説明

プロトン伝導性電解質膜とこれを用いた燃料電池

【課題】燃料電池に用いられるプロトン伝導性が高く、機械的強度が高いプロトン伝導性電解質膜、および燃料電池を提供する。
【解決手段】プロトン伝導性電解質膜は組成物であって、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂、特定の金属リン酸塩、および必要に応じて層状珪酸塩を溶媒に分散させたスラリーから溶媒を除去することで得られる。この方法で得られたプロトン伝導性電解質膜は、潮解性がなく、高いプロトン伝導率と機械的強度を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるプロトン伝導性電解質膜、および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池に用いられるプロトン伝導性電解質膜を構成するプロトン伝導体としては、SnPや、SnPにAlをドープしたものが知られており、当該金属リン酸塩とバインダー樹脂を固体のまま粉砕混合する手法で、プロトン伝導性固体電解質膜を得ているが(特許文献1〜3参照)、当該発明においては、膜の機械的強度が弱く、薄い膜の成膜が難しいという問題があった。
【0003】
また、引用文献4においては、AlをドープしたSnPに、ポリベンゾイミダゾールを組み合わせることによって、過剰のリン酸とポリベンゾイミダゾールを固溶化し、プロトン伝導性低下を抑制する試みも行われているが、得られる膜の機械的強度が十分でなく、また、ポリベンゾイミダゾールとポリテトラフルオロエチレンを用いるためにコスト高である、という問題があった。
【0004】
さらに、引用文献5および6においては、当該SnPの潮解性を抑制するために、水またはアルコールで洗浄する工程を含む製造方法が開示されているが、当該技術によりプロトン伝導体の潮解性は抑制できるものの、そもそもプロトン伝導度が低いものしか得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−294245号公報
【特許文献2】特開2008−053224号公報
【特許文献3】特開2008−053225号公報
【特許文献4】特開2009−158130号公報
【特許文献5】特開2009−193685号公報
【特許文献6】特開2009−193684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決し、潮解性がなく、高いプロトン伝導率を有し、機械的強度の高い、プロトン伝導性電解質膜およびそれから得られる燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、フッ素系樹脂、金属リン酸塩および必要に応じて層状珪酸塩を含む組成物を用いることにより、潮解性がなく、高いプロトン伝導率を有する、機械的強度の高いプロトン伝導性電解質膜が得られることを見出した。本発明は、かかる知見に基づき完成されたものである。
【0008】
即ち、本発明は下記の電解質膜及び当該電解質膜を含む燃料電池を提供する。
項1.フッ素系樹脂100重量部に対し、下記MまたはM+Jの1モルに対しPを2〜4モル用いて製造された、下記一般式(1)で表される金属リン酸塩200〜900重量部を含む組成物。
1−x (1)
(式中、Mは、周期律表第4族および第14族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を表し、Jは、周期律表第3族、第5族、第13族および第15族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を表す。0≦X≦0.1を示し、a=2〜4であり、b=a×3.5である。)
項2.さらに、層状珪酸塩を0.01〜20重量部含有する項1に記載の組成物。
項3.前記フッ素系樹脂が、ポリビニリデンフルオライドである項1又は2に記載の組成物。
項4.前記一般式(1)において、0.01≦X≦0.1である項1〜3のいずれかに記載の組成物。
項5.項1〜4のいずれかに記載の組成物から得られる電解質膜。
項6.項5に記載の電解質膜を含む燃料電池。
項7.フッ素系樹脂100重量部に対し、M+Jの1モルに対しPを2〜4モル用いて製造された、前記一般式(1)で表される金属リン酸塩200〜900重量部および溶媒を混合することを特徴とする、項1に記載の組成物の製造方法。
項8.フッ素系樹脂100重量部に対し、M+Jの1モルに対しPを2〜4モル用いて製造された、前記一般式(1)で表される金属リン酸塩200〜900重量部および溶媒を混合した後、当該溶媒を除去することを特徴とする、項5に記載の電解質膜の製造方法。
項9.フッ素系樹脂および溶媒を混合したフッ素系樹脂混合物と、金属リン酸塩を溶媒に分散させた金属リン酸塩スラリーとを、混合し、溶媒を除去することを特徴とする、項8に記載の電解質膜の製造方法。
項10.前記溶媒が、沸点50〜300℃の極性溶媒である、項7〜9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、フッ素系樹脂、前記一般式(1)で表される金属リン酸塩および必要に応じて層状珪酸塩を混合してなる組成物であり、当該組成物から得られる本発明のプロトン伝導性電解質膜は、潮解性もなく、高いプロトン伝導率を達成することができる。また、圧延などの方法で成膜した膜に比べ、機械的強度に優れている。
【0010】
本発明の電解質膜は、高いプロトン伝導性を有するため、燃料電池の電解質膜として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本願特定の金属リン酸塩の、リン酸含有量の違いによる、吸湿性の違いを示した図である。
【図2】本願特定の金属リン酸塩(1)の、粉末単体及び電解質膜での吸湿性の違いを示した図である。
【図3】本願特定の金属リン酸塩(2)の、粉末単体及び電解質膜での吸湿性の違いを示した図である。
【図4】本願特定の金属リン酸塩(4)の、粉末単体及び電解質膜での吸湿性の違いを示した図である。
【図5】本願特定の金属リン酸塩(5)の、粉末単体及び電解質膜での吸湿性の違いを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
I.金属リン酸塩
本発明において、イオン導電体として用いられる金属リン酸塩は、下記に示すM1モル、または下記Jを併用する場合は、MおよびJの合計1モルに対し、Pを2〜4モル用いて製造された、実質的に下記式(1)で表される化合物である。
【0014】
1-xxab (1)
式(1)中のMは、周期律表第4族および第14族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素であり、Jは、周期律表第3族、第5族、第13族および第15族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素である。好ましくは、MはSn、Ti、Zr、Hf、Si、Ge、Pbからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、Jは周期律表第3族及び第13族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素であって、中でも、Al、Sc、Y、B、Ga、Inからなる群より選ばれる1種以上の元素が好ましい。特に、MとしてSn、JとしてAlを用いることが好ましい。
【0015】
式(1)中のxは、0でもよく、通常0.001以上0.5以下の範囲の値であり、0.01以上0.1以下であることが好ましく、0.02以上0.08以下の範囲の値であることがより好ましく、0.03以上0.07以下の範囲の値であることがさらにより好ましい。aは2〜4であり、好ましくは、2.5〜3.6である。bはa×3.5である。
【0016】
実質的に式(1)で表されるとは、式(1)の組成比、すなわちM:J:P:Oのモル比において、効果を阻害しない範囲で、PおよびOの成分それぞれが、10%程度以内で増減されてもよいことを示す。
【0017】
式(1)で表される金属リン酸塩を製造する際、M又はM+Jの1モルに対しPを4モルよりも多く用いると、過剰のリンにより、得られる金属リン酸塩の潮解性が増し、フッ素系樹脂との分散状態が悪化し、結果としてプロトン伝導率が悪くなる。また、M又はM+Jの1モルに対しPが2モルよりも少ないと、得られる金属リン酸塩のプロトン伝導率が悪くなる。
【0018】
前記式(1)で表される金属リン酸塩は、例えば、MとしてSnを、JとしてAlを用いる場合、次のようにして製造することができる。原料として、Snを含有する化合物と、Pを含有する化合物と、必要に応じてAlを含有する化合物とを使用する製造方法によって、製造することができる。
【0019】
Snを含有する化合物としては、酸化物を用いるか、または水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、シュウ酸塩など高温で分解および/または酸化して酸化物になりうるものを用いることができる。例えば、各種の酸化スズおよびその水和物を用いることができ、二酸化スズまたはその水和物を好ましく用いることができる。
【0020】
Pを含有する化合物としては、リン酸、ホスホン酸等が挙げられ、SnおよびAlとの反応性の観点から、リン酸が好ましい。リン酸としては、通常50%以上の濃リン酸水溶液を用い、操作性の観点から、80〜90%の濃リン酸水溶液が好ましい。
【0021】
Alを含有する化合物としては、公知の化合物から適宜選択すればよいが、具体的には、酸化物を用いるか、または炭酸塩、シュウ酸塩など高温で分解および/または酸化して酸化物になりうるものを用いればよい。例えば、α−Al23、γ−Al23等のアルミナ等を用いることができる。
【0022】
上記の原料を用いて、以下の(a)および(b)の工程をこの順で含むようにして本願発明の金属リン酸塩を製造することができる。
(a)Snを含有する化合物とリン酸、必要に応じてAlを含有する化合物とを反応させ、反応物を得る工程。
(b)該反応物を熱処理する工程。
【0023】
工程(a)において、Sn1モルに対しリンを2〜4モルの割合で反応させる。Alを併用する場合は、SnおよびAlの合計1モルに対し、リンを2〜4モルの割合で反応させる。反応温度は、合成する金属リン酸塩の組成によって適宜選択しうるが、通常200〜400℃の範囲の温度で行う。たとえば、250〜350℃の範囲の温度で行うことが好ましく、270〜330℃がより好ましい。また反応時においては、攪拌することにより混合を十分に行うのがよい。得られる反応物の操作性の観点で、反応物の適切な粘度を維持し固化を防ぐ意味で、反応時に適量の水を添加することが有効な場合もある。反応時間は、合成する金属リン酸塩の組成によって適宜選択し、可能な限り長時間であるのがよい。ただし生産性を考慮すると、1〜20時間の範囲であることが好ましい。
【0024】
工程(a)において得られる反応物は、ペースト状のものであり、工程(b)において該反応物を熱処理することで、金属リン酸塩を得ることができる。熱処理の温度としては、合成する金属リン酸塩の組成によって適宜選択し、たとえば、500〜800℃の範囲で行うことが好ましく、600〜700℃の範囲がより好ましく、630〜680℃の範囲がさらにより好ましい。熱処理の時間は、合成する金属リン酸塩の組成によって適宜選択し、たとえば、通常、1〜20時間の範囲であり、1〜5時間の範囲が好ましく、2〜5時間の範囲がより好ましい。
【0025】
また、前記金属リン酸塩は、粒径0.1〜5μm程度であることが好ましい。当該粒径は、実施例に示す方法で測定できる。特に好ましくは、0.1〜1μmである。粒径が大きすぎると、フッ素系樹脂との混合状態が悪化し、膜強度が低下する恐れがある。
【0026】
II.層状珪酸塩
本発明に用いられる層状珪酸塩としては、特に限定されず、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト族:カオリナイト、ハロサイトなどのカオリナイト族:ジオクタヘドラルバーミキュライト、トリオクタヘドラルバーミキュライトなどのバーミキュライト族:テニオライト、テトラシリシックマイカ、マスコバイト、イライト、セリサイト、フォロゴバイト、バイオタイトなどのマイカなどが挙げられる。なかでもモンモリロナイトが好適に用いられる。上記層状珪酸塩は、天然物であってもよいし、合成物であってもよい。また、これらの層状珪酸塩は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0027】
上記層状珪酸塩の形状としては特に限定されないが、平均長さの好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は3μmであり、厚みの好ましい下限は0.001μm、好ましい上限は1μmである、アスペクト比の好ましい下限は20、好ましい上限は500である。平均長さのより好ましい下限は0.05μm、より好ましい上限は2μmであり、厚みのより好ましい下限は0.01μm、より好ましい上限は0.5μmであり、アスペクト比のより好ましい下限は50、より好ましい上限は200である。
【0028】
III.フッ素系樹脂
本発明に用いられるフッ素系樹脂としては、公知のフッ素系樹脂から適宜選択して用いればよいが、特に、耐熱性、溶解性に優れた、融点150℃以上のフッ素系樹脂が好ましい。具体的には、ポリビニリデンフルオライド、ビニリデンフルオライドの共重合体等が挙げられる。これらフッ素系樹脂の中では、好ましくはポリビニリデンフルオライドを用いることができる。
【0029】
IV.製造方法
本発明の組成物は、前記に例示した式(1)で表される金属リン酸塩、フッ素系樹脂、溶媒、および必要に応じて層状珪酸塩を混合して製造することができる。
【0030】
溶媒以外の上記3成分の配合割合は、フッ素系樹脂100重量部に対し、式(1)で表される金属リン酸塩を、200〜900重量部、好ましくは300〜700重量部、さらに好ましくは350〜600重量部である。層状珪酸塩は、フッ素系樹脂100重量部に対し、0〜20重量部であり、好ましくは0.01〜20重量部、さらに好ましくは0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜6重量部である。当該層状珪酸塩を用いることにより、PVDFの耐熱性および機械的強度(引張強度)を向上させることができる。ただし、20重量部を超えて過剰に添加すると、脆くなり、却って強度が低下するおそれがある。
【0031】
組成物の混合に用いられる溶媒としては、沸点50〜300程度の極性溶媒であれば特に限定されないが、沸点100〜220度程度の極性溶媒が好ましい。例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。特に好ましくは、N,N−ジメチルアセトアミドである。溶媒の量としては、フッ素系樹脂100部に対し、1000〜5000重量部、また、溶媒蒸発後の、金属リン酸塩、フッ素樹脂、および必要に応じて配合する層状ケイ酸塩の合計重量が、溶媒蒸発前の重量の10〜40%、好ましくは20〜30%になるように用いることが好ましい。
【0032】
上記各成分の配合順序としては特に限定されるものでなく、全てを同時に混合してもよいし、溶媒以外の3成分をそれぞれ溶媒と混合しておき、その後全体を混合する方法、溶媒以外の3成分のうち、いずれか2成分と残りの1成分を、それぞれ溶媒と混合しておき、その後全体を混合する方法のいずれでもよい。好ましくは、フッ素系樹脂および必要に応じて層状珪酸塩を予め溶媒に混合した混合物と、式(1)で表される金属リン酸塩を予め溶媒に混合した金属リン酸塩混合物とを、混合する方法である。式(1)で表される金属リン酸塩は、溶媒に分散した金属塩スラリーの状態であることが好ましく、さらに、溶媒に混合した後に、粒径0.1〜1μ程度に粉砕することが好ましい。当該粒度は、実施例に示す方法で測定した。
【0033】
また、本発明の電解質膜は、前記に例示した式(1)で表される金属リン酸塩、フッ素系樹脂、溶媒、および必要に応じて層状珪酸塩を混合した後、溶媒を除去することにより製造することができる。溶媒の種類、各成分の配合割合および各成分の配合順序は、前記組成物の製造方法と同様である。溶媒の除去方法としては、加熱により除去する方法が挙げられ、例えば、オーブンに入れ、90〜130℃で2〜3時間加熱する方法が好ましい。
【0034】
例えば、本発明の電解質膜の好ましい製法としては、下記の方法が挙げられる。前記の手順に従って合成した、前記の式(1)で表される金属リン酸塩を、乳鉢、乳棒を用いて粉砕後、溶媒を添加し、さらにビーズミルやボールミル等で粉砕して得た粒子径0.1〜1μm程度の金属リン酸塩スラリーと、別途、フッ素系樹脂および必要に応じて層状珪酸塩、に溶媒を添加しておいた組成物とを混合し、攪拌して電解液を得る。当該電解液を、ガラス板や金属板(SUS等)等の基板、またはPETシートなどにキャストし、面上に塗り広げた後、オーブンに入れ、90〜130℃で2〜3時間加熱して溶媒を除去する。溶媒除去後、基板から剥離することにより、電解質膜を得ることができる。また、電解質膜の剥離を容易にするために、基材にあらかじめシリコン系離型剤等を塗布してから、電解液をキャストしてもよい。
【実施例】
【0035】
以下に実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0036】
(測定方法)
<粒度分布>
日機装株式会社製のMicrotrac MT3000IIを用い、溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミドを用いて、吸収・測定時間30sの粒子透過性条件で測定した。
【0037】
<引張強度>
(株)島津製作所製AUTOGRAPH AG−X 500Nを用い、長さ4cm×幅1cmの試験片を用いて、引張速度50mm/minにて測定した。
【0038】
<プロトン伝導率>
得られた電解質膜を白金電極で挟み、四端子伝導度測定装置を用いて、インピーダンススペクトルを周波数1MHz〜0.1Hz、電圧10mVの実験条件下で、温度150℃にて測定した。
【0039】
<膜厚>
株式会社ミツトヨのマイクロメータを用い、長さ4cm×幅1cmの試験片を用いて、幅の中央を1センチ間隔で4点測定し、その平均値を膜厚とした。
【0040】
(金属リン酸塩の合成(1))
SnO(和光純薬製)28.63g、Al(OH)(和光純薬製)0.78g、HPO(和光純薬製、85%の濃リン酸水溶液)46.11gをビーカーに仕込み、マグネチックスターラーで攪拌しながらホットプレートで300℃に加熱した。加熱中、粘度を調整するために、適宜イオン交換水を添加した。2時間加熱して得られた粘調なペーストをアルミナ製ルツボに仕込み、電気炉中で1.5時間かけて650℃まで昇温し、2.5時間保持した後、1.5時間で室温まで冷却し、金属リン酸塩(1)を合成した。
【0041】
(金属リン酸塩スラリー(1))
前記金属リン酸塩(1)50gを、乳鉢と乳棒で十分にすりつぶした後、N,N−ジメチルアセトアミド100gを加え、ボールミルにかけて4時間粉砕し、金属リン酸塩スラリー(1)(粒径0.1〜1μm)を得た。
【0042】
(金属リン酸塩の合成(2))
POの量を57.64gとした以外は、上記(金属リン酸塩の合成(1))と同様にして、金属リン酸塩(2)を合成した。
【0043】
(金属リン酸塩スラリー(2))
前記金属リン酸塩(2)50gを、乳鉢と乳棒で十分にすりつぶした後、N,N−ジメチルアセトアミド100gを加え、ボールミルにかけて4時間粉砕し、金属リン酸塩スラリー(2)を得た。
【0044】
(金属リン酸塩の合成(3))
POの量を64.56gとした以外は、上記(金属リン酸塩の合成(1))と同様にして、金属リン酸塩(3)を合成した。
【0045】
(金属リン酸塩スラリー(3))
前記金属リン酸塩(3)50gを、乳鉢と乳棒で十分にすりつぶした後、N,N−ジメチルアセトアミド100gを加え、ボールミルにかけて4時間粉砕し、金属リン酸塩スラリー(3)を得た。
【0046】
(金属リン酸塩の合成(4))
POの量を69.17gとした以外は、上記(金属リン酸塩の合成(1))と同様にして、金属リン酸塩(4)を合成した。
【0047】
(金属リン酸塩スラリー(4))
前記金属リン酸塩(4)50gを、乳鉢と乳棒で十分にすりつぶした後、N,N−ジメチルアセトアミド100gを加え、ボールミルにかけて4時間粉砕し、金属リン酸塩スラリー(4)を得た。
【0048】
(金属リン酸塩の合成(5))
POの量を83.0gとした以外は、上記(金属リン酸塩の合成(1))と同様にして、金属リン酸塩(5)を合成した。
【0049】
(金属リン酸塩スラリー(5))
前記金属リン酸塩(5)50gを、乳鉢と乳棒で十分にすりつぶした後、N,N−ジメチルアセトアミド100gを加え、ボールミルにかけて4時間粉砕し、金属リン酸塩スラリー(5)を得た。
【0050】
(金属リン酸塩の合成(6))
POの量を34.59gとした以外は、上記(金属リン酸塩の合成(1))と同様にして、金属リン酸塩(6)を合成した。
【0051】
(金属リン酸塩スラリー(6))
前記金属リン酸塩(6)40gを、乳鉢と乳棒で十分にすりつぶした後、N,N−ジメチルアセトアミド80gを加え、ボールミルにかけて4時間粉砕し、金属リン酸塩スラリー(6)を得た。
【0052】
上記で得られた金属リン酸塩の、スズおよびアルミの合計と、リンとのモル比を表1に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
(ポリビニリデンフルオライド組成物(1))
ポリビニリデンフルオライド(アルケマ製 KYNAR HSV900)10gに、N,N−ジメチルアセトアミド70gを加えて2時間攪拌し、ポリビニリデンフルオライド組成物(1)を得た。
【0055】
(ポリビニリデンフルオライド組成物(2))
ポリビニリデンフルオライド(アルケマ製 KYNAR HSV900)9.75g、合成スメクタイト(コープケミカル株式会社製 ルーセンタイトSEN)0.25gに、N,N−ジメチルアセトアミド70gを加えて2時間攪拌し、ポリビニリデンフルオライド組成物(2)を得た。
【0056】
(ポリビニリデンフルオライド組成物(3))
ポリビニリデンフルオライド(アルケマ製 KYNAR HSV900)9.5g、合成スメクタイト(コープケミカル株式会社製 ルーセンタイトSEN)0.5gに、N,N−ジメチルアセトアミド70gを加えて2時間攪拌し、ポリビニリデンフルオライド組成物(3)を得た。
【0057】
実施例1
ポリビニリデンフルオライド組成物(1)6gと金属リン酸塩スラリー(1)9gを混合し、1時間攪拌した後、ガラス板上に塗布し、溶媒を加熱により蒸発させて、膜厚50μmの電解質膜(1)を得た。得られた電解質膜(1)の引張強度を測定すると、7.3MPaであった。
また、電解質膜(1)のDSC測定を行い、ポリビニリデンフルオライドの融点を確認したところ、164.7℃であった。
さらに、電解質膜(1)のプロトン伝導率を測定したところ、150℃でのプロトン伝導率は0.0015S/cmであった。
【0058】
実施例2
ポリビニリデンフルオライド組成物(2)6gと金属リン酸塩スラリー(1)9gを混合し、1時間攪拌した後、ガラス板上に塗布し、溶媒を加熱により蒸発させて、膜厚50μmの電解質膜(2)を得た。得られた電解質膜(2)の引張強度を測定すると、7.6MPaであった。
また、電解質膜(2)のDSC測定を行い、ポリビニリデンフルオライドの融点を確認したところ、169.4℃であった。
さらに、電解質膜(2)のプロトン伝導率を測定したところ、150℃でのプロトン伝導率は0.0015S/cmであった。
【0059】
実施例3
ポリビニリデンフルオライド組成物(3)6gと金属リン酸塩スラリー(1)9gを混合し、1時間攪拌した後、ガラス板上に塗布し、溶媒を加熱により蒸発させて、膜厚50μmの電解質膜(3)を得た。得られた電解質膜(3)の引張強度を測定すると8.0MPaであった。
また、電解質膜(3)のDSC測定を行い、ポリビニリデンフルオライドの融点を確認したところ、169.6℃であった。
さらに、電解質膜(3)のプロトン伝導率を測定したところ、150℃でのプロトン伝導率は0.0014S/cmであった。
【0060】
実施例4
ポリビニリデンフルオライド組成物(1)6gと金属リン酸塩スラリー(2)9gを混合し、1時間攪拌した後、ガラス板上に塗布し、溶媒を加熱により蒸発させて、膜厚50μmの電解質膜(4)を得た。得られた電解質膜(4)の引張強度を測定すると6.9MPaであった。
また、電解質膜(4)のDSC測定を行い、ポリビニリデンフルオライドの融点を確認したところ、164.7℃であった。
さらに、電解質膜(4)のプロトン伝導率を測定したところ、150℃でのプロトン伝導率は0.0022S/cmであった。
【0061】
実施例5
ポリビニリデンフルオライド組成物(1)6gと金属リン酸塩スラリー(3)9gを混合し、1時間攪拌した後、ガラス板上に塗布し、溶媒を加熱により蒸発させて、膜厚50μmの電解質膜(5)を得た。得られた電解質膜(5)の引張強度を測定すると5.1MPaであった。
また、電解質膜(5)のDSC測定を行い、ポリビニリデンフルオライドの融点を確認したところ、164.7℃であった。
さらに、電解質膜(5)のプロトン伝導率を測定したところ、150℃でのプロトン伝導率は0.0048S/cmであった。
【0062】
実施例6
ポリビニリデンフルオライド組成物(1)6gと金属リン酸塩スラリー(4)9gを混合し、1時間攪拌した後、ガラス板上に塗布し、溶媒を加熱により蒸発させて、膜厚50μmの電解質膜(6)を得た。得られた電解質膜(6)の引張強度を測定すると6.0MPaであった。
また、電解質膜(6)のDSC測定を行い、ポリビニリデンフルオライドの融点を確認したところ、164.7℃であった。
さらに、電解質膜(6)のプロトン伝導率を測定したところ、150℃でのプロトン伝導率は0.0074S/cmであった。
【0063】
実施例7
ポリビニリデンフルオライド組成物(1)6gと金属リン酸塩スラリー(5)9gを混合し、1時間攪拌した後、ガラス板上に塗布し、溶媒を加熱により蒸発させて、膜厚50μmの電解質膜(7)を得た。得られた電解質膜(7)の引張強度を測定すると3.8MPaであった。
また、電解質膜(7)のDSC測定を行い、ポリビニリデンフルオライドの融点を確認したところ、164.7℃であった。
さらに、電解質膜(7)のプロトン伝導率を測定したところ、150℃でのプロトン伝導率は0.007S/cmであった。
【0064】
比較例1
ポリビニリデンフルオライド(アルケマ製 KYNAR HSV900)4gと金属リン酸塩スラリー(1)6gを混合し、150℃で圧延し、膜厚100μmの電解質膜を得た。得られた膜は非常に脆く、各種測定を行うことはできなかった。
【0065】
比較例2
ポリビニリデンフルオライド組成物(1)6gと金属リン酸塩スラリー(6)9gを混合し、1時間攪拌した後、ガラス板上に塗布し、溶媒を加熱により蒸発させて、膜厚50μmの電解質膜(8)を得た。得られた電解質膜(8)の引張強度を測定すると13.94MPaであった。
また、電解質膜(8)のDSC測定を行い、ポリビニリデンフルオライドの融点を確認したところ、164.7℃であった。
さらに、電解質膜(8)のプロトン伝導率を測定したところ、150℃でのプロトン伝導率は0.00013S/cmであった。
【0066】
【表2】

【0067】
以上より、本願特定の金属リン酸塩を用いることにより、プロトン伝導率が向上することがわかる。また、層状ケイ酸塩を含有することにより、PVDFの耐熱性、機械的強度が上がることもわかる(実施例1〜3)。実施例1〜3に比べリン酸量を増やした実施例4〜7では、プロトン伝導率が向上する。比較例2では、強度は非常に強くなるが、プロトン導電率は著しく低くなる。
【0068】
また、金属リン酸塩(1)、(2)、(4)および(5)、そして当該金属リン酸塩を配合した実施例1、4、6および7の電解質膜の潮解性について、下記試験により確認した。結果を表3および図1〜5に示した。
【0069】
(潮解性試験)
金属リン酸塩を乳鉢で破砕した後、カップに入れ、恒温恒湿槽中、23℃、55%の恒温恒湿に保ち、120時間重量の変化(吸湿により増加した重量%)を測定した。
電解質膜については、ガラス板上に置いた状態で、恒温恒湿槽中、23℃、55%の恒温恒湿に保ち、120時間重量の変化を測定した。
【0070】
【表3】

【0071】
以上より、本願特定の金属リン酸塩を用いると、膜にしたときに、より潮解性を抑制できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂100重量部に対し、下記MまたはM+Jの1モルに対しPを2〜4モル用いて製造された、下記一般式(1)で表される金属リン酸塩200〜900重量部を含む組成物。
1−x (1)
(式中、Mは、周期律表第4族および第14族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を表し、Jは、周期律表第3族、第5族、第13族および第15族の元素からなる群より選ばれる1種以上の元素を表す。0≦X≦0.1を示し、a=2〜4であり、b=a×3.5である。)
【請求項2】
さらに、層状珪酸塩を0.01〜20重量部含有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フッ素系樹脂が、ポリビニリデンフルオライドである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記一般式(1)において、0.01≦X≦0.1である請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の組成物から得られる電解質膜。
【請求項6】
請求項5に記載の電解質膜を含む燃料電池。
【請求項7】
フッ素系樹脂100重量部に対し、M+Jの1モルに対しPを2〜4モル用いて製造された、前記一般式(1)で表される金属リン酸塩200〜900重量部および溶媒を混合することを特徴とする、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項8】
フッ素系樹脂100重量部に対し、M+Jの1モルに対しPを2〜4モル用いて製造された、前記一般式(1)で表される金属リン酸塩200〜900重量部および溶媒を混合した後、当該溶媒を除去することを特徴とする、請求項5に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項9】
フッ素系樹脂および溶媒を混合したフッ素系樹脂混合物と、金属リン酸塩を溶媒に分散させた金属リン酸塩スラリーとを、混合し、溶媒を除去することを特徴とする、請求項8に記載の電解質膜の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒が、沸点50〜300℃の極性溶媒である、請求項7〜9のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−16418(P2013−16418A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149938(P2011−149938)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】