説明

プローブアレイおよびその製造方法

【課題】蛍光観察をする際に、励起光の強度を変えて調整することなく、広いダイナミックレンジの検出結果が得られるプローブアレイを提供する。
【解決手段】互いに平行に延びる第1および第2の主面4,5を有し、その複数のプローブ保持部6にプローブ分子7を保持している、プローブ保持基板2と、蛍光受光面に対して平行に配置される基準面8を有するとともに、プローブ保持基板2を支持するための台座面10を有し、台座面10は基準面8に対して平行とはならない方向に延びている、台座部材3との組み合わせからなる。各プローブ保持部6は、受光面に対する角度が互いに異なる複数の面、すなわち、底面と、底面から立ち上がる複数の立ち上がり壁面とを有しているため、これら複数の面の感度を互いに異ならせることができ、その結果、広いダイナミックレンジを実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、化学または生物化学の分野で用いるプローブアレイおよびその製造方法に関するもので、特に、蛍光観察法による検出の確実性を向上させるための改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子診断を同時に多項目に関して行なう場合、あるいは多種類のmRNAに関してその発現量を同時に調査する場合、またあるいは多項目のSNPs(single nucleotide polymorphisms:一塩基多型)の調査を同時に行なう場合等のツールとして、DNAチップが注目されている。DNAチップは、DNAマイクロアレイとも呼ばれるもので、標的とするDNA分子やRNA分子とハイブリダイゼーションを起こす既知のDNAをプローブとし、周期的に配列された複数のプローブ保持部に複数種類のプローブを保持したプローブアレイである。
【0003】
また、多種類の抗体や抗原に関してその有無を同時に調査する場合に用いられるツールとして、抗原チップや抗体チップが注目を集めている。抗原チップは、標的とする抗体分子と結合する既知の抗原をプローブとし、周期的に配列された複数のプローブ保持部に複数種類のプローブを保持したプローブアレイである。抗体チップは、標的とする抗原と結合する既知の抗体分子をプローブとし、周期的に配列された複数のプローブ保持部に複数種類のプローブを保持したプローブアレイである。
【0004】
このようなプローブアレイを用いて標的分子を検出する一般的な方法として、蛍光観察法がある(たとえば、非特許文献1参照)。蛍光観察法においては、まず、試料溶液に化学的な処理を施して標的分子を蛍光修飾し、その試料溶液をプローブアレイのプローブ保持部に付着させる。そして、プローブアレイのうちのどのプローブに標的分子が結合したかを、蛍光観察(励起光を照射した上で、発する蛍光を観察する。)によって検出することで検査を行なう。
【0005】
蛍光観察法が適用されるプローブアレイにあっては、試料溶液に含まれる標的分子の濃度が高い場合においても低い場合においても、標的分子の濃度に対して定量性が維持されることが望ましい。すなわち、標的分子の濃度に対して、広いダイナミックレンジを有することが望ましい。
【0006】
しかしながら、従来は、感度の低いプローブアレイでは、標的分子の濃度が薄すぎる場合、プローブアレイの発する蛍光が微弱になりすぎて標的分子の存在を検出することができず、逆に感度の高いプローブアレイでは、標的分子の濃度が高すぎる場合、プローブアレイの発する蛍光強度が飽和してしまって定量性が失われてしまう。よって、標的分子の濃度が低いときでも高いときでも定量性を失わない、広いダイナミックレンジを有するプローブアレイが望まれている。
【0007】
そこで、従来からあるプローブアレイを使用しながら、広いダイナミックレンジを得たい場合には、蛍光観察をする際に、励起光の強度を適当に調整しながら、複数回の蛍光観察をする方法が用いられるのが一般的であるが、複数回の観察が必要であるため、検出作業が煩雑である。また、複数回の励起光照射を受けるうちに、蛍光修飾された標的分子が蛍光退色して、感度が失われたり、感度が不安定になったりするという問題をも招く。
【0008】
したがって、1回の蛍光観察で、広いダイナミックレンジの検出結果が得られるプローブアレイが望まれている。
【非特許文献1】関根光雄編,「新しいDNAチップの科学と応用」,株式会社講談社発行,株式会社講談社サイエンティフィク編集,2007年7月30日,p.008−009
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明の目的は、上記のような要望を満たし得る、広いダイナミックレンジを有するプローブアレイおよびその製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、蛍光観察法によってプローブ分子を検出する際に用いられる、プローブアレイの構造にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0011】
この発明に係るプローブアレイは、第1の局面では、相対向しかつ互いに平行に延びる第1および第2の主面を有し、かつ第1の主面に沿って複数のプローブ保持部が配列され、各プローブ保持部にプローブ分子を保持している、プローブ保持基板と、蛍光観察法においてプローブ保持部から発せられた蛍光を受光する受光面に対して平行に配置される基準面を有するとともに、プローブ保持基板を支持するためにプローブ保持基板の第2の主面に接する台座面を有する、台座部材との組み合わせからなる。
【0012】
そして、プローブ保持基板において、各プローブ保持部は、主面に対して平行な底面と、底面から立ち上がる立ち上がり壁面とを有していることを特徴とし、また、台座部材において、上記台座面は、基準面に対して平行とはならない方向に延びていることを特徴としている。
【0013】
この発明に係るプローブアレイは、第2の局面では、基準面を有し、かつ基準面に沿って複数のプローブ保持部が配列され、各プローブ保持部にプローブ分子が保持されている、プローブ保持基板を備える。
【0014】
そして、プローブ保持基板は、基準面が、蛍光観察法においてプローブ保持部から発せられた蛍光を受光する受光面に対して平行に延びるように配置される。また、各プローブ保持部は、底面と、底面から立ち上がる立ち上がり壁面とを有し、立ち上がり壁面は、基準面に対して垂直とはならない方向に延びていることを特徴としている。
【0015】
なお、この発明では、蛍光観察法においてプローブ保持部から発せられた蛍光を受光する受光面に対して平行に配置される面を基準面としたが、第1の局面における発明では、台座部材に基準面を有し、他方、第2の局面における発明では、プローブ保持基板に基準面を有している。
【0016】
この発明に係るプローブアレイにおいて、90度以下の角度側で測定したとき、すなわち角度を90度以下側で示した場合に、底面および立ち上がり壁面のいずれかは、基準面に対して、角度θ1をなす第1の面と、角度θ1より大きい角度θ2をなす第2の面とを少なくとも有し、cos θ1/cos θ2の値が5以上かつ50以下であることが好ましく、cos θ1/cos θ2の値が5以上かつ20以下であることがより好ましい。
【0017】
また、この発明に係るプローブアレイにおいて、90度以下の角度側で測定したとき、底面および立ち上がり壁面のいずれかは、基準面に対して、角度の小さい順に、角度θ1、θ2、…、θnをそれぞれなす第1、第2、…、第nの面を少なくとも有し、kを2以上かつn以下の任意の自然数としたとき、第(k−1)および第kの面の、基準面に対してそれぞれなす角度θ(k−1)およびθkについて、cos θ(k−1)/cos θkの値が50以下であり、かつ、cos θ1/cos θnの値が5以上であることが好ましく、cos θ(k−1)/cos θkの値が20以下であることがより好ましく、また、cos θ1/cos θnの値が50以上であることがより好ましい。
【0018】
さらに、角度θ1、θ2、…、θnにおいて、cos θ(k−1)/cos θkの値がほぼ一定であることが好ましい。
【0019】
なお、上述したような特定的な関係に選ばれる角度θ1、θ2、…、θnをそれぞれなす第1、第2、…、第nの面については、これらの面が少なくとも存在していればよいということであり、これら以外の角度をなす面がさらに存在することを妨げるものではない。
【0020】
この発明は、また、プローブアレイの製造方法にも向けられる。
【0021】
前述の第1の局面に係るプローブアレイを製造する方法は、プローブ保持基板および台座部材をそれぞれ用意する工程と、プローブ保持基板の各プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程と、プローブ保持基板の第2の主面を台座部材の台座面に向けた状態で、プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程とを備えることを特徴としている。
【0022】
上述のプローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程は、プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程の前に実施されても、後に実施されてもよい。
【0023】
また、上述の台座部材を用意する工程において、台座面には窪みが形成され、プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程は、接着剤を用いてプローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程を含み、プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程において、窪みは接着剤の余分なものを受け入れるように機能するようにされることが好ましい。
【0024】
他方、前述の第2の局面に係るプローブアレイを製造する方法は、プローブ保持基板を作製する工程と、プローブ保持基板の各プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程とを備え、プローブ保持基板を作製する工程は、ドライエッチングを用いて底面および立ち上がり壁面を形成する工程を含み、ドライエッチングにおいて、プラズマ中の陽イオンが、プローブ保持基板の基準面に対して垂直とはならない方向に入射するようにされることを特徴としている。
【0025】
上述のプローブ保持基板を作製する工程は、プローブ保持基板となるべき板状の材料基板を用意する工程と、表側の面と裏側の面とが互いに平行でない補助基板を用意する工程と、材料基板を補助基板上に載置した状態で、ドライエッチングを実施する工程とを含むことが好ましい。
【0026】
また、第2の局面に係るプローブアレイを製造する方法は、別の実施態様では、プローブ保持基板を作製する工程と、プローブ保持基板の各プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程とを備え、プローブ保持基板を作製する工程は、プローブ保持基板となるべき単結晶シリコン基板を用意する工程と、単結晶シリコン基板の主面の結晶方位が(110)方向から傾いている状態で、アルカリ性の液体を用いた異方性ウェットエッチングを実施することによって、底面および立ち上がり壁面を形成する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0027】
この発明に係るプローブアレイによれば、蛍光観察法における受光面に対する角度が互いに異なる複数の面が1つのプローブ保持部に形成されることになるので、これら複数の面の感度を互いに異ならせることができる。したがって、標的分子の濃度が薄い場合には、感度の比較的高い面からの蛍光を検出に用い、他方、標的分子の濃度が高く、感度の高い面からの蛍光強度が飽和してしまう場合には、それよりも感度が低い面からの蛍光を検出に用いることにより、定量性を維持しながら、蛍光を検出することができる。このことから、広いダイナミックレンジを有するプローブアレイを実現することができる。
【0028】
この発明に係るプローブアレイにおいて、底面および立ち上がり壁面のいずれかが、基準面に対して、角度θ1をなす第1の面と、角度θ1より大きい角度θ2をなす第2の面とを少なくとも有するとき、cos θ1/cos θ2の値が5以上かつ50以下であると、現在市販されている蛍光読取り機のダイナミックレンジとほぼ一致させることができ、第1の面の感度と第2の面の感度との間に有意差を確実に設けることができるとともに、ダイナミックレンジの中で定量性を確実に維持することができる。また、より限定的に、cos θ1/cos θ2の値が20以下であると、定量性の維持をより確実なものとすることができる。
【0029】
この発明に係るプローブアレイにおいて、底面および立ち上がり壁面のいずれかが、基準面に対して、角度の小さい順に、角度θ1、θ2、…、θnをそれぞれなす第1、第2、…、第nの面を少なくとも有し、kを2以上かつn以下の任意の自然数としたとき、第(k−1)および第kの面の、基準面に対してそれぞれなす角度θ(k−1)およびθkについて、cos θ(k−1)/cos θkの値が50以下であり、かつ、cos θ1/cos θnの値が5以上であると、現在市販されている蛍光読取り機のダイナミックレンジとほぼ一致させることができ、第1の面と第2の面との各感度間に有意差を確実に設けることができるとともに、ダイナミックレンジの中で定量性を確実に維持することができる。
【0030】
また、より限定的に、cos θ(k−1)/cos θkの値が20以下であると、定量性の維持がより確実なものとすることができる。
【0031】
また、より限定的に、最も傾斜の大きな面の傾斜角の余弦と最も傾斜の小さい面の傾斜角の余弦との比、すなわち、cos θ1/cos θnの値が50以上であると、各面の感度間に有意差をより確実に設けることができる。
【0032】
さらに、角度θ1、θ2、…、θnにおいて、cos θ(k−1)/cos θkの値がほぼ一定であると、ダイナミックレンジの中での定量性を一様に保つことができる。
【0033】
第1の局面に係るプローブアレイを製造する方法において、プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程が、プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程の前に実施されると、複数のプローブ保持基板を集合状態で作製して、集合状態にある段階で、プローブ分子溶液を供給することができ、この段階では、複数のプローブ保持基板の相対位置関係が厳密に決まっているため、複数のプローブ保持基板に対するプローブ分子溶液の連続的な供給が容易であるという利点が奏される。
【0034】
他方、プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程が、プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程の後に実施されると、プローブアレイを製造するための最終工程に近い段階で、プローブ分子を保持させるため、保持されたプローブ分子が、その後の工程でダメージを受ける危険が少なくなるという利点が奏される。
【0035】
また、台座面に、余分な接着剤を受け入れるための窪みが形成されていると、接着剤の付与量についての厳密な管理を不要とすることができる。
【0036】
次に、第2の局面に係るプローブアレイを製造する方法であって、ドライエッチングを用いる方法によれば、複数のプローブ保持部の各々に形成される底面の、蛍光受光面からの各距離を互いに同じにすることができるので、蛍光観察の際、複数のプローブ保持部に対して互いに同じ焦点距離での蛍光観察ができるため、検出操作が容易になる。
【0037】
また、第2の局面に係るプローブアレイを製造する方法であって、異方性ウェットエッチングを用いる方法によれば、エッチングされにくい(111)結晶面を立ち上がり壁面とした高アスペクトの掘り込みを容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
図1は、この発明の第1の実施形態によるプローブアレイ1を分解して示す斜視図である。プローブアレイ1は、プローブ保持基板2と台座部材3との組み合わせからなる。
【0039】
プローブ保持基板2は、相対向しかつ互いに平行に延びる第1および第2の主面4および5を有している。プローブ保持基板2には、第1の主面4に沿って複数のプローブ保持部6が行および列をなすように配列されている。各プローブ保持部6には、概略的に図示するように、プローブ分子7が保持されている。
【0040】
台座部材3は、蛍光観察法においてプローブアレイ1に備えるプローブ保持部6から発せられた蛍光を受光する受光面(図示せず。)に対して平行に延びるように配置される基準面8を有する。基準面8の中央部には凹部9が設けられ、この凹部9を規定する底面は、プローブ保持基板2を支持するためにプローブ保持基板2の第2の主面5に接する台座面10とされる。
【0041】
台座面10は、基準面8に対して平行とはならないように傾いている。台座面10における図1による右方向をX軸、同じく奥行方向をY軸、そしてX軸およびY軸の両方に対して垂直かつ上に向かう方向をZ軸としたとき、台座面10の法線ベクトルは(0,0,1)である。また、基準面8の法線ベクトルは、台座面10の法線ベクトルに対して傾いており、たとえば、(0.019,0.105,0.994)となるように設定されている。
【0042】
なお、通常は、基準面8を基準として座標軸をとるのが自然であるが、以下の説明を簡明にするために、台座面10を基準とした座標軸をとることにする。
【0043】
前述したプローブ保持基板2は、第2の主面5を台座面10に向けた状態で、接着剤を用いて、台座面10に貼り付けられる。このとき、プローブ保持基板2は、凹部9にはまり込んだ状態となって位置決めされる。
【0044】
台座面10には、上述した接着剤の余分なものを受け入れるための窪み11が形成されている。この実施形態では、窪み11は、台座面10の端縁部にまで届くように形成されていて、窪み11によって受入れ切れなかった余分な接着剤については、台座面10の外側にまで逃がすことができるようにされている。このように、台座面10に窪み11が形成されていると、接着剤の付与量についての厳密な管理を不要とすることができる。
【0045】
プローブ保持基板2の一部について、その第1の主面4側から見た構成が、図2に斜視図で示され、かつ、図3に平面図で示されている。
【0046】
プローブ保持基板2の第1の主面4に沿って複数のプローブ保持部6が配列されていることについては前述したとおりであるが、図2および図3に示すように、プローブ保持基板2の第1の主面4側には、プローブ保持部6となるべき一辺がたとえば70μmの正方形の平面形状を有する複数の掘り込みパターン12が、互いの間にたとえば10μmの間隔を隔てて配列されている。掘り込みパターン12の底面13は、プローブ保持基板2の第1および第2の主面4および5に対して平行になっている。
【0047】
また、掘り込みパターン12の内部には、一辺がたとえば10μmの正方形の断面形状を有する突起パターン14が底面13から突出するように形成されている。掘り込みパターン12を規定する正方形の辺と突起パターン14を規定する正方形の辺とは、平行に向いておらず、たとえば45度回転した関係となっている。これは、後の説明から明らかになるように、プローブ分子保持面の角度のより多様化を図るためのものである。
【0048】
1つの掘り込みパターン12が拡大されて図4に示されている。掘り込みパターン12は、その底面13からたとえば垂直に立ち上がる立ち上がり壁面として4つの内側面15〜18を有している。他方、突起パターン14は、底面13からたとえば垂直に立ち上がる立ち上がり壁面としての4つの突起外側面19〜22を有している。これら内側面15〜18および突起外側面19〜22は、プローブ保持基板2の第1および第2の主面4および5に対して垂直方向に延びている。
【0049】
図2ないし図3では図示しないが、少なくとも底面13ならびに内側面15〜18および突起外側面19〜22には、プローブ分子が保持されている。そして、プローブ保持部6となる掘り込みパターン12ごとに、それぞれ相異なるプローブ分子が保持されていて、プローブアレイ1が構成されている。ここで、プローブ分子がDNAであれば、プローブアレイ1はDNAチップとなり、プローブ分子が抗原であればプローブアレイ1は抗原アレイとなり、プローブ分子が抗体であれば、プローブアレイ1は抗体アレイとなる。
【0050】
次に、プローブアレイ1の製造方法について説明する。まず、図5を参照して、プローブ保持基板2の製造方法について説明する。
【0051】
図5(1)に示すように、プローブ保持基板2となるべき材料基板としてのシリコン基板を用意し、このシリコン基板に、レジストパターン31をフォトリソグラフィーによって形成して、レジストパターン31をマスクとして、ICP−RIE(Inductive Coupling Plasma Reactive Ion Etching)によって、深さ150μmのエッチングを行なう。これにより、掘り込みパターン12と突起パターン14とが形成され、プローブ保持基板2が有する形状が付与される。
【0052】
次いで、上述のプローブ保持基板2の形状が付与されたシリコン基板を、硫酸と過酸化水素水との混合溶液によって洗浄し、それによって、図5(2)に示すように、レジストパターン31を除去する。続いて、プローブ保持基板2となるシリコン基板を、アンモニア水と過酸化水素との混合溶液によって洗浄することで、表面の汚染を除去すると同時に、シリコン基板の表面にシリコン酸化膜の層を形成する。引き続いて、シリコン基板を、アミノシランの水溶液に浸漬して、シリコン基板最表面のOH基(シラノール基)をアミノ基に置き換える。引き続いて、N−(6−マレイミドカプロイロキシ)スクシイミド[N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimide]を含む試薬を作用させて、シリコン基板の最表面のアミノ基をマレイミド基に置き換える。
【0053】
その後、図5(3)に示すように、プローブ保持部6としての掘り込みパターン12に、プローブ分子溶液32を供給する。このとき、掘り込みパターン12ごとに、異なったプローブ分子が含まれるプローブ分子溶液32を供給する。掘り込みパターン12にプローブ分子溶液32を供給する方法としては、インクジェットによる供給、マイクロピペットによる供給、複数のプローブ分子溶液32の配列した供給用容器に接触させることによる供給などが考えられる。
【0054】
また、ここで、プローブ分子溶液32中のプローブ分子にはチオール基を導入しておく。プローブ分子としてDNA分子を使用する場合は、DNA分子のたとえば5’末端にチオール基を導入しておく。プローブ分子としてポリペプチドやタンパク質を使用する場合には、たとえば、そのアミノ酸配列の中に、まだジスルフィド結合を形成していないシステイン残基を導入しておく。掘り込みパターン12に、チオール基の導入されたプローブ分子を含んだプローブ分子溶液32を供給した状態で、一定時間放置すれば、プローブ保持基板2となるシリコン基板の最表面のマレイミド基とプローブ分子のチオール基とが結合する。その結果、プローブ保持部6となる掘り込みパターン12における底面13ならびに内側面15〜18ならびに突起外側面19〜22にプローブ分子が結合し、保持されることになる。この後、掘り込みパターン12に残った余分な液体を除去すれば、プローブ分子を保持したプローブ保持基板2が完成される。
【0055】
なお、プローブ保持基板2とプローブ分子とを結合させる手段として、上述したマレイミド基とチオール基との結合に代えて、アビジンとビオチンとの結合などを用いてもよい。
【0056】
一方、台座部材3は、樹脂板をエンボス加工するか、研削加工することによって得られる。そして、台座部材3の台座面10に、適量の接着剤を塗布した上で、先に示した方法によって作製したプローブ保持基板2を貼り付けることで、プローブアレイ1が完成される。
【0057】
上述した製造方法では、プローブ保持基板2にプローブ分子を保持させた後に、プローブ保持基板2と台座部材3との貼り合せを行なったが、プローブ保持基板2と台座部材3との貼り合せを行なった後に、プローブ分子溶液32を供給して、プローブ保持基板2にプローブ分子を保持させるようにしてもよい。
【0058】
プローブ保持基板2を集合状態で作製して、最後に切り分けることによって、個々のプローブ保持基板2とする場合では、プローブ保持基板2が集合状態にある段階で、プローブ分子溶液32を供給した方が、複数のプローブ保持基板2の相対位置関係が厳密に決まっているため、複数のプローブ保持基板2に対するプローブ分子溶液32の連続的な供給が容易であるという利点がある。
【0059】
一方、プローブ保持基板2と台座部材3とを貼り合せた後で、プローブ分子溶液32を供給する方法では、プローブアレイ1を製造するための最終工程に近い段階で、プローブ分子を保持させるため、保持したプローブ分子が、その後の工程でダメージを受ける危険が少なくなるという利点がある。
【0060】
プローブアレイ1の各プローブ保持部6には、プローブ分子を保持した複数の面が存在する。すなわち、複数の面とは、底面13ならびに内側面15〜18および突起外側面19〜22のことである。これらは、プローブアレイ1の主面となる台座部材3の基準面8に対して平行とはならず、種々に異なる傾斜角を持っている。
【0061】
図3に示すように、プローブ保持基板2の第1の主面4内の図による右方向をX軸、第1の主面4内の図による上方向をY軸、そしてX軸とY軸との両方に対して垂直かつ紙面上方に向かう方向をZ軸とする。プローブアレイ1においては、台座部材3の台座面10と、プローブ保持基板2の第1の主面4とは互いに平行になっているから、ここで定義したX軸、Y軸およびZ軸は、それぞれ、前述したように、台座面10を基準として図1を参照して定義したX軸、Y軸およびZ軸と、その方向がそれぞれ完全に一致する。
【0062】
この座標系を用いて、内側面17および18の法線ベクトルを示すと、それぞれ、(0,1,0)および(1,0,0)となる。また、この座標系を用いて、突起外側面19および20の法線ベクトルを計算すると、それぞれ、(−1/√2,1/√2,0)および(1/√2,1/√2,0)となる。また、底面13の法線ベクトルは、(0,0,1)となる。
【0063】
なお、ここで、各プローブ保持部6に存在する複数の面としての底面13ならびに内側面15〜18および突起外側面19〜22のうち、底面13、内側面17および18ならびに突起外側面19および20のみを採り上げたのは、これら底面13、内側面17および18ならびに突起外側面19および20が蛍光受光面に向く姿勢にあるとき、残りの内側面15および16ならびに突起外側面21および22は、蛍光受光面に向く姿勢にはならず、陰になって隠れてしまうからである。
【0064】
台座部材3の主面すなわちプローブアレイ1の基準面8と底面13とがなす角度の余弦(cosine)を求める。求める余弦は、前述のように設定された基準面8の法線ベクトル(0.019,0.105,0.994)と底面13の法線ベクトル(0,0,1)との内積を、基準面8の法線ベクトル(0.019,0.105,0.994)の大きさと底面13の法線ベクトル(0,0,1)の大きさとの積で割ったものになるから、その値は0.994となる。
【0065】
同様の計算によって、内側面17、内側面18、突起外側面19および突起外側面20が、それぞれ、基準面8となす角度の余弦を求めることができる。角度の余弦が大きい順に、その計算結果を示せば、次のようになる。
【0066】
基準面8と底面13とのなす角度の余弦は、0.994である。基準面8と内側面17とのなす角度の余弦は0.105である。基準面8と突起外側面20とのなす角度の余弦は0.0877である。基準面8と突起外側面19とのなす角度の余弦は0.0608である。基準面8と内側面18とのなす角度の余弦は0.0190である。
【0067】
上述のように、プローブアレイ1の各プローブ保持部6には、プローブ分子を保持した複数の面が存在し、これら複数の面は、基準面8に対して平行とはならず、互いに異なる傾斜角を持っている。このような異なる傾斜角を持つプローブ分子保持面は、異なる蛍光強度を示すことになる。このことについて、一般化した図6を参照して以下に説明する。
【0068】
図6には、互いに同じ分布密度をもってプローブ分子40を保持した第1ないし第3のプローブ分子保持面41〜43が図示されている。第1ないし第3のプローブ分子保持面41〜43は、互いに同じ面積を有している。また、プローブ分子保持面41〜43に対向するように配置される蛍光受光面44が図示されている。蛍光受光面44と平行に延びる基準面45に対して、第1のプローブ分子保持面41は角度θ1をなし、第2のプローブ分子保持面42は角度θ2をなし、第3のプローブ分子保持面43は角度θ3をなしている。ここで、角度θ1〜θ3は、90度以下の角度側で測定するものとする。すなわち、鈍角ではなく鋭角となる側の角度を測定するものとする。
【0069】
プローブ分子保持面41〜43に励起光が照射された状況下では、プローブ分子40に結合した蛍光修飾済の標的分子が蛍光を発する点光源と見なせるから、プローブ分子保持面41〜43は、点光源が一定密度で配列された蛍光パネルであると見なすことができる。
【0070】
したがって、第1のプローブ分子保持面41の蛍光を蛍光受光面44で観察したとすると、受光部46が有する面積部分で蛍光を受光することになる。同様に、第2のプローブ分子保持面42の蛍光を蛍光受光面44で観察したとすると、受光部47が有する面積部分で蛍光を受光することになり、第3のプローブ分子保持面43の蛍光を蛍光受光面44で観察したとすると、受光部48が有する面積部分で蛍光を受光することになる。
【0071】
ここで、受光部46は受光部47より面積が大きく、受光部47は受光部48より面積が大きい。よって、第1のプローブ分子保持面41の蛍光を受光部46で受光した場合に比べて、第2のプローブ分子保持面42の蛍光を受光部47で受光した場合の方が、より小さな受光面積で受光することになるため、面積あたりの蛍光強度は強くなる。また、第2のプローブ分子保持面42の蛍光を受光部47で受光した場合に比べて、第3のプローブ分子保持面43の蛍光を受光部48で受光した場合の方が、より小さな受光面積で受光することになるため、面積あたりの蛍光強度は強くなる。
【0072】
このように、面積あたりの蛍光強度は受光面積に反比例すると言えるから、受光部46〜48の各々間での面積の比から、蛍光強度が何倍になるかを見積もることができる。受光部47は、受光部46と比較すると、面積が(cos θ2/cos θ1)倍であるから、(cos θ1/cos θ2)倍の蛍光強度を示すようになると見積もることができる。同様に、受光部48は、受光部47と比較すると、面積が(cos θ3/cos θ2)倍であるから、(cos θ2/cos θ3)倍の蛍光強度を示すようになると見積もることができる。
【0073】
再びプローブアレイ1に着目する。なお、ここでは、底面13ならびに内側面15〜18および突起外側面19〜22のうち、励起光の照射により発した蛍光が受光面にまで届く底面13、内側面17および18ならびに突起外側面19および20についてのみ議論する。
【0074】
プローブ保持部6において、底面13、内側面17、突起外側面20、突起外側面19および内側面18は、この順序で基準面8に対する傾斜角がより小さいが、プローブアレイ1の基準面8に対して、互いに異なる傾斜角をもっているため、それぞれ異なる蛍光強度を有する。先に計算したとおり、それぞれの基準面8に対する傾斜角の余弦は、0.994、0.105、0.0877、0.0608および0.0190である。蛍光強度はこの余弦の逆数に比例するから、蛍光強度の比は、1.01、9.52、11.4、16.4および52.6となる。
【0075】
蛍光強度の比は、感度の比ととらえることができるから、プローブアレイ1の各プローブ保持部6の中には、感度の互いに異なるプローブ分子保持面が形成されていることになる。これにより、プローブアレイ1は、広いダイナミックレンジを実現することができる。すなわち、標的分子の濃度が薄い場合には、たとえば、感度の比較的高い内側面18が感度を有し、他方、標的分子の濃度が高く、感度の高い内側面18の蛍光強度が飽和してしまう場合には、それよりも感度が低い、たとえば底面13が定量性を維持した蛍光を発することができる。
【0076】
当然、図示したプローブアレイ1は、この発明に係るプローブアレイの一例にすぎず、幾何形状を工夫することによって、プローブ保持部における複数のプローブ分子保持面の傾斜角度は任意に設計することができる。プローブ保持基板の掘り込みの形状を正方形ではなく、多角形にしたりすれば、プローブ分子保持面の傾斜のバリエーションをさらに増やすことができる。
【0077】
プローブアレイの基準面に対して、最も傾斜の大きなプローブ分子保持面の傾斜角と最も傾斜の小さなプローブ分子保持面の傾斜角との差が小さすぎると、ダイナミックレンジの拡大が小幅なものに留まってしまうため、両者の傾斜角の余弦の比を5以上にしないと、実質的な効果は得られない。より望ましくは、最も傾斜の大きなプローブ分子保持面の傾斜角の余弦と最も傾斜の小さなプローブ分子保持面の傾斜角の余弦との比は50以上である。
【0078】
また、蛍光強度の弱い順に、プローブ分子保持面のプローブアレイ基準面に対する傾斜角の余弦を並べていったとき、隣接する数字の比が大きくなりすぎると、すなわち、両者の蛍光強度の比が大きすぎ、かつ蛍光強度が両者の間に位置するプローブ分子保持面が存在しないと、蛍光強度の強いプローブ分子保持面の蛍光強度が飽和しているのにも関わらず、蛍光強度の弱いプローブ分子保持面の蛍光は検出できないという、標的分子の濃度が存在することになってしまう。
【0079】
このような、定量性を失うような標的分子の濃度をダイナミックレンジの中に作らないためには、蛍光強度の弱い順に、プローブ分子保持面のプローブアレイ基準面に対する傾斜角の余弦を並べていったとき、隣接する数字の比が常に一定値以下である必要がある。この数値は蛍光測定を行なう装置にも依存するが、現時点において、一般的な市販の蛍光観察装置を用いると仮定するのであれば、たとえばその値は50以下であり、より望ましくは20以下である。
【0080】
また、蛍光強度の弱い順に、プローブ分子保持面のプローブアレイ主面に対する傾斜角の余弦を並べていったとき、隣接する数字の比がほぼ一定であるように設計を行なえば、ダイナミックレンジの中での定量性を一様に保つことができるので、より好ましい。
【0081】
図7は、この発明の第2の実施形態によるプローブアレイに備えるプローブ保持基板2aを示す、図2に対応する図である。図7において、図2に示す要素に相当する要素には同様の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0082】
プローブ保持基板2aの第1の主面4に沿って配列された複数のプローブ保持部6の各々には、プローブ分子溶液に対して濡れ性の高い突起パターン14が形成されるが、掘り込みパターンが形成されていない。したがって、プローブ保持部6は、突起パターン14およびその周囲に延びる高濡れ性領域51によって与えられる。また、プローブ保持基板2aの第1の主面4上には、低濡れ性領域52が各プローブ保持部6の周囲を取り囲むように形成されている。
【0083】
さらに、プローブ保持基板2aの第1の主面4上には、複数のプローブ保持部6間でのプローブ分子溶液の混じり合い(クロスコンタミネーション)の有無を検査するため、プローブ分子溶液に対して高い濡れ性を示す検査用領域53が設けられている。検査用領域53は、複数のプローブ保持部6の隣り合うものの間において、各プローブ保持部6に対して低濡れ性領域52を隔てて位置するように、たとえば格子状に形成されている。このように検査用領域53が形成されていると、プローブ保持部6にプローブ分子溶液を導入した後、検査用領域53が濡れていないか、あるいは濡れた後に乾いた形跡がないかなどを検査することにより、隣り合うプローブ分子溶液の液滴同士の混じり合いによる不良の発生を確実に検出することができる。
【0084】
前述した突起パターン14は、2本の正四角柱を、各々の1つの稜線が接するように配置しながら、対角線方向に並べた形状を有している。このような形状を有する突起パターン14には、8つの突起外側面が形成されることになる。
【0085】
図7に示したプローブ保持基板2aを、図2に示したプローブ保持基板2と比較したとき、高濡れ性領域51が底面13に対応し、突起パターン14の8つの突起外側面が立ち上がり壁面となる突起外側面19〜22に対応する。
【0086】
図8は、この発明の第3の実施形態によるプローブアレイ60の一部を示す平面図である。図9は、図8の線A1−A2に沿う切断部端面図であり、図10は、図8の線B1−B2に沿う切断部端面図である。
【0087】
プローブアレイ60は、プローブ保持基板61を備えている。プローブ保持基板61は、それ自身の主面によって与えられる基準面62を有し、かつこの基準面62に沿って複数のプローブ保持部63が行および列をなすように配列されている。各プローブ保持部63には、図示しないが、プローブ分子が保持されている。基準面62は、蛍光観察法においてプローブ保持部63から発せられた蛍光を受光する受光面に対して平行に延びるように配置される。
【0088】
プローブ保持基板61の基準面62に沿って配列されるプローブ保持部63には、正方形の平面形状を有する掘り込みパターン64が形成され、掘り込みパターン64の底面65は、プローブ保持基板61の基準面62に対して平行になっている。
【0089】
また、掘り込みパターン64の内部には、正方形の断面形状を有する突起パターン66が底面65から突出するように形成されている。この実施形態においても、掘り込みパターン64を規定する正方形の辺と突起パターン66を規定する正方形の辺とは、平行に向いておらず、たとえば45度回転した関係となっている。
【0090】
掘り込みパターン64は、その底面65から立ち上がる立ち上がり壁面として4つの内側面67〜70を有している。他方、突起パターン66は、底面65から立ち上がる立ち上がり壁面としての4つの突起外側面71〜74を有している。これら内側面67〜70および突起外側面71〜74は、プローブ保持基板61の基準面62に対して垂直とはならない方向に延びている。
【0091】
プローブ分子は、少なくとも上記底面65ならびに内側面67〜70および突起外側面71〜74に保持されている。そして、プローブ保持部63となる掘り込みパターン64ごとに、それぞれ相異なるプローブ分子が保持されていて、プローブアレイ60が構成されている。
【0092】
このようなプローブアレイ60については、これを単なる板状の台座部材上に貼り付けた状態で蛍光観察法に適用しても、そのままの状態で蛍光観察法に適用してもよい。
【0093】
プローブアレイ60の各プローブ保持部63には、上述したように、プローブ分子を保持した複数の面、すなわち、底面65ならびに内側面67〜70および突起外側面71〜74が存在し、これらは、プローブアレイ60の基準面62に対して互いに異なる傾斜角を持ち、したがって、互いに異なる蛍光強度を持っている。詳細な設計については、第1の実施形態の場合と実質的に同様であるから、その説明を省略する。
【0094】
次に、プローブアレイ60に備えるプローブ保持基板61の製造方法について、図11を参照して説明する。
【0095】
まず、図11(1)に示すように、プローブ保持基板61の材料基板となるシリコン基板75を用意し、プローブアレイ60における基準面62となるシリコン基板75の一方主面76上に、レジストパターン77をフォトリソグラフィーによって形成する。
【0096】
次に、図11(2)に示すように、表側の面78と裏側の面79とが互いに平行でない、すなわち、くさび型の断面を有する補助基板80を用意し、この補助基板80上にシリコン基板75を載置しかつ貼り付ける。
【0097】
次いで、補助基板80上に載置されたシリコン基板75を、ICP−RIEのチャンバーにセットして、図11(3)に示すように、ドライエッチング中に陽イオン81が基準面62となるべきシリコン基板75の一方主面76に対して、斜めに入射する状態で、エッチングを行なう。これにより、主面76すなわち基準面62に対して、垂直ではない、斜めの壁面すなわち内側面67〜70および突起外側面71〜74を持つ掘り込みパターン64が形成される。
【0098】
次いで、図11(4)に示すように、補助基板80を剥離して、さらに、レジストパターン77を除去すれば、プローブ保持基板61が完成される。
【0099】
その後、プローブ分子を保持させる工程などは、第1の実施形態の場合と実質的に同様であるので、その説明は省略する。
【0100】
第3の実施形態によるプローブアレイ60は、第1の実施形態によるプローブアレイ1と比較して、製造方法が煩雑であるという不利はある反面、プローブアレイ60の基準面62に対して、複数の掘り込みパターン64の各々の底面65が同じ深さ位置にあるため、プローブアレイ60の基準面62と平行に配置される蛍光受光面に対して、複数の掘り込みパターン64の各々の底面65が一定の距離を置いて位置している。そのため、蛍光観察の際、複数のプローブ保持部63に対して同じ焦点距離での蛍光観察ができるため、検出操作が容易になる。
【0101】
第3の実施形態によるプローブアレイ60の上述した製造方法においては、シリコン基板75に掘り込みパターン64を形成するときに、ICP―RIEというドライエッチングを用いる方法を適用した。しかしながら、このようなドライエッチングに限らず、水酸化カリウム水溶液やTMAH水溶液などのアルカリ水溶液による、ウェットエッチングを適用することもできる。
【0102】
上述したように、ウェットエッチングを適用する場合、プローブ保持基板61のための材料基板としては、主面の結晶方位が(110)方向から少しずれた方位を持つシリコン単結晶を用いることが好ましい。
【0103】
シリコン単結晶基板を、アルカリ水溶液によってウェットエッチングすると、エッチングされにくい(111)結晶面を立ち上がり壁面とした高アスペクトの掘り込みを形成することができる。なお、シリコン単結晶基板の主面の結晶方位を(110)方向としておくと、この主面に対して垂直な(111)結晶面が2方向存在することになるので、ウェットエッチングするときのマスクパターンの開口辺を、その(111)結晶面の方向に揃えておくことで、(111)結晶面に囲まれた、高アスペクトの掘り込みを形成することができる。
【0104】
したがって、プローブ保持基板61の材料基板として、主面の結晶方位が(110)方向から少しずれた方位を持つシリコン単結晶を用いた上で、(111)結晶面の方向に沿ったマスクパターンを形成した上で、アルカリ水溶液によるウェットエッチングを行なえば、主面に対して垂直でない(111)結晶面を立ち上がり壁面とした、掘り込みを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】この発明の第1の実施形態によるプローブアレイ1を分解して示す斜視図である。
【図2】図1に示したプローブアレイ1に備えるプローブ保持基板2の一部を第1の主面4側から見て示す斜視図である。
【図3】図1に示したプローブアレイ1に備えるプローブ保持基板2の一部を第1の主面4側から見て示す平面図である。
【図4】図3に示した掘り込みパターン12の1つを拡大して示す平面図である。
【図5】プローブ保持基板2を製造するために実施される工程を説明するための断面図である。
【図6】異なる傾斜角θ1〜θ3を持つプローブ分子保持面41〜43が異なる蛍光強度を示すことを一般化して説明するための図である。
【図7】この発明の第2の実施形態によるプローブアレイに備えるプローブ保持基板2aを示す、図2に対応する図である。
【図8】この発明の第3の実施形態によるプローブアレイ60の一部を示す平面図である。
【図9】図8の線A1−A2に沿う切断部端面図である。
【図10】図8の線B1−B2に沿う切断部端面図である。
【図11】図8に示したプローブアレイ60に備えるプローブ保持基板61を製造するために実施される工程を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0106】
1,60 プローブアレイ
2,2a,61 プローブ保持基板
3 台座部材
4 第1の主面
5 第2の主面
6,63 プローブ保持部
7,40 プローブ分子
8,45,62 基準面
10 台座面
11 窪み
12,64 掘り込みパターン
13,65 底面
14,66 突起パターン
15〜18,67〜70 内側面(立ち上がり壁面)
19〜22,71〜74 突起外側面(立ち上がり壁面)
31,77 レジストパターン
32 プローブ分子溶液
41〜43 プローブ分子保持面
44 蛍光受光面
75 シリコン基板
78 表側の面
79 裏側の面
80 補助基板
81 陽イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光観察法によってプローブ分子を検出する際に用いられる、プローブアレイであって、
相対向しかつ互いに平行に延びる第1および第2の主面を有し、かつ前記第1の主面に沿って複数のプローブ保持部が配列され、各前記プローブ保持部にプローブ分子を保持している、プローブ保持基板と、
蛍光観察法において前記プローブ保持部から発せられた蛍光を受光する受光面に対して平行に配置される基準面を有するとともに、前記プローブ保持基板を支持するために前記プローブ保持基板の前記第2の主面に接する台座面を有する、台座部材と
の組み合わせからなり、
前記プローブ保持基板において、各前記プローブ保持部は、前記主面に対して平行な底面と、前記底面から立ち上がる立ち上がり壁面とを有し、
前記台座部材において、前記台座面は、前記基準面に対して平行とはならない方向に延びている、
プローブアレイ。
【請求項2】
蛍光観察法によってプローブ分子を検出する際に用いられる、プローブアレイであって、
基準面を有し、かつ前記基準面に沿って複数のプローブ保持部が配列され、各前記プローブ保持部にプローブ分子が保持されている、プローブ保持基板を備え、
前記プローブ保持基板は、前記基準面が、蛍光観察法において前記プローブ保持部から発せられた蛍光を受光する受光面に対して平行に延びるように配置され、
各前記プローブ保持部は、底面と、前記底面から立ち上がる立ち上がり壁面とを有し、前記立ち上がり壁面は、前記基準面に対して垂直とはならない方向に延びている、
プローブアレイ。
【請求項3】
90度以下の角度側で測定したとき、前記底面および前記立ち上がり壁面のいずれかは、前記基準面に対して、角度θ1をなす第1の面と、前記角度θ1より大きい角度θ2をなす第2の面とを少なくとも有し、cos θ1/cos θ2の値が5以上かつ50以下である、請求項1または2に記載のプローブアレイ。
【請求項4】
前記cos θ1/cos θ2の値が5以上かつ20以下である、請求項3に記載のプローブアレイ。
【請求項5】
90度以下の角度側で測定したとき、前記底面および前記立ち上がり壁面のいずれかは、前記基準面に対して、角度の小さい順に、角度θ1、θ2、…、θnをそれぞれなす第1、第2、…、第nの面を少なくとも有し、
kを2以上かつn以下の任意の自然数としたとき、第(k−1)および第kの面の、前記基準面に対してそれぞれなす角度θ(k−1)およびθkについて、cos θ(k−1)/cos θkの値が50以下であり、かつ、
cos θ1/cos θnの値が5以上である、
請求項1または2に記載のプローブアレイ。
【請求項6】
前記cos θ(k−1)/cos θkの値が20以下である、請求項5に記載のプローブアレイ。
【請求項7】
前記cos θ1/cos θnの値が50以上である、請求項5または6に記載のプローブアレイ。
【請求項8】
角度θ1、θ2、…、θnにおいて、前記cos θ(k−1)/cos θkの値がほぼ一定である、請求項5ないし7のいずれかに記載のプローブアレイ。
【請求項9】
請求項1に記載のプローブアレイを製造する方法であって、
前記プローブ保持基板および前記台座部材をそれぞれ用意する工程と、
前記プローブ保持基板の各前記プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程と、
前記プローブ保持基板の前記第2の主面を前記台座部材の前記台座面に向けた状態で、前記プローブ保持基板を前記台座面に貼り付ける工程と
を備える、プローブアレイの製造方法。
【請求項10】
前記プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程は、前記プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程の前に実施される、請求項9に記載のプローブアレイの製造方法。
【請求項11】
前記プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程は、前記プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程の後に実施される、請求項9に記載のプローブアレイの製造方法。
【請求項12】
前記台座部材を用意する工程において、前記台座面には窪みが形成され、前記プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程は、接着剤を用いて前記プローブ保持基板を前記台座面に貼り付ける工程を含み、前記プローブ保持基板を台座面に貼り付ける工程において、前記窪みは前記接着剤の余分なものを受け入れるように機能する、請求項9ないし11のいずれかに記載のプローブアレイの製造方法。
【請求項13】
請求項2に記載のプローブアレイを製造する方法であって、
前記プローブ保持基板を作製する工程と、
前記プローブ保持基板の各前記プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程と
を備え、
前記プローブ保持基板を作製する工程は、ドライエッチングを用いて前記底面および前記立ち上がり壁面を形成する工程を含み、
前記ドライエッチングにおいて、プラズマ中の陽イオンが、前記プローブ保持基板の前記基準面に対して垂直とはならない方向に入射するようにされる、
プローブアレイの製造方法。
【請求項14】
前記プローブ保持基板を作製する工程は、前記プローブ保持基板となるべき板状の材料基板を用意する工程と、表側の面と裏側の面とが互いに平行でない補助基板を用意する工程と、前記材料基板を前記補助基板上に載置した状態で、前記ドライエッチングを実施する工程とを含む、請求項13に記載のプローブアレイの製造方法。
【請求項15】
請求項2に記載のプローブアレイを製造する方法であって、
前記プローブ保持基板を作製する工程と、
前記プローブ保持基板の各前記プローブ保持部にプローブ分子を保持させる工程と
を備え、
前記プローブ保持基板を作製する工程は、前記プローブ保持基板となるべき単結晶シリコン基板を用意する工程と、前記単結晶シリコン基板の主面の結晶方位が(110)方向から傾いている状態で、アルカリ性の液体を用いた異方性ウェットエッチングを実施することによって、前記底面および前記立ち上がり壁面を形成する工程を含む、
プローブアレイの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−14648(P2010−14648A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176717(P2008−176717)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】