説明

プローブカード用プローブピン

【課題】尖端部(ピン先部分)が針先状に形成されたテーパー部を一端部に備えたプローブカード用プローブピンにおいて、上記尖端部に均一なメッキ皮膜を形成することで、同メッキ表面にピンホールや欠陥が存在することなく、かつ尖端部の酸化防止、電極材の付着防止、接触抵抗の安定化、含有ポリテトラフルオロエチレンによる滑り性を十分に改良したプローブカード用プローブピンを提供する。
【解決手段】尖端部(ピン先部分)3が針先状に形成されたテーパー部2を一端部に備えたプローブカード用プローブピン10において、尖端部3の少なくとも端面3aに、厚みが3〜10μmのポリテトラフルオロエチレン含有メッキを施すことで課題解決の手段としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ上の集積回路チップの通電検査をするためのプローブカード用プローブピン(以下「プローブピン」と略称する)に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハの製造工程において、集積回路チップの通電検査(ウエハテスト)をするためのプローブピンには、硬くて弾力性のあるタングステン、レニウムタングステン、ベリリウム銅合金などが使用されており、特に耐磨耗性および強靱性に優れたタングステンが多用されている。
【0003】
タングステンは、耐磨耗性、弾性力、強靱性、硬度などに優れているので、直径数十ミクロンという極めて細い線材で構成されるプローブピンに適した材料であるが、酸化しやすくて、集積回路の電極にコンタクトして通電が行われたときの摩擦熱や接触抵抗による発熱により、先端部の温度が上昇して酸化が進み、また集積回路に蒸着されているアルミニウムと反応して、数千回〜数万回のコンタクトでピン先部分に酸化アルミニウムが発生付着する。
【0004】
酸化アルミニウムが付着すると、ピン先部表面の接触抵抗が大きくなり、導電性が低下してウエハテストに支障を来すため、ピン先部分を研磨するなどのメンテナンス(クリーニング)を行う必要がある。そして、このクリーニング工程中はウエハテストが中断されるため、ウエハテストの効率が悪くなるという問題点がある。
【0005】
このような問題点を解決するための一手段として、特許文献1に記載されているような、先端部の端面に、厚さ0.5〜2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE、商品名「テフロン(登録商標)」含有Niメッキを施したプローブピンが開発されている。特許文献1に記載のプローブピンも、同公報に記載の通りの目的を達することはできるものの、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの厚みが薄過ぎるため、均一なメッキ皮膜の形成が難しく、そのためメッキ表面のピンホールや欠陥が多数発生し、酸化防止、電極材の付着防止、接触抵抗の安定化、含有ポリテトラフルオロエチレンによる滑り性が十分に改良されておらず、クリーニング回数(メンテナンス)の減少などの効果においてあまり期待できないという問題点がある。
【特許文献1】特開2001−74777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、特許文献1に記載のプローブピンの有する上記の問題点を解決しようとするもので、本発明は、メッキ表面のピンホールや欠陥のない均一な皮膜を形成するために、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ(皮膜)の厚みを3〜10μmと厚くした点に特徴を有する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、尖端部(ピン先部分)が針先状に形成されたテーパー部を一端部に備えたプローブカード用プローブピンにおいて、上記尖端部の少なくとも端面に、厚みが3〜10μmのポリテトラフルオロエチレン含有メッキを施すことで課題解決の手段としている。
【0008】
本発明によれば、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの厚みを3〜10μmと厚くした構成により、プローブピンの尖端部の酸化防止、含有ポリテトラフルオロエチレンによる確実な滑り性および接触抵抗の安定化、ならびに尖端部への電極材の付着防止などの効果が得られる。
【0009】
また、上記ポリテトラフルオロエチレン含有メッキの下地にNiメッキを施すことで課題解決の手段としている。この構成により、つまり下地にNiメッキを施す構成を採用することにより、ポリテトラフルオロエチレン含有メッキの付着性を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により得られたプローブピンは、Niがベースのメッキであるため、プローブピン尖端部の導電性が良好となる。
また、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの厚みが3〜10μmと厚いので、含有されたポリテトラフルオロエチレンによるプローブピン尖端部の滑り性が極めて良好となり、酸化アルミニウムの付着をほぼ完全に防止でき、プローブピン尖端部の酸化をより効果的に防止できる。
【0011】
上記の効果により、プローブピン尖端部の接触抵抗を常に低くかつ安定して保持することができ、その結果抵抗値増加によるクリーニング(メンテナンス)が不要となる。
さらに、クリーニング(メンテナンス)が不要となるため、プローブ検査時におけるクリーニングによる時間ロスをなくすことができ、連続したプローブ検査を行うことが可能となる。
【0012】
また、ポリテトラフルオロエチレン含有メッキの下地にNiメッキを施す構成により、つまり下地にNiメッキを施す構成を採用することにより、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキのプローブピン尖端部への付着性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を図に示す実施形態により具体的に説明する。
図1はプローブピンの正面図、図2は図1のA矢部を拡大して示す側断面図、図3は実験結果を示すグラフである。
【0014】
図1、2において、符号10はプローブピンを示しており、プローブピン10は半導体ウエハ上の集積回路チップの通電検査のためのプローブカードのプリント配線基板(図示せず)に数十本から数百本が配設されるものであって、母材は、W,Re−W、ベリリウム銅、パラジウムまたはパラジウム合金を素材とし、本体部1と、本体部1の一端部(先端側)に形成された所定長さの直線テーパー状部2と、直線テーパー状部2の尖頭部に形成された尖端部(ピン先部分)3とからなる。ここで、これら各部分の寸法の一例を示すと、本体部1は線径が0.07〜0.7mm,全長が25〜100mmである。また直線テーパー状部2の長さは0.3mm〜6mmであり、尖端部(ピン先部分)3には径が0.02mm以下の寸法の端面3aが形成されている。
【0015】
このような形状に加工されたプローブピン10の本体部1の全表面に、電気メッキによって、下地Niメッキ皮膜4が形成される。
【0016】
下地Niメッキ皮膜4を形成されたプローブピン10は、次に、尖端部3を含む直線テーパー状部2の全表面に、公知のメッキ方法によるポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキにより、テフロン含有Niメッキ皮膜5が形成される。ここで、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ皮膜5は、その厚みを3〜10μmと従来例のものよりも厚く設定されている。
【0017】
図示の例では、本体部1(母材)の全表面がNiメッキ皮膜4で覆われ、尖端部3から直線状の本体部1にかかる範囲にポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ皮膜5が形成されている。
このポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ皮膜5の範囲は上記図示の例に限るものではなく、少なくとも尖端部3を含み本体部1のプリント配線に半田付けする部分にかからない範囲で適宜変更することができる。
つまり、理屈上は、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ(皮膜)5を尖端部3の端面3aにのみ形成することで初期の目的を達成することができるのであるが、このような極めて小面積の箇所のみにポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ(皮膜)5を形成することは、技術的に極めて困難であるので、この図示の例では、本体部1の先端側に、5mm前後の範囲にポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキを施すことで尖端部3の端面3aにポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ皮膜5を形成するようにしている。
【0018】
Niメッキ4はポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ5の下地であるとともに、本体部1での半田付け性の向上を目的として施されているが、Niメッキ4は必ずしも同時に本体部1の全面に施す必要はなく、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ5の下地部分と半田付けの部分とで別々にNiメッキを施すようにしてもよい。
【0019】
このようにしてポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ皮膜5を施されたプローブピン10は、図2に示すように、先端加工部分をカギ形に曲げられて最終製品となる。
【0020】
上述の工程で製造されたプローブピン10は、尖端部3の端面3aに形成されているポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ皮膜5がポリテトラフルオロエチレン粒子を含有しており、このポリテトラフルオロエチレン粒子がプローブピン10の尖端部3の、集積回路チップとのコンタクト時の滑り性を良好にするよう作用するので、プローブピン10の滑り性が向上し、その結果、プローブピン10の尖端部3へのアルミニウムの付着が軽減し、クリーニング回数の減少および安定した接触抵抗の維持が可能となる。同時に耐磨耗性も向上する。特に、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ皮膜5の厚みを3〜10μmと従来例のものよりも厚く設定したことにより、耐磨耗性が従来のものに較べて飛躍的の向上した。この点について、次に、実験データをもとに説明する。
【0021】
表1は、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜厚が0μm(従来例1)および皮膜厚が2μm(従来例2)、ならびに皮膜厚が3μm(実施例1)、皮膜厚が5μm(実施例2)および皮膜厚が8μm(実施例3)のプローブピン(各プローブピンは、図1の形状で、かつ各プローブピンの各部分は上述の寸法の範囲内で同じ寸法に形成されている)について、集積回路チップとのコンタクト時の接触抵抗値(Ω)とコンタクト回数との関係を、各例について3サンプルを実験に供して行った実験結果を示すものである。
【0022】
【表1】

【0023】
図3は、これをグラフ化したもので、横軸をコンタクト回数(×10000)とし、縦軸を接触抵抗値(Ω)として、コンタクト回数と接触抵抗値との変化状態を示している。図3における曲線aは従来例1の実験の結果(3サンプルの平均値をプロットしたもの、以下同じ)を、曲線bは従来例2の実験結果をそれぞれ示しており、また曲線cは本発明の実施例1の実験結果を、曲線dは同実施例2の実験結果を、曲線eは同実施例3の実験結果をそれぞれ示している。
【0024】
表1および図3に示す実験結果から、本発明の実施例のプローブピンは、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜厚が0μm〜2μmの従来のプローブピンに較べて、コンタクト回数を増加しても接触抵抗値(Ω)が増加するのを抑制しているということを読み取ることができる。
現在のプラクティスでは、接触抵抗値が2Ωに達すると使用眼界に達したとして、クリーニングを行っている。表1および図3に示す実験結果によれば、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜厚さが2μmの従来のプローブピンの使用眼界が20×10000回であるのに対して、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜厚さを3μmにした本発明の実施例1のプローブピンでは、使用眼界がほぼ40×10000回となるというように、クリーニング回数を約1/2に低減できることが判明した。
ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜厚みを3μmよりもさらに厚くした場合、クリーニング回数を一層低減化できることは、表1および図3に示す実験結果から明らかであろう。
なお、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜厚みを厚くするにしたがい、尖端部3の柔軟性がなくなり、また、使用中に皮膜が剥離する可能性が大きくなり、かつ製品にバラ付きが発生しやすくなる。本発明においてポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜5の厚みの上限を10μmとしたのは、このような技術事項を考慮した結果である。つまり、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜5の厚みとしては、10μmが実用上の上限であると考えられるからである。
【0025】
上述のクリーニング回数を低減できるということは、ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキの皮膜厚みを3〜10μmと厚くすることにより、メッキ表面のピンホールや欠陥のない均一な皮膜が形成され、このことにより、酸化防止、電極材の付着防止、接触抵抗の安定化および含有ポリテトラフルオロエチレンによる滑り性の良好化が得られることによるものと、推測される。
【0026】
このように、本発明によれば、クリーニング回数を飛躍的に低減化できるプローブピンを得ることができ、その結果、プローブ検査時におけるクリーニングによる時間ロスをなくすことができて連続したプローブ検査を行うことが可能となる。
また、クリーニングを行うと、尖端部3は若干削られるので、クリーニング回数はできるだけ少ないのが望ましいことである。したがって、本発明によれば、クリーニング回数の低減化を図ることで、プローブピンの寿命を長くできるという効果を併せ持つこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係るプローブピンの正面図である。
【図2】図1のA矢部を拡大して示す側断面図である。
【図3】実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1:本体部
2:直線テーパー状部
3:尖端部
4:Niメッキ(皮膜)
5:ポリテトラフルオロエチレン含有Niメッキ(皮膜)
10:プローブピン
3a:尖端部3の端面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
尖端部が針先状に形成されたテーパー部を一端部に備えたプローブカード用プローブピンにおいて、上記尖端部の少なくとも端面にポリテトラフルオロエチレン含有メッキが施され、同ポリテトラフルオロエチレン含有メッキの厚みが3〜10μmであることを特徴とするプローブカード用プローブピン。
【請求項2】
上記ポリテトラフルオロエチレン含有メッキの下地に、Niメッキが施されていることを特徴とする請求項1に記載のプローブカード用プローブピン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−98274(P2006−98274A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286068(P2004−286068)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000110147)トクセン工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】