プロテオーム解析のための膜蛋白質ライブラリー及びその調製方法
本発明は、プロテオーム解析に適した膜蛋白質包埋リポソームのライブラリー、その調製方法およびそれを用いたプロテオーム解析方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜蛋白質とそのリガンドの一括発見及び一括定量並びにその機能(相互作用)の解析を可能にする機能的蛋白質科学 (functional proteomics) の方法論、技術及び装置に関する。特に、本発明は、プロテオーム解析のための膜蛋白質ライブラリー及びその調製方法、並びにそれを用いたプロテオーム解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学やゲノミクス(ゲノム科学)を含む創薬の基盤研究の進歩により、ここ数年間で創薬の様相が急速に変化し、ゲノム創薬に代表される新しい創薬方法が開発されつつある。
【0003】
新規医薬品の発見は、特定の疾患において独自の生理活性を有する物質を見つけ出すことにある。このような生理活性を有する物質の多くは蛋白質であり、蛋白質の構造と機能の解明は医薬品開発において必須の課題である。
【0004】
受精から発生・分化・増殖・代謝・死に至る生命活動にとって、膜包埋蛋白質は重要な機能を担っている。これら膜蛋白質は細胞外情報の細胞内伝達の膜受容体として、生理物質の細胞内外への特異的な膜運搬体として、並びに動的な膜構造を保持する膜の裏打ち蛋白質として機能している。精製、単離及び機能解析における困難性は、膜会合蛋白質の研究を遅延させてきた。
【0005】
蛋白質の機能(生理作用)は、ゲノミクスにより決定された核酸配列からは予測できないため、遺伝情報を新薬に結び付ける方法の確立がポストゲノムに求められている。その一つとしてプロテオミクス(蛋白質科学)が注目を浴びている。100,000種を超えて存在する全蛋白質の単離、同定、機能の解明がプロテオミクスの目標である。状況が進むにつれ、ゲノム情報を蛋白質機能の理解にいかに結び付るかが、21世紀創薬の戦略課題となっている。
【0006】
生命活動全般に関わる蛋白質分子の構造と機能の高度な多様性はDNA分子の多様性の比ではない。この意味において、構造的に類似したヒトの24本の染色体に対しDNA配列決定法のみを適用して成功を達成したゲノミクスの戦略を、多様性に富む対象を扱うプロテオミクスにそのまま適用することは非現実的である。また、DNA配列のみでは生命活動の予測は不可能である。従って、蛋白質機能を解明し得るプロテオミクスが切望される。
【0007】
分子構造と分子活性との関係は生物学の研究において基本的である。構造−活性関係は、任意の生体反応、例えば酵素の機能、細胞間連絡法、並びに細胞制御及びフィードバック系を理解するために重要である。
【0008】
蛋白質は生命現象の源であり、他の分子(蛋白質分子、DNA分子、合成化合物、光子などを含む)との相互作用においてその機能を発揮する。所定の蛋白質を理解するということは、当該分子の物理的又は化学的性質の単なる列記を超える。これは、互いに影響する分子を同定し、その相互作用の現象形態(生理作用)を解明することにより、どの分子とどのような相互作用が生じているかを見出すことを含む。
【0009】
ある種の巨大分子が、非常に特異的な3次元的及び電子的分布を有する他の分子と相互作用し、そして結合することが知られている。この様な特異性を有する任意の巨大分子は、それが代謝中間体の加水分解を触媒する酵素であるか、イオンの膜輸送を仲介する細胞表面蛋白質であるか、近隣の細胞に対して特定の細胞を同定するのに役立つ糖蛋白質であるか、血漿中で循環しているIgG抗体であるか、核DNAのオリゴヌクレオチド配列であるか等に拘らず、受容体と考えることができる。受容体が選択的に結合する種々の分子はリガンドとして知られている。
【0010】
既存の医薬品の約半数は細胞膜上の受容体を介して作用することが知られている。従って、新規膜蛋白質とその生理的リガンドの解明は、種々の疾患の新規治療薬開発に画期的なスクリーニング系を提供する。さらに、疾患に関わる新規・既知の膜蛋白質・リガンドのデータベースの構築は、ゲノム薬理学が到達できない疾患の分子動力学の解明を可能とし、新規診断法及び新規治療薬の開発に繋がることが期待される。
【0011】
未知の受容体及びリガンドの発見には多くの方法が利用可能であるが、従来のアイデア、方法及び実験から得られうる受容体又はリガンドの数は、それらの特徴によりしばしば制限される。複数のペプチドからなる複合型の受容体の発見には、依然としてより困難な問題が伴う。新規受容体及びリガンドは、X線結晶回折又は遺伝子組換え技術等の新規技術の適用により見出される。しかし、このような新規方法は、偶然の一致に依拠し、長期間の生化学的研究を必要とするか、又は極めて限られた分子種にのみ適用可能であった。
【0012】
以上の考察を踏まえると、その生理機能の一部の解明(=生理的リガンドの同定)のために、プロテオミクスの標的として膜受容体や膜運搬体等の膜蛋白質を研究することは、大いに意義がある。
【0013】
従来のプロテオーム研究は、蛋白質分離手段として、もっぱら二次元電気泳動法に依拠してきた。しかしながら、所定の細胞の全蛋白質を解析する場合、現行法は、以下の5つの問題を抱えている。
【0014】
第1に、生体試料全体を一枚のゲル上で電気泳動すると、高分子量の蛋白質や不溶性膜蛋白質は泳動されずに原点付近に残るために解析自体が不能になる。従って、従来の二次元電気泳動法は、細胞に発現する全蛋白質の解析ができず、特定の蛋白質(主として、可溶性の低分子量蛋白質)の解析に用いられていた。20世紀の生物学は分子生物学技術の開発によって劇的な発展を遂げたが、標的とされた蛋白質の多くは可溶性蛋白質であった。初期のプロテオーム研究は、血漿中に検出される蛋白質の総数が約200個であるが、細胞破砕液に含まれる蛋白質の数が1400〜4000個であることを明らかにした。ヒト蛋白質をコードする約30000個の遺伝子から発現する蛋白質の総数は100,000個を超えると予測される。このことは、最高感度のプロテオミクス技術によってさえも全蛋白質の数%しか検出できないことを意味する。
【0015】
如何なる生命現象も蛋白質の機能として説明することができるが、同時に生命は自己と非自己を膜で区切ることで誕生した。すなわち、外界の非自己を認識し、自己をそれに応答させる仕事は、膜蛋白質により行われている。ところが、現在のプロテオミクス技術で検出不能の蛋白質の多くは、膜に会合して、又は膜に埋め込まれてその機能を示す、生命活動に重要な役割を担うこれら膜蛋白質である。
【0016】
第2に、複数の蛋白質からなり、細胞中の特有の機能を発揮する蛋白質複合体は、界面活性剤を含む緩衝液中で泳動すると疎水性相互作用に基づく蛋白質間の結合が解離するために、実際に生体に存在する構造(蛋白質の四次構造)と機能を解析することができない。
【0017】
第3に、生体試料中に含まれる全蛋白質をグループ分けする有効なアイデア、方法又は技術が提供されていない。合計約30,000個のヒト遺伝子から発現する全蛋白質数は100,000個を超える膨大な数にのぼる。それらは、同一遺伝子からの転写後にスプライシングに供され、それによりペプチド鎖が他よりも短い蛋白質が生成し、そして翻訳後には糖質、脂質、燐酸基等の種々の修飾に供される。その結果、プロテオミクスの標的である蛋白質は、ゲノミクスの標的であるDNAポリマー分子に比べて、はるかに複雑な分子群からなる。これらの事実に基づくと、目的(核酸配列を決定すること)のみに基づく方法論(核酸の配列決定)しかプロテオームの多様な構造と機能を解明できないという仮説が提起される。従って、プロテオーム解析の前に、生体試料に含まれる蛋白質を、何らかのアイデアに基づいてグループ分けすることが非常に重要であり、そして前処理の幾つかの試みが、今日までになされている。例えば、Mollyら [Eur. J. Biochem. 267, 2871-2881 (2000)] 及び Santoniら [Electrophoresis 21, 1054-1070 (2000)]は、強力な溶解剤を用いて試料を前処理したが、全ての蛋白質は可溶化しなかった。Herbertら [Electrophoresis 21, 3639-3648 (2000)] 及び Zuoら [Anal. Biochem. 284, 266-278 (2000)] は、それらの等電点に基づき分離することにより試料を前処理したが、標的蛋白質に応じて適切な範囲の等電点を設定することが困難なため、等電点電気泳動をすることはできなかった。これらの試みは、電気泳動法の部分的な改善を目的としており、本発明によって実現される全蛋白質のグループ分けによる全プロテオーム解析を目的としていないことに留意されるべきである。しかしながら、グループ分けの効果的なアイデアは現在までに何ら提唱されていなかったため、試料調製からその後の解析に至るまで試料をグループ分けしない同様の方法が用いられている。これは、プロテオミクス研究を上記の2つの問題と直面させる。
【0018】
第4に、プロテオミクスの従来の研究では、ゲルを小さな画分に区分し、特定の溶液を使用して各画分から蛋白質を抽出するという時間を浪費する多工程の複雑な操作が、MS解析前に必要とされる。この方法の複雑な操作は、装置の小型化、測定時間の短縮、複数の試料の処理、又は装置全体の自動化を妨げる。
【0019】
第5の問題は、多くの種類の、いわゆる「量が少ない蛋白質(low-abundance protein)」が存在することである。酵母では、たった100個の遺伝子が、全蛋白質のうち50重量パーセントをコードしており、このことは、残りの50%の蛋白質が数千の遺伝子の産物であることを意味する。多くの最も重要な蛋白質(例えば、調節蛋白質、又は受容体を含むシグナル伝達関連蛋白質)が、「量が少ない蛋白質」に含まれ、電気泳動に基づく現在のプロテオーム解析法は、それらを解析することができない。
【0020】
電気泳動のこのような限定された能力を解決し、かつ蛋白質間相互作用を解明するために、ICAT(同位体コード親和性タグ)法 [Gygiら、Nat. Biotech. 10, 994-999 (1999)]、酵母のツーハイブリッドシステム、BIA−MS−MS、蛋白質アレイ法(溶液又はチップ) [Zhouら、TRENDS in Biotechnology 19, S34-S39] 又はLC-MS-MSのペプチドミックスなどの多くの試みがなされている。しかしながら、これらの新規方法及び技術論は、プロテオミクスの究極目的である全プロテオームの発現解析、相互作用解析及びネットワーク解析を実現していない。固相蛋白質アレイ法(チップ法) [Fungら、Curr. Opin. Biotechnol. 12, 65-69 (2001)] 及び液相蛋白質アレイ法 (例えば、蛍光コードビーズ [Fultonら、Clin. Chem. 43, 1749-1756 (1997)] [Hanら、Nat. Biotechnol. (in press)] を含む上記方法のうち最も有望な蛋白質アレイ法でさえも、2つの最も重要な基本的技術論、即ち、全プロテオームの精製及び分離、並びに支持体上への全プロテオームの選択的固定化を実現できていない。
【0021】
本発明者らは、膜蛋白質のプロテオーム研究のために、身体(即ち、プロテオーム)を構成する全蛋白質を膜蛋白質と他の水溶性蛋白質とにグループ分けするという新規なアイデアを提唱した(WO 02/56026)。
【0022】
可溶性蛋白質のみを電気泳動し、膜蛋白質を新規方法により解析するというこのような洞察及び導入(即ち、膜蛋白質を、細胞膜脂質二重層モデルの人工リポソームに包埋し、膜蛋白質ライブラリーを構築する)は、電気泳動による膜蛋白質解析における困難性を解決し、そしてグループ分けした後に、可溶性蛋白質に対する生物学的親和性を利用する全蛋白質(膜蛋白質及び可溶性蛋白質)解析を通じて膜蛋白質の機能(可溶性蛋白質との相互作用)を解析するという基本原理を確立する。この本質的な技術論はまた、膜蛋白質間又は可溶性蛋白質間の相互作用のスクリーニング及び解析に適用可能であり、将来のプロテオミクスに対して革新的な理論を提供する。
【0023】
上記の新規プロテオーム解析方法において、使用される膜蛋白質ライブラリーの性状が膜蛋白質−水溶性蛋白質相互作用の検出性能に大いに影響を及ぼす。そのような性状はライブラリーの調製方法によって変動する。膜蛋白質ライブラリーの性状の中で最も重要なことは、ライブラリーを構成する実質的にすべての膜蛋白質が、生理的機能、すなわちネイティブな構造を保持することである。さらに、リポソームあたりに包埋される膜蛋白質の数とリポソームのサイズなどが、膜蛋白質のプロテオーム解析のために使用されるライブラリーの性状に影響を与えると考えられている。しかしながら、プロテオーム解析のための膜蛋白質ライブラリーとしてのプロテオリポソームの条件の調査に関する報告はなされていない。
【0024】
したがって、本発明の目的は、プロテオーム解析方法に適した膜蛋白質ライブラリー及びその調製方法を提供することである。本発明の別の目的は、プロテオーム研究のための膜蛋白質ライブラリーの種々の応用を提供することである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、膜蛋白質の調製に従来用いられていた界面活性剤、変性剤及び有機溶媒を用いずに膜画分を調製し、該画分をリポソームと接触(融合)させることによって、ネイティブな構造及び機能を保持する膜蛋白質を含むライブラリーを構築することに成功した。さらに、本発明者らは、膜蛋白質を担持するリポソームのサイズおよび膜蛋白質と脂質の量比を最適化することにより、ライブラリーの性状を著しく向上させることに成功して、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は以下のものを提供する。
工程:
(1) 生体試料から可溶性蛋白質画分を単離し、ゲル電気泳動により画分中の可溶性蛋白質を分離し、蛋白質をその生理的機能を保持して固定化し得る表面を有するリガンド支持体に泳動後のゲルを接触させて、ゲル中の可溶性蛋白質をリガンド支持体に移行させる;
(2) 細胞試料から膜画分を単離し、膜画分をリポソームと融合させて、全ての膜蛋白質がその脂質二重層に付着若しくは貫通した膜蛋白質ライブラリー(膜蛋白質包埋リポソームのセット)を調製する;
(3) リガンド支持体上に固定された可溶性蛋白質を膜蛋白質ライブラリーと接触させて、可溶性蛋白質に対して親和性を有する膜蛋白質をリガンド支持体上に捕捉する;および
(4) 親和性を有する膜蛋白質および可溶性蛋白質の両方もしくはいずれか一方を、これら蛋白質の物理的又は化学的性質の少なくとも1つを解析し得る手段により分析する;
を含むプロテオーム解析方法における工程(2)の方法、
すなわち、細胞膜脂質二重層モデルの人工リポソーム中に膜蛋白質を包埋し、プロテオーム解析のための使用に適した膜蛋白質ライブラリーを構築する方法、並びにそれによって得られる新規膜蛋白質ライブラリー。
【0026】
特に、本発明は以下のものを提供する。
(1) リポソーム中に包埋された膜蛋白質のライブラリーの調製方法であって、(a) 界面活性剤、変性剤及び有機溶媒のない膜蛋白質のライブラリーを提供し、(b) 該膜蛋白質のライブラリーをリポソームと接触させて膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーを形成させることを含む方法。
(2) 該膜蛋白質が、少なくともGPIアンカー型受容体、G蛋白質共役型受容体およびオリゴマー型受容体を含む、上記(1)の方法。
(3) 膜蛋白質包埋リポソームが約10nm〜約5,000nmの直径を有する、上記(1)の方法。
(4) 膜蛋白質包埋リポソームが約10nm〜約500nmの直径を有する、上記(3)の方法。
(5) 脂質に対する蛋白質の重量比が0.01〜0.8である、上記(1)の方法。
(6) 脂質に対する蛋白質の重量比が0.05〜0.5である、上記(5)の方法。
(7) 膜蛋白質の量が約10fg以上である、上記(1)の方法。
(8) 約1x105以上の膜蛋白質包埋リポソームを含む膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーであって、リポソームが10nm以上の直径を有し、かつ膜蛋白質の量が約10fg以上であるライブラリー。
(9) 膜蛋白質の量が約1pg以上である、上記(8)のライブラリー。
(10) 膜蛋白質の量が約10pg以上である、上記(9)のライブラリー。
(11) 約1x108以上の膜蛋白質包埋リポソームを含む、上記(8)のライブラリー。
【発明の効果】
【0027】
本発明の、リポソーム中に包埋された膜蛋白質のライブラリー及びそれを用いたプロテオーム解析方法は、以下の問題を解決する。
【0028】
膜蛋白質が、蛋白質変性剤、蛋白質可溶化剤、その他膜蛋白質が存在する生理条件を逸脱させるいかなる処理条件も使用せずに、その疎水性領域及び親水性領域の生体状態を維持して人工リポソーム膜に移行するので、膜蛋白質の2次、3次、4次構造及び生理機能の保持が可能となる。受容体については、GPI型、GPCR型及びオリゴマー型受容体を含む任意の生体膜型受容体の任意の構造と機能の保持を可能とする。従って、全ての膜蛋白質が、構造と機能を保持したまま調製でき、それによって医学、農学を含む全ての生物学領域において膜蛋白質研究の困難さが払拭される。
【0029】
膜蛋白質が移行したリポソームを支持体上に固定された種々のリガンドと接触させ、両者の生物学的親和性を利用して精製することによって、高度に精製された、目的とする膜蛋白質・リガンド複合体が、単離され得る。
【0030】
本発明のプロテオーム解析においては、膜蛋白質とリガンド(拮抗剤を含む)の分子間の純粋な相互作用は、両分子が高純度であるか、他の多数の物質と共存しているかにかかわらず、また、細胞内情報伝達物質若しくは転写調節物質による影響を受けることなく測定され得る。換言すれば、細胞の応答性に依拠した相互作用検出法では、リガンドの生理学的作用点が、膜蛋白質か、細胞内情報伝達物質か、転写調節物質か、あるいはその他の作用点かが不明なままである。それに反して、本発明は、膜蛋白質とリガンドのみの相互作用の検出を提供する。
【0031】
本発明のプロテオーム解析の全自動化により、画期的な産業上の利用分野が開拓され得る。その一例は、全自動膜蛋白質・リガンドプロテオーム解析システムである。その構成要素の概略図を図1に示す。なお、膜蛋白質の研究目的に応じて、本発明に基づいて種々の他の装置を組み立てることが可能なことは言うまでもない。本発明のプロテオーム解析は、ゲノム配列から相同性検索によりG蛋白質共役型受容体(GPCR)を予測することを含むオーファンリガンドの研究はもちろんのこと、ゲノム配列及びコンピューターを用いる相同性に基づく予測技術では到底発見不可能なその他の全てのタイプの受容体(GPI型、オリゴマー型)とそのリガンドの発見、同定、解析に利用可能である。
【0032】
その上、本発明のプロテオーム解析は、今なお困難を極める全てのタイプの膜蛋白質(受容体以外の膜蛋白質)の発見、同定及び解析に多大な貢献をすると考えられ、従って、全膜蛋白質とリガンドが関与する疾患の解析、診断薬・診断法の開発、治療薬の開発を目的とする、いわゆる「受容体関連創薬型」医薬品を含むいわゆる「膜蛋白質関連創薬型」医薬品の開発を可能にする。
【0033】
本発明のこれら及び他の目的及び利点、並びに本発明の他の特徴は、本発明の以下の説明から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
1.用語
以下の用語は、本明細書において使用される場合、下記の一般的意味を有する。
【0035】
(i) 「相補的」とは、受容体とそのリガンドが相互作用する表面の形態的(topological)適合性又は一致性をいう。換言すれば、受容体とそのリガンドは相補的であり、そしてそれ故、その接触表面特性は相互に相補的である。
【0036】
(ii) 「リガンド」は、特定の受容体により認識される分子である。本発明におけるリガンドの例としては、生理学的リガンドに限定されず、細胞膜受容体に対するフルアゴニスト、パーシャルアゴニスト、アンタゴニスト及びインバースアゴニスト、毒素、ウイルスエピトープ、ホルモン(例えば、鎮静剤、オピエート、ステロイド等)、ペプチド、酵素、酵素基質、補酵素、薬物、レクチン、糖、オリゴヌクレオチド、核酸、オリゴサッカライド、蛋白質、及びモノクローナル抗体が挙げられる。リガンドは天然分子でも人工分子でもよい。天然リガンドの局在は限定されない。それは、大気圏を含む地球表面上に存在する任意の物質、生物が分泌する物質、細胞内物質、細胞小器官内物質、核物質などであり得る。
【0037】
(iii) 「受容体」とは、特定のリガンドに対する親和性を有する分子である。受容体は天然分子でも人工分子でもよい。これは、単独で又は他の分子種との複合体として機能する。受容体は、共有結合により又は非共有結合により、直接的に又は特定の結合物質を介して複合受容体(オリゴマー受容体)を形成する。本発明により使用され得る受容体としては、抗体、細胞膜受容体、特定の抗原決定基(例えばウイルス、細胞又は他の材料上にあるもの)と反応するモノクローナル抗体及び抗血清、薬物、ポリヌクレオチド、核酸、ペプチド、補酵素、レクチン、糖、ポリサッカライド、細胞、細胞膜、及びオルガネラが挙げられるがこれらに限定されない。受容体はしばしば、当該分野において抗リガンドと称される。本明細書において「受容体」なる用語が使用される場合、意味の相違は意図されない。
【0038】
さらに本発明においては、その構造・機能にかかわらず、任意の膜受容体、膜チャネル、膜ポンプ、膜運搬体、膜裏打ち蛋白質、及びそれら蛋白質に会合により結合する物質が、受容体もしくは膜蛋白質と広く記載される。なぜなら、本発明の方法によれば、それらを単離・同定し得ることが当業者に容易に認識されるからである。
【0039】
2つの巨大分子が分子認識を介して結合して複合体を形成する場合、「リガンド・受容体複合体」が形成される。受容体の局在は、狭義の細胞膜(細胞外層を形成するいわゆる原形質膜)に限定されない。受容体とは、共通する構成物である脂質二重層を有する任意の膜に結合する分子をいう。例えば、核膜に結合するDNAポリメラーゼ複合体は、DNAの複製及び修復に重要であり、RNAポリメラーゼは、転写に重要であり、小胞体膜に結合するリボソームは、蛋白質の翻訳に重要である。ミトコンドリア膜に結合する酸化還元酵素群は、ATP産生に重要な役割を担っており、ペルオキシゾーム膜の代謝関連酵素群は、過酸化物の代謝や熱の発生に関わっており、ライソゾーム膜に含まれる分解酵素群は、蛋白質、核酸、糖質及び脂質の分解に関わっており、ゴルジ装置の膜蛋白質は、蛋白質合成後のグリコシル化、及び合成された蛋白質若しくは脂質の膜輸送において重要な機能を有する。さらに細胞内の情報伝達に深く関わるリン酸化酵素群、並びに脱リン酸化酵素群の作用する足場として種々の細胞内膜表面が関わっている可能性が示唆される。以上の例示は、受容体(膜蛋白質)の重要な機能をその例示範囲に限定するものではない。膜蛋白質が関わる生命現象の多様性が示されるにつれて、本発明により新たに同定される膜蛋白質及びそれらの機能は、全て本発明に包含される。
【0040】
受容体と脂質二重層の位置関係は変動する。最も一般的なものは、蛋白質の疎水性領域と脂質二重層の疎水性領域との疎水性相互作用によって安定化され、且つ数回折り畳まれた膜貫通型のもの(G蛋白質共役型受容体)である。これには、脂質二重層の外側の脂質層に埋め込まれたGPIアンカー型受容体(グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型受容体)も含まれる。例としては、細胞の外側の表層に固定された糖蛋白質、糖脂質、オリゴマー糖質、細胞の内側に固定されたGTP/GDP共役蛋白質群を含む広義のオリゴマー受容体構成分子群、膜の形状の維持及び変化に重要な役割を果たす膜の裏打ち蛋白質群、それらと結合する機能性蛋白質群などが挙げられる。以上は、受容体(膜蛋白質)と脂質二重層の位置関係の例示である。例示は限定的ではない。本発明によりさらに多彩な位置関係が明らかにされるにつれ、本発明はこのような任意の関係を含むものである。
【0041】
本発明において研究対象となり得る受容体は未知なものを含め多数存在する。以下の例示は、これらの一部である。
【0042】
a) 癌特異的膜蛋白質
癌細胞膜に発現し機能する膜蛋白質を同定し、その機能を解析することにより、癌細胞に対する増殖抑制、アポトーシス誘導、転移抑制等の作用機序を持った医薬品の開発が期待される。当該膜蛋白質に特異的な抗体自体が、有効な医薬品として使用され得るとともに、毒素等を標的癌細胞に送達するターゲッティング療法にも適用可能である。
【0043】
b) 自己免疫疾患において自己抗体(リガンド)、又は臓器移植において自己組織障害性リンパ球が攻撃する組織の細胞膜に発現する膜蛋白質を同定することによって、自己抗体あるいは自己抗原特異的組織障害性リンパ球との結合をブロックするのに有用な関連診断薬又は医薬品を開発することができる。特に、自己免疫疾患の疾患多様性は、組織特異性に基づくと考えられており、アジソン貧血、糸球体腎炎(原発性、IgA)、グレーブス甲状腺機能亢進症、インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、悪性貧血、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、乾癬、全身性エリテマトーデス、甲状腺炎、白斑、クローン病、特発性血小板減少性紫斑病及び他の疾患において自己抗体又は自己組織障害性リンパ球が攻撃する膜抗原を単離及び同定することができれば、副作用が軽減され、且つ個々の自己免疫疾患に特異的な医薬品を開発することができる。
【0044】
c) 人工リガンド(拮抗剤)は存在するが、内因性のリガンドが未知であるベンゾジアゼピン受容体、カンナビノール受容体、シグマ受容体1、シグマ受容体2の内因性リガンドを特定することによって、及びNMDA受容体のフェンシクリジン結合サイトに結合する内因性リガンドを特定することによって、中枢神経疾患の画期的な治療薬を開発することができる。
【0045】
d) 微生物に発現する受容体
微生物の生存に必須な膜運搬体に結合するリガンドの決定は、新しい作用機序を有する抗生物質の開発に有用である。特に、日和見真菌、原生動物及び現在使用されている抗生物質に耐性を有する細菌に対する抗生物質が価値がある。
【0046】
e) リガンドとしての核酸に対する受容体
核酸配列を合成し、DNA又はRNA配列にハイブリダイズする膜蛋白質を単離、同定及び機能解析し、外因性核酸と細胞膜機能の全く新しい相互作用を解明し、有用な関連診断薬又は医薬品の開発を導くことができる。例えば、アンチセンス技術に基づく医薬品の細胞内への有効な輸送系、又はDNA,RNAウイルスの新しい感染防御機構を開発することができる。
【0047】
f) リガンドとしての脂質又は脂質代謝物に対する受容体
これらの低分子量化合物を合成し、交差反応する膜蛋白質を単離、同定、機能解析し、有用な関連診断薬又は医薬品を開発することができる。例えば、アラキドン酸カスケード中の多くの代謝物の平滑筋の収縮及び弛緩作用に関与する全く新しい受容体の発見、並びに細胞の形態、移動、増殖及び接着に関与するEDG(内皮分化遺伝子)受容体の新規サブタイプの発見によって、中枢神経疾患、循環器疾患、癌、消化器系疾患、免疫系疾患の領域において全く新しい作用機序を有する医薬品を開発することができる。
【0048】
g) 膜蛋白質プリオン
正常プリオンから病原性プリオンへの転化機構の解明のためには、その本来の構造であるGPI型プリオン膜蛋白質をリポソームに包埋させた再構成系を使用し、リポソーム膜からの遊離機構、遊離促進分子の単離、膜蛋白質型プリオンと遊離プリオンの病原性プリオンへの転化率の解析等を、本発明に基づき研究する。結果として、病原性プリオンの測定系、病原性プリオンの除去法、病原性プリオン感染防御法、CJD発症の遅延法、CJD発症患者の治療法等を開発することができる。
【0049】
(iv) 「生体膜」とは、構成成分として脂質二重層を有する任意の膜をいい、細胞膜、並びに任意の生物の細胞内小器官を構成する膜(例えば、小胞体膜、ゴルジ体膜、核膜等)が挙げられる。
【0050】
(v) 「リポソーム」とは、脂質二重層により外界から仕切られた粒子を意味する。リポソームの脂質二重層は、物理的、化学的及び生物学的に生体膜に類似する。好ましくは、リポソームは、植物から抽出された脂質等の膜構成成分から構成される。
【0051】
(vi) 「膜会合物質」とは、生体膜を貫通する、又は生体膜の内側若しくは外側に結合する任意の物質をいう。膜会合物質としては、細胞の外側から内側へと情報を伝達する膜受容体、細胞の外側及び内側の間で生理物質の輸送のために膜チャネルを構成する膜蛋白質、動的膜構造を保持する膜裏打ち蛋白質、蛋白質翻訳酵素、リボソーム及び共有結合又は非共有結合を介して生体膜に結合する任意の他の物質が挙げられる。
【0052】
(vii) 「膜蛋白質包埋リポソーム」とは、膜蛋白質が共有結合又は非共有結合を介して結合するリポソームをいう。
【0053】
(viii) 「膜蛋白質ライブラリー」とは、所定の細胞の生体膜、所定の細胞の全ての生体膜、所定の組織の全ての生体膜、所定の器官の全ての生体膜、所定の個体の全ての生体膜、又は任意の他の可能な生体膜試料に含まれる膜蛋白質から構成される膜蛋白質包埋リポソームのセットを意味する。
【0054】
(ix) 「リガンド支持体」とは、一般にリガンドと称される可溶性分子を結合させるための基材をいう。この基材は、その形状と特性を維持するための基本構造、及びリガンドの結合形態と結合量を最適化するためのリガンド吸着素材(表面)からなる。
【0055】
リガンド吸着素材は、リガンドの結合形態に応じて共有結合性であっても非共有結合性吸着素材であってもよい。後者の吸着形態としては、典型的には、順相、逆相、疎水性、陰イオン性、陽イオン性及び他の非共有結合性吸着素材が挙げられる。
【0056】
吸着素材は、リガンドと基材の基本構造表面との間に、距離(10Å〜10000Å、好ましくは約100Å)を置くスペーサー分子を含んでいてもよい。このスペーサー分子の素材は、網目状又は多孔性の生体ポリマーであっても合成ポリマーであってもよい。如何なる場合であっても、それは、直径10nm〜5000nm(例えば、約50、100、200、300、400、500、750、1000、1500、2000、2500、3000、4000、4500nm、あるいは前記直径のいずれか2つの間の範囲)のリポソームに包埋された膜蛋白質がリガンドと非常に強い結合力で結合できるように、膜蛋白質とリガンドのアフィニティーよりもアビディティー (avidity) をもたらすように形成される。好ましくは、膜包埋リポソームは約10nm〜約500nmの直径を有する。
【0057】
(x) 「質量分析用プレート」とは、一般にリガンドと称される可溶性分子を結合させるための基材(リガンド支持体)の中で、リガンドを一次元及び二次元電気泳動法や高速液体クロマトグラフ法等の高精度分析法で分離し、基材表面上に直接移行させた後に、その後の高感度質量分析計に自動的且つ瞬間的に適合させ得る基材を意味する。基材は、その形状と特性を維持するための基本構造、及びリガンドの結合形態と結合量を最適化するためのリガンド吸着素材(基材表面)からなる。
【0058】
リガンド吸着素材は、リガンドの結合形態に応じて共有結合性であっても非共有結合性吸着素材であってもよい。後者の吸着形態としては、典型的には、順相、逆相、疎水性、陰イオン性、陽イオン性及び他の非共有結合性吸着素材が挙げられる。
【0059】
吸着素材は、リガンドと基材の基本構造表面との間に、距離(10Å〜10000Å、好ましくは約100Å)を置くスペーサー分子を含んでいてもよい。このスペーサー分子の素材は、網目状又は多孔性の生体ポリマーであっても合成ポリマーであってもよい。如何なる場合であっても、それは、直径10nm〜5000nm(例えば、約50、100、200、300、400、500、750、1000、1500、2000、2500、3000、4000、4500nm、あるいは前記直径のいずれか2つの間の範囲)のリポソームに包埋された膜蛋白質がリガンドと非常に強い結合力で結合できるように、膜蛋白質とリガンドのアフィニティーよりもアビディティーをもたらすように形成される。好ましくは、膜包埋リポソームは約10nm〜約500nmの直径を有する。
【0060】
(xi) 「質量分析計」とは、気体状の試料をイオン化した後、イオン化分子及びその分子断片を電磁場に投入し、その移動状況から質量数/電荷数によってそれらを分離し、物質のスペクトルを求めることにより、物質の分子量を測定、検出する装置を意味する。好ましく利用され得る数種のタイプが存在するが、他のタイプもまた使用され得る。
【0061】
典型的な実施態様(図1)では、本発明のプロテオーム解析方法は、可溶性蛋白質のみをゲル電気泳動により分離し、分離した可溶性蛋白質をゲルから直接質量分析用プレート上に転写する工程(工程A)、膜蛋白質を人工リポソーム膜に付着または貫通させる工程(工程B)、膜蛋白質包埋リポソームを可溶性蛋白質が転写された質量分析用プレートと接触させ、生物学的親和性(アビディティー)を利用してリガンド・受容体複合体を形成させる工程(工程C)、及び該複合体を質量分析により一括して検出し、得られたデータを集積し、データベース化する工程(工程D)を含む。
【0062】
工程A〜Dの具体的な実施態様及び当該工程を実施するための各装置、並びにこれら構成要素から派生する本発明の他の局面を以下に詳細に説明する。
【0063】
2.膜蛋白質包埋リポソームの製造(膜蛋白質ライブラリー)(工程B)
本工程は、細胞からの膜画分分離、リポソーム作製、膜画分とリポソームの融合、融合リポソーム(膜蛋白質包埋リポソーム)の粒子サイズ調整、さらに必要ならば融合リポソームの保存を含む。
【0064】
細胞からの膜画分の抽出に際しては、従来の方法が使用できる。例えば、標的細胞を入手し、種々の蛋白質分解酵素阻害剤の存在下に適切な緩衝溶液中でホモゲナイズするか、ポリトロン等の細胞破壊装置で懸濁化するか、低浸透圧ショックにより破壊するか、又は超音波処理により細胞膜を破壊する方法が使用できる。その後、細胞膜画分、細胞小器官膜画分は、種々の媒体を用いた濃度勾配遠心法にて調製される。
【0065】
リポソームの作製法としては、種々の既知の方法を用いることができる。選ばれた脂質の混合液を有機溶媒中に均一に溶解し、アルゴンガス中で溶媒を完全に気化し、緩衝溶液中で水和させてリポソームを作製することがその代表であるが、これに限定されない。リポソームの組成は重要である。一般に、細胞膜は、コレステロールを豊富に含むが、小胞体等の細胞内小器官を構成する脂質二重層は、コレステロールを殆ど又は全く含まない。従って、リポソームに移行させる細胞膜蛋白質の種類を決定する上で、膜蛋白質の受け皿となるリポソームの組成は非常に重要な因子となる。当業者は、膜蛋白質の由来に応じてリポソームを構成する脂質を適宜決定することができる。
【0066】
膜画分をリポソームと融合させる法としては、種々の公知の方法を用いることができる。例えば、両者を適切な割合で混合した後に、凍結融解を繰り返すことを含む方法、選ばれた脂質の混合液から作製されたフィルム上に膜画分を含む水溶液を置いた後、水和法により膜蛋白質を脂質二重層に移行させることを含む方法又はその他の方法が本目的に使用できる。好ましくは、凍結融解法であり、本方法を用いることで、膜蛋白質のリポソームへの包埋率(移行率)を100%にすることができる。
【0067】
本発明の膜蛋白質包埋リポソームの調製方法は、その過程の間に界面活性剤、変性剤、有機溶媒等を使用しないので、該方法によれば、原則的に、いかなる膜蛋白質も、その機能を保持したままリポソーム膜中で再構成させ得る。言い換えれば、この膜蛋白質包埋リポソームライブラリーの調製方法は、界面活性剤、変性剤、及び有機溶媒を含まない膜蛋白質のライブラリーを提供し、該膜蛋白質のライブラリーをリポソームと接触させて膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーを形成させることを含む。
【0068】
あるいは、リポソームを形成した後に膜蛋白質と融合する際には、リポソームと膜蛋白質画分との融合は、粒子径を10 nm〜5000 nm、好ましくは10 nm〜500 nmに調整することにより促進することができる。
【0069】
作製された膜蛋白質包埋人工リポソームは、超音波処理法、ホモジナイザー法又は他の方法によりサイジングすることができる。本発明では、膜蛋白質の変性を最小にし、且つ粒子経を10nm〜5000nm、好ましくは10nm〜500nmに調整するために濾過法(エクストルーダー法)を使用することが好ましい。
【0070】
膜画分とリポソームの混合比率を注意深く調整することにより、リポソームに包埋される膜蛋白質の種類と数を所望の通りに制御することができる。この技術は、後述する装置Cによる、本発明の複合体を形成したリガンドと膜蛋白質の両者の分子量の測定及び決定に際して、ノイズ蛋白質(ノイズピーク)を減少させることにより解析を容易にするために決定的に重要である。
【0071】
リポソームを構成する脂質に対する膜画分中の膜蛋白質の比(w/w)、即ち、膜包埋リポソームライブラリーの蛋白質対脂質(P/L)比は、任意の適切な比であってよいが、好ましくは約0.8以下、より好ましくは0.01〜0.8(例えば、0.02〜0.7、0.03〜0.6、または0.05〜0.5)である。P/L比は使用されるリポソームのサイズ等によって変動し得る。例えば、約500〜600nmの平均直径を有するリポソームを使用する場合、P/L比は、好ましくは約0.05以下、より好ましくは0.01〜0.05(例えば、0.015〜0.045、または0.02〜0.04)である。
【0072】
膜包埋リポソームのライブラリーを構成するリポソームの数は、膜蛋白質の解析手段の検出限界、ライブラリーに含まれる膜蛋白質の種類の数、膜蛋白質の発現レベルにおける差異などによって変動するが、好ましくは、ライブラリーを構成するリポソームの数は、約105以上(例えば、約1076以上または約107以上)、より好ましくは約108以上(例えば、約109以上、約1010以上または約1011以上)、さらに好ましくは約1012以上(例えば、約1013以上、約1014以上または約1015以上)である。
【0073】
膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーは任意の適切な数の膜蛋白質を含む。好ましくは、該ライブラリーは、約1フェムトグラム(fg)以上の膜蛋白質(例えば、約5fg以上、約10fg以上、約15fg以上、約25fg以上、約50fg以上、約75fg以上、約100fg以上、約200fg以上、約300fg以上、約400fg以上、約500fg以上、約600fg以上、約700fg以上、約800fg以上または約900fg以上)を含む。より好ましくは、該ライブラリーは、約1ピコグラム(pg)以上の膜蛋白質(例えば、約2pg以上、約3pg以上、約4pg以上、約5pg以上、約6pg以上、約7pg以上、約8pg以上または約9pg以上)を含む。最も好ましくは、該ライブラリーは、約10pg以上の膜蛋白質(例えば、約15pg以上、約20pg以上、約30pg以上、約40pg以上、約50pg以上、約60pg以上、約70pg以上、約80pg以上、約90pg以上または約100pg以上)を含む。
【0074】
望ましくは、該ライブラリーは、約2ミリグラム(mg)以下の膜蛋白質(例えば、約1.75mg以下、約1.5mg以下、約1.25mg以下、約1mg以下、約0.75mg以下、約0.5mg以下、約0.25mg以下または約0.1mg以下)を含む。
【0075】
こうして得られる標的膜蛋白質が脂質二重層に付着もしくは貫通したリポソーム(膜蛋白質包埋リポソーム)を安定に保存する方法の開発は、プロテオーム研究をいつでもどこでも、また質量分析計などを保有しない研究機関で利用可能にするために、非常に重要である。単純リポソームの保存用に開発された幾つかの添加剤をこの目的のために用いることができる。
【0076】
本発明の方法は膜蛋白質の種類を問わず適用可能である。従って、ゲノム配列から相同性検索により予測されるG蛋白質共役型受容体(GPCR)のオーファンリガンドの探索はもちろんのこと、コンピューターによるゲノム配列相同性予測の方法からは到底発見不可能な、その他全てのタイプの受容体(GPI型、オリゴマー型)とそのリガンドの発見、同定及び解析にも応用が可能であり、それにより、全てのタイプの受容体を標的とした受容体創薬型医薬品の開発が可能となる。また、本発明は、受容体以外の膜蛋白質の発見、同定及び解析に多大な貢献をする。従って、全ての膜蛋白質とリガンドが関与する疾患の解析、診断薬・診断法の開発、治療薬の開発を目的とする、膜蛋白質創薬型医薬品の開発が可能となる。
【0077】
本発明の方法は、その構成成分の脂質部分により脂質二重層の内層に固定(貫通)されたタイプや、一般に生体膜の裏打ち蛋白質と呼ばれる脂質二重層の内側層に固定されたタイプのような、通常では細胞膜表層に現われない細胞内膜蛋白質の発見、同定及び解析にも適用可能である。
【0078】
さらに、本発明は、抗体を疾患の解析、診断及び治療に利用することを目的とする抗体創薬(抗体医薬を含む)研究に多大な貢献をする。疾患の解析、診断及び治療に有効な抗原は膜蛋白質として存在しており、対応する抗体の作製のためには、構造と機能を保持した膜抗原(膜蛋白質)の取得が必須条件である。本発明の方法、すなわち、膜抗原をその構造と機能を保持したままでリポソームに包埋する方法のみが抗体創薬に必須の上記条件を満たすことができる。抗体創薬の方法は、本発明がカバーする全ての膜蛋白質とリガンドが関与する疾患の解析、診断薬・診断法の開発、及び治療薬の開発を目指す包括的な方法の中で、リガンドを抗体に置き換えた一つの特殊な方法であることが明らかである。従って、本発明は、受容体創薬型医薬品の開発と同様に、抗体創薬型医薬品の開発を提供する。
【0079】
本発明は、膜蛋白質とそのリガンドのプロテオーム解析のために、膜蛋白質とそのリガンドの両方を一括発見、一括定量すること、及び両方の機能(相互作用)を解析すること、あるいはいずれか一方を発見、定量すること、及び両方の相互作用を解析することを可能にする。この場合、膜蛋白質とそのリガンドが既知であるか未知であるかは問われない。リガンドとしては、固有の内因性リガンド、拮抗剤(フルアゴニスト、パーシャルアゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニスト)、医薬品、試薬、抗体、及び膜蛋白質に結合するように人工的に修飾したあらゆる他の物質が挙げられる。
【0080】
本工程(工程B)で得られる膜蛋白質包埋人工リポソームは、正常な膜蛋白質を新剤型の膜蛋白質包埋人工リポソーム医薬として、膜蛋白質の欠損、変異及び他の変調が原因となる疾患を患う患者に直接投与することができる。脂質二重層の構成成分が動物以外の生物種から得られる場合、病原物質のヒトへの感染を避けることができる。
【0081】
本工程で得られる膜蛋白質包埋人工リポソームと内因性リガンドとの複合体、あるいは膜蛋白質包埋人工リポソームと拮抗剤(フルアゴニスト、パーシャルアゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニストを問わない)との複合体は、新規作用機序を有する、新剤型の膜蛋白質包埋人工リポソーム医薬として、膜蛋白質とリガンドの両方又はいずれか一方の変調が原因となる疾患を患う患者に直接投与することができる。
【0082】
本発明はまた、蛍光物質や他の標識物質を共有結合あるいは非共有結合により人工リポソームの脂質二重層に架橋する方法、疎水性相互作用により挿入する方法、及び人工リポソーム内の水相に可溶性の標識物質に封入する方法のいずれかを単独で又は組合わせて用いることで、新規且つ超高感度な膜蛋白・リガンド(拮抗剤を含む)相互作用検出の原理、方法及び装置を提供することができる。蛍光物質及び他の標識物質に代えて、第二シグナルを発生する物質(例えば、アルカリホスファターゼのような酵素)を、アビジン・ビオチンシステム又はニッケル・ヒスチジン又は他の架橋システムを利用して人工リポソームに架橋、挿入又は封入して、検出感度を増幅することもできる。
【0083】
下記実施例で示されるように、FACSで認識可能な蛍光分子及び他の標識分子を、遺伝子工学的手法や他の考えうる手法によりDNAレベル、RNAレベルあるいは蛋白質レベルで導入した標識膜蛋白質を包埋した人工リポソームが、エクストルーダー法及び他の方法により10nm〜5000nm、好ましくは500nm以下にサイジングされる場合、FACS解析によれば、標識膜蛋白質包埋リポソームのポピュレーションが当該サイズ領域に明瞭に出現する。従って、例えば、膜蛋白質をコードするcDNAを遺伝子配列から作製し、当該cDNAを含む発現ベクターで宿主細胞を形質転換して膜蛋白質(FACSで認識可能な蛍光分子及び他の標識分子を導入したもの)を発現させる場合に、発現宿主の細胞膜画分から調製された標識膜蛋白質包埋非標識リポソームを当該サイズに調整してFACSで解析すれば、膜蛋白質の発現の有無、及び発現量を検出することができる。この場合、現在利用可能な他の方法と異なり、当該膜蛋白質のDNA配列以外の情報又は試薬(抗体、リガンド、拮抗剤、細胞の応答性又は他の膜蛋白質検出薬)がなくとも、検出が可能となる。抗体等の膜蛋白質検出薬が存在すれば、蛋白質レベルでの標識が可能となり、同様にFACSによる発現解析が可能となる。もちろん同様の原理がリガンドの探索に応用可能である。
【0084】
本工程は、膜蛋白質だけでなく、細胞膜、核膜、小胞体膜等の細胞を構成する脂質二重層に付着もしくは貫通する糖質、DNA、RNAを含む生体ポリマーを1個あるいは複数個、予め検討された脂質組成と形状を有する人工リポソームの脂質二重層に付着または貫通させるという応用が可能である。
【0085】
3.迅速蛋白質転写(工程A)
本工程はゲル電気泳動及び蛋白質転写を含む。電気泳動装置は、市販の入手可能なものであっても独自に考案された装置であってもよい。目的に応じて一次元ゲル電気泳動、二次元ゲル電気泳動のどちらも使用することができる。二次元ゲル電気泳動では、一次元の泳動は蛋白質の等電点による分離が基本であり、二次元の泳動は蛋白質の分子量による分離が基本である。電気泳動に使用されるゲルのサイズは特に制限されない。第2の工程は、蛋白質を泳動後のゲルから固相(例えば、質量分析用プレート、磁性もしくは非磁性粒子など)上に移行させることを含む。
【0086】
本発明のプロテオーム解析の典型的な態様においては、膜蛋白質とリガンドは、以下に説明する膜蛋白質包埋リポソームとリガンドの複合体形成後に、一括して検出及び解析される。
【0087】
本工程(工程A)は、水溶性蛋白質のみならず、細胞を構成する脂質二重層(例えば、細胞膜、核膜、小胞体膜等)に付着も貫通もせず、細胞外液(例えば、血液、血漿、尿、骨髄液、腹水等の各種体液)若しくは細胞内液又は細胞小器官内液に存在するペプチド、糖質、DNA、RNA等や、生体由来のその他の任意の可溶性分子、人工的に合成された任意の化合物、気体状物質(例えば酸素分子、酸化窒素など)等にも適用できる。すなわち、その特性を利用して各解析標的物質を高度に精製し、最適な支持体に移行させ、膜蛋白質等を包埋したリポソームとの相互作用解析に供する。
【0088】
4.膜蛋白質及び水溶性蛋白質の結合(工程C)
本工程は、固相上に転写されたリガンドと膜蛋白質包埋リポソームとの結合反応、固相上に非特異的に結合したリポソームの洗浄・除去、及びリポソームを溶解除去して固相上にリガンドと膜蛋白質のみからなる複合体を形成させることを含む。これらの複数工程を単一の装置内で実施することができ、また、目的によってはある工程を省略することができる。例えば、これらの工程は、固相を反応混液や洗浄液等に浸漬させるのに十分な底面積を有する反応槽中で実施してもよく、該反応槽は必要に応じて振盪手段を有する。
【0089】
結合反応装置では、結合反応の前処理として、質量分析用プレート上における生理的なリガンド・膜蛋白質相互作用以外の非特異的な吸着反応を防止する目的で、質量分析用プレートの吸着表面を適切な物質で被覆する(blocking)工程を加えることができる。ブロッキング剤の要件としては、脂質二重層の親水ヘッドの非特異吸着を防止できること、リポソームに移行した標的膜蛋白質以外の膜蛋白質の非特異吸着を防止できること、その後の質量分析による解析を不能にする多成分系ではなく成分が既知であり且つ分子量が均一な系であること、イオン化エネルギーを吸収しない分子であること等である。
【0090】
反応方法としては、単純浸漬、振盪等を用いてもよい。質量分析用プレート近傍で膜蛋白質包埋リポソーム濃度を上昇させる方法としては、電気力によるリポソームの濃縮が推奨される。リポソームは全体として負に荷電しているため、質量分析用プレートの下部に陽極を、反応槽の上部に陰極を差し込めば、リポソームは質量分析用プレート表面に移行し、リガンド近傍の濃度が上昇する。
【0091】
質量分析用プレート上に非特異的に結合したリポソームの洗浄による除去は、洗浄緩衝液の塩濃度及び組成を適切に選択することにより可能となる。洗浄時の温度条件が重要であるが、当業者は好適な条件を適宜決定することができる。
【0092】
リポソームの溶解除去法としては、適切な有機溶媒(グリセロール、アセトニトリル、アルコール、ジオキサン、DMSO、DMF等)を緩衝液等によって濃度を適宜調節して、質量分析用プレートと接触させる方法が例示される。穏やかな界面活性剤(例えば、オクチルグルコース等)の使用も効果的である。
【0093】
本発明の多様な目的への適合性を勘案すれば、水溶性蛋白質の支持体の形態は、図2及び表1に示すように多岐にわたることは自明であり、それは図2及び表1の例示範囲に留まらない。
【0094】
【表1】
【0095】
図2の例示では、電気泳動後の被転写支持体の基本構造に通電性の磁性金属を使用し、本発明によって開発されたアビディティーを向上させる目的のスペーサーを結合させた磁性粒子を支持体の表面素材として用いた。本磁性粒子を、二次元電気泳動により分離した可溶性蛋白質に共有又は非共有結合によって結合させた。カラムを使用する例では、625画分への分別後に、各々625本のミクロファイバー内腔に磁力で保持させた。膜蛋白質包埋リポソームを通過させ、通過、洗浄及び溶出画分をそれぞれ連続的にLC-MS-MSで測定した。プレートを使用する別の適応では、625画分への分別後に、磁性粒子を各々625本のチャンバーに磁力で保持させた。膜蛋白質包埋リポソーム及び拮抗剤候補の添加、反応、洗浄及び検出をHTS様式で達成した。チップの適応は、先に例示した質量分析用プレートの作製に転用できる例示である。表1には、支持体の種類による本発明の応用範囲の一例を示し、最後の例示は、非磁性粒子(ポリサッカライドゲル、合成ポリマーゲル等)に本発明のスペーサー分子を介して可溶性蛋白質を共有結合させた後に、可溶性蛋白質を膜蛋白質包埋リポソームに結合させた例を示したものである。検出系としては、質量分析システム以外の蛍光、放射活性、二次シグナル増幅系などが、プロテオーム分析の目的に応じて柔軟に用いることができ、未知のリガンド、特にオーファンリガンド等の探索に最適のシステムが提供される。
【0096】
5.質量分析装置
本発明で使用される生理活性物質の検出は質量分析計に限定されない。しかしながら、物質固有の物理量の一つである分子量が直接測定できること、検出限界がピコグラムに迫ること、さらにMS-MS法によりアミノ酸の配列解析が可能であるという理由のため、質量分析計は、本発明においても重要な検出装置であると考えられる。上記の装置Cにより本発明の質量分析用プレート上に固定されたリガンド・膜蛋白質複合体の解析は、市販される任意のタイプの質量分析計に適合が可能である。例えば、上記の装置Aにより質量分析用プレート上に固定されたリガンドのみの解析に好ましく使用される質量分析計が、同様に使用可能である。
【0097】
本発明では、質量分析用プレート上に膜蛋白質と可溶性蛋白質が共存する場合、試料に添加する溶媒の選択に応じて、両方を同時に、又はいずれか一方のみを質量解析により高感度で測定することができる。
【0098】
6.データベースの構築・解析(工程D)
上記の本発明の工程A、B及びCから得られる上記膜蛋白質・リガンド複合体の測定結果を、あらかじめ設定された「リガンド・受容体(膜蛋白質)マトリックス表」(図3)に入力し、随時新しいデータを追加して診断確定用データベースとして構築する。
【0099】
先に例示的に紹介した質量分析用プレートの全域をカバーするように行番号(1〜25)と列記号(A〜Y)を振り、合計625(25x25)画分の各画分(4mmx4mm)に1対1に対応する番地(A1〜Y25)を振り当てる。その結果、泳動後に質量分析用プレート上に移行した全リガンドは、リガンド・受容体(膜蛋白質)マトリックス番地により分類することが可能となる。もちろん、その後に受容体包埋リポソームと反応させて得られる対応受容体も同じ番地により分類され、ある番地に収束する物質群は、相互にそして生理的に結合することが推定される。
【0100】
一つの特定の実施態様では、最初に、健常人の血清等の標的体液(可溶性リガンドを含むと考えられるもの)及び特定の疾患を有する患者の同じ標的体液を、別々に二次元ゲル電気泳動し、質量分析用プレートに転写後、質量分析等により測定する。この時点で、疾患によるリガンドの増減が判明し、データベースに登録が可能となる。
【0101】
次に、健常人の血清等の標的体液を電気泳動し、二枚のゲルに移行させ、健常人のリガンドが転写された二枚の質量分析用プレートを調製する。他方、健常人及び患者から同種細胞を採取し、上述の本装置B(膜蛋白質分離・リポソーム移行装置)を用いてそれぞれの膜蛋白質をリポソームに移行させ、膜蛋白質包埋リポソームを調製する。次いで、本装置C(可溶性蛋白質・膜蛋白質結合装置)を用いて、健常人のリガンドを移行した各質量分析用プレートに、健常人と患者由来の膜蛋白質包埋リポソームを別々に反応させ、リガンドと受容体の結合反応を行い、その後の洗浄操作等により、質量分析用プレート上に高度に精製されたリガンド・受容体複合体を得る。質量分析での解析により、疾患による受容体の増減が判明し、データベースに登録が可能となる。質量分析による解析結果は、自動化プログラムのデータベースに入力され、その結果は、デイファレンシャルデイスプレイとして、例えば、図3の「リガンド・受容体(膜蛋白質)マトリックス表」の右半分の三角形にリガンドが増加した場合は赤色で、減少した場合は青色で、無変化の場合は黄色で表示され、同様に左半分の三角形に受容体が増加した場合は赤色で、減少した場合は青色で、無変化の場合は黄色で表示される。図3では、パターンで表示している。
【0102】
本発明の方法によれば、ある細胞膜の任意の膜蛋白質を解析できるため、疾患に関連した個別の膜蛋白質を偶然性に依拠しながら一つ一つ発見していくのではなく、関連する疾患と標的細胞膜蛋白質を体系的に一つのサイクルによって解析することが可能となる。
【0103】
表2に示すように、細胞小器官、例えば、ミトコンドリア膜の膜蛋白質に照準を設定すれば、ATP産生能の変化に基づく、疾患の分類、疾患間の関連性の解明、群特異的な治療薬の開発といった、現在までに誰もが考え及ばなかった創薬戦略を打ち出すことも可能となる。
【0104】
【表2】
【0105】
7.他の好ましい実施態様
従って、本発明の適用は、生体に由来する膜蛋白質・リガンド複合体の発見、定量及び解析にとどまるものではなく、膜蛋白質と相互作用する人工的に創出した物質の発見、定量及び解析、互いに相互作用可能な2以上の膜蛋白質の発見、定量及び相互作用解析、膜蛋白質以外の生体由来不溶性物質と不溶性あるいは可溶性物質との相互作用の解析、並びに、生体に由来しない物質(物体)の発見、定量及び解析にまで及ぶ。
【0106】
本発明の意義と目標は、全自動膜蛋白質・リガンド用プロテオミクス解析装置の完成に限られず、生命現象の基幹部分を担いながら方法・技術の壁から研究が大きく遅れてきた膜蛋白質科学の興隆に技術的貢献を行うことにある。本発明は、上述のように、プロテオームを膜蛋白質と可溶性蛋白質にグループ分けを行い、膜蛋白質をリポソームに包埋することで、膜蛋白質を可溶性蛋白質と同様に取り扱うことを可能にする原理、方法及び結果を提供する。
【0107】
本原理と方法は、ゲノム創薬の方法論が切り開いた創薬の新しい流れに合流し、受容体創薬、抗体創薬、HTS創薬、蛋白質立体構造解析、遺伝子発現解析、他のプロテオーム解析等の技術とも絡み合う膜蛋白質創薬として近い将来必ず認められるであろう。
【0108】
以下の実施例において本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0109】
本発明の方法及びツールが、膜蛋白質とそのリガンドの同時スクリーニング及び両者の相互作用の解析に有効であり、プロテオーム解析のための新規な方法及びツールであることを示すために、以下に具体的な態様と結果を示す。
【0110】
受容体は、その構造からGPIアンカー型、GPCR型及びオリゴマー型の3種類に分類される。本発明が膜蛋白質のプロテオーム解析に有用である証明を得るためには、これら全てのタイプの受容体を標的として各特異リガンドとの相互作用の解析を検討する必要がある。U937細胞はヒト単球由来の株化細胞であり、その膜表面上に多数の受容体が発現している。その中から、GPIアンカー型としてはウロキナーゼ受容体を選定し、GPCR型としては血清補体成分C5a受容体を選定し、オリゴマー型としてはインターフェロンγ受容体を選定した。
【0111】
参考例1:3種類の受容体の発現確認
Bt2cAMP刺激前後で、U937細胞を、予めFITCで標識した3種類のリガンドとそれぞれ反応させ、FACSで分析し、受容体発現の存在を観察した。その結果、図4に示すように3種類全ての受容体の発現が確認された。
【0112】
実施例1:ウロキナーゼ受容体包埋リポソームの調製
(1)膜画分の調製
U937はヒト単球由来の株化細胞であり、ホルボールエステル(PMA)刺激によりウロキナーゼ受容体を高濃度に発現することから、膜画分分離用の試料として用いた。洗浄後、氷冷下、ポリトロンで2-5秒×3回:1分間の間隔で細胞を破砕し、40%蔗糖密度勾配遠心分離(95,000 g x 60 min)により、界面に膜画分を集積させた(図5)。
【0113】
(2)膜蛋白質包埋リポソームの調製
精製卵黄レシチン (1.25 g) 及びコレステロール (0.125 g) を 25 mL の生理食塩水中に懸濁させ、氷冷下でプローブ型超音波発生装置により15分間処理した。得られたリポソームの平均粒子径は 80 nm であった。先に調製したU937膜画分をこのリポソーム溶液に加え、-80℃及び室温下で凍結融解を3回繰り返したところ、混合液は白濁した。リポソームのみを含有する溶液で同様の処理を行なったところ、リポソーム溶液は白濁した。一方、U937膜画分は、凍結融解を繰り返しても、半透明のままであった。これらの試料に塩化セシウムを添加し、終濃度を40%に調製した溶液の上に、塩化セシウム濃度が30%及び15%の溶液、並びに生理食塩水の順で重層し、密度勾配遠心分離(95,000 g x 1h)を行なった。その結果、U937膜画分は塩化セシウム濃度30%と15%の界面にバンドを形成し、白濁したリポソームは塩化セシウム濃度15%と生理食塩水の界面にバンドを形成した。リポソームとU937膜画分の混合液では、白濁したリポソームと同様の位置にバンドが認められ、U937膜画分の位置にはバンドが認められなかった。この結果より、U937膜画分はリポソームと融合し、膜蛋白質包埋リポソームを形成したと推察された(図6)。
【0114】
(3)膜蛋白質包埋リポソームの確認
膜画分を分離・調製後、膜蛋白質を蛍光(FITC)標識した。この膜画分を上記(2)の方法によりリポソームと反応させ、膜蛋白質包埋リポソームを形成させた。膜画分、膜蛋白質包埋リポソーム及び単純リポソームの各試料を、FACSによりそれぞれ解析した。その結果、図7に見られるように、1個の粒子あたりの蛍光強度(y軸)は、膜画分が最も高く、単純リポソーム(蛋白質は存在せず、FITCの蛍光ではなく弱い散乱光が検出される)が最も低く、膜蛋白質包埋リポソームはその中間に位置した。膜蛋白質包埋リポソーム試料は、単純リポソームで検出される弱い散乱光を発する粒子をほとんど含まなかったことから、膜画分と単純リポソーム画分は、ほぼ100%融合したと推察される。すなわち、膜画分と単純リポソームが融合して多重層リポソームが形成され、多重層リポソームのリポソーム内表面にも膜蛋白質が移行した結果、外膜表面上の膜蛋白質数が減少したために、膜蛋白質包埋リポソームでは蛍光強度が低減した。以上のことから、本調製法により、細胞及びそれから調製した細胞膜画分に結合した膜蛋白質が、リポソームの脂質二重層に移行することが示された。
【0115】
(4)ウロキナーゼ受容体の同定(U937細胞)
PMAの存在・非存在下で培養したU937細胞を可溶化し、ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体で免疫沈降し、電気泳動後ウエスタンブロッティングを行いU937細胞膜上でのウロキナーゼ受容体の存在を確認した。ウエスタンブロッティングの1次反応は、ビオチン化ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体を250倍希釈で2時間反応させ、2次反応は、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを100倍希釈で1時間反応させた。反応後、PBS/0.1% Tween 20で3回洗浄し、BCIP/NBTで検出した。その結果、図8で示すように、抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体で染色される分子量 50 kDa の幅広いバンドが認められた。このことから、糖鎖構造の異なるウロキナーゼ受容体の存在が、U937細胞表面上に確認された。
【0116】
(5)ウロキナーゼ受容体包埋リポソームの確認
上記(3)の方法で得られた膜蛋白質包埋リポソームに、ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体を1次抗体として4℃で1時間反応させた後、FITC標識ウサギ抗ヤギIgG抗体を2次抗体として4℃で1時間反応させた。1次抗体および2次抗体を10倍希釈で反応させ、反応後、0.1% BSA-PBS(プロテアーゼ阻害剤含む)で4回洗浄した。その後、共焦点レーザー顕微鏡 (LSM410,カールツァイス株式会社)を使用し320倍で観察した(図9)。抗ウロキナーゼ受容体特異抗体を添加した融合リポソームでは蛍光が観察されたが(図9A)、抗ウロキナーゼ受容体特異抗体を添加しない融合リポソームでは蛍光は観察されなかった(図9B)。以上のことから、ウロキナーゼ受容体がリポソームの脂質二重層に移行することが示された。同様に、得られた膜蛋白質包埋リポソームを可溶化し、ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体で免疫沈降し、ウエスタンブロッティングに供した。ウエスタンブロッティングの一次反応は、ビオチン化ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体を250倍希釈で2時間反応させ、二次反応は、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを100倍希釈で1時間反応させた。反応後、試料をPBS/0.1% Tween 20で3回洗浄し、BCIP/NBTで検出した。その結果、図10で示すように抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体で染色される分子量 50 kDa の幅広いバンドが認められた。この結果は、U937細胞で先に確認された分子量分布と同じ分子量分布を示した。以上より、膜蛋白質包埋リポソームの脂質二重層に移行したウロキナーゼ受容体が、本来の細胞に存在する糖鎖構造等を保持したまま移行することが示された。
【0117】
(6)ウロキナーゼ受容体のリガンド結合能
U937細胞から調製した膜画分はその脂質二重層にウロキナーゼ受容体を保持していることが示されたので、ウロキナーゼ受容体のウロキナーゼ(リガンド)結合能を検討した。ウロキナーゼをFITCで蛍光標識し、膜画分と反応させ、受容体とリガンドの結合を検討した。コントロールとしてFITCで蛍光標識したヒト血清アルブミン(HSA)を使用した。結果を図11に示す。図から明らかなように、本方法で調製した膜画分は、その内因性リガンドであるウロキナーゼと結合したが(図11A)、HSAとは結合しなかった(図11B)。このことは、本膜蛋白質調製法で得られた膜画分に保持されたウロキナーゼ受容体が、その三次元構造及び生理機能(リガンド結合能)を保持したことを意味する。次に、膜蛋白質包埋リポソームのウロキナーゼ結合能を調べた。ウロキナーゼをFITCで蛍光標識し、先の方法で得られた膜蛋白質包埋リポソーム(ウロキナーゼ受容体包埋リポソームを含む)と反応させ、受容体とリガンドの結合を検討した。コントロールとしてFITCで蛍光標識したヒト血清アルブミン(HSA)を使用した。結果を図12に示す。図から明らかなように、本方法で調製したウロキナーゼ受容体包埋リポソームは、その内因性リガンドであるウロキナーゼとは結合したが(図12A)、HSAとは結合しなかった(図12B)。ウロキナーゼ受容体包埋リポソーム及びウロキナーゼの結合特異性を確認するために、RI標識したウロキナーゼ及び非標識ウロキナーゼの混合液を1:1〜1:10000の種々のモル比で調製し、U937細胞及びウロキナーゼ受容体包埋リポソームとそれぞれ反応させ、細胞及びウロキナーゼ受容体包埋リポソームに結合した放射活性を測定した。図13に示すように、両者とも、非標識リガンドの増加に伴ない、受容体に結合した放射活性は減少したことから、リポソーム包埋ウロキナーゼ受容体及びウロキナーゼの結合は特異的であると推察された。
【0118】
更に、PMA刺激によるウロキナーゼ受容体の発現量変化を、膜蛋白質包埋リポソームへのウロキナーゼ結合量により検討した。図14に示した通り、PMA刺激したU937細胞から調製した膜蛋白質包埋リポソームでは、未処理の細胞から調製したものに比較して、明らかに、蛍光標識ウロキナーゼと結合したリポソーム粒子数は増加した。
【0119】
以上の結果は、リポソームに包埋された膜蛋白質の構造及び機能が、生細胞膜上に発現する膜蛋白質のそれと同じであることを示す。従って、本発明による方法は、疾患における受容体及びリガンドの量及び特性の変化を、生細胞の代わりに評価し得ることが示された。
【0120】
実施例2:粒子径の縮小後における受容体包埋リポソームの出現
膜蛋白質包埋リポソームの粒子サイズをエクストルーダー法で変化させ、蛍光 (FITC) 標識ウロキナーゼでウロキナーゼ受容体包埋リポソームの出現を検討した。その結果、図15に示すように、ろ過孔サイズが 0.6 μm 以下のフィルターで整粒されたリポソーム溶液では、目的の受容体を包埋したリポソームの数が明らかに増加した。これは、融合直後の多重層リポソームでは目的受容体の多くがラージリポソームの内側に封入され蛍光検出されなかったこと、並びにさらに重要なことであるが、リポソームサイズを小さくすることにより、一個のリポソームに包埋される受容体の数が減少し、目的受容体を包埋するリポソームと目的受容体を含まないリポソームとが峻別され、包埋するリポソームの数が増加したという事実により引き起こされたと推察される。リポソームをエクストルーダー法又は他の方法で 10 nm - 5000 nm、好ましくは500 nm 以下の粒子経にサイジングすると、FACS解析によれば、標識膜蛋白質包埋リポソームの集団が当該サイズ領域に明瞭に出現する。
【0121】
実施例3:質量分析用プレート上のバクテリオロドプシン包埋リポソームの質量分析による解析
質量分析計を用いてバクテリオロドプシン(Sigma、B3636)を測定して得られた結果を図16に示す。試料をチップ上に載せ、風乾し、2,5-ジヒドロ安息香酸 (エタノール中170 mg/mL) を0.5 μL/spot 添加、風乾した後、SELDI ProteinChipR System (Ciphergen) に測定した。質量校正は、β-ラクトグロブリンA (ウシ)、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびコンアルブミン(ニワトリ)を用いる外部校正であった。SELDI ProteinChipR Systemの測定パラメータはDetector voltage 2100V, Detector Sensitivity 10, Laser Intensity 285であった。その結果、いずれの場合にも27027.3及び28120.2の2本のピークが観測された。バクテリオロドプシンの理論分子量は27068.0であることから、前者はバクテリオロドプシンであり、後者は、有機溶媒での処理の際にレチナールの脱離が見られたことから、バクテリオロドプシン様蛋白質であると示唆された。
【0122】
図16Aは、バクテリオロドプシン単独測定時の蛋白質濃度とピーク強度との相関を示し、比例関係より、検出限界は 20 fmol であった。図16Bは、バクテリオロドプシン単独、単純リポソームとの共存条件下のバクテリオロドプシン及びリポソーム包埋バクテリオロドプシンの測定結果を示す。同一の溶媒条件下では、これら3つの様式では、同一濃度でのバクテリオロドプシンのMSシグナル強度は異なっていた。このことにより、単純リポソーム及びリポソーム包埋バクテリオロドプシンとの共存条件下でさえも、バクテリオロドプシンを質量分析により解析できることが示された。
【0123】
実施例4:支持体に結合したリガンドと膜蛋白質包埋リポソームとの結合
膜蛋白質の支持体としてリポソーム、生体膜(膜画分)又は生体膜(細胞)を、リガンド支持体として質量分析用プレート、Sepharose 4Bゲル又は磁性鉄粒子を、スペーサーとしてプロテインG又はビオチンを、表3に示される通りに組み合わせて用いることにより、膜蛋白質・リガンド複合体を形成させた。
【0124】
【表3】
【0125】
その結果、支持体とリガンドの間にスペーサー分子が存在することが好ましいことが判明した。リガンドの種類によって異なるが、スペーサーが存在しない場合は、膜蛋白質包埋リポソームは全く結合しないか、又は結合力が弱かった。これは、両分子が異なる固体表面に固定されるため、一点での結合による親和性効果の相互作用よりも、複数の点での結合によるアビディティー効果の相互作用が必要とされるからである。複数の点での結合を可能にするために、両分子会合時の立体障害を減弱化し衝突回数を増加させるような適切なスペーサー分子を介在させることが必要である。スペーサー分子は、リガンドと支持体の間に存在し、生体ポリマー(蛋白質など)、合成ポリマー又は金属等からなり、解析の目的に応じて共有結合・非共有結合による結合が可能であり、三次元的な空間を有する微小な網目状、多孔性等の形状であり得る。
【0126】
実施例5:Sepharose 4Bゲルに固定化されたリガンドと受容体包埋リポソームとの結合
ビオチン化したリガンド3種(ウロキナーゼ、インターフェロン-γ、補体C5a)を、アビジン化Sepharose 4Bゲルに結合させた。この場合のリガンド支持体はSepharose4Bゲルで、スペーサーはアビジン(蛋白質)である。膜蛋白質包埋リポソームを、上記実施例1(2)の方法によりFITC標識蛍光リポソームとU937膜画分から調製し、Sepharose 4Bゲルに固定した3種類のリガンドと反応させ、PBSで3回洗浄した後、可視光及び蛍光で観察した。その結果、図17に示すように、可視光 (B) では全てのゲルで白色が観察された。暗視野における蛍光 (A) では、Sepharose 4Bゲルのみでは発色は観察されなかったが、組み合わせて結合させた3種類のリガンドを用いた他のゲルでは、蛍光を発した。この結果は、本発明の原理が、前述の質量分析用プレート/質量分析に加えて、任意のリガンド支持体/任意の検出系の組み合わせ(例えば、粒子/蛍光、粒子/放射活性、粒子/二次シグナル発生試薬等)に応用が可能であることを示す。
【0127】
上記実施例では、受容体の任意のタイプについて本発明が応用可能であることを示すために、ウロキナーゼ受容体(GPIアンカー型)、活性化補体C5a受容体(GPCR型)及びインターフェロン-γ受容体(オリゴマー型)と、それらのリガンド(ウロキナーゼ、C5a、IFNγ)とを用いて相互作用(機能)の検出結果を示している。これらの結果により、分子の構造・機能にかかわらず任意の膜関連受容体、膜関連チャネル、膜関連ポンプ、膜関連トランスポーター並びにそれら蛋白質に付随的に結合する物質が本発明の原理及び方法に従ってリガンドと共に単離・同定され得ることが、当業者には容易に理解されるであろう。
【0128】
また、測定法として質量分析を想定した、膜蛋白質・リガンド用全自動プロテオーム解析装置の各構成部分の基本仕様及び検討結果を示したが、蛍光分析を想定した蛍光標識リポソーム及びリガンド・粒子結合体を用いる実施例が示すように、本発明は多岐にわたり応用可能であることが当業者には容易に理解されるだろう。
【0129】
実施例6:種々の蛋白質/脂質比を有するプロテオリポソームの調製
PMAで刺激したU937細胞(2x109細胞)をPOLYTRON(登録商標)で破砕後、密度勾配遠心により細胞膜画分を得た。この細胞膜画分(2mg蛋白質/mL)と卵黄リン脂質(YPL, 旭化成製)、コレステロール(NUCHEKPREPINC製)より調製したリポソーム溶液(50mg YPL/mL)を蛋白質/脂質比(w/w)が、0.2, 0.08, 0.04, 0.02となるように混合した。それぞれの混合液を凍結融解を繰り返し細胞膜画分とリポソームを融合させプロテオリポソームを得た。このプロテオリポソームを600nmのポリカーボネート膜(Nucleopore, Whatman製)を装着したエクストルーダー(Avanti Polar Lipids社製)でサイジングを行った。
【0130】
実施例7:受容体陽性画分のポピュレーションに及ぼすプロテオリポソームの蛋白質/脂質比の効果
実施例6で得られたプロテオリポソーム溶液50μLにBSA(SIGMA社製)の0.2%溶液50μL、ビオチン(Biotin-(AC5)2-Osu, DOJINDO製)を標識した一本鎖尿性プラスミノーゲン活性化因子(SCUPA)5μLを加え、更にFITC(FITC-I, DOJINDO製)で標識した補体5a(C5a)又はインターフェロン-γ(IFNγ)を20μL加えた。この溶液を4℃で15時間静置した後、ストレプトアビジン、R-フィコエリスリンコンジュゲート(St.avidin-RPE, Molecular Probes社製)を5μLを加え、さらに室温で1時間反応した。この溶液を10,000gで30分間、遠心分離を行い、沈殿画分を0.2% BSA溶液に懸濁し、フローサイトメーター(FACS Calibur, BECTON DICKINSON社製)で分析した。その結果を表4に示す。また、SCUPA受容体およびC5a(またはIFNγ)受容体の少なくともいずれかがポジティブな画分全体に対する各受容体シングルポジティブ画分およびダブルポジティブ画分の各存在比を図18に示す。蛋白質/脂質比が小さくなるに従い、SCUPA-C5a(またはIFNγ)ダブルポジティブ画分の比率が小さくなり、SCUPAシングルポジティブ画分およびC5a(またはIFNγ)シングルポジティブ画分の比率が増加した。この結果より、蛋白質/脂質比が0.04以下で、ノイズ蛋白質が無視できる程度にそれぞれの膜蛋白質をリポソームに分散させることが可能であることが示された。
【0131】
【表4】
【0132】
実施例8:リガンド支持体表面の活性化の効果
ナイロン製多孔膜(90x90mm, Biodyne A, PALL社製)を1% 1,1’-カルボニルジイミダゾール(ALDRICH社製)のN,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬製)溶液100mLに浸漬し、2時間攪拌した。このナイロン膜をN,N-ジメチルホルムアミドで洗浄し、さらにアセトン(キシダ化学製)で2回洗浄した。その後、減圧下で2時間乾燥を行い、活性化ナイロン膜を得た。このナイロン膜にストレプトアビジン TypeII(和光純薬製)溶液、10mg/mLを2μLスポットし、その後、0.5M エタノールアミン溶液でブロッキング後、さらにリン酸緩衝液で洗浄した。
このナイロン膜をビオチン-フルオレセイン(PIERCE社製)溶液に浸漬した後、リン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜を乾燥後、紫外線ランプ下で観察したところ、ストレプトアビジンを吸着させた部分に蛍光を認めた。
【0133】
比較例1
ナイロン膜にストレプトアビジン TypeII(和光純薬製)溶液、10mg/mLを2μLスポットし、その後、リン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜をビオチン-フルオレセイン(PIERCE社製)溶液に浸漬した後、リン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜を乾燥後、紫外線ランプ下で観察したところ、ストレプトアビジンを吸着させた部分に蛍光は認められなかった。
【0134】
実施例9:U937細胞由来膜蛋白質ライブラリーの調製
PMAで刺激したU937細胞(2x109細胞)をPOLYTRON(登録商標)で破砕後、密度勾配遠心により細胞膜画分を得た。この細胞膜画分(2mg蛋白質)に卵黄レシチン、コレステロール及び蛍光脂質(N-4-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール ホスファチジルエタノールアミン)で調製したリポソーム溶液(YPLとして40mg)を加え凍結融解法により、プロテオリポソームを調製した。このプロテオリポソームを200nmのポリカーボネートメンブレンでサイジングを行った。得られたプロテオリポソームの平均粒子径は164nmであった。
【0135】
実施例10:表面活性化リガンド支持体によるプロテオリポソーム中に包埋された膜蛋白質の検出
実施例8で得られた活性化ナイロン膜に、一本鎖尿性プラスミノーゲン活性化因子(SCUPA)10μg、インターフェロン-γ(IFNγ)2μg、補体5a(C5a)2μg、ネガティブコントロールとして免疫グロブリンG(IgG)20μg、ウシ血清アルブミン(BSA)10μgをそれぞれスポットした。その後、0.5M エタノールアミン溶液でブロッキング後、さらにリン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜と実施例9で得たプロテオリポソーム溶液を反応させた後、リン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜をイメージアナライザー(Typhoon 8600, Molecular Dynamics社製)で解析した。その結果、U937細胞膜に発現しているSCUPA、IFNγ及びC5a受容体の各リガンドに対し、高い蛍光が認められた(図19)。
【0136】
このように、本発明を好ましい実施態様を強調して説明してきたが、好ましい実施態様が変更され得ること、並びに本発明が本明細書に具体的に記載された以外によっても実施され得ることは、当業者には自明であろう。従って、本発明は上記の特許請求の範囲によって定義される発明の精神と範囲に包含される全ての改変を含むものである。
【0137】
本明細書で引用した、特許、特許出願及び刊行物を含むすべての参考文献は、ここで言及することによりそのすべてが組み込まれるものである。
【0138】
本出願は、アメリカ合衆国で出願された出願第10/622,002号を基礎とするものであり、その内容はすべて本明細書中に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1は、本発明のプロテオーム解析システム及びその構成要素の代表的な実施態様を模式的に示す。
【図2】図2は、本発明で用いられる水溶性蛋白質(リガンド)支持体の種々の実施態様を示す。
【図3】図3は、本発明で用いられるリガンド・受容体(膜蛋白質)マトリクス表の1つの実施態様を示す。
【図4】図4は、Bt2cAMP刺激前(図4B)及び後(図4A)でのU937細胞膜に対するウロキナーゼ受容体(リガンド:FITC-UK)、C5a受容体(リガンド:FITC-C5a)、及びインターフェロン-γ受容体(リガンド:FITC-IFNγ)の発現を示す。
【図5】図5は、U937細胞からの膜画分の分離を示す写真である。この写真では、左は、40%スクロース密度勾配遠心分離前を示し、右は、40%スクロース密度勾配遠心分離後を示す。
【図6】図6は、U937膜蛋白質包埋リポソームの単離を示す写真である。A:リポソーム(200μl)+膜画分;B:リポソーム(50μl)+膜画分;C:膜画分;D:リポソーム(200μl)。
【図7】図7は、FITC標識膜画分(図7A)、FITC標識膜蛋白質包埋リポソーム(図7B)、単純なリポソーム(図7C)のFACS解析の結果を示す。
【図8】図8は、U937細胞膜上でのウロキナーゼ受容体の発現を示すウエスタンブロット解析の結果である。
【図9】図9は、抗ウロキナーゼ受容体抗体の存在下(図9A)及び非存在下(図9B)におけるウロキナーゼ受容体包埋リポソームの共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【図10】図10は、可溶化膜蛋白質包埋リポソームのウエスタンブロット解析の結果である。
【図11】図11は、膜画分中のウロキナーゼ受容体のリガンド(FITC標識ウロキナーゼ)結合能を示す(図11A)。FITC標識HSAをコントロールとして用いた(図11B)。
【図12】図12は、リポソーム包埋ウロキナーゼ受容体のリガンド(FITC標識ウロキナーゼ)結合能を示す(図12A)。FITC標識HSAをコントロールとして用いた(図12B)。
【図13】図13は、U937細胞(図13A)及びウロキナーゼ受容体包埋リポソーム(図13B)との標識リガンドの結合のモル比依存性を示す。
【図14】図14は、PMA刺激(図14B)及び非刺激(図14A)のU937細胞から調製された膜蛋白質包埋リポソームのリガンド(FITC標識ウロキナーゼ)結合能を示す。
【図15】図15は、リポソーム粒子サイズの縮小化によるウロキナーゼ受容体包埋リポソームの出現を示す。
【図16】図16は、バクテリオロドプシンの質量分析による解析の結果を示す。図16Aは、種々の濃度のバクテリオロドプシンでの結果を示し、図16Bは、バクテリオロドプシン単独、単純リポソーム共存下のバクテリオロドプシンおよびリポソーム包埋バクテリオロドプシンの結果を示す。
【図17】図17は、種々の受容体を包埋するリポソームとSepharose-4Bゲル上に固定されたそれらのリガンドとの結合を示す。
【図18】図18は、膜蛋白質包埋リポソームライブラリー中の受容体陽性[A:SCUPA(+)及び/又はC5a(+);B:SCUPA(+)及び/又はIFNγ(+)]画分相対ポピュレーション(%)を示す。図中、横軸の数値はライブラリーの蛋白質対脂質比を示し、「膜」はリポソームと融合させる前の膜画分を示す。
【図19】図19は、種々のリガンドが1,1’-カルボニルジイミダゾールを介して固定化された、活性化されたナイロン膜を用いた、U937細胞膜に発現する受容体の検出を示す。図中、縦軸は蛍光強度を示す。SCUPA (10μg; (A) 及び (B))、IFNγ (2μg; (C) 及び (D))、C5a (2μg; (E) 及び (F))、IgG (20μg; (G)) 並びにBSA (10μg; (H)) をそれぞれ膜上にスポットし、U937細胞由来膜蛋白質が包埋された蛍光標識リポソームと該膜を反応させた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜蛋白質とそのリガンドの一括発見及び一括定量並びにその機能(相互作用)の解析を可能にする機能的蛋白質科学 (functional proteomics) の方法論、技術及び装置に関する。特に、本発明は、プロテオーム解析のための膜蛋白質ライブラリー及びその調製方法、並びにそれを用いたプロテオーム解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学やゲノミクス(ゲノム科学)を含む創薬の基盤研究の進歩により、ここ数年間で創薬の様相が急速に変化し、ゲノム創薬に代表される新しい創薬方法が開発されつつある。
【0003】
新規医薬品の発見は、特定の疾患において独自の生理活性を有する物質を見つけ出すことにある。このような生理活性を有する物質の多くは蛋白質であり、蛋白質の構造と機能の解明は医薬品開発において必須の課題である。
【0004】
受精から発生・分化・増殖・代謝・死に至る生命活動にとって、膜包埋蛋白質は重要な機能を担っている。これら膜蛋白質は細胞外情報の細胞内伝達の膜受容体として、生理物質の細胞内外への特異的な膜運搬体として、並びに動的な膜構造を保持する膜の裏打ち蛋白質として機能している。精製、単離及び機能解析における困難性は、膜会合蛋白質の研究を遅延させてきた。
【0005】
蛋白質の機能(生理作用)は、ゲノミクスにより決定された核酸配列からは予測できないため、遺伝情報を新薬に結び付ける方法の確立がポストゲノムに求められている。その一つとしてプロテオミクス(蛋白質科学)が注目を浴びている。100,000種を超えて存在する全蛋白質の単離、同定、機能の解明がプロテオミクスの目標である。状況が進むにつれ、ゲノム情報を蛋白質機能の理解にいかに結び付るかが、21世紀創薬の戦略課題となっている。
【0006】
生命活動全般に関わる蛋白質分子の構造と機能の高度な多様性はDNA分子の多様性の比ではない。この意味において、構造的に類似したヒトの24本の染色体に対しDNA配列決定法のみを適用して成功を達成したゲノミクスの戦略を、多様性に富む対象を扱うプロテオミクスにそのまま適用することは非現実的である。また、DNA配列のみでは生命活動の予測は不可能である。従って、蛋白質機能を解明し得るプロテオミクスが切望される。
【0007】
分子構造と分子活性との関係は生物学の研究において基本的である。構造−活性関係は、任意の生体反応、例えば酵素の機能、細胞間連絡法、並びに細胞制御及びフィードバック系を理解するために重要である。
【0008】
蛋白質は生命現象の源であり、他の分子(蛋白質分子、DNA分子、合成化合物、光子などを含む)との相互作用においてその機能を発揮する。所定の蛋白質を理解するということは、当該分子の物理的又は化学的性質の単なる列記を超える。これは、互いに影響する分子を同定し、その相互作用の現象形態(生理作用)を解明することにより、どの分子とどのような相互作用が生じているかを見出すことを含む。
【0009】
ある種の巨大分子が、非常に特異的な3次元的及び電子的分布を有する他の分子と相互作用し、そして結合することが知られている。この様な特異性を有する任意の巨大分子は、それが代謝中間体の加水分解を触媒する酵素であるか、イオンの膜輸送を仲介する細胞表面蛋白質であるか、近隣の細胞に対して特定の細胞を同定するのに役立つ糖蛋白質であるか、血漿中で循環しているIgG抗体であるか、核DNAのオリゴヌクレオチド配列であるか等に拘らず、受容体と考えることができる。受容体が選択的に結合する種々の分子はリガンドとして知られている。
【0010】
既存の医薬品の約半数は細胞膜上の受容体を介して作用することが知られている。従って、新規膜蛋白質とその生理的リガンドの解明は、種々の疾患の新規治療薬開発に画期的なスクリーニング系を提供する。さらに、疾患に関わる新規・既知の膜蛋白質・リガンドのデータベースの構築は、ゲノム薬理学が到達できない疾患の分子動力学の解明を可能とし、新規診断法及び新規治療薬の開発に繋がることが期待される。
【0011】
未知の受容体及びリガンドの発見には多くの方法が利用可能であるが、従来のアイデア、方法及び実験から得られうる受容体又はリガンドの数は、それらの特徴によりしばしば制限される。複数のペプチドからなる複合型の受容体の発見には、依然としてより困難な問題が伴う。新規受容体及びリガンドは、X線結晶回折又は遺伝子組換え技術等の新規技術の適用により見出される。しかし、このような新規方法は、偶然の一致に依拠し、長期間の生化学的研究を必要とするか、又は極めて限られた分子種にのみ適用可能であった。
【0012】
以上の考察を踏まえると、その生理機能の一部の解明(=生理的リガンドの同定)のために、プロテオミクスの標的として膜受容体や膜運搬体等の膜蛋白質を研究することは、大いに意義がある。
【0013】
従来のプロテオーム研究は、蛋白質分離手段として、もっぱら二次元電気泳動法に依拠してきた。しかしながら、所定の細胞の全蛋白質を解析する場合、現行法は、以下の5つの問題を抱えている。
【0014】
第1に、生体試料全体を一枚のゲル上で電気泳動すると、高分子量の蛋白質や不溶性膜蛋白質は泳動されずに原点付近に残るために解析自体が不能になる。従って、従来の二次元電気泳動法は、細胞に発現する全蛋白質の解析ができず、特定の蛋白質(主として、可溶性の低分子量蛋白質)の解析に用いられていた。20世紀の生物学は分子生物学技術の開発によって劇的な発展を遂げたが、標的とされた蛋白質の多くは可溶性蛋白質であった。初期のプロテオーム研究は、血漿中に検出される蛋白質の総数が約200個であるが、細胞破砕液に含まれる蛋白質の数が1400〜4000個であることを明らかにした。ヒト蛋白質をコードする約30000個の遺伝子から発現する蛋白質の総数は100,000個を超えると予測される。このことは、最高感度のプロテオミクス技術によってさえも全蛋白質の数%しか検出できないことを意味する。
【0015】
如何なる生命現象も蛋白質の機能として説明することができるが、同時に生命は自己と非自己を膜で区切ることで誕生した。すなわち、外界の非自己を認識し、自己をそれに応答させる仕事は、膜蛋白質により行われている。ところが、現在のプロテオミクス技術で検出不能の蛋白質の多くは、膜に会合して、又は膜に埋め込まれてその機能を示す、生命活動に重要な役割を担うこれら膜蛋白質である。
【0016】
第2に、複数の蛋白質からなり、細胞中の特有の機能を発揮する蛋白質複合体は、界面活性剤を含む緩衝液中で泳動すると疎水性相互作用に基づく蛋白質間の結合が解離するために、実際に生体に存在する構造(蛋白質の四次構造)と機能を解析することができない。
【0017】
第3に、生体試料中に含まれる全蛋白質をグループ分けする有効なアイデア、方法又は技術が提供されていない。合計約30,000個のヒト遺伝子から発現する全蛋白質数は100,000個を超える膨大な数にのぼる。それらは、同一遺伝子からの転写後にスプライシングに供され、それによりペプチド鎖が他よりも短い蛋白質が生成し、そして翻訳後には糖質、脂質、燐酸基等の種々の修飾に供される。その結果、プロテオミクスの標的である蛋白質は、ゲノミクスの標的であるDNAポリマー分子に比べて、はるかに複雑な分子群からなる。これらの事実に基づくと、目的(核酸配列を決定すること)のみに基づく方法論(核酸の配列決定)しかプロテオームの多様な構造と機能を解明できないという仮説が提起される。従って、プロテオーム解析の前に、生体試料に含まれる蛋白質を、何らかのアイデアに基づいてグループ分けすることが非常に重要であり、そして前処理の幾つかの試みが、今日までになされている。例えば、Mollyら [Eur. J. Biochem. 267, 2871-2881 (2000)] 及び Santoniら [Electrophoresis 21, 1054-1070 (2000)]は、強力な溶解剤を用いて試料を前処理したが、全ての蛋白質は可溶化しなかった。Herbertら [Electrophoresis 21, 3639-3648 (2000)] 及び Zuoら [Anal. Biochem. 284, 266-278 (2000)] は、それらの等電点に基づき分離することにより試料を前処理したが、標的蛋白質に応じて適切な範囲の等電点を設定することが困難なため、等電点電気泳動をすることはできなかった。これらの試みは、電気泳動法の部分的な改善を目的としており、本発明によって実現される全蛋白質のグループ分けによる全プロテオーム解析を目的としていないことに留意されるべきである。しかしながら、グループ分けの効果的なアイデアは現在までに何ら提唱されていなかったため、試料調製からその後の解析に至るまで試料をグループ分けしない同様の方法が用いられている。これは、プロテオミクス研究を上記の2つの問題と直面させる。
【0018】
第4に、プロテオミクスの従来の研究では、ゲルを小さな画分に区分し、特定の溶液を使用して各画分から蛋白質を抽出するという時間を浪費する多工程の複雑な操作が、MS解析前に必要とされる。この方法の複雑な操作は、装置の小型化、測定時間の短縮、複数の試料の処理、又は装置全体の自動化を妨げる。
【0019】
第5の問題は、多くの種類の、いわゆる「量が少ない蛋白質(low-abundance protein)」が存在することである。酵母では、たった100個の遺伝子が、全蛋白質のうち50重量パーセントをコードしており、このことは、残りの50%の蛋白質が数千の遺伝子の産物であることを意味する。多くの最も重要な蛋白質(例えば、調節蛋白質、又は受容体を含むシグナル伝達関連蛋白質)が、「量が少ない蛋白質」に含まれ、電気泳動に基づく現在のプロテオーム解析法は、それらを解析することができない。
【0020】
電気泳動のこのような限定された能力を解決し、かつ蛋白質間相互作用を解明するために、ICAT(同位体コード親和性タグ)法 [Gygiら、Nat. Biotech. 10, 994-999 (1999)]、酵母のツーハイブリッドシステム、BIA−MS−MS、蛋白質アレイ法(溶液又はチップ) [Zhouら、TRENDS in Biotechnology 19, S34-S39] 又はLC-MS-MSのペプチドミックスなどの多くの試みがなされている。しかしながら、これらの新規方法及び技術論は、プロテオミクスの究極目的である全プロテオームの発現解析、相互作用解析及びネットワーク解析を実現していない。固相蛋白質アレイ法(チップ法) [Fungら、Curr. Opin. Biotechnol. 12, 65-69 (2001)] 及び液相蛋白質アレイ法 (例えば、蛍光コードビーズ [Fultonら、Clin. Chem. 43, 1749-1756 (1997)] [Hanら、Nat. Biotechnol. (in press)] を含む上記方法のうち最も有望な蛋白質アレイ法でさえも、2つの最も重要な基本的技術論、即ち、全プロテオームの精製及び分離、並びに支持体上への全プロテオームの選択的固定化を実現できていない。
【0021】
本発明者らは、膜蛋白質のプロテオーム研究のために、身体(即ち、プロテオーム)を構成する全蛋白質を膜蛋白質と他の水溶性蛋白質とにグループ分けするという新規なアイデアを提唱した(WO 02/56026)。
【0022】
可溶性蛋白質のみを電気泳動し、膜蛋白質を新規方法により解析するというこのような洞察及び導入(即ち、膜蛋白質を、細胞膜脂質二重層モデルの人工リポソームに包埋し、膜蛋白質ライブラリーを構築する)は、電気泳動による膜蛋白質解析における困難性を解決し、そしてグループ分けした後に、可溶性蛋白質に対する生物学的親和性を利用する全蛋白質(膜蛋白質及び可溶性蛋白質)解析を通じて膜蛋白質の機能(可溶性蛋白質との相互作用)を解析するという基本原理を確立する。この本質的な技術論はまた、膜蛋白質間又は可溶性蛋白質間の相互作用のスクリーニング及び解析に適用可能であり、将来のプロテオミクスに対して革新的な理論を提供する。
【0023】
上記の新規プロテオーム解析方法において、使用される膜蛋白質ライブラリーの性状が膜蛋白質−水溶性蛋白質相互作用の検出性能に大いに影響を及ぼす。そのような性状はライブラリーの調製方法によって変動する。膜蛋白質ライブラリーの性状の中で最も重要なことは、ライブラリーを構成する実質的にすべての膜蛋白質が、生理的機能、すなわちネイティブな構造を保持することである。さらに、リポソームあたりに包埋される膜蛋白質の数とリポソームのサイズなどが、膜蛋白質のプロテオーム解析のために使用されるライブラリーの性状に影響を与えると考えられている。しかしながら、プロテオーム解析のための膜蛋白質ライブラリーとしてのプロテオリポソームの条件の調査に関する報告はなされていない。
【0024】
したがって、本発明の目的は、プロテオーム解析方法に適した膜蛋白質ライブラリー及びその調製方法を提供することである。本発明の別の目的は、プロテオーム研究のための膜蛋白質ライブラリーの種々の応用を提供することである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、膜蛋白質の調製に従来用いられていた界面活性剤、変性剤及び有機溶媒を用いずに膜画分を調製し、該画分をリポソームと接触(融合)させることによって、ネイティブな構造及び機能を保持する膜蛋白質を含むライブラリーを構築することに成功した。さらに、本発明者らは、膜蛋白質を担持するリポソームのサイズおよび膜蛋白質と脂質の量比を最適化することにより、ライブラリーの性状を著しく向上させることに成功して、本発明を完成するに至った。
したがって、本発明は以下のものを提供する。
工程:
(1) 生体試料から可溶性蛋白質画分を単離し、ゲル電気泳動により画分中の可溶性蛋白質を分離し、蛋白質をその生理的機能を保持して固定化し得る表面を有するリガンド支持体に泳動後のゲルを接触させて、ゲル中の可溶性蛋白質をリガンド支持体に移行させる;
(2) 細胞試料から膜画分を単離し、膜画分をリポソームと融合させて、全ての膜蛋白質がその脂質二重層に付着若しくは貫通した膜蛋白質ライブラリー(膜蛋白質包埋リポソームのセット)を調製する;
(3) リガンド支持体上に固定された可溶性蛋白質を膜蛋白質ライブラリーと接触させて、可溶性蛋白質に対して親和性を有する膜蛋白質をリガンド支持体上に捕捉する;および
(4) 親和性を有する膜蛋白質および可溶性蛋白質の両方もしくはいずれか一方を、これら蛋白質の物理的又は化学的性質の少なくとも1つを解析し得る手段により分析する;
を含むプロテオーム解析方法における工程(2)の方法、
すなわち、細胞膜脂質二重層モデルの人工リポソーム中に膜蛋白質を包埋し、プロテオーム解析のための使用に適した膜蛋白質ライブラリーを構築する方法、並びにそれによって得られる新規膜蛋白質ライブラリー。
【0026】
特に、本発明は以下のものを提供する。
(1) リポソーム中に包埋された膜蛋白質のライブラリーの調製方法であって、(a) 界面活性剤、変性剤及び有機溶媒のない膜蛋白質のライブラリーを提供し、(b) 該膜蛋白質のライブラリーをリポソームと接触させて膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーを形成させることを含む方法。
(2) 該膜蛋白質が、少なくともGPIアンカー型受容体、G蛋白質共役型受容体およびオリゴマー型受容体を含む、上記(1)の方法。
(3) 膜蛋白質包埋リポソームが約10nm〜約5,000nmの直径を有する、上記(1)の方法。
(4) 膜蛋白質包埋リポソームが約10nm〜約500nmの直径を有する、上記(3)の方法。
(5) 脂質に対する蛋白質の重量比が0.01〜0.8である、上記(1)の方法。
(6) 脂質に対する蛋白質の重量比が0.05〜0.5である、上記(5)の方法。
(7) 膜蛋白質の量が約10fg以上である、上記(1)の方法。
(8) 約1x105以上の膜蛋白質包埋リポソームを含む膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーであって、リポソームが10nm以上の直径を有し、かつ膜蛋白質の量が約10fg以上であるライブラリー。
(9) 膜蛋白質の量が約1pg以上である、上記(8)のライブラリー。
(10) 膜蛋白質の量が約10pg以上である、上記(9)のライブラリー。
(11) 約1x108以上の膜蛋白質包埋リポソームを含む、上記(8)のライブラリー。
【発明の効果】
【0027】
本発明の、リポソーム中に包埋された膜蛋白質のライブラリー及びそれを用いたプロテオーム解析方法は、以下の問題を解決する。
【0028】
膜蛋白質が、蛋白質変性剤、蛋白質可溶化剤、その他膜蛋白質が存在する生理条件を逸脱させるいかなる処理条件も使用せずに、その疎水性領域及び親水性領域の生体状態を維持して人工リポソーム膜に移行するので、膜蛋白質の2次、3次、4次構造及び生理機能の保持が可能となる。受容体については、GPI型、GPCR型及びオリゴマー型受容体を含む任意の生体膜型受容体の任意の構造と機能の保持を可能とする。従って、全ての膜蛋白質が、構造と機能を保持したまま調製でき、それによって医学、農学を含む全ての生物学領域において膜蛋白質研究の困難さが払拭される。
【0029】
膜蛋白質が移行したリポソームを支持体上に固定された種々のリガンドと接触させ、両者の生物学的親和性を利用して精製することによって、高度に精製された、目的とする膜蛋白質・リガンド複合体が、単離され得る。
【0030】
本発明のプロテオーム解析においては、膜蛋白質とリガンド(拮抗剤を含む)の分子間の純粋な相互作用は、両分子が高純度であるか、他の多数の物質と共存しているかにかかわらず、また、細胞内情報伝達物質若しくは転写調節物質による影響を受けることなく測定され得る。換言すれば、細胞の応答性に依拠した相互作用検出法では、リガンドの生理学的作用点が、膜蛋白質か、細胞内情報伝達物質か、転写調節物質か、あるいはその他の作用点かが不明なままである。それに反して、本発明は、膜蛋白質とリガンドのみの相互作用の検出を提供する。
【0031】
本発明のプロテオーム解析の全自動化により、画期的な産業上の利用分野が開拓され得る。その一例は、全自動膜蛋白質・リガンドプロテオーム解析システムである。その構成要素の概略図を図1に示す。なお、膜蛋白質の研究目的に応じて、本発明に基づいて種々の他の装置を組み立てることが可能なことは言うまでもない。本発明のプロテオーム解析は、ゲノム配列から相同性検索によりG蛋白質共役型受容体(GPCR)を予測することを含むオーファンリガンドの研究はもちろんのこと、ゲノム配列及びコンピューターを用いる相同性に基づく予測技術では到底発見不可能なその他の全てのタイプの受容体(GPI型、オリゴマー型)とそのリガンドの発見、同定、解析に利用可能である。
【0032】
その上、本発明のプロテオーム解析は、今なお困難を極める全てのタイプの膜蛋白質(受容体以外の膜蛋白質)の発見、同定及び解析に多大な貢献をすると考えられ、従って、全膜蛋白質とリガンドが関与する疾患の解析、診断薬・診断法の開発、治療薬の開発を目的とする、いわゆる「受容体関連創薬型」医薬品を含むいわゆる「膜蛋白質関連創薬型」医薬品の開発を可能にする。
【0033】
本発明のこれら及び他の目的及び利点、並びに本発明の他の特徴は、本発明の以下の説明から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
1.用語
以下の用語は、本明細書において使用される場合、下記の一般的意味を有する。
【0035】
(i) 「相補的」とは、受容体とそのリガンドが相互作用する表面の形態的(topological)適合性又は一致性をいう。換言すれば、受容体とそのリガンドは相補的であり、そしてそれ故、その接触表面特性は相互に相補的である。
【0036】
(ii) 「リガンド」は、特定の受容体により認識される分子である。本発明におけるリガンドの例としては、生理学的リガンドに限定されず、細胞膜受容体に対するフルアゴニスト、パーシャルアゴニスト、アンタゴニスト及びインバースアゴニスト、毒素、ウイルスエピトープ、ホルモン(例えば、鎮静剤、オピエート、ステロイド等)、ペプチド、酵素、酵素基質、補酵素、薬物、レクチン、糖、オリゴヌクレオチド、核酸、オリゴサッカライド、蛋白質、及びモノクローナル抗体が挙げられる。リガンドは天然分子でも人工分子でもよい。天然リガンドの局在は限定されない。それは、大気圏を含む地球表面上に存在する任意の物質、生物が分泌する物質、細胞内物質、細胞小器官内物質、核物質などであり得る。
【0037】
(iii) 「受容体」とは、特定のリガンドに対する親和性を有する分子である。受容体は天然分子でも人工分子でもよい。これは、単独で又は他の分子種との複合体として機能する。受容体は、共有結合により又は非共有結合により、直接的に又は特定の結合物質を介して複合受容体(オリゴマー受容体)を形成する。本発明により使用され得る受容体としては、抗体、細胞膜受容体、特定の抗原決定基(例えばウイルス、細胞又は他の材料上にあるもの)と反応するモノクローナル抗体及び抗血清、薬物、ポリヌクレオチド、核酸、ペプチド、補酵素、レクチン、糖、ポリサッカライド、細胞、細胞膜、及びオルガネラが挙げられるがこれらに限定されない。受容体はしばしば、当該分野において抗リガンドと称される。本明細書において「受容体」なる用語が使用される場合、意味の相違は意図されない。
【0038】
さらに本発明においては、その構造・機能にかかわらず、任意の膜受容体、膜チャネル、膜ポンプ、膜運搬体、膜裏打ち蛋白質、及びそれら蛋白質に会合により結合する物質が、受容体もしくは膜蛋白質と広く記載される。なぜなら、本発明の方法によれば、それらを単離・同定し得ることが当業者に容易に認識されるからである。
【0039】
2つの巨大分子が分子認識を介して結合して複合体を形成する場合、「リガンド・受容体複合体」が形成される。受容体の局在は、狭義の細胞膜(細胞外層を形成するいわゆる原形質膜)に限定されない。受容体とは、共通する構成物である脂質二重層を有する任意の膜に結合する分子をいう。例えば、核膜に結合するDNAポリメラーゼ複合体は、DNAの複製及び修復に重要であり、RNAポリメラーゼは、転写に重要であり、小胞体膜に結合するリボソームは、蛋白質の翻訳に重要である。ミトコンドリア膜に結合する酸化還元酵素群は、ATP産生に重要な役割を担っており、ペルオキシゾーム膜の代謝関連酵素群は、過酸化物の代謝や熱の発生に関わっており、ライソゾーム膜に含まれる分解酵素群は、蛋白質、核酸、糖質及び脂質の分解に関わっており、ゴルジ装置の膜蛋白質は、蛋白質合成後のグリコシル化、及び合成された蛋白質若しくは脂質の膜輸送において重要な機能を有する。さらに細胞内の情報伝達に深く関わるリン酸化酵素群、並びに脱リン酸化酵素群の作用する足場として種々の細胞内膜表面が関わっている可能性が示唆される。以上の例示は、受容体(膜蛋白質)の重要な機能をその例示範囲に限定するものではない。膜蛋白質が関わる生命現象の多様性が示されるにつれて、本発明により新たに同定される膜蛋白質及びそれらの機能は、全て本発明に包含される。
【0040】
受容体と脂質二重層の位置関係は変動する。最も一般的なものは、蛋白質の疎水性領域と脂質二重層の疎水性領域との疎水性相互作用によって安定化され、且つ数回折り畳まれた膜貫通型のもの(G蛋白質共役型受容体)である。これには、脂質二重層の外側の脂質層に埋め込まれたGPIアンカー型受容体(グリコシルホスファチジルイノシトールアンカー型受容体)も含まれる。例としては、細胞の外側の表層に固定された糖蛋白質、糖脂質、オリゴマー糖質、細胞の内側に固定されたGTP/GDP共役蛋白質群を含む広義のオリゴマー受容体構成分子群、膜の形状の維持及び変化に重要な役割を果たす膜の裏打ち蛋白質群、それらと結合する機能性蛋白質群などが挙げられる。以上は、受容体(膜蛋白質)と脂質二重層の位置関係の例示である。例示は限定的ではない。本発明によりさらに多彩な位置関係が明らかにされるにつれ、本発明はこのような任意の関係を含むものである。
【0041】
本発明において研究対象となり得る受容体は未知なものを含め多数存在する。以下の例示は、これらの一部である。
【0042】
a) 癌特異的膜蛋白質
癌細胞膜に発現し機能する膜蛋白質を同定し、その機能を解析することにより、癌細胞に対する増殖抑制、アポトーシス誘導、転移抑制等の作用機序を持った医薬品の開発が期待される。当該膜蛋白質に特異的な抗体自体が、有効な医薬品として使用され得るとともに、毒素等を標的癌細胞に送達するターゲッティング療法にも適用可能である。
【0043】
b) 自己免疫疾患において自己抗体(リガンド)、又は臓器移植において自己組織障害性リンパ球が攻撃する組織の細胞膜に発現する膜蛋白質を同定することによって、自己抗体あるいは自己抗原特異的組織障害性リンパ球との結合をブロックするのに有用な関連診断薬又は医薬品を開発することができる。特に、自己免疫疾患の疾患多様性は、組織特異性に基づくと考えられており、アジソン貧血、糸球体腎炎(原発性、IgA)、グレーブス甲状腺機能亢進症、インスリン依存性糖尿病、多発性硬化症、悪性貧血、慢性関節リウマチ、シェーグレン症候群、乾癬、全身性エリテマトーデス、甲状腺炎、白斑、クローン病、特発性血小板減少性紫斑病及び他の疾患において自己抗体又は自己組織障害性リンパ球が攻撃する膜抗原を単離及び同定することができれば、副作用が軽減され、且つ個々の自己免疫疾患に特異的な医薬品を開発することができる。
【0044】
c) 人工リガンド(拮抗剤)は存在するが、内因性のリガンドが未知であるベンゾジアゼピン受容体、カンナビノール受容体、シグマ受容体1、シグマ受容体2の内因性リガンドを特定することによって、及びNMDA受容体のフェンシクリジン結合サイトに結合する内因性リガンドを特定することによって、中枢神経疾患の画期的な治療薬を開発することができる。
【0045】
d) 微生物に発現する受容体
微生物の生存に必須な膜運搬体に結合するリガンドの決定は、新しい作用機序を有する抗生物質の開発に有用である。特に、日和見真菌、原生動物及び現在使用されている抗生物質に耐性を有する細菌に対する抗生物質が価値がある。
【0046】
e) リガンドとしての核酸に対する受容体
核酸配列を合成し、DNA又はRNA配列にハイブリダイズする膜蛋白質を単離、同定及び機能解析し、外因性核酸と細胞膜機能の全く新しい相互作用を解明し、有用な関連診断薬又は医薬品の開発を導くことができる。例えば、アンチセンス技術に基づく医薬品の細胞内への有効な輸送系、又はDNA,RNAウイルスの新しい感染防御機構を開発することができる。
【0047】
f) リガンドとしての脂質又は脂質代謝物に対する受容体
これらの低分子量化合物を合成し、交差反応する膜蛋白質を単離、同定、機能解析し、有用な関連診断薬又は医薬品を開発することができる。例えば、アラキドン酸カスケード中の多くの代謝物の平滑筋の収縮及び弛緩作用に関与する全く新しい受容体の発見、並びに細胞の形態、移動、増殖及び接着に関与するEDG(内皮分化遺伝子)受容体の新規サブタイプの発見によって、中枢神経疾患、循環器疾患、癌、消化器系疾患、免疫系疾患の領域において全く新しい作用機序を有する医薬品を開発することができる。
【0048】
g) 膜蛋白質プリオン
正常プリオンから病原性プリオンへの転化機構の解明のためには、その本来の構造であるGPI型プリオン膜蛋白質をリポソームに包埋させた再構成系を使用し、リポソーム膜からの遊離機構、遊離促進分子の単離、膜蛋白質型プリオンと遊離プリオンの病原性プリオンへの転化率の解析等を、本発明に基づき研究する。結果として、病原性プリオンの測定系、病原性プリオンの除去法、病原性プリオン感染防御法、CJD発症の遅延法、CJD発症患者の治療法等を開発することができる。
【0049】
(iv) 「生体膜」とは、構成成分として脂質二重層を有する任意の膜をいい、細胞膜、並びに任意の生物の細胞内小器官を構成する膜(例えば、小胞体膜、ゴルジ体膜、核膜等)が挙げられる。
【0050】
(v) 「リポソーム」とは、脂質二重層により外界から仕切られた粒子を意味する。リポソームの脂質二重層は、物理的、化学的及び生物学的に生体膜に類似する。好ましくは、リポソームは、植物から抽出された脂質等の膜構成成分から構成される。
【0051】
(vi) 「膜会合物質」とは、生体膜を貫通する、又は生体膜の内側若しくは外側に結合する任意の物質をいう。膜会合物質としては、細胞の外側から内側へと情報を伝達する膜受容体、細胞の外側及び内側の間で生理物質の輸送のために膜チャネルを構成する膜蛋白質、動的膜構造を保持する膜裏打ち蛋白質、蛋白質翻訳酵素、リボソーム及び共有結合又は非共有結合を介して生体膜に結合する任意の他の物質が挙げられる。
【0052】
(vii) 「膜蛋白質包埋リポソーム」とは、膜蛋白質が共有結合又は非共有結合を介して結合するリポソームをいう。
【0053】
(viii) 「膜蛋白質ライブラリー」とは、所定の細胞の生体膜、所定の細胞の全ての生体膜、所定の組織の全ての生体膜、所定の器官の全ての生体膜、所定の個体の全ての生体膜、又は任意の他の可能な生体膜試料に含まれる膜蛋白質から構成される膜蛋白質包埋リポソームのセットを意味する。
【0054】
(ix) 「リガンド支持体」とは、一般にリガンドと称される可溶性分子を結合させるための基材をいう。この基材は、その形状と特性を維持するための基本構造、及びリガンドの結合形態と結合量を最適化するためのリガンド吸着素材(表面)からなる。
【0055】
リガンド吸着素材は、リガンドの結合形態に応じて共有結合性であっても非共有結合性吸着素材であってもよい。後者の吸着形態としては、典型的には、順相、逆相、疎水性、陰イオン性、陽イオン性及び他の非共有結合性吸着素材が挙げられる。
【0056】
吸着素材は、リガンドと基材の基本構造表面との間に、距離(10Å〜10000Å、好ましくは約100Å)を置くスペーサー分子を含んでいてもよい。このスペーサー分子の素材は、網目状又は多孔性の生体ポリマーであっても合成ポリマーであってもよい。如何なる場合であっても、それは、直径10nm〜5000nm(例えば、約50、100、200、300、400、500、750、1000、1500、2000、2500、3000、4000、4500nm、あるいは前記直径のいずれか2つの間の範囲)のリポソームに包埋された膜蛋白質がリガンドと非常に強い結合力で結合できるように、膜蛋白質とリガンドのアフィニティーよりもアビディティー (avidity) をもたらすように形成される。好ましくは、膜包埋リポソームは約10nm〜約500nmの直径を有する。
【0057】
(x) 「質量分析用プレート」とは、一般にリガンドと称される可溶性分子を結合させるための基材(リガンド支持体)の中で、リガンドを一次元及び二次元電気泳動法や高速液体クロマトグラフ法等の高精度分析法で分離し、基材表面上に直接移行させた後に、その後の高感度質量分析計に自動的且つ瞬間的に適合させ得る基材を意味する。基材は、その形状と特性を維持するための基本構造、及びリガンドの結合形態と結合量を最適化するためのリガンド吸着素材(基材表面)からなる。
【0058】
リガンド吸着素材は、リガンドの結合形態に応じて共有結合性であっても非共有結合性吸着素材であってもよい。後者の吸着形態としては、典型的には、順相、逆相、疎水性、陰イオン性、陽イオン性及び他の非共有結合性吸着素材が挙げられる。
【0059】
吸着素材は、リガンドと基材の基本構造表面との間に、距離(10Å〜10000Å、好ましくは約100Å)を置くスペーサー分子を含んでいてもよい。このスペーサー分子の素材は、網目状又は多孔性の生体ポリマーであっても合成ポリマーであってもよい。如何なる場合であっても、それは、直径10nm〜5000nm(例えば、約50、100、200、300、400、500、750、1000、1500、2000、2500、3000、4000、4500nm、あるいは前記直径のいずれか2つの間の範囲)のリポソームに包埋された膜蛋白質がリガンドと非常に強い結合力で結合できるように、膜蛋白質とリガンドのアフィニティーよりもアビディティーをもたらすように形成される。好ましくは、膜包埋リポソームは約10nm〜約500nmの直径を有する。
【0060】
(xi) 「質量分析計」とは、気体状の試料をイオン化した後、イオン化分子及びその分子断片を電磁場に投入し、その移動状況から質量数/電荷数によってそれらを分離し、物質のスペクトルを求めることにより、物質の分子量を測定、検出する装置を意味する。好ましく利用され得る数種のタイプが存在するが、他のタイプもまた使用され得る。
【0061】
典型的な実施態様(図1)では、本発明のプロテオーム解析方法は、可溶性蛋白質のみをゲル電気泳動により分離し、分離した可溶性蛋白質をゲルから直接質量分析用プレート上に転写する工程(工程A)、膜蛋白質を人工リポソーム膜に付着または貫通させる工程(工程B)、膜蛋白質包埋リポソームを可溶性蛋白質が転写された質量分析用プレートと接触させ、生物学的親和性(アビディティー)を利用してリガンド・受容体複合体を形成させる工程(工程C)、及び該複合体を質量分析により一括して検出し、得られたデータを集積し、データベース化する工程(工程D)を含む。
【0062】
工程A〜Dの具体的な実施態様及び当該工程を実施するための各装置、並びにこれら構成要素から派生する本発明の他の局面を以下に詳細に説明する。
【0063】
2.膜蛋白質包埋リポソームの製造(膜蛋白質ライブラリー)(工程B)
本工程は、細胞からの膜画分分離、リポソーム作製、膜画分とリポソームの融合、融合リポソーム(膜蛋白質包埋リポソーム)の粒子サイズ調整、さらに必要ならば融合リポソームの保存を含む。
【0064】
細胞からの膜画分の抽出に際しては、従来の方法が使用できる。例えば、標的細胞を入手し、種々の蛋白質分解酵素阻害剤の存在下に適切な緩衝溶液中でホモゲナイズするか、ポリトロン等の細胞破壊装置で懸濁化するか、低浸透圧ショックにより破壊するか、又は超音波処理により細胞膜を破壊する方法が使用できる。その後、細胞膜画分、細胞小器官膜画分は、種々の媒体を用いた濃度勾配遠心法にて調製される。
【0065】
リポソームの作製法としては、種々の既知の方法を用いることができる。選ばれた脂質の混合液を有機溶媒中に均一に溶解し、アルゴンガス中で溶媒を完全に気化し、緩衝溶液中で水和させてリポソームを作製することがその代表であるが、これに限定されない。リポソームの組成は重要である。一般に、細胞膜は、コレステロールを豊富に含むが、小胞体等の細胞内小器官を構成する脂質二重層は、コレステロールを殆ど又は全く含まない。従って、リポソームに移行させる細胞膜蛋白質の種類を決定する上で、膜蛋白質の受け皿となるリポソームの組成は非常に重要な因子となる。当業者は、膜蛋白質の由来に応じてリポソームを構成する脂質を適宜決定することができる。
【0066】
膜画分をリポソームと融合させる法としては、種々の公知の方法を用いることができる。例えば、両者を適切な割合で混合した後に、凍結融解を繰り返すことを含む方法、選ばれた脂質の混合液から作製されたフィルム上に膜画分を含む水溶液を置いた後、水和法により膜蛋白質を脂質二重層に移行させることを含む方法又はその他の方法が本目的に使用できる。好ましくは、凍結融解法であり、本方法を用いることで、膜蛋白質のリポソームへの包埋率(移行率)を100%にすることができる。
【0067】
本発明の膜蛋白質包埋リポソームの調製方法は、その過程の間に界面活性剤、変性剤、有機溶媒等を使用しないので、該方法によれば、原則的に、いかなる膜蛋白質も、その機能を保持したままリポソーム膜中で再構成させ得る。言い換えれば、この膜蛋白質包埋リポソームライブラリーの調製方法は、界面活性剤、変性剤、及び有機溶媒を含まない膜蛋白質のライブラリーを提供し、該膜蛋白質のライブラリーをリポソームと接触させて膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーを形成させることを含む。
【0068】
あるいは、リポソームを形成した後に膜蛋白質と融合する際には、リポソームと膜蛋白質画分との融合は、粒子径を10 nm〜5000 nm、好ましくは10 nm〜500 nmに調整することにより促進することができる。
【0069】
作製された膜蛋白質包埋人工リポソームは、超音波処理法、ホモジナイザー法又は他の方法によりサイジングすることができる。本発明では、膜蛋白質の変性を最小にし、且つ粒子経を10nm〜5000nm、好ましくは10nm〜500nmに調整するために濾過法(エクストルーダー法)を使用することが好ましい。
【0070】
膜画分とリポソームの混合比率を注意深く調整することにより、リポソームに包埋される膜蛋白質の種類と数を所望の通りに制御することができる。この技術は、後述する装置Cによる、本発明の複合体を形成したリガンドと膜蛋白質の両者の分子量の測定及び決定に際して、ノイズ蛋白質(ノイズピーク)を減少させることにより解析を容易にするために決定的に重要である。
【0071】
リポソームを構成する脂質に対する膜画分中の膜蛋白質の比(w/w)、即ち、膜包埋リポソームライブラリーの蛋白質対脂質(P/L)比は、任意の適切な比であってよいが、好ましくは約0.8以下、より好ましくは0.01〜0.8(例えば、0.02〜0.7、0.03〜0.6、または0.05〜0.5)である。P/L比は使用されるリポソームのサイズ等によって変動し得る。例えば、約500〜600nmの平均直径を有するリポソームを使用する場合、P/L比は、好ましくは約0.05以下、より好ましくは0.01〜0.05(例えば、0.015〜0.045、または0.02〜0.04)である。
【0072】
膜包埋リポソームのライブラリーを構成するリポソームの数は、膜蛋白質の解析手段の検出限界、ライブラリーに含まれる膜蛋白質の種類の数、膜蛋白質の発現レベルにおける差異などによって変動するが、好ましくは、ライブラリーを構成するリポソームの数は、約105以上(例えば、約1076以上または約107以上)、より好ましくは約108以上(例えば、約109以上、約1010以上または約1011以上)、さらに好ましくは約1012以上(例えば、約1013以上、約1014以上または約1015以上)である。
【0073】
膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーは任意の適切な数の膜蛋白質を含む。好ましくは、該ライブラリーは、約1フェムトグラム(fg)以上の膜蛋白質(例えば、約5fg以上、約10fg以上、約15fg以上、約25fg以上、約50fg以上、約75fg以上、約100fg以上、約200fg以上、約300fg以上、約400fg以上、約500fg以上、約600fg以上、約700fg以上、約800fg以上または約900fg以上)を含む。より好ましくは、該ライブラリーは、約1ピコグラム(pg)以上の膜蛋白質(例えば、約2pg以上、約3pg以上、約4pg以上、約5pg以上、約6pg以上、約7pg以上、約8pg以上または約9pg以上)を含む。最も好ましくは、該ライブラリーは、約10pg以上の膜蛋白質(例えば、約15pg以上、約20pg以上、約30pg以上、約40pg以上、約50pg以上、約60pg以上、約70pg以上、約80pg以上、約90pg以上または約100pg以上)を含む。
【0074】
望ましくは、該ライブラリーは、約2ミリグラム(mg)以下の膜蛋白質(例えば、約1.75mg以下、約1.5mg以下、約1.25mg以下、約1mg以下、約0.75mg以下、約0.5mg以下、約0.25mg以下または約0.1mg以下)を含む。
【0075】
こうして得られる標的膜蛋白質が脂質二重層に付着もしくは貫通したリポソーム(膜蛋白質包埋リポソーム)を安定に保存する方法の開発は、プロテオーム研究をいつでもどこでも、また質量分析計などを保有しない研究機関で利用可能にするために、非常に重要である。単純リポソームの保存用に開発された幾つかの添加剤をこの目的のために用いることができる。
【0076】
本発明の方法は膜蛋白質の種類を問わず適用可能である。従って、ゲノム配列から相同性検索により予測されるG蛋白質共役型受容体(GPCR)のオーファンリガンドの探索はもちろんのこと、コンピューターによるゲノム配列相同性予測の方法からは到底発見不可能な、その他全てのタイプの受容体(GPI型、オリゴマー型)とそのリガンドの発見、同定及び解析にも応用が可能であり、それにより、全てのタイプの受容体を標的とした受容体創薬型医薬品の開発が可能となる。また、本発明は、受容体以外の膜蛋白質の発見、同定及び解析に多大な貢献をする。従って、全ての膜蛋白質とリガンドが関与する疾患の解析、診断薬・診断法の開発、治療薬の開発を目的とする、膜蛋白質創薬型医薬品の開発が可能となる。
【0077】
本発明の方法は、その構成成分の脂質部分により脂質二重層の内層に固定(貫通)されたタイプや、一般に生体膜の裏打ち蛋白質と呼ばれる脂質二重層の内側層に固定されたタイプのような、通常では細胞膜表層に現われない細胞内膜蛋白質の発見、同定及び解析にも適用可能である。
【0078】
さらに、本発明は、抗体を疾患の解析、診断及び治療に利用することを目的とする抗体創薬(抗体医薬を含む)研究に多大な貢献をする。疾患の解析、診断及び治療に有効な抗原は膜蛋白質として存在しており、対応する抗体の作製のためには、構造と機能を保持した膜抗原(膜蛋白質)の取得が必須条件である。本発明の方法、すなわち、膜抗原をその構造と機能を保持したままでリポソームに包埋する方法のみが抗体創薬に必須の上記条件を満たすことができる。抗体創薬の方法は、本発明がカバーする全ての膜蛋白質とリガンドが関与する疾患の解析、診断薬・診断法の開発、及び治療薬の開発を目指す包括的な方法の中で、リガンドを抗体に置き換えた一つの特殊な方法であることが明らかである。従って、本発明は、受容体創薬型医薬品の開発と同様に、抗体創薬型医薬品の開発を提供する。
【0079】
本発明は、膜蛋白質とそのリガンドのプロテオーム解析のために、膜蛋白質とそのリガンドの両方を一括発見、一括定量すること、及び両方の機能(相互作用)を解析すること、あるいはいずれか一方を発見、定量すること、及び両方の相互作用を解析することを可能にする。この場合、膜蛋白質とそのリガンドが既知であるか未知であるかは問われない。リガンドとしては、固有の内因性リガンド、拮抗剤(フルアゴニスト、パーシャルアゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニスト)、医薬品、試薬、抗体、及び膜蛋白質に結合するように人工的に修飾したあらゆる他の物質が挙げられる。
【0080】
本工程(工程B)で得られる膜蛋白質包埋人工リポソームは、正常な膜蛋白質を新剤型の膜蛋白質包埋人工リポソーム医薬として、膜蛋白質の欠損、変異及び他の変調が原因となる疾患を患う患者に直接投与することができる。脂質二重層の構成成分が動物以外の生物種から得られる場合、病原物質のヒトへの感染を避けることができる。
【0081】
本工程で得られる膜蛋白質包埋人工リポソームと内因性リガンドとの複合体、あるいは膜蛋白質包埋人工リポソームと拮抗剤(フルアゴニスト、パーシャルアゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニストを問わない)との複合体は、新規作用機序を有する、新剤型の膜蛋白質包埋人工リポソーム医薬として、膜蛋白質とリガンドの両方又はいずれか一方の変調が原因となる疾患を患う患者に直接投与することができる。
【0082】
本発明はまた、蛍光物質や他の標識物質を共有結合あるいは非共有結合により人工リポソームの脂質二重層に架橋する方法、疎水性相互作用により挿入する方法、及び人工リポソーム内の水相に可溶性の標識物質に封入する方法のいずれかを単独で又は組合わせて用いることで、新規且つ超高感度な膜蛋白・リガンド(拮抗剤を含む)相互作用検出の原理、方法及び装置を提供することができる。蛍光物質及び他の標識物質に代えて、第二シグナルを発生する物質(例えば、アルカリホスファターゼのような酵素)を、アビジン・ビオチンシステム又はニッケル・ヒスチジン又は他の架橋システムを利用して人工リポソームに架橋、挿入又は封入して、検出感度を増幅することもできる。
【0083】
下記実施例で示されるように、FACSで認識可能な蛍光分子及び他の標識分子を、遺伝子工学的手法や他の考えうる手法によりDNAレベル、RNAレベルあるいは蛋白質レベルで導入した標識膜蛋白質を包埋した人工リポソームが、エクストルーダー法及び他の方法により10nm〜5000nm、好ましくは500nm以下にサイジングされる場合、FACS解析によれば、標識膜蛋白質包埋リポソームのポピュレーションが当該サイズ領域に明瞭に出現する。従って、例えば、膜蛋白質をコードするcDNAを遺伝子配列から作製し、当該cDNAを含む発現ベクターで宿主細胞を形質転換して膜蛋白質(FACSで認識可能な蛍光分子及び他の標識分子を導入したもの)を発現させる場合に、発現宿主の細胞膜画分から調製された標識膜蛋白質包埋非標識リポソームを当該サイズに調整してFACSで解析すれば、膜蛋白質の発現の有無、及び発現量を検出することができる。この場合、現在利用可能な他の方法と異なり、当該膜蛋白質のDNA配列以外の情報又は試薬(抗体、リガンド、拮抗剤、細胞の応答性又は他の膜蛋白質検出薬)がなくとも、検出が可能となる。抗体等の膜蛋白質検出薬が存在すれば、蛋白質レベルでの標識が可能となり、同様にFACSによる発現解析が可能となる。もちろん同様の原理がリガンドの探索に応用可能である。
【0084】
本工程は、膜蛋白質だけでなく、細胞膜、核膜、小胞体膜等の細胞を構成する脂質二重層に付着もしくは貫通する糖質、DNA、RNAを含む生体ポリマーを1個あるいは複数個、予め検討された脂質組成と形状を有する人工リポソームの脂質二重層に付着または貫通させるという応用が可能である。
【0085】
3.迅速蛋白質転写(工程A)
本工程はゲル電気泳動及び蛋白質転写を含む。電気泳動装置は、市販の入手可能なものであっても独自に考案された装置であってもよい。目的に応じて一次元ゲル電気泳動、二次元ゲル電気泳動のどちらも使用することができる。二次元ゲル電気泳動では、一次元の泳動は蛋白質の等電点による分離が基本であり、二次元の泳動は蛋白質の分子量による分離が基本である。電気泳動に使用されるゲルのサイズは特に制限されない。第2の工程は、蛋白質を泳動後のゲルから固相(例えば、質量分析用プレート、磁性もしくは非磁性粒子など)上に移行させることを含む。
【0086】
本発明のプロテオーム解析の典型的な態様においては、膜蛋白質とリガンドは、以下に説明する膜蛋白質包埋リポソームとリガンドの複合体形成後に、一括して検出及び解析される。
【0087】
本工程(工程A)は、水溶性蛋白質のみならず、細胞を構成する脂質二重層(例えば、細胞膜、核膜、小胞体膜等)に付着も貫通もせず、細胞外液(例えば、血液、血漿、尿、骨髄液、腹水等の各種体液)若しくは細胞内液又は細胞小器官内液に存在するペプチド、糖質、DNA、RNA等や、生体由来のその他の任意の可溶性分子、人工的に合成された任意の化合物、気体状物質(例えば酸素分子、酸化窒素など)等にも適用できる。すなわち、その特性を利用して各解析標的物質を高度に精製し、最適な支持体に移行させ、膜蛋白質等を包埋したリポソームとの相互作用解析に供する。
【0088】
4.膜蛋白質及び水溶性蛋白質の結合(工程C)
本工程は、固相上に転写されたリガンドと膜蛋白質包埋リポソームとの結合反応、固相上に非特異的に結合したリポソームの洗浄・除去、及びリポソームを溶解除去して固相上にリガンドと膜蛋白質のみからなる複合体を形成させることを含む。これらの複数工程を単一の装置内で実施することができ、また、目的によってはある工程を省略することができる。例えば、これらの工程は、固相を反応混液や洗浄液等に浸漬させるのに十分な底面積を有する反応槽中で実施してもよく、該反応槽は必要に応じて振盪手段を有する。
【0089】
結合反応装置では、結合反応の前処理として、質量分析用プレート上における生理的なリガンド・膜蛋白質相互作用以外の非特異的な吸着反応を防止する目的で、質量分析用プレートの吸着表面を適切な物質で被覆する(blocking)工程を加えることができる。ブロッキング剤の要件としては、脂質二重層の親水ヘッドの非特異吸着を防止できること、リポソームに移行した標的膜蛋白質以外の膜蛋白質の非特異吸着を防止できること、その後の質量分析による解析を不能にする多成分系ではなく成分が既知であり且つ分子量が均一な系であること、イオン化エネルギーを吸収しない分子であること等である。
【0090】
反応方法としては、単純浸漬、振盪等を用いてもよい。質量分析用プレート近傍で膜蛋白質包埋リポソーム濃度を上昇させる方法としては、電気力によるリポソームの濃縮が推奨される。リポソームは全体として負に荷電しているため、質量分析用プレートの下部に陽極を、反応槽の上部に陰極を差し込めば、リポソームは質量分析用プレート表面に移行し、リガンド近傍の濃度が上昇する。
【0091】
質量分析用プレート上に非特異的に結合したリポソームの洗浄による除去は、洗浄緩衝液の塩濃度及び組成を適切に選択することにより可能となる。洗浄時の温度条件が重要であるが、当業者は好適な条件を適宜決定することができる。
【0092】
リポソームの溶解除去法としては、適切な有機溶媒(グリセロール、アセトニトリル、アルコール、ジオキサン、DMSO、DMF等)を緩衝液等によって濃度を適宜調節して、質量分析用プレートと接触させる方法が例示される。穏やかな界面活性剤(例えば、オクチルグルコース等)の使用も効果的である。
【0093】
本発明の多様な目的への適合性を勘案すれば、水溶性蛋白質の支持体の形態は、図2及び表1に示すように多岐にわたることは自明であり、それは図2及び表1の例示範囲に留まらない。
【0094】
【表1】
【0095】
図2の例示では、電気泳動後の被転写支持体の基本構造に通電性の磁性金属を使用し、本発明によって開発されたアビディティーを向上させる目的のスペーサーを結合させた磁性粒子を支持体の表面素材として用いた。本磁性粒子を、二次元電気泳動により分離した可溶性蛋白質に共有又は非共有結合によって結合させた。カラムを使用する例では、625画分への分別後に、各々625本のミクロファイバー内腔に磁力で保持させた。膜蛋白質包埋リポソームを通過させ、通過、洗浄及び溶出画分をそれぞれ連続的にLC-MS-MSで測定した。プレートを使用する別の適応では、625画分への分別後に、磁性粒子を各々625本のチャンバーに磁力で保持させた。膜蛋白質包埋リポソーム及び拮抗剤候補の添加、反応、洗浄及び検出をHTS様式で達成した。チップの適応は、先に例示した質量分析用プレートの作製に転用できる例示である。表1には、支持体の種類による本発明の応用範囲の一例を示し、最後の例示は、非磁性粒子(ポリサッカライドゲル、合成ポリマーゲル等)に本発明のスペーサー分子を介して可溶性蛋白質を共有結合させた後に、可溶性蛋白質を膜蛋白質包埋リポソームに結合させた例を示したものである。検出系としては、質量分析システム以外の蛍光、放射活性、二次シグナル増幅系などが、プロテオーム分析の目的に応じて柔軟に用いることができ、未知のリガンド、特にオーファンリガンド等の探索に最適のシステムが提供される。
【0096】
5.質量分析装置
本発明で使用される生理活性物質の検出は質量分析計に限定されない。しかしながら、物質固有の物理量の一つである分子量が直接測定できること、検出限界がピコグラムに迫ること、さらにMS-MS法によりアミノ酸の配列解析が可能であるという理由のため、質量分析計は、本発明においても重要な検出装置であると考えられる。上記の装置Cにより本発明の質量分析用プレート上に固定されたリガンド・膜蛋白質複合体の解析は、市販される任意のタイプの質量分析計に適合が可能である。例えば、上記の装置Aにより質量分析用プレート上に固定されたリガンドのみの解析に好ましく使用される質量分析計が、同様に使用可能である。
【0097】
本発明では、質量分析用プレート上に膜蛋白質と可溶性蛋白質が共存する場合、試料に添加する溶媒の選択に応じて、両方を同時に、又はいずれか一方のみを質量解析により高感度で測定することができる。
【0098】
6.データベースの構築・解析(工程D)
上記の本発明の工程A、B及びCから得られる上記膜蛋白質・リガンド複合体の測定結果を、あらかじめ設定された「リガンド・受容体(膜蛋白質)マトリックス表」(図3)に入力し、随時新しいデータを追加して診断確定用データベースとして構築する。
【0099】
先に例示的に紹介した質量分析用プレートの全域をカバーするように行番号(1〜25)と列記号(A〜Y)を振り、合計625(25x25)画分の各画分(4mmx4mm)に1対1に対応する番地(A1〜Y25)を振り当てる。その結果、泳動後に質量分析用プレート上に移行した全リガンドは、リガンド・受容体(膜蛋白質)マトリックス番地により分類することが可能となる。もちろん、その後に受容体包埋リポソームと反応させて得られる対応受容体も同じ番地により分類され、ある番地に収束する物質群は、相互にそして生理的に結合することが推定される。
【0100】
一つの特定の実施態様では、最初に、健常人の血清等の標的体液(可溶性リガンドを含むと考えられるもの)及び特定の疾患を有する患者の同じ標的体液を、別々に二次元ゲル電気泳動し、質量分析用プレートに転写後、質量分析等により測定する。この時点で、疾患によるリガンドの増減が判明し、データベースに登録が可能となる。
【0101】
次に、健常人の血清等の標的体液を電気泳動し、二枚のゲルに移行させ、健常人のリガンドが転写された二枚の質量分析用プレートを調製する。他方、健常人及び患者から同種細胞を採取し、上述の本装置B(膜蛋白質分離・リポソーム移行装置)を用いてそれぞれの膜蛋白質をリポソームに移行させ、膜蛋白質包埋リポソームを調製する。次いで、本装置C(可溶性蛋白質・膜蛋白質結合装置)を用いて、健常人のリガンドを移行した各質量分析用プレートに、健常人と患者由来の膜蛋白質包埋リポソームを別々に反応させ、リガンドと受容体の結合反応を行い、その後の洗浄操作等により、質量分析用プレート上に高度に精製されたリガンド・受容体複合体を得る。質量分析での解析により、疾患による受容体の増減が判明し、データベースに登録が可能となる。質量分析による解析結果は、自動化プログラムのデータベースに入力され、その結果は、デイファレンシャルデイスプレイとして、例えば、図3の「リガンド・受容体(膜蛋白質)マトリックス表」の右半分の三角形にリガンドが増加した場合は赤色で、減少した場合は青色で、無変化の場合は黄色で表示され、同様に左半分の三角形に受容体が増加した場合は赤色で、減少した場合は青色で、無変化の場合は黄色で表示される。図3では、パターンで表示している。
【0102】
本発明の方法によれば、ある細胞膜の任意の膜蛋白質を解析できるため、疾患に関連した個別の膜蛋白質を偶然性に依拠しながら一つ一つ発見していくのではなく、関連する疾患と標的細胞膜蛋白質を体系的に一つのサイクルによって解析することが可能となる。
【0103】
表2に示すように、細胞小器官、例えば、ミトコンドリア膜の膜蛋白質に照準を設定すれば、ATP産生能の変化に基づく、疾患の分類、疾患間の関連性の解明、群特異的な治療薬の開発といった、現在までに誰もが考え及ばなかった創薬戦略を打ち出すことも可能となる。
【0104】
【表2】
【0105】
7.他の好ましい実施態様
従って、本発明の適用は、生体に由来する膜蛋白質・リガンド複合体の発見、定量及び解析にとどまるものではなく、膜蛋白質と相互作用する人工的に創出した物質の発見、定量及び解析、互いに相互作用可能な2以上の膜蛋白質の発見、定量及び相互作用解析、膜蛋白質以外の生体由来不溶性物質と不溶性あるいは可溶性物質との相互作用の解析、並びに、生体に由来しない物質(物体)の発見、定量及び解析にまで及ぶ。
【0106】
本発明の意義と目標は、全自動膜蛋白質・リガンド用プロテオミクス解析装置の完成に限られず、生命現象の基幹部分を担いながら方法・技術の壁から研究が大きく遅れてきた膜蛋白質科学の興隆に技術的貢献を行うことにある。本発明は、上述のように、プロテオームを膜蛋白質と可溶性蛋白質にグループ分けを行い、膜蛋白質をリポソームに包埋することで、膜蛋白質を可溶性蛋白質と同様に取り扱うことを可能にする原理、方法及び結果を提供する。
【0107】
本原理と方法は、ゲノム創薬の方法論が切り開いた創薬の新しい流れに合流し、受容体創薬、抗体創薬、HTS創薬、蛋白質立体構造解析、遺伝子発現解析、他のプロテオーム解析等の技術とも絡み合う膜蛋白質創薬として近い将来必ず認められるであろう。
【0108】
以下の実施例において本発明をより詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0109】
本発明の方法及びツールが、膜蛋白質とそのリガンドの同時スクリーニング及び両者の相互作用の解析に有効であり、プロテオーム解析のための新規な方法及びツールであることを示すために、以下に具体的な態様と結果を示す。
【0110】
受容体は、その構造からGPIアンカー型、GPCR型及びオリゴマー型の3種類に分類される。本発明が膜蛋白質のプロテオーム解析に有用である証明を得るためには、これら全てのタイプの受容体を標的として各特異リガンドとの相互作用の解析を検討する必要がある。U937細胞はヒト単球由来の株化細胞であり、その膜表面上に多数の受容体が発現している。その中から、GPIアンカー型としてはウロキナーゼ受容体を選定し、GPCR型としては血清補体成分C5a受容体を選定し、オリゴマー型としてはインターフェロンγ受容体を選定した。
【0111】
参考例1:3種類の受容体の発現確認
Bt2cAMP刺激前後で、U937細胞を、予めFITCで標識した3種類のリガンドとそれぞれ反応させ、FACSで分析し、受容体発現の存在を観察した。その結果、図4に示すように3種類全ての受容体の発現が確認された。
【0112】
実施例1:ウロキナーゼ受容体包埋リポソームの調製
(1)膜画分の調製
U937はヒト単球由来の株化細胞であり、ホルボールエステル(PMA)刺激によりウロキナーゼ受容体を高濃度に発現することから、膜画分分離用の試料として用いた。洗浄後、氷冷下、ポリトロンで2-5秒×3回:1分間の間隔で細胞を破砕し、40%蔗糖密度勾配遠心分離(95,000 g x 60 min)により、界面に膜画分を集積させた(図5)。
【0113】
(2)膜蛋白質包埋リポソームの調製
精製卵黄レシチン (1.25 g) 及びコレステロール (0.125 g) を 25 mL の生理食塩水中に懸濁させ、氷冷下でプローブ型超音波発生装置により15分間処理した。得られたリポソームの平均粒子径は 80 nm であった。先に調製したU937膜画分をこのリポソーム溶液に加え、-80℃及び室温下で凍結融解を3回繰り返したところ、混合液は白濁した。リポソームのみを含有する溶液で同様の処理を行なったところ、リポソーム溶液は白濁した。一方、U937膜画分は、凍結融解を繰り返しても、半透明のままであった。これらの試料に塩化セシウムを添加し、終濃度を40%に調製した溶液の上に、塩化セシウム濃度が30%及び15%の溶液、並びに生理食塩水の順で重層し、密度勾配遠心分離(95,000 g x 1h)を行なった。その結果、U937膜画分は塩化セシウム濃度30%と15%の界面にバンドを形成し、白濁したリポソームは塩化セシウム濃度15%と生理食塩水の界面にバンドを形成した。リポソームとU937膜画分の混合液では、白濁したリポソームと同様の位置にバンドが認められ、U937膜画分の位置にはバンドが認められなかった。この結果より、U937膜画分はリポソームと融合し、膜蛋白質包埋リポソームを形成したと推察された(図6)。
【0114】
(3)膜蛋白質包埋リポソームの確認
膜画分を分離・調製後、膜蛋白質を蛍光(FITC)標識した。この膜画分を上記(2)の方法によりリポソームと反応させ、膜蛋白質包埋リポソームを形成させた。膜画分、膜蛋白質包埋リポソーム及び単純リポソームの各試料を、FACSによりそれぞれ解析した。その結果、図7に見られるように、1個の粒子あたりの蛍光強度(y軸)は、膜画分が最も高く、単純リポソーム(蛋白質は存在せず、FITCの蛍光ではなく弱い散乱光が検出される)が最も低く、膜蛋白質包埋リポソームはその中間に位置した。膜蛋白質包埋リポソーム試料は、単純リポソームで検出される弱い散乱光を発する粒子をほとんど含まなかったことから、膜画分と単純リポソーム画分は、ほぼ100%融合したと推察される。すなわち、膜画分と単純リポソームが融合して多重層リポソームが形成され、多重層リポソームのリポソーム内表面にも膜蛋白質が移行した結果、外膜表面上の膜蛋白質数が減少したために、膜蛋白質包埋リポソームでは蛍光強度が低減した。以上のことから、本調製法により、細胞及びそれから調製した細胞膜画分に結合した膜蛋白質が、リポソームの脂質二重層に移行することが示された。
【0115】
(4)ウロキナーゼ受容体の同定(U937細胞)
PMAの存在・非存在下で培養したU937細胞を可溶化し、ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体で免疫沈降し、電気泳動後ウエスタンブロッティングを行いU937細胞膜上でのウロキナーゼ受容体の存在を確認した。ウエスタンブロッティングの1次反応は、ビオチン化ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体を250倍希釈で2時間反応させ、2次反応は、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを100倍希釈で1時間反応させた。反応後、PBS/0.1% Tween 20で3回洗浄し、BCIP/NBTで検出した。その結果、図8で示すように、抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体で染色される分子量 50 kDa の幅広いバンドが認められた。このことから、糖鎖構造の異なるウロキナーゼ受容体の存在が、U937細胞表面上に確認された。
【0116】
(5)ウロキナーゼ受容体包埋リポソームの確認
上記(3)の方法で得られた膜蛋白質包埋リポソームに、ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体を1次抗体として4℃で1時間反応させた後、FITC標識ウサギ抗ヤギIgG抗体を2次抗体として4℃で1時間反応させた。1次抗体および2次抗体を10倍希釈で反応させ、反応後、0.1% BSA-PBS(プロテアーゼ阻害剤含む)で4回洗浄した。その後、共焦点レーザー顕微鏡 (LSM410,カールツァイス株式会社)を使用し320倍で観察した(図9)。抗ウロキナーゼ受容体特異抗体を添加した融合リポソームでは蛍光が観察されたが(図9A)、抗ウロキナーゼ受容体特異抗体を添加しない融合リポソームでは蛍光は観察されなかった(図9B)。以上のことから、ウロキナーゼ受容体がリポソームの脂質二重層に移行することが示された。同様に、得られた膜蛋白質包埋リポソームを可溶化し、ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体で免疫沈降し、ウエスタンブロッティングに供した。ウエスタンブロッティングの一次反応は、ビオチン化ヤギ抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体を250倍希釈で2時間反応させ、二次反応は、アルカリホスファターゼ標識ストレプトアビジンを100倍希釈で1時間反応させた。反応後、試料をPBS/0.1% Tween 20で3回洗浄し、BCIP/NBTで検出した。その結果、図10で示すように抗ヒトウロキナーゼ受容体抗体で染色される分子量 50 kDa の幅広いバンドが認められた。この結果は、U937細胞で先に確認された分子量分布と同じ分子量分布を示した。以上より、膜蛋白質包埋リポソームの脂質二重層に移行したウロキナーゼ受容体が、本来の細胞に存在する糖鎖構造等を保持したまま移行することが示された。
【0117】
(6)ウロキナーゼ受容体のリガンド結合能
U937細胞から調製した膜画分はその脂質二重層にウロキナーゼ受容体を保持していることが示されたので、ウロキナーゼ受容体のウロキナーゼ(リガンド)結合能を検討した。ウロキナーゼをFITCで蛍光標識し、膜画分と反応させ、受容体とリガンドの結合を検討した。コントロールとしてFITCで蛍光標識したヒト血清アルブミン(HSA)を使用した。結果を図11に示す。図から明らかなように、本方法で調製した膜画分は、その内因性リガンドであるウロキナーゼと結合したが(図11A)、HSAとは結合しなかった(図11B)。このことは、本膜蛋白質調製法で得られた膜画分に保持されたウロキナーゼ受容体が、その三次元構造及び生理機能(リガンド結合能)を保持したことを意味する。次に、膜蛋白質包埋リポソームのウロキナーゼ結合能を調べた。ウロキナーゼをFITCで蛍光標識し、先の方法で得られた膜蛋白質包埋リポソーム(ウロキナーゼ受容体包埋リポソームを含む)と反応させ、受容体とリガンドの結合を検討した。コントロールとしてFITCで蛍光標識したヒト血清アルブミン(HSA)を使用した。結果を図12に示す。図から明らかなように、本方法で調製したウロキナーゼ受容体包埋リポソームは、その内因性リガンドであるウロキナーゼとは結合したが(図12A)、HSAとは結合しなかった(図12B)。ウロキナーゼ受容体包埋リポソーム及びウロキナーゼの結合特異性を確認するために、RI標識したウロキナーゼ及び非標識ウロキナーゼの混合液を1:1〜1:10000の種々のモル比で調製し、U937細胞及びウロキナーゼ受容体包埋リポソームとそれぞれ反応させ、細胞及びウロキナーゼ受容体包埋リポソームに結合した放射活性を測定した。図13に示すように、両者とも、非標識リガンドの増加に伴ない、受容体に結合した放射活性は減少したことから、リポソーム包埋ウロキナーゼ受容体及びウロキナーゼの結合は特異的であると推察された。
【0118】
更に、PMA刺激によるウロキナーゼ受容体の発現量変化を、膜蛋白質包埋リポソームへのウロキナーゼ結合量により検討した。図14に示した通り、PMA刺激したU937細胞から調製した膜蛋白質包埋リポソームでは、未処理の細胞から調製したものに比較して、明らかに、蛍光標識ウロキナーゼと結合したリポソーム粒子数は増加した。
【0119】
以上の結果は、リポソームに包埋された膜蛋白質の構造及び機能が、生細胞膜上に発現する膜蛋白質のそれと同じであることを示す。従って、本発明による方法は、疾患における受容体及びリガンドの量及び特性の変化を、生細胞の代わりに評価し得ることが示された。
【0120】
実施例2:粒子径の縮小後における受容体包埋リポソームの出現
膜蛋白質包埋リポソームの粒子サイズをエクストルーダー法で変化させ、蛍光 (FITC) 標識ウロキナーゼでウロキナーゼ受容体包埋リポソームの出現を検討した。その結果、図15に示すように、ろ過孔サイズが 0.6 μm 以下のフィルターで整粒されたリポソーム溶液では、目的の受容体を包埋したリポソームの数が明らかに増加した。これは、融合直後の多重層リポソームでは目的受容体の多くがラージリポソームの内側に封入され蛍光検出されなかったこと、並びにさらに重要なことであるが、リポソームサイズを小さくすることにより、一個のリポソームに包埋される受容体の数が減少し、目的受容体を包埋するリポソームと目的受容体を含まないリポソームとが峻別され、包埋するリポソームの数が増加したという事実により引き起こされたと推察される。リポソームをエクストルーダー法又は他の方法で 10 nm - 5000 nm、好ましくは500 nm 以下の粒子経にサイジングすると、FACS解析によれば、標識膜蛋白質包埋リポソームの集団が当該サイズ領域に明瞭に出現する。
【0121】
実施例3:質量分析用プレート上のバクテリオロドプシン包埋リポソームの質量分析による解析
質量分析計を用いてバクテリオロドプシン(Sigma、B3636)を測定して得られた結果を図16に示す。試料をチップ上に載せ、風乾し、2,5-ジヒドロ安息香酸 (エタノール中170 mg/mL) を0.5 μL/spot 添加、風乾した後、SELDI ProteinChipR System (Ciphergen) に測定した。質量校正は、β-ラクトグロブリンA (ウシ)、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびコンアルブミン(ニワトリ)を用いる外部校正であった。SELDI ProteinChipR Systemの測定パラメータはDetector voltage 2100V, Detector Sensitivity 10, Laser Intensity 285であった。その結果、いずれの場合にも27027.3及び28120.2の2本のピークが観測された。バクテリオロドプシンの理論分子量は27068.0であることから、前者はバクテリオロドプシンであり、後者は、有機溶媒での処理の際にレチナールの脱離が見られたことから、バクテリオロドプシン様蛋白質であると示唆された。
【0122】
図16Aは、バクテリオロドプシン単独測定時の蛋白質濃度とピーク強度との相関を示し、比例関係より、検出限界は 20 fmol であった。図16Bは、バクテリオロドプシン単独、単純リポソームとの共存条件下のバクテリオロドプシン及びリポソーム包埋バクテリオロドプシンの測定結果を示す。同一の溶媒条件下では、これら3つの様式では、同一濃度でのバクテリオロドプシンのMSシグナル強度は異なっていた。このことにより、単純リポソーム及びリポソーム包埋バクテリオロドプシンとの共存条件下でさえも、バクテリオロドプシンを質量分析により解析できることが示された。
【0123】
実施例4:支持体に結合したリガンドと膜蛋白質包埋リポソームとの結合
膜蛋白質の支持体としてリポソーム、生体膜(膜画分)又は生体膜(細胞)を、リガンド支持体として質量分析用プレート、Sepharose 4Bゲル又は磁性鉄粒子を、スペーサーとしてプロテインG又はビオチンを、表3に示される通りに組み合わせて用いることにより、膜蛋白質・リガンド複合体を形成させた。
【0124】
【表3】
【0125】
その結果、支持体とリガンドの間にスペーサー分子が存在することが好ましいことが判明した。リガンドの種類によって異なるが、スペーサーが存在しない場合は、膜蛋白質包埋リポソームは全く結合しないか、又は結合力が弱かった。これは、両分子が異なる固体表面に固定されるため、一点での結合による親和性効果の相互作用よりも、複数の点での結合によるアビディティー効果の相互作用が必要とされるからである。複数の点での結合を可能にするために、両分子会合時の立体障害を減弱化し衝突回数を増加させるような適切なスペーサー分子を介在させることが必要である。スペーサー分子は、リガンドと支持体の間に存在し、生体ポリマー(蛋白質など)、合成ポリマー又は金属等からなり、解析の目的に応じて共有結合・非共有結合による結合が可能であり、三次元的な空間を有する微小な網目状、多孔性等の形状であり得る。
【0126】
実施例5:Sepharose 4Bゲルに固定化されたリガンドと受容体包埋リポソームとの結合
ビオチン化したリガンド3種(ウロキナーゼ、インターフェロン-γ、補体C5a)を、アビジン化Sepharose 4Bゲルに結合させた。この場合のリガンド支持体はSepharose4Bゲルで、スペーサーはアビジン(蛋白質)である。膜蛋白質包埋リポソームを、上記実施例1(2)の方法によりFITC標識蛍光リポソームとU937膜画分から調製し、Sepharose 4Bゲルに固定した3種類のリガンドと反応させ、PBSで3回洗浄した後、可視光及び蛍光で観察した。その結果、図17に示すように、可視光 (B) では全てのゲルで白色が観察された。暗視野における蛍光 (A) では、Sepharose 4Bゲルのみでは発色は観察されなかったが、組み合わせて結合させた3種類のリガンドを用いた他のゲルでは、蛍光を発した。この結果は、本発明の原理が、前述の質量分析用プレート/質量分析に加えて、任意のリガンド支持体/任意の検出系の組み合わせ(例えば、粒子/蛍光、粒子/放射活性、粒子/二次シグナル発生試薬等)に応用が可能であることを示す。
【0127】
上記実施例では、受容体の任意のタイプについて本発明が応用可能であることを示すために、ウロキナーゼ受容体(GPIアンカー型)、活性化補体C5a受容体(GPCR型)及びインターフェロン-γ受容体(オリゴマー型)と、それらのリガンド(ウロキナーゼ、C5a、IFNγ)とを用いて相互作用(機能)の検出結果を示している。これらの結果により、分子の構造・機能にかかわらず任意の膜関連受容体、膜関連チャネル、膜関連ポンプ、膜関連トランスポーター並びにそれら蛋白質に付随的に結合する物質が本発明の原理及び方法に従ってリガンドと共に単離・同定され得ることが、当業者には容易に理解されるであろう。
【0128】
また、測定法として質量分析を想定した、膜蛋白質・リガンド用全自動プロテオーム解析装置の各構成部分の基本仕様及び検討結果を示したが、蛍光分析を想定した蛍光標識リポソーム及びリガンド・粒子結合体を用いる実施例が示すように、本発明は多岐にわたり応用可能であることが当業者には容易に理解されるだろう。
【0129】
実施例6:種々の蛋白質/脂質比を有するプロテオリポソームの調製
PMAで刺激したU937細胞(2x109細胞)をPOLYTRON(登録商標)で破砕後、密度勾配遠心により細胞膜画分を得た。この細胞膜画分(2mg蛋白質/mL)と卵黄リン脂質(YPL, 旭化成製)、コレステロール(NUCHEKPREPINC製)より調製したリポソーム溶液(50mg YPL/mL)を蛋白質/脂質比(w/w)が、0.2, 0.08, 0.04, 0.02となるように混合した。それぞれの混合液を凍結融解を繰り返し細胞膜画分とリポソームを融合させプロテオリポソームを得た。このプロテオリポソームを600nmのポリカーボネート膜(Nucleopore, Whatman製)を装着したエクストルーダー(Avanti Polar Lipids社製)でサイジングを行った。
【0130】
実施例7:受容体陽性画分のポピュレーションに及ぼすプロテオリポソームの蛋白質/脂質比の効果
実施例6で得られたプロテオリポソーム溶液50μLにBSA(SIGMA社製)の0.2%溶液50μL、ビオチン(Biotin-(AC5)2-Osu, DOJINDO製)を標識した一本鎖尿性プラスミノーゲン活性化因子(SCUPA)5μLを加え、更にFITC(FITC-I, DOJINDO製)で標識した補体5a(C5a)又はインターフェロン-γ(IFNγ)を20μL加えた。この溶液を4℃で15時間静置した後、ストレプトアビジン、R-フィコエリスリンコンジュゲート(St.avidin-RPE, Molecular Probes社製)を5μLを加え、さらに室温で1時間反応した。この溶液を10,000gで30分間、遠心分離を行い、沈殿画分を0.2% BSA溶液に懸濁し、フローサイトメーター(FACS Calibur, BECTON DICKINSON社製)で分析した。その結果を表4に示す。また、SCUPA受容体およびC5a(またはIFNγ)受容体の少なくともいずれかがポジティブな画分全体に対する各受容体シングルポジティブ画分およびダブルポジティブ画分の各存在比を図18に示す。蛋白質/脂質比が小さくなるに従い、SCUPA-C5a(またはIFNγ)ダブルポジティブ画分の比率が小さくなり、SCUPAシングルポジティブ画分およびC5a(またはIFNγ)シングルポジティブ画分の比率が増加した。この結果より、蛋白質/脂質比が0.04以下で、ノイズ蛋白質が無視できる程度にそれぞれの膜蛋白質をリポソームに分散させることが可能であることが示された。
【0131】
【表4】
【0132】
実施例8:リガンド支持体表面の活性化の効果
ナイロン製多孔膜(90x90mm, Biodyne A, PALL社製)を1% 1,1’-カルボニルジイミダゾール(ALDRICH社製)のN,N-ジメチルホルムアミド(和光純薬製)溶液100mLに浸漬し、2時間攪拌した。このナイロン膜をN,N-ジメチルホルムアミドで洗浄し、さらにアセトン(キシダ化学製)で2回洗浄した。その後、減圧下で2時間乾燥を行い、活性化ナイロン膜を得た。このナイロン膜にストレプトアビジン TypeII(和光純薬製)溶液、10mg/mLを2μLスポットし、その後、0.5M エタノールアミン溶液でブロッキング後、さらにリン酸緩衝液で洗浄した。
このナイロン膜をビオチン-フルオレセイン(PIERCE社製)溶液に浸漬した後、リン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜を乾燥後、紫外線ランプ下で観察したところ、ストレプトアビジンを吸着させた部分に蛍光を認めた。
【0133】
比較例1
ナイロン膜にストレプトアビジン TypeII(和光純薬製)溶液、10mg/mLを2μLスポットし、その後、リン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜をビオチン-フルオレセイン(PIERCE社製)溶液に浸漬した後、リン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜を乾燥後、紫外線ランプ下で観察したところ、ストレプトアビジンを吸着させた部分に蛍光は認められなかった。
【0134】
実施例9:U937細胞由来膜蛋白質ライブラリーの調製
PMAで刺激したU937細胞(2x109細胞)をPOLYTRON(登録商標)で破砕後、密度勾配遠心により細胞膜画分を得た。この細胞膜画分(2mg蛋白質)に卵黄レシチン、コレステロール及び蛍光脂質(N-4-ニトロベンゾ-2-オキサ-1,3-ジアゾール ホスファチジルエタノールアミン)で調製したリポソーム溶液(YPLとして40mg)を加え凍結融解法により、プロテオリポソームを調製した。このプロテオリポソームを200nmのポリカーボネートメンブレンでサイジングを行った。得られたプロテオリポソームの平均粒子径は164nmであった。
【0135】
実施例10:表面活性化リガンド支持体によるプロテオリポソーム中に包埋された膜蛋白質の検出
実施例8で得られた活性化ナイロン膜に、一本鎖尿性プラスミノーゲン活性化因子(SCUPA)10μg、インターフェロン-γ(IFNγ)2μg、補体5a(C5a)2μg、ネガティブコントロールとして免疫グロブリンG(IgG)20μg、ウシ血清アルブミン(BSA)10μgをそれぞれスポットした。その後、0.5M エタノールアミン溶液でブロッキング後、さらにリン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜と実施例9で得たプロテオリポソーム溶液を反応させた後、リン酸緩衝液で洗浄した。このナイロン膜をイメージアナライザー(Typhoon 8600, Molecular Dynamics社製)で解析した。その結果、U937細胞膜に発現しているSCUPA、IFNγ及びC5a受容体の各リガンドに対し、高い蛍光が認められた(図19)。
【0136】
このように、本発明を好ましい実施態様を強調して説明してきたが、好ましい実施態様が変更され得ること、並びに本発明が本明細書に具体的に記載された以外によっても実施され得ることは、当業者には自明であろう。従って、本発明は上記の特許請求の範囲によって定義される発明の精神と範囲に包含される全ての改変を含むものである。
【0137】
本明細書で引用した、特許、特許出願及び刊行物を含むすべての参考文献は、ここで言及することによりそのすべてが組み込まれるものである。
【0138】
本出願は、アメリカ合衆国で出願された出願第10/622,002号を基礎とするものであり、その内容はすべて本明細書中に包含されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0139】
【図1】図1は、本発明のプロテオーム解析システム及びその構成要素の代表的な実施態様を模式的に示す。
【図2】図2は、本発明で用いられる水溶性蛋白質(リガンド)支持体の種々の実施態様を示す。
【図3】図3は、本発明で用いられるリガンド・受容体(膜蛋白質)マトリクス表の1つの実施態様を示す。
【図4】図4は、Bt2cAMP刺激前(図4B)及び後(図4A)でのU937細胞膜に対するウロキナーゼ受容体(リガンド:FITC-UK)、C5a受容体(リガンド:FITC-C5a)、及びインターフェロン-γ受容体(リガンド:FITC-IFNγ)の発現を示す。
【図5】図5は、U937細胞からの膜画分の分離を示す写真である。この写真では、左は、40%スクロース密度勾配遠心分離前を示し、右は、40%スクロース密度勾配遠心分離後を示す。
【図6】図6は、U937膜蛋白質包埋リポソームの単離を示す写真である。A:リポソーム(200μl)+膜画分;B:リポソーム(50μl)+膜画分;C:膜画分;D:リポソーム(200μl)。
【図7】図7は、FITC標識膜画分(図7A)、FITC標識膜蛋白質包埋リポソーム(図7B)、単純なリポソーム(図7C)のFACS解析の結果を示す。
【図8】図8は、U937細胞膜上でのウロキナーゼ受容体の発現を示すウエスタンブロット解析の結果である。
【図9】図9は、抗ウロキナーゼ受容体抗体の存在下(図9A)及び非存在下(図9B)におけるウロキナーゼ受容体包埋リポソームの共焦点レーザー顕微鏡写真である。
【図10】図10は、可溶化膜蛋白質包埋リポソームのウエスタンブロット解析の結果である。
【図11】図11は、膜画分中のウロキナーゼ受容体のリガンド(FITC標識ウロキナーゼ)結合能を示す(図11A)。FITC標識HSAをコントロールとして用いた(図11B)。
【図12】図12は、リポソーム包埋ウロキナーゼ受容体のリガンド(FITC標識ウロキナーゼ)結合能を示す(図12A)。FITC標識HSAをコントロールとして用いた(図12B)。
【図13】図13は、U937細胞(図13A)及びウロキナーゼ受容体包埋リポソーム(図13B)との標識リガンドの結合のモル比依存性を示す。
【図14】図14は、PMA刺激(図14B)及び非刺激(図14A)のU937細胞から調製された膜蛋白質包埋リポソームのリガンド(FITC標識ウロキナーゼ)結合能を示す。
【図15】図15は、リポソーム粒子サイズの縮小化によるウロキナーゼ受容体包埋リポソームの出現を示す。
【図16】図16は、バクテリオロドプシンの質量分析による解析の結果を示す。図16Aは、種々の濃度のバクテリオロドプシンでの結果を示し、図16Bは、バクテリオロドプシン単独、単純リポソーム共存下のバクテリオロドプシンおよびリポソーム包埋バクテリオロドプシンの結果を示す。
【図17】図17は、種々の受容体を包埋するリポソームとSepharose-4Bゲル上に固定されたそれらのリガンドとの結合を示す。
【図18】図18は、膜蛋白質包埋リポソームライブラリー中の受容体陽性[A:SCUPA(+)及び/又はC5a(+);B:SCUPA(+)及び/又はIFNγ(+)]画分相対ポピュレーション(%)を示す。図中、横軸の数値はライブラリーの蛋白質対脂質比を示し、「膜」はリポソームと融合させる前の膜画分を示す。
【図19】図19は、種々のリガンドが1,1’-カルボニルジイミダゾールを介して固定化された、活性化されたナイロン膜を用いた、U937細胞膜に発現する受容体の検出を示す。図中、縦軸は蛍光強度を示す。SCUPA (10μg; (A) 及び (B))、IFNγ (2μg; (C) 及び (D))、C5a (2μg; (E) 及び (F))、IgG (20μg; (G)) 並びにBSA (10μg; (H)) をそれぞれ膜上にスポットし、U937細胞由来膜蛋白質が包埋された蛍光標識リポソームと該膜を反応させた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソーム中に包埋された膜蛋白質のライブラリーの調製方法であって、(a) 界面活性剤、変性剤及び有機溶媒のない膜蛋白質のライブラリーを提供し、(b) 該膜蛋白質のライブラリーをリポソームと接触させて膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーを形成させることを含む方法。
【請求項2】
該膜蛋白質が、少なくともGPIアンカー型受容体、G蛋白質共役型受容体およびオリゴマー型受容体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
膜蛋白質包埋リポソームが約10nm〜約5,000nmの直径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
膜蛋白質包埋リポソームが約10nm〜約500nmの直径を有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
脂質に対する蛋白質の重量比が0.01〜0.8である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
脂質に対する蛋白質の重量比が0.05〜0.5である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
膜蛋白質の量が約10fg以上である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
約1x105以上の膜蛋白質包埋リポソームを含む膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーであって、リポソームが10nm以上の直径を有し、かつ膜蛋白質の量が約10fg以上であるライブラリー。
【請求項9】
膜蛋白質の量が約1pg以上である、請求項8記載のライブラリー。
【請求項10】
膜蛋白質の量が約10pg以上である、請求項9記載のライブラリー。
【請求項11】
約1x108以上の膜蛋白質包埋リポソームを含む、請求項8記載のライブラリー。
【請求項1】
リポソーム中に包埋された膜蛋白質のライブラリーの調製方法であって、(a) 界面活性剤、変性剤及び有機溶媒のない膜蛋白質のライブラリーを提供し、(b) 該膜蛋白質のライブラリーをリポソームと接触させて膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーを形成させることを含む方法。
【請求項2】
該膜蛋白質が、少なくともGPIアンカー型受容体、G蛋白質共役型受容体およびオリゴマー型受容体を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
膜蛋白質包埋リポソームが約10nm〜約5,000nmの直径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
膜蛋白質包埋リポソームが約10nm〜約500nmの直径を有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
脂質に対する蛋白質の重量比が0.01〜0.8である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
脂質に対する蛋白質の重量比が0.05〜0.5である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
膜蛋白質の量が約10fg以上である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
約1x105以上の膜蛋白質包埋リポソームを含む膜蛋白質包埋リポソームのライブラリーであって、リポソームが10nm以上の直径を有し、かつ膜蛋白質の量が約10fg以上であるライブラリー。
【請求項9】
膜蛋白質の量が約1pg以上である、請求項8記載のライブラリー。
【請求項10】
膜蛋白質の量が約10pg以上である、請求項9記載のライブラリー。
【請求項11】
約1x108以上の膜蛋白質包埋リポソームを含む、請求項8記載のライブラリー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2008−500950(P2008−500950A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519232(P2006−519232)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010540
【国際公開番号】WO2005/007679
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504150782)株式会社プロトセラ (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010540
【国際公開番号】WO2005/007679
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(504150782)株式会社プロトセラ (8)
【Fターム(参考)】
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