説明

プロピレングリコールの製造方法

【課題】グリセリンを原料とするプロピレングリコールの製造方法において、グリセリンを気化する工程を必要としない、高収率でプロピレングリコールを製造する方法を提供すること。
【解決手段】(a)銅および酸化銅の少なくとも一方と,(b)バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物と、(c)周期律
表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(ただし,銅、(b)の元素および亜鉛を除く)の酸化物とを含む触媒の存在下で,グリセリンを接触水素
添加してプロピレングリコールを得る工程を含むことを特徴とするプロピレングリコールの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリセリンを原料とするプロピレングリコールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化を抑制する対策の一つとして、植物及び/または動物油脂を原料としたバイオディーゼルと呼ばれているディーゼルエンジン用燃料が開発されている。バイオディーゼルの製造過程ではグリセリンが原料油脂に対して約10%程度副生しており、該グリセリンの有効活用が精力的に研究されている。
【0003】
一方、プロピレングリコールはグリセリンの1位の水酸基が水素に変換された化合物であるが、生物への毒性が低く、また無味無臭であることから、保湿剤、潤滑剤、乳化剤、不凍液、溶媒などとして、広く医薬品や化粧品、食料品などの分野で用いられている。一般にプロピレングリコールは化石原料と呼ばれている石油から誘導されるプロピレンを酸化してプロピレンオキシドとし、その後、それを水和することにより製造されている。
【0004】
ここで、前記のグリセリンの有効活用について、各種触媒を使用してグリセリンをプロピレングリコールに変換することが知られている。例えば、コバルト、銅、マンガン、モリブデンからなる触媒を使用し、20重量%以下の水を含むグリセリンを触媒的水素化することによりプロピレングリコールを製造する方法が開発されている(例えば、米国特許第5616817号明細書(特許文献1)参照)。特許文献1では、200〜250℃の温度、200〜325bar(20〜32.5MPa)の圧力で反応を実施することが好ましいとされている。特に実施例に例示されている条件は200bar以上の高圧であり、装置運転の安全性等の面で不利である。
【0005】
また、酸化銅および酸化亜鉛を含む触媒の存在下、グリセリンと水素を反応させて、グリセリンをプロピレングリコールおよびエチレングリコールに変換する方法が開発されている(例えば、米国特許第5214219号明細書(特許文献2)参照)。
【0006】
また、パラジウム、ニッケル、ロジウム、銅、亜鉛、クロムおよびそれらを混合したグループから選ばれる触媒の存在下、150〜250℃の温度、1〜25bar(0.1〜2.5MPa)の圧力、2〜96時間の反応時間、原料グリセリン水溶液の濃度が50重量%以上と比較的温和な条件で反応を行う方法が開発されている(例えば、米国特許出願公開第2005/0244312号明細書(特許文献3)参照)。しかしながら、特許文献3に例示されている条件では反応時間を長くしても原料グリセリンの転化率が低く、従ってプロピレングリコールの収率も低く、効率性の点で不利となる。また、実施例で示されている反応プロセスはいわゆる反応蒸留式槽型反応プロセスであり、反応器内に経時的に蓄積する反応残渣・劣化した触媒等を断続的に抜き出す操作が必要となる等、長期的な連続運転に際しては不利である。
【0007】
また、触媒の存在下、特定の反応温度、特定の反応圧力において、グリセリンを水素化する方法が開発されている(例えば,国際公開2007/099161号パンフレット(特許文献4)参照)。そしてその反応に用いられる触媒として、特許文献4には銅を含む触媒が例示されている。
【0008】
また、触媒の存在下、特定の反応温度、特定の反応圧力、特定の水素と原料との量比および特定の反応時間かつ気相で、固定床連続反応器を用い、グリセリンを水素化する方法が開発されている(例えば、国際公開第2007/010299号パンフレット(特許文
献5)参照)。そしてその反応に用いられる触媒として、特許文献5には銅を含む各種触媒等が例示されている。この方法によれば、高収率でプロピレングリコールを得ることができるとされているが、グリセリンを反応器に導入する前に気化器で気化する必要があり、反応を実施するための消費エネルギーが増大するため経済的に不利であり、効率的とは言い難い。
【特許文献1】米国特許第5616817号明細書
【特許文献2】米国特許第5214219号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0244312号明細書
【特許文献4】国際公開第2007/099161号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2007/010299号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、グリセリンを原料とするプロピレングリコールの製造方法において、グリセリンを気化する工程を必要としない、高収率でプロピレングリコールを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、(a)銅および酸化銅の少
なくとも一方と,(b)バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選
ばれる少なくとも1種の元素の酸化物と、(c)周期律表第2族〜第14族の元素からなる
群より選ばれる少なくとも1種の元素(ただし、銅、(b)の元素および亜鉛を除く)の酸
化物とを含む触媒を用いることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち本発明の要旨は、
(a)銅および酸化銅の少なくとも一方と,(b)バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物と、(c)周期律表第2族〜
第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(ただし,銅、(b)の元素
および亜鉛を除く)の酸化物とを含む触媒の存在下で,グリセリンを接触水素添加してプロピレングリコールを得る工程を含むことを特徴とするプロピレングリコールの製造方法である。
【0012】
前記触媒における酸化物(c)は,マグネシウム,カルシウム,チタン,ジルコニウム,
バナジウム,モリブデン,タングステン,鉄,コバルト,ニッケルおよびケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることが望ましい。
【0013】
前記触媒における銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)との重量比(銅および酸化銅の少なくとも一方(a):酸化物(b))は,6:1〜6:35の範囲にあることが望ましい。
【0014】
また,前記触媒における銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(c)との重量比(銅および酸化銅の少なくとも一方(a):酸化物(c))が、100:1〜1.5:1の範囲にあることもまた望ましい。
【0015】
さらに、前記触媒における酸化物(c)は、シリカであることが特に望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、(a)銅および酸化銅の少なくとも一方と,(b)バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物と、(c)
周期律表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(ただし,銅、(b)の元素、亜鉛を除く)の酸化物とを含む触媒を用いることにより,特に,前記
酸化物(c)としてマグネシウム,カルシウム,チタン,ジルコニウム,バナジウム,モリ
ブデン,タングステン,鉄,コバルト,ニッケルおよびケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物を含む触媒を用いることにより、グリセリンを気化せずとも、高収率でグリセリンからプロピレングリコールを製造することができる。したがって、本発明の製造方法には大きな工業的利用価値がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明を詳細に説明する。
[触媒]
本発明に使用される触媒は,(a)銅および酸化銅の少なくとも一方と,(b)バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物(以下単に酸化物(b)ともいう)と、(c)周期律表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(ただし,銅、(b)の元素および亜鉛を除く)の酸化物
(以下単に酸化物(c)ともいう)とを含む触媒である。
【0018】
その触媒の調製方法は特に限定されるものではないが,銅の各種塩,バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の各種塩、周期律表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(ただし,銅、(b)の元素および亜鉛を除く)の各種塩などを原料として、公知の方法,例えば共
沈法,含浸法,混練法などにより調製する方法や,公知の方法で調製した、銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)とを含む触媒と,別途公知の方法で調製した酸化物(c)を含む物質または触媒とを混合する方法などが挙げられる。
【0019】
<触媒の好ましい態様1>
本発明に使用される触媒の好ましい態様のひとつは,銅の各種塩,バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の各種塩および周期律表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(ただし,銅、(b)の元素、亜鉛を除く)の各種塩などを原料として公知の方法で製造された触
媒である。
【0020】
すなわち本発明に使用される触媒は,銅の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物及び水酸化物等から選ばれる少なくとも1種と、
バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物及び水酸化物等から選ばれる少なくとも1種と,
さらに周期律表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物及び水酸化物等から選ばれる少なくとも1種とを原料として、共沈法、含浸法、混練法などの公知の方法で製造することが可能である。
【0021】
例えば、共沈法と呼ばれる方法では、銅の硝酸塩と、クロムの硝酸塩と、周期律表第2族の元素の硝酸塩とを含む水溶液を塩基の存在下で反応させ,銅と,クロムと,周期律表第2族の元素とを含む共沈物を製造した後、共沈物を乾燥、焼成することにより、本発明に使用される触媒を製造することができる。
【0022】
また、使用する銅の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物及び水酸化物等から選ばれる少なくとも1種、
バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種
の元素の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物及び水酸化物等から選ばれる少なくとも1種,および
周期律表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、塩化物、酸化物及び水酸化物等から選ばれる少なくとも1種の量比を変更することにより、本発明に使用される触媒における銅および酸化銅の少なくとも一方(a),酸化物(b)および酸化物(c)の含有量を調節することができる。
【0023】
ここで,本発明で使用される触媒に含まれる銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸
化物(b)との重量比(銅および酸化銅の少なくとも一方(a):酸化物(b))に特に制限はな
いが,6:1〜6:35の範囲にあることが望ましく,5:1〜5:15の範囲にあることがより望ましく,3:1〜3:7の範囲にあることがさらに望ましい。重量比が上記の範囲にある触媒を使用すると、高収率で触媒反応が進行する。
【0024】
また,本発明で使用される触媒に含まれる銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化
物(c)との重量比(銅および酸化銅の少なくとも一方(a):酸化物(c))に特に制限はない
が,100:1〜1.5:1の範囲にあることが望ましく,100:1〜4:1の範囲にあることがより望ましい。重量比が上記の範囲にある触媒を使用すると,高収率で触媒反応が進行する。
【0025】
上記記載の酸化物(c)は、マグネシウム,カルシウム,チタン,ジルコニウム,バナジ
ウム,モリブデン,タングステン,鉄,コバルト,ニッケルおよびケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることが望ましく,マグネシウム,鉄,コバルト,ニッケルおよびケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることがより望ましく,シリカ(ケイ素の酸化物)であることがさらに望ましい。
【0026】
また、本発明で使用される触媒中に本反応を阻害しない程度に、銅および酸化銅の少なくとも一方(a),酸化物(b)および酸化物(c)以外の第4の成分を含有させてもよい。この
成分としては、例えば,ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアルカリ金属類およびこれらの酸化物等が挙げられる。この第4の成分を触媒に含有させることにより、触媒の効果の持続性向上や触媒の安定性向上が期待される。
【0027】
<触媒の好ましい態様2>
また,公知の方法で調製した、銅および酸化銅の少なくとも一方(a)とバリウム,クロ
ム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物(b)とを含む触媒と,別途公知の方法で調製した周期律表第2族〜第14族の元素から選
ばれる少なくとも1種の元素(ただし,銅、(b)の元素および亜鉛を除く)の酸化物(c)を含む物質または触媒とを混合して得られた触媒も,本発明に使用される触媒の好ましい態様のひとつである。
【0028】
本発明で使用される銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)とを含む触媒としては,上記の公知の方法(共沈法、含浸法、混練法など)で製造された触媒や,市販されているもの(例えば,日揮化学(株)製N202Dやズードケミー触媒(株)製G−99CK,N−140,エヌ・イー・ケムキャット(株)製Cu−1190P等)を使用することができる。
【0029】
また,酸化物(c)を含む物質または触媒としては,周期律表第2族〜第14族の元素(
ただし,銅、(b)の元素および亜鉛を除く)の酸化物を単独で,または複数種の元素の酸
化物の混合物(例えば,エヌ・イー・ケムキャット(株)製Ni−5256等)として使用することも,銅および酸化銅の少なくとも一方と周期律表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(ただし,銅、(b)の元素および亜鉛を除く)
の酸化物とを含む触媒,すなわち上記の公知の方法(共沈法、含浸法、混練法など)で製造された触媒や,市販されているもの(例えば,日揮化学(株)製E35S,堺化学(株)製KC−1H等)を使用することもできる。
【0030】
本発明で使用される触媒に含まれる銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)との重量比(銅および酸化銅の少なくとも一方(a):酸化物(b))に特に制限はないが,6:1〜6:35の範囲にあることが望ましく,5:1〜5:15の範囲にあることがより望ましく,3:1〜3:7の範囲にあることがさらに望ましい。重量比が上記の範囲にある触媒を使用すると、高収率で触媒反応が進行する。なお、ここで銅および酸化銅の少なくとも一方(a)の重量は、酸化物(c)を含む物質または触媒に銅および酸化銅の少なくとも一方が含まれる場合には、銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)とを含む触媒中の銅および酸化銅の重量と、酸化物(c)を含む物質または触媒中の銅および酸化銅の重量
との合計を指す。
【0031】
また,本発明で使用される触媒に含まれる銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化
物(c)との重量比(銅および酸化銅の少なくとも一方(a):酸化物(c))に特に制限はない
が,100:1〜1.5:1の範囲にあることが望ましく,100:1〜4:1の範囲にあることがより望ましく,100:1〜5:1の範囲にあることがさらに望ましい。重量比が上記の範囲にある触媒を使用すると,高収率で触媒反応が進行する。なお、ここで銅および酸化銅の少なくとも一方(a)の重量は、酸化物(c)を含む物質または触媒に銅および酸化銅の少なくとも一方が含まれる場合には、銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸
化物(b)とを含む触媒中の銅および酸化銅の重量と、酸化物(c)を含む物質または触媒中の銅および酸化銅の重量との合計を指す。
【0032】
上記記載の酸化物(c)は,マグネシウム,カルシウム,チタン,ジルコニウム,バナジ
ウム,モリブデン,タングステン,鉄,コバルト,ニッケルおよびケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることが望ましく,マグネシウム,鉄,コバルト,ニッケルおよびケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることがより望ましく,シリカ(ケイ素の酸化物)であることがさらに望ましい。
【0033】
また、本発明で使用される触媒中に本反応を阻害しない程度に、銅および酸化銅の少なくとも一方(a),酸化物(b)および酸化物(c)以外の第4の成分を含有させてもよい。この
成分としては、例えば,ナトリウム、カリウム、セシウムなどのアルカリ金属類およびこれらの酸化物等が挙げられる。この第4の成分を触媒に含有させることにより、触媒の効果の持続性向上や触媒の安定性向上が期待される。
【0034】
[反応]
本発明の製造方法においては、銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と,酸化物(b)と、酸化物(c)とを含む触媒の存在下で、グリセリンに対して接触水素添加をする。
【0035】
本発明で用いる上記触媒はそのまま利用してもよいが、取扱い性の改善、触媒の安定性改善、反応効率の改善などのため公知の方法(例えば,触媒講座5,触媒設計,第4章,116ページ,触媒学会編,講談社,1985年刊参照)で成形してもよい。成形して触媒の粒子径および形状をどのようにするかは、反応の様式および反応器の形状によって任意に選択しうる。
【0036】
成形の際、適当なバインダーを用いることもできる。バインダーは固体を結合させ触媒の機械的強度を増強させる目的で用いられるものであり、本発明に係わる反応を阻害しないものであれば無機物、有機物のいずれでも使用できる。バインダーの具体例としては、粘土、カオリン、タルク、ベントナイト、アルミナゾル、ジルコニアゾル、ケイ酸塩、炭
化ケイ素、有機ポリマーなどが挙げられる。
【0037】
本発明の製造方法ではグリセリンを接触水素添加してプロピレングリコールを得るが、グリセリンは単独、水溶液又は有機溶剤との溶液のいずれの状態でも用いることができる。水又は有機溶剤の使用量は特に制限はないが、グリセリン100重量%に対して通常5〜90重量%である。容積効率や反応速度の観点から、好ましくは、10〜70重量%である。
【0038】
本発明の製造方法を実施する反応器としては、オートクレーブ、固定床触媒反応器、流動床触媒反応器又は移動床触媒反応器等を挙げることができる。
触媒の使用量は、例えば,オートクレーブの場合、グリセリン100重量%に対して、通常0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0039】
本発明において触媒を反応器に装入する方法について特に制限はない。例えば,触媒の好ましい態様2で説明した触媒を用いる場合、公知の方法で調製した、銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)を含む触媒と,別途公知の方法で調製した酸化物(c)を含
む物質または触媒とを混合してから反応器に装入してもよい。また、例えば、銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化亜鉛(b)とを含む触媒と,銅および酸化銅の少なくとも一方と酸化物(c)とを含む触媒とを用いる場合、固定床反応器に,それぞれを交互に装入し
てそれぞれの触媒が層状になるようにしてもよい。
【0040】
本発明で使用される触媒を反応に用いるに際しては、そのまま反応に用いてもよいし、反応で利用する前に予め水素による還元で活性化し、触媒中に含有される金属化合物を完全にまたは部分的に金属に還元してから用いてもよい。一般にこの還元は100〜400℃で触媒を水素ガスと接触させることにより行なわれる。
【0041】
また、触媒の好ましい態様2で説明した触媒を使用する場合には、銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)とを含む触媒のみに対して還元操作を行い、還元操作を経た触媒に酸化物(c)を含む物質または触媒を混合してもよいし、銅および酸化銅の少なくと
も一方(a)と酸化物(b)とを含む触媒と、酸化物(c)を含む物質または触媒とを混合して得
られた触媒に対して還元操作を行ってもよい。さらに,銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)とを含む触媒と,銅および酸化銅の少なくとも一方と酸化物(c)とを含む
触媒に対してそれぞれ還元操作を行った後にそれら還元操作を経た2種類の触媒を混合してもよい。
【0042】
通常、反応は、連続条件下又はバッチ式に、液相で、100〜350℃の範囲、好ましくは150〜300℃の範囲,より好ましくは150〜250℃の反応温度で実施することができる。
【0043】
連続条件下又はバッチ式の場合、反応は一般に水素圧1〜30MPa、好ましくは2〜20MPa,より好ましくは3〜15MPaで実施される。このような範囲の圧力では反応速度が十分に速く、効率よくプロピレングリコールを得ることができる。
【0044】
反応時間は通常1〜20時間である。
本発明の製造方法では上述のように、グリセリンを気化せずとも、高収率でグリセリンからプロピレングリコールを製造することができるが、もちろん,グリセリンを気化して接触水素添加を気相で行ってもよい。また、グリセリンを接触水素添加する工程の前に、原料グリセリンから触媒毒を取り除く工程などを適宜加えてもよい。
【実施例】
【0045】
以下実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。尚、グリセリンの転化率およびプロピレングリコールの収率はガスクロマトグラフィー(ガスクロマトグラフ装置:島津社製GC−14A、カラム:アジレント社製HP−INNOWAX、検出器:FID)で算出した。
【0046】
[実施例1]
グリセリン24g、蒸留水6gおよび日揮化学(株)製N202D(酸化銅38%,酸化クロム37%,酸化マンガン2%,バインダー23%)1.20gおよび日揮化学(株)製E35S(酸化銅67%,シリカ27%,バインダー6%)0.24gを量り取り、電磁誘導回転撹拌装置の付いたSUS316製の100mlオートクレーブに装入した。
【0047】
オートクレーブ内部を窒素で置換した(10MPa×5回)後、水素で置換(10MPa×5回)を行い、最後に室温で内圧10MPaになるまで水素を充填し、オートクレーブを密閉した。オートクレーブ内部の触媒を含む反応液を撹拌速度450rpmで撹拌しながら、オートクレーブを200℃まで加熱して接触水素添加反応を実施した。12時間後、加熱を停止し、自然放冷でオートクレーブを冷却し、オートクレーブ内の温度が30℃以下に下がってから内部を窒素置換して開封した。内容物をろ過して触媒を除去し、得られた反応液をガスクロマトグラフィーで分析したところ、グリセリンの転化率は77.2%、プロピレングリコールの収率は74.1%であった。
【0048】
[実施例2]
実施例1においてN202Dの代わりにズードケミー触媒(株)製N−140(酸化銅46%,酸化マンガン40%,バインダー14%)1.20gを用いた以外は実施例1と同様にして反応を実施した。結果,グリセリンの転化率は67.2%,プロピレングリコールの収率は64.8%であった。
【0049】
[比較例1]
実施例1においてE35Sを使用しなかった以外は実施例1と同様にして反応を実施した。結果,グリセリンの転化率は19.3%,プロピレングリコールの収率は17.8%であった。
【0050】
[比較例2]
実施例1においてN202Dを使用せず,E35Sを1.20g使用した以外は実施例1と同様にして反応を実施した。グリセリンの転化率は36.6%,プロピレングリコールの収率は30.1%であった。
【0051】
[実施例3]
実施例1において,E35Sの代わりに富士シリシア(株)製キャリアクトQ6(シリカ)を0.07g使用した以外は実施例1と同様にして反応を実施した。結果,グリセリンの転化率は74.5%,プロピレングリコールの収率は70.3%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)銅および酸化銅の少なくとも一方と,
(b)バリウム,クロム,マンガンおよびアルミニウムからなる群より選ばれる少なくと
も1種の元素の酸化物と、
(c)周期律表第2族〜第14族の元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(
ただし,銅、(b)の元素および亜鉛を除く)の酸化物と
を含む触媒の存在下で,グリセリンを接触水素添加してプロピレングリコールを得る工程を含むことを特徴とするプロピレングリコールの製造方法。
【請求項2】
前記触媒における酸化物(c)が、マグネシウム,カルシウム,チタン,ジルコニウム,
バナジウム,モリブデン,タングステン,鉄,コバルト,ニッケルおよびケイ素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレングリコールの製造方法。
【請求項3】
前記触媒における銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(b)との重量比(銅および酸化銅の少なくとも一方(a):酸化物(b))が、6:1〜6:35の範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載のプロピレングリコールの製造方法。
【請求項4】
前記触媒における銅および酸化銅の少なくとも一方(a)と酸化物(c)との重量比(銅および酸化銅の少なくとも一方(a):酸化物(c))が、100:1〜1.5:1の範囲にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレングリコールの製造方法。
【請求項5】
前記触媒における酸化物(c)がシリカであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか
に記載のプロピレングリコールの製造方法。

【公開番号】特開2009−298734(P2009−298734A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155668(P2008−155668)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】