分子量は約127万Dであった。
【0051】
また、得られた固形粉末について、微生物検査を行った結果、一般細菌数は300個/g以下、大腸菌群は陰性であった。
【実施例4】
【0052】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、実施例1〜3と同様にシロサケの鼻軟骨を選択した。実施例3と同様の内容でシロサケの鼻軟骨を破砕してアセトン処理を施し、減圧乾燥させて試料を得た。他方、3L容量の容器に9℃に冷却した蒸留水1678.32gを準備し、濃度が36〜42重量%の過酢酸(三菱ガス化学株式会社製品)1.68gを添加して過酢酸溶液1680gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が0.036〜0.042重量%、酢酸が0.038〜0.045重量%及び過酸化水素が0.004〜0.006重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液にシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料12gを入れ、スターラーで攪拌しつつ9℃で48時間浸漬処理を行った。
【0053】
浸漬処理後、遠心分離機(日立工機株式会社製、型番CF7D2)を用いて、浸漬後の過酢酸溶液と動物組織の混合物を7000rpmで15分間遠心分離を行い、油脂相等を避け、プロテオグリカンを含む液相を回収した。次に、回収した液相をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過し、ろ液を得た。このろ液にろ液の8倍量の蒸留水を加え、ポリエーテルスルホンメンブレン(日本ミリポア株式会社製、バイオマックス(登録商標)100K:分画分子量10万D)を用いて、分画と濃縮を同時に行い、濃縮液を得た。得られた濃縮液に、2〜4倍量の食塩飽和エタノールを添加して混合した後、塩析により沈殿物を生成させた。上澄を除去した後、沈殿物を減圧乾燥させ、プロテオグリカンの固形粉末を得た。
【0054】
次に、得られた固形粉末の乾燥重量を測定した。測定は、得られた固形粉末を定温乾燥器(株式会社三商製、SDN27)で105℃で16時間乾燥させ、完全に水分を蒸発させた後、残った固形分を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GX−10K)で精密に測定することにより行われた。その結果、12gのシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料から3.36gの乾燥固形分を得ることができ、収率は28%であった。
【0055】
他方、プロテオグリカンの固形粉末中の窒素量をケルダール法により定量してタンパク質量を算出するとともに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)によりウロン酸量を定量してプロテオグリカン量を計算した。この結果、得られた固形粉末中には、タンパク質が18.0%、コンドロイチン硫酸が81.2%、脂質が0.02%存在することが分かった。ここで、プロテオグリカンのコアタンパク質の重量比は約7.0%であり(特許文献1)、上記のとおりコンドロイチン硫酸が81.2%であることから計算すると、本実施例で得られたプロテオグリカンの純度は、約86.9%と推定された。
【0056】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用いて、固形粉末中のプロテオグリカンの分子量を測定した。カラムには、TSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。本実施例で得られたプロテオグリカンは単一のピークを示し、分子量は約127万Dであった。
【0057】
また、得られた固形粉末について、微生物検査を行った結果、一般細菌数は300個/g以下、大腸菌群は陰性であった。
【実施例5】
【0058】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、実施例1〜4と同様に、シロサケの鼻軟骨を選択した。実施例3及び4と同様の内容でシロサケの鼻軟骨を破砕してアセトン処理を施し、減圧乾燥させて試料を得た。他方、3L容量の容器に12℃に冷却した蒸留水1629.6gを準備し、濃度が36〜42重量%の過酢酸(三菱ガス化学株式会社製品)50.4gを添加して過酢酸溶液1680gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が1.08〜1.26重量%、酢酸が1.14〜1.35重量%及び過酸化水素が0.12〜0.18重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液にシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料12gを入れ、スターラーで攪拌しつつ12℃で6時間浸漬処理を行った。
【0059】
浸漬処理後、遠心分離機(日立工機株式会社製、型番CF7D2)を用いて、浸漬後の過酢酸溶液と動物組織の混合物を7000rpmで15分間遠心分離を行い、油脂相等を避け、プロテオグリカンを含む液相を回収した。次に、回収した液相をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過し、ろ液を得た。このろ液にろ液の8倍量の蒸留水を加え、ポリエーテルスルホンメンブレン(日本ミリポア株式会社製、バイオマックス(登録商標)100K:分画分子量10万D)を用いて、分画と濃縮を同時に行い、濃縮液を得た。この濃縮液について真空凍結乾燥を行い、プロテオグリカンの固形粉末を得た。
【0060】
次に、得られた固形粉末の乾燥重量を測定した。測定は、得られた固形粉末を定温乾燥器(株式会社三商製、SDN27)で105℃で16時間乾燥させ、完全に水分を蒸発させた後、残った固形分を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GX−10K)で精密に測定することにより行われた。その結果、12gのシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料から0.91gの乾燥固形分を得ることができ、収率は7.58%であった。
【0061】
他方、プロテオグリカンの固形粉末中の窒素量をケルダール法により定量してタンパク質量を算出するとともに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)によりウロン酸量を定量してプロテオグリカン量を計算した。この結果、得られた固形粉末中には、タンパク質が15.3%、コンドロイチン硫酸が80.2%、脂質が0.05%存在することが分かった。ここで、プロテオグリカンのコアタンパク質の重量比は約7.0%であり(特許文献1)、上記のとおりコンドロイチン硫酸が80.2%であることから計算すると、本実施例で得られたプロテオグリカンの純度は、約85.8%と推定された。
【0062】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用いて、固形粉末中のプロテオグリカンの分子量を測定した。カラムには、TSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。本実施例で得られたプロテオグリカンは単一のピークを示し、分子量は約125万Dであった。
【0063】
また、得られた固形粉末について、微生物検査を行った結果、一般細菌数は300個/g以下、大腸菌群は陰性であった。
【実施例6】
【0064】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、実施例1〜5と同様にシロサケの鼻軟骨を選択した。実施例3〜5と同様の内容でシロサケの鼻軟骨を破砕してアセトン処理を施し、減圧乾燥させて試料を得た。他方、3L容量の容器に7℃に冷却した蒸留水1678.32gを準備し、濃度が約10重量%の過酢酸(ADEKAクリーンエイド株式会社製、テックP−10)1.68gを添加して過酢酸溶液1680gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が0.009〜0.010重量%、酢酸が0.015〜0.017重量%及び過酸化水素が0.019〜0.021重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液にシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料12gを入れ、スターラーで攪拌しつつ8℃で24時間浸漬処理を行った。
【0065】
浸漬処理後、遠心分離機(日立工機株式会社製、型番CF7D2)を用いて、浸漬後の過酢酸溶液と動物組織の混合物を7000rpmで15分間遠心分離を行い、油脂相等を避け、プロテオグリカンを含む液相を回収した。次に、回収した液相をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過し、ろ液を得た。このろ液にろ液の8倍量の蒸留水を加え、ポリエーテルスルホンメンブレン(日本ミリポア株式会社製、バイオマックス(登録商標)100K:分画分子量10万D)を用いて、分画と濃縮を同時に行い、濃縮液を得た。この濃縮液について真空凍結乾燥を行い、プロテオグリカンの固形粉末を得た。
【0066】
次に、得られた固形粉末の乾燥重量を測定した。測定は、得られた固形粉末を定温乾燥器(株式会社三商製、SDN27)で105℃で16時間乾燥させ、完全に水分を蒸発させた後、残った固形分を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GX−10K)で精密に測定することにより行われた。その結果、12gのシロサケ鼻軟骨の減圧乾燥試料から3.18gの乾燥固形分を得ることができ、収率は26.5%であった。
【0067】
他方、プロテオグリカンの固形粉末中の窒素量をケルダール法により定量してタンパク質量を算出するとともに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)によりウロン酸量を定量してプロテオグリカン量を計算した。この結果、得られた固形粉末中には、タンパク質が16.2%、コンドロイチン硫酸が83.9%、脂質が0.08%存在することが分かった。ここで、プロテオグリカンのコアタンパク質の重量比は約7.0%であり(特許文献1)、上記のとおりコンドロイチン硫酸が83.9%であることから計算すると、本実施例で得られたプロテオグリカンの純度は、約89.8%と推定された。
【0068】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用いて、固形粉末中のプロテオグリカンの分子量を測定した。カラムには、TSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。本実施例で得られたプロテオグリカンは単一のピークを示し、分子量は約127万Dであった。
【0069】
また、得られた固形粉末について、微生物検査を行った結果、一般細菌数は300個/g以下、大腸菌群は陰性であった。
【実施例7】
【0070】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、国内産鶏ヤゲン軟骨を選択した。鶏ヤゲン軟骨に付着している肉片を除去した後、電動ミートチョッパーで細かく破砕し、ミンチ状の破砕物を得た。この破砕物をアセトンに浸漬させて脱脂及び脱水を行ったのち、減圧乾燥させて試料を得た。他方、3L容量の容器に12℃に冷却した蒸留水1678.82gを準備し、濃度が36〜42重量%の過酢酸(三菱ガス化学株式会社製品)1.18gを添加して過酢酸溶液1680gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が0.025〜0.029重量%、酢酸が0.027〜0.032重量%及び過酸化水素が0.003〜0.004重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液に鶏ヤゲン軟骨の減圧乾燥試料12gを入れ、スターラーで攪拌しつつ12℃で24時間浸漬処理を行った。
【0071】
浸漬処理後、遠心分離機(日立工機株式会社製、型番CF7D2)を用いて、浸漬後の過酢酸溶液と動物組織の混合物を7000rpmで15分間遠心分離を行い、油脂相等を避け、プロテオグリカンを含む液相を回収した。次に、回収した液相をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過し、ろ液を得た。このろ液にろ液の8倍量の蒸留水を加え、ポリエーテルスルホンメンブレン(日本ミリポア株式会社製、バイオマックス(登録商標)100K:分画分子量10万D)を用いて、分画と濃縮を同時に行い、濃縮液を得た。得られた濃縮液に、2〜4倍量の食塩飽和エタノールを添加して混合した後、塩析により沈殿物を生成させた。上澄を除去した後、沈殿物を減圧乾燥させ、プロテオグリカンの固形粉末を得た。
【0072】
次に、得られた固形粉末の乾燥重量を測定した。測定は、得られた固形粉末を定温乾燥器(株式会社三商製、SDN27)で105℃で16時間乾燥させ、完全に水分を蒸発させた後、残った固形分を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GX−10K)で精密に測定することにより行われた。その結果、12gの鶏ヤゲン軟骨の減圧乾燥試料から2.7gの乾燥固形分を得ることができ、収率は22.5%であった。
【0073】
他方、プロテオグリカンの固形粉末中の窒素量をケルダール法により定量してタンパク質量を算出するとともに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)によりウロン酸量を定量してプロテオグリカン量を計算した。この結果、得られた固形粉末中には、タンパク質が30.50%、コンドロイチン硫酸が57.8%、脂質が0.5%存在することが分かった。ここで、プロテオグリカンのコアタンパク質の重量比は約7.0%であり(特許文献1)、上記のとおりコンドロイチン硫酸が57.8%であることから計算すると、本実施例で得られたプロテオグリカンの純度は、約61.8%と推定された。
【0074】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用いて、固形粉末中のプロテオグリカンの分子量を測定した。カラムには、TSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。鶏ヤゲン軟骨のプロテオグリカンは、複数の分子量分布を有するところ、本実施例で得られたプロテオグリカンは2つのピークを示し、その分子量は約92万D及び約46万Dであった。また、プロテオグリカンの分解物に相当するピークは認められなかった。
【0075】
また、得られた固形粉末について、微生物検査を行った結果、一般細菌数は300個/g以下、大腸菌群は陰性であった。
【実施例8】
【0076】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、ガンギエイ(カスベ)の軟骨を選択した。ガンギエイから軟骨を摘出して、電動ミートチョッパーで細かく破砕し、ミンチ状の破砕物を得た。この破砕物をアセトンに浸漬させて脱脂及び脱水を行ったのち、通風又は減圧乾燥させて試料を得た。他方、3L容量の容器に8℃に冷却した蒸留水1678.49gを準備し、濃度が36〜42重量%の過酢酸(三菱ガス化学株式会社製品)1.51gを添加して過酢酸溶液1680gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が0.032〜0.038重量%、酢酸が0.034〜0.041重量%及び過酸化水素が0.004〜0.005重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液にガンギエイ軟骨の減圧乾燥試料12gを入れ、スターラーで攪拌しつつ8℃で24時間浸漬処理を行った。
【0077】
浸漬処理後、遠心分離機(日立工機株式会社製、型番CF7D2)を用いて、浸漬後の過酢酸溶液と動物組織の混合物を7000rpmで15分間遠心分離を行い、油脂相等を避け、プロテオグリカンを含む液相を回収した。次に、回収した液相をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過し、ろ液を得た。このろ液にろ液の8倍量の蒸留水を加え、ポリエーテルスルホンメンブレン(日本ミリポア株式会社製、バイオマックス(登録商標)100K:分画分子量10万D)を用いて、分画と濃縮を同時に行い、濃縮液を得た。この濃縮液について真空凍結乾燥を行い、プロテオグリカンの固形粉末を得た。
【0078】
次に、得られた固形粉末の乾燥重量を測定した。測定は、得られた固形粉末を定温乾燥器(株式会社三商製、SDN27)で105℃で16時間乾燥させ、完全に水分を蒸発させた後、残った固形分を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GX−10K)で精密に測定することにより行われた。その結果、12gのガンギエイ軟骨の減圧乾燥試料から2.24gの乾燥固形分を得ることができ、収率は18.7%であった。
【0079】
他方、プロテオグリカンの固形粉末中の窒素量をケルダール法により定量してタンパク質量を算出するとともに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)によりウロン酸量を定量してプロテオグリカン量を計算した。この結果、得られた固形粉末中には、タンパク質が45.2%、コンドロイチン硫酸が38.0%、脂質が0.3%存在することが分かった。ここで、プロテオグリカンのコアタンパク質の重量比は約7.0%であり(特許文献1)、上記のとおりコンドロイチン硫酸が38.0%であることから計算すると、本実施例で得られたプロテオグリカンの純度は、約40.7%と推定された。
【0080】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用いて、固形粉末中のプロテオグリカンの分子量を測定した。カラムには、TSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。本実施例で得られたプロテオグリカンは単一のピークを示し、分子量は約153万Dであった。
【0081】
また、得られた固形粉末について、微生物検査を行った結果、一般細菌数は300個/g以下、大腸菌群は陰性であった。
【実施例9】
【0082】
本実施例においては、プロテオグリカンを含有する動物組織として、サメの軟骨を選択した。サメから軟骨を摘出して、電動ミートチョッパーで細かく破砕し、ミンチ状の破砕物を得た。この破砕物をアセトンに浸漬させて脱脂及び脱水を行ったのち、減圧乾燥させて試料を得た。他方、3L容量の容器に5℃に冷却した蒸留水1677.98gを準備し、濃度が36〜42重量%の過酢酸(三菱ガス化学株式会社製品)2.02gを添加して過酢酸溶液1680.00gを作成した。過酢酸溶液作成時に過酢酸溶液中に含まれる過酢酸由来の成分濃度は、過酢酸が0.0432〜0.0504重量%、酢酸が0.0456〜0.054重量%及び過酸化水素が0.0048〜0.0072重量%であった(過酢酸製品濃度からの計算値)。この過酢酸溶液にサメ軟骨の減圧乾燥試料12gを入れ、スターラーで攪拌しつつ5℃で24時間浸漬処理を行った。
【0083】
浸漬処理後、遠心分離機(日立工機株式会社製、型番CF7D2)を用いて、浸漬後の過酢酸溶液と動物組織の混合物を7000rpmで15分間遠心分離を行い、油脂相等を避け、プロテオグリカンを含む液相を回収した。次に、回収した液相をろ紙(アドバンテック東洋株式会社製)でろ過し、ろ液を得た。このろ液にろ液の8倍量の蒸留水を加え、ポリエーテルスルホンメンブレン(日本ミリポア株式会社製、バイオマックス(登録商標)100K:分画分子量10万D)を用いて、分画と濃縮を同時に行い、濃縮液を得た。この濃縮液について真空凍結乾燥を行い、プロテオグリカンの固形粉末を得た。
【0084】
次に、得られた固形粉末の乾燥重量を測定した。測定は、得られた固形粉末を定温乾燥器(株式会社三商製、SDN27)で105℃で16時間乾燥させ、完全に水分を蒸発させた後、残った固形分を電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、GX−10K)で精密に測定することにより行われた。その結果、12gのサメ軟骨の減圧乾燥試料から1.56gの乾燥固形分を得ることができ、収率は13.0%であった。
【0085】
他方、プロテオグリカンの固形粉末中の窒素量をケルダール法により定量してタンパク質量を算出するとともに、ガランボス法(カルバゾール硫酸法)によりウロン酸量を定量してプロテオグリカン量を計算した。この結果、得られた固形粉末中には、タンパク質が39.5%、コンドロイチン硫酸が38.7%、脂質が0.2%存在することが分かった。ここで、プロテオグリカンのコアタンパク質の重量比は約7.0%であり(特許文献1)、上記のとおりコンドロイチン硫酸が38.7%であることから計算すると、本実施例で得られたプロテオグリカンの純度は、約41.4%と推定された。
【0086】
さらに、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製、GPCシステム)を用いて、固形粉末中のプロテオグリカンの分子量を測定した。カラムには、TSKgel G4000PWXL(東ソー株式会社製)を用いた。本実施例で得られたプロテオグリカンは単一のピークを示し、分子量は約145万Dであった。
【0087】
また、得られた固形粉末について、微生物検査を行った結果、一般細菌数は300個/g以下、大腸菌群は陰性であった。
【0088】
本発明は、上記の実施形態及び実施例に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態を技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明に係るプロテオグリカンの製造方法は、化粧品、健康食品又は医薬品の原料に適したプロテオグリカン、すなわち安全性が高く、経口摂取可能なプロテオグリカンを得るために用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロテオグリカンを含有する動物組織を少なくとも過酢酸を含む溶液に浸漬する工程と、浸漬後の溶液を回収する工程とを含んでいるプロテオグリカンの製造方法。
【請求項2】
前記溶液の過酢酸の濃度は、1×10−4重量%〜2重量%である請求項1に記載のプロテオグリカンの製造方法。
【請求項3】
前記浸漬後の溶液を回収する工程には、浸漬後の溶液と動物組織との混合物を遠心分離し、液層を回収することが含まれる請求項1又は2に記載のプロテオグリカンの製造方法。
【請求項4】
前記プロテオグリカンを含有する動物組織は、魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の軟骨組織又は魚類、軟体動物、鳥類若しくは哺乳類の皮である請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロテオグリカンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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