説明

プロポフォール含有脂肪乳剤

本発明プロポフォール含有脂肪乳剤は、プロポフォール、油性成分および乳化剤に、更に、安定化剤として特定の脂肪酸を構成脂肪酸成分とするホスファチジルグリセロールなどの所定量を配合したものであり、本発明の無痛化されたプロポフォール含有脂肪乳剤は、上記本発明プロポフォール含有脂肪乳剤に予め局所麻酔剤を配合したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、プロポフォール含有脂肪乳剤に関する。
【背景技術】
プロポフォール(2,6−ジイソプロピルフェノール)は、催眠性を有する脂溶性物質であり、全身麻酔薬、鎮静薬などの有効成分化合物として知られている。該プロポフォールは、一般に、油性成分および乳化剤を利用して、静脈内注射乃至点滴により直接血液中に投与することができる水中油滴型脂肪乳剤の医薬製剤形態に調製されている。該脂肪乳剤の形態で、全身麻酔薬、鎮静薬などとして汎用されている(例えば米国特許第5714520号明細書参照)。
しかるに、該製剤の静脈内注射乃至点滴による投与時には、副作用として高頻度で強い疼痛(血管痛)が発現することが報告されている(W.Klemment,J.O.Arndt:British Journal of Anaethsia,1991;67:281−284参照)。
この問題は、上記脂肪乳剤中に無痛化に有効な量のリドカインなどの局所麻酔剤を配合することによって解決できる。しかしながら、従来のプロポフォール含有脂肪乳剤は、これにリドカインなどの局所麻酔剤を配合すると、乳剤の安定性が急速に失われ、短時間内に、通常30分以内に、エマルジョン粒子が巨大化したり、エマルジョンが破壊されて水相と油相とに分離したりして、注射乃至点滴による投与ができなくなる欠点を有している(E.E.M.Lilley,et al.,Anaethsia,1996;51:815−818参照)。
リドカインなどの配合によって乳化安定性が急激に低下する重大な欠点を緩和する手段としては、プロポフォール含有脂肪乳剤を構成する水相中に更に安定化剤としてHLB10以上の親水性界面活性剤、例えばポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油などを存在させ且つpHを3.0−6.5に調節する技術が提案されている(特開2002−179562号公報参照)。この提案された技術によれば、得られる脂肪乳剤におけるエマルジョンの破壊はある程度防止できるが、安定化剤として使用する親水性界面活性剤自体が安全性の低いものであるため、得られる脂肪乳剤は、その安全性に問題が生じる不利がある。また、脂肪乳剤に限らず、医薬製剤は、製品化に当たってその安全性を確保する上で滅菌されることが必須不可欠である。しかるに、本発明者らの研究によれば、上記提案された脂肪乳剤は、製剤の一般的な滅菌操作である高圧蒸気滅菌を行うと、この滅菌操作によって水相と油相とに分離し、注射乃至点滴による投与ができなくなる場合のあることが確認された。即ち、この提案された脂肪乳剤は、一般的な滅菌操作による滅菌ができない欠点があった。
【発明の開示】
本発明の目的は、その投与時の副作用である疼痛(血管痛)の発生を防止乃至緩和するためにリドカインなどの局所麻酔剤を、予め配合することができるかまたは用時に配合することができる、乳化安定性の高いプロポフォール含有脂肪乳剤を提供することにある。
本発明者は、従来技術の難点を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、従来技術において安定化剤としての利用を提案されたHLB10以上の親水性界面活性剤に代えて、特定のリン脂質、リン脂質誘導体または脂肪酸を安定化剤として利用するときには、乳化安定性の高いプロポフォール含有脂肪乳剤が提供できることを見出した。即ち、これらの安定化剤はいずれも安全性に優れたものであること、その添加配合によって優れた乳化安定性を有する脂肪乳剤が得られること、しかもこの乳化安定性は、無痛化に有効な量の局所麻酔剤を配合することによっても損なわれることが無く保持されること、などを見出した。本発明は、これらの知見を基礎として更に研究を重ねた結果完成されたものである。
本発明は、下記項1−34に記載の発明を提供する。
項1.局所麻酔剤を用時混合される脂肪乳剤であって、該脂肪乳剤が、プロポフォール、油性成分および乳化剤を含み、更に安定化剤として、
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、または
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物
を含有し、
上記脂肪乳剤とこれに用時混合される局所麻酔剤との合計に対して、即ち、局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して、安定化剤(a)が0.01−1w/v%、安定化剤(b)が0.01−1w/v%、安定化剤(c)が0.05−5w/v%の濃度となるような量で存在することを特徴とする脂肪乳剤。
項2.局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して、
(1)プロポフォールが0.4−5w/v%の濃度となるような量で存在しており、
(2)油性成分が2−20w/v%の濃度となるような量で存在しており、且つ
(3)乳化剤が0.4−5w/v%の濃度となるような量で存在している、項1に記載の脂肪乳剤。
項3.局所麻酔剤が、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、塩化プロカイン、テトラカインおよびこれらの薬理的に許容される酸付加塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1または2に記載の脂肪乳剤。
項4.局所麻酔剤が、該局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して0.01−1w/v%の濃度となる量で存在している項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項5.安定化剤が、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項6.安定化剤が、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数12−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項7.安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリンおよびジオレオイルホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質(a)の少なくとも1種である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項8.安定化剤が、局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して0.03−1w/v%の濃度となるような量で存在する項5〜7のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項9.安定化剤が、ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項10.安定化剤が、平均分子量1000−5000のポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数14−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項11.安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール5000、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール3000およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000からなる群から選ばれるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項12.安定化剤が、局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して0.1−1w/v%の濃度となるような量で存在する項9〜11のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項13.安定化剤が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項14.安定化剤が、炭素数10−20の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項15.安定化剤が、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸およびオレイン酸からなる群から選ばれる脂肪酸(c)の少なくとも1種である項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項16.安定化剤が、局所麻酔剤を用時混合後の脂肪乳剤に対して0.1−5w/v%の濃度となるような量で存在する項13〜15のいずれかに記載の脂肪乳剤。
項17.脂肪乳剤を収容した容器であって、該容器は連通可能な仕切手段で区画された少なくとも二室(複室)を有しており、その一室には項1〜3のいずれかに記載の脂肪乳剤が収容され、他の一室には局所麻酔剤が収容されていることを特徴とする容器。
項18.プロポフォール、油性成分、乳化剤、安定化剤および局所麻酔剤を含む無痛化された脂肪乳剤であって、該安定化剤が
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、または
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物
であり、
脂肪乳剤に対して、安定化剤(a)が0.01−1w/v%、安定化剤(b)が0.01−1w/v%、安定化剤(c)が0.05−5w/v%の濃度で存在することを特徴とする無痛化された脂肪乳剤。
項19.脂肪乳剤に対して
(1)プロポフォールが0.4−5w/v%の濃度で存在しており、
(2)油性成分が2−20w/v%の濃度で存在しており、
(3)乳化剤が0.4−5w/v%の濃度で存在しており、且つ
(4)局所麻酔剤が0.01−1w/v%の濃度で存在している、項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
項20.局所麻酔剤が、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、塩化プロカイン、テトラカインおよびこれらの薬理的に許容される酸付加塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である項18または19に記載の無痛化された脂肪乳剤。
項21.安定化剤が、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項22.安定化剤が、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数12−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項23.安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリンおよびジオレオイルホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項24.安定化剤が、脂肪乳剤に対して0.03−1w/v%の濃度で存在する項21〜23のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項25.安定化剤が、ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項26.安定化剤が、平均分子量1000−5000のポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数14−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項27.安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール5000、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール3000およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000からなる群から選ばれるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項28.安定化剤が、脂肪乳剤に対して0.1−1w/v%の濃度で存在する項25〜27のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項29.安定化剤が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項30.安定化剤が、炭素数10−20の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項31.安定化剤が、オレイン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびアラキジン酸からなる群から選ばれる脂肪酸(c)の少なくとも1種である項18〜20のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項32.安定化剤が、脂肪乳剤に対して0.05−0.2w/v%の濃度で存在する項29〜31のいずれかに記載の無痛化された脂肪乳剤。
項33.プロポフォール、油性成分および乳化剤を含み、更に安定化剤として、
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、または
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物
を含有する脂肪乳剤に、局所麻酔剤を混合して、
上記脂肪乳剤とこれに混合される局所麻酔剤との合計に対して、安定化剤(a)が0.01−1w/v%、安定化剤(b)が0.01−1w/v%、安定化剤(c)が0.05−5w/v%の濃度で存在する脂肪乳剤を得ることを特徴とする、無痛化された脂肪乳剤の製造方法。
項34.下記安定化剤(a)−(d)の、プロポフォール、油性成分および乳化剤を含み且つ局所麻酔剤を用時混合される脂肪乳剤、またはプロポフォール、油性成分、乳化剤および局所麻酔剤を含む無痛化された脂肪乳剤の安定化のための使用:
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、または
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物。
特に、本発明は、下記[1]−[27]に記載の発明を提供する。
[1]局所麻酔剤を無痛化のために用時混合されるプロポフォール含有脂肪乳剤であって、安定化剤として主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸を構成脂肪酸成分とするホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種0.01−1重量%および/または主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸の少なくとも1種0.2−5重量%を含有することを特徴とするプロポフォール含有脂肪乳剤。
[2]局所麻酔剤を用時混合後の最終濃度が下記組成となるように下記(2)−(5)の各成分を含む請求項1に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤:
(1)無痛化のための局所麻酔剤の少なくとも1種0.01−1重量%、
(2)主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸を構成脂肪酸成分とするホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種0.01−1重量%および/または主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸の少なくとも1種0.2−5重量%、
(3)プロポフォール0.5−5重量%、
(4)油性成分2−20重量%、および
(5)乳化剤0.5−5重量%。
[3]局所麻酔剤が、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、塩化プロカイン、テトラカインおよびこれらの薬理的に許容される酸付加塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[4]局所麻酔剤が、リドカインおよびその塩酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である[3]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[5]最終濃度で0.01−1重量%となる量の局所麻酔剤を用時混合される[1]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[6]安定化剤が、主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸を構成脂肪酸成分とするホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種である[1]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[7]安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルイノシトールおよびジステアロイルホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質である[6]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[8]安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルグリセロールおよびジステアロイルホスファチジン酸からなる群から選ばれるリン脂質である[7]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[9]最終濃度で0.01−1重量%となる量の局所麻酔剤を用時混合後の混合物における安定化剤の含有量が、0.01−0.7重量%である[6]−[8]のいずれかに記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[10]安定化剤が、主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である[1]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[11]安定化剤が、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸およびステアリン酸からなる群から選ばれる脂肪酸である[10]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[12]安定化剤が、オレイン酸である[11]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[13]最終濃度で0.01−1重量%となる量の局所麻酔剤を用時混合後の混合物における安定化剤の含有量が、0.2−2重量%である[10]−[12]のいずれかに記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[14]連通可能な仕切手段で区画された複室を有する可撓性容器の一室に[1]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤を収容し、他の一室に無痛化のための局所麻酔剤を収容したことを特徴とするプロポフォール含有脂肪乳剤収容容器。
[15]無痛化のための局所麻酔剤0.01−1重量%と共に、安定化剤として主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸を構成脂肪酸成分とするホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種0.01−1重量%および/または主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸の少なくとも1種0.2−5重量%を含有することを特徴とする無痛化されたプロポフォール含有脂肪乳剤。
[16]最終濃度で下記組成となる各成分を含む[15]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤:
(1)無痛化のための局所麻酔剤の少なくとも1種0.01−1重量%、
(2)主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸を構成脂肪酸成分とするホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種0.01−1重量%および/または主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸の少なくとも1種0.2−5重量%、
(3)プロポフォール0.5−5重量%、
(4)油性成分2−20重量%、および
(5)乳化剤0.5−5重量%。
[17]局所麻酔剤が、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、塩化プロカイン、テトラカインおよびこれらの薬理的に許容される酸付加塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である[15]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[18]局所麻酔剤が、リドカインおよびその塩酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である[17]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[19]安定化剤が、主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸を構成脂肪酸成分とするホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種である[15]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[20]安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルイノシトールおよびジステアロイルホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質である[19]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[21]安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルグリセロールおよびジステアロイルホスファチジン酸からなる群から選ばれるリン脂質である[20]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[22]安定化剤の含有量が、0.01−0.7重量%である[19]−[21]のいずれかに記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[23]安定化剤が、主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である[15]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[24]安定化剤が、オレイン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸およびステアリン酸からなる群から選ばれる脂肪酸である[23]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[25]安定化剤が、オレイン酸である[24]に記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[26]安定化剤の含有量が、0.2−2重量%である[23]−[25]のいずれかに記載のプロポフォール含有脂肪乳剤。
[27]安定化剤として主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸を構成脂肪酸成分とするホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種0.01−1重量%および/または主鎖炭素数が10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸の少なくとも1種0.2−5重量%を含有するプロポフォール含有脂肪乳剤に、無痛化のための局所麻酔剤を用時混合することを特徴とする無痛化されたプロポフォール含有脂肪乳剤の製造方法。
以下、本発明脂肪乳剤につき詳述する。
1 局所麻酔剤を用時混合される脂肪乳剤
局所麻酔剤を用時混合される本発明脂肪乳剤(以下、単に「本発明脂肪乳剤」ということがある)は、従来麻酔薬、鎮静薬などとして知られているプロポフォールを含有する脂肪乳剤、即ちプロポフォール、油性成分および乳化剤を含む脂肪乳剤に、更に特定の安定化剤の所定量が配合されていることを特徴とする。
(1−1)局所麻酔剤
本発明脂肪乳剤に用時混合される局所麻酔剤は、無痛化のために利用できることの知られている各種のものでよい。該局所麻酔剤には、具体的には、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、塩化プロカイン、テトラカインおよびそれらの塩酸塩などの薬理的に許容される酸付加塩が包含される。これらは1種単独でも利用することができ、また2種以上を併用することもできる。
局所麻酔剤の本発明脂肪乳剤への用時混合量は、静脈内注射乃至点滴による投与時に発現する疼痛(血管痛)を防止乃至緩和できる有効量(無痛化有効量)とすればよい。一般に、該無痛化有効量は、局所麻酔剤を混合して調製される脂肪乳剤の約0.01−1w/v%、好ましくは約0.01−0.5w/v%の濃度となる量とするのが適当である。以下、この濃度を「最終濃度」ということがある。
本明細書において、上記局所麻酔剤および本発明脂肪乳剤を構成する各成分の濃度は、「w/v%」で表すものとする。このw/v%は、各成分重量g/脂肪乳剤の容積100mlを意味する。
(1−2)脂肪乳剤
本発明において、安定化剤を用時混合される脂肪乳剤は、有効成分としてのプロポフォールと油性成分(脂質成分)とを適当な乳化剤を利用して水中に乳化することにより調製されるものである。その代表例としては、市販の静注用プロポフォール脂肪乳剤を挙げることができる。
該脂肪乳剤の調製に用いられる油性成分としては、通常植物油が利用される。該植物油の具体例には、例えば大豆油、綿実油、菜種油、胡麻油、コーン油、落花生油、サフラワー油、オリーブ油、ひまし油などが含まれる。また、該油性成分は、中鎖トリグリセリドであってもよい。その具体例としては、各種市販品、例えば「ココナード」(商標、花王社)、「ODO」(商標、日清製油社)、「ミグリオール」(商標、SASOL社)、「パナセート」(商標、日本油脂社)などを挙げることができる。これらの植物油および中鎖トリグリセリドは、1種を単独で利用することもでき、また同一群(植物油または中鎖トリグリセリド)中からまたは異なる群から2種以上を適宜混合して利用することもできる。
更に、油性成分は、上記植物油および中鎖トリグリセリドに限定されることなく、例えば、動物油、鉱油、合成油、精油などの1種単独であっても、また2種以上混合したものであってもよい。また、これらの動物油などを、前記植物油および/または中鎖トリグリセリドと併用したものであってもよい。
乳化剤の代表例としては、天然のリン脂質である卵黄レシチン、大豆レシチン、それらを水素添加した水添卵黄レシチン、水添大豆レシチンなどを挙げることができる。また、乳化剤は化学合成したホスファチジルコリンおよびホスファチジルエタノールアミンであってもよい。
化学合成したホスファチジルコリンには、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリンなどが含まれる。また化学合成したホスファチジルエタノールアミンには、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミンなどが含まれる。
これらの乳化剤は、その1種を単独でまたは2種以上を混合して利用することができる。これらの内で、好ましい乳化剤は卵黄レシチンおよび大豆レシチンである。
有効成分としてのプロポフォールと油性成分とを乳化剤を利用して乳化する方法は、当業者によく知られている。該方法としては、例えば有効成分、油性成分および乳化剤の混合物に、注射用水を加えて粗乳化後、適当な高圧乳化機などを利用して精乳化(本乳化)する方法を採用することができる。
有効成分、油性成分および乳化剤の配合割合は、得られる乳化液(脂肪乳剤)に局所麻酔剤を用時混合後の最終製品の濃度、即ち、最終製品に対する重量/容量%(最終濃度、w/v%)で、プロポフォールが0.4−5w/v%、油性成分が2−20w/v%および乳化剤が0.4−5w/v%となる量から選ばれるのが適当である。特に好ましい配合割合は、最終濃度でプロポフォールが0.5−2w/v%、油性成分が5−10w/v%および乳化剤が0.5−2w/v%となる量から選択することができる。
上記で調製される乳化液には、特に必要ではないが所望により、各種の添加剤の適当量を更に配合することもできる。該添加剤としては、この種乳化液に配合できることが知られている酸化防止剤、抗菌剤、pH調節剤、等張化剤などを挙げることができる。酸化防止剤の具体例としては、メタ重亜硫酸ナトリウム(抗菌剤と酸化防止剤の両方の働きをもつ)、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸カリウム、亜硫酸カリウムなどを例示できる。抗菌剤としては、例えばカプリル酸ナトリウム、安息香酸メチル、メタ重亜硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどが挙げられる。pH調節剤としては、水酸化ナトリウム、塩酸などを使用できる。等張化剤としてはグリセリン;ブドウ糖、果糖、マルトースなどの糖類;ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類などを使用できる。これらの内で油溶性のものは、乳化液を構成する油性成分などに予め混合して利用することができる。水溶性の添加剤は、注射用水に混合するかまたは得られる乳化液の水相中に添加配合することができる。これらの添加配合量は、当業者にとり自明であり、従来知られているそれらの添加配合量と特に異ならない。
(1−3)安定化剤
本発明において安定化剤としては、下記(a)−(d)からなる群から選択される少なくとも1種を利用する。
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数が12−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数が14−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸、好ましくは炭素数が10−20の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物。
上記(a)および(b)において、「グリセロール部分」とは、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリン、並びにホスファチジルエタノールアミンの構造(構成脂肪酸はパルミチン酸とする)を示す下記各式において、図示する部分をいう。

リン脂質(a)を構成する脂肪酸(即ち、リン脂質(a)のグリセロール部分をエステル化している脂肪酸)、リン脂質誘導体(b)を構成する脂肪酸(即ち、リン脂質誘導体(b)のグリセロール部分をエステル化している脂肪酸)および脂肪酸(c)の具体例としては、天然に存在する直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸を挙げることができる。この脂肪酸には、例えばカプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸などの直鎖状脂肪酸;およびイソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソアラキドン酸などの分枝鎖状脂肪酸が包含される。
上記脂肪酸を構成脂肪酸成分とするリン脂質(a)には、より具体的にはジカプロイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジアラキドイルホスファチジルグリセロール、ジベヘニルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジイソミリストイルホスファチジルグリセロール、ジイソステアロイルホスファチジル酸、ジイソアラキドイルホスファチジルイノシトールなどが含まれる。
これらのうちでは、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルイノシトールおよびジステアロイルホスファチジルセリンが好ましく、中でもジステアロイルホスファチジルグリセロールおよびジステアロイルホスファチジン酸がより好ましい。
上記脂肪酸を構成脂肪酸成分とするリン脂質誘導体(b)には、より詳しくは下記一般式(I)で表されるポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンが含まれる。

(式中、RおよびRは脂肪酸残基(構成脂肪酸成分)を示し、RおよびRは水素原子またはメチル基を示し、Xは基−CO(CHCO−、−CO(CHCO−またはCO−を示す。nは20〜120の整数を表す。)
上記式(I)に示されるように、リン脂質誘導体(b)においてホスファチジルエタノールアミンを修飾するポリアルキレングリコールは、より詳しくは、ホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に、置換基(窒素原子上置換基)として、X基を介して結合する。該ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールである。
本発明においてリン脂質誘導体(b)の好ましい具体例としては、例えばジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール5000(SUNBRIGHT DSPE−050C、日本油脂社製)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール3000(MPEG 3000PE、Avanti社製)、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000(SUNBRIGHT DSPE−020CN、日本油脂社製)などを例示できる。
尚、上記各化合物の名称中の数値はポリエチレングリコールの平均分子量を示す。上記ポリエチレングリコールなどのポリアルキレングリコールの平均分子量は、約1000−5000の範囲にあるのが好ましい。
リン脂質(a)、リン脂質誘導体(b)および脂肪酸(c)は、それぞれ前記例示の各化合物を1種単独で利用することができ、また各群の中から2種以上を併用することもできる。また、本発明においては、前記リン脂質(a)、リン脂質誘導体(b)および脂肪酸(c)の各群からそれぞれの群に属する化合物を適宜選択して、これらを併用することも勿論可能である。
前記リン脂質(a)の本発明脂肪乳剤中への配合量は、得られる本発明脂肪乳剤に局所麻酔剤を用時混合して調製される製品中に、最終濃度で、リン脂質(a)が0.01−1w/v%(2種以上のリン脂質を併用する場合はそれらの合計量、以下同じ)含まれる量、より好ましくは0.03−1w/v%含まれる量とするのが適当である。この範囲内での利用によって、得られる本発明脂肪乳剤に局所麻酔剤を用時配合する場合に、本発明所期の優れた乳化安定性を保持する効果を奏し得る。
また、前記リン脂質誘導体(b)の本発明脂肪乳剤中への配合量は、得られる本発明脂肪乳剤に局所麻酔剤を用時混合して調製される製品中に、最終濃度で、リン脂質誘導体(b)が0.01−1w/v%(2種以上のリン脂質誘導体を併用する場合はそれらの合計量、以下同じ)含まれる量、より好ましくは0.1−1w/v%含まれる量とするのが適当である。この範囲内での利用によって、得られる本発明脂肪乳剤に局所麻酔剤を用時配合する場合に、本発明所期の優れた乳化安定性を保持する効果を奏し得る。
更に、前記脂肪酸(c)の本発明脂肪乳剤中への配合量は、得られる本発明脂肪乳剤に局所麻酔剤を用時混合して調製される製品中に、最終濃度で、該脂肪酸(c)が0.05−5w/v%(2種以上の脂肪酸を併用する場合はそれらの合計量、以下同じ)含まれる量、より好ましくは後記(2)項に示すキット製剤形態の場合は0.1−5w/v%含まれる量とするのが適当であり、後記(3)項に示す局所麻酔剤を混合してなる無痛化された脂肪乳剤形態(プレミックス製剤形態)の場合は0.05−0.2w/v%含まれる量とするのが適当である。この範囲内での利用によって、得られる本発明脂肪乳剤に局所麻酔剤を用時配合する場合に、本発明所期の優れた乳化安定性を保持する効果を奏し得る。
なお、リン脂質(a)、リン脂質誘導体(b)および脂肪酸(c)の内の異なる群に属する2種以上を併用する場合、併用される各成分はそれぞれ前記した範囲内から適宜選択して利用するのが有利であるが、これらの併用によれば相乗効果が期待できるため、併用される各成分の量はいずれも上記範囲を下回る量とすることも可能である。一般には、併用される各成分の合計量が、0.01−1w/v%となる範囲、より好ましくは0.01−0.7w/v%となる範囲から選択することができる。この併用によっても、本発明所期の効果が奏される。
(1−4)本発明脂肪乳剤の調製
上記(1−3)項に記載の安定化剤は、前記(1−2)項に記載の脂肪乳剤の乳化に先だって、有効成分、油性成分、乳化剤および必要に応じて添加される添加剤(油溶性添加剤)の混合物中に、更に追加配合される。得られる安定化剤を含む混合物を、注射用水中などの水中に乳化させることによって、所望の本発明脂肪乳剤を調製することができる。この乳化は、前記(1−2)項に記載した乳化と同様にして実施することができる。例えば、有効成分、油性成分、乳化剤および必要に応じて添加される油溶性添加剤の混合物に、注射用水および必要に応じて添加される水溶性添加剤を加えて粗乳化後、適当な高圧乳化機などを利用して精乳化(本乳化)する方法によることができる。
なお、上記乳化は、特に常温下で行う必要はなく、通常脂肪乳剤の乳化の際に知られているように、適当な加温条件(例えば、80℃以下、好ましくは約40−70℃程度)下で実施することもできる。
(1−5)本発明脂肪乳剤製品
かくして調製される本発明脂肪乳剤は、特に必要ではないが利用する各成分の種類によっては更に適当なpH調整剤を加えて、そのpHを好ましくは8.2−8.3に調製後、常法に従い、適当な容器、例えばバイアル瓶、シリンジ、プラスチックバッグ、アンプルなどに充填後、通常の滅菌操作、より好ましくは例えばオートクレーブを利用した高圧蒸気滅菌(例えば121℃、12分)により滅菌して製品とされる。
該製品は、特定の安定化剤を含有させたことに基づいて、優れた乳化安定性を有している。勿論、該安定化剤自体は安全性に優れたものであり、安全性が高い特徴をも有している。特に、その乳化安定性は、該脂肪乳剤にリドカインなどの局所麻酔剤の無痛化に有効な量を用時混合しても乳化状態は実質的に変化しないという優れたものである。また、上記乳化安定性は、高圧蒸気滅菌などの加熱滅菌操作を施す場合にも、該操作によって損なわれることはなく、上記良好な乳化状態が維持される。更に、上記乳化安定性は、長時間(例えば40℃下で6ヶ月)の保存によっても維持されるものである。
これらの特徴を発揮するための、本発明脂肪乳剤における各成分の好適な配合割合および特に好適な配合割合(最終濃度)は、下記表1−Aに示す通りである。

本発明脂肪乳剤は、前述した通り、優れた乳化安定性を示すものであるに加えて、その乳化粒子の平均粒径が約0.3μm以下と微細であり、且つ滅菌前後で該粒子径が実質的に変化しない利点もある。更に、この脂肪乳剤は、注射可能なpH域である約5−9において安定であり、温度安定性にも優れており、乳化粒子が負に帯電しており長期保存に耐える(40℃、6ヶ月の保存後で変化しない)。また、本発明脂肪乳剤は、その粘度および浸透圧を市販の栄養脂肪乳剤と同様のものに調製することができ、このものは投与時の患者負担が軽減されている。なお、配合されたプロポフォールの殆どは局所麻酔剤の用時混合後も油相に保持されている。
本発明脂肪乳剤は、その用時に、前述した局所麻酔剤をこれに混合(例えば灌注)した後、全身麻酔剤乃至鎮静剤として静脈内投与乃至点滴投与される。その投与の間、乳化液自体安定であり、二層に分離したり、乳化粒子が巨大化したりするおそれはなく、安全に利用できる。
(1−6)本発明脂肪乳剤の形態
本発明脂肪乳剤は,局所麻酔剤と用時混合できる各種の形態、例えば注射用キット製剤形態に調製することができる。該キット製剤形態の具体例としては、例えばダブルバック型、2室式シリンジ型、一体型(両頭針、連結針)などを挙げることができる。かかる注射用キット製剤形態への調製は、迅速かつ正確に実施することができ、調製された製剤は、実用に際して配合時の菌汚染、針刺し事故などの危険を抑制できる。また、現在行われている3方活栓による投与においてもその粒子の増大を防止できる。
2 キット製剤形態
本発明は、前述した本発明脂肪乳剤と局所麻酔剤との二剤を特定の容器に収容してなる脂肪乳剤収容容器製品(キット製剤形態)をも提供する。
本発明脂肪乳剤収容容器製品(キット製剤形態)は、脂肪乳剤を収容した容器であって、該容器は連通可能な仕切手段で区画された少なくとも二室(複室)を有しており、その一室には前記(1−4)項に記載の方法に従って調製される本発明脂肪乳剤が収容され、他の一室には局所麻酔剤が収容される。
この製品に利用される容器の一具体例としては、例えば、使用時に開放して連通することができる仕切手段(隔壁)で区画された複室(少なくとも2室)を有する容器、好ましくは可撓性の容器を例示することができる。該容器の具体例としては、例えば血液透析液などの輸液分野において知られているダブルバッグなどを例示することができる。
上記ダブルバッグ(プラスチック製袋状物)は、例えば、医療用容器などに慣用されている各種の可撓性プラスチックで形成できる。該プラスチックはガスバリア性を有するのが好ましい。ガスバリア性を有するプラスチックの具体例としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリエステルなどの樹脂を挙げることができる。本発明に利用する容器は、これら各種樹脂のフィルム乃至シートから構成されるか、これらフィルム乃至シートにシリカ、アルミナなどを蒸着させたシート乃至フィルムから構成されるか、これら各フィルム乃至シートの積層体から構成されるのが適当である。
また、該容器に複室を形成する手段の具体例としては、例えば(1)隔壁を易剥離性溶着(イージーピール)により形成する方法(特開平2−4671号公報、実開平5−5138号公報など参照)、(2)室間をクリップで挟むことにより隔壁を形成する方法(特開昭63−309263号公報など参照)、(3)隔壁に開封可能な種々の連通手段を設ける方法(特公昭63−20550号公報など参照)などを挙げることができる。これらの内、(1)に記載の容器は特に大量生産に適しており、また連通作業も容易であるので好適である。即ち、該容器における隔壁の形成は、例えばプラスチック製袋状容器内面の一部分を、ヒートシールバーなどを用いて融着させることにより容易に実施できる。また、該シール部分は弱い押圧によって容易に開封できる。
本発明製品は、上記のようなダブルバッグの一室に安定化された脂肪乳剤を収容し、他の一室に局所麻酔剤を収容したものである。これらの薬剤の収容は、例えば容器の上下端部に設けた薬液充填用乃至取出用口部材を介して行うことができる。得られる製品はその後、常法に従いオートクレーブを利用した高圧蒸気滅菌操作などにより滅菌処理することができる。また、該製品は、その用時に隔壁を開放して各室を連通させることによって、各室内に収容された両製剤が混合されて、所望の無痛化された脂肪乳剤が調製される。該混合薬剤は、全身麻酔薬乃至鎮静薬として、上記薬液取出用口部材より静脈内投与乃至点滴投与することができる。
3 無痛化された脂肪乳剤
本発明は、また、本発明脂肪乳剤に局所麻酔剤の所定量を混合してなる無痛化された脂肪乳剤(以下、「本発明無痛化脂肪乳剤」ということがある)を提供する。
本発明者らは、前述したように、脂肪乳剤に特定の安定化剤の所定量を配合するときには、得られる脂肪乳剤は、これに無痛化のために局所麻酔剤を混合しても、その乳化安定性が長期に亘って実質的に損なわれないことを見出した。本発明無痛化脂肪乳剤は、この知見に基づいて完成されたものであり、予め無痛化に有効な量の局所麻酔剤を本発明脂肪乳剤に添加配合したものである。
本発明無痛化脂肪乳剤における局所麻酔剤の種類は、前記本発明脂肪乳剤の項において記載した本発明脂肪乳剤に用時混合される局所麻酔剤と同様のものとすることができる。それらの添加配合量は、前述した用時混合される局所麻酔剤の量と同様のものとすることができる。即ち、前述した局所麻酔剤を用時混合される本発明脂肪乳剤における局所麻酔剤の用時混合量は、該局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤(脂肪乳剤と局所麻酔剤とを含む無痛化された脂肪乳剤)の全容量に対する量(w/v%)で規定してある。従って、この項に示す本発明無痛化脂肪乳剤における局所麻酔剤の配合量は、前記用時混合される局所麻酔剤の量と同様の範囲から適宜選択することができる。
本発明無痛化脂肪乳剤における各成分の好適な配合割合および特に好適な配合割合(最終濃度)は、下記表1−Bに示す通りである。

局所麻酔剤の添加は、前記(1−4)項に記載の脂肪乳剤の乳化に先だって行ってもよく、乳化後に行ってもよい。
乳化に先立って局所麻酔剤を添加する方法は、例えば、プロポフォール、油性成分、乳化剤、必要に応じて添加される添加剤(油溶性添加剤)および局所麻酔剤を混合し、得られる混合物を、注射用水(水溶性添加剤を必要に応じて添加することができる)中に乳化させることによって実施され、かくして所望の本発明無痛化脂肪乳剤を調製することができる。この乳化は、前記(1−4)項に記載した乳化と同様にして、予め粗乳化後、適当な高圧乳化機などを利用して精乳化(本乳化)する方法によって実施することができる。
また、乳化後に局所麻酔剤を添加する場合は、乳化調製された後の本発明脂肪乳剤に所定量の局所麻酔剤を添加混合すればよい。この方法はより具体的には、例えば、プロポフォール、油性成分、乳化剤、必要に応じて添加される添加剤(油溶性添加剤)を混合し、得られる混合物を注射用水(水溶性添加剤を必要に応じて添加することができる)中に乳化させた後、得られる乳化液に局所麻酔剤を溶解混合することによって実施される。かくして所望の本発明無痛化脂肪乳剤を調製することができる。この乳化は、前記(1−4)項に記載した乳化と同様にして、予め粗乳化後、適当な高圧乳化機などを利用して精乳化(本乳化)する方法によって実施することができる。この乳化液に局所麻酔剤を溶解混合する場合も、乳化粒子の粒子径は、乳化前に局所麻酔剤を添加配合して得られる乳化製剤における乳化粒子と実質的に変化のない微細、均整なものである。
上記のようにして調製される本発明無痛化脂肪乳剤は、常法に従い適当な容器、例えばバイアル瓶、シリンジ、プラスチックバッグ、アンプルなどに充填後、通常の滅菌操作、より好ましくはオートクレーブを利用した高圧蒸気滅菌(例えば121℃、12分)などにより滅菌して製品とされる。
該製品は、安全性に優れた安定化剤と共に局所麻酔剤を予め一剤中に配合したものであり、用時混合の操作が不要であり、取り扱い性なども非常に簡便である。しかもキット製剤形態の製品とは異なって、隔壁の開通忘れなどによる用時混合不良による医療事故の心配は皆無である利点を有している。より重要なことに、該製品は、その調製時に優れた乳化安定性を有し、しかも該乳化安定性を実質的に変化させることなく長時間に亘って維持する特徴を有している。
該製品は、優れた乳化安定性を有するに加えて、その乳化粒子は負に帯電しており、その平均粒径が約0.3μm以下と微細であり、滅菌前後で該粒子径が実質的に変化せず、注射可能な約5−9のpH域において長時間安定であり、その温度安定性も優れている(40℃、6ヶ月の保存後で乳化粒子に実質的変化はない)特徴をも有している。更に、本発明無痛化脂肪乳剤は、その粘度および浸透圧を市販の栄養脂肪乳剤と同様のものに調製して患者への負担を軽減することができるものであり、配合されたプロポフォールの殆どは安定に油相に保持されるものである。
本発明無痛化脂肪乳剤は、従来のプロポフォール含有脂肪乳剤と同様に、全身麻酔剤乃至鎮静剤として、静脈内投与乃至点滴投与することができ、特に、その投与によっても副作用としての疼痛(血管痛)を実質的に伴わない利点を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を更に詳しく説明するため、本発明脂肪乳剤および本発明無痛化脂肪乳剤の実施例を挙げる。
実施例1−10
本発明脂肪乳剤の調製
下記表2および表3に示す各成分からなる本発明脂肪乳剤を調製した。尚、各表中における数値は、得られる脂肪乳剤の全容量に対するw/v%である。即ち、本発明脂肪乳剤に後記実施例11−20に従う操作によって局所麻酔剤(2%塩酸リドカイン)を配合前の脂肪乳剤中のw/v%で表示する。


比較例1における印はDSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン)の添加量を示す。
表2および3中の各成分は次のものを示す。
大豆油:精製大豆油(日清製油社製)
中鎖トリグリセリド:「パナセート810」(商標、日本油脂社製)
乳化剤:レシチン(精製卵黄レシチン;キューピー社製)
安定化剤:DSPG:ジステアロイルホスファチジルグリセロール、
DSPA:ジステアロイルホスファチジン酸
表2および表3に記載の各成分中、プロポフォール、大豆油および中鎖トリグリセリドを混合し、次いで混合物に乳化剤および安定化剤を添加した後、このものに最終濃度が2.21%となる量のグリセリンを注射用水に溶解した液を加えて、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)を用いて窒素気流下、加温して、25000回転/分で10分間粗乳化した。
次いで、得られた粗乳化液をpH8.2−8.3に調製後、高圧ホモジナイザー(APV社製)を用いて、平均粒子径が0.3μm以下となるまで、窒素気流下、乳化温度40−80℃、乳化圧550kg/cmで精乳化した。
得られた乳化液を10mL容のガラスバイアルに10mL充填し、密封後、オートクレーブにて高圧蒸気滅菌(121℃、12分)して、安定化剤を含有するプロポフォール含有脂肪乳剤(本発明脂肪乳剤)試料を得た。
比較例1
比較脂肪乳剤の調製
実施例9において、安定化剤として利用したDSPA(ジステアロイルホスファチジン酸)に代えて、DSPC(ジステアロイルホスファチジルコリン)の同量を用いて、同様にして比較脂肪乳剤試料を調製した。
実施例11−20
本発明無痛化脂肪乳剤の調製
実施例1−10で得た本発明脂肪乳剤試料と、2%塩酸リドカイン(販売名:「キシロカイン注射液2%」、アストラゼネカ社製)とを、9:1(容量比)となる割合で混合して、本発明無痛化脂肪乳剤試料(実施例11−20)を調製した。実施例11−20において用いた本発明脂肪乳剤試料は、それぞれ実施例1−10で得た試料である。
比較例2
比較無痛化脂肪乳剤の調製
比較例1で得た比較脂肪乳剤試料に、実施例11−20と同様にして2%塩酸リドカインを9:1(容量比)となる割合で混合して、比較脂肪乳剤試料を調製した。
試験例1
脂肪乳剤の安定性試験
(1)供試試料
実施例11−20で得られた本発明無痛化脂肪乳剤試料および比較例2で得た比較無痛化脂肪乳剤並びに対照として下記のようにして調製した対照無痛化脂肪乳剤試料について、以下の試験を実施した。
対照脂肪乳剤試料は、市販のプロポフォール含有脂肪乳剤(販売名:「1%ディプリバン注」、アストラゼネカ社製、プロポフォール1w/v%,大豆油10w/v%および乳化剤1.2w/v%含有)に、実施例11−20と同様にして2%塩酸リドカインを9:1(容量比)となる割合で混合して調製した。
(2)試験項目
各試料について、その乳化粒子の平均粒子径を、調製3時間後、6時間後および24時間後に測定した。平均粒子径は、動的光散乱法により測定した。
また、各試料のpHをpHメーター(「HM−30G」、東亜ディーケーケー社製)により求めた。これを「配合後」pHとする。
更に、各試料の調製24時間後の外観を目視観察して、下記の通り評価した。
○印:乳化液の二層分離は認められない
×印:乳化液が二層分離した
(3)結果
得られた結果を、下記表4および表5に示す。
尚、表4および5には、塩酸リドカイン配合前の各脂肪乳剤(本発明実施例1−10で調製したもの、比較例1で調製したものおよび市販プロポフォール含有脂肪乳剤)について同様にして求めた乳化粒子の平均粒子径測定結果を「前値」として併記する。また、塩酸リドカイン配合前の各脂肪乳剤についてのpH測定結果を「配合前」として併記する。


(4)結果の考察
表4および表5に示される結果より、本発明脂肪乳剤試料(実施例11−20)は、比較例2で得られた比較試料と対比して、塩酸リドカイン配合の24時間後も、pH変化はほぼ同じであるにもかかわらず、二層分離もなく、優れた乳化安定性を有していることが明らかである。
なお、実施例1−10で調製した本発明脂肪乳剤試料について、これらに塩酸リドカインを配合することなく、40℃下に6ヶ月間保存して安定性を調べたところ、外観に変化は認められず、保存安定性に優れたものであることが判った。この保存安定性は、特に実施例3および7で調製した本発明脂肪乳剤試料の場合に、優れていることが確認された。
また、上記で試験された本発明無痛化脂肪乳剤試料(実施例11−20)は、いずれもその静注による副作用(疼痛)が防止乃至緩和されたものである。
実施例21−24
本発明無痛化脂肪乳剤試料の調製
下記表6に示す各成分からなる本発明無痛化脂肪乳剤を、以下の通り調製した。
即ち、表6に記載の各成分中、プロポフォール、塩酸リドカイン、大豆油および中鎖トリグリセリドを混合し、次いで混合物に乳化剤および安定化剤を添加した後、このものに最終濃度が2.21%となる量のグリセリンを注射用水に溶解した液を加えて、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)を用いて窒素気流下、加温して、25000回転/分で10分間粗乳化した。
次いで、得られた粗乳化液をpH8.2−8.3に調製後、高圧ホモジナイザー(APV社製)を用いて、平均粒子径が約0.3μm以下となるまで、窒素気流下、乳化温度40−80℃、乳化圧550kg/cmで精乳化した。
得られた乳化液を10mL容のガラスバイアルに10mL充填し、密封後、オートクレーブにて高圧蒸気滅菌(121℃、12分)して、本発明無痛化脂肪乳剤試料を得た。
比較例3
比較無痛化脂肪乳剤試料の調製
実施例21において、安定化剤としてのDSPG(ジステアロイルホスファチジルグリセロール)を配合しない以外は、同様にして、下記表6に示す各成分からなる比較脂肪乳剤試料を調製した。

表中、各成分としては前記表2および表3に示す各成分と同じものを使用した。
試験例2
滅菌操作による乳化安定性の保持試験
実施例21−24で得た本発明無痛化脂肪乳剤試料および比較例3で得た比較無痛化脂肪乳剤試料について、各試料の乳化安定性に重大な影響を与える操作である高圧蒸気滅菌の前および後に、それぞれ乳化粒子の平均粒子径を、試験例1と同様にして測定すると共に、各試料の調製24時間後の外観について二層分離が認められるか否かを目視観察した。
得られた結果を、前記表4および表5と同様にして下記表7に示す。

表7に示される結果より、本発明無痛化脂肪乳剤試料は、滅菌前後において乳化粒子の平均粒径に実質的に変化はなく、いずれも微細均一なものであり、二層分離も認められず、優れた乳化安定性を有していることが明らかである。これに対して、安定化剤を配合することなく、塩酸リドカインのみを無痛化のために配合したプロポフォール含有脂肪乳剤は、比較例3として示すとおり、滅菌後に乳化粒子の巨大化が起こり、乳化安定性が極端に低下し、二層分離することが判る。
また、実施例21−24で調製した本発明無痛化脂肪乳剤試料を40℃で6ヶ月間保存し、その外観変化を観察した結果、いずれも変化は認められず、従って長期保存安定性を有することが確認された。
なお、上記で試験した本発明無痛化脂肪乳剤試料は、いずれも静注による副作用である疼痛の防止乃至緩和されたものである。
実施例25−60
本発明無痛化脂肪乳剤試料(キット製剤形態)の調製
下記表8−12に示す各成分からなる本発明無痛化脂肪乳剤試料を、実施例1−10に示す操作、および次いで実施例11−20に示す操作を行うことにより調製した。
即ち、各表に記載の各成分中、プロポフォール、大豆油または中鎖トリグリセリドを混合し、次いで混合物に乳化剤および安定化剤を添加した後、このものに最終濃度が2.21%となる量のグリセリンを注射用水に溶解した液を加えて、ポリトロンホモジナイザー(KINEMATICA社製)を用いて窒素気流下、加温して、25000回転/分で10分間粗乳化した。
得られた粗乳化液をpH8.2−8.3に調製後、高圧ホモジナイザー(APV社製)を用いて、平均粒子径が約0.3μm以下となるまで、窒素気流下、乳化温度40−80℃、乳化圧550kg/cmで精乳化した。
得られた乳化液を10mL容のガラスバイアルに10mL充填し、密封後、オートクレーブにて高圧蒸気滅菌(121℃、12分)して、本発明脂肪乳剤試料を得た。
次いで、上記で得られた各本発明脂肪乳剤試料(実施例25−52)に、2%塩酸リドカイン(販売名:「キシロカイン注射液2%」、アストラゼネカ社製、表中「リドカイン」と表示する)とを、9:1(容量比)となる割合で混合して、リドカイン0.2%を含む本発明無痛化脂肪乳剤試料を調製した。
また、上記で得られた各本発明脂肪乳剤試料(実施例53および54)に上記塩酸リドカインの混合量を変化させて混合し、塩酸リドカイン0.01%(混合容量比=199:1)および0.3%(混合容量比=17:3)を含む本発明無痛化脂肪乳剤を調製した。
更に、上記で得られた各本発明脂肪乳剤試料(実施例55−60)に塩酸リドカインに代えて、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカインおよびテトラカインをそれぞれ混合して、0.2%メピバカイン、0.05%ブピバカイン、0.02%ロピバカイン、0.03%ジブカイン、0.2%プロカインおよび0.05%テトラカインを含有する本発明無痛化脂肪乳剤を調製した。
得られた各試料について、試験例1と同様にして求めた乳化粒子の平均粒子径、pHおよび調製24時間後の外観の目視による評価結果を表4および5と同様にして、下記表8−表12に併記する。
尚、表8−表12中、局所麻酔剤を除く各成分の配合量は、局所麻酔剤を混合前の組成物を基準とするw/v%で示す。局所麻酔剤の配合量は、これを混合後の全組成物を基準とするw/v%で示す。また、表中、各成分は前記表2および表3に示すそれらと同じであるかまたは次のものを示す。
安定化剤:DSPS:ジステアロイルホスファチジルセリン
DDPG:ジデカノイルホスファチジルグリセロール
DMPG:ジミリストイルホスファチジルグリセロール
DOPG:ジオレオイルホスファチジルグリセロール
DSPE−PEG:ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000(「SUNBRIGHT DSPE−020CN」(日本油脂社製)、前記一般式(I)中、RおよびRがステアロイル基、Rがメチル基、Rが水素原子およびXが基−CO−を示す化合物、平均分子量:2000)





表12中、局所麻酔剤は、実施例55ではメピバカイン、実施例56ではブピバカイン、実施例57ではロピバカイン、実施例58ではジブカイン、実施例59ではプロカインおよび実施例60ではテトラカインを用いた。
表8−12に示される結果から明らかなとおり、本発明無痛化脂肪乳剤は、いずれも乳化粒子の平均粒子径の増大は認められず、二層分離もなく、優れた乳化安定性を有していることが判る。
実施例61−89
本発明無痛化脂肪乳剤試料(プレミックス形態)の調製
下記表13−16に示す各成分からなる本発明無痛化脂肪乳剤を、実施例21−24と同様にして調製した。
但し、実施例85−89においては、塩酸リドカインに代えて、局所麻酔剤として、実施例85=メピバカイン、実施例86=ブピバカイン、実施例87=ジブカイン、実施例88=プロカインおよび実施例89=テトラカインを用いた(表中「局所麻酔剤」として表示する)。
上記で得られた各本発明無痛化脂肪乳剤試料について、滅菌による乳化安定性の保持試験を試験例2と同様にして実施した。
得られた結果(滅菌前後の乳化粒子の平均粒子径)を、前記表4および表5と同様にして表13−16に併記する。
尚、各表中、各成分の配合量は全組成物に対するw/v%(w/v%)を示す。また、各表における各成分は、表2、3および8に示したものと同じである。




表13−16に示される結果より、本発明無痛化脂肪乳剤試料は、滅菌前後において乳化粒子の平均粒径に実質的に変化はなく、いずれも微細均一であり、また二層分離もなく、従って優れた乳化安定性を有していることが明らかである。
尚、各本発明無痛化脂肪乳剤試料を40℃で6ヶ月間保存し、その外観変化を観察した結果、いずれも変化は認められず、従って長期保存安定性を有することが確認された。また、上記で試験した本発明無痛化脂肪乳剤試料は、いずれも静注による副作用である疼痛の防止乃至緩和されたものである。
以上詳述したとおり、本発明は、投与(静注)時に疼痛(血管痛)が伴われる弊害を防止乃至緩和するためにリドカインなどの局所麻酔剤を添加することができ、しかもこの添加によって得られる乳剤が不安定となる弊害を未然に防止した、特定の安定化剤を配合してなる、安定性の改善されたプロポフォールを含有する脂肪乳剤を提供する。
また、本発明は、リドカインなどの局所麻酔剤を無痛化剤として配合してなる、無痛化されたプロポフォールを含有する安定な脂肪乳剤をも提供する。
本発明脂肪乳剤は、優れた乳化安定性を有し、また安全性にも優れている。該脂肪乳剤の優れた乳化安定性は、pH調整を行わずとも得られ、脂肪乳剤に通常の加熱滅菌操作を行う場合も損なわれず、長期に亘って持続される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所麻酔剤を用時混合される脂肪乳剤であって、該脂肪乳剤が、プロポフォール、油性成分および乳化剤を含み、更に安定化剤として、
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、または
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物
を含有し、
上記脂肪乳剤とこれに用時混合される局所麻酔剤との合計に対して、安定化剤(a)が0.01−1w/v%、安定化剤(b)が0.01−1w/v%、安定化剤(c)が0.05−5w/v%の濃度となるような量で存在することを特徴とする脂肪乳剤。
【請求項2】
局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して、
(1)プロポフォールが0.4−5w/v%の濃度となるような量で存在しており、
(2)油性成分が2−20w/v%の濃度となるような量で存在しており、且つ
(3)乳化剤が0.4−5w/v%の濃度となるような量で存在している、請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項3】
局所麻酔剤が、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、塩化プロカイン、テトラカインおよびこれらの薬理的に許容される酸付加塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項4】
局所麻酔剤が、該局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して0.01−1w/v%の濃度となる量で存在している請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項5】
安定化剤が、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項6】
安定化剤が、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数12−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項7】
安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリンおよびジオレオイルホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項8】
安定化剤が、局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して0.03−1w/v%の濃度となるような量で存在する請求項5に記載の脂肪乳剤。
【請求項9】
安定化剤が、ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項10】
安定化剤が、平均分子量1000−5000のポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数14−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の(b)の少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項11】
安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール5000、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール3000およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000からなる群から選ばれるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項12】
安定化剤が、局所麻酔剤を用時混合して得られる脂肪乳剤に対して0.1−1w/v%の濃度となるような量で存在する請求項9に記載の脂肪乳剤。
【請求項13】
安定化剤が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項14】
安定化剤が、炭素数10−20の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項15】
安定化剤が、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸およびオレイン酸からなる群から選ばれる脂肪酸(c)の少なくとも1種である請求項1に記載の脂肪乳剤。
【請求項16】
安定化剤が、局所麻酔剤を用時混合後の脂肪乳剤に対して0.1−5w/v%の濃度となるような量で存在する請求項13に記載の脂肪乳剤。
【請求項17】
脂肪乳剤を収容した容器であって、該容器は連通可能な仕切手段で区画された複室を有しており、その一室には請求項1に記載の脂肪乳剤が収容され、他の一室には局所麻酔剤が収容されていることを特徴とする容器。
【請求項18】
プロポフォール、油性成分、乳化剤、安定化剤および局所麻酔剤を含む無痛化された脂肪乳剤であって、該安定化剤が
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、または
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物
であり、
脂肪乳剤に対して、安定化剤(a)が0.01−1w/v%、安定化剤(b)が0.01−1w/v%、安定化剤(c)が0.05−5w/v%の濃度で存在することを特徴とする無痛化された脂肪乳剤。
【請求項19】
脂肪乳剤に対して
(1)プロポフォールが0.4−5w/v%の濃度で存在しており、
(2)油性成分が2−20w/v%の濃度で存在しており、
(3)乳化剤が0.4−5w/v%の濃度で存在しており、且つ
(4)局所麻酔剤が0.01−1w/v%の濃度で存在している、請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項20】
局所麻酔剤が、リドカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、ジブカイン、プロカイン、塩化プロカイン、テトラカインおよびこれらの薬理的に許容される酸付加塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項21】
安定化剤が、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項22】
安定化剤が、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数12−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項23】
安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジオレオイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジオレオイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリンおよびジオレオイルホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種(a)である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項24】
安定化剤が、脂肪乳剤に対して0.03−1w/v%の濃度で存在する請求項21に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項25】
安定化剤が、ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項26】
安定化剤が、平均分子量1000−5000のポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数14−18の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項27】
安定化剤が、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール5000、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール3000およびジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール2000からなる群から選ばれるリン脂質誘導体(b)の少なくとも1種である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項28】
安定化剤が、脂肪乳剤に対して0.1−1w/v%の濃度で存在する請求項25に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項29】
安定化剤が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項30】
安定化剤が、炭素数10−20の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸(c)からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項31】
安定化剤が、オレイン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸およびアラキジン酸からなる群から選ばれる脂肪酸(c)の少なくとも1種である請求項18に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項32】
安定化剤が、脂肪乳剤に対して0.05−0.2w/v%の濃度で存在する請求項29に記載の無痛化された脂肪乳剤。
【請求項33】
プロポフォール、油性成分および乳化剤を含み、更に安定化剤として、
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、または
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物
を含有する脂肪乳剤に、局所麻酔剤を混合して、
上記脂肪乳剤とこれに混合される局所麻酔剤との合計に対して、安定化剤(a)が0.01−1w/v%、安定化剤(b)が0.01−1w/v%、安定化剤(c)が0.05−5w/v%の濃度で存在する脂肪乳剤を得ることを特徴とする、無痛化された脂肪乳剤の製造方法。
【請求項34】
下記安定化剤(a)−(d)の、プロポフォール、油性成分および乳化剤を含み且つ局所麻酔剤を用時混合される脂肪乳剤、またはプロポフォール、油性成分、乳化剤および局所麻酔剤を含む無痛化された脂肪乳剤の安定化のための使用:
(a)グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が、炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸である、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびホスファチジルセリンからなる群から選ばれるリン脂質の少なくとも1種、
(b)ポリアルキレングリコールで修飾されたホスファチジルエタノールアミンであって、グリセロール部分にエステル化している脂肪酸が炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸であるリン脂質誘導体の少なくとも1種、
(c)炭素数10−22の直鎖状もしくは分枝鎖状の飽和もしくは不飽和脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種、または
(d)上記(a)、(b)および(c)の少なくとも2種の混合物。

【国際公開番号】WO2004/052354
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558407(P2004−558407)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015510
【国際出願日】平成15年12月4日(2003.12.4)
【出願人】(000149435)株式会社大塚製薬工場 (154)
【Fターム(参考)】