プーリ構造体
【課題】効率よく回転変動を吸収できるプーリであって、コイルスプリングの耐久性を向上させたプーリを提供する。
【解決手段】ベルトを巻回可能にする第1回転体と、この第1回転体の内側で当該第1回転体に対し相対回転可能な第2回転体とを備えるプーリ構造体において、前記第1回転体と前記第2回転体との間にはバネ収容室が形成され、その中にはコイルスプリングが収容されている。前記第1回転体及び前記第2回転体のうち少なくとも何れか一方は、前記コイルスプリングの端部を収容する円弧状の収容溝を備えており、前記収容溝は、前記コイルスプリングの被圧入部が圧入固定される圧入部を有している。また、前記圧入部及び前記被圧入部の少なくとも一方は、圧入されていない状態において、プーリ構造体の中心軸回りの周方向に沿わない形状であって、前記被圧入部が前記圧入部の側壁に対して少なくとも3箇所以上で当接して支持されている。
【解決手段】ベルトを巻回可能にする第1回転体と、この第1回転体の内側で当該第1回転体に対し相対回転可能な第2回転体とを備えるプーリ構造体において、前記第1回転体と前記第2回転体との間にはバネ収容室が形成され、その中にはコイルスプリングが収容されている。前記第1回転体及び前記第2回転体のうち少なくとも何れか一方は、前記コイルスプリングの端部を収容する円弧状の収容溝を備えており、前記収容溝は、前記コイルスプリングの被圧入部が圧入固定される圧入部を有している。また、前記圧入部及び前記被圧入部の少なくとも一方は、圧入されていない状態において、プーリ構造体の中心軸回りの周方向に沿わない形状であって、前記被圧入部が前記圧入部の側壁に対して少なくとも3箇所以上で当接して支持されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能な2つの回転体間におけるプーリ構造体に係り、より詳しく言えば、弾性部材が前記2つの回転体を連結し、回転変動を吸収できるプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
発電を目的として自動車内に設けられたオルタネータは、エンジンに設けられたクランクシャフトに接続されて駆動する。しかし内燃機関の特性上、これに接続されているクランクシャフトには、回転方向に増速・減速が頻繁に繰り返されるといった回転変動が生じる。
ここで、オルタネータの発電軸が大きな慣性モーメントを有する。従って、発電軸とクランクシャフトとがプーリとベルトを用いて連結され動力を伝達するという構成では、ベルトの速度(クランクシャフトの回転速度)が変化するたびにプーリとベルトとの間で滑りが生じベルト鳴きが誘発される。
さらに、クランクシャフトの回転変動が発電軸に伝えられると、オルタネータの発電機構が劣化し、発電効率が低下するという問題がある。
【0003】
そこで、前記回転伝達系に好適なプーリ、すなわちクランクシャフトの回転変動を吸収するようなプーリとして、たとえば相対回転可能な2つの回転体の間に弾性部材と粘性流体とを備えたダンパ付きプーリ(特許文献1)や、前記2つの回転体の間に弾性部材のみを設けたプーリが挙げられる。
【0004】
特許文献1は、弾性部材と特殊な粘性流体とを用いてクランクシャフトの回転変動を吸収するようなプーリ構造体の一例を示している。このプーリ構造体は、互いに相対回転可能な第1回転体と第2回転体との間に、ゴム製の弾性部材と、回転変動が生じる際に発生する剪断力の増大に伴い粘性が増大する性質を有する粘性流体と、から構成されている。
この構成により、例え弾性部材にその弾性限界以上の剪断応力が発生し得るトルクがプーリ構造体に作用しても、粘性流体の高粘度化によって第1回転体と第2回転体との相対角変位が抑制され、弾性部材が降伏あるいは破断により損傷することを防止しようとするものである。
【0005】
他方、第1回転体と第2回転体との間に弾性部材のみを設けたプーリ構造体も一例として挙げられる。前記弾性部材はコイルスプリングであって、その端部は第1回転体および第2回転体に設けた円弧状の収容溝に嵌合固定されており、その終端は湾曲され各回転体に係止されている。前記収容溝内であって、前記コイルスプリングの端部が前記円弧状の収容溝による嵌合固定から解放される領域においては、コイルスプリングと円弧状の収容溝との間に一定の間隙が設けられている。
以上のように弾性部材のみを用いて回転変動を吸収しようとする構成においては、特許文献1に比べて大きな相対角変位を確保することができるので、プーリに巻架されたベルトの張力変動を減少させることができる。これにより、ベルト鳴きが抑制され、ベルトの耐久性が改善されるという効果を有する。
【0006】
ところで、特許文献2(対応する米国公報;米国特許第5139463号明細書)は、自動車のためのサーペンタイン駆動機構にあってオルタネータに使用されるプーリを開示する。
このプーリは、電機子組立体とともに回転するハブ構造体と当該ハブ構造体の上に取り付けられる交流発電機プーリとを備え、当該ハブ構造体と交流発電機プーリとの間にコイルばねが各端部を固定して介在されており、蛇行ベルトによる交流発電機プーリの従動回転運動をハブ構造体に伝達し、また交流発電機プーリに対しても反対方向の相対弾性回転運動ができる構造となっている。前記コイルばねの端部は半径方向の外側に曲げられており、当該端部は、ハブ構造体と交流発電機プーリに設けられた切り込みに収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−240246号公報
【特許文献2】特許第3268007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の構成では、第1回転体と第2回転体との間に設けられる弾性部材として環状のゴムが採用されているため、一般的にその弾性限界内における弾性変形量、すなわち2つの回転体間で許容される相対角変位が十分に確保されていない。
さらに、特許文献1で示されているような弾性部材を備えたダンパ付きプーリを用いて回転変動を伴うクランクシャフトとオルタネータとを結合すると、回転変動に伴う変動トルクがオルタネータに伝達されにくくなるが、一方、ベルトが張力変動により共振し易くなるので、新たな騒音が発生したり、ベルトの耐久性に悪影響を及ぼすこととなる。
【0009】
他方、弾性部材としてコイルスプリングを用い、ダンパを備えないプーリ構造体においては、特許文献1で示されるようなベルトの共振・それに伴う騒音およびベルトの耐久性悪化などの問題は発生しないものの、プーリとオルタネータの発電軸との相対角変位が大きくなり、以下の理由によりコイルスプリングが破損する場合がある。
即ち、前記コイルスプリングであって回転体へ嵌合固定されている領域と前記間隙が設けられている領域との境界には明確なコーナー部(単なる段差)が形成されているので、コイルスプリングが弾性変形するたびに、そのコーナー部の近傍において応力集中が発生する。従って、クランクシャフトの回転変動毎に発生する局所的な繰り返し応力によって、コイルスプリングの前記境界部が疲労破壊する恐れをこのプーリ構造体は有している。
【0010】
ところで、特許文献2の構成では、半径方向の外側に曲げられた端部に応力集中が発生しやすくなっており、比較的短期間のうちにコイルバネが破損してしまうという問題があった。
【0011】
本発明は係る諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ベルトの共振・騒音・耐久性およびプーリとオルタネータの発電軸との相対角変位の確保という側面から、プーリ構造体の相対角変位を緩やかに吸収する部材としてコイルスプリングを採用することとし、このコイルスプリングが疲労破壊することのないプーリ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0013】
(請求項1)
ベルトを巻回可能にする第1回転体と、前記第1回転体の内側で当該第1回転体に対し相対回転可能な第2回転体と、前記第1回転体と前記第2回転体との間に形成されるバネ収容室と、前記バネ収容室に収容されるとともに、一端を前記第1回転体に固定し、他端を前記第2回転体に固定したコイルスプリングからなるプーリ構造体において、前記第1回転体及び前記第2回転体のうち少なくとも何れか一方は、前記コイルスプリングの端部を収容する円弧状の収容溝を備えており、前記収容溝は、前記コイルスプリングの被圧入部が圧入固定される圧入部を有しており、前記圧入部及び前記被圧入部の少なくとも一方は、圧入されていない状態において、プーリ構造体の中心軸回りの周方向に沿わない形状であって、前記被圧入部が前記圧入部の側壁に対して少なくとも3箇所以上で当接して支持されている。
以上の構成により、クランクシャフトの回転変動を緩やかに吸収する手段としての弾性部材にコイルスプリングを用いることで、弾性部材にゴムなどを用いる場合よりも大きな相対角変位を許容・確保することができ、回転変動をより吸収し易い。
それに伴い、ベルトの張力変動を抑制できるので、ベルトの共振を抑制することができ、これによりベルトにおける新たな騒音の発生が防止でき、さらにベルトの耐久性も向上する。
また、前記収容溝の前記コイルスプリングの端部に対する係止力を大とできるので、当該端部が当該収容溝に対して摺動したり、当該収容溝から抜脱したりするのを防止できる。また、コイルスプリングの端部が収容溝に対して3点以上で支持されるので、コイルスプリングの姿勢を安定にできる。
【0014】
(請求項2)
前記被圧入部に、波打状の蛇行部が形成されていることが好ましい。
以上の構成により、コイルスプリングの曲げ変形荷重を前記蛇行部の全体で受け止めることができるので、回転変動時のコイルスプリングに対する応力集中が防止でき、従って、コイルスプリングの疲労破壊を防止することができる。
また、前記蛇行部と前記収容溝との間隙が漸増減するよう構成されているので、この意味でも、回転変動時のコイルスプリングに対する応力集中は防止される。
また、前記収容溝は平行溝で十分であって、特別な加工を必要としないので、安価なプーリ構造体を提供できる。
【0015】
(請求項3)
前記圧入部の側壁、及び、前記被圧入部の前記側壁に対向する部分の少なくとも一方に凹凸が設けられていることが好ましい。
これにより、コイルスプリングの端部が抜けないように凹凸を介して強固に圧入固定することができる。
【0016】
(請求項4)
前記圧入部の側壁と、前記被圧入部の前記側壁に対向する部分とが、互いに係合する前記凹凸を有することが好ましい。
【0017】
(請求項5)
前記圧入部又は前記被圧入部は、前記凹凸が設けられた領域と、前記凹凸が設けられていない領域とを有することが好ましい。
【0018】
(請求項6)
前記凹凸は、セレーション加工又はローレット加工により形成されていることが好ましい。
これにより、凹凸同士の機械的な係止を確実に行うことができる。
【0019】
(請求項7)
前記被圧入部には、幅広部が少なくとも2つ以上形成されていることが好ましい。
これにより、前記幅広部と前記収容溝との間隙が漸増減するよう構成されているので、回転変動時のコイルスプリングに対する応力集中が防止でき、従って、コイルスプリングの疲労破壊を防止することができる。
また、前記収容溝は平行溝で十分であって、特別な加工を必要としないので、安価なプーリ構造体を提供できる。
また、コイルスプリングの曲げ変形荷重が、少なくとも4つの前記当接部において分担して支持されることとなるので、回動変動時のコイルスプリングに対する応力集中がより確実に防止される。
【0020】
(請求項8)
前記幅広部は、前記コイルスプリングの周壁をプレス加工することにより形成されることが好ましい。
これにより、前記幅広部を低コストで形成できる。また、プレス量を調節するだけで当該幅広部の大きさ(幅)を自由に変更できるので、例えば設計変更に伴うコスト増を抑制することができる。
【0021】
(請求項9)
前記被圧入部の前記圧入部に対する圧入代は、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。なお、前記蛇行部又は前記幅広部の前記収容溝に対する当接部が複数ある場合には、少なくとも何れか1つが上記条件を満たしていればよい。
上記の如く前記圧入代を0.1mm以上とすることで、前記収容溝の前記コイルスプリングの端部に対する係止力を、当該端部が当該収容溝に対して摺動したり、当該収容溝から抜脱したりしない程度に十分に確保できる。
一方、前記圧入代を0.5mm以下とすることで、プーリ構造体の組立性を良好にできる。
【0022】
(請求項10)
前記被圧入部の前記圧入部に対する圧入代は、前記コイルスプリングの終端から離れるにつれて小となることが好ましい。
これによると、前記コイルスプリングの端部において、その終端から離れるにつれて発生応力がより大きくなる、言い換えれば当該端部において終端から最も離れたところにおける発生応力が最大になるという応力ムラの問題を解決できるので、前記コイルスプリングの寿命を延長できる。
【0023】
(請求項11)
前記圧入代は、前記コイルスプリングの終端から遠い側は0.1mm未満であり、近い側は0.1mm以上であることが好ましい。これにより、上記の効果がより確実に奏される。
【0024】
(請求項12)
前記収容溝の溝幅は一定であることが好ましい。これにより、前記収容溝の加工を容易とできるので、安価なプーリ構造体を提供できる。
【0025】
(請求項13)
前記コイルスプリングの終端には、前記収容溝に沿うように更に延び、コイル軸心に対して垂直な面を有する添巻部が形成されていることが好ましい。
これにより、前記コイルスプリングの添巻部と当該添巻部が圧入固定される前記収容溝の底面とが面接触することとなるので、当該コイルスプリングのコイル軸心の心ブレを防止できると共に、組立作業性が向上する。
【0026】
(請求項14)
前記コイルスプリングの断面が矩形状の角コイルスプリングであることが好ましい。
以上の構成により、断面が円形であるコイルスプリングと当該角コイルスプリングとを比較して以下のような効果が得られる。すなわち、同じ相対角変位・同じ巻き数・同じばね定数であっては後者のコイルスプリングに発生する最大引張(圧縮)応力を例えば約70%となるよう低減することができ、一方、同じ相対角変位において発生する最大引張(圧縮)応力が同じであり且つ同じばね定数であっては後者の必要巻き数が例えば70%となる効果を奏する。
【0027】
(請求項15)
前記第1回転体の内周壁に少なくとも1つの第1突起部が設けられ、当該第1突起部と当接可能な第2突起部が前記第2回転体の外周壁に少なくとも1つ設けられ、第1回転体と第2回転体とが所定の角度まで相対回転すると、前記角度を越える相対回転が規制されることが好ましい。
以上の構成により、前記コイルスプリングの変形に上限を設けられる。言いかえれば、前記コイルスプリングの応力に上限を設けられるので、前記コイルスプリングに過度の力が作用することなく、前記コイルスプリングの疲労や破断などを抑制できる。
【0028】
(請求項16)
前記第1回転体と前記第2回転体との間に摩擦部材が介装されていることが好ましい。
これにより、前記第1回転体と前記第2回転体との間の相対回転運動が減衰され、前記コイルスプリングの変形も抑制される結果、長寿命なプーリ構造体を提供できる。
【0029】
(請求項17)
前記摩擦部材は、前記第1回転体及び第2回転体うち何れか一方と、他方にスライド可能に設けられたプレッシャー板との間に介装されており、前記プレッシャー板は、前記摩擦部材を前記一方へ押し付けようとする方向へ適宜の付勢手段により付勢されていることが好ましい。
これにより、前記第1回転体の前記第2回転体に対する相対回転運動に大きな減衰力を付与できる。
【0030】
(請求項18)
前記コイルスプリングの外周側又は内周側のうち少なくとも何れか一側に筒状のスプリングホルダが設けられていることが好ましい。
これにより、前記コイルスプリングの拡径(縮径)方向への変形量が過大となることがないので、当該コイルスプリングの損傷を防止できる。
またスプリングホルダが設けられることにより、コイルスプリングが拡径(又は縮径)変形したとしても、前記第1回転体(又は前記第2回転体)に対して直接的に摩擦することがないので、当該コイルスプリング7の損傷を抑制できる。このことは、例えば図6に示すようにコイルスプリングと第1回転体(又は第2回転体)との間の空間を出来るだけ狭くしたい場合に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図2】図1のA−A矢視図。
【図3】本発明に係るプーリ構造体の第1実施形態に対する変形例を示す部分模式図であって、図2に類似するもの。
【図4】本発明の第2実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図5】図4におけるB−B断面矢視図。
【図6】第2実施形態の変形例を示す断面図。
【図7】本発明の第3実施形態に係るプーリ構造体の断面図であって、図2に類似する図。
【図8】第3実施形態の変形例であって、図7に類似する図。
【図9】本発明の第4実施形態に係るプーリ構造体の断面図であって、図7に類似する図。
【図10】本発明の第5実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図11】図10におけるE−E断面矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るプーリ構造体の第1実施形態に関して説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るプーリ構造体の断面図であり、図2は図1のA−A矢視図である。
【0033】
ここでは、本発明に係るプーリ構造体が自動車のオルタネータの発電軸に設置されている一実施形態に関して説明する。
【0034】
図1に示すプーリ構造体1は、自動車のオルタネータの発電軸(図示せず)上に設置されるものであって、エンジンの動力がベルト(図示せず)を介して伝達されることにより回転される。このプーリ構造体1は、その外周に第1回転体2を備え、当該第1回転体2の外周面には、前記ベルトを巻き掛けることが可能なプーリ体2aが設けられている。この第1回転体2は略円筒状に形成されている。
【0035】
前記第1回転体2の軸方向一端側の内周には軸受4が、軸方向他端側の内周には軸受5が配置されている。これら軸受4及び軸受5により、第2回転体3が第1回転体2に対して相対回転自在に支持されており、この第2回転体3は第1回転体2の内部に収納されている。
【0036】
上記第2回転体3の外周には、軸受4及び軸受5が外れないように固定するための止め部材31,32がそれぞれ嵌装されている。また、この第2回転体3の軸孔3aは、オルタネータの発電軸(図示せず)が固定可能に形成されている。
【0037】
なお、本実施例において軸受4及び軸受5として、ボールベアリングを用いているが、これに限らず、例えばドライメタルなどを採用することで構成を簡素化しても良い。
【0038】
前記の第1回転体2と第2回転体3、及び軸受4,5により、バネ収容室6が形成されている。
前記第1回転体2の軸方向一端側の内壁には円弧状の第1収容溝2bが形成されており、また、バネ収容室6内であって、第2回転体3の外周面上には前記第1収容溝2bと軸方向で対応する位置に円弧状の第2収容溝3bを構成する壁が突設されている。
【0039】
また、前記バネ収容室6内であって、前記の第1収容溝2bと第2収容溝3bとの間には、その断面が矩形状のコイルスプリング7(角コイルスプリング)が収納されている。
【0040】
上記コイルスプリング7は、プーリ構造体1の回転軸線とこの軸線を一致させるようにバネ収容室6の内部に配置されると共に、一端を第1収容溝2bの内壁に、他端を第2収容溝3bの内壁に圧入して嵌合固定されている。これにより、前記の第1回転体2と第2回転体3とは、当該コイルスプリング7を介して弾性的に連結されている。
【0041】
以下、上記の第1収容溝2bおよび第2収容溝3bに関して詳しく説明する。
【0042】
(収容溝概略)
前記第1収容溝2bは、前記コイルスプリング7のバネ線の三方を囲むように、且つ前記バネ収容室6側を開放させるように形成されている。同様に、前記第2収容溝3bも、コイルスプリング7のバネ線の三方を囲むように且つバネ収容室6側を開放させるように形成されている。そしてコイルスプリング7の両端部は、第1収容溝2bおよび第2収容溝3bにそれぞれ収容されている。
【0043】
(圧入による嵌合固定)
図2に示すように、前記収納溝2b(3b)において、前記コイルスプリング7の終端7bの被圧入部7aが圧入される圧入部11の側壁には、波打状となる蛇行面2eが形成されている。そして、該コイルスプリング7の被圧入部7aを前記圧入部11へ圧入し嵌合させることで、双方を強固に固定している。
この構成により、前記コイルスプリング7と前記圧入部11が、前記第1収容溝2bの周方向に沿って内周側及び外周側へ交互に弾性変形され、これにより生じる復元力も同じく内周側及び外周側へ交互に作用することとなる。従って、コイルスプリング7と圧入部11との間の摩擦力を大幅に向上させることができる。
なお、前記圧入部11の前記両壁面に形成される前記蛇行面2eを構成する凹凸は、図2に示すように、径方向においてそれぞれが互いに対応するように形成されていることが好ましい。これにより、前記コイルスプリング7の終端7bも蛇行状に弾性変形され、その蛇行状のコイルスプリング7の両側面と前記蛇行面とが細かく噛み合うこととなるので、前記コイルスプリング7と前記圧入部11との摩擦力(係止固定力)をさらに向上させることができる。
【0044】
(前記収容溝の壁面)
また、図1において第2収容溝3bの外周側壁面は薄く形成されていてもよい。このように収容溝の壁面を肉薄とすることで、コイルスプリング7の被圧入部7aを対応する収容溝に圧入・嵌着しやすくなる。さらには、プーリ構造体1の作動時に、コイルスプリング7が被圧入部7aにおいても弾性変形できるので、応力集中を招くような不均一な変形を抑制することができる。言い換えれば、前記コイルスプリング7の端部が弾性変形することをできるだけ妨げないので、コイルスプリング7が応力集中により疲労や破断などするのをより確実に抑制することができる。
同様の理由で、第2収容溝3bの外周側壁面のみならず、内周側壁面が薄肉であっても良いし、若しくはその双方の壁面が薄肉であっても良い。
【0045】
本実施形態のプーリ構造体1は以上説明したとおり、第1回転体2と第2回転体3とを弾性的に連結する弾性体として、コイルスプリング7が採用されている。即ち、第1回転体2と第2回転体3との間に筒状のバネ収容室6を設け、このバネ収容室6内にコイルスプリング7を設置して、一端を第1収容溝2bに、他端を第2収容溝3bに、それぞれ固定している。ここでコイルスプリング7は、バネ線を螺旋状に巻くという構造上の理由で、その許容できる相対角変位を環状のゴムなどに比べて大とすることができる。従って、第1回転体2と第2回転体3との間で許容できる相対角変位を大きくでき、回転変動を効率よく吸収することができる。また、それに伴い、ベルトの張力変動を抑制できるので、ベルトの共振を抑制することができ、これによりベルトにおける新たな騒音の発生が防止でき、さらにベルトの耐久性も向上する。
【0046】
また、例えば図1に示す肉抜部2dのように、第1回転体2は積極的に軽量化されていることが好ましい。これにより、第1回転体2の回転慣性モーメントを低減することができるので、プーリ体2aのある点における速度をベルトの速度に維持するために必要とするベルトの張力を緩和することができる。したがって、プーリ体2aとベルトとの間の静止摩擦力を上回る力の発生を抑制できるので、ベルトが磨耗することがなく、寿命を延長することができる。
【0047】
さらに、第1回転体2の素材として、例えばアルミニウムなどの軽合金を採用することが好ましい。これにより、第1回転体2の回転慣性モーメントをさらに低減することができるので、前述の肉抜きによる軽量化による効果と同様に、ベルトの寿命を延長することができる、という効果を奏する。
【0048】
加えて、粘性流体などのダンパー部材を用いないため、構造が単純で部品点数を削減することができる。また、これに限らず、ダンパー部材を設けても良い。
より具体的には、前記バネ収容室6内部を、例えばシリコンオイルなどの粘性流体で充填してもよい。これにより、前記の第1回転体2と第2回転体3との間の相対回転運動に減衰効果を追加することができる。また、このようにダンパー部材として粘性流体を用いる場合でも、前記バネ収容室6の形状等を工夫する必要は特にないので、プーリ構造体1の製造コストもさほど増大しない。
【0049】
また本実施形態では、断面が矩形状の角コイルスプリングが採用されている。これにより、断面が円形であるコイルスプリングと当該角コイルスプリングとを比較して以下のような効果が得られる。すなわち、同じ相対角変位・同じ巻き数・同じばね定数であっては後者のコイルスプリングに発生する最大引張(圧縮)応力を約70%となるよう低減することができ、一方、同じ相対角変位において発生する最大引張(圧縮)応力が同じであり且つ同じばね定数であっては後者の必要巻き数が70%となる効果を奏する。
以上の理由から角コイルスプリングを採用することが好ましいが、これに限定されず、コイルスプリングの断面形状は例えば円形であっても良い。
【0050】
また本実施形態では、第1収容溝2bおよび第2収容溝3bにコイルスプリング7の端部がそれぞれ収容されている。このようにコイルスプリング7の端部を第1収容溝2bおよび第2収容溝3bに収容させて設けることで、コイルスプリング7を傾いたりすることなく確実にまっすぐ安定させて設置できる。即ち、コイルスプリング7が傾いて設置されていると、プーリ構造体1に加わる回転変動によってコイルスプリング7の一部分に過大な力が加わり易くなり、コイルスプリング7が破損し易くなってしまう。この点、本実施形態ではコイルスプリング7の取付け向きが斜めになることを第1収容溝2bおよび第2収容溝3bによって確実に回避できるから、プーリ構造体1に加わる回転変動をバネ線全体で均等に受け止めることができ、コイルスプリング7の寿命を延ばすことができる。
【0051】
また本実施形態では、オルタネータの発電軸にプーリ構造体1を設けた場合を説明したが、それに限らず、例えば自動車のエアコンディショナのコンプレッサ軸に本発明のプーリを設置することが考えられる。また、動力出力側、例えばエンジンのクランクシャフトに当該プーリを設けても良い。この場合、クランクシャフトの回転が第2回転体3からコイルスプリング7を介して第1回転体2へ伝達され、第1回転体2からベルトを介して動力が出力されることになる。また、車両機器以外にも本発明のプーリ構造体の適用は妨げられず、種々の回転伝達系に本発明のプーリ構造体を設置して使用することができる。
【0052】
次に、図3に基づいて、本発明の第1実施形態に係るプーリ構造体1の変形例に関して説明する。
【0053】
図3は、本発明に係るプーリ構造体の第1実施形態に対する変形例を示す部分模式図であって、図2に類似するものである。
【0054】
また、上記変形例は以下のように変更することができる。
即ち図3に示すように、前記コイルスプリング7の終端7bに、波打状となる蛇行部7cが形成されていてもよい。なお、この図3においては、前記コイルスプリング7の圧入前の外形線を図示する代わりに、前記圧入部11の同じく圧入前の外形線が二点鎖線で表されている。
言い換えれば、図2においては前記第1収容溝2bの前記両壁面が蛇行状に形成されているのに対し、図3においては前記コイルスプリング7の終端7bが蛇行状に形成されている。
より具体的には、前記コイルスプリング7が前記圧入部11に圧入される前に、断面矩形状の前記蛇行部7cの側面であって、前記圧入部11に把持される側面が、予め波打状に形成されている。
この場合でも、図2で示される係止部2c’と同様に、前記コイルスプリング7と圧入部11が、前記第1収容溝2bの周方向に沿って内周側及び外周側へ交互に弾性変形され、これにより生じる復元力も同じく内周側及び外周側へ交互に作用することとなる。従って、コイルスプリング7と圧入部11との間の摩擦力を大幅に向上させることができる。
【0055】
さらに本変形例では、前記第1収容溝2bが設けられている前記第1回転体2に、蛇行面を設けるための追加工を一切必要とせず、加工の容易な前記コイルスプリング7に単に前記蛇行部2eを設けるだけで前記係止部が構成されるので、生産性に優れ、且つ、安価なプーリ構造体を提供することが可能となる。
【0056】
次に、図4及び図5に基づいて、本発明に係るプーリ構造体の第2実施形態に関して説明する。
【0057】
図4は、本発明の第2実施形態に係るプーリ構造体の断面図である。図5は、図4におけるB−B断面図である。なお、第2実施形態においては、上記の第1実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0058】
図4に示すように、前記の第1回転体2と第2回転体3との間には、第1回転体2と第2回転体3とが所定の角度まで相対回転すると、当該角度を越える相対回転を規制するための回転規制部10が、前記コイルスプリング7の両端部付近にそれぞれ設けられている。
【0059】
より詳しくは前記回転規制部10は、図5に示すように、前記第1回転体2の内周壁から軸心へ向かって突設される円弧状の第1突起部2fと、当該第1突起部2fと当接可能であって前記第2回転体3の外周壁から円弧状に突設される第2突起部3fと、から構成されている。
前記第1突起部2fおよび前記第2突起部3fは、前記プーリ構造体1の中心軸に対してそれぞれ一対で設けられている。そして、それぞれ一対で設けられている前記第1突起部2fおよび前記第2突起部3fは、周方向に交互に並べて配置されている。
以上の構成により、前記の第1回転体2と第2回転体3との相対回転角が所定の角度以上となったときに、それ以上の相対回転が規制されるので、前記コイルスプリング7の変形に上限が設けられることとなる。言い換えれば、前記コイルスプリング7に生じる応力に上限を設けられるので、コイルスプリング7に過度の力が作用することなく、もって、疲労や破断などを抑制することができる。
【0060】
次に、図6に基づいて上記第2実施形態の変形例を説明する。図6は図4に類似する図である。なお本変形例において、上記第2実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0061】
図6に示すように本変形例において前記コイルスプリング7の外周側には、筒状のスプリングホルダ60が設けられており、当該スプリングホルダ60は前記第1回転体2の内周面に固着されている。これにより、前記コイルスプリング7の拡径方向への変形量が過大となることがないので、当該コイルスプリング7の過大変形による損傷を防止できる。
このスプリングホルダ60の素材は、ポリアセタール・ポリアリレート・ナイロンなどの合成樹脂材、ゴム材、ポリウレタンエラストマー材などが好適であり、また、これらに限ることはない。
【0062】
なお上記スプリングホルダ60は図6に示すようにコイルスプリング7の外周側に配置される場合と、図示しないが内周側に配置される場合とが考えられる。後者の場合では、前記コイルスプリング7の縮径方向への変形量が過大となることがない。
また当該スプリングホルダ60は、前記コイルスプリング7の外周側及び内周側の夫々に同時に設けられても勿論よい。これによれば、コイルスプリング7の拡径及び縮径両方向への変形量が過大となることがない。
また当該スプリングホルダ60が設けられることにより、コイルスプリング7が拡径(又は縮径)変形したとしても、前記第1回転体2(又は前記第2回転体3)に対して直接的に摩擦することがないので、当該コイルスプリング7の損傷を抑制できる。このことは、図6に示すようにコイルスプリング7の外周側(又は内周側)と第1回転体2(又は第2回転体3)との間の空間を出来るだけ狭くしたい場合に特に有用である。
なお当該スプリングホルダ60は、筒状であると前述したが、その周壁に適宜のスリットやストレート溝などが設けられていても問題ない。
【0063】
また図6に示すように前記の第1回転体2と第2回転体3の互いに対向する周面には、前記プーリ構造体1の軸方向と平行に延びるリテーナ溝62およびプレッシャー溝63とが夫々凹設されている。
また当該対向する周面間には、円盤状のリテーナ板64とプレッシャー板65とが介装されており、前者のリテーナ板64は前記リテーナ溝62に一部が嵌合することで前記プーリ構造体1の軸方向にはスライド可能となっており、且つ周方向には回転が規制されている。同様に後者のプレッシャー板65も前記プレッシャー溝63に一部が嵌合することで前記プーリ構造体1の軸方向にはスライド可能となっており、且つ周方向には回転が規制されている。
【0064】
前記のリテーナ板64とプレッシャー板65との間には、軸方向において挟まれるように円盤状の摩擦部材66が介装されている。
また前記摩擦部材66の外周面には、当該摩擦部材66の軸心と前記プーリ構造体1の軸心とを略一致させるためのリング部材67が外嵌されており、当該リング部材67は前記第1回転体2の内周面に対して周方向にも軸方向にも滑動可能に内接している。
【0065】
また図6に示すように前記リテーナ板64は前記第1回転体2に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合しており、前記プレッシャー板65は前記摩擦部材66をリテーナ板64へ押し付けようとする方向へ適宜の付勢手段68により付勢されている。これにより、前記リテーナ板64と前記摩擦部材66、及び、当該摩擦部材66と前記プレッシャー板65とは夫々互いに密着するようになっている。
そして、前述の如く前記リテーナ板64は第1回転体2と共に、前記プレッシャー板65は第2回転体3と共に回転するように構成されているので、当該第1回転体2の第2回転体3に対する相対回転運動は、リテーナ板64とプレッシャー板65とが前記摩擦部材66を介して互いに摺動することにより減衰されるようになっている。
端的に言えば、第1回転体2と第2回転体3との間に摩擦部材66が介装されており、当該第1回転体2と第2回転体3とは当該摩擦部材66を介して互いに摺動することにより、上記相対回転運動が減衰されるようになっているのである。
【0066】
図6に示すように本変形例において上記の付勢手段68は皿バネである。この皿バネ68の一端は前記プレッシャー板65に当接する一方、他端は、前記第2回転体3の外周面に周方向に凹設された環状の係止溝68aに嵌着された止め輪68bに当接している。
【0067】
以上説明したように本変形例において前記の第1回転体2と第2回転体3との間には摩擦部材66が介装されている。これにより、前記第1回転体2の前記第2回転体3に対する相対回転運動が減衰され、前記コイルスプリング7の変形も抑制される結果、長寿命なプーリ構造体1とできる。
なお前記摩擦部材66の素材は、ポリアセタール・ポリアリレート・ナイロンなどの合成樹脂材、ゴム材、ポリウレタンエラストマー材などが好適であり、また、これに限ることはない。
【0068】
また以上説明したように本変形例において前記摩擦部材66は、前記第1回転体2及び第2回転体3うち何れか一方(本変形例においては第1回転体2・リテーナ板64)と、他方(本変形例においては第2回転体3)に軸方向へ滑動可能に設けられたプレッシャー板65との間に介装されており、当該プレッシャー板65は、前記摩擦部材66を前記一方(第1回転体2・リテーナ板64)へ押し付けようとする方向へ適宜の付勢手段(皿バネ68)により付勢されている。これにより、前記第1回転体2の第2回転体3に対する相対回転運動に大きな減衰力が付与されている。
なお前記リテーナ板64が設けられることにより、前記第1回転体2と前記摩擦部材66との間に適宜の摩擦力(減衰力)が発生するようになっているが、これに限らず、省略しても問題ない。
上記の構成は例えば以下のように変更することもできる。即ち、前記リテーナ板64の代わりに第1回転体2の内周面からフランジを突出形成し、そのフランジに形成された平坦面に対し前記摩擦部材66をプレッシャー板65を介して押し付けるべく適宜の付勢手段が配置されるよう構成してもよい。
【0069】
次に、本発明に係るプーリ構造体の第3実施形態に関して説明する。図7は、図2に類似する図である。なお、説明の便宜上、湾曲状(円弧状)に形成される前記第1収容溝2b(第2収容溝3b、以下同様)は本図において直線状に描かれている。また、本実施形態においては、上記の第1実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0070】
図7に示すように、本実施形態において前記第1収容溝2bは、前記コイルスプリング7よりも幅広に形成されている。また、前述の第1実施形態や第2実施形態のようには当該第1収容溝2bの溝幅は漸増減せず一定であり、溝の側壁が常に平行の所謂平行溝として形成されている。そして、前記コイルスプリング7の端部(被圧入部7a)には、前記第1収容溝2bの圧入部11に圧入により嵌着される波打状の蛇行部50が形成されている。
これにより、前述した第1実施形態と同様に、クランクシャフトの回転変動を緩やかに吸収する手段としての弾性部材にコイルスプリングを用いることで、弾性部材にゴムなどを用いる場合よりも大きな相対角変位を許容・確保することができ、回転変動をより吸収し易い。それに伴い、ベルトの張力変動を抑制できるので、ベルトの共振を抑制することができ、これによりベルトにおける新たな騒音の発生が防止でき、さらにベルトの耐久性も向上する。
また、コイルスプリング7の曲げ変形荷重を前記蛇行部50の全体で受け止めることができるので、回転変動時のコイルスプリング7に対する応力集中が防止でき、従って、圧入部11の端部におけるコイルスプリング7の疲労破壊を防止することができる。
また、前記蛇行部50と前記第1収容溝2bとの間隙が漸増減するよう構成されているので、この意味でも、回転変動時のコイルスプリング7に対する応力集中は防止される。
また、前記第1収容溝2bは平行溝で十分であって、特別な加工を必要としないので、安価なプーリ構造体1を提供できる。
【0071】
また、本図に示す如く、前記蛇行部50は、前記第1収容溝2bの側壁と少なくとも3箇所以上で当接していることが好ましい。
これにより、前記第1収容溝2bの前記コイルスプリング7の端部に対する係止力を大とできるので、当該端部が当該第1収容溝2bに対して摺動したり、当該第1収容溝2bから抜脱したりするのを防止できる。
また、コイルスプリング7の端部が第1収容溝2bに対して3点で支持されるので、コイルスプリング7の姿勢を安定にできる。
なお、前記蛇行部50が、前記第1収容溝2bの側壁と4箇所以上に亘って当接していても、勿論よい。
【0072】
また、前記蛇行部50の前記第1収容溝2bに対する圧入代は、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。なお本実施形態において当該圧入代は、すべて0.1mm以上0.5mm以下の範囲内である。
上記の如く前記圧入代を0.1mm以上とすることで、前記第1収容溝2bの前記コイルスプリング7の端部に対する係止力を、当該端部が当該第1収容溝2bに対して摺動したり、当該第1収容溝2bから抜脱しない程度に十分に確保できる。
一方、前記圧入代を0.5mm以下とすることで、プーリ構造体1の組立性を良好にできる。
【0073】
次に、上記第3実施形態の変形例を図8に基づいて説明する。図8は、図7に類似する図である。
【0074】
図8に示す本変形例において前記蛇行部50は、前記第1収容溝2bの側壁と5箇所に亘って当接している。そして、当該蛇行部50の第1収容溝2bに対する圧入代は、前記コイルスプリング7の終端7bから離れるにつれて小となっている。
これによると、以下の問題を解決できる。
即ち、前記コイルスプリング7の端部(被圧入部7a)において、その終端7bから離れるにつれて発生応力がより大きくなってしまう。言い換えれば当該端部(被圧入部7a)において終端7bから最も離れたところにおける発生応力が最大になるという応力ムラが発生してしまう。
そこで本変形例によれば上記問題を解消できるので、コイルスプリング7の寿命を延長できる。
別の観点からみれば、コイルスプリング7の曲げ変形荷重が最も作用する部分Xの圧入代を小とすることで、当該部分Xに作用する繰返し応力が抑制される結果、コイルスプリング7の寿命を延長できる。
【0075】
より具体的には、前記蛇行部50の前記第1収容溝2bに対する圧入代は、前記コイルスプリング7の終端7bから遠い側は0.1mm未満(圧入代:小)であり、近い側は0.1mm以上(圧入代:大)であることが好ましい。これにより、上記の効果がより確実に奏される。
【0076】
また、上記第3実施形態および上記変形例においても、前記コイルスプリング7が、断面が矩形状の角コイルスプリングであることが好ましい。それによる効果は上述した通りである。
【0077】
次に、本発明に係るプーリ構造体の第4実施形態に関して説明する。図9は、図7に類似する図である。なお図9においても、説明の便宜上、湾曲状(円弧状)に形成される前記第1収容溝2b(第2収容溝3b、以下同様)は直線状に描かれている。また、本実施形態においても、上記の第1実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0078】
図9(a)〜(c)に示すように、この場合も前記第1収容溝2bは、前記コイルスプリング7よりも幅広に形成されている。そして、前記コイルスプリング7の端部(被圧入部7a)には、前記第1収容溝2bの圧入部11に圧入により嵌着される幅広部51が2箇所、形成されている。また、当該幅広部51の前記第1収容溝2bに対する当接部51a近傍は、湾曲状に形成されている。
これにより、前述した第1実施形態と同様に、クランクシャフトの回転変動を緩やかに吸収する手段としての弾性部材にコイルスプリングを用いることで、弾性部材にゴムなどを用いる場合よりも大きな相対角変位を許容・確保することができ、回転変動をより吸収し易い。それに伴い、ベルトの張力変動を抑制できるので、ベルトの共振を抑制することができ、これによりベルトにおける新たな騒音の発生が防止でき、さらにベルトの耐久性も向上する。
また、前記幅広部51と前記第1収容溝2bとの間隙が漸増減するよう構成されているので、回転変動時のコイルスプリング7に対する応力集中が防止でき、従って、圧入部11の端部におけるコイルスプリング7の疲労破壊を防止することができる。
また、前記第1収容溝2bは幅が一定の平行溝で十分であって、特別な加工を必要としないので、安価なプーリ構造体1を提供できる。
【0079】
また、前記幅広部51は、2箇所に形成されているので、以下の効果を奏する。
即ち、前記第1収容溝2bの前記コイルスプリング7の端部に対する係止力を大とできるので、当該端部が当該第1収容溝2bに対して摺動したり、当該第1収容溝2bから抜脱したりするのを防止できる。
また、コイルスプリング7の端部が第1収容溝2bに対して3点以上(4点)で支持されるので、コイルスプリング7の姿勢を安定にできる。
また、コイルスプリング7の曲げ変形荷重が、図9(a)に示す如く4つの前記当接部51aにおいて分担して支持されることとなるので、回動変動時のコイルスプリング7に対する応力集中がより確実に防止される。
なお、当該幅広部51が、3箇所以上に形成されていても勿論よい。
【0080】
前記幅広部51は、前記コイルスプリング7の周壁をプレス加工することにより形成される。言い換えれば、幅広部51は、コイルスプリング7をその長手方向と垂直な方向にプレス加工することより形成される。これにより、前記幅広部51を低コストで形成できる。また、プレス量を調節するだけで当該幅広部51の大きさ(幅)を自由に変更できるので、例えば設計変更に伴うコスト増を抑制することができる。
当該プレス加工は、図9(a)〜(c)に例示するような種々の形態が考えれる。なお、これらの図では、前記コイルスプリング7として角コイルスプリングが採用されている。
例えば図9(a)に示す如く、コイルスプリング7が前記第1収容溝2bの溝幅方向に拡大変形するように、コイルスプリング7の周壁(側壁)中央のみを適宜にプレス加工するものであってもよい。
また図9(b)に示す如く、コイルスプリング7の周壁(側壁)を平面部材によって押し潰すようなプレス加工であってもよい。
また図9(c)に示す如く、コイルスプリング7の周壁(側壁)に予め開口しておいた孔に、パンチ工具等を押圧することによって当該孔を径方向に拡張するようなプレス加工であってもよい。また、当該プレス加工を孔の一側からのみ施す場合と、両側から施す場合とが考えられ、前者の場合には截頭円錐状の孔が形成され、後者の場合には本図に示すような鼓状の孔が形成されることとなる。
【0081】
また本実施形態においても第3実施形態と同様に、前記幅広部51の前記第1収容溝2bに対する圧入代は、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。同様に当該圧入代は、コイルスプリング7の終端7bから離れるにつれて小となることが好ましい。
さらに、当該圧入代は、コイルスプリング7の終端7bから遠い側は0.1mm未満であり、近い側は0.1mm以上であることが好ましい。
これらによる作用効果は第3実施形態を説明する際に述べた通りである。
【0082】
また、本実施形態においてコイルスプリング7は、第1〜3実施形態と同様に角コイルスプリングであるとしたが、これによる作用効果も前述した通りである。
【0083】
また上記第3・第4実施形態およびそれらの変形例は、以下のように変更してもよい。
即ち、前記コイルスプリング7の終端7bには、前記第1収容溝2bに沿うように円弧状に更に延び、且つコイル軸心に対して垂直な面を有する添巻部が形成されていてもよい。当該添巻部は、末端へ向かうに連れて徐々に薄肉となる形状であって、例えばコイルスプリング7をコイル軸心に対して垂直な面で単に切断したときに形成されるスプリングの薄肉箇所を意味する。
これにより、前記コイルスプリング7の添巻部と当該添巻部が圧入固定される前記第1収容溝2bの底面とが面接触可能となるので、当該コイルスプリング7のコイル軸心の心ブレを防止できると共に、組立作業性が向上する。なお当該心ブレとは、例えばコイルスプリング7のコイル軸心の、前記プーリ構造体1の回転軸心に対するブレのことをいう。
なお上記添巻部にも、前記の蛇行部50や幅広部51が形成されていてよい。
また当該添巻部は、3/4周程度設けられていることが好ましい。これにより、前記コイルスプリング7のコイル軸心の心ブレをより効果的に防止できる。
【0084】
また、前記第1収容溝2bの溝幅は上述の如く一定であることが好ましい。これにより、前記第1収容溝2bの加工を容易とできるので、安価なプーリ構造体を提供できる。
【0085】
次に、本発明に係るプーリ構造体の第5実施形態を説明する。図10は本発明の第5実施形態に係るプーリ構造体の断面図、図11は図10におけるE−E断面矢視図である。
【0086】
この第5実施形態では図10に示すように、第1回転体2と第2回転体3はそれぞれ、第1フランジ部41’及び第2フランジ部42’を備えている。第1フランジ部41’は第1回転体2に、第2フランジ部42’は第2回転体3に、それぞれ一体的に形成されている。コイルスプリング7を収容するバネ収容室6は、2つのフランジ部41’,42’によって軸方向に挟まれた空間に形成されている。
【0087】
第1フランジ部41’と第2回転体3との間にはドライメタルタイプの軸受4が介設される。前記第2回転体3は筒状のハブとして構成されるとともに、オルタネータの駆動軸DSに外嵌される。オルタネータの駆動軸DSの先端部は、前記第2回転体3の軸孔3aに螺着される。
【0088】
そして、第1フランジ部41’にはコイルスプリング7のバネ線の一端を圧入して埋設するための第1収容溝2bが形成されている。この第1収容溝2bは、図10のE−E断面矢視図としての図11に示すように、バネ線に沿うように周方向に延在する円弧溝として構成されている。
【0089】
この円弧溝の一部(バネ線の端部側の一部の領域)において、セレーション加工又はローレット加工による細かい凹凸2hが内壁に形成され、圧入係止部46(凹凸が設けられた領域)が形成されている。一方、この圧入係止部46以外の領域には、圧入部47(凹凸が設けられていない領域)が形成されている。
【0090】
この構成で、バネ線の一端は、圧入係止部46の凹凸2hの部分で機械的に係合するとともに、圧入部47においては圧入固定される。このように圧入係止部46での係合固定と他の領域(圧入部47)での圧入固定を併用することで、コイルスプリング7の端部を安定して第1フランジ部41’の第1収容溝2bに固定することができる。
【0091】
第2フランジ部42’の第2収容溝3bに対するコイルスプリング7の他端側の固定については、第1フランジ部41’に対する固定と同様であるので、説明を省略する。なお、このような圧入係止部での係合固定と他の領域での圧入固定とを併用する構成は、コイルスプリング7の一端側にのみ適用することもできる。
【0092】
以上に示すように、本実施形態では、前記収容溝2b,3bの内壁の少なくとも一部に凹凸2hが設けられ、コイルスプリング7の蛇行しない端部は、この凹凸2hを有する内壁(圧入係止部46の部分)に圧入固定されている。この構成とすることで、コイルスプリング7の端部を蛇行させるような加工が不要になり、安価なプーリ構造体を提供できる。また、コイルスプリング7の端部を上記凹凸2hを介して収容溝2b,3bに対し強固に固定できる。更に、コイルスプリング7の端部が収容溝2b,3bの内壁に圧入固定されているので、コイルスプリング7の端部が抜けないように凹凸2hを介して強固に圧入固定することができる。
【0093】
また、前記コイルスプリング7の端部には、凹凸2hを介して係止固定される領域(圧入係止部46に相当する領域)と、圧入によって係止固定される領域(圧入部47に相当する領域)と、が形成されている。これにより、機械的に係止する領域と圧入による固定領域とが両方確保されるから、凹凸の機械的な係止作用と圧入固定作用の両方を何れも十分に発揮させることができる。
【0094】
また、前記コイルスプリング7の端部の凹凸は、セレーション加工又はローレット加工により形成されている。従って、凹凸同士の機械的な係合を確実に行うことができる。
【0095】
なお本実施形態では、コイルスプリング7のバネ線の外周面及び内周面には特別の加工は施されていないが、上記の圧入係止部46の凹凸2hに対応する形状の凹凸を、当該圧入係止部46に相当する位置にローレット加工等で形成しても良い。これにより、凹凸の機械的な係合と圧入固定の併用により、コイルスプリング7の端部の係止固定を確実に行うことができる。また、コイルスプリング7の端部の側にのみ凹凸加工を施し、前記収容溝の内壁には凹凸を設けない構成としても良い。
【0096】
以上に本発明の好適な複数の実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0097】
また、コイルスプリング7の両端が上記の実施形態で説明された構成で固定される構成に限らず、例えば一端側のみが上記の実施形態の何れかで固定され、他端側は他の構成で固定されても良い。また、上記の実施形態で用いられているロウ付け固定部の部分では、接着剤による固定が代わりに採用されても良い。
【符号の説明】
【0098】
1 プーリ構造体
2 第1回転体
2b 第1収容溝
2f 第1突起部
2h 凹凸
3 第2回転体
3b 第2収容溝
3f 第2突起部
4,5 軸受
6 バネ収容室
7 コイルスプリング
7a 被圧入部
7c,50 蛇行部
11 圧入部
46 圧入係止部(凹凸が設けられた領域)
47 圧入部(凹凸が設けられていない領域)
51 幅広部
60 スプリングホルダ
65 プレッシャー板
66 摩擦部材
68 付勢手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能な2つの回転体間におけるプーリ構造体に係り、より詳しく言えば、弾性部材が前記2つの回転体を連結し、回転変動を吸収できるプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
発電を目的として自動車内に設けられたオルタネータは、エンジンに設けられたクランクシャフトに接続されて駆動する。しかし内燃機関の特性上、これに接続されているクランクシャフトには、回転方向に増速・減速が頻繁に繰り返されるといった回転変動が生じる。
ここで、オルタネータの発電軸が大きな慣性モーメントを有する。従って、発電軸とクランクシャフトとがプーリとベルトを用いて連結され動力を伝達するという構成では、ベルトの速度(クランクシャフトの回転速度)が変化するたびにプーリとベルトとの間で滑りが生じベルト鳴きが誘発される。
さらに、クランクシャフトの回転変動が発電軸に伝えられると、オルタネータの発電機構が劣化し、発電効率が低下するという問題がある。
【0003】
そこで、前記回転伝達系に好適なプーリ、すなわちクランクシャフトの回転変動を吸収するようなプーリとして、たとえば相対回転可能な2つの回転体の間に弾性部材と粘性流体とを備えたダンパ付きプーリ(特許文献1)や、前記2つの回転体の間に弾性部材のみを設けたプーリが挙げられる。
【0004】
特許文献1は、弾性部材と特殊な粘性流体とを用いてクランクシャフトの回転変動を吸収するようなプーリ構造体の一例を示している。このプーリ構造体は、互いに相対回転可能な第1回転体と第2回転体との間に、ゴム製の弾性部材と、回転変動が生じる際に発生する剪断力の増大に伴い粘性が増大する性質を有する粘性流体と、から構成されている。
この構成により、例え弾性部材にその弾性限界以上の剪断応力が発生し得るトルクがプーリ構造体に作用しても、粘性流体の高粘度化によって第1回転体と第2回転体との相対角変位が抑制され、弾性部材が降伏あるいは破断により損傷することを防止しようとするものである。
【0005】
他方、第1回転体と第2回転体との間に弾性部材のみを設けたプーリ構造体も一例として挙げられる。前記弾性部材はコイルスプリングであって、その端部は第1回転体および第2回転体に設けた円弧状の収容溝に嵌合固定されており、その終端は湾曲され各回転体に係止されている。前記収容溝内であって、前記コイルスプリングの端部が前記円弧状の収容溝による嵌合固定から解放される領域においては、コイルスプリングと円弧状の収容溝との間に一定の間隙が設けられている。
以上のように弾性部材のみを用いて回転変動を吸収しようとする構成においては、特許文献1に比べて大きな相対角変位を確保することができるので、プーリに巻架されたベルトの張力変動を減少させることができる。これにより、ベルト鳴きが抑制され、ベルトの耐久性が改善されるという効果を有する。
【0006】
ところで、特許文献2(対応する米国公報;米国特許第5139463号明細書)は、自動車のためのサーペンタイン駆動機構にあってオルタネータに使用されるプーリを開示する。
このプーリは、電機子組立体とともに回転するハブ構造体と当該ハブ構造体の上に取り付けられる交流発電機プーリとを備え、当該ハブ構造体と交流発電機プーリとの間にコイルばねが各端部を固定して介在されており、蛇行ベルトによる交流発電機プーリの従動回転運動をハブ構造体に伝達し、また交流発電機プーリに対しても反対方向の相対弾性回転運動ができる構造となっている。前記コイルばねの端部は半径方向の外側に曲げられており、当該端部は、ハブ構造体と交流発電機プーリに設けられた切り込みに収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−240246号公報
【特許文献2】特許第3268007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の構成では、第1回転体と第2回転体との間に設けられる弾性部材として環状のゴムが採用されているため、一般的にその弾性限界内における弾性変形量、すなわち2つの回転体間で許容される相対角変位が十分に確保されていない。
さらに、特許文献1で示されているような弾性部材を備えたダンパ付きプーリを用いて回転変動を伴うクランクシャフトとオルタネータとを結合すると、回転変動に伴う変動トルクがオルタネータに伝達されにくくなるが、一方、ベルトが張力変動により共振し易くなるので、新たな騒音が発生したり、ベルトの耐久性に悪影響を及ぼすこととなる。
【0009】
他方、弾性部材としてコイルスプリングを用い、ダンパを備えないプーリ構造体においては、特許文献1で示されるようなベルトの共振・それに伴う騒音およびベルトの耐久性悪化などの問題は発生しないものの、プーリとオルタネータの発電軸との相対角変位が大きくなり、以下の理由によりコイルスプリングが破損する場合がある。
即ち、前記コイルスプリングであって回転体へ嵌合固定されている領域と前記間隙が設けられている領域との境界には明確なコーナー部(単なる段差)が形成されているので、コイルスプリングが弾性変形するたびに、そのコーナー部の近傍において応力集中が発生する。従って、クランクシャフトの回転変動毎に発生する局所的な繰り返し応力によって、コイルスプリングの前記境界部が疲労破壊する恐れをこのプーリ構造体は有している。
【0010】
ところで、特許文献2の構成では、半径方向の外側に曲げられた端部に応力集中が発生しやすくなっており、比較的短期間のうちにコイルバネが破損してしまうという問題があった。
【0011】
本発明は係る諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ベルトの共振・騒音・耐久性およびプーリとオルタネータの発電軸との相対角変位の確保という側面から、プーリ構造体の相対角変位を緩やかに吸収する部材としてコイルスプリングを採用することとし、このコイルスプリングが疲労破壊することのないプーリ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0012】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0013】
(請求項1)
ベルトを巻回可能にする第1回転体と、前記第1回転体の内側で当該第1回転体に対し相対回転可能な第2回転体と、前記第1回転体と前記第2回転体との間に形成されるバネ収容室と、前記バネ収容室に収容されるとともに、一端を前記第1回転体に固定し、他端を前記第2回転体に固定したコイルスプリングからなるプーリ構造体において、前記第1回転体及び前記第2回転体のうち少なくとも何れか一方は、前記コイルスプリングの端部を収容する円弧状の収容溝を備えており、前記収容溝は、前記コイルスプリングの被圧入部が圧入固定される圧入部を有しており、前記圧入部及び前記被圧入部の少なくとも一方は、圧入されていない状態において、プーリ構造体の中心軸回りの周方向に沿わない形状であって、前記被圧入部が前記圧入部の側壁に対して少なくとも3箇所以上で当接して支持されている。
以上の構成により、クランクシャフトの回転変動を緩やかに吸収する手段としての弾性部材にコイルスプリングを用いることで、弾性部材にゴムなどを用いる場合よりも大きな相対角変位を許容・確保することができ、回転変動をより吸収し易い。
それに伴い、ベルトの張力変動を抑制できるので、ベルトの共振を抑制することができ、これによりベルトにおける新たな騒音の発生が防止でき、さらにベルトの耐久性も向上する。
また、前記収容溝の前記コイルスプリングの端部に対する係止力を大とできるので、当該端部が当該収容溝に対して摺動したり、当該収容溝から抜脱したりするのを防止できる。また、コイルスプリングの端部が収容溝に対して3点以上で支持されるので、コイルスプリングの姿勢を安定にできる。
【0014】
(請求項2)
前記被圧入部に、波打状の蛇行部が形成されていることが好ましい。
以上の構成により、コイルスプリングの曲げ変形荷重を前記蛇行部の全体で受け止めることができるので、回転変動時のコイルスプリングに対する応力集中が防止でき、従って、コイルスプリングの疲労破壊を防止することができる。
また、前記蛇行部と前記収容溝との間隙が漸増減するよう構成されているので、この意味でも、回転変動時のコイルスプリングに対する応力集中は防止される。
また、前記収容溝は平行溝で十分であって、特別な加工を必要としないので、安価なプーリ構造体を提供できる。
【0015】
(請求項3)
前記圧入部の側壁、及び、前記被圧入部の前記側壁に対向する部分の少なくとも一方に凹凸が設けられていることが好ましい。
これにより、コイルスプリングの端部が抜けないように凹凸を介して強固に圧入固定することができる。
【0016】
(請求項4)
前記圧入部の側壁と、前記被圧入部の前記側壁に対向する部分とが、互いに係合する前記凹凸を有することが好ましい。
【0017】
(請求項5)
前記圧入部又は前記被圧入部は、前記凹凸が設けられた領域と、前記凹凸が設けられていない領域とを有することが好ましい。
【0018】
(請求項6)
前記凹凸は、セレーション加工又はローレット加工により形成されていることが好ましい。
これにより、凹凸同士の機械的な係止を確実に行うことができる。
【0019】
(請求項7)
前記被圧入部には、幅広部が少なくとも2つ以上形成されていることが好ましい。
これにより、前記幅広部と前記収容溝との間隙が漸増減するよう構成されているので、回転変動時のコイルスプリングに対する応力集中が防止でき、従って、コイルスプリングの疲労破壊を防止することができる。
また、前記収容溝は平行溝で十分であって、特別な加工を必要としないので、安価なプーリ構造体を提供できる。
また、コイルスプリングの曲げ変形荷重が、少なくとも4つの前記当接部において分担して支持されることとなるので、回動変動時のコイルスプリングに対する応力集中がより確実に防止される。
【0020】
(請求項8)
前記幅広部は、前記コイルスプリングの周壁をプレス加工することにより形成されることが好ましい。
これにより、前記幅広部を低コストで形成できる。また、プレス量を調節するだけで当該幅広部の大きさ(幅)を自由に変更できるので、例えば設計変更に伴うコスト増を抑制することができる。
【0021】
(請求項9)
前記被圧入部の前記圧入部に対する圧入代は、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。なお、前記蛇行部又は前記幅広部の前記収容溝に対する当接部が複数ある場合には、少なくとも何れか1つが上記条件を満たしていればよい。
上記の如く前記圧入代を0.1mm以上とすることで、前記収容溝の前記コイルスプリングの端部に対する係止力を、当該端部が当該収容溝に対して摺動したり、当該収容溝から抜脱したりしない程度に十分に確保できる。
一方、前記圧入代を0.5mm以下とすることで、プーリ構造体の組立性を良好にできる。
【0022】
(請求項10)
前記被圧入部の前記圧入部に対する圧入代は、前記コイルスプリングの終端から離れるにつれて小となることが好ましい。
これによると、前記コイルスプリングの端部において、その終端から離れるにつれて発生応力がより大きくなる、言い換えれば当該端部において終端から最も離れたところにおける発生応力が最大になるという応力ムラの問題を解決できるので、前記コイルスプリングの寿命を延長できる。
【0023】
(請求項11)
前記圧入代は、前記コイルスプリングの終端から遠い側は0.1mm未満であり、近い側は0.1mm以上であることが好ましい。これにより、上記の効果がより確実に奏される。
【0024】
(請求項12)
前記収容溝の溝幅は一定であることが好ましい。これにより、前記収容溝の加工を容易とできるので、安価なプーリ構造体を提供できる。
【0025】
(請求項13)
前記コイルスプリングの終端には、前記収容溝に沿うように更に延び、コイル軸心に対して垂直な面を有する添巻部が形成されていることが好ましい。
これにより、前記コイルスプリングの添巻部と当該添巻部が圧入固定される前記収容溝の底面とが面接触することとなるので、当該コイルスプリングのコイル軸心の心ブレを防止できると共に、組立作業性が向上する。
【0026】
(請求項14)
前記コイルスプリングの断面が矩形状の角コイルスプリングであることが好ましい。
以上の構成により、断面が円形であるコイルスプリングと当該角コイルスプリングとを比較して以下のような効果が得られる。すなわち、同じ相対角変位・同じ巻き数・同じばね定数であっては後者のコイルスプリングに発生する最大引張(圧縮)応力を例えば約70%となるよう低減することができ、一方、同じ相対角変位において発生する最大引張(圧縮)応力が同じであり且つ同じばね定数であっては後者の必要巻き数が例えば70%となる効果を奏する。
【0027】
(請求項15)
前記第1回転体の内周壁に少なくとも1つの第1突起部が設けられ、当該第1突起部と当接可能な第2突起部が前記第2回転体の外周壁に少なくとも1つ設けられ、第1回転体と第2回転体とが所定の角度まで相対回転すると、前記角度を越える相対回転が規制されることが好ましい。
以上の構成により、前記コイルスプリングの変形に上限を設けられる。言いかえれば、前記コイルスプリングの応力に上限を設けられるので、前記コイルスプリングに過度の力が作用することなく、前記コイルスプリングの疲労や破断などを抑制できる。
【0028】
(請求項16)
前記第1回転体と前記第2回転体との間に摩擦部材が介装されていることが好ましい。
これにより、前記第1回転体と前記第2回転体との間の相対回転運動が減衰され、前記コイルスプリングの変形も抑制される結果、長寿命なプーリ構造体を提供できる。
【0029】
(請求項17)
前記摩擦部材は、前記第1回転体及び第2回転体うち何れか一方と、他方にスライド可能に設けられたプレッシャー板との間に介装されており、前記プレッシャー板は、前記摩擦部材を前記一方へ押し付けようとする方向へ適宜の付勢手段により付勢されていることが好ましい。
これにより、前記第1回転体の前記第2回転体に対する相対回転運動に大きな減衰力を付与できる。
【0030】
(請求項18)
前記コイルスプリングの外周側又は内周側のうち少なくとも何れか一側に筒状のスプリングホルダが設けられていることが好ましい。
これにより、前記コイルスプリングの拡径(縮径)方向への変形量が過大となることがないので、当該コイルスプリングの損傷を防止できる。
またスプリングホルダが設けられることにより、コイルスプリングが拡径(又は縮径)変形したとしても、前記第1回転体(又は前記第2回転体)に対して直接的に摩擦することがないので、当該コイルスプリング7の損傷を抑制できる。このことは、例えば図6に示すようにコイルスプリングと第1回転体(又は第2回転体)との間の空間を出来るだけ狭くしたい場合に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図2】図1のA−A矢視図。
【図3】本発明に係るプーリ構造体の第1実施形態に対する変形例を示す部分模式図であって、図2に類似するもの。
【図4】本発明の第2実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図5】図4におけるB−B断面矢視図。
【図6】第2実施形態の変形例を示す断面図。
【図7】本発明の第3実施形態に係るプーリ構造体の断面図であって、図2に類似する図。
【図8】第3実施形態の変形例であって、図7に類似する図。
【図9】本発明の第4実施形態に係るプーリ構造体の断面図であって、図7に類似する図。
【図10】本発明の第5実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図11】図10におけるE−E断面矢視図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るプーリ構造体の第1実施形態に関して説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るプーリ構造体の断面図であり、図2は図1のA−A矢視図である。
【0033】
ここでは、本発明に係るプーリ構造体が自動車のオルタネータの発電軸に設置されている一実施形態に関して説明する。
【0034】
図1に示すプーリ構造体1は、自動車のオルタネータの発電軸(図示せず)上に設置されるものであって、エンジンの動力がベルト(図示せず)を介して伝達されることにより回転される。このプーリ構造体1は、その外周に第1回転体2を備え、当該第1回転体2の外周面には、前記ベルトを巻き掛けることが可能なプーリ体2aが設けられている。この第1回転体2は略円筒状に形成されている。
【0035】
前記第1回転体2の軸方向一端側の内周には軸受4が、軸方向他端側の内周には軸受5が配置されている。これら軸受4及び軸受5により、第2回転体3が第1回転体2に対して相対回転自在に支持されており、この第2回転体3は第1回転体2の内部に収納されている。
【0036】
上記第2回転体3の外周には、軸受4及び軸受5が外れないように固定するための止め部材31,32がそれぞれ嵌装されている。また、この第2回転体3の軸孔3aは、オルタネータの発電軸(図示せず)が固定可能に形成されている。
【0037】
なお、本実施例において軸受4及び軸受5として、ボールベアリングを用いているが、これに限らず、例えばドライメタルなどを採用することで構成を簡素化しても良い。
【0038】
前記の第1回転体2と第2回転体3、及び軸受4,5により、バネ収容室6が形成されている。
前記第1回転体2の軸方向一端側の内壁には円弧状の第1収容溝2bが形成されており、また、バネ収容室6内であって、第2回転体3の外周面上には前記第1収容溝2bと軸方向で対応する位置に円弧状の第2収容溝3bを構成する壁が突設されている。
【0039】
また、前記バネ収容室6内であって、前記の第1収容溝2bと第2収容溝3bとの間には、その断面が矩形状のコイルスプリング7(角コイルスプリング)が収納されている。
【0040】
上記コイルスプリング7は、プーリ構造体1の回転軸線とこの軸線を一致させるようにバネ収容室6の内部に配置されると共に、一端を第1収容溝2bの内壁に、他端を第2収容溝3bの内壁に圧入して嵌合固定されている。これにより、前記の第1回転体2と第2回転体3とは、当該コイルスプリング7を介して弾性的に連結されている。
【0041】
以下、上記の第1収容溝2bおよび第2収容溝3bに関して詳しく説明する。
【0042】
(収容溝概略)
前記第1収容溝2bは、前記コイルスプリング7のバネ線の三方を囲むように、且つ前記バネ収容室6側を開放させるように形成されている。同様に、前記第2収容溝3bも、コイルスプリング7のバネ線の三方を囲むように且つバネ収容室6側を開放させるように形成されている。そしてコイルスプリング7の両端部は、第1収容溝2bおよび第2収容溝3bにそれぞれ収容されている。
【0043】
(圧入による嵌合固定)
図2に示すように、前記収納溝2b(3b)において、前記コイルスプリング7の終端7bの被圧入部7aが圧入される圧入部11の側壁には、波打状となる蛇行面2eが形成されている。そして、該コイルスプリング7の被圧入部7aを前記圧入部11へ圧入し嵌合させることで、双方を強固に固定している。
この構成により、前記コイルスプリング7と前記圧入部11が、前記第1収容溝2bの周方向に沿って内周側及び外周側へ交互に弾性変形され、これにより生じる復元力も同じく内周側及び外周側へ交互に作用することとなる。従って、コイルスプリング7と圧入部11との間の摩擦力を大幅に向上させることができる。
なお、前記圧入部11の前記両壁面に形成される前記蛇行面2eを構成する凹凸は、図2に示すように、径方向においてそれぞれが互いに対応するように形成されていることが好ましい。これにより、前記コイルスプリング7の終端7bも蛇行状に弾性変形され、その蛇行状のコイルスプリング7の両側面と前記蛇行面とが細かく噛み合うこととなるので、前記コイルスプリング7と前記圧入部11との摩擦力(係止固定力)をさらに向上させることができる。
【0044】
(前記収容溝の壁面)
また、図1において第2収容溝3bの外周側壁面は薄く形成されていてもよい。このように収容溝の壁面を肉薄とすることで、コイルスプリング7の被圧入部7aを対応する収容溝に圧入・嵌着しやすくなる。さらには、プーリ構造体1の作動時に、コイルスプリング7が被圧入部7aにおいても弾性変形できるので、応力集中を招くような不均一な変形を抑制することができる。言い換えれば、前記コイルスプリング7の端部が弾性変形することをできるだけ妨げないので、コイルスプリング7が応力集中により疲労や破断などするのをより確実に抑制することができる。
同様の理由で、第2収容溝3bの外周側壁面のみならず、内周側壁面が薄肉であっても良いし、若しくはその双方の壁面が薄肉であっても良い。
【0045】
本実施形態のプーリ構造体1は以上説明したとおり、第1回転体2と第2回転体3とを弾性的に連結する弾性体として、コイルスプリング7が採用されている。即ち、第1回転体2と第2回転体3との間に筒状のバネ収容室6を設け、このバネ収容室6内にコイルスプリング7を設置して、一端を第1収容溝2bに、他端を第2収容溝3bに、それぞれ固定している。ここでコイルスプリング7は、バネ線を螺旋状に巻くという構造上の理由で、その許容できる相対角変位を環状のゴムなどに比べて大とすることができる。従って、第1回転体2と第2回転体3との間で許容できる相対角変位を大きくでき、回転変動を効率よく吸収することができる。また、それに伴い、ベルトの張力変動を抑制できるので、ベルトの共振を抑制することができ、これによりベルトにおける新たな騒音の発生が防止でき、さらにベルトの耐久性も向上する。
【0046】
また、例えば図1に示す肉抜部2dのように、第1回転体2は積極的に軽量化されていることが好ましい。これにより、第1回転体2の回転慣性モーメントを低減することができるので、プーリ体2aのある点における速度をベルトの速度に維持するために必要とするベルトの張力を緩和することができる。したがって、プーリ体2aとベルトとの間の静止摩擦力を上回る力の発生を抑制できるので、ベルトが磨耗することがなく、寿命を延長することができる。
【0047】
さらに、第1回転体2の素材として、例えばアルミニウムなどの軽合金を採用することが好ましい。これにより、第1回転体2の回転慣性モーメントをさらに低減することができるので、前述の肉抜きによる軽量化による効果と同様に、ベルトの寿命を延長することができる、という効果を奏する。
【0048】
加えて、粘性流体などのダンパー部材を用いないため、構造が単純で部品点数を削減することができる。また、これに限らず、ダンパー部材を設けても良い。
より具体的には、前記バネ収容室6内部を、例えばシリコンオイルなどの粘性流体で充填してもよい。これにより、前記の第1回転体2と第2回転体3との間の相対回転運動に減衰効果を追加することができる。また、このようにダンパー部材として粘性流体を用いる場合でも、前記バネ収容室6の形状等を工夫する必要は特にないので、プーリ構造体1の製造コストもさほど増大しない。
【0049】
また本実施形態では、断面が矩形状の角コイルスプリングが採用されている。これにより、断面が円形であるコイルスプリングと当該角コイルスプリングとを比較して以下のような効果が得られる。すなわち、同じ相対角変位・同じ巻き数・同じばね定数であっては後者のコイルスプリングに発生する最大引張(圧縮)応力を約70%となるよう低減することができ、一方、同じ相対角変位において発生する最大引張(圧縮)応力が同じであり且つ同じばね定数であっては後者の必要巻き数が70%となる効果を奏する。
以上の理由から角コイルスプリングを採用することが好ましいが、これに限定されず、コイルスプリングの断面形状は例えば円形であっても良い。
【0050】
また本実施形態では、第1収容溝2bおよび第2収容溝3bにコイルスプリング7の端部がそれぞれ収容されている。このようにコイルスプリング7の端部を第1収容溝2bおよび第2収容溝3bに収容させて設けることで、コイルスプリング7を傾いたりすることなく確実にまっすぐ安定させて設置できる。即ち、コイルスプリング7が傾いて設置されていると、プーリ構造体1に加わる回転変動によってコイルスプリング7の一部分に過大な力が加わり易くなり、コイルスプリング7が破損し易くなってしまう。この点、本実施形態ではコイルスプリング7の取付け向きが斜めになることを第1収容溝2bおよび第2収容溝3bによって確実に回避できるから、プーリ構造体1に加わる回転変動をバネ線全体で均等に受け止めることができ、コイルスプリング7の寿命を延ばすことができる。
【0051】
また本実施形態では、オルタネータの発電軸にプーリ構造体1を設けた場合を説明したが、それに限らず、例えば自動車のエアコンディショナのコンプレッサ軸に本発明のプーリを設置することが考えられる。また、動力出力側、例えばエンジンのクランクシャフトに当該プーリを設けても良い。この場合、クランクシャフトの回転が第2回転体3からコイルスプリング7を介して第1回転体2へ伝達され、第1回転体2からベルトを介して動力が出力されることになる。また、車両機器以外にも本発明のプーリ構造体の適用は妨げられず、種々の回転伝達系に本発明のプーリ構造体を設置して使用することができる。
【0052】
次に、図3に基づいて、本発明の第1実施形態に係るプーリ構造体1の変形例に関して説明する。
【0053】
図3は、本発明に係るプーリ構造体の第1実施形態に対する変形例を示す部分模式図であって、図2に類似するものである。
【0054】
また、上記変形例は以下のように変更することができる。
即ち図3に示すように、前記コイルスプリング7の終端7bに、波打状となる蛇行部7cが形成されていてもよい。なお、この図3においては、前記コイルスプリング7の圧入前の外形線を図示する代わりに、前記圧入部11の同じく圧入前の外形線が二点鎖線で表されている。
言い換えれば、図2においては前記第1収容溝2bの前記両壁面が蛇行状に形成されているのに対し、図3においては前記コイルスプリング7の終端7bが蛇行状に形成されている。
より具体的には、前記コイルスプリング7が前記圧入部11に圧入される前に、断面矩形状の前記蛇行部7cの側面であって、前記圧入部11に把持される側面が、予め波打状に形成されている。
この場合でも、図2で示される係止部2c’と同様に、前記コイルスプリング7と圧入部11が、前記第1収容溝2bの周方向に沿って内周側及び外周側へ交互に弾性変形され、これにより生じる復元力も同じく内周側及び外周側へ交互に作用することとなる。従って、コイルスプリング7と圧入部11との間の摩擦力を大幅に向上させることができる。
【0055】
さらに本変形例では、前記第1収容溝2bが設けられている前記第1回転体2に、蛇行面を設けるための追加工を一切必要とせず、加工の容易な前記コイルスプリング7に単に前記蛇行部2eを設けるだけで前記係止部が構成されるので、生産性に優れ、且つ、安価なプーリ構造体を提供することが可能となる。
【0056】
次に、図4及び図5に基づいて、本発明に係るプーリ構造体の第2実施形態に関して説明する。
【0057】
図4は、本発明の第2実施形態に係るプーリ構造体の断面図である。図5は、図4におけるB−B断面図である。なお、第2実施形態においては、上記の第1実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0058】
図4に示すように、前記の第1回転体2と第2回転体3との間には、第1回転体2と第2回転体3とが所定の角度まで相対回転すると、当該角度を越える相対回転を規制するための回転規制部10が、前記コイルスプリング7の両端部付近にそれぞれ設けられている。
【0059】
より詳しくは前記回転規制部10は、図5に示すように、前記第1回転体2の内周壁から軸心へ向かって突設される円弧状の第1突起部2fと、当該第1突起部2fと当接可能であって前記第2回転体3の外周壁から円弧状に突設される第2突起部3fと、から構成されている。
前記第1突起部2fおよび前記第2突起部3fは、前記プーリ構造体1の中心軸に対してそれぞれ一対で設けられている。そして、それぞれ一対で設けられている前記第1突起部2fおよび前記第2突起部3fは、周方向に交互に並べて配置されている。
以上の構成により、前記の第1回転体2と第2回転体3との相対回転角が所定の角度以上となったときに、それ以上の相対回転が規制されるので、前記コイルスプリング7の変形に上限が設けられることとなる。言い換えれば、前記コイルスプリング7に生じる応力に上限を設けられるので、コイルスプリング7に過度の力が作用することなく、もって、疲労や破断などを抑制することができる。
【0060】
次に、図6に基づいて上記第2実施形態の変形例を説明する。図6は図4に類似する図である。なお本変形例において、上記第2実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0061】
図6に示すように本変形例において前記コイルスプリング7の外周側には、筒状のスプリングホルダ60が設けられており、当該スプリングホルダ60は前記第1回転体2の内周面に固着されている。これにより、前記コイルスプリング7の拡径方向への変形量が過大となることがないので、当該コイルスプリング7の過大変形による損傷を防止できる。
このスプリングホルダ60の素材は、ポリアセタール・ポリアリレート・ナイロンなどの合成樹脂材、ゴム材、ポリウレタンエラストマー材などが好適であり、また、これらに限ることはない。
【0062】
なお上記スプリングホルダ60は図6に示すようにコイルスプリング7の外周側に配置される場合と、図示しないが内周側に配置される場合とが考えられる。後者の場合では、前記コイルスプリング7の縮径方向への変形量が過大となることがない。
また当該スプリングホルダ60は、前記コイルスプリング7の外周側及び内周側の夫々に同時に設けられても勿論よい。これによれば、コイルスプリング7の拡径及び縮径両方向への変形量が過大となることがない。
また当該スプリングホルダ60が設けられることにより、コイルスプリング7が拡径(又は縮径)変形したとしても、前記第1回転体2(又は前記第2回転体3)に対して直接的に摩擦することがないので、当該コイルスプリング7の損傷を抑制できる。このことは、図6に示すようにコイルスプリング7の外周側(又は内周側)と第1回転体2(又は第2回転体3)との間の空間を出来るだけ狭くしたい場合に特に有用である。
なお当該スプリングホルダ60は、筒状であると前述したが、その周壁に適宜のスリットやストレート溝などが設けられていても問題ない。
【0063】
また図6に示すように前記の第1回転体2と第2回転体3の互いに対向する周面には、前記プーリ構造体1の軸方向と平行に延びるリテーナ溝62およびプレッシャー溝63とが夫々凹設されている。
また当該対向する周面間には、円盤状のリテーナ板64とプレッシャー板65とが介装されており、前者のリテーナ板64は前記リテーナ溝62に一部が嵌合することで前記プーリ構造体1の軸方向にはスライド可能となっており、且つ周方向には回転が規制されている。同様に後者のプレッシャー板65も前記プレッシャー溝63に一部が嵌合することで前記プーリ構造体1の軸方向にはスライド可能となっており、且つ周方向には回転が規制されている。
【0064】
前記のリテーナ板64とプレッシャー板65との間には、軸方向において挟まれるように円盤状の摩擦部材66が介装されている。
また前記摩擦部材66の外周面には、当該摩擦部材66の軸心と前記プーリ構造体1の軸心とを略一致させるためのリング部材67が外嵌されており、当該リング部材67は前記第1回転体2の内周面に対して周方向にも軸方向にも滑動可能に内接している。
【0065】
また図6に示すように前記リテーナ板64は前記第1回転体2に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に係合しており、前記プレッシャー板65は前記摩擦部材66をリテーナ板64へ押し付けようとする方向へ適宜の付勢手段68により付勢されている。これにより、前記リテーナ板64と前記摩擦部材66、及び、当該摩擦部材66と前記プレッシャー板65とは夫々互いに密着するようになっている。
そして、前述の如く前記リテーナ板64は第1回転体2と共に、前記プレッシャー板65は第2回転体3と共に回転するように構成されているので、当該第1回転体2の第2回転体3に対する相対回転運動は、リテーナ板64とプレッシャー板65とが前記摩擦部材66を介して互いに摺動することにより減衰されるようになっている。
端的に言えば、第1回転体2と第2回転体3との間に摩擦部材66が介装されており、当該第1回転体2と第2回転体3とは当該摩擦部材66を介して互いに摺動することにより、上記相対回転運動が減衰されるようになっているのである。
【0066】
図6に示すように本変形例において上記の付勢手段68は皿バネである。この皿バネ68の一端は前記プレッシャー板65に当接する一方、他端は、前記第2回転体3の外周面に周方向に凹設された環状の係止溝68aに嵌着された止め輪68bに当接している。
【0067】
以上説明したように本変形例において前記の第1回転体2と第2回転体3との間には摩擦部材66が介装されている。これにより、前記第1回転体2の前記第2回転体3に対する相対回転運動が減衰され、前記コイルスプリング7の変形も抑制される結果、長寿命なプーリ構造体1とできる。
なお前記摩擦部材66の素材は、ポリアセタール・ポリアリレート・ナイロンなどの合成樹脂材、ゴム材、ポリウレタンエラストマー材などが好適であり、また、これに限ることはない。
【0068】
また以上説明したように本変形例において前記摩擦部材66は、前記第1回転体2及び第2回転体3うち何れか一方(本変形例においては第1回転体2・リテーナ板64)と、他方(本変形例においては第2回転体3)に軸方向へ滑動可能に設けられたプレッシャー板65との間に介装されており、当該プレッシャー板65は、前記摩擦部材66を前記一方(第1回転体2・リテーナ板64)へ押し付けようとする方向へ適宜の付勢手段(皿バネ68)により付勢されている。これにより、前記第1回転体2の第2回転体3に対する相対回転運動に大きな減衰力が付与されている。
なお前記リテーナ板64が設けられることにより、前記第1回転体2と前記摩擦部材66との間に適宜の摩擦力(減衰力)が発生するようになっているが、これに限らず、省略しても問題ない。
上記の構成は例えば以下のように変更することもできる。即ち、前記リテーナ板64の代わりに第1回転体2の内周面からフランジを突出形成し、そのフランジに形成された平坦面に対し前記摩擦部材66をプレッシャー板65を介して押し付けるべく適宜の付勢手段が配置されるよう構成してもよい。
【0069】
次に、本発明に係るプーリ構造体の第3実施形態に関して説明する。図7は、図2に類似する図である。なお、説明の便宜上、湾曲状(円弧状)に形成される前記第1収容溝2b(第2収容溝3b、以下同様)は本図において直線状に描かれている。また、本実施形態においては、上記の第1実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0070】
図7に示すように、本実施形態において前記第1収容溝2bは、前記コイルスプリング7よりも幅広に形成されている。また、前述の第1実施形態や第2実施形態のようには当該第1収容溝2bの溝幅は漸増減せず一定であり、溝の側壁が常に平行の所謂平行溝として形成されている。そして、前記コイルスプリング7の端部(被圧入部7a)には、前記第1収容溝2bの圧入部11に圧入により嵌着される波打状の蛇行部50が形成されている。
これにより、前述した第1実施形態と同様に、クランクシャフトの回転変動を緩やかに吸収する手段としての弾性部材にコイルスプリングを用いることで、弾性部材にゴムなどを用いる場合よりも大きな相対角変位を許容・確保することができ、回転変動をより吸収し易い。それに伴い、ベルトの張力変動を抑制できるので、ベルトの共振を抑制することができ、これによりベルトにおける新たな騒音の発生が防止でき、さらにベルトの耐久性も向上する。
また、コイルスプリング7の曲げ変形荷重を前記蛇行部50の全体で受け止めることができるので、回転変動時のコイルスプリング7に対する応力集中が防止でき、従って、圧入部11の端部におけるコイルスプリング7の疲労破壊を防止することができる。
また、前記蛇行部50と前記第1収容溝2bとの間隙が漸増減するよう構成されているので、この意味でも、回転変動時のコイルスプリング7に対する応力集中は防止される。
また、前記第1収容溝2bは平行溝で十分であって、特別な加工を必要としないので、安価なプーリ構造体1を提供できる。
【0071】
また、本図に示す如く、前記蛇行部50は、前記第1収容溝2bの側壁と少なくとも3箇所以上で当接していることが好ましい。
これにより、前記第1収容溝2bの前記コイルスプリング7の端部に対する係止力を大とできるので、当該端部が当該第1収容溝2bに対して摺動したり、当該第1収容溝2bから抜脱したりするのを防止できる。
また、コイルスプリング7の端部が第1収容溝2bに対して3点で支持されるので、コイルスプリング7の姿勢を安定にできる。
なお、前記蛇行部50が、前記第1収容溝2bの側壁と4箇所以上に亘って当接していても、勿論よい。
【0072】
また、前記蛇行部50の前記第1収容溝2bに対する圧入代は、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。なお本実施形態において当該圧入代は、すべて0.1mm以上0.5mm以下の範囲内である。
上記の如く前記圧入代を0.1mm以上とすることで、前記第1収容溝2bの前記コイルスプリング7の端部に対する係止力を、当該端部が当該第1収容溝2bに対して摺動したり、当該第1収容溝2bから抜脱しない程度に十分に確保できる。
一方、前記圧入代を0.5mm以下とすることで、プーリ構造体1の組立性を良好にできる。
【0073】
次に、上記第3実施形態の変形例を図8に基づいて説明する。図8は、図7に類似する図である。
【0074】
図8に示す本変形例において前記蛇行部50は、前記第1収容溝2bの側壁と5箇所に亘って当接している。そして、当該蛇行部50の第1収容溝2bに対する圧入代は、前記コイルスプリング7の終端7bから離れるにつれて小となっている。
これによると、以下の問題を解決できる。
即ち、前記コイルスプリング7の端部(被圧入部7a)において、その終端7bから離れるにつれて発生応力がより大きくなってしまう。言い換えれば当該端部(被圧入部7a)において終端7bから最も離れたところにおける発生応力が最大になるという応力ムラが発生してしまう。
そこで本変形例によれば上記問題を解消できるので、コイルスプリング7の寿命を延長できる。
別の観点からみれば、コイルスプリング7の曲げ変形荷重が最も作用する部分Xの圧入代を小とすることで、当該部分Xに作用する繰返し応力が抑制される結果、コイルスプリング7の寿命を延長できる。
【0075】
より具体的には、前記蛇行部50の前記第1収容溝2bに対する圧入代は、前記コイルスプリング7の終端7bから遠い側は0.1mm未満(圧入代:小)であり、近い側は0.1mm以上(圧入代:大)であることが好ましい。これにより、上記の効果がより確実に奏される。
【0076】
また、上記第3実施形態および上記変形例においても、前記コイルスプリング7が、断面が矩形状の角コイルスプリングであることが好ましい。それによる効果は上述した通りである。
【0077】
次に、本発明に係るプーリ構造体の第4実施形態に関して説明する。図9は、図7に類似する図である。なお図9においても、説明の便宜上、湾曲状(円弧状)に形成される前記第1収容溝2b(第2収容溝3b、以下同様)は直線状に描かれている。また、本実施形態においても、上記の第1実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0078】
図9(a)〜(c)に示すように、この場合も前記第1収容溝2bは、前記コイルスプリング7よりも幅広に形成されている。そして、前記コイルスプリング7の端部(被圧入部7a)には、前記第1収容溝2bの圧入部11に圧入により嵌着される幅広部51が2箇所、形成されている。また、当該幅広部51の前記第1収容溝2bに対する当接部51a近傍は、湾曲状に形成されている。
これにより、前述した第1実施形態と同様に、クランクシャフトの回転変動を緩やかに吸収する手段としての弾性部材にコイルスプリングを用いることで、弾性部材にゴムなどを用いる場合よりも大きな相対角変位を許容・確保することができ、回転変動をより吸収し易い。それに伴い、ベルトの張力変動を抑制できるので、ベルトの共振を抑制することができ、これによりベルトにおける新たな騒音の発生が防止でき、さらにベルトの耐久性も向上する。
また、前記幅広部51と前記第1収容溝2bとの間隙が漸増減するよう構成されているので、回転変動時のコイルスプリング7に対する応力集中が防止でき、従って、圧入部11の端部におけるコイルスプリング7の疲労破壊を防止することができる。
また、前記第1収容溝2bは幅が一定の平行溝で十分であって、特別な加工を必要としないので、安価なプーリ構造体1を提供できる。
【0079】
また、前記幅広部51は、2箇所に形成されているので、以下の効果を奏する。
即ち、前記第1収容溝2bの前記コイルスプリング7の端部に対する係止力を大とできるので、当該端部が当該第1収容溝2bに対して摺動したり、当該第1収容溝2bから抜脱したりするのを防止できる。
また、コイルスプリング7の端部が第1収容溝2bに対して3点以上(4点)で支持されるので、コイルスプリング7の姿勢を安定にできる。
また、コイルスプリング7の曲げ変形荷重が、図9(a)に示す如く4つの前記当接部51aにおいて分担して支持されることとなるので、回動変動時のコイルスプリング7に対する応力集中がより確実に防止される。
なお、当該幅広部51が、3箇所以上に形成されていても勿論よい。
【0080】
前記幅広部51は、前記コイルスプリング7の周壁をプレス加工することにより形成される。言い換えれば、幅広部51は、コイルスプリング7をその長手方向と垂直な方向にプレス加工することより形成される。これにより、前記幅広部51を低コストで形成できる。また、プレス量を調節するだけで当該幅広部51の大きさ(幅)を自由に変更できるので、例えば設計変更に伴うコスト増を抑制することができる。
当該プレス加工は、図9(a)〜(c)に例示するような種々の形態が考えれる。なお、これらの図では、前記コイルスプリング7として角コイルスプリングが採用されている。
例えば図9(a)に示す如く、コイルスプリング7が前記第1収容溝2bの溝幅方向に拡大変形するように、コイルスプリング7の周壁(側壁)中央のみを適宜にプレス加工するものであってもよい。
また図9(b)に示す如く、コイルスプリング7の周壁(側壁)を平面部材によって押し潰すようなプレス加工であってもよい。
また図9(c)に示す如く、コイルスプリング7の周壁(側壁)に予め開口しておいた孔に、パンチ工具等を押圧することによって当該孔を径方向に拡張するようなプレス加工であってもよい。また、当該プレス加工を孔の一側からのみ施す場合と、両側から施す場合とが考えられ、前者の場合には截頭円錐状の孔が形成され、後者の場合には本図に示すような鼓状の孔が形成されることとなる。
【0081】
また本実施形態においても第3実施形態と同様に、前記幅広部51の前記第1収容溝2bに対する圧入代は、0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましい。同様に当該圧入代は、コイルスプリング7の終端7bから離れるにつれて小となることが好ましい。
さらに、当該圧入代は、コイルスプリング7の終端7bから遠い側は0.1mm未満であり、近い側は0.1mm以上であることが好ましい。
これらによる作用効果は第3実施形態を説明する際に述べた通りである。
【0082】
また、本実施形態においてコイルスプリング7は、第1〜3実施形態と同様に角コイルスプリングであるとしたが、これによる作用効果も前述した通りである。
【0083】
また上記第3・第4実施形態およびそれらの変形例は、以下のように変更してもよい。
即ち、前記コイルスプリング7の終端7bには、前記第1収容溝2bに沿うように円弧状に更に延び、且つコイル軸心に対して垂直な面を有する添巻部が形成されていてもよい。当該添巻部は、末端へ向かうに連れて徐々に薄肉となる形状であって、例えばコイルスプリング7をコイル軸心に対して垂直な面で単に切断したときに形成されるスプリングの薄肉箇所を意味する。
これにより、前記コイルスプリング7の添巻部と当該添巻部が圧入固定される前記第1収容溝2bの底面とが面接触可能となるので、当該コイルスプリング7のコイル軸心の心ブレを防止できると共に、組立作業性が向上する。なお当該心ブレとは、例えばコイルスプリング7のコイル軸心の、前記プーリ構造体1の回転軸心に対するブレのことをいう。
なお上記添巻部にも、前記の蛇行部50や幅広部51が形成されていてよい。
また当該添巻部は、3/4周程度設けられていることが好ましい。これにより、前記コイルスプリング7のコイル軸心の心ブレをより効果的に防止できる。
【0084】
また、前記第1収容溝2bの溝幅は上述の如く一定であることが好ましい。これにより、前記第1収容溝2bの加工を容易とできるので、安価なプーリ構造体を提供できる。
【0085】
次に、本発明に係るプーリ構造体の第5実施形態を説明する。図10は本発明の第5実施形態に係るプーリ構造体の断面図、図11は図10におけるE−E断面矢視図である。
【0086】
この第5実施形態では図10に示すように、第1回転体2と第2回転体3はそれぞれ、第1フランジ部41’及び第2フランジ部42’を備えている。第1フランジ部41’は第1回転体2に、第2フランジ部42’は第2回転体3に、それぞれ一体的に形成されている。コイルスプリング7を収容するバネ収容室6は、2つのフランジ部41’,42’によって軸方向に挟まれた空間に形成されている。
【0087】
第1フランジ部41’と第2回転体3との間にはドライメタルタイプの軸受4が介設される。前記第2回転体3は筒状のハブとして構成されるとともに、オルタネータの駆動軸DSに外嵌される。オルタネータの駆動軸DSの先端部は、前記第2回転体3の軸孔3aに螺着される。
【0088】
そして、第1フランジ部41’にはコイルスプリング7のバネ線の一端を圧入して埋設するための第1収容溝2bが形成されている。この第1収容溝2bは、図10のE−E断面矢視図としての図11に示すように、バネ線に沿うように周方向に延在する円弧溝として構成されている。
【0089】
この円弧溝の一部(バネ線の端部側の一部の領域)において、セレーション加工又はローレット加工による細かい凹凸2hが内壁に形成され、圧入係止部46(凹凸が設けられた領域)が形成されている。一方、この圧入係止部46以外の領域には、圧入部47(凹凸が設けられていない領域)が形成されている。
【0090】
この構成で、バネ線の一端は、圧入係止部46の凹凸2hの部分で機械的に係合するとともに、圧入部47においては圧入固定される。このように圧入係止部46での係合固定と他の領域(圧入部47)での圧入固定を併用することで、コイルスプリング7の端部を安定して第1フランジ部41’の第1収容溝2bに固定することができる。
【0091】
第2フランジ部42’の第2収容溝3bに対するコイルスプリング7の他端側の固定については、第1フランジ部41’に対する固定と同様であるので、説明を省略する。なお、このような圧入係止部での係合固定と他の領域での圧入固定とを併用する構成は、コイルスプリング7の一端側にのみ適用することもできる。
【0092】
以上に示すように、本実施形態では、前記収容溝2b,3bの内壁の少なくとも一部に凹凸2hが設けられ、コイルスプリング7の蛇行しない端部は、この凹凸2hを有する内壁(圧入係止部46の部分)に圧入固定されている。この構成とすることで、コイルスプリング7の端部を蛇行させるような加工が不要になり、安価なプーリ構造体を提供できる。また、コイルスプリング7の端部を上記凹凸2hを介して収容溝2b,3bに対し強固に固定できる。更に、コイルスプリング7の端部が収容溝2b,3bの内壁に圧入固定されているので、コイルスプリング7の端部が抜けないように凹凸2hを介して強固に圧入固定することができる。
【0093】
また、前記コイルスプリング7の端部には、凹凸2hを介して係止固定される領域(圧入係止部46に相当する領域)と、圧入によって係止固定される領域(圧入部47に相当する領域)と、が形成されている。これにより、機械的に係止する領域と圧入による固定領域とが両方確保されるから、凹凸の機械的な係止作用と圧入固定作用の両方を何れも十分に発揮させることができる。
【0094】
また、前記コイルスプリング7の端部の凹凸は、セレーション加工又はローレット加工により形成されている。従って、凹凸同士の機械的な係合を確実に行うことができる。
【0095】
なお本実施形態では、コイルスプリング7のバネ線の外周面及び内周面には特別の加工は施されていないが、上記の圧入係止部46の凹凸2hに対応する形状の凹凸を、当該圧入係止部46に相当する位置にローレット加工等で形成しても良い。これにより、凹凸の機械的な係合と圧入固定の併用により、コイルスプリング7の端部の係止固定を確実に行うことができる。また、コイルスプリング7の端部の側にのみ凹凸加工を施し、前記収容溝の内壁には凹凸を設けない構成としても良い。
【0096】
以上に本発明の好適な複数の実施形態を説明したが、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0097】
また、コイルスプリング7の両端が上記の実施形態で説明された構成で固定される構成に限らず、例えば一端側のみが上記の実施形態の何れかで固定され、他端側は他の構成で固定されても良い。また、上記の実施形態で用いられているロウ付け固定部の部分では、接着剤による固定が代わりに採用されても良い。
【符号の説明】
【0098】
1 プーリ構造体
2 第1回転体
2b 第1収容溝
2f 第1突起部
2h 凹凸
3 第2回転体
3b 第2収容溝
3f 第2突起部
4,5 軸受
6 バネ収容室
7 コイルスプリング
7a 被圧入部
7c,50 蛇行部
11 圧入部
46 圧入係止部(凹凸が設けられた領域)
47 圧入部(凹凸が設けられていない領域)
51 幅広部
60 スプリングホルダ
65 プレッシャー板
66 摩擦部材
68 付勢手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトを巻回可能にする第1回転体と、
前記第1回転体の内側で当該第1回転体に対し相対回転可能な第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体との間に形成されるバネ収容室と、
前記バネ収容室に収容されるとともに、一端を前記第1回転体に固定し、他端を前記第2回転体に固定したコイルスプリングからなるプーリ構造体において、
前記第1回転体及び前記第2回転体のうち少なくとも何れか一方は、前記コイルスプリングの端部を収容する円弧状の収容溝を備えており、
前記収容溝は、前記コイルスプリングの被圧入部が圧入固定される圧入部を有しており、
前記圧入部及び前記被圧入部の少なくとも一方は、圧入されていない状態において、プーリ構造体の中心軸回りの周方向に沿わない形状であって、
前記被圧入部が前記圧入部の側壁に対して少なくとも3箇所以上で当接して支持される、ことを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記被圧入部に、波打状の蛇行部が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記圧入部の側壁、及び、前記被圧入部の前記側壁に対向する部分の少なくとも一方に、凹凸が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項4】
前記圧入部の側壁と、前記被圧入部の前記側壁に対向する部分とが、互いに係合する前記凹凸を有する、ことを特徴とする請求項3に記載のプーリ構造体。
【請求項5】
前記圧入部又は前記被圧入部は、前記凹凸が設けられた領域と、前記凹凸が設けられていない領域とを有する、ことを特徴とする請求項3又は4に記載のプーリ構造体。
【請求項6】
前記凹凸は、セレーション加工又はローレット加工により形成されている、ことを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項7】
前記被圧入部には、幅広部が少なくとも2つ以上形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項8】
前記幅広部は、前記コイルスプリングの周壁をプレス加工することにより形成される、ことを特徴とする請求項7に記載のプーリ構造体。
【請求項9】
前記被圧入部の前記圧入部に対する圧入代は、0.1mm以上0.5mm以下である、ことを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項10】
前記被圧入部の前記圧入部に対する圧入代は、前記コイルスプリングの終端から離れるにつれて小となる、ことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項11】
前記圧入代は、前記コイルスプリングの終端から遠い側は0.1mm未満であり、近い側は0.1mm以上である、ことを特徴とする請求項10に記載のプーリ構造体。
【請求項12】
前記圧入部の溝幅は一定である、ことを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項13】
前記コイルスプリングの終端には、前記収容溝に沿うように更に延び、且つコイル軸心に対して垂直な面を有する添巻部が形成されている、ことを特徴とする請求項1〜12の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項14】
前記コイルスプリングは断面が矩形状の角コイルスプリングである、ことを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項15】
前記第1回転体の内周壁に少なくとも1つの第1突起部が設けられ、
当該第1突起部と当接可能な第2突起部が前記第2回転体の外周壁に少なくとも1つ設けられ、
第1回転体と第2回転体とが所定の角度まで相対回転すると、前記角度を越える相対回転が規制される、ことを特徴とする請求項1〜14の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項16】
前記第1回転体と前記第2回転体との間に摩擦部材が介装されている、ことを特徴とする請求項1〜15の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項17】
前記摩擦部材は、前記第1回転体及び第2回転体うち何れか一方と、他方にスライド可能に設けられたプレッシャー板との間に介装されており、
前記プレッシャー板は、前記摩擦部材を前記一方へ押し付けようとする方向へ適宜の付勢手段により付勢されている、ことを特徴とする請求項16に記載のプーリ構造体。
【請求項18】
前記コイルスプリングの外周側又は内周側のうち少なくとも何れか一側に筒状のスプリングホルダが設けられている、ことを特徴とする請求項1〜17の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項1】
ベルトを巻回可能にする第1回転体と、
前記第1回転体の内側で当該第1回転体に対し相対回転可能な第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体との間に形成されるバネ収容室と、
前記バネ収容室に収容されるとともに、一端を前記第1回転体に固定し、他端を前記第2回転体に固定したコイルスプリングからなるプーリ構造体において、
前記第1回転体及び前記第2回転体のうち少なくとも何れか一方は、前記コイルスプリングの端部を収容する円弧状の収容溝を備えており、
前記収容溝は、前記コイルスプリングの被圧入部が圧入固定される圧入部を有しており、
前記圧入部及び前記被圧入部の少なくとも一方は、圧入されていない状態において、プーリ構造体の中心軸回りの周方向に沿わない形状であって、
前記被圧入部が前記圧入部の側壁に対して少なくとも3箇所以上で当接して支持される、ことを特徴とするプーリ構造体。
【請求項2】
前記被圧入部に、波打状の蛇行部が形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記圧入部の側壁、及び、前記被圧入部の前記側壁に対向する部分の少なくとも一方に、凹凸が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項4】
前記圧入部の側壁と、前記被圧入部の前記側壁に対向する部分とが、互いに係合する前記凹凸を有する、ことを特徴とする請求項3に記載のプーリ構造体。
【請求項5】
前記圧入部又は前記被圧入部は、前記凹凸が設けられた領域と、前記凹凸が設けられていない領域とを有する、ことを特徴とする請求項3又は4に記載のプーリ構造体。
【請求項6】
前記凹凸は、セレーション加工又はローレット加工により形成されている、ことを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項7】
前記被圧入部には、幅広部が少なくとも2つ以上形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項8】
前記幅広部は、前記コイルスプリングの周壁をプレス加工することにより形成される、ことを特徴とする請求項7に記載のプーリ構造体。
【請求項9】
前記被圧入部の前記圧入部に対する圧入代は、0.1mm以上0.5mm以下である、ことを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項10】
前記被圧入部の前記圧入部に対する圧入代は、前記コイルスプリングの終端から離れるにつれて小となる、ことを特徴とする請求項1〜9の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項11】
前記圧入代は、前記コイルスプリングの終端から遠い側は0.1mm未満であり、近い側は0.1mm以上である、ことを特徴とする請求項10に記載のプーリ構造体。
【請求項12】
前記圧入部の溝幅は一定である、ことを特徴とする請求項1〜11の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項13】
前記コイルスプリングの終端には、前記収容溝に沿うように更に延び、且つコイル軸心に対して垂直な面を有する添巻部が形成されている、ことを特徴とする請求項1〜12の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項14】
前記コイルスプリングは断面が矩形状の角コイルスプリングである、ことを特徴とする請求項1〜13の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項15】
前記第1回転体の内周壁に少なくとも1つの第1突起部が設けられ、
当該第1突起部と当接可能な第2突起部が前記第2回転体の外周壁に少なくとも1つ設けられ、
第1回転体と第2回転体とが所定の角度まで相対回転すると、前記角度を越える相対回転が規制される、ことを特徴とする請求項1〜14の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項16】
前記第1回転体と前記第2回転体との間に摩擦部材が介装されている、ことを特徴とする請求項1〜15の何れかに記載のプーリ構造体。
【請求項17】
前記摩擦部材は、前記第1回転体及び第2回転体うち何れか一方と、他方にスライド可能に設けられたプレッシャー板との間に介装されており、
前記プレッシャー板は、前記摩擦部材を前記一方へ押し付けようとする方向へ適宜の付勢手段により付勢されている、ことを特徴とする請求項16に記載のプーリ構造体。
【請求項18】
前記コイルスプリングの外周側又は内周側のうち少なくとも何れか一側に筒状のスプリングホルダが設けられている、ことを特徴とする請求項1〜17の何れかに記載のプーリ構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−237043(P2011−237043A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189241(P2011−189241)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2005−304242(P2005−304242)の分割
【原出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【分割の表示】特願2005−304242(P2005−304242)の分割
【原出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]