説明

プーリユニット

【課題】プーリおよび無端ベルト間のミスアライメントを吸収してベルト鳴き現象を抑制するとともに、回転駆動系においてエンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過することがなくベルト変動が大きくなるのを抑制できるプーリユニットを提供する。
【解決手段】プーリを内周リングおよび外周リングによって形成し、外周リングの外周面にベルト溝部を設け、両リングを軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けるとともにコイルバネによって連結する。内周リングに対し外周リングが軸方向変位することによってミスアライメントを吸収するとともに、内周リングに対し外周リングが円周方向変位することによってトルク変動を吸収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動系において、回転トルクを伝達する基本的機能のほかに、プーリおよび無端ベルト間に生じるミスアライメントを吸収する機能、ならびに回転トルクに含まれるトルク変動を吸収する機能を備えるプーリユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から図4に示すように、ハブ51の外周側にゴム状弾性体52を介して振動リング(プーリ)53を連結するとともに振動リング53の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部54を設けたトーショナルダンパが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
ここで、自動車等で使用する補機を駆動するための無端ベルトには、作動時に異音が発生する所謂ベルト鳴き現象が発生することがあり、この現象は、無端ベルトおよびプーリ溝部間のスティックスリップによるものが多く、その原因の1つに、プーリのミスアライメントがある。これは、図5に示すように無端ベルト55がプーリ53に噛み込む際にミスアライメントがあることによって、無端ベルト55がプーリ溝部54に対し斜めから侵入し正常に噛み込む過程で、スティックスリップが発生するためである(特許文献2参照)。このため従来はミスアライメントを極力小さくすべく溝部位置公差を厳しく管理する必要があった。
【0004】
また、他の従来技術として図6に示すように、ハブ61の外周側にカップリングゴム62を介してプーリ63を連結したトルク変動吸収ダンパが知られており、このトルク変動吸収ダンパは、ハブ61をもって回転軸に装着されるとともにプーリ63の溝部64に無端ベルトを巻架することにより、回転軸から各種の補機などへ回転トルクを伝達する機能を発揮し、併せて回転トルクに含まれるトルク変動を吸収する機能を発揮する(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、上記従来のトルク変動吸収ダンパには、エンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過し、その際ベルト変動が大きくなると云う問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−151217号公報
【特許文献2】特開2007−198492号公報(図7)
【特許文献3】特開2011−033151号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、溝部位置公差を厳しく管理しなくてもプーリおよび無端ベルト間のミスアライメントを吸収して低減させることができ、もってベルト鳴き現象の発生を抑制することができ、併せて、回転駆動系においてエンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過することがなく、もってベルト変動が大きくなるのを抑制することができるプーリユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1によるプーリユニットは、無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリを内周リングおよび外周リングの組み合わせによって形成し、前記外周リングの外周面に前記無端ベルトを巻架するための溝部を設け、前記内周リングおよび外周リングを軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けるとともに、一端を前記内周リングに連結するとともに他端を前記外周リングに連結したコイルバネによって連結し、前記内周リングに対して前記外周リングが前記軸方向変位することによって前記外周リングおよび無端ベルト間のミスアライメントを吸収し、このとき前記コイルバネは軸方向バネ性を発揮する復帰バネとして作用し、前記内周リングに対して前記外周リングが前記円周方向変位することによってトルク変動を吸収し、このとき前記コイルバネは円周方向バネ性を発揮するカップリングバネとして作用することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項2によるプーリユニットは、上記した請求項1記載のプーリユニットにおいて、前記内周リングおよび外周リング間にラジアルベアリングが介装されていることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項3によるプーリユニットは、上記した請求項1または2記載のプーリユニットにおいて、前記外周リングが前記内周リングの外周位置から軸方向一方へ脱落することがないように抜け止め部が設けられ、前記外周リングは前記コイルバネにより前記抜け止め部へ向けて弾性付勢され、前記抜け止め部および外周リング間にスラストベアリングが介装されていることを特徴とする。
【0011】
更にまた、本発明の請求項4によるプーリユニットは、上記した請求項1、2または3記載のプーリユニットにおいて、当該プーリユニットは、回転軸に固定するハブにゴム状弾性体を介して装着され、このとき当該プーリユニットはトーショナルダンパにおける振動リングとして作用することを特徴とする。
【0012】
上記構成を備える本発明のプーリユニットにおいては、無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリが内周リングおよび外周リングの組み合わせによって形成され、外周リングの外周面に無端ベルトを巻架するための溝部が設けられ、内周リングおよび外周リングが軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けられるとともに、一端を内周リングに連結するとともに他端を外周リングに連結したコイルバネによって連結されているために、上記図5のようにプーリおよび無端ベルト間にミスアライメントが存在すると、外周リングが無端ベルトの張力によって引っ張られるかたちにて内周リングに対して軸方向変位し、これによりミスアライメントが吸収される。このときコイルバネは、軸方向バネ性を発揮する復帰バネとして作用し、すなわち軸方向変位した外周リングを自動で初動位置(原位置)に復帰動させる。
【0013】
また、本発明において、コイルバネは、軸方向バネとしてのみならず、円周方向バネとしても作用し、これによりトルク変動を吸収することが可能とされている。
【0014】
すなわち本発明においては、上記したように無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリが内周リングおよび外周リングの組み合わせによって形成され、外周リングの外周面に無端ベルトを巻架するための溝部が設けられ、内周リングおよび外周リングが軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けられるとともに、一端を内周リングに連結するとともに他端を外周リングに連結したコイルバネによって連結されているために、内周リングおよび外周リングはコイルバネを捩りながら(弾性変形させながら)、円周方向に相対変位(相対回転)することが可能とされており、コイルバネが大きく捩れて内周リングの外周面または外周リングの内周面に密着してそれ以上捩れなくなると、両リングが直結状態となって供回り(同時回転)する。したがって前者の、コイルバネが捩れて両リングが相対変位する状態にてエンジンアイドリング時の小振幅トルク変動を受けるとともに、後者の、コイルバネがそれ以上捩れず両リングが直結・供回りする状態にてエンジン起動時の大振幅トルク変動を受けるようにバネ特性を設定することにより、エンジン起動時に通過する共振点を実質的になくすことが可能となる。したがってこのときコイルバネは、円周方向バネ性を発揮するカップリングバネとして作用し、従来技術におけるカップリングの代わりをなす。
【0015】
本発明において、内周リングおよび外周リングは軸方向および円周方向変に相対変位するので、両リングの同軸度を確保するとともに相対変位を円滑化するため、両リングの間にラジアルベアリングを介装することが好ましい。
【0016】
また、外周リングが内周リングの外周位置から軸方向一方へ脱落することがないように抜け止め部を設けることが好ましく、この場合には、外周リングをコイルバネにより抜け止め部へ向けて弾性付勢する(コイルバネは1個使いを基本とする)。
【0017】
また、このように外周リングをコイルバネにより抜け止め部へ向けて弾性付勢すると、外周リングが相対回転時に抜け止め部と摺動するので、相対回転を円滑化するため、抜け止め部と外周リングの間にスラストベアリングを介装することが好ましい。
【0018】
また、本発明のプーリユニットは、その構成部品であるコイルバネのバネ性によってトルク変動を吸収するために、カップリングゴムを必要とせず、ユニット単体にて回転駆動系の任意の箇所に装着することができる。また、以下のように組み合わせることにより、ハブをもって回転軸に装着されるトーショナルダンパとすることもできる。
(1)当該プーリユニットをゴム状弾性体を介してハブに装着し、これにより当該プーリユニットならびにハブおよびゴム状弾性体を備えるトーショナルダンパを形成する。この場合、当該プーリユニットはトーショナルダンパにおける振動リングとして作用する。
(2)当該プーリユニットをゴム状弾性体および振動リングを介してハブに装着し、これにより当該プーリユニットならびにハブ、ゴム状弾性体および振動リングを備えるトーショナルダンパを形成する。この場合、当該プーリユニットはトーショナルダンパにおける振動リングと一体の第2振動リングとして作用する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以下の効果を奏する。
【0020】
すなわち、以上説明したように本発明のプーリユニットによれば、プーリおよび無端ベルト間にミスアライメントが存在するときに、外周リングが無端ベルトの張力によって引っ張られるかたちにて内周リングに対して軸方向変位するため、これによりミスアライメントを吸収することができる。したがって従来のように溝部位置公差を厳しく管理しなくてもミスアライメントを低減させることができ、もってベルト鳴き現象が発生するのを抑制することができる。また、このときコイルバネが、軸方向バネ性を発揮する復帰バネとして作用するため、軸方向変位した外周リングを自動で初動位置に復帰動させることができる。
【0021】
また、本発明のプーリユニットによれば、内周リングおよび外周リングがコイルバネを捩りながら円周方向に相対変位することが可能とされ、コイルバネが大きく捩れて内周リングの外周面または外周リングの内周面に密着してそれ以上捩れなくなると、両リングが直結状態となって供回りする。したがって前者の、コイルバネが捩れて両リングが相対変位する状態にてエンジンアイドリング時の小振幅トルク変動を受けるとともに、後者の、コイルバネがそれ以上捩れず両リングが直結・供回りする状態にてエンジン起動時の大振幅トルク変動を受けるようにばね特性を設定することにより、エンジン起動時に通過する共振点を実質的になくすことが可能となる。したがってエンジン起動時に補機ベルト系の共振点を通過せず、もってベルト変動が大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例に係るプーリユニットを備えるトーショナルダンパの要部断面図
【図2】コイルバネの単品図
【図3】本発明の実施例に係るプーリユニットを備えるトーショナルダンパの他の例を示す要部断面図
【図4】従来例に係るトーショナルダンパの断面図
【図5】ミスアライメントの説明図
【図6】従来例に係るトルク変動吸収ダンパの断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
尚、本発明には、以下の実施形態が含まれる。
(1)上記目的を達成するため、以下の構造とする。
(2)マス部とプーリ部を別体とし、この間にラジアルベアリングおよびスプリングを設置する。また、スプリングは、ミスアライメントにより発生するベルトの軸方向発生荷重に対し小さくなるように設定する。これによりアライメントが発生しても、軸方向にプーリ部が動き、ミスアライメントがキャンセルされる。但し、プーリ部を樹脂など潤滑性の良い材料で製作した場合はラジアルベアリングを設けなくても良い。
(3)エンジン始動時の大振幅入力時はスプリングが大きく捩られ、外径側に膨らむか、内径側に縮む。このとき、構造上設けられた微小隙間がなくなり、外径側もしくは内径側にスプリングがロックし、バネの働きがなくなる(マス部とプーリ部が直結状態)。したがって、エンジン起動時に通過する共振点がなくなり、従来案よりもベルト変動を小さくすることができる。
(4)プーリ部の円周方向の動きをスムーズにするため、プーリ部の一端面もしくは両端面にスラストベアリングを設けても良い。但し、プーリ部を樹脂など潤滑性の良い材料で製作した場合はスラストベアリングを設けなくても良い。
(5)プーリ部が軸方向に自由にスライドすることによりミスアライメントがキャンセルされることによるベルト鳴きを防止することができる。また、回転止め機構によりベルトに対し半回転方向のクランク捩り振動の伝達を絶縁することで、ベルトの劣化を防ぐことができる。
【実施例】
【0024】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施例に係るプーリユニット1を備えるトーショナルダンパ41の要部断面を示している。
【0026】
当該実施例に係るプーリユニット1は、無端ベルト(図示せず)を巻架して回転トルクを伝達するためのプーリ2を有し(全体としてプーリ形状を呈し)、このプーリ2が内周側の内周リング(ハウジングまたはマス部とも称する)11と外周側の外周リング(プーリ部とも称する)21との2部品に分割されて両リング11,21の組み合わせによって構成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられている。溝部22としては、V溝を複数備えるポリV溝が描かれているが、V溝を1つのみ備えるモノV溝であっても良い。
【0027】
内周リング11および外周リング21は、互いに軸方向に変位可能および円周方向に変位可能に組み付けられている。また内周リング11および外周リング21は、一端を内周リング11に連結するとともに他端を外周リング21に連結したコイルバネ31によって互いに連結されている。したがって内周リング11に対し外周リング21が軸方向変位することによってプーリ2および無端ベルト間のミスアライメントを吸収することが可能とされており、このときコイルバネ31は、軸方向バネ性を発揮して外周リング21を初動位置に復帰動させるための復帰バネとして作用する。また、内周リング11に対し外周リング21が円周方向変位することによってトルク変動を吸収することが可能とされており、このときコイルバネ31は、円周方向バネ性を発揮してトルク変動を吸収するカップリングバネとして作用する。
【0028】
内周リング11および外周リング21間に、両リング11,21の同軸度を確保するとともに相対変位を円滑化するためにラジアルベアリング34が介装されている。外周リング21の軸方向一方(図1では右方)に、この外周リング21が内周リング11の外周位置から軸方向一方へ脱落することがないように抜け止め部35が設けられている。外周リング21はコイルバネ31の弾性によってこの抜け止め部35へ向けて付勢されている。抜け止め部35および外周リング21間に、外周リング21の相対回転を円滑化するためにスラストベアリング39が介装されている。また当該プーリユニット1は、回転軸に固定するハブ42にゴム状弾性体43を介して装着され、このとき当該プーリユニット1は、ハブ42およびゴム状弾性体43を備えるトーショナルダンパ41の振動リングとして作用する。
【0029】
各部品は、以下のように構成されている。
【0030】
内周リング11は、金属または硬質樹脂などの剛材によって円筒状に成形されており、その外周面における軸方向他方(図1では左方)の端部に、コイルバネ31を軸方向に保持するためのフランジ部12が一体に設けられている。
【0031】
外周リング21は、これも金属または硬質樹脂などの剛材によって円筒状に成形されており、上記したようにその外周面に溝部22が設けられている。また、その内周面における軸方向他方の端部に、コイルバネ31を収容するための環状の凹部23が設けられている。
【0032】
コイルバネ31は、図2の単品図に示すように平板バネ鋼などによって所定の軸方向長さを備えるスパイラル状に成形されており、このコイルバネ31が上記凹部23に収容されて軸方向のバネ性を発揮することにより上記したように外周リング21がコイルバネ31により抜け止め部35へ向けて弾性付勢されている。
【0033】
コイルバネ31の一端に、折り曲げ形成された一端係合部32が設けられ、コイルバネ31の他端に、同じく折り曲げ形成された他端係合部33が設けられている。一方、内周リング11におけるフランジ部12に、一端係合部32を円周方向に係合する切り欠き状の係合部13が設けられ、外周リング21における凹部23の内面に、他端係合部33を円周方向に係合する切り欠き状の係合部24が設けられている。またコイルバネ31と内周リング11の間およびコイルバネ31と外周リング21の間にはそれぞれ初期的な径方向間隙(図示せず)が設定されている。したがって各係合部32,33を各係合部13,24に係合した状態で両リング11,21が相対回転すると、コイルバネ31は円周方向に捩られて、円周方向のバネ性を発揮する。
【0034】
抜け止め部35は、ステンレス鋼などによって環状の単体部品として成形されており、その内周端部に環状の取付部36が設けられるとともにこの取付部36から径方向外方へ向けて立ち上がり部37が一体成形されている。また立ち上がり部37に環状の段差部38が設けられ、この段差部38によってスラストベアリング39が保持されている。尚、この抜け止め部35は取付部36をもってハブ42に取り付けられているが、当該プーリユニット1において自己完結的に各部品を組み立てる場合には、取付部36を内周リング11に取り付けることが考えられる。
【0035】
上記構成を備えるプーリユニット1においては、無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリ2が内周リング11および外周リング21の組み合わせによって形成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられ、内周リング11および外周リング21が互いに軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けられるとともに、一端を内周リング11に連結するとともに他端を外周リング21に連結したコイルバネ31によって連結されているために、上記図5のようにプーリ2および無端ベルト間にミスアライメントが存在すると、外周リング21が無端ベルトの張力によって引っ張られるかたちにて内周リング11に対し軸方向他方へ向けて変位し、これによりミスアライメントが吸収される。このときコイルバネ31は、軸方向バネ性を発揮する復帰バネとして作用し、すなわち軸方向変位した外周リング21を自動で初動位置(原位置)に復帰動させる。
【0036】
また、当該プーリユニット1において、コイルバネ31は、軸方向バネとしてのみならず、円周方向バネとしても作用し、これによりトルク変動を吸収することが可能とされている。
【0037】
すなわち当該プーリユニット1においては、上記したように無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリ2が内周リング11および外周リング21の組み合わせによって形成され、外周リング21の外周面に無端ベルトを巻架するための溝部22が設けられ、内周リング11および外周リング21が互いに軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けられるとともに、一端を内周リング11に連結するとともに他端を外周リング21に連結したコイルバネ31によって連結されているために、内周リング11および外周リング21はコイルバネ31を捩りながら円周方向に相対変位することが可能とされており、コイルバネ31が大きく捩れて内周リング11の外周面または外周リング21の内周面に密着してそれ以上捩れなくなると、両リング11,21が直結状態となって供回りする。したがって前者の、コイルバネ31が捩れて両リング11,21が相対変位する状態にてエンジンアイドリング時の小振幅トルク変動を受けるとともに、後者の、コイルバネ31がそれ以上捩れず両リング11,21が直結・供回りする状態にてエンジン起動時の大振幅トルク変動を受けるようにバネ特性を設定することにより、エンジン起動時に通過する共振点を実質的になくすことが可能となる。したがってこのときコイルバネ31は、円周方向バネ性を発揮するカップリングバネとして作用し、従来技術におけるカップリングゴムの代わりをなすことになる。
【0038】
尚、上記したように当該プーリユニット1は、回転軸に固定するハブ42にゴム状弾性体43を介して装着され、このとき当該プーリユニット1は、ハブ42およびゴム状弾性体43を備えるトーショナルダンパ41の振動リングとして作用するので、ハブ42、ゴム状弾性体43および当該プーリユニット1の組み合わせよりなるトーショナルダンパ41としてのダンパ機能を発揮することが可能とされている。トーショナルダンパ41の種類としては、ゴム状弾性体43をハブ42または内周リング11の一方に加硫接着するゴム接着タイプとされているが、図3に示すように、ゴム状弾性体43をハブ42および内周リング11間の径方向間隙に対して軸方向一方から圧入する非接着式のゴム嵌合タイプであっても良く、この場合、径方向間隙の内外周面には、ゴム状弾性体43を抜け止めすべく屈曲させるためのコンボリューション部44が設けられている。
【符号の説明】
【0039】
1 プーリユニット
2 プーリ
11 内周リング
12 フランジ部
13,24,32,33 係合部
21 外周リング
22 溝部
23 凹部
31 コイルバネ
34 ラジアルベアリング
35 抜け止め部
36 取付部
37 立ち上がり部
38 段差部
39 スラストベアリング
41 トーショナルダンパ
42 ハブ
43 ゴム状弾性体
44 コンボリューション部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端ベルトを巻架して回転トルクを伝達するプーリを内周リングおよび外周リングの組み合わせによって形成し、前記外周リングの外周面に前記無端ベルトを巻架するための溝部を設け、前記内周リングおよび外周リングを軸方向変位可能および円周方向変位可能に組み付けるとともに、一端を前記内周リングに連結するとともに他端を前記外周リングに連結したコイルバネによって連結し、前記内周リングに対して前記外周リングが前記軸方向変位することによって前記外周リングおよび無端ベルト間のミスアライメントを吸収し、このとき前記コイルバネは軸方向バネ性を発揮する復帰バネとして作用し、前記内周リングに対して前記外周リングが前記円周方向変位することによってトルク変動を吸収し、このとき前記コイルバネは円周方向バネ性を発揮するカップリングバネとして作用することを特徴とするプーリユニット。
【請求項2】
請求項1記載のプーリユニットにおいて、
前記内周リングおよび外周リング間にラジアルベアリングが介装されていることを特徴とするプーリユニット。
【請求項3】
請求項1または2記載のプーリユニットにおいて、
前記外周リングが前記内周リングの外周位置から軸方向一方へ脱落することがないように抜け止め部が設けられ、前記外周リングは前記コイルバネにより前記抜け止め部へ向けて弾性付勢され、前記抜け止め部および外周リング間にスラストベアリングが介装されていることを特徴とするプーリユニット。
【請求項4】
請求項1、2または3記載のプーリユニットにおいて、
当該プーリユニットは、回転軸に固定するハブにゴム状弾性体を介して装着され、このとき当該プーリユニットはトーショナルダンパにおける振動リングとして作用することを特徴とするプーリユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−104452(P2013−104452A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247159(P2011−247159)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】