説明

プロピレンオキサイド製造用多管式固定床反応器

【課題】全体サイズが改良され、直径は短く、壁厚は薄く、投資が節約され、要求される生産性にさらに適合可能なプロピレンオキサイドの多管式固定床反応器を提供すること。
【解決手段】反応器シェルと、反応ガス入口と、反応ガス出口と、液体入口と、液体出口と、前記反応器シェル内部に配置される反応管と、両端の管板とを含み、内部が管路とシェル路の2つの流体空間に区分けされ、前記反応ガス入口と反応ガス出口は、反応器シェルの両端に配置され、かつ管板を介して反応管に連通して管路を形成し、液体入口と液体出口はそれぞれ前記反応器シェルの側壁に設けられてシェル路を形成し、前記反応管に進入する反応ガスはプロピレンと酸素の混合ガスであり、反応管内には触媒が充填されているプロピレンオキサイド製造用多管式固定床反応器であって、前記反応管が縦多管構造であり、前記反応管の外径が40〜50mmであり、肉厚が0.5〜5mmであることを特徴とする多管式固定床反応器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレンオキサイド製造用多管式固定床反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
固定床反応器は多相接触反応プロセスにおいて広く使用されており、反応器内部では固体粒子が床層として充填され、流体は固体粒子と接触して化学反応を起こす。ここで流体はガス及び/又は液体であってもよく、固体粒子は触媒又は固形物であってもよい。固定床反応器の特徴としては、反応プロセスが高温高圧下で操作され、床内触媒が摩耗し難く、流体の流れは押出流と見なすことができ、床内流体の滞留時間が制御可能であることが挙げられる。
多管式固定床反応器は、化学工業で慣用される装置の1つであり、発熱反応に常用される。このため反応で発生した熱量を反応媒体又は担媒体を介して速やか、かつ効果的に移動させ、反応管間における媒体の径方向の温度均衡を保証し、かつ触媒焼結の発生を回避する必要がある。したがって、反応器の伝熱効果は反応器の性能を量る主要な指標の1つである。よって従来技術では、反応器に関する改良は主に反応器の伝熱性を問題としており、熱交換媒体の改良、隔壁や通路の増設等の方法により、反応器の伝熱効果の問題を解決していた。
【0003】
現在、大型エチレンオキサイド/エチレングリコール工業化装置において、高活性触媒に用いるエチレンオキサイド反応器は反応管の直径が小さく、大型の多管式固定床反応器を使用する場合、その設計圧力及び設計温度が高くなり、またプロセス媒体は易燃性易爆性であってかつ毒性危害の高いガス混合物であるため、装置の安全信頼性に対する要求が極めて高い。例えば年間生産力10万トンのエチレングリコール装置では、エチレンオキサイド反応器の反応管数は1万本近くなり、装置の直径は5160mm、高さ11400mm、装置重量は500トン以上に達する。こうして反応器自体の設計圧力が高くなり、直径は大きく、必要な反応器の壁厚は増大し、反応器の重量が増えて、投資及び輸送難度が増大する。したがって、要求される生産性を満たすことを前提に、エチレンオキサイド反応器の設計を改良することが求められている。
【0004】
エチレンオキサイド反応器は多管式固定床反応器であり、反応管内には触媒が装填され、エチレンと酸素は上から下へ反応管を通過する。反応による熱量は反応管外の熱媒水によって排出される。エチレン酸化によるエチレンオキサイド生成は、銀触媒作用下の強い発熱反応であり、燃焼反応が完了するにつれ、二酸化炭素が副生成される。
エチレンオキサイド反応器の上段において、反応管外の熱媒水は一部が冷却され、熱量が反応管内の反応ガスに伝達されて、反応に要する温度に達する。エチレンオキサイド反応器の中段において、反応ガスは放出された熱量を反応管外の熱媒水に伝達し、反応管外の熱媒水が沸騰して熱量を排出する。エチレンオキサイド反応器の下段において、反応ガスは熱量を反応管外の熱媒水に伝達し、反応管外の熱媒水の温度が徐々に飽和温度に昇温する。反応管内の伝熱過程は上から下までいずれも対流伝熱過程であり、反応管外は上から下までそれぞれ冷却吸熱過程、沸騰伝熱過程及び対流伝熱過程である。
【0005】
特許文献1には、エチレンオキサイド製造用多管式固定床反応器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】CN2764474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のエチレンオキサイドの多管式固定床反応器は、いずれも若干の変更を加えれば、プロピレンオキサイドの多管式固定床反応器としても応用できる。従来のエチレンオキサイドの多管式固定床反応器における主な課題は、大型のエチレンオキサイド/エチレングリコール工業化装置において、高活性触媒に用いるエチレンオキサイド反応器の反応管径は通常38.1mmあり、要求される反応性に必要な触媒充填量を満たすために、必要な反応管数が通常1万本以上になることである。反応管数が多いと必然的に反応器の直径が大きくなり、さらに反応器の設計圧力が高くなって、必要な反応器の壁厚が厚くなり、こうして反応器の重量が増えて、投資及び輸送のコストと難度が大幅に増大する。
したがって、本発明の課題は、プロピレンオキサイドの多管式固定床反応器において、触媒充填量、反応管内軸方向及び径方向温度分布はいずれも要求される反応性を満たすことができ、同時に反応器の全体サイズが改良され、直径は短く、壁厚は薄くなって、投資が節約され、要求される生産性にさらに適合可能な多管式固定床反応器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、反応動力学方程式、伝熱モデル及び流体力学計算等に基づいて、プロピレンオキサイド多管式固定床反応器の特性、すなわち反応器の軸方向と径方向の温度分布、ホットスポットの温度と位置、熱流量、原料組成、プロピレンの転化率及びプロピレンオキサイドの選択性、沸騰水の気化分率の分布及びドラム高さ等の重要データを考慮して検討した結果、以下の発明を見出した。
[1] 反応器シェルと、反応ガス入口と、反応ガス出口と、液体入口と、液体出口と、前記反応器シェル内部に配置される反応管と、両端の管板とを含み、内部が管路とシェル路の2つの流体空間に区分けされ、前記反応ガス入口と反応ガス出口は、反応器シェルの両端に配置され、かつ管板を介して反応管に連通して管路を形成し、液体入口と液体出口はそれぞれ前記反応器シェルの側壁に設けられてシェル路を形成し、前記反応管に進入する反応ガスはプロピレンと酸素の混合ガスであり、反応管内には触媒が充填されているプロピレンオキサイド製造用多管式固定床反応器であって、
前記反応管が縦多管構造であり、前記反応管の外径が40〜50mmであり、肉厚が0.5〜5mmであることを特徴とする多管式固定床反応器。
【0009】
[2] 前記反応管の外径が42〜48mmであり、肉厚が0.5〜5mmである、[1]記載の多管式固定床反応器。
[3] 前記反応管の外径が45〜46mmであり、肉厚が0.5〜5mmである、[1]記載の多管式固定床反応器。
[4] 前記反応ガス入口は反応器シェルの頂部に配置され、前記反応ガス出口は反応器シェルの底部に配置され、前記液体入口と液体出口は、反応器シェルの側壁の下部と上部に順次それぞれ配置され、液体出口は沸水出口である、[1]記載の多管式固定床反応器。
[5] 前記反応管の内部には触媒が設けられ、各反応管の両端にそれぞれ不活性化充填材が充填される、[1]記載の多管式固定床反応器。
[6] 触媒が(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒である、[1]〜[5]のいずれか記載の多管式固定床反応器。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプロピレンオキサイドの多管式固定床反応器によれば、触媒充填量、管内軸方向及び径方向温度分布はいずれも要求される反応性を満たすことができ、同時に反応器の全体サイズが改良され、直径は短く、壁厚は薄くなって、投資が節約され、要求される生産性にさらに適合可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のプロピレンオキサイド反応器の構造略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明が適用できるプロピレンオキサイドの接触気相酸化方法としては、例えば、金属酸化物等を含有するような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法等が挙げられる。このような金属触媒存在下でプロピレン及び酸素を反応させる製法については、例えば、WO2011/075458、WO2011/075459、WO2012/005822、WO2012/005823、WO2012/005824、WO2012/005825、WO2012/005831、WO2012/005832、WO2012/005835、WO2012/005837、WO2012/009054、WO2012/009059、WO2012/009058、WO2012/009053、WO2012/009057、WO2012/009055、WO2012/009052、WO2012/009055等に記載されている。その製法において用いる触媒としては、下記(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(l)、(m)、(n)、(o)、(p)及び(q)からなる群から選ばれる少なくとも2種を含む触媒が挙げられる。
(a)銅酸化物
(b)ルテニウム酸化物
(c)マンガン酸化物
(d)ニッケル酸化物
(e)オスミウム酸化物
(f)ゲルマニウム酸化物
(g)クロミウム酸化物
(h)タリウム酸化物
(i)スズ酸化物
(j)ビスマス酸化物
(k)アンチモン酸化物
(l)レニウム酸化物
(m)コバルト酸化物
(n)オスミウム酸化物
(o)ランタノイド酸化物
(p)タングステン酸化物
(q)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分
好ましくは(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒であり、より好ましくは(a)銅酸化物、(b)ルテニウム酸化物及び(j)アルカリ金属成分又はアルカリ土類金属成分を含有する触媒である。
【0013】
本発明のプロピレンオキサイド製造用多管式固定床反応器は、反応器シェル1と、反応ガス入口2と、反応ガス出口3と、液体入口4と、液体出口5と、前記反応器シェル1の内部に配置される反応管6と、両端の管板7とを含み、前記反応器内部は管路とシェル路の2つの流体空間に区分けされ、前記反応ガス入口2、反応ガス出口3は、反応器シェル1の両端に配置され、かつ管板7を介して反応管6に連通して管路を形成し、液体入口4と液体出口5はそれぞれ前記反応器シェル1の側壁に設けられてシェル路を形成し、前記反応管6に進入する反応ガスはプロピレンと酸素の混合ガスであり、反応管6内には触媒8が充填される。
当該多管式固定床反応器は、前記反応管6が縦多管構造であり、前記反応管6の肉厚が0.5〜5mmであり、外径が40〜50mmであり、好適には42〜48mm、より好適には45〜46mmであることを特徴とする。
【0014】
具体的な使用において、前記反応ガス入口2は反応器シェル1の頂部に配置され、前記反応ガス出口3は反応器シェル1の底部に配置される。前記液体入口4と液体出口5は、反応器シェル1の側壁の下部と上部に順次それぞれ配置され、液体出口5は沸水出口である。前記反応管6の内部には触媒8が設けられ、各反応管6の両端にそれぞれ不活性化充填材9が充填される。上記不活性化充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、シリコアルミネート、粘土鉱物、マグネサイド、ドロマイト、マグネシア、ジルコニア、酸化カルシウム、炭化ケイ素、アルミナ−シリカの成形体が挙げられ、実質的に反応原料あるいは生成物を変化させないものが好ましい。形状は、球状、半球状、回転楕円状、円筒状、リング状、ペレット状、顆粒状いずれであってもよく、圧力損失が小さいものが好ましい。また、そのサイズは、通常1〜20mm程度である。
前記多管式固定床反応器又はシェルの材質は特に制限されず、炭素鋼、ステンレス鋼、合金等が使用できる。
【0015】
年産10万トンのエチレングリコール装置におけるエチレンオキサイド製造用多管式固定床反応器について言えば、反応管の外径が38.1mmであり、反応器の直径は5160mmであった。同様の生産規模に対して、本発明のプロピレンオキサイド製造用多管式固定床反応器の反応管径では、上記の38.1mmが40〜50mmに拡大する。本発明の研究と試験により、本発明の多管式固定床反応器の触媒充填量、管内軸方向、径方向の温度分布はいずれも要求される反応性を満足できる。例えば、反応管外径を45〜46mmとすると、本発明の多管式固定床反応器の直径は5000mm以下に抑えることができる。このように、多管式固定床反応器の全体サイズがさらに改良され、反応器の直径は減少し、長径比がより合理的になり、同時に壁厚が薄くなる。その結果、装置の全体重量が軽減し、投資が節約され、要求される生産性にさらに適合させることができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明をさらに詳しく述べるために、図面に基づいて具体的な実施態様を説明する。しかし本発明はこの実施態様のみによって本発明の範囲を規制するものでない。
図1に示すように、本発明の多管式固定床反応器において、前記反応管6に進入する反応ガスはプロピレンと酸素の混合ガスとし、反応管6内には触媒8を充填する。前記反応器は、反応器シェル1と、反応ガス入口2と、反応ガス出口3と、液体入口4と、液体出口5と、前記反応器シェル1の内部に配置される反応管6と、両端の管板7とを含む。前記反応器内部は、管路とシェル路の2つの流体空間に区分けする。前記反応ガス入口2及び反応ガス出口3は、反応器シェル1の両端に配置し、かつ管板7を介して反応管6に連通させ管路を形成する。液体入口4及び液体出口5は、前記反応器シェル1の側壁にそれぞれ設けてシェル路を形成する。
前記反応管6は縦多管構造とし、前記反応管6の肉厚が0.5〜5mmであり、外径は40〜50mm、好適には42〜48mm、より好適には45〜46mmである。
【0017】
前記反応ガス入口2は反応器シェル1の頂部に設け、前記反応ガス出口3は反応器シェル1の底部に設ける。前記液体入口4及び液体出口5は、反応器シェル1の側壁の下部と上部に順次それぞれ設け、液体出口5は沸水出口とする。前記反応管6内部には触媒8を設置し、かつ各反応管6の両端にそれぞれ不活性化充填材9を充填する。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のプロピレンオキサイドの多管式固定床反応器によれば、触媒充填量、管内軸方向及び径方向温度分布はいずれも要求される反応性を満たすことができ、同時に反応器の全体サイズが改良され、直径は短く、壁厚は薄くなって、投資が節約され、要求させる生産性にさらに適合可能になる。
【符号の説明】
【0019】
1 反応器シェル
2 反応ガス入口
3 反応ガス出口
4 液体入口
5 液体出口
6 反応管
7 管板
8 触媒
9 不活性化充填材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応器シェルと、反応ガス入口と、反応ガス出口と、液体入口と、液体出口と、前記反応器シェル内部に配置される反応管と、両端の管板とを含み、内部が管路とシェル路の2つの流体空間に区分けされ、前記反応ガス入口と反応ガス出口は、反応器シェルの両端に配置され、かつ管板を介して反応管に連通して管路を形成し、液体入口と液体出口はそれぞれ前記反応器シェルの側壁に設けられてシェル路を形成し、前記反応管に進入する反応ガスはプロピレンと酸素の混合ガスであり、反応管内には触媒が充填されているプロピレンオキサイド製造用多管式固定床反応器であって、
前記反応管が縦多管構造であり、前記反応管の外径が40〜50mmであり、肉厚が0.5〜5mmであることを特徴とする多管式固定床反応器。
【請求項2】
前記反応管の外径が42〜48mmであり、肉厚が0.5〜5mmである、請求項1記載の多管式固定床反応器。
【請求項3】
前記反応管の外径が45〜46mmであり、肉厚が0.5〜5mmである、請求項1記載の多管式固定床反応器。
【請求項4】
前記反応ガス入口は反応器シェルの頂部に配置され、前記反応ガス出口は反応器シェルの底部に配置され、前記液体入口と液体出口は、反応器シェルの側壁の下部と上部に順次それぞれ配置され、液体出口は沸水出口である、請求項1記載の多管式固定床反応器。
【請求項5】
前記反応管の内部には触媒が設けられ、各反応管の両端にそれぞれ不活性化充填材が充填される、請求項1記載の多管式固定床反応器。
【請求項6】
触媒が(a)銅酸化物及び(b)ルテニウム酸化物を含有する触媒である、請求項1〜5のいずれか記載の多管式固定床反応器。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−82677(P2013−82677A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2012−160412(P2012−160412)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】