説明

プロトン電導性ポリマー組成物

【課題】芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーを含有した組成物を使用して作製した電極を、非フッ素系のプロトン伝導性電解質膜と接合することで、長期に渡って良好な接合性を得ることを目的とする。
【解決手段】芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーが含有され、かつニュートン粘性を示す組成物を使用して作製した電極と、非フッ素系のプロトン伝導性ポリマー膜の接合体とすることで、電極と電解質膜間の接合性不良の問題を改善でき、その結果、燃料電池の信頼性を向上することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーが含有された組成物に関するものであり、特に燃料電池に利用できる組成物である。
【背景技術】
【0002】
液体電解質のかわりに高分子固体電解質をイオン伝導体として用いる電気化学的装置の例として、高分子電解質型燃料電池や水電解槽を挙げることができる。また高分子電解質型燃料電池には、水素ガスを燃料として使用するタイプの燃料電池と、メタノールに代表されるような炭化水素系燃料と水の混合溶液を燃料として使用するタイプの燃料電池がある。構成としては、プロトン伝導性を有する電解質膜を一対の電極で挟み込んだ電極・電解質膜接合体により、片側の電極で酸化反応、もう一方の電極で還元反応を起こし、電池、あるいは水電解槽として作動させている。
【0003】
これらに用いられる高分子膜は、カチオン交換膜としてプロトン伝導性とともに化学的、熱的、電気化学的および力学的に十分安定なものでなくてはならない。このため、長期にわたり使用できるものとしては、主に米デュポン社製の「ナフィオン(登録商標)」を代表例とするパーフルオロカーボンスルホン酸膜(フッ素系プロトン伝導性ポリマー)が使用されてきた。しかしながら、ナフィオン膜は100℃を越える条件で運転しようとすると、膜の含水率が急激に落ちるほか、膜の軟化も顕著となる。このため使用温度が制限されるといった問題がある。また、メタノール等の液体燃料を燃料とするタイプの燃料電池にフッ素系プロトン伝導性ポリマー膜を使用すると、膜をメタノールが透過して性能を低下させる現象が顕著であり、問題視されている。さらには、膜が高価なため、実用化の障害として指摘されている。
【0004】
このような欠点を克服するため、フッ素系プロトン伝導性ポリマーに替えて、芳香族炭化水素系ポリマーにスルホン酸基やホスホン酸基などのプロトン伝導性官能基を導入した非フッ素系のプロトン伝導性ポリマーからなる高分子電解質膜が種々検討されている。ポリマー骨格としては、耐熱性や化学的安定性を考慮すると、芳香族ポリアリーレン類や、芳香族ポリアリーレンエーテルケトン類や芳香族ポリアリーレンエーテルスルホン類などの、芳香族系化合物を有望な構造としてとらえることができ、ポリアリールエーテルスルホンをスルホン化したもの(例えば、非特許文献1、特許文献1を参照。)、ポリエーテルエーテルケトンをスルホン化したもの(例えば、特許文献2参照。)、等が報告されている。
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/0091225号明細書
【特許文献2】特開平6−93114号公報
【非特許文献1】ジャーナル・オブ・メンブラン・サイエンス(Journal of Membrane Science)、(オランダ)1993年、83巻、P.211−220
【0006】
また、非フッ素系のプロトン伝導性ポリマーからなる電解質膜を用いて、電極・電解質膜接合体を作製する方法が検討されている。フッ素系プロトン伝導性ポリマーとは違った性質があるため、フッ素系プロトン伝導性ポリマーで一般に行われる電極を電解質膜に熱転写する手法以外に、例えば特開2003−317750号公報、特開2004−55522号公報、特開2003−249244号公報には、燃料電池用の電極(金属触媒とフッ素系プロトン伝導性ポリマーが含有される)の上に、非フッ素系のプロトン伝導性ポリマー溶液を塗布・乾燥させることで電極・電解質膜接合体を形成させる方法などが示されており、さらには、そのような形成方法に適したポリマー溶液や分散液の検討も行われている(特開2003−317749号公報)。
【0007】
しかしながら、いずれの手法で電極・電解質膜接合体を作製するにせよ、非フッ素系のプロトン伝導性ポリマーからなる電解質膜を使用しても、電極中に介在させるプロトン伝導性ポリマーにはフッ素系のプロトン伝導性ポリマーを使用するのが一般的であり、中長期的に見た場合、ポリマー間の接合性に問題がでてくることが報告されている(205th Electrochemical Society Meeting Abs No.334)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーが含有され、かつニュートン粘性を示す組成物を提供することにある。本発明の組成物を使用して作製した電極を、非フッ素系のプロトン伝導性電解質膜と接合することで、長期に渡って良好な接合性が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服するために、本発明は、芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーと水と有機溶媒からなる組成物であって、ポリマーの含有量が1〜30重量%の範囲で含まれており、かつニュートン粘性を示すことを特徴とする組成物を提供する。
【0010】
また、前記の組成物において、有機溶媒は、アルコール類、エーテル類、ケトン類、ニトリル類から選ばれ、かつ水と有機溶媒の混合溶媒に占める水の割合が、1〜20重量%(残りは有機溶媒)の範囲にあることを特徴とする組成物である。
【0011】
また、プロトン伝導性ポリマーとして、一般式(1)で示される構成成分を含むことを特徴とする前記組成物である。
【化5】

ただし、Arは2価の芳香族基、Yはスルホン基またはケトン基、XはHおよび/または1価のカチオン種、Zは芳香環をつなぐ結合様式である。
【0012】
また、プロトン伝導性ポリマーとして、一般式(1)の構造とともに一般式(2)で示される構成成分を含むことを特徴とする組成物である。
【化6】

ただし、Ar'は2価の芳香族基、Zは芳香環をつなぐ結合様式である。
【0013】
また、プロトン伝導性ポリマーとして、一般式(3)とともに一般式(4)で示される構成成分を含むことを特徴とする組成物である。
【化7】

ただし、Arは2価の芳香族基、Yはスルホン基またはケトン基、XはHまたは1価のカチオン種を示す。
【化8】

ただし、Ar'は2価の芳香族基を示す。
【0014】
また、少なくともプロトン伝導性ポリマーに水を加えた後、有機溶媒を加えて混合する工程を持つことを特徴とする、前記組成物の製造方法である。
【0015】
また前記範囲の組成物を含む燃料電池の電極の、触媒層作製用触媒インクである。
【0016】
また前記触媒インクを用いて作製した電極を少なくとも使用し、かつ非フッ素系のプロトン伝導性電解質膜と積層してなることを特徴とする電極・電解質膜接合体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーを含有する組成物は、燃料電池用の触媒等と混合することで触媒インクを調整できる。また本発明の触媒インクを使用して作製した電極を非フッ素系プロトン伝導性電解質膜と積層した電極・電解質膜接合体は、良好な接合性を保つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。まず、本発明における芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーについて述べる。本発明における芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーは、ポリマー主鎖に芳香族あるいは芳香環とエーテル結合、スルホン結合、イミド結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、カーボネート結合およびケトン結合から選択される少なくとも1種以上の結合基を有する構造を持つ非フッ素系のプロトン伝導性ポリマーであり、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリフェニルキノキサリン、ポリアリールケトン、ポリエーテルケトン、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリイミド等の構成成分の少なくとも1種を含むポリマーに、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、およびそれらの誘導体の少なくとも1種が導入されているポリマーが挙げられる。なお、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボシキル基などの官能基をポリマーに含むことで、ポリマーのプロトン伝導性が発現される。この中で特に有効に作用する官能基は、スルホン酸基である。また、ここでいうポリスルホン、ポエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むとともに、特定のポリマー構造に限定するものではない。
【0019】
上記官能基を含有するポリマーのうち、特に芳香環上にスルホン酸基を持つポリマーは、上記例のような骨格を持つポリマーに対して適当なスルホン化剤を反応させることにより得ることができる。このようなスルホン化剤としては、例えば、芳香族系炭化水素系ポリマーにスルホン酸基を導入する例として報告されている、濃硫酸や発煙硫酸を使用するもの(例えば、Solid State Ionics,106,P.219(1998))、クロル硫酸を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.295(1984))、無水硫酸錯体を使用するもの(例えば、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,22,P.721(1984)、J.Polym.Sci.,Polym.Chem.,23,P.1231(1985))等が有効である。本発明のプロトン伝導性ポリマー、特にプロトン伝導性がスルホン酸基によって発現されるポリマーを得るためには、これらの試薬を用い、それぞれのポリマーに応じた反応条件を選定することにより実施することができる。また、特許第2884189号に記載のスルホン化剤等を用いることも可能である。
【0020】
また、上記芳香族炭化水素系プロトン伝導性ポリマーは、重合に用いるモノマーの中の少なくとも1種に酸性基を含むモノマーを用いて合成することもできる。例えば、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物から合成されるポリイミドにおいては、芳香族ジアミンの少なくとも1種にスルホン酸基含有ジアミンを用いて酸性基含有ポリイミドとすることが出来る。芳香族ジアミンジオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズオキサゾール、芳香族ジアミンジチオールと芳香族ジカルボン酸から合成されるポリベンズチアゾールの場合は、芳香族ジカルボン酸の少なくとも1種にスルホン酸基含有ジカルボン酸やホスホン酸基含有ジカルボン酸を使用することにより酸性基含有ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾールとすることが出来る。芳香族ジハライドと芳香族ジオールから合成されるポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトンなどは、モノマーの少なくとも1種にスルホン酸基含有芳香族ジハライドやスルホン酸基含有芳香族ジオールを用いることで合成することが出来る。この際、スルホン酸基含有ジオールを用いるよりも、スルホン酸基含有ジハライドを用いる方が、重合度が高くなりやすいとともに、得られた酸性基含有ポリマーの熱安定性が高くなるので好ましいと言える。
【0021】
本発明における芳香族炭化水素系プロトン伝導性ポリマーは、スルホン酸基含有ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリエーテルケトン系ポリマーなどのポリアリーレンエーテル系化合物、ポリアリーレン系化合物であることがより好ましい。
【0022】
さらに、下記一般式(1)で示される構成成分を含むものポリマーが特に好ましい。
【0023】
【化9】

ただし、Arは2価の芳香族基、Yはスルホン基またはケトン基、XはHおよび/または1価のカチオン種、Zは芳香環をつなぐ結合様式より選択されるが、直接結合、エーテル結合または/およびチオエーテル結合(OまたはS)が好ましい。
【0024】
さらに下記一般式(2)の構成成分を含む方が好ましい。
【化10】

ただし、Ar'は2価の芳香族基、Zは芳香環をつなぐ結合様式より選択されるが、直接結合、エーテル結合または/およびチオエーテル結合(OまたはS)が好ましい。
【0025】
よって、プロトン伝導性ポリマーとして、一般式(3)とともに一般式(4)で示される構成成分を含むことはより好ましい。
【化11】

ただし、Arは2価の芳香族基、Yはスルホン基またはケトン基、XはHまたは1価のカチオン種を示す。
【化12】

ただし、Ar'は2価の芳香族基を示す。
【0026】
また、上記のスルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物においては上記一般式で示される以外の構造単位が含まれていてもかまわない。このとき、上記一般式で示される以外の構造単位は本発明のスルホン酸を導入したポリアリーレンエーテルの50重量%以下であることが好ましい。50重量%以下とすることにより、スルホン酸基含有ポリアリーレンエーテル系化合物の特性を活かした組成物とすることができる。
【0027】
スルホン酸基含有化合物としては、スルホン酸基含有量が0.3〜3.5meq/gの範囲にあることが好ましい。0.3meq/gよりも少ない場合には、十分なプロトン伝導性を示さない傾向があり、3.5meq/gよりも大きい場合にはポリマーの膨潤が大きくなりすぎて使用に適さなくなる傾向がある。なお、スルホン酸基含有量はポリマー組成より計算することができる。より好ましくは1.0〜3.0meq/gである。
【0028】
本発明のスルホン酸基含有化合物は、下記一般式(5)および一般式(6)で表される化合物をモノマーとして含む芳香族求核置換反応により重合することができる。一般式(5)で表される化合物の具体例としては、3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、3,3'−ジスルホ−4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルケトン、3,3'−ジスルホ−4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、およびそれらのスルホン酸基が1価あるいは多価のカチオン種との塩になったもの等が挙げられる。1価カチオン種としては、ナトリウム、カリウムや他の金属種や各種アミン類等でも良く、これらに制限される訳ではない。一般式(6)で表される化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、等を挙げることができる。
【0029】
【化13】

【化14】

ただし、Yはスルホン基またはケトン基、Xは1価のカチオン種、Wは塩素またはフッ素を示す。本発明において、上記2,6−ジクロロベンゾニトリルおよび2,4−ジクロロベンゾニトリルは、異性体の関係にあり、いずれを用いたとしても良好な特性を得ることができる。その理由としては両モノマーとも反応性に優れるとともに、小さな繰り返し単位を構成することで分子全体の構造をより安定なものとしていると考えられる。また極性を有しているため静電的作用により構造をより安定化としていると考えられる。
【0030】
上述の芳香族求核置換反応において、上記一般式(5)、(6)で表される化合物とともに各種活性化ジフルオロ芳香族化合物やジクロロ芳香族化合物をモノマーとして併用することもできる。これらの化合物例としては、4,4'−ジクロロジフェニルスルホン、4,4'−ジフルオロジフェニルスルホン、4,4'−ジフルオロベンゾフェノン、4,4'−ジクロロベンゾフェノン、デカフルオロビフェニル等が挙げられるがこれらに制限されることなく、芳香族求核置換反応に活性のある他の芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジニトロ化合物、芳香族ジシアノ化合物なども使用することができる。
【0031】
また、上述の一般式(1)や(3)で表される構成成分中のArおよび上述の一般式(2)や(4)で表される構成成分中のAr'は、一般には芳香族求核置換重合において上述の一般式(5)、(6)で表される化合物とともに使用される芳香族ジオール成分モノマーより例えば導入される構造である。このような芳香族ジオールモノマーの例としては、4,4'−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ハイドロキノン、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、1,6−ジヒドロキシナフタレン、1,7−ジヒドロキシナフタレン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、4,4'−チオビスベンゼンチオール、1,4−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、4,4'−ビフェニルジチオール等があげられるが、この他にも例えば芳香族求核置換反応によるポリアリーレンエーテル系化合物の重合に用いることができる各種芳香族ジオールを使用することもできる。これら芳香族ジオールは、単独で使用することができるが、複数の芳香族ジオールを併用することも可能である。
【0032】
本発明のスルホン酸基含有化合物を芳香族求核置換反応により重合する場合、上記一般式(5)および一般式(6)で表せる化合物を含む活性化ジフルオロ芳香族化合物及び/またはジクロロ芳香族化合物と芳香族ジオール類を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水材を使用することもできる。芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。
【0033】
本発明の芳香族炭化水素系プロトン伝導性ポリマーは、芳香族あるいは芳香環を有するプロトン伝導性ポリマーであることから、重合直後は、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン、スルホランなどの成分を含む溶媒に溶解した形で得られる。そのため、本発明の組成物を得るための方法としては、重合時の溶媒を置換する必要がある。例えば固形のプロトン伝導性ポリマーを得てから、本発明の組成物に適した溶媒に含有させる方法を取ることができる。
【0034】
重合時の溶媒を取り除く手法としては、重合反応終了後に、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄する方法がある。また反応溶液を、プロトン伝導性ポリマーの溶解度が低い溶媒中に加えることによって、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。後者の方法により、たとえば水中に沈殿させる場合、重合反応時に生成する塩を水に溶解除去できるので、プロトン伝導性ポリマーを精製する上では良好な手法である。また残留物の除去方法としては、洗浄操作のほか、濾過で除去することもできる。
【0035】
得られたプロトン伝導性ポリマーは、例えばスルホン酸塩のような、塩の形で水と一種類の有機溶媒からなる混合溶液に含有させることも可能であるし、一度ポリマーを硫酸水溶液や塩酸水溶液のような酸性溶媒中で処理することによって、酸の形に変換したのち含有させることも可能である。酸型に変換する場合、過剰量の酸で処理することが一般的であるので、ポリマーが過剰な酸を含む可能性がある。そのため酸型に変換した後、水洗を繰り返すなどして、過剰な酸成分は除去することが望ましい。この際、洗浄に用いる水に塩が含まれていると酸型の官能基が塩型に変換される可能性があるので、少なくともイオン交換水のようなイオンを取り除く処理を行った水を使用することが好ましい。
【0036】
また、水と一種類の有機溶媒の混合溶液に芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーを含有させた組成物としては、沈殿などの分離が無い状態になるよう均一に含有させることが好まれる。そのための手法としては、プロトン伝導性ポリマーに水を加えて一旦膨潤させた後、有機溶媒を加えると共に、撹拌などに代表される物理的手法で混合したり、加熱する方法が好ましい。芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーに、予め調整した水と一種類の有機溶媒の混合溶液を添加することによっても芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーが含有した組成物を作製することは可能であるが、均一化させる際、本発明の製造方法に比較して時間かかるので、生産性を考慮した場合望ましくない。また未溶解の状態で残る場合がある。なお本発明の組成物を製造する際、特に水の添加量が少ない場合は、ポリマー量に比べて水の量が少なく、一部のポリマーのみが水を含む状態となるため、次いで有機溶媒を添加した際に、均一化するのにかかる時間が長くなる傾向がある。そのため、なるべく水分を均等に行き渡らせてから有機溶媒を加える手法が好ましい。この傾向はポリマー量が多くなればなるほど顕著となる。水分を均等に行き渡らせる手法としては、撹拌などの物理的手法を取ることが有効であり、また加熱するといった熱的手法を取ることも有効である。また密閉された環境下に静置し、自然に水分が行き渡ることを待つこともできる。またこれらの手法を併用しても良い。なお本発明の組成物を調整する際に使用する芳香族炭化水素系ポリマーとしては、大きなブロック状のものよりも、細かな粉末のように、見かけの表面積が大きいものの方が、水分が行き渡りやすく、良好に取り扱うことができる。一方、溶媒として使用する水や有機溶媒においては、触媒を被毒するような不純物が含まれないように、純度には注意を払う必要がある。ポリマーの重合時に使用する溶媒がポリマー中に残留する可能性もある。重合時の溶媒が燃料電池の性能に悪影響を与える可能性があるので、できるだけ取り除くことが好ましく、ポリマー重量に対して、最適には0重量%、あるいはその近くまで取り除くことが好ましい。例えばプロトン伝導性ポリマーを水と有機溶媒の混合溶液には分散させず、重合溶媒に溶解させた形の組成物を作製し、燃料電池の電極を作製する時に使用すると、本発明による組成物を使用して作製した電極を用いた場合よりも性能が低下するという結果も認められている。
【0037】
本発明の組成物において、芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーの組成物中での構造は、溶解(均一に広がった状態)あるいは分散(ポリマーを含む部分と溶媒のみから構成される部分が別々に存在)するか、その中間状態にあるものと考えられる。水と有機溶媒の種類や量の組み合わせにより、組成物中での構造は変化すると考えられる。混合溶媒へ含有させる時の挙動を考えた場合、芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーを水で膨潤させた後、有機溶媒を加える手法により溶解・分散が促進されることから、混合溶媒中で芳香族炭化水素系プロトン伝導性ポリマーが分散した構造を取る場合は、主として水により膨潤したミセル構造を持ち、そのミセルが有機溶媒中に分散した形を取るものと推定している。また有機溶媒の特性により、有機溶媒とポリマー・水との相溶性が高くなるにつれ、溶解状態に近づくものと推定している。
【0038】
本発明の組成物における有機溶媒の種類としては、アルコール類、エーテル類、ケトン類から選択される有機溶媒から構成されることが好ましい(微量に含有される不純物は除く。)。なお触媒への被毒性や触媒インクとしての取り扱い性などを考慮すると、炭素数が6以下から構成される溶媒が好ましく、アルコール系溶媒としては、特にエタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトシキエタノールなどは好適に使用できる。またエーテル系溶媒としては、エチルメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、メチラール、などは好適に使用できる。またケトン系溶媒としては、アセトン、ジエチルケトンなどが選択可能であり、ニトリル系溶媒としては、アセトニトリルなどが挙げられる。中でも特に、ケトン類またはエーテル類から選択される有機溶媒が好ましい。また溶媒の除去速度を考慮に入れると沸点は水以下である溶媒がより好ましく、蒸気圧もより高い方が簡便であり好ましい。
【0039】
また上記の水と有機溶媒との混合溶媒に占める水の割合としては、1〜20重量%(残りは有機溶媒)の範囲にあることが好ましく、より組成物の取り扱い性を良くするためには、水が1〜15重量%の範囲にあることが好まれ、さらに良好には、水が1〜10重量%の範囲にあることが望ましい。本発明の組成物においては、組成物の粘性をコントロールすることが重要である。この際、混合溶媒に占める水分量が多く、20重量%を超えると、特に比較的高濃度のプロトン伝導性ポリマーが含有された組成物を得る場合や、有機溶媒の水・ポリマーに対する相溶性が高い場合、組成物が構造粘性(せん断をかけると粘性が大きく低下する現象)のような非ニュートン粘性を示す。例えば構造粘性を示す場合、静的な粘度は高いが、使用上でせん断がかかると粘度が急激に低下する現象が起こるので、取り扱いにくい組成物となってしまう。またその傾向は、本発明の組成物に、触媒を加えて、燃料電池の触媒用インクとした際も同様の問題として残ってしまう。また水分の割合が増加すると溶媒を取り除くために必要なエネルギーが増し、かつ時間がかかるため工程が長くなるので好ましくない。一方、水の割合が1重量%に満たない場合、プロトン伝導性ポリマーが固体状態で残るため、均質な組成物を得ることができない。その傾向も比較的高濃度のプロトン伝導性ポリマーの分散体を得る場合に問題となりやすい。ただし、このケースでは、有機溶媒の水ポリマーに対する相溶性が高い場合は、比較的均質な組成物を得ることができる。しかしながら、水が溶媒中に少ないと、触媒と混合するとき発火しやすくなるという問題も有する。
【0040】
プロトン伝導性ポリマーの濃度としては、1〜30重量%程度にあることが好ましい。プロトン伝導性ポリマーの濃度が1%に満たない場合、組成物に占めるポリマー量が少なく、触媒インクを作製する時に有効的では無く、逆に30重量%を超えるものは、本発明の手法によっても非ニュートン粘性を示すので、取り扱いが困難である。組成物として、取り扱いの容易なニュートン粘性(せん断をかけた時の粘度変化が小さい)を示す適正な組成比で水分量、有機溶媒の種類、を選択することが特に重要である。プロトン伝導性ポリマーの濃度としては2〜20重量%の範囲である場合、特に良好に取り扱うことができる。なお本発明で定義するニュートン粘性とは、E型粘度計で測定し際の周波数2〜15(1/秒)の範囲で少なくとも粘度の差が15%以内にあることとし、そのような粘性を示す範囲で適正化することがポイントである。
【0041】
さらに本発明の組成物においては、酸化防止剤を含んでいてもよく、燃料電池とした際の耐久性を向上することが可能である。なお酸化防止剤の種類や量に関しては、特に限定されるものではないが、ポリマーとの親和性の観点から、芳香族系の構造を分子内に含む酸化防止剤、例えばヒンダードフェノール系の酸化防止剤やヒンダードアミン系の酸化防止剤が良好に使用できる。またプロトン伝導性ポリマーに対して0.01〜10重量%の範囲で混在させた場合に特に良好であり、0.01重量%よりも少ないと酸化を防止する効果は少なく、一方10重量%よりも多いと、ポリマーに対する割合が高くなり、燃料電池用の電極を作製する際、ひび割れが起こりやすくなってしまう。酸化防止剤の別の例としては、P2003−201403号公報等に記載の酸化防止剤なども挙げられる。なお、本発明の組成物は、必要に応じて、酸化防止剤以外にも、例えば、熱安定剤、架橋剤、静電気防止剤、消泡剤、重合禁止剤や、シリカ粒子やアルミナ粒子やチタニア粒子やホスホタングステン酸粒子などの無機化合物、無機―有機のハイブリッド化合物などの各種添加剤を含んでいても良い。
【0042】
本発明の組成物を用いて、燃料電池の電極を作製する際に使用する触媒インクを作製することができる。触媒インクの調整方法としては特に制限されるものではなく公知の技術を使用することができる。触媒インクに使用する触媒としては、耐酸性と触媒活性の観点から適宜選出できるが、白金族系金属およびこれらの合金や酸化物が特に好ましい。例えばカソード用電極への応用を考える場合には白金または白金系合金,アノード電極への応用を考える場合には白金または白金系合金や白金とルテニウムの合金を使用すると高効率発電に適している。これらの触媒微粒子は活性炭や黒鉛などの粒子状または繊維状のカーボンに担持されているものを用いるのが好ましい。カーボンナノチューブやカーボンナノホーンなどのナノカーボン材料に担持されていても良好に使用することができる。このように適宜選択される触媒と本発明の組成物を混合することにより、触媒インクを作製することができる。この際、触媒と組成物の混合インクを作製したのち、一度溶媒をとばして触媒表面をプロトン伝導性ポリマーが覆った触媒粒子を作ったのち、再度溶媒に溶解させた触媒インクとすることも可能である。組成物に占める水の量が特に少ない場合、触媒の種類によっては、発火する可能性もあるので、あらかじめ触媒に微量の水分を含有させておき、その後、本発明の組成物を添加することも有効である。触媒と本発明の組成物以外の成分を含んでいても良い。また、このようにして調整される触媒インクを乾燥させて得られる触媒層(電極)をプロトン伝導性の電解質膜上に形成させることで、燃料電池や水電解槽に使用可能な電極・電解質膜接合体を作製することができる。この際、触媒層の外側には、集電体および燃料を効果的に輸送させる役割を持つ、多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーが存在することが好ましい。電解質膜の種類としては、本発明における芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーで示した構造を持つ、すなわちポリマーの主鎖が、芳香族のみ、あるいは芳香環とエーテル結合、スルホン結合、イミド結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、スルフィド結合、カーボネート結合およびケトン結合から選択される少なくとも1種以上の結合基を有するプロトン伝導性ポリマーから作製される電解質膜が好ましい。フッ素系プロトン電解質膜を使用する場合は、特性の違いにより、電極・電解質膜の界面が剥離しやすくなってしまう。本発明の組成物を用いて作製した電極は、触媒被毒性を有さず、かつ上記に示すような最近注目を集める芳香族系あるいは芳香環を有するプロトン伝導膜に対して良好な接着性を有する点において特に優れている。電極・電解質膜接合体としては、膜―電極間に大きな抵抗が生じないようにすることが重要であり、また機械的な力によって剥離や電極触媒の剥落が生じないようにすることが重要である。この接合体の作製方法としては、例えば本発明の触媒インクをカーボンペーパー上に均一に塗布、乾燥させた後、電解質膜に熱圧着する手法や、カーボンペーパーの替わりに各種のフィルム上に触媒層を形成後、電解質膜に熱転写し、さらに多孔質性のカーボン層と重ね合わせるという手法を取ることができる。熱圧着または熱転写する際、電解質膜および/または電極層の水分量をコントロールした条件下で行うと、より良好な電極・電解質膜接合体とすることができる。また適宜、触媒層内に疎水性の物質や発泡剤を添加したり、電解質膜上に触媒層を形成した後、表面の疎水化処理を行うことで、触媒層のガス拡散性を向上するという手法を取ることも、良好な電極・電解質膜接合体を作製する手法の一つである。また熱圧着や熱転写の条件は特に制限されるものではなく例えば110℃〜250℃の範囲で行うことが可能である。また特に120℃〜200℃の間が好ましい。また本発明の電極・電解質膜接合体を用いて、燃料電池を作製することもでき、作製した燃料電池は、長期にわたって良好な性能・接合性を持続する点で特に優れている。
【実施例】
【0043】
以下本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、各種測定は次のように行った。
【0044】
<組成物の粘度>
E型粘度計を用いて、30℃において粘度を測定した。周波数(1/s)と粘度(Pa・s)の挙動を調査した。
【0045】
<発電特性>
電極・電解質膜接合体を自社製の燃料電池評価用セルに組み込み、NF回路設計ブロック社性燃料電池評価装置を使用し、セル温度40℃で、アノード側の燃料に5モル/リットルのメタノール水溶液(特級メタノールと超純水から調整)、カソード側には空気を、それぞれ供給しながら、5時間発電することでエージングを行った。次いで開回路電圧(V)および100mA/cm2で定電流放電試験を行った時の電圧(V)と電流遮断法により求まる抵抗(mΩ・cm2)を調べることで初期性能を評価した。また100mA/cm2で300時間定電流連続放電試験を実施し、電流遮断法により抵抗値(mΩ・cm2)の経時変化を調査した。電極と電解質膜接合体における抵抗値が増加する場合、電極と電解質膜の間の接合性が低下したことを示す。発電後の外観からも接合状態を確認した。
【0046】
実施例1
(プロトン伝導性ポリマーの作製)
3,3'−ジスルホ−4,4'−ジクロロジフェニルスルホン2ナトリウム塩(略号:S−DCDPS)、2,6−ジクロロベンゾニトリル(略号:DCBN)、4,4'−ビフェノール、炭酸カリウム、のモル比で1.00:1.31:2.31:2.48の混合物15gをモレキュラーシーブ2.65gと共に100ml四つ口フラスコに計り取り、窒素を流した。40mlのNMPを入れて、145℃で2時間撹拌した後、反応温度を190−200℃に上昇させて系の粘性が十分上がるのを目安に反応を続けた(約7時間)。放冷の後、沈降しているモレキュラーシーブを除いて、水中にストランド状に沈殿させた。得られたポリマーは、沸騰水中で1時間洗浄する操作を2回繰り返した。次いで1mol/リットルの塩酸水溶液1リットルに一晩撹拌しながら浸積してから、再び沸騰水中で1時間洗浄する操作を2回繰り返した後、減圧乾燥し、芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーを得た。
(組成物の作製)
次いで乾燥状態にあるポリマー2gにイオン交換水2.66gを加え、ハイブリッドミキサー(キーエンス)で5分間撹拌し、水分を均一に行き渡らせた。次いでイソプロパノールを35.34g加えた。さらに60℃のウォーターバス中で均一になるまで撹拌することにより、実施例1の組成物を得た。組成物に含まれるプロトン伝導性ポリマーは、5重量%である。また、水と有機溶媒の混合溶媒に占める水の割合は7重量%である。
(触媒インクの作製)
市販の40%白金担持カーボン触媒、または54%白金/ルテニウム担持カーボン触媒(田中貴金属工業株式会社)に組成物を加え、均一になるまで撹拌することで燃料電池用の触媒インクを得た。なお触媒担持カーボンと組成物中に含まれるプロトン伝導性ポリマーの重量比は1:0.28となるように調整した。
(電極の作製)
触媒インクを市販のカーボンペーパー(E−Tek)に塗布・乾燥することで燃料電池用の電極を作製した。このとき白金/ルテニウム担持カーボン触媒を含む触媒インクを用いて作製した電極をアノード電極、白金担持カーボン触媒を含む触媒インクを用いて作製した電極をカソード電極とする。またアノード電極用のカーボンペーパーには親水性のカーボンパーパー、カソード電極用のカーボンペーパーは疎水化処理したカーボンペーパーを用いた。
(電解質膜の作製)
上記ののプロトン伝導性ポリマーをNMPに溶解し(25%)、ホットプレート上のガラス板に流延法によりキャストし、フィルム状になるまでNMPを留去した後、水中に一晩浸積した。さらに超純水を用いて1時間洗浄する操作を5回繰り返した。その後枠にはめて室温で乾燥することで非フッ素系のプロトン伝導性電解質膜を得た。
(電極・電解質膜接合体の作製)
上記の電解質膜を20℃湿度80RH%の雰囲気下で水分と平衡させた後、同環境下において、前記2種類の電極で挟み込んだ(アノード電極およびカソード電極。触媒インク塗布面が電解質膜に接するように配置する。)。この電極と電解質膜の積層体を、ガスケットと共に2枚のステンレスプレートに挟んだ。次いで、130℃、加圧下でホットプレスして電極と電解質膜を接合した。ステンレスプレートで挟まれた状態のまま取り出し、室温になるまで自然冷却することによって、電極・電解質膜接合体を得た。
【0047】
実施例2
乾燥状態にある実施例1のプロトン伝導性ポリマー2gに超純水0.63gを加え、ハイブリッドミキサー(キーエンス)で5分間撹拌し、水分を均等に行き渡らせた。次いでアセトンを7.35g加えた。室温で激しく撹拌することにより、実施例2の組成物を得た。組成物に含まれるプロトン伝導性ポリマーは20重量%である。また水と有機溶媒の混合溶媒に占める水の割合は8重量%である。
【0048】
実施例3
乾燥状態にある実施例1のプロトン伝導性ポリマー2gに超純水1.27gを加え、ハイブリッドミキサー(キーエンス)で5分間撹拌し、水分を均等に行き渡らせた。次いでエチレングリコールジメチルエーテルを7.37g加えた。室温で激しく撹拌することにより、実施例3の組成物を得た。組成物に含まれるプロトン伝導性ポリマーは19重量%である。また水と有機溶媒の混合溶媒に占める水の割合は15重量%である。
【0049】
比較例1
乾燥状態にある実施例1のプロトン伝導性ポリマー2gにイオン交換水11.4gを加え、ハイブリッドミキサー(キーエンス)で5分間撹拌し、水分を均等に行き渡らせた。次いでイソプロパノールを26.6g加えた。60℃で撹拌することにより、比較例1の組成物を得た。組成物に含まれるプロトン伝導性ポリマーは5重量%である。また水と有機溶媒の混合溶媒に占める水の割合は30重量%である。
【0050】
比較例2
乾燥状態にある実施例1のプロトン伝導性ポリマー2gに水は加えず、イソプロパノールを38g加えた。60℃で撹拌を続けたが、プロトン伝導性ポリマーが均一に混ざらず、良好な組成物を作ることができなかった。
【0051】
比較例3
実施例1において触媒インクを作製する際、5重量%芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーが含有された組成物に代えて、市販のナフィオン5重量%溶液を用いたことを除いて、実施例1の手法で比較例3の触媒インク、電極、電極・電解質膜接合体を作製した。
【0052】
実施例1、2、3、比較例1、の組成物の粘度を評価した結果を図1に示す。
【0053】
実施例の組成物は、粘度が低周波数領域において一定であり、ニュートン粘性を示す取り扱いに優れるものであった、一方、比較例の組成物は、非ニュートン粘性を占めしており、粘度が定周波数領域で著しく変化するため取り扱いが困難な組成物であった。取り扱い性が困難なため比較例1の組成物では、良好な電極を作製できなかった。
【0054】
実施例1および比較例3の電極・電解質膜接合体を用いて発電性能を評価した結果を表1に示す。初期性能には両者の間で大きな差はなかったが、300時間連続発電後において、比較例3の電極・電解質膜接合体を用いた燃料電池の抵抗値が著しく増加した。この段階で発電を中止し、セルを分解した所、比較例3の電極・電解質膜接合体において、電極の剥離が観察された。その影響はアノード側で大きかった。一方実施例の電極・電解質膜接合体では目立った変化は無く、300時間発電した後も良好な接合性を維持していた。よって、本発明の組成物を用いて作製した触媒インクを含む電極と、非フッ素系のプロトン伝導性ポリマーからなる電解質膜の接合体は、良好な接合性を示した。なお、実施例で示した発電性能は、一例として炭化水素系燃料を使用するタイプの燃料電池に関するものを示したが、水素等を燃料とするタイプの燃料電池においても同様に利用することができる。
【0055】
【表1】

【0056】
また、直径0.5mmからなる高純度白金線電極表面を、実施例3および比較例3の組成物で被覆したポリマー被覆電極を作製し、その電極を作用極、対極には作用曲よりも数倍表面積の大きな白金メッシュ電極、参照極に市販の水銀/硫化水銀参照極を用い、高純度酸素ガスで飽和させた0.5mol/lの硫酸水溶液(市販の純度99.999%硫酸と超純水により調整)で、電位操作速度1mV/秒で、参照電極に対して+0.6V→−0.3V→+0.6V→−0.3Vと操作し電流を測定することで酸素還元反応を調べた。結果を図2に示す。比較例3の組成物は、現在広く使用されている組成物であり白金電極への被毒性は無いとされているものであるが、それに対して本発明の組成物は、同等あるいはより優れた電流の立ち上がりカーブを示した。この検討からも、本発明の組成物は燃料電池の触媒を被毒していないことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の組成物を使用して作製した電極と、非フッ素系のプロトン伝導性ポリマー膜の接合体は、電極と電解質膜間の接合性不良の問題を改善できる。そのため燃料電池に有用に使うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例及び比較例の組成物の、粘度評価結果。
【図2】電位操作による酸素還元反応の測定結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素系のプロトン伝導性ポリマーと、水と有機溶媒からなる混合溶剤からなる組成物であって、ポリマーの含有量が1〜30重量%であり、かつニュートン粘性を示すことを特徴とする組成物。
【請求項2】
有機溶媒が、アルコール類、エーテル類、ケトン類、ニトリル類から選ばれた1種類の有機溶剤であり、かつ水と有機溶媒からなる混合溶媒における水の割合が、1〜20重量%であることを特徴とする組成物。
【請求項3】
プロトン伝導性ポリマーとして、一般式(1)で示される構成成分を含むことを特徴とする請求項1乃至2のいずれかの範囲の組成物。
【化1】

ただし、Arは2価の芳香族基、Yはスルホン基またはケトン基、XはHおよび/または1価のカチオン種、Zは芳香環をつなぐ結合様式である。
【請求項4】
プロトン伝導性ポリマーとして、一般式(1)の構造とともに一般式(2)で示される構成成分を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの範囲の組成物。
【化2】

ただし、Ar'は2価の芳香族基、Zは芳香環をつなぐ結合様式である。
【請求項5】
プロトン伝導性ポリマーとして、一般式(3)とともに一般式(4)で示される構成成分を含むことを特徴とする請求項4の範囲の組成物。
【化3】

ただし、Arは2価の芳香族基、Yはスルホン基またはケトン基、XはHまたは1価のカチオン種を示す。
【化4】

ただし、Ar'は2価の芳香族基を示す。
【請求項6】
少なくともプロトン伝導性ポリマーに水を加えた後、有機溶媒を加えて混合する工程を持つことを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかの範囲の組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかの範囲の組成物を含む燃料電池の電極の、触媒層作製用触媒インク。
【請求項8】
請求項7の範囲の触媒インクを用いて作製した電極を少なくとも使用し、かつ非フッ素系のプロトン伝導性電解質膜と積層してなることを特徴とする電極・電解質膜接合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−63305(P2006−63305A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19357(P2005−19357)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】