説明

プーリ構造体

【課題】コイルスプリングの疲労破壊が起こりにくいプーリ構造体を提供する。
【解決手段】ベルトを巻回可能にするプーリ102と、プーリ102の内側でプーリ102に対し相対回転可能なハブ構造体103と、プーリ102とハブ構造体103との間に形成されるバネ収容室106と、バネ収容室106に収容されるとともに、一端がプーリ102に当接し、他端がハブ構造体103に当接したコイルスプリング107と、を備える。コイルスプリング107を介して所定の大きさ以上の回転トルクがプーリ102とハブ構造体103との間で伝達された場合は、コイルスプリング107における、プーリ102との当接部である第1当接部107a及びハブ構造体103との当接部である第2当接部107bの少なくともいずれか一方は、プーリ102またはハブ構造体103に対して当接した状態で滑る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能な2つの回転体間におけるプーリ構造体に係り、より詳しく言えば、弾性部材が前記2つの回転体を連結し、回転変動を吸収できるプーリ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
発電を目的として自動車内に設けられたオルタネータは、エンジンに設けられたクランクシャフトに接続されて駆動する。しかし内燃機関の特性上、これに接続されているクランクシャフトには、回転方向に増速・減速が頻繁に繰り返されるといった回転変動が生じる。
【0003】
ここで、オルタネータの発電軸が大きな慣性モーメントを有する。従って、発電軸とクランクシャフトとがプーリとベルトを用いて連結され動力を伝達するという構成では、ベルトの速度(クランクシャフトの回転速度)が変化するたびにプーリとベルトとの間で滑りが生じ、ベルト鳴き・損耗が誘発される。
【0004】
さらに、クランクシャフトの回転変動が発電軸に伝えられると、オルタネータの発電機構が劣化し、発電効率が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、前記回転伝達系に好適なプーリ、すなわちクランクシャフトの回転変動を吸収するようなプーリとして、例えば、相対回転可能な2つの回転体の間に弾性部材と粘性流体とを備えたプーリが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1には、弾性部材と特殊な粘性流体とを用いてクランクシャフトの回転変動を吸収するようなプーリ構造体の一例が示されている。このプーリ構造体は、互いに相対回転可能な第1回転体と第2回転体との間に、ゴム製の弾性部材と、回転変動が生じる際に発生する剪断力の増大に伴い粘性が増大する性質を有する粘性流体と、から構成されている。この構成により、例え弾性部材にその弾性限界以上の剪断応力が発生し得るトルクがプーリ構造体に作用しても、粘性流体の高粘度化によって第1回転体と第2回転体との相対角変位が抑制され、弾性部材が降伏あるいは破断により損傷することを防止しようとするものである。
【0007】
また、相対回転可能な2つの回転体(第1、2回転体)の間に弾性部材のみを設けたプーリ構造体も一例として挙げられる(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の弾性部材はコイルスプリングであって、一方の端部のうず巻き部と、他方の端部の半径方向外側に延出する端部分と、それらの間の中間うず巻き部とからなっている。
【0008】
一方の端部は第2回転体の円筒状表面と把持作用を伴って係合することができる内径を有している。また他方の端部は、第1回転体に設けた円弧状の収容溝に収容され、その半径方向外側に延出した端部分が係止されることにより嵌合固定される。
【0009】
ベルトの運動によってプーリ構造体に正のトルクが存在している限りは、第1回転体と第2回転体は係合して回転する。この運動の間、中間うず巻き部が、第2回転体を第1回転体に対し反対方向の瞬間的な相対弾性回転運動ができるようにする。さらに、クランクシャフトの回転変動が両回転体間に所定の負のトルクを発生するのに十分な程度に低下したとき、一方の端部のうず巻き部が、第2回転体を第1回転体の回転速度を超える速度で回転させる滑り作用を伴って、第2回転体表面と係合するようになる。
【0010】
以上のような弾性部材のみを用いて回転変動を吸収しようとする構成においては、特許文献1に比べて、第1回転体と第2回転体間の大きな相対角変位を確保することができるので、プーリに巻架されたベルトの張力変動を減少させることができる。これにより、ベルト鳴きによる騒音が減少し、ベルトの耐久性が改善されるという効果を有する。また、結合離脱機構を一方向クラッチ機能に組み合わせることにより、コスト優位性が高められている。
【0011】
また、自動車のためのサーペンタイン駆動機構にあってオルタネータに使用されるプーリも知られている(例えば、特許文献3参照)。この特許文献3に記載のプーリは、電機子組立体とともに回転するハブ構造体と当該ハブ構造体の上に取り付けられる交流発電機プーリとを備え、当該ハブ構造体と交流発電機プーリとの間にコイルばねが各端部を固定して介在されており、蛇行ベルトによる交流発電機プーリの従動回転運動をハブ構造体に伝達し、また交流発電機プーリに対しても反対方向の相対弾性回転運動ができる構造となっている。前記コイルばねの端部は半径方向の外側に曲げられており、当該端部は、ハブ構造体と交流発電機プーリに設けられた切込みに収容されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平08−240246号公報
【特許文献2】特許第3357391号公報
【特許文献3】特許第3268007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1の構成では、第1回転体と第2回転体との間に設けられる弾性部材として環状のゴムが採用されているため、一般的にその弾性限界内における弾性変形量、すなわち2つの回転体間で許容される相対角変位が十分に確保されていない。さらに、特許文献1で示されているような弾性部材と特殊な粘性流体とを備えたプーリを用いて回転変動を伴うクランクシャフトとオルタネータとを結合することにより、オルタネータに対する回転変動に伴うトルク変動の影響を低減させることが可能であるが、一方でベルトが張力変動により共振し易くなるので、新たな騒音が発生したり、ベルトの耐久性に悪影響を及ぼしたりする。
【0014】
他方、特許文献2に示されるような、弾性部材としてコイルスプリングを用いるプーリ構造体においては、特許文献1で示されるようなベルトの共振・それに伴う騒音およびベルトの耐久性悪化などの問題は発生しないものの、プーリとオルタネータの発電軸との相対角変位が大きくなり、以下の理由によりコイルスプリングが破損する場合がある。即ち、コイルスプリングの一方の端部は、回転体に設けた円弧状の収容溝に収容され、その半径方向外側又は内側に延出した端部分が係止されることにより嵌合固定されるが、回転変動に伴うプーリとオルタネータの発電軸との相対回転運動により、延出部分の湾曲部に応力集中が発生する。従って、クランクシャフトの回転変動毎に発生する局所的な繰り返し応力によって、コイルスプリングの係止された端部分が疲労破壊するおそれをこのプーリ構造体は有している。
【0015】
また、特許文献3に記載されたプーリ構造体でも同様に、ハブ構造体または交流発電機プーリに固定されたコイルスプリングの端部に応力集中が発生しやすくなっており、比較的短期間のうちにコイルばねが破損してしまうという問題がある。
【0016】
本発明は係る諸点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、ベルトの共振・騒音・耐久性およびプーリとオルタネータの発電軸との相対角変位の確保という側面から、プーリ構造体の相対角変位を緩やかに吸収する部材としてコイルスプリングを採用することとし、このコイルスプリングの疲労破壊が起こりにくいプーリ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0017】
本発明に係るプーリ構造体は、ベルトの共振・騒音・耐久性およびプーリとオルタネータの発電軸との相対角変位の確保という側面から、プーリ構造体の相対角変位を穏やかに吸収する部材としてコイルスプリングを採用したプーリ構造体に関する。そして、本発明に係るプーリ構造体は、上記目的を達成するために以下のようないくつかの特徴を有している。すなわち、本発明のプーリ構造体は、以下の特徴を単独で、若しくは、適宜組み合わせて備えている。
【0018】
本発明に係るプーリ構造体における第1の特徴は、ベルトを巻回可能にする第1回転体と、前記第1回転体の内側で当該第1回転体に対し相対回転可能な第2回転体と、前記第1回転体と前記第2回転体との間に形成されるバネ収容室と、前記バネ収容室に収容されるとともに、一端が前記第1回転体に当接し、他端が前記第2回転体に当接したコイルスプリングと、を備え、前記コイルスプリングの両端は、径の大きさが変化するように弾性変形した状態で配設されているとともに、前記第1回転体及び前記第2回転体によって当該コイルスプリングの径が弾性回復することを抑制された状態で前記第1回転体及び前記第2回転体に当接しており、前記コイルスプリングの端部以外の部分が、前記第1回転体及び前記第2回転体の相対回転時において径の大きさが変化する方向に変形しても、前記第1回転体及び前記第2回転体のいずれにも接触せず、前記コイルスプリングを介して所定の大きさ以上の回転トルクが前記第1回転体と前記第2回転体との間で伝達された場合は、前記コイルスプリングにおける、前記第1回転体との当接部である第1当接部及び前記第2回転体との当接部である第2当接部の少なくともいずれか一方は、前記第1回転体または前記第2回転体に対して当接した状態で滑ることである。
【0019】
この構成によると、コイルスプリングは弾性回復による力を第1回転体に作用しながら第1回転体に当接するため、当該当接部分の摩擦により第1回転体の回転トルクをコイルスプリングに伝達することができ、逆にコイルスプリングの回転トルクを第1回転体に伝達することも可能である。また、同様に、第2回転体とコイルスプリングとの間でも回転トルクの伝達が可能である。これより、第1回転体と第2回転体との間で回転トルクを伝達することが可能である。当該回転トルクの伝達の際、コイルスプリングに作用する摩擦力はコイルスプリングの当接部分に分散して働くためコイルスプリングの一部への応力集中を抑制することが可能であり、コイルスプリングの疲労破壊を抑制することが可能である。
【0020】
また、コイルスプリングと第1回転体または第2回転体との当接部に作用する静的な摩擦力を超える力を当該当接部に作用させるような回転トルクが第1回転体と第2回転体との間で伝達されたとき、コイルスプリングと第1回転体との当接部分もしくはコイルスプリングと第2回転体との当接部分において滑りが生じる。したがって、過剰に大きい回転トルクの伝達の際、第2回転体は第1回転体に対して相対回転することができ、第2回転体の急激な回転速度の変動を抑制することが可能となる。また、コイルスプリングを介して過剰に大きい回転トルクが伝達されるのを抑制することができるため、コイルスプリングの劣化は抑制される。
【0021】
また、本発明に係るプーリ構造体における第2の特徴は、前記第1回転体の単位時間当たりの回転速度の増加量が所定の大きさ以上の場合は、前記コイルスプリングにおける、前記第1回転体との当接部である第1当接部及び前記第2回転体との当接部である第2当接部の少なくともいずれか一方は、前記第1回転体または前記第2回転体に対して当接した状態で滑ることである。
【0022】
この構成によると、第1回転体の単位時間当たりの回転速度の増加量が所定の大きさ以上になった場合に、第2回転体は第1回転体に対して、回転方向と反対方向に相対回転する。したがって、第1回転体の回転速度が急激に増加したときに起こる第2回転体の急激な回転速度の増加を抑制することが可能である。
【0023】
また、本発明に係るプーリ構造体における第3の特徴は、前記第1回転体の単位時間当たりの回転速度の減少量が所定の大きさ以上の場合は、前記コイルスプリングにおける前記第1回転体との当接部である第1当接部及び前記第2回転体との当接部である第2当接部の少なくともいずれか一方は、前記第1回転体または前記第2回転体に対して当接した状態で滑ることである。
【0024】
この構成によると、第1回転体の単位時間当たりの回転速度の減少量が所定の大きさ以上になった場合に、第2回転体は第1回転体に対して、回転方向と同じ方向に相対回転する。したがって、第1回転体の回転速度が急激に減少したときに起こる第2回転体の急激な回転速度の減少を抑制することが可能である。
【0025】
また、本発明に係るプーリ構造体における第4の特徴は、前記コイルスプリングが当接する前記第1回転体及び前記第2回転体の当接面の少なくともいずれか一方は、表面硬化処理が施されていることである。
【0026】
この構成によると、コイルスプリングが第1回転体または第2回転体と当接した状態で滑る際の摩擦により、第1回転体または第2回転体の当該当接部分が磨耗するのを抑制することができ、第1回転体と第2回転体との間で、安定して回転トルクを伝達することが可能となる。
【0027】
また、本発明に係るプーリ構造体における第5の特徴は、前記コイルスプリングが当接する前記第1回転体及び前記第2回転体の当接面の少なくともいずれか一方は、前記コイルスプリングにおける前記第1回転体との当接部である第1当接部または前記第2回転体との当接部である第2当接部との間で生じる摩擦係数を低下させた表面状態になるように加工されていることである。
【0028】
この構成によると、コイルスプリングと第1回転体または第2回転体との間に作用する摩擦力が低下するため、コイルスプリングの滑りが発生しやすくなる。したがって、第1回転体の回転速度変動によって第2回転体が受ける影響をより小さくすることができる。また、コイルスプリングに作用する回転トルクは小さくなり、コイルスプリングの劣化を抑制できる。
【0029】
また、本発明に係るプーリ構造体における第6の特徴は、前記コイルスプリングは、当該コイルスプリングの材料断面が四角形状である角スプリングであって、当該角スプリングにおける前記第1回転体または前記第2回転体と当接する面と、当該角スプリングの材料端面とが互いに滑らかに連続する面として形成されていることである。
【0030】
この構成によると、コイルスプリングにおける第1回転体及び第2回転体との当接部は平面状であり、安定して当接状態を維持することが可能であるとともに、コイルスプリングの先端によって第1回転体または第2回転体の表面に傷をつけることを防止することが可能である。また、プーリ構造体の組立て時にコイルスプリングを第1回転体または第2回転体に挿入しやすくなる。
【0031】
また、本発明に係るプーリ構造体における第7の特徴は、前記コイルスプリングは、当該コイルスプリングの材料断面が四角形状である角スプリングであって、当該角スプリングの材料端部が、前記第1回転体及び前記第2回転体に対して隙間を介して配設されていることである。
【0032】
この構成によると、コイルスプリングにおける第1回転体及び第2回転体との当接部は平面状であるため、安定して当接状態を維持することが可能である。また、当該角スプリングの材料端部に位置する角部のうち前記第1回転体及び前記第2回転体との当接面側の角部と、第1回転体または第2回転体との間には間隙が形成されるため、直接当該角部が当接して傷をつけることを防止することが可能である。
【0033】
また、本発明に係るプーリ構造体における第8の特徴は、前記コイルスプリングは、当該コイルスプリングの材料断面が四角形状である角スプリングであって、当該角スプリングの前記第1回転体または前記第2回転体と当接する面にはクラウニングが施されていることである。
【0034】
この構成によると、コイルスプリングにおける第1回転体及び第2回転体との当接部は丸みを帯びた形状であり、安定して当接状態を維持しながら潤滑することが可能である。また、コイルスプリングのエッジにより第1回転体または第2回転体の表面に傷をつけることを防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図2】実施形態の第1の変形例であって、図1に類似する図。
【図3】実施形態の第2の変形例であって、図1に類似する図。
【図4】図3に示す変形例についての一部断面を含む図。
【図5】実施形態の第3の変形例であって、図2に類似する図。
【図6】本発明の第2実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図7】図6のA−A断面図。
【図8】図6のB−B断面図。
【図9】本発明の第3実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図10】(a)はコイルスプリングを収容溝から取り出した状態での図9に示すプーリ構造体のD−D断面図。(b)は図9の収容溝から取り出したコイルスプリングのD−D断面図。
【図11】図9のD−D断面図。
【図12】図9のC−C断面図。
【図13】コイルスプリングが巻き緩められた状態における図9に示すプーリ構造体の断面図。
【図14】コイルスプリングが巻き締められた状態における図9に示すプーリ構造体の断面図。
【図15】コイルスプリングの縦断面図。
【図16】(a)は本発明の第4実施形態に係るプーリ構造体の断面図の要部を示した図。(b)は(a)のE−E断面図。
【図17】本発明の第5実施形態に係るプーリ構造体の縦断面図。
【図18】(a)は本発明の第5実施形態に係るプーリ構造体の断面図(図17のF−F断面位置に相当)の要部を示した図。(b)は(a)のG−G断面図の要部を示した図。
【図19】図17のH−H断面図。
【図20】図17のI−I断面図。
【図21】本発明の第6実施形態に係るプーリ構造体の縦断面図。
【図22】(a)は本発明の第6実施形態に係るプーリ構造体の断面図(図21のK−K断面位置に相当)の要部を示した図。(b)は(a)のL−L断面図の要部を示した図。
【図23】図21のJ−J断面図。
【図24】プーリ構造体の一例の縦断面図及びその一部の拡大図。
【図25】本発明の第7実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図26】図25に示すプーリ構造体のN−N断面図。
【図27】コイルスプリングの第1変形例を示す図。
【図28】図26に示すコイルスプリングのP−P断面図。
【図29】コイルスプリングの第2変形例を示す図。
【図30】本発明の第8実施形態に係るプーリ構造体の断面図。
【図31】図30に示すハブ構造体のスプリングガイド面の形状を示す図。
【図32】図30に示すハブ構造体のスプリングガイド面の形状の第1変形例を示す図。
【図33】図30に示すハブ構造体のスプリングガイド面の形状の第2変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。ここでは、本発明に係るプーリ構造体が自動車のオルタネータの発電軸に設置されている実施形態に関して説明する。
【0037】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るプーリ構造体の断面図である。図1に示すプーリ構造体1は、自動車のオルタネータの発電軸(図示せず)に設置されるものであって、エンジンの動力がベルト(図示せず)を介して伝達されることにより回転される。このプーリ構造体1は、その外周に第1回転体2を備え、当該第1回転体2の外周面には、前記ベルトを巻き掛けることが可能なプーリ体2aが設けられている。こ第1回転体2は略円筒状に形成されている。
【0038】
前記第1回転体2の軸方向一端側の内周には軸受4が、軸方向他端側の内周には軸受5が配置されている。これら軸受4及び軸受5により、第2回転体3が第1回転体2に対して相対回転自在に支持されており、この第2回転体3は第1回転体2の内部に収納されている。
【0039】
上記第2回転体3の外周には、軸受4及び軸受5が外れないように固定するための止め部材(図示せず)がそれぞれ嵌装されている。また、この第2回転体3の軸孔3aは、オルタネータの発電軸(図示せず)が固定可能に形成されている。
【0040】
前記の第1回転体2と第2回転体3、及び軸受4,5により、バネ収容室6が形成されている。また、前記バネ収容室6内であって、第1収容溝2bと第2収容溝3bとの間には、その断面が矩形状のコイルスプリング7(角コイルスプリング)が収納されている。
【0041】
この実施形態では、第1回転体2に一体形成した第1フランジ41’から、平坦面をもつスプリング保持部81を第2フランジ42’に向けて突出させている。一方、第2回転体3に一体形成した第2フランジ42’からも、スプリング保持部82を第1フランジ41’に向けて突出させている。
【0042】
そして、一側のスプリング保持部81に対し前記コイルスプリング7の軸方向一端が挿入され、他側のスプリング保持部82に対しコイルスプリング7の軸方向他端が挿入される。このとき、コイルスプリング7の端部は、この端部の弾性力である縮径方向の縮径力によって、第1回転体2及び第2回転体3に圧接して装着されている。
【0043】
この端部(装着部)85,86において、コイルスプリング7の端部の内径は、弾性変形のない状態で、前記スプリング保持部81,82の外径より小さく設定されている。従って、コイルスプリング7をスプリング保持部81,82の外周面83,84にそれぞれ挿入したときに、拡径方向に弾性変形されるコイルスプリング7の端部には縮径方向の復元力が作用するので、スプリング保持部81,82を締め付けることになる。こうして、スプリング保持部81,82の外周面が圧接される形となって、コイルスプリング7はスプリング保持部81,82に装着される。
【0044】
本実施形態では以上に示すように、第1回転体2及び第2回転体3から、スプリング保持部81,82を突出させ、このスプリング保持部81,82の外周面83,84に対しコイルスプリング7の端部が挿入され、その挿入されたコイルスプリング7の端部としての装着部85,86の縮径力によって前記スプリング保持部81,82の外周面が圧接されるように構成されている。これにより、回転体2,3に対しコイルスプリング7の端部を簡素な構成で固定できる。
【0045】
また、前記コイルスプリング7の端部の内径が、弾性変形なしの状態で前記スプリング保持部81,82の外径より小さく設定されており、このコイルスプリング7の端部が前記スプリング保持部81,82を締め付ける状態で装着されている。これにより、コイルスプリング7の縮径方向の復元力を利用して、その端部を回転体2,3に強固に固定できる。
【0046】
第1の変形例としては、図2に示すプーリ構造体1aのように、第1フランジ41’に凹部であるスプリング保持部81’を形成し、第2フランジ42’にも同様に凹部であるスプリング保持部82’を形成するように変更することができる。なお、図2においては、本実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付している。
【0047】
そして、一側のスプリング保持部81’に対し前記コイルスプリング7の軸方向一端が挿入され、他側のスプリング保持部82’に対しコイルスプリング7の軸方向他端が挿入される。そして、コイルスプリング7の端部は、この端部の弾性力である拡径方向の拡径力によって、第1回転体2及び第2回転体3に圧接して装着されている。このとき、この端部(装着部)85’,86’において、コイルスプリング7の端部の外径は、弾性変形のない状態で、前記スプリング保持部81’,82’の内径より小さく設定されている。従って、コイルスプリング7をスプリング保持部81’,82’の内周面83’,84’にそれぞれ挿入したときに、縮径方向に弾性変形されるコイルスプリング7の端部には拡径方向の復元力が作用するので、スプリング保持部81’,82’の内底部側を押し広げるように密着することになる。こうして、スプリング保持部81’,82’の内周面83’,84’が圧接される形となって、コイルスプリング7はスプリング保持部81’,82’に装着される。
【0048】
この第1の変形例においても、回転体2,3に対しコイルスプリング7の端部を簡素な構成で固定できる。また、コイルスプリング7の拡径方向の復元力を利用することで、その端部を回転体2,3に強固に固定できる。
【0049】
第2の変形例としては、図3に示すプーリ構造体1bのように、スプリング保持部の形状を変更することもできる。このプーリ構造体1bは、本実施形態のプーリ構造1に対応しており、スプリング保持部81が第1回転体2から突出し、スプリング保持部82が第2回転体3から突出し、コイルスプリング7の縮径力によってスプリング保持部81,82の外周面83,84が圧接されるように構成されているものである。なお、図3においては、本実施形態と同様の構成要素は同一の符合を付している。
【0050】
第2の変形例に係るプーリ構造体1bでは、スプリング保持部81は、コイルスプリング7の端部85と圧接される外周面83が第1回転体2及び第2回転体3の回転中心方向と平行な周面として形成されている。また同様に、スプリング保持部82は、コイルスプリング7の端部86と圧接される外周面84が第1回転体2及び第2回転体3の回転中心方向と平行な周面として形成されている。そして、スプリング保持部81においては、その外周面83の終端から内側に向かって傾斜するとともに圧接されたコイルスプリング7と離間するように形成されたテーパ面91が設けられている。同様に、スプリング保持部82においては、その外周面84の終端から内側に向かって傾斜するとともに圧接されたコイルスプリング7と離間するように形成されたテーパ面92が設けられている。
【0051】
なお、図4は、プーリ構造体1bについて第1回転体2を断面で示した図である。この図4に示すように、コイルスプリング7の端部85,86は、スプリング保持部の外周面83,84とのみ接するように配設されている。
【0052】
この第2の変形例のプーリ構造体1bによると、第1及び第2回転体2,3の回転中心方向と平行な周面としてストレートな円筒状に形成されたスプリング保持部81,82の外周面83,84によって、これに圧接するコイルスプリング7の端部85,86との間で均一な把持力を発生させて安定した状態でコイルスプリング7の端部85,86を保持することができる。そして、この外周面83,84の終端から内側に向かって傾斜してコイルスプリング7と離間するテーパ面91,92がさらに設けられていることで、プーリ構造体1bを製造する際において、コイルスプリング7の端部85,86をスプリング保持部81,82に対して容易に嵌め込んで装着することができる。
【0053】
第3の変形例としては、図5に示すプーリ構造体1cのように、スプリング保持部の形状を変更することもできる。このプーリ構造体1cは、第1の変形例のプーリ構造体1aに対応しており、第2回転体3にスプリング保持部81’を凹設し、第1回転体2にスプリング保持部82’を凹設し、コイルスプリング7の拡径力によってスプリング保持部81’,82’の内周面83’,84’が圧接されるように構成されているものである。なお、図5においては、図2と同様の構成要素は同一の符合を付している。
【0054】
第3の変形例に係るプーリ構造体1cでは、スプリング保持部81’は、コイルスプリング7の端部85’と圧接される内周面83’が第1回転体2及び第2回転体3の回転中心方向と平行な周面として形成されている。また同様に、スプリング保持部82’は、コイルスプリング7の端部86’と圧接される内周面84’が第1回転体2及び第2回転体3の回転中心方向と平行な周面として形成されている。そして、スプリング保持部81’においては、その内周面83’の終端から内側に向かって傾斜するとともに圧接されたコイルスプリング7と離間するように形成されたテーパ面91’が設けられている。同様に、スプリング保持部82’においては、その内周面84’の終端から内側に向かって傾斜するとともに圧接されたコイルスプリング7と離間するように形成されたテーパ面92’が設けられている。
【0055】
この第3の変形例のプーリ構造体1cによると、第1及び第2回転体2,3の回転中心方向と平行な周面としてストレートな円筒状に形成されたスプリング保持部81’,82’の内周面83’,84によって、これに圧接するコイルスプリング7の端部85’,86’との間で均一な把持力を発生させて安定した状態でコイルスプリング7の端部85’,86’を保持することができる。そして、この内周面83’,84’の終端から外側に向かって傾斜してコイルスプリング7と離間するテーパ面91’,92’がさらに設けられていることで、プーリ構造体1cを製造する際において、コイルスプリング7の端部85’,86’をスプリング保持部81’,82’に対して容易に嵌め込んで装着することができる。
【0056】
また、上記の実施形態は以下のように変更して実施することができる。
【0057】
例えば、図1においてコイルスプリング7はスプリング保持部81,82に当接するコイルスプリング7の端部で中央領域に比べて内径をより小さくし、コイルスプリング7とスプリング保持部81,82との締付け力を大きく調節して、スリップの発生を阻止することができる。
【0058】
また、図2においても、コイルスプリング7はスプリング保持部81’,82’に当接するコイルスプリング7の端部で中央領域に比べて外径を大きくし、コイルスプリング7とスプリング保持部81,82との締付け力を大きく調節することもできる。
【0059】
(第2実施形態)
次に、図6は本発明の第2実施形態に係るプーリ構造体の縦断面図である。図7は図6におけるA−A断面図であり、図8は図6におけるB−B断面図を表す。
【0060】
自動車用内燃機関(図示せず)は、エンジンフレーム(図示せず)、クランクシャフト(図示せず)、及びオルタネータの発電軸(図示せず)を含んでいる。図6に示すプーリ構造体21は、オルタネータの発電軸上に設置されるものであって、エンジンの動力が、クランクシャフト及びベルト(図示せず)を介して伝達されることにより回転する。このプーリ構造体21は、筒状に形成されたプーリ22を有し、当該プーリ22の外周面には、前記ベルトを巻き掛けることによりエンジンからの駆動力を伝えることが可能な凹凸面22aが設けられている。
【0061】
プーリ22の軸方向一端側の内周には軸受24が、軸方向他端側の内周には軸受25が配置されている。これら軸受24及び軸受25により、ハブ構造体23がプーリ22に対して相対回転自在に支持されており、このハブ構造体23はプーリ22の内側空間に、プーリ22と同心に配置されている。
【0062】
ハブ構造体23の外周には、軸受24及び軸受25が外れないように固定するための止め部材31,32がそれぞれ嵌装されている。また、このハブ構造体23の軸孔23aは、オルタネータの発電軸(図示せず)を固定可能に形成されている。
【0063】
なお、本実施形態において軸受24及び軸受25として、ボールベアリングを用いているが、これに限らず、例えばドライメタルなどを採用することで構成を簡素化しても良い。
【0064】
前記のプーリ22とハブ構造体23、及び軸受24・25により、バネ収容室26が形成されており、バネ収容室26内には、コイルスプリング27が収容されている。コイルスプリングは、主に金属からなる線状体が螺旋状に巻回されたものである。また、前記コイルスプリング27の片側端部には、一端を含む第1巻添え領域27aが形成されている。第1巻添え領域27aは、前記一端を含み、且つ前記線状体が実質的に同じ曲率で湾曲しつつ他端に向かって延在した構成となっている。
【0065】
本実施形態においては、バネ収容室26に面したプーリ22の内面に、図6に示すような第1収容溝22bが設けられ、溝22bにおいて半径方向に指向する中心軸側の周面をスプリングガイド面22dとし、第1巻添え領域27aの内周面がスプリングガイド面22dに当接するようにコイルスプリング27が装着されている。またこの実施形態では、第1収容溝22bに、回転軸半径方向の断面が円弧溝形状となる領域が設けられ、この円弧溝に、コイルスプリング27の前記一端と周方向で対向できるスプリングストッパ面22cが設けられている。図6のA−A断面図、及びB−B断面図である図7、及び図8にその一例を示した。前記第1巻添え領域27aが第1収容溝に収容されて第1巻添え領域27aの内周面がスプリングガイド面22dに当接した状態で、コイルスプリング27の前記一端とスプリングストッパ面22cが周方向で対向するような構造となっている(図8参照)。
【0066】
また本実施形態においては、断面が円弧溝形状の領域について、円弧溝を含む円の、溝を除いた部分の中心角θを約90度としているが、この範囲に限定するものではない。この溝を除いた部分と溝との二つの境界のうち、コイルスプリング27の一端と対向する方にスプリングストッパ面22cが形成されている。また、スプリングストッパ面22cには、プーリ構造体が回転運動中にスプリングの前記一端を支持するだけの強度が必要であり、かつコイルスプリング27が傾くことなく安定して収容溝22bに収まるようにすることも必要である。よって、この中心角度θは、可能な範囲で小さいことが望ましい。また、スプリングストッパ面22cは、周方向に対向するコイルスプリング27の前記一端を支持できるだけの面積が必要となるので、前記の断面が円弧溝形状となっている領域については、回転軸方向長さが、少なくともコイルスプリング27を構成する線状体の回転軸方向太さ分は必要である。
【0067】
また第1収容溝22bの回転軸の半径方向の幅について、コイルスプリング27を構成する線状体を収容できるだけの幅は必要であるが、ここではその上限を特に制限しない。
【0068】
また、本実施形態においては、該他端の半径方向外側又は内側に延出した端部の係止、及びコイルスプリング27の他端部27b近傍の収容溝への圧入により、該他端部27bがハブ構造体へ嵌合固定されている。
【0069】
以上のように、上記コイルスプリング27は、プーリ構造体21と略同心にバネ収容室26の内部に配置される。また、プーリ22とハブ構造体23とは、コイルスプリング27を介して弾性的に連結される。
【0070】
次に、コイルスプリング27の第1巻添え領域27aとスプリングガイド面22dとの間の当接状態について説明する。
【0071】
図8の矢印Wで表される、コイルスプリング27が巻き締められる方向へプーリ22がハブ構造体23以上の回転速度で回転しているときは、コイルスプリング27の第1巻添え領域27aがスプリングガイド面22dを把持することによってスプリングガイド面22dが第1巻添え領域27aに対して静止するように、また一方、コイルスプリング27が巻き締められる方向(矢印W)へプーリ22がハブ構造体23未満の回転速度で回転しているときは、コイルスプリング27が巻き緩められる方向(矢印Y)にコイルスプリング27の前記一端がスプリングストッパ面22cによって押圧されることによって、スプリングガイド面22dが第1巻添え領域27aに対して実質的にフリーに周方向に移動するように、コイルスプリング27がスプリングガイド面22dに装着されている。このような当接状態にするため、バネ収容室26から取り出したときのコイルスプリング27の内径を適当に設定する、あるいは巻添え領域27aとスプリングガイド22dとの間に適当な粘性を有する粘性流体を塗布する、などの方法を用いる。
【0072】
次に、上記のように構成されたプーリ構造体21の動作を説明する。
【0073】
まずプーリ22及びハブ構造体23が回転していない状態から、ベルトにより駆動力が伝えられてプーリ22が図8の矢印Wで示される方向へ回転を開始した状態では、プーリ22の方がハブ構造体23よりも矢印W方向への回転速度が大きい。この状態では、スプリングガイド面22dに対して第1巻添え領域27aが静止しており、スプリングガイド面22dと第1巻添え領域27aとは同じ回転速度で矢印W方向へ回転している。このまま回転を続けると、コイルスプリング27の第1巻添え領域27aとスプリングガイド面22dとの間の把持作用及び前記他端部27bとハブ構造体23との嵌合固定により、プーリ22の回転がコイルスプリング27を介してハブ構造体23に弾性的に伝達され、回転が伝えられたハブ構造体23も回転を始める。このとき、プーリ22とハブ構造体23は、コイルスプリング27を巻き締めながら回転しており、コイルスプリング27が限界まで巻き締まると、プーリ22とハブ構造体23は同じ回転速度で矢印W方向へ回転する。この状態でもスプリングガイド面22dに対して第1巻添え領域27aが静止している。
【0074】
上記の状態では、当初の第1巻添え領域27aの把持力に加えて、図8の矢印Xで示される方向へ、コイルスプリング27によるスプリングガイド面22dに対する締め付け力が発生し、コイルスプリング27がスプリングガイド面22dを保持するための摩擦力が強化されている。そのため、回転速度が高くなっても上記の第1巻添え部27aがスプリングガイド面22dに対して滑ることが少なくなる。
【0075】
また上記のような、プーリ22の矢印W方向への回転速度が、ハブ構造体23以上となっている状態での回転運動の間、コイルスプリングの一端と他端の間の中間部分が当初よりも巻き締められた状態になっていることで、コイルスプリング27に巻き緩み方向への弾性的回転エネルギーが蓄えられ、プーリ22とハブ構造体23とが反対方向に瞬間的な相対弾性回転運動ができるようになっている。
【0076】
ここで、前記クランクシャフトに回転変動が生じてベルト速度が急激に低下した場合、プーリには、ハブ構造体23に対してコイルスプリング27が巻き緩む矢印Y方向の力がベルトにより加えられる。上記のようにコイルスプリング27の弾性力によりプーリ22とハブ構造体23は、反対方向への瞬間的な相対弾性回転運動が可能であるので、ベルト速度の急激な低下時に、慣性で回転を続けるハブ構造体23に対して、プーリ22が矢印Y方向へ独立して回転することができる。その際に、スプリングストッパ面22cがスプリング27の前記一端を押圧することによって(図8の矢印Z方向)、コイルスプリング27とプーリ22との間に滑りを生じさせることなく、効率的にコイルスプリング27を巻き緩ませる。またこの状態で、第1巻添え領域27aは、スプリングガイド面22dに対して上記の静止状態から周方向に5度(角度)程度移動している。その結果、クランクシャフトの回転変動を緩やかに吸収することでベルト鳴きが抑制され、ベルトの磨耗を防止できる。
【0077】
本実施形態では、プーリとハブ構造体との両方が同じ回転速度で回転する状態と、同方向へプーリがハブ構造体よりも小さな回転速度で回転する状態とを、コイルスプリングを用いて切換可能とすることができる。ここで、前述のように従来のプーリ構造体においては、コイルスプリングは、その端部が回転体に設けた円弧状の収容溝に収容され、その半径方向外側又は内側に延出した端部分が回転体に係止されることで嵌合固定されており、その結果、回転変動に伴うプーリとオルタネータのハブ構造体との相対回転運動により延出部分の湾曲部に応力集中が発生し、クランクシャフトの回転変動毎に発生する局所的な繰り返し応力によって、コイルスプリングの係止された端部分が疲労破壊するおそれがあった。それに対し本実施形態ではコイルスプリングの端部分を湾曲させず、巻添え領域27aを形成することによりコイルスプリングとプーリとを連結した。そのため、コイルスプリングの第1巻添え領域における疲労破壊やその付近でのプーリの破損が起こりにくくなる。
【0078】
また、コイルスプリングを用いることにより、バネ線を螺旋状に巻くという構造上の理由で、その許容できる相対角変位を環状のゴムなどに比べて大とすることができる。従って、プーリ22とハブ構造体23との間で許容できる相対角変位を大きくでき、回転変動を効率よく吸収することができる。
【0079】
また、例えば肉抜部を設けることなどにより、プーリ22は積極的に軽量化されていることが好ましい。これにより、プーリ22の回転慣性モーメントを低減することができるので、プーリ体22aのある点における速度をベルトの速度に維持するために必要とするベルトの張力を緩和することができる。したがって、プーリ体22aとベルトとの間の静止摩擦力を上回る力の発生を抑制できるので、ベルトが磨耗することがなく、寿命を延長することができる。
【0080】
また、プーリ22の素材として、例えばアルミニウムなどの軽合金を採用することが好ましい。これにより、プーリ22の回転慣性モーメントをさらに低減することができるので、前述の肉抜きによる軽量化による効果と同様に、ベルトの寿命を延長することができる、という効果を奏する。
【0081】
さらに、コイルスプリングの断面形状を変化させても良い。例えば、断面が円形であるコイルスプリングと断面が矩形である角コイルスプリングとを比較して以下のような効果が得られることが分かっている。すなわち、同じ相対角変位・同じ巻き数・同じばね定数では、後者のコイルスプリングに発生する最大引張(圧縮)応力を約70%となるよう低減することができ、一方、同じ相対角変位において発生する最大引張(圧縮)応力が同じであり且つ同じばね定数であっては後者の必要巻き数が70%となる効果を奏する。以上の理由から角コイルスプリングを採用しても良いが、これに限定されず、コイルスプリングの断面形状は例えば円形であっても良い。
【0082】
また本実施形態では、第1収容溝22bにコイルスプリング27の端部が収容されている。このようにコイルスプリング27の端部を第1収容溝22bに収容することで、コイルスプリング27を傾いたりすることなく確実にまっすぐ安定して設置できる。即ち、コイルスプリング27が傾いて設置されていると、プーリ構造体21に加わる回転変動によってコイルスプリング27の一部分に過大な力が加わり易くなり、コイルスプリング27が破損し易くなってしまう。この点、本実施形態ではコイルスプリング27の取付け向きが斜めになることを第1収容溝22bによって確実に回避できるから、プーリ構造体21に加わる回転変動をバネ線全体で均等に受け止めることができ、コイルスプリング27の寿命を延ばすことができる。
【0083】
また本実施形態では、動力出力側、例えばエンジンのクランクシャフトからの回転駆動力をプーリ22に与えて、プーリ22がその回転駆動力をハブ構造体23に伝達していたが、その逆の構造、即ちハブ構造体23に動力出力側の回転駆動力を与えて、ハブ構造体23がその回転駆動力をプーリ22に伝える構造としてもよい。この場合、回転駆動力がハブ構造体23からコイルスプリング27を介してプーリ22へ伝達され、プーリ22からベルトを介して動力が出力されることになる。
【0084】
その場合には、コイルスプリング27が巻き締められる方向(図8の方向Y)へハブ構造体23がプーリ22以上の回転速度で回転しているときは、コイルスプリング27の第1巻添え領域27aがスプリングガイド面22dを把持することによって、スプリングガイド面22dが第1巻添え領域27aに対して静止するように、また一方、コイルスプリング27が巻き締められる方向(方向Y)へハブ構造体23がプーリ22未満の回転速度で回転しているときは、コイルスプリング27が巻き緩められる方向(矢印Y)にコイルスプリング27の前記一端がスプリングストッパ面22cによって押圧されることによって、スプリングガイド面22dが第1巻添え領域27aに対して実質的にフリーに周方向に移動するように、コイルスプリング27がスプリングガイド面22dに装着される。
【0085】
また本実施形態では、プーリ22のスプリングガイド面22dにコイルスプリング27の一端を装着し、他端をハブ構造体23に嵌合固定したが、それらが逆の構造、すなわちハブ構造体23にスプリングガイド面を設け、該スプリングガイド面にコイルスプリング27の一端を装着し、他端をプーリ22に嵌合固定してもよい。
【0086】
また、コイルスプリング27が巻き締められる方向への第1回転体(プーリ22)及び第2回転体(ハブ構造体23)の一方の回転速度が他方のそれ未満であるとき、線状体の延在方向に関して、コイルスプリング27には、第1回転体(プーリ22)及び第2回転体(ハブ構造体23)のいずれにも接触しない領域があることが好ましい。これによると、第1回転体(プーリ22)と第2回転体(ハブ構造体23)との両方が同じ回転速度で回転する状態と、駆動力の伝えられる一方が他方よりも小さな回転速度で回転する状態との間における状態遷移時に、コイルスプリング27が各回転体の回転速度の急激な変化を抑制するので、各回転体の破損がさらに起こりにくくなる。
【0087】
また本実施形態では、オルタネータのハブ構造体にプーリ構造体21を設けた場合を説明したが、それに限らず、例えば自動車のエアコンディショナのコンプレッサ軸に本発明のプーリを設置することが考えられる。また、車両機器以外にも本発明のプーリ構造体の適用は妨げられず、種々の回転伝達系に本発明のプーリ構造体を設置して使用することができる。
【0088】
(第3実施形態)
次に、図9〜図14に基づいて、本発明の第3実施形態に係るプーリ構造体11に関して説明する。なお図については、第3実施形態においては、上記の第2実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0089】
第3実施形態に係るプーリ構造体について、第2実施形態に係るプーリ構造体と特徴が異なる点を中心に、以下に説明する。
【0090】
図9は、本発明の第3実施形態に係るプーリ構造体11の縦断面図である。第3実施形態に係るコイルスプリング17の第1巻添え領域17aは、巻き数が1巻き以上の前記線状体から構成される。よって、回転体12に設けられるスプリングガイド面12dの、プーリ構造体回転軸方向の長さは、少なくとも該第1巻添え領域17aと当接する分だけ必要である。すなわち本実施形態においては、コイルスプリング収容溝12bのプーリ構造体回転軸方向の長さ(溝深さ)が、第1巻添え領域17aと当接する分以上の長さとなっている。このように巻添え領域17aの巻き数を1巻き以上とすることで、第1巻添え領域17aがスプリングガイド面12dに与える把持力が大きくなるので、コイルスプリングがスプリングガイド面12dに対して滑ることが少なくなり、信頼性が向上する。
【0091】
図10の(a)及び(b)は、それぞれコイルスプリング17を収容溝12bから取り出した状態での図9に示すプーリ構造体のD−D断面図、及び収容溝12bから取り出したコイルスプリング17の図9のD−D断面図であり、図11は図9に示すプーリ構造体のD−D断面図である。コイルスプリング17をバネ収容室16から取り出したときに、コイルスプリング17の第1巻添え領域17aの内径(図10(b)のdeo)がスプリングガイド面12dの外径(図10(a)のde)よりも小さい構造にしている。これにより、第1巻添え領域がスプリングガイド面12dに与える把持力が大きくなる(図11のX方向へ把持力が増加する)ので、コイルスプリングがスプリングガイド面に対して滑ることが少なくなり、信頼性が向上する。
【0092】
また、コイルスプリング17には、プーリ12側の一端に対しての他端を含む第2巻添え領域17bが形成されている。第2巻添え領域17bは、前記他端を含み、且つ前記線的に同じ曲率で湾曲しつつ前記一端に向かって延在した構成となっている。
【0093】
本実施形態においては、ハブ構造体13に第2収容溝13bが設けられ、この溝13bにおいて半径方向に指向する中心軸側の周面をスプリングガイド面13dとし、第2巻添え領域17bがスプリングガイド面13dに当接するようにコイルスプリング17が装着されている。またこの実施形態でも第一実施形態のプーリ側同様に、第2収容溝13bに断面形状が円弧溝となる部分が設けられ、この円弧溝にコイルスプリング17の前記他端と周方向で対向できるスプリングストッパ面13cが設けられている。より詳しくは、図9のC−C断面図である図12に示すように、第2巻添え領域17bが第2収容溝13bに収容されてスプリングガイド面13dに当接した状態で、コイルスプリング17の一端とスプリングストッパ面13cが対向するような構造となっている。
【0094】
このことにより、プーリにおける第1巻添え領域17aだけでなく、コイルスプリングの第2巻添え領域17bにおいても、疲労破壊やその付近での回転体の破損が起こりにくくなる。
【0095】
第2巻添え領域17bについても、第1巻添え領域17aと同様に、巻き数が一巻き以上の前記線状体から構成されており、コイルスプリング収容溝13bのプーリ構造体回転軸方向の長さ(溝深さ)が、第2巻添え領域17bと当接する分以上の長さとなっている。また、コイルスプリング17を前記バネ収容室16から取り出したときに、第2添え領域17bの内径が前記スプリングガイド面13dの外径よりも小さい構造となっている。
【0096】
また、第3実施形態では、バネ収容室であって、巻添え領域を除いたコイルスプリング17の外周面と、対向するプーリ12の内周面との間の空間16aを確保している。コイルスプリング17が巻き締められる方向(図11の方向W)へのプーリ12の回転速度が、ハブ構造体13よりも小さい場合、すなわちプーリ12が、ハブ構造体13に対してコイルスプリング17が巻き緩められる方向(図11の方向Y)へ回転しているときに、コイルスプリング17が巻き緩められてその径が当初より大きくなったとしても、バネ収容室の空間16aを確保することにより、コイルスプリング17が、プーリ12及びハブ構造体13のいずれにも接触しない領域ができる。これにより、プーリ12とハブ構造体13との両方が同じ回転速度で回転する状態と、駆動力の伝えられるプーリ12がハブ構造体13よりも小さな回転速度で回転する状態との間における状態遷移時に、コイルスプリングが各回転体の回転速度の急激な変化を抑制するので、各回転体の破損がさらに起こりにくくなる。図13に、本発明の第3実施形態に係るコイルスプリングが巻き緩められた状態におけるプーリ構造体の断面図の一例を示した。
【0097】
上記実施形態では、バネ収容室であって、巻添え領域以外のコイルスプリング17の外周面と対向するプーリ12の内周面との間の空間16aを確保していたが、バネ収容室であって、巻添え領域以外のコイルスプリング17の内周面と対向するハブ構造体13の外周面との間の空間16bを確保しても良い。
【0098】
本実施形態に係るプーリ構造体11においては、コイルスプリング17が巻き締められる方向(方向W)へのプーリ12の回転速度がハブ構造体13の回転速度以上であるときに、コイルスプリングの巻添え領域を除いた部分が当初よりも巻き締められた状態になっていることで、巻き緩み方向への回転エネルギーが蓄えられ、プーリ12とハブ構造体13が反対方向に瞬間的な相対弾性回転運動ができるようになっている。ここで、コイルスプリング17が巻き締められたときに、バネ収容室16bの空間を確保していることで、より小径に巻き締まることが可能であり、巻き緩み方向へのより強い回転エネルギーを蓄えることができる。また図14に、本発明の第3実施形態に係るコイルスプリングが巻き締められた状態におけるプーリ構造体の断面図の一例を示した。
【0099】
また本実施形態では、動力出力側、例えばエンジンのクランクシャフトからの回転駆動力をプーリ12に与えて、プーリ12がその回転駆動力をハブ構造体13に伝達していたが、ハブ構造体13に動力出力側の回転駆動力を与えて、ハブ構造体13がその回転駆動力をプーリ12に伝える構造としてもよい。この場合、回転駆動力がハブ構造体13からコイルスプリング17を介してプーリ12へ伝達され、プーリ12からベルトを介して動力が出力されることになる。
【0100】
(第4実施形態)
次に、図15及び図16に基づいて、本発明の第4実施形態に係るプーリ構造体111に関して説明する。なお図については、第4実施形態において上記の第2及び第3実施形態の構成部材と類似する部材には原則として同一の符号を付けてある。
【0101】
第4実施形態に係るプーリ構造体について、第2及び第3実施形態に係るプーリ構造体と特徴が異なる点を中心に、以下に説明する。
【0102】
図15は、第4実施形態に係るコイルスプリング117の縦断面図である。また、図16(a)は本発明の第4実施形態に係るプーリ構造体111の縦断面図の要部を示したものであり、図16(b)は図16(a)のE−E断面図である。図16は説明に必要な部分を表したもので、断面そのものではない。また、図16には、プーリ構造体111のハブ113側(第2巻添え領域117b側)のみを示したが、プーリ112側(第1巻添え領域117a側)についてもハブ113側についての説明で代表させることにより足りるため、省略してある。
【0103】
図15に示すように、第4実施形態に係るコイルスプリング117は、プーリ構造体111のバネ収容室から取り出した状態での第1巻添え領域117a及び第2巻添え領域117bの内径deoが、第1巻き添え領域117a及び第2巻添え領域117bから離れたコイルスプリング117の中間領域117cにおける内径dmよりも小さい構造となっている。また、第3の実施形態と同様に、第1巻添え領域117a及び第2巻添え領域117bの内径deoが、プーリ側のスプリングガイド面(図示せず)及びハブ113側のスプリングガイド面113dの外径de(図16参照)よりも小さい。また図16(a)、(b)にも示すように、deよりも中間領域117cでの内径dmの方が大きい構造となっている。以上より、前記dm、de及びdeoについて、dm>de>deoの関係が成立している。
【0104】
またプーリ構造体111においては、巻添え領域117bとコイルスプリングの中間領域117cとの間の、一巻きからなる遷移領域117tにおいて、巻添え領域から中間領域へ向かうに連れて、コイルスプリング117の内径がdeからdmへ増大している(図16(a)、(b)参照)。そのため、コイルスプリング117の内周面が遷移領域117tにおいてスプリングガイド面113dから離隔しており、両者は接触していない。
【0105】
ここで、スプリングガイド面とコイルスプリングとが局所的に接触する部分、つまりコイルスプリング内周面がその幅方向の一部においてのみスプリングガイド面と接触する部分があると、クランクシャフトの回転変動の度にその部分に応力集中が発生し、コイルスプリングの有害な磨耗、破損などを引き起こす恐れがある。しかし、本実施形態のようにコイルスプリング117の内周面が、遷移領域117tにおいて、スプリングガイド面113dから離隔した構造とすることで、局所的な接触を回避することができるため、コイルスプリングの遷移領域における摩耗や破損を抑制できる。
【0106】
上記のように、第4実施形態のプーリ構造体111の構造を採用することで、コイルスプリングが遷移領域において磨耗、破損することを抑制することが出来る。また、コイルスプリング111のような異径コイルばねは、既に技術的に製造が容易なものであり、その製造自体にコストがかかるものではない。
【0107】
以上のように、第4実施形態が上記のように構成されることで、第1巻添え領域がスプリングガイド面に与える把持力が大きくなるので、コイルスプリングがスプリングガイド面に対して滑ることが少なくなり、信頼性が向上する。またさらに、コイルスプリングが遷移領域において摩耗や破損することを抑制することができる。
【0108】
また、例えば、上記の実施形態の中では、第1巻き添え領域と第2巻添え領域の内径が等しく、また、ハブ側とプーリ側のスプリングガイド面の外径も等しいものとして説明しているが、これらは前述した大小関係を満足する限り、それぞれが互いに異なっていてもよい。さらに、コイルスプリングの遷移領域の巻き数は、上記実施形態においては一巻きからなるとしているが、これに限定するものではない。
【0109】
(第5実施形態)
次に、図17は本発明の第5実施形態に係るプーリ構造体の縦断面図である。自動車用内燃機関(図示せず)は、エンジンフレーム(図示せず)、クランクシャフト(図示せず)、及びオルタネータの発電軸(図示せず)を含んでいる。図17に示すプーリ構造体61は、オルタネータの発電軸上に設置されるものであって、エンジンの動力が、クランクシャフト及びベルト(図示せず)を介して伝達されることにより回転する。このプーリ構造体61は、筒状に形成されたプーリ62を有し、プーリ62の外周面には、上記のベルトを巻き掛けることによりエンジンからの駆動力を伝えることが可能な凹凸面62aが設けられている。
【0110】
プーリ2の軸方向一端側の内周には軸受64が、軸方向他端側の内周には軸受65が配置されている。これら軸受64及び軸受65により、ハブ構造体63がプーリ62に対して相対回転自在に支持されており、このハブ構造体63はプーリ62の内側空間に、プーリ62と同心に配置されている。また、このハブ構造体63の軸孔63aは、オルタネータの発電軸(図示せず)を固定可能に形成されている。
【0111】
なお、本実施形態においては、軸受64及び軸受65としてそれぞれドライメタル及びボールベアリングを用いているが、このような構成には限定されない。
【0112】
また、プーリ62、ハブ構造体63、軸受64及び軸受65により、バネ収容室66が形成されており、バネ収容室66には、コイルスプリング67が収容されている。コイルスプリングは、金属製の線状体が螺旋状に巻回されたものである。また、コイルスプリング67の両端には、一端を含む第1巻添え領域67a及び他端を含む第2巻添え領域67bが形成されている。ここで、第1巻添え領域67aは、コイルスプリング67の一端を含み、且つ線状体が実質的に同じ曲率で湾曲しつつ、他端に向かって延在した構成となっている。また、第2巻添え領域67bは、コイルスプリング67の他端を含み、且つ線状体が実質的に同じ曲率で湾曲しつつ、一端に向かって延在した構成となっている。また、それぞれの巻添え領域は、巻き数がそれぞれ約1巻きの線状体から構成される。また、コイルスプリング67の内径は、バネ収容室66から取り出した状態において、第1巻添え領域67a、第2巻添え領域67bを含め、全領域に亘って均一となっている。
【0113】
バネ収容室66には、コイルスプリング67をプーリ構造体61に装着した状態におけるコイルスプリング67の中間領域67cの外周面とプーリ62の内周面との間の空間、及び、コイルスプリング67の中間領域67cの内周面とハブ構造体63の外周面との間の空間が含まれている。
【0114】
本実施形態に係るプーリ構造体61においては、プーリ62には、バネ収容室66に面して、半径方向外側に指向する内周側スプリングガイド面62dが設けられ、第1巻添え領域67aの内周面が内周側スプリングガイド面62dに当接するようにコイルスプリング67が装着されている。またハブ構造体63には、収容室66に面して、半径方向外側に指向する内周側スプリングガイド面63dが設けられ、第2巻添え領域67bの内周面が内周側スプリングガイド面63dに当接するようにコイルスプリング67が装着されている。
【0115】
以上のように、上記コイルスプリング67は、プーリ構造体61とほぼ同心にバネ収容室66の内部に配置される。また、プーリ62とハブ構造体63とは、コイルスプリング67を介して弾性的に連結される。
【0116】
次に、図18を用いて、プーリ構造体61の内周側スプリングガイド面62d、63dの構造と、コイルスプリング67の装着状態について説明する。図18(a)は本発明の第5実施形態に係るプーリ構造体の断面図(図17のF−F断面位置に相当)の要部を示した図である。また、図18(b)は図18(a)のG−G断面図の要部を示した図である。図18は説明に必要な要部のみを表したものであり、断面そのものではない。また、図18には第1巻添え領域67a側の構造のみを示したが、第2巻添え領域67b側についても第1巻添え領域67a側についての説明で代表させることにより足りるため、省略してある。
【0117】
図18(a)、図18(b)に示すように、内周側スプリングガイド面62dには、プーリ62及びハブ構造体63の回転軸を中心軸とする、連続した第1螺旋路62fが形成されており、前記第1螺旋路62fの外径は、第1巻添え領域67aに対応する部分において一定であり、第1巻添え領域67aに連続した第1遷移領域67tに対応する部分において、第1螺旋路62fに沿って図18(b)の矢印Mの方向へ向かうに連れてその外径が減少する形状になっている。また、コイルスプリングの中間領域67cと内周側スプリングガイド面62dとは当接しない。また、コイルスプリング67をバネ収容室66から取り出した状態において、第1巻添え領域67a及び第1遷移領域67tの内径は、第1巻添え領域67a及び第1遷移領域67tのどこにおいても、第1螺旋路62fの対応する部分の外径よりも小さい。そのため、コイルスプリング67の第1巻添え領域67a及び第1遷移領域67tは、螺旋状にその外径が変化している内周側スプリングガイド面62dの形状に合わせて、隙間がないように、その内径をMの方向に向かうに連れて連続的に減少させつつ、内周側スプリングガイド面62dに装着される。また、内周側スプリングガイド面62dの第1螺旋路62fのピッチとコイルスプリング67のピッチとが等しくなっているために、コイルスプリング67が、第1巻添え領域及67a及び第1遷移領域67t内のどこにおいても、第1螺旋路62fの幅内に収まっている。これは、第2巻添え領域67b、第2巻添え領域67bに連続した第2遷移領域67u、内周側スプリングガイド面63d及び第2螺旋路63fについても同様である。
【0118】
また本実施形態においては、プーリ62には、コイルスプリング67の第1巻添え領域67a側の一端と周方向で対向するスプリングストッパ面62cが、ハブ構造体63には、第2巻添え領域67b側の他端と対向する図示しないスプリングストッパ面がそれぞれ設けられている。図17のH−H断面図及びI−I断面図である図19及び図20にその一例を示した。図20のように、第1巻添え領域67aの内周面が内周側スプリングガイド面62dに当接した状態で、コイルスプリング67の一端とスプリングストッパ面62cとが周方向で対向する構造となっている。また、図示していないが、第2巻添え領域67b側についても同様であり、第2巻添え領域67bの内周面が内周側スプリングガイド面63dに当接した状態で、コイルスプリング67の他端とスプリングストッパ面(図示せず)とが周方向で対向する構造となっている。
【0119】
図19は、スプリングストッパ面62cを含む位置での断面図であるが、スプリングストッパ面62cを設けた場合には、図19のように、内周側スプリングガイド面62dが遮られて断面が円弧状になる領域が生じる。本実施形態では、この領域において、内周側スプリングガイド面62dを遮っている部分の中心角θを約90度としているが、この範囲に限定するものではない。また、スプリングストッパ面62cは、プーリ構造体61が回転運動中にコイルスプリング67の一端を支持できるように、その面積が少なくともコイルスプリング67の一端の面積以上であることが望ましい。また、コイルスプリング67が、安定して上記の領域における内周側スプリングガイド面62dと当接するようにするために、上記の中心角度θは、可能な範囲で小さいことが望ましい。
【0120】
次に、コイルスプリング67の第1巻添え領域67a及び第2巻添え領域67bと、内周側スプリングガイド面62d及び63dとの間の当接状態について、図20を用いて説明する。
【0121】
コイルスプリング67が巻き締められる方向(図20の矢印R方向)へプーリ62がハブ構造体63以上の回転速度で回転しているときは、コイルスプリング67の第1巻添え領域67aが内周側スプリングガイド面62dを把持することによって内周側スプリングガイド面62dが第1巻添え領域67aに対して静止するように、コイルスプリング67が内周側スプリングガイド面62dに装着されている。一方、コイルスプリング67が巻き締められる方向へプーリ62がハブ構造体63未満の回転速度で回転しているときは、上記の静止状態から、内周側スプリングガイド面62dが第1巻添え領域67aに対して矢印T方向に5度(角度)ほど回転し、その後はコイルスプリング67が巻き緩められる方向(矢印T方向)にコイルスプリング67の一端がスプリングストッパ面62cによって押圧されつつ、内周側スプリングガイド面62dが第1巻添え領域67aに対して静止するように、コイルスプリング67が内周側スプリングガイド面62dに装着されている。
【0122】
図示していないが、第2巻添え領域67b側についても第1巻添え領域67a側と同様であり、コイルスプリング67が巻き締められる方向へプーリ62がハブ構造体63以上の回転速度で回転しているときは、コイルスプリング67の第2巻添え領域67bが内周側スプリングガイド面63dを把持することによって内周側スプリングガイド面63dが第2巻添え領域67bに対して静止するように、コイルスプリング67が内周側スプリングガイド面63dに装着されている。また一方、コイルスプリング67が巻き締められる方向へプーリ62がハブ構造体63未満の回転速度で回転しているときは、上記の静止状態から、内周側スプリングガイド面63dが第2巻添え領域67bに対して矢印R方向に5度(角度)ほど回転し、その後はコイルスプリング67が巻き緩められる方向にコイルスプリング67の他端がスプリングストッパ面62cによって押圧されつつ、内周側スプリングガイド面63dが前記第2巻添え領域67bに対して静止するように、コイルスプリング67が内周側スプリングガイド面62dに装着されている。
【0123】
上記のような当接状態にするため、コイルスプリング67をバネ収容室66から取り出した状態で、コイルスプリング67の内径は内周側スプリングガイド面62d及び63dの最小の内径よりも小さい。
【0124】
次に、上記のように構成されたプーリ構造体61の動作を説明する。
【0125】
まずプーリ62及びハブ構造体63が回転していない状態から、ベルトにより駆動力が伝えられてプーリ62が図20の矢印Rで示される方向へ回転を開始した直後の状態では、プーリ62の方がハブ構造体63よりも矢印R方向への回転速度が大きい。この状態では、内周側スプリングガイド面62dに対して第1巻添え領域67aが静止しており、内周側スプリングガイド面62dと第1巻添え領域67aとは同じ回転速度で矢印R方向へ回転している。このまま回転を続けると、コイルスプリング67の第1巻添え領域67aと内周側スプリングガイド面62dとの間の把持作用、及び、他端側の第2巻添え領域67bと内周側スプリングガイド面63dとの間の把持作用により、プーリ62の回転がコイルスプリング67を介してハブ構造体63に弾性的に伝達され、回転が伝えられたハブ構造体3も回転を始める。このとき、プーリ62とハブ構造体63は、コイルスプリング67を巻き締めながら回転しており、コイルスプリング7が限界まで巻き締まると、プーリ62とハブ構造体63は同じ回転速度で矢印R方向へ回転する。この状態で、内周側スプリングガイド面62d、63dに対して第1巻添え領域67a、第2巻添え領域67bがそれぞれ静止している。
【0126】
このような状態では、当初の第1巻添え領域67aの内周側スプリングガイド面62dに対する把持力に加えて、図20の矢印Sで示される方向へ、コイルスプリング67による内周側スプリングガイド面62dに対する締め付け力が発生し、コイルスプリング67が内周側スプリングガイド面62dを保持するための摩擦力が強化されている。これは、コイルスプリング67の他端側の内周側スプリングガイド面63dについても同様である。そのため、回転速度が高くなっても上記の第1巻添え領域67a、第2巻添え領域67bが内周側スプリングガイド面62d、63dに対してほとんど滑ることがない。この状態で、内周側スプリングガイド面62d及び63dは、それぞれ第1巻添え領域67a、第2巻添え領域67bに対して静止している。
【0127】
また上記のような、プーリ62の矢印R方向への回転速度が、ハブ構造体63以上となっている状態での回転運動の間、コイルスプリング67の中間領域67cが当初よりも巻き締められた状態になっていることで、コイルスプリング67に巻き緩み方向への弾性的回転エネルギーが蓄えられ、プーリ62とハブ構造体63とが反対方向に瞬間的な相対弾性回転運動ができるようになっている。本実施形態においては、バネ収容室66に、コイルスプリング67の中間領域67cとハブ構造体63との間の空間を確保していることで、コイルスプリング67はより小径に巻き締まることが可能であり、巻き緩み方向へのより強い弾性的回転エネルギーを蓄えることができる。
【0128】
ここで、クランクシャフトに回転変動が生じてベルト速度が急激に低下した場合、プーリ62には、ハブ構造体63に対してコイルスプリング67が巻き緩む矢印T方向の力がベルトにより加えられる。上記のように、プーリ62とハブ構造体63は、コイルスプリング67の弾性力により反対方向への瞬間的な相対弾性回転運動が可能であるので、ベルト速度の急激な低下時に、慣性で回転を続けるハブ構造体63に対して、コイルスプリング67が巻き緩むことにより、プーリ62が矢印T方向へ独立して回転することができる。ここで、上記の静止状態から、内周側スプリングガイド面62dが第1巻添え領域67aに対して(図23の矢印T方向に)5度(角度)ほど回転し、その後はスプリングストッパ面62cの効果により、コイルスプリング67の一端が押圧されて(図20の矢印U方向)、コイルスプリング67とプーリ62との間に滑りを生じさせることなく、効率的にコイルスプリング67を巻き緩ませる。同様に、他端側のスプリングストッパ面の効果により、コイルスプリング67の他端が押圧され、コイルスプリング67とプーリ63との間に滑りを生じさせることなく、効率的にコイルスプリング67を巻き緩ませる。この状態で、内周側スプリングガイド面62d及び63dは、それぞれ第1巻添え領域67a、第2巻添え領域67bに対して静止している。
【0129】
これらの結果、クランクシャフトの回転変動を効率的に吸収することでベルト鳴きが抑制され、ベルトの磨耗を防止できる。また、クランクシャフトの回転変動によるハブ構造体63及び発電軸への影響を緩和できる。
【0130】
本実施形態においては、バネ収容室66に、コイルスプリング67の中間領域67cと、プーリ62との間の空間を確保していることで、コイルスプリング67がプーリ62及びハブ構造体63のいずれにも接触しない領域ができる。これにより、コイルスプリング67は当初の内径よりも大きく巻き緩むことが可能であり、このことにより、プーリ62とハブ構造体63との間の相対角変位を大きくすることができる。そのため、クランクシャフトの回転変動を効率的に吸収することでベルト鳴きが抑制され、ベルトの磨耗を防止できる。
【0131】
ここで、第1巻添え領域67a及び第2巻添え領域67b、並びに、第1巻添え領域67a及び第2巻添え領域67bからコイルスプリングの中間領域67cへの、それぞれの遷移領域67t、67uにおいて、コイルスプリング67の内周面が、それぞれ内周側スプリングガイド面62d、63dと隙間なく当接しているので、図24のgのような、内周側スプリングガイド面とコイルスプリングとの間で局所的に接触する部分、すなわち、コイルスプリング7の内周面がその幅方向の一部においてのみ内周側スプリングガイド面62d、63dと接触する部分がなくなり、クランクシャフトの回転変動の度に応力集中が発生することがないので、コイルスプリング67の有害な磨耗、破損を防止できる。また、本実施の形態では内径が全領域で均一なコイルスプリング67を用いることができ、内径が強制的に変化させられて応力集中が発生するような遷移領域がないため、コイルスプリング67の磨耗、破損を防止できる。
【0132】
以上のように、本実施形態に係るプーリ構造体61により、第1巻添え領域67a及び第2巻き添え領域67b、並びに、コイルスプリングの中間領域67cとの間の遷移領域67t及び67uにおいて、内周側スプリングガイド面62d、63dとコイルスプリング67との間での局所的な接触による応力集中の発生が防止でき、コイルスプリングの有害な磨耗、破損を抑止できる。また、プーリ62とハブ構造体63との両方が同じ回転速度で回転する状態と、同方向へプーリ62がハブ構造体63よりも小さな回転速度で回転する状態とを、一端を含み且つ線状体が実質的に同じ曲率で湾曲しつつ他端に向かって延在した第1巻添え領域67a、及び、他端を含み且つ線状体が実質的に同じ曲率で湾曲しつつ一端に向かって延在した第2巻添え領域67bを有するコイルスプリング67を用いて切換可能とすることができる。そのため、コイルスプリング67の第1巻添え領域67a及び第2巻添え領域67bにおける疲労破壊やその付近での回転体の破損が起こりにくくなる。
【0133】
また、本実施形態において、第1巻添え領域67a及び第2巻添え領域67bは、巻き数が1巻き以上の線状体から構成される。このように巻添え領域67a及び67bの巻き数を1巻き以上とすることで、第1巻添え領域67a及び第2巻添え領域67bがそれぞれ内周側スプリングガイド面62d、63dに与える把持力が大きくなるので、コイルスプリング67が内周側スプリングガイド面62d、63dに対して滑ることが少なくなり、その信頼性が向上する。
【0134】
また、本実施形態では、動力出力側、例えばエンジンのクランクシャフトからの回転駆動力をプーリ62に与えて、プーリ62がその回転駆動力をハブ構造体63に伝達していたが、その逆の構造、即ちハブ構造体63に動力出力側の回転駆動力を与えて、ハブ構造体63がその回転駆動力をプーリ62に伝える構造としてもよい。この場合、回転駆動力がハブ構造体63からコイルスプリング67を介してプーリ62へ伝達され、プーリ62からベルトを介して動力が出力されることになる。
【0135】
その場合には、コイルスプリング67が巻き締められる方向(図20の矢印T方向)へハブ構造体63がプーリ62以上の回転速度で回転しているときは、コイルスプリング67の第1巻添え領域67aが内周側スプリングガイド面62dを把持することによって、内周側スプリングガイド面62dが第1巻添え領域67aに対して静止するように、コイルスプリング67が内周側スプリングガイド面62dに装着される。一方、コイルスプリング67が巻き締められる方向(矢印T方向)へハブ構造体63がプーリ62未満の回転速度で回転しているときは、上記の静止状態から、内周側スプリングガイド面62dが第1巻添え領域67aに対して矢印T方向に5度(角度)ほど回転し、その後はコイルスプリング67が巻き緩められる方向(矢印T)にコイルスプリング67の一端がスプリングストッパ面62cによって押圧されつつ、内周側スプリングガイド面62dが前記第1巻添え領域に対して静止するように、コイルスプリング67が内周側スプリングガイド面62dに装着されている。また、他端側の第2巻添え領域67bについても同様に、内周側スプリングガイド面63dへ装着される。
【0136】
(第6実施形態)
次に、図21〜図23に基づいて、本発明の第6実施形態に係るプーリ構造体71に関して、第5実施形態に係るプーリ構造体と特徴が異なる点を中心に、以下説明する。なお、本実施形態においては、上記の第5実施形態の構成部材と同様の部分(71、72、72a、72d、72f、73、73a、73d、74、75、76、77、77a〜77c、77t、77u)については、第5実施形態の符号(61、62、62a、62d、62f、63、63a、63d、64、65、66、67、67a〜67c、67t、67u)の部分にそれぞれ順に合致させて示しており、かかる同様の部分の説明が省略されることがある。
【0137】
図21は、本発明の第6実施形態に係るプーリ構造体71の縦断面図である。図22(a)は本発明の第6実施形態に係るプーリ構造体の断面図(図21のK−K断面位置に相当)の要部を示した図である。また、図22(b)は図22(a)のL−L断面図の要部を示した図である。図22は説明に必要な要部のみを表したものであり、断面そのものではない。また、図22にはハブ73側の構造のみを示したが、プーリ72側についてもハブ73側についての説明で代表させることにより足りるため、省略してある。図23は図21のJ−J断面図である。
【0138】
本実施形態においては、プーリ72には、内周側スプリングガイド面72d、及び、バネ収容室76に面して半径方向内側に指向する外周側スプリングガイド面72eが、またハブ構造体73には、内周側スプリングガイド面73d、及び、バネ収容室76に面して半径方向内側に指向する外周側スプリングガイド面73eがそれぞれ設けられている。そして、内周側スプリングガイド面72d、73d、と、外周側スプリングガイド面72e、73eとの間の溝幅は、それぞれコイルスプリング77の巻添え領域77a、77bを収めることが可能な範囲で最小の幅となっている。そして、コイルスプリング77の第1巻添え領域77aは、内周側スプリングガイド面72dと外周側スプリングガイド面72eとの間に、第2巻添え領域77bは、内周側スプリングガイド面73dと外周側スプリングガイド面73eとの間にそれぞれ装着されている。また本実施形態においては、コイルスプリング77の一端及び他端と周方向で対向するスプリングストッパ面は設けられていない。
【0139】
次に、コイルスプリング77の第1巻添え領域77a及び第2巻添え領域77bと、内周側スプリングガイド面72d及び73dとの間の当接状態について、図23を用いて説明する。
【0140】
コイルスプリング77が巻き締められる方向(図23の矢印R方向)へプーリ72がハブ構造体73以上の回転速度で回転しているときは、コイルスプリング77の第1巻添え領域77aが内周側スプリングガイド面72dを把持することによって、内周側スプリングガイド面72dが第1巻添え領域77aに対して静止するように、コイルスプリング77が内周側スプリングガイド面72dに装着されている。一方、コイルスプリング77が巻き締められる方向(矢印R)へプーリ72がハブ構造体73未満の回転速度で回転しているときは、上記の静止状態から、内周側スプリングガイド面72dが第1巻添え領域77aに対して矢印T方向に5度ほど回転し、その後はコイルスプリング77の第1巻添え領域77aが外周側スプリングガイド面72eを押圧することによって、コイルスプリング77の第1巻添え領域77aが外周側スプリングガイド面72eに対して静止し、コイルスプリング77が巻き緩められるように、コイルスプリング77が内周側スプリングガイド面72dに装着されている。また、図示していないが、第2巻添え領域77bについても同様に、内周側スプリングガイド面73dへ装着されている。このような当接状態にするため、コイルスプリング77をバネ収容室76から取り出した状態で、コイルスプリング77の内径は内周側スプリングガイド面72d及び73dの最小の内径よりも小さい。
【0141】
次に、上記のように構成されたプーリ構造体71の動作を説明する。
【0142】
まずプーリ72及びハブ構造体73が回転していない状態から、ベルトにより駆動力が伝えられてプーリ72が図23の矢印Rで示される方向へ回転を開始した直後の状態では、プーリ72の方がハブ構造体73よりも矢印R方向への回転速度が大きい。この状態では、内周側スプリングガイド面72dに対して第1巻添え領域77aが静止しており、内周側スプリングガイド面72dと第1巻添え領域77aとは同じ回転速度で矢印R方向へ回転している。このまま回転を続けると、コイルスプリング77の第1巻添え領域77aと内周側スプリングガイド面72dとの間の把持作用、及び、他端の第2巻添え領域77bと内周側スプリングガイド面73dとの間の把持作用により、プーリ72の回転がコイルスプリング77を介してハブ構造体73に弾性的に伝達され、回転が伝えられたハブ構造体73も回転を始める。このとき、プーリ72とハブ構造体73は、コイルスプリング77を巻き締めながら回転しており、コイルスプリング7が限界まで巻き締まると、プーリ72とハブ構造体73は同じ回転速度で矢印R方向へ回転する。この状態で、内周側スプリングガイド面72d、73dに対して第1巻添え領域77a、第2巻添え領域77bがそれぞれ静止している。
【0143】
このような状態では、当初の第1巻添え領域77aの把持力に加えて、図23の矢印Sで示される方向へ、コイルスプリング77による内周側スプリングガイド面72dに対する締め付け力が発生し、コイルスプリング77が内周側スプリングガイド面72dを保持するための摩擦力が強化されている。これは、コイルスプリング77の他端側の内周側スプリングガイド面73dについても同様である。そのため、回転速度が高くなっても上記の第1巻添え領域77a、第2巻添え領域77bが内周側スプリングガイド面72d、73dに対して滑ることがほとんどない。この状態で、内周側スプリングガイド面72d及び73dは、それぞれ第1巻添え領域77a、第2巻添え領域77bに対して静止している。
【0144】
また上記のような、プーリ72の矢印R方向への回転速度が、ハブ構造体73以上となっている状態での回転運動の間、コイルスプリング77の中間領域77cが当初よりも巻き締められた状態になっていることで、コイルスプリング77に巻き緩み方向への弾性的回転エネルギーが蓄えられ、プーリ72とハブ構造体73とが反対方向に瞬間的な相対弾性回転運動ができるようになっている。本実施形態においては、バネ収容室76に、コイルスプリング77の中間領域77cとハブ構造体73との間の空間を確保していることで、コイルスプリング77はより小径に巻き締まることが可能であり、巻き緩み方向へのより強い弾性的回転エネルギーを蓄えることができる。
【0145】
ここで、クランクシャフトに回転変動が生じてベルト速度が急激に低下した場合、プーリ72には、ハブ構造体73に対してコイルスプリング77が巻き緩む矢印T方向の力がベルトにより加えられる。上記のようにコイルスプリング77の弾性力により、プーリ72とハブ構造体73は、反対方向への瞬間的な相対弾性回転運動が可能であるので、ベルト速度の急激な低下時に、慣性で回転を続けるハブ構造体73に対して、コイルスプリング77が巻き緩むことにより、プーリ72が矢印T方向へ独立して回転することができる。ここで、上記の静止状態から、内周側スプリングガイド面72dが第1巻添え領域77aに対して(図23の矢印T方向に)5度(角度)ほど回転し、その後はコイルスプリング77が巻き緩むことにより、コイルスプリング77の内径が増大し、図23の矢印Qで示される方向へ、コイルスプリング77による外周側スプリングガイド面72eに対する押圧力が発生する。これは、コイルスプリング77の他端側の外周側スプリングガイド面73eについても同様である。このことにより、コイルスプリング77とプーリ72との間に滑りを生じさせることなく、効率的にコイルスプリング77を巻き緩ませる。同様に、他端側でも発生するコイルスプリング77による外周側スプリングガイド面73eに対する押圧力により、コイルスプリング77とプーリ73との間に滑りを生じさせることなく、効率的にコイルスプリング77を巻き緩ませる。この状態で、内周側スプリングガイド面72d及び73dは、それぞれ第1巻添え領域77a、第2巻添え領域77bに対して静止している。
【0146】
これらの結果、クランクシャフトの回転変動を緩やかに吸収することでベルト鳴きが抑制され、ベルトの磨耗を防止できる。また、クランクシャフトの回転変動によるハブ構造体3及び発電軸への影響を緩和できる。
【0147】
以上のように、本実施形態に係るプーリ構造体71により、第1巻添え領域77a及び第1巻添え領域77aに連続した第1遷移領域77tにおいて、並びに、第2巻添え領域77b及び第2巻添え領域77bに連続した第1遷移領域77uにおいて、内周側スプリングガイド面72d、73dとコイルスプリング77との間での局所的な接触による応力集中の発生が防止でき、コイルスプリングの有害な磨耗、破損を抑止できる。また、プーリ72とハブ構造体73との両方が同じ回転速度で回転する状態と、同方向へプーリ72がハブ構造体73よりも小さな回転速度で回転する状態とを、一端を含み且つ線状体が実質的に同じ曲率で湾曲しつつ他端に向かって延在した第1巻添え領域を有するコイルスプリング77を用いて切換可能とすることができる。
【0148】
また本実施形態では、コイルスプリング77の第1巻添え領域77aが、内周側スプリングガイド面72dと外周側スプリングガイド面72eとの間に、第2巻添え領域77bが、内周側スプリングガイド面73dと外周側スプリングガイド面73eとの間にそれぞれ装着されている。このようにすることで、コイルスプリング77を傾いたりすることなく確実にまっすぐ安定してプーリ構造体71に装着できる。すなわち、コイルスプリング77が傾いて設置されていると、プーリ構造体71に加わる回転変動によってコイルスプリング77の一部分に過大な力が加わりやすくなり、コイルスプリング77が破損し易くなってしまう。この点、本実施形態ではコイルスプリング77の取付け向きが斜めになることを回避できるから、プーリ構造体71に加わる回転変動をバネ線全体で均等に受け止めることができ、コイルスプリング77の寿命を延ばすことができる。
【0149】
また、例えば、上記の実施形態においては、コイルスプリング77の巻添え領域を1巻き程度にしているが、この巻き数に限定するものではなく、1巻き以上であればよい。さらに、遷移領域の巻き数も上記の実施形態においては1巻き程度となっているが、この巻き数に限定するものではない。
【0150】
また、例えば、肉抜部を設けることなどにより、プーリ72は積極的に軽量化されていることが好ましい。これにより、プーリ72の回転慣性モーメントを低減することができるので、凹凸面72aのある点における速度をベルトの速度に維持するために必要とするベルトの張力を緩和することができる。したがって、凹凸面72aとベルトとの間の静止摩擦力を上回る力の発生を抑制できるので、ベルトが磨耗することがなく、寿命を延長することができる。
【0151】
また、プーリ72の素材として、例えばアルミニウムなどの軽合金を採用することが好ましい。これにより、プーリ72の回転慣性モーメントをさらに低減することができるので、前述の肉抜きによる軽量化による効果と同様に、ベルトの寿命を延長することができる、という効果を奏する。
【0152】
さらに、コイルスプリング77の断面形状を変化させても良い。例えば、断面が円形であるコイルスプリングと断面が矩形である角コイルスプリングとを比較して以下のような効果が得られることが分かっている。すなわち、同じ相対角変位・同じ巻き数・同じばね定数では、後者のコイルスプリングに発生する最大引張(圧縮)応力を約70%となるよう低減することができ、一方、同じ相対角変位において発生する最大引張(圧縮)応力が同じであり且つ同じばね定数であっては後者の必要巻き数が70%となる効果を奏する。以上の理由から角コイルスプリングを採用しても良いが、これに限定されず、コイルスプリングの断面形状は例えば円形であっても良い。
【0153】
また本実施形態では、オルタネータのハブ構造体73にプーリ構造体71を設けた場合を説明したが、それに限らず、例えば自動車のエアコンディショナのコンプレッサ軸に本発明のプーリを設置することが考えられる。また、車両機器以外にも本発明のプーリ構造体の適用は妨げられず、種々の回転伝達系に本発明のプーリ構造体を設置して使用することができる。
【0154】
(第7実施形態)
次に、図25は、本発明の第7実施形態に係るプーリ構造体101の縦断面図である。図26は、図25におけるN−N断面である。
【0155】
自動車用内燃機関(図示せず)は、エンジンフレーム(図示せず)、クランクシャフト(図示せず)、及びオルタネータの発電軸(図示せず)を含んでいる。図25に示すプーリ構造体101は、オルタネータの発電軸上に設置されるものであって、エンジンの動力がクランクシャフト及びベルト(図示せず)を介して伝達されることにより回転する。このプーリ構造体101は、筒状に形成されたプーリ102を有し、当該プーリ102の外周面には、前記ベルトを巻き掛けることによりエンジンからの駆動力を伝えることが可能な凹凸面102aが設けられている。
【0156】
プーリ102の軸方向一端側の内周には軸受104が、軸方向他端側の内周には軸受105が配置されている。これらの軸受104及び軸受105により、ハブ構造体103がプーリ102に対して相対回転自在に支持されており、このハブ構造体103はプーリ102の内側空間に、プーリ102と同心に配置されている。尚、本実施形態においては軸受104、軸受105として、それぞれドライメタル、ボールベアリングを用いているが、これらに限定されるものではなく、ハブ構造体103がプーリ102に対して相対回転自在になるように支持するものであればよい。
【0157】
プーリ102の内周には、軸受105が外れないように固定するための止め部材81が嵌装されている。また、ハブ構造体103の軸孔103aは、オルタネータの発電軸(図示せず)を固定可能に形成されている。
【0158】
前記のプーリ102とハブ構造体103、及び軸受104、105により、バネ収容室106が形成されており、バネ収容室106内には、コイルスプリング107が収容されている。コイルスプリング107は、断面四角形状の金属性線状体が螺旋状に巻回された角スプリングである。
【0159】
本実施形態においては、バネ収容室106に面したプーリ102の内面に、収容溝102bが設けられ、収容溝102bにおいて回転軸の半径方向に指向する外側の内周面を第1スプリングガイド面102dとし、コイルスプリング107の端部に位置する第1当接部107aが第1スプリングガイド面102dに当接するようにコイルスプリング107が装着されている。また、第1スプリングガイド面102dには、硬質クロムめっきが施されている。尚、収容溝102bの回転軸の半径方向の幅については、コイルスプリング107を構成する線状体を収容できるだけの幅は必要であるが、ここではその上限を特に制限しない。
【0160】
コイルスプリング107の端部は、径が装着前の径よりも小さくなるように弾性変形した状態で装着されており、当該コイルスプリング107の弾性回復により図26に示すN−N断面において矢印Vで示す方向にプーリ内面が付勢されている。また、コイルスプリング107の線状体先端部107cは、角部が除去されており、プーリ内周面と当接する面と、コイルスプリング107の線状体端面とが互いに滑らかに連続する面として形成されている。
【0161】
図28に、図26におけるコイルスプリング107のP−P断面の当接面側を示す。コイルスプリング107の当接面の断面形状は図中Nで示す中央部においては直線形状であり、Oで示す部分においては端部に近づくにつれ曲率が小さくなるようなクラウニング処理が施されており、端部の角部が除去されている。
【0162】
一方、バネ収容室106に面したハブ構造体103の外面にはリテーナ部103bが設けられ、リテーナ部103bにおいて回転軸の半径方向に指向する外側の内周面を第2スプリングガイド面103dとし、コイルスプリング107のリテーナ部103b側端部に位置する第2当接部107bが第2スプリングガイド面103dに当接するようにコイルスプリング107が装着されている。
【0163】
コイルスプリング107における第2当接部107bは、第1当接部107aと同様にして径が装着前の径よりも小さくなるように弾性変形した状態で装着されており、先端部において角部が除去されるとともに、第2当接部107bにはクラウニングが施されている。
【0164】
以上のように、上記コイルスプリング7はプーリ構造体101と略同心にバネ収容室106の内部に配置され、プーリ102とハブ構造体103とはコイルスプリング107を介して弾性的に連結される。
【0165】
次に、プーリ構造体101の動作を説明する。
【0166】
上述したように、プーリ構造体101は、コイルスプリング107が弾性回復する力によりプーリ102及びハブ構造体103との当接面で生じる一定の摩擦力を用いて、プーリ102とコイルスプリング107、及びハブ構造体103とコイルスプリング107との固定状態を維持する機構(スプリングクラッチ機構)を有する。このスプリングクラッチ機構により、ベルト(図示せず)が駆動してプーリ102が回転すると、プーリ102の回転運動がハブ構造体103に伝達する。
【0167】
この運動において、プーリ102からハブ構造体103に伝わる回転トルクが増加していく場合、スプリングクラッチ機構の摩擦力を超える回転トルクが伝達された時点で、コイルスプリング107がプーリ102またはハブ構造体103に対して滑り始め、プーリ102とハブ構造体103とは相対回転を行うことになる。このとき当該コイルスプリング107の当接面に作用する摩擦は静摩擦から動摩擦に変化し、コイルスプリング107とプーリ102またはコイルスプリング107とハブ構造体103との間で作用する摩擦力は低下する。これより、プーリ102とハブ構造体103との間で伝達される回転トルクは減少することになる。
【0168】
ここで、プーリ102からハブ構造体103に伝達される回転トルクが大きいほど、ハブ構造体103の回転速度の単位時間当たりの増加量が大きくなる。したがって、一般的な回転トルクを伝達する構造体においては、著しく大きい回転トルクの伝達により、急激な速度変化が生じることになる。
【0169】
しかしながら、本発明のプーリ構造体101においては、コイルスプリング107は当接部107a・107bの当接面において滑ることが可能であり、摩擦力により伝達可能な所定の大きさの回転トルク以上のトルクはスプリングクラッチ機構の滑りにより伝達されることはない。したがって、ハブ構造体103の回転速度の急激な変動を抑制することが可能である。また、当該回転トルクの伝達の際、コイルスプリング107はプーリ102及びハブ構造体103との当接部全体でプーリ102とハブ構造体103とを支持するため、コイルスプリング107に作用する摩擦力はコイルスプリング107の当接部分に分散して働くことになる。したがって、コイルスプリング107の一部への応力集中を抑制することが可能であり、コイルスプリング107の疲労破壊を抑制することが可能である。また、コイルスプリング107に作用する回転トルクが過剰に大きくなることはないため、コイルスプリング107の劣化を抑制することが可能である。
【0170】
プーリ102からハブ構造体103に伝わる回転トルクが増加してスプリングクラッチ機構の滑りが発生しうる場合とは、例えば、スプリングクラッチ機構が滑らずに固定されている状態(把持状態)において、プーリ102の単位時間当たりの回転速度の増加量が大きい場合、つまり、プーリ102の回転速度が急激に増加する場合が挙げられる。このとき、仮に把持状態であればハブ構造体103に伝達されるであろう回転トルクが、スプリングクラッチ機構の摩擦力により伝達可能な所定の大きさの回転トルクよりも大きい場合は、スプリングクラッチ機構は把持状態から滑り状態に変化する。したがって、プーリ102の回転にハブ構造体103の回転が追従して急激に回転速度が増加することはない。
【0171】
同様にして、プーリ102の単位時間当たりの回転速度の減少量が大きい場合、つまり、プーリ102の回転速度が急激に減少する場合においても、スプリングクラッチ機構の滑りを発生させることが可能である。この場合、慣性力により同じ回転速度で回転し続けようとするハブ構造体103の回転を止める方向に回転トルクが作用する。当該回転トルクが、スプリングクラッチ機構の摩擦力により伝達可能な所定の大きさの回転トルク以上であれば、スプリングクラッチ機構は把持状態から滑り状態に変化する。したがって、ハブ構造体103の急激な回転速度の減少を抑制することが可能である。
【0172】
このように、コイルスプリング107の当接部がプーリ102またはハブ構造体103のガイド面102d、103dで滑ることにより、当該ガイド面102d、103dの磨耗の恐れがある。磨耗により当該部分での接触の摩擦係数が変化すると、滑りが発生する所定の回転トルクが変化するため、滑りの発生が不安定になり問題となる。本実施形態では、前記コイルスプリングが当接するプーリ102とハブ構造体103とに、硬質クロムめっきが施されているため、当該磨耗を抑制することができる。尚、プーリ102及びハブ構造体103の当接部の表面硬化処理は硬質クロムめっきに限られず、ニッケルめっき、高周波焼入れ、セラミックスの溶射などによっても行うことが可能である。
【0173】
また、コイルスプリング107は角スプリングであり、その当接面の広さにより安定して当接状態を維持することが可能である。ここで、コイルスプリング107の線状体先端部107cは、鋭利な角部が除去されているため、プーリ102の表面に傷をつけることを防止することが可能である。さらに、このような形状にすることによりプーリ構造体101の組立て時にコイルスプリング107をプーリ102に挿入しやすくすることができる。また、コイルスプリング107にはクラウニングが施され(図28参照)、断面の角部は滑らかにされているため、プーリ102の表面に傷をつけることを防止することができる。
【0174】
尚、図27にコイルスプリングの変形例を示すように、コイルスプリング108の先端付近をコイル径が小さくなるように半径方向内側に曲げることにより、先端とプーリ102との間に隙間δを設け、プーリ102の表面に傷をつけることを防止することも可能である。
【0175】
また、コイルスプリング107は、図28に示す断面形状を有するものに限らず、当接面全体が曲面になる断面形状、例えば、図29に示すような中央部から角部に向かって曲率が小さくなる(R1>R2>R3>R4)ようにクラウニングを施した断面形状のコイルスプリング109とすることによってもプーリ102の傷つきを防止し、安定した当接状態を維持することが可能である。
【0176】
また、コイルスプリング107がプーリ102及びハブ構造体103を付勢する弾性回復力が大きいほど、滑りが発生する所定の回転トルクは大きくなるため、用いるコイルスプリングのコイル径や材料の弾性係数を調整することにより、当該所定の回転トルクを調整することが可能である。尚、コイル径は軸方向に一様である必要はなく、プーリ102またはハブ構造体103との当接部107a、107bのコイル径のみを部分的に大きくして弾性回復力を調整することも可能である。
【0177】
また、コイルスプリングの軸方向の長さに対してプーリ構造体101の挿入幅l(図25参照)を0.2mm〜5mm程度小さく設計することにより、プーリ構造体101に装着したコイルスプリングの両端は収容溝102b及びリテーナ部103bに対して軸方向に当接し、軸方向に圧縮された状態となるため、エンドプレーによる異音の発生を抑制することが可能である。
【0178】
(第8実施形態)
次に、図30は、本発明の第8実施形態に係るプーリ構造体121の縦断面図である。図31は、図30に示すハブ構造体の第2スプリングガイド面123dの形状を示す図である。第8実施形態に係るプーリ構造体121は、コイルスプリング127がプーリ122及びハブ構造体123を半径方向内側方向へ付勢してスプリングクラッチ機構を形成している点、及びハブ構造体123におけるコイルスプリング127との当接面である第2スプリングガイド面123dは一定間隔で傾斜溝51を設けた面として形成されている(図31参照)点で第7実施形態と異なる。尚、同一部材には同一の符号を付して説明を省略する。また、プーリ122は第7の実施形態と同様に凹凸面122aに巻き掛けられたベルト(図示せず)の駆動により回転する。
【0179】
本実施形態においては、バネ収容室126に面したプーリ122の内面に、収容溝122bが設けられ、収容溝122bにおいて回転軸の半径方向に指向する内側の外周面を第1スプリングガイド面122dとし、コイルスプリング127の端部に位置する第1当接部127aが第1スプリングガイド面122dに当接するようにコイルスプリング127が装着されている。
【0180】
コイルスプリング127の端部は、径が装着前の径よりも大きくなるように弾性変形した状態で装着されており、当該コイルスプリング127の弾性回復により径を小さくする方向にプーリ122のガイド面122dが付勢されている。
【0181】
一方、リテーナ部123bにおいて回転軸の半径方向に指向する内側の外周面を第2スプリングガイド面123dとし、コイルスプリング127の当該リテーナ部123b側端部に位置する第2当接部127bが第2スプリングガイド面123dに当接するようにコイルスプリング107が装着されている。
【0182】
第2当接部127bは、第1当接部127aと同様にして径が装着前の径よりも大きくなるように弾性変形した状態で装着されている。
【0183】
上記のように構成されたプーリ構造体121は、コイルスプリング127の当該径を小さくする方向への弾性回復によるスプリングクラッチ機構によって、滑りによるプーリ122に対するハブ構造体123の相対回転を可能とした状態で、プーリ122の回転運動をハブ構造体123に伝達する。
【0184】
第7実施形態と同様に、当該スプリングクラッチ機構の滑りが生じる所定の回転トルクの大きさは、コイルスプリング127とプーリ122またはコイルスプリング127とハブ構造体123との間の摩擦係数が大きいほど大きくなる。本実施形態においては、ハブ構造体123におけるガイド面123dに、回転方向に一定間隔で傾斜溝51(図31参照)を形成することにより、当該摩擦係数は低下し、コイルスプリング127が滑る際の潤滑性を向上させている。
【0185】
このように当接面を加工することで、滑りが発生する所定の回転トルクの大きさを低くすることができ、プーリ122の回転速度変動によってハブ構造体123が受ける影響をより小さくすることができる。尚、図31に示す形状に限らず、図32に示すように、当接面にエンボス52を形成する加工を施したり、図33に示すように、ドライメタル等の潤滑性のよい材料53を圧入したりすることによっても摩擦係数を低下させることが可能である。また、ハブ構造体123を加工する場合に限らず、プーリ122におけるガイド面122dを加工することも可能である。
【0186】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。さらに、本実施形態において、本発明の構成による作用効果を述べているが、これら作用効果は一例であり、本発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0187】
1、11、21、61、71、101、111、121 プーリ構造体
2 第1回転体
2b、12b、22b 第1収容溝
3 第2回転体
3b、13b、23b 第2収容溝
4、5 軸受
6、106、126 バネ収容室
7、67、77 コイルスプリング
12、22、62、72、102、122 プーリ(第1回転体)
12c、22c、62c スプリングストッパ面
12d、22d、13d、23d、113d スプリングガイド面
13、23、63、73、103、113、123 ハブ構造体(第2回転体)
13c、23c スプリングストッパ面
24、25 軸受
16、26a、16b、66、76 バネ収容室
17、27、117 コイルスプリング
17a、27a、67a、77a、117a 第1巻添え領域
17b、67b、77b、117b 第2巻添え領域
27b 他端部
62d、63d、72d、73d 内周側スプリングガイド面
62f、72f 第1螺旋路
63f、73f 第2螺旋路
67t、77t 第1遷移領域
67u、77u 第2遷移領域
72e、73e 外周側スプリングガイド面
67c、77c、117c 中間領域
102b、122b 収容溝
102d、122d 第1スプリングガイド面
103b、123b リテーナ部
103d、123d 第2スプリングガイド面
107、108、109、127 角スプリング(コイルスプリング)
107a、127a 第1当接部
107b、127b 第2当接部
117t 遷移領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルトを巻回可能にする第1回転体と、
前記第1回転体の内側で当該第1回転体に対し相対回転可能な第2回転体と、
前記第1回転体と前記第2回転体との間に形成されるバネ収容室と、
前記バネ収容室に収容されるとともに、一端が前記第1回転体に当接し、他端が前記第2回転体に当接したコイルスプリングと、を備え、
前記コイルスプリングの両端は、径の大きさが変化するように弾性変形した状態で配設されているとともに、前記第1回転体及び前記第2回転体によって当該コイルスプリングの径が弾性回復することを抑制された状態で前記第1回転体及び前記第2回転体に当接しており、
前記コイルスプリングの端部以外の部分が、前記第1回転体及び前記第2回転体の相対回転時において径の大きさが変化する方向に変形しても、前記第1回転体及び前記第2回転体のいずれにも接触せず、
前記コイルスプリングを介して所定の大きさ以上の回転トルクが前記第1回転体と前記第2回転体との間で伝達された場合は、前記コイルスプリングにおける、前記第1回転体との当接部である第1当接部及び前記第2回転体との当接部である第2当接部の少なくともいずれか一方は、前記第1回転体または前記第2回転体に対して当接した状態で滑ることを特徴とする、プーリ構造体。
【請求項2】
前記第1回転体の単位時間当たりの回転速度の増加量が所定の大きさ以上の場合は、前記コイルスプリングにおける、前記第1回転体との当接部である第1当接部及び前記第2回転体との当接部である第2当接部の少なくともいずれか一方は、前記第1回転体または前記第2回転体に対して当接した状態で滑ることを特徴とする、請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項3】
前記第1回転体の単位時間当たりの回転速度の減少量が所定の大きさ以上の場合は、前記コイルスプリングにおける前記第1回転体との当接部である第1当接部及び前記第2回転体との当接部である第2当接部の少なくともいずれか一方は、前記第1回転体または前記第2回転体に対して当接した状態で滑ることを特徴とする、請求項1に記載のプーリ構造体。
【請求項4】
前記コイルスプリングが当接する前記第1回転体及び前記第2回転体の当接面の少なくともいずれか一方は、表面硬化処理が施されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のプーリ構造体。
【請求項5】
前記コイルスプリングが当接する前記第1回転体及び前記第2回転体の当接面の少なくともいずれか一方は、前記コイルスプリングにおける前記第1回転体との当接部である第1当接部または前記第2回転体との当接部である第2当接部との間で生じる摩擦係数を低下させた表面状態になるように加工されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のプーリ構造体。
【請求項6】
前記コイルスプリングは、当該コイルスプリングの材料断面が四角形状である角スプリングであって、当該角スプリングにおける前記第1回転体または前記第2回転体と当接する面と、当該角スプリングの材料端面とが互いに滑らかに連続する面として形成されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のプーリ構造体。
【請求項7】
前記コイルスプリングは、当該コイルスプリングの材料断面が四角形状である角スプリングであって、当該角スプリングの材料端部が、前記第1回転体及び前記第2回転体に対して隙間を介して配設されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のプーリ構造体。
【請求項8】
前記コイルスプリングは、当該コイルスプリングの材料断面が四角形状である角スプリングであって、当該角スプリングの前記第1回転体または前記第2回転体と当接する面にはクラウニングが施されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載のプーリ構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2012−132571(P2012−132571A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−90311(P2012−90311)
【出願日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【分割の表示】特願2006−241296(P2006−241296)の分割
【原出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】