説明

ヘッダ部材、膜モジュール、及び膜モジュールの製造方法

【課題】内部に充填された封止材との間での剥離の成長を抑制して膜モジュールの品質向上に寄与するヘッダ部材、膜モジュール及び膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】中空糸膜束7の端部に装着されると共に、内部に封止材Sが充填固化されることによって中空糸膜束7に固定される有底筒状のヘッダ部材9において、中空糸膜束7が挿入される入口側に設けられた入口側筒部21と、入口側筒部21よりも内径が小さく、且つ入口側筒部21よりも底側に設けられた底側筒部23と、を備え、入口側筒部21の内面と底側筒部23の内面との間には段差Stが形成され、且つ入口側筒部21及び底側筒部23の少なくとも一方の内面には、ヘッダ部材9の軸線L回りに沿った環状の溝21a,23a,23bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜束を備えた膜モジュールを製造するためのヘッダ部材、膜モジュール及び膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密ろ過膜、限外ろ過膜を利用した膜ろ過法に用いられる膜として、中空糸膜が知られている。中空糸膜を用いた膜モジュールは、膜面積が大きく、装置を小型化できるために、種々の膜分離の用途に広く利用されている。中空糸膜モジュールは、通常、複数の中空糸膜からなる中空糸膜束と、中空糸膜束の両端が開放された状態で中空糸膜束の両端部を接着封止した封止固定部と、封止固定部で封止された中空糸膜束を収容するケーシングとを備えている。一方で、ケーシングが存在せずに、ハウジングと呼ばれるケースに脱着可能に挿着されるカートリッジタイプの膜モジュールも知られている(特許文献1参照)。カートリッジタイプの膜モジュールの構造は、基本的に、ケーシング内に固定された通常の膜モジュールの構造と共通するが、中空糸膜束を囲むように保護ネットや保護筒と呼ばれる保護部材が装着されてハウジング内に収容されているという特徴を備えている。
【0003】
カートリッジタイプの膜モジュールを製造する場合、例えば、中空糸膜束の端部に有底筒状のヘッダ部材を被せるように装着し、遠心接着法を利用してヘッダ部材の内部に封止材を充填して固化させる。次に、封止材を介して中空糸膜束がヘッダ部材に固定されると、ヘッダ部材の底側の一部を中空糸膜束の端部と一緒に切断し、その結果として中空糸膜の内部に連通する開口が形成されたモジュール端面を形成する。ヘッダ部材を用いて膜モジュールを製造することで、完成品としての膜モジュールの寸法安定性が高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−503298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のヘッダ部材では、封止材と接する内面と封止材との間で剥離が生じた場合に、その剥離が成長し易く、結果として膜モジュールの品質の低下を招来する可能性があった。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、内部に充填された封止材との間での剥離の発生または成長を抑制して膜モジュールの品質向上に寄与するヘッダ部材、膜モジュール及び膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、中空糸膜束の端部に装着されると共に、内部に封止材が充填固化されることによって中空糸膜束に固定される有底筒状のヘッダ部材において、中空糸膜束が挿入される入口側に設けられた入口側筒部と、入口側筒部よりも内径が小さく、且つ入口側筒部よりも底側に設けられた底側筒部と、を備え、入口側筒部の内面と底側筒部の内面との間には段差が形成され、且つ入口側筒部及び底側筒部の少なくとも一方の内面には、ヘッダ部材の軸線回りに沿った環状の溝が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、ヘッダ部材の入口側で剥離が発生しても、入口側筒部の内面と底側筒部の内面との間に段差が形成されているので、この段差によって入口側筒部側から底側筒部への剥離の伝播は阻止され、従って、剥離の成長が抑えられる。さらに、ヘッダ部材の内部に充填された封止材が環状の溝内に進入して固化されるので、ヘッダ部材と封止材との接触面同士が凹凸状に嵌合して強固に結合され、剥離の発生または成長を抑えるのに有効である。その結果として、膜モジュールの品質向上に寄与することができる。
【0009】
さらに、上記の溝は、入口側筒部に形成された浅溝と、底側筒部に形成されると共に、浅溝よりも深い深溝とを含むと好適である。ヘッダ部材の内部に封止材を充填する場合には、例えば、ヘッダ部材の底側に封止材の導入口を形成し、この導入口を通じて封止材が充填される。ヘッダ部材の内面に形成される溝は、深いほど封止材とヘッダ部材との間の結合が強固になり、剥離を抑制する点で有利となる。しかしながら、封止材をヘッダ部材の底側から充填する方法では、入口側筒部は底側筒部よりも封止材が進入し難くなるため、入口側筒部の溝を深くし過ぎると、封止材が入りきらずに封止材とヘッダ部材との間に隙間が生じる可能性がある。一方で、底側筒部では入口側筒部に比べて封止材は進入し易いため、積極的に溝の深さを深くしても十分に封止材を入り込ませることができる。つまり、上記構成によれば、ヘッダ部材の底側から封止材を充填する場合に、封止材の確実な充填を図りながら、ヘッダ部材と封止材との間での強固な結合を実現し易くなり、剥離の成長を抑えるのに有効である。
【0010】
また、本発明の底側筒部の内面には、ヘッダ部材の軸線回りに沿った環状の凸部が形成されていると好適である。ヘッダ部材の内部に充填された封止材は、中空糸膜束とヘッダ部材との間に形成された隙間を埋め、底側筒部の内面に形成された凸部を覆い隠す。ヘッダ部材の内部に充填された封止材は固化する過程で熱収縮するが、この場合、凸部を覆っていた封止材が凸部を挟み付けるように収縮するので封止材が固化する過程での剥離は防止される。その結果として、剥離の成長を抑制して膜モジュールの品質向上を図る上で有効である。
【0011】
また、本発明に係る膜モジュールは、上記のヘッダ部材を用いて形成される筒状のヘッダ部と、ヘッダ部内に挿入された複数の中空糸膜からなる中空糸膜束と、中空糸膜束をヘッダ部に固定する封止部と、中空糸膜の内部が開放されたモジュール端面と、を備えることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、ヘッダ部の入口側で剥離が発生しても、入口側筒部の内面と底側筒部の内面との間に段差が形成されているので、この段差によって入口側筒部から底側筒部への剥離の伝播は阻止される。さらに、ヘッダ部と封止材との接触面同士が凹凸状に嵌合して強固に結合されているので膜モジュールの品質向上に寄与することができる。
【0013】
さらに、上記の膜モジュールは、中空糸膜束を環状に取り囲み、中空糸膜束と一緒に封止部によってヘッダ部に固定された筒状の保護部材を更に備え、保護部材には、複数の貫通孔と、ヘッダ部に固定される側の端部から保護部材の軸線方向に突き出した線状の突出部とが設けられていると好適である。保護部材によって中空糸膜束は纏まり良く保持され、外的衝撃などから保護される。また、保護部材の端部には、線状の突出部が保護部材の軸線方向に突き出すように設けられている。保護部材の端部が、例えば、突出部の無い平坦な円周によって形成されている場合、この端部で剥離が生じると、その剥離は円周方向に伝播し易く、剥離が成長し易い。しかしながら、上記構成によれば、保護部材の端部に形成された突出部が障害物となって周方向への剥離の伝播は阻止されるため、剥離の成長を抑えるのに有効である。
【0014】
さらに、保護部材は、網状であり、且つ貫通孔を形成する複数の網目を有し、突出部は保護部材の端部で環状に連なる複数の網目それぞれから突き出すように形成されていると好適である。複数の網目それぞれに対応した複数の突出部を設けることで、突出部は周方向において略均等な間隔で配置されるようになり、周方向への剥離の伝播を効果的に抑止できる。
【0015】
また、本発明は、上記のヘッダ部材を用いて膜モジュールを製造する方法において、複数の中空糸膜を束ねて中空糸膜束を形成する工程と、ヘッダ部材を中空糸膜束の端部に装着し、ヘッダ部材の内部に溶融状態の封止材を充填する工程と、ヘッダ部材の内部に充填された封止材を固化させて封止部を形成する工程と、封止部を形成した後に、中空糸膜の端部と一緒にヘッダ部材の底側の一部及び封止部の一部を切断して複数の中空糸膜の内部が開放されたモジュール端面を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、封止部を形成する過程において、ヘッダ部材の入口側で剥離が発生しても、入口側筒部の内面と底側筒部の内面との間に段差が形成されているので、この段差によって入口側筒部側から底側筒部への剥離の伝播は阻止され、さらに、ヘッダ部材の内部に充填された封止材が環状の溝内に進入して固化されるので、ヘッダ部材と封止材との接触面同士が凹凸状に嵌合して強固に結合されているので品質の高い膜モジュールを製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内部に充填された封止材との間での剥離の発生または成長を抑制して膜モジュールの品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るカートリッジモジュールの製造に用いられる膜モジュール前躯体の分解斜視図である。
【図2】本実施形態に係るヘッダ部材を示す図であり、(a)は底面図、(b)は(a)のb−b線に沿った断面図である。
【図3】円筒状の保護部材を示す図であり、(a)は側面図、(b)は(a)のb−b線に沿った部分断面図である。
【図4】モジュール前躯体を示す図であり、(a)は側面図、(b)は(a)のb−b線に沿った断面図であり、(c)は(a)のc−c線に沿った断面図であってモジュール端面を示す。
【図5】中空糸膜束が挿着された状態でのヘッダ部材の入口側を拡大して示す断面図である。
【図6】ヘッダ部材の内部に接着材が充填されている途中の状態を示す拡大断面図である。
【図7】カートリッジモジュールをハウジングに取り付ける態様を説明するための分解斜視図である。
【図8】カートリッジモジュールを製造する手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0020】
水溶液中から酵母や菌体などの微生物粒子を除去する方法として、様々な方法が利用されているが、特に、精密ろ過膜や限外ろ過膜を利用した膜ろ過法は、あらゆる微生物の除去が可能で、しかも大量の連続処理が可能なために工業利用に適している。このような膜ろ過法に用いられる膜ろ過装置としては、ケーシング内に収容された中空糸膜の束がケーシングに固定されてモジュール化されたタイプや、ケーシングは備えずに中空糸膜の束が一体化されて膜モジュールとなり、その膜モジュールがハウジングと称されるケース内に着脱自在に収容されるタイプなどがある。本実施形態に係る膜モジュールは、後者のカートリッジモジュールと称されるタイプである。
【0021】
カートリッジモジュール1(図7参照)は、所定のハウジング3内に着脱自在に収容されて用いられる。カートリッジモジュール1は、例えば、複数の中空糸膜の束(以下、「中空糸膜束」という)7の両端にヘッダ部材9(図1参照)を固定してモジュール前躯体5を製造し、更に、モジュール前躯体5の両端の一部分を切断して中空糸膜7aの端部が開放されたモジュール端面6を形成することで製造される。まず、モジュール前躯体5について説明する。
(モジュール前躯体)
【0022】
図1及び図4に示されるように、モジュール前躯体5は、中空糸膜束7の両端に装着される有底筒状のヘッダ部材9と、中空糸膜束7が挿通されて中空糸膜束7を保護する筒状の保護部材11と、中空糸膜束7の端部に差し込まれて中空糸膜7aの密度のばらつきを是正し、中空糸膜束7と一緒にヘッダ部材9の内部に嵌め込まれるクロス板13と、ヘッダ部材9の内部に充填、固化された封止材Sによって中空糸膜束7、保護部材11、クロス板13及びヘッダ部材9を接着(結合)する封止部15と、を備えている。
【0023】
ヘッダ部材9(図2参照)は、ポリサルホンなどの耐熱製高分子材料からなり、例えば、耐熱製高分子材料からなる丸棒を切削加工することで形成される。ヘッダ部材9は有底円筒状(カップ状)であり、中空糸膜束7が挿入される入口側に設けられた入口側筒部21と、底側に設けられた底側筒部23とを備える。入口側筒部21と底側筒部23とは内径が異なり、底側筒部23の方が入口側筒部21に比べて内径が小さくなっている。入口側筒部21と底側筒部23との内径r1,r2同士を対比した場合の比(ヘッダ部材9の内径比)、すなわちr2/r1は、0.5以上、0.99以下であると好ましい。また、充填できる中空糸膜本数(モジュール膜面積)との関係から、0.8以上、0.98以下がより好ましい。
【0024】
入口側筒部21と底側筒部23との内面同士は、ヘッダ部材9の軸線Lに略直交する仮想の平面上に形成された環状の座面25を介して連絡している。この座面25により、入口側筒部21と底側筒部23との内面同士の間には、高低差を有する段差St(図5参照)が形成される。
【0025】
入口側筒部21の内面にはヘッダ部材9の軸線L回りに沿った環状の浅溝21aが複数形成されている。本実施形態では、浅溝21aの形状がレ溝(断面視で直角三角形を切り欠いたような形状の溝)の態様を例示するが、溝形状としては、角溝、丸溝、アリ溝、及びバリカン溝(山形溝)等を含め、後加工で形成できる溝形状を広く採用できる。
【0026】
ここで、浅溝21aの形状に関して、ヘッダ部材9の内部に封止材Sを充填する方法として遠心接着法を採用した場合を例に補足的に説明する。この場合、気泡の抜け易さ、加工のし易さ、量産時のコスト等を考慮すると、浅溝21aは、角溝、レ溝、丸溝、及びバリカン溝の四種類のいずれか一種の溝形状、または複数の浅溝21aに対して上記四種類の溝形状を適宜に組み合わせた態様が好ましく、更に、角溝、レ溝、及びバリカン溝の三種類のいずれか一種の溝形状、または複数の浅溝21aに対して上記三種類の溝形状を適宜に組み合わせる態様が好ましい。
【0027】
なお、入口側筒部21に形成する浅溝21aの本数や加工位置は、ヘッダ部材9のサイズ、または剥離対象物、すなわち封止材Sとの相互の関係で任意に決める事が効率的であると考える。
【0028】
底側筒部23の内面には、ヘッダ部材9の軸線L回りに沿った環状の深溝23aが複数形成され、また、ヘッダ部材9の軸線L回りに沿った環状の浅溝23bが複数形成されている。深溝23aは、入口側筒部21寄りの二カ所に設けられており、浅溝21aは底部9b寄りの所定の領域に纏まって形成されている。底側筒部23の浅溝23bは、実質的に入口側筒部21の浅溝21aと同様の形状及び深さになっている。
【0029】
本実施形態に係る深溝23aでは、角溝(断面視で長方形を切り欠いたような形状の溝)の態様を例示するが、溝形状としては、角溝、丸溝、アリ溝、及びバリカン溝(山形溝)等を含め、後加工で形成できる溝形状を広く採用できる。
【0030】
ここで、深溝23aの形状に関して、ヘッダ部材9の内部に封止材Sを充填する方法として遠心接着法を採用した場合を例に補足的に説明する。この場合、気泡の抜け易さ、加工のし易さ、量産時のコスト等を考慮すると、深溝23aは、角溝、レ溝、丸溝、及びバリカン溝の四種類のいずれか一種の溝形状、または複数の浅溝21aに対して上記四種類の溝形状を適宜に組み合わせた態様が好ましく、更に、角溝、レ溝、及びバリカン溝の三種類のいずれか一種の溝形状、または複数の浅溝21aに対して上記三種類の溝形状を適宜に組み合わせる態様が好ましい。
【0031】
深溝23aは、入口側筒部21に形成された浅溝21aに比べて深さが深くなっており、深溝23aの平均深さd1に対する浅溝21aの平均深さd2の比、すなわちd2/d1は、0.1以上0.9以下であると好ましい。なお、本実施形態では、底側筒部23にも浅溝23bが形成されており、浅溝23bは浅溝21aと同一の深さである。従って、深溝23aは、浅溝21aと同様に浅溝23bに比べても深さが深くなっており、また、平均深さを対比した関係も浅溝21aとの対比と同様の関係になっている。
【0032】
また、本実施形態では、二本の深溝23aのうち、入口側の一方の深溝23aは、段差Stを形成する座面25に並ぶように設けられており、その結果として、座面25と深溝23aとの間には、ヘッダ部材9の軸線L回りに沿った環状の第1の凸部23cが形成されている。また、隣り合って並ぶ二本の深溝23a同士の間には、ヘッダ部材9の軸線L回りに沿った環状の第2の凸部23dが形成されている。
【0033】
なお、底側筒部23に形成する深溝23aや浅溝23b、または凸部23c,23dの本数や加工位置は、ヘッダ部材9のサイズ、モジュール端面6を形成するための切断位置と関係しているが、剥離対象物、すなわち封止材Sとの相互の関係で任意に決める事が効率的であると考える。
【0034】
次に、中空糸膜束(多孔質膜)7について説明する。中空糸膜束7は、多数の中空糸膜7aを束ねるように纏めることで形成される。中空糸膜7aの素材は特に限定されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリーテルスルホン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリエーテルケトン等が挙げられる。中空糸膜7aは、オートクレーブ処理により滅菌しても良い。オートクレーブ処理により滅菌することで、中空糸膜7aは、微生物粒子のろ過に好適に使用することができる。
【0035】
中空糸膜束7は筒状の保護部材11に挿通され、保護部材11によって保護される。保護部材11の形状は、用途などに応じて選択できるが、通常、円筒状である場合が多く、本実施形態でも円筒状を例に説明する。保護部材11の材質は、被処理流体や分離成分の種類などに応じて選択でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル系ポリマー、ポリサルホン、ポリエーテルスルホンなどのプラスチック、ステンレススチールなどの金属であっても良い。通常は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、などを使用する場合が多い。
【0036】
保護部材(「ネット部材」、「ネット」ともいう)11は、矩形の貫通孔Hを形成する網目を複数有する網状であり(図3参照)、更に複数の網目が規則的に配列された略円筒状となっている。なお、保護部材11は、端部がヘッダ部材9内に挿入され、ヘッダ部材9と略同心状に設置される。従って、以下の説明では、保護部材11の軸線を、ヘッダ部材9と同一の軸線Lとして説明する。
【0037】
保護部材11は、軸線L方向に沿った複数の縦ライン部11aと周方向に沿った複数のサークル部11bとを備える。保護部材11には、複数の縦ライン部11aと複数のサークル部11bとが交叉するように一体成形されることで矩形の貫通孔Hが複数形成されている。保護部材11の軸線L方向の両端部では、複数の縦ライン部11aの先端(突出部)11cがサークル部11bから突き出すように形成されている。その結果、複数の縦ライン部11aの突出部11cは、環状に連なる複数の網目それぞれから突き出すように形成された態様を具現化している。
【0038】
なお、本実施形態に係る保護部材11は、円筒状を例示するが、この保護部材11は多角筒形状であっても良い。
【0039】
クロス板13は、実際に封止部15を形成する封止材Sと同様の材料を用いて形成され、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン系ポリマー、シリコーン樹脂、フッ素含有樹脂などによって形成される。クロス板13は、多数本の中空糸膜7aが周方向で密度に偏り(ばらつき)が発生しないように整える挿入物としての機能を有し、中空糸膜束7の端部に差し入れられるように取り付けられる。なお、本実施形態では、挿入物の一例としてクロス板13を具体的に説明するが、この挿入物は、一枚の平板からなる態様または五枚以上の仕切片が放射状に延在するように設けられた態様などであってもよい。
【0040】
クロス板13(図4参照)は、矩形の二枚の平板が互いに直交するように嵌め合わされており、交線となる中央から放射状に延在する四枚の仕切片13aを有する形状となっている。また、仕切片13aの表面は意図的に粗面になっており、封止材Sが充填、固化された際の結合(接着)強度を高めるように配慮されている。また、仕切片13aの寸法は、ヘッダ部材9の底側筒部23の内径の略半分に対応しており、四枚の仕切片13aの外縁を通る仮想の円筒の内径と底側筒部23の内径との比、すなわち、仮想の円筒の内径/底側筒部23の内径は、0.5〜0.99となるように形成されている。四枚の仕切片13aにより、多数本の中空糸膜束7は底側筒部23の内部で実質的に四等分される。
【0041】
保護部材11に挿入された中空糸膜束7の両端部分には、クロス板13が差し込まれ、クロス板13によって多数の中空糸膜束7が目視にて略均等に分けられる。中空糸膜束7は、クロス板13が取り付けられた状態でヘッダ部材9に挿入され、中空糸膜束7を取り囲む保護部材11の先端はヘッダ部材9の内部で段差Stを形成する座面25に当接する。この状態で、クロス板13が取り付けられた中空糸膜束7の端部は、ヘッダ部材9の底側筒部23内に収まる。
【0042】
中空糸膜束7の両方の端部にヘッダ部材9を装着した後、ヘッダ部材9の内部には溶融状態の封止材S(「シール材」、「接着剤」ともいう)が充填されて中空糸膜束7の端部が封止される。封止材Sには、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、オレフィン系ポリマー、シリコーン樹脂、フッ素含有樹脂などが用いられる。また、封止材Sの充填は、ヘッダ部材9の底部9bに形成された導入口9aを通じて行われ、例えば、遠心接着法や静置接着法などによって適宜実行される。ヘッダ部材9の内部に充填された封止材Sが固化することで封止部15が形成され、モジュール前躯体5が形成される。
(カートリッジモジュール)
【0043】
図1、図4及び図7に示されるように、カートリッジモジュール(膜モジュール)1はモジュール前躯体5を用いて製造される。モジュール前躯体5では、中空糸膜7aの両端が封止部15によって閉塞された状態にあり、カートリッジモジュール1として完成させるためには、中空糸膜7aの両端を開放させたモジュール端面6を形成する必要がある。本実施形態では、ヘッダ部材9の底側の一部分を切断除去することでモジュール端面6(図4(c)参照)を形成し、カートリッジモジュール1を完成させる。
【0044】
カートリッジモジュール1は、ヘッダ部材9を用いて形成される筒状のヘッダ部1aと、ヘッダ部1a内に挿入された複数の中空糸膜7aからなる中空糸膜束7と、中空糸膜束7をヘッダ部1aに固定する封止部15と、中空糸膜7aの内部が開放されたモジュール端面6と、中空糸膜束7を環状に取り囲み、中空糸膜束7と一緒に封止部15によってヘッダ部1aに固定された筒状の保護部材11と、を備えている。
【0045】
カートリッジモジュール1は、ハウジング3内に挿入されて着脱自在に取り付けられることでろ過膜ユニットを構成する。ハウジング3の形状は、用途などに応じて選択できるが、通常、円筒状である場合が多い。ハウジング3の材質は、被処理流体や分離成分の種類などに応じて選択でき、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、アクリル系ポリマー、ポリサルホン、ポリエーテルスルホンなどのプラスチック、ステンレススチールなどの金属であっても良い。通常は、ステンレススチール、ポリ塩化ビニル、ポリサルホンなどを使用する場合が多い。
【0046】
円筒状のハウジング3を例に構造を具体的に説明すると、ハウジング3は、カートリッジモジュール1を収容する円筒状の胴体3aと、胴体3aの両端に螺合にて組み付けられる一対のキャップ3bと、キャップ3bの締め付けにより、胴体3aとの間で挟持されるシールリング3cとを備えている。胴体3aには、両方の端部に濃縮水の排出口や原水の導入口などになる管部3dが形成されている。また、キャップ3bは略円すい状であり、頂部には原水の導入口や濾過水の排出などになる管部3eが形成されている。
(カートリッジモジュールの製造方法)
【0047】
次に、図8を参照してカートリッジモジュール(膜モジュール)1の製造方法について説明する。まず、複数の中空糸膜7aを束ねて中空糸膜束7を形成する工程を実行する(ステップS1)。具体的には、所定本数の中空糸膜7aを束頭基準で切断長が所定長さとなるように切り揃えて纏め(整束)、さらに、中空糸膜7aの局部洗浄や端部の処理を適宜に実施する。
【0048】
次に、モジュール前躯体要素の組み付け工程を実行する(ステップS2)。具体的には、整束された中空糸膜束7を保護部材11に挿入する。さらに保護部材11からはみ出した部分にクロス板13を取り付けて中空糸膜7aの本数密度のばらつきを是正し、その状態で中空糸膜束7の両方の端部にヘッダ部材9を装着してモジュール前躯体要素の組み付けを行う。
【0049】
次に、ヘッダ部材9の内部に溶融状態の封止材Sを充填する工程を実行する(ステップS3)。封止材Sの充填方法には、遠心力を利用して封止材Sを充填する遠心接着法や重力を利用して封止材Sを充填する静置接着法などがあり、ここでは、遠心接着法と静置接着法とを代表して説明する。
【0050】
遠心接着法は、遠心カセットと呼ばれる治具を備えた遠心接着機を用いて行われる。モジュール前躯体要素が組み付けられた構造体は、水平に横たえた状態で遠心カセットに取り付けられ、鉛直軸を回転軸として水平面上を回転する。遠心カセットの回転によってヘッダ部材9には遠心力が作用し、この遠心力を利用してヘッダ部材9の内部に封止材Sが充填される。遠心力を利用した充填方法には、例えば、中空糸膜束7の長さによって二通りが考えられる。一つの方法は、両方の端部を同時に遠心接着する方法であり、別の方法は、片側ずつで2回遠心接着する方法である。例えば、片側ずつ行う場合には、接着対象となる一方の端部が遠心方向の外側となり、他方の端部が遠心方向の内側となるように配置される。遠心方向の外側となるヘッダ部材9側には、遠心力を利用して溶融状態の封止材Sが移送され、さらに、ヘッダ部材9の底部9bに形成された導入口9aを通じて封止材Sが内部に充填される。
【0051】
一方で、静置接着法はヘッダ部材9が装着された中空糸膜束7を鉛直方向に沿って立てた状態で配置する。中空糸膜束7の接着対象となる一方の端部は上側となり、他方の端部は下側となる。上側のヘッダ部材9の内部には、底部9bの導入口9aを通じて溶融状態の封止材Sが充填される。ここで、封止材Sは、自重によってヘッダ部材9の内部に隙間無く充填され、その後、封止材Sが冷めて流動性が無くなると上下が反転され、上側となったヘッダ部材9の内部に封止材Sが自重により充填される。
【0052】
なお、量産性や品質面という観点から両充填方法で得られたカートリッジモジュール1を比べた場合、最も顕著に現れる構造上の差は、ヘッダ部1a周囲の界面形状の凸凹差、すなわち、ヘッダ部1aの入口側における封止部15の凸凹差である。しかしながら、この差は、カートリッジモジュール1の性能という点での本質的な差では無い。また、遠心接着法の方は製造装置で遠心力を設定するので、他の条件設定に傾向性が現れやすいという特徴があり、静置接着法は封止材Sの粘度や外気温度等の影響を受けやすいという特徴がある。しかしながら、接着条件の設定をきちんと、つまり、所望の精度を確保すべく正確に行うことができれば、カートリッジモジュール1による量産性や品質面での差は無いと考える。
【0053】
次に、ヘッダ部材9の内部に充填された封止材Sを固化させて封止部15を形成する工程を実行する(ステップS4)。具体的には、封止材Sの充填が完了すると、中空糸膜束7が静置冷却される。その結果、封止材Sが固化して封止部15が形成され、モジュール前躯体5となる。次に、モジュール前躯体5に対して50℃キュアリングを所定時間行い(ステップS5)、続いて90℃キュアリングを所定時間行う(ステップS6)。
【0054】
次に、中空糸膜7aの端部と一緒にヘッダ部材9の底部9b側の一部及び封止部15の一部を切断して複数の中空糸膜7aの内部が開放されたモジュール端面6を形成する工程を実行し(ステップS7)、カートリッジモジュール1を完成させる。
【0055】
次に、ヘッダ部材9及びカートリッジモジュール1の効果について説明する。モジュール前躯体5を製造する際、封止材Sは、ヘッダ部材9の内部で隙間を埋めるように充填され(図5及び図6参照)、更に冷却固化して中空糸膜束7、クロス板13、保護部材11、及びヘッダ部材9の内面を接着(結合)する。ヘッダ部材9は、入口側筒部21の内径r1方が、底側筒部23の内径r1よりも大きく、入口側筒部21と底側筒部23との内面同士の間には段差Stが設けられている。封止材Sが冷却固化する過程では、封止材Sは僅かに熱収縮する。この熱収縮により、仮に、入口側筒部21において封止材Sとの接触面で剥離が発生しても、入口側筒部21側から底側筒部23への剥離の伝播は段差Stによって阻止され、従って、剥離の成長が抑えられる。
【0056】
また、ヘッダ部材9の内面には、深溝23aや浅溝21a,23bが形成されており、封止材Sは、深溝23aや浅溝21a,23bに進入して固化する。従って、ヘッダ部材9と封止材Sとの接触面同士が凹凸状に嵌合して強固に接着(結合)されることとなり、剥離の成長を抑えるのに有効であり、剥離対策効果(リークが生じない効果)が大きく、例えば、滅菌時の熱や圧力あるいは放射線処理にも耐え得る。その結果として、カートリッジモジュール1の品質向上に寄与することができる。
【0057】
さらに、ヘッダ部材9の入口側筒部21には、浅溝21aが形成されており、底側筒部23には浅溝21aの他に深溝23aが形成されている。例えば、封止材Sは、ヘッダ部材9の内面に形成する溝の深さが深いほど奥深くまで進入して固化するため、溝の深さが深い方がヘッダ部材9に強固に結合されることになり、剥離を抑制する点で有利となる。しかしながら、遠心接着法や静置接着法のように、封止材Sをヘッダ部材9の底部9b側から充填する方法では、入口側筒部21は底側筒部23よりも封止材Sが進入し難くなるため、入口側筒部21の溝を深くし過ぎると、封止材Sが入りきらずに封止材Sとヘッダ部材9との間に隙間が生じる可能性がある。一方で、底側筒部23では入口側筒部21に比べて封止材Sは進入し易いため、積極的に溝の深さを深くしても十分に封止材Sを入り込ませることができる。つまり、ヘッダ部材9によれば、底部9b側から封止材Sを充填する場合に、封止材Sの確実な充填を図りながら、ヘッダ部材9と封止材Sとの間での強固な結合を実現し易くなり、剥離の抑止または剥離の成長を抑えるのに有効である。なお、本実施形態に係る底側筒部23には、深溝23aの他に浅溝23bが形成されているが、深溝23aのみを形成して浅溝23bの形成を省略することも可能である。
【0058】
また、ヘッダ部材9の底側筒部23の内面には、ヘッダ部材9の軸線L回りに沿った環状の第1の凸部23c及び第2の凸部23dが形成されている。封止材Sは、ヘッダ部材9の内部に充填されると、第1の凸部23c及び第2の凸部23dを覆い隠す。前述のように、封止材Sは固化する過程で熱収縮するが、この場合、凸部23c,23dを覆っていた封止材Sが凸部23c,23dを挟み付けるように収縮するので封止材Sが固化する過程での剥離は防止される。その結果として、剥離の成長を抑制してカートリッジモジュール1の品質向上を図る上で有効である。
【0059】
また、本実施形態に係るカートリッジモジュール1は、上述のヘッダ部材9を用いてヘッダ部1aが形成されているので、封止材Sの固化によって封止部15が形成される際の剥離の発生及び伝播は抑制されており、高い品質を期待できる。
【0060】
また、カートリッジモジュール1は、中空糸膜束7を環状に取り囲む筒状の保護部材11を備えているので、中空糸膜束7は、保護部材11によって纏まり良く保持され、外的衝撃などから保護される。
【0061】
また、保護部材11には、ヘッダ部1aに固定される両端部から軸線L方向に突き出した線状(ライン状)の突出部11cが形成されている。保護部材11の端部が、例えば、突出部11cの無い平坦な円周によって形成されている場合、この端部で剥離が生じると、その剥離は円周方向に伝播し易く、剥離が成長し易い。しかしながら、本実施形態に係る保護部材11によれば、突出部11cが障害物となって周方向への剥離の伝播は阻止されるため、剥離の成長を抑えるのに有効である。なお、突出部11cの効果については、カートリッジモジュール1を作製する工程でのキュアリング前後等の外観から見える剥離発生の有無で確認することができる。
【0062】
また、カートリッジモジュール1を用いて膜ろ過を行っている際にも、例えば、物理洗浄や薬品洗浄などに起因してヘッダ部1aと封止部15との間で剥離が発生してしまう可能性がある。しかしながら、本実施形態では、ヘッダ部1aと封止部15とは強固に接着(結合)されているので、剥離の発生を効果的に防ぐことができ、また、仮に剥離が発生した場合であっても、剥離の成長を効果的に抑えることができる。
【0063】
また、上述のカートリッジモジュール(膜モジュール)1の製造方法によれば、封止部15を形成する過程において、ヘッダ部材9の入口側で剥離が発生しても、入口側筒部21の内面と底側筒部23の内面との間に形成された段差Stによって入口側筒部21側から底側筒部23への剥離の伝播は阻止される。さらに、ヘッダ部材9の内部に充填された封止材Sは環状の浅溝21a,23bや深溝23a内に進入して固化されるので、ヘッダ部材9と封止材Sとの接触面同士が凹凸状に嵌合して強固に接着(結合)され、剥離の発生や成長を抑えるのに有効である。その結果として、品質の高いカートリッジモジュール1を製造することができる。
(ヘッダ部材の表面処理)
【0064】
次に、モジュール前躯体5を構成するヘッダ部材9の内面に施される表面処理について詳しく説明する。ヘッダ部材9の内面には、親水化のための所定の表面処理が施されており、この表面処理(親水化処理)により、封止材Sとヘッダ部材9との接触部位における優れた接着力が期待できる。表面処理の効果は、カートリッジモジュール1を作製する工程でのキュアリング前後等の外観から見える剥離発生の有無で確認することができる。
【0065】
この表面処理方法としては、薬品処理、火炎処理、プライマー処理、コロナ放電処理、レーザー処理、プラズマ処理など、様々な方法を適宜に採用できる。特に、これらの表面処理のうち、作業性、安全性、及び品質安定性の観点より、プラズマ処理か、コロナ放電処理が好ましい。
【0066】
なお、本発明者は、ヘッダ部材9の表面処理方法としてプラズマ処理とコロナ放電処理とを鋭意検討した結果、以下の知見を得た。一つは、大気圧下でのプラズマ処理とコロナ放電処理とでは、親水化処理効果に大差がなく、どちらでも使用することができるという点である。また、一般的にプラズマ処理と言えば、真空下(低圧)での処理を指す事が多いが、この方法は処理設備の制約も多く、量産化には向いていない。一方で、大気圧下のプラズマ処理を採用するようにすれば、複雑な形状や、多量の処理にも適しているという点である。なお、プラズマ処理の場合には、空気プラズマでも不活性ガスプラズマでも処理効果の継続性は変わらないという知見を得た。
【0067】
このような表面処理による親水化メカニズムについては、プラズマ処理やコロナ放電処理により、ヘッダ部材9の最表面への酸素原子の導入等の変性、封止材Sとの反応面の洗浄性、最表面の凸凹性アップ(アンカー効果)、極性官能基の導入、官能基や反応性基、極性基の活性化等により、強固な接着力を有すると考えている。
【0068】
なお、材料表面の親水性は種々ある評価指標で定量化することができるが、表面に特定の溶媒を静置した際の接触角(θ)を測定する方法が簡便である。
【0069】
上記の表面処理方法によれば、処理後の水接触角(θ)は、処理前の90〜110度に対して、処理後には60度以下になることが確認できる。処理効果には経時変化があるので、量産性を考えた場合には、処理後の水接触角(θ)は50度以下が好ましい。なお、表面処理として大気圧プラズマ処理を用いた場合には、処理条件として、次のような制御因子が存在し、処理条件により効果が当然異なる。制御因子としては、使用ガス種、プラズマ照射口の形状、プラズマ照射口から処理面までの距離、ガス供給量、プラズマ出力(処理電力)、照射口の移動速度、処理時間等である。なお、これらの制御因子はコロナ放電処理でも基本的に同じである。
【0070】
表面処理(親水化処理)効果は経時変化するが、本発明者の測定結果では、時間と経過と共に水接触角(θ)が大きくなってくる。つまり親水化効果が薄れてくるので、処理後は速やかに接着工程へ進む事が必要であるが、好ましくは24時間以内、さらに好ましくは12時間以内、より好ましくは8時間以内である。
【0071】
表面親水化処理の効果の確認には、所定材料の板材を用意して、各種条件(ガス流量、基板−照射部間距離、走査速度)にて表面処理を実施し、まずは表面親水化処理効果を水接触角にて判断した。また、処理効果の経時変化については、処理サンプルを室内に放置し、接触角の数値で評価を実施した。さらに、接着力が強力になった事や処理効果の経時変化の確認は、表面親水化処理後の板材(幅2cm、長さ10cm、厚み5mmの板材)に封止材(接着剤)Sを用いて接着(長さ1cmで重ね合わせの貼り付け状態)し、キュアリング後に強度試験機にてせん断強度を測定することで評価した。
【0072】
せん断強度測定に用いた評価装置は、テンシロン万能試験機(型式RTF−1350)で、サンプルを引っ張り、基材が破断するのか、接着部が剥離するのか、及びその時の最大点荷重として強度を数値化した。
【0073】
なお、処理効果の確認に用いた基材は、ポリサルホンを基準とし、比較対象としてPP,PE,ABSを用いて同一条件下での効果を確認したが、表面親水化処理が確実にできた場合には、接触角の絶対値は異なるが、傾向はほぼ同じである事が確認できた。
【実施例1】
【0074】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
(多孔質中空糸膜の製造例)
ポリスルホン(SOLVAY ADVANCED POLYMERS社製、Udel P3500)18重量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製、Luvitec k80)15重量%を、N−メチル−2−ピロリドン62重量%に70℃で撹拌溶解し、グリセリン5重量%を加えてさらに撹拌し製膜原液を調整した。この製膜原液を二重環紡糸ノズル(最外径2.4mm、中間径1.2mm、最内径0.6mm、以下の実施例でも同じ物を用いた)から内部凝固液の90重量%NMP水溶液と共に70℃で押し出し、50mmの空走距離を通し、80℃の水中で凝固させた。このとき、紡口から凝固浴までを温度調整可能な底面積38cmの筒状物で囲い空走部分の温度を75℃、相対湿度100%(絶対湿度240g/m)とした。このとき水中で脱溶媒を行った後、2000ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液中で15時間ポリビニルピロリドンを分解処理後、90℃で3時間水洗を行い、多孔質中空糸膜を得た。得られた中空糸は、外径が2.3mmφ、内径1.4mmφ、最小孔径0.4μm、初期純水透水量80L/hrであった。
【0076】
[カートリッジモジュールの試験]
(実施例1、2、3、4、5)
ポリサルホン製の丸棒(200mmφ*1000mmL)から所定の構造のヘッダ部材を切削加工で作製し、PP製ネット(保護部材)、ヘッダ部材内部の表面処理(表面親水化処理)の有無、溝加工(レ溝、角溝)、クロス板サイズ、ヘッダ部材内部の構造、保護部材の軸線方向端部の構造を各種変えて、膜面積12mとなるように製造例1で得られた多孔質中空糸膜を入れ、実用サイズのモジュールを作製し、剥離状態の観察評価を行った。ヘッダ部材内部への封止材(接着剤)の充填は遠心接着法を用いて行い、接着剤はエポキシ樹脂、遠心力35G、遠心機雰囲気温度35℃、遠心時間4時間、キュアリングは50℃で48時間、その後90℃で16時間実施した。キュアリング後は、ヘッダ部材の所定の位置を切断してモジュール端面を形成し、中空部及び切断端面の観察を実施した。観察は生産途中を含め、剥離の有無を中心に実施した。観察結果を表1に示す。なお、表1の「ヘッダ部材の内径比」とは、(底側筒部の内径)/(入口側筒部の内径)を意味する。
【0077】
なお、実際に使用するカートリッジモジュールにおいては、外観から見える剥離の程度によっては、問題にならない場合も多々あるが、剥離部が少量でもあると、使用時の冷熱温度差や使用サイクルによって、剥離部が増大する可能性があるので、定性的ではあるが剥離発生の有無を評価基準とした。本発明者のモジュール評価においても、剥離発生部が無い場合には何の問題も生じない事は確認している。
【0078】
(比較例1、2)
実施例1〜5と類似の構造にてモジュールを作成し、同様に観察を実施した。なお、モジュール化の条件は全て合わせている。観察結果を表2に示す。なお、表2の「ヘッダ部材の内径比」とは、(底側筒部の内径)/(入口側筒部の内径)を意味する。また、比較例1では、底側筒部に形成した溝に対する入口側筒部の溝の深さは非常に浅く、そのため、表2で示す底側筒部の溝に対する入口側筒部の溝の平均深さの比は“0.01”となっている。また、比較例2では、底側筒部の内面に実質的な溝は形成されておらず、また、入口側筒部の内面にも実質的な溝は形成されていない。そのため、表2で示す底側筒部の溝と入口側筒部の溝とは実質的に同一の深さである考え、底側筒部の溝に対する入口側筒部の溝の平均深さの比は“1.0”となっている。
【符号の説明】
【0079】
1…カートリッジモジュール(膜モジュール)、1a…ヘッダ部、6…モジュール端面、7…中空糸膜束、7a…中空糸膜、9…ヘッダ部材、21…入口側筒部、21a…浅溝、23…底側筒部、23a…深溝、23b…浅溝、23c…第1の凸部、23d…第2の凸部、11…保護部材、11c…突出部、15…封止部、H…保護部材の貫通孔、L…軸線、S…封止材、r1…入口側筒部の内径、r2…底側筒部の内径、St…段差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜束の端部に装着されると共に、内部に封止材が充填固化されることによって前記中空糸膜束に固定される有底筒状のヘッダ部材において、
前記中空糸膜束が挿入される入口側に設けられた入口側筒部と、前記入口側筒部よりも内径が小さく、且つ前記入口側筒部よりも底側に設けられた底側筒部と、を備え、
前記入口側筒部の内面と前記底側筒部の内面との間には段差が形成され、且つ前記入口側筒部及び前記底側筒部の少なくとも一方の内面には、前記ヘッダ部材の軸線回りに沿った環状の溝が形成されていることを特徴とするヘッダ部材。
【請求項2】
前記溝は、前記入口側筒部に形成された浅溝と、前記底側筒部に形成されると共に、前記浅溝よりも深い深溝とを含むことを特徴とする請求項1記載のヘッダ部材。
【請求項3】
前記底側筒部の内面には、前記ヘッダ部材の軸線回りに沿った環状の凸部が形成されていることを特徴とする請求項1または2記載のヘッダ部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項記載の前記ヘッダ部材を用いて形成される筒状のヘッダ部と、前記ヘッダ部内に挿入された複数の中空糸膜からなる中空糸膜束と、前記中空糸膜束を前記ヘッダ部に固定する封止部と、前記中空糸膜の内部が開放されたモジュール端面と、を備えることを特徴とする膜モジュール。
【請求項5】
前記中空糸膜束を環状に取り囲み、前記中空糸膜束と一緒に前記封止部によって前記ヘッダ部に固定された筒状の保護部材を更に備え、
前記保護部材には、複数の貫通孔と、前記ヘッダ部に固定される側の端部から前記保護部材の軸線方向に突き出した線状の突出部とが設けられていることを特徴とする請求項4記載の膜モジュール。
【請求項6】
前記保護部材は、網状であり、且つ前記貫通孔を形成する複数の網目を有し、前記突出部は前記保護部材の端部で環状に連なる複数の網目それぞれから突き出すように形成されていることを特徴とする請求項5記載の膜モジュール。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項記載の前記ヘッダ部材を用いて膜モジュールを製造する方法において、
複数の中空糸膜を束ねて中空糸膜束を形成する工程と、
前記ヘッダ部材を前記中空糸膜束の端部に装着し、前記ヘッダ部材の内部に溶融状態の封止材を充填する工程と、
前記ヘッダ部材の内部に充填された前記封止材を固化させて封止部を形成する工程と、
前記封止部を形成した後に、前記中空糸膜の端部と一緒に前記ヘッダ部材の底側の一部及び前記封止部の一部を切断して複数の前記中空糸膜の内部が開放されたモジュール端面を形成する工程と、を含むことを特徴とする膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−99703(P2013−99703A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41043(P2010−41043)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】