説明

ヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法

【課題】 高純度のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を、容易にかつ安価に、製造する方法およびそれを用いた、高純度のヘキサフルオロリン酸リチウムを電解質として含むリチウムイオン電池用電解液の製造方法を提供する。
【解決手段】 非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、該溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させ、ヘキサフルオロリン酸リチウムを生成する方法において、該溶媒中に生成した該反応生成物とフッ化水素とを反応させた後、濾過を行い、さらに濾液を脱気濃縮してヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を得ることを特徴とする、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法およびそれを用いた、ヘキサフルオロリン酸リチウムを電解質として含有するリチウムイオン電池用電解液並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池等に有用な電解質であるヘキサフルオロリン酸リチウムの製造方法は、種々提案されており、溶媒を用いたヘキサフルオロリン酸リチウムの製造方法では、無水フッ化水素を溶媒として溶解させたフッ化リチウムにガス状の五フッ化リンを反応させ、生成したヘキサフルオロリン酸リチウムを結晶化させ、取り出すという方法(非特許文献1)がある。
【0003】
この方法ではヘキサフルオロリン酸リチウムの反応収率は高いが、溶媒として、蒸気圧が高く、また毒性、腐食性を有する無水フッ化水素を大量に使用しなければならず、ハンドリングが容易ではない。さらに原料の一つである五フッ化リンを別プロセスで製造する必要があることや、ヘキサフルオロリン酸リチウムの結晶化プロセスが必要であることなど、コストアップにつながる要素が多い。
【0004】
一般的な電解液製造は、まずヘキサフルオロリン酸リチウムを製造し、所定のリチウム電池用溶媒に溶解させて電解液とする方法が行われている。ヘキサフルオロリン酸リチウムの製造方法については、例えば、無溶媒で固体のフッ化リチウムと気体の五フッ化リンを反応させる方法(特許文献1)がある。この方法においては、フッ化リチウムの表面に反応生成物の被膜が形成され、反応が完全に進行せず未反応のフッ化リチウムが残存する恐れがある。
【0005】
同じく無溶媒で五塩化リンとフッ化リチウムに無水フッ化水素を加えて反応させる方法(特許文献2)もある。この方法は、反応の制御が容易ではなく、氷点下数十℃までの冷却が必要である。
【0006】
また、有機溶媒中でフッ化リチウムと五フッ化リンを反応させる方法(特許文献3)がある。この方法では反応の制御および反応生成物の純度の点で利点は大きいが、前述したように別プロセスで原料の一つである五フッ化リンガスを製造し、取り扱う必要があるためコストの課題が残る。
【0007】
さらに、溶媒として無水フッ化水素または極性有機溶媒であるCHCNを用い、三塩化リンと塩素、フッ化水素を反応させて五フッ化リンを得て、さらに同一の反応器にフッ化リチウムを加えて、五フッ化リンと反応させてヘキサフルオロリン酸リチウムを製造する方法(特許文献4)もある。この方法では五フッ化リンの製造も同一反応器内で行うため効率的であるが、蒸気圧の高い五フッ化リンの生成を経由するため、加圧反応器などの高価な設備と複雑な操作が必要であり、また基本的に結晶化プロセスが必要であるために電解液製造に対して根本的なコストダウンは難しいなど多くの課題が残っている。
【0008】
一方、非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させることによりリチウムイオン電池用電解液を製造する方法(特許文献5)がある。この方法ではヘキサフルオロリン酸リチウムを電解質として含有する高純度のリチウムイオン電池用電解液を得ることができる。しかしながら、フッ化水素が過剰となった場合、これを除去する必要が生ずる。このためさらに、再度、精製剤として塩化リチウムを添加することで過剰のフッ化水素を含む酸性不純物を除去することにより、さらに高純度のリチウムイオン電池用電解液を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭64−72901号公報
【特許文献2】特開平10−72207号公報
【特許文献3】特開平9−165210号公報
【特許文献4】特開平10−81505号公報
【特許文献5】特開2007−184246号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J.Chem.Soc.Part4、4408(1963)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献5の方法において、再度、精製剤として塩化リチウムを添加する場合、新たに固形物の残渣が生じる可能性がある。また、さらに高純度にするために、含有するフッ化水素を含む酸性不純物と等モル量を正確に添加することが必要となるが、正確に添加することが工業的に困難である。
【0012】
本発明は、非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、該溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させ、ヘキサフルオロリン酸リチウムを生成する方法において、容易にかつ安価に、高純度のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を製造する方法およびそれを用いた、ヘキサフルオロリン酸リチウムを電解質として含有するリチウムイオン電池用電解液の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、かかる課題に鑑み、鋭意研究した結果、非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、該溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させることにより、ヘキサフルオロリン酸リチウムを生成する方法において、該溶媒中に生成した該反応生成物とフッ化水素とを反応させた後、再度、塩化リチウムを添加することをせずとも、濾過を行い、さらに濾液を脱気濃縮することにより、容易に高純度のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を製造できることを見出し、本発明に到ったものである。
【0014】
すなわち本発明は、非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、該溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させ、ヘキサフルオロリン酸リチウムを生成する方法において、該溶媒中に生成した該反応生成物とフッ化水素とを反応させた後、濾過を行い、さらに濾液を脱気濃縮してヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を得ることを特徴とするヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法を提供するものである。
【0015】
さらには、脱気濃縮が、減圧脱気により行われることを特徴とし、該非水性有機溶媒が、鎖状もしくは環状の炭酸エステル、または2つ以上の酸素原子を有するエーテル化合物であることを特徴とするヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法、該炭酸エステルが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネートから成る群から選択される少なくとも1つであることを特徴とし、または、該エーテル化合物が、1,2−ジメトキシエタンであることを特徴とするヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法を提供するものである。または、上記の製造方法で得られた濃縮液に、さらに、濾過、濃縮、非水性有機溶媒による希釈、及び、添加剤の添加から選ばれる少なくとも1つの処理を施すことを特徴とするヘキサフルオロリン酸リチウムを電解質として含有するリチウムイオン電池用電解液の製造方法を提供するものである。
【0016】
上記の製造方法において、非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させた後に行う濾過は、濾布やカートリッジフィルターを用いた、加圧濾過器、減圧濾過器、フィルタープレス機や、遠心分離による沈降分離機、濾過分離機、さらには限外濾過膜を用いたクロスフロー濾過器などで行う。濾過残渣の固形分はフッ化リチウムであり、該物質は、次バッチのヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の合成時のリチウム源、フッ素源として用いることができる。この場合、フッ化リチウムは、非水性有機溶媒中で三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させる際に塩化リチウムの替わりに消費されたり、前記反応で生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させる際にフッ化水素の替わりに消費されたりする。
【0017】
脱気濃縮とは、揮発により溶媒が含有する気相部を、減圧、または、窒素ガス、ドライ空気等のキャリアガスを流通することにより、系外に排出し、これにより溶質の濃度を上げる方法である。本発明では、脱気濃縮を用いることにより、溶質の濃度が高くなると共に、溶媒と共に酸性不純物も排出されることを見出し、これにより、高純度のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を製造できるものと考えられる。
【0018】
なお、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液中に含まれる酸性不純物濃度は低いほど好ましく、本発明で得られる該濃縮液中に含まれる酸性不純物濃度は60質量ppm以下、より好ましくは50質量ppm以下であることが好ましい。この酸性不純物濃度が上記範囲を超えるとリチウム電池特性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、該溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させ、ヘキサフルオロリン酸リチウムを生成する方法において、さらに、未反応のフッ化水素との反応をさせるために、再度、塩化リチウムを添加することなく、容易に高純度のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を製造することができる。さらに精製剤を用いることなく脱気濃縮することで、高純度化された濃縮液を得ることができ、特別に複雑な装置を必要とせず、反応槽1槽で製造を行なうことができコストダウンを図ることのできる製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、該溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させ、ヘキサフルオロリン酸リチウムを生成する方法において、該溶媒中に生成した該反応生成物とフッ化水素とを反応させた後、濾過を行い、さらに濾液を脱気濃縮してヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を得ることを特徴とする、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法を提供するものである。
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
1.ヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液およびそれを用いた電解液の製法
(1)溶媒について
使用される非水性有機溶媒は、化学的安定性が高く、しかもヘキサフルオロリン酸リチウムの溶解度が高い鎖状もしくは環状の炭酸エステル化合物、または2つ以上の酸素原子を有するエーテル化合物が望ましい。このような溶媒としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状の炭酸エステル化合物、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状の炭酸エステル化合物、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル等の鎖状のエーテル化合物、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状のエーテル化合物などが挙げられる。高誘電率や高耐酸性の理由で、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、1,2−ジメトキシエタンが好ましい。
【0023】
上記非水性有機溶媒は、一種類または数種類を混合して用いることができる。
【0024】
(2)三塩化リンと塩素と塩化リチウムとの反応について
本発明の製造方法は、まず非水性有機溶媒に原料である三塩化リンと塩化リチウムを仕込み、これに塩素ガスを吹き込むことで、該非水性有機溶媒中で反応が実施され、その後、該反応生成物を含む溶媒中にフッ化水素を導入し、反応生成物と反応させる。
【0025】
本発明において、塩化リチウム、塩素、三塩化リンのそれぞれのモル比は、1〜1.1:1:1〜2であり、三塩化リンの量は、塩素ガスと同量または塩素ガスよりも多く仕込む必要がある。塩素ガスの量が三塩化リンよりも多いと、過剰の塩素ガスが溶媒と反応して不純物が生成するためである。このため三塩化リンの量を、塩素ガスに対して1〜2倍molの範囲で仕込む必要がある。また、塩化リチウムの量は、原料コストの点で、塩素ガスの1〜1.1倍molが好ましい。より好ましくは、1.0〜1.1倍molである。
【0026】
次に、非水性有機溶媒に対する原料の仕込量は、非水性有機溶媒1リットルに対して塩化リチウムが400g以下、好ましくは150g以下にする必要がある。塩化リチウムの量が非水性有機溶媒1リットルに対して400gを超えると生成物が飽和となり、未反応の塩化リチウムが生じ反応が進行できなくなる。
【0027】
この反応を行う際の温度は、下限が−40℃、好ましくは5℃で、上限は100℃、好ましくは50℃である。反応温度が−40℃未満では、非水性有機溶媒が凝固してしまうため反応が進行しない。また100℃よりも高い場合、着色や副反応の原因となるため好ましくない。
【0028】
上記反応時の圧力は特に限定しないが、生成するガス成分はなく、大気圧で反応は迅速に100%進行するため、特別な耐圧反応器を必要とせず、基本的に大気圧付近で行う。
【0029】
また反応時に光が照射されると、非水性有機溶媒と塩素の反応が生じる恐れがあるため、反応時には遮光した条件下で行うことが望ましい。
【0030】
一方、塩素ガス吹き込み完了後、反応器内に仕込んだ塩化リチウム粉末は、下記反応式[1]により全部または一部溶解して、ヘキサクロロリン酸リチウムと推定される中間体化合物となる。
LiCl + PCl + Cl → LiPCl [1]
【0031】
(3)フッ化水素の導入について
次に、生成したヘキサクロロリン酸リチウムのフッ素化を行うため、無水フッ化水素を反応器内に導入する。この時、無水フッ化水素は、ガス状でも液状でも構わない。下記反応式[2]によって目的生成物のヘキサフルオロリン酸リチウムが得られる。
LiPCl + 6HF → LiPF + 6HCl [2]
【0032】
無水フッ化水素の導入量は、中間生成物であるヘキサクロロリン酸リチウムと前反応での過剰分の三塩化リンを合わせた量に対して、モル比で6.01倍mol以上必要である。無水フッ化水素の量が、モル比で6.01倍mol未満であると、ヘキサクロロリン酸リチウムのフッ素化が十分進行せず、部分フッ素化塩素化リン酸リチウムおよび三塩化リンが残存してしまうため、液中の塩素濃度が高くなり、結果として酸性不純物濃度も高くなり、リチウム電池特性に悪影響を及ぼす恐れがある。無水フッ化水素の量がヘキサクロロリン酸リチウムと過剰分の三塩化リンを合わせた量に対してモル比で6.01倍mol以上であると、ヘキサクロロリン酸リチウムは完全にヘキサフルオロリン酸リチウムに反応するばかりではなく、過剰分の三塩化リンも、蒸気圧の高い三フッ化リンへと反応し、後の減圧処理等で容易に除去することが可能となる。このため、無水フッ化水素の量は、ヘキサクロロリン酸リチウムと過剰分の三塩化リンを合わせた量以上導入する必要がある。なお、無水フッ化水素の導入量は原料コストの点から、ヘキサクロロリン酸リチウムと過剰分の三塩化リンを合わせた量の6.01〜7.20倍molの範囲が好ましい。
【0033】
この反応を行う際の温度は、下限が−40℃、好ましくは5℃で、上限は100℃、好ましくは50℃である。反応温度が−40℃未満では、非水性有機溶媒が凝固してしまうため反応が進行しない。また100℃よりも高い場合、着色や副反応の原因となり、収率の低下や、結果として濃縮液中に含まれる酸性不純物濃度を、60質量ppm以下とし難くなるため好ましくない。
【0034】
この反応時の圧力は特に限定しないが、副生成する塩化水素を取り除くため、一般的に大気圧付近で行なわれる。
【0035】
(4)脱気濃縮について
無水フッ化水素を導入して得られたヘキサフルオロリン酸リチウムを含有する非水性有機溶液を濾過して得られた濾液中に存在する塩化水素、三フッ化リン、過剰導入分のフッ化水素を脱気濃縮によって除去する。
【0036】
脱気濃縮は、溶液からの揮発成分を含む気相部を、減圧、または、窒素ガス、ドライ空気等のキャリアガスを流通することにより、気相を系外に排出することによりヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度を上げることができる。
【0037】
減圧には、真空ポンプ、アスピレータなどを用いることができる。該減圧は、反応器を密閉状態としてから、系内を大気圧以下の圧力に保持することにより行う。系内の圧力が低いほど、系内の温度が高いほど、より効率的に濃縮を行うことができるが、温度が高すぎると得られる濃縮液に着色が生じたり、ヘキサフルオロリン酸リチウムの分解による収率低下が起きたりするため、該温度の上限は90℃、好ましくは60℃である。また、温度が低すぎると非水性有機溶媒が凝固する可能性があり、凝固する場合、酸性不純物の除去が困難となるので、該温度の下限は−20℃、好ましくは10℃である。前記系内の圧力は、濃縮対象の液体の温度と蒸気圧によって変わるため、一概には言えないが、該減圧は、槽内の真空度が、絶対圧で10kPa以下に保持することが好ましい。保持する圧力が10kPa超では、不純物である塩化水素やフッ化水素等を所望の濃度以下になるまで排除することができない、あるいは、該不純物を所望の濃度以下になるまで排除するのに長時間を要するため、好ましくない。また、保持する圧力が5kPa以下であると、前記不純物を低濃度まで排除できるため、さらに好ましい。キャリアガスを流通する場合は、気相部のみに流通させてもよいが、バブリング等により液中も流通させるとより効率的である。
【0038】
脱気濃縮時の温度は、下限が−20℃、好ましくは10℃で、上限は90℃、好ましくは60℃である。脱気濃縮時の温度が−20℃未満では、非水性有機溶媒が凝固してしまうため酸性不純物が除去され難い。また、90℃よりも高い場合、着色や副反応の原因となり、結果として濃縮液中に含まれる酸性不純物濃度を、60質量ppm以下とし難くなるため好ましくない。
【0039】
濃縮度は初期のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度にもよるが、濃縮後のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が高いほど好ましく、最低でもヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が25質量%以上になるまで脱気濃縮する必要があり、好ましくは35〜45質量%程度である。しかし、高濃度にしすぎるとヘキサフルオロリン酸リチウムが析出してくるので50質量%以上に濃縮すると、再度溶媒を加えなければいけなくなるので好ましくない。濃縮度が低く、濃縮後のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が25質量%未満の場合、濃縮液中に含まれる酸性不純物濃度を、60質量ppm以下とし難いため好ましくない。
【0040】
合成後、脱気濃縮して得られる高純度のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液は、リチウムイオン電池の電解液の原料として用いることができる。リチウムイオン電池に用いる場合、前記濃縮液に、さらに、濾過、濃縮、非水性有機溶媒による希釈、及び、添加剤の添加から選ばれる少なくとも1つの処理を施すことにより、所望の濃度および構成の電解液である、リチウムイオン電池の電解液が得られる。前記濾過は濾布やカートリッジフィルターを用いた、加圧濾過器、減圧濾過器、フィルタープレス機や、遠心分離による沈降分離機、濾過分離機、さらには限外濾過膜を用いたクロスフロー濾過器などを用いてLiF等を除去する。また、イオン交換樹脂に前記濃縮液を通すことでフッ化水素等の酸性不純物の除去を行ってもよい。その際の温度は、LiPFや溶媒、およびイオン交換樹脂の分解を防ぐ理由から、15〜50℃が好ましい。イオン交換樹脂に通す前記濃縮液の粘度の観点から、16〜34℃がさらに好ましい。前記イオン交換樹脂としては母体構造がスチレンジビニルベンゼン共重合体、スチレン系、アクリル系などで、官能基は―SOH、―N(CH、―N(X)(CH、―N(X)(COH)(CH等が挙げられる。なお、前記Xはハロゲン化物である。前記濃縮は密閉状態での減圧脱気等により溶媒等を留去し、所望の濃度に調整するものである。また、前記濃縮において溶媒とともに酸性不純物を除去してもよい。前記非水性有機溶媒による希釈はエチルメチルカーボネート等の非水性有機溶媒により希釈し、所望の濃度に調整するものである。また、上記のリチウムイオン電池の電解液には添加剤が含有されていてもよい。
【0041】
以上のようにして得られたヘキサフルオロリン酸リチウムを電解質として含有している溶液から冷却や濃縮という結晶化プロセスにより、ヘキサフルオロリン酸リチウム結晶を得ることも可能であるが、本発明では反応に用いた非水性有機溶媒としてリチウムイオン電池用溶媒を使用しているため、反応により得られた溶液からヘキサフルオロリン酸リチウムを結晶化プロセスで固体として取り出すことなしに、直接リチウムイオン電池用電解液の原料として使用することが可能である。
【0042】
2.リチウムイオン電池について
次に、本発明のリチウムイオン電池の構成について説明する。本発明のリチウムイオン電池は、上記の本発明の製造方法で得られるヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液、または該ヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を用いた、ヘキサフルオロリン酸リチウムを電解質として含有するリチウムイオン電池用電解液を用いることが特徴であり、その他の構成部材には一般のリチウムイオン電池に使用されているものが用いられる。即ち、リチウムの吸蔵及び放出が可能な正極及び負極、セパレータ、容器等から成る。
【0043】
負極は、負極材料と集電体を、正極は、正極材料と集電体を、少なくともそれぞれ具備する。
【0044】
集電体は、正極材料や負極材料と電子のやり取りをする導電性のシートで、金属、カーボン材料、または導電性高分子を使用できる。例えば、正極用としてアルミニウム箔、負極用として銅箔が使用される。
【0045】
負極材料としては、特に限定されないが、リチウムを吸蔵・放出できるリチウム金属、リチウムと他の金属との合金及び金属間化合物や種々のカーボン材料、人造黒鉛、天然黒鉛、金属酸化物、金属窒化物、活性炭、または導電性ポリマー等が用いられる。
【0046】
正極材料としては、特に限定されないが、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMnO、またはLiMn等のリチウム含有遷移金属複合酸化物、それらのリチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属が複数混合したもの、それらのリチウム含有遷移金属複合酸化物の遷移金属の一部が他の金属に置換されたもの、LiFePOまたはLiMnPO等のリチウム含有遷移金属リン酸塩、それらのリチウム含有遷移金属リン酸塩の遷移金属が複数混合したもの、それらのリチウム含有遷移金属リン酸塩の遷移金属の一部が他の金属に置換されたもの、TiO、V、またはMoO等の酸化物、TiSまたはFeS等の硫化物、あるいはポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、およびポリピロール等の導電性高分子、活性炭、ラジカルを発生するポリマー、またはカーボン材料等が使用される。
【0047】
正極材料や負極材料に、導電材としてアセチレンブラック、ケッチェンブラック、炭素繊維、または黒鉛、結着剤としてポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、またはSBR樹脂等を加えることにより、容易にシート状に成型できる。
【0048】
正極と負極の接触を防ぐためのセパレータとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、紙、またはガラス繊維等で作られた不織布や多孔質シートが使用される。
【0049】
以上の各要素からコイン状、円筒状、角形、またはアルミラミネートシート型等の形状のリチウムイオン電池が組み立てられる。
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
大気圧下、ポリテトラフルオロエチレン製反応器中に500gのエチルメチルカーボネート(以降、「EMC」と記載する場合がある)、72gの三塩化リン(以降、「LiCl」と記載する場合がある)、21gの塩化リチウム(以降、「LiCl」と記載する場合がある)を仕込み撹拌分散した。この時ポリテトラフルオロエチレン製反応器は遮光処理したものを使用した。この分散液を10℃に維持しながら塩素ガス(以降、「Cl」と記載する場合がある)を35.5g導入した。導入完了後の液は固形分が溶解し淡黄色の溶液となっており、反応が進行してヘキサクロロリン酸リチウムが生成した。得られた溶液に66gの無水フッ化水素を10℃に維持しながら導入した。導入完了後の液は淡黄色から無色へと変化し、ヘキサフルオロリン酸リチウム(以降、「LiPF」と記載する場合がある)が生成した。得られた反応溶液をクロスフロー濾過器で濾過し、濾物であるフッ化リチウムと濾液とを分離した。
【0052】
得られた濾液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られず、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであった。また、NMRより求めた濾液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの量は75gであり、収率はほぼ100%であることを確認した。リチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は15000質量ppmであった。
【0053】
次に、前記反応器を密閉状態とした後に、前記濾液を50℃に加温しながら真空ポンプを用いて脱気を開始した。なお、この脱気濃縮の作業において、反応器内の圧力が大気圧以下の圧力に保持されていることを確認し、減圧を開放する時点での反応器内の真空度は、絶対圧で1kPa以下であることを確認した。前記の脱気濃縮操作により、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が37質量%になるまで濃縮したところ、酸性不純物濃度は50質量ppmであった。得られた濃縮液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られなかった。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
[実施例2〜9]
実施例1で用いた、溶媒やその量、三塩化リン、塩化リチウム、塩素ガス、および無水フッ化水素の量、脱気濃縮の温度や手段、脱気濃縮後のヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度を変更すること以外は実施例1と同様の手順でヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を作製した。なお、上記のいずれの実施例においても、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであり、得られた溶液において溶媒の分解等は見られなかった。結果を表1に示す。
【0056】
なお、表中で「DMC」はジメチルカーボネート、「DEC」はジエチルカーボネート、「DMC+DEC(300g+200g)」はDMC300gとDEC200gの混合溶媒を意味する。また、実施例9では、反応器としてPFAコーティングしたSUS製反応器を用いた。
【0057】
[実施例10]
実施例5で得られた濃縮液をカートリッジフィルターを用いて濾別し、得られた濾過液を用いてテストセルを作製し、充放電試験により電解液としての性能を評価した。まず濾別により得られた濾過液であるヘキサフルオロリン酸リチウム/(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート混合溶媒)溶液にジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネートを体積比でジメチルカーボネート:ジエチルカーボネート:エチレンカーボネート=1:1:1になるように添加して1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム/(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネート混合溶媒)電解液を調合した。
【0058】
この電解液を用いて負極に黒鉛、正極にコバルト酸リチウムを用いたテストセルを組み立てた。具体的には、天然黒鉛粉末95質量部に、バインダーとして5質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、さらにN,N−ジメチルホルムアミドを添加し、スラリー状にした。このスラリーをニッケルメッシュ上に塗布して、150℃で12時間乾燥させることにより、試験用負極体とした。また、コバルト酸リチウム85質量部に、黒鉛粉末10質量部およびPVDF5質量部を混合し、さらに、N,N−ジメチルホルムアミドを添加し、スラリー状にした。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して、150℃で12時間乾燥させることにより、試験用正極体とした。
【0059】
ポリプロピレン不織布をセパレータとして、上記脱気濃縮して得られた溶液を用いた電解液と、上記負極体および正極体とを用いてテストセルを組み立てた。続いて定電流充放電試験を、充電、放電ともに0.35mA/cmで、充電4.2V、放電2.5Vまでのサイクルを繰り返し行い容量維持率の変化を観察した。
【0060】
その結果、充放電効率がほぼ100%で、100サイクル終了後の容量維持率は全く変化しなかった。
【0061】
[実施例11]
実施例9で得られた濃縮液をカートリッジフィルターを用いて濾別し、得られた濾過液を用いてテストセルを作製し、充放電試験により電解液としての性能を評価した。まず濾別により得られた濾過液であるヘキサフルオロリン酸リチウム/エチルメチルカーボネート溶液を2倍程度濃縮し、そこにエチレンカーボネートを体積比でエチルメチルカーボネート:エチレンカーボネート=2:1になるように添加して1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム/(エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート混合溶媒)電解液を調合した。
【0062】
この電解液を用いて負極に黒鉛、正極にコバルト酸リチウムを用いたテストセルを組み立てた。具体的には、天然黒鉛粉末95質量部に、バインダーとして5質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、さらにN,N−ジメチルホルムアミドを添加し、スラリー状にした。このスラリーをニッケルメッシュ上に塗布して、150℃で12時間乾燥させることにより、試験用負極体とした。また、コバルト酸リチウム85質量部に、黒鉛粉末10質量部およびPVDF5質量部を混合し、さらに、N,N−ジメチルホルムアミドを添加し、スラリー状にした。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して、150℃で12時間乾燥させることにより、試験用正極体とした。
【0063】
ポリプロピレン不織布をセパレータとして、上記脱気濃縮して得られた溶液を用いた電解液と、上記負極体および正極体とを用いてテストセルを組み立てた。続いて定電流充放電試験を、充電、放電ともに0.35mA/cmで、充電4.2V、放電2.5Vまでのサイクルを繰り返し行い容量維持率の変化を観察した。
【0064】
その結果、充放電効率がほぼ100%で、100サイクル終了後の容量維持率は全く変化しなかった。
【0065】
[実施例12]
大気圧下、ポリテトラフルオロエチレン製反応器中に500gのエチルメチルカーボネート、144gの三塩化リン、42gの塩化リチウムを仕込み撹拌分散した。この時ポリテトラフルオロエチレン製反応器は遮光処理したものを使用した。この分散液を10℃に維持しながら塩素ガスを71g導入した。導入完了後の液は固形分が溶解し淡黄色の溶液となっており、反応が進行してヘキサクロロリン酸リチウムが生成した。得られた溶液に132gの無水フッ化水素を110℃に維持しながら導入した。導入完了後の液は淡黄色から無色へと変化し、ヘキサフルオロリン酸リチウムが生成した。得られた反応溶液をクロスフロー濾過器で濾過し、濾物であるフッ化リチウムと濾液とを分離した。
【0066】
得られた濾液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られず、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであった。また、NMRより求めた濾液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの量は90gであり、収率はほぼ60%であることを確認した。リチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は16000質量ppmであった。
【0067】
次に、前記反応器を密閉状態とした後に、前記濾液を50℃に加温しながら真空ポンプを用いて脱気を開始した。なお、この脱気濃縮の作業において、反応器内の圧力が大気圧以下の圧力に保持されていることを確認し、減圧を開放する時点での反応器内の真空度は、絶対圧で1kPa以下であることを確認した。前記の脱気濃縮操作により、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が37質量%になるまで濃縮したところ、酸性不純物濃度は100質量ppmであった。得られた濃縮液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られなかった。結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
[実施例13]
大気圧下、ポリテトラフルオロエチレン製反応器中に500gのプロピレンカーボネート(以降、「PC」と記載する場合がある)、144gの三塩化リン、42gの塩化リチウムを仕込み撹拌分散した。この時ポリテトラフルオロエチレン製反応器は遮光処理したものを使用した。この分散液を10℃に維持しながら塩素ガスを71g導入した。導入完了後の液は固形分が溶解し淡黄色の溶液となっており、反応が進行してヘキサクロロリン酸リチウムが生成した。得られた溶液に132gの無水フッ化水素を10℃に維持しながら導入した。導入完了後の液は淡黄色から無色へと変化し、ヘキサフルオロリン酸リチウムが生成した。得られた反応溶液をクロスフロー濾過器で濾過し、濾物であるフッ化リチウムと濾液とを分離した。
【0070】
得られた濾液をNMRで分析したところ、プロピレンカーボネートの分解等は見られず、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであった。また、NMRより求めた濾液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの量は150gであり、収率はほぼ100%であることを確認した。リチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は25000質量ppmであった。
【0071】
次に、前記反応器を密閉状態とした後に、前記濾液を60℃に加温しながら真空ポンプを用いて脱気を開始した。なお、この脱気濃縮の作業において、反応器内の圧力が大気圧以下の圧力に保持されていることを確認し、減圧を開放する時点での反応器内の真空度は、絶対圧で1kPa以下であることを確認した。前記の脱気濃縮操作により、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が55質量%になるまで濃縮したところ、ヘキサフルオロリン酸リチウムの析出が確認された。なお、酸性不純物濃度は50質量ppmであった。得られた濃縮液をNMRで分析したところ、プロピレンカーボネートの分解等は見られなかった。結果を表2に示す。
【0072】
[実施例14]
大気圧下、ポリテトラフルオロエチレン製反応器中に500gのエチレンカーボネート(以降、「EC」と記載する場合がある)、144gの三塩化リン、42gの塩化リチウムを仕込み撹拌分散した。この時ポリテトラフルオロエチレン製反応器は遮光処理したものを使用した。この分散液を40℃に維持しながら塩素ガスを71g導入した。導入完了後の液は固形分が溶解し淡黄色の溶液となっており、反応が進行してヘキサクロロリン酸リチウムが生成した。得られた溶液に132gの無水フッ化水素を40℃に維持しながら導入した。導入完了後の液は淡黄色から無色へと変化し、ヘキサフルオロリン酸リチウムが生成した。得られた反応溶液をクロスフロー濾過器で濾過し、濾物であるフッ化リチウムと濾液とを分離した。
【0073】
得られた濾液をNMRで分析したところ、エチレンカーボネートの分解等は見られず、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであった。また、NMRより求めた濾液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの量は150gであり、収率はほぼ100%であることを確認した。リチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は25000質量ppmであった。
【0074】
次に、前記反応器を密閉状態とした後に、前記濾液を60℃に加温しながら真空ポンプを用いて脱気を開始した。なお、この脱気濃縮の作業において、反応器内の圧力が大気圧以下の圧力に保持されていることを確認し、減圧を開放する時点での反応器内の真空度は、絶対圧で1kPa以下であることを確認した。前記の脱気濃縮操作により、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が55質量%になるまで濃縮したところ、ヘキサフルオロリン酸リチウムの析出が確認された。なお、酸性不純物濃度は50質量ppmであった。得られた濃縮液をNMRで分析したところ、エチレンカーボネートの分解等は見られなかった。結果を表2に示す。
【0075】
[実施例15]
大気圧下、ポリテトラフルオロエチレン製反応器中に500gのエチルメチルカーボネート、144gの三塩化リン、42gの塩化リチウムを仕込み撹拌分散した。この時ポリテトラフルオロエチレン製反応器は遮光処理したものを使用した。この分散液を10℃に維持しながら塩素ガスを71g導入した。導入完了後の液は固形分が溶解し淡黄色の溶液となっており、反応が進行してヘキサクロロリン酸リチウムが生成した。得られた溶液に132gの無水フッ化水素を10℃に維持しながら導入した。導入完了後の液は淡黄色から無色へと変化し、ヘキサフルオロリン酸リチウムが生成した。得られた反応溶液をクロスフロー濾過器で濾過し、濾物であるフッ化リチウムと濾液とを分離した。
【0076】
得られた濾液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られず、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであった。また、NMRより求めた濾液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの量は150gであり、収率はほぼ100%であることを確認した。リチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は15000質量ppmであった。
【0077】
次に、前記反応器を密閉状態とした後に、前記濾液を100℃に加温しながら真空ポンプを用いて脱気を開始した。なお、この脱気濃縮の作業において、反応器内の圧力が大気圧以下の圧力に保持されていることを確認し、減圧を開放する時点での反応器内の真空度は、絶対圧で1kPa以下であることを確認した。前記の脱気濃縮操作により、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が37質量%になるまで濃縮したところ、酸性不純物濃度は100質量ppmであった。得られた濃縮液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られなかったものの、ヘキサフルオロリン酸リチウムの量が80gまで減少し、ヘキサフルオロリン酸リチウムの分解物と思われる不純物ピークが観測された。結果を表2に示す。
【0078】
[実施例16]
大気圧下、ポリテトラフルオロエチレン製反応器中に500gのエチルメチルカーボネート、144gの三塩化リン、42gの塩化リチウムを仕込み撹拌分散した。この時ポリテトラフルオロエチレン製反応器は遮光処理したものを使用した。この分散液を10℃に維持しながら塩素ガスを71g導入した。導入完了後の液は固形分が溶解し淡黄色の溶液となっており、反応が進行してヘキサクロロリン酸リチウムが生成した。得られた溶液に132gの無水フッ化水素を10℃に維持しながら導入した。導入完了後の液は淡黄色から無色へと変化し、ヘキサフルオロリン酸リチウムが生成した。得られた反応溶液をクロスフロー濾過器で濾過し、濾物であるフッ化リチウムと濾液とを分離した。
【0079】
得られた濾液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られず、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであった。また、NMRより求めた濾液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの量は150gであり、収率はほぼ100%であることを確認した。リチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は15000質量ppmであった。
【0080】
次に、前記反応器を密閉状態とした後に、前記濾液を0℃に冷却しながら真空ポンプを用いて脱気を開始した。なお、この脱気濃縮の作業において、反応器内の圧力が大気圧以下の圧力に保持されていることを確認し、減圧を開放する時点での反応器内の真空度は、絶対圧で1kPa以下であることを確認した。前記の脱気濃縮操作により、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が37質量%になるまで濃縮したところ、濃縮時間に100時間を要した。酸性不純物濃度は80質量ppmであった。得られた濃縮液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られなかった。結果を表2に示す。
【0081】
[実施例17]
大気圧下、ポリテトラフルオロエチレン製反応器中に500gのエチルメチルカーボネート、144gの三塩化リン、42gの塩化リチウムを仕込み撹拌分散した。この時ポリテトラフルオロエチレン製反応器は遮光処理したものを使用した。この分散液を10℃に維持しながら塩素ガスを71g導入した。導入完了後の液は固形分が溶解し淡黄色の溶液となっており、反応が進行してヘキサクロロリン酸リチウムが生成した。得られた溶液に106gの無水フッ化水素を10℃に維持しながら導入した。導入完了後の液は淡黄色から無色へと変化し、ヘキサフルオロリン酸リチウムが生成した。得られた反応溶液をクロスフロー濾過器で濾過し、濾物であるフッ化リチウムと濾液とを分離した。
【0082】
得られた濾液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られず、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであった。また、NMRより求めた濾液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの量は75gであり、収率はほぼ50%であることを確認した。リチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は30000質量ppmであった。
【0083】
次に、前記反応器を密閉状態とした後に、前記濾液を50℃に加温しながら真空ポンプを用いて脱気を開始した。なお、この脱気濃縮の作業において、反応器内の圧力が大気圧以下の圧力に保持されていることを確認し、減圧を開放する時点での反応器内の真空度は、絶対圧で1kPa以下であることを確認した。前記の脱気濃縮操作により、ヘキサフルオロリン酸リチウムの濃度が37質量%になるまで濃縮したところ、酸性不純物濃度は10000質量ppmであった。得られた濃縮液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られなかった。結果を表2に示す。
【0084】
[参考例1]
大気圧下、ポリテトラフルオロエチレン製反応器中に500gのエチルメチルカーボネート、144gの三塩化リン、42gの塩化リチウムを仕込み撹拌分散した。この時ポリテトラフルオロエチレン製反応器は遮光処理したものを使用した。この分散液を10℃に維持しながら塩素ガスを71g導入した。導入完了後の液は固形分が溶解し淡黄色の溶液となっており、反応が進行してヘキサクロロリン酸リチウムが生成した。得られた溶液に132gの無水フッ化水素を10℃に維持しながら導入した。導入完了後の液は淡黄色から無色へと変化し、ヘキサフルオロリン酸リチウムが生成した。リチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は12000質量ppmであった。
【0085】
次に得られた溶液中の酸性不純物のフッ化水素を、42gの塩化リチウムを再添加し塩化水素とフッ化リチウムに転化させ、反応中の副生成物である塩化水素および三フッ化リンとともに減圧処理により除去した。得られた溶液をNMRで分析したところ、エチルメチルカーボネートの分解等は見られず、生成物はヘキサフルオロリン酸リチウムのみであった。また、NMRより求めた溶液中のヘキサフルオロリン酸リチウムの量は150gであり、収率はほぼ100%であることを確認した。得られた溶液中に生成したLiFおよび未反応の塩化リチウムが残存したため加圧濾過を行ない濾別したところ、濾過液中のリチウム電池特性に悪影響を及ぼす酸性不純物濃度は15質量ppmであった。結果を表2に示す。
【0086】
[参考例2]
参考例1で得られた溶液を濾別し、得られた濾過液を用いてテストセルを作製し、充放電試験により電解液としての性能を評価した。まず濾別により得られた濾過液であるヘキサフルオロリン酸リチウム/エチルメチルカーボネート溶液を2倍程度濃縮し、そこにエチレンカーボネートを体積比でエチルメチルカーボネート:エチレンカーボネート=2:1になるように添加して1mol/Lのヘキサフルオロリン酸リチウム/(エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート混合溶媒)電解液を調合した。
【0087】
この電解液を用いて負極に黒鉛、正極にコバルト酸リチウムを用いたテストセルを組み立てた。具体的には、天然黒鉛粉末95質量部に、バインダーとして5質量部のポリフッ化ビニリデン(PVDF)を混合し、さらにN,N−ジメチルホルムアミドを添加し、スラリー状にした。このスラリーをニッケルメッシュ上に塗布して、150℃で12時間乾燥させることにより、試験用負極体とした。また、コバルト酸リチウム85質量部に、黒鉛粉末10質量部およびPVDF5質量部を混合し、さらに、N,N−ジメチルホルムアミドを添加し、スラリー状にした。このスラリーをアルミニウム箔上に塗布して、150℃で12時間乾燥させることにより、試験用正極体とした。ポリプロピレン不織布をセパレータとして、上記で調合した電解液と、上記負極体および正極体とを用いてテストセルを組み立てた。続いて定電流充放電試験を、充電、放電ともに0.35mA/cmで、充電4.2V、放電2.5Vまでのサイクルを繰り返し行い容量維持率の変化を観察した。その結果、充放電効率がほぼ100%で、100サイクル終了後の容量維持率は全く変化しなかった。
【0088】
従来、非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、該溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させ、ヘキサフルオロリン酸リチウムを生成する方法において、さらに高純度のリチウムイオン電池用電解液を得るために、再度、塩化リチウムを添加して未反応のフッ化水素の除去を行なっていた。しかしながら、上記実施例のとおり、塩化リチウムを再度添加することなく脱気濃縮を行なうことにより容易に、従来例である参考例1と同様の高純度のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液が得られ、高純度のリチウムイオン電池用電解液が得られ、同様の電池性能を有するリチウムイオン電池も得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水性有機溶媒中で、三塩化リンと塩素と塩化リチウムとを反応させ、その後、該溶媒中に生成した反応生成物とフッ化水素とを反応させ、ヘキサフルオロリン酸リチウムを生成する方法において、該溶媒中に生成した該反応生成物とフッ化水素とを反応させた後、濾過を行い、さらに濾液を脱気濃縮してヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液を得ることを特徴とする、ヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法。
【請求項2】
脱気濃縮が、減圧脱気により行われることを特徴とする、請求項1に記載のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法。
【請求項3】
該非水性有機溶媒が、鎖状もしくは環状の炭酸エステル、または2つ以上の酸素原子を有するエーテル化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法。
【請求項4】
該炭酸エステルが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネートから成る群から選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項3に記載のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法。
【請求項5】
該エーテル化合物が、1,2−ジメトキシエタンであることを特徴とする、請求項3に記載のヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で得られたヘキサフルオロリン酸リチウム濃縮液に、さらに、濾過、濃縮、非水性有機溶媒による希釈、及び、添加剤の添加から選ばれる少なくとも1つの処理を施すことを特徴とする、ヘキサフルオロリン酸リチウムを電解質として含有するリチウムイオン電池用電解液の製造方法。

【公開番号】特開2013−14494(P2013−14494A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165773(P2011−165773)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】