説明

プロトン伝導膜およびその製造方法ならびに燃料電池

【課題】プロトン伝導率が高く、耐熱性と機械的強度を備えたプロトン伝導膜を提供する。
【解決手段】Si−O結合のネットワーク構造を有するプロトン伝導膜は、ネットワーク構造を構成するSi原子に結合されたアリーレン基を有すると共に、アリーレン基にはプロトン供与基が結合されており、あるいは又、ネットワーク構造を構成するSi原子に結合されたナフチル基を有すると共に、ナフチル基にはプロトン供与基が結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導膜およびその製造方法ならびに燃料電池に関し、特に詳しくは、有機−無機ハイブリッドプロトン伝導膜およびその製造方法ならびに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池やセンサー等には、室温から100℃以下の温度で作動するプロトン伝導膜として、フッ素を高分子骨格中に有するパーフルオロスルホン酸膜[デュポン社製、商品名ナフィオン]等の高分子膜が使用されている。また、類似のものとして、パーフルオロビニルエーテル側鎖が異なるパーフルオロスルホン酸膜などの提案がある。
【0003】
また、上記パーフルオロスルホン酸膜よりも耐熱性のあるプロトン伝導膜の材料として、シリカ系材料が注目されている。上記パーフルオロスルホン酸膜にシリカからなる微細粒子を分散させて、燃料電池に用いた例も開示されている(例えば、特許文献1参照)が、この場合のシリカは膜の保湿性を向上させるための添加剤であり、プロトン伝導性には関与していない。
【0004】
燃料電池の電解質としては、室温から200℃程度の温度範囲で高いプロトン伝導率を有する非晶質シリカ成形体からなるプロトン伝導膜が提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0005】
また、ゾル−ゲル法で作製されたシリカガラスは、ガラスとしては高いプロトン伝導率を有することを報告されている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0006】
さらに、シリカが主たる組成の五酸化リン(P25)−酸化ジルコニウム(ZrO2)−酸化シリコン(SiO2)(P25:ZrO2:SiO2=5:5:90(モル%))からなるシリカガラスにおいて、50℃で10-3S/cm程度の高いプロトン伝導率があることが報告されている(例えば、非特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−111827公報
【特許文献2】特開2000−272932公報
【特許文献3】特開2001−143723公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Physical Review B」,1997年, Vol.55, p.12108
【非特許文献2】「The Journal of Physical Chemistry」1998年, Vol.102, p.5772
【非特許文献3】「Journal of The Electrochemical Society」1997年, Vol.144, p.2175
【非特許文献4】「Applied Physics Letters」1997年, Vol.71, p.1323
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したシリカ系材料を用いたプロトン伝導膜は、耐熱性や機械強度は高いものの、プロトン供与性が低く、プロトン伝導率が十分ではない、という問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、プロトン伝導率を向上させるとともに、耐熱性や機械強度を備えたプロトン伝導膜およびその製造方法ならびに燃料電池に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したような課題を解決するために、本発明のプロトン伝導膜は、Si−O結合を有するネットワーク構造で構成されたプロトン伝導膜であって、ネットワーク構造を構成するSi原子に結合されたアリール基またはSi原子間を架橋するアリーレン基を有するとともに、アリール基またはアリーレン基にはプロトン供与基が結合されていることを特徴としている。
【0012】
このようなプロトン伝導膜によれば、Si−O結合を有するネットワーク構造中に、アリール基またはアリーレン基を有することから、プロトン供与基を結合させることが可能となる。これにより、従来のシリカ系材料からなるプロトン伝導膜よりもプロトン供与基を増大させることが可能となることから、プロトン伝導率を向上させることができる。また、Si−O結合を有するネットワーク構造で構成されることで、シリカ系材料と同様に耐熱性や機械的強度にも優れている。
【0013】
また、本発明のプロトン伝導膜の第1の製造方法は、次のような工程を順次行うことを特徴としている。まず、少なくとも一方がアリール基を有するポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物とを含む溶液を調製する工程を行う。次に、酸素を含む雰囲気下で、上記溶液に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたアリール基またはSi原子間を架橋するアリーレン基を有し、当該アリール基または当該アリーレン基にプロトン供与基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程を行う。次いで、アリール基またはアリーレン基を介してプロトン供与基が結合されたネットワーク構造を含む溶液を、基板上に塗布する工程を行う。その後、塗布後の基板に熱処理を行うことで、プロトン伝導膜を形成する工程を行う。
【0014】
さらに、本発明のプロトン伝導膜の第2の製造方法は、次のような工程を順次行うことを特徴としている。まず、アリール基を有するポリシラン化合物を含む溶液を調製する工程を行う。次に、酸素を含む雰囲気下で、溶液に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたアリール基またはSi原子間を架橋するアリーレン基を有するSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程を行う。次いで、ネットワーク構造を含む溶液に、プロトン供与基含有化合物を添加することで、ネットワーク構造中のアリール基またはアリーレン基にプロトン供与基を結合させる工程を行う。続いて、アリール基またはアリーレン基を介してプロトン供与基が結合されたネットワーク構造を含む溶液を、基板上に塗布する工程を行う。その後、塗布後の基板に熱処理を行うことで、プロトン伝導膜を形成する工程を行うことを特徴としている。
【0015】
また、本発明のプロトン伝導膜の第3の製造方法は、次のような工程を順次行うことを特徴としている。少なくとも一方がアリール基を有するポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物とを含む溶液を調製する工程を行う。次に、基板上に上記溶液を塗布する工程を行う。次いで、酸素を含む雰囲気下で、塗布後の上記基板に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたアリール基またはSi原子間を架橋するアリーレン基を有し、アリール基またはアリーレン基にプロトン供与基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程を行う。続いて、光照射後の基板に熱処理を行うことで、プロトン供与基が結合された上記ネットワーク構造を有するプロトン伝導膜を形成する工程を行う。
【0016】
このようなプロトン伝導膜の第1〜第3の製造方法によれば、Si−O結合のネットワーク構造中に、アリール基またはアリーレン基を介してプロトン供与基が結合されたプロトン伝導膜が形成されるため、従来のシリカ系材料からなるプロトン伝導膜よりもプロトン供与基を増大させることが可能となる。これにより、プロトン伝導率を向上させたプロトン伝導膜が製造可能となる。また、Si−O結合を有するネットワーク構造で構成されることで、シリカ系材料と同様に耐熱性や機械的強度にも優れたプロトン伝導膜が製造可能となる。さらに、塗布法によりプロトン伝導膜を形成可能であることから、プロトン伝導膜の製造工程が簡略化される。
【0017】
また、本発明は上記プロトン伝導膜を用いた燃料電池でもあり、カソードとアノードとの間にSi−O結合のネットワーク構造を有するプロトン伝導膜からなる電解質層を挟持してなる。そして、上記ネットワーク構造を構成するSi原子に結合されたアリール基またはSi原子間を架橋するアリーレン基を有するとともに、アリール基またはアリーレン基にはプロトン供与基が結合されていることを特徴としている。
【0018】
このような燃料電池によれば、上記プロトン伝導膜を有することにより、プロトン伝導率を向上させることができるため、起電力を増大することが可能となる。

【発明の効果】
【0019】
以上、説明したように、本発明のプロトン伝導膜は、プロトン伝導率を向上させることができるとともに、シリカ系材料と同様に耐熱性や機械的強度にも優れていることからプロトン伝導膜の高品質化を図ることができる。また、本発明のプロトン伝導膜の製造方法によれば、塗布法により上記プロトン伝導膜を製造することが出来るため、製造装置および製造工程の簡略化が図れ、生産性に優れている。さらに、本発明の燃料電池によれば、起電力を増大することができるため、燃料電池の高効率化および長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のプロトン伝導膜の製造方法に係る第1実施形態を説明するためのフローチャートである。
【図2】本発明のプロトン伝導膜を用いた燃料電池に係る第1実施形態を説明するための構成図である。
【図3】本発明のプロトン伝導膜の製造方法に係る第1実施形態の変形例1を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明のプロトン伝導膜の製造方法に係る第1実施形態の変形例2を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のプロトン伝導膜およびその製造方法ならびにプロトン伝導膜を用いた燃料電池の一例について詳細に説明する。
【0022】
(第1実施形態)
<プロトン伝導膜>
本発明のプロトン伝導膜は、ケイ素(Si)と酸素(O)が3次元に架橋された重合体からなるSi−O結合のネットワーク構造を有している。このネットワーク構造は、ネットワーク構造を構成するSi原子に結合されたアリール基またはSi原子間を架橋するアリーレン基を有するため、プロトン伝導膜は、有機−無機ハイブリット膜として構成される。ここで、プロトン伝導膜の有機成分、無機成分の割合は、後述する製造方法で詳細に説明するように、原料によって適宜規定される。
【0023】
ここで、上記アリール基または上記アリーレン基としては、単環であっても、縮環されていてもよく、置換基を有していても無置換であってもよい。これらはネットワーク構造を構成するSi原子に結合、またはSi原子間を架橋するため、高分子量でない方が好ましく、例えば炭素数6〜24のアリール基、アリーレン基であることが好ましい。具体的には、アリール基がフェニル基またはナフチル基、アリーレン基がフェニレン基、ナフチレン基であることが好ましい。
【0024】
また、上記アリール基または上記アリーレン基には、プロトン供与基が結合されている。上述したSi−O結合のネットワーク構造中に、アリール基またはアリーレン基にプロトン供与基が結合されることで、プロトン伝導率が向上する。
【0025】
上記プロトン供与基としては、pKa4以下の酸残基が好ましく、例えばスルホン酸基(−SO3H)、リン酸基(-POOH,OP(O)(OH)2)、カルボキシル基(-COOH)等が挙げられる。このうち、pKaの低いスルホン酸基(−SO3H)であることが特に好ましい。この場合には、プロトン伝導膜中のスルホン酸基の周囲に水(H2O)が配位されるため、プロトン(H+)がH3+の形で伝導される。
【0026】
また、上記アリーレン基に結合されるプロトン供与基以外の置換基としては、ヒドロキシル基、ケトン基、エステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、チオール基等が挙げられる。
【0027】
ここでは、上記アリール基がフェニル基、アリーレン基がフェニレン基であるとともに、プロトン供与基がスルホン酸基(−SO3H)である場合の部分構造を下記構造式(1)に示す。ただし、アリール基またはアリーレン基のスルホン酸基と結合された以外の部位は、無置換であることとする。
【化1】

【0028】
上記構造式(1)に示すように、Si−O結合のネットワーク構造を構成するSi原子に側鎖としてフェニル基が結合されており、Si原子間を架橋するフェニレン基は例えばパラ位の位置で結合されている。また、フェニル基またはフェニレン基には、スルホン酸基が結合されている。
【0029】
なお、上記構造式(1)においては、Si原子間を架橋するフェニレン基は例えばパラ位の位置で結合されることとしたが、オルト位、メタ位であってもよく、スルホン酸基が結合するフェニル基またはフェニレン基の結合位置や、結合数も特に限定されるものではない。
【0030】
このようなプロトン伝導膜によれば、Si−O結合を有するネットワーク構造中に、アリール基またはアリーレン基を有することから、プロトン供与基を結合させることが可能となる。これにより、従来のシリカ系材料からなるプロトン伝導膜よりもプロトン供与基を増大させることが可能となるため、プロトン伝導率を向上させることができる。また、Si−O結合を有するネットワーク構造で構成されることで、シリカ系材料と同様に耐熱性や機械的強度にも優れている。したがって、プロトン伝導膜の高品質化を図ることができる。
【0031】
<プロトン伝導膜の製造方法>
上述したプロトン伝導膜の製造方法の一例について、図1のフローチャートを用いて説明する。まず、原料として用いるポリシラン化合物と、プロトン供与基含有化合物について説明する。
【0032】
本発明に用いられるポリシラン化合物は、下記一般式(1)に示されるものであり、環状であってもよく鎖状であってもよい。
【化2】

【0033】
上記一般式(1)中のR1、R2は、アルキル基またはアリール基を示す。これらは置換基を有していてもよく、無置換であってもよい。上記アルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基であることが好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等)が挙げられる。また、上記アリール基の好ましい例としては、炭素数6〜20の置換又は無置換のフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。また、nは整数である。
【0034】
また、アルキル基またはアリール基の置換基としては、ヒドロキシル基、ケトン基、エステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、チオール基等が挙げられる。
【0035】
ここでは、ポリシラン化合物として、下記構造式(3)に示すデカフェニルシクロペンタシランを用いることとする。
【化3】

【0036】
一方、プロトン供与基含有化合物としては、下記一般式(2)に示す化合物が用いられる。
【化4】

【0037】
上記一般式(2)において、プロトン供与基Aは、上述したように、pKa4以下の酸残基が好ましく、例えばスルホン酸基(−SO3H)、リン酸基(-POOH,OP(O)(OH)2)またはカルボキシル基(-COOH)からなる。また、R3は置換または無置換のアルキル基、アリール基であることとする。
【0038】
このアルキル基またはアリール基の置換基としては、ヒドロキシル基、ケトン基、エステル基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミド基、チオール基等が挙げられる。
【0039】
ここでは、プロトン供与基Aがスルホン酸基、R3がドデシル基のドデシルベンゼンスルホン酸からなるプロトン供与基含有化合物を用いることとする。
【0040】
上述したようなデカフェニルペンタシランからなるポリシラン化合物と、ドデシルベンゼンスルホン酸からなるプロトン供与基含有化合物を混合し、例えばトルエンからなる溶媒と混合することで、ポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物を含む溶液を調製する(S101)。
【0041】
ここで、上記ポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物を混合する割合により、形成するプロトン伝導膜の組成が制御される。このため、上記ポリシラン化合物は50モル%〜90モル%、プロトン供与基含有化合物は10モル%〜50モル%の範囲で混合することが好ましい。ポリシラン化合物が50モル%より少なくなるとSi−Oのネットワーク構造が形成されず、耐熱性および機械的強度が低くなる。また、化学耐久性に優れた実用的なガラスにならない傾向がある。ポリシラン化合物が90モル%より多くなると、プロトン供与基が少なくなるため、十分なプロトン伝導率が得られない。
【0042】
上記溶媒としては、ポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物を溶解するものであれば特に制限はないが、好ましくは、非極性溶媒(トルエン、キシレン等)、鎖状炭化水素化合物(ヘキサン、オクタン等)、複素環化合物(3−メチル−2−オキサゾリジノン、N−メチルピロリドン等)、環状エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、鎖状エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル等)、多価アルコール類(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等)、ニトリル化合物(アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル類(カルボン酸エステル、リン酸エステル、ホスホン酸エステル等)、非プロトン極性物質(ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、塩素系溶媒(メチレンクロリド、エチレンクロリド等)、水等を用いることができる。これらは単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0043】
次に、酸素を含む雰囲気下でこの溶液に光照射を行う(S102)。ここでは、空気中で例えば紫外線を照射する。ここで、ポリシラン化合物は、一般的に、例えば空気中等の酸素を含む雰囲気下で、紫外線を照射すると、主鎖であるSi-Si結合が開裂し、シリルラジカル等の活性種が生成する。その後、空気中の酸素と反応し、シロキサン結合を形成する。また、このシリルラジカル等の活性種は、アリール基(芳香族系炭化水素基)と反応する。これにより、光重合により、Si原子に結合されたアリール基またはSi原子間を架橋するアリーレン基を有し、このアリール基またはアリーレン基にプロトン供与基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造が生成される。
【0044】
上記光重合の際の反応温度は反応速度に関連し、前駆体の反応性と種類及びその量に応じて選択することができる。好ましくは50〜500℃であり、より好ましくは100〜300℃である。
【0045】
次に、上記ネットワーク構造を含む溶液を基板上に塗布する(S103)。この基板は特に限定されるものではないが、好ましい例としては、ガラス基板、金属基板、高分子フイルム、反射板等を挙げることができる。上記高分子フイルムの例としては、TAC(トリアセチルセルロース)等のセルロース系高分子フイルム、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等のエステル系高分子フイルム、PTFE(ポリトリフルオロエチレン)等のフッ素系高分子フイルム、ポリイミドフイルム等が挙げられる。
【0046】
また、塗布方式は公知の方法でよく、例えばカーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法等を用いることができる。
【0047】
次いで、塗布後の基板に100℃〜1000℃で熱処理を行うことで、塗布膜を焼成する(S104)。加熱時間は加熱温度と組成により異なるが、1時間から24時間の範囲が実質上好ましい。加熱雰囲気は特に制限はないが、空気中で行うことで、より強固なSi−O結合のネットワーク構造が形成される。この場合の加熱条件は加熱後の生成物の比表面積が10m2/g以上、好ましくは50m2 /g以上となるように選択される。例えば600℃から800℃の範囲を選択することにより,比表面積として600m2/g以上の非晶質材料が得られ、高いプロトン伝導率を有するプロトン伝導膜が得られるとともに、機械的及び化学的な安定性も高くなる。
【0048】
以上のようにして、フェニル基またはフェニレン基を介してスルホン酸基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を有するプロトン伝導膜が形成される。その後、得られたプロトン伝導膜を例えば相対湿度50%の雰囲気下で放置することで、このプロトン伝導膜に水分を含有させる。この場合の水分量としては、1重量%〜20重量%であることとする。
【0049】
このようなプロトン伝導膜の第1の製造方法によれば、上述したようなプロトン伝導膜を製造可能であることから、プロトン伝導率を向上させるとともに、耐熱性や機械的強度にも優れたプロトン伝導膜を得ることができる。また、塗布法によりプロトン伝導膜を形成可能であることから、プロトン伝導膜の製造工程が簡略化される。
【0050】
なお、本実施形態のプロトン伝導膜の製造方法では、ポリシラン化合物もプロトン供与基含有化合物もアリール基を有する例で説明したが、ポリシラン化合物およびプロトン供与基含有化合物の少なくとも一方がアリール基を有していればよい。
【0051】
<燃料電池>
次に、上述したプロトン伝導膜を用いた燃料電池について、図2を用いて説明する。この燃料電池1は、水素濃淡電池であって、カソード2とアノード3の間に電解質層4を挟持して構成されている。カソード2とアノード3とは外部回路5に接続されている。この電解質層4は、水分を含む上記プロトン伝導膜で構成されている。
【0052】
この燃料電池1はカソード2側に設けられるプロトン供給部6を水素分圧の高い状態とし、アノード3側となるプロトン消費部7を水素分圧の低い状態とする。具体的には、プロトン供給部には、例えば水素ガスを流動させ、プロトン消費部7には酸素ガスを流動させることで、プロトンを消費させる。このような構成により、上記カソード2側から電解質層4を介してアノード3側にプロトン(H+)が移動する。
【0053】
このような燃料電池によれば、電解質層4として、上記プロトン伝導膜を用いていることから、高い起電力を得ることができ、燃料電池の高効率化、長寿命化を図ることができる。
【0054】
(変形例1)
また、本発明のプロトン伝導膜は、図3のフローチャートに示す方法によっても製造することができる。なお、ポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物としては、上記実施形態と同じ化合物を用いることができる。
【0055】
まず、例えばデカフェニルペンタシランからなるポリシラン化合物を例えばトルエンからなる溶媒に溶解し、ポリシラン化合物を含む溶液を調製する(S201)。
【0056】
次に、この溶液に、紫外線を照射することで、光重合により、Si原子に結合されたフェニル基またはSi原子間を架橋するフェニレン基を有するSi−O結合のネットワーク構造を生成させる(S202)。
【0057】
次いで、上記溶液中に、例えばドデシルベンゼンスルホン酸からなるプロトン供与基含有化合物を添加する(S203)。これにより、上記ネットワーク構造中のフェニル基またはフェニレン基にスルホン酸基が結合される。
【0058】
続いて、フェニル基またはフェニレン基を介してスルホン酸基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を含む溶液を、基板上に塗布する(S204)。
【0059】
その後、上記溶液が塗布された基板に熱処理を行うことで、塗布膜を焼成し、プロトン伝導膜を形成する(S205)。
【0060】
このようなプロトン伝導膜の第2の製造方法であっても、本発明のプロトン伝導膜は製造可能であり、第1の製造方法と同様の効果を奏する。
【0061】
(変形例2)
さらに、本発明のプロトン伝導膜は、図4のフローチャートに示す方法によっても製造することができる。なお、ポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物としては、上記実施形態と同じ化合物を用いることができる。
【0062】
まず、例えばデカフェニルペンタシランからなるポリシラン化合物と例えばドデシルベンゼンスルホン酸からなるプロトン供与基含有化合物とを例えばトルエンからなる溶媒に溶解し、ポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物を含む溶液を調製する(S301)。
【0063】
次に、上記溶液を、基板上に塗布する(S302)。
【0064】
続いて、この基板に紫外線を照射することで、光重合により、Si原子に結合されたフェニル基またはSi原子間を架橋するフェニレン基を有し、フェニル基またはフェニレン基にスルホン酸基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を生成させる(S303)。
【0065】
次いで、光照射後の上記基板に熱処理を行うことで、フェニル基またはフェニレン基を介してスルホン酸基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を有するプロトン伝導膜をを形成する(S304)。
【0066】
このようなプロトン伝導膜の第3の製造方法であっても、本発明のプロトン伝導膜は製造可能であり、上述した第1の製造方法と同様の効果を奏する。
【実施例】
【0067】
次に、上記実施形態を実施例を用いて詳細に説明する。
【0068】
<実施例1>
上述した一般式(1)中のR1、R2が下記表1に示す組み合わせで構成されたポリシラン化合物(P−1)10gと、上述した一般式(2)中のA、R3が下記表2に示す組み合わせで構成されたプロトン供与基含有化合物(G−1)5gを混合し、トルエン100gに溶解させた溶液を調整した。この溶液に紫外線を30分間照射した。次いで、スピンコート法により、得られた溶液をガラス基板上に塗布することで、成膜した。その後、ホットプレートにて、120℃にて5分間プリベークした後、300℃にて1時間焼成することで、プロトン伝導膜を0.1mmの膜厚で形成した。
【表1】

【表2】

【0069】
<実施例2〜9>
上記表1に示すポリシラン化合物と上記表2に示すプロトン供与基含有化合物を、下記表3に示す組み合わせとした以外は、上記実施例1と同様の方法により、プロトン伝導膜を形成した。
【表3】

【0070】
<比較例1>
上記実施例1〜9に対する比較例1として、ポリシラン化合物(P−1)10gのみをトルエン100gに溶解させた溶液を調整した以外は、実施例1と同様の方法により、プロトン伝導膜を形成した。
【0071】
<比較例2>
ポリシラン化合物を上記表1に示すP−3にした以外は、比較例1と同様の方法により、プロトン伝導膜を形成した。
【0072】
(評価方法)
上記実施例1〜9および比較例1〜2のプロトン伝導膜について、相対湿度30%以上の雰囲気下においてサンプルを前処理した後、0.1mm程度の厚さの試料の両面に銀ペーストを塗布あるいは金電極を真空蒸着法等で付け、一定湿度雰囲気下に置き、交流インピーダンス法で25℃でのサンプルのプロトン伝導率(mS/cm)を測定した。実施例1〜9並びに比較例1、2のサンプルを測定した結果を上記表3に示す。この結果、実施例1〜9のプロトン伝導膜は、比較例1、2のプロトン伝導膜と比較してプロトン伝導率が1桁以上高くなることが確認された。
【0073】
<実施例10>
実施例1で形成したプロトン伝導膜を用いて、図2に示す水素濃淡電池からなる燃料電池を製造した。
【0074】
<実施例11〜18>
実施例2〜9で形成したプロトン伝導膜を用いて、実施例10と同様に水素濃淡電池を製造した。
【0075】
<比較例3、4>
実施例10〜18の燃料電池に対する比較例3、4として、比較例1、2で形成したプロトン伝導膜を用いて、図2に示す水素濃淡電池を製造した。
【0076】
(評価方法2)
上記実施例10〜18および比較例3、4の燃料電池の起電力を測定した。この結果を表4に示す。この表に示すように、実施例10〜18の燃料電池は比較例3、4の燃料電池と比較して、顕著に高い起電力を示すことが確認された。
【表4】

【符号の説明】
【0077】
1…燃料電池、2…カソード、3…アノード、4…電解質層(プロトン伝導膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−O結合のネットワーク構造を有するプロトン伝導膜であって、
ネットワーク構造を構成するSi原子に結合されたアリーレン基を有すると共に、
アリーレン基にはプロトン供与基が結合されているプロトン伝導膜。
【請求項2】
アリーレン基は、フェニレン基又はナフチレン基である請求項1に記載のプロトン伝導膜。
【請求項3】
Si−O結合のネットワーク構造を有するプロトン伝導膜であって、
ネットワーク構造を構成するSi原子に結合されたナフチル基を有すると共に、
ナフチル基にはプロトン供与基が結合されているプロトン伝導膜。
【請求項4】
プロトン供与基は、スルホン酸基である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項5】
プロトン伝導膜中には水分が含まれている請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜。
【請求項6】
少なくとも一方がアリール基を有するポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物とを含む溶液を調製する工程と、
酸素を含む雰囲気下で、溶液に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたSi原子間を架橋するアリーレン基を有し、アリーレン基にプロトン供与基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程と、
アリーレン基を介してプロトン供与基が結合されたネットワーク構造を含む溶液を、基板上に塗布する工程と、
塗布後の基板に熱処理を行うことで、プロトン伝導膜を形成する工程、
とを有するプロトン伝導膜の製造方法。
【請求項7】
少なくとも一方がアリール基を有するポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物とを含む溶液を調製する工程と、
酸素を含む雰囲気下で、溶液に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたSi原子間を架橋するナフチル基を有し、ナフチル基にプロトン供与基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程と、
ナフチル基を介してプロトン供与基が結合されたネットワーク構造を含む溶液を、基板上に塗布する工程と、
塗布後の基板に熱処理を行うことで、プロトン伝導膜を形成する工程、
とを有するプロトン伝導膜の製造方法。
【請求項8】
アリール基を有するポリシラン化合物を含む溶液を調製する工程と、
酸素を含む雰囲気下で、溶液に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたSi原子間を架橋するアリーレン基を有するSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程と、
ネットワーク構造を含む溶液に、プロトン供与基含有化合物を添加することで、ネットワーク構造中のアリーレン基にプロトン供与基を結合させる工程と、
アリーレン基を介してプロトン供与基が結合されたネットワーク構造を含む溶液を、基板上に塗布する工程と、
塗布後の基板に熱処理を行うことで、プロトン伝導膜を形成する工程、
とを有するプロトン伝導膜の製造方法。
【請求項9】
アリール基を有するポリシラン化合物を含む溶液を調製する工程と、
酸素を含む雰囲気下で、溶液に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたSi原子間を架橋するナフチル基を有するSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程と、
ネットワーク構造を含む溶液に、プロトン供与基含有化合物を添加することで、ネットワーク構造中のナフチル基にプロトン供与基を結合させる工程と、
ナフチル基を介してプロトン供与基が結合されたネットワーク構造を含む溶液を、基板上に塗布する工程と、
塗布後の基板に熱処理を行うことで、プロトン伝導膜を形成する工程、
とを有するプロトン伝導膜の製造方法。
【請求項10】
少なくとも一方がアリール基を有するポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物とを含む溶液を調製する工程と、
基板上に溶液を塗布する工程と、
酸素を含む雰囲気下で、塗布後の基板に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたアリーレン基を有し、アリーレン基にプロトン供与基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程と、
光照射後の基板に熱処理を行うことで、プロトン伝導膜を形成する工程、
とを有するプロトン伝導膜の製造方法。
【請求項11】
少なくとも一方がアリール基を有するポリシラン化合物とプロトン供与基含有化合物とを含む溶液を調製する工程と、
基板上に溶液を塗布する工程と、
酸素を含む雰囲気下で、塗布後の基板に光照射を行うことで、光重合により、Si原子に結合されたナフチル基を有し、ナフチル基にプロトン供与基が結合されたSi−O結合のネットワーク構造を生成させる工程と、
光照射後の基板に熱処理を行うことで、プロトン伝導膜を形成する工程、
とを有するプロトン伝導膜の製造方法。
【請求項12】
カソードとアノードとの間にSi−O結合のネットワーク構造を有し、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のプロトン伝導膜から成る電解質層を挟持して成る燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−23047(P2012−23047A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192956(P2011−192956)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【分割の表示】特願2007−105706(P2007−105706)の分割
【原出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】