説明

プローブ及びプローブシステム

【課題】プローブにより生体組織を対象として反射光を測定する時にプローブ内部由来の反射光を測定可能して、事前にプローブ内部由来の反射光特性を測定する煩雑さを解消し、プローブ内部由来の反射光の影響を軽減する。
【解決手段】生体組織への照射光を導光する第1の光ファイバー系10と、第1の光ファイバー系から出射した照射光が照射され、かつ、生体組織からの測定光を集光する正のパワーを有する集光レンズ系と、集光レンズ系が集光した測定光を受光して導光する第2の光ファイバー系12と、集光レンズ系で反射された反射光を受光して導光する第3の光ファイバー系13とを備え、集光レンズ系の光軸を中心にした第1の光ファイバー系の出射端中心Aの対称点Bに第3の光ファイバー系の受光端が配置されたプローブを適用し、第3の光ファイバー系による光のスペクトル情報に基づき、集光レンズ系からの反射光の寄与を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織の測定対象部位に照射光を照射して測定対象部位から放射される測定光を受光するための光学系を備えて当該測定光を測定するためのプローブに関する。
【背景技術】
【0002】
電子内視鏡による体内管腔の観察・診断は、現在広く普及している診断方法である。この診断方法は、体内組織を直接観察するため、病変部を切除する必要がなく、被験者の負担が小さいという利点を有する。一方で、このように体内管腔を直接観察する方法は、生検後の病理検査に比べて確度や精度が低いと考えられており、撮像画質の向上の努力が継続的に行われている。
また、最近ではいわゆるビデオスコープ以外に、様々な光学原理を活用した診断装置や、超音波診断装置といったものが提案され、一部は実用化されている。これらの分野でも、その診断確度の改善のために、新しい測定原理を導入したり、複数の測定原理を組み合わせたりすることが行われている。
特に、組織から放射される蛍光や組織に塗布された蛍光物質からの蛍光を観察、測定することで、単に組織の画像を見るだけでは得られない情報を得られることが知られている。蛍光画像を取得し、通常の可視画像にオーバーラップさせて表示するといった蛍光画像内視鏡システムも提案されている。このようなシステムは、悪性腫瘍の早期発見につながるため、非常に期待されている。
また、蛍光画像を構成せずとも、蛍光の強度情報を取得することで組織の状態を判断する方法も知られている。このような方法においては、電子内視鏡に搭載されている撮像素子を使用せずに蛍光を取得するものもある。
【0003】
このような蛍光診断をするための診断子、すなわちプローブは、内視鏡の鉗子チャネル経由で体内に至るもの、あるいは内視鏡と一体になっているものなどがある(なお、鉗子チャネルとは、鉗子や捕捉ネットなどの処置具を通す、トンネル状の経路のこと。作業チャネル、挿通チャネルなどともいう。さらにチャネルをチャンネルと表記することもある)。特許文献1に記載の蛍光観察用のプローブにあっては、内視鏡の鉗子チャネルに挿入されることで体内に挿入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−305182号公報
【特許文献2】特許第4588324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、以上の従来技術にあってもさらに次のような問題があった。
受光系として内視鏡システムの撮像系を使用するなど、測定システムの一部を内視鏡に依存すると、組み合わされる内視鏡ごとに調整を必要とするため煩雑となり、測定精度や診断確度を確保できないおそれがある。多様な光学測定を行うことで診断確度を向上することが望めるが、異なる光学原理の測定を異なるプローブで対応する場合は、異なる種類のプローブに交換して測定を行うことが必要となるため煩雑であり検査時間の増加、被験者の負担の増加が懸念される。また、同一のプローブが多様な光学測定に対応することで汎用性が向上する。
したがって、プローブは、蛍光測定に限らず、反射光の測定など、多様な光学測定を同一のプローブで単独で行えるものが好ましい。
多様な光学測定を行う上で必要な点に、照射光と測定光の波長が同じ場合(弾性過程)と、照射光と測定光のエネルギーが異なる場合(非弾性過程)の両方に対応していることが挙げられる。反射光測定は前者に蛍光測定は後者に相当する。
特許文献1に記載のプローブは、励起光と蛍光の導光を同一の光ファイバーで行っており、ダイクロイックミラーで励起光と蛍光を波長分離する。特許文献2に記載のプローブは、先端部に配置されたフィルタにより励起光と測定光とを波長分離する。
しかし、特許文献1、2ともに、励起光と測定光が同じ波長の場合、一旦光ファイバーに両者の光が入射してしまうと、各々の分離が困難になる。
したがって、特許文献1,2に記載のプローブは、非弾性過程に対応するものの、弾性過程には対応できない。
弾性過程の典型として反射光測定の場合は、生体組織からの反射される生体組織由来の反射光を測定対象とする。したがって、反射光測定にあたっては、生体組織由来の反射光と、プローブ内の光学素子等から反射されるプローブ内部由来の反射光とを区別する必要がある。
【0006】
かかる問題を解決するために、一般的には、プローブ内部由来の反射光量を事前に測定しておき、生体組織を対象として測定した反射光量から、事前に得られているプローブ内部由来の反射光量を除去する方法が用いられている。
しかし、この方法によれば、事前にプローブ内部由来の反射光量を測定する手間がかかり煩雑となる。
また、光源装置の経時劣化等を要因として、プローブ内部由来の反射光が事前に測定した時と、生体組織を対象として測定した時とで変化することがある。これに対処するために、頻繁に事前測定を行わなければならず、使用に際してさらに煩雑さを増す。しかしながら、このような対処を行っても、まさに生体組織を対象として反射光を測定する時と同時にプローブ内部由来の反射光を測定することはできないという問題がある。
【0007】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、プローブにより生体組織を対象として反射光を測定する時にプローブ内部由来の反射光を測定可能して、事前にプローブ内部由来の反射光特性を測定する煩雑さを解消するとともに、プローブ内部由来の反射光の影響を軽減して精度良く測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、生体組織の測定対象部位に照射光を照射して測定対象部位から放射される測定光を受光するための光学系を備えて当該測定光を測定するためのプローブにおいて、
前記照射光を導光するための第1の光ファイバー系と、
前記プローブの先端部に設けられ、前記第1の光ファイバー系から出射した前記照射光が照射され、かつ、前記測定光を集光する正のパワーを有する集光レンズ系と、
前記集光レンズ系が集光した前記測定光を受光して導光するための第2の光ファイバー系と、
前記集光レンズ系で反射された反射光を受光して導光するための第3の光ファイバー系と、を備え、
前記集光レンズ系の光軸を中心にした前記第1の光ファイバー系の出射端の中心の対称点に前記第3の光ファイバー系の受光端が配置されたプローブである。
【0009】
請求項2記載の発明は、一塊に束ねられた光ファイバー束を備え、
前記第3の光ファイバー系は、前記光ファイバー束の一部の光ファイバーにより構成され、
前記第2の光ファイバー系は、当該光ファイバー束における前記一部に対する残部の光ファイバーにより構成された請求項1に記載のプローブである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載にプローブの前記第2の光ファイバー系により導光された光のスペクトル情報から、前記第3の光ファイバー系により導光された光のスペクトル情報に基づき、前記反射光の寄与を除去する演算装置を備えたプローブシステムである。
【0011】
請求項4記載の発明は、前記第2の光ファイバー系により導光された光のスペクトル強度のデータ列をベクトルSとし、
前記第3の光ファイバー系により導光された光のスペクトル強度のデータ列をベクトルgとして、
前記演算装置は、Sのうちgと直交する成分を取得することで、前記反射光の寄与が除去された生体組織由来の前記測定光のスペクトル情報を得ることを特徴とする請求項3に記載のプローブシステムである。
【発明の効果】
【0012】
集光レンズ系が正のパワーを有する場合、集光レンズ系の光軸を中心にした第1の光ファイバー系の出射端の中心の対称点には、第1の光ファイバー系から出射され集光レンズ系で反射された反射光が集中する。したがって、本発明によれば、この対称点に第3の光ファイバー系の受光端が配置されるので、第3の光ファイバー系によって高効率にプローブ内部由来の反射光が受光される。
プローブ内部由来の反射光が集中する上記対称点に第3の光ファイバー系の受光端が設置されるので、生体組織の測定対象部位から放射される測定光を受光して導光するための第2の光ファイバー系は自ずと上記対称点を回避して設置され、第2の光ファイバー系へのプローブ内部由来の反射光の入射は軽減される。
さらに、プローブ内部由来の反射光のスペクトルと、生体組織由来の測定光のスペクトルとが異なることから、第2の光ファイバー系により導光された光のスペクトル情報から、第3の光ファイバー系により導光された光のスペクトル情報に基づき、プローブ内部由来の反射光の寄与を除去する演算が可能となり、これによりプローブ内部由来の反射光の影響を軽減して精度良く生体組織由来の測定光を測定することができる。
その結果、プローブ内部由来の反射光の寄与を除去する演算を行うにあたり、生体に対する測定に先だって事前にプローブ内部由来の反射光特性を測定する煩雑さが解消される。
本発明によれば、事前に測定したプローブ内部由来の反射光特性を用いる場合に比較して、生体組織に対する測定と同時に測定したプローブ内部由来の反射光特性を用いるので、より精度良く生体組織由来の測定光を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るプローブが適用されたシステムの概要を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るプローブが挿通された内視鏡の先端部の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るプローブの第1構成例の構成斜視図(a)及びレンズ光軸に垂直な断面におけるファイバー等配置図(b)である。
【図4】本発明の一実施形態に係るプローブの第2構成例の構成斜視図(a)及びレンズ光軸に垂直な断面におけるファイバー等配置図(b)である。
【図5】反射光分布の計算に係る主要な条件が示される光学系の斜視図である。
【図6】反射光分布の計算結果を示す2次元分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0015】
図1に示すように本実施形態のプローブ1は、その基端がベースユニット2に接続される。ベースユニット2には、生体組織の測定対象部位に照射される励起光等の光を発生するための光源、及び、励起光等の照射により測定対象部位から放射される光を測定光として検出するための分光器などからなる検出器等が備えられている。
一方、内視鏡本体3が、内視鏡本体3に内蔵されるカメラ部や照明などの各部の制御やこれら各部とのデータのやり取りを行うための内視鏡プロセッサ4に接続されている。内視鏡本体3は、体内への挿入部3aと、挿入部3aの曲げ操作等を行うための操作部3bとを有する。内視鏡本体3には、操作部3bに設けられた挿入口から挿入部3aの先端面の開口まで連通するチャネル3cが形成されている。プローブ1はチャネル3cに挿通され、プローブ1の先端が内視鏡先端に対して進退可能に配置されている。
【0016】
図2に示すように内視鏡本体3の挿入部3aの先端部には、撮像素子や対物レンズ等で構成されるカメラ部3d、内視鏡照明の発光部となるライトガイド3e、気体、液体等の流動物を噴射するための送気送水ノズル3f、チャネル3cの先端開口が設けられ、プローブ1の先端部がチャネル3cから必要に応じて延出される。
但し、以上説明した内視鏡の形態、プローブ1が内視鏡のチャネル3cに挿通される形態は説明上の具体的例示に過ぎない。特に、プローブ1の体内に導かれる形態は、内視鏡のチャネル3cを経由する形態のほか、単独で体内に挿入される形態であってもよい。また、プローブ1の構成が内視鏡本体3に一体化された形態であっても、本発明を実施することが可能である。
【0017】
本実施形態のプローブ1の構成例としてファイバー配置の異なる2つの構成例を示す。
第1構成例のプローブ1Aを図3に、第2構成例のプローブ1Bを図4に示した。プローブ1A及び1Bはともに、プローブチューブ9の内部に、第1の光ファイバー系10と、集光レンズ系(集光レンズ11)と、第2の光ファイバー系12と、第3の光ファイバー系13と、フェルール14とを備える。
第1の光ファイバー系10は、基端がベースユニット2の光源の光出力面に接続又は近接するように設けられ、先端が図3(a)及び図4(a)に示すようにプローブ先端部に及んでおり、励起光等の照射光を導光する導光路を構成し、照射光を導光するための光ファイバー系である。
集光レンズ系は、プローブ先端部に設けられ、第1の光ファイバー系10から出射した光が照射され、かつ、測定対象部位から放射される測定光を集光する正のパワーを有するレンズ又はレンズ群である。
第2の光ファイバー系12は、基端がベースユニット2の検出器への入力端に接続され、先端が図3(a)及び図4(b)に示すようにプローブ先端に及んでおり、集光レンズ系が集光した測定光を受光して導光する受光導光路を構成し、測定光を受光して導光するための光ファイバー系である。
第3の光ファイバー系13は、基端がベースユニット2の検出器への入力端に接続され、先端が図3(a) 及び図4(b)に示すようにプローブ先端に及んでおり、集光レンズ系で反射された反射光を受光して導光する受光導光路を構成し、当該反射光を受光して導光するための光ファイバー系である。
【0018】
集光レンズ系は、1個又は複数個のレンズから構成されるが、1個の場合はそれが集光レンズ11であり、複数個のレンズから構成されるときには、光ファイバー系10,12,13に最も近い位置に配置されるレンズを集光レンズ11とする。図3及び図4においては、1つの集光レンズ11のみを図示するが、集光レンズ11の光ファイバー系10,12,13に対する反対側に集光レンズ系を構成する他のレンズを配置してもよい。集光レンズ11に対向する第1の光ファイバー系10の先端が出射端、集光レンズ11に対向する第2の光ファイバー系12の先端が受光端、集光レンズ11に対向する第3の光ファイバー系13の先端が受光端である。これらの光ファイバー系10,12,13に近い側の集光レンズ11の表面を面S1、その反対面を面S2とする。面S1は凸面で形成され、面S2は略平面で形成される。
【0019】
第1、第2及び第3の光ファイバー系10,12,13は、一塊に束ねられた光ファイバー束(ファイバーバンドル)の一束又は複数束により構成されたり、束ねられていない個別の光ファイバーの一本又は複数本により構成されたり、その組合せも含めて様々な形態が適用し得る。
但し、第2構成例のプローブ1Bについては、ファイバーバンドル15を備えるものを例示した。プローブ1Bにおいて、第3の光ファイバー系13は、ファイバーバンドル15の一部の光ファイバーにより構成され、第2の光ファイバー系12はファイバーバンドル15の第3の光ファイバー系13に対する残部の光ファイバーにより構成される。なお、第2の光ファイバー系12と第3の光ファイバー系13とで、ファイバーバンドル15に構成される光ファイバーの全部を占める必要はない。
【0020】
第1、第2及び第3の光ファイバー系10,12,13は、フェルール14によって所定の相対的位置に保持される。
図3(b)及び図4(b)に集光レンズ系の光軸Oを示した。
第1、第2及び第3の光ファイバー系10,12,13の光軸Oに対する配置は次の通りである。
第1の光ファイバー系10の出射端の中心Aは、光軸Oから距離dだけ離れて配置されている。光軸Oを中心にした中心Aの対称点Bに、第3の光ファイバー系13の受光端が設置される。集光レンズ系からの反射光が対称点Bに集中するためである。したがって、第3の光ファイバー系13の受光端の中心と対称点Bとが一致する配置が最適である。そのため、第3の光ファイバー系13の受光端に対称点Bがあるように配置し、できるだけ第3の光ファイバー系13の受光端の中心を対称点Bに近づけるように構成することが好ましい。
第2の光ファイバー系12は、生体組織からの測定を受光するように配置すれば足りるが、高効率に受光できる配置が好ましい。集光レンズ系が集光した測定光の集光中心は、光軸Oと中心Aの間となる。これを考慮して第1構成例のプローブ1Aにおいては、第2の光ファイバー系12は、第1の光ファイバー系10に対して光軸O側に隣接した配置とされている。結果的に第1構成例のプローブ1Aにおいては、第2の光ファイバー系12は、第1の光ファイバー系10と第3の光ファイバー系13の間に配置され、第2の光ファイバー系12の受光端は光軸Oにも重なるように配置されている。
第2構成例のプローブ1Bにおいては、ファイバーバンドル15の中側の光ファイバーが第3の光ファイバー系13とされ、その周辺の光ファイバーが第2の光ファイバー系12とされ、ファイバーバンドル15の半径が距離dより大きいことによって、第2の光ファイバー系12の受光端は光軸Oにも重なるように配置されている。
【0021】
第2の光ファイバー系12が接続される検出器と、第3の光ファイバー系13が接続される検出器とは、第2の光ファイバー系12が導光した光と、第3の光ファイバー系13が導光した光とそれぞれ別々に検出することができるように構成される。一つには、第2の光ファイバー系12が接続される検出器と、第3の光ファイバー系13が接続される検出器とを異なる検出器とすることで対応できる。また、検出器として1つの2次元CCDを適用する場合に、第2の光ファイバー系12の入力領域と、第3の光ファイバー系13の入力領域とを1つの2次元CCD上で異なる領域とすることで対応することもできる。また、第2の光ファイバー系12及び第3の光ファイバー系13を同一の検出器の同一の入力部に接続するが、機械的な切替機構によって、第2の光ファイバー系12の検出器への接続と、第3の光ファイバー系13の検出器への接続とを時間的に分離することで対応することもできる。
【0022】
以上のプローブ1(1A,1B)を用いて励起光を生体組織に照射することによって、生体組織で生じる蛍光の測定を行うことができる。
その場合、ベースユニット2の光源からの励起光は第1の光ファイバー系10によってプローブ1の先端部に導光される。第1の光ファイバー系10の出射端から出射した励起光は、集光レンズ系で集光されてプローブ1から出射し、生体組織表面の測定対象部位へ照射される。測定対象部位に照射された励起光により、病変状態に従って蛍光が発生する。発生した蛍光と生体組織表面での反射光が含まれる測定対象部位からの測定光がプローブ1に入射して集光レンズ系で集光され、第2の光ファイバー系12の受光端に入射する。さらに測定光が第2の光ファイバー系12によって導光される。
【0023】
第2の光ファイバー系12で導光された測定光は、ベースユニット2の検出器に入力される。蛍光は、広義には、X線や紫外線、可視光線が照射された被照射物が、そのエネルギーを吸収することで電子が励起し、それが基底状態に戻る際に余分なエネルギーを電磁波として放出するものである。ここでは、励起光によって、その波長とは異なった波長の蛍光が戻り光として生じるので、これを測定光として受光し、第2の光ファイバー系12を介してベースユニット2の検出器に導光し、スペクトル分布を分析することで、測定対象の病変状態を検知する。
なお、蛍光の測定に代えて、励起光に起因して生じるラマン散乱光を受光し測定することも可能である。
【0024】
第2の光ファイバー系12で導光された光には、プローブ内部由来の反射光も含まれてしまう。
以上の蛍光測定のように、照射光と異なった波長に測定光が生じる場合は、プローブ内部由来の反射光を測定光から波長分離することはできる。
一方、生体組織に光を照射して生体組織からの反射光を測定する場合には、測定光である生体組織由来の反射光と、プローブ内部由来の反射光とは波長域が異ならないから、プローブ内部由来の反射光を、第3の光ファイバー系13から得られる光のスペクトル情報に基づいて演算により除去する。
そのためには、第3の光ファイバー系13によってプローブ内部由来の反射光のみを受光して、第3の光ファイバー系13から得られる光のスペクトル情報がプローブ内部由来の反射光のスペクトルそのものとなるようにすることが理想となる。しかし、現実的には困難であるので、第3の光ファイバー系13によって受光されるプローブ内部由来の反射光の生体組織由来の反射光に対する強度比を高いレベルに確保することによって、演算結果の精度を向上する。プローブ1Aのファイバー配置によって、その強度比がどの程度確保可能かを確認する計算例を以下に開示する。
【0025】
本計算例においては、第1の光ファイバー系10に相当するコア径が0.10〔mm〕、開口数(NA)が0.22の1本の光ファイバーから出射光量1〔W〕の光を出射した時の反射光の分布を計算により求める。
図5に示すように集光レンズLを備える光学系を想定する。集光レンズLは、図3(a)の集光レンズ11に相当するもので、n=1.51633、ν=64.1の硝材よりなり、S1面の曲率半径が0.83〔mm〕、S2面が平面の、正のパワーを有するレンズである。
集光レンズLを挟んだ両側に、集光レンズLの光軸に垂直な面を想定する。一つは、面S1側に配置される面Cである。第1の光ファイバー系10として想定した光ファイバーの出射端は面Cに含まれるものとする。もう一つは面S2側に配置される面Dである。面Dは生体組織表面として想定されるもので完全拡散反射性を有する面とする。また、集光レンズLの光軸上で、面Cと面S1との間の距離を1.37〔mm〕とし、面Dと面S2との間の距離を1.7〔mm〕と設定する。面C上で集光レンズLの光軸と、第1の光ファイバー系10として想定した光ファイバーの出射端の中心との距離を0.25〔mm〕と設定する。
図6は、面Cでの反射光分布R1,R2を計算結果に基づき描画したものである。図6において、縦横座標の交点が光軸の位置に相当し、「×」印は、第1の光ファイバー系10として想定した光ファイバーの出射端の中心位置である。図6においては、光ファイバーの出射端の中心(「×」印)は、光軸から0.25〔mm〕離れており、その座標は(0.25,0)である。
生体反射光分布R1は、生体組織表面として想定した面Dからの反射光であって集光レンズLにより集光された光の面Cにおける分布を示す。内部反射光分布R2は、集光レンズLからの反射光の面Cにおける分布を示す。
【0026】
図6に示すように、集光レンズLの光軸と光ファイバーの出射端の中心とが離れている場合には、生体反射光分布R1の中心は、光軸より光ファイバーの中心(「×」印)の方向へ移動していることがわかる。光ファイバーの中心(「×」印)を基準にすると、生体反射光分布R1の中心は光軸側に偏在する。生体反射光分布R1の中心は、光軸に対しては光ファイバーの中心(「×」印)寄り、光ファイバーの中心(「×」印)に対しては光軸寄りであり、すなわち、光軸と光ファイバーの中心(「×」印)との間に位置する。なお、図5に示される光路L1、L2は、光軸と光ファイバーの出射端の中心とが離れている場合における面Cから面Dまでの光路を示すものである。
【0027】
一方、内部反射光分布R2の中心は、光軸を中心として光ファイバーの中心(「×」印)と逆側に、光軸と光ファイバーの中心(「×」印)との距離と同じく0.25〔mm〕離れている。すなわち、上述したように、第1の光ファイバー系10の出射端の中心Aの光軸Oを中心にした対称点Bに、集光レンズ系からの反射光が集中することが確認できる。
したがって、第1構成例のプローブ1A又は第2構成例のプローブ1Bにおける第3の光ファイバー系13によって高効率に集光レンズ系からの反射光を受光することができる。
第1構成例のプローブ1Aを本計算例の条件に当てはめた場合において、第3の光ファイバー系13としてコア径0.10〔mm〕で開口数(NA)が0.22の光ファイバーを対称点Bに相当する座標(−0.25,0)に中心をおいて配置するとき、この光ファイバーに受光される光のうち、集光レンズLからの反射光は1.35×10−2〔W〕、生体組織表面として想定した面Dからの反射光は2.4×10−4〔W〕の入射光量と計算結果を得た。
前者の後者に対する比は約57と大きい強度比が確保できる。したがって、第3の光ファイバー系13を対称点Bに設置することで、 集光レンズ系からの反射光を選択的に検出することが可能である。第2の光ファイバー系12は、このような事前計算によって得られた生体反射光分布R1の領域に対応させて所望の受光効率を達成するように配置する。また、本計算例の生体反射光分布R1から、第1構成例のプローブ1A、第2構成例のプローブ1Bによって効率良く生体組織からの反射光を受光できることがわかる。
各光ファイバー系10,12,13の出射面、受光面の面積の関する条件は限定されない。しかし、レンズ反射光を選択的に受光するという観点から、第3の光ファイバー系13の受光面積は、第1の光ファイバー系10の出射面積と同程度又はそれ以下であることが望ましい。
【0028】
次に、以上説明したプローブシステムにおいて、第2の光ファイバー系12により導光された光のスペクトル情報から、第3の光ファイバー系13により導光された光のスペクトル情報に基づき、集光レンズ系で反射された反射光の寄与を除去する演算内容について説明する。本演算を実行する演算装置がベースユニット2又は別機器に構成される。本演算装置は、ベースユニット2の検出器から第2の光ファイバー系12により導光された光のスペクトル情報と、第3の光ファイバー系13により導光された光のスペクトル情報とを取得し、以下の演算を実行する。
【0029】
ここでは、第3の光ファイバー系13により導光された光のスペクトル情報は、波長測定点数M(例えば1024個)の要素を持つベクトル情報として得られる。これをgとする。このときgはM×1の行列により表される。
第2の光ファイバー系12がN本あるとして、第2の光ファイバー系12に属する各受光ファイバーにより導光された光のスペクトル情報をS(i = 1,2,3,・・・N)とし、S=(S,S,S,・・・S)とする。このときSはM×Nの行列により表される。
ここで、Sは生体組織からの反射光と集光レンズ系からの反射光とが第2の光ファイバー系に属する受光ファイバーごとに異なる強度で足しあわされたスペクトル情報の集まりである。
g及びSは、測定毎に同時に得られ、生体組織からの反射光を測定する毎に常に新しい情報に置き換わる。
Sから集光レンズ系からの反射光の寄与を除去することが本発明の一つの目的である。そのために次式1によって表される演算を行う。
R=S−g(gS)/(gg)・・・(式1)
式1によって計算される行列R=(r,r,r,・・・r)の構成要素rはSから集光レンズ系からの反射光の寄与を除去したスペクトル情報となる。
R=gS−(gg)(gS)/(gg)=0となることより、rは、Sのgに直交する成分である。式1の演算は各Sについて、gに直交する成分のみを抜き出す作業となり、集光レンズ系からの反射光の寄与はrには含まれない。したがって、rを集光レンズ系からの反射光の寄与が除去された生体組織由来の測定光のスペクトル情報を示すものとして評価することができる。
【0030】
なお、上記演算においてSは、N本の光ファイバーからそれぞれ得られるスペクトルデータそのものでもよいが、スペクトルデータを以下の(1)〜(11)のような規則に従い正規化処理したデータを上記演算に適用することでもよい。
(1)Sの絶対値を一定値にする。
(2)Sの要素の最大値を一定値にする。
(3)Sの要素の分散を一定値にする。
(4)Sの要素の平均値を一定値にする。
(5)Sを標準化する。(平均0、標準偏差1)
(6)Sのi列目のベクトルの絶対値を一定値にする。
(7)Sのi列目のベクトルの最大値を一定値にする。
(8)Sのi列目のベクトルの分散を一定値にする。
(9)Sのi列目のベクトルの平均値を一定値にする。
(10)Sのi列目のベクトルに一定値を掛ける。
(11)Sのi列目のベクトルを標準化する。(平均0、標準偏差1)
【0031】
また、Sは第2の光ファイバー系12に属する光ファイバーにより導光された光を同光ファイバーの1本毎に検出したスペクトルデータでもよく、また第2の光ファイバー系12に属する複数本の光ファイバーにより導光された光をまとめて検出したスペクトルデータでも良い。
【0032】
以上の演算を適用することで、生体組織に対する測定に先だって事前にプローブ内部由来の反射光特性を測定する煩雑さが解消され、また、事前に測定したプローブ内部由来の反射光特性を用いる場合に比較して、生体組織に対する測定と同時に測定したプローブ内部由来の反射光特性を用いるので、光源等の経時的な変化の影響を受けず、より精度良く生体組織由来の測定光を測定することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 プローブ
2 ベースユニット
3 内視鏡本体
4 内視鏡プロセッサ
9 プローブチューブ
10 第1の光ファイバー系
11 集光レンズ
12 第2の光ファイバー系
13 第3の光ファイバー系
14 フェルール
15 ファイバーバンドル
A 出射端の中心
B Aの対称点
O 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織の測定対象部位に照射光を照射して測定対象部位から放射される測定光を受光するための光学系を備えて当該測定光を測定するためのプローブにおいて、
前記照射光を導光するための第1の光ファイバー系と、
前記プローブの先端部に設けられ、前記第1の光ファイバー系から出射した前記照射光が照射され、かつ、前記測定光を集光する正のパワーを有する集光レンズ系と、
前記集光レンズ系が集光した前記測定光を受光して導光するための第2の光ファイバー系と、
前記集光レンズ系で反射された反射光を受光して導光するための第3の光ファイバー系と、を備え、
前記集光レンズ系の光軸を中心にした前記第1の光ファイバー系の出射端の中心の対称点に前記第3の光ファイバー系の受光端が配置されたプローブ。
【請求項2】
一塊に束ねられた光ファイバー束を備え、
前記第3の光ファイバー系は、前記光ファイバー束の一部の光ファイバーにより構成され、
前記第2の光ファイバー系は、当該光ファイバー束における前記一部に対する残部の光ファイバーにより構成された請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載にプローブの前記第2の光ファイバー系により導光された光のスペクトル情報から、前記第3の光ファイバー系により導光された光のスペクトル情報に基づき、前記反射光の寄与を除去する演算装置を備えたプローブシステム。
【請求項4】
前記第2の光ファイバー系により導光された光のスペクトル強度のデータ列をベクトルSとし、
前記第3の光ファイバー系により導光された光のスペクトル強度のデータ列をベクトルgとして、
前記演算装置は、Sのうちgと直交する成分を取得することで、前記反射光の寄与が除去された生体組織由来の前記測定光のスペクトル情報を得ることを特徴とする請求項3に記載のプローブシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−99486(P2013−99486A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246028(P2011−246028)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(303000408)コニカミノルタアドバンストレイヤー株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】