説明

ヘッドガスケット

【課題】ノッキングを好適に改善可能なヘッドガスケットを提供する。
【解決手段】ヘッドガスケット10Aは、エンジン50Aのシリンダブロック51、シリンダヘッド52間に設けられ、シリンダブロック51のボア周辺部に対応する部分のうち、排気側の部分に第1の部分11を備えるとともに、その他の部分に第2の部分12を備える。ヘッドガスケット10Aは、第1の部分11のうち、シリンダヘッド52側の部分に第1の断熱材111を設けるとともに、シリンダブロック51側の部分に第1の高熱伝導材112を設け、第2の部分12を第2の高熱伝導材121で形成し、第1および第2の部分11、12の間に第2の断熱材13をさらに設けた構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッドガスケットに関し、特に熱伝導性を高めたヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンでは、シリンダブロック、シリンダヘッド間に設けられるヘッドガスケットの熱伝導性を高めることがある。特許文献1では、ヘッドガスケットのうち、燃焼室の周囲の部分に高熱伝導材からなる熱交換部を設けた火花点火式内燃機関が開示されている。
【0003】
またエンジンでは、排気ポートの断熱性を高めることがある。特許文献2では、表層部の内側を中空の空気断熱層とした二重殻構造を成す鋳鉄製の排気ポート部品を、シリンダヘッドの鋳造時に鋳ぐるみして埋設することで形成した排気ポートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−280961号公報
【特許文献2】特開2008−215331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図6はヘッドガスケット10Xを介したシリンダブロック51、シリンダヘッド52間の伝熱についての説明図である。(a)はポイントP1からP4までにおける伝熱の方向を示す。(b)はポイントP1からP4までにおけるシリンダブロック51およびシリンダヘッド52の温度傾向を示す。
【0006】
ポイントP1は、シリンダブロック51のボア周辺部のうち、吸気側の部分に対応する位置を示す。ポイントP2およびP4は、シリンダブロック51のボア周辺部のうち、隣り合うボアとの間(ボア間)の部分に対応する位置を示す。ポイントP3は、シリンダブロック51のボア周辺部のうち、排気側の部分に対応する位置を示す。ヘッドガスケット10Xは、シリンダブロック51のボア周辺部に対応する部分全体に高熱伝導材101を備えたガスケットである。(a)では、ヘッドガスケット10Xの要部(シリンダブロック51のボア周辺部に対応する部分)をシリンダブロック51とともにシリンダヘッド52側から示している。
【0007】
(a)に示すように、シリンダブロック51はブロック側ウォータジャケット(以下、W/Jと称す)511を備えている。ブロック側W/J511はシリンダ51aの壁部をなすボア周辺部に隣接して設けられている。ブロック側W/J511は流通する冷却水でボア周辺部の冷却を促進する。これに対し、ヘッドガスケット10Xは次のようにしてボア周辺部の冷却をさらに促進する。
【0008】
すなわち、ポイントP1、P2およびP4では、(b)に示すようにシリンダブロック51のほうがシリンダヘッド52よりも温度が高くなる傾向がある。このため、ヘッドガスケット10Xは、(a)に示すようにポイントP1、P2およびP4でシリンダブロック51からシリンダヘッド52への伝熱を促進する。そしてこれにより、ボア周辺部の冷却をさらに促進する。
【0009】
ところが、ポイントP3では、(b)に示すようにシリンダヘッド52のほうがシリンダブロック51よりも温度が高くなる傾向がある。これは、シリンダヘッド52がポイントP3で高温の排気ガスの影響を受けるためである。
【0010】
このため、ヘッドガスケット10Xを設けた場合には、(a)に示すようにポイントP3でシリンダヘッド52からシリンダブロック51への伝熱が促進されることがある。そしてこれにより、ポイントP3でシリンダブロック51の温度が上昇することがある。一方、これに対してポイントP3は、シリンダブロック51において筒内に流入した吸気が当たる部分となる。このため、ヘッドガスケット10Xを設けた場合には、例えば高負荷運転時に吸気の温度上昇を招く結果、ノッキングが発生することがある。
【0011】
本発明は上記課題に鑑み、ノッキングを好適に改善可能なヘッドガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はエンジンのシリンダブロック、シリンダヘッド間に設けられるヘッドガスケットであって、前記シリンダブロックのボア周辺部に対応する部分のうち、排気側の部分に第1の部分を備えるとともに、その他の部分に第2の部分を備え、前記第1の部分のうち、前記シリンダヘッド側の部分に第1の断熱材を設けるとともに、前記シリンダブロック側の部分に第1の高熱伝導材を設け、前記第2の部分を第2の高熱伝導材で形成し、前記第1および第2の部分の間に第2の断熱材をさらに設けたヘッドガスケットである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ノッキングを好適に改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1のエンジンの概略構成図である。
【図2】ヘッドガスケットの要部を示す図である。
【図3】ヘッドガスケットの側面図である。
【図4】ヘッドガスケットの熱の流れについての説明図である。
【図5】実施例2のエンジンの概略構成図である。
【図6】ヘッドガスケットを介したシリンダブロック、シリンダヘッド間の伝熱についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1はエンジン50Aの概略構成図である。エンジン50Aは火花点火式内燃機関であり、シリンダブロック51と、シリンダヘッド52と、ピストン53と、点火プラグ54と、吸気弁55と、排気弁56と、ヘッドガスケット10Aとを備えている。
【0017】
シリンダブロック51にはシリンダ51aが形成されている。シリンダ51aにはピストン53が設けられている。シリンダブロック51にはヘッドガスケット10Aを介してシリンダヘッド52が設けられている。すなわち、ヘッドガスケット10Aはシリンダブロック51、シリンダヘッド52間に設けられている。シリンダ51a、シリンダヘッド52およびピストン53は、燃焼室Eを形成している。シリンダヘッド52には、燃焼室Eの上部中央に臨むようにして点火プラグ54が設けられている。
【0018】
シリンダヘッド52には燃焼室Eに吸気を導く吸気ポート52aと、燃焼室Eからガスを排出する排気ポート52bが形成されている。また、吸気ポート52aを開閉する吸気弁55と、排気ポート52bを開閉する排気弁56とが設けられている。
【0019】
シリンダブロック51には、ブロック側W/J511が設けられている。ブロック側W/J511は、シリンダ51aの周辺部に設けられている。具体的にはブロック側W/J511は、シリンダ51aの壁部をなすボア周辺部に隣接するようにして吸気側および排気側に設けられている。
【0020】
シリンダヘッド52には、ヘッド側W/J521から524までが設けられている。ヘッド側W/J521は吸気ポート52aの周辺部に、ヘッド側W/J522は排気ポート52bの周辺部に、ヘッド側W/J523は点火プラグ54の周辺部にそれぞれ設けられている。また、ヘッド側W/J524は吸排気弁55、56間や、その他の部分を冷却するために設けられている。
【0021】
図2はヘッドガスケット10Aの要部を示す図である。図3はヘッドガスケット10Aの側面図である。図2では、ヘッドガスケット10Aの要部をシリンダブロック51とともにシリンダヘッド52側から示している。図3では、図2に示す矢印に沿って見たヘッドガスケット10Aの一部Rを示している。
【0022】
図2に示すように、ヘッドガスケット10Aは、シリンダブロック51のボア周辺部に対応する部分のうち、排気側の部分に第1の部分11を備えるとともに、その他の部分に第2の部分12を備えている。第2の部分12は具体的には、シリンダブロック51のボア周辺部に対応する部分のうち、第1の部分11および後述する第2の断熱材13を除く部分となっている。
【0023】
図3に示すように、第1の部分11は第1の断熱材111と第1の高熱伝導材112と基板113とを備えている。第1の断熱材111と第1の高熱伝導材112とは、基板113にコーティングされている。第1の断熱材111は例えばゴムであり、第1の高熱伝導材112は例えば銅やグラファイトである。また、基板113は例えばSUSである。
【0024】
第1の部分11は、次のようにして形成されている。すなわち、まず、表面に第1の断熱材111をコーティングした基板113をベースとして、反対側の面に第1の断熱材111をコーティングするとともに基板113を積層する。そして、積層した基板113の表面に第1の高熱伝導材112をコーティングするとともに、基板113を積層する。さらに、積層した基板113の表面に第1の熱伝導材112をコーティングする。
【0025】
ヘッドガスケット10Aではこのようにして第1の部分11のうち、シリンダヘッド52側の部分(表面)に第1の断熱材111を設けている。また、シリンダブロック51側の部分(表面)に第1の高熱伝導材112を設けている。
【0026】
第2の部分12は、第2の高熱伝導材121で形成されている。第2の高熱伝導材121は例えば鉄、アルミ、銅などを基材とするカーボンナノチューブ(CNT)の複合材である。部分11、12の間には、さらに第2の断熱材13が設けられている。第2の断熱材13は例えばゴムである。第2の断熱材13は部分11、12間に形成される隙間を埋めるようにコーティングすることで設けられている。
【0027】
高熱伝導材112、121には、ヘッドガスケット10Aのうち、シリンダブロック51のボア周辺部に対応する部分以外の部分を構成するガスケット材よりも熱伝導率が高い材料を適用できる。第2の断熱材13は、部分11、12間のうち、少なくとも第1の部分11が備える第1の高熱伝導材112と、第2の部分12との間に設けることができる。断熱材111、13間や、高熱伝導材112、121間では、同じ材料を適用してもよい。
【0028】
次にヘッドガスケット10Aの作用効果について説明する。図4はヘッドガスケット10Aの熱の流れについての説明図である。ヘッドガスケット10Aは、第1の部分11に第1の断熱材111を備えている。このため、シリンダヘッド52のうち、排気側の部分の温度が排気ガスの影響で高まっても、破線の矢印および×印で模式的に示すようにシリンダヘッド52からシリンダブロック51への伝熱を抑制できる。そしてこれにより、シリンダブロック51のボア周辺部のうち、排気側の部分の温度上昇を抑制できる。
【0029】
また、ヘッドガスケット10Aは第1の部分11に第1の高熱伝導材112を備えている。このため、第1の断熱材111があっても、矢印で模式的に示すようにシリンダブロック51のボア周辺部のうち、排気側の部分からブロック側W/J511に熱を逃がすことができる。そしてこれにより、ヘッドガスケット10Aは排気側の部分の冷却を促進できる。
【0030】
また、ヘッドガスケット10Aは第2の部分12を第2の高熱伝導材121で形成している。このため、矢印で模式的に示すようにシリンダブロック51のボア周辺部のうち、排気側の部分以外の部分で、シリンダブロック51からシリンダヘッド52への伝熱を促進できる。そしてこれにより、シリンダブロック51のボア周辺部の冷却を促進できる。
【0031】
また、ヘッドガスケット10Aは第2の断熱材13を備えている。このため、破線の矢印および×印で模式的に示すように、第1の高熱伝導材112を介して第2の高熱伝導材121からシリンダブロック51に熱が伝わることも抑制できる。結果、これによっても、シリンダブロック51のボア周辺部のうち、排気側の部分の温度上昇を抑制できる。そしてこれらにより、ノッキングを好適に改善できる。
【実施例2】
【0032】
図5はエンジン50Bの概略構成図である。エンジン50Bは、ヘッドガスケット10Aの代わりにヘッドガスケット10Bを備える点と、第3の断熱材20をさらに備える点以外、エンジン50Aと実質的に同一である。ヘッドガスケット10Bは、前述したヘッドガスケット10Xと同一のものであり、高熱伝導材101には例えば第2の高熱伝導材121と同様の材料を適用できる。第3の断熱材20は、排気ポート52bのうち、シリンダブロック51側の部分に設けられている。第3の断熱材20は例えば樹脂をコーティングすることで設けることができる。
【0033】
次にエンジン50Bの作用効果について説明する。エンジン50Bでは、第3の断熱材20が、破線の矢印および×印で模式的に示すように排気ガスからシリンダヘッド52の排気側、且つ排気ポート52bよりもシリンダブロック51側の部分に熱が伝わることを抑制する。そしてこれにより、当該部分の温度上昇を抑制する。このためエンジン50Bは、矢印で模式的に示すようにシリンダブロック51のボア周辺部のうち、排気側の部分からシリンダヘッド52への伝熱を促進できる。結果、シリンダブロック51のボア周辺部に対応する部分全体に高熱伝導材101を設けたヘッドガスケット10Bを備えた場合でも、ノッキングを好適に改善できる。
【0034】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
ヘッドガスケット 10A、10B、10X
高熱伝導材 101
第1の部分 11
第1の断熱材 111
第1の高熱伝導材 112
第2の部分 12
第2の高熱伝導材 121
第2の断熱材 13
第3の断熱材 30
エンジン 50A、50B
シリンダブロック 51
シリンダヘッド 52


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのシリンダブロック、シリンダヘッド間に設けられるヘッドガスケットであって、
前記シリンダブロックのボア周辺部に対応する部分のうち、排気側の部分に第1の部分を備えるとともに、その他の部分に第2の部分を備え、
前記第1の部分のうち、前記シリンダヘッド側の部分に第1の断熱材を設けるとともに、前記シリンダブロック側の部分に第1の高熱伝導材を設け、
前記第2の部分を第2の高熱伝導材で形成し、
前記第1および第2の部分の間に第2の断熱材をさらに設けたヘッドガスケット。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−82865(P2012−82865A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227674(P2010−227674)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】