説明

プロバイオテックスによる家畜家禽飼育法

【課題】家畜家禽は、飲料水あるいは飼料などが病原菌により汚染されると、感染したり発病したりするので、それを防止し、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防して、育成効果を増大せしめることができるプロバイオテックス(生菌利用)による家畜家禽飼育法の提供。
【解決手段】植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与するか、あるいは前記乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法により課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロバイオテックス(生菌利用)による家畜家禽飼育法に関するものであり、さらに詳しくは、豚、牛、馬、羊、山羊などの家畜または鶏、鴨、鶉、ダチョウなどの家禽などが、飼料、飲料水あるいは環境が病原菌により汚染されると、感染したり発病したりするので、飼料、飲料水あるいは環境が病原菌により汚染されるのを防止し、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防して、育成効果を増大せしめることができるプロバイオテックス(生菌利用)による家畜家禽飼育法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、家畜や家禽に対する抗生物質や消毒剤などの薬剤の投与による副作用、体内の有益菌までも殺してしまうために起こる免疫力の低下、耐性菌の出現、更に、家畜家禽を食肉として供する際に、家畜家禽の肉に残留する有害物質の人体への影響などが問題となっている。
【0003】
現在の家畜家禽経営による家畜家禽の健康被害は多く、例えば肥育豚での多類病の中でも豚増殖性腸炎(PPE・Lleis)に掛かり易いく、更に離乳後、多臓器性発育不良症候群(Postweaning multisystemic wasting Syndrome:PMWS)、更に何時も48種類の病気にかかるという宿命がある。特に家畜家禽の成育に重要な衛生環境改善が遅れている。
そのために、ワクチンの接注や抗菌剤の投与による飼育が行われている。しかし過密による飼育法がストレスを生じやすく、ストレスは発症の原因で、病気に掛かり易い飼育である。
また、温度、湿度ストレスも重要な課題である。夏冬の適切な温度管理に加えて、湿度低下による呼吸器管のストレス増加から免疫低下を招き、肺炎発症は死亡率上昇の大きな原因である。
【0004】
一方、本発明者は乳酸菌に属するラクトバチルスファーメンタムを用いて発酵飼料を作りその発酵飼料を加えることによって、抗生物質などの薬剤を投与することなく、家畜や家禽の健康を良好に維持することを提案している(特許文献1〜3参照)。また、同等の効果が、エンテロコッカス属、他のラクトバチリス属の乳酸発酵菌でも得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−124433号公報
【特許文献2】特開2005−198536号公報
【特許文献3】特開2008−295462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、豚、牛、馬、羊、山羊などの家畜、または鶏、鴨、鶉、ダチョウなどの家禽は、飼料、飲料水あるいは環境が病原菌により汚染されると、感染したり発病したりするので、飼料、飲料水あるいは環境が病原菌により汚染されるのを防止し、家畜家禽が感染したり、発病したりするのを予防して、育成効果を増大せしめることができるプロバイオテックス(生菌利用)による家畜家禽飼育法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の請求項1は、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法である。
【0008】
本発明の請求項2は、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法である。
【0009】
本発明の請求項3は、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与するとともに、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法である。
【0010】
本発明の請求項4は、請求項1あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法において、畜舎内に前記水性混合物を噴霧して四季折々に応じて湿度制御するとともに、前記畜舎の温度を四季折々に応じて制御することを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項5は、請求項1あるいは請求項3あるいは請求項4記載の家畜家禽飼育法において、前記水性混合物中の乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項6は、請求項2あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法において、前記固形性混合物中の乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項7は請求項5記載の家畜家禽飼育法において、前記水性混合物としてpHが3.7〜3.9である水性混合物を使用することを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項8は、請求項1あるいは請求項3あるいは請求項4記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を飲料水および/または噴霧水として使用する際には、水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×102 〜1.2×103 (個/ml)とすることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項9は、請求項1記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を液状の飼料として使用する際には、一般配合飼料および水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×105 〜1.2×106 (個/ml)とすることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項10は、請求項2あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)である固形性混合物を飼料として使用する際には、一般配合飼料および水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×105 〜1.2×106 (個/g)とすることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項11は、請求項5あるいは請求項6記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌パウダーを1〜10質量%、大豆脱脂粉末を40〜60質量%、麸を10〜30質量%、米糠を5〜20質量%配合し、さらに水分を配合して調製した、乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を使用するか、あるいは乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)である固形性混合物を使用することを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項12は、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌がエンテロコッカス属およびラクトバチルス属のいずれかに属する1種または2種以上の乳酸菌であることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項13は、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌パウダーとして、下記の工程(1)〜(4)を含む工程により製造した乳酸菌パウダーを使用することを特徴とする。
【0020】
(1)グルコース、酵母エキス、ペプトンを混合し加熱殺菌した培地に乳酸菌の種菌を接種してインキュベーターで純粋培養する。
(2)工程(1)で得られた培養液に、精製水、動物性あるいは植物性各種栄養成分を添加し、乳酸菌を72時間増殖培養する。
(3)工程(2)で増殖培養して得られた混合物をミキサーにて混合してスラリー状とする。
(4)工程(3)で得られたスラリーを乾燥室に噴霧し熱風乾燥して粉末化し、得られた粉末を前記乾燥室から熱風で送出管を経て前記乾燥室より低温の粉体蓄積室へ送出して乳酸菌パウダーを調製する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の請求項1は、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法であり、
豚、牛、馬、羊、山羊などの家畜または鶏、鴨、鶉、ダチョウなどの家禽は、飲料水あるいは飼料あるいは環境などが病原菌により汚染されると、感染したり発病したりするので、前記水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または経口投与する飼料として供与して飼育することにより、飲料水あるいは飼料あるいは環境などが病原菌により汚染されるのを防止し、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防して、育成効果を増大せしめることができるという顕著な効果を奏す。
【0022】
本発明の請求項2は、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法であり、
豚、牛、馬、羊、山羊などの家畜または鶏、鴨、鶉、ダチョウなどの家禽は、飲料水あるいは飼料あるいは環境などが病原菌により汚染されると、感染したり発病したりするので、前記固形性混合物を飼料として供与して飼育することにより、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防して、育成効果を増大せしめることができるという顕著な効果を奏す。
【0023】
本発明の請求項3は、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与するとともに、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法であり、
豚、牛、馬、羊、山羊などの家畜または鶏、鴨、鶉、ダチョウなどの家禽は、飲料水あるいは飼料あるいは環境などが病原菌により汚染されると、感染したり発病したりするので、前記水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与するとともに、前記固形性混合物を飼料として供与して飼育することにより、飲料水あるいは飼料あるいは環境などが病原菌により汚染されるのを防止し、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防して、育成効果を増大せしめることができるという顕著な効果を奏す。
【0024】
本発明の請求項4は、請求項1あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法において、畜舎内に前記水性混合物を噴霧して四季折々に応じて湿度制御するとともに、前記畜舎の温度を四季折々に応じて制御することを特徴とするものであり、
畜舎家禽内に前記水混合物を噴霧して四季折々に応じて温度湿度を制御するとともに、前記畜舎家禽の温度湿度を四季折々に応じて制御することにより、飲料水や飼料などが病原菌により汚染されるのを防止でき、例えば噴霧された水が家畜家禽の皮膚に付着することにより皮膚病の予防が可能になるなど、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防することができるので、育成効果を増大せしめることができるというさらなる顕著な効果を奏す。
【0025】
本発明の請求項5は、請求項1あるいは請求項3あるいは請求項4記載の家畜家禽飼育法において、前記水性混合物中の乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)であることを特徴とするものであり、
乳酸菌濃度を前記範囲内に制御すると、家畜家禽が感染したり発病したりするのをより確実に予防できるというさらなる顕著な効果を奏する。
乳酸菌濃度が1.2×107 (個/ml)未満では、効果が損なわれる上、前記水性混合物の長期保存性が損なわれる恐れがあり、乳酸菌濃度が1.2×108 (個/ml)を超えると経済性が損なわれる恐れがある。
【0026】
本発明の請求項6は、請求項2あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法において、前記固形性混合物中の乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)であることを特徴とするものであり、
乳酸菌濃度を前記範囲内に制御すると、家畜家禽が感染したり発病したりするのをより確実に予防できるというさらなる顕著な効果を奏する。
乳酸菌濃度が1.2×107 (個/g)未満では、効果が損なわれる上、前記固形性混合物の長期保存性が損なわれる恐れがあり、乳酸菌濃度が1.2×108 (個/ml)を超えると経済性が損なわれる恐れがある。
【0027】
本発明の請求項7は請求項5記載の家畜家禽飼育法において、前記水性混合物としてpHが3.7〜3.9である水性混合物を使用することを特徴とするものであり、
pHを前記範囲内に制御すると、効果が優れる上、飲料水、噴霧水あるいは液状飼料などを作成する時に、それらが病原菌により汚染されるのをより確実に抑制できるというさらなる顕著な効果を奏する。
pHが3.7未満では、経済性効果が損なわれる恐れがあり、pHが3.9を超えると効果が損なわれる恐れがあり、また水性混合物の長期保存性が損なわれる恐れがある。
【0028】
本発明の請求項8は、請求項1あるいは請求項3あるいは請求項4記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を飲料水および/または噴霧水として使用する際には、水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×102 〜1.2×103 (個/ml)とすることを特徴とするものであり、
使用する際には、水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×102 〜1.2×103 (個/ml)とすることにより、飲料水などが病原菌により汚染されるのを防止でき、1日程度の保存性を維持でき使い勝手がよくなるとともに、噴霧された水が家畜家禽の皮膚に付着することにより皮膚病の予防が可能になるというさらなる顕著な効果を奏する。
乳酸菌濃度が1.2×102 (個/ml)未満では1日程度の保存性を維持できない恐れがあり、乳酸菌濃度が1.2×103 (個/ml)を超えると経済性が損なわれる恐れがある。
【0029】
本発明の請求項9は、請求項1記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を液状の飼料として使用する際には、一般配合飼料および水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×105 〜1.2×106 (個/ml)とすることを特徴とするものであり、
乳酸菌濃度をこの範囲に調節することにより、液状の飼料が病原菌により汚染されるのを防止でき、1日程度の保存性を維持でき使い勝手がよくなるとともに、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防することができるので、育成効果を増大せしめることができるというさらなる顕著な効果を奏す。
乳酸菌濃度が1.2×105 (個/ml)未満では効果が損なわれる恐れがあり、また1日程度の保存性を維持できない恐れがあり、乳酸菌濃度が1.2×106 (個/ml)を超えると経済性が損なわれる恐れがある。
【0030】
本発明の請求項10は、請求項2あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)である固形性混合物を用いて飼料として使用する際には、一般配合飼料および水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×105 〜1.2×106 (個/g)とすることを特徴とするものであり、
使用する際には、一般配合飼料および水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×105 〜1.2×106 (個/g)とすることにより、飼料が病原菌により汚染されるのを防止でき、1日程度の保存性を維持でき使い勝手がよくなるとともに、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防することができるので、育成効果を増大せしめることができるというさらなる顕著な効果を奏す。
乳酸菌濃度が1.2×105 (個/g)未満では効果が損なわれる恐れがあり、また1日程度の保存性を維持できない恐れがあり、乳酸菌濃度が1.2×106 (個/g)を超えると経済性が損なわれる恐れがある。
【0031】
本発明の請求項11は、請求項5あるいは請求項6記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌パウダーを1〜10質量%、大豆脱脂粉末を40〜60質量%、麸を10〜30質量%、米糠を5〜20質量%配合し、さらに水分を配合して調製した乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を使用するか、あるいは乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)である固形性混合物を使用することを特徴とするものであり、
こうして作られた水性混合物と固形性混合物は、2週間程度の長期保存が可能であるとともに、安価な材料を用いて、効果の大きい水性混合物あるいは固形性混合物を調製できるので、経済効果を増大できるというさらなる顕著な効果を奏す。
【0032】
本発明の請求項12は、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌がエンテロコッカス属およびラクトバチルス属のいずれかに属する1種または2種以上の乳酸菌であることを特徴とするものであり、
エンテロコッカス属およびラクトバチルス属の乳酸菌が混じり合って乳酸菌密度を高くでき、互いに補完し合い、適応できる温度やpHの範囲が広がって利用性が高まるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0033】
本発明の請求項13は、請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の家畜家禽飼育法において、前記乳酸菌パウダーとして、前記の工程(1)〜(4)を含む工程により製造した乳酸菌パウダーを使用することを特徴とするものであり、
乳酸菌(生菌)を損なうことなく、十分に乾燥された長期にわたり保存可能な本発明で用いる乳酸菌パウダーをより効率的に容易に調製できるという、さらなる顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】(イ)は、サルモネラ菌に対するエンテロコッカスフシウムおよびラクトバチルスファーメンタムの増殖抑制実験結果を示す図であり、(ロ)は、大腸菌に対するエンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムの増殖抑制実験結果を示す図であり、(ハ)は、ウエルシュ菌に対するエンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムの増殖抑制実験結果を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る家畜家禽飼育法に用いる乳酸菌パウダーの製造装置の一部を示す図である。
【図3】子豚の離乳後から101日目までの平均体重を示す説明図である。
【図4】離乳後(生後約25日目)から屠殺150日目までの豚の成育環境において、湿度温度管理システムを使用して、豚舎の温度(20℃±5℃)および湿度(65%±5%)の範囲内に自動管理して制御した結果の一部(平成21年6月7日から平成21年6月14日までの8日間)の実測チャートを示す。
【図5】肉の色合い、脂の硬さ、食感、脂肪酸、肉の旨み、甘味成分などを分析した結果を示す説明図である。
【図6】鶏の肉の栄養成分などを分析した結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照しながら説明する。この実施形態では、家畜が豚の場合の飼育法を説明するが、豚以外の牛、馬、羊、山羊などの家畜または鶏、鴨、鶉、ダチョウなどの家禽に適用することができるのは勿論である。また、本発明において、飼育とは家畜家禽の繁殖や育成に係わる全てを含む。
【0036】
以下、その詳細を述べる。本発明においては、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌を使用する。
以下、植物性乳酸菌による悪性菌あるいは病原菌の増殖抑制効果を説明する。
本発明者が行った実験によると、この植物性乳酸菌は種々の悪性菌あるいは病原菌となる細菌(大腸菌、サルモネラ菌などグラム陰性菌、ウェルシュ菌などグラム陽性菌)に対して増殖抑制効果を有することが分かった。
乳酸菌は、乳酸菌自体あるいはその生産物(乳酸など)により悪性菌あるいは病原菌となる細菌の増殖を抑制する。
増殖が抑制されると、それらの細菌は悪性菌あるいは病原菌としての作用は及ぼさないことになる。
実験で使用した乳酸菌の例は、エンテロコッカス属のエンテロコッカスフェシウム(Enterococcus faecium)とラクトバチルス属のラクトバチルスファーメンタム(Lactobacillus fermentum)である。
【0037】
乳酸菌のエンテロコッカスフェシウムは、形態が球菌であり、グルコースからガスを生成せず、PH9.6のアルカリ条件下でもPH4.8の酸性条件下でも生育する。
耐胆汁性も大きい。また、低温に強く4℃でも生存することが可能である。
乳酸菌のラクトバチルスファーメンタムは、形態が桿菌であり、グルコースからガスを生成する。耐酸性を有するので、強酸性下(PH2.0)でも生存することが可能である。また、熱に強く、60℃でも30分間生存することが可能である。
【0038】
次に、実験方法について記載する。
まず、エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムの乳酸菌パウダー(乳酸菌パウダーについては後に詳述する)1gを生理食塩水10mlに溶解し、菌数約0.9×109 個/mlの乳酸試料溶液を作成する。
次に、検体菌(大腸菌またはサルモネラ菌)を混入させたMRS寒天培地をシャーレSHに入れて、乳酸菌の効果を調べる。直径4cmの円形状に切った実験用ろ紙RAを、シャーレSHの中央部に置き、前記乳酸菌試料液を吸収させる。そして、1×107 個の数の検体菌(大腸菌またはサルモネラ菌またはウエルシュ菌)を混入させたMRS寒天培地をシャーレSHに注ぎ、37℃で72時間放置し、その後観察する。なお、実験用ろ紙は、ADVANTEC社製、NO26−WA、コード02481180を用いた。
【0039】
例えば、図1(ロ)は、大腸菌とエンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムを一緒に寒天培地で培養した実験結果の写真である。大腸菌生育を抑制するエンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムの効果を観察している。
シャーレSHの中央部に置かれた実験用ろ紙RAには、エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムの試料溶液が染み込ませてある。ろ紙からエンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタム菌が生産する抑制物質が寒天培地内を浸透拡散して周辺に広がって行く。寒天培地全体に大腸菌が既に植え付けてあり、大腸菌が生育できる環境にある。したがって領域RCでは、大腸菌が生育している。
しかし領域RBでは、大腸菌が生育できず透明な領域になっている。領域RBをその幅WBで測定して、エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムの大腸菌に対する抑制効果を判定する。
同様にして、エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムのサルモネラ菌に対する抑制効果を実験した結果、領域RBが観察されることを図1(イ)に示し、エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムのウエルシュ菌に対する抑制効果を実験した結果、領域RBが観察されることを図1(ハ)に示す。
この試験方法が示すように、エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムなどの乳酸菌が生産する抑制物質が、大腸菌などの種々の悪性菌あるいは病原菌の生育を阻害することが重要である。
なお、大腸菌とエンテロコッカスフェシウム、サルモネラ菌とエンテロコッカスフェシウム、サルモネラ菌とラクトバチルスファーメンタムについても同様に植物性培地で培養したこれら乳酸菌が菌の増殖を抑制することを確認した。
【0040】
このように、この乳酸菌は種々の悪性菌あるいは病原菌となる細菌に対して増殖抑制効果を有する。
また、この乳酸菌は、牛乳や肉などの動物から採取される栄養素を主に含む培地で増殖培養した動物性乳酸菌比べ、植物性培地で容易に大量の増殖が可能であることから経済的である。
植物性乳酸菌は少なくとも1種、すなわち単独(1種)でも2種以上を組み合わせて共生させてもよい。エンテロコッカス属およびラクトバチルス属を組み合わせると、球菌と桿菌が混ざり合って生息密度が高くなる効果もある。
また、エンテロコッカスフェシウムとラクトバチルスファーメンタムの組み合わせの場合、上記のような性質の違いから互いに補完し合い、植物性乳酸菌全体として適応できる温度やpHの範囲が広がって利用性が高まる。
【0041】
次に、本発明で用いる乳酸菌水性混合物としての家畜家禽飼育用の乳酸菌パウダー(乳酸菌粉末)の製造方法を説明する。
【0042】
乳酸菌パウダーの製造工程を細かく分けると、(1)純粋培養工程、(2)増殖培養工程、(3)スラリー工程、(4)粉末化工程に分けることができる。
【0043】
(1)純粋培養工程では、精製水にグルコース、酵母エキス、ペプトンを混合し、オートクレープで加熱滅菌した溶液に乳酸菌の種菌(乳酸菌を組み合わせる場合は全ての種菌を合わせたもの)を添加し、インキュベーターにて培養する(例えば40℃で48時間)。
こうして、混合乳酸菌の純粋培養菌液を得る。
【0044】
(2)増殖培養工程は、精製水、上記純粋培養菌液、植物性培地となる各栄養物、を混合して攪拌し、増殖培養する工程である。
具体的には上記純粋培養菌液を1.5%に加えて、脱脂大豆粉13%、片栗粉6%、(黒)糖蜜1%、スキムミルク4%、天然塩0.5〜1.5%、グルタミン酸ソーダ0.6%、アミノ酸0.3%、残部を精製水として全量100%として混合し、40℃で48時間保温することによって乳酸菌を増殖させる。なお、百分率は質量についての率を示す(以下の記載においても同様である)。
【0045】
(3)スラリー工程は、ミキサーにて上記混合物をスラリー状にする工程である。
【0046】
(4)粉末化工程は、スプレードライヤーでスラリー状の混合物を噴霧乾燥して粉体化する工程である。
具体的には、図2に示すように、製造装置1には、乾燥室2が設けられ、乾燥室2の上部にノズル3、下部に送出管4が取り付けられる。送出管4は、横方向のみならず上方向にも延び、乾燥室2に並置される粉体蓄積室5に他端が取り付けられる。乾燥室2における熱風WIの入口ENの温度は150〜180℃、出口EXの温度は約100℃、旋回速度(モータ(図示せず)の回転によって引き起こされる)は約4000rpmに設定される。
【0047】
乾燥室2において上記スラリー状の混合物MIは、ノズル3から噴霧され、大風速で旋回する熱風WIで迅速に水分除去(乾燥)されて粉体となる。粉体は、熱風WIの流れに乗って送出管4を介して乾燥室2より低温(40℃)の粉体蓄積室5に送出される。
【0048】
こうして、乾燥室2における迅速な乾燥、及び、粉体蓄積室5における迅速な冷却により、高熱による乳酸菌の損傷や死滅を著しく抑えることが可能となる。また、乾燥工程中にでんぷん質と糖類による保護膜が外表面に形成され内部の生菌が保護されることも、高熱による乳酸菌への影響を抑制する。
【0049】
こうして、粉末化工程により、十分に(水分含有約3%以下に)乾燥し細かな平均粒径の乳酸菌パウダーを得ることができる。
この乳酸菌パウダーは、植物性乳酸菌の生菌数が高く、エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタムについて測定すると、1.2×1010個/g〜1.2×1011個/gであった。
また、乳酸菌パウダーは、十分に乾燥しており、また、でんぷん質と糖類の保護膜により内部の生菌が保護されるので、長期(例えば低湿度の周囲環境で10〜20年)の保存が可能である。
【0050】
本発明で用いる水性混合物あるいは固形性混合物中の乳酸菌濃度は、特に限定されるものではないが、1.2×107〜1.2×108 (個/mlあるいはg)であることが好ましく、乳酸菌濃度を前記範囲内に制御すると、長期保存性に優れるとともに、家畜家禽が感染したり発病したりするのをより確実に予防できる。
そして水性混合物中の酸菌濃度が1.2×107 個/mlの場合、そのpHは3.9であり、水性混合物中の乳酸菌濃度は最大でも1.2×108 個/mlであり、その場合のpHは3.7である。
水性混合物としてpHを3.7〜3.9の範囲内に制御すると、効果に優れるとともに、飲料水、噴霧水あるいは液状飼料などを作成する時に、それらが病原菌により汚染されるのをより確実に抑制できる。
【0051】
このように、必要に応じてその都度、長期保存可能な乳酸菌パウダーを添加・配合することにより本発明で用いる水性混合物あるいは固形性混合物を製造することができるので、乳酸菌の取り扱いは簡便である。
なお、本発明で用いる乳酸菌濃度1.2×107 (個/mlあるいはg)〜1.2×108 (個/mlあるいはg)である水性混合物あるいは固形性混合物は悪性菌あるいは病原菌となる細菌に対して増殖抑制効果を有するので、2週間程度の長期保存置が可能であることから使用し易い。
【0052】
前述のように、乳酸菌は種々の悪性菌あるいは病原菌となる細菌に対して増殖抑制効果を有する。繁殖し易い細菌である大腸菌、サルモネラ菌、豚などの家畜の疾病原因となり易いウェルシュ菌に対する増殖抑制効果の実験結果については図1(イ)、(ロ)、(ハ)などを用いて前述した。
他の細菌についても同様に増殖抑制効果を確認した。また、この植物性乳酸菌は、動物から採取される栄養素を主に含む培地で増殖培養した動物性乳酸菌に比べ、耐酸性が大きく、消化管に到達する数が多い(約7〜8倍)。
【0053】
次に本家畜家禽飼育法における家畜舎の管理について説明する。この例では、豚舎の管理について説明する。
乳酸菌を用い、抗生物質や消毒剤などの薬剤を用いない本発明の家畜家禽飼育法は、豚の腸内環境を整えてストレスを和らげ、また畜舎内の清潔環境を作り出す。
以下のように豚舎の管理を行うことが望ましい。
豚舎の配置は、繁殖豚舎、分娩豚舎、離乳豚舎、育成豚舎、ならびに出荷豚舎の順に設け、豚の育成過程に応じてそれぞれの豚舎で育てる。
【0054】
そして、常に豚糞、豚尿の清潔管理を行い、豚舎の温度、湿度調節を行うことは、豚にとって快適な環境を作り出す効果と共に、疫病対策にも有効である。
例えば、冬期の暖房については、特に子豚の発育不良を予防し、死亡率を低減させることができる。
冬季夏季の湿度調節は、豚ウイルス感染などによる気管支炎の予防と肺炎にかかることを予防できる。
【0055】
具体的には、子豚の場合、冬期は温度20〜25℃、湿度55〜60%、夏期は温度25〜30℃、湿度60〜65%とする。
中豚の場合、冬期は温度15〜20℃、湿度60〜65%、夏期は温度25〜30℃、湿度60〜65%とする。
成豚の場合、冬期は温度10〜20℃、湿度65〜70%、夏期は温度25〜30℃、湿度60〜65%に調節する。
特に、繁殖豚舎内では、温度、湿度を一定に保持し、また、外部からの伝染病が入り込むのを防止するため豚舎側面にカーテンを設置するのが有効である。
【0056】
豚舎禽舎の湿度は、一般に水道水を噴霧することにより調整するが、本発明においては、乳酸菌を豚舎の飲用の水道水に添加し、水性混合物として飲料水として供しかつ、豚舎禽舎に噴霧する。
このようにすると、飲用水が前述の飼料のように病原菌による感染や発病を予防し、かつ、湿度の調整をしつつ、噴霧された水に含まれる乳酸菌が豚の皮膚に付着することにより皮膚病の予防が可能になる。
【0057】
以上のように、純粋菌から培養したパウダー状でかなり長期間保存できる乳酸菌パウダーを調製すれば使用者に販売することも可能であり、また、この乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物および固形性混合物を調製すれば、2週間程度の保存ができるので使用者に販売することも可能であり、使用者は、それを水で希釈して乳酸菌濃度を調節して養豚、養鶏等の現場で、水性混合物に基づく飲料水、水性混合物に基づく噴霧水、固形性混合物に基づく固形性配合飼料など目的に応じて適用できる。
以上のように、乳酸菌パウダーを、家畜家禽の繁殖、育成に総合的に用いた本発明の飼育法を行えば、抗生物質や消毒剤などの薬剤を使用しないので、家畜家禽舎内外の環境に対してやさしく、しかも、食肉、家禽卵として供した場合も残留有害物質などによる人体への影響がない安全な飼育が可能である。
また、家畜家禽の健康状態が良好に維持され、発育が良く、美味しい豚肉、鶏肉、家禽卵が生産される。
【0058】
前記乳酸菌パウダーを1〜10質量%、大豆脱脂粉末を40〜60質量%、麸を10〜30質量%、米糠を5〜20質量%配合し、さらに水分を配合して調製した乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を使用するか、あるいは乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)である固形性混合物を使用すると、飼料が病原菌により汚染されるのを防止し、また前記固形性混合物を経口投与するなどして用いると家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防して、育成効果を増大せしめることができる。
【0059】
前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を液状あるいはねり状の飼料として使用することができる。そして液状の飼料として使用する際には、一般配合飼料と水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×105 〜1.2×106 (個/ml)とすることにより、飼料が病原菌により汚染されるのを防止でき、1日程度の保存性を維持でき使い勝手がよくなるとともに、家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防することができるので、育成効果を増大せしめることができる。
乳酸菌濃度が1.2×105 (個/ml)未満では1日程度の保存性を維持できない恐れがあり、乳酸菌濃度が1.2×106 (個/ml)を超えると経済性が損なわれる恐れがある。
【0060】
ねり状の餌付け授乳食用の水性混合物とすることにより家畜の子供に経口投与が容易で摂取も用になり、乳酸菌濃度を上記範囲内とすることにより、下痢症状から回復させ、病気予防したりして、家畜の子供の育成効果を増大せしめることができる。
【0061】
子豚は、一般に、授乳期において、初乳の摂取によって母豚から移行する抗体が減少する生後15日〜35日に、下痢症状を発生し易く、抗生物質を注射しも死亡率が高い(例えば30%程度)。本発明の家畜家禽飼育法では、乳酸菌を、服用物に混合して下痢症状を発症した授乳期の家畜の子に経口投与するが、それにより、抗生物質を用いることなく、下痢症状から回復させることができる。
【0062】
なお、本発明は、上述の実施形態に記載したものに限られることなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのさまざまな設計変更が可能である。例えば実施形態に記載した製造条件、環境条件などの細かな数値、又は材料などは適宜変更や追加が可能であることは勿論である。
本特許の請求では、主として植物性培地の有効性を証明しているが、動物性培地で増殖培養したエンテロコッカス属、ラクトバチリス属の乳酸発酵菌でも同様の効果が得られることは明らかである。
ただし動物性培地は、牛乳などを原料にすることが多く、経済性に劣ることから、植物性培地でも可能なことを証明した。乳酸菌培養条件で経済的に有利な場合、動物性培地を使うことも可能である。
【実施例】
【0063】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1)
植物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および噴霧水として供与し、前記乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して豚を飼育した例を次に説明する。
【0065】
(乳酸菌パウダーの調製)
精製水にグルコース、酵母エキス、ペプトンを混合し、オートクレープで加熱滅菌した溶液に乳酸菌の種菌(エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルス1:1混合物)を添加し、インキュベーターにて培養し(40℃で48時間)、混合乳酸菌の純粋培養菌液を得た。
上記純粋培養液を1.5%に加えて、脱脂大豆粉13%、片栗粉6%、(黒)糖蜜1%、スキムミルク4%、天然塩0.5〜1.5%、グルタミン酸ソーダ0.6%、アミノ酸0.3%、残部を精製水として全量100%として混合し、40℃で48時間保温することによって乳酸菌を増殖させ、ミキサーにてこの混合物をスラリー状混合物にした。
ついで、図2に示した製造装置1を用いて、乾燥室2における熱風WIの入口ENの温度は150℃、出口EXの温度約100℃、旋回速度約4000rpmで上記スラリー状の混合物MIを迅速に乾燥(水分除去)して粉体化し、そして約40℃の粉体蓄積室5に送出して迅速な冷却を行って、水分含有約3%以下の細かな平均粒径の乳酸菌パウダー(エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタム:1.2×1011個/g)を調製した。
【0066】
(固形性混合物の調製)
前記乳酸菌パウダーを1%、大豆脱脂粉末を60%、麸を10%、米糠を20質量%配合し、水分を10%に調整して固形性混合物(乳酸菌濃度:1.2x10×109 個/g)を調製した。
【0067】
(水性性混合物の調製)
200Lのタンク容器に水道水を入れ、前記乳酸菌パウダーを0.02%添加して、混合して水性性混合物(乳酸菌濃度:1.2×108 個/ml)を調製した。
【0068】
(豚の飼育)
前記固形性混合物を、さらに一般配合飼料および水で稀釈して、全配合飼料に対して0.4%の固形性混合物を混ぜ、混ぜ合わせた配合飼料(乳酸菌濃度:1.2×106 個/g)を餌として、豚の体重の3%に相当する分量を毎日食べさせた。
前記水性混合物をタンクからドサトロン(商品名、株式会社セキネ製、水圧自動吸引器具)を使用して水道水に10、000倍混入させ(乳酸菌濃度:1.2×103個/ml)、水道の水圧で吸引される水道の飲み口(豚用ニップル)から豚に飲水させ、飲料水として供与した。
【0069】
離乳後(生後約25日目)から屠殺150日目までの豚の成育環境において、湿度温度管理システムを使用して、豚舎の温度(20℃±5℃)および湿度(65%±5%)の範囲内に自動管理して制御した結果の一部(平成21年6月7日から平成21年6月14日までの8日間)を図4に示す。
この湿度調節に、前記水性混合物を水道水に10、000倍混入させ(乳酸菌濃度:1.2x102〜1.2×103 個/ml)、噴霧水として豚舎に噴霧した。
噴霧された水が家畜家禽の皮膚に付着する病原菌の増殖を抑制し、豚ウイルス感染による気管支炎の予防と肺炎にかかることを予防した。
【0070】
前記水性混合物を噴霧水として供与するのは、基本的には湿度をコントロール調整するのが目的であり、しかも湿度の調整をしつつ、噴霧された水に含まれる前記乳酸菌が豚の皮膚に付着することにより皮膚病の予防が可能になる。豚の飼育にあたっては子豚(離乳子豚)から肥育豚まで重要なポイントである。特に子豚は気管機能が弱く常に気管支炎の併発が多く、気候の変化に対して非常に弱体質動物である、噴霧は常に自動噴霧により行ったので、ストレスがかかり難く、健康に生育できた。
【0071】
試験に供した豚は、72頭である。
ワクチン、抗生物質等の薬品は、一切使用しなかった。
生後から、離乳期(生後25日)を経て屠殺150日まで、全期間において乳酸菌を飼料、飲料水、噴霧水として利用した。
実施場所:千葉県K養豚場。
実施期間における死亡率は、ゼロであった。
以上のようにして、豚を飼育した結果、離乳から101日に至る間に4回、平均体重を測定した結果を図3に示す。
【0072】
(比較例1)
乳酸菌パウダーを使用せず、水道水を飲料水および噴霧水として供与し、前記乳酸菌パウダーを含まない一般配合飼料を供与し、豚ワクチンや抗生物質を豚の下痢症状がおこれば通常通り使って、豚を飼育した以外は、実施例1と同様にして豚を飼育した結果、離乳から101日に至る間に4回、平均体重を測定した結果を図3に示す。
実施期間における死亡率は、10%であった。
【0073】
図3から、実施例1と比較例1の豚の平均体重を対比すると、実施例1の豚の平均体重の方が比較例1の豚の平均体重より大きく、明らかに有意差が見られることが判る。この実施例1と比較例1の差は、餌代にも明確な差がでる結果となり、実施例1の方が経済性においても優位があることが判った。
【0074】
(実施例2)
実施例1と同様にして豚を飼育した豚(マーガレットポークと称す)の肉の色合い、脂の硬さ、食感、脂肪酸、旨み、甘味成分などを分析した。
分析結果を比較例2の一般豚肉を100として表1および図5に示す。
分析者:ジェネティックID(株)
【0075】
(比較例2)
比較例1と同様にして豚を飼育した豚(一般豚肉と称す)の肉の色合い、脂の硬さ、食感、脂肪酸、肉の旨み、甘味成分などを分析した。
分析結果を表1および図5に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1および図5から、実施例2のマーガレットポークの方が、比較例2の一般豚肉より、肉の色合いが低く、融点が上昇し脂は硬くべたべたせず、食感が噛み切りやすく、やわらかく、グルタミン酸、肉甘味要素、肉旨味要素が高く豊富であり、飽和脂肪酸が豊富で香りがよく、リノール酸が少なく酸化や劣化しにくいなど全ての点で優れていることが判る。
しかもマーガレットポークの肉質(赤み部分)に、「霜降り」が見られ、高品質であることが証明できた。通常の一般豚肉の肉質と比較して優位な結果がしめされていている。
本発明の家畜家禽飼育法により飼育環境が改善され、豚肉の味にまで優れた効果を及ぼすことを確認することができた。
【0078】
(実施例3)
植物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および噴霧水として供与し、前記乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して鶏を飼育した例を次に説明する。
【0079】
(乳酸菌パウダーの調製)
実施例1記載の方法により水分含有約3%以下の細かな平均粒径の乳酸菌パウダー(エンテロコッカスフェシウムおよびラクトバチルスファーメンタム:1.2×1011個/g)を調製した。
【0080】
(固形性混合物の調製)
実施例1記載の方法により前記乳酸菌パウダーを1%、大豆脱脂粉末を60%、麸を10%、米糠を20質量%配合し、水分を10質量%に調整して固形性混合物(乳酸菌濃度:1.2×108個/g)を調製した。
【0081】
(水性性混合物の調製)
実施例1記載の方法により200Lのタンク容器に水道水を入れ、前記乳酸菌パウダーを0.02%添加して混合して水性性混合物(乳酸菌濃度:1.2.×108 個/ml)を調製した。
【0082】
(鶏の飼育)
前記固形性混合物を、一般の配合飼料の中に、全配合飼料に対して0.4%の固形性混合物を混ぜ、混ぜ合わせた配合飼料(乳酸菌濃度:1.2×106 個/g)を餌として、鶏の体重の3%に相当する分量を毎日食べさせた。
前記水性混合物をタンクからドサトロン(商品名、株式会社セキネ製、水圧自動吸引器具)を使用して水道水に10、000倍混入(乳酸菌濃度:1.2.×103 個/ml)させ、水道の水圧で吸引される水道の飲み口(鶏用ニップル)から鶏に飲水させ、飲料水として供与し、また噴霧水として禽舎に噴霧した。
【0083】
噴霧水として供与するのは、基本的には湿度をコントロール調整するのが目的であり、しかも湿度の調整をしつつ、噴霧された水に含まれる前記乳酸菌が鶏の皮膚に付着することにより皮膚病の予防が可能になる。
試験に供した鶏は、第1回実施試験区8,800羽、第2回実施試験区9,200羽、第3回実施試験区8,800羽である。
【0084】
実施は3回行った。
第1回目実施期間:平成21年1月6日〜平成21年2月10日
第2回目実施期間:平成21年3月8日〜平成21年4月10日
第3回目実施期間:平成21年3月19日〜平成21年4月20日
【0085】
実施場所:兵庫県Tブロイラー。
以上のようにして、3回鶏を飼育し、出荷羽数、出荷規格外羽数、規格外羽数(%)、加重出荷体重、育成率、飼料要求率、生産効率、飼料代、ヒナ代、乳酸菌代/薬品代、粗利益などの結果をそれぞれ表2〜4に示す。
【0086】
(比較例3)
乳酸菌パウダーを使用せず、水道水を飲料水および噴霧水として供与し、前記乳酸菌パウダーを含まない一般配合飼料を供与し、ワクチンおよび抗生物質の併用を通常通り行った。 下記の3回の実施期間において鶏を飼育した以外は、実施例3と同様にして鶏を飼育し出荷羽数、出荷規格外羽数、規格外羽数(%)、加重出荷体重、育成率、飼料要求率、生産効率、飼料代、ヒナ代、乳酸菌代/薬品代、粗利益などを測定した結果をそれぞれ表2〜4に示す。
第1回目実施期間:平成21年1月8日〜平成21年2月12日
第2回目実施期間:平成21年3月4日〜平成21年4月8日
第3回目実施期間:平成21年3月12日〜平成21年4月17日
【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

【0089】
【表4】

【0090】
表2〜4において、実施例3と比較例3とを対比すると、本発明の家畜家禽飼育法を用いた実施例3の場合が、ブロイラー経営に必要な、育成率、生産効率、飼料代、ヒナ代、粗利益などの経営指標全てで優位な比較結果が出ていることが判り、3回とも、実施例3の場合の優位性が明らかになった。
ただし、実施例3の第3回目は、試行として乳酸菌利用とワクチン・抗菌剤等の併用を試みたため、乳酸菌代/薬品代の比較で、実施例3の場合の方が割高になっている。しかし第1、2回では、実施例3の経費の方が安い結果となっている。直接経費比較として、実施例3の有効性が証明できたばかりでなく、ブロイラーの生産性と経営において本発明の家畜家禽飼育法の有効性を証明することができた。
【0091】
(実施例4)
乳酸菌としてアルファーラクトを用いた固形性混合物を、一般の配合飼料の中に、全配合飼料に対して0.4%混ぜ、混ぜ合わせた配合飼料を餌として、鶏の体重の3%に相当する分量を毎日食べさせた以外は、実施例3と同様にして鶏を飼育した(飼育場所、マレーシア明記養鶏場)鶏の肉(桜チキンと称す)の栄養成分などを分析した。1000羽飼育した中から、各10羽サンプリングした。ブロイラー生後42日令で、平均体重2.1kgのものである。
分析結果を表5および図6に示す。
前記固形性混合物を、一般の配合飼料の中に、全配合飼料に対して0.4%の固形性混合物を混ぜ、混ぜ合わせた配合飼料を餌として、鶏の体重の3%に相当する分量を毎日食べさせた。
【0092】
(比較例4)
比較例3と同様にして鶏を飼育した(飼育場所、マレーシア明記養鶏場)、以外は実施例4と同様にして、鶏の肉(普通の鶏と称す)の栄養成分などを分析した。
分析結果を表5および図6に示す。
【0093】
【表5】

【0094】
表5および図6から、実施例4の桜チキンは、比較例4の普通の鶏と対比して、脂肪の減少、飽和脂肪の減少が明らかであり、また、蛋白質が増加している上、なによりコレステロール減少が著しく、また食からの過剰ミネラル摂取の懸念に対して、ミネラルも減少しており、優れた栄養成分などを備えていることが判る。特にコレステロール値が低くなり、商品価値が上昇した。実施例4の桜チキンのこれらの数値は、食の健康に関心の強い消費者にとって、改善されたもので、消費者に大いに歓迎されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与するか、あるいは前記乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して飼育することを特徴とするプロバイオテックス(善玉生菌)による家畜家禽飼育法であり、
豚、牛、馬、羊、山羊などの家畜または鶏、鴨、鶉、ダチョウなどの家禽は、飲料水あるいは飼料あるいは環境などが病原菌により汚染されると、感染したり発病したりするので、安全性の高い乳酸菌を用いて、飲料水あるいは飼料あるいは環境などが病原菌により汚染されるのを防止し、抗菌剤、抗生物質など使用しなくても家畜家禽が感染したり発病したりするのを予防して、育成効果を増大せしめることができるという顕著な効果を奏すので、産業上の利用価値は甚だ大きい。
【符号の説明】
【0096】
1 製造装置
2 乾燥室
3 ノズル
4 送出管
5 粉体蓄積室
MI 混合物
WI 熱風
EN 入り口
EX 出口
SH シャーレ
RA 吸水用ろ紙
RC 検体菌の領域
RB 検体菌が極めて少ない領域
WB 幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法。
【請求項2】
植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法。
【請求項3】
植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する水性混合物を飲料水および/または噴霧水および/または飼料として供与するとともに、植物性培地あるいは動物性培地で増殖培養した乳酸菌をパウダー化した乳酸菌パウダーを有効成分として含有する固形性混合物を飼料として供与して飼育することを特徴とする家畜家禽飼育法。
【請求項4】
畜舎内に前記水性混合物を噴霧して四季折々に応じて湿度制御するとともに、前記畜舎の温度を四季折々に応じて制御することを特徴とする請求項1あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法。
【請求項5】
前記水性混合物中の乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)であることを特徴とする請求項1あるいは請求項3あるいは請求項4記載の家畜家禽飼育法。
【請求項6】
前記固形性混合物中の乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)であることを特徴とする請求項2あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法。
【請求項7】
前記水性混合物としてpHが3.7〜3.9である水性混合物を使用することを特徴とする請求項5記載の家畜家禽飼育法。
【請求項8】
前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を飲料水および/または噴霧水として使用する際には、水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×102〜1.2×103 (個/ml)とすることを特徴とする請求項1あるいは請求項3あるいは請求項4記載の家畜家禽飼育法。
【請求項9】
前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を液状の飼料として使用する際には、一般配合飼料および水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×105 〜1.2×106 (個/ml)とすることを特徴とする請求項1記載の家畜家禽飼育法。
【請求項10】
前記乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)である固形性混合物を飼料として使用する際には、一般配合飼料および水で稀釈して乳酸菌濃度を1.2×105 〜1.2×106 (個/g)とすることを特徴とする請求項2あるいは請求項3記載の家畜家禽飼育法。
【請求項11】
前記乳酸菌パウダーを1〜10質量%、大豆脱脂粉末を40〜60質量%、麸を10〜30質量%、米糠を5〜20質量%配合し、さらに水分を配合して調製した、乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/ml)である水性混合物を使用するか、あるいは乳酸菌濃度が1.2×107 〜1.2×108 (個/g)である固形性混合物を使用することを特徴とする請求項5あるいは請求項6記載の家畜家禽飼育法。
【請求項12】
前記乳酸菌がエンテロコッカス属およびラクトバチルス属のいずれかに属する1種または2種以上の乳酸菌であることを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の家畜家禽飼育法。
【請求項13】
前記乳酸菌パウダーとして、下記の工程(1)〜(4)を含む工程により製造した乳酸菌パウダーを使用することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか一項に記載の家畜家禽飼育法。
(1)グルコース、酵母エキス、ペプトンを混合し加熱殺菌した培地に乳酸菌の種菌を接種してインキュベーターで純粋培養する。
(2)工程(1)で得られた培養液に、精製水、動物性あるいは植物性各種栄養成分を添加し、乳酸菌を72時間増殖培養する。
(3)工程(2)で増殖培養して得られた混合物をミキサーにて混合してスラリー状とする。
(4)工程(3)で得られたスラリーを乾燥室に噴霧し熱風乾燥して粉末化し、得られた粉末を前記乾燥室から熱風で送出管を経て前記乾燥室より低温の粉体蓄積室へ送出して乳酸菌パウダーを調製する。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−4636(P2011−4636A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150066(P2009−150066)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(595059698)
【出願人】(594179823)
【Fターム(参考)】