説明

プロピレン系重合体の製造方法及びプロピレン系ブロック共重合体

【課題】 メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒を用い、気相重合で、柔軟性や透明性に優れたプロピレン系重合体であっても臭いやベタツキがなく、また、加工時の発煙などが少ない非常にクリーンなプロピレン系重合体の製造方法及びその方法により得られる特定のプロピレン系ブロック共重合体の提供。
【解決手段】 担体に担持されたメタロセン系遷移金属化合物を含む重合触媒成分の存在下に、気相重合法によりプロピレン系重合体を製造する方法において、
連続重合法を用いて、重合触媒成分を炭素数3〜8の飽和炭化水素に懸濁させた触媒スラリーは、連続的又は間欠的に重合反応器へフィードし、一方、生成したプロピレン系重合体は、連続的又は間欠的に重合反応器から抜き出し、その際、飽和炭化水素の重合反応器への添加量の単位時間当たりの合計を特定量となるように調整することを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法等による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系重合体の製造方法及びプロピレン系ブロック共重合体に関し、更に詳しくは、メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒を用い、気相重合で、柔軟性や透明性に優れたプロピレン系重合体であっても臭いやベタツキがなく、また、加工時の発煙などが少ない非常にクリーンなプロピレン系重合体の製造方法及びその方法により得られる特定のプロピレン系ブロック共重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、耐熱性、成形性、透明性、耐薬品性など優れるという特徴により、各種工業用材料、各種容器、日用品、フィルムおよび繊維など様々な用途に幅広く使用されている。最近では従来のチーグラー・ナッタ触媒を用いるものに加えて、メタロセン系触媒を用いるプロピレン系重合体も工業化されている。
【0003】
メタロセン系触媒を用いることにより、シャープな分子量分布、組成分布を有するプロピレン系重合体が製造できることが知られている。この特徴を活かすことで、製品の臭いやベタツキ、あるいは加工時の発煙などの原因となるオリゴマー成分の生成も抑えることができるため、環境に優しいクリーンなポリマーの製造に好適である。
【0004】
ところが、このようなポリマーの製造は、製造スケールの小さい実験室のレベルでは確認がされていたものの、工業的規模での生産となると、重合槽内の不均一性が原因で、実験室レベルの製造では見られなかった量のオリゴマー成分が生成することがある。
このような状況の解決策として、例えば、重合形式として液体プロピレンを使用したいわゆるバルク重合で製造したポリマーについては、重合工程の後に、液化プロピレンなどによる洗浄工程をはさむことにより、オリゴマー成分量が非常に少ないポリマーの製造が可能であることが、特許文献1および2に記載されている。
【0005】
一方、近年では、製造プロセスとしてより経済的でコンパクトな気相重合法がより頻繁に用いられる傾向がある。上記メタロセン系触媒との組合せによって、種々のプロピレン系重合体を製造する方法についても、数多くの例が報告されている。(例えば特許文献3参照)
気相重合法を用いた場合のオリゴマー成分の除去については、生成したポリマーを液化プロピレンなどにより洗浄することは、工業的な規模の生産では経済性を考慮すれば非常にむずかしい状況であること、また、特許文献3に示されるように、多段重合によって、いわゆるブロック共重合体を製造する場合には、ゴム成分が洗浄中に溶解してしまうことから、そもそも生成ポリマーの洗浄そのものが不可能であり、ポリマーの洗浄という手段は事実上使用することができない。
また、特許文献4には、C14〜18のオリゴマー量が50重量ppm未満となるように重合時に添加する掃去剤の量を調整する方法についての記載があるが、ここで対象となっているC14〜18のオリゴマーはオレフィン性(不飽和)オリゴマーに限定されており、該文献の実施例によれば、脂肪族系も含めたオリゴマー全体の量としては、492ppm以上となっている。しかしながら、脂肪族系のオリゴマーも、臭いやベタツキ、あるいは加工時の発煙などの原因になるため、特許文献4に記載の方法でも、本願の目的を達することはできない。
さらに、特許文献5には、イソドデカンを溶媒として使用した例についての記載がある。しかしながら、炭素数が10を超えるような炭化水素やオリゴマー成分は沸点が高いことから、ポリマーの乾燥を用いても、なかなか除去しにくい。
したがって、気相重合を用いた際には、重合時にオリゴマー成分の発生を抑えることが必須であり、それを可能とする、工業的に実施可能な手段の開発が望まれていた。
【0006】
さらに、本発明で使用されるメタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒と、通常使用されている一般的なチーグラー・ナッタ型触媒とでは、初期活性や触媒分散など反応器に添加された後の挙動が異なり、メタロセン系触媒の方が、不均一な重合状態を作りやすい傾向がある。特に、本発明の効果が特に発揮される柔軟なプロピレン系共重合体を製造する場合には、この傾向が顕著となる。したがって、チーグラー・ナッタ型触媒とは異なる触媒のフィード方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−119221
【特許文献2】特開2008−106089
【特許文献3】特開2007−297505
【特許文献4】特表平10−506418
【特許文献5】特表2003−533550
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、上記従来技術の問題点に鑑み、メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒を用い、気相重合で、柔軟性や透明性に優れたプロピレン系重合体であっても臭いやベタツキがなく、また、加工時の発煙などが少ない非常にクリーンなプロピレン系重合体の製造方法及びその方法により得られる特定のプロピレン系ブロック共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、連続重合法を用いて、重合触媒成分を炭素数3〜8の飽和炭化水素に懸濁させた触媒スラリーは、連続的又は間欠的に重合反応器へフィードし、一方、生成したプロピレン系重合体は、連続的又は間欠的に重合反応器から抜き出し、その際、飽和炭化水素の重合反応器への添加量の単位時間当たりの合計を、生成したプロピレン系重合体の量の単位時間当たりの合計に対して特定量となるように反応器にフィードすることで、反応器にフィードされた触媒の反応器内での分散を向上させ、反応器内の不均一性が排除され、生成したポリマー中のオリゴマー成分量が抑えられることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、担体に担持されたメタロセン系遷移金属化合物を含む重合触媒成分の存在下に、気相重合法によりプロピレン系重合体を製造する方法において、
連続重合法を用いて、重合触媒成分を炭素数3〜8の飽和炭化水素に懸濁させた触媒スラリーは、連続的又は間欠的に重合反応器へフィードし、一方、生成したプロピレン系重合体は、連続的又は間欠的に重合反応器から抜き出し、その際、飽和炭化水素の重合反応器への添加量の単位時間当たりの合計を、生成したプロピレン系重合体の量の単位時間当たりの合計に対して0.01〜1重量%であるように調整することを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記重合反応器が、機械的な攪拌手段を備える気相重合反応器であることを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記飽和炭化水素が、ノルマルヘキサン又はノルマルヘプタンであることを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記連続重合法は、2段以上の多段重合によることを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、プロピレン単独重合体もしくはエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体であるポリマー成分(A)30〜90重量%、及びポリマー成分(A)よりも高いエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンを含有するプロピレン系ランダム共重合体であるポリマー成分(B)10〜70重量%からなり、炭素数が30以下の炭化水素化合物の含有量が50重量ppm以下であることを特徴とするプロピレン系ブロック共重合体が提供される。
【0015】
また、本発明の第6の発明によれば、担体に担持されたメタロセン系遷移金属化合物を含む重合触媒成分の存在下に、気相重合法によりプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法において、
連続重合法を用いて、重合触媒成分を炭素数3〜8の飽和炭化水素に懸濁させた触媒スラリーは、連続的又は間欠的に重合反応器へフィードし、一方、生成したプロピレン系ブロック共重合体は、連続的又は間欠的に重合反応器から抜き出し、その際、飽和炭化水素の重合反応器への添加量の単位時間当たりの合計を、生成したプロピレン系ブロック共重合体の量の単位時間当たりの合計に対して0.01〜1重量%であるように調整することを特徴とする第5の発明のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、柔軟性や透明性に優れたプロピレン系重合体であっても臭いやベタツキがなく、また、加工時の発煙などが少ない非常にクリーンなプロピレン系重合体を、工業的かつ安定的に製造することができため、産業上大いに有用である。
また、本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、柔軟性や透明性に優れたプロピレン系ブロック共重合体であっても臭いやベタツキがなく、また、加工時の発煙などが少ない非常にクリーンなプロピレン系重合体であるため、産業上大いに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1〜6及び比較例1、2で用いた重合装置の概要を示すフローシートである。
【図2】図2は、実施例7〜11及び比較例3で用いた重合装置の概要を示すフローシートである。
【符号の説明】
【0018】
1 触媒成分供給配管
2 触媒成分供給アシスト用液化プロピレン供給配管
3 有機アルミニウム供給配管
4 原料混合ガス供給配管
5 原料液化プロピレン補給配管
6 未反応ガス抜き出し配管
10 重合反応器
11 重合体抜き出し配管
101 触媒成分供給配管
102 触媒成分供給アシスト用液化プロピレン供給配管
103 有機アルミニウム供給配管
104、107 原料混合ガス供給配管
105、108 原料液化プロピレン補給配管
106、109 未反応ガス抜き出し配管
110 重合器(第1重合工程)
111 第1重合工程からの重合体抜き出し配管
112 第2重合工程への重合体供給配管
113 第2重合工程からの重合体抜き出し配管
120 重合器(第2重合工程)
130 脱ガス槽
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒を用い、気相重合によってプロピレン系重合体を製造する製造方法であって、連続重合法を用いて、重合触媒成分を炭素数3〜8の飽和炭化水素溶媒に懸濁させた触媒スラリーとして、該飽和炭化水素の重合反応器への添加量の単位時間当たりの合計が、生成したプロピレン系重合体の量の単位時間当たりの合計に対して特定量となるように反応器にフィードすることを特徴とする、生成したポリマー中のオリゴマー成分量が抑えられた、クリーンなプロピレン系重合体を製造する方法及びその方法により得られる特定のプロピレン系ブロック共重合体に関するものである。
また、本発明は、プロピレン単独重合体もしくはエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体であるポリマー成分(A)30〜90重量%、及びポリマー成分(A)よりも高いエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンを含有するプロピレン系ランダム共重合体であるポリマー成分(B)10〜70重量%からなり、炭素数が30以下の炭化水素化合物の含有量が50重量ppm以下であるプロピレン系ブロック共重合体に関するものである。
以下、その内容について詳細に説明する。
【0020】
I.使用する触媒について
1.触媒
本発明のプロピレン系重合体の製造方法においては、メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒を用いる必要がある。メタロセン系遷移金属化合物を含む触媒は、分子量分布や組成分布が狭いという特徴を有するため、重合反応器内の状況が均一であり、局所的に重合条件の異なるような箇所が存在しない限りにおいては、安定運転の妨げとなるベタツキ成分の原因である低分子量重合成分や組成が極端に偏った重合成分の生成がほとんど無いことから、臭いやベタツキがなく、また加工時の発煙などの少ない、非常にクリーンなプロピレン系重合体の製造には、非常に好適である。また、本発明の目的である、気相重合法によるプロピレン系重合体の工業的かつ安定的な製造方法の提供のためには、担体に担持された担持触媒を用いることが必須である。本発明に必要とされる触媒系は、メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒であれば、特に限定されないが、その中でも、好適に使用されるメタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒系としては、(a)共役五員環配位子を有する周期律表第4族遷移金属化合物からなるメタロセン錯体と、それを担持する(b)担体、それを活性化させる(c)助触媒、並びに必要に応じて使用される(d)有機アルミニウム化合物から構成されるものを挙げることができる。以下、(a)〜(d)の説明をする。
なお、本明細書の記載においては、元素の周期律表として長周期型のものを使用している。
【0021】
(1)メタロセン系遷移金属化合物(a)
本発明において用いられるメタロセン系遷移金属化合物としては、代表的なものとして共役五員環配位子を有する周期律表第4〜6族遷移金属化合物のメタロセン錯体が挙げられ、これらのうち、下記一般式のどちらかで表されるものが好ましい。
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、AおよびA’は置換基を有していてもよいシクロペンタジエニル基、Qは二つの共役五員環配位子間を任意の位置で架橋する結合性基、Mは周期律表第4〜6族から選ばれる遷移金属、XおよびYは補助配位子である)
【0024】
上記一般式中、シクロペンタジエニル基が置換基を有する場合、その置換基の例としては、炭素数1〜30の炭化水素基(ハロゲン、珪素、酸素、硫黄などのヘテロ原子を含有していてもよい)が挙げられ、この炭化水素基は一価の基としてシクロペンタジエニル基と結合していても、またこれが複数存在するときにその内の2個がそれぞれ他端(ω−端)で結合してシクロペンタジエニルの一部と共に環を形成していてもよい。この置換基の他の例としては、インデニル基、フルオレニル基、またはアズレニル基等が挙げられ、これらの基は、さらに副環上に置換基を有していてもよく、中でもインデニル基またはアズレニル基が好ましい。
Qとして好ましくはアルキレン基、シリレン基、シラフルオレン基、ゲルミレン基が挙げられる。
Mとして好ましくはチタン、ジルコニウム、ハフニウム等である。特に、ジルコニウム、ハフニウムが挙げられる。
XおよびYの補助配位子は、成分(c)と反応してオレフィン重合能を有する活性なメタロセンを生成させるものであり、したがって、この目的が達成される限りX、Yは配位子の種類が制限されるものではなく、各々水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基、あるいはヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基が例示できる。これらのうち好ましいものは、炭素数1〜10の炭化水素基、あるいはハロゲン原子である。
【0025】
本発明で好ましく製造されるプロピレン系ブロック共重合体は、臭いやベタツキがないことを特徴としている。この特徴は、特に柔軟性の高いプロピレン系ブロック共重合体のときに効果が大きくなる。このような好ましいプロピレン系ブロック共重合体を製造するためには、特開平10−226712号公報、特開2000−95791号公報、特表2003−522259号公報、特表2003−533550号公報、特開2005−68261号公報などに記載されているメタロセン化合物を使用することが好ましい。
【0026】
(2)担体(b)
本発明で用いられる触媒担体としては、公知のものが使用できるが、好ましい担体としては、シリカ、チタニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア、イオン交換性層状珪酸塩などの無機化合物担体やポリプロピレンパウダー、ポリエチレンパウダーなどのポリマー担体を挙げることができる。
その中でも、ポリマーの粒子の形状を整え、かつ大粒径化するために、使用する触媒としては、粒形および粒径の制御された担持型触媒を用いることが特に好ましい。このような粒形および粒径の制御された担持型触媒の製造法としては、例えば、無機化合物担体を用いた場合、以下のような例を挙げることができる。
【0027】
原料の無機化合物担体の粒子径は、通常、平均粒径が0.01〜5μmで、かつ、1μm未満の粒子分率を10%以上、好ましくは、平均粒子径が0.1〜3μmで、1μm未満の粒子分率を40%以上とするのがよい。このような粒径の無機化合物担体粒子を得る方法としては、乾式の微粒子化方法、例えば、ジェットミル、ボールミル、振動ミル等による微粒子化、あるいは、湿式状態下での粉砕方法、ポリトロン等を使用した強制撹拌による粉砕やダイノーミル、パールミル等による方法がある。
【0028】
また、担体を好ましい粒径に造粒して用いても良く、その造粒法としては、例えば、攪拌造粒法、噴霧造粒法、転動造粒法、ブリケッティング、流動層造粒法、液中造粒法が挙げられる。好ましい造粒法は、攪拌造粒法、噴霧造粒法、転動造粒法または流動造粒法であり、更に好ましくは噴霧造粒法である。粒子強度については後述するが、本造粒工程においてもその制御が可能である。好ましい範囲の圧壊強度を得るためには、前述したような粒径分布の無機化合物担体を使用することが好ましい。
さらに、多段階に分けて造粒する場合の造粒方法を組み合わせても良く、その組合せに制限はないが、好ましくは、噴霧造粒法と噴霧造粒法、噴霧造粒法と転動造粒法、噴霧造粒法と流動造粒法との組合せが挙げられる。
【0029】
上記のような造粒法で得られる造粒粒子の形状は、球状が好ましく、具体的には、M/L(ここで、Lは投影図の粒子の最大径の値を、MはLと直交する径の値を、それぞれ示す。)の値が0.8以上1.0以下である粒子について、その数が、全粒子の50%以上100%以下、好ましくは全粒子の85%以上100%以下であるものが挙げられる。
なお、M/Lは任意の粒子の100個以上を光学顕微鏡で観察し、それを画像処理して求めたものである。
【0030】
球形の無機化合物担体粒子が得られる噴霧造粒における原料スラリー液の珪酸塩の濃度は、スラリー粘度にもよるが、通常0.1〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは5.0〜20質量%である。球状粒子が得られる噴霧造粒の熱風の入り口の温度は、分散媒により異なるが、水を例にとると、通常80〜260℃、好ましくは100〜220℃の範囲で選ばれる。分散媒は合目的な任意のものを使用することができる。分散媒としては、水や、有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、クロロホルム、塩化メチレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン等を単独で用いてもよいし、また、2種以上併用してもよいが、水が好ましい。
【0031】
このようにして得られた無機化合物担体粒子は、そのまま触媒担体として用いてもよく、その場合、粒径は好ましくは1〜200μm、より好ましくは10〜150μmの範囲で選ばれる。
【0032】
また、形状が整った粒子を所望の粒径で得るためには、原料の粒子径を少なくとも2段階の造粒工程で調製してもよい。例えば、第1段目の造粒工程で、ある程度造粒可能な粒子径に造粒して、それを用いて再度造粒処理することで、粒形と粒径を制御することができる。
このような段階的な造粒法として、具体的には、先ず、第1段目の造粒工程で平均粒径が0.01〜5μmの原料の無機化合物担体微粒子を造粒して一次造粒粒子を製造する。一次造粒粒子の粒径は、好ましくは1〜25μm、より好ましくは1〜15μmである。
次いで、このようにして造粒された一次造粒粒子をさらにスラリー化して造粒させる。その際、スラリー粘度は比較的低くなっているので、スラリー濃度を上げることができ、適当な噴霧造粒条件を採択することによって、重合触媒成分に適した粒径および粒形のものとすることができる。この最終的な粒径は、原料の無機化合物担体の種類によるが、通常25〜200μm、好ましくは25〜150μmとするのがよい。
【0033】
造粒条件は、造粒方法により適宜良好な性状の粒子が得られるよう選択することができる。例えば、噴霧造粒方法においては、噴霧時の熱風の入り口温度は90℃〜300℃程度の広い温度範囲で設定できる。また、出口温度はノズルやディスクからの噴霧流量や熱風流量などによって規定され、80℃〜150℃となる。噴霧形式はディスクタイプや加圧ノズル式、2流体ノズル式などの一般的な噴霧乾燥方法が適用できる。粒径の制御は噴霧液の流量、ディスクの回転数またはディスクサイズ、加圧ノズルの圧力、キャリアーガスの流量などを設定することで可能である。
【0034】
一次造粒粒子を再度造粒して2次粒子を製造すると、2次造粒粒子の方が大きいサイズとなる。原料粒子に対する1次粒子の粒径アップ率は、3〜500%が好ましく、5〜300%がさらに好ましい。また、1次粒子に対する2次粒子の粒径アップ率は3〜200%が好ましく、3〜100%がさらに好ましい。そのため1次造粒条件と2次造粒条件は異なる条件をとった方が良好な粉体性状の粒子を得ることができる。例えば、1次造粒より2次造粒の方をディスクの回転数を下げるのが好ましい粒子を得ることができる。2次造粒のディスク回転数は、1次造粒のディスク回転数より1000〜30000rpm低い方が好ましく、5000〜20000rpm低い方がさらに好ましい。また乾燥温度は、1次造粒より2次造粒の方を低くするのが好ましい。2次造粒の熱風入り口温度は、1次造粒の熱風入り口温度より10〜80℃低いほうが好ましく、20〜50℃低い方がさらに好ましい。具体的には、ディスクサイズによるが、一次造粒においては、熱風入り口温度は130〜250℃が好ましく、150〜200℃がさらに好ましい。ディスク回転数は10000〜30000rpmの条件が好ましい。2次造粒においては熱風入り口温度は90℃〜180℃が好ましく、100〜150℃がさらに好ましい。ディスク回転数は5000〜20000rpmの条件が好ましい。
【0035】
造粒の際に、有機物、無機溶媒、無機塩、各種バインダーを用いてもよい。用いられるバインダーとしては、例えば砂糖、デキストローズ、コーンシロップ、ゼラチン、グルー、カルボキシメチルセルロース類、ポリビニルアルコール、水ガラス、塩化マグネシウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、アルコール類、グリコール、澱粉、カゼイン、ラテックス、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、タール、ピッチ、アルミナゾル、シリカゲル、アラビアゴム、アルギン酸ソーダ等が挙げられる。
このようにして、造粒された無機化合物担体上に、メタロセン錯体を担持することによって、粒形および粒径の整備された担持型触媒を製造することができる。
【0036】
(3)助触媒(活性化剤成分)(c)
助触媒は、メタロセン錯体を活性化する成分で、メタロセン錯体の補助配位子と反応して当該錯体を、オレフィン重合能を有する活性種に変換させうる化合物であり、具体的には(c−1)アルミニウムオキシ化合物、(c−2)成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸、(c−3)固体酸、(c−4)イオン交換性層状珪酸塩等が挙げられる。以下、(c−1)〜(c−4)の説明をする。
【0037】
(c−1):アルミニウムオキシ化合物
アルミニウムオキシ化合物がメタロセン錯体を活性化しうることは周知であり、該化合物としては、具体的にはアルミノキサンや、一種類のトリアルキルアルミニウム又は二種類以上のトリアルキルアルミニウムとアルキルボロン酸との10:1〜1:1(モル比)の反応により得ることができる化合物である。アルミノキサンを使用する場合、メチルアルミノキサン又はメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。上記のアルミノキサンは、各群内および各群間で複数種併用することも可能である。そして、上記のアルミノキサンは、公知の様々な条件下に調製することができる。
【0038】
(c−2):成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸
(c−2)の化合物は、成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸であり、このようなイオン性化合物としては、カルボニウムカチオン、アンモニウムカチオンなどの陽イオンと、トリフェニルホウ素、トリス(3,5−ジフルオロフェニル)ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素等の有機ホウ素化合物との錯化物等が挙げられる。
また、上記のようなルイス酸としては、種々の有機ホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素などが例示される。あるいは、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム等の金属ハロゲン化合物などが例示される。
なお、上記のルイス酸のある種のものは、成分(a)と反応して成分(a)をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物として把握することもできる。上述した非配位性のホウ素化合物を用いたメタロセン触媒は、特開平3−234709号公報、特開平5−247128号公報等に例示されている。
【0039】
(c−3):固体酸
固体酸としては、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリカ−マグネシア等が挙げられる。
【0040】
(c−4):イオン交換性層状化合物
イオン交換性層状化合物は、粘土鉱物の大部分を占めるものであり、好ましくはイオン交換性層状珪酸塩である。
イオン交換性層状珪酸塩(以下、単に「珪酸塩」と略記する場合がある。)は、イオン結合などによって構成される面が互いに結合力で平行に積み重なった結晶構造を有し、且つ、含有されるイオンが交換可能である珪酸塩化合物をいう。大部分の珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出されるため、イオン交換性層状珪酸塩以外の夾雑物(石英、クリストバライト等)が含まれることが多いが、それらを含んでいてもよい。珪酸塩は各種公知のものが使用できる。具体的には、白水春雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)に記載されている次のような層状珪酸塩が挙げられる。
【0041】
(i)2:1型鉱物類
モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト等のスメクタイト族;バーミキュライト等のバーミキュライト族;雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族;パイロフィライト、タルク等のパイロフィライト−タルク族;Mg緑泥石等の緑泥石族等。
(ii)2:1リボン型鉱物類
セピオライト、パリゴルスカイト等。
【0042】
本発明で原料として使用する珪酸塩は、上記の混合層を形成した層状珪酸塩であってもよい。本発明においては、主成分の珪酸塩が2:1型構造を有する珪酸塩であることが好ましく、スメクタイト族であることが更に好ましく、モンモリロナイトが特に好ましい。本発明で使用する珪酸塩は、天然品または工業原料として入手したものは、特に処理を行うことなくそのまま用いることができるが、化学処理を施すことが好ましい。具体的には、酸処理、アルカリ処理、塩類処理、有機物処理等が挙げられる。これらの処理を互いに組み合わせて用いてもよい。本発明において、これらの処理条件には特に制限はなく、公知の条件が使用できる。
また、これらイオン交換性層状珪酸塩には、通常吸着水および層間水が含まれるため、不活性ガス流通下で加熱脱水処理するなどして、水分を除去してから使用するのが好ましい。
【0043】
担体(b)と助触媒(c)の両方の機能を併せ持つもの、具体的には上記(c−4)のイオン交換性層状化合物などは、担体兼助触媒として使用することができる。
【0044】
(4)有機アルミニウム化合物(d)
メタロセン触媒系に、必要に応じて使用される有機アルミニウム化合物としては、本発明においては、ハロゲンを含有しないものが使用され、具体的には一般式
AlR3−i
(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Xは水素、アルコキシ基、iは0<i≦3の数を示す。但し、Xが水素の場合は、iは0<i<3とする。)
で示される化合物が使用される。
【0045】
具体的な化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムまたはジエチルアルミニウムメトキシド、ジエチルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムメトキシド、ジイソブチルアルミニウムエトキシド等のアルコキシ含有アルキルアルミニウムまたはジエチルアルミニウムハライドなどのハライド含有アルキルアルミニウムである。これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。より好ましくは、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウムである。
【0046】
2.触媒成分の使用量
上記触媒成分において、成分(a)と成分(c)の使用量は、それぞれの組み合わせの中で最適な量比で用いられる。
成分(c)が、アルミニウムオキシ化合物の場合は、Al/遷移金属のモル比は通常10以上100000以下、さらに100以上20000以下、特に100以上10000以下の範囲が適する。一方、成分(c)としてイオン性化合物あるいはルイス酸を用いた場合は、対遷移金属のモル比は、通常0.1〜1000、好ましくは0.5〜100、更に好ましくは1〜50の範囲である。
成分(c)として、固体酸あるいはイオン交換性層状珪酸塩を用いる場合は、成分(c)1gにつき、遷移金属錯体の用量は、通常0.001〜10ミリモル、好ましくは0.001〜1ミリモルの範囲である。
これらの使用比率は、一般的な割合例を示すものであって、触媒が合目的的なものとなっていれば、上に述べた使用比率の範囲に限定されることはない。
【0047】
本発明で用いる触媒は、遷移金属錯体と助触媒からなるポリオレフィン製造用触媒をオレフィン重合用(本重合)の触媒として使用する前に必要に応じて、担体に担持させた後、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロアルカン、スチレン等のオレフィンを予備的に少量重合する予備重合処理を施してもよい。予備重合方法は公知の方法が使用できる。
【0048】
II.重合について
本発明のプロピレン系重合体の製造方法としては、気相重合法を用いて重合することが必須である。また、本発明のプロピレン系重合体の製造を多段重合で実施する場合は、少なくとも第1段階(以下、「第一工程」、「第1重合工程」ともいう。)は気相重合法を用いることが必須となる。
この重合を、不活性溶媒中で重合を行ういわゆるスラリー重合や液体プロピレン中で重合を行ういわゆるバルク重合で行うと、重合溶媒の回収操作が必要となり、経済的および環境への負荷が大きくなり、また、特に、重合されるプロピレン系重合体が比較的融点の低いポリマーの場合は、溶媒中への溶出成分量が多くなったり、ポリマーの溶解が懸念されるため、工業的なレベルまで重合温度を上げることができないという問題点が生じる。このようなことから、本発明では気相重合で行う。
【0049】
一方、本発明のプロピレン系重合体の製造を多段重合で実施する場合、第2段階(以下、「第二工程」、「第2重合工程」ともいう。)以降に関しては、一般に、プロピレン系ブロック共重合体を製造する際には、第二工程以降で生成されるプロピレン−エチレンランダム共重合体成分がゴム成分であることが多く、溶媒などの液体が存在すると溶出してしまうことから気相重合法が使用され、特に第二工程以降で生成される成分の割合が多いポリマーを製造するには気相重合法が推奨される。
【0050】
また、重合形式は、製造コストなどを考慮した工業的な生産という観点から、反応器に連続的あるいは間欠的に触媒を導入し、かつ、連続的あるいは間欠的にポリマーを抜き出す連続法を採用することが必須である。本発明において、多段重合法を用いる場合、場合によっては、それぞれの工程を更に分割することができる。特に、第二工程以降を2段以上に分割して多種類のゴム成分を作る方法も物性改良法の一つである。
【0051】
第一工程の重合温度T1は、該工程で製造されるプロピレン単独重合体あるいはプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分中の融点Tmとの差(Tm−T1)が好ましくは35〜80℃、さらに好ましくは40〜75℃となるように設定される。(Tm−T1)が40℃よりも小さくなると、重合されるプロピレン単独重合体あるいはプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分の性状が悪化し、安定な運転ができなくなる。また、80℃よりも大きいと、重合温度が低くなり過ぎ、除熱のための冷却水温度を確保することが困難になるなど工業的な生産が許される温度領域を下回ってしまう。このような観点からは、第一工程の重合温度の絶対値は50℃よりも高いことが望ましい。
また、所望のTmを予め設計し、そのTmに対して重合温度T1を設定するのが好ましい。
【0052】
重合圧力は、気相重合における触媒性能から、重合活性を考慮して設定する必要がある。また、一方で、上記重合温度範囲でプロピレンが液化しない範囲で設定しなければならない。このようなことを考慮すると、重合に関予するモノマー、具体的にはプロピレンおよびα−オレフィンの分圧の合計は、通常0.1〜4.5MPa、好ましくは0.5〜4MPa、より好ましくは1〜3.5MPaの範囲で選ぶのがよい。
【0053】
反応器内には、上記のモノマーの他に、反応には直接関予しない窒素、プロパン、n−ブタン、イソブタンなどの、いわゆるイナートガスが存在していてもよい。
また、重合体の流動性が適当なものとなるように分子量調整剤を使用することが好ましく、該調整剤としては水素が好ましい。MFRは、本重合体の用途によるが、通常0.1〜3000g/10分、好ましくは0.5〜2000g/10分、より好ましくは0.5〜1000g/10分の範囲で選ばれる。重合反応器の全圧は、上記に挙げたモノマー(プロピレン、α−オレフィン)、イナートガス(窒素、プロパンなど)、および分子量調整剤として水素を用いた場合には水素などの分圧の合計となるため、状況によってその値は変わってくるが、工業的な生産という観点から反応器の耐圧設計を考慮すると、好ましくは0.5〜6MPa、より好ましくは0.5〜5MPaである。
【0054】
本発明を多段重合法を用いて実施する場合、第二工程以降における重合温度は、通常30〜100℃、好ましくは50〜80℃程度である。第二工程以降で製造するプロピレン−α−オレフィン共重合体成分はゴム成分あるいはそれに近い成分であることから、重合温度をあまり高温にすると、粉体性状の悪化により、安定的な生産ができなくなってしまう。第二工程以降の重合圧力は、通常0.1〜5MPa、好ましくは0.5〜3MPaである。
【0055】
第二工程以降におけるプロピレン系重合体成分の質量平均分子量は、通常5万以上200万以下、好ましくは7万以上150万以下、より好ましくは7万以上120万以下である。重合体の分子量を上記の好ましい範囲に調整するには、分子量調整剤を使用することが好ましく、該調整剤としては水素が好ましい。
【0056】
気相重合プロセスには、大きく分けて、機械的な攪拌を伴うプロセスと、機械的な攪拌を伴わず、反応器下部からのガスの吹き上げによりポリマー相が流動床を形成している状態で重合を進行させるプロセスに分けられる。しかし、後者の場合、製造される重合ポリマーの粒径が大きくなってくると、吹き上げるガスの流量をアップする必要が生じ、ブロアーが大型化してしまうため、経済的には不利になる。さらに、パウダー粒径が大きくなると、ガスの流量をいくら上げても正常な流動状態を形成することができなくなることが知られており、安定運転という観点では好ましくない。このような理由から、本発明で目的としているプロピレン系重合体成分を製造するためには、機械的な攪拌を伴う気相重合プロセスを用いる方が好ましい。
機械的な攪拌を伴う気相重合プロセスであれば、反応器の形態に制限はなく、縦型でも横型でも、あるいはその他の形態でも使用することができる。
なお、機械的な攪拌を伴う気相重合プロセスは、機械的な攪拌手段を備える気相重合反応器を用いることで達成することができる。
さらに、本発明の目的は、工業的なスケールでのプロピレン系重合体の安定的な生産であることから、工業的な規模で用いられる大きさの反応器に適用することができる。具体的には、反応器の容積として50リッター以上であることが好ましい。
【0057】
本発明においては、炭素数3〜8の飽和炭化水素溶媒に、好ましくは、炭素数4〜7の飽和炭化水素溶媒に、さらに好ましくは、ノルマルヘキサン又はノルマルヘプタンに重合に用いる担持触媒を懸濁させ、該触媒スラリーを重合反応器にフィードすることを特徴としている。溶媒に使用する飽和炭化水素の炭素数が9よりも大きいと、溶媒の沸点が高くなるため、乾燥工程で溶媒の蒸発が不完全になる恐れがあり、その結果、製品中のオリゴマー濃度が高くなってしまうため、好ましくない。
【0058】
本発明においては、プロピレン系重合体の生産量に対する炭素数3〜8の飽和炭化水素溶媒の合計量の割合を一定の範囲にコントロールすることが必須である。炭化水素溶媒は反応器にフィードされた後、ある時間を経ると蒸発する。炭化水素溶媒が多すぎる場合は、蒸発までの時間が長いことから、溶媒によって濡れている部分に触媒が分散せずに存在したまま重合が進行してしまうため、局所的な温度上昇などが発生する可能性が高くなる。一方、炭化水素溶媒が少なすぎる場合、これは触媒スラリー濃度が高い状態であることを意味しており、フィード後の触媒分散がやはり悪化し、同様に局所的な温度上昇などが発生する可能性が高くなる。すなわち、触媒の良好な分散のためには、フィードされる炭化水素溶媒量にあるバランスが必要であるということを念頭に、種々の検討を実施した結果、該反応器で生産されるプロピレン系重合体の生産量に対して、反応器へ添加される炭素数3〜8の飽和炭化水素溶媒の合計量を一定の範囲にコントロールすることで、フィード後の触媒分散が良好な状態を保ち、局所的な温度上昇などが発生せずに、均一な条件での重合反応が進行することを見出した。
【0059】
具体的には、反応器へ添加される炭素数3〜8の飽和炭化水素溶媒の合計量は、プロピレン系重合体の生産量に対して、0.01〜1重量%、好ましくは0.05〜1重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%となるようにコントロールされる。なお、多段重合法によりプロピレン系重合体の製造が行われる場合には、最終の生産量に対して、飽和炭化水素溶媒の割合を算出する。また、連続法を採用しているため、上記割合は、単位時間当たりで算出することができる。上記割合が0.01重量%よりも小さいケースは、少量の飽和炭化水素溶媒しか反応器内に添加されないことを示しているが、この場合は、触媒スラリー濃度が高い状態であることを意味しており、フィードされた後の触媒分散に悪くなり、反応器内の重合条件が不均一な状態となって、結果的に臭いやベタツキの原因となるオリゴマー成分の生成量が増加してしまう恐れがあるため、好ましくない。また、上記割合が1重量%よりも大きいケースは、反応器内に持ち込まれる溶媒量が多すぎて、やはり反応器内の重合条件が不均一な状態となって、結果的にオリゴマー成分の生成量が増加したり、溶媒そのものが蒸発しきれずに製品ポリマー内に残留したりする恐れがあるため、好ましくない。
【0060】
上記のような条件で触媒スラリーを反応器にフィードする際、触媒スラリーの流速が低いとフィード配管出口付近に触媒スラリーが付着してしまい、そこで重合が進行して、生じた重合物がフィード配管を閉塞させる可能性がある。これを防止するためには、触媒スラリー流速を上げることが必要となる。触媒スラリーの流速を上げるために好ましく用いられる方法としては、配管径を適度に細くすることや、液化プロピレンでアシストすることなどを挙げることができる。液化プロピレンでアシストするケースでは、上記目的を達成するためおよび配管内での重合を防止するため、フィード配管内の流速は1〜200cm/秒、好ましくは5〜100cm/秒となるように、設定される。また、配管内での重合を防止するため、使用される液化プロピレンの温度は、−40〜40℃、好ましくは−30〜30℃に設定される。
【0061】
また、本発明の効果が特に発揮される柔軟なプロピレン系共重合体を製造する場合には、重合後の乾燥工程の温度を高温にすると、ポリマーの柔軟な成分が溶けて粉体の流動性が悪化し、工業的に安定な連続生産が達成できない恐れがある。したがって、乾燥工程の温度は高く設定することができないため、乾燥工程でオリゴマー成分や溶媒を除去しにくい状況となる。このようなことから、重合時のオリゴマー生成量や溶媒の使用量を少なくする必要がある。具体的に、乾燥機の温度をTd(℃)とすると、60≦Td≦Tm−20、好ましくは、60≦Td≦Tm−25の範囲に設定される(Tmはポリマーの融点を示す)。乾燥器温度が60℃よりも低いと、モノマーの乾燥が不十分となり、品質上だけでなく、安全性の面からも好ましくない。
【0062】
III.製造されるプロピレン系重合体及びプロピレン系ブロック共重合体について
本発明により製造されるプロピレン系重合体は、メタロセン系遷移金属化合物を含む担持触媒を用いて、気相重合法で重合されるものであれば、特に制限はない。
【0063】
製造される重合体は、製造されるポリマーの用途によってプロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン系ブロック共重合体の中から選ばれる。プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体あるいはプロピレンブロック共重合体の場合に使用されるα−オレフィンは、プロピレンを除く炭素数が2〜20のα−オレフィンであり、好ましくはエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、特に好ましくはエチレンが用いられる。
【0064】
本発明において製造されるプロピレン系重合体あるいはプロピレン系ブロック共重合体の融解ピーク温度(Tm)(以下融点ともいう)は、105℃以上が好ましい。上記範囲より融点が著しく低いと工業的に可能な重合温度では重合体自身が一部融解してしまう恐れがあり、安定運転の維持が困難となる。上限については、特に制限はないが、本発明の効果が特に発揮される柔軟なプロピレン系ブロック共重合体の場合、好ましくは160℃、さらに好ましくは155℃である。
製造される重合体がプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体である場合、該成分中のα−オレフィン含量は、該共重合体の融点が好ましくは105℃以上となるようにコントロールされ、使用されるメタロセン触媒にもよるが、一般的には、10質量%以下の範囲である。α−オレフィン含量のコントロールは、重合時に添加するα−オレフィン量で実施する。
【0065】
本発明においては、特に多段重合法を用いて製造するプロピレン系ブロック共重合体において、顕著な効果が示される。以下、詳細に説明する。
【0066】
本発明により製造される好ましいプロピレン系ブロック共重合体は、第1工程で好ましくは105℃以上の示差走査型熱量計(DSC)による融解ピーク温度Tmを持つプロピレン単独重合体あるいはプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体成分(A)(以下、成分(A)とする)を30〜90重量%、第2工程で成分(A)に含まれる含量よりも高いα−オレフィンを含むプロピレン−α−オレフィン共重合体成分(B)(以下、成分(B)とする)を70〜10重量%含むことを特徴としている。
成分(A)の融解ピーク温度Tmは、第1工程終了後に少量サンプリングした成分(A)に対し、常法により、示差走査型熱量計(DSC)による融解ピーク温度として測定される。また、サンプリングが困難な場合には後に記載する方法で分別された成分(A)に対して行っても良い。
【0067】
第1工程で重合される成分(A)と第2工程で重合される成分(B)の割合は30〜90/70〜10重量%、好ましくは40〜90/60〜10重量%、さらに好ましくは40〜80/60〜20重量%である。成分(A)の割合が90重量%よりも大きいと成分(B)が寄与する効果が少なく、多段重合で製造する意味が薄くなる。また、成分(B)の割合が70重量%よりも大きくなると、重合ポリマーの粉体性状が悪化してしまい、工業的な安定運転に支障をきたしてしまう。
【0068】
第2工程で重合される成分(B)中のα−オレフィン含量は、第1工程で重合される成分(A)中のα−オレフィン含量よりも高く設定される。本発明のブロック共重合体においては、成分(A)に対し成分(B)の結晶性は低い方が、柔軟性改良効果が大きく、それらの結晶性はプロピレン−α−オレフィンランダム共重合体中のα−オレフィン含有量で制御される。
【0069】
さらに、本発明により製造される好ましいプロピレン系ブロック共重合体は、炭素数30以下の炭化水素化合物の含有量が50ppm以下が好ましい。50ppmを上回ると、臭いやベタツキ、さらには加工時の発煙が目立つようになってしまい、好ましくない。下限については、クリーン性という観点からは少なければ少ないほど好ましいが、乾燥工程の負荷等、工業的な実現性とのバランスを考慮すると、好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは15ppm以上が好ましい。
【0070】
以下、α−オレフィンがエチレンである場合の成分(A)と成分(B)の割合、およびそれらのエチレン含量の測定方法について、説明する。
成分(A)と成分(B)の割合、およびそれらのエチレン含量は以下のように、TREF(温度昇温溶離分別法)を利用して測定される。
まず、成分(A)と成分(B)の結晶性の違いを利用し、TREF測定により得られる溶出曲線から、成分(A)と(B)を分割する温度T(C)を決定し、T(C)までに溶出する成分の割合を成分(B)の比率、T(C)以上で溶出する成分の割合を成分(A)の比率と見なす。
なお、プロピレン−エチレンランダム共重合体の結晶性分布をTREF測定により評価する手法は、当該業者によく知られるものであり、G.Glokner,J.Appl.Polym.Sci:Appl.Poly.Symp.;45,1−24(1990)、L.Wild,Adv.Polym.Sci.;98,1−47(1990)、J.B.P.Soares,A.E.Hamielec,Polyer;36,8,1639−1654(1995)等で詳細な測定法が示されている。
【0071】
本発明においては具体的には以下の様に測定する。試料を140℃でo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)に溶解し溶液とする。これを140℃のTREFカラムに導入した後8℃/分の降温速度で100℃まで冷却し、引き続き4℃/分の降温速度で−15℃まで冷却し、60分間保持する。その後、溶媒であるo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLBHT入り)を1mL/分の流速でカラムに流し、TREFカラム中で−15℃のo−ジクロロベンゼンに溶解している成分を10分間溶出させ、次に昇温速度100℃/時間にてカラムを140℃までリニアに昇温し、溶出曲線を得る。
溶出温度が低い成分の結晶性は低く柔軟性に富み、一方、溶出温度が高い成分の結晶性は高くなることで剛性が増加し耐熱性も向上する。本発明におけるプロピレン−エチレンランダムブロック共重合体の、TREF測定で得られる溶出曲線(温度に対するdwt%/dT曲線)において、結晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(A)と、低結晶性あるいは非晶性プロピレン−エチレンランダム共重合体成分(B)は、その結晶性の違いから、異なる温度で溶出する成分として観測される。すなわち、成分(A)は結晶性が高いため高温側に、成分(B)は低結晶性あるいは非晶性であるため低温側に観測され、あるいは、TREF測定温度内でピークを示さない。各ピーク温度をT(A)、T(B)(ピークを示さない場合には、測定温度下限の−15℃)としたとき、両ピークの中間の温度T(C)({T(A)+T(B)}/2)において、両成分はほぼ分離可能である。
【0072】
このとき、TREFにおいてT(C)までに溶出する成分の積算量をW(B)wt%、T(C)以上で溶出する部分の積算量をW(A)wt%と定義する。W(B)は結晶性が低いあるいは非晶性の成分(B)の量とほぼ対応しており、W(A)は結晶性が高い成分(A)の量とほぼ対応している。
【0073】
次に、分取型分別装置を用い昇温カラム分別法により、T(C)可溶成分=成分(B)と、T(C)不溶成分=成分(A)とに分別する。分別の具体的方法は、
TREF測定により求めたT(C)を基に、分取型分別装置を用い昇温カラム分別法により、T(C)可溶成分=成分(B)とT(C)不溶成分=成分(A)とに分別し、NMRにより各成分のエチレン含量を求める。昇温カラム分別法とは、例えば、Macromolecules,21,314−319(1988)に開示されたような測定方法をいう。
【0074】
分別条件は、直径50mm、高さ500mmの円筒状カラムにガラスビーズ担体(80〜100メッシュ)を充填し、140℃に保持する。次に、140℃で溶解したサンプルのo−ジクロロベンゼン溶液(10mg/mL)200mLを前記カラムに導入する。その後、該カラムの温度を0℃まで10℃/時間の降温速度で冷却する。0℃で1時間保持後、10℃/時間の昇温速度でカラム温度をT(C)まで加熱し、1時間保持する。なお、一連の操作を通じてのカラムの温度制御精度は±1℃とする。
次いで、カラム温度をT(C)に保持したまま、T(C)のo−ジクロロベンゼンを20mL/分の流速で800mL流すことにより、カラム内に存在するT(C)で可溶な成分を溶出させ回収する。
次に、10℃/分の昇温速度で当該カラム温度を140℃まで上げ、140℃で1時間静置後、140℃の溶媒のo−ジクロロベンゼンを20mL/分の流速で800mL流すことにより、T(C)で不溶な成分を溶出させ回収する。
分別によって得られたポリマーを含む溶液は、エバポレーターを用いて20mLまで濃縮された後、5倍量のメタノール中に析出される。析出ポリマーを濾過して回収後、真空乾燥器により一晩乾燥する。
そして分別された各成分のエチレン含量を、NMRにより求める。具体的方法を以下に示す。
【0075】
NMRによるエチレン含量測定
得られた重合体のエチレン含量は、プロトン完全デカップリング法により以下の条件に従って測定した13C−NMRスペクトルを解析することにより求める。
機種:日本電子(株)製 GSX−400または、同等の装置(炭素核共鳴周波数100MHz以上)
溶媒:o−ジクロルベンゼン:重ベンゼン=4:1(体積比)
濃度:100mg/ml
温度:130℃
パルス角:90°
パルス間隔:15秒
積算回数:5,000回以上
スペクトルの帰属は、例えばMacromolecules,17,1950 (1984)等を参考に行えばよい。上記条件により測定されたスペクトルの帰属は下の表1の通りである。表中Sαα等の記号はCarmanら(Macromolecules,10,536(1977))の表記法に従い、Pはメチル炭素、Sはメチレン炭素、Tはメチン炭素をそれぞれ表わす。
【0076】
【表1】

【0077】
以下、「P」を共重合体連鎖中のプロピレン単位、「E」をエチレン単位とすると、連鎖中にはPPP、PPE、EPE、PEP、PEE、およびEEEの6種類のトリアッドが存在し得る。Macromolecules,15,1150(1982)などに記されているように、これらトリアッドの濃度と、スペクトルのピーク強度とは、以下の(1)〜(6)の関係式で結び付けられる。
[PPP]=k×I(Tββ) (1)
[PPE]=k×I(Tβδ) (2)
[EPE]=k×I(Tδδ) (3)
[PEP]=k×I(Sββ) (4)
[PEE]=k×I(Sβδ) (5)
[EEE]=k×{I(Sδδ)/2+I(Sγδ)/4} (6)
ここで[ ]はトリアッドの分率を示し、例えば[PPP]は全トリアッド中のPPPトリアッドの分率である。したがって、
[PPP]+[PPE]+[EPE]+[PEP]+[PEE]+[EEE]=1(7)
である。また、kは定数であり、Iはスペクトル強度を示し、例えばI(Tββ)はTββに帰属される28.7ppmのピークの強度を意味する。
上記(1)〜(7)の関係式を用いることにより、各トリアッドの分率が求まり、さらに下式によりエチレン含量が求まる。
エチレン含量(モル%)=([PEP]+[PEE]+[EEE])×100
なお、本発明の[プロピレンランダム共重合体成分]には少量のプロピレン異種結合(2,1−結合及び/または1,3−結合)が含まれ、それにより、以下の微小なピークを生じる。
【0078】
【表2】

【0079】
正確なエチレン含量を求めるにはこれら異種結合に由来するピークも考慮して計算に含める必要があるが、異種結合由来のピークの完全な分離・同定が困難であり、また異種結合量が少量であることから、本発明のエチレン含量は実質的に異種結合を含まないチーグラー・ナッタ系触媒で製造された共重合体の解析と同じく上記(1)〜(7)の関係式を用いて求めることとする。
エチレン含量のモル%から質量%への換算は以下の式を用いて行う
エチレン含量(質量%)=(28×X/100)/{28×X/100+42×(1−X/100)}×100
ここでXはモル%表示でのエチレン含量である。
【実施例】
【0080】
次に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限りこれらの例によって何ら制約を受けるものではない。
なお、以下の触媒合成工程および重合工程は、すべて精製窒素雰囲気下で行った。また溶媒は、モレキュラーシーブMS−4Aで脱水したものを用いた。
先ず、各物性値の測定方法、評価方法及び装置を示す。
【0081】
I.物性値の測定方法、評価方法及び装置
(1)MFR
ポリプロピレン系重合体はJIS−K−6758により測定したメルトインデックス値を示す。
【0082】
(2)ポリマー中のエチレン含量
前記した方法に従って測定した。
【0083】
(3)ポリマーの融点(Tm)
パーキン・エルマー社製のDSC7型示差走査熱量分析計を用いて試料を室温から80℃/分の条件で230℃まで昇温し、同温度にて10分間保持後、−10℃/分にて50℃まで降温し、同温度にて3分間保持した後、10℃/分の昇温条件下で融解した時のピーク温度をもって融点(Tm)とした。
【0084】
(4)炭素数1〜30のオリゴマー成分量の測定
射出成形した成型品を2mm×50mmで切り出し、試料200mgをGERSTEL社製TDS管に充填、TDS管をGERSTEL社製 TDS−A装置に挿入し、Heを流しながら100℃−30分間加熱、加熱期間中、ガスはTENAXを充填したGERSTEL社製CIS4に導入されCIS4を−150℃に冷却することにより試料より発生した揮発成分を捕集した。
捕集された成分は320℃まで急速に加熱気化させることによりガスクロマトグラムに導入した。導入されたガスは次の条件でガスクロマトグラム/質量分析法で測定した。
装置:HP6890
カラム:DB−5ms 0.25mm×30m
温度:40℃×5min→10℃/min〜300℃×15min
検出器:HP5973N
炭化水素量の定量は、ノルマルヘプタンを溶媒として濃度が1、5、及び10μg/mlの炭素数20の脂肪族直鎖飽和炭化水素を試料と同条件で測定を行いガスクロマトグラム/質量分析法で測定し検量線を作成し、定量は炭素数20の脂肪族直鎖飽和炭化水素換算で行った。
【0085】
(5)発煙量の測定
試料に酸化防止剤として、IRGANOX1010(チバジャパン製)とIRGAFOS168(チバジャパン製)を各々0.05重量部添加し、スーパーミキサーを用いてブレンドした後、Φ30mmの単軸押出機にて押出温度200℃、スクリュー回転数100rpmにて溶融混練し、ペレットを得た。ダイスにて生じる気化物質を一箇所から排出する排出口を有したダイスパックを取り付けたギアポンプ付きマルチフィラメント紡糸機(ダイス:Φ1.3mm×15穴)のホッパーに、上記手法により得られたペレットを投入し、押出温度280℃、ギアポンプ回転数30rpm、吐出量1kg/hの条件にて溶融押出を行い、ダイスパックの排出口を目視にて観察を行うことにより発煙の有無を判定した。排出口の周囲が白く見える場合は発煙が有るとして×、排出口の周囲が白く見えない場合は発煙が無いとして○とした。
【0086】
II.実施例及び比較例
(実施例1)
1.予備重合触媒の製造
珪酸塩の化学処理:3リットルの攪拌翼のついたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水2.25リットル、続いて硫酸(96%)665gをゆっくりと滴下した。50℃で、さらに、モンモリロナイト(水澤化学社製、ベンクレイSL;平均粒径:50μm)を400g分散させ、90℃に昇温し、3.5時間その温度を維持した。この反応溶液を2Lの純水に投入することで反応を停止し、さらにスラリーを減圧濾過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を4リットル加え再スラリー化後、濾過した。この操作を、洗浄液(濾液)のpHが3.5を超えるまで実施した。回収したケーキは、120℃で終夜乾燥した。乾燥後、173.4g秤量し、次工程に用いた。
酸処理を行った粘土は、3リットルプラスチックビーカーにて硫酸リチウム水和物195.8gを純水868mLに溶解した水溶液に加えて、室温で2時間反応させた。このスラリーを濾過し、3リットルの蒸留水で5回洗浄した。
回収したケーキを120℃で終夜乾燥した。化学処理した珪酸塩をキルン乾燥機で乾燥した。
【0087】
触媒の調製:内容積3リットルの攪拌翼のついたガラス製反応器に上記で得た乾燥珪酸塩100gを導入し、混合ヘプタン580ml、さらにトリノルマルオクチルアルミニウムのノルマルヘプタン溶液(濃度142.9mg/l)642.5mlを加え、室温で撹拌した。1時間後、混合ヘプタンで洗浄し、珪酸塩スラリー量を2.0リットルに調製した。次に調製した珪酸塩スラリーにトリノルマルオクチルアルミニウムのノルマルヘプタン溶液30.75mlを加え、1時間反応させた。ここに、別のフラスコ中で、(r)−ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ハフニウム(合成は、特開平10−110136号公報の実施例に従って実施した。)2440mg(3.0mmol)に混合ヘプタン(300mL)を加えたスラリーを加えて、60℃にて1時間反応させた。
【0088】
予備重合:続いて、窒素で十分に置換を行った内容積10リットルの攪拌式オートクレーブに、ノルマルヘプタン2.1リットルを導入し、40℃に保持した。そこに先に調製した珪酸塩/メタロセン錯体スラリーを導入した。温度が40℃に安定したところでプロピレンを100g/時間の速度で供給し、温度を維持した。2時間後プロピレンの供給を停止し、さらに1時間維持した。予備重合終了後、残存モノマーをパージして、攪拌を停止させ約10分静置後、上澄み約3リットルをデカントした。続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のノルマルヘプタン溶液4.7ml、さらにヘプタンを2.8リットル添加し、40℃で30分攪拌し、10分間静置した後に、上澄み2.8リットルを除いた。さらにこの操作を3回繰り返した。続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のノルマルヘプタン溶液8.5mlを添加した後に、45℃で減圧乾燥した。この操作により触媒1g当たりポリプロピレン2.2gを含む予備重合触媒が得られた。
さらに得られた予備重合触媒にノルマルヘキサンを加え、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として1.5g/リッターの触媒スラリーを調製した。
【0089】
2.重合
図1は実施例で用いた重合装置のフローシートである。
攪拌羽根を有する横型重合器10(L/D=3.7、内容積100L)に、あらかじめ35kgのシーズポリマーを導入後、窒素ガスを3時間流通させた。その後、プロピレンおよび水素を導入しながら昇温し、重合条件が整った時点で、配管1より上記で製造した予備重合触媒のノルマルヘキサンスラリーを、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.78g/hr一定となるように供給した。その際、配管2よりアシスト用の液化プロピレン(温度10℃)を流速が20cm/秒となるように供給した。また、配管3より有機アルミニウム化合物としてトリイソブチルアルミニウムを15mmol/hr一定となるように供給した。反応温度60℃、反応圧力2.0MPaG、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、反応器の気相中の水素/プロピレンモル比を0.0005に維持するように水素ガスを循環配管4より連続的に供給して、プロピレン単独重合体を製造した。
【0090】
反応熱は配管5から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器から排出される未反応ガスは配管6を通して反応器系外で冷却、凝縮させて重合器10に還流した。本重合で得られたプロピレン単独重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の65容積%となるように配管11を通して重合器10から間欠的に抜き出し、温度80℃で1時間乾燥を実施した。このとき、プロピレン単独重合体の生産量は7kg/hrであった。このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘキサンの添加量は0.73wt%であった。得られたプロピレン単独重合体のMFR、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表3にまとめて示す。
【0091】
(比較例1)
実施例1において、予備重合触媒のノルマルヘキサンスラリー濃度を0.5g/リッターとした以外は、実施例1と同様の方法で、プロピレン単独重合体を製造した。このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘキサンの添加量は2.21wt%であった。得られたプロピレン単独重合体のMFR、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表3にまとめて示す。
【0092】
(実施例2)
1.予備重合触媒の製造
実施例1において、最終の触媒スラリー濃度を、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として、0.8g/リッターとした以外は実施例1と同様にして、触媒の製造を実施した。
【0093】
2.重合
実施例1と同様の重合装置を用いて、以下の条件で重合を実施した。
攪拌羽根を有する横型重合器10(L/D=3.7、内容積100L)に、あらかじめ35kgのシーズポリマーを導入後、窒素ガスを3時間流通させた。その後、プロピレン、エチレンおよび水素を導入しながら昇温し、重合条件が整った時点で、配管1より上記で製造した予備重合触媒のノルマルヘキサンスラリーを、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.35g/hr一定となるように供給した。その際、配管2よりアシスト用の液化プロピレン(温度20℃)を流速が20cm/秒となるように供給した。また、配管3より有機アルミニウム化合物としてトリイソブチルアルミニウムを15mmol/hr一定となるように供給した。反応温度60℃、反応圧力2.0MPaG、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、反応器の気相中のエチレン/プロピレンの混合ガスモル比を0.11、水素/プロピレンモル比を0.001に維持するようにエチレンガスおよび水素ガスを循環配管4より連続的に供給して、プロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。
【0094】
反応熱は配管5から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器から排出される未反応ガスは配管6を通して反応器系外で冷却、凝縮させて重合器10に還流した。本重合で得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の65容積%となるように配管11を通して重合器10から間欠的に抜き出し、温度80℃で1時間乾燥を実施した。このとき、プロピレン−エチレンランダム共重合体の生産量は7kg/hrであった。このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘキサンの添加量は0.62wt%であった。得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表3にまとめて示す。
【0095】
(実施例3)
1.予備重合触媒の製造
珪酸塩の化学処理:10リットルの撹拌翼の付いたガラス製セパラブルフラスコに、蒸留水3.75リットル、続いて濃硫酸(96%)2.5kgをゆっくりと添加した。50℃で、さらにモンモリロナイト(水澤化学社製ベンクレイSL;平均粒径=50μm)を1kg分散させ、90℃に昇温し、6.5時間その温度を維持した。50℃まで冷却後、このスラリーを減圧濾過し、ケーキを回収した。このケーキに蒸留水を7リットル加え再スラリー化後、濾過した。この洗浄操作を、洗浄液(濾液)のpHが、3.5を越えるまで実施した。回収したケーキを窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥した。乾燥後の質量は710gであった。化学処理した珪酸塩をキルン乾燥機で乾燥した。
【0096】
触媒の調製:内容積3リットルの撹拌翼のついたガラス製反応器に上記で得た乾燥珪酸塩100gを導入し、混合ヘプタン580ml、さらにトリエチルアルミニウムのヘプタン溶液(0.60M)420mlを加え、室温で撹拌した。1時間後、混合ヘプタンにて洗浄し、珪酸塩スラリーを2.0リットルに調製した。次に、調製した珪酸塩スラリーにトリイソブチルアルミニウムのノルマルヘプタン溶液(0.71M/L)4.8mlを添加し、25℃で1時間反応させた。並行して、〔(r)−ジクロロ[1,1´−ジメチルシリレンビス{2−メチル−4−(4−クロロフェニル)−4H−アズレニル}]ジルコニウム〕(合成は特開平10−226712号公報実施例に従って実施した)1090mg(1.5mmol)と混合ヘプタン870mlに、トリイソブチルアルミニウムのノルマルヘプタン溶液(0.71M)を16.5ml加えて、室温にて1時間反応させた混合物を、珪酸塩スラリーに加え、1時間撹拌した。
【0097】
予備重合:続いて、窒素で十分置換を行った内容積10リットルの撹拌式オートクレーブに、ノルマルヘプタン2.1リットルを導入し、40℃に保持した。そこに先に調製した珪酸塩/メタロセン錯体スラリーを導入した。温度が40℃に安定したところでプロピレンを100g/時間の速度で供給し、温度を維持した。2時間後プロピレンの供給を停止し、さらに2時間維持した。予備重合終了後、残モノマーをパージし、撹拌を停止させ約10分間静置後、上澄み約3リットルをデカントした。続いてトリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のノルマルヘプタン溶液4.7ml、さらにノルマルヘプタンを2.8リットル添加し、40℃で30分間撹拌し、10分間静置した後に、上澄みを2.8リットル除いた。さらにこの操作を3回繰り返した。続いて、トリイソブチルアルミニウム(0.71M/L)のノルマルヘプタン溶液8.5mlを添加した後に、45℃で減圧乾燥した。この操作により触媒1g当たりポリプロピレン2.1gを含む予備重合触媒が得られた。
さらに得られた予備重合触媒にノルマルヘキサンを加え、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.8g/リッターの触媒スラリーを調製した。
【0098】
2.重合
実施例1と同様の重合装置を用いて、以下の条件で重合を実施した。
攪拌羽根を有する横型重合器10(L/D=3.7、内容積100L)に、あらかじめ35kgのシーズポリマーを導入後、窒素ガスを3時間流通させた。その後、プロピレン、エチレンおよび水素を導入しながら昇温し、重合条件が整った時点で、配管1より上記で製造した予備重合触媒のノルマルヘキサンスラリーを予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.47g/hr一定となるように供給した。その際、配管2よりアシスト用の液化プロピレン(温度−20℃)を流速が10cm/秒となるように供給した。また、配管3より有機アルミニウム化合物としてトリイソブチルアルミニウムを15mmol/hr一定となるように供給した。反応温度60℃、反応圧力2.0MPaG、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、反応器の気相中のエチレン/プロピレンの混合ガスモル比を0.06、水素/プロピレンモル比を0.00015に維持するようにエチレンガスおよび水素ガスを循環配管4より連続的に供給して、プロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。
【0099】
反応熱は配管5から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器から排出される未反応ガスは配管6を通して反応器系外で冷却、凝縮させて重合器10に還流した。本重合で得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の65容積%となるように配管11を通して重合器10から間欠的に抜き出し、温度80℃で1時間乾燥を実施した。このとき、プロピレン−エチレンランダム共重合体の生産量は7kg/hrであった。このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘキサンの添加量は0.83wt%であった。得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表4にまとめて示す。
【0100】
(比較例2)
1.予備重合触媒の製造
実施例3の最終工程であるノルマルヘキサンへのスラリー化を実施しなかった以外は、実施例3と同様にして、予備重合触媒の製造を行った。
【0101】
2.重合
上記で製造した予備重合触媒を乾燥状態で反応器にフィードし、アシストのプロピレンを使用しなかった以外は実施例3と同様にして、プロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。
得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表4にまとめて示す。
【0102】
(実施例4)
1.予備重合触媒の製造
実施例3において得られた予備重合触媒にノルマルヘプタンを加え、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として3.0g/リッターの触媒スラリーを調製した。
【0103】
2.重合
実施例1と同様の装置を用い、上記で製造した予備重合触媒のノルマルヘプタンスラリーを予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.32g/hr一定となるように供給し、反応器の気相中のエチレン/プロピレンの混合ガスモル比を0.06、水素/プロピレンモル比を0.0006に維持するようにエチレンガスおよび水素ガスを循環配管4より連続的に供給した以外は、実施例3と同様にして、プロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。
このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘプタンの添加量は0.15wt%であった。得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表4にまとめて示す。
【0104】
(実施例5)
1.予備重合触媒の製造
実施例4において、最終の触媒スラリー濃度を、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として、0.8g/リッターとした以外は実施例4と同様にして、触媒の製造を実施した。
【0105】
2.重合
実施例1と同様の装置を用い、上記で製造した予備重合触媒のノルマルヘプタンスラリーを予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.28g/hr一定となるように供給し、反応器の気相中のエチレン/プロピレンの混合ガスモル比を0.11、水素/プロピレンモル比を0.00025に維持するようにエチレンガスおよび水素ガスを循環配管4より連続的に供給した以外は、実施例3と同様にして、プロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。
このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘプタンの添加量は0.50wt%であった。得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表4にまとめて示す。
【0106】
(実施例6)
実施例3において、予備重合触媒のノルマルヘキサンスラリーを予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.17g/hr一定となるように供給し、反応温度を55℃、反応器の気相中のエチレン/プロピレンの混合ガスモル比を0.24、水素/プロピレンモル比を0.00085に維持するようにエチレンガスおよび水素ガスを循環配管4より連続的に供給した以外は、実施例3と同様にして、プロピレン−エチレンランダム共重合体を製造した。
このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘキサンの添加量は0.30wt%であった。得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表4にまとめて示す。
【0107】
(実施例7)
1.予備重合触媒の製造
実施例1と同様に行った。
【0108】
2.重合
(1)第1重合工程
図2は実施例で用いた重合装置のフローシートである。
攪拌羽根を有する横型重合器110(L/D=3.7、内容積100L)に、あらかじめ35kgのシーズポリマーを導入後、窒素ガスを3時間流通させた。その後、プロピレンおよび水素を導入しながら昇温し、重合条件が整った時点で、配管101より上記で製造した予備重合触媒のヘキサンスラリーを、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として1.06g/hr一定となるように供給した。その際、配管102よりアシスト用の液化プロピレン(温度20℃)を流速が30cm/秒となるように供給した。また、配管103より有機アルミニウム化合物としてトリイソブチルアルミニウムを15mmol/hr一定となるように供給した。反応温度60℃、反応圧力2.0MPaG、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、反応器の気相中の水素/プロピレンモル比を0.00075に維持するように水素ガスを循環配管104より連続的に供給して、プロピレン単独重合体(A)を製造した。
反応熱は配管105から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器から排出される未反応ガスは配管106を通して反応器系外で冷却、凝縮させて重合器110に還流した。本重合で得られたプロピレン単独重合体(A)は、重合体の保有レベルが反応容積の65容積%となる様に配管111を通して重合器110から間欠的に抜き出し第2重合工程の重合器120に供給した。このとき、脱ガス槽130からプロピレン単独重合体(A)の一部を抜き出してMFR、Tmを求める試料とした。
【0109】
(2)第2重合工程
攪拌羽根を有する横型重合器120(L/D=3.7、内容積100L)に第1重合工程からのプロピレン単独重合体(A)及びプロピレンとエチレンの混合ガスを間欠的に供給し、プロピレンとエチレンの共重合を行った。反応条件は攪拌速度18rpm、反応温度65℃、反応圧力1.9MPaGであり、気相中のエチレン/プロピレンモル比が1.50となるように調整した。第2重合工程には、水素のフィードは行わなかった。プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の重合量を調整するための重合活性抑制剤として酸素ガスを配管107より供給した。
反応熱は配管108から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器から排出される未反応ガスは配管109を通して反応器系外で冷却、凝縮させて重合器120に還流した。第2重合工程で生成されたプロピレン系ブロック共重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の50容積%となる様に配管113を通して重合器120から間欠的に抜き出し、温度80℃で1時間乾燥を実施した。このとき、プロピレン系ブロック共重合体の生産量は9.5kg/hrであった。
このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘキサンの添加量は0.73wt%であった。得られたプロピレン系ブロック共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表5にまとめて示す。
【0110】
(実施例8)
1.予備重合触媒の製造
実施例3と同様に行った。
【0111】
2.重合
(1)第1重合工程
実施例7と同様の重合装置を用いて、以下の条件で重合を実施した。
攪拌羽根を有する横型重合器110(L/D=3.7、内容積100L)に、あらかじめ35kgのシーズポリマーを導入後、窒素ガスを3時間流通させた。その後、プロピレン、エチレンおよび水素を導入しながら昇温し、重合条件が整った時点で、配管101より上記で製造した予備重合触媒のヘキサンスラリーを、予備重合ポリマーを含まない触媒成分として0.48g/hr一定となるように供給した。その際、配管102よりアシスト用の液化プロピレン(温度10℃)を流速が20cm/秒となるように供給した。また、配管102より有機アルミニウム化合物としてトリイソブチルアルミニウムを15mmol/hr一定となるように供給した。反応温度60℃、反応圧力2.0MPaG、攪拌速度35rpmの条件を維持しながら、反応器の気相中のエチレン/プロピレンの混合ガスモル比を0.06、水素/プロピレンモル比を0.0005に維持するようにエチレンガスおよび水素ガスを循環配管104より連続的に供給して、プロピレン−エチレンランダム共重合体(A)を製造した。
反応熱は配管105から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器から排出される未反応ガスは配管106を通して反応器系外で冷却、凝縮させて重合器110に還流した。本重合で得られたプロピレン−エチレンランダム共重合体(A)は、重合体の保有レベルが反応容積の65容積%となる様に配管111を通して重合器110から間欠的に抜き出し第2重合工程の重合器120に供給した。このとき、脱ガス槽130からプロピレン−エチレンランダム共重合体(A)の一部を抜き出してMFR、Tmを求める試料とした。
【0112】
(2)第2重合工程
攪拌羽根を有する横型重合器120(L/D=3.7、内容積100L)に第1重合工程からのプロピレン−エチレンランダム共重合体(A)及びプロピレン、エチレン、水素の混合ガスを間欠的に供給し、プロピレンとエチレンの共重合を行った。反応条件は攪拌速度18rpm、反応温度65℃、反応圧力1.9MPaGであり、気相中のエチレン/プロピレンモル比が1.2、水素/プロピレンモル比が0.0012となるように調整した。プロピレン−エチレンランダム共重合体(B)の重合量を調整するための重合活性抑制剤として酸素ガスを配管107より供給した。
反応熱は配管108から供給される原料プロピレンの気化熱により除去した。重合器から排出される未反応ガスは配管109を通して反応器系外で冷却、凝縮させて重合器120に還流した。第2重合工程で生成されたプロピレン系ブロック共重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の50容積%となる様に配管113を通して重合器120から間欠的に抜き出し、温度80℃で1時間乾燥を実施した。このとき、プロピレン系ブロック共重合体の生産量は9.5kg/hrであった。
このとき、ポリマー生成量に対するノルマルヘキサンの添加量は0.62wt%であった。得られたプロピレン系ブロック共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表5にまとめて示す。
【0113】
(比較例3)
実施例8において、比較例2で製造した予備重合触媒を乾燥状態のまま反応器にフィードし、アシストのプロピレンを使用しなかった以外は実施例8と同様にして、プロピレン系ブロック共重合体の製造を実施した。
得られたプロピレン系ブロック共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表5にまとめて示す。
【0114】
(実施例9〜11)
実施例8において、重合条件を表6に示すように変更し、プロピレン系ブロック共重合体の製造を実施した。
得られたプロピレン系ブロック共重合体のMFR、エチレン含量、Tm、オリゴマー量、発煙量の測定結果を表7にまとめて示す。
【0115】
【表3】

【0116】
【表4】

【0117】
【表5】

【0118】
【表6】

【0119】
【表7】

【0120】
III.評価
以上より明らかなように、本発明の製造方法の特定事項である「飽和炭化水素の重合反応器への添加量の単位時間当たりの合計を、生成したプロピレン系重合体の量の単位時間当たりの合計に対して0.01〜1重量%であるように調整する」との要件を満たさない方法による比較例1で得られたものは、炭素数30以下の炭化水素化合物含有量が103重量ppmと多いのに比べて、本発明の製造方法によるものは全て50重量ppm以下であり、炭素数30以下の炭化水素化合物含有量が少ないものであることが明らかになった。
また、本発明の製造方法の特定事項である「重合触媒成分を炭素数3〜8の飽和炭化水素に懸濁させた触媒スラリーは、連続的又は間欠的に重合反応器へフィードする」との要件を満たさない方法による比較例2又は比較例3で得られたものは、炭素数30以下の炭化水素化合物含有量がそれぞれ198重量ppm、183重量ppmと多く、しかも、製造されたポリマー加工時に発煙が見られたのに比べて、本発明の製造方法によるものは全て発煙が見られないものであることが明らかになった。
また、本発明の特定事項である「プロピレン単独重合体もしくはエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体であるポリマー成分(A)30〜90重量%、及びポリマー成分(A)よりも高いエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンを含有するプロピレン系ランダム共重合体であるポリマー成分(B)10〜70重量%からなり、炭素数が30以下の炭化水素化合物の含有量が50重量ppm以下であるプロピレン系ブロック共重合体」との要件を満たさない比較例3のものは、ポリマー加工時に発煙が見られたのに比べて、本発明のものは全て発煙が見られないものであることが明らかになった。
したがって、本発明の製造方法は、炭素数30以下の炭化水素化合物含有量が50重量ppmと少なく、ポリマー加工時に発煙が見られないクリーンなプロピレン系重合体を、工業的かつ安定的に製造することができる製造方法であるという点で、大きな技術的意義を持つことが明らかである。また、本発明のプロピレン系重合体は、炭素数30以下の炭化水素化合物含有量が50重量ppmと少なく、ポリマー加工時に発煙が見られないクリーンなプロピレン系重合体であるという点で、大きな技術的意義を持つことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のプロピレン系重合体の製造方法は、柔軟性や透明性に優れたプロピレン系重合体であっても臭いやベタツキがなく、また、加工時の発煙などが少ない非常にクリーンなプロピレン系重合体を、工業的かつ安定的に製造することができるため、産業上大いに有用である。
また、本発明のプロピレン系ブロック共重合体は、柔軟性や透明性に優れたプロピレン系ブロック共重合体であっても臭いやベタツキがなく、また、加工時の発煙などが少ない非常にクリーンなプロピレン系ブロック共重合体であるため、産業上大いに有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に担持されたメタロセン系遷移金属化合物を含む重合触媒成分の存在下に、気相重合法によりプロピレン系重合体を製造する方法において、
連続重合法を用いて、重合触媒成分を炭素数3〜8の飽和炭化水素に懸濁させた触媒スラリーは、連続的又は間欠的に重合反応器へフィードし、一方、生成したプロピレン系重合体は、連続的又は間欠的に重合反応器から抜き出し、その際、飽和炭化水素の重合反応器への添加量の単位時間当たりの合計を、生成したプロピレン系重合体の量の単位時間当たりの合計に対して0.01〜1重量%であるように調整することを特徴とするプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合反応器が、機械的な攪拌手段を備える気相重合反応器であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項3】
前記飽和炭化水素が、ノルマルヘキサン又はノルマルヘプタンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項4】
前記連続重合法は、2段以上の多段重合によることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロピレン系重合体の製造方法。
【請求項5】
プロピレン単独重合体もしくはエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンとプロピレンとのランダム共重合体であるポリマー成分(A)30〜90重量%、及びポリマー成分(A)よりも高いエチレンおよび/またはC4〜C20のα−オレフィンを含有するプロピレン系ランダム共重合体であるポリマー成分(B)10〜70重量%からなり、炭素数が30以下の炭化水素化合物の含有量が50重量ppm以下であるプロピレン系ブロック共重合体。
【請求項6】
担体に担持されたメタロセン系遷移金属化合物を含む重合触媒成分の存在下に、気相重合法によりプロピレン系ブロック共重合体を製造する方法において、
連続重合法を用いて、重合触媒成分を炭素数3〜8の飽和炭化水素に懸濁させた触媒スラリーは、連続的又は間欠的に重合反応器へフィードし、一方、生成したプロピレン系ブロック共重合体は、連続的又は間欠的に重合反応器から抜き出し、その際、飽和炭化水素の重合反応器への添加量の単位時間当たりの合計を、生成したプロピレン系ブロック共重合体の量の単位時間当たりの合計に対して0.01〜1重量%であるように調整することを特徴とする請求項5に記載のプロピレン系ブロック共重合体の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−111587(P2011−111587A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−271571(P2009−271571)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】