説明

プロテオグリカン(PG)の活性化方法及びそれを用いた創傷治療用外用剤

【課題】褥瘡、皮膚の潰瘍などの重篤な創傷治療に対しても、極少量で十分な効果を発揮することが出来る創傷治療用外用剤を提供する。
【解決手段】魚類の軟骨から得られるプロテオグリカン(PG)含有物をマグネシウム化合物及び又はカルシウム化合物を溶解した水溶液に溶解し、その水溶液の酸化還元電位を+100mV〜−350mVに調整することを特徴とするPG含有物を活性化する方法及びそれを用いた創傷治療用外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚類の軟骨から抽出したPGを活性化する方法及びそれを用いた創傷治療用外用剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
正常組織が外的刺激により損害を受けたものは「創傷」と呼ばれる。具体的には、切り傷、擦過傷、火傷、褥瘡、皮膚の潰瘍などが挙げられるが、特に、褥瘡(床ずれ)、皮膚の潰瘍の場合は、寝たきりの高齢者、障害者等の介護の必要な人に発生しやすく、治癒しにくく、多くは慢性化し、未だに治療が難しい疾患として、大きな問題となっている。その為、早期に完治できる新たな創傷治療用外用剤の開発が求められている。
【0003】
PGは、コラーゲン、ヒアルロン酸等とともに動物の細胞外マトリックスの成分として骨や皮膚等の細胞表面に広く存在し、細胞の接着、移動、分化増殖などの細胞形成の制御を行っていると考えられている。PGはタンパク質にグルコサミノグルカンが共有結合した分子総称であり、グルコサミノグルカンは、二糖の繰り返し構造を骨格とする長鎖の通常技分かれのない糖鎖であり、その糖鎖に硫酸基が付加している。特にD−グルクロン酸とN−アセチル−D−ガラクトサミンの二糖が反復する糖鎖に硫酸基が結合したコンドロイチン硫酸は硫酸基の付加やエピ化により構造の著しい多様性がある。
【0004】
近年、上記サケ軟骨から抽出により製造されたプロテオグリカン(PG)は、創傷治療への適用が検討されてきている(特許文献1)。サケ軟骨等から抽出技術もようやく確立してきた。しかしながら、その抽出操作が煩雑で、まだ収率も不十分で、未だに高価な医薬品である。そのため創傷治療へのPGの適用に関する研究も十分に行われているとは言えない。
【0005】
また、上記サケ軟骨等から抽出により製造されたPGは、その抽出工程での抽出溶媒や、加熱等の処理によって、不活性な構造に変性される場合が多くなっている。その為、上記により生産されたPGは、不活性なままで使用されており、PGの薬理効果が見られるもののその効果が十分に発揮されていると言えない。また、少量で薬理効果が発現するようにPGを活性化する試みもなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−247803
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、PGを活性化する方法、及びそれを用いた創傷治療用外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、従来の魚類から得られるPG含有物をマグネシウム化合物及び又はカルシウム化合物と共に水に溶解し、その酸化還元電位を+100mV〜−350mVに調整することを特徴とするPG含有物の活性化方法に関する。
PG含有物の糖鎖がコンドロイチン硫酸であって硫酸基の位置がN−アセチル−D−ガラクトサミンの4位乃至6位にあるPG含有物を用いることを特徴とするPG含有物の請求項1の活性化方法に関する。
PG含有物がシャケの鼻軟骨から得られることを特徴とするPG含有物の請求項1〜請求項2の活性化方法に関する。
請求項1〜請求項3にいずれかに記載された活性化PG含有物を使用することを特徴とする創傷治療用外用剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の活性化されたPG含有物を創傷治療の外用剤の成分として使用することにより、少量の使用量で創傷部の細胞を早期に再生することができる。
本発明のPG含有物の活性化方法より外用剤の調整時には、水溶液の酸化還元電位を+100mV〜−350mVに調整し、活性水素が生成することにより、基本的に界面活性剤が不要のまま各種剤型に適応が容易となり、創傷治療時に界面活性剤による皮膚のダメージを軽減することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の原料となるPG含有物は、魚類の軟骨、具体的には、鮭、サメ、エイ等の軟骨から公知の方法により、抽出、精製されて製造することが出来る。例えば、特許第4219974号記載の希アルカリを用いる方法で製造することができる。
本発明の分子量の測定は、高速液体クロマトグラフィーのGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)モードで測定した。
【0011】
本発明に用いられるPG含有物は、創傷治療効果の高いPGの糖鎖がコンドロイチン硫酸であって、そのN−アセチル−D−ガラクトサミンの硫酸基の位置が4位乃至6位の位置にあるものが好ましい。具体例としては、例えばコンドロイチン硫酸A(アセチルガラクトサミン4硫酸)、コンドロイチン硫酸B(アセチルガラクトサミン4硫酸)、コンドロイチン硫酸C(アセチルガラクトサミン6硫酸)、コンドロイチン硫酸D(アセチルガラクトサミン6硫酸)、コンドロイチン硫酸E(アセチルガラクトサミン4,6硫酸)が挙げられる。
尚、PG含有物の不純物の主成分はコラーゲンである。
【0012】
本発明に用いられるマグネシウム化合物とは、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、アスコルビン酸マグネシウム等のマグネシウム酸化物、マグネシウム水酸化物、マグネシウム無機塩、有機酸塩が挙げられる。また、本発明に用いられるカルシウム化合物とは、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、クエン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム等のカルシウム酸化物、カルシウム水酸化物、カルシウム無機塩、有機酸塩が挙げられる。
本発明において、これらマグネシウム化合物やカルシウム化合物は、それぞれ単独で用いることも可能であり、マグネシウム化合物の複数の混合物、カルシウム化合物の複数の混合物、あるいはマグネシウム化合物とカルシウム化合物の両方の混合物であっても良い。
【0013】
本発明のPG含有物の活性化方法において、水溶液の酸化還元電位を低下させて本発明の範囲にするためには、水と反応して還元性を示すカルシウムやマグネシウム金属等の添加や、無機塩、有機塩存在下での電気分解(例えば特開2001−187382)や、同じく無機系触媒の存在下で水素ガスを吹き込む方法(例えば特開2001−2560)、磁界内を通過させる方法(例えば特開H07−132285)が挙げられるが、いずれの方法でも可能である。
【0014】
水溶液の酸化還元電位の値は、+100mV〜−350mVが好ましい。酸化還元電位は、水溶液の還元性の強さを示す指標であり、+100mV以下であれば生体内で還元作用を示す。それ以下の電位で低い値ほど、還元性作用が強くなる。−350mV以下の電位まで低下させることも可能であるが、電位の安定性から下限は−350mVが好ましい。また、一般にPHが高い程、活性水素が増す傾向にあり、本発明のPG含有物の活性化に効果を示すものと推定される。
【0015】
本発明の創傷治療用外用剤は、上記の本発明のPG含有物とともに、公知の製薬担体を用いることができる。
また、外用剤として塗布剤や貼付剤などの剤型とすることができる。特にパスタ剤、軟膏剤、クリーム、液剤、ゲル剤、ハップ剤、パッチ剤とするが好ましい。
上記本発明の創傷治療用外用剤の剤型調整に用いられる基材成分として、下記の成分が挙げられる。
【0016】
脂肪類としては、例えば中鎖脂肪酸トリグリセリド、ハードファット等の合成油、オリーブ油、ダイズ油、ナタネ油、落花生油、紅花油、糠油、胡麻油、椿油、とうもろこし油、メンジツ油、椰子油等の植物油、豚脂、牛脂等の動物油およびこれらの硬化油が挙げられる。
ロウ類としては、例えば、ラノリン、ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ等の天然ロウや、モンタンロウ等の鉱物油、合成油が挙げられる。
また、炭化水素としては、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックッス、スクワラン、ポリエチレン末、ゲル化炭化水素等を挙げることができる。
【0017】
高級脂肪酸としては、例えばステアリン酸、ベヘニン酸、パルミチン酸、オレイン酸等が挙げられる。また、高級アルコールとしては、例えばセタノール、ステアリルアルコール、オレインアルコール、コレステロール等、多価アルコールとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3−ブチレングリコール等を挙げることができる。
【0018】
合成及び天然高分子としては、例えば、カラギーナン、デンプン、デキストリン、デキストリンポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、トラガント、アラビアゴム、ローカストビーンガム、ペクチン、ゼラチン、キサンタンガム、プルラン、アルギン酸塩、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸塩、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー等を挙げる ことができる。
【0019】
本発明においては、PG活性化処理方法により水溶液の油性成分の溶解性が向上し、油性成分との混合において界面活性剤は一般的に不要であるが、添加することも可能である。
例えば、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0020】
低級アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノール等が挙げられる。
ケトン類としては、例えばアセトン、メチルエチルケトンが挙げられる。
無機塩としては、例えば硫酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硝酸ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸鉄等が挙げられる。
【0021】
各型と添加成分の関係は、下記の通りである。
パスタ剤は、油性パスタ剤あるいは水性パスタ剤があり、油性パスタ剤の場合は、基材成分として、例えば、脂肪類、ロウ類、炭化水素、水性パスタ剤では、基材成分として、合成高分子及び天然高分子、高価アルコール、また、必要により界面活性剤も使用することもできる。
【0022】
また、軟膏剤の場合には、基材成分として、例えば脂肪類、多価アルコール、炭化水素等を使用することができる。
【0023】
クリーム剤の場合は、基材成分として例えば、高級アルコール、高級脂肪酸、炭化水素、多価アルコール、水(精製水)、また必要により、界面活性剤を使用することも出来る。
【0024】
液剤及びゲル剤の場合には、基材成分として、例えば水(精製水)ケトン類、脂肪酸、多価アルコール、炭化水素、合成及び天然高分子等、また、必要により界面活性剤、低級アルコールを使用することもできる。
【0025】
さらに、本発明の外用剤には、必要によりPH調整剤として水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物や等も使用しても良い。
【0026】
また、本発明の創傷治療外用剤は、そのまま、患部に塗布しても良いが、例えば、当該外用剤をさらに伸縮性のある布や不織布やポリウレタンフィルム、ハイドロコロイドタイプ等の創傷被覆材(ドレッシング材)で覆ったり、プラスチックシート等に塗布してパップ剤やプラスダー剤等の貼付剤として患部に適用しても良い。
【0027】
このようにして得られた本発明の創傷治療用外用剤は、皮膚に対して安全で、使用感も良好で、切り傷、擦過傷、火傷への治療はもちろん、褥瘡、皮膚の潰瘍などの重篤な創傷治療に対しても、十分な効果を発揮することが出来るものである。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び試験例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に何ら制約されない。
【実施例1】
【0029】
特許第4219974号記載の希アルカリを用いる方法で鮭軟骨より抽出されたPG含有物を精製水に溶解しPG含有物1%水溶液を作る。これにマグネシウム無機塩とカルシウム無機塩を添加し、その水溶液の酸化還元電位−350mV、PH=10、電気伝導度900μMhos/cmに調整した。遠心分離後、沈殿物を分離し、上澄みの水溶液を取り出した。その水溶液をGPCで分析した結果PG重量平均分子量110万Daであり、PG純度はケルダール法で算出したタンパク質含有量から算出、72%であることを確認した。残り28%はほとんどが非変性コラーゲンであった。
【比較例1】
【0030】
実施例1と同様の鮭軟骨より抽出されたPG含有物を精製水に溶解し、PG含有物1%の水溶液を作る。その水溶液の酸化還元電位は+300mVであった。
【実施例2】
【0031】
実施例1の水溶液を用いて、PG濃度10重量ppmとカルボキシビニルポリマー0.3重量%、グリセリン0.1重量%、1,3−ブチレングリコール0.1重量%、アルギニン0.3重量%になるように精製水で希釈したゲル剤を調整した。
【試験例1】
【0032】
コントロール群として5例のマウスの背部皮膚にガンマー線8Gy/Dayを5回に分けて照射した。実施例1で調整した溶液を精製水で希釈してPGを10重量ppm含む水溶液20μgを毎日患部に塗布した。対照群として同様な条件でガンマー線を照射した5例のマウス背部皮膚の患部に、比較例1の水溶液をPG濃度が500重量ppmなるように精製水で希釈し、その水溶液20μgを毎日塗布した。その結果、コントロール群のマウス皮膚患部の方が対照群の平均2倍のスピードで上皮細胞が再生した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の創傷治療用外用剤は、界面活性剤を使用することなく各種の塗布剤や貼付剤を調整することができ、しかもPGを少量使用で創傷治療効果を十分に発揮することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の軟骨から得られるプロテオグリカン(PG)含有物をマグネシウム化合物及び又はカルシウム化合物と共に水に溶解し、その水溶液の酸化還元電位を+100mV〜−350mVに調整することを特徴とするPG含有物の活性化方法。
【請求項2】
PGの糖鎖がコンドロイチン硫酸であって硫酸基の位置がN−アセチル−D−ガラクトサミンンの4位乃至6位にあるPGを用いることを特徴とするPG含有物の請求項1の活性化方法。
【請求項3】
PG含有物がシャケの軟骨から得られることを特徴とするPG含有物請求項1〜請求項2の活性化方法
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載された活性化PG含有物を使用することを特徴とする創傷治療用外用剤。

【公開番号】特開2012−197277(P2012−197277A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70278(P2012−70278)
【出願日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【出願人】(598040020)
【出願人】(511078613)
【Fターム(参考)】