説明

プロテクターの縫製方法

【課題】高齢者が装着するに適するプロテクターを得る。
【解決手段】上下2枚の布地の間に互いに辺を接して整列された合成樹脂よりなるプロテクターの各パーツが、パーツ全ての辺において上下2枚の布地の間に縫着されてなり、合成樹脂よりなる各パーツは、高発泡低反発ウレタンフォームと独立気泡合成樹脂フォームとを接着したもので構成されている。各パーツを整列状態とし、高発泡低反発ウレタンフォーム表面を蒸気により軟化させて固定後、ミシンで、各パーツを、全ての辺において上下2枚の布地の間に縫着してプロテクターとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者の転倒骨折を防止するためのプロテクターパンツ等に使用する保護材の縫製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、運動、競技に使用する各種のプロテクターが提案・使用されている。例えば、複数に分割し、各衝撃部吸収部材同志を互いに略隙間なく配置して、ウエアーに取り付けたプロテクターが提案されている。(特許文献1参照)また、身体固定具、プロテクター及び身体保護用衣服として、気密性シートの袋体を通気部を残してハニカムライン状に融着し、多数のハニカム状区画部を形成して、該ハニカム状区画部に粒状物質を充填して減圧したプロテクターも提案されている。(特許文献2参照。)
近年、高齢化社会への突入と共に、高齢者の生活をサポートし、健康に生活することを助長するための製品の必要性が増加している。高齢者の転倒骨折の中でも尤も深刻な影響を与えるのは、転倒による大腿骨頚部骨折である。そこで、国内国外において転倒による衝撃を和らげ、大腿骨頚部骨折の予防のためのプロテクターが製品として存在する。しかしながらその機能的有効性は認められるものの、高齢者が日常的に装着するには数多くの問題がある。即ち、従来品は、外圧を緩衝または排除するためのプロテクター材として、固いプラスチックジェルや、重いジェルを使っているため、高齢者が日常的に装着することは難しい。
【特許文献1】特開2004−277967号公報
【特許文献2】特開2000−225134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明者は、高齢者が日常的に装着するに適するよう、より軽くより柔らかで、取り付け取り外しが自由で日常の動作を妨げず、身体にフィットし、しかも、必要な衝撃吸収力と洗濯に耐える強度を有するプロテクターを得ることを目的として、商品の開発を行った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のプロテクターの製造方法は、高発泡低反発ウレタンフォームと独立気泡合成樹脂フォームとを接着して構成された合成樹脂の多角形板状体よりなる複数個のプロテクターのパーツを、高発泡低反発ウレタンフォームよりなるパーツ表面に、蒸気をあてて表面を軟化せしめた後、上下2枚の布地の間に各パーツの辺側面を接して隙間がないように整列させ、予め設定したプログラムにより、ミシンで、各パーツを全ての辺において上下2枚の布地の間に縫着するものである。更に、各パーツを整列させたのち、全てのパーツによって形成されるプロテクターの形状と同一形状の金属製パーツ固定フレームによって各パーツの整列状態を固定後、ミシンで、各パーツを、全ての辺において上下2枚の布地の間に縫着する。
【発明の効果】
【0005】
本発明のプロテクターを構成する合成樹脂の多角形板状体よりなる複数個のパーツは、高発泡低反発ウレタンフォームと独立気泡合成樹脂フォームとを接着したもので構成され、その厚さは約1cm程度である上、各パーツの全周が2枚の布地に他のパーツとの間で縫着されているため、軽く、厚みも目立たず、しかも各パーツ間は折れ曲がりが可能であるにもかかわらず、変形したり移動したりすることがない。プロテクターとして使用する場合には、高発泡低反発ウレタンフォーム面が身体に接するように使用する。複数のパーツから構成されるプロテクターは、2枚の布地の周囲をロックミシンでかがり縫いをし、保護を必要とする箇所、例えば高齢者の使用する肌着、ズボンのヒップ・プロテクターとして下着等の本体に縫着するほか、該当箇所にヒップ・プロテクターの収納袋を設けて、その中に収容するようにする事もできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のヒップボーン・プロテクターの開発に当たっては、衝撃吸収部分の構造を様々に検討した結果、特殊ウレタン等合成樹脂を採用した衝撃吸収ユニットを完成した。衝撃吸収素材の最終選択においては、11種類の組み合わせ素材を落下衝撃試験によってテストし、その結果を用いて最終素材を決定した。最終素材は基準素材とした生ゴムに比べ、最大で衝撃を1/4に軽減する能力が認められた。本発明のプロテクターは、複数個の合成樹脂よりなるパーツを組み合わせて縫製するものであるが、プロテクターの縫製については、パーツの厚みが、約1cmある為、通常の本縫いミシンでは縫えない。そこで、以下に述べるような縫製上の手段、工夫、また、合成樹脂パーツを隙間なく縫製するために使用するに適した、金属のパーツ固定フレームを使用する縫製テクニックが必要となる。
【0007】
本発明では、骨粗鬆症患者に尤も適した素材として、高発泡低反発ウレタンフォームと独立気泡合成樹脂フォームとをアクリル系接着剤で接着した複数個のパーツでプロテクターを構成した。独立気泡合成樹脂フォームとしては、ポリエチレンフォームを使用することが出来る。言うまでもなく、他の目的に使用するプロテクターとしては、より強度と硬度のある素材を選択使用することが出来る。
合成樹脂の多角形板状体よりなるパーツの形状及び使用枚数は任意であるが、強度、プロテクターの身体へのフィット性を考慮し、正六角形のパーツを用いた例について以下に記載する。
【0008】
一例として、正六角形パーツ7枚を使用してヒップ・プロテクターを製造する方法について説明する。図1Aは、正六角形パーツ1の平面図であり、符号2は、正六角形パーツ1を貫通する通気孔である。図1Bは、図1AのX−X断面図であり、符号3は高発泡低反発ウレタンフォーム、符号4はアクリル系接着剤、符号5は独立気泡合成樹脂フォームである。7個の正六角形パーツ1は、図2に示すように集合体とし、上下に通気性を有し、肌触りの良い布地、例えばトリコット表側地6,トリコット裏側地7で上下を覆い、上下2枚の布地の間に互いに辺を接して整列された正六角形パーツ1が、正六角形の全ての辺において上下2枚の布地の間で縫目8で縫着される。トリコット表側地6,トリコット裏側地7の周囲は、かがり縫い9がなされ、本発明のヒップ・プロテクター11が得られる。
【0009】
次に、本発明のプロテクター縫製方法について説明する。本発明のプロテクターの縫製については、上記高発泡低反発ウレタンフォーム3の厚さが約6〜7mm、独立気泡合成樹脂フォーム5の厚さが約2〜3mmであり、接着材層4の厚みを加えると正六角形パーツ1の厚みが、約1cmある為、通常の本縫いミシンでは縫えない。即ち、近接して並べた六角形のパーツに沿ってミシンで縫製すると、正六角形パーツの高発泡低反発ウレタンフォーム面と縫い糸との間に摩擦が発生し、互いに絡み合いが生じて縫い始めるとすぐに縫い糸が切れる。糸が切れた部分は、擦り切れたようになってしまう。そこで、本発明においては、正六角形パーツの高発泡低反発ウレタンフォーム面にスチームを直接吹きかけ、表面を軟化させることで、糸切れを防止した。
【0010】
即ち、アイロン等で、蒸気(スチーム、90〜100度以内の蒸気)を、正六角形パーツの高発泡低反発ウレタンフォーム面に2〜3センチの間隔から蒸気を吹きかける。蒸気をかける時間は、5秒以上、10秒以内とするのが好ましい。この目的とするところは、高発泡低反発ウレタンフォームを、軟化させ柔らかくするためで、ウレタンフォームが水分を含んで濡れてしまってはいけない。縫製は、高発泡低反発ウレタンフォームが、乾燥復元して硬くならないよう、1分30秒位の間に縫製することが好ましい。
【0011】
正六角形パーツ1を、7個ならべて縫う場合、隙間を空けていない状態で針がパーツの端を必ず縫うために、上記の糸切れ防止方法は必須となる。縫製面は、通常パーツの高発泡低反発ウレタンフォーム面を上にして所定の形状にセットするが、この方法に限定されるものではない。図3に途中で糸を変えずに糸の解けを防止しながらヒップ・プロテクター11を効率的に縫製する運針経路を示す。図中に記した1−55のコースをプログラム式電子ミシンでノンストップに縫製すると、真ん中の六角形のパーツの周囲のみが1重縫いで、他の六角形のパーツ周囲は、全て2重縫いとなる。縫製上の制限はなく任意に選定できる。部分的に、またはすべてを二重縫い、三重縫いすることも可能で、運針も細かく設定することが出来る。
【0012】
更に、上記の縫製時に蒸気での処理を行うと共に、六角形のパーツをより確実に固定するためには、下側地7の上に所定の形状に整列、接合された7個の正六角形パーツ1の外周を囲む金属性のパーツ固定フレーム10を使用する。図4に、正六角形パーツ1を裏側生地7上にセットし、パーツ固定フレーム10で周囲を囲んだ状態を示す。このようにすれば、六角形の各パーツを周縁から押さえ、下側地7と上側地8の間で各パーツ間の隙間が全くなく、糸切れの生じることもなく、より効率的に縫製を行うことが出来る。
【0013】
上記のようにして、複数個の正六角形パーツ1を2枚の布地6,7の間に固定したら、周囲の余分な布地は適宜の形状にロックミシンでかがり縫い9をし、ヒップ・プロテクター11とする。製品は上記のように、保護を必要とする箇所、例えば図5に示すように高齢者の使用する肌着、ズボンのヒップ・プロテクター11として下着等の大腿骨頚部骨折を生じやすい箇所に下着本体に縫着するほか、下着、ズボンの該当箇所の表側、或いは裏側にヒップ・プロテクターの収納袋を縫着して、その中に収容するようにする事もできる。使用に際しては、前述のように、身体に接する面に高発泡低反発ウレタンフォーム3が沿うように着用される。
【0014】
正六角形パーツによるプロテクターは、上記7個のパーツの使用の他、パーツの使用数は10個のパーツ、13個パーツ、19個のパーツ等、種々の組み合わせにより、様々なサイズ、形状のプロテクターを製造することが出来る。また、プロテクターを構成する合成樹脂の多角形板状体としては、正六角形パーツに限定されるものではなく、他の三角形
・四角形等任意に選択変更することが可能である。そのほかに、プロテクターの強度を更に高める必要のある場合には、パーツに使用する合成樹脂を変更したり、パーツを構成する中間材のポリウレタンフォーム、ポリエチレンフォームに加工を施し、任意の形状のコイル形に巻回形成した金属線材よりなるスパイラルボーンを埋め込んで、より強度の高い衝撃吸収ユニットとすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明のプロテクターは、高発泡低反発ウレタンフォームと独立気泡合成樹脂フォームを接着したパーツで構成され、その厚さは約1cm程度である上、各パーツの全周が2枚の布地の間に他のパーツと周縁が接した状態で縫着されているため、軽くて曲がり易く、厚みも目立たず、高齢者の転倒骨折を防止するに有効である。しかも本発明のプロテクターは、プログラミングされた電動ミシンで縫製ができ生産が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】Aは、正六角形パーツ1の平面図であり、Bは、正六角形パーツ1のX−X線断面図である。
【図2】プロテクターの一部生地を削除した状態の平面図である。
【図3】プロテクター縫製時の運針経路を示す平面図である。
【図4】パーツ固定フレームによりパーツを生地上にセットした状態を示す斜視図である。
【図5】プロテクターの使用状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0017】
1 正六角形パーツ
2 通気孔
3 高発泡低反発ウレタンフォーム
4 アクリル系接着剤
5 独立気泡合成樹脂フォーム
6 表側地
7 裏側地
8 縫い目
9 かがり縫い
10 パーツ固定フレーム
11 ヒップ・プロテクター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高発泡低反発ウレタンフォームと独立気泡合成樹脂フォームとを接着して構成された合成樹脂の多角形板状体よりなる複数個のプロテクターのパーツを、高発泡低反発ウレタンフォームよりなるパーツ表面に、蒸気をあてて表面を軟化せしめた後、上下2枚の布地の間に各パーツの辺側面を接して隙間がないように整列させ、予め設定したプログラムにより、ミシンで、各パーツを全ての辺において上下2枚の布地の間に縫着することを特徴とするプロテクターの製造方法。
【請求項2】
上下2枚の布地の間に、高発泡低反発ウレタンフォーム面を上にして各パーツの辺側面を接して隙間がないように整列させた後、全てのパーツによって形成されるプロテクターの形状と同一形状の金属製パーツ固定フレームによって各パーツの整列状態を固定後、ミシンで、各パーツを、全ての辺において上下2枚の布地の間に縫着することを特徴とする請求項1に記載のプロテクターの製造方法。
【請求項3】
合成樹脂よりなる多角形板状体が、正六角形である請求項1または請求項2に記載のプロテクターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−126769(P2007−126769A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319267(P2005−319267)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000003919)株式会社ナイガイ (6)
【出願人】(305052300)株式会社野口隆商店 (1)
【出願人】(504188165)有限会社ライトハウス (2)