説明

プロトン伝導性シリカ

【課題】従来のポリマー材料を用いたプロトン伝導体では、耐熱性、化学的安定性および寸法安定性に課題があり、さらに、100℃を越える温度では、プロトン伝導体として安定に作動させることが困難なため、燃料電池の電解質に用いた場合に高温で安定に作動することができなかった。
【解決手段】少なくとも下記(1)式のアニオン基を有し、150℃、相対温度100%におけるプロトン伝導度が0.1S/cm以上であることを特徴とするプロトン伝導性シリカ。
【化1】


(ただし、XはC2m(m=1〜10)、C2m(m=1〜10)、CCl2m(m=1〜10)、CBr2m(m=1〜10)、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、アンスリル基から選ばれる置換基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン移動を伴う各種電気化学デバイス、特に燃料電池の電解質に適用することができるプロトン伝導性シリカに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体の中をイオンが移動する物質は、電池やセンサーをはじめとする種々の電気化学デバイスを構成する材料として研究が進められている。中でも、プロトンを伝導イオン種とする材料は、燃料電池の電解質への適用が可能で、世界的な燃料電池システム実用化への期待の高まりとあいまって、精力的に研究が進められている。
【0003】
燃料電池は、電解質に用いられる材料とその作動温度によって、高分子固体電解質形(〜100℃)、リン酸形(〜250℃)、溶融炭酸塩形(〜500℃)および固体電解質形(〜800℃)の4つのタイプに分類されている。これらのうち、最も高出力な燃料電池を構成することができるのが高分子固体電解質形であり、携帯機器や自動車駆動用の電源として、また家庭用オンサイト発電機として、実用化および普及に向けた研究開発が加速している。
【0004】
高分子固体電解質形燃料電池の電解質には、現在、スルホン酸基などの固定アニオン基を持つフッ素系ポリマーが主に使用されているが、耐熱性の改善やプロトン伝導性の向上を目的に、炭化水素系ポリマーの研究開発も進められている。しかし、現時点では、これらの材料は実用化に際して満足できる耐熱性や化学安定性を達成するまでには至っていない。さらに、ポリマー材料は容易に膨潤するため、燃料電池セルやセルスタックを構成する際に重要な要素となる寸法安定性の改善も必要とされている。
【0005】
高分子固体電解質形燃料電池では、純水素以外の燃料、例えば都市ガスを改質して取り出した水素やメタノール等のアルコールも燃料として利用することが可能である。しかし、これら燃料を用いた場合には不純物として、あるいは電極上での酸化過程において一酸化炭素が存在する。このため、電極触媒に使用されている白金系材料の被毒が起こり易くなり、電池作動電圧の低下を引き起こす要因となる。これを回避する最も簡便な方法として、電池の作動温度を100℃以上に高め、一酸化炭素による触媒被毒の影響を低減させることが考えられるが、ポリマー系材料を電解質に使用する燃料電池においては、100℃を越える温度で作動させた場合には、ポリマー材料中に含まれるプロトン伝導性を促進する水が構造内部から放出され、プロトン伝導体として安定に作動させることが困難となる。
【0006】
ポリマー材料を電解質に用いる高分子固体電解質形燃料電池においては、ポリマー材料が抱えている上述したような材料の本質的な課題を解決することが必須である。このため、ポリマー材料に代わる、耐熱性、化学的安定性および寸法安定性に優れ、100℃を越える温度でも安定に作動させることができる新しい電解質と、これを用いた新しいカテゴリーの燃料電池が求められている。
【0007】
これまでに基材をシリカガラスとし、固定アニオン基を有するプロトン伝導性シリカ薄膜の提案が成されている(特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2)。具体的には、多孔質ガラスを基材とし、ガラス表面の水酸基をアニオン基に交換したプロトン伝導性シリカ薄膜が提案されている。
【0008】
しかし従来のプロトン伝導性シリカ薄膜では、熱水条件下にさらされた場合の安定性が低い、つまり、耐熱性が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2004/019439(明細書40頁1行〜6行)
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】NEDO ナノガラス技術プロジェクト平成15年度報告書、203頁−205頁、209頁−212頁(205頁23行〜24行)
【非特許文献2】化学と工業、第57巻、第1号(2004)、41頁−44頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、100℃を越える温度でも安定なプロトン伝導が達成可能であり、なおかつ、耐熱性、特に熱水条件下での耐熱性に優れ、化学安定性および寸法安定性を備えた新規なプロトン伝導性シリカを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は鋭意検討を行った結果、熱水条件下での安定性低下は、シリカ基板と固定アニオン基の結合部分で生じる加水分解反応により、固定アニオン基が脱離することに由来することに着目し、特定の固定アニオン基を導入することにより、極めて高い耐熱性を有するプロトン伝導性シリカが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
つまり、本発明のプロトン伝導性シリカは少なくとも下記(1)式の固定アニオン基を有し、150℃、相対温度100%におけるプロトン伝導度が0.1S/cm以上であることを特徴とするプロトン伝導性シリカである。
【0014】
【化1】

(ただし、XはC2m(m=1〜10)、C2m(m=1〜10)、CCl2m(m=1〜10)、CBr2m(m=1〜10)、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、アンスリル基から選ばれる置換基である。)
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明のプロトン伝導性シリカは、少なくとも上記(1)式で表される固定アニオン基を有する。当該固定アニオン基を導入することにより、耐熱性が向上する。つまり、(1)式に示した固定アニオン基は疎水性のメチル基を有しているため、シリカと固定アニオン基の結合部分に対する水分子の攻撃が抑制されると考えられる。これにより、固定アニオン基の脱離が抑制され、熱水条件下での高い耐熱性が得られる。
【0017】
なお、固定アニオン基とは、シリカ表面のシラノール基と交換されたアニオン基である。
【0018】
さらに、当該固定アニオン基の導入によって、酸性度定数の小さいスルホン基がシリカ表面に導入されるため、高いプロトン伝導度が達成される。
【0019】
これにより、本発明のプロトン伝導性シリカは、100℃以上、150℃以上の高い温度においても、安定した高いプロトン伝導性を示すことができる。
【0020】
本発明のプロトン伝導性シリカは、固定アニオン基量が0.20meq/g以上であることが好ましく、0.40meq/g以上であることが特に好ましく、さらに、0.45meq/g以上であることが好ましい。固定アニオン基量は多いほど好ましいが、0.20meq/g以上の固定アニオン基の導入により、十分なプロトン伝導性を得ることができる。
【0021】
本発明のプロトン伝導性シリカは、固定アニオン基の密度が0.2個/nm以上10個/nm以下であることが好ましく、0.5個/nm以上10個/nm以下であることが特に好ましい。固定アニオン基の密度が0.2個/nm以上10個/nm以下であることにより、シリカ表面の疎水性が高くなり、熱水条件下での高い耐熱性が達成可能となるとともに、固定アニオン基を介したプロトン移動が容易になることで高いプロトン伝導度が達成可能となる。固定アニオン基の密度が0.2個/nm未満であると、固定アニオン基を導入した効果がほとんど得られず、耐熱性およびプロトン伝導性の改善が得られない。一方、固定アニオン基の密度は大きいほど好ましいが、10個/nmであれば、固体電解質として使用する際に、十分な耐熱性およびプロトン伝導性を有する。
【0022】
なお、固定アニオン基の密度とは、導入した固定アニオン基の量を、固定アニオン基を導入する前のシリカの表面積(BET表面積)で除したものである。
【0023】
本発明のプロトン伝導性シリカは120℃、50時間の熱水処理後の固定アニオン基残存率が20%以上であることが好ましく、特に好ましくは30%以上、さらには40%以上であることが好ましい。20%未満では耐熱性が乏しく、固体電解質として使用した際に固定アニオン基の脱離が多くなる。これにより、プロトン伝導度が大幅に低下するため、安定したプロトン伝導性が得られない。
【0024】
本発明のプロトン伝導性シリカは、Na含有量500ppm以下、B含有量100ppm以下であることが好ましく、Na含有量は300ppm以下、B含有量20ppm以下であることが特に好ましい。
【0025】
Na含有量が500ppmを超え、B含有量が100ppmを超えた場合、水の存在下、特に水熱条件下でこれらの溶出によるシリカ骨格の崩壊が生じやすくなるため、耐熱性が低くなる。Na含有量及びB含有量が少ないことで、シリカ骨格の崩壊が抑制され、耐熱性が向上する。
【0026】
本発明のプロトン伝導性シリカは、細孔の最頻細孔径が2nm〜3nmの範囲にあることが好ましい。これにより、水や固定アニオン基を介したプロトン移動が容易になり、100℃以上の高温及び低加湿条件において高いプロトン伝導度が達成可能となる。
【0027】
水や固定アニオン基を介したプロトン移動が容易になる詳細については不明だが、細孔の最頻細孔径が2nm〜3nmの範囲とすることで細孔内部での水の保持が容易になるためと考えられる。つまり、細孔の内部には、シリカ表面のシラノール基の影響を強く受ける状態の水、シリカ表面のシラノール基の影響が小さいが水分子同士の相互作用の影響を受ける状態の水、両者の影響をほとんど受けない、いわゆるフリーの状態の水、の3つのタイプの水が存在していると考えられる。これら状態の異なる水の存在から推定すると、最頻細孔径が3nmを越えた場合には、シラノール基との相互作用や水分子同士の相互作用が弱くなりすぎ、逆に、最頻細孔径が2nm未満では、シラノール基との相互作用が強まると共に水分子同士が強い相互作用を及ぼす状態になり、このため両者とも不安定な状態の水となる。その結果、細孔内部に水を保持する能力が小さくなると考えることができる。従って、最頻細孔径が2nm〜3nmであれば、シラノール基との相互作用や水分子同士の相互作用が、細孔内部に水を安定に留まらせることに対して最適な状態となり、100℃を越える温度でも安定に水が保持できるものと考えられる。
【0028】
ここで、最頻細孔径とは全細孔容積の中で、最も容積が大きい細孔径であり、水銀圧入法、窒素吸着法など種々の測定から求めることができる。
【0029】
本発明のプロトン伝導性シリカは、150℃、相対温度100%におけるプロトン伝導度が0.1S/cm以上である。さらに、150℃、相対温度100%におけるプロトン伝導度が0.2S/cm以上であることが好ましい。プロトン伝導率は高いほど好ましいが、固体電解質として使用する際、特に燃料電池用固体電解質として使用する際に、0.1S/cm以上であれば、充分に高いプロトン伝導度である。
【0030】
なお、本発明におけるプロトン伝導率の測定は、150℃、100%相対湿度で2時間加湿し、この環境下で2端子法によるインピーダンス測定により求めることができる。
【0031】
従来、プロトン伝導率の測定は100℃未満で行われているが、本発明では、より高温度での特性を確認するため150℃で行った。しかし、プロトン伝導率の温度依存性はアレニウスプロットに従うため、異なる温度で評価されたプロトン伝導体との比較はアレニウスプロットで換算することによって比較が可能である。
【0032】
本発明のプロトン伝導性シリカの形状は膜であることが好ましく、その膜厚が1〜500μm、特に10〜200μmであることが好ましい。膜厚が薄いほど電気抵抗が減少するが、膜厚が薄くなると物質(例えば燃料電池に用いる場合には燃料ガス)の透過性が増すため、発電素子に用いる場合の膜厚は10〜200μmの範囲が特に好ましい。
【0033】
次に、本発明のプロトン伝導性シリカの製造方法について説明する。
【0034】
本発明のプロトン伝導性シリカの製造方法は、少なくとも上記(1)式で表される固定アニオン基を導入する方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、シリカ基材に後から固定アニオン基を導入する方法、シリカ基材の作製と同時に固定アニオン基を導入する方法などが例示できる。
【0035】
シリカ基材に後から固定アニオン基を導入する場合、シリカ基材は2〜3nmの最頻細孔径を有するシリカを合成することが好ましい。シリカ基材に対する固定アニオン基の導入により最頻細孔径は若干減少するが、変化はほとんどないからである。
【0036】
シリカ基材の合成方法としては、例えば、ケイ素のアルコキシドを用いたゾル‐ゲル法によるシリカ合成において、反応時に3次元的に自己集積する界面活性剤を加えて合成したのち、界面活性剤を除去して細孔を形成させる方法が例示される。反応時に加えた界面活性剤は、形成させた細孔の規則性を保持した状態で除去することが好ましく、加熱処理によって除去する方法が好ましい。
【0037】
なお、シリカ基材の最頻細孔径は、ゾル組成、界面活性剤の種類、界面活性剤の添加量により制御可能である。
【0038】
また、上記のシリカ基材の合成時に、シランカップリング剤を添加することもできる。
【0039】
シリカの縮合状態は合成雰囲気により変わるため、本発明のプロトン伝導性シリカの合成は、酸性雰囲気下で合成することが好ましい。
【0040】
ここで、ケイ素のアルコキシドとしては、テトラメトキシシランやテトラエトキシシラン等が、また、3次元的に自己集積する界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤のポリオキシエチレンセチルエーテルやポリエチレン‐ポリプロピレン‐トリブロックコポリマー、陽イオン界面活性剤のセチルトリエチルアンモニウムブロマイド等が例示される。
【0041】
シリカ基材に固定アニオン基を導入する方法としては、シリカ表面のシラノール基とアニオン基を交換する方法であれば特に制限はないが、シリカをシランカップリング剤で処理する方法が好ましい。
【0042】
ここで、シランカップリング剤としては、3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメチルクロロシラン等が例示される。
【発明の効果】
【0043】
本発明のプロトン伝導性シリカは、耐熱性、特に高湿度条件下での耐熱性に優れ、化学安定性および寸法安定性に優れるため、燃料電池の電解質に用いて100℃を越える高温で使用しても安定に作動し、出力特性に優れた燃料電池が得られる。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の具体例として実施例を示すが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
【0045】
(固定アニオン基の定量)
プロトン伝導性シリカを150℃で1時間乾燥した後、0.01gを秤量し0.5mol/lの塩化ナトリウム水溶液20mlに浸漬して1時間攪拌した後、フェノールフタレインを指示薬として0.01mol/lの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定を行い、固定アニオン基量を測定した。
【0046】
(細孔分布及び表面積)
日本ベル株式会社製BELSORP−HPにて窒素吸脱着等温線を測定し、得られた脱着等温曲線からDollimore & Heal法によって最頻細孔径、細孔径分布及び細孔容積を算出し、Brunauer−Emmett−Teller法によって表面積を算出した。なお、サンプルを150℃で2.5時間減圧処理した後に測定を行った。
【0047】
(耐熱性評価)
プロトン伝導性シリカ0.1gと純水30mlをテフロン(登録商標)製容器に入れ、さらにテフロン(登録商標)製容器をステンレス製圧力容器に入れた。次にステンレス製圧力容器を120℃に保持した恒温槽に50時間保存することにより熱水試験を行った。熱水試験後にステンレス製圧力容器を恒温槽から取り出し室温まで冷却した後、プロトン伝導性シリカを回収し、純水でpHが6以上になるまで洗浄を行い、150℃で1時間乾燥を行った。
【0048】
(プロトン伝導度測定)
長さ25mm、幅5mmのプロトン伝導性シリカに、長さ30mm、幅2mm、膜厚200μmの白金箔電極を3枚テフロン(登録商標)テープで貼り付けた後、プロトン伝導性シリカ膜と白金箔電極をホフマン式ピンチコックで挟んで固定した。白金箔電極の間隔は、白金箔1と2の間を5mm、白金箔2と3の間を10mmとした。白金箔電極には予め白金線を溶接してリード電極とし、測定用サンプルとした。
【0049】
次に測定サンプルを150℃−100%相対湿度で2時間加湿し、この環境下で2端子法によるインピーダンス測定を行い、Nyquist plotと実数軸との交点をバルク抵抗とした。
【0050】
プロトン伝導度は、3通りの電極間距離(白金箔1と白金箔2、白金箔2と白金箔3、白金箔1と白金箔3)でバルク抵抗を測定した後、電極間距離に対してバルク抵抗をプロットして傾きを求め、以下の式に従って算出した。なお、測定は、Solartron社製インピーダンスアナライザーSI1260及びポテンショ/ガルバノスタットSI1287を用いて、印加電圧5mV、周波数100Hzから1MHzの範囲で行った。
【0051】
プロトン伝導度=1/[(傾き)×(プロトン伝導性シリカの厚さ)×(プロトン伝導性シリカの幅)]
実施例1
テトラエトキシシラン17.35gに、水5.05g、エタノール3.40g、35%塩酸0.09gを混合したものを加え、テフロン(登録商標)製密閉容器にて1時間撹拌した。次に、この溶液にC16EO105.00gを加えて1時間撹拌した。次に、この溶液に水0.80gを加えてさらに1時間撹拌してゾルを得た。
【0052】
当該ゾルを、120mm×120mm×0.5mmの大きさの型に8mlを展開して、室温大気中で放置してゲル化させた。得られたゲルを型から剥離し、電気炉を用いて500℃で6時間、空気気流中で焼成し、シリカ基材を得た。
【0053】
得られたシリカ基材のNa含有量は280ppm、B含有量は10ppm以下、細孔の最頻細孔径は2.3nm、表面積は578m/g、細孔容積は0.40cm/g、厚さは160μmであった。
【0054】
得られたシリカ基材を30℃、90%相対湿度の恒温恒湿状態で24時間保持した後、200℃で1時間乾燥した。次に、このシリカ基材0.3gに2.0mol/lの3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン−トルエン溶液を20ml加え、100℃で12時間反応を行い、3−メルカプトプロピル基を導入したシリカ基材を得た。
【0055】
得られた3−メルカプトプロピル基導入シリカをトルエン及びエタノールで洗浄後、60%硝酸水溶液50gに室温で1時間浸漬した。次に、純水でpHが6以上になるまで洗浄を行った後、150℃で1時間乾燥を行い、以下の(2)式の固定アニオン基を含有するプロトン伝導性シリカを得た。
【0056】
【化2】

【0057】
得られたプロトン伝導性シリカの細孔の最頻細孔径は2.2nm、表面積は463m/g、細孔容積は0.23cm/gであった。また、固定アニオン基量はサンプル1g当たり0.49meq、固定アニオン基の密度は0.51個/nmであった。
【0058】
また、プロトン伝導度測定を行ない、その結果を耐熱性評価の結果と併せて表1に示した。得られたプロトン伝導性シリカのプロトン伝導率は0.1S/cm以上であり、さらに、熱水試験後の固定アニオン基残存率が高く、耐熱性が向上していた。これは、シリカと固定アニオン基の結合部分に疎水性のメチル基が存在するため、シリカと固定アニオン基の結合部分に対する水分子の攻撃が抑制されたためと考えられる。
【0059】
比較例1
実施例1と同様な方法でシリカ基材を得た。
【0060】
得られたシリカ基材のNa含有量は280ppm、B含有量は10ppm以下、細孔の最頻細孔径は2.3nm、表面積は578m/g、細孔容積は0.40cm/g、厚さは160μmであった。
【0061】
3−メルカプトプロピル基導入の際、2.0mol/lの3−メルカプトプロピルジメチルメトキシシラン−トルエン溶液の代わりに、1.0mol/lの3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン−トルエン溶液を用いた以外は実施例1と同様にして合成を行ない、以下の(3)式の固定アニオン基を有するプロトン伝導性シリカを得た。
【0062】
【化3】

【0063】
得られたプロトン伝導性シリカのNa含有量は250ppm、B含有量は10ppm以下、細孔の最頻細孔径は2.1nm、表面積は398m/g、細孔容積は0.19cm/gであった。また、固定アニオン基量はサンプル1g当たり0.68meq、固定アニオン基の密度は0.72個/nmであった。
【0064】
サンプルのS原子の分布状態を走査型透過電子顕微鏡及びEPMAにより分析した結果、固定アニオン基がサンプル中にナノメートルオーダーで均一に分布しているものであった。
【0065】
また、プロトン伝導度測定を行ない、その結果を耐熱性評価の結果と併せて表1に示した。得られたプロトン伝導性シリカは、プロトン伝導度は高かったが、耐熱性評価後の固定アニオン基の残存率が低く、耐熱性が低かった。
【0066】
これは、比較例1で導入された固定アニオン基は(3)式であり、シリカと固定アニオン基の結合部分に疎水性を有する官能基が存在しない。そのため、シリカと固定アニオン基の結合部分が水分子に容易に攻撃されて固定アニオン基が脱離し、耐熱性が低かったと考えられる。
【0067】
比較例2
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン導入の際の3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン−トルエン溶液の濃度を2.0mol/gとした以外は比較例1と同様にして合成を行った。
【0068】
得られたプロトン伝導性シリカのNa含有量は240ppm、B含有量は10ppm以下、細孔の最頻細孔径は2.0nm、表面積は350m/g、細孔容積は0.18cm/g、膜厚は160μmであった。また、固定アニオン基量はサンプル1g当たり0.83meq、固定アニオン基の密度は1nm四方当たり0.81個であった。
【0069】
また、プロトン伝導度測定を行ない、その結果を耐熱性評価の結果と併せて表1に示した。得られたプロトン伝導性シリカは、プロトン伝導度は高かったが、耐熱性評価後の固定アニオン基の残存率が低く、耐熱性が低かった。
【0070】
これは、比較例1と同様に、シリカと固定アニオン基の結合部分に対する水分子の攻撃を受けやすいため、固定アニオン基が脱離したためと考えられる。
【0071】
比較例3
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン導入の際のMPTMS−トルエン溶液の濃度を0.1mol/gとした以外は比較例1と同様にして合成を行った。
【0072】
得られたプロトン伝導性シリカのNa含有量は250ppm、B含有量は10ppm以下で、細孔の最頻細孔径は2.2nm、表面積は420m/g、細孔容積は0.23cm/g、膜厚は160μmであった。であった。また、固定アニオン基量はサンプル1g当たり0.58meq、固定アニオン基の密度は0.62個/nmであった。
【0073】
また、プロトン伝導度測定を行ない、その結果を耐熱性評価の結果と併せて表1に示した。得られたプロトン伝導性シリカは、プロトン伝導度は高かったが、耐熱性評価後の固定アニオン基の残存率が低く、耐熱性が低かった。
【0074】
これは、比較例1と同様に、シリカと固定アニオン基の結合部分に対する水分子の攻撃を受けやすいため、固定アニオン基が脱離したためと考えられる。
【0075】
比較例4
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン導入の際の3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン−トルエン溶液の濃度を0.01mol/gとした以外は比較例1と同様にして合成を行った。
【0076】
得られたプロトン伝導性シリカのNa含有量は260ppm、B含有量は10ppm以下、細孔の最頻細孔径は2.3nm、表面積は463m/g、細孔容積は0.28cm/g、膜厚は160μmであった。また、固定アニオン基量はサンプル1g当たり0.41meq、固定アニオン基の密度は0.43個/nmであった。
【0077】
また、プロトン伝導度測定を行ない、その結果を耐熱性評価の結果と併せて表1に示した。得られたプロトン伝導性シリカは固定アニオン基の導入は少なく、さらに、比較例1と同様に、耐熱性も低いことがわかった。
【0078】
これは、比較例1と同様に、シリカと固定アニオン基の結合部分に対する水分子の攻撃を受けやすいため、固定アニオン基が脱離したためと考えられる。
【0079】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のプロトン伝導性シリカはプロトン伝導度が高く、且つ、熱水条件下での耐熱性が高い為に、プロトン移動を伴う各種電気化学デバイス、特に燃料電池の電解質に適用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記(1)式の固定アニオン基を有し、150℃、相対温度100%におけるプロトン伝導度が0.1S/cm以上であることを特徴とするプロトン伝導性シリカ。
【化1】

(ただし、XはC2m(m=1〜10)、C2m(m=1〜10)、CCl2m(m=1〜10)、CBr2m(m=1〜10)、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、アンスリル基から選ばれる置換基である。)
【請求項2】
120℃、50時間の熱水処理後の固定アニオン基の残存率が20%以上であることを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性シリカ。
【請求項3】
Na含有量500ppm以下、B含有量100ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至2のいずれかに記載のプロトン伝導性シリカ。
【請求項4】
固定アニオン基量が0.20meq/g以上であること特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のプロトン伝導性シリカ。
【請求項5】
2nm以上3nm以下の最頻細孔径の細孔を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のプロトン伝導性シリカ。
【請求項6】
厚さ10〜500μmの膜であることを特徴とする請求項1乃至5に記載のプロトン伝導性シリカ。

【公開番号】特開2010−195665(P2010−195665A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45416(P2009−45416)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】