説明

プロピレンオキサイド製造プラントの排ガスからのプロピレンの回収方法

【課題】プロピレンオキサイド製造プラントの排ガスからプロピレンを効率よく回収する方法を提供すること。
【解決手段】プロピレンを酸化することによるプロピレンオキサイド製造プラントから排出されるプロピレン含有ガスを加圧下にモレキュラーシーブカーボンと接触させて、該排ガス中のプロピレンを選択的に吸着させ、ついで吸着されたプロピレンを減圧下に脱着、回収することを特徴とするプロピレンの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキサイド製造プラントの排ガスからプロピレンを回収する方法に関する。さらに詳しくは、該排ガスから、プロピレンとメタン、エタン等の飽和炭化水素および酸素とを分離し、プロピレンを効率的に回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンを酸化することによるプロピレンオキサイド製造プラントにおいては、反応流出ガスからプロピレンオキサイドを回収した後のプロセスガスには多量の未反応のプロピレンが含まれており、プロピレンの反応率を高めるためにこれを反応系に再循環している。該プロセスガスには、未反応のプロピレンの外、メタン、エタン等の飽和炭化水素類、二酸化炭素、アルゴン、窒素等の不活性ガス、および酸素等が含有されており、該ガスの反応系への循環を繰り返し行うと、窒素、アルゴン等の不活性ガスが濃縮されるので、その一部は常時系外に抜き出され、燃料ガスとして利用されている。しかし、この排ガスには通常30%程度のプロピレンが含まれるので、これを単に燃料ガスとして利用するのは経済的でない。
特許文献1には、エチレンオキサイドの製造における排ガスからのエチレンの回収方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−60048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、プロピレンオキサイド製造プラントの排ガスからプロピレンを効率よく回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段について検討した結果、以下の発明を見出した。
[1] プロピレンを酸化することによるプロピレンオキサイド製造プラントから排出されるプロピレン含有ガスを加圧下にモレキュラーシーブカーボンと接触させて、該排ガス中のプロピレンを選択的に吸着させ、ついで吸着されたプロピレンを減圧下に脱着、回収することを特徴とするプロピレンの回収方法。
[2] モレキュラーシーブカーボンは、その平均細孔径が3〜5Åであり、1気圧、25℃におけるプロピレンの吸着時定数(平衡吸着量の2分の1量を吸着するために要する時間)が0.2〜13分である[1]記載の方法。
[3] モレキュラーシーブカーボンは、1気圧、25℃における二酸化炭素およびメタンの吸着時定数がそれぞれ0.01〜0.3分および1〜200分である[1]記載の方法。
[4] モレキュラーシーブカーボンは、1気圧、25℃におけるプロピレンの平衡吸着量が35〜134Nl/kgである[1]記載の方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によって、プロピレンオキサイド製造プラントの排ガスからプロピレンに富んだ回収ガスを効率よく回収することができる。従って、本発明の方法は、該回収ガスの再使用に際して安全で、工業的に極めて優れた方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の方法のプロセスフローの一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、プロピレンを酸化することによるプロピレンオキサイド製造プラントから排出されるプロピレン含有ガスを加圧下にモレキュラーシーブカーボンと接触させて、該排ガス中のプロピレンを選択的に吸着させ、ついで吸着されたプロピレンを減圧下に脱着、回収することを特徴とするプロピレンの回収方法に関する。本発明の方法には、2つの工程:吸着工程及び脱着工程が含まれる。本発明の吸着工程によって、プロピレンを酸化することによるプロピレンオキサイド製造プラントからの排出されるプロピレン含有ガス(被処理ガス)を加圧下にモレキュラーシーブカーボンと接触させて、該排ガス中のプロピレンを選択的に吸着させる。続いて、本発明の脱着工程によって、吸着されたプロピレンを減圧下に脱着、回収する。
【0009】
本発明が適用できるプロピレンオキサイドの製造方法としては、例えば、金属酸化物等を含有するような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法等が挙げられる。このような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法については、例えば、WO2011/075458、WO2011/075459、WO2012/005822、WO2012/005823、WO2012/005824、WO2012/005825、WO2012/005831、WO2012/005832、WO2012/005835、WO2012/005837等に記載されている。その製法において用いる触媒としては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)及び(j)からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む触媒が挙げられる。
(a)銅酸化物
(b)ルテニウム酸化物
(c)マンガン酸化物
(d)ニッケル酸化物
(e)オスミウム酸化物
(f)ゲルマニウム酸化物
(g)クロミウム酸化物
(h)タリウム酸化物
(i)スズ酸化物
(j)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分
好ましくは(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒であり、より好ましくは(a)銅酸化物、(b)ルテニウム酸化物及び(j)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分を含有する触媒である。
【0010】
上記の製造方法で得られるプロピレンオキサイドを含むガス混合物には、通常0.5%〜5%のプロピレンオキサイドの他に、未反応プロピレン、未反応酸素、希釈ガス(窒素、ヘリウム、アルゴン、メタン、エタン等)、アクロレイン、プロピオンアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、生成水、炭酸ガス、一酸化炭素、有機酸類等が含まれる。このガス混合物を、プロピレンオキサイド吸収塔に導いて、水又は水を主成分とする吸収液と向流接触させることで、プロピレンオキサイドの水溶液又は吸収液溶液を得る。その際、生じる排ガスの一部を常時系外に放出するが、この一部の排ガスが本発明における「プロピレンを酸化することによるプロピレンオキサイド製造プラントから排出されるプロピレン含有ガス(被処理ガス)」である。上記被処理ガスは、通常およそ30容量%程度のプロピレン、およそ50容量%程度のメタンの他、数容量%の二酸化炭素、酸素、アルゴンが含まれているものである。
【0011】
本発明で用いられるモレキュラーシーブカーボンは、他にカーボンモレキュラーシーブ、モレキュラーシービングカーボン、分子篩活性炭などの名称で呼ばれているものである。モレキュラーシーブカーボンは、活性炭と同様に微晶質炭素で構成され、その特性(例えば、元素組成、化学的性質、極性分子に対する選択吸着性など)は概ね活性炭のそれに類似しているが、直径が10Å以下の均一な超ミクロ孔で構成されたもので分子篩作用を有するものである。モレキュラーシーブカーボンは、例えば特公昭52−18675号公報に記載された方法、即ち5%までの揮発性成分含量を有するコークスを、熱分解によりカーボンを放出する炭化水素を添加して、600〜900℃の温度で1〜60分間処理することによって、放出されたカーボンを該コークスの細孔中に沈着させることにより製造することができる。また、特公昭49−37036号および特開昭59−45914号公報に記載された方法などによっても製造することができる。
【0012】
本発明で用いられるモレキュラーシーブカーボンとしては、下記のような物性を有するものが好ましい。
(1)平均細孔径:3〜5Å
(2)平衡吸着量(1気圧、25℃における値):プロピレンは35〜134Nl/kg、好ましくは40〜130Nl/kgである。さらに、二酸化炭素およびメタンについて言えば、それぞれ25〜60Nl/kg、好ましくは30〜55Nl/kg、および10〜30Nl/kg、好ましくは15〜25Nl/kgである。
(3)吸着時定数:吸着時定数とは、平衡吸着量の2分の1量を吸着するために要する時間で表されるものであり、1気圧、25℃における値として示せば、プロピレンは0.2〜13分、好ましくは0.3〜7分、特に好ましくは0.4〜6分である。さらに、二酸化炭素およびメタンについて言えば、それぞれ0.01〜0.3分、好ましくは0.015〜0.2分、特に好ましくは0.02〜0.15分、および1〜200分、好ましくは2〜100分、特に好ましくは3〜60分である。
【0013】
このような物性を有するモレキュラーシーブカーボンは、上記の製造法における条件を適宜選択することにより製造することができる。モレキュラーシーブカーボンの形状としては、ペレット状、破砕状、ハニカム成形体など種々のものが適用されるが、ペレット状が好ましい。粒子径は3mmφ以下、好ましくは2mmφ以下の小粒径のものがよいが、あまり細かすぎると圧損失が大きくなるので、工業的には好ましくない。
【0014】
吸着処理は加圧下に行われ、一般的にいって5kg/cm2G以上であることが好ましい。プロピレンオキサイド製造工程からの排ガスの圧力は通常13〜17kg/cm2Gであるので、この圧力で吸着処理を行うのが経済的である。吸着工程における吸着時間は、6〜10分、好ましくは8分である。そのときのフィードガスの流量は、吸着剤充填容量の40〜120倍(SV=40〜120/hr)が適当であり、50倍程度でプロピレンの高い回収率が達成される。吸着時の温度は、吸着処理の当初は常温、例えば20〜30℃程度であり、吸着反応により発生する熱のために次第に上昇するが、特に温度調節を行う必要はない。
【0015】
以下、図面を参照して、本発明をより詳しく説明する。図1は、本発明の方法のプロセスフローの一例を示すものである。図示の方法では、A、BおよびCの3本の吸着塔が使用されているが、必要に応じて、吸着塔の数を増加することができる。これら吸着塔には、それぞれ吸着剤として、モレキュラーシーブカーボンが充填されている。被処理ガス、即ちプロピレンを含む排ガスは、ガス供給ライン1から吸着塔Aにフィードされ、塔内の吸着剤と接触して、主としてプロピレンおよび二酸化炭素が吸着される。この吸着工程において、排ガス中のプロピレンの大部分、例えば90%以上を吸着させることができるが、酸素も一部吸着されその量は1%未満である。このような操作によって、吸着塔から排出されるガス中には、プロピレンが微量(5%未満)しか存在せず、メタンを主成分とする排出ガスが吸着塔上部の排出ライン2から排出される。
【0016】
次に、吸着塔Aは脱着操作が行われる。その間、吸着塔Cに被処理ガスが供給され、ここで上記と同様の吸着操作が行われる。脱着工程においては、通常吸着塔は加圧状態となっているので、自圧により吸着されているガス成分の脱着が行われる。吸着塔が常圧となった以降は吸引ポンプ、例えば真空ポンプにより真空引きして50〜500Torr程度の減圧状態にすることにより、吸着されている成分が十分に吸着剤から脱着される。脱着時の温度は、脱着速度および脱着量により異なるが、通常−5℃から30℃までの範囲である。脱着工程の初期段階では、吸着塔からの流出ガス中のプロピレン濃度が希薄であるので、これは流出ライン3およびライン4、またはライン5を通ってガスホルダーへ送られる。ついでプロピレンに富んだガスが流出されるようになった時点で、ライン6に切り替えて該ガスを回収する。
【0017】
また、別法として、自圧による脱着の初期段階では、吸着塔の上部から排出ライン2よりプロピレンの希薄な吸着ガスを排出させた後、残りのプロピレンに富んだガスを脱着させて吸着塔の下部から流出ライン3より回収することができる。脱着をより完全に行うために、吸着塔Aの上部からススギ用ガスを導入することができる。ススギ用ガスとしては、回収ガス中の酸素濃度が爆発限界とならないように、酸素を実質的に含有しないメタンを主成分とするガスを使用することが好ましい。
【0018】
このようにして得られた回収ガスは、酸素は実質的に存在せず、プロピレンを主成分とし、少量のメタンおよび二酸化炭素を含有するものであるので、プロピレンオキサイドの製造用原料ガスとして再使用することができる。また、ガスホルダーに収集されたプロピレン濃度の低いガスは少量なので、該ガスを既存のプロピレンオキサイド製造プラントのガスコンプレッサーの吸い込み側に戻してもよく、さもなくばライン7からリサイクルガスコンプレッサーにより昇圧して原料ガス(被処理ガス)の供給ライン1に戻してもよい。
【0019】
脱着工程が終了した吸着塔Aは、次の吸着工程の実施のために、昇圧工程に付される。ここで吸着塔の昇圧が行われるが、その際被処理ガスの1部を使用することが、爆発限界に近づかないようにするためにも好ましい。
【実施例】
【0020】
以下の実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1
図1に示したように、吸着剤としてモレキュラーシーブカーボン(平均細孔径:3〜5Å)を充填した同一構造の吸着塔を3個使用する。
(吸着工程)被処理ガスを供給管1から吸着塔Aの底部にフィードし、吸着剤と充分に接触させた後、排出管2から塔外に排出させる。
(脱着工程)被処理ガスの供給を停止した後、圧力を開放することにより吸着されたガスが自圧により流出ライン3から流出し、さらに真空ポンプを用いて100Torrまで吸引することにより脱着ガスを回収する。
(昇圧工程)吸着塔Aの上部から被処理ガスの1部を供給して系内を7kg/cm2Gまで昇圧し、つぎの吸着工程に引き継ぐ。
上記したような操作で吸着工程、脱着工程及び昇圧工程が3個の吸着塔で順次行われるが、そのシーケンスを示せば下記のとおりである。
吸着塔A:吸着−脱着−昇圧
吸着塔B:脱着−昇圧−吸着
吸着塔C:昇圧−吸着−脱着
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の方法によって、プロピレンオキサイド製造プラントの排ガスからプロピレンに富んだ回収ガスを効率よく回収することができる。従って、本発明の方法は、該回収ガスの再使用に際して安全で、工業的に極めて優れた方法である。
【符号の説明】
【0022】
A,B,C 吸着塔
1 ガス供給ライン
2 排出ライン
3,4,5,6 流出ライン
7 リサイクルライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレンを酸化することによるプロピレンオキサイド製造プラントから排出されるプロピレン含有ガスを加圧下にモレキュラーシーブカーボンと接触させて、該排ガス中のプロピレンを選択的に吸着させ、ついで吸着されたプロピレンを減圧下に脱着、回収することを特徴とするプロピレンの回収方法。
【請求項2】
モレキュラーシーブカーボンは、その平均細孔径が3〜5Åであり、1気圧、25℃におけるプロピレンの吸着時定数(平衡吸着量の2分の1量を吸着するために要する時間)が0.2〜13分である請求項1記載の方法。
【請求項3】
モレキュラーシーブカーボンは、1気圧、25℃における二酸化炭素およびメタンの吸着時定数がそれぞれ0.01〜0.3分および1〜200分である請求項1記載の方法。
【請求項4】
モレキュラーシーブカーボンは、1気圧、25℃におけるプロピレンの平衡吸着量が35〜134Nl/kgである請求項1記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−82669(P2013−82669A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−134893(P2012−134893)
【出願日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】