説明

ヘキサミン含有排水の処理方法

【課題】ヘキサミン含有排水を簡便に処理することが可能な処理方法を提供する。
【解決手段】ヘキサミンをプロトン交換型ゼオライトと接触させることにより、当該ヘキサミンを、アンモニアとホルムアルデヒドとに分解させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘキサミン含有排水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサミンは、ヘキサメチレンテトラミン、あるいは1,3,5,7−テトラアザアダマンタンとも呼ばれる化合物であり、接着剤などの原料などとして工業上広く用いられている他、pH緩衝溶液としても用いられている。
【0003】
上述したようにヘキサミンは多くの産業分野で使用されている為、ヘキサミンを含有する排水の処理は、環境保護の観点からも重要な問題である。ここで、ヘキサミンを含有する排水の処理方法として、特許文献1や非特許文献1が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−51478号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】独立行政法人 製品評価技術基盤機構 初期リスク評価書(PRTR 番号:198、CAS−NO:100−97−0)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1には、生物的処理によるヘキサミン含有排水の処理方法について記載されている。
しかしながら本発明者らの検討によれば、非特許文献1に係るヘキサミン含有排水の処理方法は2〜4週間の処理期間後の判定である。この為、処理期間が1日未満という一般的な好気的生物処理設備を用いた場合においては、ヘキサミン含有排水処理が不十分な水準に留まっていることに想到した。
【0007】
特許文献1には、亜臨界条件によるヘキサミン含有排水処理方法が記載されている。しかしながら本発明者らの検討によれば、当該亜臨界条件によるヘキサミン含有排水処理方法は、高価な設備投資が求められる等、設備やコストの点に課題がある。
【0008】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、ヘキサミン含有排水を簡便かつ短時間に処理することが可能な処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
当該課題を解決する為、本発明者らは鋭意研究をおこなった。そして、ヘキサミン含有排水を、プロトン交換型ゼオライト(本発明において「ゼオライト」と略記する場合がある。)と接触させることで、当該ヘキサミンを、易分解性であるホルムアルデヒドとアンモニアとに分解出来るという知見を得て本発明を完成した。
【0010】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
ヘキサミンをプロトン交換型ゼオライトと接触させることにより、当該ヘキサミンを、アンモニアとホルムアルデヒドとに分解させる工程を有することを特徴とするヘキサミン含有排水の処理方法である。
【0011】
第2の発明は、
前記分解により生成したホルムアルデヒドを、好気的生物処理により分解させる工程を有することを特徴とする第1の発明に記載のヘキサミン含有排水の処理方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高温高圧環境を用いることなく、ヘキサミン含有排水中のヘキサミンを、簡便かつ短時間でホルムアルデヒドとアンモニアとに分解することが出来た。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ヘキサミン含有排水をゼオライトと接触させることより、含有されるヘキサミンを易分解性のホルムアルデヒドとアンモニアとに分解するものである。
まず、ヘキサミンとゼオライトについて簡単に説明し、次に、ゼオライトによるヘキサミンの分解操作について説明する。
【0014】
(ヘキサミン)
ヘキサミンは、アンモニアとホルムアルデヒドの化合物であり、酸性水溶液中でアンモニアとホルムアルデヒドを遊離する。
【0015】
(プロトン交換型ゼオライト)
ゼオライトはアルミノケイ酸塩の総称でケイ素、アルミニウムおよび酸素が規則正しく立体的に結合した構造を持ち、その内部に陽イオンを取り込むことが可能な多孔質材料である。当該ゼオライトを硫酸などの鉱酸に浸漬する等によって、内部に取り込まれている陽イオンを水素イオンと置換したものをプロトン交換型ゼオライトという。
市販品としては、(株)東ソー製 ゼオラムA−4球状品等が好ましく使用出来る。
【0016】
(操作)
まず、ヘキサミン含有排水をプロトン交換型ゼオライトと接触させる。接触方法は特に限定されないが、ゼオライト充填塔にヘキサミン含有排水を通過させる方法、ゼオライトを充填した固定床にヘキサミン含有排水を通過させる方法、等が好ましく用いられる。
このときヘキサミン含有排水の濃度は、ホルムアルデヒド換算量で3〜13.5mg/Lが好ましい。反応時間は10分間未満で良い。
尚、本発明において、ホルムアルデヒド換算量、および後述するアンモニア換算量とは、ヘキサミン水溶液中のヘキサミンが、次式のように全てホルムアルデヒドとアンモニアとに分解したと考えたときに、生成するホルムアルデヒド量をホルムアルデヒド換算量と、生成するアンモニア量をアンモニア換算量と、したものである。
式:(CH+6HO→6HCHO+4NH
【0017】
上述したゼオライトとの接触により、ヘキサミン含有排水のヘキサミンはホルムアルデヒドとアンモニアとに分解する。
当該ヘキサミンが分解して生成したアンモニアは、直ちにゼオライトに吸着される。本発明者らは、当該ゼオライトに吸着されたアンモニアが、ゼオライトにおけるヘキサミンの再合成反応を阻害する効果を果していると考えている。
一方、ヘキサミンが分解して生成したホルムアルデヒドもゼオライトに吸着される。しかし、水溶液中におけるゼオライトへのホルムアルデヒド吸着量には限度があり、ヘキサミン量に対してゼオライト量が少ないと、ゼオライト処理後のヘキサミン含有排水中における遊離のホルムアルデヒド量が増加する場合がある。
【0018】
尤も、ヘキサミンが分解して生成したホルムアルデヒドは易分解性の物質であるので、好気的生物処理設備により4時間程度の短時間で分解してしまうことが出来る。
ヘキサミン含有排水がゼオライトと接触し生成した遊離のホルムアルデヒドは、活性汚泥法などの一般的な好気的生物処理設備にて処理を行うことで分解され、排水TOC成分の低減が図られる。好気的生物処理時間は8時間程度で良い。
勿論、他の分解処理方法を適用して、ホルムアルデヒドを処理しても良い。
【0019】
ゼオライトに吸着されたアンモニアは、当該ゼオライトを硫酸などの鉱酸に浸漬し、吸着破過させることで、硫酸アンモニウムなどのアンモニウム塩溶液として回収、蒸留により回収方法等を適用することが出来る。
さらに、当該鉱酸によるゼオライトからのアンモニア回収処理の実施により、ゼオライトの再生も為され、好ましい構成である。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
〈予備試験〉
ヘキサメチレンテトラミン試薬2.4gを純水1Lに溶解し、ホルムアルデヒド換算量3g/L、アンモニア換算量1g/Lであるヘキサメチレンテトラミン水溶液を調製した。
当該ヘキサメチレンテトラミン水溶液に含有される遊離のホルムアルデヒド濃度を、パックテストにより測定したところ1mg/Lであった。従って、当初のヘキサミンのホルムアルデヒド換算量の0.03%が分解し、遊離していることが判明した。もっとも、当該遊離状況はこれ以上進行せず、ヘキサミンの自己分解は起こり難い状態であると考えられる。
同様に、当該ヘキサメチレンテトラミン水溶液に含有される遊離のアンモニアの濃度をパックテストにより測定したところ0.3mg/Lであった。従って、当初のヘキサミンのアンモニア換算量の0.03%が分解し、遊離していることが判明した。
尚、ホルムアルデヒドおよびアンモニアの濃度の測定は、共立理化学研究所製パックテストおよびデジタルパックテストを用いておこなった。当該測定結果を表1に記載する。
【0021】
〈ゼオライト添加試験〉
予備試験と同様のヘキサメチレンテトラミン水溶液100mLを準備した。
当該ヘキサメチレンテトラミン水溶液へ、ゼオライト(東ソー製 ゼオラムA−4球状品)5gを添加した。
当該添加後のヘキサメチレンテトラミン水溶液に含有される遊離のホルムアルデヒドの濃度を、上述した予備試験と同様のパックテストにより測定したところ1.3mg/Lであった。遊離のホルムアルデヒドの濃度が予備試験よりも0.3mg/L分増加していることから、当該ヘキサメチレンテトラミンの分解が促進されていることがわかった。
同様に、当該ヘキサメチレンテトラミン水溶液に含有される遊離のアンモニアの濃度をパックテストにより測定したところ、検出下限以下であった。当該測定結果を表1に記載する。
【0022】
【表1】

【0023】
ゼオライト添加試験において、処理後のヘキサメチレンテトラミン水溶液に含有される遊離のホルムアルデヒドの濃度が1.3mg/Lと、予備試験の場合の1mg/Lより30%増加したのは、ゼオライトの効果によるヘキサミンの分解によって、遊離のホルムアルデヒドが生成した為であると考えられる。
【0024】
(実施例2)
ヘキサミン含有排水を用いてゼオライトの添加効果を確認する。
準備したヘキサミン含有排水に対し、JIS−K0102.29に準拠してホルムアルデヒドとしての合量を測定したところ13.5mg/Lであった。
当該ヘキサミン含有排水に対し、上述した予備試験と同様のパックテストにより遊離のホルムアルデヒドの濃度を測定したところ6mg/Lであった。即ち、JIS法とパックテストとの測定結果の差分(残存するヘキサミンンのホルムアルデヒド換算量)は7.5mg/Lであった。
当該ヘキサミン含有排水に対し、ゼオライトを10g/Lの割合で添加した。
【0025】
ゼオライト添加後のヘキサミン含有排水に対し、JIS−K0102.29に準拠してホルムアルデヒドとしての合量を測定したところ11.5mg/Lであった。
当該ゼオライト添加後のヘキサミン含有排水に対し、パックテストにより遊離のホルムアルデヒドの濃度を測定したところ10mg/Lであった。即ち、JIS法とパックテストとの測定結果の差分(残存するヘキサミンンのホルムアルデヒド換算量)は1.5mg/Lであった。
さらに、測定試料採取の後、ヘキサミン含有排水より回収したゼオライトを純水中に浸漬放置し、上澄液中における遊離のホルムアルデヒドの濃度をパックテストで測定したところ痕跡を示した。
【0026】
以上の結果から、ヘキサミン含有排水へゼオライトを添加したことによる、当該ヘキサミン分解効果は、(7.5−1.5)/7.5×100=80%程度であることが判明した。
一方、当該ゼオライトの添加試験前後におけるJIS−K0102.29によるホルムアルデヒド合量の減少分2.0mg/Lに相当するホルムアルデヒドは、ゼオライト中に吸着されているものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサミンをプロトン交換型ゼオライトと接触させることにより、当該ヘキサミンを、アンモニアとホルムアルデヒドとに分解させる工程を有することを特徴とするヘキサミン含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記分解により生成したホルムアルデヒドを、好気的生物処理により分解させる工程を有することを特徴とする請求項1に記載のヘキサミン含有排水の処理方法。

【公開番号】特開2013−94700(P2013−94700A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237651(P2011−237651)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(591203082)DOWAハイテック株式会社 (9)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】