説明

プロトンポンプ阻害剤を含有する組成物

【課題】化粧品(医薬部外品を含む)、食品等に好適な、色素沈着の予防又は改善用の組成物を提供する。
【解決手段】1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分とを含有する組成物、更には、下記一般式に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩を含有する組成物。


[式中、Rは、分岐構造又は環構造を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を表す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分とを含有する組成物に関し、詳しくは、色素沈着の予防又は改善に好適な皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢、ストレス、紫外線暴露などの要因により引き起こされるシミ、シワ、たるみ等の皮膚症状の悪化に対し、肌の美観を美しく保つことは、女性にとって非常に重要な関心事であり、このような皮膚症状の悪化を予防又は改善するための手段を求め、現在も様々な研究がなされている。特に、シミ、ソバカスや日焼け後の色素沈着は、皮膚に存在する色素細胞(メラノサイト)の活性化によりメラニン産生が著しく亢進することが原因で起こることが知られている。これらの皮膚色素関連のトラブルを予防又は改善するために、アスコルビン酸類、過酸化水素、コロイド硫黄、グルタチオン、ハイドロキノン、アルブチン、又は、カテコ−ル等の美白成分を配合した皮膚外用剤が開発されている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2を参照)。しかしながら、これらの美白成分を含有する皮膚外用剤には、一定の美白効果は認められるものの、何れも満足する美白効果が得るまでには至らず、安定性または安全性等の面に課題を有しているものも存した。
【0003】
前記の美白作用を有する成分の作用機序としては、アルブチン(例えば、非特許文献3を参照)、4−n−ブチルレゾルシノ−ル等のカテコ−ル類をはじめとするチロシナ−ゼ阻害剤(例えば、非特許文献3を参照)、チロシナ−ゼmRNA発現抑制作用によるチロシナ−ゼ発現抑制剤(例えば、特許文献1を参照)、チロシナ−ゼ酵素分解促進剤(例えば、特許文献2を参照)などが広く利用されている。また、前記美白剤を複数配合すること(例えば、特許文献3を参照)、更には、美白剤と他の有効成分、例えば、抗酸化剤等を組み合わせること(例えば、特許文献4を参照)により美白作用を増強させる試みが盛んに行われている。しかしながら、この様な美白成分又はその他の有効成分を複数配合した皮膚外用剤は、多くの場合、期待される美白効果の増強が全く存しなかったり、また、美白作用の増強効果が確認されても相加的効果であったり、相乗的効果であったりと一定の結果は得られておらず、さらに、その原因などに付いても全く知られていない。これは、メラニン産生抑制の機作が複雑であり、十分に解明されていないことも一因であると考えられる。このため、新たな作用機序を有する美白成分に注目が集まると共に、これらの新規作用機序を有する成分と既存美白剤、更には、そのほかの有効成分との組み合わせによる美白効果の増強にも期待が寄せられている。
【0004】
また、プロトンポンプ阻害剤は、生体膜上に存在しプロトンポンプ、具体的には、プロトンを能動輸送する膜タンパク質である膜ATPase(膜H-ATPase)、更には、Na/K−ATPaseと共役的に働きプロトンを受動輸送するNa/H交換輸送蛋白質(NHE)等に作用することにより細胞又は細胞小器官内のプロトン濃度を調節する働きを担っている(例えば、非特許文献4を参照)。さらに、細胞又は細胞小器官内におけるプロトン濃度変化は、生体機能を司る様々な生体分子の機能及び活性に大きく影響を与える(例えば、非特許文献5を参照)。このため、膜H−ATPase及びNa/H交換輸送蛋白質(NHE)などのプロトン濃度を調整する生体機能分子は、プロトン濃度により機能及び活性が大きく影響を受ける様々な生体機能分子が関与する疾患、例えば、本態性高血圧、不整脈、狭心症、心肥大、糖尿病、虚血若しくは虚血性再潅流による臓器障害、脳虚血障害等の予防又は治療薬に対する創薬標的分子として注目されている。一方、皮膚においては、チロシナ−ゼは、細胞又は細胞小器官におけるプロトン濃度(pH)により活性が調整されるpH依存性の酵素であり、メラノサイト内を中性に近づけることにより、酵素活性及びメラニン量が影響を受けることが報告されている(例えば、非特許文献6を参照)。しかしながら、化粧料に適応可能な成分において、細胞及び細胞小器官内などにおけるプロトン濃度を調整するプロトンポンプ阻害作用を有するものは知られていないし、化粧料の美白成分において、かかるプロトンポンプ阻害作用を機作とするものも全く知られていない。さらには、細胞又は細胞小器官内などにおけるプロトン濃度を調節するプロトンポンプ阻害剤が、メラノサイト内の酸性化を誘引し、チロシナ−ゼ活性を低下させることにより、メラニン産生を抑制し、美白をはじめとする皮膚色素異常関連疾患に有効であることも全く知られていなかった。
【0005】
本発明者等は、この様な状況において、プロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物にメラニン産生抑制作用が存することを見出した。即ち、本出願人により出願された「プロトンポンプ阻害剤」(特願2009−050226号、特願2009−219292号)により、マメ科ハギ属、シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属及びサルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物より得られる植物抽出物にプロトンポンプ阻害作用、並びに、メラニン産生抑制作用が存し、前記植物より得られる抽出物を含有する皮膚外用剤が、美白をはじめとする色素異常疾患の予防又は治療に有効であること見出している。この様なプロトンポンプ阻害剤は、新たな作用機序を有する美白剤として有用であることに加え、抗酸化剤、抗炎症剤等の有効成分等と組み合わせることにより美白作用の増強効果が期待出来る。
【0006】
一方、抗炎症剤に分類されるグリチルレチン酸誘導体は、シベリア南部、中国西部、韓国、日本や東ヨ−ロッパなどのユ−ラシア地方に自生するマメ科の多年草植物である「カンゾウ(甘草)」の主要成分であり、抗炎鎮痛剤としてアレルギ−性鼻炎や鼻炎、胃潰瘍の治療に用いられている。甘草には、ウラル甘草、シベリア甘草、野甘草などの亜種が存し、何れもがグリチルレチン酸類を含有している。本発明では、日本に野生化して自生しているものより精製して得られるグリチルレチン酸誘導体を用いている。グリチルレチン酸誘導体が有する生物活性としては、抗炎症作用をはじめ、抗ウイルス作用(例えば、特許文献5を参照)、メラニン産生抑制作用(例えば、特許文献6を参照)、肌荒れ改善作用(例えば、特許文献7を参照)などが知られており、これらの活性を生かした化粧品などへの応用が図られている。しかしながら、これらの化合物を配合した化粧料などにおいては、美白又は肌荒れ改善作用は充分満足のいくものではない上、安定性及び安全性に課題を有している。このため、グリチルレチン酸誘導体が有する生物活性を効率的に利用するための製剤技術、更には、新たな作用機序を有する美白成分と組み合わせることにより高い効果及び安全性を確保する製剤化技術が望まれている。
【0007】
また、前述の通り、既存の美白作用を有する成分と有効成分を組み合わせることにより美白作用を増強させる試みは、盛んになされている。この様な試みにおいては、既存の美白剤及び抗炎症剤を組み合わせ皮膚外用剤に配合した場合には、組み合わせによる効果は全く存しなかったり、相加的効果であったり、相乗的効果であったりと一定の結果は得られておらず、さらに、その原因などに付いても全く知られていない。また、プロトンポンプ阻害作用を有する物質とグリチルレチン酸類との組み合わせ製剤に付いては、胃潰瘍等の治療を目的とした経口投与医薬がわずかに知られている(例えば、特許文献8を参照)が、皮膚外用剤に関しては知られていない。このため、新規な美白作用機序であるプロトンポンプ阻害作用を有する物質は、新たな美白剤として期待されるのみならず、従来知られている抗炎症剤等と組み合わせたとしても、異なる作用機序を介することにより相加又は相乗的な効果増強が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−352647号公報
【特許文献2】特開平06−100451号公報
【特許文献3】特開2007−320851号公報
【特許文献4】特開2004−083503号公報
【特許文献5】特開平06−345748号公報
【特許文献6】特開2004−300048号公報
【特許文献7】特開平06−305932号公報
【特許文献8】特開2003−206238号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】武田克之ら監修、「化粧品の有用性、評価技術と将来展望」、薬事日報社刊(2001年)
【非特許文献2】メラニン色素の制御と美白剤の開発、フレグランスジャ−ナル社、No14(1995)
【非特許文献3】薬学雑誌、112(4)、276−282(1992)
【非特許文献4】蛋白質・核酸・酵素、34(10)、1251(1989)
【非特許文献5】Smith, D. R.; Spaulding, D. T.; Glenn, H. M.; Fuller, B. B., Exp. Cell. Res.、 2004、298、521−534.
【非特許文献6】Janis Ancans et. al.、Experimental Cell Research、268、26−35(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、この様な状況下において為されたものであり、色素沈着の発生を予防する手段、或いは、既に形成された色素沈着をより効果的に改善する手段を提供することにある。
【0011】
この様な状況に鑑みて、本発明者等は、紫外線暴照射の色素沈着を予防、改善する技術を求めて、鋭意努力、研究を重ねた結果、1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分とを含有する組成物が、これらの効果に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は、以下に示す通りである。
<1> 1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分とを含有することを特徴とする、組成物。
<2> 前記抗炎症成分が、キク科ゴボウ属に属する植物より得られる抽出物、マメ科カンゾウ属に属する植物より得られる抽出物、カバノキ科カバノキ属に属する植物より得られる抽出物、クルミ科に属する植物より得られる抽出物、グリチルレチン酸誘導体並びにそれらの薬理学的に許容される塩、グラブリジン誘導体及びそれらの薬理学的に許容される塩より選択されるものであることを特徴とする、<1>に記載の組成物。
<3> 前記キク科ゴボウ属に属する植物、マメ科カンゾウ属に属する植物、カバノキ科カバノキ属に属する植物、クルミ科に属する植物が、キク科ゴボウ属ゴボウ、マメ科カンゾウ属カンゾウ、カバノキ科カバノキ属シラカバ、クルミ科コウキであることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の組成物。
<4> 前記グリチルレチン酸誘導体が、グリチルレチン酸及び/又はその薬理学的に許容される塩、グリチルレチン酸アルキル及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩、並びに、グリチルリチン酸及びその薬理学的に許容される塩であることを特徴とする、<1>又は<2>に記載の組成物。
<5> 前記グリチルレチン酸及びその薬理学的に許容される塩が、グリチルレチン酸ステアリル及び/又はその薬理学的に許容される塩であること、前記グリチルリチン酸及びその塩が、グリチルリチン酸ジカリウムであることを特徴とする、<1>、<2>又は<4>に記載の組成物。
<6> 前記プロトンポンプ阻害剤は、植物体を抽出して得られるものであることを特徴とする、<1>〜<5>の何れか一項に記載の組成物。
<7> 前記プロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物が、下記に挙げる植物の抽出物であることを特徴とする、<1>〜<6>の何れか一項に記載の組成物。
(植物)シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核
<8> 前記シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物が、シソ科タチジャコウソウ属タイム、マメ科クララ属クララ、ショウガ科ショウガ属ショウガ、サトイモ科ショウブ属ショウブ、ウリ科ヘチマ属ヘチマ、ユキノシタ科アジサイ属アマチャ、サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウであることを特徴とする、<1>〜<7>の何れか一項に記載の組成物。
<9> 前記プロトンポンプ阻害剤は、メラノサイトにおいてメラノサイト内を酸性化する作用を有することを特徴とする、<1>〜<8>の何れか一項に記載の組成物。
<10> 前記プロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物が、Na/H交換輸送系に作用することを特徴とする、<1>〜<9>の何れか一項に記載の組成物。
<11> 前記抗炎症成分が、組成物全量に対し、0.00001質量%〜3質量%含有することを特徴とする、<1>〜<10>の何れか一項に記載の組成物。
<12> 前記プロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物を組成物全量に対し、0.00001質量%〜10質量%含有することを特徴とする、<1>〜<11>の何れか一項に記載の組成物。
<13> さらに、下記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、<1>〜<12>の何れか一項に記載の組成物。
【0012】
【化1】

(1)
[式中、R1は、分岐構造又は環構造を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を表す]
【0013】
<14> 前記一般式(1)で表される化合物が、4−n−ブチルレゾルシノ−ル及び/又はその薬理学的に許容される塩であることを特徴とする、<1>〜<13>の何れか一項に記載の組成物。
<15> 更に、化粧料として好ましい成分を含有することを特徴とする、<1>〜<14>の何れか一項に記載の組成物。
<16> 化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、<1>〜<15>の何れか一項に記載の組成物。
<17> 皮膚外用剤であることを特徴とする、<1>〜<16>の何れか一項に記載の組成物。
<18> 油中水乳化剤形であることを特徴とする、<17>に記載の皮膚外用剤。
<19> 色素沈着予防用であることを特徴とする、<17>又は<18>に記載の皮膚外用剤。
<20> 紫外線暴露の直後に使用するための、<17>〜<19>に記載の皮膚外用剤。
<21> 1)グリチルレチン酸誘導体及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、2)プロトンポンプ阻害剤を含有する皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、紫外線暴露後の色素沈着の発生を予防又は改善する手段を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の植物抽出物のメラノサイト内の酸性化(プロトンポンプ阻害作用)の検討結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<本発明のプロトンポンプ阻害剤>
本発明の組成物は、1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分とを含有することを特徴とする。本発明のプロトンポンプ阻害剤としては、細胞又は細胞小器官内などにおけるプロトン濃度(pH)の調節に関与する生体機能分子に直接又は間接的に働きかけることにより、細胞又は細胞小器官内等におけるプロトン濃度(pH)を調節する物質を意味し、前記プロトンポンプ阻害作用を有する物質であれば、特段の限定なく適応することが出来る。本発明のプロトンポンプ阻害剤の内、好ましいものを具体的に例示すれば、ミトコンドリア内膜に存在するF型ATPase群、細胞内の液胞などの細胞膜に存在するV型ATPase群、形質膜に存在するP型ATPase群などの能動的なプロトン輸送を担う膜H-ATPaseのみならず、Na/K−ATPase等のイオンポンプと共役的に働き受動的にプロトンを輸送するNa/H交換輸送体などに作用しプロトン濃度を調節する作用を有する成分が好適に例示出来る。本発明のプロトンポンプ阻害剤の内、さらに好ましいものとしては、後述する「メラノサイト内酸性化(プロトンポンプ阻害作用)検討」において、メラノサイト内の酸性化作用を有する物質が好適に例示出来る。本発明のメラノサイト内における酸性化作用を有する物質とは、蛍光顕微鏡による目視観察により、pH感受性蛍光色素の発色強度の増強が認められる物質を意味する。
【0017】
本発明のプロトンポンプ阻害剤とは、単純な化学物質、生薬及び動植物からの抽出物を意味し、かかる成分を唯1種のみを含有することも出来るし、2種以上を組み合わせて含有させることも出来る。ここで、本発明の抽出物とは、抽出物自体、抽出物の分画、精製した分画、抽出物乃至は分画、精製物の溶媒除去物の総称を意味する。かかる成分の内、化学物質としては、オメプラゾ−ル、ランソプラゾ−ル、ラベプラゾ−ル及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩が好適に例示出来る。また、かかる成分の内、生薬及び動植物より得られる抽出物としては、上記の方法にて本発明者等が検討した結果からは、シソ科タチジャコウソウ属に属する植物より得られる抽出物、マメ科クララ属に属する植物より得られる抽出物、ショウガ科ショウガ属に属する植物より得られる抽出物、サトイモ科ショウブ属に属する植物より得られる抽出物、ウリ科ヘチマ属に属する植物より得られる抽出物、ユキノシタ科アジサイ属に属する植物より得られる抽出物、サルノコシカケ科マツホド菌核より得られる抽出物などが好適例示出来、より好ましくは、シソ科タチジャコウソウ属タイム、マメ科クララ属クララ、ショウガ科ショウガ属ショウガ、サトイモ科ショウブ属ショウブ、ウリ科ヘチマ属ヘチマ、ユキノシタ科アジサイ属アマチャ、サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウなどが好適に例示出来る。かかる植物の抽出物作製に用いる植物部位としては、植物体、地上部又は木幹部が好適に例示出来る。かかるシソ科タチジャコウソウ属タイムは、南ヨ−ロッパ原産の常緑の小低木であり、日本全土の亜高山〜高山帯に自生しており、食品などのスパイスとして広く使用されている。マメ科クララ属クララは、中国原産の多年草であり、本州、四国、九州の日当たりのよい草原などに自生する。根は、生薬の「苦参(クジン)」で、健胃、消炎等の作用が存する。ショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)は、熱帯アジア原産の球根性の多年草であり、日本では、九州の一部と沖縄に自生し、食品などとして使用されている。ショウブ科ショウブ属ショウブは、東アジアから日本全土に広く分布する常緑の多年草草木である。ウリ科ヘチマ属ヘチマは、インド原産とされ中国を経て日本に渡来したとされる植物であり、現在では、本州中部以南において栽培されている。ユキノシタ科アジサイ属アマチャは、日本原産の落葉小低木であり、本州、四国、九州において栽培されている。サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウは、東アジアを原産とする菌類であり、中国、韓国、日本などにおいて自生している。本発明における前記の植物より得られる抽出物は、日本において自生又は生育された植物、漢方生薬原料などとして販売される日本産のものを用い抽出物を作製することも出来るし、丸善株式会社などの植物抽出物を扱う会社より販売されている市販の抽出物を購入し、使用することも出来る。抽出に際し、植物体、地上部、木幹部又は根茎部は予め、粉砕或いは細切して抽出効率を向上させるように加工することが好ましい。抽出物は、植物体、地上部、木幹部又は根茎部乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1〜30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬する。浸漬後は、室温まで冷却し、所望により不溶物を除去した後、溶媒を減圧濃縮するなどにより除去することが出来る。しかる後、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムクロマトグラフィ−などで分画精製し、所望の抽出物を得ることが出来る。
【0018】
前記抽出溶媒としては、極性溶媒が好ましく、水、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ブタノ−ルなどのアルコ−ル類、1,3−ブタンジオ−ル、ポリプロピレングリコ−ルなどの多価アルコ−ル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル類から選択される1種乃至は2種以上が好適に例示出来る。
【0019】
また、本発明のプロトンポンプ阻害剤は、生体膜に存在するプロトンポンプ(膜H−ATPase)阻害作用、又は、イオンポンプであるNa/K−ATPaseと共役的に働くNa/H交換輸送系などに作用し、細胞又は細胞小器官等におけるプロトン輸送を阻害することによる細胞又は細胞小器官内における酸性化作用(プロトンポンプ阻害作用)に優れる。細胞又は細胞小器官内の酸性化作用は、細胞内に存在するpH依存的な機能分子(例えば、酵素、イオンチャネル等)の生物活性に影響を及ぼす。細胞又は細胞小器官内などの酸性化作用は、pH依存的な機能分子のひとつであるチロシナ−ゼ等の酵素活性を低下させ、メラニン産生を抑制し、美白をはじめとする皮膚色素異常関連疾患に対する予防又は改善効果が期待される。かかる成分は、生体膜に存在するプロトンポンプ(膜H−ATPase)阻害作用、又は、イオンポンプであるNa/K−ATPaseと共役的に働くNa/H交換輸送系などのプロトン輸送を担う生体分子に作用し、プロトン輸送を阻害することにより細胞又は細胞小器官内等における酸性化を誘引する作用、標的部位への集積性及び選択性に優れ、高い安全性及び安定性を有するために、医薬、食品、化粧料などへの使用が好ましい。また、かかる成分は、抗炎症剤、さらには、前記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と共に共に組成物に配合することにより、色素沈着予防又は改善作用を示す。これは、かかる成分が有するプロトンポンプ阻害作用によるメラニン産生抑制作用が、抗炎症剤、又は、前記一般式(1)に表される化合物が有するチロシナ−ゼ酵素の直接阻害作用に起因するメラニン産生抑制作用とは異なる作用機序でるため、かかる作用が干渉することなく働くため、相乗的なメラニン産生抑制作用を奏する。
【0020】
本発明の組成物におけるプロトンポンプ阻害剤の含有量は、組成物全量に対し0.00001質量%〜10質量%、より好ましくは、0.0001質量%〜5質量%、さらに好ましくは、0.001〜3質量%含有させることがより好ましい。これは、プロトンポンプ阻害剤の含有量が、少なすぎると細胞又は細胞小器官内等におけるプロトンポンプ阻害作用(酸性化作用)を介するメラニン産生抑制作用を奏さない、更には、後記の抗炎症成分、並びに、前記一般式(1)に表される化合物との併用効果を奏しない場合が存し、多すぎても、効果が頭打ちになり、この系の自由度を損なう場合が存するためである。また、かかる成分は、細胞又は細胞小器官内等における標的分子に対し高い選択性及び集積性を有するため、高い安全性が期待される。このため、医薬、食品、化粧料などへの使用が好ましい。さらに、本発明の皮膚外用剤においては、プロトンポンプ阻害剤、取り分け、前記の植物抽出物を、保湿などのプロトンポンプ阻害作用以外の作用を目的に配合した場合であっても、前記抽出物が、プロトンポンプ阻害作用を有する場合は、本願発明の構成と効果を充足するので、本発明の技術的範囲に属する。
【0021】
<製造例1: 本発明におけるプロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物の製造方法>
本発明のプロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物(ショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)より得られる植物抽出物)の製造方法を、以下に示す。本抽出物は、ショウガ Zingiber officinale Roscoe( Zingiberaceae ) の根茎をエタノ−ルに浸漬し製造した。具体的には、ショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)を粗末にしたもの200gに、薄めたエタノ−ル(37〜50%)約600mLを加え、時々かき混ぜながら可溶性成分が充分に溶けるまで放置し、布ごしし、残留物を薄めたエタノ−ル(37〜50%)少量で洗い、圧搾し、浸出液及び洗液をあわせ、2日間放置し、濾過し、さらに薄めたエタノ−ル(37〜50%)を加え、本抽出物 全量1000mLを製造した。
【0022】
本発明のプロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物は、前記のショウガ科ショウガ属ショウガ(ショウキョウ)より得られる植物抽出物の製造例に準じ製造することも出来るし、丸善株式会社、一丸ファルコス株式会社などにより市販されている抽出物を購入し、使用することも出来る。
【0023】
<試験例1: 本発明の植物抽出物を用いたメラノサイト内酸性化(プロトンポンプ阻害作用)検討>
本発明の植物抽出物に関し、以下の手順に従い、生細胞内酸性化(プロトンポンプ阻害作用)検出を行った。ヒト正常メラノサイト(クラボウ株式会社)を4ウェルLab-Tek chamber slide(Thormo Fisher Scientific社)に10000cells/cm播種し、翌日、評価物質を含有する培地 0.5mL/wellに交換し、30分培養した。コントロ−ルとして評価物質を含まないサンプルを前記同様に調製した。その後、Lysosensor189(モレキュラ−プロ−ブ社:最終濃度1μM)を加え、15分間培養した。培養終了後、PBSにて洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで室温15分固定を行った。その後、スライドガラスでサンプルを封入し、蛍光顕微鏡(カ−ルツァイツ社)にて観察した。 本発明に於いて、プロトンポンプ阻害作用を有する物質とは、当該ヒト正常メラノサイトを用いたメラノサイト内酸性化(プロトンポンプ阻害作用)検出において、pH感受性蛍光色素の発色強度が、蛍光顕微鏡による目視的観察により、発光強度の増強が認められる場合を意味する。結果を図1に示す。
【0024】
評価物質非処理のコントロ−ルに比較し、評価物質処理によりLysosensor189の蛍光強度(緑色)が増強していれば、ヒト正常メラノサイト内の酸性化が亢進したと考えられる。
【0025】
図1において、コントロ−ルでは、酸性化度を示す蛍光発色強度は弱い。一方、本発明の植物抽出物を処理した場合は、いずれも蛍光強度は増強している。従って、本発明の植物抽出物は、顕著なメラノサイト内における酸性化作用(プロトンポンプ阻害作用)を示すことが判った。
【0026】
<試験例2: 本発明の植物抽出物のメラニン産生抑制作用評価>
本発明の植物抽出物を用い、以下の記載の方法に従い、メラニン産生抑制作用を評価した。24穴プレ−トにヒト正常メラノサイト(クラボウ株式会社)を22500(cells/cm)播種する。翌日、評価物質を含有する培地 0.5(mL/well)に交換し、0.25(μCi)2−[2−14C]チオウラシル(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を添加し培養を継続する。播種4日後、培地を除去しPBSで1回プレ−トを洗浄した後、細胞生存率を評価するため生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク社)溶液を添加した培地に交換し、37℃、3時間呈色反応を行った。反応後、450(nm)の吸光度をマイクロプレ−トリ−ダ−Benchmark Plus(Bio-Rad Laboratories)を用いて測定した。コントロ−ルとして評価物質を含まないサンプルを前記同様に調製し、コントロ−ルに対する各評価物質を含むサンプルの吸光度の百分率を求め細胞生存率とした。メラニン量測定のため吸光度測定後、PBSで1回プレ−トを洗浄し、TCAを添加し、細胞を溶解した後、蒸留水を加え溶液をバイアルに移した。氷上に放置後、15000rpm、5分間遠心した後、上清を除去した。再度、各バイアルに10%TCA 500(μL)を添加し、氷上15分間放置した。15000rpm、5分間遠心した後、上清を除去した。残渣にアクアゾ−ル−2(パ−キンエルマ−社) 1(mL)を添加し、液体シンチレ−ションカウンタ− LSC−6100(アロカ社製)にて放射線量を測定した。コントロ−ルとして評価物質を含まないサンプルを前記同様に調製し、コントロ−ルに対する評価物質を含むサンプルの放射線量の百分率を求めメラニン量(%)とした。メラニン産生量の50%阻害濃度(IC50値)は、細胞毒性の認められない範囲でSAS software version 9.1.3(SAS Institute Inc.)を用い算出した。本発明において、メラニン産生抑制作用を有する物質とは、当該ヒト正常メラノサイトを用いたメラニン産生抑制作用評価において、細胞毒性の認められない濃度においてコントロ−ルと比較しメラニン産生量を50%以下のレベルに低下させる作用を有する場合を意味する。これは、メラニン産生抑制作用が低い物質を配合した場合には、期待されるメラニン産生抑制作用が現われないためである。結果を表1に表す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の結果より、陽性対照のハイドロキノンは、メラニン産生抑制作用を示し、この評価系の客観性が確認された。本発明の植物抽出物は、いずれも顕著なメラニン産生抑制作用を有していることが判った。
【0029】
図1の結果より、本発明の植物抽出物は、顕著なメラノサイト内における酸性化作用(プロトンポンプ阻害作用)を示すことが判った。また、図1及び表1の結果を踏まえ、プロトンポンプ阻害作用を介するメラノサイト内の酸性化を以って、メラノサイト内のチロシナ−ゼ活性を阻害する機作のメラニン産生抑制作用の代替値として、このメラサイト内の酸性化作用を用いることが出来ることも判る。かかる作用を有する成分を、プロトンポンプ阻害作用を機作とするメラニン産生抑制剤と見なし、本発明の組成物においては、かかるプロトンポンプ阻害作用を機作とするメラニン産生抑制剤を以て、プロトンポンプ阻害剤として扱う。これはかかるメラノサイト内のpHを酸性化し、チロシナーゼ活性を低下させることが本発明の効果に関わるからである。
【0030】
<本発明の抗炎症成分>
本発明の組成物は、1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分とを含有することを特徴とする。本発明の抗炎症成分としては、抗炎症作用を有する物質であれば特段の限定なく適応出来、例えば、キク科カミツレ属カミツレ(カモミ−ル)の抽出物、キク科ゴボウ属ゴボウの抽出物、カバノキ科カバノキ属シラカバの抽出物、クルミ科コウキの抽出物、マメ科カンゾウ属カンゾウの抽出物等の抗炎症作用を有する植物抽出物に加え、クラリノン、グラブリジン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸などの抗炎症植物抽出物に含有される主要な成分が好ましく例示出来、より好ましくは、キク科ゴボウ属ゴボウより得られる植物抽出物、マメ科クララ属クジンより得られる植物抽出物、カバノキ科カバノキ属シラカバより得られる植物抽出物、クルミ科コウキより得られる植物抽出物、グリチルレチン酸誘導体及びその誘導体から選択されるものが好適に例示出来、さらに好ましくは、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルレチン酸アルキル及びその塩、並びに、グリチルレチン酸及びその塩が好適に例示出来る。本発明の抗炎症作用を有する植物抽出物は、水やエタノ−ルなどの低級アルコ−ルを溶媒として、植物体乃至はその加工物に1〜20倍量加え、所望により攪拌を適宜加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬し、不溶物を濾過などで除去した後、所望により、減圧溜去等で溶媒を除去し、場合によっては「ダイアイオンHP20」等を担体としてカラムクロマトグラフィ−等で精製分画し、使用することができる。植物抽出物を作製するのに好ましい植物部位としては、キク科カミツレ属カモミ−ルであれば、花蕾、キク科ゴボウであれば根部、マメ科クララ属クジンであれば、地下茎部、カバノキ科カバノキ属シラカバであれば樹皮、クルミ科コウキであれば葉部、マメ科カンゾウ属カンゾウであれば、地下茎が好ましく例示できる。グリチルリチン酸及びその塩、グリチルレチン酸アルキル及びその塩、グリチルリチン酸及びその塩などのグリチルレチン酸誘導体は、抗炎症作用のほかに、メラニン産生抑制作用、保湿作用等を有する。本発明は、紫外線暴露により生じる色素沈着に対して優れた抑制作用を有するが、この様な用途に対し皮膚外用剤を使用する際には、紫外線暴露による炎症を惹起する可能性が高く、炎症反応及びそれに付随する種々の皮膚反応は、メラニン生成を亢進させる。従って、この様な抗炎症作用を有する成分を含有させることにより、炎症が沈静化する又は更なる炎症を抑えると共に、経皮的水分蒸散量の増加が抑制される。即ち、炎症後の肌荒れの出現も抑制される。また、色素沈着も重篤化することを防ぐことが出来る。
【0031】
前記グリチルレチン酸誘導体は、医薬部外品の有効成分として知られている成分であり、グリチルレチン酸アルキル及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩としては、例えば、グリチルレチン酸ステアリル、グリチルレチン酸ラウリル及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩等が好適に例示出来、グリチルリチン酸及び/又はその塩としては、グリチルリチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸アンモニウム等が好適に例示出来、これらの内、グリチルリチン酸ステアリル、グリチルリチン酸ジカリウムが好ましい。これは、使用例が豊富で安全性が高いことが既に知られているからである。かかる成分の好ましい含有量は、皮膚外用剤全量に対し0.00001質量%〜3質量%であり、より好ましくは、0.0001質量%〜2質量であり、さらに好ましくは、0.001〜1質量%である。これは少なすぎると前記効果を奏しない場合が存し、多すぎても、効果が頭打ちになり、この系の自由度を損なう場合が存するためである。かかる成分は、皮膚に対して、抗炎症作用、メラニン産生抑制作用、肌荒れ改善作用などが発現するが、本発明の組成物においては、前記のプロトンポンプ阻害剤、更には、前記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と共に働いて、紫外線暴露後に生じる色素沈着(シミ、ソバカス、色黒など)の予防又は改善に対し優れた効果を奏する。
【0032】
かかる成分は、皮膚に対して、抗炎症作用、メラニン産生抑制作用、肌荒れ改善作用などを発現するが、本発明の組成物においては、前記のプロトンポンプ阻害剤と共に働いて、紫外線暴露により生じる色素沈着(シミ、ソバカス、色黒など)の予防又は改善に対する優れた効果を奏する。かかる成分は、プロトンポンプ阻害剤と共に含有させることにより、日焼け直後などの皮膚の炎症に対し皮膚外用剤として投与した場合、より速やかに炎症を抑え、皮膚バリア機能の回復効果を示し、肌状態悪化の予防効果が増大し、その結果として、本発明の皮膚外用剤のメラニン生成抑制効果も向上する。即ち、このような形態の皮膚外用剤は、皮膚に炎症がある場合にも、紫外線によって引き起こされる色素沈着症予防用の皮膚外用剤として好ましい。
【0033】
<本発明の組成物>
本発明の組成物は、1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症剤とを必須成分として含有することを特徴とする。前記必須成分を含有する組成物の作製にあたっては、前記必須成分以外に、通常医薬、化粧品、食品、飲料の製剤化で使用される任意成分を含有することが出来る。また、本発明の組成物の投与経路としては、経口投与、経皮投与の何れもが可能である。また、かかる成分が連続投与される場合、さらには安全性を考慮した場合、経皮的に投与されることが好ましい。経皮的に投与されるものであれば特段の限定なく応用出来、例えば、医薬部外品を含む化粧料、皮膚外用医薬、皮膚外用雑貨等が好ましく例示できる。これは本発明の皮膚外用剤が、比類無き使用感の良さを有しているため、使用感が重要な化粧料に特に好適であるためである。化粧料としては、油中水乳化剤形を応用できるものであれば、特段の限定はなく、例えば、エッセンス、乳液、クリ−ム等の基礎化粧料、アンダ−メ−クアップ、ファンデ−ション、チ−クカラ−、マスカラ、アイライナ−などのメ−クアップ化粧料、ヘアクリ−ムなどの毛髪化粧料などが好適に例示できる。
【0034】
本発明の組成物において、色素沈着、取り分け、紫外線照射後の色素沈着の発生を予防する手段、或いは、出来た色素沈着をより効果的に改善するためには、前記必須成分に加え、前記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩を含有することが好ましい。前記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩は、チロシナ−ゼ酵素の直接阻害作用に優れ、前記プロトンポンプ阻害剤、並びに、抗炎症剤とは異なる作用機序を介しメラニン産生抑制作用を発揮する。
【0035】
ここで前記一般式(1)に表される化合物に付いて述べれば、式中、R1は、分岐構造又は環状構造を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n−ペンチル基、アミル基、イソアミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、イソオクチル基、1−メチルプロピル基、1−メチルブチル基、1−エチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1−イソプロピル−2−メチルプロピル基、1,1−ジメチル−3−メチルブチル基、1−ブチルペンチル基、1−イソブチル−3−メチルブチル基、イソステアリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが好ましく例示出来、これらの内、n−ブチル基が特に好ましく例示出来る。前記一般式(1)に表される化合物の内、好ましいものとしては、4−ブチルレゾルシノ−ル及び/又はその薬理学的に許容される塩が好適に例示出来る。かかる化合物は、メラニン産生過程における鍵酵素のチロシナ−ゼを直接阻害するチロシナ−ゼ酵素阻害作用によりメラニン産生抑制作用を示すほか、前記のプロトンポンプ阻害剤、並びに、抗炎症剤と共に組成物に配合することにより、優れた色素沈着予防又は改善作用を示す。
【0036】
前記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩、特に、4−アルキルレゾルシノ−ルは、相当するアルキル基を有するカルボン酸とレゾルシンを塩化亜鉛の存在下、縮合し、亜鉛アマルガム/塩酸により還元する方法、又は、相当するアルキル基を有するアルコ−ル及びレゾルシンを200〜400℃の高温下にて縮合させる方法等の公知の合成方法(例えば、Lille ,J. ; Bitter, L. A.; Peiner, V. Trudy-Nauchono- Issledovatel' skii Institut Slantsev (1969)、No.18、 127−134、特開2006−124358号公報、特開2006−124357号公報を参照)に従い製造することも出来るし、市販の試薬として購入することも出来る。
【0037】
また、斯くして得られた一般式(1)に表される化合物は、そのまま使用することも出来るし、薬理学的に許容される酸又は塩基と共に処置し塩の形態に変換し、塩として使用することも可能である。例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩などの鉱酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩などの有機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩、トリエチルアミン塩、トリエタノ−ルアミン塩、アンモニウム塩、モノエタノ−ルアミン塩、ピペリジン塩などの有機アミン塩、リジン塩、アルギニン酸塩などの塩基性アミノ酸塩などが好適に例示出来る。かかる成分は唯一種含有させることも出来るし、二種以上を組み合わせて含有させることも出来る。前記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩の含有量は、組成物全量に対し0.0001質量%〜5質量%、より好ましくは、0.001質量%〜3質量%、さらに好ましくは、0.01〜1質量%含有させることがより好ましい。これは、前記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩の含有量が、少なすぎると、かかる化合物が有するチロシナ−ゼ酵素に対する直接阻害作用、並びに、前記のプロトンポンプ阻害剤、更には、抗炎症成分との併用効果を奏しない場合が存し、多すぎても、効果が頭打ちになり、この系の自由度を損なう場合が存するためである。
【0038】
本発明の皮膚外用剤においては、前記必須成分に加えて、油中水乳化剤形を形成するための乳化剤を含有することが好ましく、該乳化剤としては、有機変性粘土鉱物やジグリセリンモノオレ−トやトリグリセリンジイソステアレ−ト等が好適に例示できる。ジグリセリンモノオレ−トを乳化剤として用いる場合に於いては、必須成分としての量に、乳化のための量を積算し、安定化作用のための役割と、乳化のための役割を兼ねさせることもできる。
【0039】
前記有機変性粘土鉱物に於いて、有機変性とは、粘土鉱物の一部に有機化合物の一部を共有結合乃至はイオン結合を介して強固乃至は緩やかな結合を生ぜしめ、有機化合物の性質の一部乃至は全部を粘土鉱物に付与させることを意味し、この様な変性としては4級アミン基と粘土鉱物のアニオン部分を結合させる方法、カルボキシル基と粘土鉱物のカチオン部分を結合させる方法等が例示でき、4級アミン基と粘土鉱物のアニオン部分を結合させる方法が特に好ましく例示できる。
【0040】
粘土鉱物を変性させる4級アミノ基を有する化合物としては、特に限定されるわけではないが、クオタニウムと称される化合物が例示される。クオタニウムとは、低分子の置換第4級アンモニウム塩であって、国際基準化粧品原材料(INCI)に登録された化粧料原料が好ましい。さらに、粘土鉱物を変性させる4級アミノ基を有する化合物は、クオタニウム化合物のなかでも、従来の皮膚外用剤に含有されるクオタニウム化合物であることが好ましい。従来の皮膚外用剤で使用されているクオタニウム化合物としては、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド等が好ましく例示される。ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジメチルジステアリルアンモニウムクロリド等は、粘土鉱物とともに安定な油中水乳化構造を形成することができるので好ましい。
【0041】
一方、4級アミノ基を有する化合物で変性される粘土鉱物(未変性粘土鉱物)としては、従来の皮膚外用剤に含有される粘土鉱物であれば特段の限定無く使用することができる。従来の皮膚外用剤に含有される粘土鉱物としては、スメクタイト系のヘクトライト、ベントナイトやモンモリロナイト;カオリナイト;イライト;マリ−ン粘土鉱物(海泥);デザ−トロ−ズ粘土鉱物;パスカライトなどが好ましく挙げられる。これらのうち、油中水乳化構造を安定化させることができるベントナイト、ヘクトライト、モンモリロナイト又はカオリナイトが好ましく例示される。
【0042】
本発明の皮膚外用剤に含有される4級アミノ基を有する化合物で変性された粘土鉱物の製造方法の一例を以下に説明する。前記未変性粘土鉱物を分散媒に分散させる。該分散剤は水系の溶媒であることが好ましく、水であってもよい。分散未変性粘土鉱物を含む分散液に、さらに4級アミノ基を有する化合物を加え、よく撹拌する。4級アミノ基を有する化合物は、水に溶解されて加えられてもよい。加えられる4級アミノ基を有する化合物の量は、分散未変性粘土鉱物の量に対して0.01〜20質量%であることが好ましく、0.05〜15質量%であることがより好ましい。この様な構成を取ることにより、乳化系において、好ましい使用感を呈するためである。撹拌後、分散質を濾取し、脱水、乾固することにより本発明における変性粘土鉱物を得ることができる。あるいは、分散質を濾取することなく、減圧濃縮することにより分散剤を除去して乾固させることにより、本発明における変性粘土鉱物を得ることもできる。得られた変性粘土鉱物は、好ましくは所望のサイズ(粒径が1〜1000μmであることが好ましい)に粉砕され、本発明の皮膚外用剤に含有される。
【0043】
本発明における変性粘土鉱物は、前述したように調製して使用されることもできるが、市販されているものを使用することもできる。市販されている変性粘土鉱物には、化粧料などの皮膚外用剤などとして用いられているものもある。市販されている変性粘土鉱物としては、例えば、エレメンティス社より「ベントン38V」の名称で販売されている、ジメチルジステアリルアンモニウム変性ヘクトライトなどが好ましく例示される。
【0044】
本発明の皮膚外用剤においては、かかる成分は0.01〜10質量%好ましく含有され、より好ましくは0.05〜5質量%含有される。かかる成分は、前記の含有量の範囲において、乳化剤として、高内相の油中水乳化剤形を形成すべく働く。
【0045】
ジグリセリンモノオレ−ト及び/又はトリグリセリンジイソステアレ−トを乳化剤として含有する場合には、かかる乳化剤の質量の0.5〜2倍のマルチト−ルやソルビト−ルの様な多価アルコ−ルをともに含有させることが好ましい。前記ジグリセリンモノオレ−トの化粧料用の原料としては、「ニッコ−ルDGMO−C」(日本サ−ファクタント株式会社製)が好ましく例示できるし、トリグリセリンジイソステアレ−トの化粧料用の原料としては、「エメレスト2452」(エメリ−社製)などが好ましく例示できる。かかる成分の好ましい含有量は、皮膚外用剤全量に対して、1〜10質量%であり、より好ましくは2〜7質量%である。これはこの量範囲を逸脱すると乳化できない場合や安定性が損なわれる場合が存するためである。
【0046】
本発明の皮膚外用剤は、油中水乳化剤形に形態を取るため、油中水乳化剤形の使用感、仕上がり感の欠点を補うために、シリコ−ン、特に好ましくは、シクロメチコン及び/又は粘度1mPa・s以下のジメチコンを含有することが好ましく、該シリコ−ンの含有量としては、化粧料全量に対しては、10〜50質量%含有することが好ましく、より好ましくは、20〜40質量%であり、シクロメチコン及び粘度1mPa・s以下のジメチコンの含有量の和が油相全量に対して、50質量%以上、より好ましくは55質量%以上であることが好ましい。
【0047】
又、本発明の皮膚外用剤では、乳化剤として前記有機変性粘土鉱物を用いる場合、前記有機変性粘土鉱物の乳化作用を補助する意味で、POE変性メチルポリシロキサン、POP変性メチルポリシロキサン、POP・POE変性メチルポリシロキサン等のポリエ−テル変性メチルポリシロキサンを含有することが好適に例示できる。かかるポリエ−テル変性メチルポリシロキサンの好ましい含有量は、0.5〜5質量%、1〜3質量%がより好ましい。
【0048】
乳化剤として前記有機変性粘土鉱物を用いる場合、更に、上記の成分以外の好ましい任意成分としては、乳化状態を安定化できる、多価アルコ−ルが例示できる。特に、グリセリン、ジグリセリン、ジプロピレングリコ−ル、1,3−ブチレングリコ−ル等が好適に例示できる。かかる成分は唯一種を含有することもできるし、二種以上を組み合わせて含有させることもできる。好ましい含有量は、総量で、皮膚外用剤全量に対して、5〜30質量%であり、より好ましくは10〜25質量%である。更に加えて、1,2−ペンタンジオ−ル、1,2−ヘキサンジオ−ル及び1,2−オクタンジオ−ルから選択される1種乃至は2種以上を1〜7質量%含有させることも、防腐力を向上させる見地から好ましい。
【0049】
上記以外にも、本発明の皮膚外用剤に於いては、本発明の効果を損ねない限度に於いて、通常使用される任意成分を含有することもできる。この様な任意成分としては、例えば、マカデミアナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、オリ−ブ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サフラワ−油、綿実油、ホホバ油、ヤシ油、パ−ム油、液状ラノリン、硬化ヤシ油、硬化油、モクロウ、硬化ヒマシ油、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、イボタロウ、ラノリン、還元ラノリン、硬質ラノリン、ホホバロウ等のオイル、ワックス類;流動パラフィン、スクワラン、プリスタン、オゾケライト、パラフィン、セレシン、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類;オレイン酸、イソステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、ウンデシレン酸等の高級脂肪酸類;セチルアルコ−ル、ステアリルアルコ−ル、イソステアリルアルコ−ル、ベヘニルアルコ−ル、オクチルドデカノ−ル、ミリスチルアルコ−ル、セトステアリルアルコ−ル等の高級アルコ−ル等;イソオクタン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、イソステアリン酸ヘキシルデシル、アジピン酸ジイソプロピル、セバチン酸ジ−2−エチルヘキシル、乳酸セチル、リンゴ酸ジイソステアリル、ジ−2−エチルヘキサン酸エチレングリコ−ル、ジカプリン酸ネオペンチルグリコ−ル、ジ−2−ヘプチルウンデカン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリン、トリ−2−エチルヘキサン酸トリメチロ−ルプロパン、トリイソステアリン酸トリメチロ−ルプロパン、テトラ−2−エチルヘキサン酸ペンタンエリトリット等の合成エステル油類等の油剤類;脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノ−ルアミンエ−テル等のアニオン界面活性剤類;塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等のカチオン界面活性剤類;イミダゾリン系両性界面活性剤(2−ココイル−2−イミダゾリニウムヒドロキサイド−1−カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、アシルメチルタウリン等の両性界面活性剤類;ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレ−ト、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコ−ル脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコ−ル等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエ−テル、POEソルビタン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエ−ト、モノステアリン酸ポリオキエチレンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE−ソルビットモノラウレ−ト等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE−グリセリンモノイソステアレ−ト等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコ−ルモノオレ−ト、POEジステアレ−ト等)、POEアルキルエ−テル類(POE2−オクチルドデシルエ−テル等)、POEアルキルフェニルエ−テル類(POEノニルフェニルエ−テル等)、プルロニック型類、POE・POPアルキルエ−テル類(POE・POP2−デシルテトラデシルエ−テル等)、テトロニック類、POEヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖ラウリン酸エステルなどのショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類;ポリエチレングリコ−ル、グリセリン、エリスリト−ル、ソルビト−ル、キシリト−ル、マルチト−ル、プロピレングリコ−ル、2,4−ヘキサンジオ−ル等の多価アルコ−ル類;ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類;表面を処理されていても良い、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、;表面を処理されていても良い、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化コバルト、群青、紺青、酸化チタン、酸化亜鉛の無機顔料類;表面を処理されていても良い、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパ−ル剤類;レ−キ化されていても良い赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類;ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマ−等の有機粉体類;パラアミノ安息香酸系紫外線吸収剤;アントラニル酸系紫外線吸収剤;サリチル酸系紫外線吸収剤;桂皮酸系紫外線吸収剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤;糖系紫外線吸収剤;2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ−ル、4−メトキシ−4’−t−ブチルジベンゾイルメタン等の紫外線吸収剤類;エタノ−ル、イソプロパノ−ル等の低級アルコ−ル類;ビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6塩酸塩、ビタミンB6トリパルミテ−ト、ビタミンB6ジオクタノエ−ト、ビタミンB2又はその誘導体、ビタミンB12、ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類;α−トコフェロ−ル、β−トコフェロ−ル、γ−トコフェロ−ル、ビタミンEアセテ−ト等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類等;フェノキシエタノ−ル等の抗菌剤;EDTA、EDTA2Na、EDTA3Na、EDTA4Na等のエデト酸塩(エチレンジアミン四酢酸塩);HEDTA3Na等のヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸塩;ペンテト酸塩(ジエチレントリアミン五酢酸塩);フィチン酸;エチドロン酸等のホスホン酸及びそのナトリウム塩等の塩類;シュウ酸ナトリウム;ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸等のポリポリアミノ酸類;ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸;クエン酸ナトリウム、クエン酸、アラニン、ジヒドロキシエチルグリシン、グルコン酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸等のキレ−ト剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム、グリコ−ル酸、コハク酸、酢酸、酢酸ナトリウム、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、リン酸、塩酸、硫酸、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3ープロパンジオール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3ープロパンジオール、アルギニン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水、炭酸グアニジン、炭酸アンモニウム等のpH調整剤等が好ましく例示できる。
【0050】
これらに加え、特に好ましい成分としては、前記有機変性粘土鉱物の乳化性を補助する意味で、ポリエ−テル変性シリコ−ンが例示できる。ポリエ−テル変性シリコ−ンとしては、ポリエチレングリコ−ル変性メチルシロキサンやポリプロピレングリコ−ル変性メチルシロキサン、ポリエチレングリコ−ル・ポリプロピレングリコ−ル変性メチルシロキサンなどが好ましく例示できる。特に好ましいものは、ポリエチレングリコ−ル(10)変性メチルシロキサンであり、これには、例えば、信越化学株式会社製の「シリコ−ンKF6017」等が市販品として存する。この様なポリエ−テル変性シリコ−ンの好ましい含有量は、総量で、皮膚外用剤全量に対して、0.5〜30質量%であり、より好ましくは1〜25質量%である。
【0051】
本発明の皮膚外用剤は、前述の成分を常法に従って処理することにより本発明の皮膚外用剤を製造することができる。
【0052】
以下に、実施例をあげて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ、限定されないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0053】
<製造例2: 本発明の皮膚外用剤の製造方法>
表2及び表3に示す処方に従い、本発明の組成物(皮膚外用剤)である、油中水乳化製形の化粧料を製造した。即ち、イ、ロ、ハの成分をそれぞれ80℃に加温し、イの中にニを加えて溶解させ、混練してゲルを形成させ、これにロを加え希釈し、これに攪拌下徐々にハを加えて乳化し、攪拌冷却し、本発明の皮膚外用剤である、油中水乳化剤形の化粧料1〜7を作製した。さらに、表2の処方成分中、「本発明のプロトンポンプ阻害剤」を水に置換した比較例1、「本発明の抗炎症剤」(グリチルリチン酸ジカリウム)を水に置換した比較例2、「本発明のプロトンポンプ阻害剤」及び「本発明の抗炎症剤」(グリチルリチン酸ジカリウム)を共に水に置換した比較例3を作製した。
【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【実施例2】
【0056】
<試験例3: 紫外線照射後の色素沈着に対する予防効果の検討>
以下の手順に従い、化粧料1〜7、比較例1〜3の紫外線照射による色素沈着抑制効果を評価した。自由意思で参加したパネラーの両上腕内側部に1.5cm×1.5cmの部位を上下2段に分け、合計11ヶ所設け、最少紅斑量(1MED)の紫外線照射を1日1回、3日連続して3回照射した。照射終了後1日より、1日1回28日連続してサンプル50μLを塗布した。1部位は無処置部位とした。塗布終了24時間後に色彩色差計(CR-300、コニカミノルタ株式会社)にて各試験部位の皮膚明度(L*値)を測定し、無処置部位のL値に対するΔL*値を算出した。L*値は、色素沈着の程度が強いほど低い値となる。従って、ΔL*値が大きい程、色素沈着が抑制されたと判断することができる。結果を表4に示す。これにより、本発明の皮膚外用剤である化粧料1〜7は、優れた色素沈着抑制効果を示すことが分かる。これらの結果より、本発明の皮膚外用剤では、プロトンポンプ阻害剤としては、ショウガ科ショウガ属の植物の抽出物、マメ科クララ属の植物の抽出物又はユキノシタ科アジサイ属の植物の抽出物が特に好ましいことが判る。中でも、ショウガ属の植物の抽出物が特に好ましい。
【0057】
【表4】

【0058】
表4の結果より、「本発明の抗炎症剤」(グルチルリチン酸ジカリウム)と「本発明のプロトンポンプ阻害剤」を共に配合した皮膚外用剤には、紫外線照射後の色素沈着に対し顕著な効果が認められた。この様に、本発明のプロトンポンプ阻害剤と抗炎症成分の組み合わせ効果により、紫外線照射による色素沈着の抑制効果を向上させることが出来る。
【実施例3】
【0059】
前記の表2及び表3に記載した化粧料3の処方成分の内、「本発明の抗炎症剤」であるクリチルリチン酸ジカリウムを「グリチルレチン酸ステアリル」に置換した化粧料8を作製し、実施例2に示した方法に従い紫外線照射後の色素沈着に対する予防効果を検討したところ、△L*値は、1.12であった。該皮膚外用剤は、紫外線照射後の色素沈着に対し、優れた予防効果を有することがわかった。油中水乳化系においては、グルチルレチン酸ステアリルが特に好ましいことも判る。
【実施例4】
【0060】
前記の表2及び表3に示した化粧料3の処方成分の内、「本発明のプロトンポンプ阻害剤」(ショウガ科ショウガ属ショウキョウより得られる抽出物)及び「グリチルリチン酸ジカリウム」の濃度を表5に示した濃度に変更した化粧料9〜12を作製した。尚、両成分に関する質量%の増減分は、水の質量%により調整した。
【0061】
【表5】

【実施例5】
【0062】
前記の表2及び表5の処方に従い製造された化粧料9〜12に関し、実施例2に記載の方法に従い、紫外線照射後の色素沈着に対する予防効果を検討した。結果を表6に示す。表6の結果より、「本発明のプロトンポンプ阻害剤」(ショウガ科ショウガ属ショウキョウより得られる抽出物)及び「本発明の抗炎症剤」(グリチルリチン酸ジカリウム」)を共に含有する化粧料9〜12には、両成分の組み合わせによる紫外線照射による色素沈着に対する予防効果が確認された。表6の結果より、1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分とを含有する皮膚外用剤は、紫外線照射による色素沈着に対する優れた抑制効果を有することが判る。
【0063】
【表6】

【実施例6】
【0064】
表2及び表3に記載の化粧料3の処方成分中、「ベントン38V」を「シリコ−ンKF6017」に置換した化粧料13、「1,3−ブチレングリコ−ル」を「ポリエチレングリコ−ル400」に置換した化粧料14を作製し、実施例2に記載の方法に従い、紫外線照射による色素沈着予防効果を検討したところ、化粧料13は、△L*値は、0.35を示し、化粧料14は、△L*値は、0.32を示し、何れも化粧料においても紫外線照射後の色素沈着に対する予防効果がほとんど認められなかった。
【実施例7】
【0065】
<製造例3: 本発明の組成物(皮膚外用剤)の製造方法>
表7及び表8に示した処方に従い、ロ−ション剤形の化粧料(化粧料15〜21)を作製した。
【0066】
【表7】

【0067】
【表8】

【実施例8】
【0068】
以下の表9及び表10に示した処方に従い、エッセンス剤形の化粧料(化粧料22〜28)を作製した。即ち、イ、ロ及びハの成分を75℃に加熱し、イにロを加え、中和、増粘させ、これにハを徐々に加え、乳化し、ホモミキサーにより粒子を均一化して、攪拌、冷却して本発明の皮膚外用剤である、エッセンス化粧料を得た。
【0069】
【表9】

【0070】
【表10】

【実施例9】
【0071】
表11に示した処方に従い、油中水乳化剤形をとる化粧料29を作製し、実施例2に示した方法に従い、紫外線照射後の色素沈着抑制効果を検討したところ、△L*値は、1.71を示した。本結果より、1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分(グリチルリチン酸ジカリウム)と、3)前記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩(4−ブチルレゾルシノ−ル)を含有する皮膚外用剤(化粧料29)は、優れた紫外線照射後の色素沈着抑制効果を有することがわかった。このことは、前記各成分が有する紫外線照射後の色素沈着抑制作用に加え、各成分を併用したことに優れた効果が発揮されたと結果である考えられる。
【0072】
【表11】

【実施例10】
【0073】
<本発明の組成物(食品)の製造方法>
表12及び表13に示す処方に従って、健康食品1〜7を作製した。即ち、処方成分を10重量部の水と共に転動相造粒(不二パウダル株式会社製「ニュ−マルメライザ−」)し、打錠して錠剤状の健康食品を得た。尚、表中の数値の単位は、重量部を表す。
【0074】
【表12】

【0075】
【表13】

【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、色素沈着の予防又は改善に有用な皮膚外用剤などに応用出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)プロトンポンプ阻害剤と、2)抗炎症成分とを含有することを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記抗炎症成分が、キク科ゴボウ属に属する植物より得られる抽出物、マメ科カンゾウ属に属する植物より得られる抽出物、カバノキ科カバノキ属に属する植物より得られる抽出物、クルミ科に属する植物より得られる抽出物、グリチルレチン酸誘導体並びにそれらの薬理学的に許容される塩、グラブリジン誘導体及びそれらの薬理学的に許容される塩より選択されるものであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記キク科ゴボウ属に属する植物、マメ科カンゾウ属に属する植物、カバノキ科カバノキ属に属する植物、クルミ科に属する植物が、キク科ゴボウ属ゴボウ、マメ科カンゾウ属カンゾウ、カバノキ科カバノキ属シラカバ、クルミ科コウキであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記グリチルレチン酸誘導体が、グリチルレチン酸及び/又はその薬理学的に許容される塩、グリチルレチン酸アルキル及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩、並びに、グリチルリチン酸及びその薬理学的に許容される塩であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記グリチルレチン酸及びその薬理学的に許容される塩が、グリチルレチン酸ステアリル及び/又はその薬理学的に許容される塩であること、前記グリチルリチン酸及びその塩が、グリチルリチン酸ジカリウムであることを特徴とする、請求項1、2又は4に記載の組成物。
【請求項6】
前記プロトンポンプ阻害剤は、植物体を抽出して得られるものであることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記プロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物が、下記に挙げる植物の抽出物であることを特徴とする、請求項1〜6の何れか一項に記載の組成物。
(植物)シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核
【請求項8】
前記シソ科タチジャコウソウ属、マメ科クララ属、ショウガ科ショウガ属、サトイモ科ショウブ属、ウリ科ヘチマ属、ユキノシタ科アジサイ属、サルノコシカケ科マツホド菌核に属する植物が、シソ科タチジャコウソウ属タイム、マメ科クララ属クララ、ショウガ科ショウガ属ショウガ、サトイモ科ショウブ属ショウブ、ウリ科ヘチマ属ヘチマ、ユキノシタ科アジサイ属アマチャ、サルノコシカケ科マツホド菌核ブクリョウであることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記プロトンポンプ阻害剤は、メラノサイトにおいてメラノサイト内を酸性化する作用を有することを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記プロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物が、Na/H交換輸送系に作用することを特徴とする、請求項1〜9の何れか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記抗炎症成分が、組成物全量に対し、0.00001質量%〜3質量%含有することを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記プロトンポンプ阻害作用を有する植物抽出物を組成物全量に対し、0.00001質量%〜10質量%含有することを特徴とする、請求項1〜11の何れか一項に記載の組成物。
【請求項13】
さらに、下記一般式(1)に表される化合物及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩を含有することを特徴とする、請求項1〜12の何れか一項に記載の組成物。
【化1】

(1)
[式中、R1は、分岐構造又は環構造を有していてもよい炭素数1〜8のアルキル基を表す]
【請求項14】
前記一般式(1)で表される化合物が、4−n−ブチルレゾルシノ−ル及び/又はその薬理学的に許容される塩であることを特徴とする、請求項1〜13の何れか一項に記載の組成物。
【請求項15】
更に、化粧料として好ましい成分を含有することを特徴とする、請求項1〜14の何れか一項に記載の組成物。
【請求項16】
化粧料(但し、医薬部外品を含む)であることを特徴とする、請求項1〜15の何れか一項に記載の組成物。
【請求項17】
皮膚外用剤であることを特徴とする、請求項1〜16の何れか一項に記載の組成物。
【請求項18】
油中水乳化剤形であることを特徴とする、請求項17に記載の皮膚外用剤。
【請求項19】
色素沈着予防用であることを特徴とする、請求項17又は18に記載の皮膚外用剤。
【請求項20】
紫外線暴露の直後に使用するための、請求項17〜19に記載の皮膚外用剤。
【請求項21】
1)グリチルレチン酸誘導体及び/又はそれらの薬理学的に許容される塩と、2)プロトンポンプ阻害剤を含有する皮膚外用剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−195494(P2011−195494A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63582(P2010−63582)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】