説明

ヘキサチアペンタセン化合物及びその製造方法、並びにそれからなる光触媒

【課題】安定性に優れるとともに、高い溶解性を示し、有機半導体材料や光触媒として好適なヘキサチアペンタセン化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるヘキサチアペンタセン化合物である。


[式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体材料として有用なヘキサチアペンタセン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
次世代の太陽電池デバイス開発に必須の材料といわれる可視〜近赤外領域に強い吸収を持つ有機半導体材料の開発が大変注目されているが、実際に700〜800nmの波長領域に吸収を持つ材料の報告例はほとんどない。また、わずかに報告されている例についても、そのほとんどは金属錯体を骨格中に有しており、炭素、水素、酸素、窒素、硫黄などの軽元素のみからなり広い波長領域に吸収を持つ有機半導体材料の開発が待ち望まれていた。金属錯体化合物以外の有機半導体材料として、例えば、ペンタセン化合物が知られている。ペンタセン化合物は高いキャリア移動度を示すことが知られているが、芳香族化合物に特有の高い凝集作用により溶解性が低く、例えば、ウェットプロセスによる薄膜形成等が困難であり、溶解性の向上が望まれていた。
【0003】
ペンタセン化合物の溶解性を向上させる方法として、ペンタセン化合物の2,9位にエステル基が導入された化合物が記載されている(特許文献1)。これによれば、キャリア移動度が高く、有機溶媒に対する溶解性に優れるペンタセン化合物が提供できるとされている。しかしながら、このペンタセン化合物は安定性に課題があることが知られており、更なる安定性の向上が望まれていた。
【0004】
一方、700〜800nmの波長領域に吸収を持つ有機半導体材料として、下記式(a)で示されるヘキサチアペンタセンが知られている(非特許文献1及び2)。
【0005】
【化1】

【0006】
上記式(a)で示されるヘキサチアペンタセンは、硫黄原子と芳香族環との相互作用により特異的な二次元積層構造を取り、μ=0.27cm/Vsという高い電荷移動度を示すことが報告されている。しかしながら、溶解性が低いため、例えば、ウェットプロセスによる薄膜形成等が困難であり、溶解性の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−94838号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Alejandro L. Briseno et al., J.Am. Chem. Soc., 2006, Vol.128, No.49, p.15576-15577
【非特許文献2】Alejandro L. Briseno et al., NanoLett., 2007, Vol.7, No.3, p.668-675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、安定性に優れるとともに、高い溶解性を示し、有機半導体材料や光触媒として好適なヘキサチアペンタセン化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、下記一般式(1)で示されるヘキサチアペンタセン化合物を提供することによって解決される。
【化2】

[式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種である。]
【0011】
このとき、上記一般式(1)におけるR、R、R及びRが、それぞれ独立して下記一般式(2)で示される分岐ユニットであることが好適である。
【化3】

[式中、括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は任意であって繰返し結合されていてもよく、
Aは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される1種からなり;
Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基からなる群から選択される少なくとも1種からなり;
Cは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される少なくとも1種からなり;
Dは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、スルファニル基、及びポリエーテル鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基である。]
【0012】
また、上記一般式(1)で示されるヘキサチアペンタセン化合物からなる光触媒が本発明の好適な実施態様である。
【0013】
また、上記課題は、下記一般式(3):
【化4】

[式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示されるペンタセン化合物に硫黄を反応させることを特徴とする下記一般式(1):
【化5】

[式中、R、R、R及びRは、前記一般式(3)と同義である。]
で示されるヘキサチアペンタセン化合物の製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、一般式(1)で示されるヘキサチアペンタセン化合物を提供することができる。こうして得られたヘキサチアペンタセン化合物は、安定性に優れるとともに、高い溶解性を示すため、ウェットプロセスによる薄膜形成等が可能になり、有機半導体材料や光触媒として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1で得られた式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーのH NMRのスペクトル図である。
【図2】実施例1で得られた式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーのDEPTスペクトル図である。
【図3】実施例1で得られた式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーのHMBCスペクトル図である。
【図4】実施例2で得られた式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーのH NMRのスペクトル図である。
【図5】実施例2で得られた式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーのDEPTスペクトル図である。
【図6】実施例1で得られた式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマー、及び実施例2で得られた式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーのCHCl中における紫外可視吸収スペクトル図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のヘキサチアペンタセン化合物は、下記一般式(1)で示されるものであり、ペンタセン骨格の4,5,6,11,12及び13位に硫黄原子が導入され、かつ2,3,9及び10位に置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の置換基が導入された化合物である。このように、本発明のヘキサチアペンタセン化合物は、ペンタセン骨格の4,5,6,11,12及び13位に硫黄原子が導入されてなるため、安定性に優れるとともに、2,3,9及び10位に置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種の置換基が導入されてなるため、高い溶解性を示すことが本発明者らにより確認された。
【0017】
【化6】

[式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種である。]
【0018】
ここで、本発明のヘキサチアペンタセン化合物は、従来から知られている下記式(a)で示されるヘキサチアペンタセンと比較して分かるように、硫黄原子の導入位置が異なることが本発明者らの分析により確認されている。硫黄原子の導入位置が異なる理由としては、硫黄原子を導入する前の原料であるペンタセン化合物の2,3,9及び10位に置換基が予め導入されていること等が影響しているためと本発明者らは推察している。
【0019】
【化7】

【0020】
上記一般式(1)において、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種である。置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基としては、その構造中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合、スルホニル結合、ウレタン結合、チオエーテル結合等の炭素−炭素結合以外の結合が含まれていてもよく、また、二重結合、三重結合、脂環式炭化水素、複素環、芳香族炭化水素、複素芳香環等が含まれていてもよい。更に、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基等の置換基を有していてもよい。
【0021】
置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基としては、例えば、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルキニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアシル基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよいアリールアルキル基、置換基を有してもよいアルキルシリル基、置換基を有してもよいエステル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアリールチオ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよい複素芳香環基等や、下記一般式(2)で示される分岐ユニットが挙げられる。中でも、置換基を有しても良いアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルキルシリル基、置換基を有してもよいエステル基、置換基を有してもよいアルキルチオ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいアミド基、下記一般式(2)で示される分岐ユニットが好適に用いられ、下記一般式(2)で示される分岐ユニットがより好適に用いられる。
【0022】
【化8】

[式中、括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は任意であって繰返し結合されていてもよく、
Aは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される1種からなり;
Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基からなる群から選択される少なくとも1種からなり;
Cは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される少なくとも1種からなり;
Dは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、スルファニル基、及びポリエーテル鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基である。]
【0023】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアルキル基は、直鎖や分岐鎖のアルキル基であってもよいし、環状のシクロアルキル基であってもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等の直鎖や分岐鎖のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプタニル基、シクロオクタニル基、シクロノナニル基、シクロデカニル基、シクロウンデカニル基、シクロドデカニル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
【0024】
また、上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアルキル基は置換基を有してもよく、かかる置換基としては、例えば、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等のアリール基;ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラジニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基等の複素芳香環基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ドデシルオキシ基等のアルコキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等のアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基等のアリールチオ基;tert−ブチルジメチルシリルオキシ基、tert−ブチルジフェニルシリルオキシ基等の三置換シリルオキシ基;アセトキシ基、プロパノイルオキシ基、ブタノイルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシロキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基;メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基等のアルキルスルフィニル基;フェニルスルフィニル基等のアリールスルフィニル基;メチルスルフォニルオキシ基、エチルスルフォニルオキシ基、フェニルスルフォニルオキシ基、メトキシスルフォニル基、エトキシスルフォニル基、フェニルオキシスルフォニル基等のスルフォン酸エステル基;アミノ基;水酸基;シアノ基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;などが挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアルケニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メチルビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。これらアルケニル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0026】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアルキニル基は、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、プロパルギル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、フェニルエチニル基等が挙げられる。これらアルキニル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0027】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアルコキシ基は、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。これらアルコキシ基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示されたアルコキシ基以外の置換基を用いることができる。
【0028】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアシル基は、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、ドデカノイル基、ピバロイル基等が挙げられる。これらアシル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0029】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアリール基は、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。これらアリール基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示されたアリール基以外の置換基や、上述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等を用いることができる。
【0030】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアリールアルキル基は、例えば、ベンジル基、4−メトキシベンジル基、フェネチル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。これらアリールアルキル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0031】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアルキルシリル基は、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、tert−ブチルジメチルシリル基、tert−ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。これらアルキルシリル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。
【0032】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるエステル基は、−COO−又は−OCO−で示される基を含むものであり、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、ヘキシルオキシカルボニル基、ヘプチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル基などが挙げられる。これらアルコキシカルボニル基は置換基を有してもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示されたアルコキシカルボニル基以外の置換基を同様に用いることができる。
【0033】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアルキルチオ基は、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基等が挙げられる。また、上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアリールチオ基は、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基等が挙げられる。これらアルキルチオ基やアリールチオ基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示されたアルキルチオ基やアリールチオ基以外の置換基を同様に用いることができる。
【0034】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアミノ基は、1級アミノ基(−NH)の他、2級アミノ基、3級アミノ基であっても良い。2級アミノ基は、−NHR(Rは任意の一価の置換基である)で示されるモノ置換アミノ基であり、Rとしては、アルキル基、アリール基、アセチル基、ベンゾイル基、ベンゼンスルホニル基、tert−ブトキシカルボニル基等が挙げられる。2級アミノ基の具体例としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基等のようにRがアルキル基である2級アミノ基や、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基等のようにRがアリール基である2級アミノ基等が挙げられる。また、Rにおけるアルキル基やアリール基の水素原子が、更にアセチル基、ベンゾイル基、ベンゼンスルホニル基、tert−ブトキシカルボニル基等で置換されていてもよい。3級アミノ基は、−NR(R及びRはアルキル基及びアリール基からなる群から選択される少なくとも1種である)で示されるジ置換アミノ基であり、Rとしては、Rと同様のものを用いることができ、R及びRは互いに同じでも異なっていてもよい。3級アミノ基の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、メチルフェニルアミノ基等のようにR及びRがアルキル基またはアリール基からなる群から選択される3級アミノ基等が挙げられる。
【0035】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるアミド基は、−C(=O)NR(R及びRは水素原子、アルキル基及びアリール基からなる群から選択される少なくとも1種である)で示されるアミド基が挙げられる。R及びRは互いに同じでも異なっていてもよい。R及びRにおけるアルキル基、アリール基としては、上記R、R、R及びRに用いられるアルキル基やアリール基の説明のところで例示された置換基を同様に用いることができる。
【0036】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられる複素芳香環基は、例えば、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラジニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ピラゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基等が挙げられる。これら複素芳香環基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、アルキル基の説明のところで例示された複素芳香環基以外の置換基や、上述のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基等を用いることができる。
【0037】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられるハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0038】
上記一般式(1)におけるR、R、R及びRで用いられる下記一般式(2)で示される分岐ユニットについて以下説明する。
【0039】
【化9】

[式中、括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は任意であって繰返し結合されていてもよく、
Aは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される1種からなり;
Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基からなる群から選択される少なくとも1種からなり;
Cは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される少なくとも1種からなり;
Dは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、スルファニル基、及びポリエーテル鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基である。]
【0040】
上記一般式(2)で示される分岐ユニットにおいて、Aは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される1種からなり、Aの好適な具体例としては以下に示されるものが挙げられる。
【0041】
【化10】

【0042】
また、上記一般式(2)で示される分岐ユニットにおいて、Aの隣にある括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は任意であって繰返し結合されていてもよく、分岐構成単位は、BとCが結合されたBC構造を有するものである。
【0043】
上記一般式(2)で示される分岐ユニットにおいて、Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基からなる群から選択される少なくとも1種からなり、Bがこのような1種であることにより、上記一般式(2)で示される分岐ユニットが枝分かれ構造を有することとなる。Bの好適な具体例としては以下に示されるものが挙げられる。中でも、Bが3価の芳香族炭化水素基から選択される少なくとも1種からなることがより好ましい。
【0044】
【化11】

【0045】
また、上記一般式(2)で示される分岐ユニットにおいて、Cは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される少なくとも1種からなり、Cの好適な具体例としては以下に示されるものが挙げられる。
【0046】
【化12】

【0047】
また、上記一般式(2)で示される分岐ユニットは、BC構造を有する上記分岐構造単位におけるCに、前述のBが更に結合されてなる。このようにCに更に結合されたBは、BC構造におけるBの構造と同じでも異なっていてもよいが、効率良く合成できる観点から同じ構造であることが好ましい。
【0048】
更に、上記一般式(2)で示される分岐ユニットは、上記分岐構造単位におけるCに結合されたBに、Dが結合されてなる。Dは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、スルファニル基、及びポリエーテル鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基である。このように、上記一般式(2)で示される分岐ユニットにおいて、所望のDが結合されることにより、溶解性および製膜性の向上、更には、自己組織化能の付与による分子配列制御や無機錯体および基板への複合化能の付与による有機半導体デバイスの性能向上等の利点を有する。Dは、アルコキシ基、エステル基、アミド基からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基であることが好ましい。
【0049】
Dに用いられるアルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基としては、上記一般式(1)におけるR、R、R及びRの説明のところで例示された置換基と同様のものを用いることができる。また、Dに用いられる水酸基及びその塩、並びにカルボキシル基及びその塩の塩としては、カリウム、ナトリウム、リチウム、セシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の塩が好適に使用される。中でも、カリウム又はナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属の塩がより好適に使用される。
【0050】
Dに用いられるメソゲン基としては、剛直で配向性の高い置換基であって、芳香族炭化水素基及び脂環式炭化水素基からなる群から選択される少なくとも1種を2つ以上含む2価の置換基であることが好ましい。メソゲン基の具体例としては、ビフェニル、ジフェニルエーテル、スチルベン、ジフェニルアセチレン、ベンゾフェノン、フェニルベンゾエート、フェニルベンズアミド、1,2−ジフェニルプロペン、N−ベンジリデンベンゼンアミン、1,2−ジベンジリデンヒドラジン、アゾベンゼン、2−ナフトエート、フェニル−2−ナフトエート、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン等の構造を含む2価の置換基が挙げられる。Dがメソゲン基を含む場合、デバイス作製の際の基板との相互作用が良好となる観点から、メソゲン基の末端がシアノ基、ニトロ基、メルカプト基であることが好ましい。
【0051】
Dに用いられる糖鎖としては、各種糖がグリコシド結合でつながったものだけでなく、アルドン酸やウロン酸に代表される糖が酸化されて得られる糖酸や、これらアルドン酸やウロン酸などの糖酸が脱水縮合して得られる糖酸ラクトン等が挙げられる。糖鎖の具体例としては、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロースなどの単糖類;スクロース、マルトース、イソマルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、パラチノースなどの二糖類;ラフィノース、ラクトスクロース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、スタキオースなどのオリゴ糖;エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトールなどの糖アルコール;グルコン酸、ガラクトン酸、マンノン酸などのアルドン酸;グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸などのウロン酸;グルコノラクトン、ガラクトノラクトン、マンノノラクトン、グルクロノラクトン、ガラクツロノラクトン、マンヌロノラクトンなどの糖酸ラクトン等が挙げられる。
【0052】
Dに用いられるポリエーテル鎖としては、下記一般式(4)で示されるものが好適に用いられる。
【0053】
【化13】

[式中、Rは炭素素1〜20の2価の脂肪族炭化水素基であり、R10は炭素素1〜20の1価の脂肪族炭化水素基であり、nは1〜20の整数である。]
【0054】
上記一般式(4)で示されるポリエーテル鎖において、Rは炭素素1〜20の2価の脂肪族炭化水素基である。Rとしては、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜20のアルキレン基が好ましく用いられる。このようなアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基、ノナデシレン基、エイコシレン基等が挙げられる。中でも、Rとしては、エチレン基、プロピレン基からなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用される。
【0055】
また、上記一般式(4)で示されるポリエーテル鎖において、R10は炭素素1〜20の1価の脂肪族炭化水素基である。R10としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく用いられる。このようなアルキル基としては、上記一般式(1)におけるR、R、R及びRの説明のところで例示されたアルキル基と同様のものを用いることができる。中でも、R10としては、メチル基、エチル基からなる群から選択される1種が好適に使用される。
【0056】
Dの好適な具体例としては以下に示されるものが挙げられる。
【0057】
【化14】

[式中、R11は炭素数1〜20のアルキル基であり、R12は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は金属原子であり、R13は糖鎖又はポリエチレングリコール鎖であり、R14は炭素数1〜20のアルキル基であり、mは1〜6の整数であり、nは1〜20の整数である。]
【0058】
上記式中において、R11及びR14は炭素数1〜20のアルキル基であり、上記一般式(1)におけるR、R、R及びRの説明のところで例示されたアルキル基と同様のものを用いることができる。中でも、R11としては、メチル基、エチル基、ドデシル基、テトラデシル基からなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用され、R14としては、メチル基、エチル基からなる群から選択される1種が好適に使用される。
【0059】
また、上記式中において、R12は水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は金属原子である。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。中でも、R12としてはメチル基又はエチル基が好適に使用され、メチル基がより好適に使用される。また、上記R12における金属原子としては、カリウム、ナトリウム、リチウム、セシウム、カルシウム及びバリウムからなる群から選択される少なくとも1種が好適に使用される。中でも、カリウム又はナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種がより好適に使用される。
【0060】
また、上記式中において、R13は糖鎖又はポリエチレングリコール鎖である。R13における糖鎖としては、上述で例示された糖鎖と同様のものが挙げられる。中でも、グルコノラクトン等に代表される糖酸ラクトンが好適に使用される。
【0061】
また、本発明は、下記一般式(3):
【化15】

[式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示されるペンタセン化合物に硫黄を反応させることを特徴とする下記一般式(1):
【化16】

[式中、R、R、R及びRは、前記一般式(3)と同義である。]
で示されるヘキサチアペンタセン化合物の製造方法である。
【0062】
一般式(3)で示されるペンタセン化合物において、R、R、R及びRは、前述の一般式(1)におけるR、R、R及びRと同様のものを用いることができる。
【0063】
本発明のヘキサチアペンタセン化合物の製造方法は、一般式(3)で示されるペンタセン化合物に硫黄を反応させることを特徴とする。具体的には、一般式(3)で示されるペンタセン化合物を有機溶媒中で単体硫黄と反応させることにより一般式(1)で示される本発明のヘキサチアペンタセン化合物を得ることができる。
【0064】
一般式(3)で示されるペンタセン化合物に硫黄を反応させる際に用いられる有機溶媒としては特に限定されず、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンなどの含ハロゲン芳香族炭化水素;ベンゾニトリル、トルエン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素等に代表される高沸点溶媒が挙げられる。中でも、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼンなどの含ハロゲン芳香族炭化水素が好ましく用いられ、1,2,4−トリクロロベンゼンがより好ましく用いられる。有機溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
一方、従来から知られている下記式(a)で示されるヘキサチアペンタセンは、ペンタセンを1,2,4−トリクロロベンゼン中で加熱還流下にて単体硫黄と反応させることにより得られることが報告されている(E. P. Goodings et al., J. C. S. Perkin I, 1972, p.1310-1314)。
【0066】
【化17】

【0067】
本発明者らは、一般式(1)で示される本発明のヘキサチアペンタセン化合物における硫黄原子の導入位置が、上記式(a)で示されるヘキサチアペンタセンと異なる理由として、一般式(3)で示されるペンタセン化合物の2,3,9及び10位に置換基が予め導入されていること等が影響しているためと推察している。
【0068】
一般式(3)で示されるペンタセン化合物に硫黄を反応させる際の単体硫黄の使用量については特に限定されず、一般式(3)で示されるペンタセン化合物1質量部に対して、0.1〜100質量部であることが好ましい。単体硫黄の使用量が0.1質量部未満の場合、一般式(3)で示されるペンタセン化合物に硫黄原子を導入することが困難となるおそれがあり、2質量部以上であることがより好ましい。一方、単体硫黄の使用量が100質量部を超える場合、一般式(3)で示されるペンタセン化合物における置換基と単体硫黄とが反応するおそれがあるとともに、未反応の単体硫黄の除去作業が煩雑になるおそれがあり、50質量部以下であることがより好ましい。
【0069】
また、一般式(3)で示されるペンタセン化合物に硫黄を反応させる際の反応温度としては特に限定されず、100〜210℃であることが好ましい。反応温度が100℃未満の場合、低収率となるおそれがあり、150℃以上であることがより好ましい。一方、反応温度が210℃を超える場合、副生成物が得られたり、目的物が分解するおそれがあり、200℃以下であることがより好ましい。
【0070】
また、一般式(3)で示されるペンタセン化合物に硫黄を反応させる際の反応時間としては、特に限定されず、5〜100時間であることが好ましい。反応時間が5時間未満の場合、反応が完結しないため低収率となるおそれがあり、10時間以上であることがより好ましい。一方、反応時間が100時間を超える場合、副生成物が得られたり、目的物が分解するおそれがあり、80時間以下であることがより好ましい。
【0071】
このようにして得られる一般式(1)で示される本発明のヘキサチアペンタセン化合物は、従来から知られていたペンタセン化合物や上記式(a)で示されるヘキサチアペンタセンと比較して、安定性に優れるとともに、高い溶解性を示す。後述する実施例からも分かるように、一般式(1)で示される本発明のヘキサチアペンタセン化合物を用いた光照射下による反応により、α−テルピネンからアスカリドールが高収率で得られ、また、1−ナフトールから1,4−ナフトキノンが高収率で得られ、一般式(1)で示される本発明のヘキサチアペンタセン化合物が光触媒として作用することが明らかとなった。したがって、一般式(1)で示される本発明のヘキサチアペンタセン化合物は、太陽電池材料等に代表される有機半導体材料や光触媒として好適に用いることができる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。実施例中、すべての溶媒、試薬は、東京化成工業株式会社、和光純薬株式会社、ナカライテスクより購入したものを用いた。カラムクロマトグラフィーには関東化成工業株式会社のシリカゲル60 (球状、100‐210 μm)、および和光純薬株式会社のワコーゲル(登録商標)C-200E (破砕状、75-150 μm)を用いた。分取用高速液体クロマトグラフィー (HPLC) は、Japan Analytical Co. model LC-918Vを用い、カラムにはJAIGEL 2H、1H (eluent : CHCl3)を使用した。核磁気共鳴スペクトル(NMR)はJEOL AL300により測定し、TMSを内部標準物質として用いた。MALDI-TOF-MSはBruker autoflexを用いた。赤外線吸収スペクトル(IR)はThermo Nicolet IR Affinity-1を用いた。紫外・可視吸収スペクトル(UV-VIS)はSHIMADZU UV-3150 UV-VIS-NIR
SPECTROPHOTOMETERを使用した。また、6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-テトラカルボン酸は、特開2008-94838号公報に記載された方法に従い合成した。
【0073】
実施例1
[6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル)の合成]
6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-テトラカルボン酸 (641 mg, 1.41 mmol)、3,5-ジメトキシベンジルブロミド (1.43 g, 6.18 mmol)および炭酸リチウム (3.25 g, 0.044
mol)にN,N-ジメチルホルムアミド (70 mL)を加え、70℃で12時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却した後、減圧下で溶媒を留去し、残査をクロロホルムで抽出した。有機層を100 mLの飽和塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄した後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去した後、残査をクロロホルム(20 mL) に溶かし、その溶液をジエチルエーテル (30 mL) を加えた。生じた沈殿を遠心分離にて分離した後、シリカゲルクロマトグラフィー (展開溶媒: クロロホルム) で精製したところ、6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル) (300 mg, 0.284 mmol, 収率20%) を無色透明の結晶として得た。化学反応式を以下に示す。
【0074】
【化18】

【0075】
6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル)の物性データを以下に示す。
mp 91-93 ℃; 1HNMR (CDCl3) δ 3.78 (s, 24H), 4.26 (s, 4H),5.21 (s, 8H), 6.42 (t, 4J HH = 1.8 Hz, 4H), 6.55 (d, 4J HH= 1.8 Hz, 8H), 7.84 (s, 4H), 8.23 (s, 4H); 13C NMR (CDCl3) δ 36.9(t), 55.1(q), 67.2(t), 100.0(d), 105.9(d), 125.8(d), 127.8(s),129.6(d), 132.1(s), 137.7(s), 137.9(s), 160.8(s), 167.3(s); MALDI-TOF-MS for C62H56O16: m/z calcd, 1056.36 [M-]; found, 1055.37; IR(KBr) 2957, 1723, 1599, 1456, 1206, 1155 cm-1; UV-vis (CHCl3max (ε) 326 (3390), 341 (3580).
【0076】
[式(3a)で示される1世代ペンタセンデンドリマーの合成]
ねじ口試験管に6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-(3,5-ジメトキシベンジル) (70 mg, 0.066 mmol)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(8.1 mg, 0.036 mol)、およびトルエン (2.0 mL) を加えた。凍結脱気をした後、170℃、12時間、遮光条件下で加熱撹拌を行った。反応溶液を室温に冷却した後、反応溶液にメタノール (40 mL) を加え、生じた沈殿を遠心分離で分離した。沈殿をフラッシュカラムクロマトグラフィー (シリカゲル、展開溶媒:クロロホルム/メタノール=10/1)、次いでHPLC (展開溶媒:クロロホルム) で精製したところ、式(3a)で示される1世代ペンタセンデンドリマー(12 mg, 収率 17%) を赤紫色の結晶として得た。化学反応式を以下に示す。
【0077】
【化19】

【0078】
式(3a)で示される1世代ペンタセンデンドリマーの物性データを以下に示す。
mp 93-95 ℃; 1HNMR (CDCl3) δ 3.81 (s, 24H), 5.25 (s, 8H), 6.44 (t, 4JHH= 2.1 Hz, 4H), 6.59 (d, 4JHH = 2.1 Hz, 8H), 8.44 (s, 4H), 8.80 (s, 4H), 9.06 (s, 2H); 13C NMR (CDCl3) δ 55.4, 67.4, 100.3, 106.0, 127.7, 127.7, 129.2, 130.2, 131.2, 132.2, 137.9, 160.9, 167.2; MALDI-TOF-MS for C62H56O16:m/z calcd, 1055.34, [MH+]; found, 1056.22; IR(KBr): 2922, 1716, 1599, 1455, 1264 cm-1; UV-vis (CHCl3) λmax (ε) 450 (2060), 510 (1420), 547 (2490), 593 (2340).
【0079】
[式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーの合成]
上記得られた式(3a)で示される1世代ペンタセンデンドリマー (15 mg, 0.014 mmol) と単体硫黄 (100 mg, 3.12 mol)をねじ口試験管に入れ、1,2,4-トリクロロベンゼン (2.0 mL) を加え、190 ℃で38時間加熱撹拌した。反応初期の赤紫色の溶液は、反応が進行するにつれ、淡緑色に変化した。反応溶液を室温まで冷やした後、反応溶液にメタノール (40 mL) を加え、過剰量の硫黄を遠心分離により除いた。上澄み溶液の溶媒を留去した後、残査をフラッシュカラムクロマトグラフィー (シリカゲル、展開溶媒: クロロホルム)で精製し、次いでクロロホルム/ジエチルエーテルから再沈殿をしたところ、式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマー (7.2 mg, 収率44%)を濃緑色の結晶として得た。化学反応式を以下に示す。こうして得られた式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーは、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒に可溶であり、得られた溶液の色は緑色であった。
【0080】
【化20】

【0081】
式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーの物性データを以下に示す。また、式(1a)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーのH NMRのスペクトルを図1に、DEPTスペクトルを図2に、HMBCスペクトルを図3に、CHCl中における紫外可視吸収スペクトルを図6に示す。
mp 119-121 ℃; 1HNMR (CDCl3) δ 3.80 (s, 24H), 5.25 (s, 8H), 6.44 (t, 4JHH = 2.1 Hz, 4H), 6.57 (d, 4JHH= 2.1 Hz, 8H), 8.53 (s, 4H), 9.01 (s, 4H); 13C NMR (CDCl3) δ 55.4(q), 67.9(t), 100.4(d), 106.2(d), 130.5(d), 131.8(s), 132.0(d), 132.1(s), 135.2(s), 137.3(s), 161.0(s), 166.4(s), 181.7(s); MALDI-TOF-MS for C62H48O16S6: m/z calcd, 1240.13, [M-]; found, 1239.98; IR (KBr) 2934, 1729, 1599, 1459, 1268 cm-1; UV-vis (CDCl3) λmax(ε) 404 (8020), 578 (3400), 621 (4690), 734 (3250).
【0082】
実施例2
[6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-[3,5-ビス(3,5-ジメトキシベンジルオキシ)ベンジル]の合成]
6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-テトラカルボン酸 (346 mg, 0.758 mmol)、3,5-bis(3,5-ジメトキシベンジロキシ)ベンジルブロミド (1.83 g, 3.64 mmol)および炭酸リチウム (1.76 g, 0.024 mol)にN,N-ジメチルホルムアミド (80 mL)を加え、70℃で12時間撹拌した。反応溶液を室温に冷却した後、減圧下で溶媒を留去し、残査をクロロホルムで抽出した。有機層を100 mLの飽和塩化ナトリウム水溶液で3回洗浄した後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を留去した後、残査をクロロホルム(20 mL) に溶かし、その溶液をジエチルエーテル (30 mL) を加えた。生じた沈殿を遠心分離にて分離した後、シリカゲルクロマトグラフィー (展開溶媒: クロロホルム) で精製したところ、6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-[3,5-ビス(3,5-ジメトキシベンジルオキシ)ベンジル] (407 mg, 0.19 mmol, 収率25%) を無色透明の結晶として得た。化学反応式を以下に示す。
【0083】
【化21】

【0084】
6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-[3,5-ビス(3,5-ジメトキシベンジルオキシ)ベンジル]の物性データを以下に示す。
mp 73-75 ℃; 1HNMR (CDCl3) δ 3.75 (s, 48H), 4.30 (s, 4H), 4.93 (s, 16H), 5.21 (s, 8H), 6.37 (t, 4JHH = 2.1 Hz, 8H), 6.54 (d, 4JHH = 2.1 Hz, 16H+4H), 6.63 (d, 4JHH = 2.1 Hz, 8H), 7.89 (s, 4H), 8.23 (s, 4H); 13C NMR (CDCl3) δ 37.3(t), 55.3(q), 67.3(t), 70.0(t), 99.9(d), 102.0(d), 105.2(d), 107.1(d), 126.2(d), 128.1(s), 129.8(d), 132.5(s), 137.8(s), 139.1(s), 138.2(s), 160.0(s), 160.9(s), 167.5(s); MALDI-TOF-MS for C126H120O32: m/z calcd, 2144.78 [M-]; found, 2144.18; IR (KBr) 2948, 1723, 1598, 1455, 1205, 1156 cm-1; UV-vis (CHCl3) λmax (ε) 326 (3090), 341 (3280).
【0085】
[式(3b)で示される2世代ペンタセンデンドリマーの合成]
ねじ口試験管に6,13-ジヒドロペンタセン-2,3,9,10-カルボン酸テトラキス-[3,5-ビス(3,5-ジメトキシベンジルオキシ)ベンジル] (70 mg, 0.066 mmol)、2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン(8.1 mg, 0.036 mol)、およびトルエン (2.0 mL) を加えた。凍結脱気をした後、170℃、12時間、遮光条件下で加熱撹拌を行った。反応溶液を室温に冷却した後、反応溶液にメタノール (40 mL) を加え、生じた沈殿を遠心分離で分離した。沈殿をフラッシュカラムクロマトグラフィー (シリカゲル、展開溶媒: クロロホルム/メタノール=10/1)、次いでHPLC (展開溶媒: クロロホルム) で精製したところ、式(3b)で示される2世代ペンタセンデンドリマー(18.5 mg, 収率 26%) を赤紫色の結晶として得た。化学反応式を以下に示す。
【0086】
【化22】

【0087】
式(3b)で示される2世代ペンタセンデンドリマーの物性データを以下に示す。
mp 71-73 ℃; 1H NMR (CDCl3) δ 3.75 (s, 48H), 4.95 (s, 16H), 5.25 (s, 8H), 6.38 (t, 4JHH = 2.1 Hz, 8H), 6.54 (t, 4JHH = 1.8 Hz, 4H), 6.56 (d, 4JHH = 2.1 Hz, 16H), 6.67 (d, 4JHH = 1.8 Hz, 8H), 8.42 (s, 4H), 8.80 (s, 4H), 9.06 (s, 2H); 13C NMR (CDCl3) δ 55.3, 67.3, 70.0, 100.0, 102.0, 105.2, 107.2, 127.7, 128.5, 129.3, 130.2, 131.2, 132.3, 137.9, 139.1, 160.0(s), 161.0(s), 167.2(s); MALDI-TOF-MS for C126H119O32: m/z calcd, 2143.71, [MH+]; found, 2143.76; IR (KBr): 2940, 1721, 1601, 1460, 1271, 1155 cm-1; λmax (ε) 450 (2050), 510 (1360), 547 (2490), 593 (2230).
【0088】
[式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーの合成]
上記得られた式(3b)で示される2世代ペンタセンデンドリマー (15 mg, 0.007 mmol) と単体硫黄 (100 mg, 3.12 mol) をねじ口試験管に入れ、1,2,4-トリクロロベンゼン (2.0 mL) を加え、190 ℃で38時間加熱撹拌した。反応初期の赤紫色の溶液は、反応が進行するにつれ、淡緑色に変化した。反応溶液を室温まで冷やした後、反応溶液にメタノール (40 mL) を加え、過剰量の硫黄を遠心分離により除いた。上澄み溶液の溶媒を留去した後、残査をフラッシュカラムクロマトグラフィー (シリカゲル、展開溶媒: クロロホルム)で精製し、次いでクロロホルム/ジエチルエーテルから再沈殿をしたところ、式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマー (9.4 mg, 収率54%)を濃緑色の結晶として得た。化学反応式を以下に示す。こうして得られた式(1b)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーは、クロロホルム、酢酸エチル、トルエン等の有機溶媒に可溶であり、得られた溶液の色は緑色であった。
【0089】
【化23】

【0090】
式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーの物性データを以下に示す。また、式(1b)で示される1世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーのH NMRのスペクトルを図4に、DEPTスペクトルを図5に、CHCl中における紫外可視吸収スペクトルを図6に示す。
mp 81-83 ℃; 1H NMR (CDCl3) δ 3.75 (s, 48H), 4.93 (s, 16H), 5.24 (s, 8H), 6.38 (brs, 16H), 6.55 (brs, 20H), 6.64 (brs, 8H), 8.51 (s, 4H), 9.01 (s, 4H); 13C NMR (CDCl3) δ 55.2(q), 67.8(t), 70.0(t), 99.9(d), 102.1(d), 105.2(d), 107.3(d), 130.4(d), 131.7(s), 132.0(d), 132.1(s), 135.2(s), 137.3(s), 139.0(s), 160.0(s), 160.9(s), 166.4(s), 181.6(s); MALDI-TOF-MS for C126H112O32S6: m/z calcd, 2328.55, [M-]; found, 2329.20; IR (KBr) 2923, 1725, 1597, 1457, 1154, 1053 cm-1; UV-vis (CDCl3) λmax(ε) 388 (7580), 403 (7680), 584 (2680), 620 (3770), 666 (3000), 735 (8190); Anal. Calcd for C126H112O32S6: C, 64.93; H, 4.84. Found: C, 65.31; H, 4.54.
【0091】
実施例3
[式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーを用いたアスカリドールの合成]
α-テルピネン(42 mg)を式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーの1mol%トルエン溶液(3 ml)に加え、酸素を送り込みながら高圧水銀灯(USHIO社製)にて80分間光照射(λ>300nm)することで、アスカリドールを収率97%で得ることができた。化学反応式を以下に示す。式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマー無しで同様の反応を行った場合は、アスカリドールを収率4%でしか得ることができず、式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーが光触媒として作用することが明らかとなった。
【0092】
【化24】

【0093】
実施例4
[式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーを用いた1,4-ナフトキノンの合成]
1-ナフトール(5.0 mg)を式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーの1mol%トルエン溶液(4 ml)に加え、酸素を送り込みながら高圧水銀灯(USHIO社製)にて80分間光照射(λ>300nm)することで、1,4-ナフトキノンを変換率52%、収率100%で得ることができた。化学反応式を以下に示す。式(1b)で示される2世代ヘキサチアペンタセンデンドリマーが光触媒として作用することが明らかとなった。
【0094】
【化25】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるヘキサチアペンタセン化合物。
【化1】

[式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種である。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR、R、R及びRが、それぞれ独立して下記一般式(2)で示される分岐ユニットである請求項1記載のヘキサチアペンタセン化合物。
【化2】

[式中、括弧内の構造は分岐構成単位を表したものであり、該分岐構成単位は任意であって繰返し結合されていてもよく、
Aは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される1種からなり;
Bは、窒素原子又は3価の芳香族炭化水素基からなる群から選択される少なくとも1種からなり;
Cは、酸素原子、硫黄原子又は2価の有機基からなる群から選択される少なくとも1種からなり;
Dは、アルコキシ基、エステル基、アミノ基、アミド基、水酸基及びその塩、カルボキシル基及びその塩、メソゲン基、糖鎖、スルファニル基、及びポリエーテル鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含む1価の置換基である。]
【請求項3】
請求項1又は2記載のヘキサチアペンタセン化合物からなる光触媒。
【請求項4】
下記一般式(3):
【化3】

[式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立して置換基を有してもよい炭素数1〜100の有機基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種である。]
で示されるペンタセン化合物に硫黄を反応させることを特徴とする下記一般式(1):
【化4】

[式中、R、R、R及びRは、前記一般式(3)と同義である。]
で示されるヘキサチアペンタセン化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−1463(P2012−1463A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136445(P2010−136445)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】