説明

プロリン類縁体

【課題】アロディニア誘発作用を有し、大量合成が容易であり、光や熱に対して安定で神経因性疼痛の研究に有用なプロリン類縁体、及びその製造方法をを提供する。
【解決手段】下記一般式(1)の化合物又はその塩であることを特徴とするプロリン類縁体(ただし、式中Xは酸素又はNHを示し、φは光照射に対して安定であって、芳香族環を有する置換基を示す)。


下記一般式(5)の化合物又はその塩であることを特徴とするプロリン類縁体(ただし、式中φは芳香族環を有する置換基を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアロディニア活性を示すプロリン類縁体に関する。
【背景技術】
【0002】
痛みは、皮膚を針で刺したとき等のような生理的疼痛、炎症による疼痛、及び神経因性疼痛に大きく分類される。この中でも、神経因性疼痛は、神経の損傷に起因する痛みであり、自発痛、痛覚過敏、アロディニア等の症状からなる難治性の病態である。この神経因性疼痛は、非ステロイド性鎮痛剤(NSAIDs)やオピオイド等に抵抗を示し、モルヒネ等の麻薬も効果を奏しない。こうした神経因性疼痛の原因については、未だ不明な点も多いが、神経損傷による持続的なアロディニアの研究等から、脊髄におけるグルタミン酸受容体が関与していることが明らかにされている。
【0003】
また、毒キノコであるドクササコから抽出・単離されたアクロメリン酸(立体構造の異なるアクロメリン酸A及びアクロメリン酸Bがある)は、神経興奮毒性を示し、マウス髄腔内への投与により、強いアロディニアを誘発することが発見されている(非特許文献1)
【化1】

【0004】
【非特許文献1】British Journal of Pharmacology, 2004, 142, 679-688
【0005】
上記アクロメリン酸は、その分子構造内にグルタミン酸構造を内包しており、その作用はグルタミン酸受容体を介して発現すると考えられている。その一方、in vivoでの行動・病理学的作用に関する研究から、アクロメリン酸が作用する新規な受容体の存在を示唆する報告もなされており、その詳細は不明な部分も多い。
【0006】
こうしたことから、アクロメリン酸は神経因性疼痛の原因究明や、グルタミン酸受容体等の各種神経受容体の機能解明のための、重要な実験ツールとなる有用な化合物であるといえる。しかし、アクロメリン酸をドクササコから抽出するには、非常に手間がかかる。また、得られるアクロメリン酸は極微量であり、実験ツールとして必要とされる量の確保は困難である(非特許文献2、3)
【0007】
【非特許文献2】Tetrahedron Letters 1983, 24, 939-942
【非特許文献3】Journal of American Chemical Society 1988, 110, 4807-4815
【0008】
アクロメリン酸の化学合成もなされてはいるが、アクロメリン酸が有するプロリン骨格は2位、3位及び4位に不斉炭素を有しており、立体化学を制御しながらの大量合成は困難である。特に困難なのは、プロリン骨格の4位の位置への置換基の立体選択的導入である。
【0009】
発明者らは、神経受容体の仕組みを研究すべく、アクロメリン酸とよく似た構造を有し、光プローブとしてアジド基を導入した下記プロリン類縁体(a)を合成し、その生理活性について研究を行った。その結果、この化合物がアクロメリン酸と同程度のアロディニア誘発活性を示すことを明らかにした(非特許文献4)。
【化2】

【非特許文献4】Tetrahedron Letters 2004, 45, 3933-3936
【0010】
この化合物は、市販されているトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを出発物質とし、下記合成経路により、比較的高い収率で合成することができる。
【化3】

【0011】
しかし、上記プロリン類縁体(a)は、光プローブとして機能させるためにアジド基が導入されており、光や熱に対して極めて不安定である。また、上記合成経路に示すように、不安定なフェノール誘導体の合成や、官能基の変換、保護・脱保護を繰り返さなければならず、大量合成には適さない化合物である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、アロディニア誘発作用を有し、大量合成が容易であり、光や熱に対して安定で神経因性疼痛の研究に有用なプロリン類縁体、及びその製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、上記プロリン類縁体(a)がアクロメリン酸と同程度のアロディニア誘発活性を示すことに注目し、3−カルボキシメチルプロリン骨格を有する各種の誘導体を合成し、そのアロディニア誘発活性と分子構造との相関関係について調査した。その結果、3−カルボキシメチルプロリン骨格の4位の位置に酸素や窒素が結合し、さらにその酸素や窒素に芳香族環を有する置換基が結合した化合物が、アロディニア誘発活性を示すことを発見し、本発明をなすに至った。
【0014】
すなわち、第1発明のプロリン類縁体は、下記一般式(1)の化合物又はその塩であることを特徴とするプロリン類縁体(ただし、式中Xは酸素又はNHを示し、φは光照射に対しても分解や脱離をすることはなく、芳香族環を有する置換基を示す)。
【化4】

【0015】
第1発明のプロリン類縁体は、強いアロディニア活性を示すため、グルタミン酸受容体機能の解析や神経因性疾患治療薬の開発研究において、有用な研究ツールとなる。また、このプロリン類縁体は、市販されているトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを出発物質とし、容易に合成することができるため、大量かつ安価に製造することができる。しかも、導入する置換基を修飾しておくことにより、様々なバリエーションのものを極めて容易に合成することができる。さらには、置換基φはアジド基のように光によって分解や脱離をすることはなく、使用中の変質を防ぐことができ、長期保存も可能である。
【0016】
第1発明のプロリン類縁体における置換基φは、芳香族環を有することが要件とされる。ここで芳香族環とは、ベンゼン環やナフタリン環等の炭素環式の芳香族環の他、ピリジン環等の複素環も含む概念である。これらの芳香族環にはアルキル基、アルコキシ基、カルボン酸基、ニトロ基、水酸基、アミノ基等の置換基が結合していてもよい。また、これらの芳香族環は、3−カルボキシメチルプロリン骨格の4位の位置に結合している酸素や窒素に直接結合していてもよく、カルボニル基等を介して間接的に結合していてもよい。
【0017】
第1発明のプロリン類縁体は、4位のXが酸素である場合において、下記一般式(2)の化合物又はその塩であるとすることもできる(ただし、式中Arは置換基を有してもよい芳香族環を示す)。
【化5】

【0018】
このプロリン類縁体は、下式に示すように、下記一般式(7)の化合物(式中Rはアミノ基の保護基、COOR2及びCOORはエステル基を示す)とフェノール誘導体とを光延反応によってカップリングさせた後、酸またはアルカリによってR、R2及びRを脱保護させることによって製造することができる。アミノ基の保護基となるRについては特に限定はないが、例えばアセチル基、ベンゾイル基、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等が挙げられる。また、エステル基のR2及びRについても特に限定はなく、R2とRとが異なっていてもよく、分枝していてもよい。具体的には、メチル基、エチル基、ベンジル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【化6】

【0019】
また、第1発明のプロリン類縁体は、4位のXがNHである場合において、下記一般式(3)の化合物又はその塩であるとすることもできる(ただし、式中Arは置換基を有してもよい芳香族環を示す)。
【化7】

【0020】
このプロリン類縁体は、下式に示すように、前述した一般式(7)の化合物の水酸基をアジド基とするアジド化工程と、該アジド基を還元してアミノ基とするアミノ化工程と、ハロゲン化アリール誘導体のハロゲンを該アミノ基と求核置換させる置換工程と、該置換工程後にR、R2及びRを脱離させる脱保護工程を行うことによって製造することができる。
【化8】

【0021】
さらに、第1発明のプロリン類縁体は、4位のXがNHである場合において、下記一般式(4)に示すように、4位の位置にアミド結合又はスルホナミド結合を介して芳香族環が結合した化合物又はその塩であるとすることもできる(ただし、式中Arは置換基を有してもよい芳香族環を示し、ZはCO又はSO2を示す)。
【化9】

【0022】
このプロリン類縁体は、下式に示すように、前述した一般式(7)の化合物の水酸基をアジド基とするアジド化工程と、該アジド基を還元してアミノ基とするアミノ化工程と、該アミノ基をアミド化またはスルホナミド化するアミド化工程と,該アミド化工程後に、R,R2及びRを脱離させる脱保護工程を行うことによって製造することができる。
【化10】

【0023】
また、第2発明のプロリン類縁体は、下記一般式(5)の化合物又はその塩であることを特徴とする(ただし、式中φは芳香族環を有する置換基を示す)。
【化11】

【0024】
発明者らの試験結果によれば、上記一般式(5)の化合物又はその塩のような、2環式のラクタムであっても、強いアロディニア活性を示す。このため、グルタミン酸受容体機能の解析や神経因性疾患治療薬の開発研究において、有用な研究ツールとなる。また、このような化合物も、市販されているトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを出発物質とし、容易に合成することができるため、大量かつ安価に製造することができる。しかも、導入する置換基を修飾しておくことにより、様々なバリエーションのものを極めて容易に合成することができる。
【0025】
第2発明のプロリン類縁体における置換基φは、芳香族環を有することが要件とされる。ここで芳香族環とは、第1発明のプロリン類縁体の場合と同様、ベンゼン環やナフタリン環等の炭素環式の芳香族環の他、ピリジン環等の複素環も含む概念である。これらの芳香族環にはアルキル基、アルコキシ基、カルボン酸基、ニトロ基、水酸基、アミノ基等の置換基が結合していてもよい。また、これらの芳香族環は、3−カルボキシメチルプロリン骨格の4位の位置に結合している酸素や窒素に直接結合していてもよく、カルボニル基等を介して間接的に結合していてもよい。
【0026】
第2発明のプロリン類縁体は、下記一般式(6)の化合物又はその塩であるとすることもできる(ただし、式中Arは置換基を有してもよい芳香族環を示す)。
【化12】

【0027】
このプロリン類縁体は、下式に示すように、前述した一般式(7)の化合物の水酸基をアジド基とするアジド化工程と、該アジド基を還元してアミノ基とするアミノ化工程と、該アミノ化工程後、塩基性条件下で閉環して5員環ラクタムとするラクタム化工程と、該5員環ラクタムの窒素原子にアリール誘導体を結合させるアリール化工程と、該アリール化工程後、R及びR2を脱離させる脱保護工程とを行うことによって製造することができる。
【化13】

【0028】
上述したように、第1発明及び第2発明のプロリン類縁体は、アロディニア活性を示し、その大量合成も容易であるため、神経細胞における受容体機能解析用試薬として好適に用いることができる。また、第1発明及び第2発明のプロリン類縁体は、プロリン骨格の4位の位置に分子プローブ機能を有する置換基が修飾されているとすることもできる。こうであれば、分子プローブ機能を有する置換基を手がかりとして、受容体機能解析を容易に行うことができる。分子プローブ機能を有する置換基としては、蛍光を発する置換基の導入や、11C等のアイソトープ元素で標識化した置換基等が挙げられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明のプロリン類縁体は、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンを出発物質とし、容易に合成することができる。以下本発明をさらに具体化した実施例について詳述するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1〜9)
実施例1〜9のプロリン類縁体は、下記構造式で示すように、L−プロリンの4位の位置にパラ置換フェノキシ基(ただし実施例1は置換基なし)が導入された化合物である。
【化14】

【0031】
これらの化合物は、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンと、相当するフェノール誘導体とを光延カップリングさせた後、保護基を酸あるいはアルカリ条件化で脱保護することにより、容易に得ることができた。
すなわち、文献既知の方法により合成した4-ヒドロキシプロリン誘導体(Baldwin, J. E. et al. Tetrahedron,1997,53,5233-5254; Furuta, K. et al. Tetrahedron Lett., 2004, 45, 3933-3936),トリフェニルホスフィン,市販もしくは文献既知の方法で合成したフェノール誘導体のテトラヒドロフラン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド等の溶液に室温でアゾジカルボン酸ジイソプロピルを数分から1時間かけて滴下したのち、室温〜50 ℃にて反応させることでカップリング化合物が得られる。
あるいは、別のカップリング方法として、フェノール誘導体とトリフェニルホスフィンのトルエン溶液を60 〜90 ℃に加熱しながら4-ヒドロキシプロリン誘導体とアゾジカルボン酸ジイソプロピルの混合トルエン溶液を1から数時間かけて滴下し,反応させることでカップリング化合物が得られる。フェノール誘導体の酸性が低い場合は後者の方法がより望ましい。
光延カップリングにおける反応温度、反応時間はフェノール誘導体の種類に応じて適宜選択すればよいが、一般的には0〜100 ℃、1〜72時間である。また、脱保護には、塩酸、臭化水素酸等の酸を用いることができる。
【0032】
また、脱保護反応における反応温度、反応時間は、置換基に応じて適宜選択すればよい。例えば、光延反応によるカップリングで合成した化合物に6 Mから12 Mの塩酸を加え、100 ℃にて数時間から24時間加熱還流させることで脱保護をした目的の置換フェノキシプロリン類縁体が得られる。Rがtert-ブトキシカルボニル基であり、R2、Rがメチル基である場合のように、穏和な条件でアルカリ加水分解できる場合は、光延反応によるカップリングで合成した化合物をメタノールに溶解し、水酸化リチウム水溶液または水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温にて数時間から数日間反応させ,エステルを加水分解する。続いて,得られた化合物に0 ℃にてトリフルオロ酢酸を加え、室温に昇温して30分から2時間反応させることで目的とする置換フェノキシプロリン類縁体が得られる。Yがアミド基のように強酸・加熱条件下で加水分解を受けやすい置換基で、これを加水分解せずそのまま残したい場合は後者の方法が用いられる。
【0033】
以下、実施例3及び実施例2の化合物について、さらに具体的な製造方法を述べる。
【0034】
実施例3のプロリン類縁体の合成
実施例3のプロリン類縁体は、以下のようにして合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、4-ヒドロキシ-N-メチルベンズアミド (22.3 mg,147μmol)のトルエン溶液(300μL)にトリフェニルホスフィン(41.0 mg, 156μmol)を加え,反応溶液を85 ℃に昇温したのち、(2S,3R,4S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ヒドロキシ-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(40.0mg,126μmol)とアゾジカルボン酸ジイソプロピル(31μL,156μmol)の混合トルエン溶液(300μL)を3時間かけて滴下し、さらにトルエン(400μL)を加え85 ℃にて40分間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却後,減圧濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60,ヘキサン/酢酸エチル=2/7)および薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60,0.5mm,ヘキサン/酢酸エチル=1/3)にて順次精製し、(2S,3R,4R)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)-4-[4-(メチルカルバモイル)フェノキシ]ピロリジン-2-カルボン酸メチル(27.7mg,49%)を得た。
TLC: Rf=0.15(シリカゲル,ヘキサン/酢酸エチル=1/3)
H NMR(400MHz,CDCl3):(major rotamer)δ(ppm)1.40(s,9H),2.62−2.72(m,1H),2.85−2.93(m,2H),2.98 (s,3H),3.62(s,3H),3.71−3.85(complex,2H),3.78(s,3H),4.11−4.20(m,1H),4.98−5.03 (m,1H),6.30(brs,1H),6.85−6.88(m,2H),7.71−7.76(m, 2H).
【化15】

【0035】
こうして得られた(2S,3R,4R)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)-4-[4-(メチルカルバモイル)フェノキシ]ピロリジン-2-カルボン酸メチル(27.7mg,61.5μmol)をメタノール(800μL)に溶解し,1 M水酸化リチウム水溶液(300μL)を加え、室温にて14時間撹拌した。反応溶液に硫酸水素カリウム水溶液(5%)を加えて酸性としたのち減圧濃縮し、残渣を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトニトリル/水 = 1/1) により精製した。得られた化合物に0 ℃にてトリフルオロ酢酸(2 mL)を加え,室温に昇温して40分間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮し,残渣をイオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50WX8)により精製して実施例3のプロリン類縁体 (19.9 mg, 100%)を得た。
H NMR(400MHz,D2O):δ(ppm)2.45−2.69(complex,3H),2.73(s,3H), 3.38(d,1H,J=13Hz),3.52 (dd, 1H, J = 13 and 3 Hz), 3.78 (d, 1H, J= 10 Hz), 5.10−5.12 (m,1H),6.90 −6.93 (m, 2H),7.54−7.57 (m, 2H).
【化16】

【0036】
実施例2のプロリン類縁体の合成
実施例2のプロリン類縁体は、以下のようにして合成した。すなわち、アルゴン雰囲気下、(2S,3R,4S)-1-ベンゾイル-3-(tert-ブトキシカルボニルメチル)-4-ヒドロキシピロリジン-2-カルボン酸メチル (40.0 mg, 110μmol)を脱水THF(1.0 ml)に溶解し、トリフェニルホスフィン(72.1 mg, 275μmol)、4-ヒドロキシ安息香酸メチル(33.5 mg, 220μmol)を順次加えた。この反応溶液に室温にてアゾジカルボン酸ジイソプロピル(57μL, 289μmol)を10分間かけて滴下し,さらに5時間撹拌した。反応溶液を減圧濃縮したのち,残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60, ヘキサン/酢酸エチル = 3/2)、薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60, 0.5 mm, トルエン/メタノール = 9/1)にて順次精製し, (2S,3R,4R)-1-ベンゾイル-3-(tert-ブトキシカルボニルメチル)-4-[4-(メトキシカルボニル)フェノキシ]ピロリジン-2-カルボン酸メチル (25.0 mg, 46%)を得た。
TLC: Rf = 0.26 (シリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル = 3/2)
H NMR (400 MHz, CDCl3): (major rotamer) δ(ppm) 1.34(s, 9H), 2.70−2.85 (complex, 2H), 2.91−2.98 (m,1H),3.69 (d, 1H, J = 12 Hz),3.83(s,3H), 3.86 (s, 3H), 3.90 (s, 3H), 3.99 (dd,1H,J= 12 and 3 Hz), 4.55 (d,1H, J = 10 Hz), 5.09−5.11 (m, 1H), 6.79 −6.83 (m,2H),7.33−7.43 (m, 3H), 7.51−7.53 (m, 2H), 7.90−7.94 (m, 2H).
【化17】

【0037】
こうして得られた(2S,3R,4R)-1-ベンゾイル-3-(tert-ブトキシカルボニルメチル)-4-[4-(メトキシカルボニル)フェノキシ]ピロリジン-2-カルボン酸メチル (23.9 mg, 48.0μmol) に6 M塩酸(2 mL)を加え、100 ℃にて23時間加熱還流させた。室温に冷却した反応溶液をクロロホルムにて洗浄し、凍結乾燥させたのち、残渣をイオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50WX8)にて精製して実施例2のプロリン類縁体(10.9 mg, 73%) を得た。
TLC: Rf = 0.86 (逆相, メタノール/水 = 2/1)
H NMR (400 MHz, D2O): δ(ppm) 2.50−2.73(complex,3H), 3.43 (d, 1H, J = 13 Hz),3.54(dd, 1H, J = 13 and 3 Hz), 3.87 (d, 1H, J =11 Hz), 5.12−5.13 (m,1H),6.85−6.89 (m, 2H), 7.67−7.71 (m, 2H).
【化18】

【0038】
同様の手法により、実施例1、4〜9のプロリン類縁体が高収率で得られた。なお、実施例7のプロリン類縁体は、実施例6のプロリン類縁体のエステルをPd/C触媒存在下、水素還元し、脱保護することにより得られた。
【0039】
(実施例10〜14)
実施例10〜14のプロリン類縁体は、下記構造式に示すように、L−プロリンの4位の位置に酸素が結合しており、さらにその酸素に各種の芳香族環が結合した化合物である。これらの化合物も、実施例1〜9のプロリン類縁体と同様の合成方法によって合成した。
【化19】

【0040】
(実施例15〜20)
実施例15〜20のプロリン類縁体は、下記構造式に示すように、L−プロリンの4位の位置にNが結合しており、さらにその窒素原子に芳香族環を有する置換基が結合した化合物である。実施例15、18はアミノ型、実施例16、19はアミド型、実施例17はスルホナミド型、実施例20はラクタム型とされている。
【化20】

【0041】
実施例20のプロリン類縁体の合成
実施例20のラクタム型のプロリン類縁体は、以下のようにして合成した。すなわち、(2S,3R,4S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ヒドロキシ-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル (248 mg, 0.782 mmol)をジクロロメタン(4.0mL)に溶かし0°Cに冷却したのち、トリエチルアミン (163μL, 1.17 mmol) 、メタンスルホン酸クロリド (78.9μL, 1.02 mmol) を順次加え、室温に昇温して1時間撹拌した。反応液に2 M塩酸 (10 mL)を加えてジクロロメタンで抽出し,減圧濃縮した残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル60,ヘキサン/酢酸エチル = 1/1) で精製することにより,油状の(2S,3R,4S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)-4-(メチルスルホニルオキシ)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(295mg,95%)を得た。
TLC: Rf = 0.31 (シリカゲル,ヘキサン/酢酸エチル = 1/2)
H NMR (400 MHz, CDCl3):
(mixture of rotamers) δ(ppm)1.42and1.47(each s, 9H), 2.49−2.65(complex,2H), 2.98−3.05 (complex, 1H), 3.05 and 3.06(each s, 3H)3.64−3.71 (brm,1H), 3.73 (s, 3H), 3.77 (s, 3H), 3.9−4.0 (br m,1H), 4.08−4.15 and 4.18−4.23 (m,1H),4.99 (br, 1H).
【化21】

【0042】
こうして得られた(2S,3R,4S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)-4-(メチルスルホニルオキシ)ピロリジン-2-カルボン酸メチル (2.13 g, 5.39 mmol)のDMF (15 mL) 溶液にアジ化ナトリウム(1.11g,17.1 mmol) を加え,60°Cで12時間撹拌した。反応液を室温まで冷却後,水 (5 mL) を加えてジエチルエーテルで抽出した。減圧濃縮した残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー (シリカゲル60, ヘキサン/酢酸エチル = 2/1) で精製することにより,油状の(2S,3R,4R)-4-アジド-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル (1.19 g, 64%) を得た。
TLC: Rf = 0.71 (シリカゲル,ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)
H NMR (400 MHz, CDCl3):(mixture ofrotamers)δ(ppm) 1.41and1.47 (each s, 9H), 2.54−2.67(complex, 1H), 2.69−2.79 (complex, 2H),3.68−3.78(complex, 7H),3.82−3.96 (m,2H),4.33(br, 1H).
【化22】

【0043】
さらに、こうして得られた(2S,3R,4R)-4-アジド-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル (155 mg, 453μmol) のエタノール (2 mL)溶液に、12 M塩酸 (20μL) 、Pd/C (5% on charcoal, 15 mg) を加え、水素雰囲気下にて2時間撹拌した。触媒をセライト濾過後減圧濃縮して白色固体の(2S,3S,4R)-4-アミノ-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル塩酸塩(141 mg, 88%) を得た。
H NMR (400 MHz, D2O):(mixture of rotamers) δ(ppm) 1.26and1.32 (each s, 9H), 2.65−2.75(complex, 2H), 2.90−3.03 and 3.07−3.20 (m, 1H), 3.4−3.7 (complex, 5H), 3.60 (s, 3H), 3.98−4.07(complex,2H).
【化23】

【0044】
そして、こうして得られた(2S,3S,4R)-4-アミノ-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル塩酸塩(30.0 mg, 85.0μmol)のメタノール溶液(600μL)にナトリウムメトキシド(5.1 mg, 93.5μmol)を加え、60°Cで30分加熱撹拌後、ナトリウムメトキシド(2.0 mg, 38.5μmol)を追加し、さらに1時間30分撹拌した。反応液を室温まで冷却し、5%硫酸水素カリウム水溶液を加えて酸性とし、酢酸エチルで抽出した。有機層を減圧濃縮し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60, 酢酸エチル/メタノール = 95/5)で精製することにより白色固体の(3aS,4S,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-2-オキソオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-4-カルボン酸メチル(14.5mg,60.0%)を得た。
TLC: Rf = 0.24 (シリカゲル,酢酸エチル/メタノール = 95/5)
H NMR (400 MHz, CDCl3):(mixture ofrotamers)δ(ppm) 1.42and1.47 (each s, 9H), 2.45 (dd, 1H, J = 18 and 2.8 Hz), 2.67−2.77 (m,1H),3.04-3.101 (m, 1H), 3.57-3.65 and 3.73−3.79(complex, 2H), 3.76 (s, 3H), 4.15 and4.29(each br d, 1H, J = 5.2 and 4 Hz),4.24 (br t, 1H, J = 5.6Hz), 5.67−5.90 (br,1H).
【化24】

【0045】
こうして得られた、2環式のラクタムである(3aS,4S,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-2-オキソオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-4-カルボン酸メチル(15.0mg,
52.8μmol)の1,4-ジオキサン(100μL)溶液に,ヨウ化銅(0.5 mg, 2.64μmol)、リン酸カリウム(22.5 mg, 106μmol)、N,N’-ジメチルエチレンジアミン(562μL, 5.28μmol)、ヨードベンゼン(5.9μL, 52.7μmol)を加え,アルゴン雰囲気下80°Cで1時間加熱撹拌後、110°Cへ昇温し、さらに1時間30分撹拌した。反応溶液を室温まで冷却たのち、セライト濾過し減圧濃縮した。残渣に水を加えてジエチルエーテルで抽出し、有機層を減圧濃縮した残渣を薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60,ヘキサン/酢酸エチル = 1/3)で精製して無色油状の(3aS,4S,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-2-オキソ-1-フェニルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-4-カルボン酸メチル(16.5mg,87%)を得た。
TLC: Rf = 0.32 (シリカゲル,ヘキサン/酢酸エチル = 1/2)
H NMR (400 MHz, CDCl3):(mixture ofrotamers)δ(ppm) 1.41(s,9H), 2.71 (dd, 1H, J = 17.6 and 4 Hz), 2.92−3.02 (m,1H),3.07−3.16 (br, 1H),3.6−3.78 (complex, 2H), 3.79 (s, 3H), 4.23and4.40(br, 1H),4.7−4.75 (m, 1H),7.2−7.27 (br, 1H), 7.36−7.44 (br,4H).
【化25】

【0046】
さらに、上記(3aS,4S,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-2-オキソ-1-フェニルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-4-カルボン酸メチル(25.0 mg, 69.4μmol)のメタノール溶液(1.0 mL)に1 M 水酸化リチウム水溶液(347μL, 347μmol)を加え,室温で一晩撹拌した。反応液に5% 硫酸水素カリウム水溶液を加えて酸性としたのち、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて脱塩(H2O溶出),続いてアセトニトリルで溶出し,減圧濃縮することで白色固体物質を得た。この物質にトリフルオロ酢酸(2.0mL)を加え、0 ℃で30分撹拌後、減圧濃縮し、残渣をイオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50WX8)にて精製して実施例20のプロリン類縁体 (14.1 mg, 83%) を得た。
H NMR (400 MHz, D2O): δ(ppm)2.66(dd, 1H, J = 18.7 and 2.0 Hz), 3.02(dd,1H, J = 18.7 and 9.8 Hz), 3.28−3.36(complex, 2H), 3.40 (dd, 1H, J = 13.6 and5.4Hz), 4.02 (d, 1H, J = 5.6 Hz),5.00 (br t, 1H, J = 5.4 Hz), 7.22−7.29 (m,3H),7.38 (t, 2H, J = 8 Hz).
【化26】

【0047】
実施例15のプロリン類縁体の合成
実施例15のアミン型のプロリン類縁体は、以下のようにして合成した。すなわち、上記実施例20のプロリン類縁体の合成における中間体であり、実施例20のプロリン類縁体のメチルエステルである(3aS,4S,6aR)-5-(tert-ブトキシカルボニル)-2-オキソ-1-フェニルオクタヒドロピロロ[3,4-b]ピロール-4-カルボン酸メチル(13.0mg,36.1μmol)に4M 水酸化ナトリウム水溶液(600μL)を加え、100°Cで4時間加熱撹拌した。反応液を室温まで冷却後,逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(水),Sepadex G-10(水),逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトニトリル/水 =1/0〜1/1)で順次精製して白色固体の実施例15のプロリン類縁体(11.6 mg, 100%)を得た。
H NMR (400 MHz, D2O):
δ (ppm) 2.3-2.43 (m, 2H), 2.76-2.85(m,1H), 3.20 (dd, 1H, J = 12.2 and4.4 Hz),3.55 (dd, 1H, J = 12.2 and 5.8 Hz), 3.89 (d, 1H, J = 8.4 Hz), 4.25 (m,1H), 6.6−6.69 (m, 3H),7.11 (t, 1H, J = 7.6 Hz).
【化27】

【0048】
実施例18のプロリン類縁体の合成
実施例18のプロリン類縁体は、以下のようにして合成した。すなわち、(2S,3S,4R)-4-アミノ-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル塩酸塩(40.0 mg, 113μmol)のアセトニトリル溶液(500μL)に4-フルオロ-7-(N,N-ジメチルスルファモイル)ベンゾフラザン(DBD-F) (27.8 mg, 113 μmol)およびトリエチルアミン(31.4μL, 225μmol)を加え,室温で5分撹拌したのち,反応溶液に5%硫酸水素カリウム水溶液を加えて酸性とした。酢酸エチルで抽出した有機層を減圧濃縮し、得られた残渣を,カラムクロマトグラフィー(シリカゲル60, ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)および薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60,ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)で精製することにより黄色固体の(2S,3S,4R)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-[7-(N,N-ジメチルスルファモイル)-4-ベンゾフラザニル]アミノ-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(17.7mg,29%)を得た。
TLC: Rf = 0.43 (シリカゲル,ヘキサン/酢酸エチル = 2/1)
H NMR (400 MHz, CDCl3): (mixture of rotamers) δ(ppm) 1.44and1.47 (each s, 9H), 2.64 (br d, 2H, J= 6.8 Hz),2.89 (s, 6H), 3.0−3.08 (m,1H),3.53−3.73 (m, 1H), 3.62 and 3.81 (each s, 3H),3.64(s, 3H),3.89−3.98 (m, 1H), 4.12−4.16 and 4.20−4.24 (m, 1), 4.52−4.64 (br, 1H), 5.74 (br d, 1H, J =8.8Hz),6.21(d, 1H, J = 8.0 Hz), 7.88 (d, 1H, J = 8.0 Hz).
【化28】

【0049】
こうして得られた、(2S,3S,4R)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-[7-(N,N-ジメチルスルファモイル)-4-ベンゾフラザニル]アミノ-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(17.7 mg, 32.7μmol)のメタノール溶液(1.2 mL)に1 M 水酸化リチウム水溶液(164μL, 164μmol)を加え、室温で12時間撹拌後、再度1 M 水酸化リチウム水溶液(164μL, 164μmol)を追加し、さらに室温で6時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し,残渣に5%硫酸水素カリウム水溶液を加え酸性としたのち、逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトニトリル/水 = 0/1〜1/3) により精製して黄色の固体を得た。
得られた固体物質にトリフルオロ酢酸(2.0 mL)を加え、0°Cで30分撹拌した。反応液を減圧濃縮し,残渣を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィー(アセトニトリル/水 = 1/2),イオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50WX8)で順次精製することにより黄色結晶の 実施例18のプロリン類縁体(10.2 mg, 75%)を得た。
H NMR (400 MHz, D2O): δ(ppm)2.47(dd, 1H, J = 17 and 9.8 Hz), 2.58(dd,1H, J = 17 and 4.8 Hz, 2.62 (s, 6H),2.94−3.03 (m, 1H), 3.43 (dd, 1H, J = 13 and 4.2Hz),3.78(dd,1H, J = 13 and 6.4 Hz), 4.01 (d, 1H, J = 9.2 Hz), 4.6−4.7(1H),6.29(d,1H, J = 8.4 Hz), 7.80 (d, 1H, J = 8.4 Hz).
【化29】

【0050】
実施例16のプロリン類縁体の合成
実施例16のプロリン類縁体は、以下のようにして合成した。すなわち、(2S,3S,4R)-4-アミノ-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル塩酸塩(50.0 mg, 142μmol)のジクロロメタン(800μL) 溶液に、トリエチルアミン(49.3μL, 354μmol)を加え0°Cに冷却した。これに,塩化ベンゾイル(19.6μL, 169μmol)を滴下し、室温に昇温して2時間撹拌した。反応溶液に飽和食塩水(500μL)を加えたのちクロロホルムにより抽出した。有機層を減圧濃縮した残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60,ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)で精製して白色固体の (2S,3S,4R)-4-ベンズアミド-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(45.5 mg, 76%)を得た。
TLC:Rf = 0.61 (シリカゲル,ヘキサン/酢酸エチル = 1/3)
H NMR (400 MHz, CDCl3): (mixture of rotamers) δ(ppm) 1.43and1.45 (each s, 9H), 2.56 (br, 1H),2.65 and 2.69 (each d, 1H, J = 7.6 Hz), 2.94−3.06 (br,1H), 3.46 and 3.58 (each br d, 1H, J=11.2and10.4 Hz), 3.67 (s, 3H), 3.77 (s,3H), 3.84−3.90 (m, 1H), 4.07 and 4.20 (each br d, 1H, J =8and 6.4Hz), 4.90 (br, 1H), 6.38 and 6.71 (each br, 1H), 7.43−7.57(complex,3H), 7.73−7.78 (br, 2H).
【化30】

【0051】
実施例19のプロリン類縁体も実施例16のプロリン類縁体と同様の方法により合成することができる。
【0052】
さらに、こうして得られた(2S,3S,4R)-4-ベンズアミド-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(38.4 mg, 91.3μmol) のメタノール(250μL)溶液に、0 ℃で1 M水酸化ナトリウム水溶液(457μL, 457μmol)を加え1時間撹拌した。反応液に5%硫酸水素カリウム水溶液を加えて酸性にしたのち、減圧濃縮し,残渣を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて脱塩(H2O溶出),続いてメタノールで溶出することにより白色固体物質を得た。この物質にトリフルオロ酢酸(1.0 mL)を加え、0 ℃で1時間撹拌後、減圧濃縮し、残渣をイオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50WX8)にて精製して実施例16のプロリン類縁体 (22.3 mg, 83%) を得た。
TLC: Rf = 0.51 (逆相,メタノール/水 = 1/1)
H NMR (400 MHz, D2O): δ(ppm)2.39(dd, 1H, J = 16.8 and 10.4 Hz), 2.59(dd, 1H,J = 16.8 and 4.2 Hz), 2.78−2.87 (m,1H),3.40 (dd, 1H, J = 13 and 3.8Hz),3.70 (dd, 1H, J = 13 and 6.8 Hz), 3.97(d, 1H, J = 9.6 Hz), 4.7 (1H), 7.39(t,2H, J = 7.6 Hz), 7.48 (t, 1H, J = 7.6Hz), 7.62 (d, 2H, J = 7.6 Hz).
【化31】

【0053】
実施例17のプロリン類縁体の合成
実施例17のプロリン類縁体は、以下のようにして合成した。すなわち、(2S,3S,4R)-4-アミノ-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル塩酸塩(80.0 mg, 227μmol)のジクロロメタン(1.0 mL) 溶液に、トリエチルアミン(78.9μL, 566μmol)を加え0°Cに冷却した。これに,塩化トルエンスルホニル(51.9 mg, 272μmol)を加え、室温に昇温して2時間撹拌した。反応溶液に飽和食塩水(500μL)を加えたのちクロロホルムにより抽出した。有機層を減圧濃縮した残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル60,ヘキサン/酢酸エチル = 3/4)および薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60, トルエン/メタノール = 9/1)で精製して白色固体の (2S,3R,4R)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)-4-(4-メチルフェニルスルホナミド)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(67.2mg,63%)を得た。
TLC: Rf = 0.55 (シリカゲル,ジクロロメタン/メタノール = 9/1)
H NMR (400 MHz, CDCl3):
(mixture of rotamers) δ(ppm)1.38and1.39(each s, 9H), 2.43 (s, 3H), 2.48−2.6 (m,1H),2.62−2.88 (m, 2H), 3.17 (d, 1H, J = 11.3 Hz), 3.45−3.50(brdd,1H,J= 11.3 and 4.6 Hz), 3.63 and 3.69 (each s, 3H), 3.73 (s, 3H), 3.84 and 3.96(dand br, 1H, J = 8.4 Hz), 3.90−4.03 (br, 1H), 4.80 and 4.90 (each brd,1H,J=8.8Hz), 7.31 (br d, 2H, J = 7.6 Hz), 7.72 (br d, 1H, J = 7.6 Hz).
【化32】

【0054】
こうして得られた化合物(64.7 mg, 138μmol) のメタノール(250μL)溶液に、0 ℃で1 M水酸化ナトリウム水溶液(1.38 mL, 1.38 mmol)を加え3時間撹拌した。反応液を減圧濃縮したのち5%硫酸水素カリウム水溶液を加えて酸性にした。混合物を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて脱塩(H2O溶出),続いてメタノールで溶出することにより白色固体物質を得た。この物質にトリフルオロ酢酸(1.0 mL)を加え、0 ℃で4時間撹拌後、減圧濃縮し、残渣をイオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50WX8)にて精製して実施例17のプロリン類縁体 (25.6 mg, 56%) を得た。
TLC: Rf = 0.66 (逆相,メタノール/水 = 1/1)
H NMR (400 MHz, D2O): δ(ppm) 2.25−2.37(complex, 2H), 2.29 (s, 3H), 2.47−2.55 (m,1H),3.08 (dd, 1H, J = 12.7 and 3.2Hz), 3.38 (dd, 1H, J = 12.7 and 5.8 Hz), 3.72(d,1H, J = 10.0 Hz), 3.94−4.0(m,1H),7.31 (d, 2H, J = 8.3 Hz), 7.61 (d, 2H, J =8.3Hz).
【化33】

【0055】
(比較例1、2)
比較例1のプロリン類縁体はアクロメリン酸A(文献Baldwin, J. E. et al. Tetrahedron, 1998,54,7465-7484, に従い合成したもの)、比較例2のプロリン類縁体は、アクロメリン酸B(文献を元に合成されたもの)である(下記構造式参照)。
【化34】

【0056】
<アロディニアの評価>
上記実施例1〜20及び比較例1、2のプロリン類縁体について、アロディニア誘発作用の評価を行った。評価方法は、ddY-マウス (雄、体重 22 ± 2 g) を用い、無麻酔下に種々の用量のプロリン類縁体5μLを Hylden & Wilcoxの方法(Hylden,J.L.K.and Wilcox, G.L., Intrathecal morphine in mice: a new technique, Eur. J.Pharmacol,67 (1980) 313-316. ) でマウス脊髄腔内に投与した。アロディニアは、一群を 6 匹とし対照は生食 5μL 投与群とした。プロリン類縁体を脊髄腔内投与後、Yaksh & Harty らの方法(Yaksh, T.L. and Harty, G.J., Pharmacology of the allodynia in rats evoked by high dose intrathecal morphine, J. Pharmacol. Exp. Ther., 244 (1988) 501-507. ) と同様に 5 分毎にアロディニアを 50 分間観察し0から2 のスコアで評価した。アロディニアのスコアは、 0 : 変化なし、1 : 触覚刺激を加えようとする筆から逃げる、啼く、2 : 触覚刺激により激しく啼く、勢いよく逃げる、とした。
【0057】
結果を図1〜図5に示す。これらの図から、実施例1〜20のプロリン類縁体は、比較例1(アクロメリン酸A)、比較例2(アクロメリン酸B)と同様、強いアロディニア誘発作用を有することが分かる。
【0058】
(実施例21)
実施例21のプロリン類縁体は、下記構造式に示すように、プロリン骨格の4位の位置に紫外光反応性のベンゾフェノン基と生化学的に検出可能なビオチン基が置換されている化合物である。このため、これを光親和性標識プローブとして、受容体の捕獲・同定等の調査を行うことにより、神経因性疼痛の研究や創薬開発に利用することができる。これらの化合物は、以下の方法によって合成した。
【化35】

【0059】
4-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸4-ブロモフェニル(29.1 mg, 73.3μmol)の無水THF溶液(200μL)にトリフェニルホスフィン(25.0 mg, 95.3μmol)および(2S,3R,4S)-1-(tert-ブトキシカルボニル)-4-ヒドロキシ-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(23.3mg,
73.4μmol)の無水 THF溶液(400μL)を加え,0°Cに冷却したのち,アゾジカルボン酸ジイソプロピル(15.9μL , 80.7μmol)を加えた。反応液を室温に昇温して23時間撹拌したのち反応物を薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60,ヘキサン/酢酸エチル= 2/1)により精製して淡黄色固体の(2S,3R,4R)-4-{4-[4-(4-ブロモフェノキシ)カルボニル]ベンゾイル}フェノキシ-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(25.0mg,49%)を得た。
TLC: Rf = 0.52 (シリカゲル, ヘキサン/酢酸エチル = 1/1)
H NMR (400 MHz, CDCl3):(major rotamer)δ(ppm)1.41(s, 9H),2.64−2.74
(m,1H),2.87−2.99(complex,2H),3.65(s,3H),3.7−3.93(complex,5H),4.08−4.2(complex,2H),5.07−5.12 (m, 1H),6.95 (br d, 2H, J = 8.8 Hz), 7.15(d, 2H, J =8.8 Hz), 7.57 (d, 2H, J = 8.8 Hz),7.82 (d, 2H, J = 8.8 Hz), 7.85(d, 2H, J =8.4 Hz), 8.28-8.30 (d, 2H, J = 8.4Hz).
【化36】

【0060】
4-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸4-ブロモフェニルは文献既知の方法(例えば特開平10-87567)で合成した4-(4-ヒドロキシベンゾイル)安息香酸と4-ブロモフェノールのエステル化により容易に合成される。
【0061】
そして、ブロモフェニルエステル体(25.0 mg, 35.9μmol)のDMF溶液(700 μL)に5-(ビオチニルアミノ)ペンチルアミン(13.0 mg, 39.5μmol)を加え,室温にて4時間、 50°Cで13時間撹拌した。反応液を減圧濃縮後,残渣を薄層クロマトグラフィー(シリカゲル60,ジクロロメタン/メタノール = 9/1)で精製して(2S,3R,4R)-4-{4-[5-(ビオチニルアミノ)ペンチルカルバモイル]ベンゾイルフェノキシ}-1-(tert-ブトキシカルボニル)-3-(メトキシカルボニルメチル)ピロリジン-2-カルボン酸メチル(17.4mg,57%)を得た。
TLC: Rf = 0.50 (シリカゲル, ジクロロメタン/メタノール = 9/1)
H NMR (400 MHz,CD3OD):
(major rotamer)δ(ppm)1.38-1.75(complex,21H), 2.18 (t, 2H, J = 7.2 Hz), 2.65−2.78(complex, 2H), 2.84-3.2 (complex, 3H), 3.13−3.23(complex,3H), 3.41 (t, 2H, J = 6.8 Hz), 3.62(s, 3H), 3.70-3.79 (complex, 5H),4.13 (d,1H, J = 9.7 Hz), 4.28 (dd, 1H, J = 7.7and 4.3 Hz), 4.47 (dd, 1H, J =7.7 and 5.3 Hz), 5.19 (br s, 1H), 7.01 (d, 2H, J= 8.7 Hz), 7.80 (complex, 4H),7.94 (d,2H, J = 8.0 Hz).
【化37】

【0062】
さらに、ビオチン化プロリンエステル誘導体(17.4 mg, 20.4μmol)のメタノール溶液(240μL)に水酸化リチウム一水和物(9.5 mg, 226μmol)の水溶液(240μL)を加え室温で7時間撹拌した。反応液に5% KHSO4水溶液を加えて酸性とし、減圧濃縮したのち,残渣を逆相シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて脱塩(H2O溶出),続いてメタノールで溶出することにより白色物質を得た。この物質にトリフルオロ酢酸(1.0 mL)を加え、室温で1時間撹拌後、減圧濃縮し、残渣をイオン交換クロマトグラフィー(Dowex 50WX8)にて精製して実施例21のプロリン類縁体(9.6 mg, 65%) を得た。
TLC: Rf = 0.47 (逆相,メタノール/水 = 2/1)
H NMR (400 MHz, CD3OD):δ(ppm) 1.36−1.76 (complex, 12H),2.18 (t, 2H, J =7.2Hz),2.68(d, 1H, J = 13 Hz), 2.76 (dd, 1H, J = 16 and 11 Hz), 2.85−2.93(complex,2H),3.01 (dd, 1H, J = 16 and 3.9 Hz), 3.1-3.22 (complex, 3H), 3.41 (t, 2H, J=6.8 Hz),3.49 (d , 1H, J = 13 Hz), 3.70 (dd, 1H, J = 13 and 3.9 Hz), 3.89(d,1H, J = 11Hz), 4.27 (dd, 1H, J = 7.7 and 4.3 Hz), 4.47 (dd, 1H, J = 7.7and4.3Hz), 5.43(br t, 1H, J = 3.9 Hz), 7.13 (d, 2H, J = 9.0 Hz), 7.79 (d, 2H, J=9.0 Hz), 7.81(d, 2H, J = 8.8 Hz), 7.94 (d, 2H, J = 8.8 Hz).
【化38】

【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は神経因性疼痛の研究及び創薬開発に等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1〜6及び比較例1、2における投与したプロリン類縁体の量とアロディニア誘発作用の強度との関係を示すグラフである。
【図2】実施例15、16、18及び比較例1、2における投与したプロリン類縁体の量とアロディニア誘発作用の強度との関係を示すグラフである。
【図3】実施例20及び比較例1、2における投与したプロリン類縁体の量とアロディニア誘発作用の強度との関係を示すグラフである。
【図4】実施例7,8,11,13,19及び比較例1における投与したプロリン類縁体の量とアロディニア誘発作用の強度との関係を示すグラフである。
【図5】実施例9,10,14,17及び比較例1における投与したプロリン類縁体の量とアロディニア誘発作用の強度との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)の化合物又はその塩であることを特徴とするプロリン類縁体(ただし、式中Xは酸素又はNHを示し、φは光照射に対しても分解や脱離をすることはなく、芳香族環を有する置換基を示す)。
【化1】

【請求項2】
下記一般式(2)の化合物又はその塩であることを特徴とする請求項1記載のプロリン類縁体(ただし、式中Arは置換基を有してもよい芳香族環を示す)。
【化2】

【請求項3】
下記一般式(3)の化合物又はその塩であることを特徴とする請求項1記載のプロリン類縁体(ただし、式中Arは置換基を有してもよい芳香族環を示す)。
【化3】

【請求項4】
下記一般式(4)の化合物又はその塩であることを特徴とする請求項1記載のプロリン類縁体(ただし、式中Arは置換基を有してもよい芳香族環を示し、ZはCO又はSO2を示す)。
【化4】

【請求項5】
下記一般式(5)の化合物又はその塩であることを特徴とするプロリン類縁体(ただし、式中φは芳香族環を有する置換基を示す)。
【化5】

【請求項6】
下記一般式(6)の化合物又はその塩であることを特徴とする請求項5記載のプロリン類縁体(ただし、式中Arは置換基を有してもよい芳香族環を示す)。
【化6】

【請求項7】
プロリン骨格の4位の位置に分子プローブ機能を有する置換基が修飾されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のプロリン類縁体。
【請求項8】
下記一般式(7)の化合物(式中Rはアミノ基の保護基、COOR2及びCOORはエステル基を示す)とフェノール誘導体とを光延反応によってカップリングさせた後、酸またはアルカリによってR、R2及びRを脱保護させることを特徴とする請求項2記載のプロリン類縁体の製造方法。
【化7】

【請求項9】
下記一般式(7)の化合物(式中Rはアミノ基の保護基、R2及びRはアルキル基を示す)の水酸基をアジド基とするアジド化工程と、
該アジド基を還元してアミノ基とするアミノ化工程と、
ハロゲン化アリール誘導体のハロゲンを該アミノ基と求核置換させる置換工程と、
該置換工程後にR、R2及びRを脱離させる脱保護工程と、
を備えることを特徴とする請求項3記載のプロリン類縁体の製造方法。
【化8】

【請求項10】
下記一般式(7)の化合物(式中Rはアミノ基の保護基、COOR2及びCOORはエステル基を示す)の水酸基をアジド基とするアジド化工程と、
該アジド基を還元してアミノ基とするアミノ化工程と、
該アミノ基をアミド化又はスルホナミド化するアミド化工程と、
該アミド化工程後にR、R2及びRを脱離させる脱保護工程と、
を備えることを特徴とする請求項4記載のプロリン類縁体の製造方法。
【化9】

【請求項11】
下記一般式(7)の化合物(式中Rはアミノ基の保護基、COOR2及びCOORはエステル基を示す)の水酸基をアジド基とするアジド化工程と、
該アジド基を還元してアミノ基とするアミノ化工程と、
該アミノ化工程後、塩基性条件下で閉環して5員環ラクタムとするラクタム化工程と、 該5員環ラクタムの窒素原子にアリール誘導体を結合させるアリール化工程と、
該アリール化工程後、R及びR2を脱離させる脱保護工程と、
を備えることを特徴とする請求項6記載のプロリン類縁体の製造方法。
【化10】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−153755(P2007−153755A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−347711(P2005−347711)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(304019399)国立大学法人岐阜大学 (289)
【出願人】(500409219)学校法人関西医科大学 (36)
【出願人】(502437894)学校法人大阪医科大学 (8)
【Fターム(参考)】