説明

プロピレン系樹脂組成物から製造された発泡成形体

【課題】成形外観、剛性―耐衝撃性のバランス、射出成形流動性に優れたプロピレン系樹脂組成物、該樹脂組成物から得られる射出成形体、自動車部品を提供する。
【解決手段】プロピレン重合体製造工程およびプロピレン−エチレン共重合体ゴム製造工程から得られ、下記[1]〜[8]を同時に満たすプロピレン系ブロック共重合体40〜95重量部、エラストマー5〜30重量部、フィラー0〜30重量部を含む該樹脂組成物に発泡剤を添加し成形した発泡成形体。[1]メルトフローレート20〜150g/10分[2]Dsol5〜50重量%とDinsol50〜95重量%[3]Dsol分子量分布7〜20[4]Dsolエチレン含有量25〜60mol%[5]Dsol[η]1.5〜5.0dl/g、[6]Dinsol分子量分布7.0〜20かつMz/Mw6.0〜20[7]Dinsolのペンタド分率95%以上[8]DsolのCSDの値1.0〜2.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡成形、特に射出発泡成形に好適なプロピレン系樹脂組成物から得られる成形体に関する。詳しくは、本発明は、成形加工性が良好で、流動性と発泡性に優れ、さらに、成形時の外観特性に極めて優れたプロピレン系樹脂組成物から得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系樹脂は、日用雑貨、台所用品、包装用フィルム、家電製品、機械部品、電気部品、自動車部品など、種々の分野で利用されており、特に近年、自動車部品は燃費向上や地球温暖化ガス削減のため軽量化が強く要請されており、特に内装部品においては発泡成形体の使用が増加している。しかしながら自動車内外装用部品には、さらなる軽量化と機械的特性の維持あるいは向上が求められている。このため、より発泡倍率が高く、しかも機械的特性に優れた射出発泡成形体の出現が求められている。
【0003】
自動車内外装部品は、生産性の観点から射出成形によって成形されることが多い。しかし、これまでに知られているプロピレン系樹脂組成物を用いて射出成形を行うと、射出成形品表面の流動方向と交わる方向にフローマークやタイガーマークと呼ばれる複数の周期的な縞模様が発生し目立つことが知られている。成形品表面に発生したフローマークが目立つと成形品の外観を損なうので、必要に応じて塗装等を行って、フローマークを消すことが実施されているが、その結果自動車部品の製造工程が煩雑にならざるを得ない。そのようなフローマークは、特に発泡成形においてはスワールマークと重畳することで著しい外観の悪化を生じる結果となる。
【0004】
フローマークの発生機構はいくつか提案されているが、その1つとして、射出成形時の金型内での流動先端(メルトフロント)の不安定化現象が関係しているとの考察が提案されている(非特許文献1)。この考え方では、射出成形時にメルトフロントの形状が周期的に不安定化し、溶融樹脂の金型転写状態が周期的に変動、固化した結果、光沢差が発生して周期的な縞模様(フローマーク)に見えるとされている。
【0005】
この考え方を基に、プロピレン系樹脂組成物の溶融弾性を高くする、特に、金型への転写を想定して、低剪断速度領域での溶融弾性を高くすることにより、射出成形金型内での流動先端を安定化させ、フローマークを改良させる試みが行われている。例えば、特開平9−87482号公報(特許文献1)では超高分子量のプロピレン−エチレン共重合体を含んだプロピレン系ブロック共重合体からなるプロピレン系樹脂組成物が開示されている。上記発明では、フローマークが少ない射出成形品を得ることができるが、溶融樹脂流動の合流箇所で発生するウェルドラインと呼ばれる外観不良が発生することがある。ウェルドラインとは、溶融樹脂流動の合流した痕跡が固化して筋状の外観不具合状に見える現象であり、上記発明ではプロピレン系ブロック共重合体中に多量の超高分子量プロピレン−エチレン共重合体が海−島構造の島構造として分散している為、溶融樹脂流動の合流した痕跡が消失(緩和)しづらくなった結果、ウェルドラインが目立ちやすくなったと推察される。ウェルドラインの目立ちが顕著な場合は、塗装の際にウェルドラインを消す前処理工程が必要になるため、上記技術を自動車部品に適用にする際に、一部制約が生じていた。
【0006】
一方、プロピレン重合体成分を広分子量分布化することによって高溶融弾性化を図り、フローマークを改良させる試みも検討されている。特開2000―204111号公報(特許文献2)では、固体状チタン触媒成分、助触媒としてアルミニウム−アルキル化合物と窒素含有型脂肪族ケイ素化合物とを用いたオレフィン重合用触媒によりプロピレン重合体成分を広分子量分布化させたプロピレン系ブロック体が開示されている。上記技術により、プロピレン系樹脂組成物の溶融弾性が高くなり、フローマークはある程度改良されるものの、プロピレン重合体部の広分子量分布化が不十分であった為、更なるフローマーク改良が必要であった。更に、上記技術では、剛性と耐衝撃性バランスの改良が求められていた。
【0007】
また、樹脂の発泡性を向上させるためには高分子量成分が有効であることが一般的に言われている。例えば、国際公開第98/47959号パンフレットでは、多段重合法による製造で、超高分子量プロピレン重合体を重合後、低分子量プロピレン重合体を重合することにより広分子量分布プロピレン重合体部を有するプロピレン系ブロック共重合体からなるポリプロピレン樹脂組成物が開示されている。射出発泡成形のような軽量化を主目的としている自動車内外装部品では、プロピレン系樹脂組成物に射出成形時の高流動性化が求められるが、上記技術では、特に薄肉成形をする場合の流動性を確保し難く、プロピレン重合体部の高流動性化を図ろうとすると、超高分子量プロピレン重合体が低分子プロピレン重合体に均一に分散または相溶しづらくなり、耐衝撃性が低下や、成形品表面にブツが発生する等の不具合が生じる場合があった。
【0008】
以上、フローマークの改良事例を挙げたが、外観不具合の解消、機械物性バランス、射出成形流動性の改良、発泡性改良などを考慮して、プロピレン系樹脂組成物の更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−87482号公報
【特許文献2】特開2000−204111号公報
【特許文献3】国際公開第98/47959号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】日本レオロジー学会誌 Vol.35,No.5,293〜299
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、成形外観性および剛性に優れ、さらに成形時、特に射出成形時の流動性に優れたプロピレン系樹脂組成物から得られる発泡成形体、および該射出発泡成形体からなる自動車部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の範囲に制御した広分子量分布を有するプロピレン重合体成分と特定の範囲に制御した広分子量分布かつ狭共重合組成分布を有するプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を有するプロピレン系ブロック共重合体を含むプロピレン系樹脂組成物から製造される発泡成形体を開発した。前記プロピレン系ブロック共重合体では、分子量分布を特定の範囲に制御することにより、高分子量プロピレン重合体成分による高溶融弾性化、特に低剪断速度領域での溶融弾性を高くすることができ、さらに広分子量分布プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分による高溶融弾性化効果と合わせ、プロピレン系樹脂組成物の発泡性、および射出成形時にフローマークが著しく改良できることを見出した。また、驚くべきことに、前記プロピレン系ブロック共重合体では、分子量分布を特定の範囲に制御することにより、本発明に係るプロピレン系樹脂組成物では、ウェルドラインが目立ちにくいことを見出した。
【0013】
また、前記プロピレン系ブロック共重合体では、高剛性化が図れることを見出した。ここで、高剛性化の機構は解明しきれていないが、プロピレン重合体成分が高立体規則性かつ広分子量分布であることから、高分子量プロピレン重合体が結晶核となり、低分子量成分が板状結晶を形成する、あるいは、成形時、特に射出成形時に高分子量プロピレン重合体の配向が凍結されやすいなどが推察される。
【0014】
このように、プロピレン系ブロック共重合体中にプロピレン重合体成分を特定の範囲で広分子量分布化させ、かつ広分子量分布かつ狭共重合組成分布であるプロピレン−エチレン共重合体ゴムとから構成されるプロピレン系ブロック共重合体を主材料とするプロピレン系樹脂組成物では、良成形外観、良好な剛性、さらに射出成形時の高流動性、発泡性改良の全ての要件を高度なレベルで満たすことができたので、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の発泡成形体は、プロピレン重合体成分を製造する工程およびプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程を含む製造方法によって得られ、下記の要件[1]〜[8]を同時に満たすプロピレン系ブロック共重合体(A)40重量部以上、95重量部以下、エラストマー(B)5重量部以上、30重量部以下、およびフィラー(E)0重量部以上、30重量部以下(ただし、(A)、(B)、および(E)の合計は100重量部である)を含有するプロピレン系樹脂組成物に、発泡剤を添加して発泡成形した発泡成形体である。
【0016】
[1]ASTM D1238Eに準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が、20g/10分以上、150g/10分以下、
[2]室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)5重量%以上、50重量%以下と室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)50重量%以上、95重量%以下から構成される(ただし、DsolとDinsolとの合計量は100重量%である)、
[3]Dsolの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が7.0以上、20以下、
[4]Dsolのエチレン含有量が25mol%以上、60mol%以下、
[5]Dsolの[η]が1.5dl/g以上、5.0dl/g以下、
[6]Dinsolの分子量分布(Mw/Mn)が7.0以上、20以下、かつZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比であるMz/Mwが6.0以上、20以下、
[7]Dinsolのペンタド分率(mmmm)が95%以上、および
[8]Dsolにおいて、下式(i)で定義されるCSDの値が1.0以上、2.0以下である。
【0017】
【数1】

(式(i)中、[EE]はDsol中のエチレン連鎖のモル分率、[PP]はDsol中のプロピレン連鎖のモル分率、[PE]はプロピレン−エチレン連鎖のモル分率である。)
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)は、下記要件[9]をさらに満たすことが好ましい。
【0018】
[9]DsolのGPC−IR測定において、GPC曲線の面積分率で高分子量側5%における溶出成分のエチレン含有量(C2(H5))(mol%)と高分子量側から50%における溶出成分のエチレン含有量(C2(H50))(mol%)の差(Δ(C2))(下記式(ii))が1.5以下。
【0019】
【数2】

また、前記プロピレン系ブロック共重合体(A)は、プロピレン重合体成分を製造する工程を前段で行い、プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程を後段で行うことが好ましい。
【0020】
さらに、前記プロピレン重合体成分を製造する工程が、2槽以上の直列した重合槽で行われ、各槽で生成されるプロピレン重合体の極限粘度[η]が4dl/g以下であることが好ましい。また、前記プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程が、プロピレンとエチレンとを1槽の重合槽で行われることが好ましい。
【0021】
また、前記プロピレン系ブロック共重合体(A)は、チタン、マグネシウム、およびハロゲンと下記式(1)で特定される環状エステル化合物(a)および下記式(2)で特定される環状エステル化合物(b)とを含む固体状チタン触媒成分(I)と、周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属原子を含む有機金属化合物(II)と、必要に応じて電子供与体(III)と、を含むオレフィン重合用触媒の存在下に重合して得られる。
【0022】
【化1】

式(1)において、nは5〜10の整数である。
【0023】
2およびR3はそれぞれ独立にCOOR1またはRであり、R2およびR3のうち少なくとも1つはCOOR1である。環状骨格中の単結合(C−Cb結合、R3がCOOR1である場合のCa−Cb結合、およびC−C結合(nが6〜10の場合))は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0024】
1は、それぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。
複数個あるRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、窒素含有基、酸素含有基、リン含有基、ハロゲン含有基およびケイ素含有基から選ばれる原子または基であり、互いに結合して環を形成していてもよいが、少なくとも1つのRは水素原子ではない。
【0025】
Rが互いに結合して形成される環の骨格中に、二重結合が含まれていてもよく、該環の骨格中に、COOR1が結合したCaを2つ以上含む場合は、該環の骨格をなす炭素原子の数は5〜10である。
【0026】
【化2】

式(2)において、nは5〜10の整数である。
【0027】
4およびR5はそれぞれ独立にCOOR1または水素原子であり、R4およびR5のうち少なくとも1つはCOOR1である。R1は、それぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。環状骨格中の単結合(C−Cb結合、R5がCOOR1である場合のCa−Cb結合、およびC−C結合(nが6〜10の場合))は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0028】
ここで、前記式(1)および/または(2)において、前記環状骨格中の炭素原子間結合のすべてが単結合であることが好ましい。また、前記式(1)および/または(2)において、n=6であることも好ましい。
【0029】
さらに、前記環状エステル化合物(a)が下記式(1a)であり、前記環状エステル化合物(b)が下記式(2a)であることが好ましい。
【0030】
【化3】

式(1a)において、nは5〜10の整数である。
【0031】
環状骨格中の単結合(C−C結合(nが6〜10の場合)、Ca−C結合およびCb−C結合)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
1は、それぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。
【0032】
複数個あるRは、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、窒素含有基、酸素含有基、リン含有基、ハロゲン含有基およびケイ素含有基から選ばれる原子または基であり、互いに結合して環を形成していてもよいが、少なくとも1つのRは水素原子ではない。
【0033】
Rが互いに結合して形成される環の骨格中に、二重結合が含まれていてもよく、該環の骨格中に、COOR1が結合したCaを2つ以上含む場合は、該環の骨格をなす炭素原子の数は5〜10である。
【0034】
【化4】

式(2a)において、nは5〜10の整数である。
【0035】
1は、それぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。環状骨格中の単結合(C−C結合(nが6〜10の場合)、Ca−C結合およびCb−C結合)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0036】
ここで、前記式(1a)および(2a)において、前記環状骨格中の炭素原子間結合のすべてが単結合であることが好ましい。また、前記式(1a)および(2a)において、n=6であることも好ましい。
【0037】
本発明では、前記プロピレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、発泡剤を0.1重量部以上、10重量部以下添加して発泡成形することにより得られる発泡成形体が好ましい。また、前記成形体は、射出成形によって得られることが好ましい。また、前記成形体は自動車部品として好ましく用いられる。
【発明の効果】
【0038】
本発明に係る発泡成形体は、剛性等の機械物性が良好でありながらフローマーク、ウェルドライン、また発泡成形で発生するスワールマーク等の成形外観不良が少なく、かつその成形体の製造時の流動性、例えば、射出成形時の金型内流動性が良好であるため、自動車内外装部品などの薄肉大型射出成形品へ好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は実施例1で得られた発泡体の断面写真、(b)は比較例1で得られた発泡体の断面写真である。
【図2】PDI−Pの算出方法を示した図である。
【図3】評価用射出発泡成形品の概略図および板厚評価位置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の発泡成形体に用いられるプロピレン系樹脂組成物に含まれるプロピレン系ブロック共重合体(A)、エラストマー(B)、およびフィラー(E)について具体的に説明する。
【0041】
[プロピレン系ブロック共重合体(A)]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)は、プロピレン重合体成分を製造する工程およびプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程によって得られ、下記の要件[1]〜[8]を同時に満たすことを特徴としており、好ましくは要件[9]をさらに満たすことを特徴としている。なお、前記プロピレン重合体は結晶性であり、プロピレンと少量の他のα−オレフィンとの共重合体、プロピレン単独重合体である。
【0042】
[1]ASTM D1238Eに準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が、20g/10分以上、150g/10分以下、
[2]室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)5重量%以上、50重量%以下と室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)50重量%以上、95重量%以下から構成される(ただし、DsolとDinsolの合計量は100重量%である)、
[3]Dsolの分子量分布(Mw/Mn)が7.0以上、20以下、
[4]Dsolのエチレン含有量が25mol%以上、60mol%以下、
[5]Dsolの極限粘度[η]が1.5dl/g以上、5.0dl/g以下、
[6]Dinsolの分子量分布(Mw/Mn)が7.0以上、20以下、かつMz/Mwが6.0以上、20以下、
[7]Dinsolのペンタド分率(mmmm)が95%以上、
[8]Dsolにおいて、下記式(i)で定義されるCSDの値が1.0以上、2.0以下である。
【0043】
【数3】

(式(i)中、[EE]はDsol中のエチレン連鎖のモル分率、[PP]はDsol中のプロピレン連鎖のモル分率、[PE]はプロピレン−エチレン連鎖のモル分率である。)
【0044】
[9]DsolのGPC−IR測定において、GPC曲線の面積分率で高分子量側5%における溶出成分のエチレン含有量(C2(H5))(mol%)と高分子量側から50%における溶出成分のエチレン含有量(C2(H50))(mol%)の差(Δ(C2))(下記式(ii)が1.5以下である。
【0045】
【数4】

以下、プロピレン系ブロック共重合体(A)が満たす各要件について詳細に説明する。
【0046】
要件[1]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、ASTM D1238Eに準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)は、20g/10分以上であり、好ましくは30g/10分以上、更に好ましくは40g/10分以上である。また上記MFRは、150g/10分以下であり、好ましくは145g/10分以下、更に好ましくは140g/10分以下である。
【0047】
MFRが上記上限値を超えると、発泡成形体の耐衝撃性が低下し、自動車部品等の構造部品には適さない場合がある。また、MFRが上記下限値未満であると、発泡成形体に用いるプロピレン系樹脂組成物の流動性が低下し、自動車部品等の大型部品の成形、特に射出成形には適さない場合がある。
【0048】
要件[2]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)と室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)(ただし、DsolとDinsolの合計量は100重量%である)としては、Dsolは、5重量%以上であり、好ましくは7重量%以上、更に好ましくは10重量%以上である。また上記Dsolは、50重量%以下であり、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは35重量%以下である。Dinsolは、50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは65重量%以上である。また上記Dinsolは、95重量%以下であり、好ましくは93重量%以下、更に好ましくは90重量%以下である。
【0049】
ここで、Dsolは、主としてプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分から構成され、Dinsolは、主としてプロピレン重合体成分と副生分としてポリエチレン樹脂などから構成されている。
【0050】
要件[3]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、Dsolの重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比である分子量分布(Mw/Mn)が7.0以上、20以下、好ましくは、Mw/Mnが7.0以上、15以下、更に好ましくは7.0以上、10以下である。
【0051】
Mw/Mnが上記範囲にあると、発泡成形体のフローマークが少ない。これは、Mw/Mnが上記範囲に存在した結果、高分子量プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分によるプロピレン系樹脂組成物の高溶融弾性化、特に溶融樹脂の金型への転写に相当する低剪断速度領域での高溶融弾性化が図ることができ、例えば射出成形金型内での流動先端が安定化した結果、フローマークが非常に改良できたものと推察している。また、Mw/Mnが上記範囲にあると、低分子量プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分による耐衝撃性低下の影響が少ない為、発泡成形体の耐衝撃性が保持できるものと推察している。
【0052】
Mw/Mnが上記上限値よりも大きいと、プロピレン系ブロック共重合体中に低分子量のプロピレン−エチレン共重合体ゴムが増える為、発泡成形体の耐衝撃性が低下する場合がある。また、Mw/Mnが上記下限値よりも小さいと、プロピレン系ブロック共重合体の溶融弾性が低下する為、発泡成形体を製造する際に、フローマークが発生しやすくなる場合がある。
【0053】
なお、本発明において、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCで測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)であり、その定義については、高分子化学の基礎(高分子学会編、1978年出版)P117に従って行った。
【0054】
要件[4]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、Dsolのエチレン含有量は、25mol%以上であり、好ましくは27mol%以上、更に好ましくは30mol%以上である。また上記エチレン含有量は、60mol%以下であり、好ましくは55mol%以下、更に好ましくは50mol%以下である。
【0055】
Dsolのエチレン含有量が上記下限値未満であると、プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分が、プロピレン重合体成分中に相溶する傾向があり、得られた発泡成形体の耐衝撃性が低下し、各種構造部品への適用が難しくなることがある。上記現象の理由は明らかではないが、プロピレン系ブロック共重合体中に分散相として存在するプロピレン−エチレン共重合体ゴムの分散粒子径が細かくなりすぎた結果、プロピレン−エチレン共重合体ゴムが応力集中点として作用しなくなる為、耐衝撃性が低下したものと推察される。Dsolのエチレン含有量が上記上限値よりも高いと、プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分とプロピレン重合体成分との親和性が低下し、得られた発泡成形体の耐衝撃性や伸びが低下する場合がある。
【0056】
要件[5]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、Dsolの極限粘度[η]は、1.5dl/g以上であり、好ましくは1.8dl/g以上、更に好ましくは2.0dl/g以上である。上記極限粘度[η]は、5.0dl/g以下であり、好ましくは4.8dl/g以下、更に好ましくは4.5dl/g以下である。
【0057】
Dsolの極限粘度[η]が上記下限値未満であると、発泡成形体の耐衝撃性が低下する場合がある。Dsolの[η]が上記上限値を超えると、発泡成形体の製造時、例えば射出成形時の流動性を高める為にプロピレン重合体成分のMFRを高くする必要がある。このとき、発泡成形体の耐衝撃性が低下したりする場合がある。また、同時に発泡成形体にフィッシュアイが生成しやすくなる場合があり、このとき発泡成形体表面にブツ等の外観不良が目立ちやすくなることがある。
【0058】
要件[6]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、Dinsolの分子量分布(Mw/Mn)は7.0以上であり、好ましくは8.0以上、更に好ましくは9.0以上であり、また上記Mw/Mnは20以下である。このようなMw/Mnであることに加えて、DinsolのZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比であるMz/Mwは6.0以上であり、好ましくは7.0以上、更に好ましくは8.0以上であり、また上記Mz/Mwは20以下である。
【0059】
Mw/MnおよびMz/Mwが上記範囲にあると、フローマークが非常に少ない発泡成形体を得ることができる。これは、Mw/MnおよびMz/Mwが上記範囲に存在した結果、高分子量プロピレン重合体成分により、プロピレン系樹脂組成物の高溶融弾性化、特に低剪断速度領域での高溶融弾性化が図ることができ、例えば射出成形金型内での流動先端が安定化した結果、フローマークが非常に改良できたものと推察している。
【0060】
Mw/MnおよびMz/Mwが上記下限値よりも小さいと、プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレン系重合体成分の溶融弾性が低下し、該プロピレン系樹脂組成物から得られた発泡成形体にフローマークが目立ちやすくなり、さらに、成形時、特に射出成形時の流動性が低下することから、自動車部品等の大型射出成形品には適さない場合がある。また、Mw/Mnが上記下限値よりも小さいと発泡成形体の剛性が低下する為、好ましくない場合がある。さらに、Mw/Mnが上記上限値よりも大きいと、プロピレン系ブロック共重合体中に低分子量プロピレン重合体成分が増える為、発泡成形体の耐衝撃性が低下する場合がある。
【0061】
ここで、本発明において、分子量分布(Mw/Mn)は、GPCで測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比、Mz/MwはGPCで測定されるZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)との比であり、これらの定義については、高分子化学の基礎(高分子学会編、1978年出版)P117に従って行った。
【0062】
なお、プロピレン重合体の溶融弾性の指標は、溶融粘弾性測定で定性的に評価できる。一例として、下式(iii)示される多分散指数(PDI−P)で定性的に評価することができる。
【0063】
【数5】

ω1;G’(貯蔵弾性率)(Pa)=2×102での角周波数(rad/s)
ω2;G’(貯蔵弾性率)(Pa)=2×104での角周波数(rad/s)
PDI−Pが大きいと、低角周波数領域(低剪断速度)でも貯蔵弾性率(溶融弾性)が大きい傾向にある。ここで、低剪断速度領域での溶融弾性が大きいと、例えば射出成形時の溶融先端(メルトフロント)の形状が安定する傾向にあることから、フローマークが良好になると推察される。
【0064】
要件[7]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、Dinsolのペンダット分率(mmmm)が95%以上、好ましくは96%以上、更に好ましくは97%以上である。
【0065】
Dinsolのmmmmが上記%よりも低いと、発泡成形体の剛性が低下する為、好ましくない。
要件[8]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、Dsolにおいて、下記式(i)で定義されるCSDの値が1.0以上、2.0以下であり、好ましくは1.0以上、1.9以下であり、更に好ましくは1.0以上、1.8以下である。
【0066】
【数6】

(式(i)中、[EE]はDsol中のエチレン連鎖のモル分率、[PP]はDsol中のプロピレン連鎖のモル分率、[PE]はプロピレン−エチレン連鎖のモル分率である。)
式(i)において、CSDとはプロピレン−エチレン共重合体のプロピレンおよびエチレンの共重合性を表す指標として使用することができる。
【0067】
Dsolは主としてプロピレン−エチレン共重合体から構成されるが、Dsolにおいて、下式(i)で定義されるCSDの値が上記上限値よりも大きいと、Dsol中にエチレン連鎖およびプロピレン連鎖が増加、プロピレン−エチレン連鎖が減少する傾向がある。この場合、結晶性のエチレン連鎖およびプロピレン連鎖が増加する為、プロピレン系ブロック共重合体が脆くなりやすくなり、プロピレン系ブロック共重合体の耐衝撃性が低下する。その為、得られた発泡成形体の耐衝撃性も悪化する場合がある。
【0068】
要件[9]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)の、DsolのGPC−IR測定において、GPC曲線の面積分率で高分子量側5%における溶出成分のエチレン含有量(C2(H5))(mol%)と高分子量側から50%における溶出成分のエチレン含有量(C2(H50))(mol%)の差(Δ(C2))(下記式(ii))は好ましくは1.5mol%以下、より好ましくは、1.0mol%以下である。
【0069】
【数7】

Δ(C2)が1.5mol%よりも大きいと、Dsol中の各分子量におけるエチレン量にバラつきが生じ、Dsol中のエチレン組成分布が広くなる場合がある。このとき、発泡成形体の剛性/耐衝撃性などの物性バランスを高度に制御する観点で、Dsol中のエチレン組成分布が広くなると好ましくない場合がある。
【0070】
上記の要件[1]〜[8]を同時に満たし、さらに好ましくは要件[9]を満たすことを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体(A)は、以下のオレフィン重合用触媒を用いて製造されることが好ましい。
【0071】
[オレフィン重合用触媒]
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)は、固体状チタン触媒成分(I)と、周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属原子を含む有機金属化合物(II)と、必要に応じて電子供与体(III)とを含むオレフィン重合用触媒の存在下に重合して得られたものであることが好ましい。以下、オレフィン重合用触媒に係る各成分について詳細に説明する。
【0072】
[固体状チタン触媒成分(I)]
前記固体状チタン触媒成分(I)は、チタン、マグネシウム、およびハロゲンおと下記式(1)で特定される環状エステル化合物(a)および下記式(2)で特定される環状エステル化合物(b)とを含む。
【0073】
<環状エステル化合物(a)>
前記環状エステル化合物(a)は、複数のカルボン酸エステル基を有し、下記式(1)で表される。
【0074】
【化5】

式(1)において、nは、5〜10の整数、好ましくは5〜7の整数であり、特に好ましくは6である。またCaおよびCbは、炭素原子を表わす。
【0075】
2およびR3はそれぞれ独立にCOOR1またはRであり、R2およびR3のうちの少なくとも1つはCOOR1である。
環状骨格中の炭素原子間結合は、すべてが単結合であることが好ましいが、環状骨格中の、Ca−Ca結合およびR3がRである場合のCa−Cb結合以外の、いずれかの単結合は、二重結合に置き換えられていてもよい。すなわち、環状骨格中の、C−Cb結合、R3がCOOR1である場合のCa−Cb結合、およびC−C結合(nが6〜10の場合)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0076】
複数個あるR1は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6の1価の炭化水素基である。この炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などが挙げられ、中でもn−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基が好ましく、さらにはn−ブチル基、イソブチル基が、分子量分布の広いプロピレン系ブロック共重合体を製造できることから特に好ましい。
【0077】
複数個あるRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、窒素含有基、酸素含有基、リン含有基、ハロゲン含有基およびケイ素含有基から選ばれる原子または基であるが、少なくとも1つのRは水素原子ではない。
【0078】
水素原子以外のRとしては、これらの中でも炭素原子数1〜20の炭化水素基が好ましく、この炭素原子数1〜20の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、ビニル基、フェニル基、オクチル基などの脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられる。中でも脂肪族炭化水素基が好ましく、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基が好ましい。
【0079】
またRは、互いに結合して環を形成していてもよく、Rが互いに結合して形成される環の骨格中には、二重結合が含まれていてもよく、該環の骨格中に、COOR1が結合したCaを2つ以上含む場合は、該環の骨格をなす炭素原子の数は5〜10である。
【0080】
このような環の骨格としては、ノルボルナン骨格、テトラシクロドデセン骨格などが挙げられる。
また複数個あるRは、カルボン酸エステル基、アシル基、ケトン基などのカルボニル構造含有基であってもよく、これらの置換基には、炭素原子数1〜20の炭化水素基1個以上を含んでいることが好ましい。
【0081】
このような環状エステル化合物(a)としては、国際公開2006/077945号パンフレットに記載がある。具体的には、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−メチルシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
5−メチルシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
5−メチルシクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル
3,4−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
【0082】
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−ヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシル−6−ペンチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−メチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
5−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
5−メチルシクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,4−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−ヘキシルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,5−ジヘキシルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシル−5−ペンチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−メチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
5−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
5−メチルシクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,4−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−ヘキシルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
【0083】
3,7−ジヘキシルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシル−7−ペンチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−メチルシクロオクタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−メチルシクロデカン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ビニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジフェニルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジシクロヘキシルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
ノルボルナン−2,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
テトラシクロドデカン−2,3−ジカルボン酸ジイソブチル
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
3,6−ジメチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3,6−ジヘキシル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−ヘキシル−6−ペンチル−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
などが挙げられる。
【0084】
また、以下の化合物、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジアセテート、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジブタネート、
3−メチル−6−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジオールアセテート、
3−メチル−6−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジブタネート、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジベンゾエート、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジトルエート、
3−メチル−6−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジベンゾエート、
3−メチル−6−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジトルエート、
等も好ましい例として挙げることができる。
【0085】
上記のようなジエステル構造を持つ化合物には、式(1)における複数のCOOR1基に由来するシス、トランス等の異性体が存在し、どの構造であっても本発明の目的に合致する効果を有するが、よりトランス体の含有率が高い方が好ましい。トランス体の含有率が高い方が、分子量分布を広げる効果だけでなく、活性や得られる重合体の立体規則性がより高い傾向がある。
【0086】
前記環状エステル化合物(a)としては、下記式(1−1)〜(1−6)で表される化合物が好ましい。
【0087】
【化6】

【0088】
【化7】

【0089】
【化8】

【0090】
【化9】

【0091】
【化10】

【0092】
【化11】

〔上記式(1−1)〜(1−6)中の、R1およびRは式(1)での定義と同様である。
【0093】
上記式(1−1)〜(1−3)において、環状骨格中の単結合(ただしCa−Ca結合およびCa−Cb結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
上記式(1−4)〜(1−6)において、環状骨格中の単結合(ただしCa−Ca結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0094】
また、上記式(1−3)および(1−6)においてnは7〜10の整数である。〕
前記環状エステル化合物(a)としては、特には下記式(1a)で表わされる化合物が好ましい。
【0095】
【化12】

〔式(1a)中の、n、R1およびRは式(1)での定義と同様であり、環状骨格中の単結合(ただしCa−Ca結合およびCa−Cb結合を除く。)は、二重結合に置き換えられていてもよい。すなわち、環状骨格中のC−C結合(nが6〜10の場合)、Ca−C結合およびCb−C結合は、二重結合に置き換えられていてもよい。〕
【0096】
上記式(1a)で表わされる化合物として具体的には、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,5−ジメチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−5−エチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−5−エチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−5−エチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−5−n−プロピルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,5−ジエチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,5−ジエチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,5−ジエチルシクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,7−ジメチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−7−エチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−7−エチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−7−エチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−7−n−プロピルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,7−ジエチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,7−ジエチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,7−ジエチルシクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
などが挙げられる。
【0097】
上記の化合物の中では、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−6−エチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3−メチル−6−n−プロピルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ヘキシル、
3,6−ジエチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−オクチル
がさらに好ましい。これらの化合物はDiels Alder反応を利用して製造できる。
【0098】
上記のようなジエステル構造を持つ環状エステル化合物(a)には、シス、トランス等の異性体が存在し、どの構造であっても本発明の目的に合致する効果を有するが、トランス体の含有率が高い方が、分子量分布を広げる効果だけでなく、活性や得られる重合体の立体規則性がより高い傾向があるため特に好ましい。シス体およびトランス体のうちのトランス体の割合は、好ましくは51%以上であることが好ましい。より好ましい下限値は55%であり、さらに好ましくは60%であり、特に好ましくは65%である。一方、好ましい上限値は100%であり、より好ましくは90%であり、さらに好ましくは85%であり、特に好ましくは79%である。
【0099】
<環状エステル化合物(b)>
環状エステル化合物(b)は、複数のカルボン酸エステル基を有し、下記式(2)で表される。
【0100】
【化13】

式(2)において、nは、5〜10の整数、好ましくは5〜7の整数であり、特に好ましくは6である。またCaおよびCbは、炭素原子を表わす。
【0101】
環状骨格中の炭素原子間結合は、すべてが単結合であることが好ましいが、環状骨格中の、Ca−Ca結合およびR5が水素原子である場合のCa−Cb結合以外のいずれかの単結合は、二重結合に置き換えられていてもよい。すなわち、環状骨格中の、C−Cb結合、R5がCOOR1である場合のCa−Cb結合、およびC−C結合(nが6〜10の場合)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【0102】
また、R4およびR5はそれぞれ独立にCOOR1または水素原子であり、R4およびR5のうちの少なくとも1つはCOOR1であり、R1はそれぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。
【0103】
複数個あるR1は、それぞれ独立に、炭素原子数が1〜20、好ましくは1〜10、より好ましくは2〜8、さらに好ましくは4〜8、特に好ましくは4〜6の1価の炭化水素基である。この炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基、エイコシル基などが挙げられ、中でもn−ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基が好ましく、さらにはn−ブチル基、イソブチル基が、分子量分布の広いプロピレン系ブロック共重合体を製造できることから特に好ましい。
【0104】
このような環状エステル化合物(b)としては、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘキサン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
シクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
シクロペンタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
シクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
シクロヘプタン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロオクタン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
シクロデカン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジn−プロピル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−シクロヘキセン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘキセン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
3−シクロペンテン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
3−シクロペンテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
3−シクロペンテン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジイソプロピル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
4−シクロヘプテン−1,2−ジカルボン酸ジデシル、
4−シクロヘプテン−1,3−ジカルボン酸ジエチル、
4−シクロヘプテン−1,3−ジカルボン酸ジイソブチル、
5−シクロオクテン−1,2−ジカルボン酸ジエチル、
6−シクロデセン−1,2−ジカルボン酸ジエチル
などが挙げられる。
【0105】
また、以下の化合物、
シクロヘキサン−1,2−ジアセテート、
シクロヘキサン−1,2−ジブタネート、
シクロヘキサン−1,2−ジベンゾエート、
シクロヘキサン−1,2−ジトルエート、
なども好ましい例として挙げることができる。
【0106】
上記のようなジエステル構造を持つ化合物には、シス、トランス等の異性体が存在するが、どの構造であっても本発明の目的に合致する効果を有する。シス体およびトランス体のうちのトランス体の割合は、51%以上であることが好ましい。より好ましい下限値は55%であり、さらに好ましくは60%であり、特に好ましくは65%である。一方、好ましい上限値は100%であり、より好ましくは90%であり、さらに好ましくは85%であり、特に好ましくは79%である。この理由は不明であるが、後述する立体異性体のバリエーションが、広分子量分布化に適した領域にあると推測される。
【0107】
特に上記式(2)においてn=6であるシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジエステルのトランス純度は上記の範囲である。
トランス純度が51%未満であると広分子量分布化の効果、活性、立体特異性等が不充分となることがある。また、トランス純度が79%を超えると広分子量分布化の効果が不充分となることがある。すなわち、トランス純度が上記の範囲内であれば、得られる重合体の分子量分布を広げる効果と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性とを高いレベルで両立する上で有利なことが多い。
【0108】
前記環状エステル化合物(b)としては、特には下記式(2a)で表わされるシクロアルカン−1,2−ジカルボン酸ジエステル構造またはシクロアルケン−1,2−ジカルボン酸ジエステル構造を有する化合物が好ましい。
【0109】
【化14】

〔式(2a)中の、n、R1は前記同様(すなわち、式(2)での定義と同様)であり、環状骨格中の単結合(ただしCa−Ca結合およびCa−Cb結合を除く。すなわち、C−Ca結合、C−Cb結合およびC−C結合(nが6〜10の場合))は、二重結合に置き換えられていてもよい。〕
【0110】
上記式(2a)で表わされる化合物として具体的には、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジn−ブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロペンタン−1,2−ジカルボン酸ジヘプチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘプタン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル
などが挙げられる。
【0111】
上記の化合物の中では、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジヘキシル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジへプチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジオクチル、
シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジ2−エチルヘキシル、
がさらに好ましい。その理由は、触媒性能だけでなく、これらの化合物がDiels Alder反応を利用して比較的安価に製造できる点にある。
【0112】
環状エステル化合物(a)および(b)は、各々単独で用いてもよく各2種以上を組み合わせて用いてもよい。
環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)との組合せモル比(環状エステル化合物(a)/(環状エステル化合物(a)+環状エステル化合物(b))×100(モル%))は10モル%以上であることが好ましい。更に好ましくは、30モル%以上、特に好ましくは40モル%以上、特により好ましくは50モル%である。好ましい上限値は99モル%、好ましくは90モル%。より好ましくは85モル%、特に好ましくは80モル%である。
【0113】
本発明の固体状チタン触媒成分(I)は、広範囲の環状エステル化合物(a)の組合せモル比の条件で、即ち固体状チタン触媒成分(I)の環状エステル化合物(a)の含有量が低くても、極めて分子量分布の広いオレフィン重合体を与えることができる。この効果の要因は不明であるが、本発明者らは以下のように推測している。
【0114】
環状エステル化合物(a)は置換基Rの存在により環状エステル化合物(b)に比して形成し得る立体構造のバリエーションが極めて多いことは自明である。このため、分子量分布については環状エステル化合物(a)の影響が支配的になり、組合せモル比が低くても極めて広い分子量分布のオレフィン重合体を与えることができると考えられる。
【0115】
一方、環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)とは比較的構造が似ているので、活性、立体規則性などの基本性能には互いの化合物の効果に影響を与え難い(構造が異なる化合物を用いた場合、活性や立体規則性等が激変することや、一方の化合物の効果が支配的になる例が多くある)。
【0116】
このため、本発明で使用する固体状チタン触媒成分(I)は、環状エステル化合物(a)の含有率が低くても極めて広い分子量分布かつ高い立体規則性を有するオレフィン重合体を高い活性で与えることができる。
【0117】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、分子量分布の広い重合体である。この理由は現時点で不明であるが、下記のような原因が推定される。
環状炭化水素構造は、イス型、舟型など多彩な立体構造を形成することが知られている。さらに、環状構造に置換基を有すると、取りうる立体構造のバリエーションはさらに増大する。また、環状エステル化合物の環状骨格を形成する炭素原子のうちの、エステル基(COOR1基)が結合した炭素原子とエステル基(COOR1基)が結合した他の炭素原子との間の結合が単結合であれば、取りうる立体構造のバリエーションが広がる。この多彩な立体構造を取りうることが、固体状チタン触媒成分(I)上に多彩な活性種を形成することに繋がる。その結果、固体状チタン触媒成分(I)を用いてオレフィンの重合を行うと、多様な分子量のオレフィン重合体を一度に製造することができる、即ち分子量分布の広いプロピレン系ブロック共重合体を製造することができる。
【0118】
本発明において、環状エステル化合物(a)および(b)は、固体状チタン触媒成分(I)を調製する過程で形成されてもよい。例えば、固体状チタン触媒成分(I)を調製する際に、環状エステル化合物(a)および(b)に対応する無水カルボン酸やカルボン酸ジハライドと、対応するアルコールとが実質的に接触する工程を設けることで、環状エステル化合物(a)および(b)を固体状チタン触媒成分中に含有させることもできる。
【0119】
本発明で使用する固体状チタン触媒成分(I)の調製には、上記の環状エステル化合物(a)および(b)の他、マグネシウム化合物およびチタン化合物が用いられる。また、本発明の目的を損なわない限り、後述する触媒成分(c)および触媒成分(d)とを組み合わせて用いてもよい。
【0120】
<マグネシウム化合物>
本発明で使用する固体状チタン触媒成分(I)の調製に用いられるマグネシウム化合物として具体的には、
塩化マグネシウム、臭化マグネシウムなどのハロゲン化マグネシウム;
メトキシ塩化マグネシウム、エトキシ塩化マグネシウム、フェノキシ塩化マグネシウムなどのアルコキシマグネシウムハライド;
エトキシマグネシウム、イソプロポキシマグネシウム、ブトキシマグネシウム、2−エチルヘキソキシマグネシウムなどのアルコキシマグネシウム;
フェノキシマグネシウムなどのアリーロキシマグネシウム;
ステアリン酸マグネシウムなどのマグネシウムのカルボン酸塩などの公知のマグネシウム化合物を挙げることができる。
【0121】
これらのマグネシウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。またこれらのマグネシウム化合物は、他の金属との錯化合物、複化合物あるいは他の金属化合物との混合物であってもよい。
【0122】
これらの中ではハロゲンを含有するマグネシウム化合物が好ましく、ハロゲン化マグネシウム、特に塩化マグネシウムが好ましく用いられる。他に、エトキシマグネシウムのようなアルコキシマグネシウムも好ましく用いられる。また、該マグネシウム化合物は、他の物質から誘導されたもの、例えばグリニャール試薬のような有機マグネシウム化合物とハロゲン化チタンやハロゲン化ケイ素、ハロゲン化アルコールなどとを接触させて得られるものであってもよい。例えば、アルコキシマグネシウムとテトラアルコキシチタンなどを組み合わせる場合は、ハロゲン化剤として四塩化珪素などを反応させ、ハロゲン化マグネシウムとすることが好ましい。
【0123】
<チタン化合物>
チタン化合物としては、例えば一般式;
Ti(OR)g4-g
(Rは炭化水素基であり、Xはハロゲン原子であり、gは0≦g≦4である。)
で示される4価のチタン化合物を挙げることができる。より具体的には、
TiCl4、TiBr4などのテトラハロゲン化チタン;
Ti(OCH3)Cl3、Ti(OC25)Cl3、Ti(O−n−C49)Cl3、Ti(OC25)Br3、Ti(O−isoC49)Br3などのトリハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH32Cl2、Ti(OC252Cl2などのジハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH33Cl、Ti(O−n−C493Cl、Ti(OC253Brなどのモノハロゲン化アルコキシチタン;
Ti(OCH34、Ti(OC254、Ti(OC494、Ti(O−2−エチルヘキシル)4などのテトラアルコキシチタンなどを挙げることができる。
【0124】
これらの中で好ましいものは、テトラハロゲン化チタンであり、特に四塩化チタンが好ましい。これらのチタン化合物は単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のようなマグネシウム化合物およびチタン化合物としては、例えば前記特許文献1、特許文献2などに詳細に記載されている化合物も挙げることができる。
【0125】
本発明の固体状チタン触媒成分(I)の調製には、環状エステル化合物(a)および(b)を該触媒成分中に含ませるようにする他は、公知の方法を制限無く使用することができる。具体的な好ましい方法としては、例えば下記(P−1)〜(P−4)の方法を挙げることができる。
【0126】
(P−1)マグネシウム化合物および触媒成分(c)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)および(b)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させる方法。
【0127】
(P−2)マグネシウム化合物および触媒成分(c)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)および(b)と、液状状態のチタン化合物とを、複数回に分けて接触させる方法。
【0128】
(P−3)マグネシウム化合物および触媒成分(c)からなる固体状付加物と、環状エステル化合物(a)および(b)と、液状状態のチタン化合物とを、不活性炭化水素溶媒共存下、懸濁状態で接触させ、且つ複数回に分けて接触させる方法。
【0129】
(P−4)マグネシウム化合物および触媒成分(c)からなる液状状態のマグネシウム化合物と、液状状態のチタン化合物と、環状エステル化合物(a)および(b)とを接触させる方法。
【0130】
固体状チタン触媒成分(I)の調製の際の好ましい反応温度は、好ましくは−30℃〜150℃、より好ましくは−25℃〜140℃、さらに好ましくは−25〜130℃の範囲である。
【0131】
また上記の固体状チタン触媒成分の製造は、必要に応じて公知の媒体の存在下に行うこともできる。この媒体としては、やや極性を有するトルエンなどの芳香族炭化水素やヘプタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサンなどの公知の脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素化合物が挙げられるが、これらの中では脂肪族炭化水素が好ましい例として挙げられる。
【0132】
上記の範囲で製造された固体状チタン触媒成分(I)を用いてオレフィンの重合反応を行うと、広い分子量分布の重合体を得られる効果と、触媒の活性や得られる重合体の高い立体規則性とをより高いレベルで両立することができる。
【0133】
<触媒成分(c)>
上記の固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物の形成に用いられる触媒成分(c)としては、室温〜300℃程度の温度範囲で上記のマグネシウム化合物を可溶化できる公知の化合物が好ましく、例えばアルコール、アルデヒド、アミン、カルボン酸およびこれらの混合物などが好ましい。これらの化合物としては、例えば前記特許文献1や特許文献2に詳細に記載されている化合物を挙げることができる。
【0134】
上記のマグネシウム化合物可溶化能を有するアルコールとして、より具体的には、
メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、2−メチルペンタノール、2−エチルブタノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノールのような脂肪族アルコール;
シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールのような脂環族アルコール;
ベンジルアルコール、メチルベンジルアルコールなどの芳香族アルコール;
n−ブチルセルソルブなどのアルコキシ基を有する脂肪族アルコールなどを挙げることができる。
【0135】
カルボン酸としては、カプリル酸、2−エチルヘキサノイック酸などの炭素原子数7以上の有機カルボン酸類を挙げることができる。
アルデヒドとしては、カプリックアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒドなどの炭素原子数7以上のアルデヒド類を挙げることができる。
【0136】
アミンとしては、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、ラウリルアミン、2−エチルヘキシルアミンなどの炭素原子数6以上のアミン類を挙げることができる。
上記の触媒成分(c)としては、上記のアルコール類が好ましく、特にエタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、デカノールなどが好ましい。
【0137】
上記の固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物を調製する際のマグネシウム化合物および触媒成分(c)の使用量については、その種類、接触条件などによっても異なるが、マグネシウム化合物は、該触媒成分(c)の単位容積あたり、0.1〜20モル/リットル、好ましくは、0.5〜5モル/リットルの量で用いられる。また、必要に応じて上記固体状付加物に対して不活性な媒体を併用することもできる。上記の媒体としては、ヘプタン、ヘキサン、オクタン、デカンなどの公知の炭化水素化合物が好ましい例として挙げられる。
【0138】
得られる固体状付加物や液状状態のマグネシウム化合物のマグネシウムと触媒成分(c)との組成比は、用いる化合物の種類によって異なるので一概には規定できないが、マグネシウム化合物中のマグネシウム1モルに対して、触媒成分(c)は、好ましくは2.0モル以上、より好ましくは2.2モル以上、さらに好ましくは2.3モル以上、特に好ましくは2.4モル以上、5モル以下の範囲である。
【0139】
<芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物>
本発明の固体状チタン触媒成分(I)は、さらに、芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(以下「触媒成分(d)」ともいう。)を含んでいてもよい。本発明の固体状チタン触媒成分(I)が触媒成分(d)を含んでいると触媒活性を向上させたり、立体規則性を高めたり、分子量分布をより広げることができる場合がある。
【0140】
この触媒成分(d)としては、従来オレフィン重合用触媒に好ましく用いられている公知の芳香族カルボン酸エステルやポリエーテル化合物、例えば上記特許文献1や特開2001−354714号公報などに記載された化合物を制限無く用いることができる。
【0141】
この芳香族カルボン酸エステルとしては、具体的には安息香酸エステル(エチルベンゾエートなど)やトルイル酸エステルなどの芳香族カルボン酸モノエステルの他、フタル酸エステル類等の芳香族多価カルボン酸エステルが挙げられる。これらの中でも芳香族多価カルボン酸エステルが好ましく、フタル酸エステル類がより好ましい。このフタル酸エステル類としては、フタル酸エチル、フタル酸n−ブチル、フタル酸イソブチル、フタル酸ヘキシル、フタル酸へプチル等のフタル酸アルキルエステルが好ましく、フタル酸ジイソブチルが特に好ましい。
【0142】
また前記ポリエーテル化合物としては、より具体的には以下の式(3)で表わされる化合物が挙げられる。
【0143】
【化15】

なお、上記式(3)において、mは1〜10の整数、より好ましくは3〜10の整数であり、特に好ましくは3〜5である。R11、R12、R31〜R36は、それぞれ独立に、水素原子、あるいは炭素、水素、酸素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素、硫黄、リン、ホウ素およびケイ素から選択される少なくとも1種の元素を有する置換基である。
【0144】
11、R12について好ましくは、炭素原子数1〜10の炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数2〜6の炭化水素基であり、R31〜R36について好ましくは水素原子または炭素原子数1〜6の炭化水素基である。
【0145】
11、R12について具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、好ましくは、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、である。
【0146】
31〜R36について具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が挙げられ、好ましくは水素原子、メチル基である。
【0147】
任意のR11、R12、R31〜R36、好ましくはR11、R12は共同してベンゼン環以外の環を形成していてもよく、主鎖中に炭素以外の原子が含まれていてもよい。
上記のような2個以上のエーテル結合を有する具体的な化合物としては、
2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−s−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−クミル−1,3−ジメトキシプロパン
等の1置換ジアルコキシプロパン類、
2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−メチル−2−イソプロピル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−メチル−2−シクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−メチル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ビス(シクロヘキシルメチル)−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ジイソブチル−1,3−ジエトキシプロパン、
2,2−ジイソブチル−1,3−ジブトキシプロパン、
2,2−ジ−s−ブチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2,2−ジネオペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−シクロヘキシル−2−シクロヘキシルメチル−1,3−ジメトキシプロパン
等の2置換ジアルコキシプロパン類
2,3−ジシクロヘキシル−1,4−ジメトキシブタン、
2,3−ジシクロヘキシル−1,4−ジエトキシブタン、
2,3−ジイソプロピル−1,4−ジエトキシブタン
2,4−ジフェニル−1,5−ジメトキシペンタン、
2,5−ジフェニル−1,5−ジメトキシヘキサン、
2,4−ジイソプロピル−1,5−ジメトキシペンタン、
2,4−ジイソブチル−1,5−ジメトキシペンタン、
2,4−ジイソアミル−1,5−ジメトキシペンタン
等のジアルコキシアルカン類、
2−メチル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシプロパン、
2−シクロヘキシル−2−エトキシメチル−1,3−ジエトキシプロパン、
2−シクロヘキシル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシプロパン
等のトリアルコキシアルカン類、
2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソプロピル−2−イソアミル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−シクロヘキシル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソプロピル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソブチル−2−メトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−シクロヘキシル−2−エトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソプロピル−2−エトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン、
2−イソブチル−2−エトキシメチル−1,3−ジメトキシ4−シクロヘキセン
等のジアルコキシシクロアルカン
等を例示することができる。
【0148】
これらのうち、1,3−ジエーテル類が好ましく、特に、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロヘキシル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ビス(シクロヘキシルメチル)1,3−ジメトキシプロパンが好ましい。
【0149】
これらの化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の環状エステル化合物(a)および(b)、触媒成分(c)、ならびに触媒成分(d)は、当業者間では電子供与体と呼ばれる成分に属すると考えても差し支えない。上記の電子供与体成分は、触媒の高い活性を維持したまま、得られる重合体の立体規則性を高める効果や、得られる共重合体の組成分布を制御する効果や、触媒粒子の粒形や粒径を制御する凝集剤効果などを示すことが知られている。
【0150】
上記の環状エステル化合物(a)および(b)は、それ自身が電子供与体であることによって、さらに分子量分布を制御する効果をも示していると考えられる。
本発明の固体状チタン触媒成分(I)において、ハロゲン/チタン(原子比)(すなわち、ハロゲン原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2〜100、好ましくは4〜90であることが望ましく、
環状エステル化合物(a)/チタン(モル比)(すなわち、環状エステル化合物(a)のモル数/チタン原子のモル数)および環状エステル化合物(b)/チタン(モル比)(すなわち、環状エステル化合物(b)のモル数/チタン原子のモル数)は、0.01〜100、好ましくは0.2〜10であることが望ましく、
触媒成分(c)は、触媒成分(c)/チタン原子(モル比)は0〜100、好ましくは0〜10であることが望ましい。
【0151】
ここで、環状エステル化合物(a)と環状エステル化合物(b)との好ましい比率としては、100×環状エステル化合物(a)/(環状エステル化合物(a)+環状エステル化合物(b))の値(モル%)の下限が好ましくは5モル%、より好ましくは25モル%、さらに好ましくは40モル%であり、特に好ましくは50モル%である。上限は好ましくは99モル%、より好ましくは90モル%、さらに好ましくは85モル%、特に好ましくは80モル%である。
【0152】
マグネシウム/チタン(原子比)(すなわち、マグネシウム原子のモル数/チタン原子のモル数)は、2〜100、好ましくは4〜50であることが望ましい。
また、前述した環状エステル化合物(a)および(b)以外に含まれても良い成分、例えば触媒成分(c)および触媒成分(d)の含有量は、環状エステル化合物(a)および(b)100重量%に対して好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは10重量%以下である。
【0153】
固体状チタン触媒成分(I)のより詳細な調製条件として、環状エステル化合物(a)および(b)を使用する以外は、例えばEP585869A1(欧州特許出願公開第0585869号明細書)や前記特許文献2等に記載の条件を好ましく用いることができる。
【0154】
<有機金属化合物触媒成分(II)>
有機金属化合物触媒成分(II)としては、周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属原子を含む有機金属化合物が挙げられる。具体的には、第13族金属を含む化合物、例えば、有機アルミニウム化合物、第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、第2族金属の有機金属化合物などを用いることができる。これらの中でも有機アルミニウム化合物が好ましい。
有機金属化合物触媒成分(II)として具体的には、前記EP585869A1等の公知の文献に記載された有機金属化合物触媒成分を好ましい例として挙げることができる。
【0155】
<電子供与体(III)>
また、本発明のオレフィン重合用触媒は、上記の有機金属化合物触媒成分(II)と共に、必要に応じて電子供与体(III)を含んでいてもよい。電子供与体(III)として好ましくは、有機ケイ素化合物が挙げられる。この有機ケイ素化合物としては、例えば下記一般式(4)で表される化合物を例示できる。
nSi(OR’)4-n ・・・(4)
(式中、RおよびR’は炭化水素基であり、nは0<n<4の整数である。)
【0156】
上記のような一般式(4)で示される有機ケイ素化合物としては、具体的には、ジイソプロピルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジエトキシシラン、t−アミルメチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、2−メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、トリシクロペンチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、シクロペンチルジメチルエトキシシランなどが用いられる。
【0157】
このうちビニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシランが好ましく用いられる。
【0158】
また、国際公開第2004/016662号パンフレットに記載されている下記式(5)で表されるシラン化合物も前記有機ケイ素化合物の好ましい例である。
Si(ORa3(NRbc) ・・・(5)
式(5)中、Raは、炭素原子数1〜6の炭化水素基であり、好ましくは、炭素原子数1〜6の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基などが挙げられ、特に好ましくは炭素原子数2〜6の飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0159】
式(5)中、Rbは、炭素原子数1〜12の炭化水素基または水素原子であり、好ましくは、炭素原子数1〜12の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基または水素原子などが挙げられる。具体例としては水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0160】
式(5)中、Rcは、炭素原子数1〜12の炭化水素基または水素原子であり、好ましくは、炭素原子数1〜12の不飽和あるいは飽和脂肪族炭化水素基などが挙げられる。具体例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が挙げられ、これらの中でもエチル基が特に好ましい。
【0161】
上記式(5)で表される化合物の具体例として、
ジメチルアミノトリエトキシシラン、
ジエチルアミノトリエトキシシラン、
ジメチルアミノトリメトキシシラン、
ジエチルアミノトリメトキシシラン、
ジエチルアミノトリn−プロポキシシラン、
ジ−n−プロピルアミノトリエトキシシラン、
メチル−n−プロピルアミノトリエトキシシラン、
t−ブチルアミノトリエトキシシラン、
エチル−n−プロピルアミノトリエトキシシラン、
エチル−iso−プロピルアミノトリエトキシシラン、
メチルエチルアミノトリエトキシシラン
が挙げられる。
【0162】
また、前記有機ケイ素化合物の他の例としては、下記式(6)で表される化合物が挙げられる。
RNSi(ORa3 ・・・(6)
式(6)中、RNは、環状アミノ基であり、この環状アミノ基として、例えば、パーヒドロキノリノ基、パーヒドロイソキノリノ基、1,2,3,4−テトラヒドロキノリノ基、1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリノ基、オクタメチレンイミノ基等が挙げられる。Raは、式(5)で定義したものと同様のものが挙げられる。上記式(6)で表される化合物として具体的には、
(パーヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、
(パーヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、
(1,2,3,4−テトラヒドロキノリノ)トリエトキシシラン、
(1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリノ)トリエトキシシラン、
オクタメチレンイミノトリエトキシシラン
等が挙げられる。
【0163】
これらの有機ケイ素化合物は、2種以上組み合わせて用いることもできる。
また、電子供与体(III)として他に有用な化合物としては、前記触媒成分(d)として定義した、芳香族カルボン酸エステルおよび/または複数の炭素原子を介して2個以上のエーテル結合を有する化合物(ポリエーテル化合物)も好ましい例として挙げられる。
【0164】
なお、本発明のオレフィン重合用触媒は、上記のような各成分以外にも必要に応じてオレフィン重合に有用な他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、シリカなどの担体、帯電防止剤等、粒子凝集剤、保存安定剤などが挙げられる。粒子凝集剤として、例えば塩化マグネシウムとエタノールを用いて粒子を生成する際、ソルビタンジステアレートなどが好ましい化合物として使用される。
【0165】
[プロピレン系ブロック共重合体(A)の製造方法]
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体(A)は、前記要件[1]〜[8]および好ましくは要件[9]を満たす限り製造方法が限定されるものではない。
【0166】
本発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法では、上述したオレフィン重合用触媒の存在下にオレフィンを予備重合(prepolymerization)させて得られる予備重合触媒の存在下で、本重合(polymerization)を行うことも可能である。この予備重合は、オレフィン重合用触媒1g当り通常0.1〜1000g、好ましくは0.3〜500g、特に好ましくは1〜200gの量でオレフィンを予備重合させることにより行われる。
【0167】
予備重合では、本重合における系内の触媒濃度よりも高い濃度の触媒を用いることができる。
予備重合における前記固体状チタン触媒成分(I)の濃度は、液状媒体1リットル当り、チタン原子換算で、通常約0.001〜200ミリモル、好ましくは約0.01〜50ミリモル、特に好ましくは0.1〜20ミリモルの範囲とすることが望ましい。
【0168】
予備重合における前記有機金属化合物触媒成分(II)の量は、固体状チタン触媒成分(I)1g当り通常0.1〜1000g、好ましくは0.3〜500gの重合体が生成するような量であればよく、固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常約0.1〜300モル、好ましくは約0.5〜100モル、特に好ましくは1〜50モルの量であることが望ましい。
【0169】
予備重合では、必要に応じて前記電子供与体(III)等を用いることもでき、この際これらの成分は、前記固体状チタン触媒成分(I)中のチタン原子1モル当り、通常0.1〜50モル、好ましくは0.5〜30モル、さらに好ましくは1〜10モルの量で用いられる。
【0170】
予備重合は、不活性炭化水素媒体にオレフィンおよび上記の触媒成分を加え、温和な条件下に行うことができる。
この場合、用いられる不活性炭化水素媒体として具体的には、
プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;
シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、メチルシクロヘプタン、シクロオクタンなどの脂環族炭化水素;
ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;
エチレンクロリド、クロルベンゼンなどのハロゲン化炭化水素;
あるいはこれらの混合物などを挙げることができる。
【0171】
これらの不活性炭化水素媒体のうち、特に脂肪族炭化水素を用いることが好ましい。このように、不活性炭化水素媒体を用いる場合、予備重合はバッチ式で行うことが好ましい。
【0172】
一方、オレフィン自体を溶媒として予備重合を行うこともできるし、また実質的に溶媒のない状態で予備重合することもできる。この場合には、予備重合を連続的に行うのが好ましい。
【0173】
予備重合で使用されるオレフィンは、後述する本重合で使用されるオレフィンと同一であっても、異なっていてもよいが、プロピレンであることが好ましい。
予備重合の際の温度は、通常−20〜+100℃であり、好ましくは−20〜+80℃、さらに好ましくは0〜+40℃の範囲である。
【0174】
次に、前記の予備重合を経由した後に、あるいは予備重合を経由することなく実施される本重合(polymerization)について説明する。
本発明において本重合(polymerization)は、プロピレン重合体成分を製造する工程およびプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程に分けられる。
【0175】
本発明では、予備重合および本重合は、バルク重合法、溶解重合、懸濁重合などの液相重合法あるいは気相重合法のいずれにおいても実施できる。プロピレン重合体成分を製造する工程として好ましいのは、バルク重合や懸濁重合などの液相重合あるいは気相重合法である。また、プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程として好ましいのは、バルク重合や懸濁重合などの液相重合あるいは気相重合法であり、より好ましいのは、気相重合法である。
【0176】
本重合がスラリー重合の反応形態を採る場合、反応溶媒としては、上述の予備重合時に用いられる不活性炭化水素を用いることもできるし、反応温度・圧力において液体であるオレフィンを用いることもできる。
【0177】
上記プロピレンブロック共重合体の製造方法における本重合においては、前記固体状チタン触媒成分(I)は、重合容積1リットル当りチタン原子に換算して、通常は約0.0001〜0.5ミリモル、好ましくは約0.005〜0.1ミリモルの量で用いられる。また、前記有機金属化合物触媒成分(II)は、重合系中の予備重合触媒成分中のチタン原子1モルに対し、通常約1〜2000モル、好ましくは約5〜500モルとなるような量で用いられる。前記電子供与体(III)は、使用される場合であれば、前記有機金属化合物触媒成分(II)1モルに対して、0.001〜50モル、好ましくは0.01〜30モル、特に好ましくは0.05〜20モルの量で用いられる。
【0178】
本重合を水素の存在下に行えば、得られる重合体の分子量を調節する(下げる)ことができ、メルトフローレートの大きい重合体が得られる。分子量を調整するために必要な水素量は、使用する製造プロセスの種類、圧力、温度によって異なる為、一概に範囲を決定することができない。それゆえ、プロピレン重合体成分を製造する工程では、目標とするMFRが0.01〜1000g/10分の範囲で得られるように圧力、温度を考慮して水素量を決定することが望ましい。また、プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程においてもDsolの極限粘度[η]が1.5dl/g以上、5.0dl/g以下の範囲で得られるように圧力、温度を考慮して水素量を決定することが望ましい。
【0179】
本発明における本重合において、オレフィンの重合温度は、通常、約20〜200℃、好ましくは約30〜100℃、より好ましくは50〜90℃である。圧力(ゲージ圧)は、通常、常圧〜100kgf/cm2(9.8MPa)、好ましくは約2〜50kgf/cm2(0.20〜4.9MPa)に設定される。本発明のプロピレンブロック共重合体の製造方法においては、重合を、回分式、半連続式、連続式の何れの方法においても行うことができる。さらに重合を、反応条件を変えて二段以上に分けて行うこともできる。
【0180】
また、本発明におけるプロピレンブロック共重合体を得るためにα−オレフィン/(α−オレフィン+プロピレン)ガス比を制御している。α−オレフィンとしては、プロピレン以外の炭素原子数が2〜20のアルケンがよく、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどの直鎖状オレフィンや、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテンなどの分岐状オレフィンなどが挙げることができ、中でもエチレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンが好ましく、より好ましいのはエチレンである。α−オレフィン/(α−オレフィン+プロピレン)ガス比は、5〜80モル%、好ましくは、10〜70モル%、より好ましくは15〜60モル%で制御して用いる。
【0181】
本発明で用いるプロピレン系ブロック共重合体(A)の製造方法についてさらに詳細に説明する。
本発明者らの知見に拠れば、本発明のプロピレン系ブロック共重合体(A)を構成する室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)は、主としてプロピレン重合体成分から構成される。
【0182】
一方、室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)は、主としてプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分から構成される。
したがって、本発明のプロピレン系ブロック共重合体(A)は、次の製造方法によって製造が可能となる。
【0183】
製造方法;
次の二つの重合工程(重合工程1および重合工程2)を連続的に実施することによって、要件[1]〜要件[8]および好ましくは要件[9]を満たすプロピレン系ブロック共重合体(A)を製造する方法(以下、この方法を「直重法」と呼ぶ)。
【0184】
[重合工程1]固体状チタン触媒成分の存在下でプロピレンと必要に応じて他のα−オレフィンとを重合し、プロピレン重合体成分を製造する工程(プロピレン重合体製造工程)。
【0185】
[重合工程2]固体状チタン触媒成分の存在下でプロピレン並びにエチレンを共重合することプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程(共重合体ゴム製造工程)。
【0186】
なお、上記プロピレン−エチレン共重合体ゴムを製造する際には、エチレン/(エチレン+プロピレン)ガス比を、好ましくは5〜80モル%、より好ましくは10〜70モル%、さらに好ましくは15〜60モル%で制御して重合を行う。
【0187】
本発明に係るプロピレン系ブロック共重合体(A)は、前述した製造方法で製造されることが好ましく、重合工程1を前段で行い、重合工程2を後段で行うことがより好ましい。また、各重合工程(重合工程1、重合工程2)は直列した2槽以上の重合槽を用いて行うこともできる。
【0188】
ここで、プロピレン重合体成分を製造する工程(上記製造方法の重合工程1)が、直列した2槽以上の重合槽で行われる場合、各槽で生成されるプロピレン重合体の極限粘度[η]は4dl/g以下であることが好ましい。各槽で成長するプロピレン重合体の分子量に相当する極限粘度[η]は次式で計算される。
【0189】
【数8】

また、前記プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程(上記製造方法の重合工程2)は、1段階で重合することが好ましい。
【0190】
[エラストマー(B)]
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物にはエラストマー(B)が含まれていてもよい。前記エラストマー(B)としては、エチレン・α−オレフィンランダム共重合体(B−a)、エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(B−b)、水素添加ブロック共重合体(B−c)、その他弾性重合体、およびこれらの混合物などが挙げられる。
【0191】
前記エチレン・α−オレフィンランダム共重合体(B−a)は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとのランダム共重合体ゴムである。上記炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独でまたは組み合せて用いることができる。これらの中では、特にプロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンが好ましく用いられる。
【0192】
エチレン・α−オレフィンランダム共重合体(B−a)は、エチレンとα−オレフィンとのモル比(エチレン/α−オレフィン)が95/5〜70/30、好ましくは90/10〜75/25であるのが望ましい。エチレン・α−オレフィンランダム共重合体(B−a)は、190℃、荷重2.16kgにおけるMFRが下限としては0.1g/10min以上であり、好ましくは0.5g/min以上であり、上限としては50g/10min以下であるのが望ましい。
【0193】
前記エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(B−b)は、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンと非共役ポリエンとのランダム共重合体ゴムである。上記炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、前記と同じものが挙げられる。前記非共役ポリエチレンとしては、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−プロピリデン−5−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの非環状ジエン;1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,5−ヘプタジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、6−メチル−1,7−オクタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンなどの鎖状の非共役ジエン;2,3−ジイソプロピリデン−5−ノルボルネンなどのトリエン等が挙げられる。これらの中では、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましく用いられる。
【0194】
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(B−b)は、エチレンとα−オレフィンと非共役ポリエンとのモル比(エチレン/α−オレフィン/非共役ポリエン)が90/5/5〜30/45/25、好ましくは80/10/10〜40/40/20であるのが望ましい。
【0195】
エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(B−b)は、230℃、荷重2.16kgにおけるMFRが0.05g/10min以上、好ましくは0.1〜10g/10minであるものが望ましい。エチレン・α−オレフィン・非共役ポリエンランダム共重合体(B−b)の具体的なものとしては、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体(EPDM)などが挙げられる。
【0196】
前記水素添加ブロック共重合体(B−c)は、ブロックの形態が以下式(x)または(y)で表されるブロック共重合体の水素添加物であり、水素添加率が90モル%以上、好ましくは95モル%以上の水素添加ブロック共重合体である。
X(YX)n ・・・(x)
(XY)n ・・・(y)
【0197】
前記式(x)または(y)のXで示される重合ブロックを構成するモノビニル置換芳香族炭化水素としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、低級アルキル置換スチレン、ビニルナフタレン等のスチレンまたはその誘導体などがあげられる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0198】
前記式(x)または(y)のYで示される重合ブロックを構成する共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどがあげられる。これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。nは1〜5の整数、好ましくは1または2である。
【0199】
水素添加ブロック共重合体(B−c)の具体的なものとしては、スチレン・エチレン・ブテン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン・プロピレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)およびスチレン・エチレン・プロピレンブロック共重合体(SEP)等のスチレン系ブロック共重合体などが挙げられる。
【0200】
水素添加前のブロック共重合体は、例えば不活性溶媒中で、リチウム触媒またはチーグラー触媒の存在下に、ブロック共重合を行わせる方法により製造することができる。詳細な製造方法は、例えば特公昭40−23798号などに記載されている。水素添加処理は、不活性溶媒中で公知の水素添加触媒の存在下に行うことができる。詳細な方法は、例えば特公昭42−8704号、同43−6636号、同46−20814号などに記載されている。
【0201】
共役ジエンモノマーとしてブタジエンが用いられる場合、ポリブタジエンブロックにおける1,2−結合量の割合は20〜80重量%、好ましくは30〜60重量%であることが望ましい。
【0202】
水素添加ブロック共重合体(B−c)としては市販品を使用することもできる。具体的なものとしては、クレイトンG1657(商標、シェル化学(株)製)、セプトン2004(商標、クラレ(株)製)、タフテックH1052(商標、旭化成(株)製)などが挙げられる。エラストマー(B)は1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合せて使用することもできる。
【0203】
[フィラー(E)]
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物の構成成分であるフィラー(E)とは、タルク、硫酸マグネシウム繊維、ガラス繊維、炭素繊維、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、リン酸アンモニウム塩、珪酸塩類、炭酸塩類、カーボンブラック等の無機フィラーと、木粉、セルロース、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、ジュード繊維、米粉、澱粉、コーンスターチ等の有機フィラーとに大別される。
前記無機フィラーとしては、タルク、硫酸マグネシウム、ガラス繊維、炭素繊維が好適に使用される。以下、詳細に説明する。
【0204】
(タルク)
タルクは、含水ケイ酸マグネシウムを粉砕したものである。含水ケイ酸マグネシウムの結晶構造は、パイロフィライト型三層構造であり、タルクはこの構造が積み重なったものである。タルクとして、より好ましくは、含水ケイ酸マグネシウムの結晶を単位層程度にまで微粉砕した平板状のものである。
【0205】
上記のタルクの平均粒子径として、好ましくは3μm以下である。ここでタルクの平均粒子径とは、遠心沈降式粒度分布測定装置を用いて水またはアルコールである分散媒中にタルクを懸濁させて測定した篩下法の積分分布曲線から求めた50%相当粒子径D50を意味する。タルクは、無処理のまま使用しても良く、または、プロピレン系ブロック共重合体との界面接着性やプロピレン系樹脂組成物に対する分散性を向上させるために、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩類、または、他の界面活性剤で表面を処理して使用しても良い。
【0206】
(硫酸マグネシウム繊維)
硫酸マグネシウム繊維を用いた場合、その平均繊維長として、好ましくは5〜50μmであり、より好ましくは10〜30μmである。また、硫酸マグネシウム繊維の平均繊維径として、好ましくは0.3〜2μmであり、より好ましくは0.5〜1μmである。製品としては、宇部興産(株)「モスハイジ」などが挙げられる。
【0207】
(ガラス繊維)
ガラス繊維としては、Eガラス(Electrical glass)、Cガラス(Chemical glass)、Aガラス(Alkali glass)、Sガラス(High strength glass)および耐アルカリガラスなどのガラスを溶融紡糸してフィラメント状の繊維にしたものを挙げることができる。該ガラス繊維は1mm以下の短繊維、1mm以上の長繊維の形態で組成物中に含まれる。
【0208】
長繊維ガラスを用いる場合は、公知のブレンド方法が使用できる。特に、特開2006−117839号公報、特開2004−2837号公報に記載されているようにガラス繊維処理用変性ポリオレフィン系樹脂を含むサイジング剤で処理された表面処理ガラス繊維を含む繊維強化プロピレン系樹脂を長さ2〜200mmのペレットに加工して、無水マレイン酸等のエチレン系不飽和結合含有モノマーで変性された変性プロピレン樹脂とともにプロピレン系樹脂組成物を作成することが望ましい。
【0209】
(炭素繊維)
本発明のプロピレン系樹脂組成物で使用される炭素繊維は、繊維径が2μmより大きく15μm以下であり、好ましくは3μm〜12μm、より好ましくは4μm〜10μmである。繊維径が2μm以下の場合、繊維の剛性が著しく低下し、15μmを超えると、繊維のアスペクト比(長さ(L)と太さ(D)の比:L/D)が低下してしまうため、剛性や耐熱性などの十分な補強効率が得られず好ましくない。ここで繊維径は、繊維を繊維方向に垂直に裁断し、その断面を顕微鏡観察して直径を計測し、100本以上の繊維の直径の数平均を算出することにより求めることができる。
【0210】
また、炭素繊維は、繊維長が通常1〜20mm、好ましくは2〜15mm、より好ましくは3〜10mmである。繊維長が1mm未満の場合、アスペクト比が低く十分な補強効率が得られず、繊維長が20mmを超えると、加工性や外観が著しく悪化してしまうため好ましくない。
【0211】
ここで、繊維長は、ノギス等を用いて計測し、100本以上の繊維の繊維長の数平均を算出することにより求めることができる。
本発明のプロピレン系樹脂組成物で使用される炭素繊維としては、上述の形状を満たせば、特に制限なく、従来公知の炭素繊維が使用できる。炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリルを原料としたPAN系炭素繊維や、ピッチを原料としたピッチ系炭素繊維などを例示する事ができる。これらの炭素繊維は、繊維原糸を所望の長さに裁断した、所謂チョップドカーボンファイバーとして用いることができ、又必要に応じて、各種サイジング剤を用いて収束処理されたものであっても良い。収束処理に用いるサイジング剤は、ポリプロピレン樹脂との溶融混練において融解する必要があるため、200℃以下で溶融するものであることが好ましい。
【0212】
このようなチョップドカーボンファイバーの具体例としては、PAN系炭素繊維では、東レ(株)社製商品名『トレカチョップ』、三菱レーヨン(株)社製商品名『パイロフィル(チョップ)』、東邦テナックス(株)社製商品名『ベスファイト(チョップ)』等を挙げる事が出来、ピッチ系炭素繊維では、三菱化学産資(株) 社製商品名『ダイアリード』、大阪ガスケミカル(株)社製商品名『ドナカーボ(チョップ)』、呉羽化学(株)社製商品名『クレカチョップ』等を挙げることが出来る。
【0213】
これらの炭素繊維成分は、本発明のプロピレン系樹脂組成物を構成するその他の成分と共に、押出機などの溶融混練装置を用いて複合化されるが、この溶融混練の際には、炭素繊維成分の過剰な折損を防止するような複合化方法を選択する事が好ましい。これを実現するための方法としては、例えば、押出機による溶融混練では、炭素繊維成分以外の成分を十分に溶融混練した後、炭素繊維成分をサイドフィード法等により、樹脂成分の完全溶融位置よりも川下側の位置からフィードし、繊維の折損を最小限に抑えながら、収束繊維を分散させる方法等を例示することができる。
【0214】
炭素繊維を含む本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、反応性官能基を有するサイジング剤で表面処理された炭素繊維に、無水マレイン酸等のエチレン系不飽和結合含有モノマーで変性された変性プロピレン樹脂とともにプロピレン系樹脂組成物を含浸してなる炭素長繊維強化プロピレン系樹脂ペレットの形態で使用しても良い。前記炭素長繊維強化プロピレン系樹脂ペレットでは、該ペレットの長さ方向に炭素長繊維が同一長さで平行配列しており、該炭素長繊維の長さが4〜50mmであることが望ましい。
【0215】
また、炭素繊維を含む本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、反応性官能基を有するサイジング剤で表面処理された炭素繊維に、無水マレイン酸等のエチレン系不飽和結合含有モノマーで変性された変性プロピレン樹脂とともに、プロピレン系樹脂組成物を含浸してなる炭素繊維強化シートの形状で使用しても良い。
【0216】
(木粉)
木粉としては、木材をカッターミルなどによって破断し、これをボールミルやインペラーミルなどにより粉砕して、微粉状にしたものなどが使用可能であり、その平均粒径は通常1〜200μm、好ましくは10〜150μmである。平均粒径が1μm未満のものは、取り扱いが困難であるうえに、特に木質系充填剤の配合量が多い場合は、樹脂への分散が悪いと、製造される木質樹脂発泡成形体に機械強度の低下が発生する。また、200μmより大きいと、成形品の均質性、平面性、機械的強度が低下する。
【0217】
(セルロース)
セルロースは、セルロース繊維と結晶セルロースが好適に使用される。
セルロース繊維は、純度が高い繊維であるのが好ましく、例えば、α−セルロース含量が80重量%以上の繊維であるのが好ましい。セルロース繊維などの有機繊維としては、平均繊維径0.1〜1000μmおよび平均繊維長0.01〜5mmを有する繊維が使用できる。
【0218】
結晶セルロースは、繊維性植物からパルプとして得たα−セルロースを、鉱酸で部分的に解重合し、精製したものであり、製品としては旭化成(株)製「セオラス」等が挙げられる。
【0219】
[他の成分]
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の他の成分を含有していてもよい。以下に本発明のプロピレン系樹脂組成物が含み得る他の成分について記載する。
【0220】
(プロピレン系重合体)
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、プロピレン系ブロック共重合体(A)以外のプロピレン系重合体(A’)を含有していてもよい。このようなプロピレン系重合体(A’)とは、プロピレンの単独重合体、プロピレンとエチレンおよび他のα−オレフィンの共重合体、プロピレンとエチレンおよび他のα−オレフィンのブロック共重合体である。前述のα−オレフィンの具体例としては、1−ブテン、2−メチル−1−プロペン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、2−エチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、1−ヘプテン、メチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ペンテン、エチル−1−ペンテン、トリメチル−1−ブテン、メチルエチル−1−ブテン、1−オクテン、メチル−1−ペンテン、エチル−1−ヘキセン、ジメチル−1−ヘキセン、プロピル−1−ヘプテン、メチルエチル−1−ヘプテン、トリメチル−1−ペンテン、プロピル−1−ペンテン、ジエチル−1−ブテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン等を挙げることができる。これらの中でも1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンのα−オレフィンを好ましく用いることができる。
【0221】
プロピレン系重合体(A’)は、融点(Tm)が145〜170℃、好ましくは155〜167℃であることが望ましい。また、プロピレン系重合体(A’)のメルトフローレート(MFR:ASTM D1238、230℃、荷重2.16kg)は、通常0.3〜200g/10分、好ましくは2〜150g/10分、さらに好ましくは10〜100g、/10分である。
【0222】
(結晶核剤)
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、剛性、耐熱性、成形性改良の必要に応じて結晶核剤を添加しても良い。
【0223】
本発明で用いられる結晶核剤としては、ジベンジリデンソルビトール等のソルビトール化合物、有機リン酸エステル系化合物、ロジン酸塩系化合物、C4〜C12の脂肪族ジカルボン酸およびその金属塩などを挙げることができる。
【0224】
これらの中では、有機リン酸エステル系化合物が好ましい。有機リン酸エステル系化合物は、次に示す一般式[N−1]および/または[N−2]で表わされる化合物である。
【0225】
【化16】

【0226】
【化17】

前記の式[N−1]、[N−2]中、R1は、炭素原子数1〜10の2価の炭化水素基であり、R2およびR3は、水素または炭素原子数1〜10の炭化水素基であって、R2とR3は同じであっても異なっていてもよく、Mは、1〜3価の金属原子であり、nは1〜3の整数であり、mは1または2である。
【0227】
一般式[N−1]で表わされる有機リン酸エステル系化合物の具体例としては、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−ブチリデン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−ブチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−t−オクチルメチレン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−t−オクチルメチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−ビス−(2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、マグネシウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム−ビス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−エチリデン−ビス(4−m−ブチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−エチルフェニル)フォスフェート、カリウム−2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フオスフェート]、マグネシウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム−ビス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、アルミニウム−トリス[2,2’−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェル)フォスフェート]、アルミニウム−トリス[2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、およびこれらの2種以上の混合物などを挙げることができる。
【0228】
一般式[N−2]で表わされるヒドロキシアルミニウムフォスフェート化合物も使用可能な有機リン酸エステル系化合物であって、特にR2およびR3が共にtert−ブチル基である、一般式[N−3]で表わされる化合物が好ましい。
【0229】
【化18】

式[N−3]において、R1は、炭素原子数1〜10の2価の炭化水素基であり、mは1または2である。特に好ましい有機リン酸エステル系化合物は、一般式[N−4]で表わされる化合物である。
【0230】
【化19】

式[N−4]において、R1は、メチレン基またはエチリデン基である。
【0231】
具体的には、ヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチル)フォスフェート]、またはヒドロキシアルミニウム−ビス[2,2−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチル)フォスフェート]である。前記ソルビトール系化合物としては、具体的には、1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−n−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−i−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−n−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−s−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−t−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトールもしくは1,3,2,4−ジ(p−クロルベンジリデン)ソルビトールなどを例示することができる。特に、1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトールまたは1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトールが好ましい。
【0232】
本発明で使用可能なC4〜C12の脂肪族ジカルボン酸およびその金属塩としては、具体的には、コハク酸、グルタール酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、およびこれらのLi、Na、Mg、Ca、Ba、Al塩などを挙げることができる。また、本発明で結晶核剤として使用可能な芳香族カルボン酸およびその金属塩としては、安息香酸、アリル置換酢酸、芳香族ジカルボン酸およびこれらの周期律表第1〜3族金属塩であり、具体的には、安息香酸、p−イソプロピル安息香酸、o−第3級ブチル安息香酸、p−第3級ブチル安息香酸、モノフェニル酢酸、ジフェニル酢酸、フェニルジメチル酢酸、フタル酸、およびこれらのLi、Na、Mg、Ca、Ba、Al塩などを挙げることができる。
【0233】
また、結晶核剤として、下記式[N−5]で示される核剤を使用しても良い。
【0234】
【化20】

式[N−5]において、nは、0〜2の整数であり、R1〜R5は、同一または異なって、それぞれ水素原子もしくは炭素数が1〜20のアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボニル基、ハロゲン基およびフェニル基であり、R6は、炭素数が1〜20のアルキル基である。
【0235】
式[N−5]において好ましくは、nは、0〜2の整数であり、R1、R2、R4およびR5は、それぞれ水素原子であり、R3およびR6は、同一または異なって、それぞれ炭素数が1〜20のアルキル基である。
【0236】
さらに好ましくは、式[N−5]において、nは、0〜2の整数であり、R1、R2、R4およびR5は、それぞれ水素原子であり、R3は、−CH3、−CH2CH3、−CH2CH2CH3、−CH2CH2CH2CH3、−CH2CH=CH2、−CH(CH3)CH=CH2、−CH2CH−X1−CH2−X2、−CH2CH−X3−CH2CH3、−CH2CH−X4−CH2OHもしくは−CH2OH−CH(OH)−CH2OHであり(但し、X1〜X4は、それぞれ独立したハロゲン基である。)、R6は、炭素数が1〜20のアルキル基である。
【0237】
式[N−5]に示された結晶核剤の製造方法としては、国際公開2005/111134号パンフレット等に記載の方法を挙げることができる。市販品としても、容易に入手することができ、例えば、ミラッドNX8000(ミリケン・アンド・カンパニー社製)を挙げることができる。
【0238】
(安定剤)
本発明で用いられる安定剤は、耐熱安定剤、耐候安定剤、耐光安定剤、塩化吸収剤、充填剤、結晶核剤、軟化剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス等の公知の安定剤を制限無く用いることができる。例えば公知のフェノール系安定剤、有機ホスファイト系安定剤、チオエーテル系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤、ステアリン酸カルシウムなどの高級脂肪酸金属塩、無機酸化物などが挙げられる。
【0239】
本発明に用いられるプロピレン系ブロック共重合体(A)は、上記のとおり高分子量成分を比較的多く含む特徴がある。高分子量成分は、熱、光、剪断などのエネルギーにより比較的切断が起き易い傾向があることが知られている。分子切断が起こると分子量分布が狭くなり、高速成形性能の低下や大型成型品の製造が困難になる等の問題点が生じる可能性がある。したがって、上記の添加剤は従来に比して効果の高い添加剤を選択することや添加量を高めることが好ましい。
【0240】
[プロピレン系樹脂組成物]
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、上記要件[1]〜[8]を同時に満たすプロピレン系ブロック共重合体(A)、およびエラストマー(B)と必要に応じて、フィラー(E)および上述した他の成分を包含しており、その含有量は、それぞれ以下のとおりである。
【0241】
プロピレン系ブロック共重合体(A)の含有量は、(A)、(B)、および(E)の合計100重量部に対して40重量部以上であり、好ましくは45重量部以上、更に好ましくは50重量部以上である。また、上記プロピレン系ブロック共重合体(A)の含有量は、(A)(B)、および(E)の合計100重量部に対して、95重量部以下であり、好ましくは90重量部以下、更に好ましくは88重量部以下である。
【0242】
衝撃強度、剛性の観点から、エラストマー(B)の含有量は、(A)、(B)、および(E)の合計100重量部に対して、5重量部以上であり、好ましくは10重量部以上、更に好ましくは12重量部以上であり、また上記エラストマー(B)の配合量は、(A)、(B)、および(E)の合計100重量部に対して、30重量部以下であり、好ましくは25重量部以下、更に好ましくは20重量部以下である。
【0243】
フィラー(E)の含有量は、(A)、(B)、および(E)の合計100重量部に対して、0重量部以上であり、好ましくは1重量部以上であり、更に好ましくは2重量部以上である。また、上記フィラー(E)の含有量は、(A)、(B)、および(E)の合計100重量部に対して、30重量部以下であり、好ましくは25重量部、更に好ましくは20重量部以下である。
【0244】
フィラー(E)の含有量が0の場合についても好ましい範囲と規定しているが、これは使用製品によっては、フィラーを添加しなくても、必要な剛性を確保できる場合があるからである。
【0245】
なお、必要に応じて添加される上述の他の成分は、その添加する成分の効果の発現に併せて適切な量が適宜添加されてよい。
上記プロピレン系樹脂組成物に発泡剤を添加して発泡成形することにより、本発明の発泡成形体を製造することができる。上記プロピレン系樹脂組成物は、特に射出発泡成形用途に好適に用いることができる。発泡剤の種類ならびに添加量は、樹脂組成物の組成及び発泡成形体の要求物性に応じて、発泡剤からの発生ガス量及び望ましい発泡倍率などを考慮して選択される。
【0246】
発泡成形体の製造方法
本発明の発泡成形体は、上述したプロピレン系樹脂組成物と、後述する発泡剤とを溶融混錬し発泡成形、例えば射出発泡成形することにより製造する。
【0247】
上記発泡剤は、本発明の発泡成形体が製造できる限り特に制限はないが、典型的には物理発泡剤、化学発泡剤に分類される。
上記物理発泡剤としては、溶剤型発泡剤、気体状発泡剤などがある。
【0248】
溶剤型発泡剤は、一般的には射出成形機のシリンダー部分から注入して溶融原料樹脂に吸収ないし溶解させその後射出成形金型中で蒸発させ発泡剤として機能する物質である。上記溶剤型発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ネオペンタン、ヘプタン、イソヘキサン、ヘキサン、イソヘプタン、ヘプタン等の低沸点脂肪族炭化水素、フロンガスなどに代表される低沸点のフッ素含有炭化水素等が挙げられる。
【0249】
上記気体状発泡剤としては、例えば、二酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、アスタチンなどの不活性ガスが挙げられる。これら物理発泡剤の中でも、蒸気にする必要が無く、安価で、環境汚染、火災の危険性が極めて少ない点では、二酸化炭素、窒素、アルゴンなどの不活性ガスからなる気体状発泡剤が好ましい。なお、気体状発泡剤は、超臨界状態で用いてもよい。
【0250】
上記化学発泡剤としては、分解型発泡剤などがある。
分解型発泡剤は、一般的には原料樹脂組成物に予め配合されてから成形機、例えば射出成形機へと供給され、射出発泡成形の場合は、射出成形機のシリンダー温度条件下で発泡剤が分解して炭酸ガス、窒素ガス等の気体を発生する化合物である。分解型発泡剤には、無機系分解型発泡剤、有機系分解型発泡剤がある。
【0251】
上記無機系分解型発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、亜硝酸アンモニウムなどが挙げられる。
上記有機系分解型発泡剤としては、N,N’−ジニトロソテレフタルアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンなどのN−ニトロソ化合物;アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾシクロヘキシルニトリル、アゾジアミノベンゼン、バリウムアゾジカルボキシレートなどのアゾ化合物;ベンゼンスルフォニルヒドラジド、トルエンスルフォニルヒドラジド、p,p’−オキシビス(ベンゼンスルフェニルヒドラジド)、ジフェニルスルフォン−3,3’−ジスルフォニルヒドラジドなどのスルフォニルヒドラジド化合物;4,4’−ジフェニルジスルフォニルアジド、p−トルエンスルフォニルアジドなどのアジド化合物等が挙げられる。
【0252】
これら発泡剤は、1種単独で用いてもよく、あるいは2種以上組み合わせて用いてもよい。また、上記発泡剤は、プロピレン系樹脂組成物に予め配合してから成形することもできるし、成形する際に別途添加、例えば射出成形する場合は、シリンダーの途中から添加することもできる。これら発泡剤の中でも、重炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩または炭酸水素塩が好ましい。
【0253】
また、上記分解型発泡剤を使用する場合には、気体の発生を促すクエン酸などの有機酸、クエン酸ナトリウムなどの有機酸金属塩等の発泡助剤を併用してもよい。例えば、上記重炭酸水素ナトリウム等の、炭酸塩または炭酸水素塩を発泡剤として用いる場合には、有機カルボン酸を発泡助剤として併用することが望ましい。炭酸塩または炭酸水素塩と有機カルボン酸との配合比は、炭酸塩または炭酸水素塩と有機カルボン酸との合計100重量部に対して、炭酸塩または炭酸水素塩30〜90重量部、有機カルボン酸10〜70重量部の範囲が好ましい。なお、発泡剤および発泡助剤の使用に当たって、それらを含むマスターバッチを予め作っておき、それを発泡成形に用いる上記プロピレン系樹脂組成物に配合する処方をとってもよい。
【0254】
発泡剤の添加量は、製造する発泡成形体の要求性状に応じて、発泡剤からの発生ガス量及び望ましい発泡倍率等を考慮して選択されるが、発泡成形に用いる上記プロピレン系樹脂組成物100重量部に対して、通常0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5.0重量部、より好ましくは0.7〜4.0重量部の範囲である。発泡剤の添加量がこのような範囲であると、気泡径が揃い、かつ気泡が均一分散した発泡成形体を得ることができる。
【0255】
本発明の発泡成形体は、上述したプロピレン系樹脂組成物に発泡剤を添加し、成形機、例えば射出成形機にて可塑化混練して可塑化樹脂組成物を作製し、これを発泡成形、好ましくは射出発泡成形する。プロピレン系樹脂組成物への発泡剤の添加は、射出成形機への供給前に行ってもよく、プロピレン系樹脂組成物を溶融混練している射出成形機中に発泡剤を供給することにより行ってもよい。
【0256】
射出発泡成形は、成形時にキャビティの容積を変化させるか、変化させないかで大きく2つに分けることができる。キャビティの容積を変化させない方法としては、可塑化樹脂組成物を射出成形機から金型のキャビティへ射出充填し、その後、金型を移動させずにキャビティ容積を一定に保った状態で樹脂の収縮に伴う圧力低下により、成形品内部で樹脂に溶解した発泡剤が気体化し成形体内部が発泡する低倍率な発泡方法で、ヒケの防止や重量を1〜20%低減した成形品を得ることができる。また、キャビティ容積を変化させる方法としては発泡剤を含んだ溶融樹脂を射出充填させ、その途中もしくは樹脂の射出充填完了後に、可動型や金型内のスライドコア等を移動することでキャビティ容積を変化させ、最終的にキャビティの容積を充填樹脂量よりも拡大することにより樹脂組成物を発泡させて発泡成形体を製造する方法で、ヒケの防止効果、軽量効果、剛性向上効果を大きく高めた成形体を得る発泡工法となる。この工法では発泡倍率は1.1〜20倍程度まで向上させることができ、等剛性における軽量化効果を有効に利用することができる。
【0257】
本発明の射出発泡成形により得られる発泡成形体はキャビティ容積を変化させない発泡成形によっても製造可能であるが、金型を移動させキャビティ容積を拡大するキャビティ容積拡大法(コアバック工法とも呼ぶ)により好適に製造される。以下この工法について説明する。
【0258】
射出発泡成形に用いる成形金型は、固定型と可動型とから構成され、これらは可塑化樹脂組成物の射出充填時には型締状態にあることが好ましい。型締め状態にある場合には、可動型の射出充填時の位置、すなわち初期位置は、固定型と可動型とが最も接近した状態にあり、1回の成形に使用する発泡性樹脂組成物の溶融体が未発泡の状態で充填される容積とほぼ同等な容積になる位置に可動型があり、製品形状に近いキャビティが形成されている。本発明では、固定型と可動型との間に形成される射出開始時の拡開方向長さ、すなわち射出開始時の金型のキャビティクリアランス(T0)は、好ましくは0.8〜3.0mm、より好ましくは0.9〜2.0mm、さらに好ましくは1.0〜1.5mmの範囲である。キャビティクリアランス(T0)が0.8mm未満では射出充填するキャビティが狭く、可塑化樹脂組成物の粘度上昇や固化等によりキャビティへ可塑化樹脂組成物を十分に供給、充填できない場合がある。例えば、このような薄肉のキャビティに十分に充填するために高圧で射出充填したとしても、キャビティ内の樹脂圧力が著しく上昇して成形機の型締力を上回った結果、金型が開いてしまってバリが発生する場合があったり、薄肉の成形自体が行えなくなる場合があった。またこのような薄肉成形を行う場合には、樹脂温度の冷却が著しく進むことでキャビティ容積を拡大しても十分に発泡せず、発泡不良となる。このような0.8mm未満の薄肉成形の場合でも成形品の一部に溶融樹脂を流動させるため厚肉部を持たせることでショットショットを解決することができるが、薄肉領域が広い場合は発泡成形の軽量化効果自体を得ることができなくなることがある。
【0259】
また、発泡成形品の剛性としては、材料自体の弾性率を向上することで剛性向上が可能であるが、発泡成形体の板厚を大きくすることでも剛性は高くなる。そのため、平面部の剛性や一部のみ剛性を高くしたい場合、成形品の初期厚みを厚くすることで発泡後の板厚を大きくし剛性向上を行ったり、リブやボスを成形品の裏面に形成したりすることで剛性の向上を行わせたり、板厚を薄くして発泡を抑制したりして、成形品の部分的な剛性や衝撃の調整をすることができる。
【0260】
加えて、今回説明するような金型を移動して発泡する発泡成形では、金型の移動方向に直角方向では発泡による板厚向上効果で剛性が向上するが、金型の移動方向ではほとんど発泡しないことと厚みの変化もほとんど無く剛性の向上が期待できないため、初期のキャビティクリアランスを広くして初期の樹脂充填厚みで剛性を確保する必要がある。
【0261】
そのため、部分的な剛性向上、衝撃向上を求める場合、立体的な形状を持つ成形品において求められる軽量化効果を得たい場合などは、最適に発泡可能な0.8mm以上3.0mm以下の射出開始時のキャビティクリアランス(T0)の領域を金型キャビティ内に50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上有することが望ましい。
【0262】
金型キャビティへの可塑化樹脂組成物の射出時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは0.7〜5.0s、より好ましくは0.7〜4.0s程度であるのが望ましく、射出完了後に好ましくは0〜5s、より好ましくは0.5〜3sの遅延時間を設け、その後に、キャビティ容積を拡大することが望ましい。この遅延時間を設けることによって、スキン層の厚さを制御することができ、遅延時間を長くするとスキン層を厚くすることができ、その結果剛性等の機械的物性を高めることができる。ここで、キャビティ容積の拡大率は、通常1.1〜5.0倍、好ましくは1.3〜4.0倍、更に好ましくは1.5〜3.5倍である事が望ましい。
【0263】
また、T0と可動型後退後のキャビティの断面の拡開方向長さ(T1)との比(T1/T0)は1.1以上、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2.0以上である。T1/T0が1.1未満の場合、未発泡の成形体と同じであり、所望の剛性を得ることができない。
【0264】
キャビティ容積拡大時の金型隔壁移動速度は、成形体の厚み、樹脂の種類、発泡剤の種類、金型温度、樹脂温度により異なるが、例えば、通常のポリプロピレンを用いた射出発泡成形の場合、0.5〜100mm/s、より好ましくは1〜50mm/s、さらに好ましくは1〜30mm/sが好ましい。コア移動速度が遅過ぎるとキャビティ容積拡大の途中で樹脂が固化し、十分な発泡倍率が得られず、速すぎるとセルの発生・成長がコアの移動に追随せず、セルが破壊し外観が良好な成形体が得られない可能性がある。
【0265】
射出する樹脂の温度及び金型温度は、成形体の厚み、樹脂の種類、発泡剤の種類・添加量などにより異なるが、プロピレン系樹脂の成形に通常用いられる温度で十分であり、製品厚みが薄いもの、発泡倍率が高いものを得る場合は、通常の金型温度より高めに設定すると良い。具体的には、たとえば、射出する樹脂の温度は、170〜250℃、好ましくは180〜220℃である。また固定型および可動型の金型温度は、10〜100℃、好ましくは30〜80℃である。また金型内樹脂圧力は5〜200MPa、好ましくは10〜100MPaである。射出は、固定型と可動型との型締力は、キャビティ内樹脂圧力よりも高い射出圧力で行う必要が有り、通常、射出圧力は10〜250MPa、好ましくは12〜200MPaである。
【0266】
本発明のように、キャビティに一度に樹脂組成物を充填した後、発泡させることにより、金型と接する部分の樹脂が内部の樹脂に比べて早く固化して成形品表面に未発泡のスキン層を形成することができる。これにより、固い製品形状を得、維持することができ、高剛性の成形体を得ることができる。また、成形体内部のセル形状、セル密度、発泡倍率に多少の分布が発生しても、スキン層の平滑性と剛性により外観が良好な成形体が得られる。このスキン層の厚みは特に限定されないが、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上、さらに好ましくは0.3mm以上が望ましい。上記厚みのスキン層を形成するためのキャビティ容積拡大のタイミングは、樹脂の種類、発泡剤の種類、金型温度、樹脂温度により異なるが、通常のポリプロピレンを用いた場合には、射出充填完了後から0〜5s程度が好ましく、0.5〜3s程度がより好ましい。射出充填完了後からキャビティ容積拡大までの時間が、短すぎると十分な厚みのスキン層が生成せず、長すぎると樹脂の固化が進行して、キャビティ容積拡大しても十分な発泡倍率が得られない。
【0267】
発泡倍率は、樹脂温度、射出速度、射出充填終了からキャビティ容積拡大開始までの待ち時間、キャビティ容積拡大時の隔壁移動量、隔壁移動速度、キャビティ容積拡大終了後の冷却時間などによって適宜制御することができ、1.1〜5.0倍、好ましくは1.3〜4.0倍、更に好ましくは1.5〜3.5倍である。また、キャビティ容積拡大は、数段階に分けて行うことも可能であり、それによりセル構造や端部形状を制御した成形体が得られる。
【0268】
また、本発明では、通常の射出成形で用いられるホットランナやシャットオフノズル、バルブゲートなどを利用することもできる。バルブゲートやホットランナは、ランナなど廃樹脂の発生を押さえるだけでなく、発泡成形用プロピレン系樹脂組成物が金型内からキャビティに漏れ出すことにより次サイクルの発泡成形体の不良発生を防止する効果がある。
【0269】
発泡終了後はそのまま冷却して発泡成形体を取り出すこともできるし、僅かに型締めすることにより成形体と金型の接触状態を制御して冷却を促進することで成形サイクルを短縮しつつ、凹みやセル形状の良好な成形品を得ることもできる。
【0270】
本発明の発泡体に用いられる樹脂組成物は一般的なプロピレン系樹脂組成物よりも発泡倍率を高めることができるため、より剛性向上効果や成形品形状の自由度が大きくしやすくなる。
【0271】
また、本発明によれば、たとえば厚みが1.0〜15.0mm程度の射出発泡成形体を好適に得ることができる。この射出発泡成形体の平均セル径は、0.01〜1.0mm程度であるが、成形体形状や用途によっては、数mmのセル径であっても、そのセルの一部が連通したものが一部存在してもよい。特に、発泡倍率が高くなると、複数のセルは共に会合し連通化し、成形体の内部は中空状態になるが、この空洞中に樹脂の支柱が形成されるため、成形体は、高度に軽量化され、強固な剛性を有する。このような発泡成形体は、自動車内外装用部品、ダンボールなどの代替え品、電器製品、建材等の各種用途に好適に用いることができ、特に自動車内装用部品および自動車外装用部品の用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0272】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、プロピレン系ブロック共重合体およびプロピレン系樹脂組成物の物性は下記の方法によって測定した。
【0273】
(1)メルトフローレート(MFR:〔g/10分〕):
ASTM D1238Eに準拠し、2.16kg荷重で測定した。測定温度は230℃とした。
【0274】
(2)極限粘度([η]:〔dl/g〕):
デカリン溶媒を用いて、135℃で測定した。サンプル約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。このデカリン溶液にデカリン溶媒を5ml追加して希釈後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として求めた。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0275】
(3)室温n−デカン可溶(不溶)成分量(〔wt%〕):
ガラス製の測定容器にプロピレン系ブロック共重合体約3g(10-4gの単位まで測定した。また、この重量を、下式においてb(g)と表した。)、デカン500ml、およびデカンに可溶な耐熱安定剤を少量装入し、窒素雰囲気下、スターラーで攪拌しながら2時間で150℃に昇温してプロピレン系ブロック共重合体を溶解させ、150℃で2時間保持した後、8時間かけて23℃まで徐冷した。得られたプロピレン系ブロック共重合体の析出物を含む液を、磐田ガラス社製25G−4規格のグラスフィルターで減圧ろ過した。ろ液の100mlを採取し、これを減圧乾燥してデカン可溶成分の一部を得、この重量を10-4gの単位まで測定した(この重量を、下式においてa(g)と表した)。この操作の後、デカン可溶成分量を下記式によって決定した。
室温n−デカン可溶成分(Dsol)含有率=100×(500×a)/(100×b)
室温n−デカン不溶成分(Dinsol)含有率=100−100×(500×a)/(100×b)
【0276】
(4)分子量分布:
液体クロマトグラフ:Waters製 ALC/GPC 150−C plus型 (示唆屈折計検出器一体型)
カラム:東ソー株式会社製 GMH6−HT×2本およびGMH6−HTL×2本を直列接続した。
移動相媒体:o−ジクロロベンゼン
流速:1.0ml/分
測定温度:140℃
検量線の作成方法:標準ポリスチレンサンプルを使用した
サンプル濃度:0.10%(w/w)
サンプル溶液量:500μl
の条件で測定し、得られたクロマトグラムを公知の方法によって解析することでMw/Mn値およびMz/Mw値を算出した。1サンプル当たりの測定時間は60分であった。
【0277】
(5)ペンタド分率(mmmm:〔%〕)
重合体の立体規則性の指標の1つであり、そのミクロタクティシティーを調べたペンタド分率(mmmm,%)は、プロピレン重合体においてMacromolecules 8,687(1975)に基づいて帰属した13C−NMRスペクトルのピーク強度比より算出した。13C−NMRスペクトルは、日本電子製EX−400の装置を用い、TMSを基準とし、温度130℃、o−ジクロロベンゼン溶媒を用いて測定した。
【0278】
(6)エチレンに由来する骨格の含量
Dsol中のエチレンに由来する骨格濃度を測定するために、サンプル20〜30mgを1,2,4−トリクロロベンゼン/重ベンゼン(2:1)溶液0.6mlに溶解後、炭素核磁気共鳴分析(13C−NMR)を行った。プロピレン、エチレンの定量はダイアッド連鎖分布より求めた。プロピレン−エチレン共重合体の場合、PP=Sαα、EP=Sαγ+Sαβ、EE=1/2(Sβδ+Sδδ)+1/4Sγδを用い、以下の計算式により求めた。
プロピレン(mol%)=(PP+1/2EP)×100/[(PP+1/2EP)+(1/2EP+EE)
エチレン(mol%)=(1/2EP+EE)×100/[(PP+1/2EP)+(1/2EP+EE)
なお本実施例における、Dsolのエチレン量単位は、重量%に換算して標記した。
また、Dsolにおいて、CSDは、下式(i)に従って算出した。
【0279】
【数9】

(式(i)中、[EE]はDsol中のエチレン連鎖のモル分率、[PP]はDsol中のプロピレン連鎖のモル分率、[PE]はプロピレン−エチレン連鎖のモル分率である。)
【0280】
(7)GPC−IR測定
出光興産(株)製GPC−FTIR装置を用いて、エチレン含有量を以下のようにして算出した。
高温高速GPC装置はMillipore/Waters社モデル150Cを使用し、展開溶媒は精製し安定剤等を添加したトリクロロベンゼン(TCB)を使用した。分離カラムは昭和電工非水系GPCカラム(Shodex UT−806L(2本))を使用し、カラム分離後の溶出液はGPC装置から145℃に温度制御したトランスファーチューブにより同温度に制御したFTIR用液体フローセルに導いた。そして、ニコレー社Magna560FTIRで赤外スペクトルを測定し、SEC−FTIR解析ソフト(ニコレー社製)を用いて、2955cm-1のC−CH3伸縮振動と2920cm-1のCH2伸縮振動とを解析することにより、エチレン含有量を算出した。なお、分子量150万以上の成分の含有量は、当該GPC測定により算出した。
【0281】
(GPC測定条件)
GPCカラム:Shodex UT−806L(2本)
溶媒:TCB(温度:145℃、流速1.0ml/min)
分子量換算:汎用較正法(PP換算)
(FT−IR測定条件)
検出器 :MGNA−IR560(ニコレー社製)
注入濃度 : 0.3w/v%
注入量 : 750μl
【0282】
(8)射出発泡成形品評価
発泡成形体の特性
(a)発泡倍率達成度
射出発泡成形品の発泡倍率は、発泡後の成形品厚みt1をキャビティ容積を拡大する前の充填樹脂量t0で除した値、t1/t0を発泡倍率として表わした。
このとき発泡倍率が2.5倍の発泡倍率が達成したか否かについて、以下の基準で評価した。
○:発泡前の板厚t0=1.2mmのとき、発泡後の成形体の板厚t=3.0以上となり、2.5倍の発泡倍率を達成した場合
×:発泡前の板厚t0=1.2mmのとき、発泡後の成形体の板厚t=3.0未満となり、2.5倍の発泡倍率が未達成の場合
【0283】
(b)セル形状
成形品の断面を以下の基準で評価した。
○:成形体の表層スキン層内側発泡セルのセル壁が破壊せず上下スキン層が分離していない場合(図1(a))。
×:成形体の表層スキン層内側発泡セルのセル壁が破壊して上下スキン層が分離している場合(図1(b))。
【0284】
発泡成形品の内部のセル壁が破壊せず形状を保っている場合、上下のスキン層を保持することで曲げ荷重を受けた場合にも成形体の板厚変化がほとんど無く、変形による剛性低下がほとんど無い良好な成形体であるといえる。対して、セル壁が破壊して上下のスキン層が分離するような場合、成形体表面に荷重を受けたとき板厚が薄くなる方向に変形するため剛性の低下が著しく、成形体としての機能が十分に発揮できない。
【0285】
(c)平面性
成形体の平面性は成形体を対角線上に切断し、ゲート部から端部の間を4等分したときの分割点3箇所(図3の板厚測定位置参照)の板厚比較を実施して評価した。
○:成形体全面の板厚誤差が±0.2mm未満
△:成形体全面の板厚誤差が±0.2mm以上0.3mm未満
×:成形体全面の板厚誤差が±0.3mm以上
【0286】
(d)成形性安定性
射出成形による1.2mmの薄肉成形性と射出圧力による成形機への負荷、およびゲートと端部の中間部分における発泡成形体の厚み(図3の板厚測定位置参照)の繰返し安定性により成形性を比較した。
○:成形品にショートショットが発生せず、成形時の射出圧力が射出成形機の最大射出圧力(250MPa)以下、および成形体厚みの繰返し誤差が±0.2mm以下
△:成形品にショートショットが発生せず、成形時の射出圧力が射出成形機の最大射出圧力(250MPa)以下、もしくは成形体厚みの繰返し誤差が±0.2mmを超え0.3mm以下
×:成形品にショートショットが発生、もしくは成形時の射出圧力が射出成形機の最大射出圧力(250MPa)を超える、もしくは成形体厚みの繰返し誤差±0.3mmを超える
【0287】
(e)フローマーク・スワールマーク
射出成形品のフローマークおよびスワールマークは、成形品の表面を目視により評価した。なお、本試験では、フローマークおよびスワールマークを判定しやすくする為、プロピレン系樹脂組成物100重量部に対して、黒着色マスターバッチ3重量部をドライブレンドして、射出成形を行った。
○:成形品表面に目立ったスワールマーク、フローマークが見られない
×:成形品表面にスワールマーク、フローマークが明確に確認できる
【0288】
(f)剛性(曲げ弾性勾配)
剛性の評価は、材料の曲げ弾性率1000MPa、板厚2.3mmの成形体を基準として、成形品の曲げ弾性勾配の比較によって評価した。
○:剛性が高い(曲げ弾性勾配が高い)
×:剛性が低い(曲げ弾性勾配が低い)もしくは成形体の変形や発泡不良により評価不可
剛性の評価に使用する曲げ弾性勾配は、得られた成形品を50mmx150mmのサイズで切り出し、支持間隔100mmの中心位置を曲げ速度50mm/minの速度で曲げ試験を行ったときに得られる「荷重−たわみ曲線」において、たわみ初めの荷重(1.0mmたわんだときの荷重)をそのときのたわみ量(1.0mm)で除した値つまり荷重−たわみ曲線の初期の傾きを、曲げ弾性勾配(N/cm)として用い比較を行なった。
【0289】
(g)衝撃性
衝撃性の評価は高速衝撃試験機((株)島津製作所製HTM−1)を用い、平板発泡成形体より任意の領域から100mmx100mmで切り出し、試験温度−30 ℃ 、撃芯径1 / 2 インチ、受け台径 3 インチ、撃芯速度 1. 0 m / s e c で破壊エネルギーを測定して評価した。
○:破壊エネルギーが1.0J以上
×:破壊エネルギーが1.0J未満
【0290】
<射出発泡成形条件>
以下の実施例および比較例において、射出発泡成形は以下の条件により行った。
・射出成形機 : 宇部興産機械(株)製、MD350S−III型(型締め力350t)
・金型
キャビティサイズ :縦400mm、横200mm、型締め時の固定金型と可動金型とのキャビティクリアランス1.2mm
ゲート:キャビティ中央1点ダイレクトゲート
射出温度 :210℃
金型表面温度 :45℃
射出時間 :1.0s (射出開始から溶融樹脂を射出し終わるまでの時間)
・発泡成形条件
発泡工程終了後の固定金型と可動金型とのキャビティクリアランス(T):3.0mm
キャビティ容積拡大時の隔壁移動速度:20mm/s
樹脂充填後の発泡開始遅延時間:0〜1s
射出開始時の固定金型と可動金型とのキャビティクリアランス(T0):1.2mm
成形品形状:図3に示す。
【0291】
[製造例1]
(1)固体触媒の製造
内容積2リットルの高速撹拌装置(特殊機化工業製(TKホモミクサーM型))を充分窒素置換した後、この装置に精製デカン700ml、市販塩化マグネシウム10g、エタノール24.2gおよび商品名レオドールSP−S20(花王(株)製ソルビタンジステアレート)3gを入れ、この懸濁液を撹拌しながら系を昇温し、懸濁液を120℃にて800rpmで30分撹拌した。次いでこの懸濁液を、沈殿物が生じないように高速撹拌しながら、内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブを用いて、予め−10℃に冷却された精製デカン1リットルを張り込んである2リットルのガラスフラスコ(攪拌機付)に移した。移液により生成した固体を濾過し、精製n−ヘプタンで充分洗浄することにより、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0292】
この固体状付加物をデカンで懸濁状にして、マグネシウム原子に換算して23ミリモルの上記固体状付加物を、−20℃に保持した四塩化チタン100ml中に、攪拌下、導入して混合液を得た。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、3,6−ジメチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(シス体、トランス体混合物)を、固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.085モルの割合の量で添加し、40分間で110℃まで昇温した。110℃に到達したところで更にシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル(シス体、トランス体混合物)を固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.0625モルの割合の量で添加し、温度を110℃で90分間攪拌しながら保持することによりこれらを反応させた。
【0293】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して110℃に達したところで、45分間撹拌しながら保持することによりこれらを反応させた。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0294】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分(α−1)はデカン懸濁液として保存したが、この内の一部を、触媒組成を調べる目的で乾燥した。
このようにして得られた固体状チタン触媒成分(α−1)の組成はチタン3.2質量%、マグネシウム17質量%、塩素57質量%、3,6−ジメチルシクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル10.6質量%、シクロヘキサン1,2−ジカルボン酸ジイソブチル8.9質量%およびエチルアルコール残基0.6質量%であった。
【0295】
(2)前重合触媒の製造
前記の(1)で調製した固体触媒成分52.0g、トリエチルアルミニウム13.3mL、ヘプタン7.4Lを内容量20Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15〜20℃に保ちプロピレンを520g挿入し、100分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で0.7g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。
【0296】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを30kg/時間、水素を370NL/時間、(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として0.37g/時間、トリエチルアルミニウム1.6ml/時間、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン1.4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は66℃であり、圧力は3.6MPa/Gであった。
【0297】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が18.8モル%になるように供給した。重合温度60℃、圧力3.4MPa/Gで重合を行った。
【0298】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.30(モル比)、水素/エチレン=0.027(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力0.78MPa/Gで重合を行った。
【0299】
得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥を行った。
得られた重合体の物性は、MFR=85g/10分、室温n−デカン可溶な部分(Dsol)は13.2重量%、Dsolのエチレン含量は45モル%、Dsolの[η]は4.4dl/gであった。
【0300】
[製造例2]
気相重合器内のガス組成を、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.30(モル比)、水素/エチレン=0.090(モル比)に変更したことを除き、製造例2は製造例1と同様に実施した。
【0301】
得られた重合体の物性は、MFR=100g/10分、室温n−デカン可溶な部分(Dsol)は13.0重量%、Dsolのエチレン含量は45モル%、Dsolの[η]は3.0dl/gであった。
【0302】
[製造例3]
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを30kg/時間、水素を261NL/時間、製造例1の(2)で得られた触媒スラリーを固体触媒成分として0.27g/時間、トリエチルアルミニウム1.1ml/時間、ジシクロペンチルジメトキシシラン1.3ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は66℃であり、圧力は3.6MPa/Gであった。
【0303】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が12.6mol%になるように供給した。重合温度63℃、圧力3.2MPa/Gで重合を行った。
【0304】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.20(モル比)、水素/エチレン=0.034(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力0.80MPa/Gで重合を行った。
【0305】
得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥を行った。
得られた重合体の物性は、MFR=43g/10分、室温n−デカン可溶な部分(Dsol)は12.4重量%、Dsolのエチレン含量は30モル%、Dsolの[η]は4.1dl/gであった。
【0306】
[製造例4]
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを30kg/時間、水素を293NL/時間、製造例1の(2)で得られた触媒スラリーを固体触媒成分として0.27g/時間、トリエチルアルミニウム1.1ml/時間、ジシクロペンチルジメトキシシラン1.3ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は66℃であり、圧力は3.6MPa/Gであった。
【0307】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が14.4mol%になるように供給した。重合温度63℃、圧力3.3MPa/Gで重合を行った。
【0308】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.20(モル比)、水素/エチレン=0.085(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力0.82MPa/Gで重合を行った。
【0309】
得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥を行った。
得られた重合体の物性は、MFR=59g/10分、室温n−デカン可溶な部分(Dsol)は14.4重量%、Dsolのエチレン含量は30モル%、Dsolの[η]は3.1dl/gであった。
【0310】
[製造例5]
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを30kg/時間、水素を210NL/時間、製造例1の(2)で得られた触媒スラリーを固体触媒成分として0.37g/時間、トリエチルアルミニウム1.6ml/時間、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン1.4ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は66℃であり、圧力は3.6MPa/Gであった。
【0311】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを15kg/時間、水素を気相部の水素濃度が11.9mol%になるように供給した。重合温度60℃、圧力3.3MPa/Gで重合を行い、得られたプロピレンホモポリマーは、80℃で真空乾燥を行った。
得られた重合体の物性は、MFR=110g/10分であった。
【0312】
[製造例6]
(1)固体触媒の製造
内容積2リットルの高速撹拌装置(特殊機化工業製(TKホモミクサーM型))を充分窒素置換した後、この装置に精製デカン700ml、市販塩化マグネシウム10g、エタノール24.2gおよび商品名レオドールSP−S20(花王(株)製ソルビタンジステアレート)3gを入れ、この懸濁液を撹拌しながら系を昇温し、懸濁液を120℃にて800rpmで30分撹拌した。次いでこの懸濁液を、沈殿物が生じないように高速撹拌しながら、内径5mmのテフロン(登録商標)製チューブを用いて、予め−10℃に冷却された精製デカン1リットルを張り込んである2リットルのガラスフラスコ(攪拌機付)に移した。移液により生成した固体を濾過し、精製n−ヘプタンで充分洗浄することにより、塩化マグネシウム1モルに対してエタノールが2.8モル配位した固体状付加物を得た。
【0313】
この固体状付加物をデカンで懸濁状にして、マグネシウム原子に換算して23ミリモルの上記固体状付加物を、−20℃に保持した四塩化チタン100ml中に、攪拌下、導入して混合液を得た。この混合液を5時間かけて80℃に昇温し、80℃に達したところで、ジイソブチルフタレートを、固体状付加物のマグネシウム原子1モルに対して0.15モルの割合の量で添加し、50分間で120℃まで昇温した。温度を120℃で90分間攪拌しながら保持することによりこれらを反応させた。
【0314】
90分間の反応終了後、熱濾過にて固体部を採取し、この固体部を100mlの四塩化チタンにて再懸濁させた後、昇温して130℃に達したところで、45分間撹拌しながら保持することによりこれらを反応させた。45分間の反応終了後、再び熱濾過にて固体部を採取し、100℃のデカンおよびヘプタンで、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなるまで充分洗浄した。
【0315】
以上の操作によって調製した固体状チタン触媒成分(α−2)はデカン懸濁液として保存したが、この内の一部を、触媒組成を調べる目的で乾燥した。
このようにして得られた固体状チタン触媒成分(α−2)の組成はチタン2.5質量%、マグネシウム19質量%、塩素58質量%、ジイソブチルフタレート6.5質量%およびエチルアルコール残基0.2質量%であった。
【0316】
(2)前重合触媒の製造
前記の(1)で調製した固体状チタン触媒成分(α−2)68.0g、トリエチルアルミニウム14.5mL、ヘプタン9.7Lを内容量20Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15〜20℃に保ちプロピレンを680g挿入し、100分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で0.7g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。
【0317】
(3)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを43kg/時間、水素を280NL/時間、(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として0.42g/時間、トリエチルアルミニウム1.8ml/時間、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン0.65ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は69℃であり、圧力は3.4MPa/Gであった。
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを12kg/時間、水素を気相部の水素濃度が8.6mol%になるように供給した。重合温度67℃、圧力3.2MPa/Gで重合を行った。
【0318】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.43(モル比)、水素/エチレン=0.018(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力0.63MPa/Gで重合を行った。
【0319】
得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥を行った。
得られた重合体の物性は、MFR=120g/10分、室温n−デカン可溶な部分(Dsol)は12.0重量%、Dsolのエチレン含量は45モル%、Dsolの[η]は3.1dl/gであった。
【0320】
[製造例7]
(1)前重合触媒の製造
製造例6の(1)で調製した固体状チタン触媒成分(α−2)68.0g、トリエチルアルミニウム14.5mL、ヘプタン9.7Lを内容量20Lの攪拌機付きオートクレーブに挿入し、内温15〜20℃に保ちプロピレンを680g挿入し、100分間攪拌しながら反応させた。重合終了後、固体成分を沈降させ、上澄み液の除去およびヘプタンによる洗浄を2回行った。得られた前重合触媒を精製ヘプタンに再懸濁して、固体触媒成分濃度で0.7g/Lとなるよう、ヘプタンにより調整を行った。
【0321】
(2)本重合
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを43kg/時間、水素を62NL/時間、(2)で製造した触媒スラリーを固体触媒成分として0.45g/時間、トリエチルアルミニウム1.9ml/時間、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン1.2ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70.5℃であり、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0322】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを12kg/時間、水素を気相部の水素濃度が1.1mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.0MPa/Gで重合を行った。
【0323】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.51(モル比)、水素/エチレン=0.033(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力0.65MPa/Gで重合を行った。
【0324】
得られたプロピレン系ブロック共重合体(a’−1)は、80℃で真空乾燥を行った。このプロピレン系ブロック共重合体(a’−1)100重量部に対して、熱安定剤IRGANOX1010(登録商標、チバガイギー株式会社)0.1重量部、熱安定剤IRGAFOS168(登録商標、チバガイギー株式会社)0.1重量部、ステアリン酸カルシウム0.1重量部、カヤヘキサAD(商標、(株)化薬アクゾ社製)0.55重量部をヘンシェルミキサーにて混合後、二軸押出機にて溶融混練してペレット状のプロピレン系ブロック共重合体(A’−2)を調製した。このプロピレン系ブロック共重合体の物性はMFR=60g/10分、室温n−デカン可溶な部分(Dsol)は12.2重量%、Dsolのエチレン含量は51モル%、Dsolの[η]は1.4dl/gであった。
【0325】
<溶融混練条件>
同方向二軸混練機:品番 NR2−36、ナカタニ機械(株)製
混練温度:230℃
スクリュー回転数:200rpm
フィーダー回転数:400rpm
【0326】
[製造例8]
内容量58Lのジャケット付循環式管状重合器にプロピレンを43kg/時間、水素を130NL/時間、製造例6の(2)で得られた触媒スラリーを固体触媒成分として0.42g/時間、トリエチルアルミニウム1.8ml/時間、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン1.1ml/時間を連続的に供給し、気相の存在しない満液の状態にて重合した。管状重合器の温度は70.5℃であり、圧力は3.2MPa/Gであった。
【0327】
得られたスラリーは内容量100Lの攪拌機付きベッセル重合器へ送り、更に重合を行った。重合器へは、プロピレンを12kg/時間、水素を気相部の水素濃度が3.0mol%になるように供給した。重合温度70℃、圧力3.1MPa/Gで重合を行った。
【0328】
得られたスラリーを内容量2.4Lの移液管に移送し、当該スラリーをガス化させ、気固分離を行った後、内容量480Lの気相重合器にプロピレンホモポリマーパウダーを送り、エチレン/プロピレンブロック共重合を行った。気相重合器内のガス組成が、エチレン/(エチレン+プロピレン)=0.36(モル比)、水素/エチレン=0.051(モル比)になるようにプロピレン、エチレン、水素を連続的に供給した。重合温度70℃、圧力0.70MPa/Gで重合を行った。
【0329】
得られたプロピレン系ブロック共重合体は、80℃で真空乾燥を行った。
得られた重合体の物性は、MFR=30g/10分、室温n−デカン可溶な部分(Dsol)は13.5重量%、Dsolのエチレン含量は41モル%、Dsolの[η]は3.2dl/gであった。
【0330】
【表1】

【0331】
【表2】

[実施例1]
成分(A−2)製造例2で製造されたプロピレン系ブロック共重合体83重量部、成分(B)シングルサイト触媒で製造された、密度=0.87g/cm3、MFR190=35g/10minの低分子量エチレン・1−ブテン共重合体(EBR)(三井化学社製A−35070S):17重量部を混合し、造粒して発泡成形用樹脂組成物を得た。
【0332】
この樹脂組成物を、重炭酸ナトリウム系無機発泡剤マスターバッチ(永和化成工業(株)製ポリスレンEE25C)を、上記樹脂組成物100重量部に対して6重量部(発泡剤としての量が上記樹脂組成物100重量部に対して1.8重量部となるように)ドライブレンドした後、前記の条件で射出成形し、発泡成形体を得た。この発泡成形体の外観・物性を評価し、その結果を表3に示した。得られた成形品の板厚は3.1mmでありセルも形状を保っていた。
【0333】
[実施例2]
実施例1において、成分(A−2)の使用量を73重量部、成分(C)微粉末タルク(平均粒径:4.1μm):10重量部としたことの他は、実施例1と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得た。結果を表3に示す。
【0334】
[実施例3]
実施例1において、成分(A−2)に変え、製造例1で製造されたポロピレン系ブロック重合体を68重量部、成分(B)の使用量を21重量、成分(C)を11重量部としたことの他は、実施例2と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得た。結果を表3に示す。
【0335】
[実施例4]
実施例1において、成分(A−2)に変えて、成分(A−3)の使用量を61重量部、
成分(E)製造例5で製造されたホモプロピレンを12重量部とし、成分(B)の使用量を17重量部、成分(C)の使用量を10重量部としたことの他は、実施例1と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得た。結果を表3に示す。
【0336】
[実施例5]
実施例4において、成分(A−3)に変えて、成分(A−4)の使用量を52重量部、成分(E)の使用量を21重量部としたことの他は、実施例4と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得た。結果を表3に示す。
【0337】
[比較例1]
使用する材料を、成分(A−1)100重量部としたことの他は、、実施例1と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得て、評価した。結果を表3に示す。このとき板厚が2.9mmであり、さらに発泡セル壁が破断し、成形体中心部に割れを生じていた。
【0338】
[比較例2]
使用する材料を、成分(A−2)100重量部としたことの他は、実施例1と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得て、評価した。結果を表3に示す。
【0339】
[比較例3]
使用する材料を、成分(A’−1)83重量部、成分(B)の使用量を17重量部としたことの他は、実施例1と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得て、評価した。結果を表3に示す。
【0340】
[比較例4]
比較例3において、成分(A’−1)の使用量を73重量部、成分(C)の使用量を10重量部としたことの他は、比較例2と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得て、評価した。結果を表3に示す。
【0341】
[比較例5]
使用する材料を、プロピレン系ブロック共重合体(A’−2)としたことの他は、比較例1と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得て、評価した。結果を表3に示す。
【0342】
[比較例6]
使用する材料を、プロピレン系ブロック共重合体(A’−3)としたことの他は、比較例1と同様にして発泡成形用樹脂組成物を製造し、発泡成形体を得て、評価した。結果を表3に示す。
【0343】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0344】
本発明に係る発泡成形体は、剛性等の機械物性が良好でありながらフローマーク、ウェルドライン等の成形外観不良が少なく、かつ流動性、特に射出成形時の金型内流動性が良好であり、加えて発泡性、特に射出発泡性に優れることから、各種成形品、特に自動車内外装部品等の大型射出成形部品の薄肉化、軽量化、断熱性を図った射出発泡成形品として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン重合体成分を製造する工程およびプロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程を含む製造方法によって得られ、下記の要件[1]〜[8]を同時に満たすプロピレン系ブロック共重合体(A)40重量部以上、95重量部以下、
エラストマー(B)5重量部以上、30重量部以下、および
フィラー(E)0重量部以上、30重量部以下(ただし、(A)、(B)、および(E)の合計は100重量部である)を含有するプロピレン系樹脂組成物に、発泡剤を添加して発泡成形した発泡成形体。
[1]ASTM D1238Eに準拠し、230℃、2.16kg荷重で測定したメルトフローレート(MFR)が、20g/10分以上、150g/10分以下、
[2]室温n−デカンに可溶な部分(Dsol)5重量%以上、50重量%以下と室温n−デカンに不溶な部分(Dinsol)50重量%以上、95重量%以下から構成される(ただし、DsolとDinsolとの合計量は100重量%である)、
[3]Dsolの分子量分布(Mw/Mn)が7.0以上、20以下、
[4]Dsolのエチレン含有量が25mol%以上、60mol%以下、
[5]Dsolの極限粘度[η]が1.5dl/g以上、5.0dl/g以下、
[6]Dinsolの分子量分布(Mw/Mn)が7.0以上、20以下、かつMz/Mwが6.0以上、20以下、
[7]Dinsolのペンタド分率(mmmm)が95%以上、および
[8]Dsolにおいて、下記式(i)で定義されるCSDの値が1.0以上、2.0以下。
【数1】

(式(i)中、[EE]はDsol中のエチレン連鎖のモル分率、[PP]はDsol中のプロピレン連鎖のモル分率、[PE]はプロピレン−エチレン連鎖のモル分率である。)
【請求項2】
前記プロピレン系樹脂組成物に含まれるプロピレン系ブロック共重合体(A)が、下記要件[9]をさらに満たすことを特徴とする請求項1に記載の発泡成形体。
[9]DsolのGPC−IR測定において、GPC曲線の面積分率で高分子量側5%における溶出成分のエチレン含有量(C2(H5))(mol%)と高分子量側から50%における溶出成分のエチレン含有量(C2(H50))(mol%)の差(Δ(C2))(下記式(ii))が1.5以下である。
【数2】

【請求項3】
前記プロピレン系ブロック重合体(A)の製造方法においてプロピレン重合体成分を製造する工程を前段で行い、プロピレン−エチレン共重合体ゴム成分を製造する工程を後段で行うことを特徴とする請求項1または2に記載の発泡成形体。
【請求項4】
前記プロピレン系ブロック重合体(A)のプロピレン重合体成分を製造する工程が、直列で構成された2槽以上の重合槽で行われ、各槽で生成されるプロピレン重合体の極限粘度[η]が5.0dl/g以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡成形体。
【請求項5】
前記プロピレン系ブロック重合体(A)のプロピレン−エチレン共重合体ゴムを製造する工程が、1槽の重合槽で行われることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の発泡成形体。
【請求項6】
前記プロピレン系ブロック共重合体(A)が、チタン、マグネシウム、およびハロゲンと下記式(1)で特定される環状エステル化合物(a)および下記式(2)で特定される環状エステル化合物(b)とを含む固体状チタン触媒成分(I)と、
周期表の第1族、第2族および第13族から選ばれる金属原子を含む有機金属化合物(II)と、
必要に応じて電子供与体(III)とを含むオレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンを含有するオレフィンを重合して得られたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の発泡成形体。
【化1】

式(1)において、nは5〜10の整数である。
2およびR3はそれぞれ独立にCOOR1またはRであり、R2およびR3のうち少なくとも1つはCOOR1である。環状骨格中の単結合(C−Cb結合、R3がCOOR1である場合のCa−Cb結合、およびC−C結合(nが6〜10の場合))は、二重結合に置き換えられていてもよい。
1は、それぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。
複数個あるRは、それぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、窒素含有基、酸素含有基、リン含有基、ハロゲン含有基およびケイ素含有基から選ばれる原子または基であり、互いに結合して環を形成していてもよいが、少なくとも1つのRは水素原子ではない。
Rが互いに結合して形成される環の骨格中に、二重結合が含まれていてもよく、該環の骨格中に、COOR1が結合したCaを2つ以上含む場合は、該環の骨格をなす炭素原子の数は5〜10である。
【化2】

式(2)において、nは5〜10の整数である。
4およびR5はそれぞれ独立にCOOR1または水素原子であり、R4およびR5のうち少なくとも1つはCOOR1である。R1は、それぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。環状骨格中の単結合(C−Cb結合、R5がCOOR1である場合のCa−Cb結合、およびC−C結合(nが6〜10の場合))は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【請求項7】
前記式(1)および/または(2)において、前記環状骨格中の炭素原子間結合のすべてが単結合であることを特徴とする請求項6に記載の発泡成形体。
【請求項8】
前記式(1)および/または(2)において、n=6であることを特徴とする請求項6に記載の発泡成形体。
【請求項9】
前記環状エステル化合物(a)が下記式(1a)であり、前記環状エステル化合物(b)が下記式(2a)であることを特徴とする請求項6に記載の発泡成形体。
【化3】

式(1a)において、nは5〜10の整数である。
環状骨格中の単結合(C−C結合(nが6〜10の場合)、Ca−C結合およびCb−C結合)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
1は、それぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。
複数個あるRは、それぞれ独立に水素原子または炭素原子数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子、窒素含有基、酸素含有基、リン含有基、ハロゲン含有基およびケイ素含有基から選ばれる原子または基であり、互いに結合して環を形成していてもよいが、少なくとも1つのRは水素原子ではない。
Rが互いに結合して形成される環の骨格中に二重結合が含まれていてもよく、該環の骨格中に、COOR1が結合したCaを2つ以上含む場合は、該環の骨格をなす炭素原子の数は5〜10である。
【化4】

式(2a)において、nは5〜10の整数である。
1は、それぞれ独立に炭素原子数1〜20の1価の炭化水素基である。環状骨格中の単結合(C−C結合(nが6〜10の場合)、Ca−C結合およびCb−C結合)は、二重結合に置き換えられていてもよい。
【請求項10】
前記式(1a)および(2a)において、前記環状骨格中の炭素原子間結合のすべてが単結合であることを特徴とする請求項9に記載の発泡成形体。
【請求項11】
前記式(1a)および(2a)において、n=6であることを特徴とする請求項9に記載の発泡成形体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のプロピレン系樹脂組成物100重量部に対して、0.1重量部以上、10重量部以下の発泡剤を添加して発泡成形した請求項1〜11のいずれか1項に記載の発泡成形体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の発泡剤が化学発泡剤および/または物理発泡剤であり、発泡成形体を射出発泡成形により製造することを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の発泡成形体。
【請求項14】
請求項13に記載の射出発泡成形において、射出開始時の可動金型と固定金型とのキャビティクリアランス(T0)が0.8mm以上、3.0mm以下である領域を50%以上持つ金型キャビティに前記プロピレン系樹脂組成物と発泡剤とを射出充填し、キャビティ容積を拡大することにより得られる、発泡倍率が1.1〜5.0倍の請求項13に記載の発泡成形体。
【請求項15】
自動車内外装用部品であることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の発泡成形体。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−195705(P2011−195705A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64032(P2010−64032)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】