説明

プーリの接触面

【目的】高負荷での運転が可能な機械的強度を有して、伝動ベルトとの運動伝達を正確・確実に行える摩擦・磨耗に制御・設定される熱硬化性樹脂複合体からなるプーリの接触面が提供される。
【構成】プーリの接触面が、ガラス繊維含有の母材熱硬化性樹脂に対して強度低下に働く硬質球状微粒子と強度増大に働く硬質球状微粒子を組み合わせて含有して、その熱硬化性樹脂複合体を90MPa以上の引張り強度と170MPa 以上の曲げ強度を維持して、金属プーリの2〜15倍の摩耗値(mm/分)に対応する摩擦で伝動ベルトに接触する面にされて、高負荷での運転が可能な機械的強度の維持と、伝動ベルトとの運動伝達を正確・確実な協働が可能にされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、高負荷での運転が可能な機械的強度を有して、多様な伝動ベルトと協動による運動伝達を正確に行える磨耗領域(例えば、金属プーリよりも相当に大きい磨耗領域)に制御・設定された熱硬化性樹脂複合体からなるプーリの接触面に関する。
【背景技術】
【0002】
各種装置・器具(例えば、変速装置、空調装置、車両エンジン等)に装備される伝動ベルトのプーリは、軽量化・小型化・低コスト化等が容易な樹脂プーリ(特に、強度の要請から熱硬化性樹脂プーリ)になっている。樹脂プーリは、一般的には、熱硬化性樹脂プーリが環状の金属製ボスに外嵌された構造になっている。なお、以下において、特に言及しない限り、「樹脂プーリ」の用語を金属製ボスに外嵌する方式及びその他の方式を問わず、少なくとも、伝動ベルトとの接触面が熱硬化性樹脂複合体からなるプーリの意味で使用する。
樹脂プーリは、フェノール樹脂が、成形性・機械的強度・経済性等において優位であるところから、ガラス繊維・無機粉末・有機繊維・エラストマー・固体潤滑材から選択した材料をフェノール樹脂母材に充填して、プーリの使用目的に応じた特性が付与される(例えば、特許文献1〜5等を参照)。
表1は、従来のフェノール樹脂母材の樹脂プーリの原料組成を示すもので、表中の数値は、全体重量を基準とする重量%である。
【0003】
【表1】

【0004】
表1に示すように、寸法安定性及び耐熱性の付与を目的とする樹脂プーリの提案では、ガラス繊維10〜30重量%と無機粉末(シリカ・ジルコニア・ガラスビーズ等)30〜70重量%の充填によって、機械的強度と耐摩耗性とのバランスを保持し(特許文献1の段落番号0009・0010を参照)、自己潤滑性樹脂(実施例は、全て、フッ素樹脂)1〜5重量%の充填によって低磨耗にされている(特許文献1の段落番号0012を参照)。
また、無機粉末30〜70重量%の多量充填で生ずる破壊磨耗粉による磨耗増加は、無機粉末のモース硬度を6.5以上にすることで破壊を防止し、球状粒子の無機粉末の使用で成形時の流動性低下を防止している(特許文献1の段落番号0011を参照)。
一方、砂塵・高温下で運転される自動車エンジン等に使用する耐熱衝撃性が必要な樹脂プーリでは、無機粉末3〜7重量%をガラス繊維の間隙に充填してプーリ表面の耐摩耗性を改善し、有機繊維3〜7重量%とエラストマー3〜7重量%の充填により耐熱衝撃性を向上させて、ガラス繊維を45重量%以下にして伝動ベルトへの攻撃性を低下させている(特許文献2の段落番号0006・0010を参照)。
【0005】
特許文献1 特開2002−265752号公報
特許文献2 特許第3192082号公報
特許文献3 特公平6−45200号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂プーリの接触面は、運転時に負荷に耐える力学的特性(機械的性質等)と、伝動ベルトと協働に適する条件(例えば、伝動ベルトの特性等)に適合する必要がある。しかし、従来にあっては、樹脂プーリの接触面及び複合体構造の両面からの検討・提案が殆ど行われておらず、従来の提案(例えば、特許文献1〜3)の樹脂プーリは、いずれもが、樹脂プーリを構成する複合体の磨耗が、原材料の集団との物性から把握されている。
【0007】
そのために、樹脂プーリの接触面の摩擦・磨耗を与ええる条件を伝動ベルトとの協働との関連から把握・検討する等の発想が存在せず、樹脂プーリの接触面の磨耗・摩擦を制御して最適化するには、下記(i)〜(v)等に代表される問題点が存在していた。
(i)従来の提案では、ガラス繊維を10〜45重量%充填して、樹脂プーリを構成の複合体の機械的強度を確保している(表1の特許文献1〜3の欄を参照)。しかし、ガラス繊維を31重量%含有しても、機械的強度低下に働く無機粉末等を共存させるので155MPaの曲げ強度に留まって(特許文献1の表2の実施例2を参照)、プーリの運転に耐える機械的強度が不足する。ガラス繊維10重量%の含有では、その曲げ強度が130MPaに低下する(特許文献1の表2の実施例2を参照)。
(ii)従来の提案は、無機粉末を多量充填する提案(特許文献1を参照)と無機粉末を少量充填する提案(特許文献2を参照)とに二分される。
多量充填の提案(特許文献1を参照)では、多量の無機粉末(実施例は、全て、シリカ粉末を使用)の充填によって機械的強度と耐摩耗性とをバランスさせ(特許文献1の段落番号0010を参照)、少量充填の提案(特許文献2を参照)では、少量(3〜7重量%)のシリカ粉末をガラス繊維間隙に埋めて樹脂プーリの接触面を平滑化して低磨耗にする(特許文献2の段落番号0006を参照)。
なお、無機粉末の多量充填により生ずる樹脂プーリの接触面の磨耗増加は、
フッ素樹脂等の固体潤滑樹脂により防止されている(特許文献1を参照)。
(iii)従来の提案は、フッ素樹脂等(特許文献1の段落番号0013を参照)及びエラストマー(特許文献2の段落番号0006・0008を参照)等の固体潤滑樹脂の充填による摩耗低下(特許文献1及び2を参照)等が採用されている。しかも、従来の提案では、樹脂プーリの接触面を伝道ベルトと好適な接触を与える摩擦・磨耗に制御・設定することが困難である。
【0008】
(iv)従来の提案は、無機化合物の物理化学的条件の相違を無視して、無機化合物の集団を一括にして無機粉末として把握し、概念としての無機粉末による摩擦・磨耗を検討している(例えば、特許文献1〜3等を参照)。
しかし、樹脂プーリの接触面は、伝動ベルトとの協働性を正確に与える摩擦・磨耗が必要であって、従来にあっては、それらについて検討されていない。
(v)樹脂プーリの接触面は、伝動ベルトの面粗さ・平滑性・凹凸性及びプーリの運転条件等に適合する摩擦・磨耗に設定することが必要である。しかし、従来の提案では、樹脂プーリの接触面が伝動ベルトとの協働から検討されていない。
本発明は、樹脂プーリの接触面に高耐負荷性を付与して、伝動ベルトとの協働性(面粗さ・平滑性・凹凸性及び速度等)に適合する摩擦・摩耗に制御・設定する検討が本発明者により実験主体に行われて、多くの新たな事実が見出されて本発明が創案された。本発明は、以下の(イ)〜(ハ)を発明の目的とする。
【0009】
(イ)本発明は、耐負荷性(特に、力学的強度)を保持して、伝動ベルトの特性(例えば、面粗さ・平滑性・凹凸性等)に適合する摩擦・磨耗に制御・設定されるプーリの接触面を提供すること、を目的とする。
(ロ)本発明は、伝動ベルトとの協働条件(例えば、運転速度、制御性等)に適合する摩擦・磨耗に制御・設定されるプーリの接触面を提供すること、を目的とする。
(ハ)本発明は、自己潤滑性材を含有することなく、プーリの接触面の摩擦・磨耗を所望範囲に正確に制御・設定されるプーリの接触面を提供すること、をも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】

本発明によるプーリの接触面は、ガラス繊維及び下記(A)に定義の硬質球状微粒子が熱硬化性樹脂母材に含有する熱硬化性樹脂複合体から、90MPa以上の引張り強度及び170MPa 以上の曲げ強度を維持して、金属プーリの2〜15倍の摩耗値(mm/分)に対応する摩擦で伝動ベルトに接触する面にされていること、を特徴とする。
A)硬質球状微粒子
硬質球状微粒子は、ガラス繊維を含有の該母材の強度を低下させる硬質球状微粒子と、ガラス繊維を同条件で含有の該母材の強度を増大させる硬質球状微粒子との組み合わせからなる。
【発明の効果】
【0011】

本発明によって、下記(a)〜(f)等に代表される効果が得られる。
(a)プーリの接触面が、高耐負荷性(例えば、高機械的強度等)を保持して、伝動ベルトの特性(例えば、面粗さ・平滑性・凹凸性等)に対する適合性を有して、伝動ベルトに対して最適な条件で接触する。
すなわち、金属プーリの2〜15倍の摩耗値(mm/分)(ピンーオンディスク試験法による)に対応する摩擦に制御・抑制されたプーリ接触面が、伝動ベルトに最適に摩擦状態で接触することが可能になる。
(b) プーリの接触面が、多様な伝動ベルトと正確・確実に協働することが可能になる。
(c)プーリの接触面が、自己潤滑性樹脂の含有によることなく、所望範囲の摩擦・磨耗に制御・設定される。
(d)プーリの接触面が、成形性を阻害する物質を含まない材料から成形されるので所望形態に形成するのが容易である。
(e)プーリ本体及び接触面を伝動ベルトの運転条件(例えば、強度、面粗さ、伝動速度等)に最適に適合させるのが容易である。
(f)プーリの接触面は、機械的強度を低下させる硬質球状微粒子の充填量を減らせるので、伝動ベルトの損傷防止が容易になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】

〔本発明の概要〕:
プーリの接触面は、ガラス繊維により母材樹脂を強化して90MPa以上の引張り強度及び170MPa 以上の曲げ強度からなる耐負荷性(力学的強度)を有し、硬質球状微粒子組み合わせの充填による熱硬化性樹脂複合体から、ピンーオンディスク試験法(JISK7218−86)により測定の摩耗値(mm/分)を金属プーリの2〜15倍の摩耗値にして、伝動ベルトとの協働に適合する摩擦で伝動ベルトに接触する面にされている。
プーリの接触面の摩耗値は、例えば、ピンーオンディスク試験装置のディスク上にサンドペーパー(240番)を取り付けて、面圧0.2MPa、回転速度6m/分で1分間回転させる条件で測定して、金属プーリの2〜15倍の摩耗値にされる。金属プーリの摩耗値は、例えば、0.01〜0.06mm/分である場合に0.08〜0.50mm/分の摩耗値になる場合である。本発明の金属プーリの2〜15倍の摩耗値(mm/分)も、同様の測定条件で特定することが可能である。
なお、プーリの接触面が、金属プーリの2〜15倍の摩耗値であると、伝動ベルトとの協働に適合する摩擦で伝動ベルトに接触する面になることは、実験的事実による。
プーリの接触面は、層状結晶構造の固体潤滑材(グラファイト及び二硫化モリブデン等)・自己潤滑性樹脂(例えば、フッ素樹脂等)等の潤滑性付与材由来の摩擦・磨耗の制御困難性が排除されて本発明の磨耗・摩擦の範囲に制御される。また、有機繊維・針状結晶体(例えば、ウイスカ等)・不定形微粒子・非硬質球状微粒子由来の摩擦・磨耗の制御阻害及び伝動ベルト損傷の因子が排除されている。
なお、以下において、特に言及しない限り、「複合体」を「本発明の熱硬化性樹脂複合体」の意味で使用する。
【0013】
<プーリを構成する複合体>:
プーリを構成する複合体は、ガラス繊維の充填によって90MPa以上の引張り強度(特に、100MPa以上の引張り強度)と170MPa 以上の曲げ強度(特に、180MPa 以上の曲げ強度)が付与されている。
ガラス繊維の上限量は、複合体の全体容量に対して、28容量%程度まで可能であって、伝動ベルトに対する攻撃、硬質球状微粒子の磨耗制御性の保持等との関係からも決めることが可能である。ただし、硬質球状微粒子の摩擦・磨耗の制御性保持の点からは、ガラス繊維が複合体容量の20容量%であると、プーリの接触面の摩擦・磨耗の制御・抑制が容易になる。ガラス繊維の下限量は、90MPa以上の引張り強度及び170MPa 以上の曲げ強度を与える量である。
【0014】
<母材熱硬化性樹脂>:
母材の熱硬化性樹脂は、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂若しくはポリウレタン樹脂等であって、特に、耐熱性・力学的強度・寸法安定性・耐衝撃性・経済性での利点からは、フェノール樹脂が適している。フェノール樹脂は、耐熱性・耐衝撃性の点からレゾール型の使用が適しているが、ノボラック型も使用可能である。母材熱硬化性樹脂は、変性型及び共重合型等の分子構造については特に制約がない。
【0015】
<硬質球状微粒子>:
硬質球状微粒子の「硬質」は、伝動ベルトから高負荷が付与されても微粒子の球状が同一に維持される硬質(具体的には、硬度)を意味する。硬質球状微粒子の球状が同一に維持されて接触面の制御された摩擦・磨耗が同一に維持される。従って、硬質球状微粒子としては、無機成分を熱溶解・熱溶融して冷却固化して一体構造の球状に造粒した造粒体(例えば、熱溶射法による造粒体)が適している。硬質球状微粒子の「球状」は、摩擦・磨耗に対する無方向性が最大化する形状(すなわち、真円若しくは真円近似の断面からなる球体)であると、硬質球状微粒子の摩擦・磨耗の制御性が向上する。
【0016】
硬質球状微粒子は、例えば、無機成分からなるモース硬度7以上の真円若しくは真円近似の断面の球状造粒体が適している。樹脂複合体用の無機粉末強化材には、ガラスビーズ、アルミナ、シリカその他が公知であって、多様な形状及び強度を有する破砕天然物及び合成物が存在する。しかし、本発明では、真円若しくは真円近似の断面から造粒した一体構造の球状造粒体で、高負荷に対して形状変化が生じない高強度の球状造粒体(例えば、高モース硬度の球状造粒体)が適している。ガラスビーズ、アルミナその他の無機質粉末についても同様である。硬質球状微粒子は、例えば、10〜150ミクロン(好ましくは、40〜100ミクロン)の平均粒径であれば、少量の充填によって、プーリの複合体の磨耗値を金属プーリの2〜15倍(例えば、0.08〜0.50m/分)に制御して、プーリの接触面が伝動ベルトとの協働に適合する摩擦を有する接触面にするのが容易である。
【0017】
<硬質球状微粒子の組み合わせ>:
硬質球状微粒子は、ガラス繊維含有の母材熱硬化性樹脂に充填した場合にその強度を低下させる硬質球状微粒子(すなわち、強度低下性の硬質球状微粒子)と、同条件の母材に充填した場合にその強度を増大させる硬質球状微粒子(すなわち、強度増大性の硬質球状微粒子)との組み合わせで使用される。その組み合わせでの充填によりプーリの接触面の力学的強度を90MPa以上の引張り強度及び170MPa 以上の曲げ強度に保持して、プーリの接触面の磨耗値を本発明の範囲に制御して、伝動ベルトとの協働に適合する摩擦の接触面にされる。
硬質球状微粒子は、強度低下性及び強度増大性のいずれもが約100〜1300個/複合体1mm3 程度の含有量であると、接触面の摩擦・磨耗の制御に最適である。硬質球状微粒子は、全体容量がガラス繊維容量の1/2若しくはそれ以下の容量であると接触面の摩擦・磨耗の制御に最適である(後記実施例・比較例を参照)。強度低下性と強度増大性の硬質球状微粒子の硬度が、モース硬度で2以上相違すると、組み合わせた硬質球状微粒子による摩擦・磨耗の制御が容易になる。なお、硬質球状微粒子の強度低下性と強度増大性は、条件(例えば、粒径、組成、硬度その他)によって相違するので、充填に際しては、実験によって判別する。
【0018】
<接触面の制御>:
接触面は、強度増大性と強度低下性の硬質球状微粒子の組み合わせが複合体の磨耗に対して示す規則的相関を利用して、金属プーリの摩耗値(例えば、ピンーオンディスク試験法による摩耗値)の2〜15倍の摩耗値に制御・設定される。例えば、金属プーリの摩耗値が0.01〜0.06mm/分(ピンーオンディスク試験法)の場合に、接触面が0.08〜0.50mm/分の摩耗値に制御される。
接触面の制御は、具体的には、複合体の中〜高磨耗領域で規則的相関を示す強度増大性と強度低下性の硬質球状微粒子の組み合わせを実験で確認しておいて、複合体の引張り強度・曲げ強度が大きくなるように硬質球状微粒子の組み合わせの量的比率(例えば、容量比率)を変える等である。
モース硬度7〜9程度で40〜150ミクロンの平均粒径の硬質ガラス球状微粒子(強度増大性)と、モース硬度9〜11程度で40〜150ミクロンの平均粒径の硬質アルミナ球状微粒子(強度低下性)を組み合わせると、接触面を金属プーリの摩耗値の2〜15倍に制御・設定するのが容易である。
硬質アルミナ球状微粒子と硬質ガラス球状微粒子の容量比が、約0.5(ガラス粒子)/1(アルミナ粒子)〜15/1であると、硬質アルミナ球状微粒子の割合を少量にして所望摩耗値に制御するのが容易になる。
【0019】
<プーリ>:
プーリは、その形状・構造について特に制約がなく、一般的に樹脂プーリと称される構造のプーリが全て包含される。従って、熱硬化性樹脂プーリが環状の金属製ボスに外嵌された構造、全体が本発明の複合体からなる構造、接触面のみが本発明の複合体からなる構造及びそれ以外の構造であってもよく、プーリの接触面が、少なくとも、本発明の複合体から構成であればよい。なお、複合体及びプーリの製造法は、公知の方法及び本発明のために新たに創造した方法のいずれでもよい。
【0020】
なお、本発明においては、本発明の目的に沿うものであって、本発明の効果を特に害さない限りにおいては、改変あるいは部分的な変更及び付加は任意であって、いずれも本発明の範囲である。次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、実施例は例示であって本発明を拘束するものではない。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
モース硬度7で真円断面のガラスビーズ(強度増大性の硬質球状微粒子として機能する)と、モース硬度9で熱溶射法による断面真円のアルミナ造粒体(強度低下性の硬質球状微粒子として機能する)をガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体に充填して、その複合体の機械的物性及び磨耗と、硬質球状微粒子の単独充填による磨耗制御性とを測定・観察した。次の表2は、その測定結果を示している。
表2において、試料1〜4は、ガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体にアルミナ造粒体のみが充填されている。試料5及び6は、ガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体にガラスビーズのみが充填されている。表2中の試料1の硬質球状微粒子の欄の「5・アルミナ・50μ」は、平均粒径が50μの硬質アルミナ造粒体が5容量%充填されている意味である。硬質球状微粒子の欄の他の表示も読み方は同じである。表2中のフェノール樹脂の欄の「残量」は、フェノール樹脂複合体の容量(すなわち、100容量%)からガラス繊維及び硬質ガラス球状微粒子との合計容量%を引いた容量%を表している。従って、表2の試料1の、フェノール樹脂の残量は、ガラス繊維20容量%とアルミナ造粒体5容量%を複合体(すなわち、100容量%)から引いた残りの75容量%である。
磨耗値(mm)は、ピンーオンディスク試験装置のディスク上にサンドペーパー(240番)を取り付けて、面圧0.2MPa、回転速度6m/分で1分間回転させた磨耗を表示している。表中の「GF」はガラス繊維を示し、「GF」の欄の20は、20容量%を示している。
【0022】
【表2】

【0023】
表2によれば、硬質アルミナ造粒体の平均粒径が大きくなるとガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体が低磨耗化する傾向があった。硬質アルミナ造粒体のみを充填すると、ガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体の機械的強度が低下して、プーリの接触面を90MPa以上の引張り強度及び170MPa 以上の曲げ強度にするのが困難になる。特に、耐高負荷性のプーリの接触面に要求される180MPa以上の曲げ強度と100MPa以上の引張り強度を備えることが困難である。
また、硬質アルミナ造粒体の平均粒径の変化及び充填量と、ガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体の磨耗とには、必ずしも規則的相関が見られなかった。
【0024】
<実施例2>
モース硬度7で断面真円のガラスビーズ(強度増大性の硬質球状微粒子)とモース硬度9で熱溶射法による断面真円のアルミナ造粒体(強度低下性の硬質球状微粒子)との両方を容量比率を変えてガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体に含有させて、磨耗・機械的物性・磨耗制御性の測定・観察を行った。
次の表3は、その測定結果を示している。表3中の「50v%〜90v%」は、ガラスビーズとアルミナ造粒体との合計容量中のガラスビーズの容量%を示している。表3中の引張り強度はJISK7161に準拠し、曲げ強度はJISK7203に準拠した。
【0025】
【表3】

【0026】
表3によれば、強度増大性と強度低下性の硬質球状微粒子を組み合わせて充填すると、ガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体が、90MPa以上の引張り強度及び170MPa 以上の曲げ強度を発現して、ガラスビーズとアルミナ造粒体(すなわち、強度増大性と強度低下性の硬質球状微粒子の組み合わせ)に対して磨耗が規則的相関を示した。また、樹脂複合体の磨耗が、当初予定した、0.15〜0.25mmに制御できて、制御性が良好であった。
【0027】
<実施例3>
実施例2と同様のガラスビーズ及びアルミナ造粒体を組み合わせてガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体に含有させて、実施例1と同条件で磨耗値を測定し、機械的強度も測定した。次の表4は、その測定結果を示している。表4中の、「母材」はフェノール樹脂を示し、「GF」はガラス繊維を示し、「ガラスB」はガラスビーズを示し、「アルミナ」はアルミナ造粒体を示している。「磨耗値」mmで表示される。「引張り」は引張り強度(MPa)を示し、「曲げ」は曲げ強度(MPa)を示している。表4中の、母材欄の「70」及び「GF」欄の「20」は容量%で示し、「ガラスB」及び「アルミナ」の各欄の「5・50ミクロン」は、「5容量%・50ミクロンの平均粒径」を示している。
【0028】
【表4】

【0029】
表4によれば、ガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体が、90MPa以上の引張り強度及び170MPa 以上の曲げ強度を発現して、強度増大性と強度低下性の硬質球状微粒子を組み合わせによりガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体の磨耗値が当初の制御目標の0.15〜0.25mm内であった。なお、3種の市販の金属プーリの磨耗値を同じ条件で測定すると0.03mmであった。
【0030】
<比較例>
表5の成分組成のガラス繊維強化のフェノール樹脂複合体を調製した。表5中の「母材」及び「GF」の欄の数字の意味も表4と同様である。表5の充填材の欄の「5・カオリン」は、カオリン5容量%の充填を示す。試料2は、NBRゴム10容量%及びカオリン5容量%の充填を示す。試料5・6は、他の繊維として、アラミド繊維(AF)10容量%等の充填を示す。磨耗の測定法及び単位は表1〜4と同様である。
【0031】
【表5】

【0032】
表5によれば、有機繊維(アラミド繊維等)、天然系充填材(カオリン、炭カル)無機化合物(ホウ酸アルミ)若しくは固体潤滑材(グラファイト)を充填すると、複合体を本発明の領域の磨耗に制御が不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0033】

本発明によって、高負荷に耐える力学的強度を保持して、伝動ベルトの特性に適合し、かつ、伝動ベルトとの協働条件に適合する摩擦・磨耗に制御・設定されるプーリの接触面が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維及び下記(A)に定義の硬質球状微粒子が熱硬化性樹脂母材に含有する熱硬化性樹脂複合体から、90MPa以上の引張り強度及び170MPa 以上の曲げ強度を維持して、金属プーリの2〜15倍の摩耗値(mm/分)に対応する摩擦で伝動ベルトに接触する面にされていること、を特徴するプーリの接触面。
(A)硬質球状微粒子
硬質球状微粒子は、ガラス繊維を含有の該母材の強度を低下させる硬質球状微粒子と、ガラス繊維を同条件で含有の該母材の強度を増大させる硬質球状微粒子との組み合わせからなる。
【請求項2】
下記(1)〜(6)の特徴の一つ若しくは複数を備えること、を特徴とする請求項1に記載のプーリの接触面。
(1)前記母材の熱硬化性樹脂が、フェノール樹脂からなる。
(2)前記硬質球状微粒子は、それぞれが、実質的に、100〜1300個/複合体1mm3の量からなる。
(3)前記硬質球状微粒子は、全体容量がガラス繊維容量より少ない容量からなる。
(4)前記接触面は、180MPa以上の曲げ強度を有している。
(5)前記接触面は、100MPa以上の引張り強度を有している。
(6)前記摩耗値が、ピンーオンディスク試験装置のディスク上にサンドペーパー(240番)を取り付けて、面圧0.2MPa、回転速度6m/分で1分間回転させる条件で行うピンーオンディスク試験法により測定する金属プーリの摩耗値が0.01〜0.06mm/分である場合に0.08〜0.50mm/分の摩耗値からなる
【請求項3】
下記(1)〜(5)の特徴の一つ若しくは複数を備えること、を特徴とする請求項1若しくは2に記載のプーリの接触面。
(1)前記硬質球状微粒子は、モース硬度差が2以上相違する組み合わせから成る複数種の硬質球状微粒子からなる。
(2)前記プーリは、熱硬化性樹脂複合体のプーリが環状の金属製ボスに外嵌された構造のプーリからなる。
(3)前記硬質球状微粒子は、真円若しくは近似の円の断面の球体からなる。
(4)前記硬質球状微粒子は、伝動ベルトからの負荷に対して同一の球状が維持可能な硬度を備えている。
(5)前記硬質球状微粒子は、その全体容量が、ガラス繊維の容量の1/2若しくはそれ以下の容量からなる。

【公開番号】特開2006−316854(P2006−316854A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138672(P2005−138672)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】