説明

プロピレン系変性樹脂組成物

【課題】柔軟でかつ耐油性を有するプロピレン系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120〜170℃であるポリプロピレン系重合体(A)と、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120℃未満または融点が観測されないプロピレン系重合体(B)を(A):(B)=5〜40(質量%):60〜95(質量%)(ただし、(A)+(B)=100質量%とする)の割合で含有する樹脂組成物であって、プレスシートにて測定した表面硬度ショアーDが40以下であり、前記プロピレン系重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)の総量((A)+(B))100質量部に対して、極性モノマー(M)の含有量が0.010〜15質量部であることを特徴とするプロピレン系変性樹脂組成物(C)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系変性樹脂組成物、および該樹脂組成物からなる接着剤、成形体に関する。より詳しくは、本発明は極性モノマーを含み、かつ、柔軟性、耐油性、耐熱性、機械強度、破断点伸びに優れたプロピレン系変性樹脂組成物に関し、さらに、このプロピレン系変性樹脂組成物を用いた接着剤、成形体および電線に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系樹脂は安価で成形性、耐薬品性、耐水性および絶縁性など多くの優れた性質を有する。プロピレン系樹脂は、エチレン系樹脂よりも耐熱性、機械強度、耐傷付き性に優れた材料であり、その成形品は幅広い用途に用いられている。プロピレン系樹脂中に含まれるコモノマー量を最適にすることで、結晶化度を制御し、プロピレン系樹脂の特長を大きく損なうことなく柔軟性を付与することが可能である。
【0003】
しかし、柔軟性の高いプロピレン系樹脂は結晶化度が低いため、耐油性が不十分な場合がある。柔軟性を有し、かつ耐油性を有するプロピレン系樹脂組成物が求められている。
【0004】
プロピレン系樹脂に耐油性を付与する手法として、極性モノマーをグラフトすることが考えられる。例えば、オレフィン系ゴムにアクリル酸エステルなどの極性モノマーをグラフトすることで耐油性が向上するが知られている(特許文献1)。
【0005】
より簡便に耐油性を向上させる方法として、親水性を有する樹脂を配合することが考えられる。プロピレン系材料との相容性の観点から、グラフト変性させたプロピレン系樹脂をブレンドすることが知られている。特許文献2にはプロピレン系樹脂、変性ポリプロピレンおよび水酸化マグネシウムからなるプロピレン系樹脂組成物が良好な耐油性を示すことが記述されている。しかし、該文献は耐外傷性や耐摩耗性に優れた樹脂組成物を提供するものであるが、柔軟性を有するプロピレン系樹脂組成物を提供するものではない。同様に、特許文献3にはプロピレン系樹脂、変性プロピレン系樹脂および水酸化マグネシウムからなる樹脂組成物はある程度の柔軟性を発現するものの、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−80540号
【特許文献2】特開2006−199923号
【特許文献3】国際公開2007/116708号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、柔軟でかつ耐油性を有するプロピレン系変性樹脂組成物を提供することにある。また、本発明のプロピレン系変性樹脂組成物に適切な無機系充填剤を配合することで、柔軟性、耐油性、耐熱性に加え難燃性を有する組成物を提供することができる。また、本発明の目的は、極性モノマーを含むプロピレン系変性樹脂組成物を与える製造方法を提供することにある。また、本発明の目的は、本発明のプロピレン系変性樹脂組成物を含む接着剤および成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、極性モノマーを含むプロピレン系変性樹脂組成物が柔軟性、機械的強度、破断点伸びおよび耐熱性を有しかつ、耐油性を有することを見出した。
本発明に係るプロピレン系変性樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120〜170℃であるポリプロピレン系重合体(A)と、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120℃未満または融点が観測されないプロピレン系重合体(B)を(A):(B)=5〜40(質量%):60〜95(質量%)(ただし、(A)+(B)=100質量%とする)の割合で含有する樹脂組成物であって、プレスシートにて測定した表面硬度ショアーDが40以下であり、前記プロピレン系重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)の総量((A)+(B))100質量部に対して、極性モノマー(M)の含有量が0.010〜15質量部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプロピレン系樹脂は、良好な柔軟性を有するとともに、優れた耐油性、耐熱性、機械的強度および破断点伸びを有する。本発明のプロピレン系樹脂組成物は接着剤原料として好適に使用される。また、本発明のプロピレン系変性樹脂組成物は耐油性および耐熱性に優れた成形体に好適に利用できる。具体的には電線の絶縁体またはシース(保護外被膜)として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】耐熱クリープ測定用の特殊ダンベルを図示したものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
<プロピレン系重合体(A)>
本発明で用いられるプロピレン系重合体(A)としては、プロピレン単独重合体、または、プロピレンと、プロピレン以外の炭素原子数が2〜20のα−オレフィンの少なくとも一種との共重合体を挙げることができる。ここで、プロピレン以外の炭素原子数が2〜20のα−オレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチルペンテン、1−オクテンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、プロピレンとランダム共重合体を形成してもよく、ブロック共重合体を形成してもよい。これらのα−オレフィンから導かれる構成単位は、プロピレン系重合(A)の全構成単位中に10モル%以下の割合で含まれていてもよい。本発明に用いられるプロピレン系重合体(A)は以下の要件(a1)〜(a3)を全て満たすものである。
【0012】
(a1)示差走査熱量計(DSC)で測定される融点は、120℃以上、好ましくは120〜170℃、より好ましくは125〜165℃である。測定は、試料をアルミパンに詰め、100℃/分で200℃まで昇温して200℃で5分保持した後、10℃/分で−150℃まで降温し、次いで10℃/分で200℃まで昇温する際の発熱・吸熱曲線より求める。
【0013】
(a2)アイソタクチック構造を有しているものであり、13C NMRにより求められるアイソタクチックペンタッド分率(mmmm)が90〜99.8%の範囲にある。アイソタクチックペンタッド分率(mmmm)は、13C NMR(核磁気共鳴装置)を使用して測定される分子鎖中のペンタッド単位でのアイソタクチック連鎖の存在割合を示しており、プロピレンモノマー単位が5個連続してメソ結合した連鎖の中心にあるプロピレンモノマー単位の分率である。具体的には、13C NMRスペクトルで観測されるメチル基炭素領域の全吸収ピーク中に占めるmmmmピークの分率として算出される値である。なお、このアイソタクチックペンタッド分率(mmmm)は、例えば特開2007−186664公報に記載の方法で求めることができる。
【0014】
(a3)ASTM D1238に準拠して、230℃、荷重2.16kgで測定されるメルトフローレート(MFR)は、通常0.1〜100g/10分の範囲にある。
【0015】
また、必要に応じて複数のプロピレン系重合体(A)を併用することができ、例えば、融点および剛性の異なる2種類以上の成分を用いることもできる。
【0016】
このようなプロピレン系重合体(A)は、例えば、マグネシウム、チタン、ハロゲンおよび電子供与体を必須成分として含有する固体触媒成分、有機アルミニウム化合物および電子供与体からチーグラー触媒系、またはメタロセン化合物を触媒の成分として用いたメタロセン触媒系を用いて、プロピレンを重合して、あるいは、プロピレンと他のα−オレフィンとを共重合して製造できる。
【0017】
<プロピレン系重合体(B)>
本発明で用いられるプロピレン系重合体(B)は、示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120℃未満または融点が観測されないプロピレン系重合体、より具体的には、プロピレン以外の炭素数2〜20のαオレフィンを少なくとも1種含み、かつプロピレン由来の構成単位が最も多い(好ましくは51モル%以上、より好ましくは51モル%以上90モル%以下)プロピレン・αオレフィンランダム共重合体である。
ここでプロピレン以外の炭素数2〜20のαオレフィンとしては、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチルペンテン、1−オクテンなどが挙げられる。
本発明に用いられるプロピレン系重合体(B)は、以下の要件(b1)を満たすものであり、好ましくはさらに用件(b2)、より好ましくはさらに要件(b3)〜(b5)を満たすものであり、さらにより好ましくは、要件(b1)〜(b5)に加えて要件(b6)〜(b9)も満たすものである。
なお、柔軟性の観点からは、αオレフィンとしてエチレンを含む共重合体(プロピレン・エチレン共重合体)が好ましく、プロピレン系重合体(A)との相溶性の観点からは、αオレフィンとして1−ブテンを含む共重合体(プロピレン・1−ブテン共重合体)が好ましい。さらに柔軟性とプロピレン系重合体(A)との相溶性の両方の観点から、プロピレン・エチレン・(C4〜C20の)αオレフィン共重合体がより好ましく、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体が特に好ましい。
【0018】
(b1)示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120℃未満であるか、または融点が観測されず、好ましくは、融点が100℃以下であるか、または融点が観測されない。測定は上記(a1)に記載の方法で行った。ここで、融点が観測されないとは、−150〜200℃の範囲において、結晶融解熱量が1J/g以上の結晶融解ピークが観測されないことをいう。
【0019】
上述したとおり、柔軟性とプロピレン系重合体(A)との相溶性の両方の観点から、プロピレン・エチレン・(C4〜C20の)αオレフィン共重合体がより好ましいが、より具体的には下記要件(b2)を満たすものが好ましい。
(b2)プロピレン由来の構成単位を51〜90モル%、エチレン由来の構成単位を7〜24モル%、炭素数4〜20のα−オレフィン由来の構成単位を3〜25モル%含む(ここでプロピレン由来の構成単位とエチレン由来の構成単位と炭素数4〜20のαオレフィン由来の構成単位の合計を100モル%とする)。各コモノマーの構成単位(モル%)は13C NMRスペクトルの解析によって求められる。
【0020】
(b3)ショアーA硬度が20〜90の範囲にある方が、柔軟性の観点で好ましく、35〜60の範囲にある方がより好ましい。ショアーA硬度は、プロピレン系重合体(B)を190〜230℃で加熱溶融させた後15〜25℃の冷却温度でプレス成形して得られた試験体を、23℃±2℃の環境下で72時間以上保管した後、A型測定器を用い、押針接触後直ちに目盛りを読むことによって得られる値である(ASTM D−2240に準拠)。
【0021】
(b4)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.2〜3.5である方が好ましい。このような分子量分布を有する方が、低分子量成分が少ないためべた付き感が抑制されるなどの点で好ましい。
【0022】
(b5)アイソタクチックトライアッド分率(mm)が85〜99.9%、より好ましくは85〜97.5%、特に好ましくは90〜97%の範囲にある方が望ましい。アイソタクチックトライアッド分率(mm)がこの範囲にあると、エチレンや1−ブテンなどのコモノマーを多く共重合させた場合でも、完全に結晶性が失われないため、機械物性などの観点で本発明に好適である。アイソタクチックトライアッド分率(mm)は、国際公開2004−087775号パンフレットの21頁7行目から26頁6行目までに記載された方法を用いて測定することができる。
【0023】
(b6)下記式(1)で定義されるB値が0.8〜1.3、好ましくは0.9〜1.2、より好ましくは0.9〜1.1の範囲にある方が、相容性の観点で望ましい。式中、MOEは、プロピレンとエチレンの連鎖と炭素数4以上のα−オレフィンとエチレンの連鎖の合計の、全ダイアッドに対するモル分率を表し、MOはプロピレンと炭素数4以上のα−オレフィンのモル分率の合計を表し、MEはエチレンのモル分率を表す。B値が本範囲より大きい場合、各モノマー(プロピレン、エチレン、炭素4〜20のα−オレフィン)が交互に結合した交互共重合体に近い一次構造を有することを意味し、本範囲より小さい場合、各モノマーが密集したブロック共重合体に近い一次構造を有することを意味する。
【0024】
【数1】

【0025】
(b7)全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1−結合量が1%未満である方が、エチレンや1−ブテンなどのコモノマーを多く共重合させた場合でも、完全に結晶性が失われないため、機械物性などの観点で本発明に好適である。全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1−結合量は、特開平7−145212号公報に記載の方法により算出されるが、15.0〜17.5ppmの範囲にピークが観測されないものが特に好ましい。
(b8)ガラス転移温度(Tg)が−10℃〜−50℃の範囲に観測される方が、低温での機械物性の観点で好ましい。示差走査熱量計(DSC)により、上記(a1)記載の条件により求めることができる。
(b9)MFR(ASTMD1238、230℃、2.16kg荷重)が0.5〜500g/10分である方が、加工性や機械物性の観点で好ましく、1〜100g/10分の方がより好ましい。
【0026】
プロピレン系重合体(B)の製造方法は特に限定されないが、オレフィンをアイソタチック構造で立体規則性重合できる公知の触媒、例えば、固体状チタン成分および有機金属化合物を主成分とする触媒、またはメタロセン化合物を触媒の成分として用いたメタロセン触媒の存在下で、プロピレン、エチレンと他のα−オレフィンとを共重合して製造できる。好ましくは、メタロセン触媒の存在下で共重合することにより得られる。

<極性モノマー(M)を含むプロピレン系変性樹脂組成物(C)>
本発明の極性モノマー(M)を含むプロピレン系変性樹脂組成物(C)は、プロピレン系樹脂組成物に、極性モノマー(M)を添加して、該極性モノマー(M)の少なくとも一部をたとえばグラフト重合させることにより得られる変性樹脂組成物である。極性モノマー(M)は通常、ラジカル開始剤の存在下、前記プロピレン系重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)の総量((A)+(B))100質量部に対して、0.010〜15質量部、好ましくは0.010〜5.0質量部添加させる。ラジカル開始剤は、プロピレン系樹脂組成物100質量部に対して、0.0010〜1.0質量部、より好ましくは0.0010〜0.30質量部の量で用いられる。
【0027】
極性モノマー(M)としては、水酸基含有エチレン性不飽和化合物、シラン化合物、アミノ基含有エチレン性不飽和化合物、エポキシ基含有エチレン性不飽和化合物、芳香族ビニル化合物、不飽和カルボン酸またはその誘導体、ビニルエステル化合物、塩化ビニルなどが挙げられる。
【0028】
ラジカル開始剤としては、有機過酸化物、アゾ化合物または金属水素化物などを用いることができる。ラジカル開始剤は、極性モノマー(M)およびプロピレン系樹脂組成物(C)の他の成分とそのまま混合しても使用することができるが、少量の有機溶媒に溶解してから使用することもできる。この有機溶媒としては、ラジカル開始剤を溶解し得る有機溶媒であれば特に限定されない。
【0029】
プロピレン系樹脂組成物の極性モノマー(M)によるグラフト変性は、従来公知の方法で行うことができる。プロピレン系樹脂組成物を有機溶媒に溶解し、次いで極性モノマー(M)およびラジカル開始剤などを溶液に加え、70〜200℃、好ましくは80〜190℃の温度で、0.5〜15時間、好ましくは1〜10時間反応させる方法が挙げられる。
【0030】
また、押出機などを用いて、無溶媒で、ラジカル開始剤存在下、極性モノマー(M)と、プロピレン系重合体(A)および/またはプロピレン系重合体(B)とを反応させて、プロピレン系変性樹脂組成物(C)を製造することもできる。この反応は、プロピレン系樹脂組成物(C)の融点以上の温度で、通常0.5〜10分間行われることが望ましい。
【0031】
また、極性モノマー(M)を含むプロピレン系変性樹脂組成物(C)に未変性のプロピレン系樹脂組成物を配合し、変性度や各種の物性を調節してもよい。なお、プロピレン系変性樹脂組成物(C)に添加した極性モノマー(M)は、少なくも一部がプロピレン系重合体(A)および/またはプロピレン系重合体(B)の変性に寄与していればよく、未反応の極性モノマー(M)を公知の方法などにより、必要に応じて除去しても構わない。
【0032】
本発明のプロピレン系変性樹脂組成物(C)は、以下要件(c1)および(c2)を満たすものである。
(c1)ASTM D2240に記載の方法により測定した表面硬度ショアーDが40以下、柔軟性の観点からより好ましくは35以下である。具体的には、190〜230℃で加熱溶融させた後15〜25℃の冷却温度でプレス成形して得られた試験体を、23℃±2℃の環境下で72時間以上保管した後、D型測定器を用い、押針接触後5秒後に目盛りを読むことによって得られる値である。
(c2)前記プロピレン系重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)の総量((A)+(B))100質量部に対して、極性モノマー(M)の含有量が0.010〜15質量部である。
【0033】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、他の合成樹脂、他のゴム、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、結晶核剤、顔料、塩酸吸収剤、銅害防止剤等の添加物を含んでもよい
【0034】
<無機系充填剤(D)>
難燃性が必要とされる場合には、プロピレン系変性樹脂組成物(C)に無機系充填剤(D)を配合することが好ましい。
【0035】
本発明で用いられる無機系充填剤(D)としては、例えば、金属水酸化物、金属炭酸塩および金属酸化物から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を挙げることができる。これらの中でも、金属水酸化物が好ましく、さらに水酸化マグネシウムがより好ましい。
【0036】
本発明では、無機充填剤と樹脂の相互作用が重要であるため、適切な表面処理が施された無機充填剤(D)が望ましい。具体的には、協和化学工業社製のキスマ5B、キスマ5L、キスマ5A、キスマ5Pおよびアルベマーレ社製のマグニフィンH5IV(以上、いずれも商品名)などが好適に使用させる。無機系充填剤(D)の平均粒径としては、通常0.10〜20μm、好ましくは0.50〜15μmである。
これらの無機充填剤(D)は単独で、あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0037】
<プロピレン系樹脂組成物(E)>
前記プロピレン系重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)の総量((A)+(B))100質量部に対して、金属水酸化物、金属炭酸塩および金属酸化物から選ばれる1種以上からなる無機系充填剤(D)を1〜400質量部、好ましくは200〜300質量部をさらに添加(生産性の観点から溶融混練による添加が好ましい)してプロピレン系樹脂組成物(E)を得ることができる。また、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて、さらに他の合成樹脂、他のゴム、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、結晶核剤、顔料、塩酸吸収剤、銅害防止剤等の添加物を含んでもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
<成分(A)、(B)および(D)>
プロピレン系重合体(A)
(A−1)アイソタクチックポリプロピレン(PP)
プロピレン・エチレン共重合体(MFR(230℃):3 g/10min、エチレン含量:1.5 mol%)
(A−2)アイソタクチックポリプロピレン
プロピレンホモ重合体(MFR(230℃):7 g/10min)
(A−3)アイソタクチックポリプロピレン
プロピレン・エチレン共重合体(MFR(230℃):0.5 g/10min、エチレン含量:0.6 mol%)
【0040】
プロピレン系重合体(B)
(B−1)プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(PEBR)
プロピレン・エチレン・1−ブテンランダム共重合体(MFR(230℃):7 g/10min、Tm:観測されず、エチレン含量:16モル%、1−ブテン含量:6モル%)を使用した(国際公開2004/87775号パンフレットに記載の方法で製造した)。
(B−2)プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(PEBR)
プロピレン・エチレン・1−ブテンランダム共重合体(MFR(230℃):4 g/10min、Tm:観測されず、エチレン含量:10モル%、1−ブテン含量:19モル%)を使用した(国際公開2004/87775号パンフレットに記載の方法で製造した)。
【0041】
無機系充填剤(D)
(D−1)水酸化マグネシウム(Mg(OH)2、商品名:キスマ5B、脂肪酸表面処理、協和化学工業社製)を使用した。
<各成分の物性値の測定方法>
上記各成分の物性値は下記のように測定した。
・ コモノマー(エチレン、1−ブテン)含量
13C NMRスペクトルの解析により求めた。
・ メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238に準拠し、温度230℃あるいは190℃で、荷重2.16 kgにより測定した。
【0042】
<実施例および比較例の評価項目>
・ 表面硬度(D硬度)
ASTM D2240に準じて測定した。
・ 降伏点応力(YS)、降伏点伸び(EL at YS)、破断点応力(TS)、破断点伸び(EL at TS)、初期弾性率(YM)
JIS K7113−2に準拠し、厚み2mmのプレスシートから試験片を抜き打ち、200mm/minの引張速度にて23℃および80℃にて測定した。
・ 耐熱クリープ
2mm厚みのプレスシートより図1に示す試験片を作製し、粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製、RSA-III)を用いて測定した。具体的には、室温下で試験片の上下端を20mmとなるようにチャック治具で軽く固定し、−40℃に冷却後しっかりと固定した。100℃まで昇温させ温度が安定した後、0.2MPaの張力を加え、30分後のクリープ量(%)を測定した。この値が小さいほど耐熱性に優れる。
【0043】
・ 耐油性試験
2mm厚みのプレスシートをIRM903中に80℃、4時間浸漬させた後、外観を評価した。評価の基準は以下のようにした。
○:膨潤するものの、表面の平滑性を保った。
△:大きく膨潤し、表面の凹凸が顕著になった。
×:溶解あるいは変形が著しい。
また、下記式(2)により厚みの変化率を求めた。この値が小さいほど耐油性に優れる。
【0044】
【数2】

【0045】
[実施例1]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)9質量%、アイソタクチックポリプロピレン(A−3)15質量%およびプロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−2)76質量%からなるプロピレン系樹脂組成物10 kgと、無水マレイン酸50gおよび2,5−ジメチル―2,5―ジ―(t―ブチルペルオキシ)―3―ヘキシン10gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。
次いで、得られたブレンド物を、スクリュー径32mm、L/D=42の二軸押出機のホッパーから投入し、樹脂温度200℃、スクリュー回転数240rpm、吐出量12 kg/hでストランド状に押し出した。得られたストランドを十分冷却した後、造粒することで、プロピレン系樹脂組成物(C−1)を得た。得られた(C−1)の評価結果を表1に示す。
【0046】
[実施例2]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)9質量%、アイソタクチックポリプロピレン(A−3)15質量%およびプロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−2)76質量%からなるプロピレン系樹脂組成物10 kgと、無水マレイン酸100gおよび2,5−ジメチル―2,5―ジ―(t―ブチルペルオキシ)―3―ヘキシン20 gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。実施例1と同様の手法により、プロピレン系樹脂組成物(C−2)を得た。得られた(C−2)の評価結果を表1に示す。
【0047】
[実施例3]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)9質量%、アイソタクチックポリプロピレン(A−3)15質量%およびプロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−2)76質量%からなるプロピレン系樹脂組成物10 kgと、無水マレイン酸150gおよび2,5−ジメチル―2,5―ジ―(t―ブチルペルオキシ)―3―ヘキシン30gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。実施例1と同様の手法により、プロピレン系樹脂組成物(C−3)を得た。得られた(C−3)の評価結果を表1に示す。
【0048】
[実施例4]
アイソタクチックポリプロピレン(A−2)4質量%、アイソタクチックポリプロピレン(A−3)15質量%およびプロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−2)81質量%からなるプロピレン系樹脂組成物10 kgと、無水マレイン酸50 gおよび2,5−ジメチル―2,5―ジ―(t―ブチルペルオキシ)―3―ヘキシン15 gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。実施例1と同様の手法により、プロピレン系樹脂組成物(C−4)を得た。得られた(C−4)の評価結果を表1に示す。
【0049】
[実施例5]
アイソタクチックポリプロピレン(A−2)4質量%、アイソタクチックポリプロピレン(A−3)15質量%およびプロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−2)81質量%からなるプロピレン系樹脂組成物10 kgと、無水マレイン酸100 gおよび2,5−ジメチル―2,5―ジ―(t―ブチルペルオキシ)―3―ヘキシン20gをアセトンに溶解した溶液をブレンドした。実施例1と同様の手法により、プロピレン系樹脂組成物(C−5)を得た。得られた(C−5)の評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
[実施例6]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)8質量%、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−1)72質量%および上記実施例4に記載のプロピレン系樹脂組成物(C−4)20質量%からなる樹脂組成物(プロピレン系重合体(A):12質量%、プロピレン系重合体(B):88質量%、(A)+(B)=100質量部に対する極性モノマー(M)の割合:0.10質量部)に、(A)+(B)=100質量部に対して200質量部となる割合で水酸化マグネシウム(D−1)を添加し、ラボプラストミル(東洋精機社製)により、200℃、40rpm、5分間混練した。得られたプロピレン系組成物(E−1)をプレス成形機により、厚さ2mmのシートに成形した(加熱:200℃、7分間、冷却:20℃、4分間)。評価結果を表2に示す。
【0052】
[実施例7]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)8質量%、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−1)72質量%および上記実施例4に記載のプロピレン系樹脂組成物(C−4)20質量%からなる樹脂組成物(プロピレン系重合体(A):12質量%、プロピレン系重合体(B):88質量%、(A)+(B)=100質量部に対する極性モノマー(M)の割合:0.10質量部)に、(A)+(B)=100質量部に対して、250質量部となる割合で水酸化マグネシウム(D−1)を添加して、上記実施例6と同様の方法により混練した。得られたプロピレン系組成物(E−2)を実施例6と同様にシート成形した。評価結果を表2に示す。
【0053】
[実施例8]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)6質量%、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−1)54質量%および上記実施例4に記載のプロピレン系樹脂組成物(C−4)40質量%からなる樹脂組成物合計100質量部に対し(これら樹脂組成物中のPPに由来する成分は12質量%、PEBRに由来する成分は88質量%である)、水酸化マグネシウム(D−1)200質量部を上記実施例6と同様の方法により混練した。得られたプロピレン系組成物(E−3)を実施例6と同様にシート成形した。評価結果を表2に示す。
【0054】
[実施例9]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)6質量%、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−1)54質量%および上記実施例4に記載のプロピレン系樹脂組成物(C−4)40質量%からなる樹脂組成物合計100質量部に対し(これら樹脂組成物中のPPに由来する成分は12質量%、PEBRに由来する成分は88質量%である)、水酸化マグネシウム(D−1)250質量部を上記実施例6と同様の方法により混練した。得られたプロピレン系組成物(E−4)を実施例6と同様にシート成形した。評価結果を表2に示す。
【0055】
[比較例1]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)10質量%およびプロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−1)90質量%からなる樹脂組成物合計100質量部に対し、水酸化マグネシウム(D−1)200質量部を上記実施例6と同様の方法により混練した。得られたプロピレン系組成物を実施例6と同様にシート成形した。評価結果を表2に示す。
【0056】
[比較例2]
アイソタクチックポリプロピレン(A−1)10質量%およびプロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体(B−1)90質量%からなる樹脂組成物合計100質量部に対し、水酸化マグネシウム(D−1)250質量部を上記実施例6と同様の方法により混練した。得られたプロピレン系組成物を実施例6と同様にシート成形した。評価結果を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
表2に示すように、極性モノマーを含むプロピレン系樹脂組成物と水酸化マグネシウムからなる組成物(E−1)〜(E−4)は極性モノマーを含まないプロピレン系樹脂組成物と水酸化マグネシウムからなる組成物と比較すると、耐油性(外観および厚み変化率)および耐熱性(80℃での引張試験におけるYSおよび耐熱クリープ)に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、良好な柔軟性とともに、優れた耐油性および耐熱性、優れた機械強度、破談点伸びを有するため、接着剤や成形体などに利用できる。さらに、本発明のプロピレン系樹脂組成物に無機系充填剤を高い割合で配合することが可能であり、難燃性を必要とする成形体、例えば、電線、建材などに幅広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件(a1)〜(a3)を満たすプロピレン系重合体(A)と、下記要件(b1)を満たすプロピレン系重合体(B)を(A):(B)=5〜40(質量%):60〜95(質量%)(ただし、(A)+(B)=100質量%とする)の割合で含有する樹脂組成物であって、当該樹脂組成物が要件(c1)および(c2)を満たすプロピレン系変性樹脂組成物(C)。
(a1)示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120〜170℃である。
(a2)アイソタクチックペンタッド分率(mmmm)が90〜99.8%である。
(a3)メルトフローレート(MFR)(ASTMD1238、230℃、2.16kg荷重下)が0.1〜100g/10分である。
(b1)示差走査熱量計(DSC)で測定される融点が120℃未満または融点が観測されない。
(c1)ASTM D2240に記載の方法により測定した表面硬度ショアーDが40以下である。
(c2)前記プロピレン系重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)の総量((A)+(B))100質量部に対して、極性モノマー(M)の含有量が0.010〜15質量部である。
【請求項2】
前記プロピレン系重合体(B)が、さらに下記要件(b2)を満たすことを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系変性樹脂組成物(C)。
(b2)プロピレン由来の構成単位を51〜90モル%、エチレン由来の構成単位を7〜24モル%、炭素数4〜20のα−オレフィン由来の構成単位を3〜25モル%含むプロピレンとエチレンと炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体(ここでプロピレン由来の構成単位とエチレン由来の構成単位と炭素数4〜20のαオレフィン由来の構成単位の合計を100モル%とする)
【請求項3】
前記プロピレン系重合体(B)が、さらに下記要件(b3)〜(b5)を満たすことを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載のプロピレン系変性樹脂組成物(C)。
(b3)ショアーA硬度が20〜90の範囲にある。
(b4)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.2〜3.5である。
(b5)13C−NMRにより算出したアイソタクチックトライアッド分率(mm)が85〜99.9%である。
【請求項4】
前記プロピレン系重合体(B)が、さらに下記要件(b6)〜(b9)を満たすことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のプロピレン系変性樹脂組成物(C)。
(b6)下記式(1)で定義されるB値が0.8〜1.3である。
【数1】


(式中、MOEは、プロピレンとエチレンの連鎖と炭素数4以上のα−オレフィンとエチレンの連鎖の合計の、全ダイアッドに対するモル分率を表し、MOはプロピレンと炭素数4以上のα−オレフィンのモル分率の合計を表し、MEはエチレンのモル分率を表す。)
(b7)13C−NMR測定において解析される、全プロピレン挿入中のプロピレンモノマーの2,1−結合量が1%未満である。
(b8)ガラス転移温度(Tg)が−10℃〜−50℃の範囲に観測される。
(b9)MFR(ASTMD1238、230℃、2.16kg荷重)が0.5〜500g/10minである。
【請求項5】
金属水酸化物、金属炭酸塩および金属酸化物から選ばれる1種以上からなる無機系充填剤(D)を前記プロピレン系重合体(A)と前記プロピレン系重合体(B)の総量((A)+(B))100質量部に対して1〜400質量部含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物(E)。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロピレン系変性樹脂組成物(C)100質量部に対し、金属水酸化物、金属炭酸塩および金属酸化物から選ばれる1種以上からなる無機系充填剤(D)1〜400質量部を溶融混練してプロピレン系樹脂組成物(E)を製造する方法。
【請求項7】
請求項1〜4いずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物を含む接着剤。
【請求項8】
請求項1〜4いずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物を含む粘度調整剤。
【請求項9】
請求項1〜5いずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物を含む成形体。
【請求項10】
請求項1〜5いずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物を含む絶縁体。
【請求項11】
請求項1〜5いずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物を含むシースを有する電線。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184504(P2011−184504A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48811(P2010−48811)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】