説明

ヘキサメチレンジアミンの精製方法

本発明は、ヘキサメチレンジアミンの精製方法に関し、より詳しくは、ヘキサメチレンジアミン中に存在するテトラヒドロアゼピン(すなわち、一般的に言えばイミン)を蒸留によって分離することによるヘキサメチレンジアミンの精製方法に関する。本発明によれば、蒸留は、蒸留装置内においてヘキサメチレンジアミンの短い滞留時間で実施される。このようにして得られたヘキサメチレンジアミンは、非常に低いTHA濃度を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘキサメチレンジアミンの精製方法に関する。より詳しくは、本発明は、ヘキサメチレンジアミン中に存在するテトラヒドロアゼピン(すなわちより一般的に言えばイミン)からの分離によるヘキサメチレンジアミンの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘキサメチレンジアミンは、特にポリアミドなどの重合体を製造する際の単量体として又はイソシアネート化合物の合成の際の中間体として使用される主要な化学中間体である。
【0003】
ヘキサメチレンジアミンは、ニッケル、コバルト、鉄、ロジウム又はルテニウムなどの金属元素を含む触媒の存在下でアジポニトリルを水素化することによって得られる。
【0004】
アジポニトリルの水素化プロセス中に、副生成物、特にイミン、さらに具体的には次式のテトラヒドロアゼピン(以下、記号THAで表す)が形成される:
【化1】

【0005】
この化合物は、テトラヒドロアゼピンを含むヘキサメチレンジアミンによりPA66などのポリアミドにおいて着色や結合を生じさせる可能性があるため、ヘキサメチレンジアミンから分離されなければならない。
【0006】
THAを除去又は分離するために多数の方法が提案されている。これらの方法は、一般に、THAとヘキサメチレンジアミンとの反応を促進させて、ヘキサメチレンジアミンから概ね分離できる新たな重質化合物又はオリゴマーを形成させるために塩基性化合物を添加することを含む。
【0007】
例えば、米国特許第5192399号には、THAを含むヘキサメチレンジアミン(HMD)及びアミノカプロニトリル(ACN)の混合物の蒸留方法が記載されている。この混合物は、蒸留塔内において塩基性化合物の溶液の存在下で蒸留される。アミノカプロニトリル及びヘキサメチレンジアミンを塔の頂部で集めると共に、THA及び重質化合物を含むオリゴマーをこの塔の底部で回収する。塩基性化合物を使用すると、処理せずには排出できない塩性廃液が生じる。
【0008】
したがって、非常に低濃度のTHAを含むヘキサメチレンジアミンを回収することを可能とし、特に排出すべき廃液の生成が非常に少ない、THAの分離方法を提供することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5192399号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的の一つは、ヘキサメチレンジアミンとテトラヒドロアゼピンとを、非常に低濃度のTHAを含むHMDを回収しかつHMDの損失を最小限に抑えて分離するための単純な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明は、蒸留塔内においてヘキサメチレンジアミンとテトラヒドロアゼピンとを含む混合物を蒸留することからなる、テトラヒドロアゼピンからの分離によるヘキサメチレンジアミンの精製方法を提供する。本発明は、該塔内でのヘキサメチレンジアミンの保持時間が1分〜20分、好ましくは1分〜15分であることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語「蒸留塔内での保持時間」とは、該塔内に保持される液体の容量対該塔の内部で移動する液体の流量の比率を意味するものとする。本発明の場合には、保持時間の算出のために考慮されるべき蒸留塔の部分は、精製されるべきヘキサメチレンジアミンの供給点よりも上に位置する該塔の内部部品の部分である。つまり、該塔の底部での保持時間、ボイラー内での保持時間及び該塔の冷却器内での保持時間については考慮しない。同様に、ヘキサメチレンジアミンの供給点よりも下に位置する該塔の部分に存在する内部部品での保持時間についても考慮しない。言い換えれば、保持時間の算出について、本願明細書で使用する用語「蒸留塔」は、ヘキサメチレンジアミンの供給点よりも上に位置する該塔の部分に存在する内部部分に相当する。
【0013】
用語「蒸留塔に存在する内部部品」とは、液体/蒸気交換を促進させかつ実施するための、該塔内に設置される部品又は装置を意味するものとする。内部部品の例としては、構造化又は非構造化パッキング、泡鐘プレート、バルブプレートなどが挙げられる。本発明の方法では、構造化パッキングからなる内部部品が好ましい。
【0014】
該塔内に保持される液体の容量は、内部部品、塔、寸法及び操作条件(塔内における気体及び液体の流量)によって決まる。例えば、パッキングされた塔について、液体の容量は、パッキングの容量及びパッキングの保持度から算出される(パッキングの容量1単位当たりの液体の容量)。本発明によれば、パッキングの容量とは、ヘキサメチレンジアミンの供給点よりも上に位置した塔部分に存在する容量のことである。一般に、所定のタイプのパッキングの保持度は、パッキングの製造業者や供給業者によって指示されるものであり、この材料の構成及び蒸留操作条件の特徴でもある。
【0015】
プレート塔について、液体の保持容量は、各プレート上に存在する液体の容量に実在するプレートの数を掛けたものに相当する。
【0016】
本発明の別の特徴によれば、本発明の方法は、10〜50個の理論的プレート、好ましくは15〜35個の理論的プレートを備える蒸留塔内で実施される。このプレートの数は、ヘキサメチレンジアミンの供給点よりも上に位置した塔の部分に相当する。
【0017】
本発明の方法は、上記のような保持時間を得るのを可能にする任意のタイプの蒸留塔内で実施できる。
【0018】
有利には、本発明の蒸留塔は、圧力降下が低いものである。好適な蒸留塔のタイプとしては、構造化パッキング塔又は薄膜蒸留塔が挙げられる。
【0019】
本発明の別の特徴によれば、10〜300mbarの塔頂部内運転圧力下で稼働する蒸留塔内で実施される。塔底部の温度は、有利には120℃〜170℃である。
【0020】
蒸留される混合物は、好ましくは、塔の中間プレートで供給される。ここで、頂部留分として又は塔の頂部に近い水準での中間留分として回収される精製ヘキサメチレンジアミンは、本発明の方法によれば、100万モルのHMD当たり8モル未満のTHA、有利には100万モルのHMD当たり4モル未満のTHAを含む。
【0021】
ヘキサメチレンジアミン中において水銀電極により減少し得るTHA濃度又は不純物濃度は、示差パルスポーラログラフィーにより検定することによって決定される。これらの不純物は、−1.55V/Ag−AgCl+/−0.05Vの減少のポーラログラフ波を示すところ、これは、1トンのHMD当たりのイソブタノールのミリモル(mmol iB/t)又は100万モルのHMD当たりのTHAのモル(mpM)で表される。
【0022】
本発明の他の内容及び利点は、単なる例示として与える以下の実施例を考慮すればさらに明らかになるであろう・
【実施例】
【0023】
例1:
100万モルのヘキサメチレンジアミン当たり120モルのTHAを含むHMDを精製するために、6%の保持度を有する2.6リットルのガーゼパッキングを備える50mmの直径の構造化パッキング蒸留塔を使用する。この塔は、15に等しい数の理論的プレートを有する。ヘキサメチレンジアミンの供給は、該パッキングの底部よりも下で行う。
蒸留を300mbarの最高圧、160℃の塔底部温度及び2.5kg/時のHMD供給流量(3.3L/時)で実施する。塔の液体流量は、蒸留塔の計算のために従来から使用されているモデリングツールを用いた計算によって決定される(Aspen(商標)ソフトウェア)。この計算から、この流量は、この例の場合の供給流量と同等であることが示された。
ヘキサメチレンジアミンの保持時間は3分である。
塔の頂部で回収されたヘキサメチレンジアミンは、100万ミリモルのHMD当たり2.3モルのTHAを含む。
【0024】
例2:
例1を繰り返すが、ただし、使用したパッキングは5%の保持度及び7リットルのパッキング容量の構造化パッキング(ガーゼパッキングではない)である。理論的プレートの数は20である。
HMD保持時間は6分である。塔頂部で回収されたヘキサメチレンジアミンは、100万ミリモルのHMD当たり2.9モルのTHAを含む。
【0025】
例3:
例1を繰り返す。パッキング容量は3.6Lであり、理論的プレートの数は20に等しい。
塔内でのHMD保持時間は4分である。塔の頂部で回収されたヘキサメチレンジアミンは、100万ミリモルのHMD当たり3.9モルのTHAを含む。
【0026】
比較例:
100万モルのHMD当たり120モルのヘキサメチレンジアミンを含むTHAを精製するために、30個の実在プレート(プレート当たり12mLの保持度)を備える50mmの直径のプレート蒸留塔を使用する。この塔は、17に等しい数の理論的プレートを有する。ヘキサメチレンジアミンの供給は、塔の底部プレートよりも下で行う。
蒸留を260mbarの最高圧、160℃の塔底部温度及び0.5kg/時(0.66L/時)のHMD供給流量で実施する。塔の液体流量は、蒸留塔の計算のために従来から使用されていたモデリングツールを用いた計算により決定する。計算から、流量は、この例の場合における供給流量と同等であったことが示された。
ヘキサメチレンジアミンの保持時間は33分である。
塔の頂部で回収されたヘキサメチレンジアミンは、100万モルのHMD当たり16.4モルのTHAを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留塔内においてヘキサメチレンジアミンとテトラヒドロアゼピンとを含む混合物を蒸留することからなる、テトラヒドロアゼピン(THA)からの分離によるヘキサメチレンジアミン(HMD)の精製方法であって、該蒸留塔内における該混合物の保持時間が1分〜20分であることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
前記保持時間が1分〜15分であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記蒸留塔の理論的プレートの数が10〜50個であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記蒸留塔の底部温度が120℃〜170℃であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
精製ヘキサメチレンジアミンが100万モルのHMD当たり8モル未満のTHAを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
精製ヘキサメチレンジアミンが100万モルのHMD当たり4モル未満のTHAを含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
構造化パッキング塔型の蒸留塔内で実施することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2011−500526(P2011−500526A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528369(P2010−528369)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/063288
【国際公開番号】WO2009/047219
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【Fターム(参考)】